(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089788
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】装飾構造およびその製作方法
(51)【国際特許分類】
A44C 27/00 20060101AFI20220609BHJP
【FI】
A44C27/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196422
(22)【出願日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2020202335
(32)【優先日】2020-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520480636
【氏名又は名称】野村 登
(71)【出願人】
【識別番号】520480647
【氏名又は名称】久保 はづき
(74)【代理人】
【識別番号】100142114
【弁理士】
【氏名又は名称】小石川 由紀乃
(72)【発明者】
【氏名】野村 登
(72)【発明者】
【氏名】久保 はづき
【テーマコード(参考)】
3B114
【Fターム(参考)】
3B114AA01
3B114AA16
3B114JA00
(57)【要約】
【課題】金属製の造形物とガラス体とを特徴的な係りをもたせて強く結合させる。
【解決手段】貫通穴10が形成された所定形状の金属製の基材1を、穴10の貫通方向を垂直方向に合わせ、穴の下側の開口部を塞がない状態にして窯の内部の所定の高さ位置に支持し、この基材1の上面の穴10の開口部を含む所定範囲に板ガラス2を載せ、窯の内部温度を板ガラス2の軟化点以上にすることによって、板ガラス2を軟化させる。軟化したガラス20が重力の作用によって穴10に入り、その先端部分が穴10の下部または穴10より低い所定位置まで下降したときにガラス20の下降が停止するように調整し、ガラス20が固まるまで冷却すると、基材1の上面側の開口部の外周部を含む所定範囲に接合されるとともにその接合箇所から穴の内部または穴の他方の開口部より外側の所定位置までに連なる一体物のガラス体が形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通部が形成された所定形状の金属製の基材と、この基材の前記貫通部の一方の開口部が設けられる面の当該開口部の外周部を含む所定範囲に接合されると共にその接合箇所から当該貫通部の内部または当該貫通部の他方の開口部より外側の所定位置までに連なる一体物のガラス体とを、
具備する装飾構造。
【請求項2】
前記ガラス体には、前記貫通部の前記一方の開口部の外周部から当該貫通部を介して他方の開口部の外側へと突出し、その突出側の表面が凸面となる曲面体が含まれる、
請求項1に記載された装飾構造。
【請求項3】
前記ガラス体は透明または透光性を有するガラスであって、前記曲面体に当該曲面体とは異なる色彩を有する装飾体が接合または埋設もしくは融合されている、
請求項2に記載された装飾構造。
【請求項4】
前記ガラス体は透明または透光性を有するガラスであって、前記曲面体には前記一方の開口部の外周部への接合箇所を開口端面とする空洞部が含まれると共に、当該曲面体の外側表面または前記空洞部の内面に当該曲面体とは異なる色彩を有する突起状の装飾体が接合されている、
請求項2に記載された装飾構造。
【請求項5】
一方向に長い面の長さ方向を上下方向に沿わせると共に前記の面を所定広さの空間に向け、当該空間を囲む一ラインに沿って配列された複数の金属体と、これらの金属体のうちの少なくとも3つの上端面またはそれらの前記空間に向き合う面の一部分に接合されると共にそれらの接合箇所から前記空間の内部の所定範囲に連なる一体物のガラス体とを、
具備する装飾構造。
【請求項6】
貫通部が形成された所定形状の金属製の基材を前記貫通部の一方の開口部が設けられた面を上に向け、他方の開口部を塞がれない状態にして窯の内部の底面より高い位置に支持すると共に、この基材の上面の前記開口部を含む所定範囲の上方にガラス体を配置し、
上記の状態の基材およびガラス体が入れられた窯の内部温度をガラス体の軟化点以上の所定レベルになるまで上昇させて前記ガラス体を軟化かつ前記基材の上面に密着させた後に、軟化したガラスの一部が前記貫通部に入ってその先端部分が当該貫通部の下部または当該貫通部より低い所定位置まで下降したときに当該下降が停止するように前記窯の内部温度または加熱を終了するタイミングを調整する、
ことを特徴とする装飾構造の製作方法。
【請求項7】
前記ガラス体として透明または透光性を有するものを使用すると共に、加熱前の窯の内部の前記金属製の基材より低く、当該基材の貫通部に対向する位置に前記ガラス体とは異なる色彩を有するガラス体または金属体を配備し、
ガラス体の軟化点以上のレベルの温度になった窯の内部で前記軟化したガラスの下端部が前記異なる色彩のガラス体または金属体に触れる状態になったときに当該下降が停止するように、前記窯の内部温度または加熱を終了するタイミングを調整する、
請求項6に記載された装飾構造の製作方法。
【請求項8】
前記ガラス体として透明または透光性を有するものを使用すると共に、加熱前の窯の内部の前記基材の上方に配置されたガラス体の上に当該ガラス体とは異なる色彩のガラス体または金属体を載せ、
ガラス体の軟化点以上のレベルの温度になった窯の内部で前記軟化したガラスが前記異なる色彩のガラス体または金属体を載せたまま前記貫通部より低い所定位置まで下降したときに当該下降が停止するように、前記窯の内部温度または加熱を終了するタイミングを調整する、
請求項6に記載された装飾構造の製作方法。
【請求項9】
一方向に長い面を有する複数の金属体を、それぞれの長さ方向を上下方向に沿わせると共に前記の面を窯の内部の所定広さの空間に向けて当該空間を囲む一ラインに沿って配列される状態にして前記窯の中に配置すると共に、少なくとも3つの金属体の上端面またはそれらの前記空間に向き合う面により支えることが可能な大きさのガラス体を前記少なくとも3つの金属体に支持させ、
上記の各金属体およびガラス体が入れられた窯の内部温度をガラス体の軟化点以上の所定レベルになるまで上昇させて前記ガラス体を軟化させた後に、軟化したガラスの一部が各金属体に囲まれた空間の内部で下降してその先端部分が所定の高さ位置に達するまで当該下降が続くように前記窯の内部温度または加熱を終了するタイミングを調整する、
ことを特徴とする造形物の製作方法。
【請求項10】
前記金属製の基材としてステンレス製の造形物を使用する、請求項6~9のいずれかに記載された造形物の製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料とガラス材料とを用いて製作された装飾構造およびその装飾構造を製作する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料とガラス材料とを用いた従来の装飾構造に相当するものとして、特許文献1には、装飾体素地となるガラス材の一面にデザインラインを表す金属線群を固定し、この金属線群によって区画されるデザイン構成領域に釉薬層を設け、これらを一体的に焼成処理した構成の七宝調整品が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、1個または複数個のガラス体の外形部を鉛または鉛合金の鋳造体により保持した構成の装飾体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-012379号公報
【特許文献2】特公平6-60551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている装飾構造では、金属材料は、模様を描く目的で、下書きされたデザインラインの上に貼り付けられるにすぎず、金属自体の特性を生かした形態に加工されるものではない。また、特許文献1に記載された発明は、金属材料を糊などの接着手段によりガラス材に貼り付け、さらに釉薬の層で固定してから焼成しており(特許文献1の段落0012~0014を参照。)、金属とガラスとを直接に強固に接合するという思想が認められない。
【0006】
特許文献2に記載されている装飾構造は、金属(鉛)を鋳造する過程で金属とガラスとを一体化する方法により製作されると思われるが、あらかじめ定められた形どおりに造形される金属体のあらかじめ定められた箇所に一定形状のガラス体が固定されるだけである。また、特許文献1,2のいずれの発明も、ガラスを大きく変形させるという技術的思想のものではなく、ユニークな形態の装飾構造を製作することは困難である。
【0007】
本発明は上記の問題に着目し、趣のある形態を持つ金属製の造形物とユニークな形態のガラス体とが特徴的な係わりをもって強く結合した装飾構造を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による装飾構造は、貫通部が形成された所定形状の金属製の基材と、この基材の前記貫通部の一方の開口部が設けられる面の当該開口部の外周部を含む所定範囲に接合されると共にその接合箇所から当該貫通部の内部または当該貫通部の他方の開口部より外側の所定位置までに連なる一体物のガラス体とを具備する。
【0009】
上記の装飾構造を製作するには、彫金加工等により製作された金属製の基材を貫通部の一方の開口部が設けられた面を上に向け、他方の開口部を塞がれない状態にして窯の内部の底面より高い位置に支持すると共に、この基材の上面の前記開口部を含む所定範囲の上方にガラス体を配備する。この状態下で窯の内部温度をガラス体の軟化点以上の所定レベルにまで上昇させると、ガラス体は軟化して基材の上面に密着し、さらに貫通部に対応する箇所にあるガラスが重力の作用により下降して貫通部に入り込む。さらに窯の内部温度を上記のレベル付近で維持すると、軟化したガラスは貫通部を抜けて、より下方に移動する。この現象を利用して、貫通部に入ったガラスの先端部分が貫通部の下部または貫通部より低い所定位置まで下降したときにガラスの下降が停止するように窯の内部温度または加熱を終了するタイミングを調整することによって、上述した一体物のガラス体を形成し、これを金属製の基材に融着することができる。
【0010】
たとえば、貫通部に入ったガラスの先端部分が貫通部の内部にあるうちに下降を停止させてガラスを冷却することによって、貫通部の一方の開口部が設けられた面に接合されて貫通部を塞ぐ一体物のガラス体を形成することができる。また、下降したガラスの先端部分が貫通部を抜けて窯の底面より高い所定位置に達したときに下降を停めてガラスを冷却することによって、貫通部の上方側の開口部の外周部から貫通部を介して他方の開口部の外側へと突出し、その突出側の表面が凸面となる曲面体を含むガラス体を形成することができる。この曲面体には、基材の上面側の開口部の外周部への接合箇所を開口端面とする空洞部が含まれる場合もある。
【0011】
空洞部を有する曲面体を含むガラス体を形成する場合には、基材の上方に透明または透光性を有するガラス体を配置すると共に、加熱前の窯の内部の基材より低く、当該基材の貫通部に対向する位置にガラス体とは異なる色彩を有するガラス体または金属体を配置し、ガラス体の軟化点以上のレベルの温度になった窯の内部で軟化したガラスの下端部が上記の異なる色彩のガラス体または金属体に触れる状態になったときに当該下降が停止するように、窯の内部温度または加熱を終了するタイミングを調整することによって、曲面体の外側表面に突起状の装飾体が接合された装飾構造を製作することができる。
【0012】
また、透明または透光性を有するガラス体の上にガラス体とは異なる色彩のガラス体または金属体を載せて窯を加熱し、軟化したガラスが異なる色彩のガラス体または金属体を載せたまま貫通部より低い所定位置まで下降したときに下降が停まるように窯の内部温度または加熱を終了するタイミングを調整することによって、空洞部の内部に突起状の装飾体が接合された装飾構造や曲面体の内部に装飾体が埋設された装飾構造を製作することもできる。
【0013】
板ガラスの小片などの軟化しやすい材料を装飾体として同様にガラス体の上に載せ、ガラスの軟化点以上の温度環境下でガラス体と装飾体とを共に軟化したガラスに変化させて下降させることによって、曲面体に当該曲面体とは異なる色彩を有する装飾体が融合された構成の装飾構造を製作することもできる。また、遷移金属元素を含む金属の小片を同様にガラス体の上に載せ、軟化したガラスの中に埋め込むことによって、ガラスの金属片に密着した部分に両者間の化学反応により生じた金属酸化物に由来する着色層を形成し、その着色層による色彩の分布による模様が施された装飾構造を製作することもできる。
【0014】
軟化したガラスの下降を生じさせるために基部に設けられる貫通部は、基部の厚み部分を貫く完全な穴として形成される場合もあれば、穴の一部分が欠落した形態をもって基部の端縁部に形成される場合もある。貫通部がいずれの形態をとる場合でも、当該貫通部に入って所定位置まで下降する量の軟化ガラスに変化させるのに十分な大きさのガラス体を当該貫通部の上面側の開口部が完全に被われるようにして基材の上に載せ、上述した方法を実施することによって、本発明の装飾構造を製作することができる。
【0015】
上記の貫通部が形成された基材に代えて、一方向に長い面を有する複数の金属体を、それぞれの長さ方向を上下方向に沿わせると共に前記の面を窯の内部の所定広さの空間に向けて当該空間を囲む一ラインに沿って配列される状態にして窯の中に配置し、少なくとも3つの金属体の上端面またはそれらの前記空間に向き合う面により支えることが可能な大きさのガラス体をそれらの金属体に支持させて窯を加熱し、軟化したガラスの一部が各金属体に囲まれた空間の内で下降してその先端部分が所定の高さ位置に達するまで当該下降が続くように窯の内部温度または加熱を終了するタイミングを調整することによって、前記複数の金属体と、少なくとも3つの金属体の上端面またはそれらの金属体の前記空間に向き合う面の一部分に接合されると共にそれらの接合箇所から前記空間の内部の所定範囲に連なる一体物のガラス体とを具備する装飾構造を製作することもできる。
【0016】
上記複数の金属体は、それらを一連に繋ぐ他の金属体と共に1つの金属製造形物を構成するものであっても良いし、互いに独立した個体であってもよい。
【0017】
本発明では、金属製の基材とガラス体とを接触させた状態にしてガラスの軟化点を超える温度まで加熱することにより、ガラス体を大きく変形させながら基材に融着させる。このような製作方法を実施する場合、熱膨張率がガラスの熱膨張率に近い金属材料で製作された造形物を用いると、加熱時の膨張や冷却時の収縮の度合いの差を小さくして、金属部分とガラス体との接合強度を高め、ガラスの破損を防ぐことができる。この条件を満たす好適な材料はステンレスである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、接着材料を用いることなく、製作者の創作力により趣のある形態に形成された金属製の基材と、その基材に係わりながら変形したガラス体とが強固に接合された装飾構造を提供することができる。したがって、金属製の基材の形状、基材に設けられた貫通部内の空間または複数の金属体による囲まれる空間の大きさ、形状、位置、数、軟化して空間に入ったガラスをどの程度まで下降させるかをふまえた温度調整等によって、ガラス体を様々な形状に変化させて基材に一体化し、特異な形態の装飾構造を提供することができる。
【0019】
さらに、透明または透光性を有するガラス体の中の曲面体に当該曲面体とは異なる色彩のガラス体または金属体を融合または融着もしくは埋設することによって、ガラス体に入る光の作用により装飾体がない場所にも装飾体の像を結像させたり、ガラスを通して視認できる色彩を種々に変化させるなどの興趣を生じさせ、装飾効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明による装飾構造の第1の製作方法を示す説明図である。
【
図2】本発明による装飾構造の第2の製作方法を示す説明図である。
【
図3】本発明による装飾構造の第3の製作方法を示す説明図である。
【
図4】第3の製作方法の変形例を示す説明図である。
【
図5】第1の製作方法による装飾構造を有する物品の表側の構成を表す斜視図および裏側の構成を表す斜視図である。
【
図6】第2の製作方法による装飾構造を有する物品の例を表す斜視図である。
【
図7】第3の製作方法による装飾構造を有する物品の全体構成を表す斜視図および平面図、ならびに装飾構造の拡大図である。
【
図8】第3の製作方法による装飾構造を有する物品の他の例の全体構成を表す斜視図および装飾構造の拡大斜視図(2図)である。
【
図9】
図1~4とは異なる形態の金属製基材を用いた装飾構造の製作方法と当該装飾構造を有す物品の例を表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明による装飾構造の基本的な製作方法を模式的に表したものである。この製作は、彫金加工等により製作された金属製の基材1と板ガラス2とを材料とし、板ガラス2を大きく変形させて、接着材料を使用せずに基材1に直接に接合することを目的として、所定大きさの電気窯(図示省略。以下、単に「窯」という。)の中で実施される。
【0022】
基材1は少なくとも1つの貫通穴10(図示例では1つのみとする。)を含む任意の形状を有するもので、一対の支持ブロック5a,5b(煉瓦などの耐火性の高いもの)によって、貫通穴10(以下、単に「穴10」という。)の貫通方向を垂直方向に沿わせ、ブロック5a,5bの間の空間に基材1の穴10を対向させた姿勢をもって、所定の高さ位置に支持される。板ガラス2は、一般的なソーダガラスによる板材であって、基材1の上面より広い面積を有し、基材1の上面全体を覆うように位置合わせされて基材1の上に載せられる(
図1の(A)を参照)。
【0023】
なお、この実施例では、一対のブロック5a,5bは穴10より十分に広い間隔をあけて配備され、これらのブロック5a,5bの間の空間に基材1の穴10およびその周囲の所定範囲が対向するように基材1の位置合わせが行われているが、基材1の形状によっては(穴10の周囲が枠体のみになる場合など)、ブロック5a,5bの間の間隔が穴10の大きさと大差ない状態になることもある。また、基材1を支持する手段は、上記のような一対の支持ブロック5a,5bに限らず、たとえば、筒型の支持部材をその長さ方向を上下方向に合わせて配置し、基材1の穴10と支持部材の穴との中心を合わせて、支持部材の上端面に基材1を載せる方法をとることもできる。また、基材1の大きさや形状が支持ブロック5a,5bや筒型の支持部材に載せるのが困難な場合には、基材1を水平姿勢にして窯の内部に吊り下げる方法を採用してもよい。
【0024】
基材1と板ガラス2とが
図1(A)に示した関係をもって窯の内部に配備されると、窯の加熱が開始される。窯の内部温度が板ガラス2の軟化点以上になると、板ガラス2は軟化して水飴状の板状体となる(
図1および後続の
図2~4では、軟化後のガラスを符号20で示す。)。軟化したガラス20の板状体では、穴10に対応する範囲にある部分が重力の作用によってゆっくりと下降しはじめ、やがて
図1(B)に示すように、穴10の中に入り込んだ状態になる。
【0025】
その後も、窯の内部温度をガラス20の軟化点付近で維持し続けると、ガラス20のうちの穴10の中にあった部分が穴10より下に移動し、それに伴って穴10の外側にあった部分が穴10の方に寄ってゆき、穴10を通過して下降するガラスの量がしだいに増え、やがて
図1(C)に示すように、穴10から大きく垂れ下がるようになる。このように流動する状態になったガラス20は、表面張力によって丸みを帯びた形状になり、垂れ下がり部分の表面も凸状の湾曲面になる。
【0026】
この実施例では上記の現象に着目して、釜の内部温度を板ガラス2の軟化点以上の所定レベルになるまで上昇させて板ガラス2を軟化させた後、軟化したガラス20の自重により下方に流動した部分の先端が穴10の下部または穴10より下の所定位置に達するまでガラス20の流動が続くようにし、その後は流動が停まるように、窯の内部温度または加熱を終了するタイミングを調整する。流動を停める位置や窯を加熱する時間長さについての決まりはないが、軟化して上記の流動が生じたガラス20の先端部が窯の内底面に達する前に流動を停めることと、基材1の上面の少なくとも穴10の開口部の外縁部全体にガラス20が付着しているうちに流動を停めることが条件となる。
【0027】
これらの条件の下で窯の内部温度または加熱を終了するタイミングを調整することによって、ガラス20の基材1の上面の側に付着している部分や穴10の上端縁部に付着している部分がその付着箇所に融着される。この後にガラス20の温度がガラス転移点以下になってガラス20が固まるまで窯を冷却すると、ガラス20は流動が停止したときの形のままの一体物として基材1に接合された状態になる。
【0028】
なお、
図1(A)(B)(C)では、基材1の穴10を通る任意の切断線に沿う一断面のみにおけるガラスの形状の変化を表している。後続の
図2~4も同様の方針で作図したものである。
【0029】
上記の方法により形成されたガラス体は、基材1の穴10の一方の開口部が設けられた面(窯の中では上面)や穴10の上端縁付近に接合されるが、穴10の他方の開口部が設けられた面(窯の中では下面)には接合されない。しかし、下面の側でも開口部に対応する範囲にガラス体の一部分が露出する。この露出部分の表面は、ガラス20が流動体として重力の作用を受けて下降していたときの形態を踏襲して凸状の湾曲面となる。
【0030】
図1(C)の例のように、流動するガラス20が穴10から大きく垂れ下がる状態になると、基材1に接合される面の側で開口する空洞部22を含み、表面が凸状に湾曲した曲面体21が形成される。この曲面体21もそのまま固まって基材1と一体化される。
【0031】
基材1に設けられる穴10の大きさや形状に特に定めはなく、円形状や矩形状のほか、自由曲線による輪郭形状を有するもの、スリット状のものなど、製作者が自由に定めることができる。基材1の大きさや形状も同様であって、穴10の外周部を形成する程度になる場合もあれば、穴10より大幅に大きくなる場合もある。穴10の開口部を含む面も
図1に示すような水平面に限らず、傾斜面や湾曲面となる場合や、段差が設けられる場合もある。基材1の端縁部に穴の一部分が欠落した形状の切り欠きを形成し、その切り欠き部分から十分に突出する大きさの板ガラス2を基材1に載せることによって、切り欠き部分からもガラス20を下降させて、基材1の上面および切り欠き部分の上端縁部に接合されて切り欠き部分から垂れ下がった構成の一体物のガラス体を形成することもできる。
【0032】
なお、
図1の例では、基材1の上面に板ガラス2を重ね合わせた状態にして窯の加熱を開始したが、加熱により軟化したガラス20を基材1の上面に密着させて
図1(B)(C)の状態に変形させることができるのであれば、吊り下げ等の方法により板ガラス2を基材1の上面から少し離れた高さ位置に支持してもよい。
【0033】
図2~4は、
図1(C)と同様の段階までガラス20の流動を維持して、空洞部22を有する曲面体21を形成すると共に、この曲面体21に他の材料による装飾体を一体に設けた例を示すものである。いずれの実施例でも、加熱前の窯に、金属製の基材1と板ガラス2とが、
図1の例と同様の関係をもって支持される。
【0034】
図2の実施例では、加熱前の窯において、基材1を支持する一対の支持ブロック5a,5bの間にこれらより低い第3の支持ブロック5cが配備され、その支持ブロック5cの上に、複数の玉形の装飾体3が載せられる(
図2(A))。これらの装飾体3は、板ガラス2とは異なる色彩に着色または複数の色の顔料により描かれた模様(図示省略)を有するガラス製の成形品であって、基材1の穴10に対向する範囲に配備される。
【0035】
この実施例でも、
図1の例と同様の条件のもと、窯の内部温度が板ガラス2の軟化点以上の所定レベルになるまで窯を加熱し、さらにその温度レベルを所定時間維持することにより板ガラス2を軟化させ、穴10を介して下方に流動する状態にする。そして、
図2(B)に示すように、流動するガラス20の一部が基材1の穴10から垂れ下がり、その先端部分が装飾体3に触れる状態になったときにガラス20の流動が停まるように窯の加熱時間または加熱を終了するタイミングを調整することによって、ガラス20が基材1に融着されると共に、垂れ下がり部分により形成された曲面体21の表面に装飾体3が融着される。
【0036】
その後、ガラス20の温度がガラス転移点以下になってガラス20が固まるまで窯を冷却することによって、基材1の穴10の一方の開口部を含む面に接合され、その接合箇所に空洞部22を有する曲面体21が連なり、当該曲面体21の凸状の表面に突起状の装飾体3が一体に設けられた構成のガラス体が出来上がる。
【0037】
図3の実施例では、加熱前の窯において基材1の上に載せられた板ガラス2の上面に、
図2の例と同様の装飾体3が複数個載せられる(
図3(A))。これらの装飾体3も、基材1の穴10に対応する範囲に配備される。
【0038】
この実施例でも、
図1や
図2の例と同様に窯を加熱して板ガラス2を軟化させ、ガラス20のうちの穴10に対応する範囲にある部分を穴10を介して下方に流動させるが、その下降の際に、下降する部分の上に載せられていた装飾体3も一緒に下降する。その後も、装飾体3はガラス20の粘性によってガラス20に付着し続け、ガラス20は装飾体3を載せたまま穴10から垂れ下がり、空洞部22ができる状態にまで下降する(
図3(B))。その頃合いでガラス20の流動が停まるように窯の加熱時間または加熱を終了するタイミングを調整することによって、ガラス20が基材1に融着されると共に、垂れ下がり部分により形成された曲面体21の空洞部22の内面に装飾体3が融着される。
【0039】
その後の窯を十分に冷却することによって、基材1の穴10の一方の開口部が設けられた面に接合され、その接合箇所に空洞部22を有する曲面体21が連なり、当該空洞部22の内部の湾曲面に突起状の装飾体3が一体に設けられた構成のガラス体が出来上がる。ただし、装飾体3の数を減らして穴10の中心部に対応する箇所に配置して
図3の製作方法を実施することによって、装飾体3が曲面体21の底部に埋め込まれた構成のガラス体を製作することもできる(後述する
図8の具体例を参照。)。
【0040】
図2および
図3の例の装飾体3もガラス製であるので、窯の加熱により装飾体3も板ガラスと共に軟化するが、これらは穴や段差のない場所に置かれているため、ガラス20のように流動することはなく、表面張力によって膨らんだ状態になって維持される。冷却される過程でも、装飾体3が大きく変形することはなく、きれいな状態のまま曲面体21に融着させることができる。
【0041】
しかし、
図2および
図3の実施例で使用する装飾体は玉状のガラスによるものに限らず、ガラスまたは金属製の小片や細い金属製の線状体を使用することもできる。
【0042】
図4も、
図3の実施例と同様に、板ガラス2の上に装飾体となる材料を載せて加熱処理を施す方法を示すが、その材料として、着色された板ガラスの小片4(以下「小片ガラス4」という。)が使用される(
図4(A))。この小片ガラス4を板ガラス2の上に配置して窯を加熱すると、小片ガラス4も板ガラス2と共に軟化し、小片ガラス4から軟化したガラス40が板ガラス2から軟化したガラス20と共に下降する(
図4(B))。このとき窯の温度を双方のガラス20,40が融合する温度にまで上げ、融合が生じた頃合いでガラス20,40の流動が停止するように窯の加熱時間または加熱を終了するタイミングを調整し、その後の窯を十分に冷却すると、基材1の穴10の一方の開口部が設けられた面に接合され、その接合箇所に空洞部22を有する曲面体21が連なり、その曲面体21の一部分にガラス40に由来する色彩が溶け込んだ構成のガラス体が出来上がる。
【0043】
図4の製作方法において、板ガラス2から変化したガラス20が穴10から大きく垂れ下がれないうちに(空洞部22が大きくならないうちに)ガラス40と融合させることができる場合には、その時点でガラス20,40の流動を停めて冷却することによって、
図1(B)に示したような形状のガラス20にガラス40に由来する色彩が溶け込んだ構成によるガラス体を形成することができる。
【0044】
図2~4の例のように、装飾体が一体化されたガラス体を生成する場合には、ガラス体の材料となる板ガラス2として透明ガラスまたは薄く着色されたガラスの板材を使用することによって、装飾体を目立たせ、ガラス体の本体に入った光の屈折や反射によって装飾体が配備されていない箇所にも装飾体の像を映し出したり、ガラス体を通して見える装飾体の色彩を視線の方向によって変化させるなど、興趣の高い装飾構造を提供することができる。ただし、板ガラス2に透光性をもたせることは必須ではなく、光を殆ど通さない暗色のガラスを使用してもよい。
【0045】
装飾体が使用されない
図1の例も含め、板ガラス2にあらかじめ模様を描いたり、部分的に着色するなどしてから、基材1の上に載せ、上記の各方法を実施することによって、ガラス体の広い範囲に幾何学的な模様を分布させることもできる。
【0046】
また、
図1~4の例では、軟化して穴10から下降するガラス20は、穴10に対しては上端縁部にのみ付着し、冷却後に出来上がるガラス体と穴10の内面との間にも隙間が生じるが、基部1に形成される穴の形状、大きさ、厚み、ガラス20の流動量、基部1とガラス20との間のぬれ性等によっては、穴10の内面にもガラス20が接触しながら下降する場合がある。その場合には、冷却後に出来るガラス体も、基部1の上面のほか、穴10の内面にも接合された状態になる。
【0047】
ところで、本発明で使用される基材1は、ガラス20が流動する状態になっても溶融しない金属材料で製作すれば良いが、ガラス体を強固に接合するという観点に立つと、熱膨張率がガラスに近い金属材料を使用するのが望ましい。
【0048】
基材1とガラス20との熱膨張率の差が小さくなれば、加熱時や冷却時における両者間の膨張や収縮の度合いも小さくなり、両者を強固に接合して、完成したガラス体が基材1から外れるのを防ぐことができる。また冷却中の金属部分からの引っ張り力や押圧力によるガラス体の歪みも小さくできるので、ガラス体が割れにくくなる。
【0049】
主要な金属材料の熱膨張率は下記の表1のとおりである。
【表1】
【0050】
前述の実施例で使用している板ガラスの原材料のソーダガラスの熱膨張率は、概ね80×10-7~120×10-7/°Cの範囲である。上記の表1を参照すると、この数値範囲に近い金属材料はステンレスであると考えられる。
【0051】
ステンレス以外でも、ガラスに近い熱膨張率を有する合金がいくつか知られており(42Ni-6Cr・Fe、50Ni-Feなど)、表1中の白金の熱膨張率もガラスに近い数値であるが、入手のしやすさや価格のことを考えると、ステンレスを基材の材料として選択するのが妥当であると思われる。
【0052】
曲面体21の装飾用の金属体については、小さなものであれば、熱膨張率の違いが大きく影響することはないので、ステンレスに限らず、他の様々な種類の金属材料による玉体や小片を
図2または
図3の方法により曲面体21に接合または埋設することができる。特に、銅,銀,コバルト,チタンなどの遷移金属を含む金属体を装飾体として使用すると共に、ガラス20を作業点付近の温度(750~800°C)にまで加熱すると、粘性流体となったガラス20の金属体に密着した部分に特有の着色層が形成され、冷却後の曲面体21でも着色層による色彩を透視することができる。
【0053】
上記の着色層は、ガラス20の主体である二酸化ケイ素中の酸素イオンと遷移金属イオンとの化学反応により生成された金属酸化物の粒子や当該金属酸化物中の遷移金属イオンが粘性流体となったガラス20の中に拡散され、それらの粒子やイオンに特定の波長域の光が吸収されることにより生じたものである。着色層の色彩は遷移金属の種類によって異なるので、装飾体として使用する金属の種類によって、異なる雰囲気の装飾構造を得ることができる。
【0054】
図3の方法により曲面体21に複数の金属片を埋め込む場合には、各小片や着色層の分布による色彩模様を形成することができる。特に、複数種類の金属による金属片を使用すれば、これらの金属に基づく複数種の色彩により、一層華やかな色彩模様を形成することができる。
【0055】
ガラス20の基材1に密着する部分にも、上記と同様の現象によって着色層を形成することができる。板ガラス2として透明または透過性の高いガラス材料を使用すれば、基材1との密着部分の着色層も観察することができる(後述する
図9を参照。)
【0056】
図5~8は、本発明の装飾構造を有する物品の具体例を示すものである。以下、各図を参照して、これらの物品の構成と、先の4通りの方法のいずれにより製作されたかを説明する。
【0057】
図5の例の物品S1は、魚を模した輪郭形状に成形された板状の金属製基材1Aと着色されたガラス体2Aとが接合された構成の飾り部材OR1を有するペンダントである。
図5(A)は当該飾り部材OR1を表側から見た状態を表し、
図5(B)は当該飾り部材OR1を裏側から見た状態を表している。
【0058】
この実施例の基材1Aの中央部(魚の胴体に相当する部分)には、厚み部分を貫く3つの穴10a,10b,10cが設けられている。ガラス体2Aは、基材1Aの裏面全体に接合されると共に、各穴10a,10b,10cの内部に入り込んでいる。基材1Aの表側の面にはガラス体2Aは接合されていないが、各穴10a,10b,10cの開口部から、その穴の中にあるガラス体2Aの凸状の面を視認することができる。
【0059】
上記の飾り部材OR1は、魚の形の基材1Aと着色された板ガラス2とを
図1(A)に示した関係をもたせて窯の中に支持して窯を加熱し、軟化したガラス20の中の各穴10a,10b,10cに対応する部分が下降して各穴10a,10b,10cの下端部付近に到達したとき(
図1(B)に近い状態になったとき)に流動が停まるように加熱時間を調整し、冷却によりガラス20を固化する方法によって、製作されたものである。
【0060】
上記の構成によれば、飾り部材OR1のガラス体2Aが接合されていない側の面を表に向けてペンダントS1を装着することによって、金属の重厚感とガラスの光沢との組み合わせによる装飾の特徴をアピールすることができる。また、肌に触れる裏面の全体がガラス体2Aで被われるので、金属アレルギーのある人でも安心して身につけることができる。なお、図中のチェーン6や連結金具60もサージカルステンレス等のアレルギー対応金属により製作される。
【0061】
図6は、本発明による装飾構造を有する盃S2を底面の側から表したものである。
この盃S2は、
図2に示した方法により製作されたもので、リング状に成形された金属製基材1Bと、この基材1Bの上面全体に接合されると共にその接合箇所を開口端面とする空洞部22(この図では示さず。)を有する曲面体21を備えるガラス体2Bと、曲面体21の底部に接合された4個の突起状の装飾体30とにより構成される。各装飾体30は、着色されて模様が描かれた玉状のガラスである。
【0062】
図7は、本発明による装飾構造を有するかんざしS3の全体構成を表す斜視図(
図7(A))および平面図(
図7(B))と、かんざしS3の要部である飾り部材OR2の拡大平面図(
図7(C))とを並べたものである。
【0063】
このかんざしS3は、
図3に示した方法により製作されたもので、ピン70(髪に挿す部材)と飾り部分OR2の骨格となるリング部7とが一体化された構成の金属製基材1Cと、この基材1Cのリング部7の一方の面のほぼ全体に接合されると共にその接合箇所を開口端面とする空洞部22を有する曲面体21を備えるガラス体2Cと、空洞部22の内面に接合された6個の突起状の装飾体31とにより構成される。これらの装飾体31も、着色されて模様が描かれた玉状のガラスである。
【0064】
図8は、本発明による装飾構造を有するスプーンS4の全体の構成を表す斜視図(
図8(A))と、装飾構造が現れた掬い部Hの拡大斜視図(
図8(B)(C))とを並べたものである。
【0065】
このスプーンS4は、柄80の部分と掬い部Hの骨格となる矩形状の枠8とが一体化された構成の金属製基材1Dと、この基材1Dの枠8の上面のほぼ全体に接合されると共にその接合箇所を開口端面とする空洞部22を有する曲面体21を備えるガラス体2Dと、曲面体21の底部に一体に設けられた有色の装飾体33(小さな玉状の単色ガラス)とにより構成される。このスプーンS4も
図3に示した製作方法によるものであるが、この実施例では、板ガラス2に載せる装飾体33を1個のみとして、その装飾体33を枠8の中心部に対応するように位置合わせした結果、枠8に流入したガラス20が下降する間に、曲面体21の先端部分に装飾体33が埋設され、その埋設状態が維持されて装飾体33が曲面体21に一体化されている。
【0066】
したがって、透明のガラス体2Dの中に装飾体33の色彩を際立たせた装飾を提示することができる(
図8(B))。また、曲面体21は、周りを空気で囲まれているために空気/ガラス/空気の界面ができ、ガラスから空気に向かって進む光は屈折率が大きいガラス(屈折率:1.4)の方から屈折率が小さい空気(屈折率:1.0)へと向かうので、ガラスと空気との界面において光は臨界角を越える角度(約50度)で全反射される。よって、ガラス体2Dを空洞部22の開口側から見ると、全反射された光がガラスの中を通過し、装飾体33で反射した光が曲面を持つガラスの端面を通してガラス体2Dを見る人の目に入ることによって、
図8(C)に示すように、空洞部22の中央に位置する装飾体33の周囲のガラスの曲面に、光の屈折や反射の作用による装飾体33の像300が目に映り込む。この像300は光が入射する角度によって時々刻々と変化し、その変化を見る人にはキラキラして揺れるように見えるので、興趣がより一層高められた装飾を提示することができる。
なお、
図8(C)では、色彩の濃淡をドットの密度により表している。
【0067】
図4に示した製作方法による具体例は示していないが、上記
図8の例と同様に、曲面体の内部に小片ガラス4に由来する装飾体を融合させることができる。また融合はしないが、同様の方法により金属の小片をガラス体の中に埋め込んで、前述した着色層を形成することもできる。これらでも
図8の例と同様に、ガラス体の各所に装飾体や着色層の像を映して興趣の高い装飾を提示することができる。
図6,7に例示した突起状の装飾体30,31が設けられたガラス体2B,2Cでも、ガラスに入った光の作用によって、突起30,31がない箇所のガラス面にも突起31,32の像を映して装飾効果を高めることができる。
【0068】
図3や
図4の方法によれば、空洞部22が形成されるより前に、板ガラスから変形したガラス20とその上に載せられた材料とを一体化することもできる。そうすることで比較的小型の装飾体(指輪の飾りなど)を製作することができる。
【0069】
図1~4に示した製作方法によれば、流動中のガラス20は穴10の中だけでなく、基材1の縁からも垂れ下がる場合があり、また基材1の上面でうねるように動く場合もある。よって、完成したガラス体の基材1に接合されている部分にも、流動していたときの形状を引き継いだユニークな湾曲面が現れる(
図5~8のガラス体2A,2B,2C,2Dを参照。)。このユニークな湾曲形状と基材1の穴10から下方に流動したガラス20により形成される曲面形状との一体化によって、魅力の高い装飾構造が出来上がる。
【0070】
なお、
図1~4の例では、目標とする量のガラス20を確実に穴10に入れて下降させるために、基材1の上面より面積の広い板ガラス2を基材1の上面全体に被せたが、ガラス20の全体に対する下降部分の割合が比較的小さい場合や、基材1の穴10の周囲の部分が比較的大きい場合には、基材1の上面のうち穴10の開口部を含む一部分のみに板ガラス2を被せ、その状態で窯を加熱してもよい。
【0071】
さらに、製作する物品の種類や基材の形状等に応じてガラス20の流動を停める位置を調整することにより、様々な大きさや形のガラス体を形成し、基材1に強固に接合することができる。また、基材1に形成する穴10の形状を複雑にしたり、複数の穴10を所定の位置関係をもたせて形成し、それらの穴10に流入したガラス20をどこまで下降させるかによって、多種多様な形状の装飾構造を得ることができる。
【0072】
図9は、上記
図1~4とは異なる構成の金属製基材100を用いた装飾構造およびその製作方法を表したものである。
この実施例の基材100は、円形状の板部101の外周縁の複数箇所からそれぞれ所定長さの棒片102を起立させた形態のものである。各棒片102の長さは等しく、互いの間の間隔もほぼ同等である。
【0073】
上記の基材100には、板部101より大きな面を有する円形の板ガラス2が組み合わせられる。板ガラス2は、各棒片102の上端面に載せられることにより、板部101に対向する関係をもって支持される(
図9(A))。
【0074】
基材100と板ガラス2との上記の関係を維持して両者を窯の中に入れて加熱すると、軟化したガラス20の板部101に対向する部分が下降しはじめ、やがてガラス20の中央部分が板部101に届いてその面に密着する状態になる。流体ガラス20の各棒片102より外側に突出していた部分も変形し、棒片102の上端面に接触したまま下降すると共に、棒片102の上部を包むように変形する。
【0075】
上記のように変形したガラス20を冷却することによって、板部101に結合された底部201と、各棒片102に結合されると共に底部201へと連なる壁部202とにより成る器のような形のガラス体200が形成される(
図9(B))。このガラス体200と基材100との結合も本発明に係る装飾構造に相当するものである。
【0076】
ガラス体200の底部201の面は板部101に従って平坦になるが、壁部202の外周面や内周面は、ガラス20が板部101に向かって流れていたときの状態を反映した湾曲面となる。また、ガラス体200の底部201や、壁部202の棒片102や密着している箇所には、ガラス20として流動している間に前述した金属酸化物の粒子や遷移金属イオンが拡散したことによる着色層C(図中に網点パターンで示す部分)が形成されている。板ガラス2として透明または半透明のものを使用すれば、これらの着色層Cをガラス体200の着色層Cが形成されていない箇所からも透視することができる。
【0077】
図9の例の基材100は、底面が板体101により塞がった形態のものであったが、板体101をリング体に変形することで底面が開口された構成の基材を用いて同様の方法を実施することもできる。この場合、基材を窯の内部に吊り下げる方法で支持し、各棒片102の上端面に板ガラス2を載せて窯を加熱することによって、軟化したガラス20を各棒片102で囲まれる空間内の所定位置まで、または底部のリング体を抜けるまで流動させ、その先端部分を
図1~4に示した曲面体21と同様の湾曲形状にすることもできる。
【0078】
その他、複数の棒状体の両端部をともにリング体により連結した形態の基材、湾曲した形状の複数の棒状体を下端位置で連結した形態の基材、複数の棒状体の中間部分を金属片などで連結した形態の基材、複数の棒状体を上方または下方へ向かうにつれて中央部に近づくように傾けた形態の基材、複数の棒状体が複雑に湾曲しながら下端部で絡まり合った形態の基材など、軟化したガラス20を下降させるための空間が一方向に長い形状の複数の金属体により取り囲まれる形態の種々の造形物を用いて上記
図9の例と同様の方法を実施することができる。なお、複数の棒状体が下方に向かうにつれて中央部に近づくように傾けられた場合には、軟化したガラス20の一部が棒状体の間の隙間から外側にはみ出す可能性があり、その変形による形態を冷却後のガラス体にも反映させることができる。
【0079】
また
図9(A)の例では、各棒片102により囲まれる空間の横断面より大きな面を有する板ガラス2を各棒片102の上端面に載せたが、上記空間の横断面と同じ程度の大きさの面を有する板ガラス2を各棒状体102の内面に支持させて窯を加熱してもよい。また、
図9の基材100に代えて、複数の棒状体が上端部で連結されると共にその連結部分が開口されていない基材や、各棒状体の上端面に囲まれる空間が非常に小さい形態の基材を使用することとして、棒状体の上端面より下の所定位置で少なくとも3つの棒状体の内面に板ガラス2の端面を接触させることによって、当該板ガラス2をその高さ位置に支持し、その支持状態下で窯を加熱することもできる。これらのケースにおいては、各棒状体の上端面より下の所定位置にガラス体が接合され、それより上の範囲では金属体の面が露出する形態の装飾構造を得ることができる。
【0080】
さらに、それぞれ独立の個体として形成された複数の金属体を、それらを起立姿勢で支持するための支持穴が閉鎖曲線を描くように設けられた支持ブロックにより支持し、少なくとも3つの金属体の上端面に板ガラス2を載せる、または少なくとも3つの金属体により板ガラス2の端面を支えることにより各金属体に囲まれる空間の内部に板ガラス2を支持して窯を加熱することもできる。この場合も、軟化したガラスを、少なくとも3つの金属体の上端面または高さ中間位置に接合されると共にそれらの接合箇所から各金属体に囲まれた空間の内部へと一連に連なる一体物のガラス体に変化させることができる。各金属体にも、ユニークな形態に造形されたものを使用することができる。
【0081】
図1~4や
図9に示した実施例やそれらの変形例は、金属製の基材1,100に対して1枚の板ガラス2を軟化させて接合させるものであったが、板ガラス2は1枚に限らず、複数枚の板ガラスを重ね合わせたものを加熱により軟化かつ融合させて、基材1,100に接合してもよい。この場合には、少なくとも1枚を他のものとは異なる色彩のものにすることによって、融合後のガラス体の広い範囲に色彩模様を現わすことができる。
また、いずれの例でも、板とは言えない形態のガラス体(球体、かまぼこ型など)を用いて、同様の方法を実施することもできる。
【符号の説明】
【0082】
1,1A,1B,1C,1D,100 金属製基材
2A,2B,2C,2D ガラス体
2 板ガラス
3 装飾体
4 小片ガラス(装飾体)
10 貫通穴
20 軟化後のガラス
21 曲面体
22 空洞部
102 棒片
【手続補正書】
【提出日】2021-12-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項9
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項9】
一方向に長い面を有する複数の金属体を、それぞれの長さ方向を上下方向に沿わせ、前記の面を窯の内部の所定広さの空間に向けて当該空間を囲む一ラインに沿って配列される状態にして前記窯の中に配置すると共に、少なくとも3つの金属体の上端面またはそれらの前記空間に向き合う面により支えることが可能な大きさのガラス体を前記少なくとも3つの金属体に支持させ、
上記の各金属体およびガラス体が入れられた窯の内部温度をガラス体の軟化点以上の所定レベルになるまで上昇させて前記ガラス体を軟化させた後に、軟化したガラスの一部が各金属体に囲まれた空間の内部で下降してその先端部分が所定の高さ位置に達するまで当該下降が続くように前記窯の内部温度または加熱を終了するタイミングを調整する、
ことを特徴とする装飾構造の製作方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項10
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項10】
前記金属製の基材としてステンレス製の造形物を使用する、請求項6~8のいずれかに記載された装飾構造の製作方法。