(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090418
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】高分子繊維多機能アクチュエータ及び高分子繊維多機能アクチュエータユニット
(51)【国際特許分類】
G01D 5/353 20060101AFI20220610BHJP
H02N 10/00 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
G01D5/353 A
H02N10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202811
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】舛屋 賢
(72)【発明者】
【氏名】田原 健二
【テーマコード(参考)】
2F103
【Fターム(参考)】
2F103BA43
2F103BA44
2F103CA01
2F103CA06
2F103EB06
2F103EB11
2F103EC09
(57)【要約】
【課題】 熱により駆動されるソフトアクチュエータとしてのアクチュエータ機能とともに、温度変化に応答する温度センサ、長さ変化に応答する長さセンサ、加えられた力の変化に応答する力センサ等として機能する各種センサ機能を備える小型化した高分子繊維多機能アクチュエータ及び高分子繊維多機能アクチュエータユニットを提供する。
【解決手段】
センサ機能を担う中心の光ファイバ部1とアクチュエータ機能を担う周辺の高分子被膜部2とが一体化され、捻られた状態でコイル形状に成形してなる高分子被膜付き光ファイバ5と、上記高分子被膜付き光ファイバ5に巻き付けられた加熱用電線7とにより、上記光ファイバ部1を通過する光の光量変化として応答するセンサ機能と上記高分子被膜部2の熱により収縮するアクチュエータ機能と有する高分子繊維多機能アクチュエータ10を構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ機能を担う中心の光ファイバ部とアクチュエータ機能を担う周辺の高分子被膜部とが一体化され、捻られた状態でコイル形状に成形してなる高分子被膜付き光ファイバと、
上記高分子被膜付き光ファイバに巻き付けられた加熱用電線とからなり、
上記光ファイバ部を通過する光の光量変化として応答するセンサ機能と上記高分子被膜部の熱により収縮するアクチュエータ機能と有することを特徴とする高分子繊維多機能アクチュエータ。
【請求項2】
上記光ファイバ部は、通過する光の光量変化として温度変化に応答する温度センサとして機能することを特徴とする請求項1記載の高分子繊維多機能アクチュエータ。
【請求項3】
上記光ファイバ部は、通過する光の光量変化として長さ変化に応答する長さセンサとして機能する請求項1記載の高分子繊維多機能アクチュエータ。
【請求項4】
上記光ファイバ部は、通過する光量変化として加えられた力の変化に応答する力センサとして機能する請求項1記載の高分子繊維多機能アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に係る高分子繊維多機能アクチュエータと、
高分子繊維多機能アクチュエータの光ファイバ部の一端に設けられた発光部と、
上記光ファイバ部の他端に設けられた受光部とからなり、
上記発光部から出射され上記光ファイバ部を通過した光の光量変化として応答するセンサ出力を上記受光部により得ることを特徴とする高分子繊維多機能アクチュエータユニット。
【請求項6】
等温条件下において、上記光ファイバ部を通過する光の光量変化として上記光ファイバ部の長さ変化に応答する長さセンサ出力を上記受光部により得ることを特徴とする請求項5記載の高分子繊維多機能アクチュエータユニット。
【請求項7】
等荷重条件下において、上記光ファイバ部を通過する光の光量変化として上記光ファイバ部の長さ変化に応答する長さセンサ出力を上記受光部により得ることを特徴とする請求項5記載の高分子繊維多機能アクチュエータユニット。
【請求項8】
等尺性条件下での駆動において、上記光ファイバ部を通過する光の光量変化として上記光ファイバ部の温度変化に応答する温度センサ出力を上記受光部により得ることを特徴とする請求項5記載の高分子繊維多機能アクチュエータユニット。
【請求項9】
等荷重条件下において、上記光ファイバ部を通過する光の光量変化として上記光ファイバ部の温度変化に応答する温度センサ出力を上記受光部により得ることを特徴とする請求項5記載の高分子繊維多機能アクチュエータユニット。
【請求項10】
等尺性条件下での駆動において、上記光ファイバ部を通過する光の光量変化として上記光ファイバ部に加えられた力の変化に応答する力センサ出力を上記受光部により得ることを特徴とする請求項5記載の高分子繊維多機能アクチュエータユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱により収縮する機能を有する高分子繊維多機能アクチュエータ及び高分子繊維多機能アクチュエータユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱による収縮を利用するソフトアクチュエータとして、高分子繊維アクチュエータ(TCPF:Twisted and Coiled Polymer Fiber)が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
TCPFは、ねじってコイル化した高分子繊維の加熱に伴う収縮を利用したソフトアクチュエータであり、高い比出力、大きなストロークを特徴とする。
【0004】
TCPFのロボティクス応用において,その応答の高速化がひとつの課題であり、これまでに液冷(例えば、非特許文献2、3参照)や空冷(例えば、非特許文献4、5参照)のような冷却システムと統合したアクチュエータユニットの開発が行われてきた。しかし、これまでのアクチュエータユニットでは、制御のために外部のセンサを用いており、ユニット単体での利用は難しい。
【0005】
また、よく用いられているTCPFの計測技術として、加熱用電線のインピーダンスを用いる方法(例えば、非特許文献6参照)や抵抗値に基づく方法(例えば、非特許文献7、8、9、10参照)が知られている。
【0006】
しかし、電線のインピーダンスを用いる方法ではLCR メータが必要となり,結果的にユニットが大型化する。一方で,抵抗値を用いる方法は比較的小型にすることが可能であるが、方法上、計測用回路と制御用回路が一体化しており、制御入力のノイズが計測ノイズに影響する。回路を分離できる計測技術として、本件発明者等は光ファイバを用いた状態計測方法を提案し、これまでにコイル状光ファイバを用いた変位センサを開発している(例えば、非特許文献11参照)。この変位センサは,コイル状光ファイバの長さ変化に伴う曲げ損失の変化に基づいており(例えば、非特許文献12,13参照)、比較的安価に製作できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】C. S. Haines et al. :"Articial Muscles from Fishing Line and Sewing Thread," Science, vol. 343, no.6173, pp. 868-872 (2014)
【非特許文献2】L. Wu et al. : "Nylon-Muscle-Actuated Robotic Finger," Proc. of SPIE vol. 9431, 94310I (2015)
【非特許文献3】H. Song and Y. Hori : "Force control of twisted and coiled polymer actuators via active control of electrical heating and forced convective liquid cooling," Advanced Robotics, vol. 32, no. 14, pp. 736-749 (2018)
【非特許文献4】M. C. Yip and G. Niemeyer : "High-Performance Robotic Muscles from Conductive Nylon Sewing Thread," Proc. of the 2015 IEEE Int. Conf. on Robotics and Automation, pp. 2313-2318 (2015)
【非特許文献5】K. Takagi et al. : "Position control of Twisted and Coiled Polymer Actuator Using a Controlled Fan for Cooling," Proc. of SPIE, vol. 10163, 101632V (2017)
【非特許文献6】J. van der Weijde, et al. : "Self-Sensing of Deflection, Force, and Temperature for Joule-Heated Twisted and Coiled Polymer Muscles via Electrical Impedance," IEEE/ASME Transactions on Mechatronics, vol. 22, no. 3, pp. 1268-1275 (2017)
【非特許文献7】A. Abbas and J. Zhao : "A Physics Based Model for Twisted and Coiled Actuator," Proc. of the 2017 IEEE Int. Conf. on Robotics and Automation, pp.6121-6126 (2017)
【非特許文献8】A. Abbas and J. Zhao : "Twisted and Coiled Sensor for Shape Estimation of Soft Robots," Proc. of the 2017 IEEE/RSJ Int.l Conf. on Intelligent Robots and Systems, pp. 482-487 (2017)
【非特許文献9】K. Tahara et al. : \Rotational Angle Control of a Twisted Polymeric Fiber Actuator by an Estimated Temperature Feedback," IEEE Robotics and Automation Letters, vol.4, no.3, pp.2447-2454, 2019.
【非特許文献10】R. Hayashi et al. : "Rotational Angle Trajectory Tracking of a Twisted Polymeric Fiber Actuator by the Combination of a Model-Based Feed-Forward and Estimated Temperature Feedback," IEEE Robotics and Automation Letters, vol.4, no.3,pp.2561-2567 (2019)
【非特許文献11】K. Masuya : "Low-Cost Coil-Shaped Optical Fiber Displacement Sensor for a Twisted and Coiled Polymer Fiber Actuator Unit," IEEE Robotics and Automation Letters, vol.5, no.4, pp.6497-6503 (2020)
【非特許文献12】S. Wakimoto et al. : "Proposal and prototype of a McKibben artificial muscle with an optical fiber for sensing displacement (in Japanese)," Proc of JSME annual Conf. on Robotics and Mechatronics, 1P1-G10 (2019)
【非特許文献13】L. Meng et al. : "An investigation in the influence of helical structure on bend loss of pavement optical fiber sensor," Optik, vol. 183, pp. 189-199 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本件発明者等が先に開発したコイル状光ファイバを用いた変位センサでは、光ファイバへの温度の影響を避けるために、TCPFアクチュエータと光ファイバを離して配置しており,結果的にアクチュエータユニットが大型化していた。
【0009】
そこで、本発明の目的は、アクチュエータとして機能するTCPFと変位センサとして機能する光ファイバとを一体化することにより小型化した高分子繊維多機能アクチュエータ及び高分子繊維多機能アクチュエータユニットを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、TCPFの計測技術を提供し、TCPFアクチュエータユニットの利用性を向上することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、高分子繊維多機能アクチュエータであって、センサ機能を担う中心の光ファイバ部とアクチュエータ機能を担う周辺の高分子被膜部とが一体化され、捻られた状態でコイル形状に成形してなる高分子被膜付き光ファイバと、上記高分子被膜付き光ファイバに巻き付けられた加熱用電線とからなり、上記光ファイバ部を通過する光の光量変化として応答するセンサ機能と上記高分子被膜部の熱により収縮するアクチュエータ機能と有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る高分子繊維多機能アクチュエータにおいて、上記光ファイバ部は、通過する光の光量変化として温度変化に応答する温度センサとして機能するものとすることができる。
【0014】
また、本発明に係る高分子繊維多機能アクチュエータにおいて、上記光ファイバ部は、通過する光の光量変化として長さ変化に応答する長さセンサとして機能するものとすることができる。
【0015】
さらに、本発明に係る高分子繊維多機能アクチュエータにおいて、上記光ファイバ部は、通過する光量変化として加えられた力の変化に応答する力センサとして機能するものとすることができる。
【0016】
本発明は、高分子繊維多機能アクチュエータユニットであって、本発明に係る高分子繊維多機能アクチュエータと、高分子繊維多機能アクチュエータの光ファイバ部の一端に設けられた発光部と、上記光ファイバ部の他端に設けられた受光部とからなり、上記発光部から出射され上記光ファイバ部を通過した光の光量変化として応答するセンサ出力を上記受光部により得ることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る高分子繊維多機能アクチュエータユニットは、等温条件下において、上記光ファイバ部を通過する光の光量変化として上記光ファイバ部の長さ変化に応答する長さセンサ出力を上記受光部により得るものとすることができる。
【0018】
また、本発明に係る高分子繊維多機能アクチュエータユニットは、等荷重条件下において、上記光ファイバ部を通過する光の光量変化として上記光ファイバ部の長さ変化に応答する長さセンサ出力を上記受光部により得るものとすることができる。
【0019】
また、本発明に係る高分子繊維多機能アクチュエータユニットは、等尺性条件下での駆動において、上記光ファイバ部を通過する光の光量変化として上記光ファイバ部の温度変化に応答する温度センサ出力を上記受光部により得るものとすることができる。
【0020】
また、本発明に係る高分子繊維多機能アクチュエータユニットは、等荷重条件下において、上記光ファイバ部を通過する光の光量変化として上記光ファイバ部の温度変化に応答する温度センサ出力を上記受光部により得るものとすることができる。
【0021】
さらに、本発明に係る高分子繊維多機能アクチュエータユニットは、等尺性条件下での駆動において、上記光ファイバ部を通過する光の光量変化として上記光ファイバ部に加えられた力の変化に応答する力センサ出力を上記受光部により得るものとすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、アクチュエータとして機能するTCPFと変位センサとして機能する光ファイバとを一体化して小型化した高分子繊維多機能アクチュエータ及び高分子繊維多機能アクチュエータユニットを提供することができる。
【0023】
本発明では、通過する光の光量変化として応答するセンサ機能を中心の光ファイバ部が担い、温度変化に応答する温度センサ、長さ変化に応答する長さセンサ、加えられた力の変化に応答する力センサとして機能する各種センサ機能を備える高分子繊維多機能アクチュエータユニットを提供することができる。
【0024】
すなわち、本発明によれば、TCPFの計測技術を提供し、TCPFアクチュエータユニットの利用性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る高分子繊維多機能アクチュエータの構成を示す図であり、(A)は高分子繊維多機能アクチュエータの平面図、(B)は、高分子繊維多機能アクチュエータを構成している高分子被膜付き光ファイバの要部縦断側面である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る高分子繊維多機能アクチュエータユニットの構成を示す図であり、(A)は高分子繊維多機能アクチュエータユニットの平面図、(B)は高分子被膜付き光ファイバユニットの発光部の構造を示す要部横断平面図、(C)は高分子被膜付き光ファイバユニットの受光部の構造を示す要部横断平面図である。
【
図3】上記高分子繊維多機能アクチュエータユニットの発光部の構造を示す図であり、(A)は発光部を分解した状態の要部横断平面図、(B)は発光部を組み立てた状態の要部横断平面図である。
【
図4】上記高分子繊維多機能アクチュエータユニットのアクチュエータ機能とセンサ機能を確認するために用いた測定系の構成を示す模式図である。
【
図5】上記測定系において300gの錘を吊り下げで行った上記高分子繊維多機能アクチュエータユニットの等荷重実験の結果を示す特性図であり、(A)は時間経過とともに変化する温度とセンサ出力の関係を示し、(B)は時間経過とともに変化する長さとセンサ出力の関係を示している。
【
図6】上記センサ出力と長さ変化の関係をまとめて示した特性図である。
【
図7】上記測定系において行った等温実験の結果の一例を示す特性図である。
【
図8】高分子繊維多機能アクチュエータユニットの長さが115mmとなるように固定して等尺性実験を行った実験結果の一例として得られた時間経過とともに変化する温度とセンサ出力の関係を示す特性図である。
【
図9】上記実験結果の一例における温度とセンサ応答の関係を示す特性図であり、(A)は高分子繊維多機能アクチュエータユニットに100g、200g、300gの錘を吊り下げて等荷重条件を行って得られた各センサと温度の関係を示し、(B)は高分子繊維多機能アクチュエータユニットの長さが95mm、105mm、115mmとなるように固定して等尺性実験を行って得られた各センサと温度の関係を示している。
【
図10】等尺条件下での高分子繊維多機能アクチュエータユニットの温度と力の関係を示す特性図である。
【
図11】高分子繊維多機能アクチュエータユニットの長さが115mmにおける温度・力推定実験の結果を示す特性図であり、(A)は高分子繊維多機能アクチュエータユニットの温度の推定値を示し、(B)は高分子繊維多機能アクチュエータユニットの力の推定値を示している。
【
図12】上記高分子繊維多機能アクチュエータの温度制御性能を検証するするために行った温度制御実験の結果を示す特性図である。
【
図13】上記温度制御実験3回の二乗平均誤差を示した特性図である。
【
図14】上記高分子繊維多機能アクチュエータの力制御性能を検証するために行った力制御実験の結果を示す特性図である。
【
図15】上記力制御実験3回の二乗平均誤差を示した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0027】
まず、本発明の一実施形態に係る高分子繊維多機能アクチュエータについて、図面を使用しながら説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係る高分子繊維多機能アクチュエータ10の構成を示す図であり、(A)は高分子繊維多機能アクチュエータ10の平面図、(B)は、高分子被膜付き光ファイバ5高分子繊維多機能アクチュエータ10を構成している高分子被膜付き光ファイバ5の要部縦断側面である。
【0029】
この高分子繊維多機能アクチュエータ10は、
図1の(B)に示すように、センサ機能を担う中心の光ファイバ部1とアクチュエータ機能を担う周辺の高分子被膜部2とが一体化されたポリマ-でコーティングした高分子被膜付き光ファイバ5を材料とする高分子繊維アクチュエータ(TCPOF:Twisted and Coiled Polymer-coated Optical Fiber)であり、
図1の(A)に示すように、上記高分子被膜付き光ファイバ5を捻られた状態でコイル形状に成形し、加熱用電線7を巻き付けたものである。
【0030】
ここで、上記高分子繊維多機能アクチュエータ10は、高分子被膜付き光ファイバ5として、例えば、ナイロン被膜付きプラスチック光ファイバ(GHN4001,三菱ケミカル製,直径2.2mm)を用いたTCPOFとして、次の手順で製作される。
【0031】
(1)長さ470mmプラスチック光ファイバの一端を固定し、錘1kgを取り付けた別端を捻る。
(2)捻った後、径が4mmの芯棒に60回巻き付けてコイル化する。ただし、アクチュエータユニットに固定するために両端から30mmはコイル化しないようにする。
(3)定温乾燥器により、被膜材料のナイロンおよび光ファイバ材料であるPMMAの両方の融点より低い温度である140°Cで10分間、TCPOFを加熱する。
(4)コイル化した光ファイバに加熱用電線7として0.2mm径のニクロム線を巻き付ける。
(5)錘200gを吊り下げて、ジュール熱で数回動かすことで熱処理を施す。
【0032】
この高分子繊維多機能アクチュエータ10は、加熱用電線7に通電することにより、周辺の高分子被膜部2が加熱されると、捻ってコイル化した高分子被膜付き光ファイバ5が収縮するソフトアクチュエータであり、周辺の高分子被膜部2が熱により収縮するアクチュエータとして機能する。
【0033】
捻ってコイル化した高分子被膜付き光ファイバ5では、コイル長の変化が中心の光ファイバ部1を通過する光の光量に影響する。また、駆動のために高分子被膜部2が加熱されると、光ファイバ部1も加熱されるので、温度変化による光量変化も同時に発生する。
【0034】
この高分子繊維多機能アクチュエータ10において、中心の光ファイバ部1は、通過する光の光量変化としてコイル長の変化や温度変化に応答するセンサとして機能する。
【0035】
すなわち、この高分子繊維多機能アクチュエータ10は、センサ機能を担う中心の光ファイバ部1とアクチュエータ機能を担う周辺の高分子被膜部2とが一体化され、捻られた状態でコイル形状に成形してなる高分子被膜付き光ファイバ5と、上記高分子被膜付き光ファイバ5に巻き付けられた加熱用電線7とからなり、上記光ファイバ部1を通過する光の光量変化として応答するセンサ機能と上記高分子被膜部2の熱により収縮するアクチュエータ機能と有する。
【0036】
この高分子繊維多機能アクチュエータ10において、上記光ファイバ部1は、通過する光の光量変化として温度変化に応答する温度センサとして機能する。
【0037】
この高分子繊維多機能アクチュエータ10において、上記光ファイバ部1は、通過する光の光量変化として長さ変化に応答する長さセンサとして機能する。
【0038】
さらに、この高分子繊維多機能アクチュエータ10において、上記光ファイバ部1は、通過する光の光量変化として加えられた力の変化に応答する力センサとして機能する。
【0039】
次に、本発明の一実施形態に係る高分子繊維多機能アクチュエータユニットについて、図面を使用しながら説明する。
【0040】
図2は、本発明の一実施形態に係る高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の構成を示す図であり、(A)は高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の平面図、(B)は高分子被膜付き光ファイバユニット50の発光部20の構造を示す要部横断平面図、(C)は高分子被膜付き光ファイバユニット50の受光部30の構造を示す要部横断平面図である。
【0041】
この高分子繊維多機能アクチュエータユニット50は、
図2の(A)に示すように、高分子繊維多機能アクチュエータ10と、上記高分子繊維多機能アクチュエータ10の光ファイバ部1の一端に設けられた発光部20と、上記光ファイバ部1の他端に設けられた受光部30とからなる。
【0042】
すなわち、上記高分子繊維多機能アクチュエータ10は、センサ機能を担う中心の光ファイバ部1とアクチュエータ機能を担う周辺の高分子被膜部2とが一体化され、捻られた状態でコイル形状に成形してなる高分子被膜付き光ファイバ5と、上記高分子被膜付き光ファイバ5に巻き付けられた加熱用電線7とからなり、上記光ファイバ部1を通過する光の光量変化として応答するセンサ機能と上記高分子被膜部2の熱により収縮するアクチュエータ機能と有するので、センサ機能を有するソフトアクチュエータを小型化することができ、発光部20と受光部30を設けることにより、小型化した高分子繊維多機能アクチュエータユニット50を構成することができる。
【0043】
ここで、
図3は、上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の発光部20の構造を示す図であり、(A)は発光部20を分解した状態の要部横断平面図、(B)は発光部20を組み立てた状態の要部横断平面図である。
【0044】
発光部20は、
図2の(B)及び
図3に示すように、LED光の外部への漏れを防ぐためにゴムチューブ22Aで覆われた金属パイプ23に挿入され、それぞれ熱収縮チューブで被覆された2本の接続線21A、21Bがゴムカバー24を介して外部に導出されたLED(OSG58A3131A,OptoSupply)21を備え、高分子被膜付き光ファイバ5の一端部が、径を合わせるためのゴムチューブ22Bに挿入された後、上記金属パイプ23へ挿入され、最終的に、金属パイプ23と高分子被膜付き光ファイバ5がABS樹脂製の固定用部品25の上ハーフ25Aと下ハーフ25Bで挟み込むことで固定された構造となっている。
【0045】
また、受光部30は、
図2の(C)に示すように、外部光の入射を防ぐためにゴムチューブ32Aで覆われた金属パイプ33に挿入され、それぞれ熱収縮チューブで被覆された2本の接続線31A、31Bがゴムカバー34を介して外部に導出された照度センサ(NJL7502L, 新日本無線)31を備え、高分子被膜付き光ファイバ5の他端部が、径を合わせるためのゴムチューブ32Bに挿入された後、上記金属パイプ33へ挿入され、最終的に、金属パイプ33と高分子被膜付き光ファイバ5がABS樹脂製の固定用部品35の上ハーフ35Aと下ハーフ35Bで挟み込むことで固定された構造となっている。
【0046】
このような構造の高分子繊維多機能アクチュエータユニット50は、センサ機能を担う中心の光ファイバ部1とアクチュエータ機能を担う周辺の高分子被膜部2とが一体化され、捻られた状態でコイル形状に成形してなる高分子被膜付き光ファイバ5と、上記高分子被膜付き光ファイバ5に巻き付けられた加熱用電線7とからなる高分子繊維多機能アクチュエータ10を備えることにより、上記光ファイバ部1を通過する光の光量変化として応答するセンサ機能とともに、上記加熱用電線7に通電することにより駆動されるアクチュエータとしての機能すなわち上記高分子被膜部2の熱により収縮するアクチュエータ機能と有するものとなっている。
【0047】
この高分子繊維多機能アクチュエータユニット50では、高分子繊維多機能アクチュエータ1を構成している高分子被膜付き光ファイバ5の両端に設けられた発光部20と受光部30を備えているので、発光部20から出射されたLED光を高分子被膜付き光ファイバ5の光ファイバ部1を介してる受光部30で受光することにより、上記光ファイバ部1を通過した光の光量変化に応じたセンサ出力が得られる。
【0048】
本件発明者等は、
図4に示すような構成の測定系100を用いて、強制対流条件下で上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50のアクチュエータ機能とセンサ機能を確認した。
【0049】
図4は上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50のアクチュエータ機能とセンサ機能を確認するために用いた測定系100の構成を示す模式図である。
【0050】
この測定系100では、高分子繊維多機能アクチュエータユニット50は、基盤101上で1方向に滑らかに移動可能に設けられたボールスライド102と、基盤101上に設けられた固定された力センサ(FGP-0.5,日本電産シンポ)103を備える。
【0051】
この測定系100において、高分子繊維多機能アクチュエータユニット50は、一端が上記ボールスライド102に取り付けられ、他端が上記力センサ103に取り付けられることにより、上記ボールスライド102と上記力センサ103の間に水平に懸架されており、上記ボールスライド102により1方向に滑らかに移動可能な一端が1個の定滑車を介して垂下された錘104の自重により牽引され、荷重が掛けられるようになっている。
【0052】
また、この測定系100は、電源105 に接続されたモータドライバ(DRI0017,DFRobot)106を備え、このモータドライバ106が上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の加熱用電線7に接続されている。
【0053】
上記モータドライバ106は、コンピュータを用いた計測処理部110の第1のUSB端子111に接続されたArduino基板107を介して電圧指令値が与えられることにより、上記電圧指令値に応じたジュール熱を発生させて、上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50を加熱するために、上記電圧指令値に応じた駆動電圧を上記加熱用電線7に印加するようになっている。
【0054】
さらに、この測定系100は、上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の温度Tを計測するためにサーモグラフィカメラ(OP-TXI80LTF05T090,Optris)108と、上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の長さLを計測するためレーザ変位計(IL-300,KEYENCE)109を備える。
【0055】
上記サーモグラフィカメラ108は、上記計測処理110の第2のUSB端子112に接続されており、その温度計測値が100msのサンプリング間隔で上記計測処理部110に取り込まれるようになっている。
【0056】
また、上記計測処理部110は、AD変換部113を備えており、上記力センサ103による計測出力や上記レーザ変位計109による計測出力とともに、上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50に備えられた上記発光部20が発光して上記光ファイバ部1を通過した光を上記受光部30により受光して得られるセンサ出力Sを、上記AD変換部113を介して10msのサンプリング間隔で取り込むようになっている。
【0057】
このような構成の測定系100において、計測処理部110は、レーザ変位計109による計測変位と初期長さから上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の長さLを算出する。
【0058】
ここで、上記測定系100において、高分子繊維多機能アクチュエータユニット50についてアクチュエータ機能を確認するために、等荷重実験を行い、等荷重下でジュール熱を印加した際の上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の挙動を調べた。
【0059】
この等荷重実験では、荷重として100g、200g、300gの錘104を吊り下げ,電圧は次の式(1)にて示すステップ入力で与えた。
【数1】
【0060】
ただし,Vrefは参照電圧であり,Vref=24Vとした。実験は各錘104につき、3回行った。
【0061】
上記測定系100において300gの錘104を吊り下げで行った等荷重実験の結果として、上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の受光部30により得られるセンサ出力S、上記レーザ変位計109による計測結果として得られる上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の長さL、上記サーモグラフィカメラ108による計測結果として得られる上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の温度Tを
図5の(A)、(B)に示す。
【0062】
図5の(A)は、横軸を時間[s]、縦軸を温度[°C]、センサ出力[V]として、時間経過とともに変化する温度Ttとセンサ出力Stの関係を示し、
図5の(B)は、横軸を時間[s]、縦軸を長さ[mm]、センサ出力[V]として、時間経過とともに変化する長さLtとセンサ出力Stの関係を示している。
【0063】
上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50は、
図5の(A)、(B)に示すように、温度Ttが上昇するにしたがって長さLtに変化が生じていることから、加熱により駆動することが確認できる.
【0064】
また,
図5の(A)、(B)に示すように、センサ応答は温度変化より後に生じ、長さ変化よりも先に生じているので、上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50のセンサ出力Stの変化は主に温度の影響によると考えられる。
【0065】
また、センサ出力と長さ変化の関係をまとめて
図6に示すように、荷重の増加に伴って、初期長さと動作範囲が異なっていることが確認できる。
【0066】
次に、上記測定系100において、高分子繊維多機能アクチュエータユニット50のセンサ機能のうち変位計測機能を確認するために、等温実験を行い、等温条件下で長さ変化を与えた際のセンサ応答を調べた。
【0067】
等温実験では、まず100gの錘104を吊り下げ、後述する式(8)の電圧で挙動が安定するまで予備動作させた。安定後,荷重として100g、200g、300gの錘104を吊り下げ,高分子繊維多機能アクチュエータユニット50を取り付けたボールスライド102を手で動かした際のセンサ応答を計測した。その後,予備動作の錘104を200g、300gに変更し、同様の実験を行った。実験は、予備動作の錘104、実験時の錘104の各組につき3回、計27回行った。
【0068】
ここで、高分子繊維多機能アクチュエータユニット50について、上記測定系100において行った等温実験の結果の一例を
図7の特性図に示す。また、等温実験の結果として得られた上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の受光部30によるセンサ出力と上記レーザ変位計109による計測結果に基づく上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の長さ変化の関係を
図6の特性図に示す。
【0069】
等温実験の結果において、センサ出力が変位に伴って変化しているものの、等荷重条件の場合と比較して出力範囲は狭い。
【0070】
これは、センサ出力に対する影響が、変位よりも温度のほうが大きいことを示している。
【0071】
長さが短くなるとセンサ出力が増減しているが、これは高分子繊維多機能アクチュエータユニット50に生じるたわみの影響と考えられる。逆に、長さが伸びる場合、センサ出力は実験時の錘104が100gの場合を除いて、増加しており、長さが増加することにより、曲げ損失が低下することを示している。一方で,100gの場合,センサ出力が一度減少している。この原因のひとつとして、製作時におけるトレーニング荷重の影響が考えられる。実際、トレーニング荷重とした200gの結果は、100g、300gの場合と比べて、極小値の近くにある。
【0072】
次に,初期長さ、すなわち高分子繊維多機能アクチュエータユニット50をばねとしたときの釣合い位置を見てみると、予備動作の錘104が同一の場合はおおよそ同じ値を示しているが、予備動作の錘104が異なる場合に大きく変化しており、荷重依存のヒステリシスによりセンサ出力が大きく変わっている。
【0073】
したがって、高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の変位センシング機能は、光ファイバの温度変化が生じない場合、すなわち駆動しない等温条件下での利用に好適である。
【0074】
なお、高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の変位センシング機能は、例えば等荷重条件で変位センサモデルを構築することにより、等尺性条件下で駆動する場合にも利用することができる。
【0075】
最後に、上記測定系100において、等尺性条件のもとで温度変化を与える等尺性実験を行い、高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の温度計測機能を検証した。
【0076】
等尺性実験では、高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の長さが、95mm、105mm、115mmとなるように固定し、予備動作を行った後、等荷重実験と同じ電圧入力を与えて計測を行った。
【0077】
高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の長さが115mmとなるように固定して等尺性実験を行った実験結果の一例として、上記サーモグラフィカメラ108による計測結果として得られた上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の温度Ttと上記高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の受光部30により得られたセンサ出力Stの関係を
図8の特性図に示し、温度とセンサ応答の関係を
図9に示す。
【0078】
図9は、上記実験結果の一例における温度とセンサ応答の関係を示す特性図であり、(A)は高分子繊維多機能アクチュエータユニットに100g、200g、300gの錘を吊り下げて等荷重実験を行って得られた各センサと温度の関係を示し、(B)は高分子繊維多機能アクチュエータユニットの長さが95mm、105mm、115mmとなるように固定して等尺性実験を行って得られた各センサと温度の関係を示している。
【0079】
等尺性実験の結果、センサ出力範囲が等温実験の場合より大きいことから、温度の影響は変位の影響より大きいことが確認できた。また、等尺性条件下での温度とセンサ応答は、等荷重条件のものと同一の傾向を示すものの、変位の影響によりその大きさが異なっている。さらに、長さの違いによりセンサ出力の挙動が異なるものの、一定長さであれば類似の挙動を示している。
【0080】
したがって、高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の温度計測機能は、等尺性条件下での高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の駆動における利用に好適である。
【0081】
なお、高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の温度計測機能は、例えば等荷重条件で温度センサモデルを構築することにより、等荷重条件で駆動する場合にも利用することができる。
【0082】
ここで、
図10は、上記測定系100において、等尺性条件下で、サーモグラフィカメラ108による計測結果として得られた高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の温度と、力センサ103により計測された高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の力の関係を示す特性図である。
【0083】
図10に示すように、温度と力の関係が比例関係とみなせるので、等尺条件下においては、高分子繊維多機能アクチュエータユニット50の温度計測機能を介して、力もまた推定できる。
【0084】
すなわち、等尺性条件下での計測実験の結果である
図9の(B)より、センサ出力と温度の関係には非線形性と遅れが存在することが確認できたので、センサ出力と温度の関係を、静的な非線形関数と線形伝達関数で表されるHammersteinモデルを用いて式(2)に示すようにモデル化した。
【数2】
【0085】
ただし、vはセンサ出力、Tは温度である。また、η(T)とGvT(s)はそれぞれHammersteinモデルにおける静的な非線形関数と線形伝達関数である。ここでは、簡単のため、η(T)とGvT(s)をそれぞれ次の式(3)、式(4)にて設定した。
【数3】
【数4】
【0086】
ここで、ηi(i=0;1;2)はTiの係数、τvは時定数である。
【0087】
なお、式(2)の逆モデルを用いることでセンサ出力vから温度Tを求めることができるが、G-1VT(s)が非プロパとなる。
【0088】
そこで、次の式(5)、式(6)に示すように、ローパスフィルタを用いることで、全体の伝達関数をプロパにする。
【数5】
【数6】
【0089】
ただし、τd は目標時定数である。もしτd がτv と比べて大きすぎる場合、ηestの遅れが大きくなり,結果的にTest も遅れる。
【0090】
逆に,τd がτv と比べて小さすぎる場合、高周波数ノイズが増幅されてしまう。これらの点を踏まえて,ここでは、τd = 0.20τv とした。一方で、YipとNiemeyerのモデルに基づくと、温度と力のモデルは次の式(7)のように表される。
【数7】
【0091】
ここで,ci(i=0,1)はTiの係数である。式(7)に推定温度Test を代入することで、力の推定値festを計算することができる。
【0092】
等尺性条件下での計測実験のデータを用いて、式(2)、式(7)のパラメータを最小二乗法で同定した結果は、次の表1、表2にそれぞれ示すように、適合度が90%を超えていることから、このモデルは妥当なモデルであるといえる。
【0093】
【0094】
【0095】
そこで、推定器の性能を検証するために、上記測定系100において、等尺性条件下での計測実験と同じ実験環境で、推定実験を行った。
【0096】
ここで、推定実験実験は3回行い,入力電圧は次の式(8)で与えた。
【数8】
【0097】
図11は高分子繊維多機能アクチュエータユニットの長さが115mmにおける温度・力推定実験の結果を示す特性図であり、(A)は高分子繊維多機能アクチュエータユニットの温度の真値Ttruthと推定値Testを示し、(B)は高分子繊維多機能アクチュエータユニットの力の真値Ntruthと推定値Nest を示している。
【0098】
推定実験の結果を示す
図11において、温度・力の両方の推定値は、真値と同じ傾向を示している。
【0099】
また、それぞれの二乗平均誤差は、温度推定では0.869°C、力推定では0.020Nとなり,動作範囲に比べて十分小さいので、両推定器ともに精度よく推定できているといえる。
【0100】
上記測定系100における各種実験結果からも明らかなように、上記高分子繊維多機能アクチュエータ10に発光部20と受光部30を設けた高分子繊維多機能アクチュエータユニット50は、温度変化に応答する温度センサ、長さ変化に応答する長さセンサ、加えられた力の変化に応答する力センサとして機能する各種センサ機能を有するものとなっている。
【0101】
次に、推定器による推定値を用いた上記高分子繊維多機能アクチュエータ10の温度制御性能を検証するするために、上記測定系100において等尺性条件下での計測実験と同じ実験環境で、温度制御実験を行った。ここで、温度制御実験を3回行い、温度制御のための入力電圧は次の式(9)、式(10)、式(11)で与えた。
【数9】
【数10】
【数11】
【0102】
ただし、Td は目標温度、KP,T はそれぞれ比例ゲイン、KI,T は積分ゲインである。サーモグラフィカメラ108の計測値を用いて制御を行った予備実験よりKP,T =1.0×104 V2 /°C、KI,T =1.0×10V2 /(s°C)と設定した。
【0103】
式(9)で表される飽和要素において、最大電圧Vmax は過熱による高分子繊維多機能アクチュエータ10の溶融を防ぐためのものであり、24Vに設定した。
【0104】
図12は高分子繊維多機能アクチュエータユニット10の長さが115mmにおける温度制御実験の結果を示す特性図であり、温度の目標値、サーモグラフィカメラ108による真値、制御に用いた推定値を示している。
【0105】
温度制御実験の結果を示す
図12において、温度の推定値は真値と同じ傾向を示しており、目標値に近づいている。
【0106】
図13は、実験3回の二乗平均誤差を示したものであり、推定値を用いて制御した際の目標値との二乗平均誤差,サーモグラフィカメラ108による真値を用いて制御した際の目標値との二乗平均誤差を示しており、グレーの領域は制御範囲の5%を示している。目標値への収束後において、推定値を用いた制御による二乗平均誤差は、おおよそ5%の範囲に入っており、制御範囲に比べて十分な制御性能を示している。
【0107】
さらに、推定器による推定値を用いた高分子繊維多機能アクチュエータユニット10の力制御性能を検証するために、上記測定系100において等尺性条件下での計測実験と同じ実験環境で、力制御実験を行った。
【0108】
ここで、力制御実験を3回行い、力制御のための入力電圧は式(9)および次の式(12)、式(13)で与えた。
【数12】
【数13】
【0109】
ただし、fd は目標力、KP;f はそれぞれ比例ゲイン、KI;f は積分ゲインである。力センサ103の計測値を用いて制御を行った予備実験よりKP =-1.0×104 V2 /N、KI =-1.0×10V2 /(Ns)と設定した。
【0110】
図14は高分子繊維多機能アクチュエータユニット10の長さが115mmにおける力制御実験の結果を示す特性図であり、力の目標値、力センサ103による真値、制御に用いた推定値を示している。力制御実験の結果を示す
図12において、力の推定値は真値と同じ傾向を示しており、目標値に近づいている。
【0111】
図15は、実験3回の二乗平均誤差を示したものであり、推定値を用いて制御した際の目標値との二乗平均誤差、力センサ103による真値を用いて制御した際の目標値との二乗平均誤差を示しており、グレーの領域は制御範囲の5%を示している。目標値への収束後において,推定値を用いた制御による二乗平均誤差は、おおよそ5%の範囲に入っており、制御範囲に比べて十分な制御性能を示している。
【0112】
なお、上記のように本発明の各実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0113】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【符号の説明】
【0114】
1 光ファイバ部、2 高分子被膜部、 5 高分子被膜付き光ファイバ、7 加熱用電線、10 高分子繊維多機能アクチュエータ、 20 発光部、21A、21B、31A、31B 接続線 22A、22B、32A、32B、ゴムチューブ、 23、33 金属パイプ、 25、35 固定用部品、25A、35A 上ハーフ、25B、35B 下ハーフ、30 受光部、50 高分子繊維多機能アクチュエータユニット、100 測定系、101 基盤、102 ボールスライド、103 力センサ、104 錘、105 電源、106 モータドライバ、107 Arduino基板、108 サーモグラフィカメラ、109 レーザ変位計、110 計測処理部110、111 第1のUSB端子、112 第2のUSB端子、113 AD変換部