(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022008983
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】油脂吸着用ナノファイバー集積体
(51)【国際特許分類】
B01J 20/26 20060101AFI20220106BHJP
D04H 3/016 20120101ALI20220106BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20220106BHJP
E02B 15/10 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
B01J20/26 J
D04H3/016
D04H3/16
E02B15/10 B
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166194
(22)【出願日】2021-10-08
(62)【分割の表示】P 2020211216の分割
【原出願日】2018-06-28
(31)【優先権主張番号】62/527,761
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】516067601
【氏名又は名称】エム・テックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽田 浩義
(72)【発明者】
【氏名】池ヶ谷 守彦
(72)【発明者】
【氏名】卜部 賢一
(72)【発明者】
【氏名】越前谷 孝嗣
(72)【発明者】
【氏名】廣垣 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】呉 魏
(72)【発明者】
【氏名】石井 義哲
【テーマコード(参考)】
2D025
4G066
4L047
【Fターム(参考)】
2D025BA35
4G066AC13B
4G066AC23B
4G066BA03
4G066BA16
4G066BA20
4G066BA25
4G066BA38
4G066CA05
4G066DA08
4G066EA13
4G066FA27
4L047AA14
4L047AB03
4L047AB08
4L047BA08
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】油吸着率を確保するとともに吸着速度を効果的に高めた油脂吸着用ナノファイバー積層体を提供する。
【解決手段】油脂吸着用ナノファイバー集積体1は、平均繊維径dが1000nm以上でかつ2000nm以下であり、かさ密度ρbが0.01g/cm
3以上でかつ0.2g/cm
3以下であり、平均繊維径d及び空隙率ηから算出される繊維間距離e
1が3.4μm以上でかつ20.3μm以下である。油脂吸着用ナノファイバー集積体1は、油脂の吸着率を確保するとともに吸着速度を効果的に高めることができる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂吸着用ナノファイバー集積体であって、
前記油脂吸着用ナノファイバー集積体の平均繊維径をdとし、前記油脂吸着用ナノファイバー集積体のかさ密度をρbとしたとき、以下の式(i)および(ii)を満足すること、
(i)1000nm≦d≦2000nm
(ii)0.01g/cm
3≦ρb≦0.2g/cm
3
並びに
前記油脂吸着用ナノファイバー集積体の空隙率をηとしたとき、以下の式(5)によって算出される前記油脂吸着用ナノファイバー集積体における繊維間距離e
1が以下の式(vii)を満足すること、
【数1】
(vii)3.4μm≦e
1≦20.3μm
を特徴とする油脂吸着用ナノファイバー集積体。
【請求項2】
以下の式(i´)をさらに満足することを特徴とする請求項1に記載の油脂吸着用ナノファイバー集積体。
(i´)1300nm≦d≦1700nm
【請求項3】
以下の式(ii´)をさらに満足することを特徴とする請求項2に記載の油脂吸着用ナノファイバー集積体。
(ii´)0.01g/cm3≦ρb≦0.05g/cm3
【請求項4】
前記油脂吸着用ナノファイバー集積体を構成するナノファイバーの径の変動係数が0.6以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の油脂吸着用ナノファイバー集積体。
【請求項5】
前記油脂吸着用ナノファイバー集積体の厚さをtとしたとき、以下の式(iii)をさらに満足することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の油脂吸着用ナノファイバー集積体。
(iii)2mm≦t≦5mm
【請求項6】
ISO粘度グレード番号がISO VG 46であり且つ比重が850kg/m3である油脂を吸着する前の質量mに対する当該油脂を吸着した後の質量Mの比を示す油脂の吸着率M/mが以下の式(vi)を満足することを特徴とする請求項5に記載の油脂吸着用ナノファイバー集積体。
(vi)40≦M/m
【請求項7】
ISO粘度グレード番号がISO VG 46であり且つ比重が850kg/m3である油脂に前記油脂吸着用ナノファイバー集積体の下端を浸した時点から前記油脂吸着用ナノファイバー集積体によって吸い上げられた前記油脂の高さが15mmに到達するまでに要する時間が10分未満であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の油脂吸着用ナノファイバー集積体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂吸着に用いられるナノファイバー集積体に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂吸着材は、例えば、海面や湖面、池面、川面、貯水池面などの水面上の油類、床上、道路上などに散乱した油類の吸着除去に用いられる。また、油脂吸着材は、食堂やレストラン等の厨房から排出される汚染水からの油脂の吸着除去にも用いられる。
【0003】
従来の油脂吸着材が特許文献1に開示されている。この油脂吸着材は、繊維径が100nm~500nmのポリプロピレン繊維を積層したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
油脂吸着材の性能の指標として、自重に対する吸着可能な油脂量の比率(吸着率)がある。これ以外にも、指標として油脂の吸着速度がある。吸着速度が遅い油脂吸着材は、作業効率が悪く、実作業において使用できる場面が限られるため、より高い吸着速度を有する油脂吸着材が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、油脂の吸着率を確保するとともに吸着速度を効果的に高めた油脂吸着用ナノファイバー積層体、ならびに、油脂吸着用ナノファイバー集積体の油脂吸着率推定方法および油脂吸着後体積推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、油脂吸着に用いるナノファイバー集積体の平均繊維径およびかさ密度に着目し、これらパラメータと油吸着率および吸着速度との関係について鋭意検討した。その結果、油脂の吸着量および吸着速度を高いレベルで実現できる平均繊維径およびかさ密度を見出し、本発明に至った。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る油脂吸着用ナノファイバー集積体は、
油脂吸着用ナノファイバー集積体であって、
前記油脂吸着用ナノファイバー集積体の平均繊維径をdとし、前記油脂吸着用ナノファイバー集積体のかさ密度をρbとしたとき、以下の式(i)および(ii)を満足することを特徴とする。
(i) 1000nm≦d≦2000nm
(ii) 0.01g/cm3≦ρb≦0.2g/cm3
【0009】
本発明において、以下の式(i´)をさらに満足することが好ましい。
(i´) 1300nm≦d≦1700nm
【0010】
本発明において、以下の式(ii´)をさらに満足することが好ましい。
(ii´) 0.01g/cm3≦ρb≦0.05g/cm3
【0011】
本発明において、前記油脂吸着用ナノファイバー集積体の厚さをtとしたとき、以下の式(iii)をさらに満足することが好ましい。
(iii) 2mm≦t≦5mm
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の他の一態様に係る油脂吸着用ナノファイバー集積体における油脂吸着前の質量mに対する油脂吸着後の質量Mの比を示す油脂の吸着率M/mを推定する油脂吸着率推定方法であって、前記油脂吸着用ナノファイバー集積体の空隙率ηと、前記油脂吸着用ナノファイバーを構成する繊維の密度ρと、油脂の密度ρ
oとを用いて、以下の式(iv)により油脂の吸着率M/mを推定することを特徴とする。
【数1】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の他の一態様に係る油脂吸着用ナノファイバー集積体における油脂吸着後の体積Vを推定する油脂吸着後体積推定方法であって、前記油脂吸着用ナノファイバー集積体の空隙率ηと、前記油脂吸着用ナノファイバーを構成する繊維の密度ρと、油脂の密度ρoとを用いて、以下の式(iv)により油脂吸着用ナノファイバー集積体における油脂吸着前の質量mに対する油脂吸着後の質量Mの比を示す油脂の吸着率M/mを推定し、前記油脂の吸着率M/mと、油脂吸着用ナノファイバー集積体における油脂吸着前の質量mと、前記油脂吸着用ナノファイバーを構成する繊維の密度ρと、油脂の密度ρoとを用いて、以下の式(v)により油脂吸着後の体積Vを推定することを特徴とする。
【0014】
【0015】
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、油脂の吸着率を確保するとともに吸着速度を効果的に高めることができる。
【0017】
また、本発明によれば、油脂吸着前に取得可能なパラメータ(空隙率、繊維の密度、および、油脂の密度)を用いて、油脂の吸着率を予測(推定)することができる。
【0018】
また、本発明によれば、油脂吸着前に取得可能なパラメータ(空隙率、繊維の密度、油脂の密度、油脂吸着前の質量)を用いて、油脂吸着後の体積を予測(推定)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る油脂吸着用ナノファイバー集積体を説明する図である。
【
図2】
図1の油脂吸着用ナノファイバー集積体の作製に用いる製造装置の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図2の製造装置の一部断面を含む側面図である。
【
図4】
図2の製造装置によるナノファイバーが堆積される捕集網の正面図である。
【
図5】繊維集積体の構造のモデルを説明する図である。
【
図7】繊維集積体における空隙率と繊維間距離との関係を示すグラフである。
【
図8】繊維集積体が油脂を吸い上げる様子を模式的に示す図である。
【
図9】繊維集積体における平均繊維系と吸着率との関係を示すグラフである。
【
図10】繊維集積体における試験片の厚さと吸着率との関係を示すグラフである。
【
図11】繊維集積体における平均繊維系と係数拡大率および体積膨張率との関係を示すグラフである。
【
図12】繊維集積体におけるかさ密度と吸着率との関係を示すグラフである。
【
図13】繊維集積体における吸い上げ時間と吸い上げ高さとの関係を示すグラフである。
【
図14】繊維集積体における体積膨張率と吸着率との関係を示すグラフである。
【
図15】繊維集積体における空隙率と吸着率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係る油脂吸着用ナノファイバー集積体について説明する。
【0021】
(油脂吸着用ナノファイバー集積体の構成)
まず、本実施形態の油脂吸着用ナノファイバー集積体の構成について説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る油脂吸着用ナノファイバー集積体を説明する図である。具体的には、
図1(a)は、油脂吸着用ナノファイバー集積体の一例を撮影した正面写真である。
図1(b)は未成形のナノファイバー集積体の一例を撮影した写真である。
図1(c)は油脂吸着用ナノファイバー集積体の一例を電子顕微鏡で拡大して撮影した写真である。
【0023】
本実施形態の油脂吸着用ナノファイバー集積体1は、食堂やレストラン等の厨房から排出される汚染水から油脂を吸着除去する油脂吸着装置に用いられる。このような装置は、一般的にグリーストラップと称される。レストラン、ホテル、食堂、給食センターなど業務用厨房から排出される汚染水は、グリーストラップで浄化してから排出することが義務付けられている。また、油脂吸着用ナノファイバー集積体1は、海面上や湖面、池面、川面、貯水池面などの水面上の油類、床上、道路上などに散乱した油類の吸着にも有用である。
【0024】
油脂吸着用ナノファイバー集積体1は、繊維径がナノメートルオーダーとなる微細繊維、いわゆるナノファイバーを集積して構成されている。油脂吸着用ナノファイバー集積体1は、平均繊維径が1000nm~2000nmであり、平均繊維径が1500nmのものが特に好ましい。油脂吸着用ナノファイバー集積体1は、例えば、
図1(a)に示すように正方形のマット状に成形される。油脂吸着用ナノファイバー集積体1は、正方形以外にも、円形や六角形など使用態様等に応じた形状に成形されてもよい。
図1(b)に平均繊維径が1500nmのナノファイバーの未成形の集積体を示す。
図1(c)に、平均繊維径が1500nmのナノファイバー集積体を電子顕微鏡で拡大した様子を示す。
【0025】
本実施形態において、油脂吸着用ナノファイバー集積体1を構成するナノファイバーは合成樹脂からなる。合成樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)やポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。これら以外の材料でもよい。
【0026】
特に、ポリプロピレンは、撥水性と油吸着性を有している。ポリプロピレン繊維の集積体は自重の数十倍の油脂を吸着する性能を有している。そのため、ポリプロピレンは、油脂吸着用ナノファイバー集積体1の材料として好ましい。ポリプロピレンの密度(材料密度)は、原材料メーカーによって開示されている数値に0.85~0.95程度の幅がある。また、ポリプロピレンの油脂に対する接触角は29度~35度である。本明細書では、ポリプロピレンの密度として0.895g/cm3を用いている。
【0027】
油脂吸着用ナノファイバー集積体1は、平均繊維径をdとし、かさ密度をρbとしたとき、以下の式(i)および(ii)を満足する。
(i) 1000nm≦d≦2000nm
(ii) 0.01g/cm3≦ρb≦0.2g/cm3
【0028】
油脂吸着用ナノファイバー集積体1は、以下の式(i´)および(ii´)を満足することがより好ましい。
(i´) 1300nm≦d≦1700nm
(ii´) 0.01g/cm3≦ρb≦0.05g/cm3
【0029】
平均繊維径は、次のようにして求める。油脂吸着用ナノファイバー集積体1において複数箇所を任意に選択して電子顕微鏡で拡大する。電子顕微鏡で拡大した複数箇所のそれぞれにおいて複数本のナノファイバーを任意に選択して径を測定する。そして、選択した複数本のナノファイバーの径の平均値を平均繊維径とする。本実施形態では、油脂吸着用ナノファイバー集積体1の任意に選択した5箇所において20本ずつ任意に選択したナノファイバーの径を測定した。そして、これら100本のナノファイバーの径の平均値を平均繊維径とした。変動係数(標準偏差を平均値で割った値)は、0.6以下であることが好ましい。
【0030】
(油脂吸着用ナノファイバー集積体の製造装置および製造方法)
本実施形態の油脂吸着用ナノファイバー集積体1は、
図2~
図4に示す製造装置を用いて製造される。
図2は、
図1の油脂吸着用ナノファイバー集積体の作製に用いる製造装置の一例を示す斜視図である。
図3は、
図2の製造装置の一部断面を含む側面図である。
図4は、
図2の製造装置により製造されたナノファイバーが堆積される捕集網の正面図である。
【0031】
図2および
図3に示すように、製造装置50は、ホッパー62、加熱シリンダー63、ヒーター64、スクリュー65、モーター66およびヘッド70を有している。
【0032】
ホッパー62には、ナノファイバーの素材となるペレット状の合成樹脂が投入される。加熱シリンダー63は、ヒーター64によって加熱され、ホッパー62から供給された樹脂を溶融させる。スクリュー65は、加熱シリンダー63内に収容されている。スクリュー65は、モーター66によって回転され、溶融樹脂を加熱シリンダー63の先端に送る。円柱状のヘッド70は、加熱シリンダー63の先端に設けられている。ヘッド70には、ガス供給管68を介してガス供給部(図示なし)が接続されている。ガス供給管68はヒーターを備えており、ガス供給部から供給された高圧ガスを加熱する。ヘッド70は、正面に向けて高圧ガスを噴射するとともに、高圧ガス流に乗るように溶融樹脂を吐出する。ヘッド70の正面には、捕集網90が配置されている。
【0033】
本実施形態の製造装置50の動作について説明する。ホッパー62に投入されたペレット状の原料(樹脂)が加熱シリンダー63内に供給される。加熱シリンダー63内で溶融された樹脂は、スクリュー65によって加熱シリンダー63の先端に送られる。加熱シリンダー63の先端に到達した溶融樹脂(溶融原料)は、ヘッド70から吐出される。溶融樹脂の吐出にあわせて、ヘッド70から高圧のガスを噴出する。
【0034】
ヘッド70から吐出された溶融樹脂は、ガス流に所定の角度で交わって、引き延ばされながら前方に運ばれる。引き延ばされた樹脂は微細繊維となり、
図4に示すように、ヘッド70の正面に配置された捕集網90上に集積される(集積工程)。そして、この集積された微細繊維95を、所望の形状(例えば正方形マット状)に成形する(成形工程)。このようにして、本発明の油脂吸着用ナノファイバー集積体1を得る。
【0035】
なお、上記製造装置50では、原料となる合成樹脂を加熱して溶融した「溶融原料」を吐出する構成であったが、これに限定されるものではない。これ以外にも、例えば、所定の溶媒に対して溶質としての固形の原料または液状の原料を所定濃度となるようにあらかじめ溶解した「溶剤」を吐出する構成としてもよい。本出願人は、油脂吸着用ナノファイバー集積体1の製造に用いることができる製造装置の一例として、特願2015-065171にナノファイバー製造装置およびナノファイバー製造方法を開示している。この出願は特許を受けており(特許第6047786号、平成27年3月26日出願、平成28年12月2日登録)、本出願人がその権利を保有している。
【0036】
(繊維集積体のモデル化)
本発明者は、多数の繊維が複雑に絡み合う構造を有する繊維集積体について、その構造の特定を試みた。本発明者は、繊維集積体の構造を簡略化してとらえ、繊維集積体が立方体形状の最小計算ユニット内に互いに直交する3方向に延在する複数の繊維を含むものとみなしてモデルを作成した。
【0037】
図5および
図6に作成したモデルを示す。
図5(a)は繊維集積体の3方向モデルおよび単位計算ユニットを示す斜視図である。
図5(b)は最小計算ユニットの斜視図である。
図6(a)、(b)および(c)は、最小計算ユニットをY軸方向、X軸方向およびZ軸方向から見た図である。
図6(c)では、隣接する最小計算ユニット(Adjacent Unit)を点線で表記している。
【0038】
図5および
図6に示すように、X軸、Y軸およびZ軸で表される三次元空間において、最小計算ユニット10は各辺の長さが2Lとなる立方体形状を有している。最小計算ユニット10は、繊維部分20x、繊維部分20yおよび繊維部分20zを含む。繊維部分20xの中心軸は、X軸およびZ軸に平行な2つの平面上に位置し、X軸方向に延在する。繊維部分20xの断面形状は円を二等分した半円形である。繊維部分20yの中心軸は、Y軸と平行な4つの辺と重なり、Y軸方向に延在する。繊維部分20yの断面形状は円を四等分した扇形である。繊維部分20zの中心軸は、X軸およびY軸に平行な2つ平面の中央を通りZ軸方向に延在する。繊維部分20zの断面形状は円形である。繊維部分20x、繊維部分20yおよび繊維部分20zは、互いに間隔を空けて配置されている。繊維部分20xの合計体積、繊維部分20yの合計体積および繊維部分20zの体積は同一である。
【0039】
最小計算ユニット10において、繊維径をdとし、繊維半径をrとし、平行な繊維同士の中心軸の距離を2Lとすると、長さ係数εは次の式(1)で表すことができる。
【0040】
【0041】
また、最小計算ユニット10の質量をmとし、体積をVとし、繊維径をd=2rとし、繊維の密度をρとすると、次の式(2)の関係が成り立つ。なお、本実施形態の油脂吸着用ナノファイバー集積体1を構成する一本一本の繊維の密度ρは、固体状態のポリプロピレンの密度と同等と考えられる。そのため、本明細書の式を用いた計算において、繊維の密度ρとしてポリプロピレンの密度を用いている。
【0042】
【0043】
繊維集積体のかさ密度ρbは、次の式(3)で表すことができる。
【0044】
【0045】
繊維集積体の空隙率η(Free volume η)は、次の式(4)で表すことができる。
【0046】
【0047】
繊維間距離e1(Gap e1)は、次の式(5)で表すことができる。
【0048】
【0049】
図7に、式(5)の算出結果を用いて作成したグラフを示す。このグラフは、平均繊維径dの異なる繊維(1000nm、1500nm、2000nm)からなる複数の繊維集積体のそれぞれの空隙率ηと繊維間距離e
1との関係を示す。
【0050】
繊維集積体である油脂吸着用ナノファイバー集積体1において、平均繊維径dが1000nmでかつかさ密度が0.2g/cm3(空隙率が0.7765)となる構成では、式(5)より繊維間距離e1が2.3μmとなる。油脂吸着用ナノファイバー集積体1において、平均繊維径dが2000nmでかつかさ密度が0.01g/cm3(空隙率が0.9888)となる構成では、式(5)より繊維間距離e1が27.0μmとなる。
【0051】
図6(a)および
図8より、吸着対象となる油脂の表面張力をTとし、油脂の接触角をθとし、油脂の密度をρ
oとし、重力加速度をgとし、吸い上げ高さをhとすると、Z方向(鉛直方向)の力が平衡状態にあるとき、次の式(6)が成立する。
【0052】
【0053】
上記式(6)は、次の参考文献に基づく。
(a)Yuehua YUAN and T. Randall LEE, Contact Angle and Wetting Properties, Surface Science Techniques, ISBN: 978-3-642-34242-4, (2013), pp. 3-34.
(b)Tiina Rasilainen, Controlling water on polypropylene surfaces with micro-and micro/nanostructures, Department of CHEMISTRY University of Eastern Finland, (2010), pp. 1-42.
(c)Thawatchai Phaechamud and Chirayu Savedkairop, Contact Angle and Surface Tension of Some Solvents Used in Pharmaceuticals, Research Journal of Pharmaceutical, Biological and Chemical Sciences, ISSN:0975-8585, Vol.3, Issue.4, (2012), pp.513-529.
(d)Keizo OGINO and Ken-ichi SHIGEMURA, Studies of the Removal of Oily Soil by Rolling-up in Detergency. II. On Binary Soil Systems Consisting of Oleic Acid and Liquid Paraffin, BULLETIN OF THE CHEMICAL SOCIETY OF JAPAN, Vol.49 (11), (1976), pp.3236-3238.
(e)Victoria Broje and Arturo A. Keller, Interfacial interactions between hydrocarbon liquids and solid surfaces used in mechanical oil spill recovery, Journal of Colloid and Interface Science, Vol. 305, (2007), pp.286-292.
【0054】
上記式(6)より、Z方向の吸い上げ高さhは、次の式(7)により求めることができる。
【0055】
【0056】
また、最小計算ユニット10における油脂吸着前の質量(自重)をmとし、油脂吸着後の質量をMとすると、次の式(8)が成立する。
【0057】
【0058】
式(8)により、油脂吸着前に取得可能なパラメータである空隙率η、繊維の密度ρ、および、油脂の密度ρoを用いて吸着率M/mの推定値を算出することができる。
【0059】
また、最小計算ユニット10における油脂吸着後の体積Vは、油脂吸着用繊維集積体の体積(vfiber)および吸着した油脂(voil)の体積を合計した値となる。そして、最小計算ユニット10における油脂吸着前の体積をVnとすると、体積膨張率V/Vnは次の式(9)および式(10)により表すことができる。
【0060】
【0061】
上記式(8)により吸着率M/mを推定し、さらに、式(9)により、油脂吸着前に取得可能なパラメータである油脂吸着前の質量m、繊維の密度ρ、および、油脂の密度ρo繊維の密度を用いて油脂吸着後の体積Vの推定値を算出することができる。
【0062】
【0063】
εは最小計算ユニット10における油脂吸着前の長さ係数であり、ε´は油脂吸着後の長さ係数である。
【0064】
上述した各計算式は最小計算ユニット10についてのものであるが、油脂吸着用ナノファイバー集積体は最小計算ユニット10が多数集合して構成されていることを考えると、各計算式は油脂吸着用ナノファイバー集積体にも適用できる。
【0065】
(検証)
次に、本発明者は、下記に示す本発明の実施例1-1~1-8および比較例1-1、1-2、2-1、2-2、3-1、3-2、4、5の油脂吸着用ナノファイバー集積体を作製し、それらを用いて油脂吸着に関する性能についての検証を行った。
【0066】
(実施例1-1~1-8)
上述した製造装置50を用いて、ポリプロピレンを材料とした平均繊維径1500nmの微細繊維95を製造した。繊維径の標準偏差は900であり、標準偏差を平均繊維径で割った変動係数は0.60である。堆積した微細繊維95を、かさ密度0.01[g/cm3]、0.03[g/cm3]、0.04[g/cm3]、0.05[g/cm3]、0.09[g/cm3]、0.1[g/cm3]、0.13[g/cm3]および0.2[g/cm3]となるように成形して、実施例1-1~1-8の油脂吸着用ナノファイバー集積体を得た。なお、実施例1-1~1-8を上記モデルにあてはめると、式(5)から算出される繊維間距離e1は20.3μm、11.1μm、9.4μm、8.2μm、5.8μm、5.4μm、4.5μmおよび3.4μmとなる。
【0067】
(比較例1-1、1-2)
上述した製造装置50を用いて、ポリプロピレンを材料とした平均繊維径800nmの微細繊維95を製造した。繊維径の標準偏差は440であり、標準偏差を平均繊維径で割った変動係数は0.55である。堆積した微細繊維95を、かさ密度0.01[g/cm3]および0.1[g/cm3]となるように成形して、比較例1-1、1-2の油脂吸着用ナノファイバー集積体を得た。なお、比較例1-1、1-2を上記モデルにあてはめると、式(5)から算出される繊維間距離e1は10.8μmおよび2.9μmとなる。
【0068】
(比較例2-1、2-1)
上述した製造装置50を用いて、ポリプロピレンを材料とした平均繊維径4450nmの微細繊維95を製造した。繊維径の標準偏差は2280であり、標準偏差を平均繊維径で割った変動係数は0.51である。堆積した微細繊維95を、かさ密度0.01[g/cm3]および0.1[g/cm3]となるように成形して、比較例2-1、2-2の油脂吸着用ナノファイバー集積体を得た。なお、比較例2-1、2-2を上記モデルにあてはめると、式(5)から算出される繊維間距離e1は60.2μmおよび16.0μmとなる。
【0069】
(比較例3-1、3-2)
上述した製造装置50を用いて、ポリプロピレンを材料とした平均繊維径7700nmの微細繊維95を製造した。繊維径の標準偏差は4360であり、標準偏差を平均繊維径で割った変動係数は0.57である。堆積した微細繊維95を、かさ密度0.01[g/cm3]および0.1[g/cm3]となるように成形して、比較例3-1、3-2の油脂吸着用ナノファイバー集積体を得た。なお、比較例3-1、3-2を上記モデルにあてはめると、式(5)から算出される繊維間距離e1は104.1μmおよび27.7μmとなる。
【0070】
(比較例4)
上述した製造装置50を用いて、ポリプロピレンを材料とした平均繊維径1500nmの微細繊維95を製造した。繊維径の標準偏差は900であり、標準偏差を平均繊維径で割った変動係数は0.60である。堆積した微細繊維95を、かさ密度0.3[g/cm3]となるように成形して、比較例4の油脂吸着用ナノファイバー集積体を得た。なお、比較例4を上記モデルにあてはめると、式(5)から算出される繊維間距離e1は2.5μmとなる。
【0071】
(比較例5)
上述した製造装置50を用いて、ポリプロピレンを材料とした平均繊維径1500nmの微細繊維95を製造した。繊維径の標準偏差は900であり、標準偏差を平均繊維径で割った変動係数は0.60である。堆積した微細繊維95を、かさ密度0.49[g/cm3]となるように成形して、比較例5の油脂吸着用ナノファイバー集積体を得た。なお、比較例5を上記モデルにあてはめると、式(5)から算出される繊維間距離e1は1.6μmとなる。
【0072】
これら、各実施例および各比較例において、繊維径の変動係数は0.55~0.60の範囲にあり、ほぼ同一となっていた。
【0073】
表1に、各実施例および比較例の構成一覧を示す。
【0074】
【0075】
(検証1:平均繊維径と吸着率の関係1)
上記実施例1-1、1-6および比較例1-1、1-2、2-1、2-2、3-1、3-2を用いて直径18mm、高さ2mmの円柱状の試験片を作製し、高精度電子天秤を用いて油脂吸着前の質量mを測定した。次に、上記試験片を、吸着対象の油脂(TRUSCO社製マシンオイル(ISOVG:46)、比重ρ
o=850kg/m
3、接触角29度~35度)に浸漬した。油脂の吸着量が飽和するのに十分な時間が経過したのち上記試験片を油脂から引き上げて、吸着した油脂が自然に落下するように金網上に置いた。そして、高精度電子天秤を用いて、油脂から引き上げ直後(0秒)の質量M
A、および引き上げから30秒後の質量M
Bを測定した。質量M
Aおよび質量M
Bを質量mで割った値を吸着率(Suction Rate)M/m(M
A/m、M
B/m)とする。また、質量M
Bを質量M
Aで割った値に100をかけたものを保持率(Maintenance Rate)M
B/M
A×100[%]とする。
図9(a)に、実施例1-1および比較例1-1、2-1、3-1における平均繊維径と吸着率および保持率との関係を示す。
図9(b)に、実施例1-6および比較例1-2、2-2、3-2における平均繊維径と吸着率および保持率との関係を示す。
【0076】
図9(a)、(b)から明らかなように、各比較例1-1、1-2、2-1、2-2、3-1、3-2に比べて、実施例1-1、1-6の方が優れた吸着率を有する。特に、吸着率M
A/mおよび吸着率M
B/mともに、平均繊維径が1000nm~2000nmのとき、比較的高い吸着率となり、平均繊維径が1500nm近傍に吸着率のピークがある。
【0077】
(検証2:繊維集積体の厚さと吸着率の関係2)
上記実施例1-1および比較例1-1、2-1、3-1を用いて直径18mm、高さ(厚さt)1mm、2mm、4mm、20mmおよび40mmの円柱状の試験片を作製し、高精度電子天秤を用いて油脂吸着前の質量mを測定した。次に、上記試験片を、吸着対象の油脂(TRUSCO社製マシンオイル(ISOVG:46)、比重ρ
o=850kg/m
3、接触角29度~35度)に浸漬した。油脂の吸着量が飽和するのに十分な時間が経過したのち上記試験片を油脂から引き上げて、吸着した油脂が自然に落下するように金網上に置いた。そして、高精度電子天秤を用いて、油脂から引き上げ直後(0秒)の質量M
A、および引き上げから30秒後の質量M
Bを測定した。質量M
Aおよび質量M
Bを質量mで割った値を吸着率M/m(M
A/m、M
B/m)とする。また、質量M
Bを質量M
Aで割った値に100をかけたものを保持率M
B/M
A×100[%]とする。
図10に、実施例1-1および比較例1-1、2-1、3-1における試験片の厚さと吸着率および保持率との関係を示す。
【0078】
図10から明らかなように、試験片のいずれの高さにおいても実施例1-1が最も高い吸着率となる。また、いずれの平均繊維径においても試験片の厚さが小さいほど高い吸着率となる。これは、試験片の下部の繊維が上部を支えているものの、上部の油脂により下部の油脂が試験片から押し出されてしまい、試験片の厚さが大きいほど押し出される油脂の量も多くなると考えられる。また、試験片の厚さが小さいと吸着率は高くなるものの吸着する油脂の量を十分に確保できない。このことから、油脂吸着用ナノファイバー集積体の厚さtは、以下の式(iii)を満足することが好ましい。
(iii) 2mm≦t≦5mm
【0079】
(検証3:平均繊維径と係数拡大率および体積膨張率の関係)
上記実施例1-6および比較例1-2、2-2、3-2を用いて直径18mm、高さ2mmの円柱状の試験片を作製し、高精度電子天秤を用いて油脂吸着前の質量mを測定した。次に、上記試験片を、吸着対象の油脂(TRUSCO社製マシンオイル(ISOVG:46)、比重ρ
o=850kg/m
3、接触角29度~35度)に浸漬した。油脂の吸着量が飽和するのに十分な時間が経過したのち上記試験片を油脂から引き上げて、吸着した油脂が自然に落下するように金網上に置いた。そして、高精度電子天秤を用いて、油脂からの引き上げから5分後の質量Mを測定した。これら質量mおよび質量Mを上記式(8)~(10)に適用して、係数拡大率ε´/εを得た。そして、係数拡大率ε´/εから体積膨張率V/Vnを得た。
図11に、実施例1-6および比較例1-2、2-2、3-2における平均繊維径と係数拡大率および体積膨張率との関係を示す。
【0080】
図11から明らかなように、各比較例1-2、2-2、3-2に比べて、実施例1-2の方が優れた係数拡大率および体積膨張率を有する。また、平均繊維径が1000nm~2000nmのとき、比較的高い係数拡大率および体積膨張率となり、平均繊維径が1500nm近傍に係数拡大率および体積膨張率のピークがある。
【0081】
(検証4:かさ密度と吸着率の関係)
上記実施例1-1、1-3、1-5、1-7および比較例5を用いて直径18mm、高さ2mmの円柱状の試験片を作製し、高精度電子天秤を用いて油脂吸着前の質量mを測定した。次に、上記試験片を、吸着対象の油脂[1](TRUSCO社製マシンオイル(ISOVG:46))、および、油脂[2](TRUSCO社製マシンオイル(ISOVG:10))に浸漬した。油脂の吸着量が飽和するのに十分な時間が経過したのち上記試験片を油脂から引き上げて、吸着した油脂が自然に落下するように金網上に置いた。そして、高精度電子天秤を用いて、油脂から引き上げ直後(0秒)の質量M
A、および引き上げから30秒後の質量M
Bを測定した。質量M
Aおよび質量M
Bを質量mで割った値を吸着率M/m(M
A/m、M
B/m)とする。また、質量M
Bを質量M
Aで割った値に100をかけたものを保持率M
B/M
A×100[%]とする。
図12に、実施例1-1、1-3、1-5、1-7および比較例5におけるかさ密度と吸着率および保持率との関係を示す。
【0082】
図12から明らかなように、油脂の粘度にかかわらず、吸着率M
A/mおよび吸着率M
B/mともにかさ密度が小さいほど高くなる。特に、かさ密度が0.2g/cm
3以下の場合、かさ密度が小さくなるにしたがって各吸着率の増加度合いがより大きくなる。
【0083】
(検証5:かさ密度と吸着速度との関係)
上記実施例1-1、1-2、1-4および比較例4を用いて直径18mm、高さ20mmの円柱状の試験片を作製した。吸着対象の油脂(TRUSCO社製マシンオイル(ISOVG:46)、比重ρ
o=850kg/m
3、接触角29度~35度)が深さ1mmとなるように入れられた容器に、上記試験片を下部が油脂に浸るように入れて、時間ごとの吸い上げ高さを測定した。
図13に、実施例1-1、1-2、1-4および比較例4における吸い上げ時間と吸い上げ高さとの関係を示す。
【0084】
図13から明らかなように、かさ密度が小さいほど、短い時間で上端高さ(20mm)まで油脂を吸い上げ、吸着速度が高いことがわかる。特に、かさ密度が0.2g/cm
3以下のとき、10分未満で吸い上げ高さが15mmに到達し、良好な吸着速度となる。
【0085】
(検証6:体積膨張率と吸着率の関係)
上記実施例1-6および比較例1-2、2-2、3-2を用いて直径18mm、高さ2mmの円柱状の試験片を作製し、高精度電子天秤を用いて油脂吸着前の質量mを測定した。次に、上記試験片を、吸着対象の油脂(TRUSCO社製マシンオイル(ISOVG:46)、比重ρ
o=850kg/m
3、接触角29度~35度)に浸漬した。油脂の吸着量が飽和するのに十分な時間が経過したのち上記試験片を油脂から引き上げて、吸着した油脂が自然に落下するように金網上に置いた。そして、高精度電子天秤を用いて、油脂から引き上げ直後(0秒)の質量M
A、引き上げから30秒後の質量M
B、および引き上げから5分後の質量M
Cを測定した。質量M
A、質量M
Bおよび質量M
Cを質量mで割った値を吸着率M/m(M
A/m、M
B/m,M
C/m)とする。また、これら質量mおよび質量Mを上記式(8)~(10)に適用して、係数拡大率ε´/εを得た。係数拡大率ε´/εから体積膨張率V/Vnを得た。
図14に、実施例1-6および比較例1-2、2-2、3-2における体積膨張率と吸着率との関係を示す。
【0086】
図14から明らかなように、係数拡大率および体積膨張率ともに、平均繊維径が1500nmのときに、最も体積膨張率が大きくかつ吸着率が高くなり、効率よく油脂を吸着することができる。
【0087】
上記検証1~6の結果から、平均繊維径が1000nm~2000nmでかつかさ密度が0.01g/cm3~0.2g/cm3となる油脂吸着用ナノファイバー集積体が、良好な油脂吸着性能を有することが判明した。特に、平均繊維径が1500nm近傍(1300nm~1700nm)でかつかさ密度が0.01g/cm3~0.05g/cm3となるものが、より良好な油脂吸着性能を有していることが判明した。
【0088】
(検証7:空隙率と吸着率の関係)
平均繊維径が1500nmで空隙率(すなわち、かさ密度)が異なる複数の油脂吸着用ナノファイバー集積体を作製し、高精度電子天秤を用いて油脂吸着前の質量mを測定した。次に、上記試験片を、吸着対象の油脂(TRUSCO社製マシンオイル(ISOVG:46)、比重ρ
o=850kg/m
3、接触角29度~35度)に浸漬した。油脂の吸着量が飽和するのに十分な時間が経過したのち上記試験片を油脂から引き上げて、吸着した油脂が自然に落下するように金網上に置いた。そして、高精度電子天秤を用いて、油脂からの引き上げから30秒後の質量M
B、および引き上げから5分後の質量M
Cを測定した。質量M
Bおよび質量M
Cを質量mで割った値を吸着率M/m(M
B/m,M
C/m)とする。また、上記式(8)を用いて、空隙率に対する吸着率の理論値を算出した。
図15に、平均繊維径が1500nmの油脂吸着用ナノファイバー集積体における空隙率と吸着率の実測値および理論値との関係を示す。
【0089】
図15から明らかなように、実測値と理論値とが概ね一致している。このことから、油脂吸着用ナノファイバー集積体の平均繊維径およびかさ密度(空隙率)から吸着率M/mを近似的に推定することができ、上述したモデルの有用性を確認することができた。
【0090】
上記に本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。前述の実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0091】
1…油脂吸着用ナノファイバー集積体、7…油脂、10…最小計算ユニット、20…繊維、20x、20y、20z…繊維部分、50…製造装置、62…ホッパー、63…加熱シリンダー、64…ヒーター、65…スクリュー、66…モーター、68…ガス供給管、70…ヘッド、90…捕集網、95…微細繊維、d…平均繊維径、ρb…かさ密度、e1…繊維間距離、η…空隙率