(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090104
(43)【公開日】2022-06-16
(54)【発明の名称】細胞培養装置、および細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20220609BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220609BHJP
C12M 1/12 20060101ALI20220609BHJP
C12M 1/38 20060101ALI20220609BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20220609BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220609BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12M1/00 A
C12M1/12
C12M1/38 Z
C12N5/074
C12N1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071686
(22)【出願日】2022-04-25
(62)【分割の表示】P 2021567022の分割
【原出願日】2021-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2020181774
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592250746
【氏名又は名称】株式会社アステック
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100215164
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 正美
(72)【発明者】
【氏名】江村 孝之
(72)【発明者】
【氏名】坂井 孝則
(57)【要約】
【課題】 細胞の培養状況を管理し、培養状況に応じた設定を行うことができ、細胞を大量に自動培養することができる培養装置を提供する。
【解決手段】 透明な第一面と、前記第一面と対向し透明な第二面とを有する第一の培養器(11)と、第一の培養器(11)に培地を送出するための配管(111)と第一の培養器(11)から培地を排出するための配管(112)とを有する送液ラインと、前記送液ライン内に配置される中空糸膜(31)と、前記送液ライン内の培地を循環するポンプ(43)と、第一培養器内(11)の細胞を観察するためのカメラ(21)と、カメラ(21)により観察された細胞の状態を判別する判別手段(24)と、を有する細胞培養装置(10)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な第一面と、前記第一面と対向し透明な第二面とを有する第一の培養器と、
前記第一の培養器に培地を送出するための配管と前記第一の培養器から培地を排出するための配管とを有する送液ラインと、
前記送液ライン内に配置される中空糸膜と、
前記送液ライン内の培地を循環するポンプと、
前記第一の培養器内の細胞を観察するためのカメラと、
前記カメラにより観察された細胞の状態を判別する判別手段と、
前記第一の培養器の前記第一面の向きを、水平面に対して、複数の軸で角度を変更する角度変更手段を有する細胞培養装置。
【請求項2】
前記判別手段により判別された細胞の状態が、正常と判断された場合、複数の層を有する第二の培養器に前記第一の培養器の内部の培養液を送出する送出手段と、
前記ポンプおよび前記中空糸膜を、前記第二の培養器に培地を送出するための配管と前記第二の培養器から培地を排出するための配管とを有する送液ラインに繋ぎ替える切替手段を有する、請求項1に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記角度変更手段が、前記第二の培養器の層の向きを、水平面に対して、複数の軸で角度を変更する、請求項2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記カメラが、前記角度変更手段により前記第一の培養器の第一面および/または前記第二の培養器の層が水平方向に対して傾いた状態としたものに対して、観察する向きに配置するものである、請求項3に記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記判別手段により判別された培養結果が異常と判断された場合、培養を停止する停止手段を有する、請求項1~4のいずれかに記載の細胞培養装置。
【請求項6】
前記送液ラインで送液される培地の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素濃度測定手段と、
前記溶存酸素濃度に基づき、酸素供給量を調整するガス制御手段を有する、請求項1~5のいずれかに記載の細胞培養装置。
【請求項7】
前記送液ラインで送液される培地の培地成分を測定する培地成分測定手段を有する、請求項1~6のいずれかに記載の細胞培養装置。
【請求項8】
透明な第一面と、前記第一面と対向し透明な第二面とを有する層を有する第一の培養器と、前記第一の培養器に培地を送出するための配管と前記第一の培養器から培地を排出するための配管とを有する送液ラインと、前記第一の培養器に充填される培地の送出を行うポンプと、前記送液ライン内に配置される中空糸膜と、前記第一の培養器内の細胞を観察するためのカメラと、前記カメラにより観察された細胞の状態を判別する判別手段と、を有する細胞培養装置を用いる細胞の培養方法であり、
前記第一の培養器で細胞を培養する第一の培養工程と、
前記第一の培養工程で培養された細胞の培養状態を前記カメラで観察しその状態を前記判別手段で判別する判別工程と、
判別結果が正常な場合、培養を継続する継続培養工程、または、判別結果が異常な場合、培養を停止する工程と、
前記継続培養工程を行い、細胞が十分に培養されたとき、前記第一の培養器から、複数の層を有する第二の培養器に培養された細胞を送出する送出工程と、
前記第二の培養器で、細胞を培養する第二の培養工程とを有し、
さらに、前記細胞培養装置が、前記第一の培養器の第一面の向きを、水平面に対して、複数の軸で角度を変更する角度変更手段により調整する手段を有し、前記第一の培養工程において、前記第一の培養器の前記第一の培養器の第一面の向きを、水平面から傾けた状態として、培養器内の気体を除去する気体除去工程を有する、細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞培養装置、および細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は生命を持つ最小単位であり、人間の体は37兆個の細胞からなっている。病気や事故で細胞からなる臓器や組織の機能が失われた時、失われた人体機能の回復を目指すものが再生医療である。再生医療の市場規模は今後も拡大が予測されている。再生医療に重要な細胞としては、様々な細胞へ分化する能力を有する幹細胞があげられ、特に間葉系幹細胞が最も臨床に応用されている。年々拡大する再生医療市場に応えるために、培養中の細胞品質の管理ができ、生産性が高く、全生産工程を自動化かつ閉鎖系できる自動培養装置の導入が求められている。
【0003】
間葉系幹細胞の培養作業は、再生医療製品関連開発製造企業、細胞バンク、研究機関などの細胞調製施設で行われている。培養作業は手作業が主流で、細胞の定量的な品質管理ができない。手作業の培養は、1ロットでの生産性が低い、汚染リスクが高い欠点がある。培養作業を自動化する自動培養装置の開発も進められているものの、細胞の品質管理、生産性に課題があり、培養工程の十分な自動化はまだ実現していない。
【0004】
特許文献1は、細胞のダメージを少なくして培養処理することを可能とするものとして、細胞と培地を給排するポンプを保持するポンプ部と、前記細胞と培地を保持して前記細胞を培養する第1培養容器部及び第2培養容器部と、前記細胞と培地を保持する培地保管部と、前記細胞を濃縮させる細胞濃縮部と、前記ポンプ部と、前記第1培養容器部、前記第2培養容器部、前記培地保管部、及び前記細胞濃縮部とを接続する複数のモジュールで構成される流路と、前記ポンプ部を制御する制御部とを備え、前記ポンプの両側方のうち、一方側に前記第2培養容器部が配置され、他方側に前記培地保管部または前記細胞濃縮部の少なくとも何れか一つが配置され、前記ポンプの上方側に、前記第1培養容器部が配置される、ことを特徴とする細胞培養装置を開示している。
【0005】
特許文献2は、細胞培養容器と、前記細胞培養容器に供給する培地や試薬等の液を保存する液貯留部と、前記細胞培養容器で培養された細胞を回収する細胞回収部との間が、少なくとも細胞培養容器に対する液の移送から培養された細胞の取り出しまでの間に空間的に閉じた閉鎖系のラインとなるように構成されるものであり、前記細胞培養容器を給排液ポートを有する多段棚型にしてインキュベータ内に配置し、インキュベータ内で、前記閉鎖ライン状態を保ったままで給排液ポートを通じて各棚に液を分配する姿勢と、給排液ポートを通じて各棚から液を集めて排液する姿勢とに姿勢変更可能としたことを特徴とする、細胞培養システムを開示している。
【0006】
特許文献3は、培養された細胞をより定量的に、且つ効率的に測定するものとして、細胞及び培地を収容可能であり、前記培地に接するように細胞測定電極及び参照電極を備え、内面に前記細胞測定電極及び前記参照電極の少なくとも一方が設けられた細胞培養容器と、前記細胞測定電極及び前記参照電極の少なくとも一方に接続され、前記細胞培養容器内の細胞量に応じた量を測定可能な測定装置と、を備える細胞培養システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5813680号公報
【特許文献2】特開2020-103232号公報
【特許文献3】特許第6349840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
細胞の自動培養などに利用できる技術として様々な手段が検討され、特許文献1~3などのように細胞の培養をより安定して行うための構成などが検討されている。しかし、細胞の培養は培養条件や意図しない外乱等の影響もあるため、その管理が難しい場合がある。特に指数関数的に培養が進むこともあることから、時間だけでの管理が難しい場合がある。特許文献2は、多段棚のトレイ内に培地を供給してその上部の気相との間でガス交換させるが気相と培地の接触面積や、細胞が培養できる足場が限られる。特許文献3は、細胞を定量的に測定するものであるが、電極のみでは把握できない状況もあり、細胞の種類によって培養条件や管理指標が変わることもあるため、培養条件の選択肢は多様なほうがよい。
係る状況下、本発明の目的は、細胞の培養状況を管理し、培養状況に応じた設定を行うことができ、細胞を大量に自動培養することができる培養装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0010】
<A1> 透明な第一面と、前記第一面と対向し透明な第二面とを有する第一の培養器と、
前記第一の培養器に培地を送出するための配管と前記第一の培養器から培地を排出するための配管とを有する送液ラインと、
前記送液ライン内に配置される中空糸膜と、
前記送液ライン内の培地を循環するポンプと、
前記第一の培養器内の細胞を観察するためのカメラと、
前記カメラにより観察された細胞の状態を判別する判別手段と、を有する細胞培養装置。
<A2> 前記判別手段により判別された細胞の状態が、正常と判断された場合、複数の層を有する第二の培養器に前記第一の培養器の内部の培養液を送出する送出手段と、
前記ポンプおよび前記中空糸膜を、前記第二の培養器に培地を送出するための配管と前記第二の培養器から培地を排出するための配管とを有する送液ラインに繋ぎ替える切替手段を有する、前記<A1>に記載の細胞培養装置。
<A3> 前記第一の培養器の前記第一面および/または前記第二の培養器の層の向きを、水平面に対して、複数の軸で角度を変更する角度変更手段を有する、前記<A2>に記載の細胞培養装置。
<A4> 前記カメラが、前記第一の培養器の第一面および/または前記第二の培養器の層に対して直交する向きから観察するカメラであり、前記第一の培養器および/または前記第二の培養器を挟み前記カメラの反対側から前記第一の培養器および/または前記第二の培養器を照射する照明を有し、
前記第一の培養器および/または前記第二の培養器の層内の前記カメラが観察する位置が細胞を含む培地で充填されている、前記<A3>に記載の細胞培養装置。
<A5> 前記カメラが、前記角度変更手段により前記第一の培養器の第一面および/または前記第二の培養器の層が水平方向に対して傾いた状態としたものに対して、観察する向きに配置するものである、前記<A4>に記載の細胞培養装置。
<A6> 前記判別手段により判別された培養結果が異常と判断された場合、培養を中止する停止手段を有する、前記<A1>~<A5>のいずれかに記載の細胞培養装置。
<A7> 前記送液ラインで送液される培地の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素濃度測定手段と、
前記溶存酸素濃度に基づき、酸素供給量を有する、前記<A1>~<A6>のいずれかに記載の細胞培養装置。
<A8> 前記送液ラインで送液される培地の培地成分を測定する培地成分測定手段を有する、前記<A1>~<A7>のいずれかに記載の細胞培養装置。
【0011】
<B1> 透明な第一面と、前記第一面と対向し透明な第二面とを有する層を有する第一の培養器と、前記第一の培養器に培地を送出するための配管と前記第一の培養器から培地を排出するための配管とを有する送液ラインと、前記第一の培養器に充填される培地の送出を行うポンプと、前記送液ライン内に配置される中空糸膜と、前記第一の培養器内の細胞を観察するためのカメラと、前記カメラにより観察された細胞の状態を判別する判別手段と、を有する細胞培養装置を用いる細胞の培養方法であり、
前記第一の培養器で細胞を培養する第一の培養工程と、
前記第一の培養工程で培養された細胞の培養状態を前記カメラで観察しその状態を前記判別手段で判別する判別工程と、
判別結果が正常な場合、培養を継続する継続培養工程、または、判別結果が異常な場合、培養を停止する工程と、
前記継続培養工程を行い、細胞が十分に培養されたとき、前記第一の培養器から、複数の層を有する第二の培養器に培養された細胞を送出する送出工程と、
前記第二の培養器で、細胞を培養する第二の培養工程とを有する、細胞培養方法。
<B2> 前記細胞培養装置が、前記第一の培養器の第一面および/または前記第二の培養器の層の向きを、水平面に対して、複数の軸で角度を変更する角度変更手段により調整する手段を有し、
前記第一の培養工程および/または前記第二の培養工程において、前記第一の培養器および/または前記第二の培養器の前記第一の培養器の第一面および/または前記第二の培養器の層の向きを、水平面から傾けた状態として、培養器内の気体を除去する気体除去工程を有する、前記<B1>に記載の細胞培養方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の細胞の培養装置によれば、細胞の培養状況を管理し、培養状況に応じた設定を行うことができ、細胞を大量に自動培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る細胞培養装置の概要図である。
【
図4】培養器の角度を変更したときの向きの概要図である。
【
図5】発明の実施形態に係る細胞培養装置の他の概要図である。
【
図6】細胞培養条件による細胞の培養状態の観察例を示す像である。
【
図7】本発明の実施形態に係る細胞培養方法のフロー図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る細胞培養方法の他のフロー図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る細胞培養方法の他のフロー図である。
【
図10】実施例に係る培養された細胞を観察した像である。
【
図11】実施例に係る培養された細胞を観察した像である。
【
図12】実施例に係る培養された細胞を観察した像である。
【
図13】実施例に係る培養された細胞を観察した像である。
【
図14】本発明に係る細胞培養装置の具体例を示す像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0015】
[本発明の細胞培養装置]
本発明の細胞培養装置は、透明な第一面と、前記第一面と対向し透明な第二面とを有する層を有する第一の培養器と、前記第一の培養器に培地を送出するための配管と前記第一の培養器から培地を排出するための配管とを有する送液ラインと、前記送液ライン内に配置される中空糸膜と、前記送液ライン内の培地を循環するポンプと、前記第一の培養器内の細胞を観察するためのカメラと、前記カメラにより観察された細胞の状態を判別する判別手段と、を有する。
【0016】
[本発明の細胞培養方法]
本発明の細胞培養方法は、透明な第一面と、前記第一面と対向し透明な第二面とを有する層を有する第一の培養器と、前記第一の培養器に培地を送出するための配管と前記第一の培養器から培地を排出するための配管とを有する送液ラインと、前記第一の培養器に充填される培地の送出を行うポンプと、前記送液ライン内に配置される中空糸膜と、前記第一の培養器内の細胞を観察するためのカメラと、前記カメラにより観察された細胞の状態を判別する判別手段と、を有する細胞培養装置を用いる細胞の培養方法であり、前記第一の培養器で細胞を培養する第一の培養工程と、前記第一の培養工程で培養された細胞の培養状態を前記カメラで観察しその状態を前記判別手段で判別する判別工程と、前記判別結果が正常な場合、培養を継続する継続培養工程、または、前記判別結果が異常な場合、培養を停止する工程と、前記継続培養工程を行い、細胞が十分に培養されたとき、前記第一の培養器から、複数の層を有する第二の培養器に培養された細胞を送出する送出工程と、前記第二の培養器で、細胞を培養する第二の培養工程とを有する。
【0017】
なお、本願において本発明の細胞培養装置により本発明の細胞培養方法を行うこともでき、本願においてそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。本発明の細胞培養装置や本発明の細胞培養方法によれば、細胞の培養状況を管理し、培養状況に応じた設定を行うことができ、細胞を大量に自動培養することができる。
【0018】
[細胞培養装置10]
図1は、本発明の実施形態に係る細胞培養装置の概要図である。細胞培養装置10は、第一の培養器11と、第一の培養器に接続された配管111および配管112を含む送液ラインと、中空糸膜31を内蔵する中空糸膜カートリッジ30と、中空糸膜カートリッジ30およびポンプ13と、カメラ21と、判別手段24とを有する。また、細胞培養装置10は、さらに第二の培養器12を有する。細胞培養装置10によれば、第一の培養器11内や、第二の培養器12内で細胞を培養することができる。
【0019】
[第一の培養器11]
第一の培養器11は、透明な第一面と、透明な第二面とを有する。第一の培養器11は、第一の面と第二の面をなす上下の板と、その周囲の側壁間に中空状の内層があり、細胞培養の場となる。第一の培養器11には複数の開口部が設けられており、その一の開口部は配管111に接続されている。また、他の開口部が配管112に接続されている。
【0020】
第一の培養器11の中空状の内層は、平板状の上下の板の内面に細胞が接着し、その内側で培地が循環される。この培地は流動性がある培地であり、液体培地やゼリー状の培地である。なお、細胞が接着する場となる内面は、培養する細胞の種類に応じて、適宜火炎処理(フレーム処理)や、コロナ処理、プラズマ処理、VUV(真空紫外光)等の表面処理を行い接着しやすい状態としておくことが好ましい。上下の板等、第一の培養器11の主要部は、ポリスチレンやポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートなどの細胞培養用に用いられている樹脂などの素材で成形することができ、透明で、顕微鏡などの光学的な手法により周囲から観察することができる。
【0021】
図2は、第一の培養器11の概要図である。
図2(a)は、第一の培養器11の平面図である。
図2(b)は、第一の培養器の左側面図である。
図2(c)は、第一の培養器の正面図である。第一の培養器11は、略直方体状とすることができる。平面視したとき、その形状は正方形状でもよいし、長方形状でもよく、細胞培養ができる任意の大きさとすることができる。例えば、縦辺20mm~500mm、横辺20mm~500mm程度の大きさとすることができる。好ましくは、縦辺と横辺いずれも50mm以上が好ましく、100mm以上がより好ましく、150mm以上が特に好ましい。面積として400mm
2~2.5×10
5mm程度としてもよい。面積として400mm
2~2.5×10
5mm
2程度としてもよい。面積は、2500mm
2以上や、10,000mm
2以上としてもよい。第一の培養器は、略直方体状に限定されるものではなく、円柱状や多角柱状などその内部で細胞培養することができる任意の他の形状でもよい。
【0022】
第一の培養器11の内側の中空層の厚みは例えば2~30mmや3~20mm、4~10mm程度とすることができる。厚みが十分にあることで上下面(第一の面、第二の面)に接触している細胞が培養により増殖や大型化しても内側で培地が循環しながら継続して増殖や大型化できる。厚みが厚すぎると、観察時の調整できる焦点距離を長くしないといけなくなり、細胞の足場からの距離も遠く増殖速度も飽和する。また、上記厚み内とすれば培養器内を充填するために必要な培地量も少ない量で充填できる。
【0023】
この容器内の内層(中空層)には培地や細胞が充填され、さらに培養中は培地が循環ラインにより循環されるため、液体や細胞による充填率が高い状態で用いることができる。細胞培養を行うときの培養容器内の培地および細胞の充填率(培地および細胞の総量/内層の容量)は80容積%以上や90容積%以上、95容積%以上、99容積%以上とすることができる。すなわち、実質的に、培養器内に空気層を含まない状態で培養を行うことができる。これにより、2枚の板状部の内層側のそれぞれの面(上下の面)が、細胞が接着する場となり、大量の細胞を効率よく培養することができる。
【0024】
第一の培養器11は、開口部113、114を有する。開口部113、114は、対角線上に設けられた接続部115、116にそれぞれ設けられている。第一の培養器11内の培地を循環させるとき、より効率よく入れ替えが生じるように配置することができる。なお、ここでは開口部は2つの場合を示したが、開口部は3つ以上設けてもよく、培地の循環ラインを繋ぎ変えながら利用したり、他の成分等を入れ替えるために用いたりしてもよい。また、培養中に使用しない開口部は蓋部を設けて密閉することが好ましい。第一の培養器11は、開口部以外から液が漏出しない密閉性が高いものであることが好ましい。
【0025】
[第二の培養器12]
第二の培養器12は、大量の培養を行うときなどに用いることができる。第一の培養器11よりもより多くの培養を行うときに、培地や細胞を充填して培養を行う。また、第一の培養器11で培養された細胞などを継代して、さらに大量に培養するときなどにも用いることができる。第二の培養器12は、第一の培養器11に準じる構成とすることができ、第一の培養器11を重ね合わせた複数の層を有するものとすることができる。特に制限はなく、例えば、2以上や、3以上、5以上とすることができ、20以下や、15以下、12以下とすることができる。このとき、各層を構成する部分ごとに分離できるものでもよいし、1枚の板が上下の仕切りとなるように共通するものとしてもよい。各面となる板状部材を分離して積み重ねると、板状部材間に界面が生じて、光線透過率が低下したり濁度が高くなり、観察できる層数や厚みが減る可能性があるため、重ね合わせられた層間の板状部材は共通するものを利用する構成とすることが好ましい。
【0026】
[角度変更手段19]
細胞培養装置10は、角度変更手段19(
図3参照)を有するものとすることができる。角度変更手段19は、第一の培養器11や、第二の培養器12の角度を変更してその向きを調整する。第一の培養器11や、第二の培養器12は、庫内などに配置することができる。この庫内に配置するとき、通常、第一の面と第二の面が、鉛直方向に直交するように配置することが考えられる。すなわち平面視したとき、第一の面と第二の面を正面に見る向きで配置する。これは、第一の培養器11や、第二の培養器12内に流通する培地が水平方向に移動する向きである。
【0027】
角度変更手段19を設けることで、この庫内の準備や取り出し等の操作を行うときの扉側から見たときに、第一の面や第二の面を正面にみることができるように回転させたり、第一の面や第二の面の上下を入れ替えるような回転をすることができる。この角度変更方向は、水平面で、庫内の扉側からみたとき直交する方向に軸を設けることで、90度程度回転させたとき扉側からみて第一の面や第二の面を正面視でき、180度回転させることで、上下を入れ替えることができる。上下を入れ替えると、10段など多数の段数を設けている第二の培養器を用いても、カメラ21で半分程度の層まで観察できれば、全ての層に関する観察像を得ることができる。また、培地の循環や、送出等の工程で、重力も利用して効率よく送出等する際にも有用である。
【0028】
図3に示す角度変更手段19は、水平面に第一の培養器11の第一面や、第二の培養器12の層をそろえた状態で配置し、平面視した状態である。載置台16に第一の培養器11および/または第二の培養器12を載置して、拘束板17で厚さ方向から抑えて、拘束板17の端を固定具171で固定する。第一の培養器11のみ、第二の培養器12のみ、または、第一の培養器11と第二の培養器12を重ねて載置し拘束し固定するものとすることができる。第一の培養器11や第二の培養器12を合わせて単に「培養器」と呼ぶ場合がある。載置台16を、第一の軸変更手段14により回転することができ、第二の軸変更手段15により、前記第一の軸変更手段14とは直交する向きで回転することができる。
【0029】
図4は、角度変更手段19上で角度を変更する状況を説明する図である。
図4(a)~
図4(c)は、第二の軸変更手段15により回転するときの配置を示す図である。
図4(d)~
図4(h)は、第一の軸変更手段14により回転するときの配置を示す図である。
【0030】
図4(a)は、培養器を左側面視した図である。載置台16に水平に置いた培養器を、左側面から見たとき右側に回転させて
図4(b)に示すように接続部が上下となるように鉛直方向に配置できる。また、左側面から見たとき左側に回転させて
図4(c)に示すように接続部が上下となるように鉛直方向に配置することができる。
【0031】
図4(d)は、培養器を平面視した図である。載置台16に水平に置いた培養器を、平面視したとき右側に回転させて
図4(e)に示すように接続部が上下となるように鉛直方向に配置できる。
図4(f)は、
図4(e)の配置の培養器を左側面視した図である。
【0032】
また、平面視したとき左側に回転させて
図4(g)に示すように接続部が上下となるように鉛直方向に配置することができる。
図4(h)は、
図4(g)の配置の培養器を左側面視した図である。
【0033】
第一の軸変更手段14と第二の軸変更手段15は、任意の角度で留めることができるようにそれぞれストッパを有するものとすることができる。また、いずれか一方のみを回転させて角度調整してもよいし、組み合わせて調整して、斜め方向の調整をおこなってもよい。
【0034】
このように角度変更手段19により、第一の培養器11の第一面および/または第二の培養器12の層の向きを、水平面に対して、複数の軸で角度を変更することができる。培地や細胞を培養器に充填した状態で、細胞を培養しながら、これらの角度変更を行うことで、培養器内の気体を重力も利用して接続部115、116(
図2参照)の上部としたほうを、ガス(気体)溜まり部として集約させる。これにより、培養器内の細胞が接触して培養する場となる第一の面や第二の面には気体が触れないようにして効率よく細胞培養できる。接続部115、116の気体は、配管111、112を介して除去してもよい。
【0035】
また、培養器の向きが変更されないと、培養器内での培地の流動方向に偏りが生じてしまう場合がある。角度変更手段19により角度変更すれば、
図4(f)や
図4(h)に二点破線で示すように、重力などの影響も受けて、単に接続部115、116をつなぐものとは異なる向きの循環も生じて、培養器全体で細胞を効率よく培養することができる。なお、これらの角度変更手段19は、水平方向や垂直方向など様々な向きで培養するときに加えて、充填時や、移動時、回収時などに効率よく送液するときにも活用できる。
【0036】
角度変更手段19による角度調節は、水平時を0度としたとき、各向きに±90度回転できることが好ましく、より好ましくは、180度回転できることが好ましい。特に±180度回転できれば、細胞観察時に、カメラや照明の角度は変えずに焦点高さの調整等により、多層を有する第二の培養器でも各層を観察できる。
【0037】
[細胞]
培養の対象となる細胞は、特に限定しないでもよい。細胞培養容器内に接着して培養することが好ましいため、接着性を有する細胞などが好適な培養対象となる。例えば、ES細胞や、iPS細胞、幹細胞(間葉系幹細胞など)、線維芽細胞、CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞、HEK293(ヒト胎児腎細胞293:Human Embryonic Kidney cells 293)細胞、脂肪細胞などが挙げられる。
【0038】
[培地]
細胞培養に用いる培地は、循環させるため液状培地のような流動性が高い培地であることが好ましい。培地の具体的な組成は、培養対象や、培養目的に応じて適宜調製したものを用いることができる。例えば、DMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)、MEM培地(Minimum Essential. Medium)、StemFit(登録商標)培地などや、これらを基に適宜成分調整を行ったり、培養目的等に応じて任意の成分を混合したものなどを用いることができる。
【0039】
[送液ライン]
送液ラインは、第一の培養器11に培地を送出するための配管111と第一の培養器11から培地を排出するための配管112とを有する。配管111は第一の培養器11の接続部115の開口部113に接続され、配管112は第一の培養器11の接続部116の開口部114に接続される。配管111や配管112等は、シリコーンチューブなどを用いることができる。また、角度変更手段19による角度変更に伴い培養器の接続部の位置も変わるため、その位置に対応して長さが調整されやすいように、シリコーン製などのコイルホース状のチューブを用いることが好ましい。
【0040】
[ポンプ43]
ポンプ43は、送液ライン内の培地を循環するポンプである。培地を第一の培養器11と、中空糸膜カートリッジ30との間で循環させるとき、切替弁41、切替弁42、および切替弁51を切り替えて、これらを接続する経路としてポンプ43により培地を循環させることができる。ポンプ43は、培地を送液できる任意のポンプを用いることができる。第一の培養器11や第二の培養器12の内容量や、培養する細胞の種類、培養する量等にもよるが、通常の培養容器の大きさに対しては、0.01mL/min~100mL/min程度の送液ができるものなどを用いることができる。
【0041】
この送液は、培養中、連続的に送液し続けるものでもよいし、断続的に送液するものでもよい。また、培養初期は、送液量を少なくして中空糸膜31でガス交換する培地の量を抑制し、培養後期は送液量を多くして中空糸膜31でガス交換する培地の量を増加させることができるように、送液量を適宜変更できるものや、プログラムして運転することができるものが好ましい。また、各配管での送液は、重量や、ポンプ回転数により必要量を管理等して送液することができる。
【0042】
ポンプ43の送液方向は、配管111から配管112側に流れるF1方向でもよいし、その反対としてもよい。なお、送液ポンプは、1台でもよいが送液量やガス交換の効率等を考慮して、適宜複数台設けてもよい。
【0043】
[中空糸膜31]
中空糸膜31が、第一の培養器11に接続された送液ライン内に配置される。中空糸膜31は、中空糸膜カートリッジ30内に設置されている。この中空糸膜カートリッジ30は、中空糸膜31を有し、中空糸膜31の内外に、それぞれ培地または調整用ガスを流通させることで、中空糸膜31を介して、培地と調整用ガスとのガス交換を行う。中空糸膜カートリッジ(いわゆる、ホローファイバーカートリッジ)は、複数の中空糸膜を有する中空糸束の両端がその中空部分を開口状態に保持されたまま中空部材内に固定されている。中空糸膜31の内層又は外層の一方に送液ラインにより循環される培地が流通され、その他方に調整用ガスが流通され、中空糸膜31を介して培地と調整用ガスとのガス交換が行われる。
【0044】
細胞培養装置10では、中空糸膜カートリッジ30の開口部331、332は、中空糸膜の外層に流通する流体の流路に連通させ、開口部321、322は中空糸膜の内層に流通する流体の流路に連通するものとして設計されている。このため、培地は、中空糸膜の外層を流通し、調整用ガスは内層を流通する。なお、中空糸膜カートリッジ30への配管を繋ぎ替え、中空糸の内層を培地が流通し、中空糸の外層が調整用ガスが流通するものとしてもよい。
【0045】
調製用ガスは、培地に供給しようとする酸素や二酸化炭素などを含む気体である。例えば、培地で消費されている酸素を供給するために空気でもよい。また、培養対象に応じて、適宜、酸素濃度や、窒素濃度、二酸化炭素濃度、湿度などを調整したものを用いてもよい。
【0046】
センサー341やセンサー342は、中空糸膜カートリッジ30に流入する培地や、中空糸膜カートリッジ30から流出する培地のガス濃度などを測定するためのセンサーであり、検出された指標に基づいて、測定手段35により、それらを数値化したり、他のガス制御手段36の調整量の指針などを指示する。この構成により、送液ラインで送液される培地の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素濃度測定手段と、溶存酸素濃度に基づき、酸素供給量を調整するものとすることができる。
【0047】
調製用ガスは、ガス制御手段36により調整して供給することができる。また、ガスタンク38には、制御対象のガスのガスタンクが設置されており、切替弁37は、ガスタンク38から供給されるガスの濃度や量、要否に応じた切替を行う。
【0048】
また、このとき、調整用ガスから不純物等が流入したり、ガス交換されたガス中の不純物や副生物を除去するために、適宜、フィルターを介してガス交換手段に導入・導出するガスを調整することもできる。
【0049】
細胞培養装置10は、細胞培養中に、実質的に細胞培養容器等に含まれる培地が外気と接する場が、中空糸膜31のみとする構成のため、この中空糸膜31内のガスの制御や管理を行うだけで培養系の管理ができる点で優れている。
【0050】
これは、例えば、細胞培養容器を常温低湿度の環境においたままの安定した培養もできることを意味し、細胞培養しながら顕微鏡観察を容易に行ったり、細胞培養環境の清浄度が低くともガス交換手段のみ清浄度を高くすることで細胞培養の系内は汚染されない培養ができるといった利点を有する。
【0051】
このような第一の培養器や第二の培養器、中空糸膜とその循環ラインなどを有する細胞培養のための構成は、例えば、特開2020-68741号公報の細胞培養装置、およびその細胞培養方法を参照したものとすることができる。
【0052】
[カメラ21]
細胞培養装置10は、カメラ21を有する。カメラ21は、第一の培養器11内の細胞を観察するためのものである。カメラ21は、第一の培養器11の第一の面や第二の面に対して直交する向きから観察する配置とすることが好ましい。カメラ21は、観察位置の細胞を拡大して観察することができるように、倍率を調整できる対物レンズなどを備えたものとすることができる。また、位相差観察ができるように位相差板などを備えたものとすることができる。
【0053】
[照明22]
細胞培養装置10は、照明22を有する。第一の培養器11を挟みカメラ21の反対側から第一の培養器11を照射する。照明は、観察位置の細胞の照度を高い状態としたり、位相差観察などをしやすいように照射するために、リング絞りやコンデンサレンズなどを有するものとすることができる。
【0054】
カメラ21、照明22は、照明22の光線方向にカメラ21が配置されるように連動して移動もできるものとしてもよいし、適宜、照射する光を調整するために個別に移動もできるものとしてもよい。カメラ21と照明22は、第一の培養器11や第二の培養器12の任意の位置を観察することができるように、XYZステージ23上を移動することができ、カメラ21のオートフォーカスにも対応して移動もする。
図5は、カメラ21、照明22が第二の培養器12を観察するための位置に移動した状態である。
【0055】
カメラ21や照明22は、細胞の観察をするとき、第一の培養器11や第二の培養器12の層内のカメラ21が観察する位置が細胞を含む培地で充填されている状態とすることが好ましい。細胞培養装置10は第一の培養器11や第二の培養器12内に空気層が含まれず培地が充填されていても、中空糸膜31によりガス交換することができ連続して細胞培養できる。また、培地が充填されることで、第一の面や第二の面(上下の面)に細胞が接着した状態で培養できるため、細胞培養の足場がより広く空間を活用した培養ができる。細胞培養装置10は、レンズの焦点を調整することで、第一の面や第二の面の任意の面の細胞を観察することができる。また、培地が充填されると空気層との界面が無いため、光学的な手段でもより広範に厚み方向の細胞の培養状態を観察することができる。
【0056】
カメラは培養器の観察位置に気泡や気相が無い状態で観察することが好ましい。このため培養器の第一の面と第二の面とが、水平方向に対して傾いた姿勢に制御することが好ましい。そして、この傾いた位置で培養状況を観察する位置にカメラを配置することが好ましい。培養器が水平の場合、鉛直方向上側の面に気体や気相が生じやすく、観察位置に気泡などが残りやすくなる。
【0057】
しかし、培養器が傾いた状態であれば、気体は培養器の鉛直方向の上側に移動する。このため、培養器の面の中央付近などで細胞を観察しやすくなる。例えば、
図14に示すように、培養器の第一の面と第二の面とが、水平方向と垂直となるように配置して、カメラの観察方向を水平方向とすれば、気体や気泡の影響がない観察ができる。このような構成は、特に多層の培養器を用いるとき有効である。
【0058】
培養器の第一の面や第二の面、積層された各層が、水平方向となす角度は、その鋭角が30度以上が好ましく、45度以上や、60度以上、70度以上、80度以上のようにより大きく傾斜しているほうが好ましい。最も好ましくは直角とすることが好ましい。
【0059】
[細胞の培養状態]
図6は、細胞培養条件による細胞の培養状態の観察例を示す像である。細胞は、間葉系幹細胞を培養したものである。左から順に、通常培養、洗浄不足、培地劣化、CO
2(二酸化炭素)0%、CO
210%としたときの状態である。培養状態により細胞の数や形状に差が生じる。一方で、細胞の個体差もあり熟練者であってもこれらの像を見るだけでは判別しにくい場合もある。
【0060】
[判別手段24]
細胞培養装置10は、判別手段24を有するものとすることができる。判別手段24は、カメラ21により観察された細胞の状態を判別する。
図6に示すように、細胞は培養条件などの影響により増殖状況が変わる。その増殖状況を、判別手段で判別することで、その細胞が、その後、順調に増えるか、あるいは培養が適切に進行しない状態かを見分けて、培養を継続するか、停止して再度播種からやり直すか、培養条件の変更を行うかなどの処理を行う。
【0061】
細胞の培養状態は、カメラ21で撮像した画像から、細胞の楕円形度・凹凸度・中心の丸さ・扁平度など複数のパラメーターとしてデータ処理を行うことで、培養中の細胞品質を数値化や指標化することができる。または、培養開始から第一の所定時間の観察画像と、第二の所定時間との培養結果を教師データとして機械学習等した情報を利用することで、観察画像から培養状態を予測する。第一の所定時間は培養初期の観察画像を用いることができ、例えば、培養開始から1~48時間程度、好ましくは12~36時間、さらに好ましくは20~30時間から設定した時間を第一の所定時間として、そのときの観察画像を用いることができる。また、第二の所定時間は、培養器の細胞培養の場で培養できる細胞量の効率等を考慮した時間を設定できる。例えば、3~14日や、5~10日などとすることができ。設定した培養期間のときの培養結果を判断したものや細胞数などを用いることができる。
【0062】
このような細胞培養状況に関する画像処理を利用した判別には、例えば特開2016-189710号公報や特開2016-101565号公報、特許3909604号公報、特許4975705号公報などを参照することができる。
【0063】
[ポンプ13]
細胞培養装置10は、ポンプ13を有する。ポンプ13は、第一の培養器11から、第二の培養器12に、第一の培養器で培養された細胞を移動させるためのポンプである。
このポンプ13や、培地供給手段54や試薬供給手段55から、移送するための培地等を供給しながら移動させることができる。第二の培養器12に移動させたら、ポンプ43および中空糸膜31を、第二の培養器12に培地を送出するための配管121(122)と第二の培養器12から培地を排出するための配管122(121)とを有する。切替手段は、例えば、第一の培養器11と中空糸膜カートリッジ30を接続した状態から、第二の培養器12と中空糸膜カートリッジ30とを接続した状態への切り替えは、切替弁41、42を切り替えて繋ぎ替えることで切り替えることができるものとすることができる。
【0064】
ポンプ13は、判別手段24により判別された細胞の状態が、正常と判断された場合、複数の層を有する第二の培養器12に第一の培養器11の内部の培養液を送出する送出手段として用いることができる。判別手段24の判別結果により判別された培養結果が異常と判断された場合、培養を中止する停止手段を有するものとすることができる。
【0065】
[培地供給手段54]
培地供給手段54は、培地やトリプシンなどの細胞培養に利用される成分を供給する手段である。第一の培養器11や第二の培養器12に、培養開始時や、培地中の栄養成分などが消費しつくされたとき、切替弁531や、切換弁532、切替弁51などを切り替えて、ポンプ52を用いて培地等を供給する。
【0066】
[試薬供給手段55]
試薬供給手段55は、細胞培養の段階に応じた各種試薬等を供給する手段である。例えば、PBS(Phosphate Buffered Saline; リン酸緩衝食塩水)などの緩衝剤や、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)などのキレート剤、培養器の壁面から細胞を剥離する剥離剤などを含む容器などと接続されている。第一の培養器11や第二の培養器12に培養されている細胞の培養状態や、培養時間等に応じて、切替弁531や切替弁532、切替弁51などを切り替えて、ポンプ52を用いて各種試薬等を供給する。
【0067】
[調温手段56]
培地供給手段54の培地や、試薬供給手段55の試薬などは、適宜冷蔵保存等されている。一方、第一の培養器11や第二の培養器12の培養中は、細胞等に応じて、30~40℃などとして培養される。このため、培地や試薬の供給の途中に、調温手段56をもうけて、加熱等の温度調整を行って、供給することが好ましい。
【0068】
調温手段は、調温する温度や、培地等の保存時の温度、流量などにより、その位置を調温手段56以外の位置に適宜変更してもよい。流動中に配管内での調温が不足する場合、切替弁531の手前の培地供給手段54や試薬供給手段55で、各培地や試薬の直接調温や、これらを調温するための槽を設けて、その槽内で調温したものを供給してもよい。
【0069】
[排液手段63、回収手段66]
細胞培養が完了した後や、異常と判断されたときなどで培養を停止するときは、第一の培養器11や第二の培養器12から、細胞を回収手段66に回収したり、排液手段63に排液することができる。
【0070】
排液するときは、例えば、異常が発生して培養を停止するときや、細胞培養が完了して培養に用いた培地のみを廃棄するときなどである。排液するときは、例えば、第一の培養器11の配管112側や第二の培養器12の配管122側の連結部を下側として、収容されている液を配管112、122側に重力で集めて、排液のためのポンプ62で引き出して、排液手段63に排液することができる。
【0071】
また、回収するときは、細胞培養が完了したときなどである。適宜、培養器内の培地を、新鮮な培地に置き換えて、試薬供給手段55から、剥離液などを供給して培養器の壁面に接着している細胞を剥離する。その後、培地などの回収用の液体で剥離液の中和等行って、配管111や配管121の連結部を下側として、収容されている液を配管111、121側に集めて、切換弁531、532等を適宜切替えて、ポンプ52を回収手段66に向けて送出するものとして運転することで、回収手段66に細胞等を回収することができる。なお、培地供給手段54、試薬供給手段55、回収手段66は、適宜、冷蔵等の温度管理を行ったり、高い清浄度で管理したほうがよいものが多いため、これらの槽などを物理的に集約した庫内などに配置することで、効率よく、培養の安定性や、培養される細胞の品質などを向上させることができる。
【0072】
培養器への、細胞や培地等を送液するときは、培養器内の気体を外部に排出する必要がある。一方、培養が終了したときや継代するときは、培養器内の細胞や培地を培養器から排液することに伴い、切替弁41、51に加えてフィルター45に接続した切替弁44、また切替弁42、61に加えてフィルター65に接続した切替弁64を用いて配管を切り替えて、置換用の気体の送出、排出をおこなって、培養器内を置き換えることができる。
【0073】
排液手段63やフィルター65等に接続した切替弁61や、切替弁64の間の配管などには、気泡センサーを設けることが好ましい。この気泡センサーにより、充填時に気泡が減ったり、無くなったりして、脱気されていることを確認してもよい。または、回収液に含まれる気体を低減したり、回収が完了したことを確認したりするために、回収液に気体が含まれているかを確認してもよい。脱気を行う場合、脱気するためのラインを設定して培地等を供給する。またこのとき、減圧処理をして、脱気を行ってもよい。また、特に気体を排除したい培養器は、気相が接続口から排除されやすいように一方の接続口を鉛直方向上側に配置するように傾けることも有効である。
【0074】
また、培地や培養液等の供給ラインや回収ラインなどには、適宜、成分センサーを用いてもよい。本発明に係る培養方法や培養装置は、培養容器内の培地が循環しているため、培養容器内の成分をモニタリングしながら培養できる点でも優れている。このため、成分センサーは、循環ラインや、適宜排液ライン等に配置することができる。成分センサーが評価する成分としては、酸素濃度や、二酸化炭素濃度、培地の栄養成分、細胞培養により増減する成分などを対象とすることができる。
【0075】
[濃縮手段]
回収した細胞を含む培地は、細胞を濃縮する濃縮手段を有するものとすることができる。濃縮手段としては、遠心機や、メッシュフィルターなどを用いることができる。メッシュフィルターの材質は、金属メッシュやメンブレンフィルターなどを用いることができる。
【0076】
細胞培養装置10は、各構成の機能をモニタリングしながら所定の条件で自動培養を行うために、制御や記憶を行うものとすることができる。このために、入力部や出力部、制御部、記憶部、表示部を備えるパーソナルコンピュータ等を用いて、自動運転することができる。培養中、例えば、培地供給は、1~4時間程度を単位時間として、その単位時間中に培地が10~30分間循環し、その他の時間は循環を停止するような運転などを行うこともできる。また、培養器の上下の向きを12時間ごとや24時間ごとなどで変更したり、ポンプの送出方向を切り替えて、培地の流れを反転させて培養所湯体の偏りを防止してもよい。
【0077】
[細胞培養方法のフロー]
図7~9は、本発明の実施形態に係る細胞培養方法のフロー図である。このフローは、
図1~5に示す細胞培養装置10を用いて培養をする例である。また、第一の培養器11で初期培養を行って、その後、第二の培養器12に継代して大量培養することを想定した構成を典型的な例として説明する。なお、継代を行う必要が無いときは、第一の培養器11内や第二の培養器12内で、適宜、培養状況を観察等しながらそれぞれ培養を行ってもよい。
【0078】
図7は、第一の培養器11で予備培養を行った後、観察状態を確認して、その状況に応じて、第二の培養器に継代して大量培養を行う場合のフロー図である。
ステップS11は、第一の培養器に細胞播種する工程である。このとき、初期培養に必要な培地等を合わせて供給する。次に、ステップS21は、第一の培養器で細胞を培養する第一の培養工程である。このとき、第一の培養器11と中空糸膜カートリッジ30とを接続し、中空糸膜31により培地の酸素濃度や二酸化炭素濃度などを調整する。ステップS31は、カメラ21や照明22を用いて、第一の培養工程で培養された細胞の培養状態を観察する工程である。次に、ステップS32は、判別手段24で、第一の培養器11の培養状態が正常な増殖かを判別する判別工程である。
【0079】
ステップS41は、ステップ32での判別結果が正常な場合(Yes)、培養を継続する継続培養工程である。一方、ステップS42は、ステップS32での判別結果が異常な場合(No)、培養を停止する工程である。異常な場合、培養を停止し、適宜、第一の培養器11や循環ラインなどを洗浄して終了する。
【0080】
ステップS51は、ステップS41で継続培養工程を行い、細胞が十分に培養されたとき、第一の培養器11から、複数の層を有する第二の培養器12に培養された細胞を継代するように送出する送出工程である。ステップS61は、第二の培養器12で、細胞を培養する第二の培養工程である。この培養により、第一の培養器11で初期培養され、順調に培養されている場合、その細胞を培養空間が十分に大きい第二の培養器12で大量に培養することができる。
【0081】
ステップS91は、細胞を回収濃縮する工程である。培養された細胞は、回収されて濃縮することで、培養対象の細胞を大量に得ることができる。また、これらの培養工程は、細胞培養装置10を用いて自動で行うことができる。
【0082】
図8は、第一の培養器11で予備培養を行い、第二の培養器12に継代したのち、第二の培養器12での培養状況の観察状態を確認して、その状況に応じて、大量培養を行う場合のフロー図である。
図7に示すフローに準じて、ステップS32を省略して、ステップS51の細胞の継代、ステップS61の細胞の培養を行う。その後、ステップS71で第二の培養器の細胞の培養状態を観察する。次に、ステップS72は、その培養状態について、正常な増殖かを判別する。判別結果が正常な場合(Yes)、ステップS81の培養を継続する継続培養工程を行う。一方、ステップS72での判別結果が異常な場合(No)、ステップS82は培養を停止する工程である。異常な場合、培養を停止し、適宜、第二の培養器12や循環ラインなどを洗浄して終了する。
【0083】
図9は、第一の培養器11で予備培養を行った後、観察状態を確認して、その状況に応じて、第二の培養器に継代し、さらに、第二の培養器で培養し、観察状態を確認して、その状況に応じて大量培養を行う場合のフロー図である。
図9のフローでは、
図7に示すステップS32の判別や、
図8に示すステップS72の判別なども行い、各培養ステージに応じた判別を行う。
【実施例0084】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
[実施例1]
[培養装置構成]
第二の培養器:20cm*25cm*間隔4mm 10段
中空糸膜:シリコーン製の中空糸膜を内蔵するシリコーン中空糸ガス分離膜(永柳工業株式会社製「M60(膜本数:4500本)」)を用いた。
【0086】
[培養条件]
細胞:脂肪由来間葉系幹細胞
培地:Takara社 間葉系幹細胞増殖培地2
培養中の運転条件:細胞を両面につけるために一方の面を下側とした状態で9分経過後に反転させて他方の面を下側とした。培養の温度は37℃とした。中空糸膜でガス交換するガスは、酸素20%、二酸化炭素5%、加湿なしで調整したガスとした。
培養期間:合計5日間
培養容器の方向:播種から24時間内は水平とし、24時間後は縦向き(
図4(g)参照)として培養した。
【0087】
(1)T225フラスコで初期培養した細胞を剥がして、遠心機で細胞を濃縮して、2Lの細胞液を用意した。ポンプを用いて10段の培養器(第二の培養器)へ細胞液を送液した。培養器は角度変更手段(
図3、4参照)にセットし、角度を調整しながら細胞液を入れた。最後に泡を出すために、角度を調整した。
(2)培養器を水平の状態で37℃のインキュベータへいれ、両面に細胞を接着させるために9分後に180度反転させ上下の面を入れ替えた。そのまま24時間保持して培養した。
(3)24時間後に角度変更手段の方向を変えて培養器が垂直方向になるように縦向きにした培養を開始した。
(4)培地循環は次の条件とした。ポンプのスピードは50mL/分、頻度3時間に一回30分間循環させた。また、一日一回、培養器の上下(
図4(e)~(h)参照)を入れ替えた。
(5)顕微鏡観察を、播種24時間後に行った。観察像は以下に説明する。なお、24時間時点での培養状態はいずれの層も良好と判断されたため、継続して培養を行った。
(6)5日間培養後に、培養器から細胞を回収した。
【0088】
上記条件で、第二の培養器で自動培養し、第二の培養器の培養状態を、カメラで観察した。
培養時の上段側から順に、1段目~10段目とする。また、この配置での上側を第一の面、下側を第二の面とする。カメラで、10段目の下側の第二の面(10-2)から順に、10段目の上側第一の面(10-1)と、連続して撮影して、5段目の上側の第一の面(5-1)まで撮影した。
その後、回転機構で1段目が下側、10段目が上側となるように第二の培養器を180度回転させた。このとき、180度回転させているため、第一の面が下側、第二の面が上側の配置となる。この状態で、カメラで1段目の第一の面(10-1)から順に、1段目の第二の面(1-2)、6段目の第一の面(6-1)まで撮影した。
これらの撮影画像を
図10~13に示す。第二の培養器は、10段あるがいずれの層の培養状態も観察することができ、いずれも細胞が順調に培養されており、自動で大量生産でき、それを観察できることが確認された。
【0089】
図14は、本発明に係る細胞培養装置の具体例を示す像である。
図14(a)は、正面側からの斜視図である。
図14(b)は、正面・平面・右側面側からの斜視図である。
図14(c)は平面側からの斜視図である。この培養状態では、培養器の第一の面や第二の面、各層が、水平方向とほぼ直角となるように傾けている。これにより、培養器内に仮に気体が含まれたり、気体が生じても、鉛直方向上側に気体は集まる。このため、カメラは、各層の各面に接着している細胞などを気相のノイズを排除して効率よく観察することができる。