(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090220
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】ゲル電解質
(51)【国際特許分類】
C08L 39/04 20060101AFI20220610BHJP
C08F 226/06 20060101ALI20220610BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220610BHJP
H01M 8/103 20160101ALI20220610BHJP
H01M 8/1072 20160101ALI20220610BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
C08L39/04
C08F226/06
H01M8/10 101
H01M8/103
H01M8/1072
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202466
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 現
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
4J002BJ001
4J002DE026
4J002DG037
4J002FD206
4J002FD207
4J002GQ00
4J100AQ19P
4J100AQ19Q
4J100CA04
4J100DA55
4J100FA19
4J100JA43
5G301CD01
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG18
5H126HH10
(57)【要約】
【課題】 常温域でナフィオンと同等のプロトン伝導性を示し、かつ、60℃を超える高温域でナフィオン以上のプロトン伝導性を示すゲル電解質を提供すること。
【解決手段】 例えば、下記式(1-1)で表されるようなアルケニル基を有するイミダゾリウム塩と、例えば、下記式(2-1)で表されるようなアルケニル基を有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物とを重合させてなる重合体、および液体を含み、この液体により重合体が膨潤してなるゲル電解質。
(式中、X
-は、1価のアニオンを表し、Y
-は、互いに独立して1価のアニオンを表し、nは、1~20の整数を表す。)
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルケニル基を有するイミダゾリウム塩と、アルケニル基を有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物とを重合させてなる重合体、および液体を含み、
前記液体により前記重合体が膨潤してなるゲル電解質。
【請求項2】
前記重合体が、窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩と、窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物とを重合させてなるものである請求項1記載のゲル電解質。
【請求項3】
前記窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩が、下記式(1)で表される請求項2記載のゲル電解質。
【化1】
(式中、R
1は、アルケニル基を表し、R
2は、水素原子、または炭素数1~5のアルキル基を表し、X
-は、1価のアニオンを表す。)
【請求項4】
前記窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩が、下記式(1-1)で表される請求項3記載のゲル電解質。
【化2】
(式中、X
-は、1価のアニオンを表す。)
【請求項5】
前記X-が、HSO4
-である請求項3または4記載のゲル電解質。
【請求項6】
前記窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物が、下記式(2)で表される請求項2~5のいずれか1項記載のゲル電解質。
【化3】
(式中、R
3は、互いに独立してアルケニル基を表し、Zは、2価の有機基を表し、Y
-は、互いに独立して1価のアニオンを表す。)
【請求項7】
前記窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物が、下記式(2-1)で表される請求項6記載のゲル電解質。
【化4】
(式中、Y
-は、互いに独立して1価のアニオンを表し、nは、1~20の整数を表す。)
【請求項8】
前記nが、4~16の整数である請求項7記載のゲル電解質。
【請求項9】
前記Y-が、いずれもHSO4
-である請求項6~8のいずれか1項記載のゲル電解質。
【請求項10】
前記液体が、水および硫酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1~9のいずれか1項記載のゲル電解質。
【請求項11】
燃料電池用である請求項1~10のいずれか1項記載のゲル電解質。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項記載のゲル電解質を備える燃料電池。
【請求項13】
アルケニル基を有するイミダゾリウム塩、およびアルケニル基を有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物が液体に分散または溶解した液中で、前記イミダゾリウム塩と前記化合物とを重合させる請求項1記載のゲル電解質の製造方法。
【請求項14】
下記式(1-1)で表される窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩と、下記式(2-1)で表される窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物との重合体。
【化5】
(式中、X
-は、1価のアニオンを表し、Y
-は、互いに独立して1価のアニオンを表し、nは、1~20の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル電解質に関し、さらに詳述すると、燃料電池の電解質膜として好適なゲル電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素等の燃料と大気中の酸素とを電池に供給し、これらを電気化学的に反応させて水を作り出すことで直接発電させるものであり、高エネルギー変換可能で、環境適応性に優れていることから、小規模地域発電、家庭用発電、キャンプ場等での簡易電源、自動車、小型船舶等の移動用電源、人工衛星、宇宙開発用電源等の各種用途向けに開発が進められている。
【0003】
このような燃料電池、特に固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜と、この両側に配設されたアノード電極およびカソード電極とからなる膜電極接合体を、一対のセパレータで挟持してなる単位セルを複数個並設してなるモジュールから構成されており、従来、この電解質膜として、フッ素系ポリマーであるナフィオン(Nafion,登録商標、以下同じ。)が一般的に広く用いられている。
しかし、このナフィオン製の電解質膜は、高価であるうえに、高温無加湿状態で顕著にプロトン伝導性が低下するという問題がある。
しかも、ナフィオン等のパーフルオロアルキルスルホン系ポリマーからなる電解質膜で高プロトン伝導率を実現するためには、水(水蒸気)の存在が不可欠となり、当該電解質膜を備えた燃料電池の稼働には、加湿システムが必要であり、無加湿状態では発電できないという問題もある。
【0004】
これらの点に鑑み、近年、パーフルオロアルキルスルホン系ポリマー以外のポリマーからなる燃料電池用電解質膜が開発されつつある。
例えば、特許文献1および非特許文献1には、プロトン伝導膜の使用温度において、相互に凝集しドメインを形成可能なAブロックと、含窒素複素環等のプロトン受容性基を有するBブロックとのブロック共重合体と、硫酸等のプロトン供与性化合物とを含む燃料電池用電解質膜が開示され、ブロック共重合体として具体的には下記構造式で示されるようなポリマーが開示されている。
しかし、これらのポリマーは、その原料となるモノマーの一方にしかプロトン受容性基を有さず、またアミド結合等で架橋されているものは加水分解し易く、高温稼働時、長期稼働時の安定性という点で課題がある。
【0005】
【0006】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Mater. Chem. A,DOI: 10.1039/c9ta01890e, 2019年5月3日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、常温域でナフィオンと同等のプロトン伝導性を示し、かつ、60℃を超える高温域でナフィオン以上のプロトン伝導性を示すゲル電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、アルケニル基を有するイミダゾリウム塩と、アルケニル基を有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物とを重合させてなる重合体を液体に膨潤させて得られるゲルが、上記課題を解決し得る電解質となり得ることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
1. アルケニル基を有するイミダゾリウム塩と、アルケニル基を有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物とを重合させてなる重合体、および液体を含み、
前記液体により前記重合体が膨潤してなるゲル電解質、
2. 前記重合体が、窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩と、窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物とを重合させてなるものである1のゲル電解質、
3. 前記窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩が、下記式(1)で表される2のゲル電解質、
【化3】
(式中、R
1は、アルケニル基を表し、R
2は、水素原子、または炭素数1~5のアルキル基を表し、X
-は、1価のアニオンを表す。)
4. 前記窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩が、下記式(1-1)で表される3のゲル電解質、
【化4】
(式中、X
-は、1価のアニオンを表す。)
5. 前記X
-が、HSO
4
-である3または4のゲル電解質、
6. 前記窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物が、下記式(2)で表される2~5のいずれかのゲル電解質、
【化5】
(式中、R
3は、互いに独立してアルケニル基を表し、Zは、2価の有機基を表し、Y
-は、互いに独立して1価のアニオンを表す。)
7. 前記窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物が、下記式(2-1)で表される6のゲル電解質、
【化6】
(式中、Y
-は、互いに独立して1価のアニオンを表し、nは、1~20の整数を表す。)
8. 前記nが、4~16の整数である7のゲル電解質、
9. 前記Y
-が、いずれもHSO
4
-である6~8のいずれかのゲル電解質、
10. 前記液体が、水および硫酸から選ばれる少なくとも1種である1~9のいずれかのゲル電解質、
11. 燃料電池用である1~10のいずれかのゲル電解質、
12. 1~10のいずれかのゲル電解質を備える燃料電池、
13. アルケニル基を有するイミダゾリウム塩、およびアルケニル基を有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物が液体に分散または溶解した液中で、前記イミダゾリウム塩と前記化合物とを重合させる1のゲル電解質の製造方法、
14. 下記式(1-1)で表される窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩と、下記式(2-1)で表される窒素原子上にアルケニル基を1つ有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物との重合体
【化7】
(式中、X
-は、1価のアニオンを表し、Y
-は、互いに独立して1価のアニオンを表し、nは、1~20の整数を表す。)
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のゲル電解質を構成する重合体は、その原料となるモノマーのいずれもがプロトン受容性基であるイミダゾリウム塩基を有し、分子中のプロトン受容性基の数が多いため、無加湿状態において、常温でナフィオンと同等のプロトン伝導性を示し、かつ、高温(60℃を超える温度域)ではナフィオンを上回るプロトン伝導性を示す。
また、上記重合体は、フッ素を含まない構造であり、一般に普及しているフッ素系ポリマーと比べコスト面でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1で作製したゲル電解質膜およびナフィオン膜の無加湿状態におけるプロトン伝導率の温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るゲル電解質は、アルケニル基を有するイミダゾリウム塩と、アルケニル基を有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物とを重合させてなる重合体、および液体を含み、上記液体により重合体が膨潤してなることを特徴とする。
【0015】
上記イミダゾリウム塩およびこれを両末端に有する化合物におけるアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、また、その炭素数に制限はないが、炭素数2~10が好ましく、2~5がより好ましい。
アルケニル基の具体例としては、エテニル(ビニル)、n-1-プロペニル、n-2-プロペニル(アリル)、n-1-ブテニル、n-2-ブテニル、n-3-ブテニル、n-1-ペンテニル、n-2-ペンテニル、n-3-ペンテニル、n-4-ペンテニル、n-5-ヘキセニル、n-6-ヘプテニル、n-7-オクテニル、n-8-ノネニル、n-1-デセニル基等が挙げられる。
また、イミダゾリウム環におけるアルケニル基の置換位置に特に制限はないが、少なくとも窒素原子上にアルケニル基を有する構造が好ましく、窒素原子上に1つアルケニル基を有する構造がより好ましい。
【0016】
本発明で用いるアルケニル基を有するイミダゾリウム塩としては、例えば、下記式(1)で表されるものが好ましい。
【0017】
【0018】
式(1)において、R1は、アルケニル基を表すが、炭素数2~5のアルケニル基が好ましく、ビニル基、アリル基がより好ましく、ビニル基がより一層好ましい。
【0019】
また、R2は、水素原子、または炭素数1~5のアルキル基を表す。
炭素数1~5のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル基等が挙げられる。
これらの中でも、R2は、水素原子が好ましい。
【0020】
したがって、アルケニル基を有するイミダゾリウム塩としては、下記式(1-1)で表されるものがより好ましい。
【0021】
【0022】
上記式(1)および(1-1)おいて、X-の1価のアニオンは特に限定されるものではなく、BF4
-、PF6
-、AsF6
-、SbF6
-、AlCl4
-、NbF6
-、HSO4
-、ClO4
-、CH3SO4
-、CH3SO3
-、p-CH3C6H4SO3
-、CF3SO3
-、CF3CO2
-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(C2F5SO2)2N-、Cl-、Br-、I-、OH-等が挙げられるが、燃料電池の電解質用途を考慮すると、HSO4
-が好ましい。
【0023】
一方、本発明で用いられるアルケニル基を有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物としては、例えば、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【0024】
【0025】
式(2)において、R3のアルケニル基の具体例および好適例としては、上記R1で例示したものと同様である。
Zの2価の有機基は、特に限定されるものではないが、炭素数1~20の2価炭化水素基が好ましく、炭素数1~20のアルキレン基がより好ましい。
【0026】
炭素数1~20のアルキレン基の具体例としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デカメチレン、ウンデカメチレン、ドデカメチレン基等が挙げられるが、炭素数4~16のアルキレン基が好ましく、炭素数6~12のアルキレン基がより好ましい。
なお、上記2価炭化水素基中には、O、S、NH、アミド結合、エステル結合等が含まれていてもよいが、本発明のゲル電解質が適用される燃料電池等のデバイスの高温稼働時や長期稼働時の安定性という点から、これらのヘテロ原子や結合基は介在しないことが好ましい。
【0027】
したがって、アルケニル基を有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物としては、下記式(2-1)で表されるものがより好ましい。
【0028】
【化11】
(式中、Y
-は、互いに独立して1価のアニオンを表し、nは、1~20、好ましくは4~16、より好ましくは6~12の整数を表す。)
【0029】
上記式(2)および(2-1)におけるY-の1価のアニオンの具体例および好適例としては、上記X-で例示したものと同様であり、この場合も、燃料電池の電解質用途を考慮すると、2つのY-は、いずれもHSO4
-が好ましい。
【0030】
なお、上記モノマーおよびダイマーは、公知の手法により製造することができる。
モノマーは、例えば、R2が水素原子のものは、ビニルイミダゾール等のアミン類と所望のアニオンになるプロトン酸とを混ぜて中和させることで容易に得ることができる。また、R2が炭素数1~5のアルキル基のものは、ビニルイミダゾール等のアミン類を四級化する、もしくは四級化後所望のアニオンの金属塩等との混合による塩交換により、またはイオン交換樹脂で水酸化物アニオンに変換後、所望のアニオンになるプロトン酸と混ぜて中和させた後に脱水させることで得ることができる。
一方、ダイマーは、例えば、大過剰のビニルイミダゾール等のアミン類と両末端にハライドを有する直鎖状アルキルを混合し、両末端が四級化した塩を得た後に、上記と同様の方法で塩交換させて得ることができる。
【0031】
本発明において、アルケニル基を有するイミダゾリウム塩(以下、モノマーという。)と、アルケニル基を有するイミダゾリウム塩を両末端に有する化合物(以下、ダイマーという。)との重合法は、従来公知の重合法から適宜選択すればよく、例えば、モノマーおよびダイマーを、ラジカル重合により反応させて重合体を製造すればよい。
【0032】
この場合、モノマーおよびダイマーの使用比率は任意であるが、得られるゲル電解質のプロトン伝導性をより高めることを考慮すると、質量比で、モノマー:ダイマー=1:1~10:1が好ましく、2:1~8:1がより好ましく、2:1~6:1がより一層好ましく、3:1~5:1がさらに好ましい。
【0033】
また、重合の際に、公知の種々の重合開始剤を用いることもできる。
その具体例としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスメチルブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライド等のアゾ系化合物などが挙げられ、これらの重合開始剤は、それぞれ1種単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
ラジカル重合開始剤の配合量は、通常、モノマーに対して、0.01~50質量%が好ましい。
【0034】
反応温度は、60~120℃が好ましく、70~100℃がより好ましい。
反応時間は、30分~24時間が好ましく、1~18時間がより好ましい。
重合反応は、溶媒中で行うことができる。
使用できる溶媒としては、水;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、トルエン、キシレン、メシチレン等の炭化水素系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は1種を単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0035】
本発明で用いるモノマーおよびダイマーはいずれも塩であり、特に好適な塩である硫酸水素塩は水に対する溶解性を有しているため、溶媒として水を用いて重合させることが好ましい。したがって、重合開始剤としても、水溶性の過硫酸塩やアゾ系化合物が好ましい。
【0036】
反応終了後は、室温まで冷却後、濾過、洗浄、乾燥等の公知の後処理を施して重合体を得ることができる。
【0037】
本発明の電解質は、上記重合体が、液体で膨潤したゲル電解質である。
この液体としては、特に限定されるものではなく、従来、燃料電池等の電気化学デバイスの電解液に用いられる各種溶媒を用いることができる。
その具体例としては、水、硫酸等の水系溶媒;
ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-エトキシメトキシエタン、メチルジグライム、メチルトリグライム、メチルテトラグライム、エチルグライム、エチルジグライム、ブチルジグライム、エチルセルソルブ、エチルカルビトール、ブチルセルソルブ、ブチルカルビトール等の鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4,4-ジメチル-1,3-ジオキサン等の複素環式エーテル類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、3-エチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン等のラクトン類;N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン等のアミド類;炭酸ジメチル(DMC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸エチルメチル(EMC)、炭酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFEC)等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ブチレン(BC)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸ビニルエチレン(VEC)等の環状炭酸エステル類;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のイミダゾリン類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類などの非水系溶媒が挙げられ、これらは単独で、または2種以上混合して用いることができる。
これらの中でも、燃料電池用途を考慮すると、水系溶媒が好ましく、水および硫酸から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0038】
本発明のゲル電解質は、上述の手法にて得られた重合体と液体とを、例えば浸漬等の手法によって接触させ、重合体を膨潤させて作製することができる。
また、上述したモノマー、ダイマー、および必要に応じて用いられる重合開始剤が液体に分散または溶解した液中で、モノマーとダイマーとを重合させて、重合体の製造とゲル化とを同時並行で行うこともできる。
この場合、モノマーおよびダイマーを含む溶液または分散液をガラス基板等の基体上にキャストした後、これを加熱して重合させることで、フィルム状のゲル電解質を作製することもできる。
【0039】
キャスト法は任意であり、例えば、スクレーパー、バーコーター、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フローコート、ロールコート、カーテンコート、スピンコート、ナイフコート等の各種方法を用いることができる。
加熱温度および時間は、上記重合時の反応温度、時間と同様である。
作製したフィルムは、基体から剥離して用いればよい。
【0040】
ゲル電解質の厚みに特に制限はなく、例えば、5~300μm程度とすることができるが、10~100μmが好ましい。
【0041】
本発明のゲル電解質は、各種電気化学デバイスの電解質として用いることができるが、特に、燃料電池の高分子電解質として好適である。
一般的に固体高分子型燃料電池は、固体高分子膜を挟む一対の電極と、これらの電極を挟んでガス供給排出用流路を形成する一対のセパレータとから構成される単位セルが多数併設されてなるものであるが、上記固体高分子膜の一部または全部として本発明のゲル電解質を用いることができる。
【実施例0042】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[1]原料モノマーの合成
[合成例1]N-ビニルイミダゾリウム硫酸水素塩(A)の合成
【化12】
【0044】
イオン交換水60mlをアイスバスで良く冷やした後、その中に、急激に発熱しないように撹拌下で濃硫酸(関東化学(株)製)21.7gを徐々に加えた。続けて、得られた硫酸水溶液中に、氷冷撹拌下、1-ビニルイミダゾール(東京化成工業(株)製)20.0gのイオン交換水60ml溶液を、急激に発熱しないように徐々に滴下して加え、その後、数時間撹拌を継続した。この溶液を、はじめにエバポレーターを用いて大部分のイオン交換水を留去し、次に真空ポンプを用いて5時間真空引きを行った。目的物であるN-ビニルイミダゾリウム硫酸水素塩(A)を、若干水を含んだ白色固体として43.2g得た(収率:定量的)。
【0045】
[合成例2]3-ビニル-1-[8-(3-ビニルイミダゾリジン-1-イウム-1-イル)オクチル]イミダゾリウムジ硫酸水素塩(B)の合成
【化13】
【0046】
1,8-ジブロモオクタン(東京化成工業(株)製)32.2gのアセトニトリル(三洋化成品(株)製)400ml溶液に、1-ビニルイミダゾール(東京化成工業(株)製)49.0gを投入し、室温で2週間以上撹拌した。析出した結晶を、桐山ロートを用いて減圧濾過し、真空ポンプ引きにより溶媒を除去して中間体である3-ビニル-1-[8-(3-ビニルイミダゾリジン-1-イウム-1-イル)オクチル]イミダゾリウムジブロマイド49.0gを白色固体として得た(収率90%)。
得られたジブロモ体3.87gをイオン交換水20mlに溶解し、イオン交換樹脂DS-2(オルガノ(株)製)30mlを用いてカラム処理した。反応物を含む溶出分をさらに数回同様のカラム処理にかけ、臭化物イオンを完全に水酸化物イオンに変換した。最終的に得られた反応物を含む溶出分700gを冷却し、濃硫酸(関東化学(株)製)を中和点になるまで加えた。使用した濃硫酸量は1.57gであった。この反応液をエバポレーターにかけて水を留去し、さらに真空ポンプを用いて脱水した。得られたゼリー状の固体にイオン交換水-メタノールの1:1(体積比)混合液20mlを加えて数時間撹拌後、不溶分をメンブレンフィルターろ過にて除去し、ろ液をエバポレーターにかけて溶媒を除去した。得られた固体分をさらに真空ポンプ引きし、目的物である3-ビニル-1-[8-(3-ビニルイミダゾリジン-1-イウム-1-イル)オクチル]イミダゾリウムジ硫酸水素塩(B)2.60gを薄茶色固体として得た(収率62%)。
【0047】
[2]ゲル電解質膜の製造
[実施例1]
合成例1で得られたN-ビニルイミダゾリウム硫酸水素塩(A)と、合成例2で得られた3-ビニル-1-[8-(3-ビニルイミダゾリジン-1-イウム-1-イル)オクチル]イミダゾリウムジ硫酸水素塩(B)(質量比(A):(B)=5:1)と、開始剤である過硫酸カリウム(シグマアルドリッチ製、N-ビニルイミダゾリウム硫酸水素塩(A)に対して1質量%)を脱イオン水に溶解し、室温で2時間撹拌した。撹拌後、溶液を吸収性綿で2回濾過し、試験管ミキサー(TTM-1、柴田科学(株)製)を使用して脱泡した。次に、脱泡した溶液をスライドガラス上に展開し、テフロン(登録商標)製のスクレーパーでキャストした。キャストしたスライドガラスを、アルゴンガスを充填したグローブボックス内に入れ、80℃で12時間重合させ、重合後にグローブボックスから取り出すことで重合体が大気中で吸湿した(水で膨潤した)高分子膜を作製した。
得られた高分子膜をスライドガラスから剥離し、厚み約60μmのゲル電解質膜を得た。
【0048】
[3]プロトン伝導性の測定
上記実施例1で得られたゲル電解質膜(以下、PIL膜という。)および比較として市販のナフィオン膜(デュポン社製)について、下記手法によりプロトン伝導率を測定した。その結果を
図1に示す。
〔プロトン伝導率〕
電気化学インピーダンス(EIS)測定装置としては、Solartron社製のSolartron1255B周波数応答アナライザーとSolartronSI1287ポテンシオスタットを使用し、100mHz~100kHzの周波数範囲で定電位モードを採用して測定した。
具体的には、HSフラットセル(宝泉(株)製)を用いてサンプル膜(PIL膜またはナフィオン膜)をステンレス鋼製電極の間に挟み、外部加湿なしの条件で、膜厚方向の抵抗を20~95℃で測定した。なお、測定前にデータを記録するサンプル膜を各テスト条件下で1時間安定させた。インピーダンスの実数成分と虚数成分の両方を測定し、実数のz軸切片が膜抵抗を提供すると仮定し、プロトン伝導率を下記式に基づいて測定した。
σ=l/SR
(式中、σは、S・cm
-1で表したプロトン伝導度、lは、膜の厚さ(cm)、Sは、活性領域(cm
2)、Rは、EIS分析から得られた膜抵抗(Ω)である。)
【0049】
図1に示されるように、実施例1で作製したPIL膜は、常温域でナフィオン膜と同等のプロトン伝導性を示し、また、60~95℃という高温域では、ナフィオン膜以上のプロトン伝導性を示すことがわかる。
非加湿ナフィオン膜のプロトン伝導性が60℃以上で低下する理由は、膜に閉じ込められた水が温度の上昇とともに脱水し、そのプロトン伝導が主にビヒクルメカニズムに依存しているためである。一方、PIL膜のプロトン伝導性の低下割合が小さいことから、PILを介したプロトン伝導は、水媒体にあまり依存していないことがわかる。