(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089820
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ用光学機能フィルム、光学積層体、機能性ガラス、およびヘッドアップディスプレイシステム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220609BHJP
G02F 1/13363 20060101ALI20220609BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20220609BHJP
B60K 35/00 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/13363
G02B27/01
B60K35/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041707
(22)【出願日】2022-03-16
(62)【分割の表示】P 2021523532の分割
【原出願日】2021-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2020013130
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 知宏
(57)【要約】
【課題】 偏光変換効率に優れるヘッドアップディスプレイ用光学機能フィルム、光学積層体、機能性ガラスおよびそれらを用いたヘッドアップディスプレイシステムを提供することを目的とする。
【解決手段】 同一面内に遅相軸角の異なる2以上の遅相軸帯を有するフィルムであって、最大の遅相軸角の差が5°より大きく、30°未満であるヘッドアップディスプレイ用光学機能フィルムを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一面内に遅相軸角の異なる2以上の遅相軸帯を有するフィルムであって、最大の遅相軸角の差が5°より大きく、30°未満であるヘッドアップディスプレイ用光学機能フィルム。
【請求項2】
前記最大の遅相軸角の差が10°以上25°以下である請求項1に記載の光学機能フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学機能フィルムおよび中間膜を備えるヘッドアップディスプレイ用光学積層体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の光学機能フィルムあるいは請求項3に記載の光学積層体と、ガラス板とを備えるヘッドアップディスプレイ用機能性ガラス。
【請求項5】
請求項1または2に記載の光学機能フィルム、請求項3に記載の光学積層体、または請求項4に記載の機能性ガラスを備えるヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項6】
表示画像投影手段から出射された光が前記光学機能フィルムに垂直に入射する入射角90°の遅相軸と、前記光学機能フィルムの表面に垂直な軸から水平方向に10°傾斜した位置から前記光が入射する入射角80°の遅相軸とのなす角が、5°以上20°以下である請求項5に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項7】
表示画像投影手段から出射された光が前記光学機能フィルムに垂直に入射する入射角90°の遅相軸と、前記光学機能フィルムの表面に垂直な軸から水平方向に20°傾斜した位置から前記光が入射する入射角70°の遅相軸とのなす角が、10°以上30°以下である請求項5または6に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項8】
前記機能性ガラスを備え、かつ、表示画像投影手段から出射された光が前記機能性ガラスに入射する入射角が、ブリュースター角αに対してα-10°~α+10°の範囲である請求項5乃至7のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばヘッドアップディスプレイに適用するのに好適な光学機能フィルム、光学積層体、機能性ガラスに関し、また、それらを用いたヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機等の運転者に情報を表示する方法として、ナビゲーションシステム、ヘッドアップディスプレイ(以下、「HUD」ともいう)等が用いられている。HUDは液晶表示体(以下、「LCD」ともいう)等の画像投影手段から投射された画像を、例えば自動車のフロントガラス等に投影するシステムである。
【0003】
画像表示手段から出射した出射光は、反射鏡にて反射し、さらにフロントガラスで反射した後、観察者へ到達する。観察者はフロントガラスに投影された画像を見ているが、画像はフロントガラスよりも遠方の画像位置にあるように見える。この方法では、運転者はフロントガラスの前方を注視した状態でほとんど視線を動かすことなく、様々な情報を入手することができるため、視線を移さなければならなかった従来のカーナビゲーションに比べ安全である。
【0004】
HUDシステムにおいて、表示情報は実際にフロントガラスから見える景色に重ねて投影されるが、表示光は、フロントガラスの室内側と室外側の2つの表面で反射されるため、反射像が二重像となり、表示情報が見づらいという問題があった。
【0005】
この問題に対して、偏光方向を90°変えることができる位相差素子を自動車用フロントガラスに用いることにより、反射像が二重像になるという問題を改善できることが知られている。例えば、特許文献1には、フィルム状の旋光子を内部に具備する自動車用フロントガラスに、S偏光とした表示光をブリュースター角で入射した場合には、車内側のフロントガラスの表面でS偏光の一部を反射させ、当該表面を透過したS偏光を旋光子によりP偏光に変換し、さらに車外側のフロントガラスの表面でP偏光の全てを車外に出射して二重像を防ぐことが開示されている。しかしながら、このような自動車用フロントガラス等においては、S偏光-P偏光間の変換を非常に効率良く行わなければ、車外に出射されずに戻ってくるS偏光によって二重像を生じてしまう。
【0006】
また、二重像を抑制する別の手段として、コレステリック液晶層を用いて作製した円偏光反射フィルムを、2枚の1/4波長板で挟持した光制御フィルムを用いてP偏光を入射させる技術が知られている(特許文献2)。この技術では、入射した直線偏光は1/4波長板によって円偏光に変換され、コレステリック液晶層を用いて作製された光反射フィルムで変換された円偏光が反射されることにより観察者による視認を可能にする。しかしながら、この技術においても、車内側の1/4波長板に入射したP偏光は、できる限り効率的に円偏光に変換され、また、コレステリック液晶層を介して車外側の1/4波長板に入射した円偏光は、より効率的にP偏光に変換されることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-40271号公報
【特許文献2】特許第5973109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、偏光変換効率に優れるヘッドアップディスプレイ用光学機能フィルム、光学積層体、機能性ガラスおよびそれらを用いたヘッドアップディスプレイシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、同一面内において遅相軸角が一定の範囲で異なる複数の遅相軸を有するヘッドアップディスプレイ用光学機能フィルムを用いることにより、偏光変換効率が向上し、当該光学機能フィルムをヘッドアップディスプレイに適用した場合に広範囲で二重像の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
即ち、本発明は、以下1)~8)に関するものである。
1)
同一面内に遅相軸角の異なる2以上の遅相軸帯を有するフィルムであって、最大の遅相軸角の差が5°より大きく、30°未満であるヘッドアップディスプレイ用光学機能フィルム。
2)
前記最大の遅相軸角の差が10°以上25°以下である上記1)に記載の光学機能フィルム。
3)
上記1)または2)に記載の光学機能フィルムおよび中間膜を備えるヘッドアップディスプレイ用光学積層体。
4)
上記1)または2)に記載の光学機能フィルムあるいは上記3)に記載の光学積層体と、ガラス板とを備えるヘッドアップディスプレイ用機能性ガラス。
5)
上記1)または2)に記載の光学機能フィルム、上記3)に記載の光学積層体、または上記4)に記載の機能性ガラスを備えるヘッドアップディスプレイシステム。
6)
表示画像投影手段から出射された光が前記光学機能フィルムに垂直に入射する入射角90°の遅相軸と、前記光学機能フィルムの表面に垂直な軸から水平方向に10°傾斜した位置から前記光が入射する入射角80°の遅相軸とのなす角が、5°以上20°以下である上記5)に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
7)
表示画像投影手段から出射された光が前記光学機能フィルムに垂直に入射する入射角90°の遅相軸と、前記光学機能フィルムの表面に垂直な軸から水平方向に20°傾斜した位置から前記光が入射する入射角70°の遅相軸とのなす角が、10°以上30°以下である上記5)または6)に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
8)
前記機能性ガラスを備え、かつ、表示画像投影手段から出射された光が前記機能性ガラスに入射する入射角が、ブリュースター角αに対してα-10°~α+10°の範囲である上記5)乃至7)のいずれかに記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、偏光変換効率に優れ、ヘッドアップディスプレイに適用するのに好適な光学機能フィルム、光学積層体、機能性ガラスおよびそれらを用いたヘッドアップディスプレイシステムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る光学機能フィルムの一実施形態を示す正面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る光学機能フィルムの一実施形態を示す正面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る光学積層体の一実施形態を示す側面断面図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る機能性ガラスの一実施形態を示す側面断面図である。
【
図5】
図5は、本発明に係るヘッドアップディスプレイシステムの一実施形態を示す模式図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る機能性ガラスに表示投影手段から出射された光が入射される概要を示した概略図である。
【
図7】
図7は、本発明に係る機能性ガラスに表示投影手段から出射された光がブリュースター角近傍で入射される概要を示した概略図である。
【
図8】
図8は、実施例において作製した各光反射層の反射スペクトルを示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例の試験例1において作製した2層の1/2波長板の自然光透過率および偏光透過率の分光特性を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例の試験例2において作製した1層の1/2波長板の自然光透過率および偏光透過率の分光特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に従う実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、下記の実施形態は、本発明のいくつかの代表的な実施形態を例示したにすぎず、本発明の範囲において、種々の変更を加えることができる。また、以下において、「ヘッドアップディスプレイ用」との表現を省略し、単に光学機能フィルム、光学積層体、機能性ガラスと記載する場合がある。また、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリレート」等の用語は、「アクリロイル」または「メタクリロイル」、「アクリレート」または「メタクリレート」をそれぞれ意味する。さらに、「ヘッドアップディスプレイ」をHUDと表現する場合もある。
【0014】
[(A)光学機能フィルム]
本発明の光学機能フィルムは、所望の偏光を得るため、入射光の偏光軸を変換する機能を有する少なくとも1つの光学機能層を含んでいる。このような光学機能層として、例えば、1/2波長板または1/4波長板のような位相差フィルム、位相差フィルムの複数の積層体、または、それらと円偏光反射層との積層体を挙げることができる。具体的には、(A-1)1/2波長板、(A-2)1/4波長板、(A-3)1/2波長板と円偏光反射層との積層体、および(A-4)1/4波長板と円偏光反射層との積層体を例示することができる。これらのうち、光学機能フィルムとして、(A-1)1枚または2枚以上の1/2波長板、あるいは(A-4)1枚または2枚以上の円偏光反射層が2枚の1/4波長板で挟持された積層体が好ましい。円偏光反射層としては、例えば、コレステリック液晶を用いたコレステリック液晶層が好ましい。
【0015】
本発明の光学機能フィルムは、同一面内に遅相軸角の異なる2以上の遅相軸帯を有するフィルムであって、最大の遅相軸角の差が5°より大きく、30°未満であるヘッドアップディスプレイ用光学機能フィルムである。ここで、遅相軸とは、光の進行方向に垂直な面内に入射する偏光に対し屈折率が最大となる軸の方向を示す光軸であり、遅相軸角とはその角度、すなわち、光学機能フィルムの長手方向の軸(縦軸)に対する遅相軸の角度を意味する。また、本発明の光学機能フィルムは、遅相軸角の異なる2以上の遅相軸帯を有する。遅相軸帯は2以上であればその数は限定されず、数百~数千の遅相軸帯、すなわち実質的に遅相軸のグラデーションが形成されていてもよい。また、最大の遅相軸角の差とは、1枚の光学機能フィルムの同一面内における最大の遅相軸角と最低の遅相軸角との差、すなわち、同一面内における各遅相軸角において、遅相軸角の差が最も大きい値を意味する。なお、本発明の光学機能フィルムは、ヘッドアップディスプレイ用に用いられるフィルムであるため、表示部分として用いられる部分以外の領域に30°以上の遅相軸角差を有する部分があった場合、その領域における当該遅相軸角は、最大の遅相軸角差として考慮されない。
【0016】
図1は、同一面内に2つの遅相軸帯を有する光学機能フィルムの実施態様の例示である。
図1において、光学機能フィルム30が有する2つの領域のうち、一方を遅相軸帯A、他方を遅相軸帯Bとすると、遅相軸帯Aの遅相軸32における遅相軸角と、遅相軸帯Bの遅相軸34における遅相軸角とが互いに異なる角度を示す。そして、遅相軸帯Aにおける遅相軸角31と遅相軸帯Bにおける遅相軸角33との差が5°より大きく、30°未満、すなわち、最大の遅相軸角の差が5°より大きく、30°未満である。この実施態様において、最大の遅相軸角の差の下限は、好ましくは6°であり、より好ましくは7°であり、更に好ましくは8°であり、特に好ましくは10°であり、最も好ましくは15°または16°である。また、最大の遅相軸角の差の上限としては、好ましくは28°であり、より好ましくは27°であり、更に好ましくは26°であり、特に好ましくは25°であり、最も好ましくは22°である。よって、最も好ましい最大の遅相軸角の差は16°以上22°以下である。
【0017】
また、
図2は、同一面内に3つの遅相軸帯を有する光学機能フィルムの実施態様の例示である。
図2において、光学機能フィルム30が有する3つの領域のうち、左側の領域を遅相軸帯C、中央の領域を遅相軸帯D、右側の領域を遅相軸帯Eとすると、遅相軸帯Cの遅相軸42における遅相軸角と、遅相軸帯Dの遅相軸44における遅相軸角と、遅相軸帯Eの遅相軸46における遅相軸角のうち少なくとも2つが異なる角度を示す。仮に各遅相軸角において、遅相軸帯Cにおける遅相軸角41<遅相軸帯Dにおける遅相軸角43<遅相軸帯Eにおける遅相軸角45であると仮定すると、遅相軸帯Cにおける遅相軸角41と遅相軸帯Eにおける遅相軸角45との差が5°より大きく、30°未満、すなわち、最大の遅相軸角の差が5°より大きく、30°未満である。この実施態様において、最大の遅相軸角の差の下限は、好ましくは6°であり、より好ましくは7°であり、更に好ましくは8°であり、特に好ましくは10°であり、最も好ましくは15°または16°である。また、最大の遅相軸角の差の上限としては、好ましくは28°であり、より好ましくは27°であり、更に好ましくは26°であり、特に好ましくは25°であり、最も好ましくは22°である。よって、最も好ましい最大の遅相軸角の差は16°以上22°以下である。
【0018】
また、本発明の光学機能フィルムは、同一面内に遅相軸角の異なる3以上の遅相軸帯を有するフィルムであって、隣接する遅相軸帯間において遅相軸角が5°以上20°以下異なっていてもよい。例えば、
図2において、遅相軸帯Cと隣接する遅相軸帯Dは、遅相軸角41に対して遅相軸角43が5°以上20°以下異なる、すなわち、遅相軸角のズレを有し、同様に、遅相軸帯Dに隣接する遅相軸帯Eは、遅相軸角43に対して遅相軸角45が5°以上20°以下異なる、すなわち、遅相軸角のズレを有する。この隣接する遅相軸帯間の遅相軸角のズレの下限は、好ましくは6°、更に好ましくは7°、特に好ましくは8°である。また、隣接する遅相軸帯間の遅相軸角のズレの上限は、好ましくは19°、更に好ましくは18°、特に好ましくは17°である。すなわち、隣接する遅相軸帯間における遅相軸角のズレは、8°以上17°以下が最も好ましい。
【0019】
本発明の光学機能フィルムにおいて、同一面内に各遅相軸角がそれぞれ異なる3以上の遅相軸帯を有することが好ましく、各遅相軸角が全て異なる遅相軸帯を有することが更に好ましい。例えば、
図2における遅相軸帯C、遅相軸帯Dおよび遅相軸帯Eは、互いに異なる遅相軸角を有し、遅相軸角41、遅相軸角43および遅相軸角45が全て異なることが好ましい。ここで、各遅相軸が全て異なるとは、例えば、遅相軸帯Cにおける遅相軸が25°、遅相軸帯Dにおける遅相軸が30°、遅相軸帯Eにおける遅相軸が35°のような構成を意味する。
【0020】
本発明の光学機能フィルムの特に好ましい実施態様として、(i)光学機能層が1枚の1/2波長板である場合、最大の遅相軸角の差は7°以上13°以下であることが好ましく、9°以上11°以下であることがより好ましい。また、(ii)光学機能層が複数の、特に2枚の1/2波長板の積層体である場合、最大の遅相軸角の差は10°以上25°以下であることが好ましく、18°以上22°以下であることがより好ましい。さらに、(iii)光学機能層が1または2以上の円偏光反射層が2枚の1/4波長板で挟持された積層体である場合、最大の遅相軸角の差は10°以上25°以下であることが好ましく、18°以上22°下であることがより好ましい。
【0021】
<1/2波長板>
光学機能フィルムとして1/2波長板を使用する場合、1/2波長板は、P偏光をS偏光に、またはS偏光をP偏光に変換する、すなわち偏光軸を変換する機能を持つ位相差素子であり、例えば、ポリカーボネートまたはシクロオレフィンポリマーからなるフィルムを位相差が波長の1/2となるように一軸延伸したり、水平配向する重合性液晶を位相差が波長の1/2となるような厚さで配向させたりすることによって得ることができる。一般に、水平配向する重合性液晶を使用した1/2波長板は、偏光軸を変換させる作用を有する層としての重合性液晶層と、当該重合性液晶層を形成する塗布液が塗布される支持基板とから構成されている。ただし、支持基板は本発明の光学機能フィルムに必須の構成部材ではなく、重合性液晶層を他の基材(例えば中間膜やガラス板)へ転写して使用することもできる。このような1/2波長板の厚みの上限値は、液晶の配向性の観点から10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。一方、1/2波長板の厚みの下限値は、液晶の重合性の観点から0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。光が1/2波長板の主表面に対して斜めの位置から入射する場合、光の入射角によって位相差が変化する場合がある。このような場合、より厳密に位相差を適合させるため、例えば、位相差素子の屈折率を調整した位相差素子を用いることにより、入射角に伴う、位相差の変化を抑制することができる。例えば、位相差素子の面内での遅相軸方向の屈折率をnx、位相差素子の面内でnxと直交する方向の屈折率をny、位相差素子の厚さ方向の屈折率をnzとするとき、下記式(1)で示される係数Nzが、好ましくは0.3以上1.0以下、より好ましくは0.5以上0.8以下となるように制御する。
【0022】
【0023】
1/2波長板が重合性液晶層を含む場合、重合性液晶層を構成する液晶組成物が支持基板上に塗布される。このような支持基板は、1/2波長板がHUDに使用される際、表示画像の視認性を保つために、可視光領域において透明であることが好ましく、具体的には波長380~780nmの可視光線透過率が50%以上であればよく、70%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。また、支持基板は、着色されていてもよいが、着色されていないか、着色が少ないことが好ましい。さらに、支持基板の屈折率は1.2~2.0であることが好ましく、1.4~1.8であることがより好ましい。支持基板の厚みは、用途に応じて適宜選択すればよく、好ましくは5μm~1000μmであり、より好ましくは10μm~250μmであり、特に好ましくは15μm~150μmである。
【0024】
支持基板は、単層であっても2層以上の積層体であってもよい。支持基板の例としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、アクリル、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィンおよびポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。これらのなかでも、複屈折性の少ないトリアセチルセルロース(TAC)、ポリオレフィンおよびアクリルなどが好ましい。
【0025】
次に、上記の重合性基を有するネマチック液晶モノマーを用いて、1/2波長板を作製する方法を説明する。このような方法としては、例えば、重合性基を有するネマチック液晶モノマーを溶剤に溶解させ、次いで光重合開始剤を添加する。このような溶剤は、使用する液晶モノマーを溶解できれば、特に限定されるものではないが、例えば、シクロペンタノン、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、シクロペンタノンおよびトルエン等が好ましい。その後、この溶液を支持基板として用いられるPETフィルムまたはTACフィルム等のプラスチック基板上に厚みができるだけ均一になるように塗布し、加熱により溶剤を除去させながら、支持基板上で液晶となって配向するような温度条件で一定時間放置させる。このとき、プラスチックフィルム表面を塗布前に所望とする配向方向にラビング処理、あるいは偏光照射により光配向性を発揮する光配向材料をプラスチックフィルム表面に成膜し偏光照射する等の配向処理をしておくことで、液晶の配向をより均一にすることができる。これにより、1/2波長板の遅相軸を所望とする角度に制御し、かつ、1/2波長板のヘイズ値を低減することが可能となる。次いでこの配向状態を保持したまま、高圧水銀灯等でネマチック液晶モノマーに紫外線を照射し、液晶の配向を固定化させることにより、所望とする遅相軸を有する1/2波長板を得ることができる。
【0026】
1/2波長板の主な役割は、表面で反射されず透過したS偏光またはP偏光を、P偏光またはS偏光に変換するものである。これにより、外側に配置される支持基板からの反射を低減し、二重像を抑制することが可能である。
【0027】
<1/4波長板>
HUDシステムの設計に応じて、光学機能層として1/4波長板を使用することもできる。1/4波長板は、円偏光を直線偏光に変換する機能を持つ位相差素子であり、例えば、ポリカーボネートまたはシクロオレフィンポリマーからなるフィルムを位相差が波長の1/4となるように一軸延伸したり、あるいは、水平配向する重合性液晶を位相差が波長の1/4となるような厚さで配向させたりすることによって得ることができる。また、1/4波長板においても、1/2波長板と同様に重合性液晶層を含むことが好ましい。このような場合、1/4波長板は、偏光軸を変換させる作用を有する層としての重合性液晶層と、当該重合性液晶層を形成する塗布液が塗布される支持基板とから構成されている。重合性液晶層および支持基板は、上述の1/2波長板で使用されるネマチック液晶モノマー、支持基板と同様の材料を用いることができる。
【0028】
1/4波長板として、波長分散による位相差のずれが大きい場合には、広帯域1/4波長板と呼ばれる位相差素子を用いてもよい。広帯域1/4波長板とは、位相差の波長依存性が低減した位相差素子であり、例えば、同じ波長分散をもつ1/2波長板と1/4波長板とをそれぞれの遅相軸のなす角度が60゜となるように積層した位相差素子、位相差の波長依存性を低減したポリカーボネート系位相差素子(帝人社製:ピュアエースWR-S)等が挙げられる。さらには、HUDのように、光の入射角が1/4波長板に対して斜めから入射する場合、位相差素子によっては、光の入射角度によって位相差が変化する場合がある。このような場合に、より厳密に位相差を合わせる方法として、例えば、位相差素子の屈折率を調整した位相差素子を用いることにより、入射角に伴う位相差の変化を抑制することができる。そのような例としては、位相差素子の面内での遅相軸方向の屈折率をnx、位相差素子の面内でnxと直交する方向の屈折率をny、位相差素子の厚さ方向の屈折率をnzとするとき、上記式(1)で示される係数Nzが、好ましくは0.3以上1.0以下、より好ましくは0.5以上0.8以下となるように制御する。
【0029】
1/4波長板の厚さの上限値は、液晶の配向性の観点から10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。一方、1/4波長板の厚さの下限値は、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。また、円偏光反射層の厚さの上限値は、液晶の配向性の観点から10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。一方、円偏光反射層の厚さの下限値は、液晶の重合性の観点から0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。
【0030】
本発明の光学機能フィルムが1/2波長板または1/4波長板の位相差フィルムを含む場合、これらの位相差フィルムは、重合性液晶化合物を有する重合性液晶層を含むことが好ましい。重合性液晶化合物とは、分子内に重合性基を有し、ある温度範囲あるいは濃度範囲で液晶性を示すネマチック液晶モノマーである。重合性基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、カルコニル基、シンナモイル基およびエポキシ基などが挙げられる。また、重合性液晶が液晶性を示すためには、分子内にメソゲン基があることが好ましい。メソゲン基とは、例えば、ビフェニル基、ターフェニル基、(ポリ)安息香酸フェニルエステル基、(ポリ)エーテル基、ベンジリデンアニリン基、またはアセナフトキノキサリン基等のロッド状、板状の置換基、あるいはトリフェニレン基、フタロシアニン基、またはアザクラウン基等の円盤状の置換基、すなわち、液晶相挙動を誘導する能力を有する基を意味する。ロッド状または板状の置換基を有する液晶化合物は、カラミティック液晶として当該技術分野で既知である。このような重合性基を有するネマチック液晶モノマーは、例えば、特開2003-315556号公報および特開2004-29824号公報等に記載されている重合性液晶、PALIOCOLORシリーズ(BASF社製)およびRMMシリーズ(Merck社製)等の重合性液晶が挙げられる。これら重合性基を有するネマチック液晶モノマーは、単独で使用しても、あるいは複数混合して使用してもよい。
【0031】
さらに、重合性基を有するネマチック液晶モノマーと反応可能な液晶性を有しない重合性化合物を添加することも可能である。そのような化合物としては、例えば、紫外線硬化型樹脂等が挙げられる。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと1,6-ヘキサメチレン-ジ-イソシアネートとの反応生成物、イソシアヌル環を有するトリイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとの反応生成物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとイソホロン-ジ-イソシアネートとの反応生成物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタアクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセロールトリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、トリグリセロール-ジ-(メタ)アクリレート、プロピレングリコール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ポリプロピレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール-ジ-(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール-ジ-(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、1,6-ヘキサンジオール-ジ-(メタ)アクリレート、グリセロール-ジ-(メタ)アクリレート、エチレングリコール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ジエチレングリコール-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビス(メタアクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビスフェノールA-ジ-グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-シアノエチル(メタ)アクリレート、ブチルグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートおよびブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で使用してもあるいは複数混合して使用してもよい。これら液晶性を持たない紫外線硬化型樹脂は、ネマチック液晶モノマーを含む組成物が液晶性を失わない程度に添加しなければならず、好ましくは、重合性基を有するネマチック液晶モノマー100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下、より好ましくは1.0質量部以上10質量部以下である。
【0032】
上述した重合性基を有するネマチック液晶モノマーおよび液晶性を有しない重合性化合物が紫外線硬化型である場合、これらを含んだ組成物を紫外線により硬化させるために、光重合開始剤が添加される。光重合開始剤としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1(BASF社製イルガキュアー907)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製イルガキュアー184)、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン(BASF社製イルガキュアー2959)、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン(Merck社製ダロキュアー953)、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン(Merck社製ダロキュアー1116)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(BASF社製イルガキュアー1173)およびジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルおよび2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(BASF社製イルガキュアー651)等のベンゾイン系化合物;ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン(日本化薬社製カヤキュアーMBP)等のベンゾフェノン系化合物;ならびに、チオキサントン、2-クロロチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーCTX)、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーRTX)、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーCTX)、2,4-ジエチルチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーDETX)および2,4-ジイソプロピルチオキサントン(日本化薬社製カヤキュアーDITX)等のチオキサントン系化合物等が挙げられる。好ましくは、光重合開始剤としては、例えば、Irgacure TPO、Irgacure TPO-L、Irgacure OXE01、Irgacure OXE02、Irgacure 1300、Irgacure 184、Irgacure 369、Irgacure 379、Irgacure 819、Irgacure 127、Irgacure 907およびIrgacure 1173(いずれもBASF社製)が挙げられ、特に好ましくは、Irgacure TPO、Irgacure TPO-L、Irgacure OXE01、Irgacure OXE02、Irgacure 1300およびIrgacure 907が挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種類または複数を任意の割合で混合して使用することができる。
【0033】
光重合開始剤としてベンゾフェノン系化合物またはチオキサントン系化合物を用いる場合には、光重合反応を促進させるために、助剤を併用することも可能である。そのような助剤としては例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、n-ブチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ミヒラーケトン、4,4’―ジエチルアミノフェノン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸(n-ブトキシ)エチル、および4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン系化合物が挙げられる。
【0034】
上述した光重合開始剤および助剤の添加量は、上述の組成物の液晶性に影響を与えない範囲で使用することが好ましく、その量は、当該組成物中の紫外線で硬化する化合物100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上10質量部以下、より好ましくは2質量部以上8質量部以下である。また、助剤は光重合開始剤に対して、0.5倍量以上2倍量以下であることが好ましい。
【0035】
本発明の光学機能フィルムにおいて、光学機能層は2枚以上設けられていてもよい。この場合、光学機能層間には何も用いず、すなわち各光学機能層を直接積層してもよいが、各光学機能層間に粘着層または接着層が設けられていることが好ましい。粘着層の形成に使用される粘着剤としては、アクリル系またはゴム系の粘着剤が挙げられるが、接着性、保持力等を調整しやすいアクリル系粘着剤が好ましい。接着剤としては、紫外線硬化型樹脂組成物、熱硬化型樹脂組成物、およびこれらの混合物が挙げられる。紫外線硬化型樹脂の場合は、アクリロイル基あるいはエポキシ基を有するモノマーを複数混合した組成物を、光重合開始剤の存在下で紫外線を照射し硬化させることで光学機能層間を接着させることができる。熱硬化型樹脂組成物の場合は、エポキシ基を有するモノマーを複数混合した組成物を、酸触媒の存在下で加熱し硬化させることで光学機能層間を接着することができる。あるいは、アミノ基、カルボキシル基、水酸基を有する複数のモノマーまたはポリマーからなる組成物をイソシアネート基またはメラミンを有する化合物の存在下で加熱し硬化させることで光学機能層間を接着することができる。
【0036】
[光学機能フィルムの製造方法]
本発明の光学機能フィルムは、位相差フィルムによって複数の遅相軸帯が実現される、すなわち、複数の遅相軸を有する位相差フィルムを含むことが好ましい。この場合、複数の位相差フィルムを繋ぎ合わせるのではなく、1枚の位相差フィルム中に複数の遅相軸を有する構成を意味する。遅相軸角の異なる2以上の遅相軸帯を実現するため、光学機能フィルムの同一面内において、複数の遅相軸を所望の角度に制御する。このような方法としては、例えば、光学機能層の表面において、所定の領域ごとに所望とする配向方向にラビング処理をすることが挙げられる。また、偏光照射により偏光の角度に応じた光配向性を発揮する光配向材料を所定の光学機能層の表面に成膜し、偏光照射する際に、所定の領域ごとに偏光照射の角度を所望の角度に配向するように設定しておくことで、光学機能層の表面において、所定の領域ごとに光配向材料の配向角度が異なる角度となり、これらの配向処理面の上に液晶を配向、固定させる。このような配向処理を光学機能フィルムの同一面内に施すことにより、遅相軸角の異なる2以上の遅相軸帯を有する光学機能フィルムを作製することができる。
【0037】
[(B)光学積層体]
本発明の光学積層体には、上述した光学機能フィルムに中間膜が積層されている。中間膜は、熱可塑性樹脂の樹脂フィルムであることが好ましく、ポリビニルブチラールのフィルムであることが特に好ましい。中間膜は1枚であっても、複数枚であってもよいが、2枚の中間膜によって光学機能フィルムが挟持された構造を有する光学積層体が好ましい。また、光学積層体は2枚の光学機能フィルムを用いることが好ましい。この場合、2枚の光学機能フィルムについて、同一面内における各遅相軸角の差は同じであることが特に好ましい。
【0038】
図3には、本発明の光学積層体の一実施形態が示されており、光学積層体10は、光学機能フィルム101が2枚の中間膜102により挟持された構成をなし、光学機能フィルム101は、例えば、
図1または
図2に示される光学機能フィルム(30、40)に相当する。
図3において、光学積層体10には、同一面内における各遅相軸角の差が同じである2枚の光学機能フィルム101が設けられていてもよい。
【0039】
[中間膜]
中間膜としては、熱可塑性樹脂を用いることができ、一般的に用いられている車載用中間膜を用いることができることが好ましい。このような車載用中間膜としては、例えば、ポリビニルブチラール系樹脂(PVB)、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)、エチレン-酢酸ビニル共重合系樹脂(EVA)、またはシクロオレフィンポリマー(COP)が挙げられる。これらの樹脂で作製された中間膜は、合わせガラス用中間膜として汎用的であるために好ましい。また、中間膜の厚さは、後述するHUDシステムに光学積層体を適用する際、表示光の反射に影響を与えない範囲であれば、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜設計することができる。
【0040】
本発明に用いられる中間膜には、紫外線吸収剤、抗酸化剤、帯電防止剤、熱安定剤、着色剤、接着調整剤等が適宜添加配合されていてもよく、とりわけ、赤外線を吸収する微粒子が分散された中間膜は、高性能な遮熱合わせガラスを作製する上で重要である。赤外線を吸収する微粒子には、Sn、Ti、Zn、Fe、Al、Co、Ce、Cs、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moの金属、当該金属の酸化物、当該金属窒化物、あるいはこれらの中から少なくとも2種以上を含む複合物などの導電性を有する材料の微粒子を用いる。また、これらの材料には、Sn、Sb、F等がドープされていてもよい。特に、可視光線の領域では透明である錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、フッ素ドープ酸化錫が、透明性が求められる建築用、自動車用の窓として用いる場合に好ましい。中間膜に分散させる赤外線を吸収する微粒子の粒径は、0.2μm以下であることが好ましい。微粒子の粒径が0.2μm以下であれば、可視光線の領域での光の散乱を抑制しつつ赤外線を吸収でき、ヘイズを発生させず、電波透過性と透明性を確保しつつ、接着性、透明性、耐久性等の物性を未添加の中間膜と同等に維持し、さらには通常の合わせガラス製造ラインでの作業で合わせガラス化処理を行うことができる。なお、中間膜にPVBを用いる場合には、中間膜の含水率を最適に保つために、恒温恒湿の部屋で合わせ化処理を行う。また、中間膜には、その一部が着色したもの、遮音機能を有する層をサンドイッチしたもの、HUDにおけるゴースト現象(二重写り)を軽減するための厚さに傾斜があるもの(楔形)などが使用できる。
【0041】
上記中間膜と光学機能フィルムとをラミネートする方法に特に制限はないが、例えば、ニップロールを用いて、中間膜と光学機能フィルムを同時に圧着してラミネートする方法が挙げられる。ラミネートする際にニップロールが加熱できる場合は、加熱しながら圧着することも可能である。また、中間膜と光学機能フィルムとの密着性が劣る場合は、コロナ処理、プラズマ処理などによる表面処理を予め行ってからラミネートしてもよい。
【0042】
中間膜は、溶剤に溶解させた状態で、光学機能フィルムの片面または両面に直接積層してもよい。ポリビニルブチラール系樹脂(PVB)を使用する場合、ブチラール化度の下限値は40モル%であることが好ましく、55モル%であることがより好ましく、60モル%であることが特に好ましい。一方、ブチラール化度の上限値は85モル%であることが好ましく、80モル%であることがより好ましく、75モル%であることが特に好ましい。なお、ブチラール化度は、赤外吸収スペクトル(IR)法により、測定することができ、例えば、FT-IRを用いて測定することができる。
【0043】
ポリビニルブチラール系樹脂の水酸基量の下限値は、15モル%であることが好ましく、上限値は35モル%であることが好ましい。水酸基量が15モル%未満であると、合わせガラス用中間膜とガラスとの接着性が低下したり、合わせガラスの耐貫通性が低下したりすることがある。一方、水酸基量が35モル%を超えると、中間膜が硬くなることがある。
【0044】
ポリビニルブチラール系樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化することにより調製することができる。ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、鹸化度80モル%以上99.8モル%以下のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。また、ポリビニルアルコールの重合度の上限値は4000であることが好ましく、3000であることがより好ましく、2500であることが特に好ましい。重合度が4000を超えると、中間膜の成形が困難となることがある。
【0045】
[(C)機能性ガラス]
本発明の機能性ガラスには、上記光学機能フィルムまたは光学積層体とガラス板が積層されている。ガラス板は1枚であっても、複数枚であってもよいが、2枚のガラス板によって上記光学機能フィルムまたは光学積層体が挟持された構造を有する機能性ガラスが好ましい。このような機能性ガラスはHUDシステムにおける表示媒体として好適に用いられる。
【0046】
機能性ガラスは、例えば、上記光学機能フィルムまたは光学積層体をガラス板に貼り合わせることによって作製される。光学機能フィルムまたは光学積層体をガラス板に貼り合わせる方法の一例としては、粘着剤もしくは接着剤を該光学機能フィルムまたは光学積層体の片側あるいは両側に塗布し、次いで、ガラス板を貼り合わせることによって得ることができる。粘着剤または接着剤に特に制限はないが、後に剥がすことがある場合は、リワーク性に優れた粘着性がよい材料、例えばシリコーン粘着剤、アクリル系粘着剤等が好ましい。
【0047】
[ガラス板]
ガラス板は、例えば、本発明の機能性ガラスをフロントガラスとして利用しても、前方の景色が十分に視認可能な透明性があれば特に限定されるものではない。また、ガラス板の屈折率は1.2以上2.0以下であることが好ましく、1.4以上1.8以下であることがより好ましい。また、ガラス板の厚み、形状等も、表示光の反射に影響を与えない範囲であれば、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜設計することができる。また、これらガラス板には反射面に多層膜からなる増反射膜、遮熱機能を兼ねる金属薄膜層が設けられていてもよい。これらの膜は入射する偏光の反射率を向上させることができるが、例えば、自動車用フロントガラスとして、本発明の機能性ガラスを用いる場合は、機能性ガラスの可視光線透過率が70%以上となるように反射率を調整することが好ましい。
【0048】
本発明の光学機能フィルムまたは光学積層体を用いる場合は、2枚のガラス板の間に、光学機能フィルムまたは光学積層体を配置し、高温・高圧にて圧着することにより合わせガラス内に光学積層体が配置された機能性ガラスを得ることができる。
図4は、本発明に従う機能性ガラスの一実施形態を示す。
図4に示す機能性ガラス20は、光学積層体10が、2枚のガラス板201により挟持された構成をなし、光学積層体10は、例えば、
図3の光学積層体に相当し、光学機能フィルム101が2枚の中間膜102により挟持されている。
図4に示されるように、光学積層体10が機能性ガラス20を構成する場合、中間膜102は、2枚のガラス板201と光学積層体10との密着性を保持するための粘着剤または接着剤としての機能も有している。
【0049】
本発明の光学機能フィルムまたは光学積層体を用いて機能性ガラスを作製する方法の一例を具体的に説明する。まず、2枚のガラス板を準備する。自動車のフロントガラス用の合わせガラスとして用いる場合は、フロート法で作られたソーダライムガラスを使用する。ガラスは透明、緑色に着色されたもの、いずれでもよく、特に制限はない。これらのガラス板の厚さは、通常、約2mmtのものを使用するが、近年のガラスの軽量化の要求に応じて、これよりも若干薄い厚さのガラス板も使用できる。ガラス板を所定の形状に切り出し、ガラスエッジに面取りを施し洗浄する。黒色の枠状やドット状のプリントが必要な際には、ガラス板にこれを印刷する。フロントガラスのように曲面形状が必要とされる場合には、ガラス板を650℃以上に加熱し、その後、モールドによるプレスや自重による曲げなどで2枚が同じ面形状となるように整形し、ガラスを冷却する。このとき、冷却速度をあげすぎると、ガラス板に応力分布が生じて強化ガラスとなるために、徐冷する。このように作製したガラス板のうちの1枚を水平に置き、その上に本発明の光学機能フィルムまたは光学積層体を重ね、さらにもう一方のガラス板を置く。次いで、ガラスのエッジからはみ出した光学機能フィルム、中間膜は、カッターで切断・除去する。その後、サンドイッチ状に積層したガラス板、光学機能フィルムまたは光学積層体との間に存在する空気を脱気しながら温度80℃から100℃に加熱し、予備接着を行う。空気を脱気する方法にはガラス板/光学機能フィルムまたは光学積層体/ガラス板の積層体を耐熱ゴムなどでできたゴムバッグで包んで行うバッグ法と、ガラス板の端部のみをゴムリングで覆ってシールするリング法の2種があり、どちらの方法を用いてもよい。予備接着が終了した後、ゴムバッグから取り出したガラス板/光学機能フィルムまたは光学積層体/ガラス板の積層体、もしくはゴムリングを取り外した積層体をオートクレーブに入れ、10~15kg/cm2の高圧下で、120℃~150℃に加熱し、この条件で20分~40分間、加熱・加圧処理する。処理後、50℃以下に冷却したのちに除圧し、ガラス板/光学機能フィルムまたは光学積層体/ガラス板からなる本発明の機能性ガラスをオートクレーブから取り出す。
【0050】
こうして得られた機能性ガラスは、普通自動車、小型自動車、軽自動車などともに、大型特殊自動車、小型特殊自動車のフロントガラス、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラスとして使用できる。さらには、鉄道車両、船舶、航空機の窓としても、また、建材用および産業用の窓材としても使用できる。使用の形態であるが、UVカットや調光機能を有する部材と、積層あるいは貼合して用いることができる。
【0051】
[ヘッドアップディスプレイシステム]
図5は、本発明のHUDシステムの一実施形態を模式図で示したものである。
図5に示されるHUDシステムは、表示画像を示す表示光をS偏光またはP偏光にして出射する表示画像投影手段(表示器)2と、表示画像投影手段2から出射された表示光を反射する反射鏡3と、表示画像投影手段2から出射されたS偏光またはP偏光が入射される本発明のヘッドアップディスプレイ用機能性ガラス(機能性ガラス4)とを備えている。表示画像投影手段2から出射されたS偏光またはP偏光を反射鏡3で反射させ、この反射された表示光をフロントガラスとして機能する機能性ガラス4に照射することにより、観察者1に光路5を介してS偏光またはP偏光が到達し、表示画像の虚像6を視認できる。なお、
図5に示されるHUDシステムにおいて、表示画像投影手段2から出射された表示光は、反射鏡3を介して機能性ガラス4に入射しているが、表示画像投影手段2から直接機能性ガラス4に入射していてもよい。また、表示画像投影手段2からは表示画像を示す表示光をランダム光で出射し、反射鏡3で反射させ、この反射光が機能性ガラス4に到達する前に偏光板を通すことにより、表示画像投影手段2から出射した偏光を調整として所望とする偏光を機能性ガラス4に照射してもよい。
【0052】
<表示画像投影手段>
表示画像投影手段2は、最終的に機能性ガラス4に到達するまでに、所望とするP偏光またはS偏光を出射することができれば特に限定されるものではないが、例えば、液晶表示装置(LCD)、有機ELディスプレイ(OELD)等が挙げられる。表示画像投影手段2が液晶表示装置である場合、出射光は通常直線偏光となっているため、そのまま用いることができる。一方、表示画像投影手段2が有機ELディスプレイである場合、例えば、表示画像投影手段2は、光源とP偏光またはS偏光を出射可能な偏光板とから構成されていてもよい。また、HUDシステムを自動車に使用する場合、液晶表示装置、有機ELディスプレイは、例えばダッシュボードのような光出射口に偏光板、1/2波長板等の光学部材を配置して、表示画像投影手段2からP偏光またはS偏光が出射できるように調整することも可能である。また、表示画像投影手段2に使用される光源も特に限定されるものではなく、レーザー光源やLED光源等を使用することができる。また、光学機能層を構成する位相差素子の中心反射波長を、上記の光源の発光スペクトルに対応するように設定することで、より効果的に表示画像を鮮明することができる。
【0053】
<反射鏡>
本発明のHUDシステムは、必要に応じて反射鏡3を備えていてもよい。反射鏡3は、表示画像投影手段2からの表示光を機能性ガラス4に向けて反射することができれば、特に限定されるものではなく、例えば、平面鏡、凹面鏡などから構成される。反射鏡3として凹面鏡を用いた場合、凹面鏡は、表示器からの表示光を所定の拡大率で拡大することも可能である。
【0054】
本発明のHUDシステムは、表示画像投影手段から出射された光が光学機能フィルムに垂直に入射する入射角90°の遅相軸と、光学機能フィルムの表面に垂直な軸から水平方向に10°傾斜した位置から表示画像投影手段から出射された光が入射する入射角80の遅相軸とのなす角、すなわち入射角90°に対する入射角80°遅相軸のずれの範囲が5°以上20°以下であることが好ましい。なお、
図6に示されるように、入射角7は、光学機能フィルム101の表面と、光学機能フィルム101の表面に入射する光とがなす角度を意味する。例えば、表示画像投影手段2から出射された光が、反射鏡3を介して光学機能フィルム101の正面、すなわち光学機能フィルム101の表面に垂直に入射した場合、入射角7は90°であり、光学機能フィルム101の表面に垂直な軸から水平方向に右または左に10°傾斜した位置から入射した場合、入射角7は80°である。すなわち、
図6において表示部分9Aにおける遅相軸角と表示部分9Bにおける遅相軸角のずれが5°以上20°以下であることが、本発明のヘッドアップディスプレイの好ましい実施態様である。なお、表示部分9Aにおける遅相軸角と表示部分9Bにおける遅相軸角のずれは7°以上13°以下であることがより好ましく、9°以上11°以下であることが更に好ましい。
【0055】
本発明は、この入射角7の傾斜による、光学機能フィルムの偏光変換効率の低下を、上記遅相軸の補正によって向上することができ、二重像の発生の低減に寄与するものである。入射角90°の遅相軸と入射角80°の遅相軸とのなす角の下限は、7°であることが好ましく、8°であることが更に好ましく、9°であることが特に好ましい。また、入射角90°の遅相軸と入射角80°の遅相軸とのなす角の上限としては、19°であることが好ましく、18°であることが更に好ましく、17°であることが特に好ましい。すなわち、入射角90°の遅相軸と入射角80°の遅相軸とのなす角は、8°以上17°以下であることが最も好ましい。
【0056】
さらに、本発明のHUDシステムは、表示画像投影手段から出射された光が光学機能フィルムに垂直に入射する入射角90°の遅相軸と、光学機能フィルムの表面に垂直な軸から水平方向に20°傾斜した位置から表示画像投影手段から出射された光が入射する入射角70の遅相軸とのなす角、すなわち入射角90°に対する入射角70°遅相軸のずれの範囲が10°以上30°以下であることが好ましい。入射角90°の遅相軸と入射角70°の遅相軸とのなす角の下限は、14°であることが更に好ましく、16°であることが特に好ましい。また、入射角90°の遅相軸と入射角70°の遅相軸とのなす角の上限としては、28°であることが更に好ましく、24°であることが特に好ましい。すなわち、入射角90°の遅相軸と入射角70°の遅相軸とのなす角は、16°以上24°以下であることが最も好ましい。
【0057】
本発明に係るHUDシステムは、
図7に示されるように、機能性ガラス4に対するS偏光またはP偏光のブリュースター角をαとしたとき、表示画像投影手段2から出射された光が表示媒体として機能性ガラス4に入射する入射角8が、α-10°~α+10°の範囲であることが好ましく、α-5°~α+5°の範囲であることがより好ましい。なお、
図7に示されるように、入射角8は、表示媒体(機能性ガラス4)の表面に垂直な軸と、表示媒体の表面に入射する光とがなす角度を意味する(以下、この入射角を「入射角X」ともいう)。
【0058】
本発明のHUDシステムの一実施態様において、光学機能フィルムとして1/2波長板を用い、表示媒体が機能性ガラス4であり、かつ表示画像投影手段2から出射される表示光がS偏光である場合、表示画像投影手段2から出射されたS偏光を、反射鏡3を介してα-10°~α+10°の範囲、すなわち、機能性ガラス4の表面に垂直な軸に対してブリュースター角近傍、好ましくはブリュースター角αの入射角8で入射させることにより、機能性ガラス4によって変換されたP偏光の、車外側のガラス板による反射を抑え、二重像の発生を抑止することができる。すなわち、S偏光の入射角8がα-10°未満、またはα+10°より大きい場合、S偏光の入射角8は、ブリュースター角近傍からずれてしまうため、1/2波長板によって変換されたP偏光の反射が増加し、二重像が発生してしまう場合がある。
【0059】
また、本発明のHUDシステムの他の実施態様において、光学機能フィルムとして、1枚または2枚以上の円偏光反射層(コレステリック液晶層)が2枚の1/4波長板で挟持された積層体を用い、表示媒体が機能性ガラス4であり、かつ表示画像投影手段2から出射された表示光がP偏光である場合でも同様である。一般に路面からの反射光はS偏光であるため、偏光サングラスは、S偏光を吸収できるように設計されている。そのため、S偏光を利用した従来のHUDシステムでは、偏光サングラスを介したHUDの表示画像の視認性が極端に低下してしまう。一方、観察者にP偏光が到達する、P偏光を利用したHUDシステムであれば、二重像の発生を抑制できるとともに、偏光サングラス着用時においても、表示画像の視認性を高めることができる。また、円偏光反射層がコレステリック液晶層である場合、円偏光反射層を透過する円偏光は、第1の1/4波長板の遅相軸と直交する位置関係で遅相軸が設置された第2の1/4波長板により、元のP偏光に変換される。変換されたP偏光は、第2の1/4波長板の外側の車外側のガラス面に対しても同様にブリュースター角近傍で入射する。そのため、第2の1/4波長板の外側の車外側のガラス面でのP偏光の反射も大幅に低減でき、その結果、二重像の発生が大幅に改善される。
【0060】
本発明のヘッドアップディスプレイシステムにおいて、例えば1/2波長板を備える光学機能フィルムを含む機能性ガラスが設けられる場合、偏光変換(例えばP偏光をS偏光に、またはS偏光をP偏光に変換)を効率的にするために、機能性ガラスの表面に垂直な軸から45°以上65°以下に傾斜した位置から入射するS偏光の偏光軸またはP偏光の偏光軸と、光学機能フィルムの遅相軸とのなす角度θを、35°以上47°以下に制御することが好ましい。機能性ガラスに入射するS偏光またはP偏光の入射角を45°以上65°以下の範囲にすることにより、P偏光が機能性ガラスに入射した場合には、機能性ガラスの表面での反射率を理論的に2%以下に抑制することができる。透過したP偏光は1/2波長板によりS偏光に変換し、変換されたS偏光は入射側と反対側の機能性ガラスの空気との界面で反射する。反射したS偏光が1/2波長板により再びP偏光に変換され、このP偏光が観察者に到達する。また、S偏光が機能性ガラスに入射した場合には、S偏光は機能性ガラスの表面で反射し、このS偏光が観察者に到達する。透過した一部のS偏光は1/2波長板によりP偏光に変換し、変換されたP偏光は入射側と反対側の機能性ガラスもしくは機能性ガラスと空気との界面で反射されず、通過する。このように、機能性ガラスに入射するS偏光またはP偏光の入射角Xを制御することにより、二重像の発生を抑制することができる。また、角度θが35°未満または47°よりも大きい場合、機能性ガラスに入射したP偏光をS偏光に、またはS偏光をP偏光に変換する偏光軸変換性能が低く、その結果、二重像が発生してしまうおそれがある。この角度θを適切に制御することにより、1/2波長板は良好な偏光軸変換性能を示し、その結果、表示画像はより鮮明に視認できるようになる。
【0061】
光学機能フィルムが1/2波長板を備える場合、偏光軸変換性能を適切に制御するため、角度θは、下記式(2)および(3)から算出される値であることが好ましい。ここで、下記式(2)および(3)の技術的意義を説明する。機能性ガラスに入射するS偏光またはP偏光が、空気とは異なる屈折率を有する媒質である1/2波長板を通過する際、1/2波長板に入射した入射角Xが変化する。ここで、機能性ガラスに対するS偏光またはP偏光の入射角Xをα、1/2波長板に実際に入射する入射角X、すなわち1/2波長板の屈折角をβ、空気の屈折率をnα、1/2波長板の屈折率をnβとすると、スネルの法則にしたがい、sinα/sinβ=nβ/nαが成立し、この式をβが求まる方程式に簡略化すると、式(3)が導かれる。一方、機能性ガラスに入射するS偏光の偏光軸をx軸、P偏光の偏光軸をy軸、y軸と1/2波長板の遅相軸とのなす角をθとしたときの位相差値がReである場合、ベクトル的解析により、y軸はRe・cosθ、x軸はRe・sinθで表される。ここで、1/2波長板の偏光軸変換性能は、1/2波長板の遅相軸に対して45°で光が入射されるときに最大となることが知られているため、理論上、S偏光の偏光軸またはP偏光の偏光軸と、光学機能フィルムの遅相軸とのなす角度θは、45°であることが望ましい。しかしながら、上述のように、機能性ガラスに入射するS偏光の偏光軸またはP偏光の偏光軸と、光学機能フィルムの遅相軸とのなす角度をθとしても、実際には、1/2偏光板に入射する角度はβである。そこで、Re・cosθのy軸(理論上のy軸)について、x軸を中心に角度β傾斜した際のy軸(事実上のy軸)を求めると、Re・cosθ/事実上のy軸=sin(90°-β)が成立し、事実上のy軸は、Re・cosθcosβで表される。上述したように、1/2波長板の遅相軸とS偏光の偏光軸またはP偏光の偏光軸のなす角度は、45°であることが望ましい。機能性ガラスに入射するS偏光またはP偏光の偏光軸と、1/2波長板の遅相軸とのなす角度を45°にするためには、x軸(Re・sinθ)と、事実上のy軸(Re・cosθcosβ)を等しくする必要があるため、Re・sinθ=Re・cosθcosβが求まり。この式を簡略化することにより、式(2)が導かれる。このように、下記式(2)および(3)から算出された値に基づき、角度θを実際に1/2偏光板に入射する角度βとの関係で厳密に制御することにより、1/2波長板が示す偏光軸変換性能を最大限に活かすことができる。
【0062】
【0063】
角度θの範囲は、当該角度θの値の±5°の範囲に制御されていることが好ましく、±3°の範囲に制御されていることがより好ましい。角度θが上記式(2)および(3)から算出される値を満たす角度の±5°の範囲外であると、1/2波長板が示す偏光変換効率が低くなる。角度θの範囲を、上記式(2)および(3)から算出された値に基づき制御することにより、1/2波長板による偏光変換効率の低下を抑制することができる。
【0064】
式(3)に代入される1/2波長板の屈折率は、1/2波長板の遅相軸方向の屈折率をnx、1/2波長板の面内でnxと直交する方向の屈折率をny、1/2波長板の厚さ方向の屈折率をnzとし、これらの和を平均化した値を平均屈折率として用いる。また、市販品の1/2波長板を使用する場合、平均屈折率はカタログ等に載せられた値を使用することもできる。また、1/2波長板の材料として後述する重合性液晶を用いた場合、液晶本来の常光屈折率noと異常光屈折率neを用いると、平均屈折率は(nx+ny+nz)/3=(no+no+ne)/3で表される。式(2)および(3)から算出されるθの具体例を示すと、例えば、空気の屈折率を1.00とし、屈折率1.55の1/2波長板を用い、S偏光またはP偏光の入射角Xが45°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は42°であるため、θの範囲は好ましくは37°以上47°以下であり、より好ましくは39°以上45°以下である。S偏光またはP偏光の入射角Xが50°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は41°であるため、θの範囲は好ましくは36°以上46°以下であり、より好ましくは38°以上44°以下である。また、S偏光またはP偏光の入射角Xが56°または60°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は40°であるため、θの範囲は好ましくは35°以上45°以下であり、より好ましくは37°以上43°以下である。さらに、S偏光またはP偏光の入射角Xが65°である場合、式(2)および(3)に基づき、θの値は39°であるため、θの範囲は好ましくは34°以上44°以下であり、より好ましくは36°以上42°以下である。
【0065】
上述のように、本発明では、光学機能フィルムに入射するS偏光またはP偏光の偏光軸と、1/2波長板の遅相軸とのなす角θを制御することにより、1/2波長板が示す偏光軸変換性能をより高めることができる。そのような場合、1/2波長板の遅相軸の制御性および生産コスト的な観点から、偏光軸を変換させる作用を有する層として重合性液晶層を含む1/2波長板を使用することが特に好ましい。なお、上述のような1/2波長板の波長分散性はヘッドアップディスプレイ用途に適するものであれば特に制限はないが可視光領域の広い波長範囲で正確に偏光変換させるためには逆波長分散性を有することが望ましい。一般に、高分子は複屈折の絶対値が短波長側で大きくなる正常分散をとるが、可視光の各波長の複屈折Δnの値を制御することによって長波長側で複屈折が大きくなるような液晶化合物であれば逆波長分散性が得られる。また、化合物の波長分散特性に応じた適切な位相差値の複数の位相差板の適切な遅相軸の組合せでの積層によっても逆波長分散性が得られる。このような複数の位相差板の組合せの積層による1/2波長板を使用した場合にも、それぞれの位相差板の遅相軸角について上述のように光学機能フィルムに入射するS偏光またはP偏光の偏光軸と、1/2波長板の遅相軸とのなす角θを適切に制御することにより1/2波長板が良好な偏光軸変換性能を示し、その結果、表示画像はさらに鮮明に視認できるようになる。
【実施例0066】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。実施例において「部」は質量部を意味する。尚、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、特に言及がない限り、室温とは20℃±5℃の範囲内であるとする。
【0067】
<1/4波長板を用いた場合の試験例>
[塗布液(コレステリック液晶組成物)の調製]
表1に示す組成を有する塗布液(R1)を調製した。
【0068】
【0069】
次に、塗布液(R1)のカイラル剤の処方量を表2に示す処方量に変更する点以外は同様の処方にて塗布液(R2)、(R3)および(R4)をそれぞれ調整した。
【0070】
【0071】
また、1/4波長板の作製に使用する表3に示す組成を有する塗布液(QWP)を調整した。
【表3】
【0072】
[実施例1]
<光学機能フィルムの作製>
調製した塗布液(R1)、(R2)、(R3)および(R4)を用い、下記の手順にてそれぞれ光反射層PRL-1、光反射層PRL-2、光反射層PRL-3および光反射層PRL-4を作製し、次いでそれらを積層して円偏光反射層を作製した。次いで、得られた円偏光反射層の両面に1/4波長板をさらに積層し、光制御積層体を作製した。支持基板としてのプラスチック基板は、特開2002-90743号公報の実施例1に記載された方法で下塗り層無し面が予めラビング処理された東洋紡績社製PETフィルム(商品名A4100、厚さ50μm)を使用した。
【0073】
(1)表1、2に示される塗布液(R1)、(R2)、(R3)および(R4)の各塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後にそれぞれ得られる各光反射層の厚みが0.5μmになるように、各PETフィルムのラビング処理面上に室温にて塗布した。
(2)得られた各塗膜を、80℃にて2分間加熱して溶剤を除去するとともに、コレステリック液晶相とした。次いで、高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製)を120W出力、5~10秒間UV照射し、コレステリック液晶相を固定して、各PETフィルム上に塗布液(R1)、(R2)、(R3)および(R4)に基づくコレステリック液晶層、すなわち光反射層PRL-1、光反射層PRL-2、光反射層PRL-3および光反射層PRL-4をそれぞれ形成した。
(3)表3に示される塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後にそれぞれ得られる1/4波長板の厚みが1μmになるように、各PETフィルムのラビング処理面上に室温にて塗布した。次いで、各PETフィルムの表面を巾手方向に20cm毎に左からP、Q、Rの3つの領域に分けて、それぞれの領域ごとに表4のようにPETフィルムの長手方向の軸(縦軸)と1/4波長板の遅相軸とのなす角度が所定の角度となるようにラビング角度を設定し、ラビング処理を実施した。なお、長手方向とは、例えば、
図2における縦方向(短辺)であり、巾手方向とは横方向(長辺)である。以下、同様に定義する。
【0074】
【0075】
(4)得られた各塗膜を、80℃にて2分間加熱して溶剤を除去するとともに、液晶相とした。次いで、高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製)を120W出力、5~10秒間UV照射し、液晶相を固定して、PETフィルム上に重合性液晶層が形成された所定の遅相軸帯を有する1/4波長板を合計14枚作製した。1/4波長板は、領域P、QおよびRを全て含む巾手方向60cm、長手方向50cmのサイズにカットした。巾手方向には20cmごとに左から領域P、QおよびRの遅相軸帯が同一面内にそれぞれ形成されている(表4に示される範囲と一致)。なお、得られた1/4波長板の各領域の位相差値を自動複屈折計(王子計測社製「KOBRA-21ADH」)で測定した結果、いずれも546nmにおける位相差値が136nmであった。
(5)(1)~(2)にて作製した、PETフィルム上の光反射層PRL-1(塗布液(R1)使用)と光反射層PRL-2(塗布液(R2)使用)の各光反射層側同士を、アクリル系粘着剤(綜研化学社製、アクリル粘着剤SKダイン906)を用いて積層した。
(6)光反射層PRL-2のPETフィルムを剥離した。
(7)(1)~(2)にて作製したPETフィルム上の光反射層PRL-3(塗布液(R3)使用)の光反射層側と、(6)における光反射層PRL-2のうちPETフィルムを剥離させた光反射層側同士を、(5)で用いた粘着剤と同じアクリル系粘着剤を用いて積層した。
(8)(7)と同様の方法で、光反射層PRL-4(塗布液(R4)使用)の光反射層側を、光反射層PRL-3に積層した。
(9)光反射層PRL-1の外側と、PRL-4の外側にあるPETフィルムをそれぞれ剥離し、4つのコレステリック液晶層を含む円偏光反射層を作製した。
(10)(3)~(4)にて作製したPETフィルム上の重合性液晶層として、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表4におけるX-4およびY-4を示す1/4波長板をそれぞれ用いて、作製した円偏光反射層の両面に(5)で用いた粘着剤と同じアクリル系粘着剤を介して、重合性液晶層側を円偏光反射層に向けて面内の巾手方向の領域が表4においてX-4のPとY-4のR、X-4のQとY-4のQ、X-4のRとY-4のPの組合せとなるように巾手方向を合わせて1/4波長板をそれぞれ積層した。次いで、下記の測定・評価を実施するため、各1/4波長板のPETフィルムを剥離した。
【0076】
こうして、光反射層PRL-1、光反射層PRL-2、光反射層PRL-3および光反射層PRL-4の順序で積層された円偏光反射層と、円偏光反射層の両面に積層された2枚の1/4波長板を有する光学機能フィルムを作製した。
図8は、単一の各光反射層PRL-1、PRL-2、PRL-3およびPRL-4を形成したときに各光反射層の波長と反射率の関係をプロットした図である。光反射層PRL-1、PRL-2、PRL-3およびPRL-4の中心反射波長は、
図8および表5に示されるように、それぞれ450nm(半値幅は123nm)、540nm(半値幅は131nm)、650nm(半値幅は148nm)および800nm(半値幅は178nm)であり、かつ光反射層PRL-1、PRL2、PRL-3およびPRL-4の中心反射波長における反射率は、それぞれ約20%、約21%、約22%および約20%であった。
【0077】
【0078】
得られた各光反射層の正面方向(入射角0°)における可視光の平均透過率は約77%であり、550nm付近における反射率は約22%であった。また、得られた各光反射層を正面から50°傾けた位置から見ても、赤色領域の透過率の変化はなく、正面方向と同様の色味であった。また、各光反射層を50°傾斜させた際の位相差値を自動複屈折計(王子計測社製「KOBRA-21ADH」)で測定した結果、546nmにおける位相差値が55nmであった。
【0079】
<光学積層体の作製>
厚さが0.38mmの透明で、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエートを含有したポリビニルブチラール中間膜を、作製した光学機能フィルムと同じサイズに切り出し、上記光学機能フィルムを2枚のポリビニルブチラール中間膜の間に配置し、次いで、ラミネーターにて加圧圧着することにより、光学積層体を作製した。
【0080】
<機能性ガラスの作製>
作製した光学積層体と同じサイズで厚さが2mmのガラス板2枚の間に、上記光学積層体を配置し、次いで、加圧・加熱することにより、機能性ガラスを得た。まず、透明なガラス板上に、上記光学積層体、透明なガラス板の順で重ねた。これをゴムバッグで包み、90℃に加熱したオートクレーブ中で10分間脱気し、予備接着した。これを室温まで冷却後、ゴムバッグから取り出し、再度、オートクレーブ中で135℃、12kg/cm2の高圧下で30分間加熱・加圧し、外観が良好な光学積層体が挿入された機能性ガラスを作製した。得られた機能性ガラスの可視光透過率は72%であった。
【0081】
<ヘッドアップディスプレイの作製および表示画像の評価>
図5に示すような配置でヘッドアップディスプレイを作製した。なお、表示画像投影手段2、反射鏡3としては、機能性ガラス4に対してP偏光を出射可能にする液晶表示パネルを設置し、機能性ガラス4として上記で作製した機能性ガラスを用いた。暗室内にて、表示画像投影手段2から出射されるP偏光が、P偏光の入射角Xが機能性ガラス4に対してブリュースター角(約56°)で入射するように機能性ガラス4の構成のうちの光学機能フィルムの巾手方向を調整した。表4のY-4を含む1/4波長板側のガラスを表示画像投影手段からのP偏光が入射する側に設置し、画像を投影したところ、表示画像が明るく鮮明に投影された。
【0082】
<二重像輝度比の評価:1/4波長板の偏光変換性能の評価>
図7に示す配置で画像投影装置(表示画像投影手段2)からの線画像をP偏光で出射する条件で機能性ガラス4に投影し、反射像をコニカミノルタ社製色彩輝度計(Prometric IC-PMI)で撮影し、表示画像を評価した。巾60cmのうちの左から5cmの位置I(X-4のPとY-4のRの組合せ領域)、左から30cmの位置II(X-4のQとY-4のQの組合せ領域)、左から43cmの位置III(X-4のRとY-4のPの組合せ領域)の3点について、位置Iの評価画像は位置Iを起点にガラス面から垂直に142cm離れた点Xから撮影した。位置IIの評価画像は点Xから位置Iへの垂線から右に10°輝度計を傾斜した位置から撮影した。位置IIIの評価画像は点Xから位置Iへの垂線から右に15°輝度計を傾斜した位置から撮影した。各位置の撮影画像解析により、機能性ガラスの構成のうち光学機能フィルム面での線画像の反射輝度(主像)を画像投影装置に対して裏側のガラスの空気界面での線画像の反射輝度(二重像)で割った数値に100を乗じることで二重像輝度比を算出した。結果を表6に示す。なお、表6に示される二重像輝度比が低い方が、機能性ガラスに投影された画像が二重で視認されにくく、画像の視認性が良いと判断できる。
【0083】
[実施例2]
上記(3)~(4)にて作製したPETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表4におけるX-5およびY-5を示す1/4波長板をそれぞれ円偏光反射層の両面に積層した以外は実施例1と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表6に示す。
【0084】
[実施例3]
上記(3)~(4)にて作製したPETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表4におけるX-6およびY-6を示す1/4波長板をそれぞれ円偏光反射層の両面に積層した以外は実施例1と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表6に示す。
【0085】
[実施例4]
上記(3)~(4)にて作製したPETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表4におけるX-3およびY-3を示す1/4波長板をそれぞれ円偏光反射層の両面に積層した以外は実施例1と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表6に示す。
【0086】
[比較例1]
上記(3)~(4)にて作製したPETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表4におけるX-1およびY-1を示す1/4波長板をそれぞれ円偏光反射層の両面に積層した以外は実施例1と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表6に示す。
【0087】
[比較例2]
上記(3)~(4)にて作製したPETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表4におけるX-2およびY-2を示す1/4波長板をそれぞれ円偏光反射層の両面に積層した以外は実施例1と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表6に示す。
【0088】
[比較例3]
上記(3)~(4)にて作製したPETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表4におけるX-7およびY-7を示す1/4波長板をそれぞれ円偏光反射層の両面に積層した以外は実施例1と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表6に示す。
【0089】
【0090】
実施例1~4と比較例1~3の結果より、同一面内に遅相軸角の異なる2以上の遅相軸帯を有していない比較例1、および、同一面内に遅相軸角の異なる2以上の遅相軸帯を有していても、最大の遅相軸角の差が5°より大きく、30°未満の範囲外である比較例2~3では、投影位置によって、入射されたP偏光が光学機能フィルムを透過した際に、S偏光成分が多くなることにより入射面とは反対側のガラス板界面でS偏光が反射する。そのため、二重像輝度比が高くなり、機能性ガラスに投影された画像が二重で視認されやすくなる。その結果、二重像の発生のムラが大きく、広範囲での画像の視認性が低下した。
【0091】
<1/2波長板を用いた場合の試験例1>
<実施例5>
上記(3)において、表3に示される塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後にそれぞれ得られる1/2波長板の厚みが約2μmになるように、各PETフィルムのラビング処理面上に室温にて塗布した。各PETフィルムの表面を巾手方向に20cm毎に左からP、Q、Rの3つの領域に分けてそれぞれの領域ごとに表7のようにPETフィルムの長手方向の軸(縦軸)と1/2波長板の遅相軸とのなす角度が所定の角度となるようにラビング角度を設定し、ラビング処理を実施した。
【0092】
【0093】
得られた各塗膜を、80℃にて2分間加熱して溶剤を除去するとともに、液晶相とした。次いで、高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製)を120W出力、5~10秒間UV照射し、液晶相を固定して、PETフィルム上に重合性液晶層が形成された所定の遅相軸帯を有する1/2波長板をXグループ、Yグループの2種類で各7枚、合計14枚作製した。1/2波長板は、領域P、QおよびRを全て含む巾手方向60cm、長手方向50cmのサイズにカットした。巾手方向には20cmごとに左からP、QおよびRの遅相軸帯が同一面内にそれぞれ形成されている(表7に示される範囲と一致)。なお、得られた1/2波長板の各領域の位相差値を自動複屈折計(王子計測社製「KOBRA-21ADH」)で測定した結果、546nmにおける位相差値がXグループの7枚については290nm、Yグループの7枚については250nmであった。
【0094】
作製したPETフィルム上の重合性液晶層として、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表4におけるX-4およびY-4を示す1/2波長板をそれぞれ用いて、上記(5)で用いた粘着剤と同じアクリル系粘着剤を用いて重合性液晶層側同士を面内の巾手方向の領域がX-4のPとY-4のR、X-4のQとY-4のQ、X-4のRとY-4のPの組合せとなるように巾手方向を合わせて1/2波長板をそれぞれ積層した。次いで、下記の測定・評価を実施するため、各1/2波長板のPETフィルムを剥離した。
【0095】
こうして、2枚の1/2波長板が積層された光学機能フィルムを作製した。得られた2層の1/2波長板の自然光透過率、偏光透過率の分光特性を測定し、その結果を
図9に示す。また、2層の1/2波長板において、正面方向(入射角56°)における可視光波長領域の平均透過率は約79%であり、偏光透過率は約10%であった。なお。偏光透過率は、島津製作所製「紫外・可視・近赤外分光光度計UV-3600」を用いて偏光板をパラレルにした間に2層の1/2波長板を入射角56°となるようにセットして測定した。
【0096】
<光学積層体の作製>
厚さが0.38mmの透明で、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエートを含有したポリビニルブチラール中間膜を作製した2層の1/2波長板と同じサイズに切り出し、上記2層の1/2波長板を2枚のポリビニルブチラール中間膜の間に配置し、次いで、ラミネーターにて加圧圧着することにより、光学積層体を作製した。
【0097】
<機能性ガラスの作製>
作製した2層の1/2波長板と同じサイズで厚さが2mmのガラス板2枚の間に、上記光学積層体を配置し、次いで、加圧・加熱することにより、機能性ガラスを得た。まず、透明なガラス板上に、上記光学積層体、透明なガラス板の順で重ねた。これをゴムバッグで包み、90℃に加熱したオートクレーブ中で10分間脱気し、予備接着した。これを室温まで冷却後、ゴムバッグから取り出し、再度、オートクレーブ中で135℃、12kg/cm2の高圧下で30分間加熱・加圧し、外観が良好な光学積層体が挿入された機能性ガラスを作製した。得られた機能性ガラスの正面方向(入射角56°)における可視光波長領域の平均透過率は約72%であり、偏光透過率は約6%であった。
【0098】
<ヘッドアップディスプレイの作製および表示画像の評価>
図5に示すような配置でヘッドアップディスプレイを作製した。なお、表示画像投影手段2、反射鏡3としては、機能性ガラス4に対してS偏光を出射可能にする液晶表示パネルを設置し、機能性ガラス4として上記で作製した機能性ガラスを用いた。暗室内にて、表示画像投影手段2から出射されるS偏光が、S偏光の入射角Xが機能性ガラス4に対しブリュースター角(約56°)で入射するように機能性ガラス4の構成のうちの光学機能フィルムの巾手方向を調整した。表7のYグループを含む1/2波長板側のガラスを表示画像投影手段からS偏光を出射する側に設置し、画像を投影したところ、表示画像が明るく鮮明に投影された。
【0099】
<二重像輝度比の評価:1/2波長板の偏光変換性能の評価>
図7に示す配置で画像投影装置(表示画像投影手段2)からの線画像をS偏光で出射する条件で機能性ガラス4に投影し、反射像をコニカミノルタ社製色彩輝度計(Prometric IC-PMI)で撮影し、表示画像を評価した。巾60cmのうちの左から5cmの位置I(X-4のPとY-4のRの組合せ領域)、左から30cmの位置II(X-4のQとY-4のQの組合せ領域)、左から43cmの位置III(X-4のRとY-4のPの組合せ範領域)の3点について、位置Iの評価画像は位置Iを起点にガラス面から垂直に142cm離れた点Xから撮影した。位置IIの評価画像は点Xから位置Iへの垂線から右に10°輝度計を傾斜した位置から撮影した。位置IIIの評価画像は点Xから位置Iへの垂線から右に15°輝度計を傾斜した位置から撮影した。各位置の撮影画像解析により、機能性ガラスの構成のうち画像投影装置側のガラスの空気界面での線画像の反射輝度(主像)を画像投影装置に対して裏側のガラスの空気界面での線画像の反射輝度(二重像)で割って100を乗じることで二重像輝度比を算出した。結果を表8に示す。なお、表8に示される二重像輝度比が低い方が、機能性ガラスに投影された画像が二重で視認されにくく、画像の視認性が良いと判断できる。
【0100】
[実施例6]
PETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表7におけるX-5およびY-5を示す1/2波長板をそれぞれ積層した以外は実施例5と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表8に示す。
【0101】
[実施例7]
PETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表7におけるX-6およびY-6を示す1/2波長板をそれぞれ積層した以外は実施例5と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表8に示す。
【0102】
[実施例8]
PETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表7におけるX-3およびY-3を示す1/2波長板をそれぞれ積層した以外は実施例5と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表8に示す。
【0103】
[比較例4]
PETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表7におけるX-1およびY-1を示す1/2波長板をそれぞれ積層した以外は実施例5と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表8に示す。
【0104】
[比較例5]
PETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表7におけるX-2およびY-2を示す1/2波長板をそれぞれ積層した以外は実施例5と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表8に示す。
【0105】
[比較例6]
PETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表7におけるX-7およびY-7を示す1/2波長板をそれぞれ積層した以外は実施例5と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表8に示す。
【0106】
【0107】
実施例5~8と比較例4~6の結果より、同一面内に遅相軸角の異なる2以上の遅相軸帯を有していない比較例4、および、同一面内に遅相軸角の異なる2以上の遅相軸帯を有していても、最大の遅相軸角の差が5°より大きく、30°未満の範囲外である比較例5~6では、投影位置によって、入射されたS偏光が光学機能フィルムを透過した際に、P偏光に変換されずにS偏光成分が多く残ることにより入射面とは反対側のガラス板の空気界面でS偏光が反射する。そのため、二重像輝度比が高くなり、機能性ガラスに投影された画像が二重で視認されやすくなる。その結果、二重像の発生のムラが大きく、広範囲での画像の視認性が低下した。
【0108】
<1/2波長板を用いた場合の試験例2>
<実施例9>
上記(3)において、表3に示される塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後にそれぞれ得られる1/2波長板の厚みが約2μmになるように、各PETフィルムのラビング処理面上に室温にて塗布した。各PETフィルムの表面を巾手方向に20cm毎に左からP、Q、Rの3つの領域に分けてそれぞれの領域ごとに表9のようにPETフィルムの長手方向の軸(縦軸)と1/2波長板の遅相軸とのなす角度が所定の角度となるようにラビング角度を設定し、ラビング処理を実施した。
【0109】
【0110】
得られた各塗膜を、80℃にて2分間加熱して溶剤を除去するとともに、液晶相とした。次いで、高圧水銀ランプ(ハリソン東芝ライティング社製)を120W出力、5~10秒間UV照射し、液晶相を固定して、PETフィルム上に重合性液晶層が形成された所定の遅相軸帯を有する1/2波長板を7枚作製した。1/2波長板は、領域P、Q、Rを全て含む巾手方向60cm、長手方向50cmのサイズにカットした。巾手方向には20cmごとに左からP、QおよびRの遅相軸帯が同一面内にそれぞれ形成されている(表9に示される範囲と一致)。なお、得られた1/2波長板の各領域の位相差値を自動複屈折計(王子計測社製「KOBRA-21ADH」)で測定した結果、546nmにおける位相差値が275nmであった。
【0111】
作製したPETフィルム上の重合性液晶層として、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表9におけるX-4を示す1/2波長板を用いて、上記(5)で用いた粘着剤と同じアクリル系粘着剤を重合性液晶層に塗布し、1/2波長板と同じサイズで厚さが2mmの平板ガラス板に貼り付けた。その後、下記の測定・評価を実施するため、1/2波長板からPETフィルムを剥離した。
【0112】
こうして、1枚の1/2波長板を含む光学機能フィルムを作製した。得られた1/2波長板の自然光透過率、偏光透過率の分光特性を測定し、その結果を
図10に示す。また、得られた1/2波長板において、正面方向(入射角56°)における可視光波長領域の平均透過率は約84%であり、偏光透過率は約18%であった。なお、偏光透過率は島津製作所製「紫外・可視・近赤外分光光度計UV-3600」を用いて偏光板をパラレルにした間に1/2波長板を入射角56°となるようにセットして測定した。
【0113】
<光学積層体の作製>
厚さが0.38mmの透明で、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエートを含有したポリビニルブチラール中間膜を、作製した1/2波長板と同じサイズに切り出し、上記の1/2波長板の重合性液晶層側に1枚のポリビニルブチラール中間膜を配置し、次いで、ラミネーターにて加圧圧着することにより、光学積層体を得た。
【0114】
<機能性ガラスの作製>
作製した光学積層体のポリビニルブチラール中間膜側を1/2波長板と同じサイズで厚さが2mmのガラス板1枚の上に配置し、次いで、加圧・加熱することにより、機能性ガラスを得た。まず、透明なガラス板上に、上記光学積層体を重ねた。これをゴムバッグで包み、90℃に加熱したオートクレーブ中で10分間脱気し、予備接着した。これを室温まで冷却後、ゴムバッグから取り出し、再度、オートクレーブ中で135℃、12kg/cm2の高圧下で30分間加熱・加圧し、外観が良好な光学積層体が挿入された機能性ガラスを作製した。得られた機能性ガラスの正面方向(入射角56°)における可視光波長領域の平均透過率は約73%であり、偏光透過率は約14%であった。
【0115】
<ヘッドアップディスプレイの作製および表示画像の評価>
図5に示すような配置でヘッドアップディスプレイを作製した。なお、表示画像投影手段2、反射鏡3としては、機能性ガラス4に対してS偏光を出射可能にする液晶表示パネルを設置し、機能性ガラス4として上記で作製した機能性ガラスを用いた。暗室内にて、表示画像投影手段2からから出射されるS偏光が、S偏光の入射角Xが機能性ガラス4に対しブリュースター角(約56°)で入射するように機能性ガラス4の構成のうちの光学機能フィルムの巾手方向を調整した。表9のX-4を含む1/2波長板側のガラスを表示画像投影手段からS偏光を出射する側に設置し、画像を投影したところ、表示画像が明るく鮮明に投影された。
【0116】
<二重像輝度比の評価:1/2波長板の偏光変換性能の評価>
図7に示す配置で画像投影装置(表示画像投影手段2)からの線画像をS偏光で出射する条件で機能性ガラス4に投影し、反射像をコニカミノルタ社製色彩輝度計(Prometric IC-PMI)で撮影し、表示画像を評価した。巾60cmのうちの左から18cmの位置I(X-4のPの領域)、左から30.5cmの位置II(X-4のQの領域)、左から43cmの位置III(XのRの領域)の3点について、位置Iの評価画像は位置Iを起点にガラス面から垂直に142cm離れた点Xから撮影した。位置IIの評価画像は点Xから位置Iへの垂線から右に5°輝度計を傾斜した位置から撮影した。位置IIIの評価画像は点Xから位置Iへの垂線から右に10°輝度計を傾斜した位置から撮影した。各位置の撮影画像解析により、機能性ガラスの構成のうち画像投影装置側のガラスの空気界面での線画像の反射輝度(主像)を画像投影装置に対して裏側のガラスの空気界面での線画像の反射輝度(二重像)で割って100を乗ずることで二重像輝度比を算出した。結果を表10に示す。なお、表10に示される二重像輝度比が低い方が、機能性ガラスに投影された画像が二重で視認されにくく、画像の視認性が良いと判断できる。
【0117】
[実施例10]
PETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表9におけるX-5を示す1/2波長板を用いた以外は実施例9と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表10に示す。
【0118】
[実施例11]
PETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表9におけるX-6を示す1/2波長板を用いた以外は実施例9と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表10に示す。
【0119】
[実施例12]
PETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表9におけるX-3を示す1/2波長板を用いた以外は実施例9と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表10に示す。
【0120】
[比較例7]
PETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表9におけるX-1を示す1/2波長板を用いた以外は実施例9と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表10に示す。
【0121】
[比較例8]
PETフィルム上の重合性液晶層について、領域P、QおよびRにおける各遅相軸角が表9におけるX-2を示す1/2波長板を用いた以外は実施例9と同様に光学機能フィルム、光学積層体および機能性ガラスを作製した。また、得られた機能性ガラスを用いて、二重像輝度比を同様に評価した。結果を表10に示す。
【0122】
【0123】
実施例9~12と比較例7~8の結果より、同一面内に遅相軸角の異なる2以上の遅相軸帯を有していない比較例7、および、同一面内に遅相軸角の異なる2以上の遅相軸帯を有していても、最大の遅相軸角の差が5°より大きく、30°未満の範囲外である比較例8では、投影位置によって、入射されたS偏光が光学機能フィルムを透過した際に、P偏光に変換されずにS偏光成分が多く残ることにより入射面とは反対側のガラス板の空気界面でS偏光が反射する。そのため、二重像輝度比が高くなり、機能性ガラスに投影された画像が二重で視認されやすくなる。その結果、二重像の発生のムラが大きく、広範囲での画像の視認性が低下した。
【0124】
以上から、本発明に係るヘッドアップディスプレイ用光学機能フィルムを用いることで、任意の入射角で入射されるS偏光あるいはP偏光を、より効率的に元のS偏光あるいはP偏光に戻すことができる。そのため、広範囲に優れた偏光変換効率を示す光学機能フィルムが得られていることがわかる。また、本発明に係る光学機能フィルムを、HUDシステムに適用することで、極めて鮮明な表示画像を広範囲に視認することが可能である。
本発明の光学機能フィルムを備えるヘッドアップディスプレイシステムは、投影位置による二重像の発生のムラをなくす、すなわち、撮影位置に依存せずに二重像の発生を抑制することができる。そのため、視認者はストレスなくヘッドアップディスプレイシステムを利用することが可能である。