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特開2022-90191粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出する方法及びそのためのキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090191
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出する方法及びそのためのキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20220610BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N33/543 525W
G01N33/543 525U
G01N33/543 501J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202418
(22)【出願日】2020-12-07
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 雄太
(72)【発明者】
【氏名】藤本 宏隆
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝明
(57)【要約】
【課題】本発明は、非特異的シグナルの発生を抑え、高い感度で粒状物質を検出する方法を提供することを目的としている。
【解決手段】イムノクロマトグラフィー法に使用するテストストリップのメンブレンを、以下の式:
(式中、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のヒドロキシアルキル基であり、nは1~4の整数である)
で表される置換基を側鎖に有し、かつ1×103~1×107の重量平均分子量(Mw)を有するポリマー系ブロッキング剤を含むブロッキング用組成物によってブロッキングすることにより、バックグラウンドの非特異的シグナルの発生を抑制することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同じであっても異なってもよい第一の結合対象物質及び第二の結合対象物質を含む結合対象物質を表面上に複数備える粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出する方法であって、
- 前記第一の結合対象物質に対する第一の特異的結合物質が固定されているメンブレンを備えるテストストリップを用意する工程と、
- 前記第二の結合対象物質に対する第二の特異的結合物質であって、標識物質に結合している前記第二の特異的結合物質を用意する工程と、
- 前記粒状物質を含む試料と、前記第一の特異的結合物質とを接触させて、前記粒状物質を前記メンブレン上に捕捉する工程と、
- 前記粒状物質と、前記第二の特異的結合物質とを接触させて、前記粒状物質を標識する工程と、
- 前記メンブレン上に捕捉されかつ標識された前記粒状物質を検出する工程と
を含み、前記メンブレンが、以下の式:
【化1】
(式中、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のヒドロキシアルキル基であり、nは1~4の整数である)
で表される置換基を側鎖に有し、かつ1×103~1×107の重量平均分子量(Mw)を有するポリマー系ブロッキング剤を含むブロッキング用組成物によってブロッキングされている、方法。
【請求項2】
前記粒状物質が、細胞外小胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞外小胞が、エクソソームである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記検出工程が、化学発光又は蛍光を測定することにより行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記標識工程が、前記ポリマー系ブロッキング剤の存在下で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマー系ブロッキング剤が、リピジュア(登録商標)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ブロッキング用組成物が、追加のブロッキング剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
互いに同じであっても異なってもよい第一の結合対象物質及び第二の結合対象物質を含む結合対象物質を表面上に複数備える粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出するためのキットの製造方法であって、
- 前記第一の結合対象物質に対する第一の特異的結合物質が固定されているメンブレンを備えるテストストリップを用意する工程と、
- 前記メンブレンをブロッキングするために、以下の式:
【化2】
(式中、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のヒドロキシアルキル基であり、nは1~4の整数である)
で表される置換基を側鎖に有し、かつ1×103~1×107の重量平均分子量(Mw)を有するポリマー系ブロッキング剤を含むブロッキング用組成物を用意する工程と
を含む、製造方法。
【請求項9】
前記メンブレンを、前記ブロッキング用組成物によってブロッキングする工程をさらに含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記第二の結合対象物質に対する第二の特異的結合物質であって、標識物質に結合している前記第二の特異的結合物質を用意する工程と、前記第二の特異的結合物質を、前記ブロッキング用組成物によってブロッキングする工程とをさらに含む、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
互いに同じであっても異なってもよい第一の結合対象物質及び第二の結合対象物質を含む結合対象物質を表面上に複数備える粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出するためのキットであって、
- 前記第一の結合対象物質に対する第一の特異的結合物質が固定されているメンブレンを備えるテストストリップと、
-前記第二の結合対象物質に対する第二の特異的結合物質であって、標識物質に結合している前記第二の特異的結合物質と、
を含み、前記メンブレンをブロッキングするために、以下の式:
【化3】
(式中、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のヒドロキシアルキル基であり、nは1~4の整数である)
で表される置換基を側鎖に有し、かつ1×103~1×107の重量平均分子量(Mw)を有するポリマー系ブロッキング剤を含むブロッキング用組成物をさらに含んでいるか、又は、前記メンブレンが、前記ブロッキング用組成物によってブロッキングされている、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出する方法及びそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞外小胞やウイルスなどの粒状物質は、イムノクロマトグラフィー法によって検出され得る(特許文献1及び2並びに非特許文献1及び2)。イムノクロマトグラフィー法は、ウェスタンブロッティングやELISAと比較して迅速な検出を可能とする試験方法であり、対象の粒状物質を単離しなくても検出が可能である点や、特定の非検出物質を表面上に備える粒状物質を他の粒状物質と区別して検出することが可能である点などでNanoSightなどによる計測よりも優れている。また、細胞外小胞のエクソソームは、血液や尿の他、母乳、唾液、涙などのあらゆる体液中に含まれている粒状物質であるが、これは細胞に固有のマイクロRNAを含んでいることが知られているため、体液を利用したがん診断におけるターゲット物質としても注目されている。
【0003】
検査の高感度化が進むと、疾病の早期発見や予防に有用であるだけでなく、検査に必要な検体量を低減することができるため被検者の負担軽減も期待される。特許文献3及び4には、ホスホリルコリン基などを有するポリマー系ブロッキング剤が、非特異的吸着を抑制できる旨、又は、生化学反応を促進できる旨が記載されている。しかしながら、特許文献3及び4には、当該ポリマー系ブロッキング剤をイムノクロマトグラフィー法に使用することも、粒状物質の検出に使用することも記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-230280号公報
【特許文献2】特願2019-163068号
【特許文献3】特許第6248603号公報
【特許文献4】特許第4622054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
表面に抗原を複数備える粒状物質は、単なるタンパク質とは異なり接地面が大きいため非特異的シグナルを発生しやすく、特に当該粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出する際に高い強度での検出を試みると、バックグラウンドの非特異的シグナルも増大されてしまうため、検出部位での感度はむしろ低下してしまう。そこで、本発明は、非特異的シグナルの発生を抑え、高い感度で粒状物質を検出する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のブロッキング剤が、粒状物質の検出、特にイムノクロマトグラフィー法による検出において、バックグラウンドの非特異的シグナルの抑制に効果的であることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出する方法、そのためのキットの製造方法、及びそのためのキットを提供するものである。
〔1〕互いに同じであっても異なってもよい第一の結合対象物質及び第二の結合対象物質を含む結合対象物質を表面上に複数備える粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出する方法であって、
- 前記第一の結合対象物質に対する第一の特異的結合物質が固定されているメンブレンを備えるテストストリップを用意する工程と、
- 前記第二の結合対象物質に対する第二の特異的結合物質であって、標識物質に結合している前記第二の特異的結合物質を用意する工程と、
- 前記粒状物質を含む試料と、前記第一の特異的結合物質とを接触させて、前記粒状物質を前記メンブレン上に捕捉する工程と、
- 前記粒状物質と、前記第二の特異的結合物質とを接触させて、前記粒状物質を標識する工程と、
- 前記メンブレン上に捕捉されかつ標識された前記粒状物質を検出する工程と
を含み、前記メンブレンが、以下の式:
【化1】
(式中、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のヒドロキシアルキル基であり、nは1~4の整数である)
で表される置換基を側鎖に有し、かつ1×103~1×107の重量平均分子量(Mw)を有するポリマー系ブロッキング剤を含むブロッキング用組成物によってブロッキングされている、方法。
〔2〕前記粒状物質が、細胞外小胞を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記細胞外小胞が、エクソソームである、前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記検出工程が、化学発光又は蛍光を測定することにより行われる、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の方法。
〔5〕前記標識工程が、前記ポリマー系ブロッキング剤の存在下で行われる、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の方法。
〔6〕前記ポリマー系ブロッキング剤が、リピジュア(登録商標)である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の方法。
〔7〕前記ブロッキング用組成物が、追加のブロッキング剤をさらに含む、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の方法。
〔8〕互いに同じであっても異なってもよい第一の結合対象物質及び第二の結合対象物質を含む結合対象物質を表面上に複数備える粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出するためのキットの製造方法であって、
- 前記第一の結合対象物質に対する第一の特異的結合物質が固定されているメンブレンを備えるテストストリップを用意する工程と、
- 前記メンブレンをブロッキングするために、以下の式:
【化2】
(式中、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のヒドロキシアルキル基であり、nは1~4の整数である)
で表される置換基を側鎖に有し、かつ1×103~1×107の重量平均分子量(Mw)を有するポリマー系ブロッキング剤を含むブロッキング用組成物を用意する工程と
を含む、製造方法。
〔9〕前記メンブレンを、前記ブロッキング用組成物によってブロッキングする工程をさらに含む、前記〔8〕に記載の製造方法。
〔10〕前記第二の結合対象物質に対する第二の特異的結合物質であって、標識物質に結合している前記第二の特異的結合物質を用意する工程と、前記第二の特異的結合物質を、前記ブロッキング用組成物によってブロッキングする工程とをさらに含む、前記〔8〕又は〔9〕に記載の製造方法。
〔11〕互いに同じであっても異なってもよい第一の結合対象物質及び第二の結合対象物質を含む結合対象物質を表面上に複数備える粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出するためのキットであって、
- 前記第一の結合対象物質に対する第一の特異的結合物質が固定されているメンブレンを備えるテストストリップと、
-前記第二の結合対象物質に対する第二の特異的結合物質であって、標識物質に結合している前記第二の特異的結合物質と、
を含み、前記メンブレンをブロッキングするために、以下の式:
【化3】
(式中、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のヒドロキシアルキル基であり、nは1~4の整数である)
で表される置換基を側鎖に有し、かつ1×103~1×107の重量平均分子量(Mw)を有するポリマー系ブロッキング剤を含むブロッキング用組成物をさらに含んでいるか、又は、前記メンブレンが、前記ブロッキング用組成物によってブロッキングされている、キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従えば、イムノクロマトグラフィー法に使用するテストストリップのメンブレンを、特定のポリマー系ブロッキング剤を含むブロッキング用組成物によってブロッキングすることにより、バックグラウンドの非特異的シグナルの発生を抑制することができる。したがって、イムノクロマトグラフィー法によって、粒状物質を高い感度で検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】エクソソームを含む試験液(+)又はエクソソームを含まない対照液(-)を展開したメンブレンの発光後の写真を示す。
図2】イムノクロマトグラフィー法によってエクソソームを検出したときの、S/N比のグラフを示す。
図3】イムノクロマトグラフィー法によってエクソソームを経時的に検出したときの、発光後のメンブレンの写真を示す。
図4】イムノクロマトグラフィー法によってエクソソームを経時的に検出したときの、バックグラウンド強度のグラフを示す。
図5】イムノクロマトグラフィー法によってエクソソームを経時的に検出したときの、検出強度のグラフを示す。
図6】イムノクロマトグラフィー法によってエクソソームを経時的に検出したときの、検出強度のグラフを示す。
図7】イムノクロマトグラフィー法によってエクソソームを経時的に検出したときの、発光後のメンブレンの写真を示す。
図8】イムノクロマトグラフィー法によってエクソソームを経時的に検出したときの、検出強度のグラフを示す。
図9】エクソソームをLIPIDURE(R)存在下で標識したときの、発光後のメンブレンの写真を示す。
図10】球状金ナノ粒子標識マウス抗CD9抗体によって検出したときの、メンブレンの写真を示す。
図11】ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)をイムノクロマトグラフィー法による検出対象としたときの、発光後のメンブレンの写真を示す。
図12】ELISA法によりエクソソームを検出しようとしたときの、発光後のウェルの写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出する方法に関している。本明細書に記載の「イムノクロマトグラフィー法」とは、試料中の対象物質をそれに特異的に結合する物質を使用して検出する方法であって、当該試料をメンブレン上で移動させて対象物質を分離するラテラルフロー型の検出方法だけでなく、当該試料をメンブレンに垂直に移動させて対象物質を分離するフロースルー型(バーティカルフロー型)の検出方法のこともいう。本明細書に記載の「粒状物質」とは、前記イムノクロマトグラフィー法によって検出可能な大きさの粒状の物質のことをいい、前記粒状物質は、表面上に少なくとも1種の結合対象物質を複数備えている。前記結合対象物質は、互いに同じであっても異なってもよい第一の結合対象物質及び第二の結合対象物質を含む。前記粒状物質の粒径は、特に限定されないが、例えば、約10μm以下であってもよく、ある態様では、約5μm以下、約1μm以下、約500nm以下、又は約200nm以下であってもよい。具体的には、前記粒状物質は、例えば、エクソソーム、微小胞、アポトーシス小体、及びラージオンコソームなどの細胞外小胞であってもよく、ライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、エンテロウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、B型肝炎ウイルス、ジカウイルス、及びデングウイルスなどのウイルスであってもよく、クラミジア、梅毒トレポネーマ、溶連菌、炭疽菌、黄色ブドウ球菌、赤痢菌、大腸菌、サルモネラ菌、ネズミチフス菌、パラチフス菌、緑膿菌、及び腸炎ビブリオ菌などの細菌であってもよい。
【0010】
前記粒状物質を含む試料は、イムノクロマトグラフィー法に供することができるものであれば、特に制限なく採用することができ、例えば、本発明の検出方法に適用する試料として、生体又は培養液などから採取した試料をそのまま採用してもいいし、ろ過や遠心分離などの前処理により精製、部分精製、又は濃縮された試料を採用してもよい。具体的には、前記試料は、例えば、血液(全血、血清、又は血漿)、脳髄液、涙、母乳、肺胞洗浄液、悪性胸膜滲出液、滑液、尿、羊水、腹水、精液、唾液、及びリンパ液などの体液、組織切片の保存液、又は、細胞培養上清などであってもよい。
【0011】
本発明の検出方法は、
- 前記第一の結合対象物質に対する第一の特異的結合物質が固定されているメンブレンを備えるテストストリップを用意する工程と、
- 前記第二の結合対象物質に対する第二の特異的結合物質であって、標識物質に結合している前記第二の特異的結合物質を用意する工程と、
- 前記粒状物質を含む試料と、前記第一の特異的結合物質とを接触させて、前記粒状物質を前記メンブレン上に捕捉する工程と、
- 前記粒状物質と、前記第二の特異的結合物質とを接触させて、前記粒状物質を標識する工程と、
- 前記メンブレン上に捕捉されかつ標識された前記粒状物質を検出する工程と
を含み、前記メンブレンが、特定のポリマー系ブロッキング剤を含むブロッキング用組成物によってブロッキングされている。
【0012】
本発明の検出方法に使用される前記ポリマー系ブロッキング剤は、いわゆる免疫化学測定法において非特異的なシグナルを抑えるために使用されるブロッキング剤のうち、特に人工的に合成されたポリマーであって、以下の式:
【化4】
(式中、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のヒドロキシアルキル基であり、nは1~4の整数である)
で表される置換基、好ましくはホスホリルコリン基を側鎖に有し、かつ約1×103~約1×107、好ましくは約5×103~約1×106の重量平均分子量(Mw)を有している。ある態様では、前記ポリマー系ブロッキング剤は、カチオン性側鎖、アニオン性側鎖、水素結合性側鎖、及び、疎水性側鎖からなる群から選択される少なくとも一種の追加の側鎖をさらに有していてもよい。前記ポリマー系ブロッキング剤としては、特に限定されないが、例えば、日油株式会社製のリピジュア(登録商標)(LIPIDURE(R))、好ましくは高分子LIPIDURE(R)-BLシリーズのブロッキング剤を使用してもよい。前記ポリマー系ブロッキング剤は、前記粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出するという特定の場面において、バックグラウンドの非特異的シグナルの発生を効果的に抑制することができる。
【0013】
なお、前記ポリマー系ブロッキング剤の重量平均分子量の測定方法は特に限定されず、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOFMS)などの質量分析装置などによって測定することができる。より具体的には、前記ポリマー系ブロッキング剤が0.5質量%になるように0.1Mの硝酸ナトリウム水溶液で希釈し、0.45μmのセルロースアセテートカートリッジフィルターでろ過後、以下の条件でGPCにより測定することができる。
装置:HLC-8320GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel guardcolumn PWXL(6.0mmI.D.×4cm)+TSKgel GMPWXL(7.8mmI.D.×30cm)×2本(東ソー株式会社製)
移動相:0.1M 硝酸ナトリウム水溶液
標準物質:標準PEO/PEG(Agilent Technologies製)
検出条件:RI検出器 polarity(+)
流速:1.0mL/分
カラム温度:40℃
試料溶液注入量:100μL
測定時間:25分間
【0014】
ある態様では、前記ブロッキング用組成物は、追加のブロッキング剤をさらに含む。前記追加のブロッキング剤としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記追加のブロッキング剤は、ウシ血清アルブミン(BSA)、スキムミルク、カゼイン、又は市販のブロッキング試薬などであってもよい。これらの追加のブロッキング剤を前記ポリマー系ブロッキング剤と併せて使用することで、バックグラウンドの非特異的シグナルの発生をさらに抑制することができる。
【0015】
本発明の検出方法が対象とする前記粒状物質において、前記第一の結合対象物質と前記第二の結合対象物質が同じである場合、前記第一の結合対象物質における前記第一の特異的結合物質の結合部位は、前記第二の結合対象物質における前記第二の特異的結合物質の結合部位と同じであってもいいし、異なっていてもよい。両結合部位が同じであっても、前記粒状物質は、前記結合対象物質を表面上に複数備えているので、前記第一の特異的結合物質により捕捉した後にも、前記第二の特異的結合物質により標識することが可能となっている。
【0016】
前記第一の特異的結合物質は、前記メンブレン上に固定されているものであり、前記第一の結合対象物質を有している粒状物質をメンブレン上に捕捉することができる。前記メンブレンとしては、イムノクロマトグラフィー用テストストリップ(イムノクロマト試験紙)に用いられるもの(前記第一の特異的結合物質を固定化する性能を有し、かつ液体が所期の方向に通行することを妨げない性能を有するもの)を特に制限されることなく使用することができるが、例えば、毛細管作用を有し、液体及びそれに分散した成分を吸収により輸送可能な多孔性メンブレンであってもよい。前記メンブレンの材質は、特に限定されないが、例えば、セルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ガラス繊維、ナイロン、又はポリケトンなどであってもよい。
【0017】
前記第一の特異的結合物質としては、前記メンブレン上に固定できるものであって、かつ、検出の対象である前記粒状物質を、前記第一の結合対象物質との複合体形成を介して前記メンブレン上に捕捉できるものであれば、特に制限なく採用することができる。前記第一の結合対象物質と前記第一の特異的結合物質との組合せの具体例としては、抗原とそれに結合する抗体、抗体とそれに結合する抗原、糖鎖又は複合糖質とそれに結合するレクチン、レクチンとそれに結合する糖鎖又は複合糖質、ホルモン又はサイトカインとそれに結合する受容体、受容体とそれに結合するホルモン又はサイトカイン、タンパク質とそれに結合する核酸アプタマー若しくはペプチドアプタマー、酵素とそれに結合する基質、基質とそれに結合する酵素、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジン、アビジン又はストレプトアビジンとビオチン、IgGとプロテインA又はプロテインG、プロテインA又はプロテインGとIgG、T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン含有分子4(Tim4)とホスファチジルセリン(PS)、PSとTim4、あるいは、第1の核酸とそれに結合する(ハイブリダイズする)第2の核酸等が挙げられる。前記第2の核酸は、前記第1の核酸と相補的な配列を含む核酸であってもよい。
【0018】
前記第一の結合対象物質が抗原である場合には、前記第一の特異的結合物質は抗体であってもよい。具体的には、前記粒状物質がエクソソームである場合には、前記第一の結合対象物質は、CD9、CD63、又はCD81であってもよく、前記第一の特異的結合物質は、それぞれ抗CD9抗体、抗CD63抗体、又は抗CD81抗体であってもよい。前記抗体は、前記抗原に対して特異的に結合するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体又はそれらの断片であってもよく、該断片は、F(ab)フラグメント、F(ab’)フラグメント、F(ab’)2フラグメント又はF(v)フラグメントであってもよい。
【0019】
前記第二の特異的結合物質は、標識物質に結合しているものであり、前記第二の結合対象物質を有している粒状物質を標識することができる。前記第二の特異的結合物質と前記標識物質とは、共有結合若しくは非共有結合又は直接的若しくは間接的な結合などの様式にかかわらず、結合して複合体を形成していればよい。前記第二の特異的結合物質としては、検出の対象である前記粒状物質を、前記第二の結合対象物質との複合体形成により検出できるものであれば、特に制限なく採用することができる。前記第二の結合対象物質と前記第二の特異的結合物質との組合せの具体例としては、前述した前記第一の結合対象物質と前記第一の特異的結合物質との組合せの具体例と同じものが挙げられる。
【0020】
本明細書に記載の「標識物質」とは、前記第二の特異的結合物質と前記第二の結合対象物質との結合を検出する際の目印を提供する物質のことをいう。前記標識物質は、特に制限されないが、例えば、化学発光物質、蛍光物質、及び、金属ナノ粒子などであってもよい。本明細書に記載の「化学発光物質」とは、光子を生成する化学反応に関わる物質のことをいい、例えば、当該化学反応を触媒する化学発光酵素などが含まれる。前記化学発光酵素は、特に限定されないが、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)などのペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、又は、ルシフェラーゼなどであってもよい。前記ペルオキシダーゼは、ルミノール系の化合物の反応を触媒し、前記アルカリフォスファターゼは、ジオキセタン系の化合物の反応を触媒し、前記ルシフェラーゼは、ルシフェリン系の化合物の反応を触媒する。
【0021】
本明細書に記載の「蛍光物質」とは、励起光を吸収して蛍光を発する物質のことをいう。前記蛍光物質は、特に限定されないが、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)、又は、それらの誘導体などであってもよい。
【0022】
本明細書に記載の「金属ナノ粒子」とは、金属から製造された粒子であって、ナノメートル(nm)オーダーの大きさを持つ粒子のことをいう。前記金属は、特に限定されないが、金又は銀であってもよい。前記金属ナノ粒子は、特に限定されないが、異方性金属ナノ粒子であってもいいし、球状金属ナノ粒子であってもよい。
【0023】
前記第二の特異的結合物質と前記標識物質とを結合する方法としては、通常の結合方法を特に制限なく用いることができ、例えば、物理吸着、化学吸着(表面への共有結合)、化学結合(共有結合、配位結合、イオン結合又は金属結合)等を利用して、前記標識物質と前記第二の特異的結合物質とを直接的に結合させる方法や、前記標識物質の表面に水溶性高分子を結合させて、その水溶性高分子の末端又は主鎖若しくは側鎖に、直接的又は間接的に前記第二の特異的結合物質を結合させる方法などを採用することができる。
【0024】
本発明の検出工程では、検出部位に集合している前記標識物質を、直接的に又は化学反応を起こしたり励起光を照射したりすることによって、目視で又は検出装置を用いて検出することができる。前記検出装置としては、特に限定されないが、例えば、質量分析装置、イムノクロマトリーダー、又は、CCDイメージャーやスキャナー及び画像処理ソフトウェアなどを含む画像解析装置などを使用してもよい。ある態様では、前記検出工程は、化学発光又は蛍光を測定することにより行われる。具体的には、前記標識物質がHRPである場合には、イムノクロマト試験後のイムノクロマト試験紙に、ルミノール、過酸化水素、及びエンハンサーなどを含む基質溶液を滴下し、生じた発光をX線フィルムやCCDイメージャーで検出することができる。このような化学発光検出の場合、酵素の存在量ではなく、酵素と基質の反応の結果として生成される光子をシグナルとして検出するため、反応時間や検出時間を長くして反応生成物を増幅することで、高い感度での検出が可能となる。
【0025】
ある態様では、前記検出工程は、前記粒状物質を定量する工程を含んでもよい。例えば、NanoSightナノ粒子解析システムなどで計測して粒状物質の含有量が判明している標準試料について、スキャナー及び画像処理ソフトウェアなどで求めた輝度差、又は、イムノクロマトリーダーで測定した吸光度に基づいて検量線を作成し、未知の試料中の粒状物質の含有量を求めてもよい。
【0026】
本発明の検出方法においては、前記捕捉工程と前記標識工程の順番は特に限定されない。すなわち、前記粒状物質を前記メンブレン上に捕捉してから、当該粒状物質を標識してもいいし、前記粒状物質を標識してから、当該粒状物質を前記メンブレン上に捕捉してもよい。
【0027】
ある態様では、前記標識工程は、前記ポリマー系ブロッキング剤の存在下で行われる。このような条件下で標識を行うと、前記第二の特異的結合物質の非特異的な吸着を抑制することができる。
【0028】
別の態様では、本発明は、前記粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出するためのキットの製造方法にも関している。本発明の製造方法は、
- 前記第一の結合対象物質に対する第一の特異的結合物質が固定されているメンブレンを備えるテストストリップを用意する工程と、
- 前記メンブレンをブロッキングするために、以下の式:
【化5】
(式中、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のヒドロキシアルキル基であり、nは1~4の整数である)
で表される置換基、好ましくはホスホリルコリン基を側鎖に有し、かつ約1×103~約1×107、好ましくは約5×103~約1×106の重量平均分子量(Mw)を有するポリマー系ブロッキング剤を含むブロッキング用組成物を用意する工程と
を含む。ある態様では、前記ポリマー系ブロッキング剤は、カチオン性側鎖、アニオン性側鎖、水素結合性側鎖、及び、疎水性側鎖からなる群から選択される少なくとも一種の追加の側鎖をさらに有していてもよい。
【0029】
ある態様では、本発明の製造方法は、前記メンブレンを、前記ブロッキング用組成物によってブロッキングする工程をさらに含む。また、ある態様では、本発明の製造方法は、前記第二の結合対象物質に対する第二の特異的結合物質であって、標識物質に結合している前記第二の特異的結合物質を用意する工程と、前記第二の特異的結合物質を、前記ブロッキング用組成物によってブロッキングする工程とをさらに含む。
【0030】
本発明の検出方法又は製造方法は、その目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の工程をさらに含んでもよい。例えば、本発明の検出方法又は抑制方法は、前記粒状物質を単離又は精製する工程を含んでもよい。
【0031】
また別の態様では、本発明は、前記粒状物質をイムノクロマトグラフィー法によって検出するためのキットにも関している。本発明のキットは、
- 前記第一の結合対象物質に対する第一の特異的結合物質が固定されているメンブレンを備えるテストストリップと、
-前記第二の結合対象物質に対する第二の特異的結合物質であって、標識物質に結合している前記第二の特異的結合物質と、
を含み、前記メンブレンをブロッキングするために、以下の式:
【化6】
(式中、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のヒドロキシアルキル基であり、nは1~4の整数である)
で表される置換基、好ましくはホスホリルコリン基を側鎖に有し、かつ約1×103~約1×107、好ましくは約5×103~約1×106の重量平均分子量(Mw)を有するポリマー系ブロッキング剤を含むブロッキング用組成物をさらに含んでいるか、又は、前記メンブレンが、前記ブロッキング用組成物によってブロッキングされている。ある態様では、前記ポリマー系ブロッキング剤は、カチオン性側鎖、アニオン性側鎖、水素結合性側鎖、及び、疎水性側鎖からなる群から選択される少なくとも一種の追加の側鎖をさらに有していてもよい。
【0032】
本発明のキットは、その目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の構成要素をさらに含んでもよい。例えば、本発明のキットは、緩衝液又は取扱説明書を含んでもよい。
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0034】
〔試験例1〕
1.エクソソーム溶液の調製
10% FBS(名称:Fetal Bovine Serum、製造元:Life Technologies)、1% PSA(名称:ペニシリン-ストレプトマイシン-アムホテリシンB懸濁液(×100)(抗生物質-抗真菌剤溶液)、製造元:富士フイルム和光純薬株式会社)、及び2mM Glutamax(製造元:Life Technologies)含有RPMI1640培地を20mL使用し、150mmディッシュで乳がん細胞株MCF7をディッシュの底面積の80%まで培養した。培地を除去後、りん酸緩衝生理食塩水(PBS)20mLで2回洗浄し、2mM Glutamax含有Advanced RPMI 1640 Medium(製造元:Life Technologies)を20mL添加して、48時間培養した。150mmディッシュ10枚分の細胞培養上清(200mL)を2,000×g、4℃下で10分間遠心分離し、その上清を10,000×g、4℃下で30分間遠心分離して、最終的に得られた上清を孔径0.22μmのフィルターでろ過した。ろ液を175,000×g、4℃下で95分間遠心分離し、上清を除去して沈殿画分を得た。沈殿画分を13mLの1×PBSで分散し、210,000×g、4℃下で95分間遠心分離した。その上清を除去した後、沈殿物を0.2mLのPBSで再分散し、エクソソーム溶液を調製した。この溶液中のエクソソームの粒子数濃度は、NanoSightナノ粒子解析システム(Malvern Panalytical製)によって測定し、希釈液(10mM PBS、1% BSA、0.05% Tween20)で適宜希釈して以降の試験に用いた。
【0035】
2.イムノクロマト試験
吸水パッドが一方の端に取付けられている短冊形のニトロセルロースメンブレンを備えたイムノクロマト試験紙(株式会社フォーディクス製)の中央部に、マウス抗CD9抗体(品番:HBM-CD9-100、製造元:Hansa Bio Med LifeSciences)を常法により固定した。このメンブレンを以下の表1に記載のブロッキング剤を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でブロッキングした。また、Ab-10 Rapid Peroxidase Labeling Kit(LK33、株式会社同仁化学研究所製)を用いて、マウス抗CD9抗体をHRPで標識した。
【表1】

(LIPIDURE(R)-BL802及びLIPIDURE(R)-BL1002は、側鎖にホスホリルコリン基を有するポリマー系ブロッキング剤(日油株式会社製)であり、GPCで測定される重量平均分子量は、それぞれ3.1×104及び5.3×104である。)
【0036】
捕捉抗体を固定したイムノクロマト試験紙の吸水パッドが取り付けられていない方の端を、2×107個のエクソソームを含む試験液(+)又はエクソソームを含まない対照液(-)に浸して、それらを展開した。次に、HRPで標識したマウス抗CD9抗体を含む展開液を展開した。そして、ルミノール誘導体を含有するイムノスター(R)LD(品番:290‐69904、製造元:富士フイルム和光純薬株式会社)により発光させて、それをImage Quant LAS4000により露光時間80秒で撮像し、捕捉抗体を固定した部分周辺の合計輝度(発光すると黒い(暗い)画像)と発光していない同面積部分の合計輝度(白い(明るい)画像)をImageJで測定して、それらの差(輝度差)を求めた。さらに、試験液と対照液との比較からS/N比を求めた。
【0037】
発光後のメンブレンの写真を図1に示し、S/N比のグラフを図2に示す。ブロッキング剤としてウシ血清アルブミン(BSA)を使用すると、バックグラウンドの非特異的シグナルが強く観察され、S/N比が低くなってしまったが、LIPIDURE(R)-BL802又はLIPIDURE(R)-BL1002を使用すると、バックグラウンドの非特異的シグナルの発生が抑制されており、高いS/N比を達成することができた。また、LIPIDURE(R)-BL802又はLIPIDURE(R)-BL1002をBSAと併用すると、S/N比をさらに向上することができた。
【0038】
〔試験例2〕
1×107個のエクソソームを含む試験液を使用し、1.5% BSA又は0.25% LIPIDURE(R)-BL802を含むPBSでメンブレンをブロッキングした以外は試験例1と同様にして、イムノクロマトグラフィー法によってエクソソームを経時的に検出し、バックグラウンド部分の合計輝度差(バックグラウンド強度)及び捕捉抗体を固定した部分の合計輝度差からバックグラウンド強度を引いた検出強度を求めた。
【0039】
発光後のメンブレンの写真を図3に示し、バックグラウンド強度及び検出強度のグラフを図4及び5にそれぞれ示す。ブロッキング剤としてBSAを使用すると、バックグラウンドの非特異的シグナルが高すぎるため(図3及び4)、30秒の露光でメンブレン全体の発色が飽和してしまい、40秒の露光では測定装置が自動停止してしまった。一方、ブロッキング剤としてLIPIDURE(R)-BL802を使用すると、バックグラウンドの非特異的シグナルの発生が抑えられるため(図3及び4)、露光時間の長い測定が可能となり、エクソソームを高い強度で検出することが可能となった(図5)。
【0040】
〔試験例3〕
0.25% LIPIDURE(R)-BL802を含むPBS又は1.5% BSA及び0.25% LIPIDURE(R)-BL802を含むPBSでメンブレンをブロッキングした以外は試験例2と同様にして、イムノクロマトグラフィー法によってエクソソームを経時的に検出し、その検出強度を求めた。
【0041】
検出強度のグラフを図6に示す。LIPIDURE(R)-BL802だけでも十分な強度でエクソソームを検出することができたが、これをBSAと併用すると、バックグラウンドの非特異的シグナルの発生がさらに抑えられ、より高い強度でエクソソームを検出することができた。
【0042】
〔試験例4〕
使用したエクソソームの数を0個、1.1×106個、3.3×106個、10×106個、又は30×106個とし、1.5% BSAを含むPBS又は1.5% BSA及び0.25% LIPIDURE(R)-BL802を含むPBSでメンブレンをブロッキングした以外は、試験例2と同様にして、イムノクロマトグラフィー法によってエクソソームを経時的に検出し、その検出強度を求めた。
【0043】
発光後のメンブレンの写真を図7に示し、検出強度(BSAについては露光時間10秒、BSA及びLIPIDURE(R)-BL802については露光時間60秒)のグラフを図8に示す。BSAだけをブロッキング剤として使用すると、バックグラウンドの非特異的シグナルの上昇のため、露光時間の短い測定しかできず、少ない量のエクソソームは検出することができなかった。一方、LIPIDURE(R)-BL802をブロッキング剤として添加すると、バックグラウンドの非特異的シグナルの発生が抑えられ、露光時間の長い測定が可能となった。このため、少ない量のエクソソームでも良好に検出することができた。より具体的には、ブランク(エクソソーム0個の群)の標準偏差(s)及び近似直線(検量線)の傾き(a)から検出限界(=3.3×s/a)を求めると、BSAだけをブロッキング剤として使用したときは約3×107個であったのに対して、LIPIDURE(R)-BL802をブロッキング剤として併用したときは約3×105個であった。
【0044】
〔試験例5〕
乳がん細胞株であるMDA-MB-231リンパ節転移細胞(MM231-LN細胞)を使用し、MCF7細胞を使用したときと同様の方法でエクソソーム溶液を調製した。そして、エクソソームを含まない希釈液又はMM231-LN細胞由来のエクソソームを1×1010個含む試験液を使用し、抗体にウサギ抗LAM5抗体(品番:ab14509、製造元:アブカム株式会社)を使用し、0.25% LIPIDURE(R)-BL802を含むPBSでメンブレンをブロッキングし、検出にHRPで標識したウサギ抗LAM5抗体を含む展開液を使用し、HRP標識抗体を含む展開液中に終濃度0.05%のLIPIDURE(R)-BL802を添加した群と添加しない群を用意した以外は試験例2と同様にして、イムノクロマトグラフィー法によってエクソソームを検出した。
【0045】
発光後のメンブレンの写真を図9に示す。MM231-LN由来のエクソソーム溶液中に存在する微量のLAM5を検出するため、露光時間を長くする必要があった。展開液中にLIPIDURE(R)-BL802を含まない場合には、エクソソームなしの試験群でも捕捉抗体固定部位に非特異的な発光が検出されてしまったが、展開液中にLIPIDURE(R)-BL802を添加すると、捕捉抗体固定部位における非特異的な発光は抑制された。このため、試験結果が適正化され、MM231-LNの特異的な発光が良好に検出された。
【0046】
〔試験例6〕
吸水パッドが一方の端に取付けられている短冊形のニトロセルロースメンブレンを備えたイムノクロマト試験紙(株式会社フォーディクス製)の中央部に、マウス抗CD9抗体(品番:HBM‐CD9、製造元:Hansa Bio Med LifeSciences)を常法により固定した。このメンブレンを、3% BSAを含むPBS又は3% BSA及び0.5% LIPIDURE(R)-BL802を含むPBSでブロッキングした。そして、捕捉抗体を固定したイムノクロマト試験紙の吸水パッドが取り付けられていない方の端を、5×108個のエクソソームを含む試験液又はエクソソームを含まない対照液に浸して、それらを展開した。次に、常法により球状金ナノ粒子(BBI Solutions社製)で標識したマウス抗CD9抗体を含む展開液を展開した。そして、着色されたメンブレンを目視によって観察した。
【0047】
展開液使用後のメンブレンの写真を図10に示す。ブロッキング剤としてBSAだけを使用すると、捕捉抗体部位の下にバックグラウンドの非特異的な着色が見られたが(図10の矢印部分)、これをLIPIDURE(R)-BL802と併用すると、そのような非特異的な着色は見られなくなった。
【0048】
〔参考例1〕
吸水パッドが一方の端に取付けられている短冊形のニトロセルロースメンブレンを備えたイムノクロマト試験紙(株式会社フォーディクス製)の中央部に、マウス抗ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)抗体を常法により固定した。このメンブレンを、1.5% BSAを含むPBS又は0.25% LIPIDURE(R)-BL802を含むPBSでブロッキングした。そして、捕捉抗体を固定したイムノクロマト試験紙の吸水パッドが取り付けられていない方の端を0.1mIUのhCGを含む試験液に浸して、それを展開した。次に、常法によりHRPで標識したマウス抗hCG抗体を含む展開液を展開した。そして、イムノスター(R)LDにより発光させて、それをImage Quant LAS4000で経時的に測定した。
【0049】
発光後のメンブレンの写真を図11に示す。エクソソームを検出対象とした場合とは異なり、hCGを検出対象とした場合には、BSAをブロッキング剤として使用してもバックグラウンドの非特異的シグナルはそれほど大きくならないため、LIPIDURE(R)をブロッキング剤として使用してもバックグラウンド強度や検出強度の改善の程度はそれほど大きいものではなかった。
【0050】
〔参考例2〕
96穴マイクロプレートにマウス抗CD9抗体を常法により固定した。各ウェルを1.5% BSA又は0.25% LIPIDURE(R)-BL802を含むPBSでブロッキングした。そして、エクソソームを含まないPBS又は1×108個のエクソソームを含むPBSを各ウェルに添加し、捕捉されたエクソソームをHRP標識マウス抗CD9抗体で標識した。ルミノール及び過酸化水素の混合溶液を各ウェルに添加して発光させ、それをImage Quant LAS4000で経時的に測定した。
【0051】
発光後のウェルの写真を図12に示す。イムノクロマトグラフィーによって検出した場合とは異なり、96穴マイクロプレートを用いたELISA法によって検出した場合には、ブロッキング剤としてBSAを使用してもLIPIDURE(R)を使用しても大きな違いは観察されなかった。
【0052】
以上より、イムノクロマトグラフィー法に使用するテストストリップのメンブレンを、LIPUDURE(R)などの特定の置換基を有するポリマー系ブロッキング剤を含むブロッキング用組成物によってブロッキングすることにより、バックグラウンドの非特異的シグナルの発生を抑制することができることが分かった。したがって、イムノクロマトグラフィー法によって、粒状物質を高い感度で検出することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12