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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090246
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】哺乳動物細胞用ノックインベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/85 20060101AFI20220610BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220610BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20220610BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220610BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
C12N15/85 Z ZNA
C12N5/10
A01K67/027
C12N15/12
C12N15/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202510
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】593146877
【氏名又は名称】株式会社特殊免疫研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】土生 敏行
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA03
4B065BB15
4B065BB25
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】本発明は、哺乳動物細胞に導入された外来遺伝子の安定な発現を可能とし、また、その発現自体により宿主となる哺乳動物細胞や哺乳動物の表現形質に著しい変化を及ぼすことのない新たな手段を提供することを目的とする。
【解決手段】外来DNA断片と、その両側にグロノラクトンオキシダーゼ(Gulo)遺伝子の一部との相同組換えを可能とする相同配列を有する第1及び第2の相同性アームとを含むノックインベクター。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外来DNA断片と、その両側にグロノラクトンオキシダーゼ(Gulo)遺伝子の一部との相同組換えを可能とする相同配列を有する第1及び第2の相同性アームとを含むノックインベクター。
【請求項2】
前記第1及び第2の相同性アームが有する前記相同配列が、Gulo遺伝子のエキソン領域から選択される、請求項1に記載のノックインベクター。
【請求項3】
外来DNA断片が、発現調節領域に作動可能に連結された導入遺伝子を含む、請求項1又は2に記載のノックインベクター。
【請求項4】
外来DNA断片がマーカー遺伝子を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のノックインベクター。
【請求項5】
外来DNA断片が、導入遺伝子を挿入するための導入遺伝子挿入部位を有する、請求項1,2,又は4に記載のノックインベクター。
【請求項6】
哺乳動物細胞の遺伝子組換え方法であって、
発現調節領域に作動可能に連結された導入遺伝子を含む外来DNA断片と、その両側にGulo遺伝子の一部との相同組換えを可能とする相同配列を有する第1及び第2の相同性アームとを含むノックインベクターを用いて、該哺乳動物細胞を形質転換することを含む、方法。
【請求項7】
Gulo遺伝子座に発現調節領域に作動可能に連結された導入遺伝子を含む外来DNA断片を含む、遺伝子改変哺乳動物細胞。
【請求項8】
Gulo遺伝子座に発現調節領域に作動可能に連結された導入遺伝子を含む外来DNA断片を含む、遺伝子改変非ヒト哺乳動物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物細胞に導入された外来遺伝子の安定な発現を可能とし、また、その発現自体により宿主となる哺乳動物細胞や哺乳動物の表現形質に著しい変化を及ぼすことのない新規手段に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、哺乳動物細胞に外来遺伝子を人為的に導入し、目的のタンパク質を発現させるシステムは、生物実験において一般的な手法であるだけでなく、有用なタンパク質の生産システムとして、さらに、創薬開発研究の分野においては、有効な化合物を見出すためのスクリーニングシステムとして、汎用されている(非特許文献1-3)。
【0003】
一方で、哺乳動物細胞に導入された外来遺伝子の発現は、当該外来遺伝子が挿入された宿主ゲノム上の部位(環境)の影響を受けやすく、外来遺伝子の挿入部位によっては、発現量や発現期間が十分でなく、満足のいく発現安定性が得らない場合があった。また、導入された外来遺伝子より産生されるタンパク質が本来、宿主となる哺乳動物細胞や哺乳動物の表現形質に著しい変化を及ぼす機能や働きを有さないものであっても、外来遺伝子の挿入部位によっては、その発現自体により、宿主となる哺乳動物細胞や哺乳動物の表現形質に著しい変化を及ぼす場合があった。これらは、前記生物実験や生産システム等における効率を低下させる要因となっており、当該分野においては、哺乳動物細胞に導入された外来遺伝子の安定な発現を可能とし、また、その発現自体により宿主となる哺乳動物細胞や哺乳動物の表現形質に著しい変化を及ぼすことのない新たな手段が切望されていた。
【0004】
グロノラクトンオキシダーゼ(以下、「Gulo」と記載する)遺伝子は、アスコルビン酸合成経路の最終段階反応に関与するGuloをコードする遺伝子である。Guloはグロノラクトンを酸素で酸化してアスコルビン酸と過酸化水素にする反応を触媒する酵素である。Gulo遺伝子は多くの哺乳動物において確認されるが、ヒトを含む多くの哺乳動物では変異により遺伝子発現が生じないことが知られている。Gulo遺伝子が発現しない動物であっても、アスコルビン酸を摂取して体内に取り入れることで不都合は生じない(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kotin RMら、EMBO J.Dec;11(13):5071-8.1992
【非特許文献2】Sadelain Mら、Nat Rev Cancer 12(1):51-8.2011
【非特許文献3】Pellenz Sら、bioRxiv 2018 https://doi.org/10.1101/396390
【非特許文献4】Hongwen Y、Biochemical Genetics volume 51,413-425.2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、哺乳動物細胞に導入された外来遺伝子の安定な発現を可能とし、また、その発現自体により宿主となる哺乳動物細胞や哺乳動物の表現形質に著しい変化を及ぼすことのない新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、外来遺伝子をGulo遺伝子座に挿入することにより、導入した外来遺伝子の哺乳動物細胞における安定な発現を実現することができ、また、その発現自体により宿主となる哺乳動物細胞や哺乳動物の表現形質に著しい変化を及ぼすことがないことを見出した。
【0008】
本発明は、この新規知見に基づくものであり、以下の発明を包含する。
[1] 外来DNA断片と、その両側にグロノラクトンオキシダーゼ(Gulo)遺伝子の一部との相同組換えを可能とする相同配列を有する第1及び第2の相同性アームとを含むノックインベクター。
[2] 前記第1及び第2の相同性アームが有する前記相同配列が、Gulo遺伝子のエキソン領域から選択される、[1]のノックインベクター。
[3] 外来DNA断片が、発現調節領域に作動可能に連結された導入遺伝子を含む、[1]又は[2]のノックインベクター。
[4] 外来DNA断片がマーカー遺伝子を含む、[1]~[3]のいずれかのノックインベクター。
[5] 外来DNA断片が、導入遺伝子を挿入するための導入遺伝子挿入部位を有する、[1],[2],又は[4]のノックインベクター。
[6] 哺乳動物細胞の遺伝子組換え方法であって、
発現調節領域に作動可能に連結された導入遺伝子を含む外来DNA断片と、その両側にGulo遺伝子の一部との相同組換えを可能とする相同配列を有する第1及び第2の相同性アームとを含むノックインベクターを用いて、該哺乳動物細胞を形質転換することを含む、方法。
[7] Gulo遺伝子座に発現調節領域に作動可能に連結された導入遺伝子を含む外来DNA断片を含む、遺伝子改変哺乳動物細胞。
[8] Gulo遺伝子座に発現調節領域に作動可能に連結された導入遺伝子を含む外来DNA断片を含む、遺伝子改変非ヒト哺乳動物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、哺乳動物細胞に導入された外来遺伝子の安定な発現を可能とし、また、その発現自体により宿主となる哺乳動物細胞や哺乳動物の表現形質に著しい変化を及ぼすことのない新たな手段を提供することができる。
本発明によれば、導入された外来遺伝子を安定に発現し、またその発現自体に起因する表現形質の著しい変化を有さない哺乳動物細胞及び非ヒト哺乳動物を提供することができ、生物実験、タンパク質生産、有用物質のスクリーニング等の効率的な実施を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、ヒトGulo遺伝子座を標的とするノックインベクターの模式図を示す。(A)はエキソン1における標的配列との相同配列を有する第1の相同性アーム(Ex1 LA)及び第2の相同性アーム(Ex1 RA)を有するノックインベクター(pHsGulo Ex1-TagGFP2ベクター)、(B)はエキソン2における標的配列との相同配列を有する第1の相同性アーム(Ex2 LA)及び第2の相同性アーム(Ex2 RA)を有するノックインベクター(pHsGulo Ex2-TagGFP2ベクター)、(C)はエキソン3における標的配列との相同配列を有する第1の相同性アーム(Ex3 LA)及び第2の相同性アーム(Ex3 RA)を有するノックインベクター(pHsGulo Ex3-TagGFP2ベクター)の模式図を示す。
図1-1】図1-1は、pHsGulo Ex1-TagGFP2ベクターの第1及び第2の相同性アーム(Ex1 LA、Ex1 RA)の各塩基配列を示す。
図1-2】図1-2は、pHsGulo Ex2-TagGFP2ベクターの第1及び第2の相同性アーム(Ex2 LA、Ex2 RA)の各塩基配列を示す。
図1-3】図1-3は、pHsGulo Ex3-TagGFP2ベクターの第1及び第2の相同性アーム(Ex3 LA、Ex3 RA)の各塩基配列を示す。
図2図2は、HEK293細胞にエキソン1~3のそれぞれを標的とするノックインベクターを導入した後のレポーター遺伝子(TagGFP2遺伝子)の発現を蛍光観察した結果を示す写真図である。(A)はpHsGulo Ex1-TagGFP2ベクター、(B)はpHsGulo Ex2-TagGFP2ベクター、(C)はpHsGulo Ex3-TagGFP2ベクターを導入した結果をそれぞれ示す。スケールバー:400μm。
図3図3は、遺伝子解析に用いたプライマーの設計位置を示す。黒矢印はそれぞれ、プロモーターの配列内に設計したプライマー(pUbCR1)、レポーター遺伝子の配列内に設計したプライマー(TagGFP2F2、TagGFP2R2)、宿主ゲノム上の5’接合部配列内に設計したプライマー(Ex1 LA、Ex2 LA、Ex3 LAの5’上流領域:hGULOex1LAUPF1、hGULOex2LAUPF1、hGULOex3LAUPF1)と3’接合部配列内に設計したプライマー(Ex1 LA、Ex2 LA、Ex3 RAの3’下流領域:hGUROex1RADWR1、hGUROex2RADWR1、hGUROex3RADWR1)を示す。
図4図4は、HEK293細胞にエキソン3を標的とするpHsGulo Ex3-TagGFP2ベクターを導入して得られた形質転換細胞を限界希釈して樹立した細胞株の遺伝子解析の結果を示す写真図である。(A)は導入したレポーター遺伝子の配列内に設計したプライマーセット(TagGFP2F2、TagGFP2R2)、(B)は宿主ゲノム上の5’接合部配列内に設計したプライマー(hGULOex3LAUPF1)と導入したプロモーター配列内に設計したプライマー(pUbCR1)のセット、(C)は宿主ゲノム上の3’接合部配列内に設計したプライマー(hGUROex3RADWR1)と導入したレポーター遺伝子の配列内に設計したプライマー(TagGFP2F2)のセット、を用いた結果を示す。
図5図5は、HEK293細胞にエキソン3を標的とするpHsGulo Ex3-TagGFP2ベクターを導入して得られた形質転換細胞の樹立した細胞株(サンプルNo.1とNo.2)におけるレポーター遺伝子(TagGFP2遺伝子)の発現を蛍光観察した結果を示す写真図である。スケールバー:400μm。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.ノックインベクター
本発明のノックインベクターは、外来DNA断片と、その両側にグロノラクトンオキシダーゼ(Gulo)遺伝子の一部との相同組換えを可能とする相同配列を有する第1及び第2の相同性アームとを含む。本発明のノックインベクターは、相同性アームを利用した相同組換えにより、宿主細胞のGulo遺伝子座の所定の部位に、目的とする導入遺伝子を含めた外来DNA断片を挿入(ノックイン)するために用いられるベクターである。
【0012】
本発明において「Gulo遺伝子」は哺乳動物由来のGulo遺伝子である。本発明において、「Gulo遺伝子」は好ましくは、ゲノムDNAに対応する塩基配列、すなわちイントロンを含む塩基配列を有する。
【0013】
哺乳動物由来のGulo遺伝子としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、チンパンジー、オポッサム、イヌ、ブタ、ウシ、ウマ、シカ、ヒツジ等(これらに限定はされない)に由来するものが公知のデータベースに登録・開示されており、本発明においてはこれらの遺伝子情報を利用することができる。例えば、National Center forBiotechnology Information(NCBI)においてヒト由来のGulo遺伝子がGene ID:2989、マウス由来のGulo遺伝子がGene ID:268756、ラット由来のGulo遺伝子がGene ID:60671、チャイニーズハムスター由来のGulo遺伝子がGene ID:100760306にて登録・開示されており、本発明においてはこれらの遺伝子情報を利用することができる。
【0014】
本発明において「相同性アーム」は、第1の相同性アームと第2の相同性アームの2つからなり、これらは外来DNA断片が挿入されるGulo遺伝子座の所定の部位に隣接する(すなわち、当該所定の部位を挟む5’側及び3’側の位置にある)標的配列とそれぞれ配列同一性を有する塩基配列を有するDNAからなる。各相同性アームの標的配列との配列同一性は、相同組換えを行うのに十分な程度であればよく特に限定されないが、BLAST等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上、とりわけ好ましくは99.9%以上である。相同性アームは相同組換えを行うのに十分な程度の大きさがあればよく特に限定されないが、例えば、0.1~15kb、好ましくは0.5~13kb、より好ましくは0.8~11kbの範囲よりそれぞれ独立して選択することができる。
【0015】
相同性アームと相同組換えを生じるGulo遺伝子座の標的配列は、宿主のゲノムDNA上のGulo遺伝子領域における任意の領域より選択することが可能であるが、好ましくはGulo遺伝子のエキソン領域から選択される。Gulo遺伝子のエキソン領域の数は、哺乳動物の種類によって様々であるが(例えば、ヒトやチンパンジーでは6個、マウスやラットでは12個、モルモットでは10個、オポッサムでは11個のエキソン領域が確認される)、いずれも複数個からなり、このため広範囲のなかから適当な標的配列を選択できるメリットがある。標的配列は、同一エキソン内の任意の領域からそれぞれ選択してもよいし、あるいは異なるエキソン領域からそれぞれ選択してもよい。すなわち、本発明において第1の相同性アームの標的配列及び第2の相同性アームの標的配列は共に、同一のエキソン領域内に存在していてもよいし、あるいは、第1の相同性アームの標的配列と第2の相同性アームの標的配列とは、それぞれ異なるエキソン領域内に存在していてもよい。例えば、本発明において第1の相同性アームの標的配列及び第2の相同性アームの標的配列はヒトGulo遺伝子のエキソン領域から選択することができ、好ましくは、エキソン領域に5’側より順に番号を振った場合に、第1のエキソン(エキソン1)、第2のエキソン(エキソン2)、又は第3のエキソン(エキソン3)の領域内よりそれぞれ選択することができる。
【0016】
一態様において、本発明の「相同性アーム」は、ヒト由来のGulo遺伝子を標的とした以下の配列を含むか、もしくは当該配列からなる。以下、第1の相同性アームと第2の相同性アーム(逆であってもよい)の2つの配列をそれぞれ記載する:(配列番号1と配列番号2)、(配列番号3と配列番号4)、(配列番号5と配列番号6)。また、当該「相同性アーム」には、以下の(i)~(iii)のポリヌクレオチドを有する変異体も含まれる。
【0017】
(i)配列番号1,2,3,4,5又は6に示す塩基配列において1もしくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有するポリヌクレオチド。
【0018】
ここで「1もしくは数個」とは、1~100個、好ましくは1~80個、より好ましくは1~60個、さらに好ましくは1~40個、よりさらに好ましくは1~20個、特に好ましくは1~10個を意味する。このような(i)のポリヌクレオチドには、配列番号1,2,3,4,5又は6のGulo遺伝子配列における塩基置換、欠失、もしくは付加変異体(これらに限定はされない)が含まれる。
【0019】
(ii)配列番号1,2,3,4,5又は6に示す塩基配列に対して70%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチド。
【0020】
ここで「配列同一性」とは、配列番号1,2,3,4,5又は6に示す塩基配列の全長に対して、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%、よりさらに好ましくは95%、特に好ましくは97%以上、とりわけ好ましくは98%以上、非常に好ましくは99%以上の配列同一性を示すことを意味する。配列同一性は、例えばBLAST、FASTA、CLUSTALW等の周知のプログラムを用いて求めることができる。このような(ii)のポリヌクレオチドには、配列番号1,2,3,4,5又は6のGulo遺伝子配列に関し、他生物種に由来するオルソログ(これらに限定はされない)が含まれる。
【0021】
(iii)配列番号1,2,3,4,5又は6に示す塩基配列と相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有するポリヌクレオチド。
【0022】
ここで「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えば、15~750mM、好ましくは15~500mM、より好ましくは15~300mMのナトリウム塩の存在下、25~70℃、好ましくは50~70℃、より好ましくは55~68℃の温度にてハイブリダイゼーションを行った後、15~750mM、好ましくは15~500mM、より好ましくは15~300mMのナトリウム塩の存在下、50~70℃、好ましくは55~70℃、より好ましくは60~65℃の温度にて洗浄する条件をいう。
【0023】
Gulo遺伝子は、ゲノムDNA上、周辺の他の遺伝子と比較的離れた位置に存在している(例えばヒトの場合、5’側に位置する別の遺伝子(Ephx2)まで~32kb、3’側に位置する別の遺伝子(Clu及びmiR-6843-3p)までそれぞれ~7.8kb及び~21kbであり、他の動物においても同程度に離れた位置に存在している)。このため、Gulo遺伝子座に導入された外来DNA断片は、周辺の他の遺伝子の存在(発現環境)による影響が低く抑えられると考えられ、導入遺伝子の安定な発現を可能とし得る。
【0024】
本発明のノックインベクターにおいて、外来DNA断片は発現調節配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含む。「導入遺伝子」は、宿主細胞において発現させることを目的とする遺伝子であり、これは宿主細胞に対して内因性、外因性、同種、異種のいずれであってもよく、目的タンパク質の産生、遺伝子組み換え細胞もしくは動物の作製等、目的に応じて当業者が適宜選択することができる。導入遺伝子の大きさは特に限定されることなく、様々なサイズのものを利用することができ、例えば、100bp又はそれ以上、300bp又はそれ以上、500bp又はそれ以上、700bp又はそれ以上、900bp又はそれ以上、1kb又はそれ以上、3kb又はそれ以上、5kb又はそれ以上、7kb又はそれ以上、9kb又はそれ以上、あるいは、10kb又はそれ以上、のものも利用することができる。外来DNA断片には、1種の導入遺伝子を含めてもよいし、複数種を組み合わせて含めてもよい。
【0025】
「発現調節配列」とは、プロモーターやその他の制御配列(例えば、エンハンサー、ターミネーター等)を意味し、これに作動可能に連結された導入遺伝子の発現を促すことができる。「作動可能に連結」とは、発現調節配列に連結された導入遺伝子が細胞内においてプロモーターやその他の制御配列の制御下において発現されることを意味する。外来DNA断片が複数種の導入遺伝子を含む場合、各導入遺伝子はそれぞれ異なる発現調節配列に作動可能に連結されていてもよいし、あるいは、全ての導入遺伝子は同じ発現調節配列に作動可能に連結されていてもよい。
【0026】
プロモーターやその他の制御配列は特に限定されず、宿主細胞や導入遺伝子の種類や導入遺伝子発現の目的等に応じて適宜選択することが可能であり、例えば、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、時期特異的プロモーター、誘導性プロモーター等を用いることができる。より詳細には、哺乳動物細胞での遺伝子発現を促すのに一般的に利用される、CMVプロモーター、CAGプロモーター、Ubcプロモーター、EF-1αプロモーター、EFSプロモーター、CBhプロモーター、MSCVプロモーター、SV40プロモーター、hPGKプロモーター等(これらに限定はされない)を用いることができる。
【0027】
また、外来DNA断片には、発現調節配列に作動可能に連結された導入遺伝子の他、マーカー遺伝子等を含めることができる。「マーカー遺伝子」とは、形質転換体の選択手段として使用される形質をもたらす遺伝子であり、例えば、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質をコードする遺伝子、呈色反応を触媒する酵素をコードする遺伝子等(これらに限定はされない)が挙げられ、宿主細胞の種類や培養条件に応じて適宜選択することができる。薬剤耐性遺伝子としては、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ネオマイシン、ハイグロマイシン、スペクチノマイシン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン等(これらに限定はされない)の抗生物質に対する耐性遺伝子が挙げられる。蛍光タンパク質をコードする遺伝子としては、EBFP等の青色蛍光タンパク質、EGFP等の緑色蛍光タンパク質、EYFP等の黄色蛍光タンパク質等(これらに限定はされない)をコードする遺伝子が挙げられる。呈色反応を触媒する酵素をコードする遺伝子としては、ルシフェラーゼ、ホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、βラクタマーゼ等(これらに限定はされない)の酵素をコードする遺伝子が挙げられる。マーカー遺伝子は、上記導入遺伝子が連結されるのと同じ発現調節配列に作動可能に連結され、その制御下において発現されてもよいし、あるいは導入遺伝子が連結されるものとは異なる発現調節配列に作動可能に連結されていてもよい。
【0028】
また、本発明のノックインベクターの別の実施形態において、外来DNA断片は導入遺伝子を挿入するために用いられる導入遺伝子挿入部位を有する。これにより所望の導入遺伝子を、当該部位を用いて容易に挿入することができ、所望の導入遺伝子を組み込んだノックインベクターを容易に作製することができる。
【0029】
「導入遺伝子挿入部位」には制限酵素認識配列を用いることができ、当該分野において一般的に用いられる制限酵素認識配列(例えば、EcoRI,XmaI,XbaI,SmaI,NotI等(これらに限定はされない))を利用することが可能であり、これらより選択される一又は複数の制限酵素認識配列を含めることができる。
【0030】
外来DNA断片には上記導入遺伝子挿入部位の他、上記発現調節配列、上記マーカー遺伝子等を含めてもよい。発現調節配列は、導入遺伝子挿入部位に挿入された導入遺伝子を作動可能に連結することができる。マーカー遺伝子は、導入遺伝子挿入部位に挿入された導入遺伝子が連結される発現調節配列の制御下において発現されてもよいし、あるいは導入遺伝子が連結されるものとは異なる発現調節配列に作動可能に連結されていてもよい。
【0031】
本発明のノックインベクターは、外来DNA断片の大きさや使用目的、宿主細胞の種類等に応じて任意の形態とすることが可能であり、例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、ウイルスベクター(アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター)、人工染色体ベクター(ヒト人工染色体(human artificial chromosome:HAC)、酵母人工染色体(Yeast artificial chromosome:YAC)、大腸菌人工染色体(bacterial artificial chromosome:BAC)、P1フアージ由来人工染色体(P1 bacteriophage artificial chromosome:PAC)等)等(これらに限定はされない)より選択されるベクターとすることができる。
【0032】
本発明のノックインベクターは、従来公知の遺伝子組換え技術(Sambrook,J.et.al.,(2012)Molecular Cloning:a Laboratory Manual Fourth Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York)を用いて構築することができる。
【0033】
2.哺乳動物細胞の遺伝子組換え方法
本発明の遺伝子組換え方法は、上述の発現調節配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含む外来DNA断片と、その両側にGulo遺伝子の一部との相同組換えを可能とする相同配列を有する第1及び第2の相同性アームとを含むノックインベクターを用いて、哺乳動物細胞を形質転換することを含む。
【0034】
本発明において「哺乳動物細胞」とは、ヒト細胞あるいは非ヒト哺乳動物細胞である。「非ヒト哺乳動物」とは、非ヒト霊長類(サル等)、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス等、ヒトを除く哺乳動物を意味する。好ましくは、げっ歯類であり、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ等より選択することができる。特に好ましくは、マウスである。「細胞」の種類は限定されず、哺乳動物、遺伝子組換え哺乳動物、疾患に罹患した哺乳動物等より単離された細胞や培養細胞、既に樹立された細胞株、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、受精卵等、目的に応じて適宜選択することができる。また、本発明において「細胞」とは、in vitro又はex vivoの細胞とすることができる。「in vitro」とは、試験管や培養器等の中の細胞を意味し、「ex vivo」とは、生体から取り出した臓器及び細胞を意味する。
【0035】
ノックインベクターを哺乳動物細胞に導入する方法としては、細胞への遺伝子導入が可能な方法であればよく、用いる細胞やベクターの種類に応じて、種々の方法より適宜選択することができる。例えば、ノックインベクターが非ウイルスベクターである場合には、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法等の物理化学的手法を用いることができる。一方、ノックインベクターがウイルスベクターである場合、ベクターと哺乳動物細胞とを接触させ感染させることにより行うことができる。
【0036】
また、本発明のノックインベクターと共に、外来DNA断片を挿入するGulo遺伝子座の所定の部位を標的として認識し、切断するように設計されたZFN(Zinc Finger Nuclease)、TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)、CRISPR/Casシステム等の人工ヌクレアーゼ技術を用いてもよい。このような人工ヌクレアーゼ技術を組み合わせることにより、高効率で企図するノックインを生じさせることができ好ましい。
【0037】
形質転換された細胞の選抜は、マーカー遺伝子の発現を確認することにより行うことができる。また、必要に応じて、選抜された細胞よりゲノムDNAを抽出して、PCR法やサザンブロット法等によって、Gulo遺伝子座の所定の部位に適切に外来DNA断片が組み込まれていることを確認することができる。
【0038】
3.遺伝子改変哺乳動物細胞及び遺伝子改変非ヒト哺乳動物
本発明における遺伝子改変哺乳動物細胞は、上記哺乳動物細胞の遺伝子組換え方法に従って、上述の発現調節配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含む外来DNA断片と、その両側にGulo遺伝子の一部との相同組換えを可能とする相同配列を有する第1及び第2の相同性アームとを含むノックインベクターを用いて、哺乳動物細胞を形質転換することにより作製することができる。
【0039】
得られた遺伝子改変哺乳動物細胞は、哺乳動物細胞の培養に一般的に用いられる条件に準じて培養することができる。哺乳動物細胞の培養に一般的に用いられる培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、MEM培地、α-MEM培地、Ham’s F-12培地、RPMI1640培地、IMDM培地等が挙げられるが、これらに限定はされない。培地には、アスコルビン酸を添加してもよい。Gulo遺伝子が発現しない細胞であっても、アスコルビン酸を添加することで不都合なく生育させることができる。また培地には、必要に応じてさらに、ウシ胎児血清、インスリン、上皮成長因子、デキサメタゾン、緩衝剤、抗生物質、pH調整剤、プロリン、ニコチンアミド等を適宜添加することができる。
【0040】
本発明の遺伝子改変非ヒト哺乳動物は、従来公知の遺伝子改変非ヒト哺乳動物の作製方法に従って作製することが可能であり、上記哺乳動物細胞の遺伝子組換え方法に従って形質転換された非ヒト哺乳動物の多能性幹細胞(胚性幹細胞や人工多能性幹細胞)を初期胚と凝集させ、偽妊娠哺乳動物(好ましくは細胞と同種)に移植して新生仔(ヘテロ接合体)を得ることによって作製できる。得られた新生仔(ヘテロ接合体)を野生型個体と交配させてヘテロF1世代を得ることができ、さらに、このF1世代同士を交配してホモF2世代を得ることができる。あるいは、上記哺乳動物細胞の遺伝子組換え方法に従って形質転換された受精卵を、偽妊娠哺乳動物(好ましくは細胞と同種)に移植して新生仔(ヘテロ接合体として、又はホモ接合体として)を得ることによって作製してもよい。
【0041】
得られた遺伝子改変非ヒト哺乳動物は、非ヒト哺乳動物の飼育に一般的に用いられる条件に準じて飼育することができる。必要に応じて飼料には、アスコルビン酸を添加してもよい。Gulo遺伝子が発現しない動物であっても、アスコルビン酸を摂取させることで不都合なく飼育することができる。
【0042】
本発明における遺伝子改変哺乳動物細胞及び遺伝子改変非ヒト哺乳動物は、Gulo遺伝子座に発現調節領域に作動可能に連結された導入遺伝子を含む外来DNA断片を含み、外来DNA断片が任意の部位に挿入・発現して生じ得る(すなわち、導入された外来遺伝子より産生されるタンパク質が本来有する機能や働きに起因するものではなく、その遺伝子の発現自体に起因して生じ得る)、宿主となる遺伝子改変哺乳動物細胞及び遺伝子改変非ヒト哺乳動物の表現形質に著しい変化を及ぼすことを回避することができる。。すなわち、本発明における遺伝子改変哺乳動物細胞及び遺伝子改変非ヒト哺乳動物は、それらが本来有する形質が実質的に影響を受けることなく、外来遺伝子の発現を行うことができる。
【0043】
また、本発明における遺伝子改変哺乳動物細胞及び遺伝子改変非ヒト哺乳動物は、Gulo遺伝子座に発現調節領域に作動可能に連結された導入遺伝子を含む外来DNA断片を含み、導入遺伝子を安定して発現することができる。本発明において、「導入遺伝子を安定して発現する」とは、細胞が分裂を重ねても導入された外来DNA断片の脱離が生じず、長期的な導入遺伝子の発現が可能であること、導入遺伝子の発現が阻害もしくは低減されないこと、より選択される一又は複数を意味する。
【0044】
本発明における遺伝子改変哺乳動物細胞及び遺伝子改変非ヒト哺乳動物は、上記特性から、導入遺伝子にコードされる目的タンパク質の生産システムとして、導入遺伝子にコードされる目的タンパク質の評価システムとして、導入遺伝子にコードされる目的タンパク質の発現系における被験物質の評価システム(スクリーニングシステム)等として利用することができる。
【0045】
生産された目的タンパク質の回収、及び精製は、タンパク質の回収、及び精製に用いられる一般的な手法により行うことができ、例えば、硫安塩析、有機溶媒(エタノール、メタノール、アセトン等)による沈殿分離、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、基質又は抗体等を利用したアフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー等)、濾過処理(例えば、限外ろ過、逆浸透ろ過、精密ろ過等)等を一又は複数組み合わせて用いて行うことができる。
【0046】
目的タンパク質の「評価」は、評価目的に応じて適宜行い得るが、例えば、タンパク質や核酸の検出及び定量に用いられる一般的な手法を用いて行うことができる。例えば、本発明の遺伝子改変哺乳動物細胞、及び遺伝子改変非ヒト哺乳動物の所定の器官、組織、又は細胞を採取して、当該細胞、組織、又は器官における、目的タンパク質が関与するシグナルカスケードの下流に存在する分子やそれをコードする遺伝子の発現量をフローサイトメトリー、ウェスタンブロット、ELISA、RT-PCR、リアルタイムPCR等を用いて定量し、その値を対照の哺乳動物細胞、及び非ヒト哺乳動物における値と比較分析する方法が挙げられる。
【0047】
また、被験物質の「評価」は、評価目的に応じて適宜行い得るが、例えば、タンパク質や核酸の検出及び定量に用いられる一般的な手法を用いて行うことができる。例えば、被験物質の添加又は投与前後における本発明の遺伝子改変哺乳動物細胞、及び遺伝子改変非ヒト哺乳動物の所定の器官、組織、又は細胞を採取して、当該細胞、組織、又は器官における、被験物質の量、あるいは目的タンパク質が関与するシグナルカスケードの下流に存在する分子やそれをコードする遺伝子の発現量をフローサイトメトリー、ウェスタンブロット、ELISA、RT-PCR、リアルタイムPCR等を用いて定量し、比較分析する方法が挙げられる。「被験物質」としては、例えば、核酸、糖質、脂質、タンパク質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、抗体、アプタマー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、または微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分、あるいはこれらの化合物の2種以上の混合物等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0048】
以下の実施例をもって本発明をさらに詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら制限されるものでない。
【実施例0049】
実施例1:Gulo遺伝子座への遺伝子導入
(1-1)Gulo遺伝子座を標的とするノックインベクターの作製
細胞はヒト胎児腎細胞293(Human Embryonic Kidney cells 293)(以下、「HEK293細胞」と記載する)を用いた。
まず、Gulo遺伝子領域を利用しヒトGulo遺伝子座挿入用プラスミドを準備し、レポーター遺伝子であるTagGFP2遺伝子のcDNAを含むノックインベクターを作製した。
【0050】
作製したノックインベクターの模式図を図1に示す。
図1中、(A)はヒトGulo遺伝子のエキソン1における標的配列との相同配列を有する第1及び第2の相同性アーム(「Ex1 LA」、「Ex1 RA」と表示)を有するノックインベクター(pHsGulo Ex1-TagGFP2ベクター)を示す。「Ex1 LA」及び「Ex1 RA」はそれぞれ配列番号1及び配列番号2(図1-1)に該当する。
【0051】
(B)はヒトGulo遺伝子のエキソン2における標的配列との相同配列を有する第1及び第2の相同性アーム(「Ex2 LA」、「Ex2 RA」と表示)を有するノックインベクター(pHsGulo Ex2-TagGFP2ベクター)を示す。「Ex2 LA」及び「Ex2 RA」はそれぞれ配列番号3及び配列番号4(図1-2)に該当する。
【0052】
(C)はヒトGulo遺伝子のエキソン3における標的配列との相同配列を有する第1及び第2の相同性アーム(「Ex3 LA」、「Ex3 RA」と表示)を有するノックインベクター(pHsGulo Ex3-TagGFP2ベクター)を示す。「Ex3 LA」及び「Ex3 RA」はそれぞれ配列番号5及び配列番号6(図1-3)に該当する。
【0053】
(1-2)ノックインベクターを用いたHEK293細胞への遺伝子導入
HEK293細胞を10%FBS DMEM high glucose培地にて培養し、遺伝子導入に必要な量の細胞となるまで継代、培養を行った。遺伝子導入には、4D-Nucleofector(Lonza社製)を用い、Lonza社が公開している細胞毎の条件に準じて、下記表1に示す条件にて、上記で作製したノックインベクターをそれぞれエレクトロポレーションにより導入した。エレクトロポレーションから24時間後、新しい培地に替えてさらに培養を行った。
【0054】
【表1】
【0055】
(1-3)蛍光観察
エレクトロポレーション後、回復培養を含む1週間の培養を行い、蛍光観察を行った。蛍光観察には、EVOS(登録商標)FL Cell Imaging System(ThermoFisher社)を用いた。蛍光観察後、継代のためPBS(-)で洗浄後、トリプシン-EDTAにより細胞を剥離単離し、細胞数を調製し新たなディッシュに播種した。
【0056】
蛍光観察の結果を図2に示す。用いたノックインベクターの種類に関わらず、全ての系においてレポーター遺伝子の発現が確認された。
【0057】
(1-4)遺伝子解析
蛍光観察後の継代作業にて、回収した細胞の一部を用い、遺伝子解析のためのゲノムの抽出を行った。遺伝子解析には、導入したプロモーターの配列内に設計したプライマーpUbCR1:5'-TTCTAAGGCCGAGTCTTATGAGC-3'(配列番号7))、レポーター遺伝子の配列内に設計したプライマー(TagGFP2F2:5'-AGGACGACGGCAAGTACAAGAC-3'(配列番号8);TagGFP2R2:5'-TCTTGGTCTGAGTGCTCAGGTAG-3'(配列番号9))、宿主ゲノム上の5’接合部配列内に設計したプライマー(Ex1 LA、Ex2 LA、Ex3 LAの5’上流領域:hGULOex1LAUPF1:5'-TCTCAACCTGTCCTGTGTGATCT-3'(配列番号10);hGULOex2LAUPF1:5'-CTAAGGCAGCAACATTCATTTTC-3'(配列番号11);hGULOex3LAUPF1:5'-CCGAAAGATAGACTCACCATGAC-3'(配列番号12))と3’接合部配列内に設計したプライマー(Ex1 LA、Ex2 LA、Ex3 RAの3’下流領域:hGUROex1RADWR1:5'-ACTTGGGAGTTGAAGATCTTTGC-3'(配列番号13);hGUROex2RADWR1:5'-GTGAGAATGGGAGTAACATGCAG-3'(配列番号14);hGUROex3RADWR1:5'-AGCTGATGCCCGTAATTAAGAAG-3'(配列番号15))に設計したプライマー(図3)をそれぞれ用いてPCRスクリーニングを行い、目的の領域への導入遺伝子の挿入を確認した。
【0058】
結果、用いたノックインベクターの種類に関わらず、全ての系において、目的の領域へ導入遺伝子が適切に挿入されていることが確認された。
【0059】
(1-5)限界希釈
上記で得られた形質転換細胞のうち、pHsGulo Ex3-TagGFP2ベクターを導入して得られた細胞を用いて、以下の実験を行った。エレクトロポレーションから24時間後、新しい培地に替えてさらに24時間培養を行い、細胞集団での目的の領域への導入遺伝子の挿入を、導入したプロモーター(Ubc)及びレポーター遺伝子の配列内に設計したプライマー(上記TagGFP2F2、TagGFP2R2、pUbCR1)、宿主ゲノム上の5’接合部配列内に設計したプライマー(上記hGULOex3LAUPF1)と3’接合部配列内に設計したプライマー(上記hGUROex3RADWR1)をそれぞれを用いたPCRスクリーニングを行い確認した。次いで、細胞集団を24wellディッシュに播種し、限界希釈による培養を行った。
【0060】
限界希釈により樹立した細胞株の遺伝子解析を、再度、上記プライマーセットを用いたPCRスクリーニングを行い確認した。
【0061】
遺伝子解析の結果を図4に示す。この結果、樹立した2つの細胞株(サンプルNo.1とNo.2)において、目的の領域へ導入遺伝子が適切に挿入されていることが確認された。
【0062】
次いで、この2つの細胞株(サンプルNo.1とNo.2)の蛍光観察を行った。
蛍光観察の結果を図5に示す。結果、2つの細胞株(サンプルNo.1とNo.2)において、レポーター遺伝子の発現が確認された。
【0063】
実施例2:Gulo遺伝子座への遺伝子導入の効果
(2-1)ノックインベクター
本発明のノックインベクターによる遺伝子導入の効果を明確にすべく、対照との比較解析を行った。本発明のノックインベクターは、エキソン3を標的とする上記pHsGulo Ex3-TagGFP2ベクターを用いた。
【0064】
比較対照には、CompoZr(登録商標)pZDonor-AAVS1ピューロマイシンベクターキット(シグマ アルドリッチ製)を利用した。これは、ヒト19番染色体長腕上に存在するAAV2の領域をターゲット領域とするものである。この領域はインスレーターに挟まれたオープンクロマチン構造になっているため、当該領域に挿入された導入遺伝子は発現抑制を受けにくいと広く認識されている。gRNA配列は、マニュアルに従った。
【0065】
(2-2)各導入ベクターのHEK293細胞への遺伝子導入
細胞はHEK293細胞を用いた。HEK293細胞を10%FBS DMEM high glucose培地にて培養し、遺伝子導入に必要な量の細胞となるまで継代、培養を行った。遺伝子導入には、Lipofectamine(登録商標)(ThermoFisher社製)を用いて、説明書に準じpHsGulo Ex3-TagGFP2ベクターと比較対照のAAAVS導入用ベクターをリポフェクション法により導入した。リポフェクションから24時間後、新しい培地に替えてさらに培養を行った。
【0066】
(2-3)コロニー出現効率
リポフェクション後、回復培養を行った後、薬剤選抜を行った。1週間程度の薬剤選抜培養を行い、遺伝子導入が確認された細胞を用いて、各ベクターについてコロニー出現効率を確認した。コロニー出現効率の解析は、遺伝子導入が確認された細胞をそれぞれ100細胞、又は300細胞の量にて10プレートにまき、出現したコロニー数を14日後に確認して行った。
その結果を下記表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
コロニー出現効率は、AAAVS導入用ベクターでおよそ3.0%であったのに対し、pHsGulo Ex3-TagGFP2ベクターでおよそ12%であった。この結果より、導入遺伝子の安定した発現を可能とすることが広く認識されている比較対照と比べて、本発明のノックインベクターを利用して導入された遺伝子がより安定して発現されることが確認された。
図1
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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