(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090377
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】内燃機関用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20220610BHJP
C10M 105/36 20060101ALI20220610BHJP
C10M 105/38 20060101ALI20220610BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20220610BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220610BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220610BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20220610BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20220610BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M105/36
C10M105/38
C10N10:12
C10N30:06
C10N40:25
C10N20:02
C10N20:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202744
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】飯野 麻里
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104DA02A
4H104EA02A
4H104EA20A
4H104FA06
4H104LA03
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】省燃費性に優れるとともに、低蒸発性、低摩擦性、及び貯蔵安定性にも優れる内燃機関用潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】潤滑油基油の全量を基準として、エステル系基油を25~85質量%含む潤滑油基油と、潤滑油組成物の全量を基準として、モリブデン元素換算で0.06~0.20質量%のモリブデン系摩擦調整剤とを含有し、エステル系基油が、ジエステル及びポリオールエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のエステルであり、100℃における動粘度が、6.1mm2/s未満であり、NOACK蒸発量が、15質量%未満である、内燃機関用潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油の全量を基準として、エステル系基油を25~85質量%含む潤滑油基油と、
潤滑油組成物の全量を基準として、モリブデン元素換算で0.06~0.20質量%のモリブデン系摩擦調整剤と、
を含有し、
前記エステル系基油が、ジエステル及びポリオールエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のエステルであり、
100℃における動粘度が、6.1mm2/s未満であり、
NOACK蒸発量が、15質量%未満である、内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
80℃におけるせん断粘度が、6.4mPa・s未満である、請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のエンジン等の内燃機関に用いられる潤滑油組成物(エンジン油組成物)には、自動車からのCO2排出低減のため、省燃費性を向上させることが求められている。エンジン油組成物の省燃費性を向上させるためには、例えば、潤滑油組成物の低粘度化が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、燃費向上等を目的として、低粘度基油に、特定の分子量を有するポリイソブチレン配合してなる内燃機関用潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の潤滑油組成物をさらに低粘度化する(例えば、粘度分類0W-8未満(100℃における動粘度:6.1mm2/s未満)にする)と、充分な低蒸発性、低摩擦性、及び貯蔵安定性が得られない場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、省燃費性に優れるとともに、低蒸発性、低摩擦性、及び貯蔵安定性にも優れる内燃機関用潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、内燃機関用潤滑油組成物を提供する。内燃機関用潤滑油組成物は、潤滑油基油の全量を基準として、エステル系基油を25~85質量%含む潤滑油基油と、潤滑油組成物の全量を基準として、モリブデン元素換算で0.06~0.20質量%のモリブデン系摩擦調整剤とを含有する。エステル系基油は、ジエステル及びポリオールエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のエステルである。内燃機関用潤滑油組成物において、100℃における動粘度は、6.1mm2/s未満であり、NOACK蒸発量は、15質量%未満である。このような内燃機関用潤滑油組成物によれば、省燃費性に優れるとともに、低蒸発性、低摩擦性、及び貯蔵安定性にも優れるものとなる。
【0008】
内燃機関用潤滑油組成物の80℃におけるせん断粘度は、6.4mPa・s未満であってよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、省燃費性に優れるとともに、低蒸発性、低摩擦性、及び貯蔵安定性にも優れる内燃機関用潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本明細書において、例示する各成分(潤滑油基油、添加剤)等は、特に断らない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。潤滑油組成物中の各成分の含有量は、潤滑油組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、潤滑油組成物中に存在する当該複数の物質の合計の含有量を意味する。各成分の性状は、各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、当該複数の物質の合計の性状を意味する。
【0012】
本明細書において、潤滑油組成物を基準としたときの各元素の含有量は、潤滑油組成物を直接元素分析することによって決定してもよく、添加剤に含まれる元素含有量と仕込み量とから算出することによって決定してもよい。
【0013】
[潤滑油組成物]
一実施形態の内燃機関用潤滑油組成物(以下、単に「潤滑油組成物」という場合がある。)は、エステル系基油を含む潤滑油基油と、モリブデン系摩擦調整剤とを含有する。
【0014】
<潤滑油基油>
(エステル系基油)
エステル系基油は、通常の潤滑油分野で使用されるエステル系基油を使用することができる。ここで、エステル系基油は、省燃費性の観点から、ジエステル及びポリオールエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のエステルである。
【0015】
ジエステルは、二価の脂肪族カルボン酸と一価の脂肪族アルコールとのエステルである。
【0016】
二価の脂肪族カルボン酸は、エタン二酸(シュウ酸)、又は、炭素原子数1~16、炭素原子数2~14、若しくは炭素原子数4~12の二価の脂肪族基を有する脂肪族カルボン酸であってよい。二価の脂肪族カルボン酸の脂肪族基は、二価の脂肪族飽和炭化水素基又は二価の脂肪族不飽和炭化水素基であってよい。これらの炭化水素基は、直鎖状又は分岐状であってよい。二価の脂肪族カルボン酸としては、例えば、エタン二酸(シュウ酸)、プロパン二酸(マロン酸)、ブタン二酸(コハク酸)、ペンタン二酸(グルタル酸)、ヘキサン二酸(アジピン酸)、ヘプタン二酸(ピメリン酸)、オクタン二酸(スベリン酸)、ノナン二酸(アゼライン酸)、デカン二酸(セバシン酸)、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘプタデカン二酸、ヘキサデカン二酸等の飽和脂肪族カルボン酸;ヘキセン二酸、ヘプテン二酸、オクテン二酸、ノネン二酸、デセン二酸、ウンデセン二酸、ドデセン二酸、トリデセン二酸、テトラデセン二酸、ヘプタデセン二酸、ヘキサデセン二酸等の不飽和脂肪族カルボン酸などが挙げられる。
【0017】
一価の脂肪族アルコールは、炭素原子数1~24、炭素原子数2~20、炭素原子数4~16、又は炭素原子数8~13の脂肪族基を有する脂肪族アルコールであってよい。脂肪族アルコールの脂肪族基は、脂肪族飽和炭化水素基(アルキル基)又は脂肪族不飽和炭化水素基であってよい。これらの炭化水素基は、直鎖状又は分岐状であってよい。一価の脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール等が挙げられる。
【0018】
ポリオールエステルは、一価の脂肪族カルボン酸と多価の脂肪族アルコールとのエステルである。
【0019】
一価の脂肪族カルボン酸は、炭素原子数1~24、炭素原子数2~20、炭素原子数4~16、又は炭素原子数8~13の脂肪族基を有する脂肪族カルボン酸であってよい。一価の脂肪族カルボン酸の脂肪族基は、脂肪族飽和炭化水素基(アルキル基)又は脂肪族不飽和炭化水素基であってよい。これらの炭化水素基は、直鎖状又は分岐状であってよい。一価の脂肪族カルボン酸としては、例えば、メタン酸、エタン酸(酢酸)、プロパン酸(プロピオン酸)、ブタン酸(酪酸、イソ酪酸等)、ペンタン酸(吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸等)、ヘキサン酸(カプロン酸等)、ヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸等)、ノナン酸(ペラルゴン酸等)、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸等)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸等)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸等)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸等)、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、ペンタコサン酸、ヘキサコサン酸、ヘプタコサン酸、オクタコサン酸、ノナコサン酸、トリアコンタン酸等の飽和脂肪族カルボン酸;プロペン酸(アクリル酸等)、プロピン酸(プロピオール酸等)、ブテン酸(メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等)、ペンテン酸、ヘキセン酸、へプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸(オレイン酸等)、ノナデセン酸、イコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸、ペンタコセン酸、ヘキサコセン酸、ヘプタコセン酸、オクタコセン酸、ノナコセン酸、トリアコンテン酸等の不飽和脂肪族カルボン酸などが挙げられる。
【0020】
多価の脂肪族アルコールは、2価~6価、2~4価、又は2価若しくは3価の脂肪族アルコールであってよい。多価の脂肪族アルコールは、炭素原子数1~16、炭素原子数2~14、又は炭素原子数4~12の(多価の)脂肪族基を有する脂肪族アルコールであってよい。多価の脂肪族アルコールの脂肪族基は、多価の脂肪族飽和炭化水素基又は多価の脂肪族不飽和炭化水素基であってよい。これらの炭化水素基は、直鎖状又は分岐状であってよい。多価の脂肪族アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン等が挙げられる。
【0021】
エステル系基油の100℃における動粘度は、耐摩耗性の観点から、0.1mm2/s以上、0.5mm2/s以上、1.0mm2/s以上、2.0mm2/s以上、又は3.0mm2/s以上であってよい。エステル系基油の100℃における動粘度は、低摩擦性の観点から、20mm2/s以下、10mm2/s以下、8.0mm2/s以下、6.0mm2/s以下、又は5.0mm2/s以下であってよい。
【0022】
エステル系基油の40℃における動粘度は、耐摩耗性の観点から、1.0mm2/s以上、5.0mm2/s以上、又は10.0mm2/s以上であってよい。エステル系基油の40℃における動粘度は、低摩擦性の観点から、50mm2/s以下、40mm2/s以下、30mm2/s以下、又は20mm2/s以下であってよい。
【0023】
エステル系基油の粘度指数は、70以上、100以上、又は120以上であってよい。エステル系基油の粘度指数は、例えば、300以下であってよい。
【0024】
本明細書において、40℃及び100℃における動粘度並びに粘度指数は、それぞれJIS K2283:2000「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0025】
エステル系基油の含有量は、潤滑油基油の全量を基準として、25~85質量%である。エステル系基油の含有量が、潤滑油基油の全量を基準として、25質量%以上であると、充分な省燃費性及び低蒸発性が得られる傾向にある。エステル系基油の含有量は、低蒸発性の観点から、潤滑油基油の全量を基準として、27質量%以上又は30質量%以上であってもよい。エステル系基油の含有量が、潤滑油基油の全量を基準として、85質量%以下であると、充分な低摩擦性が得られる傾向にある。エステル系基油の含有量は、低摩擦性の観点から、潤滑油基油の全量を基準として、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、又は60質量%以下であってもよい。
【0026】
エステル系基油のNOACK蒸発量(250℃、1時間)は、25質量%以下、20質量%以下、又は18質量%以下であってよい。エステル系基油のNOACK蒸発量(250℃、1時間)は、例えば、3質量%以上であってよい。
【0027】
本明細書において、NOACK蒸発量とは、ASTM D 5800(NOACK試験:250℃、1時間)に準拠して測定した値(蒸発損失量)を意味する。
【0028】
(エステル系基油以外の基油)
潤滑油基油は、エステル系基油に加えて、エステル系基油以外の基油を含む。ここで、エステル系基油以外の基油は、通常の潤滑油分野で使用される基油であってよい。より具体的には、鉱油系基油、合成系基油(エステル系基油を除く。)、又は両者の混合物が挙げられる。
【0029】
鉱油系基油としては、例えば、API分類のグループI、グループII、グループIII、及びグループIII+に分類される鉱油等が挙げられる。なお、API分類の各グループは、米国石油協会(API(American Pertoleum Institute))の潤滑油グレードの分類によるものを意味する。
【0030】
合成系基油(エステル系基油を除く。)としては、例えば、ポリα-オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
【0031】
エステル系基油以外の基油の含有量は、潤滑油基油の全量を基準として、15~75質量%である。エステル系基油以外の基油の含有量は、添加剤の溶解性の観点から、潤滑油基油の全量を基準として、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、35質量%以上、又は40質量%以上であってもよい。エステル系基油以外の基油の含有量は、低蒸発性の観点から、73質量%以下又は70質量%以下であってもよい。
【0032】
潤滑油基油(エステル系基油を含む混合油)の100℃における動粘度は、耐摩耗性の観点から、3.0mm2/s以上又は3.2mm2/s以上であってよい。また、潤滑油基油の100℃における動粘度は、低摩擦性の観点から、20mm2/s以下、15mm2/s以下、10mm2/s以下、又は5.0mm2/s以下であってよい。
【0033】
潤滑油基油(エステル系基油を含む混合油)の40℃における動粘度は、耐摩耗性の観点から、5.0mm2/s以上、8.0mm2/s以上、又は10mm2/s以上であってよい。また、潤滑油基油の40℃における動粘度は、低摩擦性の観点から、30mm2/s以下、25mm2/s以下、又は20mm2/s以下であってよい。
【0034】
潤滑油基油(エステル系基油を含む混合油)の粘度指数は、70以上、100以上、又は120以上であってよい。潤滑油基油(エステル系基油を含む混合油)の粘度指数の粘度指数は、例えば、300以下であってよい。
【0035】
潤滑油基油(エステル系基油を含む混合油)のNOACK蒸発量(250℃、1時間)は、25質量%以下、20質量%以下、又は17質量%以下であってよい。
【0036】
潤滑油組成物における潤滑油基油の含有量は、後述のモリブデン系摩擦調整剤及びその他の添加剤の含有量の残部であってよい。潤滑油基油の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってよい。潤滑油基油の含有量が60質量%以上であると、粘度が高くなり過ぎることによる省燃費性の低下を防ぐことができる傾向にある。
【0037】
<添加剤>
(モリブデン系摩擦調整剤)
モリブデン系摩擦調整剤は、通常の潤滑油の分野で使用されるモリブデン系摩擦調整剤を使用することができる。モリブデン系摩擦調整剤としては、例えば、構成元素として硫黄を含む有機モリブデン化合物、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物等が挙げられる。
【0038】
構成元素として硫黄を含む有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)等の硫黄含有有機モリブデン化合物;モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩等)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等)との錯体などが挙げられる。
【0039】
構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン-アミン錯体、モリブデン-コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられる。モリブデン-アミン錯体を構成するモリブデン化合物は、三酸化モリブデン又はその水和物(MoO3・nH2O)、モリブデン酸(H2MoO4)、モリブデン酸アルカリ金属塩(M2MoO4;Mはアルカリ金属を示す)、モリブデン酸アンモニウム((NH4)2MoO4又は(NH4)6[Mo7O24]・4H2O)、MoCl5、MoOCl4、MoO2Cl2、MoO2Br2、Mo2O3Cl6等の硫黄非含有有機モリブデン化合物等であってよい。
【0040】
これらの中でも、モリブデン系摩擦調整剤は、低摩擦性の観点から、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)であってよい。
【0041】
モリブデン系摩擦調整剤の含有量は、潤滑油組成物の全量を基準として、モリブデン元素換算で0.06~0.20質量%である。モリブデン系摩擦調整剤の含有量が、潤滑油組成物の全量を基準として、モリブデン元素換算で、0.06質量%以上であると、摩擦特性に優れる傾向にあり、0.20質量%以下であると、溶解性を充分に保つことができる傾向にある。モリブデン系摩擦調整剤の含有量は、潤滑油組成物の全量を基準として、モリブデン元素換算で0.08質量%以上、0.10質量%以上、又は0.12質量%以上であってもよく、0.18質量%以下又は0.16質量%以下であってもよい。
【0042】
本実施形態の潤滑油組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、一般的に使用されている任意のその他の添加剤をさらに含有することができる。その他の添加剤としては、例えば、摩擦調整剤(ただし、モリブデン系摩擦調整剤を除く。)、金属系清浄剤、摩耗防止剤、無灰分散剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等が挙げられる。これらの添加剤を潤滑油組成物に含有させる場合、それぞれの含有量は本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限されないが、例えば、潤滑油組成物の全量を基準として、0.01~10質量%であってよい。
【0043】
(摩擦調整剤)
摩擦調整剤としては、例えば、エステル系、アミン系、アミド系、グリコール系等の無灰系摩擦調整剤などが挙げられる。
【0044】
(金属系清浄剤)
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート等の中性塩、中性塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物等を水の存在下で加熱することによって得られる塩基性塩、中性塩を炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下でアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩が挙げられる。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。金属系清浄剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0045】
金属系清浄剤の含有量は、潤滑油組成物の全量を基準として、金属元素(アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素)換算で、例えば、0.01質量%以上、0.10質量%以上、又は0.15質量%以上であってよく、0.50質量%以下、0.40質量%以下、又は0.30質量%以下であってよい。金属系清浄剤の含有量が、潤滑油組成物の全量を基準として、金属元素換算で、0.01質量%以上であると、エンジン内部の清浄性により優れる傾向にあり、0.50質量%以下であると、省燃費性により優れる傾向にある。
【0046】
(摩耗防止剤(極圧剤))
摩耗防止剤(極圧剤)としては、例えば、硫黄系、リン系、硫黄-リン系等の摩耗防止剤が挙げられる。より具体的には、例えば、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩(例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDTP)等)、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。
【0047】
摩耗防止剤は、ZDTPであってよい。ZDTPの含有量は、潤滑油組成物の全量を基準として、亜鉛元素換算で、例えば、0.01質量%以上、0.03質量%以上、又は0.05質量%以上であってよく、0.30質量%以下、0.20質量%以下、又は0.15質量%以下であってよい。摩耗防止剤の含有量が、潤滑油組成物の全量を基準として、亜鉛元素換算で、0.01質量%以上であると、摩耗特性により優れる傾向にあり、0.30質量%以下であると、加水分解をより抑制できる傾向にある。
【0048】
(無灰分散剤)
無灰分散剤としては、例えば、ポリオレフィンから誘導されるアルケニル基又はアルキル基を有するコハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアミン、マンニッヒ塩基等の含窒素化合物、これら含窒素化合物をホウ酸、ホウ酸塩等のホウ素化合物で変性させたホウ素変性コハク酸イミド等のホウ素変性含窒素化合物(ホウ素系無灰分散剤)などが挙げられる。
【0049】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤などが挙げられる。フェノール系無灰酸化防止剤としては、例えば、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)等が挙げられる。アミン系無灰酸化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキルフェニル-α-ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、ジフェニルアミン等が挙げられる。
【0050】
(粘度指数向上剤)
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤、オレフィンコポリマー系粘度指数向上剤、スチレン-ジエン共重合体系粘度指数向上剤等が挙げられる。これらの粘度指数向上剤は、非分散型及び分散型のいずれであってもよい。
【0051】
(流動点降下剤)
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリ(メタ)アクリレート系のポリマー等が挙げられる。
【0052】
(腐食防止剤)
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0053】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0054】
(抗乳化剤)
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤などが挙げられる。抗乳化剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0055】
(金属不活性化剤)
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4-チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4-チアジアゾリル-2,5-ビスジアルキルジチオカーバメート、2-(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β-(o-カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0056】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000~100000mm2/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸とのエステル、メチルサリチレートとo-ヒドロキシベンジルアルコールとのエステル等が挙げられる。
【0057】
潤滑油組成物の100℃における動粘度は、6.1mm2/s未満である。すなわち、潤滑油組成物は、粘度分類0W-8未満である。潤滑油組成物の100℃における動粘度が6.1mm2/s未満であると、低粘度であることから省燃費性に優れ傾向にある。潤滑油組成物の100℃における動粘度は、低摩擦性の観点から、6.0mm2/s以下、5.8mm2/s以下、5.5mm2/s以下、5.2mm2/s以下、又は5.0mm2/s以下であってよい。潤滑油組成物の100℃における動粘度は、耐摩耗性の観点から、3.0mm2/s以上、3.2mm2/s以上、3.5mm2/s以上、3.7mm2/s以上、又は4.0mm2/s以上であってよい。
【0058】
潤滑油組成物の40℃における動粘度は、省燃費性及び耐摩耗性の観点から、5.0mm2/s以上、10mm2/s以上、又は15mm2/s以上であってよく、耐摩耗性の観点から、50mm2/s以下、40mm2/s以下、又は30mm2/s以下であってよい。
【0059】
潤滑油組成物の粘度指数は、100以上、120以上、又は140以上であってよい。潤滑油組成物の粘度指数は、例えば、300以下であってよい。
【0060】
潤滑油組成物の80℃におけるせん断粘度は、省燃費性の観点から、6.4mPa・s未満であってよく、6.3mPa・s以下、6.0mPa・s以下、5.8mPa・s以下、又は5.6mPa・s以下であってもよい。潤滑油組成物の80℃におけるせん断粘度は、3.0mPa・s以上又は4.0mPa・s以上であってよい。
【0061】
本明細書において、80℃におけるせん断粘度は、ASTM D 4683に準拠し、80℃におけるせん断速度106/sにおける粘度を意味する。
【0062】
潤滑油組成物のNOACK蒸発量(250℃、1時間)は、低蒸発性の観点から、15質量%未満であり、14質量%以下又は13.5質量%以下であってよい。
【0063】
本発明によれば、省燃費性に優れるとともに、低蒸発性、低摩擦性、及び貯蔵安定性にも優れる内燃機関用潤滑油組成物が提供される。
【実施例0064】
以下、本発明について、実施例を挙げてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1~10及び比較例1~7)
以下に示す基油及び添加剤を用いて、表1に示す組成を有する実施例1~10及び比較例1~7の潤滑油組成物を調製した。
【0066】
<基油>
(エステル系基油)
A-1:セバシン酸と2-エチルヘキシルアルコールとのジエステル(100℃動粘度:3.2mm2/s、40℃動粘度:11.6mm2/s、粘度指数:152、NOACK蒸発量(250℃、1時間):17.5質量%)
A-2:アジピン酸とイソデシルアルコールとのジエステル(100℃動粘度:3.5mm2/s、40℃動粘度:13.7mm2/s、粘度指数:144、NOACK蒸発量(250℃、1時間):15.0質量%)
A-3:炭素原子数8~10の脂肪族基を有する一価のカルボン酸とトリメチロールプロパンとのポリオールエステル(100℃動粘度:4.3mm2/s、40℃動粘度:19.0mm2/s、粘度指数:138、NOACK蒸発量(250℃、1時間):4.3質量%)
a-1:炭素原子数18の飽和脂肪族基を有する一価のカルボン酸と炭素原子数20の飽和脂肪族基を有する一価のアルコールとのモノエステル(100℃動粘度:5.4mm2/s、40℃動粘度:25.2mm2/s、粘度指数:159、NOACK蒸発量(250℃、1時間):4.7質量%)
(鉱油)
B-1:API分類のグループIII(100℃動粘度:4.2mm2/s、40℃動粘度:19.4mm2/s、粘度指数:125、NOACK蒸発量(250℃、1時間):14.4質量%)
B-2:API分類のグループIII(100℃動粘度:3.1mm2/s、40℃動粘度:12.4mm2/s、粘度指数:103、NOACK蒸発量(250℃、1時間):39.0質量%)
【0067】
<添加剤>
(摩擦調整剤)
C-1:モリブデン系摩擦調整剤(MoDTC)(モリブデンジチオカーバメート、アルキル基:炭素原子数8と炭素原子数13との組み合わせ、Mo含有量:10.0質量%、硫黄含有量:10.8質量%)
C-2:無灰系摩擦調整剤
(金属系清浄剤)
D-1:マグネシウムスルホネート(Mg含有量:9.1質量%)
D-2:炭酸カルシウムサリシレート(Ca含有量:10.0質量%)
D-3:ホウ酸カルシウムサリシレート(Ca含有量:6.8質量%)
(摩耗防止剤)
E-1:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDTP)(アルキル基:炭素原子数8の第一級アルキル基と炭素原子数4又は6の第二級アルキル基との組み合わせ、Zn含有量:8.2質量%、P含有量:7.3質量%)
(分散剤)
F-1:非ホウ酸変性含窒素分散剤(N含有量:0.04質量%)
(酸化防止剤)
G-1:アミン系無灰酸化防止剤
(流動点降下剤)
H-1:ポリ(メタ)クリレート系流動点降下剤
【0068】
なお、表1における元素含有量は、潤滑油組成物の全量を基準とした値であり、添加剤に含まれる元素含有量と仕込み量とから算出したものである。Mo元素含有量は、主に、C-1に由来する値である。Mg元素含有量は、主に、D-1に由来する値である。Ca元素含有量は、主に、D-2及びD-3に由来する値である。Zn元素含有量及びP元素含有量は、主に、E-1に由来する値である。
【0069】
(1)動粘度、粘度指数
JIS K2283に準拠し、各潤滑油組成物の40℃及び100℃における動粘度並びに粘度指数を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
(2)せん断粘度
ASTM D-4683に準拠し、各潤滑油組成物の80℃におけるせん断速度106/sにおける粘度を測定した。本試験においては、せん断粘度が小さい(例えば、6.4mPa・s未満)ほど、省燃費性に優れていることを意味する。結果を表1に示す。
【0071】
(3)NOACK蒸発量
ASTM D-5800(NOACK試験:250℃、1時間)に準拠し、各潤滑油組成物のNOACK蒸発量を測定した。本試験においては、NOACK蒸発量が小さい(例えば、15質量%未満)ほど、低蒸発性に優れていることを意味する。結果を表1に示す。
【0072】
(4)摩擦係数
ASTM D 2174に記載のブロックオンリング試験機(LFW-1)を用いて、摩擦係数を以下の条件により測定した。試験は、546回転/分で30分間を行い、残り30秒間の摩擦係数を測定した。結果を表1に示す。本試験においては、摩擦係数が小さい(例えば、0.030以下)ほど、低摩擦性に優れていることを意味する。
(条件)
試験片(リング):Falex S-10 Test Ring(SAE4620 Steel)
試験片(ブロック):Falex H-60 Test Block(SAE01 Steel)
油温:80℃
荷重:445N
【0073】
(5)貯蔵安定性
各潤滑油組成物を0℃で1週間放置し、沈殿の発生の有無を観察した。結果を表1に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
表1及び表2に示すとおり、実施例1~10の潤滑油組成物は、省燃費性、低蒸発性、低摩擦性、及び貯蔵安定性の全ての点において、バランスよく優れていたのに対して、比較例1~7の潤滑油組成物は、低蒸発性、低摩擦性、及び貯蔵安定性のいずれかが充分ではなかった。以上の結果から、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、省燃費性に優れるとともに、低蒸発性、低摩擦性、及び貯蔵安定性にも優れることが確認された。