(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090306
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】静電容量タッチパネル
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20220610BHJP
G06F 3/044 20060101ALI20220610BHJP
H01H 36/00 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
G06F3/041 522
G06F3/041 422
G06F3/044 124
H01H36/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202633
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(71)【出願人】
【識別番号】000117940
【氏名又は名称】ノリタケ伊勢電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】小濱 徹
(72)【発明者】
【氏名】岡井 正典
【テーマコード(参考)】
5G046
【Fターム(参考)】
5G046AA03
5G046AB02
5G046AC24
5G046AD02
5G046AE02
(57)【要約】
【課題】使用環境によらず、タッチ面の水濡れによる誤作動を防止できる静電容量タッチパネルを提供する。
【解決手段】静電容量タッチパネル1は、相互容量方式のタッチパネルであり、ガラス基板2の上に、静電容量の変化を検出する複数のタッチ検出電極3と、パネルの操作者がタッチする基板上のタッチ面における水濡れを検出するキャンセル電極4とが設けられ、タッチ検出電極3およびキャンセル電極4は、アルミニウム層を含む導電性薄膜により形成され、キャンセル電極4は、複数のタッチ検出電極3のそれぞれを略等間隔に取り囲むように設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互容量方式の静電容量タッチパネルであって、
基板上に、静電容量の変化を検出する複数のタッチ検出電極と、前記パネルの操作者がタッチする前記基板上のタッチ面における水濡れを検出するキャンセル電極とが設けられ、
前記タッチ検出電極および前記キャンセル電極は、アルミニウム層を含む導電性薄膜により形成され、
前記キャンセル電極は、複数の前記タッチ検出電極のそれぞれを略等間隔に取り囲むように設けられていることを特徴とする静電容量タッチパネル。
【請求項2】
前記タッチ検出電極は、それぞれが少なくとも2つ以上の電気的に独立した前記キャンセル電極で取り囲まれていることを特徴とする請求項1記載の静電容量タッチパネル。
【請求項3】
前記キャンセル電極の少なくとも1つが、隣接する複数の前記タッチ検出電極に対する水濡れの検出のために共有されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の静電容量タッチパネル。
【請求項4】
前記タッチ検出電極および前記キャンセル電極は、前記アルミニウム層の少なくとも一部とガラス基板との間に中間層を有し、
前記中間層が、クロム、モリブデン、およびタングステンから選ばれる少なくとも1つの金属を含む薄膜からなることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の静電容量タッチスイッチパネル。
【請求項5】
前記タッチ検出電極の外縁部と、前記キャンセル電極との間隔が、前記タッチ検出電極を構成する送信電極と受信電極間の間隔の3~15倍であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の静電容量タッチパネル。
【請求項6】
前記静電容量タッチパネルは、該静電容量タッチパネルを動作させるモードである動作モードを変更する制御部を備え、
前記制御部による前記動作モードの変更は、前記キャンセル電極から取得される静電容量の情報に基づいて行われ、
前記動作モードは、前記タッチ面が乾燥状態の場合に用いられる非水濡れモードと、タッチ面が水濡れ状態の場合に用いられる水濡れモードを有し、
前記水濡れモードの検出条件は、前記非水濡れモードの検出条件に比べ、タッチに対する感度が低下した検出条件であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の静電容量タッチパネル。
【請求項7】
前記制御部は、前記タッチ検出電極のそれぞれで前記動作モードを独立して変更することを特徴とする請求項6記載の静電容量タッチパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量の変化により、いずれのスイッチが押されたかを検出する静電容量方式のタッチスイッチパネル(以下、「静電容量タッチパネル」または単に「タッチパネル」ともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
家電機器、AV機器、PC/OA機器、産業機械、その他の電子デバイスにおいて、各機器への入力手段の1つとして静電容量タッチパネルなどが使用されている。静電容量タッチパネルは、所定の大きさ、パターンで配列された複数のセンサ電極を有している。静電容量タッチパネルは、静電容量の変化から接触の有無の検知を行うが、タッチ部に、人の指が接触した場合の静電容量の変化値と、水が接触した場合の静電容量の変化値は近い値である。そのため、静電容量の変化値のみから、接触したものが人の指か、水か、を区別するのは困難であり、タッチ部に付着した水滴は誤作動の一因となっていた。
【0003】
タッチパネルのタッチ面が水に濡れた状態(水濡れ状態)でのタッチは、表面の導電率の影響を受けやすい。特に、導電率が高い状態では、位置ずれ(異なるスイッチが押される)が発生しやすい。導電率の値は、水がタッチ面に対して、水滴の状態で付着した場合、水膜として付着した場合、シャワーや流水として付着した場合などの状況により異なる。さらに、水膜の厚さや、付着位置によっても導電率は異なる。そのため、水膜の面積や厚さにより、タッチした場所から離れた電極が反応し、誤作動する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静電容量タッチパネルのタッチ部に水がかかった際の誤作動防止方法として、タッチ部の周囲に水検出電極を設けた構成のタッチキーが知られている。例えば、特許文献1は、タッチ操作を行う複数のタッチキーを備えたタッチ部の全周囲を、線状の水検出電極が取り囲んだ構成を開示している。特許文献1では、線状の水検出電極に水が付着すると、入力電圧の低下を検知して、動作停止や報知などを行い、タッチ部への水の接触による誤作動を防ぐ旨が記載されている。
【0006】
特許文献1のタッチキーの用途の一つと考えられる電磁調理器においては、調理中の吹きこぼしは、比較的多くの水がタッチ部を含む電磁調理器の上面に存在する。そのため、そのような用途の場合、特許文献1に記載のように、複数のタッチキーが並んだタッチ部全体を取り囲むように水検出電極を設けても、吹きこぼしを検知できると考えられる。しかし、少量の水や煮汁などが飛散することで、線状の水検出電極には付着せず、タッチ部にのみ付着した場合、特許文献1のタッチキーでは、水や煮汁を検知できないおそれがある。また、電磁調理器のほか、同様の構成の水検出電極を有するタッチキーを浴室や屋外で使用する場合、シャワーの水や、雨、雪などが局所的に付着することがあるため、誤作動の防止を十分にできないおそれがある。
【0007】
また、静電容量タッチパネルの方式としては、自己容量方式と相互容量方式の2つが知られている。自己容量方式は、電極の構造が単純で感度が高い点に優れるが、指によるタッチのかわりに電極に水滴が付着した場合も容量増加が生じるため、水滴の付着時に指のタッチによる容量増加との識別が困難であるという課題が知られている。それに対し、相互容量方式は、2つの電極間の電磁界の変化を検出して指の接触を検知するため、水滴の付着と指によるタッチの区別が可能であり、比較的水濡れの影響を受けにくいといわれている。
【0008】
しかしながら、水濡れの範囲が広く、複数のタッチ部に水膜がまたがって形成される場合、スイッチ外の部分など(グラウンドベタなど)に水膜がまたがる場合、その他流水が一定時間接触しているような場合では、誤作動が起こりやすくなる。特に、上述の浴室や屋外で使用されるように、高い頻度でパネル表面に水膜などが形成されやすい環境下において、常時安定して動作をさせることは容易でない。
【0009】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、使用環境によらず、タッチ面の水濡れによる誤作動を防止できる静電容量タッチパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の静電容量タッチパネルは、相互容量方式の静電容量タッチパネルであって、基板上に、静電容量の変化を検出する複数のタッチ検出電極と、上記パネルの操作者がタッチする上記基板上のタッチ面における水濡れを検出するキャンセル電極とが設けられ、上記タッチ検出電極および上記キャンセル電極は、アルミニウム層を含む導電性薄膜により形成され、上記キャンセル電極は、複数の上記タッチ検出電極のそれぞれを略等間隔に取り囲むように設けられていることを特徴とする。
【0011】
上記タッチ検出電極は、それぞれが少なくとも2つ以上の電気的に独立した上記キャンセル電極で取り囲まれていることを特徴とする。
【0012】
上記キャンセル電極の少なくとも1つが、隣接する複数の上記タッチ検出電極に対する水濡れの検出のために共有されていることを特徴とする。
【0013】
上記タッチ検出電極および上記キャンセル電極は、上記アルミニウム層の少なくとも一部とガラス基板との間に中間層を有し、上記中間層が、クロム、モリブデン、およびタングステンから選ばれる少なくとも1つの金属を含む薄膜からなることを特徴とする。以下、クロム、モリブデン、およびタングステンを、それぞれCr、Mo、およびWともいう。
【0014】
上記タッチ検出電極の外縁部と、上記キャンセル電極との間隔が、上記タッチ検出電極を構成する送信電極と受信電極間の間隔の3~15倍である。
【0015】
上記静電容量タッチパネルは、該静電容量タッチパネルを動作させるモードである動作モードを変更する制御部を備え、上記制御部による上記動作モードの変更は、上記キャンセル電極から取得される静電容量の情報に基づいて行われ、上記動作モードは、上記タッチ面が乾燥状態の場合に用いられる非水濡れモードと、タッチ面が水濡れ状態の場合に用いられる水濡れモードを有し、上記水濡れモードの検出条件は、上記非水濡れモードの検出条件に比べ、タッチに対する感度が低下した検出条件であることを特徴とする。
【0016】
上記制御部は、上記タッチ検出電極のそれぞれで上記動作モードを独立して変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の静電容量タッチパネルは、相互容量方式の静電容量タッチパネルであって、基板上に、静電容量の変化を検出する複数のタッチ検出電極と、パネルの操作者がタッチする基板上のタッチ面における水濡れを検出するキャンセル電極とが設けられ、タッチ検出電極およびキャンセル電極は、アルミニウム層を含む導電性薄膜により形成され、キャンセル電極は、複数のタッチ検出電極のそれぞれを略等間隔に取り囲むように設けられているので、キャンセル電極による誤動作を抑制しつつ、局所的にタッチ検出電極周囲の任意の場所が水濡れ・水膜形成される状況においても、タッチ面の水濡れの状態を検出でき、使用環境によらず、水濡れによる誤作動を防止できる。
【0018】
タッチ検出電極は、それぞれが少なくとも2つ以上の電気的に独立したキャンセル電極で取り囲まれているので、水濡れの位置と、水濡れ状態でのタッチ位置を、より高い精度で検出できる。
【0019】
キャンセル電極の少なくとも1つが、隣接する複数のタッチ検出電極に対する水濡れの検出のために共有されているので、電極の構造がより簡易となることで、電極パターンの欠陥が生じにくくなり、誤作動の防止に寄与する。
【0020】
タッチ検出電極およびキャンセル電極は、アルミニウム層の少なくとも一部とガラス基板との間に中間層を有し、中間層が、クロム、モリブデン、およびタングステンから選ばれる少なくとも1つの金属を含む薄膜からなるので、タッチ面側からタッチ領域を見た場合に、電極が透明基板の光透過領域に存していても、電極の不可視性を高めることができ、意匠性の向上に寄与する。
【0021】
タッチ検出電極の外縁部と、キャンセル電極との間隔が、タッチ検出電極を構成する送信電極と受信電極間の間隔の3~15倍であるので、タッチ検出のための電磁界の強度と、水濡れ検出のための電磁界の強度が適切な関係性となることで、誤作動の防止効果により優れる。
【0022】
静電容量タッチパネルは、静電容量タッチパネルを動作させるモードである動作モードを変更する制御部を備え、制御部による動作モードの変更は、キャンセル電極から取得される静電容量の情報に基づいて行われ、動作モードは、タッチ面が乾燥状態の場合に用いられる非水濡れモードと、タッチ面が水濡れ状態の場合に用いられる水濡れモードを有し、水濡れモードの検出条件は、非水濡れモードの検出条件に比べ、タッチに対する感度が低下した検出条件であるので、タッチと水濡れの判定がより正確になされ、異なるスイッチが押されるなどの誤作動を抑制できる。
【0023】
制御部は、タッチ検出電極のそれぞれで動作モードを独立して変更するので、タッチ面が広い範囲で水濡れ状態であっても、タッチ検出電極それぞれにおいて、その周辺の水濡れ状況に応じて個別に最適なモード設定がなされ、高感度なタッチ検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の静電容量タッチパネルの一例を示す模式図である。
【
図2】タッチ検出電極およびキャンセル電極の拡大図である。
【
図6】検出動作の処理判定手順を示すフローチャートである。
【
図7】タッチ領域が水濡れした場合の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の静電容量タッチパネルの一例を
図1に基づいて説明する。
図1(a)は、タッチパネルにおけるタッチ領域の概要を表わした平面図である。本平面図におけるタッチ検出電極3については、タッチ検出電極の微細構造を示すものではなく、電極が存在する領域として、簡略化して示している(後述する
図5も同様とする)。
図1(a)に示すように、1つのタッチ検出電極3に対して、その左右両側に2つのキャンセル電極4が存する。キャンセル電極4は、タッチ検出電極の周囲を略等間隔に取り囲むように存するので、タッチ検出電極とキャンセル電極間が一部狭くなるなどに起因するタッチ検出電極の検出の誤動作を抑制しつつ、局所的にタッチ検出電極周囲の任意の場所が水濡れする状況においても、タッチ面の水濡れの状態を検出できる。
【0026】
図1(b)は、タッチパネルにおけるタッチ領域のA-A’線断面図である。
図1(b)では、説明のために電極や、ガラス基板などの厚さを実際よりも誇張して表現している(後述する
図3および
図4も同様とする)。
図1(b)に示すように、タッチパネル1は、ガラス基板2と、ガラス基板2の上に形成されたタッチ検出電極3およびキャンセル電極4を備える。
【0027】
タッチ検出電極3およびキャンセル電極4は、操作者がタッチする面であるタッチ面5とは反対側の電極形成面6の上に形成される。ここで、タッチ領域は、タッチ面側からタッチパネルを見た場合の、タッチ検出電極およびキャンセル電極が存する平面的な領域を意味する。また、タッチパネル1は、タッチパネルの動作を制御する制御部を備える(図示省略)。
【0028】
タッチ検出電極およびキャンセル電極の構造の一例を
図2に基づいて説明する。
図2は、タッチ領域に存するタッチ検出電極3とその周囲を略等間隔に取り囲むように設けられたキャンセル電極4について拡大した平面図である。
図2に示すように、タッチ検出電極3は、2種類の対となる電極から構成される櫛形構造をしている。この2種類の電極は、具体的には、電極間に電磁界を発生させるためにパルスを送信する送信電極3aと、それを受信する受信電極3bである。送信電極はX電極ともいい、また送信電極はY電極ともいう。各櫛形電極からは、引き出し配線3c、3dがそれぞれ延伸する。上述の通り、タッチ検出電極3は、その周囲をキャンセル電極4によって略等間隔に取り囲まれるが、隣接するキャンセル電極4同士の間には隙間があるため、引き出し配線は該隙間から引き出される。
【0029】
タッチ検出電極3は、送信電極3aと受信電極3bの電極間の電磁界の変化を検出する相互容量方式のセンサである。また、キャンセル電極4は、キャンセル電極自身と、タッチ検出電極3の送信電極3a(または受信電極3b)との電極間における電磁界の変化を検出する相互容量方式のセンサである。なお、キャンセル電極4については、自己容量方式としてもよい。
【0030】
図2以外の図面において、引き出し配線の記載を省略するが、キャンセル電極、タッチ検出電極共に、制御部へ繋がる引き出し配線を有している。タッチ検出電極およびキャンセル電極は、それらの引き出し配線も含め、電極形成面の同一平面上に形成される。キャンセル電極はタッチ検出電極を取り囲んでいるが、タッチ検出電極の周囲を閉じた形では包囲はしておらず、タッチ検出電極の上部と下部に引き出し配線用の隙間が設けられている。これにより、タッチ検出電極の引き出し配線を、周囲のキャンセル電極と接触することなく、外部の制御部へ接続できる。上述のタッチ検出電極の引き出し配線用のキャンセル電極間の隙間は、1つのタッチ検出電極に対して2つに限らず、2つ以上でもよいし、1つでもよい。また、引き出し配線が引き出し可能な形状であれば、キャンセル電極同士の端部を、図中垂直方向にずらして、水平方向には重なっている形状などとしてもよい。
【0031】
キャンセル電極間の隙間の幅(以下、「隙間の幅Ws」という)は、例えば約5mmである。また、タッチ検出電極から延伸する引き出し配線の電極幅(以下、「電極幅Wl」という)は、例えば約0.1mmである。隙間の幅Wsと、電極幅Wlとの比率Ws/Wlは、10よりも大きければ、自由な比率を選択できる。比率Ws/Wlは、40よりも大きいことが好ましく、100よりも大きいことがさらに好ましい。Ws/Wlが10よりも小さい場合、引き出し配線とキャンセル電極間のクロストークなどの問題が顕在化するおそれがある。隙間の幅Wsは、自由に設定できる。
【0032】
図3(a)は、
図2におけるB-B’線断面図である。
図3(a)に示す送信電極3aの幅(以下、「電極幅Wt」という)は、例えば約1mmである。ここで、電極幅Wtは、送信電極3aの幅でもよいし、受信電極3bでもよい。また、キャンセル電極4の幅(以下、「電極幅Wc」という)は、例えば約2mmである。電極幅Wcと、電極幅Wtとの電極幅の比率Wc/Wtは、1~50の範囲内で選択できる。電極幅の比率Wc/Wtは、好ましくは1~10、より好ましくは1~5、さらに好ましくは2~5である。Wc/Wtが1よりも小さい場合、水濡れに対する検出感度が低下するおそれがある。また、Wc/Wtが50よりも大きい場合、隣接するタッチ検出電極の設置距離が制限され、タッチパネルの意匠性に影響を与えるおそれがある。
【0033】
図3(b)は、
図2におけるC-C’線断面図である。タッチ検出電極3の外縁部、すなわち送信電極3aの外周部と、キャンセル電極4との間隔(以下、「電極間隔Wc-x」という)は、例えば約7mmである。また、送信電極3aと受信電極3bの間隔(以下、「電極間隔Wx-y」という)は、例えば約1mmである。
【0034】
電極間隔Wc-xと電極間隔Wx-yの比率Wc-x/Wx-yは、3~15の範囲内であることが好ましい。電極間隔の比率Wc-x/Wx-yは、好ましくは3~8、より好ましくは4~6である。Wc-x/Wx-yが3よりも小さい場合、送信電極とキャンセル電極との距離が近いため、電極間の電磁界が強まることで感度が高まり、誤作動が起こりやすくなるおそれがある。また、Wc-x/Wx-yが15よりも大きい場合、送信電極とキャンセル電極との距離が離れすぎるため、電極間の電磁界が弱まり、水濡れの検出感度が弱まるおそれがある。
【0035】
タッチ検出電極およびキャンセル電極に用いられる導電性薄膜について、
図4に基づいて説明する。
図4(a)は、タッチ検出電極を構成する送信電極3aおよび隣接するキャンセル電極4の断面図である。タッチ検出電極およびキャンセル電極の導電性薄膜は、断面形状、積層構造、組成がそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
図4(a)に示すように、導電性薄膜7はガラス基板2の上(タッチ面の反対面)に形成されている。この形態の導電性薄膜7は、アルミニウム層7aのみから構成される。導電性薄膜にアルミニウム層を用いることで、電極の抵抗が低くなり、タッチパネルの検出感度を向上できる。また、アルミニウムは低コストであるため、製品価格の低減にも寄与し、好ましい。アルミニウム層は、アルミニウムの純度が99%以上である純アルミニウムからなる純アルミニウム層でもよいし、銅、亜鉛、マグネシウム、マンガン、シリコン、ニッケルなどを含有するアルミニウム合金層でもよい。
【0036】
導電性薄膜は、スパッタリングや真空蒸着、化学的気相成長法などの方法を用いて形成できる。アルミニウム層を形成する場合、緻密で欠陥の少ない膜を得る観点から、スパッタリングまたは真空蒸着を用いることが好ましい。密着性の観点からは、スパッタリングが特に好ましい。
【0037】
アルミニウム層の膜厚は、50nm~10μmの範囲内で選択できる。好ましくは100nm~5μm、より好ましくは200nm~2μmである。膜厚が50nmよりも小さい場合、抵抗値が高まることでタッチに対する感度が低下し、誤作動が起こりやすくなるおそれがある。また、膜厚が10μmよりも大きい場合、電気的特性はそれ以上向上しにくいため、膜の形成に使用する材料コストの増大や、製造工程に要する時間が長くなるため好ましくない。
【0038】
タッチ検出電極およびキャンセル電極を構成する導電性薄膜は、上述のようにアルミニウム層のみから構成された単層構造でもよいし、アルミニウム層以外の他の金属層(中間層)がさらに積層された積層構造であってもよい。例えば、
図4(b)に示す構造は、ガラス基板2とアルミニウム層7aの間に、中間層7bを導入した2層構造である。中間層7bとしては、例えば、Cr、Mo、Wから選ばれる少なくとも1つの金属を含む薄膜の層を採用できる。この中間層7bは、可視光の干渉により入射光を吸収して黒色に見える層(黒色層)である。タッチ面からは、電極は黒色に見え、反射を抑制できる。また、中間層7bには、アルミニウムの酸化物(Al
2O
3など)およびチタニウムの酸化物(TiO
2など)から選ばれる少なくとも1つの酸化物を所定量含むことが好ましい。これら酸化物を所定量含むことで、反射率の更なる低減が図れる。中間層として、より好ましくはMoとAl
2O
3の混合層である。
【0039】
中間層は、上記アルミニウム層と同様に、スパッタリングや真空蒸着などの方法を用いて形成できる。また、中間層の膜厚は、5nm~500nmが適当であり、より好ましくは20nm~200nmである。この膜厚は、中間層材料の屈折率などに応じて材料毎に決められる。
【0040】
上記の中間層で例示した以外の他の金属層として、例えば、ニオビウム、金、銀、銅などの金属を含む薄膜、酸化錫やITO、ATO、ZnOなどの導電性無機薄膜、バナジン酸塩系、ビスマス系、または鉛系を主体とした導電性低融点ガラスなどを積層した構造でもよい。
【0041】
また、導電性薄膜の最上層の上などに絶縁層を設けてもよい。導電性薄膜の最上層の上(基板からみて反対側)に絶縁層を設ける場合、導電性薄膜と同じ幅で形成してもよいし、基板と導電性薄膜を一緒に被覆するよう、ベタ膜を形成してもよい。例えば、
図4(c)に示す構造は、ガラス基板2とアルミニウム層7aの間に、上述の中間層7bを導入し、アルミニウム層7aと中間層7bから構成される導電性薄膜7の上に絶縁層7cが形成された3層構造である。このような積層構造とすることで、絶縁層が、導電性薄膜の保護層としても機能するため、好ましい。
【0042】
絶縁層は、電気絶縁性があれば、有機薄膜でもよいし、無機薄膜でもよい。有機薄膜の材料として、例えば、光硬化性および/または熱硬化性のアクリル系や、シロキサン系コーティング剤を採用できる。または、非架橋性の疎水性樹脂として、スチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂などを採用してもよい。疎水性樹脂は、外部から導電性薄膜への水分の侵入を抑制するため、導電性薄膜の腐食を抑制する効果がある。有機薄膜は、スピンコート、ダイコート、スプレーコート、インクジェット、スクリーン印刷など種々の塗布方法により形成できる。
【0043】
無機薄膜の材料としては、例えば、SiO2や、SiNX、TiO2、Al2O3などを採用できる。無機薄膜は、上記導電性薄膜の場合と同様に、スパッタリングや真空蒸着により形成できる。屈折率の異なる絶縁層を複数層積層させることで反射防止性能を高め、視認性を向上できるため、好ましい。また、電極形成面側から、LEDなどの光源を発光させる場合に、光の損失を抑制できるため、好ましい。また、SiNXは緻密膜でバリア性能が高いため、過酷な外部環境であっても電極部位への水分や、ガスの侵入を防ぐことができ、タッチパネルの誤作動を抑制できる。
【0044】
絶縁層の膜厚は、5nm~5000nmが適当であり、より好ましくは10nm~200nmである。この膜厚は、絶縁層の屈折率や、疎水性、バリア性に応じて材料毎に適宜決定できる。
【0045】
キャンセル電極とタッチ検出電極とを一体に形成する場合、その膜厚は同じとなる。また、それぞれ独立に形成するなどにより、キャンセル電極の膜厚と、タッチ検出電極の膜厚を、それぞれ異なる値に設定してもよい。
【0046】
静電容量タッチパネルに用いられる電極が形成される基板は、ガラス基板に限られない。基板の種類としては、例えば、ポリイミド、ポリカーボネート、PMMA、PET、PBT、TAC、サファイヤなどから自由に選択できる。
【0047】
本発明の他の実施形態として、キャンセル電極の平面形状は、例えば、
図5(a)~(c)に示す形状としてもよい。
図5(a)の形態では、1つのタッチ検出電極3に対し、独立した左右一対のキャンセル電極4を設けている。これにより、より正確に水濡れ位置を検出できる。この形態は、隣り合うタッチ検出電極が離れている場合や、単独のタッチ検出電極が設けられている場合において有効である。
【0048】
図5(b)の形態では、1つのタッチ検出電極3に対し、電極間の隙間が対角関係に存する2つのキャンセル電極4を設けている。これにより、表面に付着した水が図中縦方向に流れているような場合においても、水濡れを正確に検知できる。
【0049】
図5(c)の形態では、左右に隣接するタッチ検出電極3の間に存するとともに、左右のタッチ検出電極3の上方または下方に電極が延びるT字状のキャンセル電極4を設けている。この形態では、
図1の場合と同様に、
図5(a)や
図5(b)の場合と比較してキャンセル電極数を削減できる。より単純な電極形状となるため、電極形状の欠陥が生じにくくなり、歩留まりの向上とともに、誤作動の抑制に寄与する。また、電極数の減少は、制御部での演算処理の負担も軽減する。
【0050】
電極の平面形状は、真空蒸着やスパッタリングなどの真空プロセスで導電性薄膜を形成する際に、所定の形状の穴が開いたマスクを基板に重ねることで形成できる。また、真空プロセス時にはマスクを使用せずにベタ導電性薄膜を形成し、その後に感光性樹脂組成物を用いたフォトリソグラフィープロセスで導電性薄膜上にレジスト膜を形成し、酸性溶液へ浸漬することにより電極形状を形成してもよい。
【0051】
電極の断面形状は、矩形であってもよいし、矩形の構造を組み合わせることで、基板側が幅広く、基板の反対側が狭い構造であってもよい。例えば、真空プロセスを繰り返し、各真空プロセスで異なる幅の導電性薄膜を形成することで、断面方向の電極形状も制御できる。この場合、上記電極幅は、基板側の幅が最大となる数値とする。
【0052】
本発明の動作モードについて、
図6に基づいて説明する。
図6は、タッチ面へのタッチおよび水濡れに対する検出動作の処理判定手順の一例を示すフローチャートである。制御部による動作モードは、非水濡れモードと、水濡れモードと、タッチ無効モードを有する。非水濡れモードは、タッチ面が乾燥している状態での動作モードである。水濡れモードは、キャンセル電極が水濡れを検知した場合に、タッチに対する感度が低下した動作モードである。タッチ無効モードは、当該モードの間タッチ操作を一切受け付けずタッチ無効処理状態となる動作モードである。タッチ無効モードでは、水膜の面積や、厚さなど、水濡れの程度が大きい場合に、水濡れモードの感度のまま、タッチ検出は行わない。
【0053】
タッチの検出をする場合、タッチパネルの制御部は、タッチ検出電極およびキャンセル電極の状態を把握するため、各電極の静電容量測定(S1)を行う。静電容量測定(S1)の後、最初に動作モードの判定(S2)を行う。動作モードの判定(S2)は、キャンセル電極の静電容量および静電容量変化したタッチ検出電極数に基づいて行われる。動作モードの判定は、例えば、キャンセル電極の静電容量の変化量(検出パラメータ)が所定の値よりも大きい場合に、水濡れ状態であると判定する。具体的には、乾燥状態のタッチ面の場合、検出パラメータは10000カウント値である。それに対し、導電率が100μSの水がタッチ面の全面に水膜を形成した場合、検出パラメータは17500カウント値となり、大幅に増大する。このような検出パラメータの変化を基に、タッチ面が水濡れ状態か否かを判定する。動作モードが判定された後、各動作モードにおいて、個々の条件でタッチ有効と無効の判定(S3-1、S3-2)、またはタッチ無効処理が行われる。
【0054】
キャンセル電極の静電容量が小さく、静電容量が変化したタッチ検出電極数が少ない場合、動作モードは非水濡れモードと判定される。この場合、制御部は、タッチ検出電極の最初の静電容量変化の後の一定時間(タッチ無効時間)、他の電極で静電容量変化があっても無効とし、タッチ操作として認識しない。タッチ無効時間中にタッチ検出電極の静電容量が変化した場合、タッチ無効と判定して処理を終了する。一方、タッチ無効時間中に静電容量が変化しなかった場合、制御部はタッチ有効と判定し、処理を終了する(S3-1)。タッチ有効または無効を判定する方法としては、上述したタッチ無効時間中の静電容量の変化の有無で判定する方法に限られず、例えば、タッチ検出電極間のタッチ傾向で判定する場合、隣接するタッチ検出電極間の静電容量の経時変化を基に判定する方法が挙げられる。または、複数のキャンセル電極から取得される静電容量の変化量である検出パラメータの最高値と、それに次ぐ値の差分を基に判定する方法としてもよい。
【0055】
キャンセル電極の静電容量が中程度で、静電容量が変化したタッチ検出電極数が少ない場合は、動作モードは水濡れモードと判定される。水濡れモードの場合も、制御部は非水濡れモードと同様の方法でタッチ有効または無効を判定する(S3-2)。
【0056】
キャンセル電極の静電容量が大きく、静電容量が変化したタッチ検出電極数が多い場合は、動作モードはタッチ無効モードと判定される。この場合、制御部は、タッチ無効処理により一切の検出を無効とし、タッチ判定を行わずに終了する。処理終了後は、再度S1から処理が開始され、以下、同様の処理が繰り返される。
【0057】
次に、各動作モードにおける、検出条件の詳細について説明する。検出条件は、スレッショルド、レスポンス、補正などの種々の設定を含む。各モード間での設定それぞれの相対的な関係としては、非水濡れモードでは、スレッショルド:低、レスポンス:速、補正:遅であり、水濡れモードでは、スレッショルド:高、レスポンス:遅、補正:速である。また、タッチ無効モードは、水濡れモードと同じ検出条件のまま、所定の時間タッチ操作を受け付けない。
【0058】
水濡れモードを備えることで、タッチ面が水濡れした場合でもタッチパネルを操作することができる。また、水濡れの程度が大きく、誤検出の可能性が高い場合には、タッチ無効モードとなり、タッチを検出しなくなることで、異なるスイッチが押されるなどの誤作動を抑制できる。
【0059】
図7には、タッチ領域が水濡れした状態の平面図を示す。
図7を用いてタッチ領域の水濡れの程度による、それぞれの状態ごとの動作の詳細を説明する。ここでは、隣接するタッチ電極間に存し、それらに共有されるキャンセル電極の場合(
図1の形態)の動作について説明する。
【0060】
図7(a)は、1つのタッチ検出電極の一部にのみ水滴が付着した状態の図である。この場合は、タッチ検出電極への影響が小さく、非水濡れモードでの動作が可能である。なお、キャンセル電極が自己容量方式の場合、水滴の付着を容量の増加として検出し、指のタッチによる容量増加と区別できないため、誤作動を起こしやすい。これは、自己容量方式の動作原理に起因するものであり、水滴の付着に限られず、後述する広い範囲の水膜が形成された場合も、同様に誤作動を起こしやすい。一方、キャンセル電極と送信電極による相互容量方式であると、水滴の付着による容量変化と、指のタッチによる容量変化を区別可能なため、誤作動を起こしにくい。
【0061】
図7(b)は、1つのタッチ検出電極とともに、左側に隣接するキャンセル電極にも水が触れ、水膜としてタッチ面が水濡れした状態の図である。キャンセル電極によりどのタッチ検出電極が水濡れしているかを判定できる。相互容量方式の場合、この状態でも誤動作は起こりにくいが、水膜がタッチ検出電極とグラウンドベタにまたがって接触していると、グランドリターン結合を強めるため、水濡れと指のタッチを区別しにくくなる。この場合、制御部は、水濡れしたタッチ検出電極のみを独立して水濡れモードとする。
【0062】
図7(c)および
図7(d)は、複数のタッチ検出電極と、その周囲のキャンセル電極まで水濡れした状態の図である。キャンセル電極によりどのタッチ検出電極が水濡れしているかを判定できる。このような水膜の場合、複数のタッチ検出電極が水濡れして繋がった状態となるため、一か所のタッチ検出電極にタッチしても別のタッチ検出電極の容量が変化し、誤作動が起こる可能性がある。この場合、制御部は、水濡れした複数のタッチ検出電極をタッチ無効モードとする。
【0063】
本発明のタッチパネルは、キャンセル電極が複数のタッチ検出電極のそれぞれを略等間隔に取り囲むように設けられているので、キャンセル電極によるタッチ検出の誤動作を抑制しつつ、水濡れの位置と水濡れ状態でのタッチ位置を精度よく検出できる。加えて、これに応じて、制御部により水濡れに対応した動作モードに切り替えることができる。これらの結果、水濡れの範囲が広く、複数のタッチ部に水膜がまたがって形成される場合、スイッチ外の部分などに水膜がまたがる場合、その他流水が一定時間接触しているような場合においても、誤作動を防止できる。
【0064】
本発明の静電容量タッチパネルの制御方法は、静電容量タッチパネルを動作させるモードである動作モードを変更する制御部によって制御され、制御部による動作モードの変更は、キャンセル電極から取得される静電容量の情報に基づいて行われ、動作モードは、タッチ面が乾燥状態の場合に用いられる非水濡れモードと、タッチ面が水濡れ状態の場合に用いられる水濡れモードを有し、水濡れモードの検出条件は、非水濡れモードの検出条件に比べ、タッチに対する感度が低下した検出条件である。この場合、静電容量タッチパネルは、上述した本発明の静電容量タッチパネルで構成される。この方法により、タッチと水濡れの判定がより正確になされ、異なるスイッチが押されるなどの誤作動を抑制できる。さらに、必要に応じて、上述のタッチ無効モードや、各モードでのタッチ無効時間の設定により、より誤動作を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の静電容量タッチパネルは、使用環境によらず、水濡れによる誤作動を防止できるので、静電容量タッチパネルとして広く利用できる。特に、高い頻度でパネル表面に水膜などが形成されやすい浴室や屋外での使用に好適である。
【符号の説明】
【0066】
1 タッチパネル(静電容量タッチパネル)
2 ガラス基板
3 タッチ検出電極
3a 送信電極
3b 受信電極
引き出し配線 3c、3d
4 キャンセル電極
5 タッチ面
6 電極形成面
7 導電性薄膜
7a アルミニウム層
7b 中間層
7c 絶縁層