(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090321
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】遊星ローラ式摩擦伝動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 13/08 20060101AFI20220610BHJP
【FI】
F16H13/08 F
F16H13/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202652
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】中井 裕之
【テーマコード(参考)】
3J051
【Fターム(参考)】
3J051AA01
3J051BA03
3J051BB05
3J051BD01
3J051BE04
(57)【要約】
【課題】ローラ径のばらつきを考慮しつつ、遊星ローラの組み付け作業に要する平均的な工数を削減可能な遊星ローラ式摩擦伝動装置を提供する。
【解決手段】摩擦伝動装置10は、第一軸14に接続される太陽ローラ28と、太陽ローラ28と同心円状に固定される外輪26と、太陽ローラ28の外周面36と外輪26の内周面38との間を摩擦接触状態で転動する遊星ローラ32と、第一軸14とは異なる第二軸16に接続されて遊星ローラ32を回転可能に保持するキャリア30と、を備える。遊星ローラ32は、軸方向に垂直な断面が楕円である外形を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一回転体に接続される太陽ローラと、
前記太陽ローラと同心円状に固定される外輪と、
前記太陽ローラの外周面と前記外輪の内周面との間を摩擦接触状態で転動する遊星ローラと、
前記第一回転体とは異なる第二回転体に接続されて前記遊星ローラを回転可能に保持するキャリアと、
を備え、
前記遊星ローラは、軸方向に垂直な断面が楕円である外形を有する、遊星ローラ式摩擦伝動装置。
【請求項2】
前記遊星ローラは、中空ローラからなる、
請求項1に記載の遊星ローラ式摩擦伝動装置。
【請求項3】
前記楕円における短軸に対する長軸の比は、1.001~1.005である、
請求項1又は2に記載の遊星ローラ式摩擦伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星ローラ式摩擦伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、太陽ローラの外周面と外輪の内周面との間に設けられる複数の遊星ローラを摩擦接触状態で転動させることで、入力側から出力側に動力を伝達する遊星ローラ式摩擦伝動装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の摩擦伝達装置を製造する際には、動力伝達の安定性を確保するため、太陽ローラ、外輪及び遊星ローラの組み付けには、高い位置決め精度が要求される。ところが、製造部品としての遊星ローラのロットには、ローラ径が標準値に略一致する部品のみならず、ローラ径が標準値よりも僅かに大きい部品が混在している。特に、ローラ径が大きい遊星ローラが選択された場合、組み付け作業時に、遊星ローラと太陽ローラの間、又は遊星ローラと外輪の間で機械的な干渉が発生することが想定される。
【0005】
上記した干渉が発生した場合、作業者は、組み付け位置の再調整や遊星ローラの交換などの対処を行う必要がある。その結果、遊星ローラの組み付け作業に要する平均的な工数(つまり、実工数の平均値)が増加するという問題がある。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ローラ径のばらつきを考慮しつつ、遊星ローラの組み付け作業に要する平均的な工数を削減可能な遊星ローラ式摩擦伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一態様における遊星ローラ式摩擦伝動装置は、第一回転体に接続される太陽ローラと、前記太陽ローラと同心円状に固定される外輪と、前記太陽ローラの外周面と前記外輪の内周面との間を摩擦接触状態で転動する遊星ローラと、前記第一回転体とは異なる第二回転体に接続されて前記遊星ローラを回転可能に保持するキャリアと、を備え、前記遊星ローラは、軸方向に垂直な断面が楕円である外形を有する。
【0008】
本発明の第二態様における遊星ローラ式摩擦伝動装置では、前記遊星ローラは、中空ローラからなる。
【0009】
本発明の第三態様における遊星ローラ式摩擦伝動装置では、前記楕円における短軸に対する長軸の比は、1.001~1.005である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ローラ径のばらつきを考慮しつつ、遊星ローラの組み付け作業に要する工数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態における遊星ローラ式摩擦伝動装置の概略構成を示す断面図である。
【
図3】
図2の遊星ローラによる作用効果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0013】
<摩擦伝動装置10の構成>
図1は、本発明の一実施形態における遊星ローラ式摩擦伝動装置(以下、単に「摩擦伝動装置10」という)の概略構成を示す断面図である。
図2は、
図1の摩擦伝動装置のA-A断面図である。なお、
図2では、本発明の理解を容易にするため、遊星ローラ32の形状が誇張して示されている。
【0014】
摩擦伝動装置10は、ケーシング12内で同一軸線上に配置された第一軸14(第一回転体)と、第一軸14とは異なる第二軸16(第二回転体)と、を備える。摩擦伝動装置10が減速機として機能する場合、第一軸14がトルクの入力側に対応するとともに、第二軸16がトルクの出力側に対応する。これとは逆に、摩擦伝動装置10が増速機として機能する場合、第二軸16がトルクの入力側に対応するとともに、第一軸14がトルクの出力側に対応する。
【0015】
第一軸14は、ケーシング12の第一開口18に挿通される軸であり、第一開口18の近傍に設けられる第一軸受20を介して回転自在に支持される。第二軸16は、ケーシング12の第二開口22に挿通される軸であり、第二開口22の近傍に設けられる第二軸受24を介して回転自在に支持される。
【0016】
摩擦伝動装置10は、さらに、外輪26と、太陽ローラ28と、キャリア30と、複数本(ここでは、3本)の遊星ローラ32と、を備える。外輪26は、太陽ローラ28と同心円状に配置され、ボルト34によってケーシング12に固定される。太陽ローラ28は、第一軸14と同軸的に接続され、第一軸14と一体となって回転可能に構成される。キャリア30は、第二軸16に同軸的に接続され、複数本の遊星ローラ32を回転可能に保持する。
【0017】
具体的には、キャリア30は、太陽ローラ28と同軸的に設けられる概略円板状の基台40と、基台40の表面側から法線方向に突出する突出部42と、を備える。基台40の表面中央部には、太陽ローラ28の先端部を収容する円柱状の凹みが形成される。基台40の裏中央部には、第二軸16が同軸的に接続される。遊星ローラ32と同数の突出部42は、周方向に沿って等角度間隔(三本の場合は、120度おき)に離間して配置される。これにより、隣り合う突出部42同士の間には、概略円柱状の隙間44が形成される。各々の突出部42の両側面には、概略半円柱状のポケット46が形成される。
【0018】
複数の遊星ローラ32は、それぞれ対応する隙間44に収容されることで、等角度間隔(三本の場合は、120度おき)に離間して配置される。各々の遊星ローラ32は、太陽ローラ28の外周面36と外輪26の内周面38との間に圧接して設けられる。これにより、遊星ローラ32は、太陽ローラ28と外輪26の間を摩擦接触状態で転動する。
【0019】
また、各々の遊星ローラ32は、無底筒状の中空ローラであり、環境温度が25℃である状態下にて、軸方向に垂直な断面が楕円である外形を有する。後述する組み付け性の観点から、遊星ローラ32の外周面36がなす楕円の軸比、つまり、短軸に対する長軸の比=長軸/短軸は、1.001以上(0.1%以上の扁平率)、より好ましくは1.002以上である。また、動力伝達の安定化の観点から、軸比は、1.01以下(1%以下の扁平率)、より好ましくは1.005以下、さらに好ましくは1.003以下である。
【0020】
また、楕円の軸比は、変速比又は遊星ローラ32の硬度に応じて変更してもよい。具体的には、変速比が小さくなるにつれて軸比を小さくする一方、変速比が大きくなるにつれて軸比を大きくしてもよい。あるいは、硬度が高くなるにつれて軸比を小さくする一方、硬度が低くなるにつれて軸比を大きくしてもよい。
【0021】
なお、摩擦伝動装置10には、外輪26を回転させることで変速比を変更可能な変速機構(不図示)がさらに設けられてもよい。外輪26を回転させる機械要素は、例えば、歯車・プーリなどが用いられる。機械要素を駆動するアクチュエータは、電動式、油圧式、気圧式のいずれであってもよい。
【0022】
<摩擦伝動装置10の動作>
本実施形態における摩擦伝動装置10は、以上のように構成される。続いて、摩擦伝動装置10の動作、「減速機」として機能する場合について、主に
図2を参照しながら説明する。
【0023】
入力側である第一軸14(
図1)からトルクが入力されると、太陽ローラ28は、矢印B方向に回転する。太陽ローラ28の回転に伴って、複数の遊星ローラ32は、太陽ローラ28の外周面36と外輪26の内周面38との間を摩擦接触状態で転動する。すなわち、複数の遊星ローラ32は、キャリア30の隙間44に収容されたまま、矢印C方向に自転する。自転を行う遊星ローラ32は、突出部42のポケット46を矢印Cに沿う方向で押し付ける。キャリア30は、遊星ローラ32の押圧により、遊星ローラ32と一体となって矢印D方向に公転する。これにより、キャリア30に付与されたトルクが、出力側である第二軸16(
図1)に出力される。
【0024】
キャリア30の回転速度が、太陽ローラ28の回転速度よりも低いので、第二軸16の回転速度は、第一軸14の回転速度と比べて低くなる。このようにして、摩擦伝動装置10は減速機として機能する。なお、摩擦伝動装置10が「増速機」として機能する場合、以下の説明における入出力関係を逆転させればよい。
【0025】
なお、摩擦伝動装置10の使用時に内部を温めることで金属部品が熱膨張し、外輪26と遊星ローラ32との間の密着性、遊星ローラ32と太陽ローラ28との間の密着性がそれぞれ高まる。また、摩擦伝動装置10の使用時にキャリア30からの負荷がかかることで、各々の遊星ローラ32はその断面形状が真円に近づく方向に変形する。これにより、断面形状が楕円である遊星ローラ32を用いる場合であっても、トラクションドライブとして機能する。
【0026】
<摩擦伝動装置10による作用効果>
続いて、
図2の遊星ローラ32による作用効果について、
図3を参照しながら説明する。ここでは、外輪26及び太陽ローラ28がケーシング12(
図1)内に固定された状態下に、遊星ローラ32を保持したキャリア30を組み付ける場合を想定する。理解を容易にするため、
図3では、外輪26、太陽ローラ28及び遊星ローラ32のみを模式的に図示している。また、
図3では、
図2と同様に、遊星ローラ32の形状が誇張して示されている。
【0027】
図3(a)は、遊星ローラ32の断面形状が真円である「比較例」を示している。ここで、点Pは太陽ローラ28の軸中心に相当し、点Qは遊星ローラ32の軸中心に相当する。ローラ径が大きい遊星ローラ32が選択された場合、組み付け作業時に、遊星ローラ32と太陽ローラ28の間、又は遊星ローラ32と外輪26の間で機械的な干渉が発生する。ここで、作業者が、遊星ローラ32の移動や回転を行ったとしても、この干渉状態を解消することができない。この場合、作業者は、組み付け位置の再調整や遊星ローラ32の交換などの対処を行う必要がある。
【0028】
図3(b)は、遊星ローラ32の断面形状が楕円である「実施例」を示している。上記した機械的な干渉が発生した場合、作業者が、点Qを中心に遊星ローラ32を回転させることで遊星ローラ32の高さを微調整することができる。具体的には、2点P,Qを結ぶ方向に対して楕円の長軸を傾けることで遊星ローラ32が低くなることを利用して、この干渉状態を解消することができる。
【0029】
このように、摩擦伝動装置10は、第一軸14(第一回転体)に接続される太陽ローラ28と、太陽ローラ28と同心円状に固定される外輪26と、太陽ローラ28の外周面36と外輪26の内周面38との間を摩擦接触状態で転動する遊星ローラ32と、第一軸14とは異なる第二軸16(第二回転体)に接続されて遊星ローラ32を回転可能に保持するキャリア30と、を備える。そして、遊星ローラ32は、軸方向に垂直な断面が楕円である外形を有する。
【0030】
遊星ローラ32の断面形状が楕円である場合、太陽ローラ28及び外輪26の径方向に対して長軸の向きを傾けるだけで、遊星ローラ32の高さを微調整することができる。すなわち、作業者が、組み付け位置の再調整や遊星ローラ32の交換などの対処を行う頻度が低下する。これにより、ローラ径のばらつきを考慮しつつ、遊星ローラ32の組み付け作業に要する平均的な工数を削減することができる。
【0031】
特に、遊星ローラ32は、中空ローラから構成されてもよい。中空ローラを採用することで、遊星ローラ32の接触部位にて歪み(部分変形)が生じ、遊星ローラ32の先後端に作用する撃力が分散・緩和される。これにより、遊星ローラ32の軸方向における面圧分布が均一に近づくので、外周面36又は内周面38の表面損傷が起こりにくくなり、その分だけ外輪26及び太陽ローラ28の長寿命化が図られる。
【0032】
また、断面形状が楕円である遊星ローラ32は偏心を伴って自転するため、上記した面圧分布が遊星ローラ32の角度位置に依存して周期的に変動するという弊害がある。そこで、中空ローラを採用することで、上記と同様の作用により、面圧分布の角度依存性が抑制されるという追加的な効果もある。
【0033】
また、楕円における短軸に対する長軸の比(つまり、軸比)は、1.001~1.005であることが好ましい。これにより、遊星ローラ32の組み付け性及び動力伝達の安定性を両立させることができる。
【0034】
<変形例>
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。あるいは、技術的に矛盾が生じない範囲で各々の構成を任意に組み合わせてもよい。
【0035】
上記した実施形態では、遊星ローラ32が三本である場合を例に挙げて説明したが、遊星ローラ32の本数は、二本、四本、五本、あるいは六本以上であってもよい。上記した実施形態では、遊星ローラ32が中空ローラである場合を例に挙げて説明したが、これに代えて中実ローラであってもよい。
【符号の説明】
【0036】
10…摩擦伝動装置、12…第一軸(第一回転体)、14…第二軸(第二回転体)、26…外輪、28…太陽ローラ、30…キャリア、32…遊星ローラ、36…外周面、38…内周面