(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090376
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】海苔養殖用支柱のための補修組成物
(51)【国際特許分類】
A01G 33/02 20060101AFI20220610BHJP
【FI】
A01G33/02 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202740
(22)【出願日】2020-12-07
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】520320734
【氏名又は名称】日本断熱塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174791
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 敬義
(72)【発明者】
【氏名】戸田 勝晴
【テーマコード(参考)】
2B026
【Fターム(参考)】
2B026AA01
2B026AB01
2B026BA02
2B026BB01
2B026BB05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】海苔養殖用支柱の表面被膜を削ることで形成される露出部分を補修するための補修組成物の提供。
【解決手段】エポキシ樹脂と,酸化チタンと,アルミナと,アクリルエマルジョンとからなることを特徴とする海苔養殖用支柱の補修のための支柱補修用組成物。支柱補修用組成物は,支柱の露出部分に塗布し,乾燥させて用いられる。
【効果】乾燥後は,ウレタン樹脂と比較して,機械的強度が高く,かつ,表面の摩擦も少ないことから,耐久性に優れるとともに,フジツボや汚れなどの付着もしづらくなる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と,酸化チタンと,アルミナと,アクリルエマルジョンとからなることを特徴とする海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
【請求項2】
さらに,ガラス粉,ホワイトシリカ,これらのいずれか又は複数を含んでなる請求項1に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
【請求項3】
さらに,繊維を含んでなる請求項1又は2に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
【請求項4】
さらに,顔料色素を含んでなる請求項1から3のいずれかに記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
【請求項5】
前記顔料色素が,酸化鉄である請求項4に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
【請求項6】
さらに,芳香族化合物を含んでなる請求項1から5のいずれかに記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
【請求項7】
前記芳香族化合物が,2-[4-([ 2-Hydroxy-3-dodecyloxypropyl)oxy]-2-hydroxyphenyl]-4,6-bis(2,4-dimethylphenyl)-1,3,5-triazine and 2-[4-([ 2-Hydroxy-3-tridecyloxypropyl)oxy]-2-hydroxyphenyl]-4,6-bis(2,4-dimethylphenyl)-1,3,5-triazineである請求項6に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
【請求項8】
エポキシ樹脂と,酸化チタンと,アルミナとを第一の組成物とし,
第一組成物に,使用直前においてアクリルエマルジョンを添加・攪拌して用いられる海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
【請求項9】
さらに,第一組成物にガラス粉,ホワイトシリカのいずれか又は複数を含んでなる請求項7に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
【請求項10】
さらに,第一組成物に繊維を含んでなる請求項7又は7に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
【請求項11】
さらに,第一組成物に顔料色素を含んでなる請求項8から10のいずれかに記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
【請求項12】
前記顔料色素が,酸化鉄である請求項11に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
【請求項13】
海苔養殖用支柱において,皮膜がはがれた部分を,
請求項1ないし12に記載のいずれかの組成物を塗布,乾燥することにより補修することを特徴とする海苔養殖用支柱補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,海苔養殖用支柱のための補修組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
海苔の養殖の手法の一つに支柱式養殖と称される養殖方法がある。
支柱式養殖では,海に支柱を突き刺し屹立させ,これに海苔の胞子を付着させた網(海苔網)を吊り下げて行われる。このようにすることで,潮が満ちているときには網が海に浸り,海苔は海水中の栄養を吸収できる状態となる。一方,潮がひいたときには,網が海面から出た状態となり,海苔は日光をあびて乾燥する。これを繰り返すことで,海苔が成長していき,十分に成長した段階で,海苔を摘み取る摘採機という機械を積んだ船を,海苔網の下にもぐらせて,海苔は収穫される。
【0003】
海苔の養殖において,干満の差は,ときに6メートルにも及ぶ。そのため,支柱は,この干満差に対応できる十分な長さが必要であり,8から15メートルほどの長さのものが用いられる。加えて,養殖には多数の支柱が必要であり,一漁師あたり,数百本から千本の数にも及ぶ。また,養殖が終了した際には,支柱は引き抜かれて,翌年の使用のために保管される。
【0004】
従来,支柱には竹が用いられていたが,近年では,化学的に製造された支柱(以下,単に「支柱」という)が用いられている(例えば,非特許文献1)。すなわち,支柱は,竹のような性質が求められ,しなりがあり,かつ,丈夫でありつつ軽いことが求められる。そのため,中が空洞のFRPを芯として,これの表面をウレタン樹脂で皮膜したものが支柱として用いられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】海苔養殖用FRPポール,紹介ページ(URL;https://www.donglong.jp/frp.html)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
養殖が終了して支柱を引き抜く際,一定の処理が必要な場合がある。
すなわち,支柱にフジツボや汚れなどが付着することが多々あり,これらを除去する場合である。
しかるに,フジツボ等は,支柱に強力に付着しており,容易にははがれない。加えて,1日数百本の支柱の引き抜きを行う必要があり,船上という作業スペースの限られた場所で処理する必要があることから,効率的かつ速やかにフジツボ等を除去する必要がある。このような事情から,フジツボ等を除去するために,専用の機械式ローラーを用いて,支柱の表面皮膜と合わせて削って除去することが通常である。
【0007】
機械式ローラーで削ってフジツボ等を除去した場合,支柱表面のウレタン樹脂皮膜がはがれ,内部のFRPが露出することとなる(例えば,
図3e。以下では,このように露出した箇所を「露出部分」という)。
このままの状態の支柱は再度の使用により,露出部分から腐食が進行し,支柱としての使用に支障が生じうるとともに,耐久性の観点からも問題がある。そのため,従来,露出部分においては,表面素材と同様のウレタン樹脂を塗布して補修を行っていた。
【0008】
しかるに,かかる補修には改良の余地があると発明者は考えた。
すなわち,露出部分は,そもそもフジツボ等が付着しやすい位置であり,ウレタン樹脂の補修では,同様にフジツボが付着するとともに,再度,これを除去する必要が出てくる。そのため,露出部分の補修においては,フジツボ等が付着しにくいような補修剤を用いることが好ましいと発明者は考えた。
【0009】
上記事情を背景として,本発明では,支柱の露出部分を補修するための補修組成物の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は,鋭意研究の結果,フジツボや汚れが付着しにくくするため,一定程度の機械的強度を有するとともに表面摩擦が少ない塗料を補修剤として用いることに想到し,発明を完成させたものである。
本発明は,以下の構成からなる。
[1]エポキシ樹脂と,酸化チタンと,アルミナと,アクリルエマルジョンとからなることを特徴とする海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
[2]さらに,ガラス粉を含んでなる[1]に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
[3]さらに,繊維を含んでなる[1]又は[2]に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
[4]さらに,顔料色素を含んでなる[1]から[3]のいずれかに記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
[5]前記顔料色素が,酸化鉄である[4]に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
[6]さらに,芳香族化合物を含んでなる[1]から[5]のいずれかに記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
[7]前記芳香族化合物が,2-[4-([ 2-Hydroxy-3-dodecyloxypropyl)oxy]-2-hydroxyphenyl]-4,6-bis(2,4-dimethylphenyl)-1,3,5-triazine and 2-[4-([ 2-Hydroxy-3-tridecyloxypropyl)oxy]-2-hydroxyphenyl]-4,6-bis(2,4-dimethylphenyl)-1,3,5-triazineである[6]に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
【0011】
[8]エポキシ樹脂と,酸化チタンと,アルミナとを第一の組成物とし,
第一組成物に,使用直前においてアクリルエマルジョンを添加・攪拌して用いられる海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
[9]さらに,第一組成物にガラス粉を含んでなる[6]に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
[10]さらに,第一組成物に繊維を含んでなる[6]又は[7]に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
[11]さらに,第一組成物に顔料色素を含んでなる[6]から[8]のいずれかに記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
[12]前記顔料色素が,酸化鉄である[9]に記載の海苔養殖用支柱の補修のための組成物。
[13]海苔養殖用支柱において,皮膜がはがれた部分を,[1]ないし[10]のいずれかに記載の組成物を塗布,乾燥することにより補修することを特徴とする海苔養殖用支柱補修方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により,支柱の露出部分を補修するための補修組成物の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】第一組成物,ならびにこれとアクリルエマルジョンを攪拌している様子を示した図。
【
図3】海苔養殖用支柱の露出部分に,本発明の組成物を塗布し,補修を行っている様子を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の海苔養殖用支柱の補修のための組成物(以下,「支柱補修用組成物」と略する)は,エポキシ樹脂と,酸化チタンと,アルミナと,アクリルエマルジョンとからなることを特徴とする。かかる組成物は,エポキシ樹脂と,酸化チタンと,アルミナとを第一の組成物とし,この第一組成物に,使用直前においてアクリルエマルジョンを添加・攪拌して用いることができる。
かかる支柱補修用組成物は,支柱の露出部分に塗布し,乾燥させて用いられる。乾燥後は,ウレタン樹脂と比較して,機械的強度が高く,かつ,表面の摩擦も少ないことから,耐久性に優れるとともに,フジツボや汚れなどの付着もしづらくなるという効果を有する。
【0015】
本発明の支柱補修用組成物において,ガラス粉,又はホワイトシリカのいずれか又は複数を含むことが好ましい。これにより,本発明の支柱補修用組成物の機械的強度を向上させることが可能となる効果を有する。
ガラス粉としては,特に限定する必要はなく,通常用いられる粉状ガラスを用いればよい。
また,ホワイトシリカとしても,特に限定する必要はなく,通常用いられる粉状のホワイトシリカを用いればよい。
【0016】
本発明の支柱補修用組成物において,繊維を含むことが好ましい。これにより,本発明の支柱補修用組成物の粘性をより向上させることが可能となり,露出部分によりなじみやすく接着効果を向上させる効果を有する。加えて,機械的強度を向上させる効果を有する。
繊維としては,粘性向上に資する限り特に限定する必要はなく,種々の繊維を用いることができる。繊維として,好ましくは化学合成繊維を用いることができ,典型的にはビニロン製繊維を用いることができる。また,用いる繊維の繊維径について,典型的には,3μm以上とすることができ,好ましくは3から12μm,より好ましくは3から10μm,最も好ましくは3から8μmとすることができる。さらに,用いる繊維の繊維長について,典型的には,0.5mm以上とすることができ,好ましくは0.5から4mm,より好ましくは0.5から3mm,最も好ましくは0.5から2mmとすることができる。
【0017】
本発明の支柱補修用組成物において,顔料色素を含むことが好ましい。これにより,支柱の外観に応じた補修が可能となり,美観を向上させる効果を有する。
顔料としては,特に限定する必要はなく,支柱の色に応じた種々の顔料を用いることができる。このような顔料として,緑色の呈色をする酸化鉄を用いることができる。
【0018】
本発明の支柱補修用組成物において,紫外線吸収化合物を含むことが好ましい。これにより補修部分における紫外線に対する表面劣化を防止することが可能となる効果を有する。
紫外線吸収化合物としては,紫外線吸収性能を有するとともに,組成成分として均一に混和する化合物である限り特に限定する必要はなく,種々の化合物用いることができる。
このような化合物として,典型的には,有機性芳香族化合物を用いればよく,このよう化合物として,ベンゾトリアゾール系化合物を用いることが好ましく,2-[4-([ 2-Hydroxy-3-dodecyloxypropyl)oxy]-2-hydroxyphenyl]-4,6-bis(2,4-dimethylphenyl)-1,3,5-triazine and 2-[4-([ 2-Hydroxy-3-tridecyloxypropyl)oxy]-2-hydroxyphenyl]-4,6-bis(2,4-dimethylphenyl)-1,3,5-triazine(化1)を用いることが最も好ましい。
【化1】
【0019】
本発明において,海苔用支柱の皮膜がはがれた露出部分に対し,上記組成物を塗布,乾燥することにより補修することを特徴とする海苔養殖用支柱補修方法として構成することができる。
また,第一の組成物とアクリルエマルジョンを加えた後,種々の添加物を加えることができる(添加物添加工程)。かかる添加物としては,例えば,組成物の流動性を調整する有機溶剤(シンナーなど。流動性調整工程)や,乾燥後の硬化を促進する硬化剤(硬化促進工程)などが挙げられる。
【0020】
本発明において,海苔養殖用支柱の補修のための組成物をFRP表面に塗布した海苔養殖用支柱として構成してもよい。これにより,フジツボや汚れの付着に強い海苔養殖用支柱として用いることが可能となる。
【実施例0021】
本発明の海苔養殖用支柱の補修のための組成物について詳述する。
【0022】
1.
図1に,各組成物ないし構成材料の外観を示す。
(1) aは,深緑色の液体であり,酸化チタン,アルミナ,ガラス粉,ホワイトシリカ,ビニロン繊維,顔料(酸化鉄)を混合して作製された第一組成物である。
(2) bは,アクリルエマルジョンである。
(3) cは,無色透明の液体であり,シンナーである。
(4) dは,左から,ホワイトシリカ,酸化チタン,アルミナ,ガラス粉,ビニロン繊維(径6μm×長さ1mm),顔料(酸化鉄)である。これらを混合,攪拌することにより,第一組成物を作製することができる。
【0023】
2.
図2に,組成物を用事調整している様子を示す。
(1) eは,紙コップに,第一組成物を取り出している様子を示す。
(2) fは,紙コップに,アクリルエマルジョンを加えている様子を示す。紙コップ右上部分にアクリルエマルジョンを添加していることが確認される。かかる第一組成物50gに対し,15gのアクリルエマルジョンを添加している。
(3) gは,第一組成物とアクリルエマルジョンを混合・攪拌している様子を示す。
(4) hは,シンナーを添加している様子を示す。これにより,液体の粘性を低くし,流動性を高めることが可能となる。
(5) iは,アミン系硬化剤を添加している様子を示す。これにより,組成物を塗布後,乾燥・硬化するまでの時間を短縮することが可能となる。
【0024】
3.
図3に,組成物を塗布している様子を示す。
(1) jは,海苔養殖用支柱の露出部分を取り出した図である。支柱表面のウレタン樹脂が削り取られ,中のFRP部分(白色)が露出している様子が分かる。
(2) kは,露出部分に,割り箸を使って組成物を塗布している様子を示す。
(3) lは,塗布している組成物を塗り広げている様子を示す。
(4) mは,塗布後の支柱の様子を示す。
【0025】
4.また,第一組成物に,2-[4-([ 2-Hydroxy-3-dodecyloxypropyl)oxy]-2-hydroxyphenyl]-4,6-bis(2,4-dimethylphenyl)-1,3,5-triazine and 2-[4-([ 2-Hydroxy-3-tridecyloxypropyl)oxy]-2-hydroxyphenyl]-4,6-bis(2,4-dimethylphenyl)-1,3,5-triazineを含む紫外線吸収剤(商品名,Tinubin400,Tinubinは登録商標)を,重量比で1%含んだものの作製を行った(不図示)。これにより,紫外線による補修箇所の劣化を防止することが可能となる。