(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090364
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 3/43 20060101AFI20220610BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
E02F3/43 B
E02F9/20 M
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202727
(22)【出願日】2020-12-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲司
(72)【発明者】
【氏名】塩飽 晃司
(72)【発明者】
【氏名】井村 進也
【テーマコード(参考)】
2D003
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB04
2D003BA02
2D003BA06
2D003BB04
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB02
(57)【要約】
【課題】マシンコントロールにおいて適切な支援動作を行うことができ、作業精度を向上することができる作業機械を提供すること。
【解決手段】操作レバー24から出力された操作信号と、慣性計測装置27~30から出力された姿勢情報と、圧力センサ32,33から出力された負荷情報と、表示入力装置26によって設定された作業領域とに基づいて、油圧ショベル1の現在の作業に係る状況を示す作業状況を判別し、判別した作業状況に応じて、フロント作業機12の操作補正制御における動作の内容を示す動作形態を予め設定された複数の動作形態から決定し、動作形態に応じてフロント作業機が動くように操作補正制御を実行する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体に対して旋回可能な上部旋回体と、
前記上部旋回体に取り付けられ、互いに回動可能に連結された複数のフロント部材からなる多関節型のフロント作業機と、
オペレータによる操作量に応じて、前記上部旋回体及び前記フロント作業機を操作するための操作信号を出力する操作装置と、
前記操作装置から出力された操作信号に応じて生成される駆動信号に基づいて、前記複数のフロント部材をそれぞれ駆動する複数のフロント作業機アクチュエータと、
前記操作装置から出力された操作信号に基づいて、前記上部旋回体を旋回駆動する旋回アクチュエータと、
前記上部旋回体及び前記フロント作業機の姿勢に関する情報である姿勢情報を検出する姿勢情報検出装置と、
前記操作装置から出力された操作信号と、前記姿勢情報検出装置で検出された姿勢情報とに基づいて、予め定めた目標面上および前記目標面に対する一方の領域内で前記フロント作業機が予め定めた位置または姿勢となるように、前記複数のフロント作業機アクチュエータの少なくとも1つに前記駆動信号を出力する操作補正制御を実行する制御装置とを備えた作業機械において、
複数の前記フロント作業機アクチュエータのうちの少なくとも1つのフロント作業機アクチュエータの負荷に関する情報である負荷情報を検出する負荷情報検出装置と、
予め定めた目標面の上方に作業領域を設定する作業領域設定装置とをさらに備え、
前記制御装置は、
前記操作装置から出力された操作信号と、前記姿勢情報検出装置で検出された姿勢情報と、前記負荷情報検出装置で検出された負荷情報と、前記作業領域設定装置によって設定された前記作業領域とに基づいて、前記作業機械の現在の作業に係る状況を示す作業状況を判別し、
判別した作業状況に応じて、前記フロント作業機の前記操作補正制御における動作の内容を示す動作形態を予め設定された複数の動作形態から決定し、
前記動作形態に応じて前記フロント作業機が動くように前記操作補正制御を実行することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1記載の作業機械において、
前記制御装置は、前記作業機械が実施している作業の状態を示す分類であって、前記フロント作業機の位置、動作方向、及び前記作業領域に基づいて設定される作業種別と、前記フロント作業機の先端に、複数の前記フロント部材の1つとして設けられた作業具の状態を示す分類であって、前記作業具の前記目標面に対する姿勢及び前記フロント作業機の負荷に基づいて設定される作業具状態とに基づいて、前記作業状況を判別することを特徴する作業機械。
【請求項3】
請求項2記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記作業種別として、前記フロント作業機が前記作業領域外で動作する状態を示す目標外作業、前記フロント作業機が前記作業領域外から前記作業領域内へ移動して前記目標面へ接近する状態を示す目標接近作業、前記フロント作業機が前記作業領域内で動作する状態を示す目標付近作業、及び、前記フロント作業機が前記目標面から離れて前記作業領域内から前記作業領域外へ移動する状態を示す目標離脱作業を予め定義し、
前記フロント作業機と前記目標面の位置関係、前記フロント作業機の前記目標面に対する動作方向、及び、前記作業領域に基づいて、前記作業種別を判別することを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項2記載の作業機械において、
前記フロント作業機は、前記複数のフロント部材のうちの先端に設けられたフロント部材として、土砂を充填可能な作業具を有し、
前記制御装置は、
前記作業具状態として、前記作業具内に土砂があるか否かを示す作業具土砂充填状態、及び、前記作業具が前記目標面に対して予め定めた相対角度の範囲内にあるか否かを示す作業具姿勢状態を予め定義し、
前記作業具の前記目標面に対する姿勢、及び、前記フロント作業機の負荷に基づいて、前記作業具状態を判別することを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1記載の作業機械において、
前記フロント作業機は、前記複数のフロント部材のうちの先端に設けられたフロント部材として、土砂を充填可能な作業具を有し、
前記制御装置は、
前記動作形態のモードとして、前記作業具の前記目標面に対する姿勢を現在の姿勢に保持する姿勢保持モード、前記作業具の前記目標面に対する姿勢を水平に保持する水平保持モード、及び、前記作業具の位置を前記目標面に一致させる位置指定モードを予め定義し、
前記動作形態に応じて前記フロント作業機が動くように操作補正制御を実行することを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルに代表される作業機械の作業効率を向上する技術として、作業装置(例えば、ブーム、アーム、及びバケットから成る作業装置)のオペレータによる操作装置の操作と、予め定めた条件とに従って作業装置の動作を半自動的に制御するマシンコントロール(MC:Machine Control)が知られている。マシンコントロール(以下、単にMCと称する)では、例えば、作業装置におけるバケットの先端位置を目標面に対して予め定めた距離に維持したり、バケットの姿勢(角度)を目標面に対して予め定めた角度に維持したりすることで、オペレータの操作支援を行う。
【0003】
MCの設定に関する技術として、例えば、特許文献1には、作業機(作業装置)を有する作業車両の制御システムであって、前記作業機の第1操作レバーと、前記第1操作レバーに設けられた第1操作部材と、前記作業機の自動制御を行うコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記第1操作レバーが中立位置にあることを含む実行条件が満たされているときに、前記第1操作部材の操作に応じて、前記第1操作部材に割り当てられた前記自動制御の機能を実行する、作業車両の制御システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MCにおいて適切な操作支援を実現するためには、作業内容や作業環境に応じてMCの有効化と無効化とを切り換えたり、適切な支援内容を設定したりする必要がある。しかしながら、従来技術のように、操作レバーに設けられた操作部材の操作によって自動制御の有効化と無効化とを交互に切り換える場合には、オペレータの操作忘れによって自動制御が無効化されたまま作業を行ってしまい、設計面を超えて掘削してしまうことが考えられる。また、オペレータの操作によって作業内容を設定する場合には、作業内容や支援内容の設定を誤ってしまい、作業装置が所望の姿勢とならずに施工面を誤って掘削しすぎたり、施工面に運搬した土砂をこぼしたりして、十分な作業精度を得られないことが考えられる。すなわち、上記のような場合には、適切なMC動作を実現することができず、作業精度が低下してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、マシンコントロールにおいて適切な支援動作を行うことができ、作業精度を向上することができる作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、下部走行体と、前記下部走行体に対して旋回可能な上部旋回体と、前記上部旋回体に取り付けられ、互いに回動可能に連結された複数のフロント部材からなる多関節型のフロント作業機と、オペレータによる操作量に応じて、前記上部旋回体及び前記フロント作業機を駆動するための操作信号を出力する操作装置と、前記操作装置から出力された操作信号に応じて生成される駆動信号に基づいて、前記複数のフロント部材をそれぞれ駆動する複数のフロント作業機アクチュエータと、前記操作装置から出力された操作信号に基づいて、前記上部旋回体を旋回駆動する旋回アクチュエータと、前記上部旋回体及び前記フロント作業機の姿勢に関する情報である姿勢情報を検出する姿勢情報検出装置と、前記操作装置から出力された操作信号と、前記姿勢情報検出装置で検出された姿勢情報とに基づいて、予め定めた目標面上および前記目標面に対する一方の領域内で前記フロント作業機が予め定めた位置または姿勢となるように、前記複数のフロント作業機アクチュエータの少なくとも1つに前記駆動信号を出力する操作補正制御を実行する制御装置とを備えた作業機械において、複数の前記フロント作業機アクチュエータのうちの少なくとも1つの油圧アクチュエータの負荷に関する情報である負荷情報を検出する負荷情報検出装置と、予め定めた目標面の上方に作業領域を設定する作業領域設定装置とをさらに備え、前記制御装置は、前記操作装置から出力された操作信号と、前記姿勢情報検出装置で検出された姿勢情報と、前記負荷情報検出装置で検出された負荷情報と、前記作業領域設定装置によって設定された前記作業領域とに基づいて、前記作業機械の現在の作業に係る状況を示す作業状況を判別し、判別した作業状況に応じて、前記フロント作業機の前記操作補正制御における動作の内容を示す動作形態を予め設定された複数の動作形態から決定し、前記動作形態に応じて前記フロント作業機が動くように前記操作補正制御を実行するものとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マシンコントロールにおいて適切な支援動作を行うことができ、作業精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】作業機械の一例である油圧ショベルの外観を模式的に示す図である。
【
図2】油圧ショベルの駆動機構に係る油圧回路の要部を抜き出して示す図である。
【
図3】コントローラの本実施の形態に係る機能部を示す機能ブロック図である。
【
図4】油圧ショベルが行う作業の一例を示す概観図であり、法面整形作業を示す図である。
【
図5】油圧ショベルが行う作業の一例を示す概観図であり、溝掘削作業を示す図である。
【
図6】油圧ショベルの姿勢演算について示す図であり、油圧ショベルの全体を側面図により概略的に示している。
【
図7】作業対象の一例を示す図であり、法面整形作業における作業対象を示す図である。
【
図8】作業対象の一例を示す図であり、溝掘削作業における作業対象を示す図である。
【
図9】表示入力装置に表示される入力画面の一例を示す図であり、作業領域設定画面を示す図である。
【
図10】表示入力装置に表示される入力画面の一例を示す図であり、作業領域内バケット設定画面が表示された様子を示す図である。
【
図11】作業種別判別処理の内容を示すフローチャートである。
【
図12】バケットの爪先位置が作業領域内にあるか否かの判定方法を説明する図である。
【
図13】作業具状態判別処理の内容を示すフローチャートである。
【
図14】圧力センサの検出結果の一例を示す図であり、アームシリンダのボトム圧の検出結果を示す図である。
【
図15】圧力センサの検出結果の一例を示す図であり、ブームシリンダのボトム圧の検出結果を示す図である。
【
図16】バケットの姿勢について説明する図である。
【
図17】バケットの姿勢について説明する図である。
【
図18】動作形態読出処理の内容を示すフローチャートである。
【
図19】バケットの支援動作量の演算方法を説明する図であり、バケットの目標面との関係を示す側面図である。
【
図20】支援動作中のバケットの状態表示を示す外観図である。
【
図21】ロータリーチルトバケットを拡大して示す図である。
【
図22】ロータリーチルトバケットを備えた油圧ショベルの作業の一例を示す概観図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態では、作業機械の一例として、多関節型のフロント作業機を搭載した油圧ショベルを例示して説明するが、フロント作業機を備える他の作業機械においても本発明を適用することも可能である。
【0011】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態を
図1~
図17を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの外観を模式的に示す図である。
【0013】
図1において、油圧ショベル1は、下部走行体10と、下部走行体10に旋回可能に設けられた上部旋回体11と、上部旋回体11に回動可能に設けられたフロント作業機12と、操作者(オペレータ)が搭乗する操作室22とから概略構成されている。
【0014】
フロント作業機12は、垂直方向にそれぞれ回動する複数のフロント部材(ブーム13、アーム14、バケット(作業具)15)を連結して構成された多関節型であり、ブーム13の基端は上部旋回体11の前部に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム14の一端はブーム13の基端とは異なる端部(先端)に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム14の他端には作業具としてのバケット15が垂直方向に回動可能に支持されている。
【0015】
ブーム13、アーム14、及び、バケット15は、油圧アクチュエータ(フロント作業機アクチュエータ)であるブームシリンダ17、アームシリンダ18、及び、バケットシリンダ19によりそれぞれ回動駆動される。また、上部旋回体11は、油圧アクチュエータ(旋回アクチュエータ)である旋回油圧モータ16により旋回駆動される。また、下部走行体10は、油圧アクチュエータ(走行アクチュエータ)である図示しない左右の走行油圧モータにより走行駆動される。
【0016】
ブームシリンダ17には、油圧アクチュエータの負荷に関する情報である負荷情報を検出する負荷情報検出装置として、ロッド側の油圧を検出する圧力センサ32aと、ボトム側の油圧を検出する圧力センサ32bとが設けられている。同様に、アームシリンダ18には、負荷情報検出装置として、ロッド側の圧力を検出する圧力センサ33aと、ボトム側の圧力を検出する圧力センサ33bとが設けられている。以降、圧力センサ32a,32b及び圧力センサ33a,33bをそれぞれまとめて圧力センサ32及び圧力センサ33と記載する場合がある。
【0017】
操作室22内には、操作装置である操作レバー24a,24b(
図2参照)と、油圧ショベル1の全体の動作を制御する制御装置であるコントローラ23と、操作者への情報を表示するとともに、操作者の指示を入力する表示入力装置26とが配置されている。以降、2つの操作レバー24a,24bをまとめて操作レバー24と記載する場合がある。
【0018】
コントローラ23は中央演算装置(CPU)、メモリ、インタフェースによって構成され、メモリ内に予め保存されているプログラムを中央演算装置(CPU)で実行し、メモリ内に保存されている設定値とインタフェースから入力された信号に基づいて中央演算装置(CPU)が処理を行い、インタフェースから信号を出力する。
【0019】
表示入力装置26は、例えば、タッチパネル等のポインティングデバイスであり、画面上に表示されるグラフィカルユーザインターフェース(GUI)により情報の表示と操作者からの指示を入力する構成となっている。
【0020】
上部旋回体11、ブーム13、アーム14、及び、バケット15には、それぞれの姿勢に関する情報である姿勢情報を検出する姿勢情報検出装置としての慣性計測装置(IMU: Inertial Measurement Unit)27,28,29,30がそれぞれ配置されている。以降、これらの慣性計測装置を区別する必要が有る場合は、それぞれ、車体慣性計測装置27、ブーム慣性計測装置28、アーム慣性計測装置29、及びバケット慣性計測装置30と称する。慣性計測装置27,28,29,30の各部材に対する相対的な取り付け位置は設計情報などから求められるので、慣性計測装置27,28,29,30の検出結果(角速度と加速度)に基づいて、上部旋回体11、ブーム13、アーム14、及び、バケット15の相対的な回動角度を推定することができる。
【0021】
また、上部旋回体11の上部には、位置情報を検出する位置情報検出装置としての2つのGNSS(Global Navigation Satellite System)アンテナ31a,31bが取り付けられている。GNSSアンテナ31a,31bは、人工衛星から受信した信号を演算することで位置情報を演算する位置演算機能を含んでおり、2つのGNSSアンテナ31a,31bでそれぞれ得られる位置情報の差分から上部旋回体11の方位(向き)を推定することができる。以降、2つのGNSSアンテナ31a,31bをまとめてGNSSアンテナ31と記載する場合がある。
【0022】
操作室22に配置された操作レバー24は、前後左右に揺動可能な2つの操作レバー24a,24bによって構成されている。操作レバー24は、2つの操作レバー24a,24bのそれぞれについて、前後左右方向の計4軸の揺動の操作量を入力可能に構成されている。操作レバー24の揺動操作により操作量に応じて生成される操作信号に基づいて、コントローラ23で駆動信号を生成することにより、操作レバー24における操作に対応して、旋回油圧モータ16、ブームシリンダ17、アームシリンダ18、及び、バケットシリンダ19をそれぞれ駆動することができる。また、操作レバー24a,24b上には、オペレータによる押下により操作入力が可能な操作ボタン25a,25b(
図2参照)が設けられている。以降、2つの操作ボタン25a,25bをまとめて操作ボタン25と記載する場合がある。
【0023】
図2は、油圧ショベルの駆動機構に係る油圧回路の要部を抜き出して示す図である。
【0024】
図2において、油圧ショベル1の駆動機構は、例えば、ディーゼルエンジンなどの原動機41により駆動される油圧ポンプ39及びパイロットポンプ40と、油圧ポンプ39から油圧アクチュエータ16,17,18,19へ供給される圧油の流量および方向を制御するコントロールバルブ34,35,36,37と、油圧ポンプ39及びパイロットポンプ40への作動油の供給と油圧アクチュエータ16,17,18,19から排出された作動油を貯蔵する作動油タンク42と、油圧ポンプ39から吐出された圧油の一部を作動油タンク42へ排出するためのブリードオフユニット43とにより概略構成されている。
【0025】
コントロールバルブ34,35,36,37は、パイロットポンプ40から吐出された圧油の油圧(パイロット圧)により駆動される。パイロットポンプ40から吐出された圧油は、コントロールバルブ34,35,36,37の電磁比例減圧弁34b,34c,35b,35c,36b,36c、37b,37cを介して方向制御弁34a,35a,36a,37aに導かれている。コントローラ23から出力される電流指令に基づいて電磁比例減圧弁34b,34c,35b,35c,36b,36c、37b,37cが制御されることにより、方向制御弁34a,35a,36a,37aの駆動が制御される。油圧ポンプ39から方向制御弁34a,35a,36a,37aに供給された圧油は、電磁比例減圧弁34b,34c,35b,35c,36b,36c、37b,37cの動作に応じて、対応する油圧アクチュエータ16,17,18,19に分配される量が調整される。
【0026】
油圧ポンプ39は、可変容量式であり、コントローラ23から出力される電流指令に基づいてレギュレータ39aが動作することにより油圧ポンプ39の容量が調整され、油圧ポンプ39の吐出流量が制御される。
【0027】
ブリードオフユニット43は、油圧ポンプ39から吐出された圧油の一部を作動油タンク42に逃すブリードオフ弁43aと、ブリードオフ弁43aによる逃し量を調整するブリードオフ弁用電磁比例減圧弁43bとから構成されている。油圧ポンプ39から吐出された圧油の一部は、ブリードオフ弁43aが作動油タンク42への油路を連通させることにより排出される。ブリードオフ弁43aは、ブリードオフ弁用電磁比例減圧弁43bで調整されたパイロット圧により駆動される。すなわち、ブリードオフ弁43aを介して作動油タンク42へ戻る圧油の流量は、コントローラ23から出力される電流指令に基づいてブリードオフ弁用電磁比例減圧弁43bで調整されたパイロット圧により制御される。
【0028】
コントローラ23は、操作レバー24、操作ボタン25、表示入力装置26、慣性計測装置27,28,29,30、及び、GNSSアンテナ31に接続されており、それぞれからの入力信号に基づいて電磁比例減圧弁34b,34c,35b,35c,36b,36c、37b,37c,43b、及び、レギュレータ39aを駆動する電流指令信号を出力し、油圧アクチュエータ16,17,18,19、油圧ポンプ39、及び、ブリードオフユニット43を駆動することで油圧ショベル1の動作を制御する。
【0029】
図3は、コントローラの本実施の形態に係る機能部を示す機能ブロック図である。
【0030】
本実施の形態において、コントローラ23内部のシステムはいくつかのプログラムの組み合わせとして実行され、インタフェースを介して操作レバー24、操作ボタン25、及び表示入力装置26の指示信号と、慣性計測装置27,28,29,30、ローテート角度計47、及びGNSSアンテナ31の検出信号とを入力し、中央演算装置(CPU)で処理を実施した後、インタフェースを介してコントロールバルブ34,35,36,37、油圧ポンプ39、及びブリードオフユニット43をそれぞれ駆動するための駆動信号を出力するように構成されている。
【0031】
図3において、コントローラ23は、
慣性計測装置27,28,29,30、及び、GNSSアンテナ31の検出結果に基づいて、フロント作業機12の位置および姿勢(例えば、バケット15の爪先位置や水平面に対する角度、など)を演算する作業具位置姿勢演算部50と、表示入力装置26に入力される操作者の指示内容に基づいて、油圧ショベル1による作業対象の位置や形状に関する情報である作業対象(例えば、目標面や作業領域)を設定する作業対象設定部51と、操作レバー24から出力された操作信号と、圧力センサ32,33の検出結果と、作業具位置姿勢演算部50から出力された演算結果と、作業対象設定部51の設定内容とに基づいて、油圧ショベル1の現在の作業に係る状況である作業状況を判別する作業状況判別部54と、表示入力装置26に入力される操作者の指示内容に基づいて、操作補正制御(支援動作時)におけるバケット15(作業具)の動作の内容である複数の動作形態を設定する作業具動作形態設定部52と、作業具動作形態設定部52で設定されたバケット15(作業具)の複数の動作形態を記憶する作業具動作形態記憶部53と、作業状況判別部54の判別結果(すなわち、判別した作業状況)に基づいて、作業具動作形態記憶部53に記憶された複数の動作形態から作業形態を呼び出す作業具動作形態呼出部55と、作業具位置姿勢演算部50の演算結果と、作業対象設定部51で設定された作業対象と、作業具動作形態呼出部55により決定された動作形態とに基づいて、バケット15(作業具)が所定の動作となるための動作補正量を演算する作業具動作補正量演算部56と、作業対象設定部51の設定内容と、操作レバー24から出力された操作信号(操作者の操作指示)と、作業具位置姿勢演算部50の演算結果と、作業具動作補正量演算部56の演算結果(動作補正量)とに基づいて、油圧ショベル1の各油圧アクチュエータ16,17,18,19の制御量を演算し電流指令(駆動信号)をコントロールバルブ34,35,36,37、油圧ポンプ39(レギュレータ39a)、及びブリードオフユニット43に出力する作業機制御量演算部57とから構成されている。
【0032】
次に、本発明の実施の形態における油圧ショベルが操作補正制御(支援動作)等により行う作業の内容を例示して説明する。
【0033】
図4及び
図5は、油圧ショベルが行う作業の一例を示す概観図であり、
図4は法面整形作業を、
図5は溝掘削作業をそれぞれ示す図である。
【0034】
図4に示すように、法面整形作業においては、油圧ショベル1は目標面5を掘削して平らに整形する作業を行う。具体的には、油圧ショベル1はバケット15の爪先を目標面5に一致させたまま掘削する動作と、ある程度掘削を進めた後に掘削した土砂をバケット15で掬ってストック4に運搬する動作とを繰り返す。また、掘削した目標面5をさらに平らにするため、ストック4の土砂をバケット15で掬って目標面5の上方から僅かに落とすことで目標面5の全体に撒き、さらにバケット15の底面を押し付ける動作を行う。
【0035】
このような法面整形作業の場合、操作補正制御(支援動作)では、目標面5上での掘削動作において、バケット15の爪先が目標面5の下方に到達しないように、言い換えると、目標面5に沿って移動させるように動作を支援する。また、目標面5の押しつけ動作において、バケット15の爪先を目標面5に沿うように移動させつつ、さらにバケット15の底面が目標面5と一致するようにバケット15の角度調整を支援する。このように支援動作を行うことで、法面整形作業精度を向上することができる。
【0036】
また、目標面5で掘削した土砂をストック4へ運搬する動作、およびストック4で掬った土砂を目標面5へ運搬する動作では、バケット15の開口面を水平となるようにバケット15の角度調整を支援することで、運搬している土砂がバケット15からこぼれてしまうことを抑制することができるので、清掃などの余分な作業を削減することができ、作業精度および作業効率を向上することができる。
【0037】
図5に示すように、溝掘削作業(例えば、資材6の埋設作業)においては、地面を掘削して溝3を形成し、資材6を溝に設置した後、溝3を埋め戻す作業を行う。具体的には、資材6を設置する適切な高さとして溝3の底面を目標面5に設定し、油圧ショベル1のバケット15の爪先を目標面5に一致させたまま掘削する動作と、ある程度掘削を進めた後に掘削した土砂をバケット15で掬ってストック4に運搬する動作とを繰り返す。また、溝3を埋め戻すため、ストック4の土砂をバケット15で掘削して掬う動作と、溝3の上まで運搬して落とす動作とを繰り返す。
【0038】
このような溝掘削作業の場合、操作補正制御(支援動作)では、目標面5上での掘削動作において、バケット15の爪先が目標面5の下方に到達しないように、言い換えると、目標面5に沿って移動させるように動作を支援することで、作業の精度を向上することができる。
【0039】
また、溝3の形成で掘削した土砂をストック4へ運搬する動作、およびストック4で掬った土砂を溝3へ運搬する動作では、バケット15の開口面を水平となるようにバケット15の角度調整を支援することで、運搬している土砂がバケット15からこぼれてしまうことを抑制することができるので、清掃などの余分な作業を削減することができ、作業精度および作業効率を向上することができる。
【0040】
すなわち、
図4及び
図5に示したように、作業精度および作業効率を向上させるためには、バケット15の位置や姿勢を補正する支援動作を作業の進捗等の状況に応じて変更することが望ましい。
【0041】
図6は、油圧ショベルの姿勢演算について示す図であり、油圧ショベルの全体を側面図により概略的に示す図である。
【0042】
作業具位置姿勢演算部50は、
図6に定義する変数を用いることで、油圧ショベル1の姿勢情報として、バケット15の先端位置(爪先位置)や姿勢(角度)を演算する。油圧ショベル1には、上部旋回体11の旋回軸と下部走行体10の下側に接する平面との交点をショベル座標系の原点Ogとして定義する。油圧ショベル1の外部に設定されたグローバル座標系におけるショベル座標系の原点Ogの位置は、GNSSアンテナ31で検出したGNSSアンテナ31のグローバル座標系における位置と、ショベル座標系の原点Ogに対するGNSSアンテナ31の取り付け高さLg1および前後方向取付け長さLg2から求めることができる。また、グローバル座標系に対するショベル座標系の向きは、ショベル座標系を水平面に鉛直な軸を中心に、GNSSアンテナ31で検出した油圧ショベル1のグローバル座標系の向き(方位角)に向けることで求めることができる。ここで、グローバル座標系からショベル座標系への同時変換行列をTshと定義する。
【0043】
ショベル座標系の原点Ogに対するバケット15の先端位置(爪先位置)Pbkは、上部旋回体11の旋回角度θsw、ブーム13の揺動角θbm、アーム14の揺動角θam、バケット15の揺動角θbkと、各部材の長さLf1,Lf2,Lbm,Lam,Lbkとを用い、油圧ショベル1を4リンクから構成されるリンク構造としてD-H法(Denaviet-Hartenbergの記法)等を適用する、すなわち、リンク毎に定義される同時変換行列の積を取ることで得ることができる。
【0044】
ここで、バケット15の先端位置Pbk=(Xbk,Ybk,Zbk)と、水平面(グローバル座標系)とショベル座標系との成す角(Pitch_bk)と、各部材間の角度(θsw,θbm,θam,θbk)との関係は、以下のベクトル式(式1)~(式3)で表すことができる。なお、下記の(式1)及び(式2)における「^T」は転置を表す。
r=[Xbk,Ybk,Zbk,Pitch_bk]^T …(式1)
q=[θsw,θbm,θam,θbk]^T …(式2)
r=F(q) …(式3)
【0045】
図7及び
図8は、作業対象の一例を示す図であり、
図7は法面整形作業における作業対象を、
図8は溝掘削作業における作業対象をそれぞれ示す図である。なお、
図7及び
図8においては、作業対象の位置や形状に関する情報である作業対象として、目標面5および作業領域7を例示して説明している。
【0046】
図7及び
図8に示すように、作業対象設定部51では、法面整形作業(
図4参照)及び溝掘削作業(
図5参照)における作業対象の一つである目標面5は、4つの代表点Pt1~Pt4を頂点として構成される長方形状の平面で定義される。目標面5の法線ベクトルn=[nx、ny、nz]^Tはベクトル(Pt3-Pt2)とベクトル(Pt1-Pt2)の外積を正規化することで得ることができる。また、作業対象の一つである作業領域7は、目標面5を定義する代表点Pt1~Pt4とは異なる代表点Pt1’~Pt4’を目標面5の上方に仮定した場合に、目標面5を面の1つとした3次元空間上の立体として定義される。すなわち、作業対象設定部51では、表示入力装置26に入力される操作者の指示内容(代表点Pt1~Pt4)に基づいて作業対象である目標面5を設定し、また、指示内容(代表点Pt1~Pt4,Pt1’~Pt4’)に基づいて作業対象である作業領域7を設定する。
【0047】
図9及び
図10は、表示入力装置に表示される入力画面の一例を示す図であり、
図9は作業領域設定画面を、
図10は作業領域内バケット設定画面が表示された様子をそれぞれ示す図である。
【0048】
図9に示すように、表示入力装置26では、入力画面(作業領域設定画面)に予め設定している施工図面の情報から作業対象の全体像である作業対象表示90を表示し、目標面5として設定する作業対象表示90上の任意の面の選択状況を表示するようにGUIを構成する。また、決定ボタン95、及び、戻るボタン96を画面上に表示し、油圧ショベル1の操作者による選択入力を受付けるようにGUIを構成し、任意の面が選択されている状態で決定ボタン95を押下することにより、作業領域7を設定する対象となる目標面5を設定する。決定ボタン95の押下により目標面5を設定すると、作業領域7を設定するための作業領域調整表示91を表示し、油圧ショベル1の操作者による作業領域7の大きさ、すなわち、目標面5から作業領域7の上面(
図7及び
図8に代表点Pt1’~Pt4’で定義される面)までの距離の設定を受付けるように構成する。
【0049】
なお、本実施の形態においては、作業領域7の目標面5と上面とが平行となるように定義し、上面を構成する4つの代表点のうちの一つを作業領域調整表示91によって示すことで作業領域7の大きさを設定する場合を例示して説明したが、これに限られず、例えば、作業領域7の上面を構成する4つの代表点のうちの複数の点の目標面5からの距離を個別に調整可能なように構成しても良い。
【0050】
また、表示入力装置26の作業領域設定画面において、決定ボタン95の押下によって作業領域7の大きさが設定されると、続いて、表示入力装置26に作業領域内バケット設定画面92が表示される。作業領域内バケット設定画面92では、作業領域7内におけるバケット15の支援動作内容(動作形態)を設定する。作業領域内バケット設定画面92では、バケット高さ調整表示93を表示して操作者によるバケット15の爪先位置(目標面5からの距離)の設定を受け付け、バケット姿勢調整表示94を表示して操作者によるバケット15の姿勢(水平面に対する角度)の設定を受付けるように構成する。なお、作業領域内バケット設定画面92では、複数種類の動作形態のそれぞれに対応するようにバケット15の爪先位置および姿勢の設定を行う。
【0051】
支援動作の動作形態の種類としては、「バケット姿勢保持モード」、「爪先位置指定モード」、「バケット水平保持モード」がある。「バケット姿勢保持モード」は、バケット15の底面を目標面5に一致させるようにバケット15の角度制御を行う動作形態である。また、「爪先位置指定モード」は、バケット15の爪先を目標面5に一致させるようにバケット15の位置制御を行う動作形態である。また、「バケット水平保持モード」は、バケット15の開口面を水平に保持させるようにバケット15の角度制御を行う動作形態である。
【0052】
作業具動作形態設定部52では、表示入力装置26に入力される操作者の指示内容に基づいて動作形態を設定し、作業具動作形態記憶部53に記憶させる。
【0053】
次に、作業状況判別部54における作業状況判別処理について説明する。作業状況判別部54では、油圧ショベル1の作業の状況を示す作業状況を判別する作業状況判別処理として、作業種別判別処理と作業具状態判別処理とを行う。作業種別判別処理では、作業具位置姿勢演算部50の演算結果と、作業対象設定部51の設定内容とに基づいて、油圧ショベル1が実施している作業の状態を示す分類である作業種別を判別する。また、作業具状態判別処理では、圧力センサ32,33の検出結果と、作業具位置姿勢演算部50の演算結果とに基づいて、バケット15の状態である作業具状態を判別する作業具状態判別処理を行う。なお、コントローラ23における作業状況判別処理(作業種別判別処理、作業具状態判別処理)は、予め定めた単位処理時間(例えば、サンプリング時間)毎に繰り返し実行される。
【0054】
作業種別判別処理では、油圧ショベル1が実施している作業の状態を示す分類である作業種別を、フロント作業機12(具体的には、バケット15)の位置および動作方向に基づいて設定する。
【0055】
図11は、作業種別判別処理の内容を示すフローチャートである。
【0056】
図11に示すように、作業種別判別処理において、コントローラ23はまず、作業対象設定部51で設定された、グローバル座標系で表されている作業領域7の代表点Pt1~Pt4,Pt1’~Pt4’(
図7及び
図8参照)と法線ベクトルnとを、グローバル座標系から油圧ショベル1の座標系(車体座標系)に変換する(ステップS100)。
【0057】
代表点Pt1~Pt4,Pt1’~Pt4’と法線ベクトルnとのグローバル座標系から車体座標系への変換は、同時変換行列Tshを用いて以下の(式4)~(式6)のように行うことができる(ここで、lは番号を表す正の整数とする)。
Ptl=(Tsh^-1)×Pt …(式4)
Ptl’=(Tsh^-1)×Pt’ …(式5)
nl=(Tsh^-1)×(Pt+n)-Ptl …(式6)
【0058】
続いて、作業具位置姿勢演算部50の演算結果と作業対象設定部51の設定内容とに基づいて、バケット15の爪先位置Pstが作業領域7内にあるか否かを判定する(ステップS120)。
【0059】
バケット15の爪先位置Pstが作業領域7内にあるか否かの判定は、例えば、代表点Pt1~Pt4,Pt1’~Pt4’で構成される6面体の各面の領域方向への法線と、各代表点とバケット15の爪先位置Pstを結ぶベクトルの内積の大きさを使って判定することができる。例えば、
図12に示すように、目標面5の法線ベクトルnlと代表点Pt2とバケット15の爪先位置Pstを結ぶベクトルvptl2との内積が0(ゼロ)以上の場合には、爪先位置Pstは目標面5より上側、すなわち作業領域7側に存在すると判定でき、0(ゼロ)未満の場合には、爪先位置Pstは目標面5より下側、すなわち作業領域7外に存在すると判定することができる。同様の処理を作業領域7を構成する全ての面について実施し、全ての内積が0(ゼロ)以上であった場合には、バケット15の爪先位置Pstが作業領域7内に存在すると判定することができる。
【0060】
続いて、操作レバー24から出力された操作信号に基づいて、油圧ショベル1の操作者の操作によるバケット15の爪先位置Pstの移動先、すなわち、操作者による要求爪先位置Pestを予測し、その予測結果(要求爪先位置Pest)が作業領域7内にあるかどうかを判定する(ステップS130)。
【0061】
要求爪先位置Pestは、操作レバー24の操作量(操作信号)に比例する旋回油圧モータ16、ブームシリンダ17、アームシリンダ18、及び、バケットシリンダ19の速度目標値を幾何変換して得られる各部の角度θsw,θbm,θam,θbkの角速度目標値をωlevとし、予め定められている推定時間Δtestを用いて下記の(式7)及び(式8)により求めることができる。
J(q)=∂F(q)/∂q …(式7)
Pest=Pst+J(q)×ωlev×Δtest …(式8)
【0062】
得られた要求爪先位置Pestに対して、ステップS120と同様の演算を行うことにより、要求爪先位置Pestが作業領域7内に存在するか否かを判定することができる。
【0063】
次に、現在のバケット15の爪先位置Pstが作業領域7内であるかどうかをステップS120の演算結果に基づいて判定し(ステップS140)、判定結果がYESの場合には、続いて、要求爪先位置Pestが作業領域7内であるかどうかをステップS130の演算結果に基づいて判定する(ステップS150)。
【0064】
ステップS150での判定結果がYESの場合、すなわち、バケット15の爪先位置Pst及び要求爪先位置Pestが両方ともに作業領域7内である場合には、油圧ショベル1の作業の状態を表す作業種別を、作業領域7内で作業を行っていることを示す「目標内作業」に設定し(ステップS151)、処理を終了する。
【0065】
また、ステップS150での判定結果がNOの場合、すなわち、バケット15の現在の爪先位置Pstは作業領域7内であるが、要求爪先位置Pestは作業領域7外である場合には、作業種別を、作業領域7内から作業領域7外へ離脱しようとしていることを示す「目標離脱作業」に設定し(ステップS152)、処理を終了する。
【0066】
また、ステップS140での判定結果がNOの場合、すなわち、バケット15の現在の爪先位置Pstが作業領域7外である場合には、続いて、要求爪先位置Pestが作業領域7外であるか否かをステップS130の演算結果に基づいて判定する(ステップS160)。
【0067】
ステップS160での判定結果がYESの場合、すなわち、バケット15の現在の爪先位置Pst及び要求爪先位置Pestが両方ともに作業領域7外である場合には、油圧ショベル1の作業の状態を表す作業種別を、作業領域7外で作業を行っていることを示す「目標外作業」に設定し(ステップS161)、処理を終了する。
【0068】
また、ステップS160での判定結果がNOの場合、すなわち、バケット15の現在の爪先位置Pstは作業領域7内であるが、要求爪先位置Pestは作業領域7内である場合には、作業種別を、作業領域7外から作業領域7内の目標面5に接近しようとしていることを示す「目標接近作業」に設定し(ステップS162)、処理を終了する。
【0069】
作業具状態判別処理では、バケット15(作業具)の状態を示す分類である作業具状態を、バケット15の目標面5に対する姿勢(角度)及びフロント作業機12の負荷に基づいて設定する。
【0070】
図13は、作業具状態判別処理の内容を示すフローチャートである。
【0071】
なお、作業具状態判別処理において、作業具状態は、バケット15の充填状態(バケット15内に土砂が充填されているか否かを示す判定結果)と、バケット15の合致状態(バケット15の底面が目標面5と一致している状態に近いか否かを示す判定結果)の両方の状態を持ち、それぞれの状態が独立に格納されている。なお、作業具状態としては前回の処理サイクル時のものを引き継いで格納されているが、初期値としては、例えば、充填状態は「土砂非充填状態」とし、合致状態は「姿勢合致状態」とする。
【0072】
図13に示すように、作業具状態判別処理において、コントローラ23はまず、圧力センサ33の検出結果と、作業具状態(充填状態)の格納内容とに基づいて、アームシリンダ18のボトム圧Pamが予め定めた閾値Pth_amよりも小さく、かつ、作業具状態(充填状態)が、バケット15の内部に土砂を有していない状態を示す「土砂非充填状態」であるか否かを判定する(ステップS200)。
【0073】
ステップS200の判定結果がYESの場合、すなわち、アームシリンダ18のボトム圧Pamが閾値Pth_amよりも大きく、かつ、作業具状態(充填状態)が「土砂非充填状態」である場合には、掘削動作が開始されたことを示す掘削開始フラグを「ON」に設定する(ステップS210)。
【0074】
図14は、圧力センサの検出結果の一例を示す図であり、アームシリンダのボトム圧の検出結果を示す図である。
【0075】
油圧ショベル1による掘削動作では、アーム14をクラウド方向に駆動する、すなわち、アームシリンダ18を伸長するため、
図14に示すように、掘削中はアームシリンダ18のボトム圧Pamが大きくなり、アームシリンダ18のボトム圧Pamが掘削開始閾値(Pth_am)以上となった場合に掘削動作を開始したと判断することができる。すなわち、ステップS200の判定によって、掘削動作が開始されたか否かを判定することができる。
【0076】
次に、ステップS200の判定結果がNOの場合、又は、ステップS210の処理が終了した場合には、続いて、圧力センサ33の検出結果と、作業具状態(充填状態)の格納内容とに基づいて、アームシリンダ18のボトム圧Pamが予め定めた閾値Pth_am以下であり、かつ、掘削開始フラグが「ON」であるか否かを判定する(ステップS220)。
【0077】
ステップS220の判定結果がYESの場合、すなわち、アームシリンダ18のボトム圧Pamが閾値Pth_am以下であり、かつ、掘削開始フラグが「ON」である場合には、掘削開始フラグを「OFF」に設定し、掘削動作が終了されたことを示す掘削終了フラグを「ON」に設定する(ステップS230)。
【0078】
油圧ショベル1による掘削動作が終了すると、
図14に示すように、アームシリンダ18のボトム圧Pamは小さくなるので、掘削動作が開始された後、すなわち、掘削開始フラグが「ON」である状態で、アームシリンダ18のボトム圧Pamが掘削開始閾値(Pth_am)以下となった場合に掘削動作を終了したと判断することができる。すなわち、ステップS220の判定によって、掘削動作が終了したか否かを判定することができる。
【0079】
次に、ステップS220の判定結果がNOの場合、又は、ステップS230の処理が終了した場合には、続いて、圧力センサ32の検出結果と、掘削終了フラグの内容と、作業具位置姿勢演算部50の演算結果とに基づいて、ブームシリンダ17のボトム圧Pbmが予め定めた閾値Pth_bmよりも大きく、かつ、バケット15の底面の水平面に対する角度θstが予め定めた閾値θth_hrよりも小さく、かつ、掘削終了フラグが「ON」であるか否かを判定する(ステップS240)。なお、角度θstは、角度θbm,θam,θbkと、バケット15の開口面と底面とが成す角との和として演算できる。
【0080】
ステップS240の判定結果がYESの場合、すなわち、ブームシリンダ17のボトム圧Pbmが閾値Pth_bmよりも大きく、かつ、角度θstが閾値th_hrよりも小さく、かつ、掘削終了フラグが「ON」である場合には、掘削終了フラグを「OFF」に設定し、作業具状態(充填状態)を、バケット15内に土砂を充填していることを示す「土砂充填状態」に設定する(ステップS250)。
【0081】
図15は、圧力センサの検出結果の一例を示す図であり、ブームシリンダのボトム圧の検出結果を示す図である。また、
図16及び
図17は、バケットの姿勢について説明する図である。
【0082】
油圧ショベル1による掘削動作後の運搬動作では、バケット15内に土砂を充填しており重量が大きくなるため、
図15に示すように、バケット15を含むフロント作業機12の全体の重量を支えるブームシリンダ17のボトム圧Pbmが大きくなり、ブームシリンダ17のボトム圧Pbmが土砂充填判定閾値(Pth_bm)以上となった場合に、バケット15が土砂を充填した状態であると判断することができる。また、土砂の運搬動作では、
図17に示すように、バケット15の開口面を水平に近い状態にする必要がある。すなわち、ブームシリンダ17のボトム圧Pbmが大きく、バケット15の開口面が水平に近く、掘削動作が終了している(掘削終了フラグが「ON」である)場合に、土砂の運搬動作を開始したと判断することができる。すなわち、ステップS240の判定によって、運搬動作が開始されたか否かを判定することができる。
【0083】
次に、ステップS240の判定結果がNOの場合、又は、ステップS250の処理が終了した場合には、続いて、作業具位置姿勢演算部50の演算結果に基づいて、バケット15の底面の水平面に対する角度θstが予め定めた閾値θth_hr以上であるか否かを判定する(ステップS260)。
【0084】
ステップS260での判定結果がYESの場合、すなわち、バケット15の開口面が水平ではない場合には、作業具状態(充填状態)を、バケット15内に土砂を充填していないことを示す「土砂非充填状態」に設定する(ステップS270)。
【0085】
図17に示すように、バケット15の開口面が水平では無い状態であれば内容物がこぼれるので、土砂がバケット15の内部に存在しないと判断することができる。すなわち、ステップS260の判定によって、バケット15の内部に土砂有していない状態であるか否かを判定することができる。
【0086】
次に、ステップS260の判定結果がNOの場合、又は、ステップS270の処理が終了した場合には、続いて、バケット15の底面の水平面に対する角度θstが目標面5の水平面と成す角θtgtと予め定めた閾値θthとの和よりも小さく、かつ、角度θstが角度θtgtと閾値θthとの差(θtgt-θth)よりも大きいか否かを判定する(ステップS280)。
【0087】
ステップS280での判定結果がYESの場合には、作業具状態(合致状態)を、バケット15の底面と目標面5との向きがほぼ一致していることを示す「姿勢合致状態」に設定し(ステップS281)、処理を終了する。また、ステップS280での判定結果がNOの場合には、作業具状態(合致状態)を、バケット15の底面の角度と目標面5の角度とが一致していないことを示す「姿勢非合致状態」に設定し(ステップS282)、処理を終了する。
【0088】
図16に示すように、バケット15の底面の水平面に対する角度θstが目標面5と水平面との成す角θtgtに対して、予め設定されている閾値θthの範囲に収まっている場合には、バケット15の底面と目標面5との向きがほぼ一致していると判断することができる。すなわち、ステップS280の判定によって、バケット15の底面と目標面5との向きが合致しているか否かを判定することができる。
【0089】
次に、作業具動作形態呼出部55における動作形態呼出処理について説明する。作業具動作形態呼出部55では、作業状況判別部54での作業状況判別処理(作業種別判別処理、作業具状態判別処理)の処理結果に基づいて、作業具動作形態記憶部53に記憶された動作形態を読み出す動作形態読出処理を行う。なお、コントローラ23における動作形態読出処理は、予め定めた単位処理時間(例えば、サンプリング時間)毎に繰り返し実行される。
【0090】
図18は、動作形態読出処理の内容を示すフローチャートである。
【0091】
図18に示すように、動作形態読出処理において、コントローラ23は、まず、作業状況判別部54の作業種別判別処理で判別した作業種別が目標外作業から目標接近作業に変化したか否かを判定する(ステップS300)。また、ステップS300での判定結果がYESの場合には、続いて、作業状況判別部54の作業種別判別処理で判別した作業種別が姿勢合致状態であるか否かを判定する(ステップ310)。
【0092】
ステップS310での判定結果がYESの場合、すなわち、作業種別が目標接近作業に変化し、かつ、作業具状態が姿勢合致状態である場合には、作業具動作形態記憶部53から動作形態として「バケット姿勢保持モード」を読み出して設定する(ステップS320)。
【0093】
作業種別が目標外作業から目標接近状態に変化する状態は、バケット15が作業領域7に侵入しようとしている状態であると考えられるため、油圧ショベル1の操作者が目標付近での作業に移行しようとしている作業状況であると判断できる。また、このときに、作業具状態が姿勢合致状態の場合には、バケット15の底面を目標面5と一致させようとしている作業状況であると判断できる。すなわち、ステップS300,S310の判定によって、現在の作業状況に対する適切な支援動作が、バケット15の底面を目標面5に一致させるようにバケット15の角度制御を行う動作形態である「バケット姿勢保持モード」であるか否かを判定することができる。
【0094】
次に、ステップS300又はS300の判定結果がNOの場合、又は、ステップS320の処理が終了した場合には、続いて、作業種別が目標内作業に変化したか否かを判定する(ステップS330)。また、ステップS330での判定結果がYESの場合には、作業具状態が土砂充填状態であるか否かを判定する(ステップS340)。
【0095】
ステップS340での判定結果がNOの場合、すなわち、作業種別が目標内作業に変化し、かつ、作業具状態が土砂充填状態ではない場合には、作業具動作形態記憶部53から動作形態として「爪先位置指定モード」を読み出して設定する(ステップS341)。
【0096】
作業種別が目標内作業に変化した状態は、作業領域7内で作業を実施している状態であると考えられる。また、このときに、作業具状態が土砂充填状態ではない場合には、作業領域内で掘削を実施しようとしている作業状況であると判断できる。すなわち、ステップS330,S340の判定によって、現在の作業状況に対する適切な支援動作が、バケット15の爪先を目標面5に一致させるようにバケット15の位置制御を行う動作形態である「爪先位置指定モード」であるか否かを判定することができる。なお、ステップS340において、判定結果がYESである場合、すなわち、作業具状態が土砂充填状態である場合には、作業領域7内で敷均し等の土砂を撒く作業であると推定できるため、バケット15の爪先を目標面5に一致させる制御は行わない。
【0097】
次に、ステップS330の判定結果がNOの場合、又は、ステップS340の判定結果がYESの場合、又は、ステップS341の処理が終了した場合には、続いて、作業種別が目標離脱作業に変化したか否かを判定する(ステップS350)。ステップS350での判定結果がYESの場合には、バケット姿勢保持モードを解除し(ステップS360)、さらに、爪先位置指定モードを解除する(ステップS370)。
【0098】
作業種別が目標離脱作業に変化した状態は、バケット15が作業領域7から離脱しようとしている状態であり、油圧ショベル1の操作者が目標面5から離れた場所での作業に移行しようとしている作業状況であると判断できる。すなわち、ステップS350の判定によって、目標面5に対する作業の支援動作を解除するか否かを判定することができる。
【0099】
次に、ステップS350での判定結果がNOの場合、又は、ステップS360,S370の処理が終了した場合には、続いて、作業種別が目標外作業および目標内作業の何れか一方であるか否かを判定する(ステップS380)。また、ステップS390での判定結果がYESの場合には、続いて、作業具状態が土砂充填状態に変化したか否かを判定する(ステップS390)。
【0100】
ステップS390での判定結果がYESお場合、すなわち、作業種別が目標外作業または目標内作業であり、かつ、作業具状態が土砂充填状態に変化した場合には、作業具動作形態記憶部53から動作形態として「バケット水平保持モード」を読み出して設定する(ステップS400)。
【0101】
目標外作業の場合は目標面5と離れた位置で、または目標内作業の場合は作業領域内で、作業具状態が土砂充填状態に変化した状態は、土砂を掘削し、運搬を開始した作業状況であると判断できる。すなわち、ステップS380,S390の判定によって、バケット15の開口面を水平に保持させるようにバケット15の角度制御を行う動作形態である「バケット水平保持モード」であるか否かを判定することができる。
【0102】
次に、ステップS380又はS390の判定結果がNOの場合、又は、ステップS400の処理が終了した場合には、続いて、作業具状態が土砂充填状態であるか否かを判定する(ステップS410)。また、ステップS410での判定結果がYESの場合には、続いて、作業種別が目標内作業および目標外作業の何れか一方に変化したか否かを判定する(ステップS420)。
【0103】
ステップS420での判定結果がYESの場合、すなわち、作業具状態が土砂充填状態であり、かつ、作業種別が目標内作業または目標外作業である場合には、バケット水平モードを解除し(ステップS430)、処理を終了する。また、ステップS410,S410の何れかの判定結果がNOの場合には、処理を終了する。
【0104】
作業具状態が土砂充填状態であり、作業種別が目標内作業または目標外作業に切り替わった状態は、作業領域7内の目標面5から離れた位置、または、作業領域7外の目標面5の上方に土砂を運搬してきた作業状況であると判断できる。すなわち、ステップS410,S420の判定によって、放土動作を実施できるようにバケット水平保持モードを解除するか否かを判定することができる。
【0105】
次に、作業具動作補正量演算部56における演算処理について説明する。作業具動作補正量演算部56では、作業具位置姿勢演算部50の演算結果と、作業対象設定部51の設定内容と、作業具動作形態呼出部55で呼び出された作業種別と、操作ボタン25の操作状態とに基づいて、支援動作を実現するための制御量(動作補正量)を演算する。
【0106】
図19は、バケットの支援動作量の演算方法を説明する図であり、バケットの目標面との関係を示す側面図である。
【0107】
作業具動作補正量演算部56はまず、目標面5に対するバケット15の先端位置Pstの最近傍点Pnを下記の(式9)を用いて算出する。
Pn=Ptl-n・(Pst-Ptl)/|n|^2×n …(式9)
なお、上記(式9)中の「|n|」はベクトルのノルムを示す。
【0108】
また、バケット15の底面の水平面に対する角度θstと目標面5の角度、または水平との角度の差分dθを演算する。これより、予め定められているゲインKadjp、Kadjθを用いてバケット15の先端位置Pstに対する移動修正速度vadjを下記の(式10)で算出する。
vadj=[Kadjp×(Pst-Pn)、Kadjθ×dθ]^T …(式10)
【0109】
そして、移動修正速度vadjを変換し油圧ショベル1の各揺動角速度を演算する。また、(式1)~(式3)の関係に対応するヤコビ行列Jを用いると、油圧ショベル1の補正揺動角速度ωadjはバケット15の先端位置Pstの速度vadjを用いて、下記の(式11)及び(式12)のように表現できる。
J(q)=∂F(q)/∂q …(式11)
ωadj=(J(q)^-1)×vadj …(式12)
【0110】
そして、作業具動作補正量演算部56は作業具動作形態呼出部55の設定に基づいて、ωadjを適用するアクチュエータを選択する。例えばバケット15の姿勢を補正するバケット水平保持モード、またはバケット姿勢保持モードの場合は、ωadjのバケット15の回動に関する成分のみを抽出する。爪先位置指定モードの場合はωadjのブーム13、アーム14の回動に関する成分のみを抽出するように構成する。また、操作ボタン25が押下されているときはωadjを0(ゼロ)にするように構成しており、油圧ショベル1が操作者の意思と異なる動作をした場合は強制的に支援動作を実施しないようにしている。
【0111】
作業機制御量演算部57は、操作レバー24から出力される操作信号により指示される操作指示量、及び、作業具動作補正量演算部56が出力する補正揺動角速度ωadjに基づいて、コントロールバルブ34,35,36,37、油圧ポンプ39、及び、ブリードオフユニット43を駆動する電流指令(駆動信号)を演算し出力する。すなわち、作業機制御量演算部57は操作レバー24の操作量を、操作量に比例した油圧ショベル1の揺動角速度指令値ωopeに変換し、補正揺動角速度ωadjと、予め定められた揺動角速度と電流指令の変換マップKctrl(q)とを用いて、電流指令Cctrlを下記の(式13)により算出する。
Cctrl=Kctrl(q)×(ωope+ωadj) …(式13)
【0112】
次に、操作者への支援動作の状態を表示する方法を説明する。
【0113】
図20は、支援動作中のバケットの状態表示を示す外観図である。コントローラ23は表示入力装置26上に、バケット15と目標面5との位置関係を示すためのバケット15の正面図、および側面図であるバケット状態表示97と、油圧ショベル1と目標面5との位置関係を示すための油圧ショベル1の俯瞰図であるショベル状態表示98を表示するとともに、支援動作内容表示99を表示することで、作業状況の推定結果、ならびに支援動作内容を油圧ショベル1の操作者に通知する。このように、油圧ショベル1の作業状況を判定し、支援動作形態を変更して支援動作を制御することで、油圧ショベル1の作業内容や作業対象に応じて適切なバケット15の動作を実現でき、作業精度を向上することができる。
【0114】
以上のように構成した本実施の形態における効果を説明する。
【0115】
MCにおいて適切な操作支援を実現するためには、作業内容や作業環境に応じてMCの有効化と無効化とを切り換えたり、適切な支援内容を設定したりする必要がある。しかしながら、従来技術のように、操作レバーに設けられた操作部材の操作によって自動制御の有効化と無効化とを交互に切り換える場合には、オペレータの操作忘れによって自動制御が無効化されたまま作業を行ってしまい、設計面を超えて掘削してしまうことが考えられる。また、オペレータの操作によって作業内容を設定する場合には、作業内容や支援内容の設定を誤ってしまい、作業装置が所望の姿勢とならずに施工面を誤って掘削しすぎたり、施工面に運搬した土砂をこぼしたりして、十分な作業精度を得られないことが考えられる。例えば、施工対象の地形を所望の形状に成形する作業では、バケットの位置と姿勢を合わせてバケット底面と成形する施工面を一致させながら掘削する成形動作と、成形した面に土砂をこぼさないようにバケット開口面が水平となる姿勢を取りながら成形の際に余分となった土を移動する運搬動作などを交互に実施することがある。このとき、バケットの姿勢が予め定められた角度となる自動制御を実施した場合、操作部材の操作を誤ってしまい成形動作と運搬動作の自動制御を逆に実施してしまうとバケットが所望の姿勢とならず、施工面を誤って掘削しすぎたり、施工面に運搬した土砂をこぼしたりして、十分な作業精度を得られないことがある。すなわち、上記のような場合には、適切なMC動作を実現することができず、作業精度が低下してしまうおそれがある。
【0116】
これに対して本実施の形態においては、下部走行体10と、下部走行体10に対して旋回可能な上部旋回体11と、上部旋回体11に取り付けられ、互いに回動可能に連結された複数のフロント部材(ブーム13、アーム14、バケット15)からなる多関節型のフロント作業機12と、オペレータによる操作量に応じて、上部旋回体11及びフロント作業機12を駆動するための操作信号を出力する操作装置(操作レバー24)と、操作装置から出力された操作信号に応じて生成される駆動信号に基づいて、複数のフロント部材をそれぞれ駆動する複数のフロント作業機アクチュエータ(ブームシリンダ17、アームシリンダ18、バケットシリンダ19)と、操作装置から出力された操作信号に基づいて、上部旋回体11を旋回駆動する旋回アクチュエータ(旋回油圧モータ16)と、上部旋回体11及びフロント作業機12の姿勢に関する情報である姿勢情報を検出する姿勢情報検出装置(慣性計測装置27~30)と、操作装置から出力された操作信号と、姿勢情報検出装置で検出された姿勢情報とに基づいて、予め定めた目標面5上および目標面に対する一方の領域内でフロント作業機12が予め定めた位置または姿勢となるように、複数のフロント作業機アクチュエータの少なくとも1つに駆動信号を出力する操作補正制御を実行する制御装置(コントローラ23)とを備えた作業機械(油圧ショベル1)において、複数のフロント作業機アクチュエータのうちの少なくとも1つのフロント作業機アクチュエータの負荷に関する情報である負荷情報を検出する負荷情報検出装置(圧力センサ32,33)と、予め定めた目標面5の上方に作業領域7を設定する作業領域設定装置(表示入力装置26)とをさらに備え、制御装置は、操作装置から出力された操作信号と、姿勢情報検出装置で検出された姿勢情報と、負荷情報検出装置で検出された負荷情報と、作業領域設定装置によって設定された作業領域とに基づいて、作業機械の現在の作業に係る状況を示す作業状況を判別し、判別した作業状況に応じて、フロント作業機の操作補正制御における動作の内容を示す動作形態を予め設定された複数の動作形態から決定し、動作形態に応じてフロント作業機が動くように操作補正制御を実行するように構成したので、マシンコントロールにおいて適切な支援動作を行うことができ、作業精度を向上することができる。
【0117】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態を
図21及び
図22を参照しつつ説明する。
【0118】
本実施の形態は、第1の実施の形態で作業具として用いたバケット15に代えて、ロータリーチルトバケット44を用いる場合を示すものである。
【0119】
図21は、ロータリーチルトバケットを拡大して示す図である。図中、第1の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0120】
図21において、ロータリーチルトバケット44は、フロント作業機12をフロント部材として構成するアーム14の先端に回動軸A4を中心に回動可能に設けられている。また、ロータリーチルトバケット44は、フロント作業機12に対する回動軸A4に垂直な2つの回動軸であって互いに垂直なロータリー回動軸A6とチルト回動軸A5を中心にそれぞれ回動可能に構成されている。ロータリーチルトバケット44は、ロータリーチルトバケット44を回動軸A6を中心に回動駆動するロータリーアクチュエータとしてのローテートモータ46と、回動軸A5を中心に回動駆動するチルトアクチュエータとしてのチルトシリンダ45a,45bとを備えている。すなわち、ロータリーチルトバケット44は、バケットシリンダ19によってアーム14の先端の回動軸A4を中心に回動し、ロータリーチルトバケット44の連結部材においてチルトシリンダ45a,45bによって回動軸A4と直交する回動軸A5を中心に回動し、ロータリーチルトバケット44の連結部材においてローテートモータ46によって回動軸A4,A5と直交する回動軸A6を中心に回動するように構成されている。
【0121】
ロータリーチルトバケット44には、姿勢情報検出装置としてのローテート角度計47が取り付けられており、ロータリーチルトバケット44の回動軸A6における回動角度(ロータリー角度)を検出することができる。また、姿勢情報検出装置としての慣性計測装置30により、回動軸A4における回動角度に加え、回動軸A5における回動角度(チルト角度)を検出することができる。すなわち、慣性計測装置30とローテート角度計47との検出結果に基づいて、ロータリーチルトバケット44の向きを算出することができる。
【0122】
このような作業機械では、油圧ショベル1の車体に対してロータリーチルトバケットの位置と姿勢をそれぞれ3つの自由度で独立に調整することが可能となり、複雑な動作を実現できる。このような油圧ショベル1の場合、作業具動作形態設定部52における作業具の動作形態は第1の実施の形態に示したようなバケット15の姿勢と爪先の位置に限定されるものではなく、例えば、ロータリーチルトバケット44が移動する方向やロータリーチルトバケット44のA4軸回りの姿勢と合わせて、A5軸、A6軸回りの姿勢を個別に複数設定することができる。
【0123】
図22は、ロータリーチルトバケットを備えた油圧ショベルの作業の一例を示す概観図である。
【0124】
図22においては、ロータリーチルトバケット44でストック4から掬った土砂を擁壁の下の地面上に僅かに落とし、均一に土砂を撒く敷均し作業を例示している。このとき、鉛直な壁面付近に対して均一に土砂を撒くためには、壁面から適切な距離を取った位置に目標面5を設定し、目標面5に正対する向きになるようにロータリーチルトバケット44の姿勢を取った状態のまま、目標面5に正対する方向と直角な方向へロータリーチルトバケット44を返しながら移動可能なことが望ましく、作業具動作形態設定部52における作業具の動作形態を上記のように設定しても良い。
【0125】
また、作業状況判別部54による作業状況の判定方法は異なる方法によって実施されても良く、例えばフロント作業機12の姿勢と、ブームシリンダ17、アームシリンダ18、バケットシリンダ19の圧力に基づいて演算した各シリンダの推力に基づいてロータリーチルトバケット44に作用する反力を用いて演算しても良く、また、ロータリーチルトバケット44内部の土砂のペイロードの推定結果を用いても良いことは明白である。
【0126】
また、作業対象設定部51と作業具動作形態設定部52によって設定する作業領域と作業具の動作形態の組み合わせは、第1の実施の形態のように1つのみに限定されるものではない。例えば、
図22に示すロータリーチルトバケット44を備えた油圧ショベル1の敷均し作業のように、擁壁毎に作業領域を設定し、異なる動作形態で支援動作を実施するように構成しても良い。
【0127】
なお、作業機制御量演算部57において、電流指令Cctrlを揺動角速度と電流指令の変換マップKctrl(q)を用いて算出する方法を例示したが、電流指令のCctrlの演算方法は異なる方法であってもよく、油圧回路の圧力を用いたマップや、モデル予測制御等の制御則を用いて制御指令を生成しても良いことは言うまでもない。
【0128】
その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0129】
以上のように構成した本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0130】
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や実施の形態の組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0131】
1…油圧ショベル、3…溝、4…ストック、5…目標面、6…資材、7…作業領域、10…下部走行体、11…上部旋回体、12…フロント作業機、13…ブーム、14…アーム、15…バケット、16…旋回油圧モータ、17…ブームシリンダ、18…アームシリンダ、19…バケットシリンダ、22…操作室、23…コントローラ、24…操作レバー、25…操作ボタン、26…表示入力装置、27~30…車体慣性計測装置、31…GNSSアンテナ、32,33…圧力センサ、34~37…コントロールバルブ、37a…方向制御弁、37b…電磁比例減圧弁、37c…電磁比例減圧弁、39…油圧ポンプ、40…パイロットポンプ、41…原動機、42…作動油タンク、43…ブリードオフユニット、44…ロータリーチルトバケット、45a,45b…チルトシリンダ、46…ローテートモータ、47…ローテート角度計、50…作業具位置姿勢演算部、51…作業対象設定部、52…作業具動作形態設定部、53…作業具動作形態記憶部、54…作業状況判別部、55…作業具動作形態呼出部、56…作業具動作補正量演算部、57…作業機制御量演算部、90…作業対象表示、91…作業領域調整表示、92…作業領域内バケット設定画面、93…調整表示、94…バケット姿勢調整表示、95…決定ボタン、96…ボタン、97…バケット状態表示、98…ショベル状態表示、99…支援動作内容表示、310…ステップ、A4…回動軸、A5…チルト回動軸、A6…ロータリー回動軸