IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社エンプラスの特許一覧

特開2022-90345乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬の製造方法
<>
  • 特開-乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬の製造方法 図1
  • 特開-乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090345
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20220610BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202694
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000208765
【氏名又は名称】株式会社エンプラス
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(72)【発明者】
【氏名】守越 大輔
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QS24
4B063QS40
(57)【要約】
【課題】 例えば、1個あたりに含まれる試薬量を所望量に設定した球状の乾燥試薬を安定して供給できる、新たな製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬の製造方法は、表面に半球状の凹部を有するプレートを使用し、前記プレートの前記凹部に、液体試薬を供給する工程、および、前記液体試薬が供給された前記プレートを凍結乾燥処理する工程を含み、前記液体試薬が、核酸増幅用の複数の試薬成分と水系溶媒との混合液であることを特徴とする。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に半球状の凹部を有するプレートを使用し、
前記プレートの前記凹部に、液体試薬を供給する工程、および、
前記液体試薬が供給された前記プレートを凍結乾燥処理する工程を含み、
前記液体試薬が、核酸増幅用の複数の試薬成分と水系溶媒との混合液である
ことを特徴とする、乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬の製造方法。
【請求項2】
前記プレートが、金属製プレートまたはプラスチック製プレートである、請求項1に記載の乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬。
【請求項3】
前記金属製プレートの金属が、アルミ、銅、チタン、およびスチールからなる群から選択された少なくとも一つを含む、請求項1または2に記載の乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬。
【請求項4】
前記プレートにおいて、前記凹部の表面が撥水性である、請求項1から3のいずれか一項に記載の乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬。
【請求項5】
前記プレートが、複数の前記凹部を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬の製造方法により製造されることを特徴とする乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCR等の核酸増幅は、液体の反応系において行われるが、その試薬として、近年では、安定性、簡便性等の点から、必要な試薬が全て混合されている固形の乾燥試薬が使用されている。前記乾燥試薬は、例えば、互いに接触する等の物理的な衝撃により欠けが生じ、必要量の試薬が不足することを避けるべく、球状であることが望ましい。
【0003】
前記球状の乾燥試薬の製造方法としては、例えば、液体窒素を使用する方法が知られている。この方法では、まず、複数の試薬を混合した液体試薬を調製し、これを液体窒素に滴下して、一滴ごとの凍結体を形成する。そして、前記液体窒素から前記凍結体を分離して、減圧下で乾燥する。これによって、液体窒素に滴下した際のドロップ状の凍結体から水分が除去された乾燥体を得ることができる。
【0004】
しかしながら、この方法は、液体窒素への滴下において、一滴ごとに分離した凍結体が形成されるとはかぎらず、滴下した複数の液滴が結合して大きな凍結体が形成される場合がある。しかし、この場合、1滴に含まれる試薬量は同じであるにもかかわらず、複数滴が結合すると、最終的に得られる乾燥体に含まれる試薬量が異なってしまうという問題がある。また、液体窒素を使用した急速冷凍により、密な構造の凍結体が形成されるため、続く乾燥工程において、水分が抜けにくい可能性もある。
【0005】
また、他の製造方法としては、例えば、表面がフラットな金属プレートに、前記液体試薬を一滴ずつ滴下して、凍結乾燥機において凍結乾燥処理を行うという方法があげられる。この方法では、液体窒素を使用する方法のように、液滴が結合するという問題は回避できる。しかしながら、フラットなプレートへの液体試薬の滴下であり、液滴は、前記プレートの表面上で広がってしまい、球状の凍結体を形成することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、例えば、1個あたりに含まれる試薬を所望量に設定した球状の乾燥試薬を安定して供給できる、新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬の製造方法は、
表面に半球状の凹部を有するプレートを使用し、
前記プレートの前記凹部に、液体試薬を供給する工程、および、
前記液体試薬が供給された前記プレートを凍結乾燥処理する工程を含み、
前記液体試薬が、核酸増幅用の複数の試薬成分と水系溶媒との混合液である
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬は、前記本発明の製造方法により得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、液体窒素を使用する特殊な凍結工程が不要であり、前記基板の凹部を利用することで、安定的に、目的の試薬量に設定された球状の乾燥試薬を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1において使用したプレートの概略を示し、(A)は平面図、(B)は断面図である。
図2図2は、実施例1における乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬の製造工程を示す概略図であり、(A)が、液体試薬の供給工程を示し、(B)が、凍結乾燥処理工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬の製造方法は、前述のように、表面に半球状の凹部を有するプレートを使用し、前記プレートの前記凹部に、液体試薬を供給する工程、および、前記液体試薬が供給された前記プレートを凍結乾燥処理する工程を含み、前記液体試薬が、核酸増幅用の複数の試薬成分と水系溶媒との混合液であることを特徴とする。前記乾燥球状体の核酸増幅用混合試薬は、以下、「球状乾燥試薬」ともいう。
【0012】
前記プレートの凹部は半球状であるが、前記凹部に前記液体試薬を供給すると、前記液体試薬の表面張力によって、前記凹部内において、前記液体試薬は球状となる。このため、前記プレートの凹部に球状となるように前記液体試薬を供給し、前記プレートを凍結乾燥すれば、前記プレートの凹部の内部で得られる前記液体試薬からの凍結乾燥体を球状とすることができる。
【0013】
本発明の製造方法により製造する前記球状乾燥試薬の大きさは、特に制限されず、例えば、所望の大きさを設定できる。前記球状乾燥試薬の目的の大きさは、その直径が、例えば、0.5~8mmの範囲であり、好ましくは1~4mmの範囲である。以下の本発明の具体的な説明においては、製造する前記球状乾燥試薬の目的の大きさとして、直径2mmを一例にあげ、この直径に調整するための条件の例を示す。なお、前記直径は一例であり、本発明は、これらの例には限定されない。
【0014】
前記プレートの材質は、特に制限されず、凍結乾燥処理において、前記凹部に供給した前記液体試薬を凍結できる熱伝導を有するものであればよい。前記熱伝導性は、特に制限されず、例えば、230W/m・Kである。前記プレートは、例えば、金属製プレートまたはプラスチック製プレートがあげられる。
【0015】
前記金属製プレートの金属は、特に制限されず、例えば、アルミ、銅、チタン、およびスチールがあげられ、いずれか一種類でもよいし、二種類以上の合金でもよい。
【0016】
前記プラスチック製プレートのプラスチックは、特に制限されず、ポリエチレンテレフタレート、PTFE、PFA、ETFE等のフッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等があげられ、いずれか一種類でもよいし、二種類以上の混合ポリマーでもよい。
【0017】
前記プレートの前記凹部は、例えば、その表面が撥水性(疎水性)であることが好ましい。前記凹部の表面が撥水性であることによって、前記凹部内において前記液体試薬の表面張力が発生しやすく、また、前記凹部内で形成される前記球状乾燥試薬を容易に前記凹部から剥離できる。撥水性の観点から、前記プレートの材質は、例えば、撥水性材料があげられる。また、前記プレートの材質にかかわらず、前記凹部の内部表面を撥水処理することにより、前記凹部の表面に撥水層が形成されてもよい。前記撥水処理は、例えば、前記凹部の内部表面を前記撥水性材料でコーティングする方法があげられる。前記撥水性材料は、例えば、前記フッ素樹脂等があげられる。前記プレートの材質が金属の場合、例えば、前記凹部の内部表面に撥水層を有することが好ましく、前記撥水層は、例えば、前記撥水性材料を用いた撥水処理により形成できる。
【0018】
前記プレートは、例えば、前記表面に複数の凹部を有することが好ましい。これにより、例えば、一回の凍結乾燥処理で複数の前記球状乾燥試薬を製造できる。前記プレート1枚あたりの前記凹部の数は、特に制限されず、前記プレートの表面の大きさ、目的とする前記球状乾燥試薬の大きさ等に応じて適宜設定できる。
【0019】
前記プレートにおける前記凹部の形状(前記凹部の内部空間の形状)は、前述のように半球状である。前記半球状は、例えば、球体を赤道位置で切断した半球でもよいし、赤道位置よりも下よりで切断した略半球でもよいし、赤道位置よりも上よりで切断した略半球でもよい。前記球体は、例えば、真球である。
【0020】
前記プレートにおける前記凹部の大きさ、および前記凹部に供給する前記液体試薬の量は、それぞれ、特に制限されず、例えば、目的とする前記球状乾燥試薬の大きさに応じて適宜設定できる。
【0021】
以下に、前記球状乾燥試薬の大きさを、前述のように直径2mmとする場合における、条件の具体例をあげる。なお、前記球状乾燥試薬は、例えば、反応液量4.2μLで核酸増幅反応を行う場合において、1反応液に1個を使用する例とする。なお、本発明は、この例に限定されない。
(1)前記凹部
直径 1~4mm
深さ 0.5~2mm
曲率半径 0.5~2
容積 0.26~16.8mm
(2)前記液体試薬
体積 0.5~33.5mm (0.5~33.5μL)
(3)両者の関係
前記凹部の容積と前記液体試薬の体積との比 1:1.8~2.2
【0022】
前記液体試薬は、核酸増幅用の複数の試薬成分と水系溶媒との混合液である。前記核酸増幅の方法は、特に制限されず、例えば、非等温増幅方法でもよいし、等温増幅方法でもよい。前記非等温増幅方法とは、例えば、乖離、アニーリング、増幅の各工程で温度を変化させる方法であり、PCR等があげられる。前記等温増幅方法は、例えば、一定温度の各工程を行う方法であり、LAMP法等があげられる。
【0023】
前記水系溶媒および前記試薬成分は、特に限定されず、例えば、公知の核酸増幅用の溶媒および試薬を、それぞれ用いることができる。
【0024】
前記凍結乾燥処理は、例えば、一般的な凍結乾燥装置を用いて行うことができる。凍結乾燥処理は、例えば、凍結工程と乾燥工程とを含む。
【0025】
前記凍結乾燥工程における条件は、特に限定されず、前記プレートの凹部における前記液体試薬を凍結できればよい。また、前記乾燥工程における条件は、特に限定されず、例えば、減圧下において、前記プレートの凹部において凍結された凍結体から水分を除去できればよい。
【0026】
このようにして得られる本発明の球状乾燥試薬は、核酸増幅に使用することができる。核酸増幅を行う際には、前記球状乾燥試薬とサンプル、必要に応じてさらに水性溶媒とを混合して、核酸増幅の種類に応じた温度処理を行うことで、核酸増幅反応を実施できる。前記水性溶媒は、例えば、水、緩衝液等である。
【実施例0027】
[実施例1]
本発明の製造方法により球状乾燥試薬を作製した。
【0028】
液体試薬は、核酸増幅用の複数の試薬成分と水系溶媒とを混合して調製した。
【0029】
前記凹部を有するプレートとして、図1に示すプレート10を準備した。図1において、(A)は、プレート10の平面図であり、(B)は、前記(A)のI-I方向の断面図である。プレート10の凹部11の内面は、鏡面とした。
・プレート10の材質 アルミニウム
・プレート10の大きさ 縦(X方向)40mm×横(Y方向)40mm
厚み(T)10±0.01mm
・凹部11の形状 半球状
・凹部11の大きさ 直径(D)φ2mm±0.05
中心軸の深さ1mm
・凹部11の個数 9個
・凹部11の中心のピッチ P1(X方向)10mm
P2(Y方向)10mm
【0030】
プレート10を用いて、図2に示すように処理を行った。すなわち、図2(A)に示すように、分注装置20を用いて、プレート10の各凹部11に液体試薬21をそれぞれ4.2μL注入した。図2(B)に示すように、プレート10の各凹部11において、液体試薬21は球状となった。そして、プレート10を市販品の凍結乾燥機30に入れて凍結乾燥処理を行った。その結果、凍結乾燥後のプレート10の各凹部11において、直径約2.0mmの球状乾燥試薬が形成されていることが確認できた。
【0031】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の製造方法によれば、液体窒素を使用する特殊な凍結工程が不要であり、前記基板の凹部を利用することで、安定的に、目的の試薬量に設定された球状の乾燥試薬を得ることができる。


図1
図2