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特開2022-90392抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物およびそれを含有する抗菌性複合樹脂材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090392
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物およびそれを含有する抗菌性複合樹脂材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20220610BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20220610BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20220610BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20220610BHJP
【FI】
C08L67/04 ZBP
C08L1/02
B29C45/00
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202774
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】311007545
【氏名又は名称】GSアライアンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591075467
【氏名又は名称】冨士色素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】森 良平
【テーマコード(参考)】
4F206
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4F206AA01
4F206AA24
4F206JA07
4F206JL02
4J002AB012
4J002CF181
4J002FA042
4J002FB072
4J002FD012
4J002GG01
4J002GQ00
4J200AA04
4J200AA06
4J200BA14
4J200DA17
4J200DA28
4J200EA10
4J200EA15
4J200EA22
4J200EA23
(57)【要約】
【課題】抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物および、それを用いた射出成形品を提供する。特に、射出成形による生産速度を増大し、大量生産に適用可能な、抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【解決手段】結晶化剤として、水熱処理したセルロース原料を解砕し、その後、解砕した木材チップを化学処理に付して得られセルロースナノファイバーに、銀、銅、亜鉛などの抗菌特性を有する金属を担持した抗菌性セルロースナノファイバーをポリ乳酸に練り込んだ抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物を用いて、射出成形する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸および、抗菌性セルロースナノファイバーを含有する、抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
前記抗菌性セルロースナノファイバーは、銀、銅または亜鉛のナノ粒子が担持されたセルロースナノファイバーである、請求項1に記載の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリ乳酸100重量部に対して、前記抗菌性セルロースナノファイバーの添加量が、0.1~50重量部である、請求項1に記載の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
前記抗菌性セルロースナノファイバーが、セルロース原料を水熱処理に付して膨潤セルロース原料を得る工程;膨潤セルロース原料を解砕してパルプを得る工程;パルプを化学処理してセルロースナノファイバー(CNF)を得る工程;および、得られたセルロースナノファイバーを、銀、銅または亜鉛のナノ粒子を含有する水性コロイドに浸漬する工程を、この順序で含む製造方法により製造されたセルロースナノファイバーである、請求項1に記載の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
水熱処理を臨界または亜臨界状態で行う、請求項4に記載の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
セルロース原料が、針葉樹、広葉樹および竹からなる群から選択される木本類もしくは稲穂、くずおよびすすきからなる群から選択される草本類もしくはこれらの廃材、または、紙もしくは古紙である、請求項4に記載の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項7】
化学処理が、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸から選択される酸を用いる酸処理であるか、または、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウムもしくは次亜塩素酸から選択されるアルカリを用いるアルカリ処理である、請求項4に記載の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1に記載の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物を射出成形する、抗菌処理成型品の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1に記載の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物を用いて形成された、抗菌処理射出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物およびそれを含有する抗菌性複合樹脂材料に関する。より詳しくは、本発明は、銀、銅、亜鉛などの抗菌特性を有する金属を担持したセルロースナノファイバーおよびポリ乳酸を含有する、抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物に関する。この抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物は、さらに、金型からの離型性にも優れている。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸(PLA)は植物由来の生分解性樹脂であり、焼却した場合でも排出CO量が多くの樹脂の中でも最低レベルであるため、環境負荷の少ない材料として着目されている。また、樹脂成型品の多くが射出成形により製造されていることから、PLAを用いて射出成形品を製造することが広く研究されている。
【0003】
射出成型による樹脂成型品の製造は、以下:(1)型締め;(2)射出;(3)保圧;(4)冷却;(5)型開き;および(6)成形品の取出しの6つの工程からなる。
射出工程では、概略、ホッパーに樹脂を投入し、加熱シリンダーを通して、溶融樹脂を型締めした金型に流し込む。この工程では、特に、金型に流し込む際に、樹脂の流動性が高いことが求められる。特に、複雑な形状の金型に射出する場合、重要な因子となる。
保圧工程から取出工程では、金型内部構造全体に樹脂を充填し、樹脂が固まるまで、所定時間圧力を保持しつつ、冷却し、樹脂が固まった後、金型を開いて成型品を取り出す。
【0004】
エジェクタピンでの突き出しや吸着式により金型から成型品を取り出すとき、成型品が変形や破損しないように、金型からの離型性や成型品の剛性が重要な因子となる。したがって、冷却および取出しの工程が、射出成形による成形品の製造の生産速度の律速となる。
従来のポリ乳酸樹脂組成物を用いた射出成形の場合、生産速度は、20~80個/日程度である。この程度の生産速度では、大量生産に適用することができない。
【0005】
一般に、樹脂は結晶化するとその剛性が向上するが、PLAは結晶化しにくいため、耐熱性樹脂成型品としての活用が困難である。そこで、成形品の剛性を向上させるために、PLAの結晶化を高めて、金型から成形品を取出すときに変形や破損を生じないようにする取り組みが行われている。
【0006】
例えば、引用文献1は、表面温度を90~140℃に設定した金型キャビティに、結晶化速度の改善されたポリ乳酸樹脂組成物を供給し、キャビティ表面温度を40~80℃に急冷する、成型方法を開示する。
一方、引用文献2は、特定の温度条件でポリ乳酸樹脂を製造することで結晶化を向上させる方法を開示する。
引用文献2の方法では、合成マイカ、クレー、タルクなど、熱可塑性樹脂に対して公知の結晶核剤を用いることも記載する。さらに、トリメシン酸トリアミド系分子(引用文献3)や有機ホスホン酸塩化合物、環構造を有するアミド化合物など(引用文献4)を結晶核剤として用いて、PLA樹脂組成物の結晶化を促進する方法も研究されている。
【0007】
今般の新型コロナウィルス感染症の影響により、大衆の衛生観念が一気に向上した。そのため、抗菌処理または抗ウイルス処理をした樹脂成形品の需要が増大している。
抗菌処理および抗ウイルス処理は、基材の表面に抗菌剤または抗ウイルス剤をコーティングする方法、抗菌剤または抗ウイルス剤を樹脂組成物に練り込む方法などによって達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-103202号公報
【特許文献2】特開2015-010119号公報
【特許文献3】特開2006-328163号公報
【特許文献4】特開2016-211005号公報
【特許文献5】特開2020-033423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物および、それを用いた射出成形品を提供する。特に、射出成形による生産速度を増大し、大量生産に適用可能な、抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明においては、抗菌特性を有する金属が担持されたセルロースナノファイバーをポリ乳酸に練り込んで、抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物を製造する。抗菌特性を有する金属が樹脂組成物内に分散しているので、成形品にしたときに、表面処理したものよりも抗菌効果が持続する。
このような抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物を用いれば、高度な加熱冷却プロファイルを達成させるための温度管理システムを新たに導入することなく、現行の射出成形装置を利用して、生産速度を増大することができる。特に、従来の温度設定に従う冷却工程および従来の取り出し工程でも、ポリ乳酸樹脂組成物の成形品の剛性を向上して、変形や破損を防止することができる。
より具体的には、本発明の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物は、結晶化剤として、セルロースナノファイバー(CNF)を含む。このセルロースナノファイバーには、銀、銅、亜鉛などの抗菌特性を有する金属が担持されている。
したがって、本発明の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物を用いて射出成形を行うと、取り出し工程での変形や破損の防止のために金型キャビティの温度制御することなく、抗菌処理樹脂成形品の生産速度が1500~10000個/日程度にまで2桁も増大することが実証された。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物は、樹脂も結晶化剤も天然物由来であるので、本発明の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物を射出成形に用いれば、結果的に、環境負荷が少なく、かつ、持続的な抗菌処理が施された成形品を大量生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ポリ乳酸および、銀、銅、亜鉛などの抗菌特性を有する金属が担持されたセルロースナノファイバーを含有する、抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【0013】
本発明の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物の第1の態様として、前記セルロースナノファイバーが、セルロース原料を水熱処理に付して膨潤セルロース原料を得る工程;膨潤セルロース原料を解砕してパルプを得る工程;およびパルプを化学処理してセルロースナノファイバー(CNF)を得る工程を、この順序で含む製造方法により製造されたセルロースナノファイバーである。
【0014】
本発明によるCNFの製造方法に用いるセルロース原料は、天然セルロースを取り出せる物質であればいずれのものであってもよく、例えば、針葉樹、広葉樹および竹などからなる群から選択される木本類もしくは稲穂、くず、すすきなどからなる群から選択される草本類、さらには紙類を含む。これらのセルロース原料は、新規の材料でなくても、前記した木本類、草木類の使用済みの廃材、古紙でもよい。このようなセルロース原料は、取り扱いのため適当な大きさにしてから工程に付す。本発明において、工程に付す際のセルロース原料の大きさは、好ましくは0.5×0.5 cm~2.0×2.0 cm、より好ましくは0.7×0.7 cm~1.5×1.5 cm、最も好ましくは0.8×0.8 cm~1.2×1.2 cmの範囲である。前記範囲よりも大きな原料であれば、破砕してチップやパウダー形態の粉砕物にする。
【0015】
本発明によるCNFの製造方法の水熱処理工程において、セルロース原料をそのまま水に浸漬し、高温、高圧条件の亜臨界から超臨界状態に付す。より詳しくは、水に浸漬したチップ等の水熱処理を、1~300気圧下で400℃以下の、好ましくは2~250気圧下で5~200℃の、より好ましくは25~100気圧下で100~380℃の、最も好ましくは25~100気圧下で150~250℃の範囲内の亜臨界または超臨界状態で60~180分間行う。これらの水熱処理により、セルロース原料は柔らかく膨潤した粉砕物になる。
【0016】
従来のCNFの製造方法では木材チップ等のセルロース原料を最初に硫酸などで化学処理し、その後、ソルボサーマル処理していたが、本発明の製造方法では、木材チップなどある程度の大きさを有するセルロース原料をまず水熱処理し、その後、酸やアルカリを用いて化学処理するところに特徴がある。本発明の製造方法により製造したCNFは樹脂と混合した場合に、複合材料の物性を高める。
【0017】
ソルボサーマル処理とは、水熱処理において用いる水に代えて有機溶媒を用いる処理であり、このような有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、N-メチルピロリドンのようなピロリドン系溶剤、酢酸ブチルのようなアセテート系溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテルのようなグリコールエーテル系溶剤、メチルエチルケトンのようなケトン系溶剤、トルエン、キシレンのような芳香族溶剤、パラフィンなどの炭化水素系溶剤などの溶媒を挙げることができる。
【0018】
つぎに、得られた膨潤セルロース原料を解砕工程に付して、繊維をほぐしてパルプ化する。この解砕工程には、ボールミル、ディスクミル、湿式カッターミル、圧力式ホモジナイザーなどを用いることができる。この解砕工程によりセルロース原料は0.05~0.5 mmの繊維状のパルプとなる。
【0019】
最後に、解砕して得られたパルプを化学処理する。化学処理としては、例えば、酸処理、アルカリ処理、またはこれらの組み合わせが挙げられる。酸処理には、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸などの酸を用いることができる。また、アルカリ処理には水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、次亜塩素酸などを用いることができる。化学処理により、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エステル基、スルホ基、ケトン基、アセチル基などの官能基をセルロース表面に持たせ、樹脂中での分散状態を良好にすることができる。
【0020】
また、水熱処理に付す前に、セルロース原料にリグニンを加えることもできる。リグニンを加えることにより、生成されるCNFの表面が疎水化される(疎水化CNF)。疎水化CNFと樹脂とを混合して生成する複合材料では、リグニンを加えない非疎水化CNFの複合材料と比べて引張強度が高くなるのでより好ましい。セルロース原料とリグニンの混合比はセルロース原料/リグニン(重量比)=0.5~2、好ましくは0.7~1.5、より好ましくは0.8~1.2ぐらいが好ましい。
【0021】
上記の製造方法により製造されたセルロースナノファイバーを、銀、銅、亜鉛から選択される抗菌特性を有する金属のナノ粒子を含有する水性コロイドに浸漬して、前記金属のナノ粒子をセルロースナノファイバーに担持させて、抗菌性セルロースナノファイバーを調製する。金属ナノ粒子による抗菌効果は、有機系抗菌剤よりも持続性が高いので有用である。
本発明に用いるナノ粒子のサイズは、1~30 nmである。
【0022】
本発明に用いる抗菌性セルロースナノファイバーにおいて、前記セルロースナノファイバー100重量部に対して、担持させる金属の量は、0.01~10重量部、好ましくは0.03~3重量部である。
所望する抗菌活性を得るために担持させる金属の量を少なくできるので、銀ナノコロイドが好ましい。例えば、銀を担持させる場合、前記セルロースナノファイバー100重量部に対して、担持させる金属の量は、0.01~5重量部、好ましくは0.02~2重量部である。
【0023】
本発明の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物において、前記ポリ乳酸100重量部に対して、前記抗菌性セルロースナノファイバーの添加量は、0.0~50.0重量部、好ましくは1.0~10.0重量部である。
【0024】
本発明の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない限り、射出成形用の樹脂組成物に添加することができる様々な添加物を添加することができる。本発明の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物に添加することができる添加物としては、滑剤、可塑剤、離型剤、流動性向上剤などが挙げられる。
【0025】
上記滑剤の例は、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどの脂肪酸エステル;流動パラフィン、パラフィンワックス、合成ポリエチレンワックスなどの炭化水素;ステアリン酸やステアリルアルコールなどの脂肪酸および高級アルコール;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドの脂肪酸アミドと、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドのアルキレン脂肪酸アミドなどの脂肪族アミド;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石けん;ステアリン酸モノグリセリドやステアリルステアレートなどのエステル系アルコールの脂肪酸エステルを包含する。なかでも、環境負荷低減の観点から、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸やステアリルアルコール、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの天然物由来成分が好ましい。
【0026】
上記可塑剤の例は、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジブチルなどのフタル酸エステル;アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニルなどのアジピン酸エステル;トリメリット酸トリオクチルのようなトリメリット酸エステル;二塩基酸(アジピン酸、セバチン酸、フタル酸など)とグリコール類(1、2-プロパンジオール、ブタンジオールなどのポリエステル;リン酸トリクレシルなどのリン酸エステル;アセチルクエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油などのエポキシ化植物油;セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステルなどのジカルボン酸のモノまたはジエステル;安息香酸エステルなどの芳香族カルボン酸のエステル;ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、動物脂肪酸メチル、牛脂脂肪酸メチル、植物性脂肪酸メチル、大豆脂肪酸メチル、亜麻仁油脂肪酸メチルなどの脂肪酸メチルエステル;ミリスチン酸ブチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸ブチル、動物脂肪酸ブチル、牛脂脂肪酸ブチル、植物性脂肪酸、大豆脂肪酸ブチル、亜麻仁油脂肪酸ブチルなどの脂肪酸ブチルエステルを包含する。なかでも、環境負荷低減の観点から、リン酸トリクレシル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、セバシン酸エステルなどの天然物由来成分が好ましい。
【0027】
上記離型剤の例は、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、高級アルコール脂肪酸エステルなどを包含する。これらの化合物は、環境負荷低減の観点から好ましい。
【0028】
その他、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、亜鉛などの炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、若しくはこれらの水和物の粉末などの無機材料フィラーも、滑剤、離型剤、流動性向上剤としての効果がある。具体的には、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、クレー、長石、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、カオリンクレー、タルク、マイカ、ウォラストナイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、ゼオライト、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、グラファイト、フェライト等が挙げられる。
【0029】
本発明は、上記抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物を射出成形する、成形品の製造方法を提供する。本発明のポリ乳酸樹脂組成物を用いて樹脂成型品する成形品の製造は、以下:(1)型締め;(2)射出;(3)保圧;(4)冷却;(5)型開き;および(6)成形品の取出しの6つの工程を含む。各工程の設定条件は、従来公知の条件で構わない。
【0030】
本発明の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物を用いて、コップ、茶碗、トレーなどの食器や容器類、テレビ、コンピュータ、洗濯機、携帯電話などの電化製品の部品、自動車の部品などの様々な成形品を射出成形により製造する。
【実施例0031】
実施例1
木材チップ(1.0x1.0cm)1kgとN-メチルピロリドン10Lとを混合してオートクレーブ(200℃、25気圧)中で2時間ソルボサーマル処理した。得られた木材粉砕物を酢酸50%の水溶液中90℃で1時間熱処理を施して、ソルボサーマル処理/化学処理したCNFを得た。
銀ナノ粒子を含有する水性コロイド(GSアライアンス社製、GS NC Ag)100 mLに上記で得られたCNF100gを、室温にて24時間含浸した。前記CNFを取り出し、室温にて12時間乾燥させて、Agナノ粒子を担持したCNF(Ag-CNF)を調製した。
ポリ乳酸(PLA; Natureworks社製)95 gに対して、上記で製造したAg-CNF 5 gを配合して、二軸押出機により混合して、5重量%のAg-CNFを含有する生分解性複合材料を調製した。
【0032】
[抗菌特性試験]
抗菌製品技術協議会 抗菌加工製品の抗菌力評価試験法 試験法II (2016年度版) シェーク法 準用に基づき、本発明の抗菌性ポリ乳酸樹脂組成物を用いて形成された射出成形品の大腸菌(Escherichia Coli NBRC 3972)に対する抗菌効果を測定した。
詳細は割愛するが、3個の滅菌コップにおいて、それぞれ、大腸菌を含有する接種用菌液1mlあたりの生菌数を接種用菌液の調製直後に測定し、生菌数の対数値の平均値を求め、その値をAとする(接種直後対照区)。保存後24時間の対照区滅菌コップ(3個)について、生菌数を測定し、生菌数の対数値の平均値を求め、その値をBとする(対照区)。
同様に、無加工試験片(3個)について、接種用菌液中で保存24時間、生菌数を測定し、生菌数の対数値の平均値を求め、その値をCとする(無加工試験区)。
同様に、抗菌加工試験片(3個)について、接種用菌液中で保存24時間、生菌数を測定し、生菌数の対数値の平均値を求め、その値をDとする(抗菌加工試験区)。
生菌数はSA培地を使用した寒天平板培養法(温度35±1℃で40~48時間培養)により測定した。生菌数測定時の希釈は滅菌リン酸緩衝生理食塩水を用いて行った。
試験成立条件を全て満たしたことを確認後、次式により、抗菌活性値を計算し、小数点以下2桁目を切り捨てて少数点以下1桁に丸めて表示する。
【0033】
【数1】
【0034】
すなわち、抗菌活性値が大きいほど、より多くの菌が抗菌加工によって滅菌されたことを意味する。結果を表1に示す。
【0035】
[引張特性試験]
卓上小型射出成型機(Thermo Fisher Scientific 社製、HAAKE MiniJet Pro)を用いて、JIS K7139に準拠して、短冊試験片(80 mm x 10 mm x 4 mm)を作成した。
精密万能試験機(島津製作所製、オートグラフAG-X plus)を用いて、JIS K 7161:1994に準拠して、作成した短冊試験片の引張強度を測定し(試験速度:20 mm/分)、試験器に付属するマクロ機能を搭載した「TRAPEZIUM LITE X」によりデータ処理を行った。
結果を表1に示す。
【0036】
[射出成形性試験]
プラスチック射出成形によりスプーン、フォーク、ナイフなどの食器を製造する通常の製造ラインで、前記生分解性複合材料からスプーン、フォーク、ナイフを製造した。
金型キャビティ温度は周囲温のままで、特に温度制御することはしなかった。
1日あたりの生産量の結果を表1に示す。
【0037】
比較例1
銀ナノ粒子を含有する水性コロイドに、得られたCNFを浸漬しない以外は、実施例1と同様にして、引張特性試験および射出成形性試験を行った。
結果を表1に示す。
【0038】
比較例2
ポリ乳酸(PLA; Natureworks社製)のみを含有する生分解性複合材料を調製し、実施例1と同様にして、引張特性試験および射出成形性試験を行った。
結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
5重量%のAg-CNFを配合した生分解性複合材料(実施例1)では、CNFを含有しないPLAのみの生分解性複合材料(比較例2)と比べて、Ag-CNFを5重量%添加するだけで、PLAの結晶化を促進するために金型キャビティ温度を高温に設定したり、急冷したりすることなく、金型からの離型性が顕著に向上することが確認できた。
また、実施例1の生分解性複合材料は、Agを担持しないCNFを同量配合した生分解性複合材料(比較例1)と比較して、大腸菌に対する抗菌性が有意に向上していることが確認された。なお、CNFにAgを担持させることによって生産量が若干低下するものの、十分な性能を発揮した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
ポリ乳酸と、前記セルロースナノファイバーが、セルロース原料を水熱処理に付して膨潤セルロース原料を得る工程;膨潤セルロース原料を解砕してパルプを得る工程;パルプを化学処理してセルロースナノファイバー(CNF)を得る工程;および、得られたセルロースナノファイバーを、銀、銅または亜鉛のナノ粒子を含有する水性コロイドに浸漬する工程を、この順序で含む製造方法により製造されたセルロースナノファイバーと、を含有するポリ乳酸樹脂組成物を用いて射出成形すれば、環境負荷が少なく、かつ、持続的な抗菌処理された成形品を大量生産することができる。