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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090424
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】炊飯器
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20220610BHJP
【FI】
A47J27/00 109G
A47J27/00 103A
A47J27/00 103K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202818
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】390010168
【氏名又は名称】東芝ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萱森 雅之
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 紀子
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋一
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 卓也
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一也
【テーマコード(参考)】
4B055
【Fターム(参考)】
4B055AA03
4B055AA09
4B055BA62
4B055CC18
4B055DA02
4B055DA03
4B055DB02
4B055DB14
4B055GA04
4B055GC12
4B055GD04
(57)【要約】
【課題】かまど炊きに近い加熱で炊飯を行なうことができる炊飯器を提供する。
【解決手段】本発明の炊飯器は、被炊飯物を収容する鍋と、鍋を加熱する加熱手段としての底面加熱体11と、炊飯の各行程の進行に伴い、記憶手段35から読み出した第1パターンに基づいて底面加熱体11の加熱量を変化させて、被炊飯物への炊飯を行なう炊飯制御手段41と、炊飯制御手段41が鍋を加熱するように、底面加熱体11の動作を制御しているときに、第1パターンとは異なる第2パターンで、底面加熱体11の加熱量を経時的に変化させる加熱量ゆらぎ手段44と、をそれぞれ備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被炊飯物を収容する鍋と、
前記鍋を加熱する加熱手段と、
行程の進行に伴い前記加熱手段の加熱量を第1パターンで変化させて、前記被炊飯物への炊飯を行なう炊飯制御手段と、
前記炊飯制御手段が前記鍋を加熱するように前記加熱手段を制御しているときに、前記第1パターンとは異なる第2パターンで、前記加熱手段の加熱量を経時的に変化させる加熱量可変手段と、
を備えたことを特徴とする炊飯器。
【請求項2】
前記加熱量可変手段は、前記炊飯制御手段で実行する前記第1パターンによる加熱量を基準値として、前記基準値よりも大きな加熱量の上限値と、前記基準値よりも小さな加熱量の下限値とを周期的に繰り返すように、前記加熱手段の加熱量を変化させるものであることを特徴とする請求項1記載の炊飯器。
【請求項3】
前記加熱量可変手段は、前記上限値と、前記下限値と、その間にある一乃至複数の中間値とを周期的に繰り返すように、前記加熱手段の加熱量を変化させるものであることを特徴とする請求項2記載の炊飯器。
【請求項4】
前記加熱量可変手段は、前記上限値と、前記下限値と、前記中間値とを、不規則なパターン、または規則的なパターンに不規則なパターンを混在させて、前記加熱手段の加熱量を変化させるものであることを特徴とする請求項3記載の炊飯器。
【請求項5】
前記加熱量可変手段は、前記行程の進行に応じて、加熱量の時間要素に伴う上限値と下限値が変化するように、前記加熱手段の加熱量を変化させるものであることを特徴とする請求項1記載の炊飯器。
【請求項6】
前記加熱量可変手段は、加熱量の前記上限値と、前記下限値と、前記中間値とを、段階的な複数の加熱量より設定するものであることを特徴とする請求項3記載の炊飯器。
【請求項7】
前記加熱量可変手段は、加熱量の前記上限値が前記炊飯器の定格消費電力を超えないように設定するものであることを特徴とする請求項6記載の炊飯器。
【請求項8】
前記加熱量可変手段は、前記炊飯制御手段により行われる炊飯の種類に応じて、複数の前記第2パターンを有するものであることを特徴とする請求項1記載の炊飯器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍋の加熱中に加熱手段の加熱量に変化をもたせて炊飯を行なう炊飯器に関する。
【背景技術】
【0002】
かまどで薪炎を燃やして炊飯を行なうと、薪炎の炎がゆらぎとなって、微妙に火力を変化させながら、被炊飯物を入れた鍋の底部や側面部を加熱する。
【0003】
こうした古来のかまど炊きに近付けるための技術として、例えば特許文献1,2のように、鍋の底部から側面部にかけて3個の独立した誘導加熱(IH)用のコイルを配置し、各コイルを順次ローテーションしながら通断電して加熱を行なうものや、特許文献3,4,5のように、鍋の底部と側面部に高さ位置の異なる独立したコイルをそれぞれ配置し、各コイルを交互に通断電して加熱を行なうものや、特許文献6,7のように、鍋の底部から側面部にかけて誘導加熱用のコイルを配置し、コイルの加熱量を時間の経過と共に段階的に変化させて加熱を行なうものや、特許文献8,9のように、鍋の底部から側面部にかけて誘導加熱用のコイルを配置し、コイルの加熱量を時間の経過と共に連続的に変化させて加熱を行なうものがそれぞれ知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-162250号公報
【特許文献2】特開2019-180533号公報
【特許文献3】特開平9-248242号公報
【特許文献4】特開2011-206142号公報
【特許文献5】特開平5-337042号公報
【特許文献6】特開2013-247972号公報
【特許文献7】特開2008-220470号公報
【特許文献8】特開平11-214139号公報
【特許文献9】特開2020-4540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の技術は、炊飯中に鍋内の水対流を促進させ、鍋内の米がムラなく水が存在する状態で加熱されることで、鍋内全体のご飯を一様に糊化させるための技術で、これは古来のかまど炊きにみられる美しく炊くための重要ポイントに着眼したものと推考される。しかし、かまど炊きでは加熱源となる薪火が鍋から離れた場所にあって、空気層を介在した間接的な加熱が行われ、鍋への加熱量がゆれるように変化するのに対し、上述のIH式炊飯器は鍋が発熱するので、加熱源との鍋との間に空間が介在せず、加熱形態そのものが異なる。
【0006】
またIH式以外では、鍋の底部に接触する熱板を加熱する熱板ヒータ式や、鍋と隙間を開けたヒータで鍋を加熱する輻射ヒータ式や、鍋と外釜との間に水を入れて炊飯を行なう間接炊きの炊飯器も知られているが、何れもかまど炊きのような鍋に対する加熱量がゆれるように変化するものは実現できなかった。
【0007】
そこで本発明は、かまど炊きに近い加熱で炊飯を行なうことができる炊飯器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の炊飯器は、上記目的を達成するために、被炊飯物を収容する鍋と、前記鍋を加熱する加熱手段と、行程の進行に伴い前記加熱手段の加熱量を第1パターンで変化させて、前記被炊飯物への炊飯を行なう炊飯制御手段と、前記炊飯制御手段が前記鍋を加熱するように前記加熱手段を制御しているときに、前記第1パターンとは異なる第2パターンで、前記加熱手段の加熱量を経時的に変化させる加熱量可変手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の炊飯器によれば、かまど炊きに近い加熱で炊飯を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態を示す炊飯器の概略説明図である。
図2】同、炊飯器の電気的構成を示すブロック図である。
図3】同、鍋底部の温度と、蓋体下面部の温度と、底面加熱体の加熱量の経時的な変化を示すグラフである。
図4】同、(A)炊飯制御手段による鍋への加熱量の経時的な変化と、(B)加熱量ゆらぎ手段による鍋への加熱量の経時的な変化を、それぞれグラフで示したものである。
図5】同、加熱量ゆらぎ手段による鍋への加熱量の経時的な変化を示すグラフである。
図6】同、沸騰加熱行程における各部温度の経時的な変化を示すグラフである。
図7】同、沸騰加熱行程における各部温度の経時的な変化を示すグラフである。
図8】同、沸騰加熱行程における各部温度の経時的な変化を示すグラフである。
図9】同、強火での加熱量と時間との関係を示すグラフである。
図10】同、中火での加熱量と時間との関係を示すグラフである。
図11】同、弱火での加熱量と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明における好ましい炊飯器の実施形態について、添付図面を参照して説明する。なお、これらの全図面にわたり、共通する部分には共通する符号を付すものとする。
【0012】
先ず、図1に基づいて、本実施形態における炊飯器の全体構成を説明すると、1は上面を開口した本体、2は本体1の開口上面を覆う開閉可能な蓋体であり、これらの本体1と蓋体2とにより炊飯器の外観が構成される。本体1の前面には、後述するLEDや液晶表示器などの表示部3や、操作キーやタッチパネルなどの操作部4を纏めて配置した表示操作ユニット5が配設される。表示操作ユニット5は、本体1にではなく蓋体2に配設してもよい。
【0013】
本体1の内部には、被炊飯物Aとして米と水を収容する有底筒状の鍋7が着脱自在に設けられる。鍋7は、本体1に対して蓋体2を開けたときに、本体1の上面開口から出し入れできるようになっており、本体1に鍋7を入れて蓋体2を閉じると、蓋体2の下面部に装着された内蓋8が鍋7の開口上面を塞ぐことにより、鍋7の内側面と被炊飯物Aの上面と内蓋8の下面とにより囲まれた鍋内空間9が、本体1ひいては鍋7の内部に形成される。また図示しないが、鍋7は熱伝導性の良いアルミニウムを主材とし、主材外面の側面下部から底面部にかけて、フェライト系ステンレスなどの磁性部材からなる発熱体を接合してある。
【0014】
本体1の内部にあって鍋7の外側には、被炊飯物Aを炊飯するために鍋7を加熱する加熱手段として、加熱コイルによる底面加熱体11と、コードヒータによる側面加熱体12がそれぞれ配設される。鍋7への主加熱手段となる底面加熱体11は、鍋7の発熱体を設けた側面下部から底面部に対向して配置される。これにより、底面加熱体11に高周波電流が与えられるいわゆる通電状態になると、底面加熱体11からの交番磁界により鍋7の発熱体が発熱し、鍋7の温度が上昇して被炊飯物Aを加熱する構成となっている。また、鍋7への補助加熱手段となる側面加熱体12は、鍋7の側面上部に対向して配置され、側面加熱体12が通電状態となると、側面加熱体12からの輻射熱で鍋7の主に側面上部を加熱する構成となっている。側面加熱体12を底面加熱体11と同様に加熱コイルで構成し、鍋7の側面下部から底面部に加えて、鍋7の側面上部を電磁誘導で加熱してもよい。また、電磁誘導以外の加熱方式で鍋7を加熱する構成としてもよい。
【0015】
本体1の内部にはその他に、鍋7の底部外面に当接するサーミスタ式の鍋温度センサ15が配設される、鍋温度検知手段となる鍋温度センサ15は、鍋7の底部温度を検知して、底面加熱体11による鍋7の底部の加熱温度を主に温度管理するようになっている。
【0016】
そして炊飯時と保温時には、鍋7を加熱手段で加熱するが、保温時は、鍋7の外底面に接触させた鍋温度センサ15の検知温度に応じて底面加熱体11を加熱調節し、鍋7を一定温度に保持する。また炊飯後、鍋7内のご飯の温度が保温温度に低下するまで(約100℃→約73℃)、及び保温安定時(約73℃)に、発熱手段となる側面加熱体12を発熱させ、本体1と蓋体2との隙間からの外気の侵入による冷えを抑制すると共に、鍋7の主に側面上部を加熱する。さらに保温時に、鍋7内のご飯を再加熱するあつあつ再加熱を実行している期間にも鍋7を加熱し、加熱により発生する水分が、鍋7の上部内面へ結露するのを防止する構成になっている。
【0017】
鍋7の上方開口部を開閉する蓋体2には、内蓋8ひいては鍋内空間9の温度を検知するサーミスタ式の蓋温度センサ16と、鍋7の内部圧力を検知する圧力センサ17と、コードヒータなどの蓋加熱体18がそれぞれ備えてある。蓋温度センサ16と蓋加熱体18は、主に蓋加熱手段23による内蓋8の温度管理を行なうもので、蓋体2に内蓋8を装着すると、内蓋8の上面に蓋温度センサ16が接触し、内蓋8の上面に蓋加熱体18が対向して配置される構成となっている。蓋加熱体18を加熱コイルで構成すると共に、内蓋8を磁性部材で構成することにより、内蓋8を電磁誘導で加熱してもよい。
【0018】
蓋体2の下面部を構成する内蓋8の略中央には、ボール状の弁体19を含む圧力調整弁20が配設される。圧力調整弁20は、鍋内空間9と蓋体2ひいては炊飯器の外部(機外)との間を連通する蒸気通路空間の途中に配設され、蓋体2の内部には、弁体19を圧力調整弁20に進出または圧力調整弁20から退避させるソレノイドなどの可動機構(図示せず)が設けられる。これにより、弁体19が圧力調整弁20に進出して蒸気通路空間を塞ぐと、鍋7への加熱に伴い鍋内空間9の圧力が上昇して弁体を押し上げるまで、鍋内空間9を大気圧以上に加圧でき、弁体19が圧力調整弁20から退避して蒸気通路空間を開放すると、鍋7への加熱に関係なく鍋内空間9を大気圧に維持できる構成となっている。圧力センサ17は、圧力調整弁20に臨んで蓋体2の内部に設けられるが、鍋内空間9の圧力を検知できるならば、別な場所に配設されても何等構わない。
【0019】
図2は、本実施形態における炊飯器の電気的な構成を示している。同図において、31は本体1や蓋体2の内部に組み込まれ、マイクロコンピュータや各部の駆動素子などを含んで構成される制御部である。制御部31の入力ポートには、操作部4と、鍋温度センサ15と、蓋温度センサ16と、圧力センサ17がそれぞれ電気的に接続される。また、制御部31の出力ポートには、表示部3と、底面加熱体11に接続する第1加熱駆動ユニット32と、側面加熱体12に接続する第2加熱駆動ユニット33と、蓋加熱体18に接続する第3加熱駆動ユニット34がそれぞれ電気的に接続される。制御部31には、各種の情報やデータを記憶する読み出しおよび書き込みが可能なメモリなどの記憶手段35が組み込まれる。
【0020】
制御部31は、操作部4からの操作信号と、鍋温度センサ15や蓋温度センサ16や圧力センサ17からの各検知信号を受けて、内蔵する計時手段(図示せず)からの計時に基づく所定のタイミングで、表示部3に表示制御信号を出力し、また第1加熱駆動ユニット32と、第2加熱駆動ユニット33と、第3加熱駆動ユニット34に、それぞれ加熱制御信号を出力する機能を有する。こうした機能は、記憶媒体としての前記記憶手段35に予め記録したプログラムを、制御部31が読み取ることで実現するが、特に本実施形態では、炊飯時に鍋7内の被炊飯物Aである米と水を炊飯加熱してご飯に炊き上げる炊飯制御手段41と、保温時に鍋7内のご飯を所定の保温温度に維持する保温制御手段42として、制御部31を主に機能させるプログラムを備えている。
【0021】
第1加熱駆動ユニット32は、電源回路36と、インバータ37と、IH駆動回路38とを主な構成要素として備えている。電源回路36は、本体1に供給される例えば交流100Vの商用電源電圧を直流電圧に変換する整流平滑回路に相当するもので、電源回路36からの直流電圧がインバータ37に入力電圧として印加される。インバータ37は何れも図示しないが、底面加熱体11となる加熱コイルと並列に接続して共振回路を構成する共振コンデンサや、前記共振回路と直列に接続されるIGBTなどのスイッチ素子などを備えた周知の電圧形共振インバータである。IH駆動回路38は、制御部31からの第1加熱制御信号を受けて、インバータ37のスイッチ素子をオン・オフ動作させるのに十分なパルス駆動信号を、スイッチ素子のゲートに送出するものである。これにより、IH駆動回路38からスイッチ素子のゲートにパルス駆動信号が与えられると、スイッチ素子のエミッタ・コレクタ間がオン・オフを繰り返して、電源回路36からの電源電圧がインバータ37の共振回路に断続的に印加され、底面加熱体11に高周波電流が供給される構成となっている。このときパルス駆動信号の周期や、一周期に対するオン時間の比率(オン時比率)を変化させることで、インバータ37からの出力電力(出力)ひいては底面加熱体11から鍋7への加熱量を増減させることができる。
【0022】
第2加熱駆動ユニット33は、制御部31からの第2加熱制御信号を受けて、電源回路36に印加する商用電源電圧を側面加熱体12となるコードヒータに供給するものである。同様に第3加熱駆動ユニット34は、制御部31からの第3加熱制御信号を受けて、電源回路36に印加する商用電源電圧を蓋加熱体18となるコードヒータに供給するものである。なお、制御部31はその他に、例えば弁体19を動かすソレノイドの駆動ユニットに対して、当該ソレノイドをオン・オフ動作させるための別な制御信号を送出する機能を有するが、本実施形態では特に関連性が少ないため、これ以上の説明や図示を省略する。
【0023】
炊飯制御手段41は、操作部4への操作による炊飯開始の指示を受けて、鍋7に投入した被炊飯物Aの中で米の吸水を促進させるひたし炊きと、被炊飯物Aの温度を短時間に沸騰まで上昇させた後、被炊飯物Aの沸騰状態を継続させて、水の無いドライアップ状態にする沸騰加熱と、ドライアップ状態になった被炊飯物Aを焦がさない程度の高温に維持して、ご飯に炊き上げるむらしの各行程を順に実行して、鍋7に収容される被炊飯物Aを所望の圧力で炊飯加熱するものである。そして本実施形態では、炊飯器により炊飯加熱が可能な全ての炊飯コースについて、前述のひたし炊きからむらしに至る炊飯の各工程の進行に伴い、表示部3や、底面加熱体11や、側面加熱体12や、蓋加熱体18をどのように動作させ、それにより底面加熱体11や、側面加熱体12や、蓋加熱体18から鍋7内の被炊飯物Aへの加熱量をどのように変化させるのかという第1パターンが記憶手段35に予め記憶保持されており、操作部4への操作により、複数の炊飯コースの中からユーザが所望する任意の炊飯コースが選択した後に、炊飯開始が指示されると、その選択された炊飯コースに対応する第1パターンを、炊飯制御手段41が記憶手段35から読み出して、表示部3の他に、底面加熱体11や、側面加熱体12や、蓋加熱体18を適切に制御することにより、鍋7に入れられた被炊飯物Aへの炊飯動作を行ないながら、表示部3からの表示を行なう構成となっている。
【0024】
本実施形態において、制御部31は加熱量可変手段となる加熱量ゆらぎ手段44を備えていることが注目される。加熱量ゆらぎ手段44は、炊飯制御手段41が選択された炊飯コースに対応する第1パターンに従って、鍋7を加熱するように底面加熱体11や、側面加熱体12や、蓋加熱体18を動作させているときに、必要に応じて第1パターンとは異なる第2パターンを生成し、その第2パターンに基づいて、底面加熱体11や、側面加熱体12や、蓋加熱体18から鍋7内の被炊飯物Aへの加熱量を、時間の経過と共に変化させるものである。この加熱量ゆらぎ手段44の詳細については、後ほど改めて説明する。
【0025】
保温制御手段42は、前述の選択された炊飯コースに対応する第1パターンに従って、鍋7内のご飯を所定の保温温度に保つように制御するもので、選択した炊飯コースに拘わらず、炊飯制御手段41による被炊飯物Aへの炊飯加熱が終了すると、自動的に保温制御手段42による保温が行われる構成となっている。また保温制御手段42は、保温中に操作部4への操作により再加熱が指示されると、鍋7内のご飯が保温温度よりも一時的に高くなるように、底面加熱体11の動作を制御する保温再加熱の機能を有する。さらに、本体1に商用電源を投入した直後の切状態で、操作部4への操作により保温開始が指示された場合にも、保温制御手段42により鍋7に入れられた被炊飯物Aを保温できるようになっている。
【0026】
次に、上記構成の炊飯器について、特に加熱量ゆらぎ手段44に関連する動作の特徴を詳細に説明する。なお、ここからは説明の都合上、加熱コイルによる底面加熱体11を代表的な加熱手段とし、底面加熱体11の加熱量についてのみ言及する。
【0027】
本実施形態の炊飯器は、被炊飯物Aを収容する鍋7と、鍋7を加熱する加熱手段としての底面加熱体11と、炊飯の各行程の進行に伴い、記憶手段35から読み出した第1パターンに基づいて底面加熱体11の加熱量を変化させて、被炊飯物Aへの炊飯を行なう炊飯制御手段41と、炊飯制御手段41が鍋7を加熱するように、底面加熱体11の動作を制御しているときに、第1パターンとは異なる第2パターンで、底面加熱体11の加熱量を経時的に変化させる加熱量可変手段としての加熱量ゆらぎ手段44と、をそれぞれ備えている。
【0028】
図3は、本実施形態の炊飯器において、鍋温度センサ15により検知された鍋7の底部の温度に相当する鍋底温度Tnと、蓋温度センサ16により検知された蓋体2の下面部の温度に相当する蓋温度Tfと、底面加熱体11の加熱量Sの経時的な変化をそれぞれグラフで示している。
【0029】
同図において、炊飯制御手段41は、操作部4からの操作信号を受けて炊飯を開始すると、鍋7内に入れられた米の吸水を促進する「ひたし炊き」と、鍋7内の水を沸騰させて、その後に沸騰を継続させる「沸騰加熱」と、鍋7内で米が水を吸収し、水がなくなって鍋底温度Tnが沸騰温度(100℃)を超えて上昇したら炊き上げを検知し、そこから例えば15分など所定時間、鍋7内を高温に保持する「むらし」の各行程が順に進行するように、また保温制御手段42は、所定時間の「むらし」が終わったら、鍋7内に炊き上がったご飯を、例えば73℃の所定温度に保つ「保温」行程を実行するように、記憶手段35から読み出した基準の制御パターンとなる第1パターンに基づいて、底面加熱体11から鍋7への加熱量Sを時間の経過と共に変化させる。
【0030】
この「ひたし炊き」から「保温」を含めた一連の炊飯工程で、炊飯制御手段41と保温制御手段42が、底面加熱体11の加熱量Sや通断電のタイミングとなる断続加熱を調整して、鍋7内の被炊飯物Aに対する炊飯を行なう制御の構成は、従来の炊飯器と同じもので知られている。
【0031】
一方、本実施形態で発明の主眼となる加熱量ゆらぎ手段44は、かまど炊きの火加減を伝承する「はじめちょろちょろ、中ぱっぱ、じゅうじゅう吹いたら火を引いて、一握りのワラ燃やし、赤子泣いてもふた取るな」に沿った炊飯制御手段41による鍋7への経時的な加熱量の変化に対し、誘導加熱による鍋7への加熱量を、1秒~10秒周期の中で、100ms(0.1秒)~1s(1秒)ごとに増減させ、底面加熱体11の加熱量に相当するインバータ37の出力が、全体で例えば200W程度に変化するような第2パターンを生成する。そして、この第2パターンに基づく加熱量が底面加熱体11から鍋7に与えられるように、薪炎のゆらぎを想定した加熱構成を付加するものである。
【0032】
すなわち、「はじめちょろちょろ」は、「ひたし炊き」行程の加熱により、弱火で・優しい炎とし、「中ぱっぱ」は、「沸騰加熱」行程での沸騰までの加熱により、強火で・激しい炎とし、「じゅうじゅう吹いたら火を引いて」は、「沸騰加熱」行程での沸騰継続中に炊き上げとなるまで、中火で・穏やかな炎とし、「一握りのワラ燃やし、赤子泣いてもふた取るな」は、「むらし」行程でのむらし中の二度炊きで、弱火で・静かな炎とし、図4の(A)で示すような、従来の炊飯制御手段41による行程の進行に伴う鍋7への加熱量S1の変化に、図4の(B)に示すような、加熱量ゆらぎ手段44による鍋7への加熱量S2のゆらぎ変化を付加する。加熱量ゆらぎ手段44は、1秒~10秒のサイクル(周期)Cの中で、インバータ37の出力が一定に保たれる出力維持時間Dを0.1秒~1秒の範囲に設定して、この出力維持時間Dごとにインバータ37の出力を段階的に増減させ、インバータ37の出力の上限値と下限値との差である出力変化量Eが200W程度に変化するような第2パターンを生成し、この第2パターンで底面加熱体11から鍋7に加熱量S2のゆらぎ変化を与える。これにより、図3に示す鍋7への最終的な加熱量Sは、炊飯制御手段41により変化する加熱量S1に、加熱量ゆらぎ手段44によりゆらぐように変化する加熱量S2を加味したものとなる。
【0033】
加熱量ゆらぎ手段44は、「ひたし炊き」行程の加熱で、弱火で・優しい炎を実現するために、弱火はインバータ37の出力を、500W(下限値)→540W→580W→620W→660W→700W(上限値)→660W→620W→580W→540W→500W(下限値)へ戻すまでを1つのサイクルCとし、優しい炎は1つのサイクルCを7秒として設定し、それにより各々の出力が一定に保たれる出力維持時間Dを0.7秒に設定して、0.7秒ごとにインバータ37の出力が可変するような加熱量S2の変化サイクルを、底面加熱体11から鍋7に繰り返し与える構成となっている。
【0034】
また加熱量ゆらぎ手段44は、「沸騰加熱」行程での沸騰までの加熱で、強火で・激しい炎を実現するために、強火はインバータ37の出力を、1200W(下限値)→1240W→1280W→1320W→1360W→1400W(上限値)→1360W→1320W→1280W→1240W→1200W(下限値)へ戻すまでを1つのサイクルCとし、激しい炎は1つのサイクルCを最小の1秒として設定し、それにより各々の出力が一定に保たれる出力維持時間Dを最小の0.1秒に設定して、0.1秒ごとにインバータ37の出力が段階的に可変するような加熱量S2の変化サイクルを、底面加熱体11から鍋7に繰り返し与える構成となっている。
【0035】
また加熱量ゆらぎ手段44は、「沸騰加熱」行程での沸騰継続中に炊き上げとなるまでに、中火で・穏やかな炎を実現するために、中火はインバータ37の出力を、800W(下限値)→840W→880W→920W→960W→1000W(上限値)→960W→920W→880W→840W→800W(下限値)へ戻すまでを1つのサイクルCとし、穏やかな炎は1つのサイクルCを4秒として設定し、それにより各々の出力が一定に保たれる出力維持時間Dを0.4秒に設定して、0.4秒ごとにインバータ37の出力が段階的に可変するような加熱量S2の変化サイクルを、底面加熱体11から鍋7に繰り返し与える構成となっている。
【0036】
さらに加熱量ゆらぎ手段44は、「むらし」行程とむらし中の二度炊きの加熱で、弱火で・静かな炎を実現するために、弱火はインバータ37の出力を、500W(下限値)→540W→580W→620W→660W→700W(上限値)→660W→620W→580W→540W→500W(下限値)へ戻すまでを1つのサイクルCとし、静かな炎は1つのサイクルCを最大の10秒として設定し、それにより各々の出力が一定に保たれる出力維持時間Dを最大の1秒に設定して、1秒ごとにインバータ37の出力が段階的に可変するような加熱量S2の変化サイクルを、底面加熱体11から鍋7に繰り返し与える構成となっている。
【0037】
なお図4(B)では、代表的な例として、鍋7への3つの加熱量S2のゆらぎ変化を示しているが、加熱量ゆらぎ手段44による加熱量S2やそのゆらぎのパターンは、本実施形態で示したものに限定されない。
【0038】
このように本実施形態では、炊飯制御手段41による第1パターンでの鍋7の加熱中に、加熱量ゆらぎ手段44が第1パターンと異なる第2パターンで鍋7への加熱量S2に経時的な変化をもたせることで、薪火で炎がゆれるようなかまど炊きの形態に近い加熱で、鍋7内の被炊飯物Aに対する炊飯を行なうことが可能になる。
【0039】
図5に示すように、加熱量可変手段としての加熱量ゆらぎ手段44は、炊飯制御手段41で実行する第1パターンによる加熱量S1を基準値S1aveとして、その基準値S1aveよりも大きな加熱量S2の上限値S2maxと、基準値S1aveよりも小さな加熱量S2の下限値S2minとを周期的に繰り返すような第2パターンで、加熱手段となる底面加熱体11の加熱量Sを変化させる構成となっている。
【0040】
例えば上述した強火では、加熱量ゆらぎ手段44がインバータ37の出力を、1200W→1240W→1280W→1320W→1360W→1400W→1360W→1320W→1280W→1240W→1200Wへ戻すまでの1つのサイクルCの中で、加熱量S2の上限値S2maxを1400Wとし、加熱量S2の下限値S2minを1200Wとして、加熱量S2の上限値S2maxと下限値S2minを周期的に繰り返すように変化させる構成となっている。この場合、平均的には1300Wの加熱量S2となるが、この1300Wの加熱量S2を従来の炊飯制御手段41による加熱量S1に基準値S1aveとして相当させることで、加熱量ゆらぎ手段44による加熱量S2のゆらぎ変化を加味した場合でも、鍋7内の被炊飯物Aが加熱過多や加熱不足になるのを防ぐことができる。
【0041】
なお、ここではインバータ37の出力が、上限値S2maxと下限値S2minとの間の中間的な加熱量を含まずに、例えば強火では1200W→1400W→1200Wへ戻す1つのサイクルCで変化するように、加熱量ゆらぎ手段44を構成してもよい。この場合も、加熱量ゆらぎ手段44が平均的な1300Wの加熱量S2を、従来の炊飯制御手段41による加熱量S1に一致させることで、加熱過多や加熱不足を解消した同様の作用効果が発揮される。
【0042】
このように本実施形態では、炊飯制御手段41で実行する第1パターンによる加熱量S1の中で、その加熱量S1を平均的な基準値S1aveとして、基準値S1aveよりも高い上限値S2maxと、基準値S1aveよりも低い上限値S2maxとの間を周期的に繰り返すように、炊飯量ゆらぎ手段44が鍋7への加熱量S2を変化させることで、従来の炊飯器の平均的な加熱量S1を維持しながら、薪火で炎がゆれるようなかまど炊きの形態に近い加熱で、鍋7内の被炊飯物Aに対する炊飯を行なうことが可能になる。
【0043】
また、加熱量可変手段としての加熱量ゆらぎ手段44は、前述した上限値S2maxと、下限値S2minと、その間にある一乃至複数の中間値とを周期的に繰り返すように、加熱手段となる底面加熱体11の加熱量Sを変化させる構成となっている。
【0044】
例えば上述した中火では、加熱量ゆらぎ手段44がインバータ37の出力を、800W→840W→880W→920W→960W→1000W→960W→920W→880W→840W→800Wへ戻すまでの1つのサイクルCの中で、加熱量S2の上限値S2maxを1000Wとし、加熱量S2の下限値S2minを800Wとし、さらにその間にある加熱量S2の中間値として、840W,880W,920W,960Wをそれぞれ設けて、上限値S2maxと、下限値S2minの他に、複数の中間値を周期的に繰り返すように変化させる構成となっている。この場合、底面加熱体11の加熱量S2の中間値は幾つあってもよく、例えば900Wの一つだけとしてもよい。
【0045】
なお上述の例では、加熱量ゆらぎ手段44による加熱量S2の変化サイクルが、激しい炎は1つのサイクルCを1秒とし、穏やかな炎は1つのサイクルCを4秒とし、優しい炎は1つのサイクルCを7秒とし、静かな炎は1つのサイクルCを10秒としてそれぞれ設定しており、例えば「沸騰加熱」行程での沸騰継続中に炊き上げとなるまでの間は、中火で・穏やかな炎を実現するために、1つのサイクルCを4秒に設定したのに対応して、それぞれの出力維持時間Dを0.4秒に設定したが、加熱量S2の上限値S2maxである1000Wの出力時には、激しい炎に相当する1つのサイクルCを1秒に設定したのに対応して、出力維持時間Dを0.1秒にしたり、加熱量S2の中間値である920Wの出力時には、静かな炎に相当する1つのサイクルCを10秒に設定したのに対応して、出力維持時間Dを1秒にしたりすることもでき、出力維持時間Dは1つのサイクル中の全出力で一定とせず、各出力で任意に変化させてよい。
【0046】
また別な例として、上述した弱火では、加熱量ゆらぎ手段44がインバータ37の出力を、500W→540W→580W→620W→660W→700W→660W→620W→580W→540W→500Wへ戻すまでの1つのサイクルCの中で、加熱量S2の上限値S2maxを700Wとし、加熱量S2の下限値S2minを500Wとし、さらにその間にある加熱量S2の中間値として、540W,580W,620W,660Wをそれぞれ設けて、上限値S2maxと、下限値S2minの他に、複数の中間値を周期的に繰り返すように変化させる構成となっている。この場合も、底面加熱体11の加熱量S2の中間値は幾つあってもよく、また加熱量S2は500Wから700Wの間を40W刻みではなく、20W刻みや50W刻みで増減させるなど、各出力の値を任意に設定してよい。さらにここでは、加熱量S2の上限値S2max(=700W)と、下限値S2min(=500W)との差である出力変化量Eを200Wに設定したが、100Wや300Wでもよく、出力変化量Eの値は任意に設定してよい。
【0047】
このように本実施形態では、加熱量ゆらぎ手段44が第2パターンで鍋7への加熱量S2に経時的な変化をもたせる際に、加熱量S2の上限値S2maxと下限値S2minに加えて、一乃至複数の中間的な加熱量S2の値を付加することで、より薪火で炎がゆれるようなかまど炊きの形態に近い加熱で、鍋7内の被炊飯物Aに対する炊飯を行なうことが可能になる。
【0048】
本実施形態では、 加熱量ゆらぎ手段44が、加熱量S2の上限値S2maxと、下限値S2minと、一乃至複数の中間値とを、不規則なパターン、または規則的なパターンに不規則なパターンを混在させて、底面加熱体11の加熱量S2を経時的に変化させる構成となっている。
【0049】
「ゆらぎ」とは、予測できない空間的あるいは時間的な変化や動きで、「予測できない」とは規則性がないことを意味する。つまり、空間的あるいは時間的な変化や動きが不規則な様子を「ゆらぎ」といい、例えば風の動きや川の流れだけでなく、薪火の炎も不規則なパターンである「ゆらぎ」に含まれる。一定に見えるものでも安定しておらず、予測できないことは周知である。
【0050】
また、規則的なパターンの中にも不規則なパターンが混在しているゆらぎを「1/fゆらぎ」といい、ゆらぎ具合を表すのが「f」周波数で、ゆらぎの種類を「1/√f」、「1/f」、「1/f」、「1/f」などで表すことも周知である。
【0051】
上述の例では、加熱量ゆらぎ手段44が、予め設定したゆらぎ相当の加熱量S2の経時的変化を、サイクルCごとに周期的に繰り返すものとして説明したが、例えば鍋温度センサ15の検知温度や、蓋温度センサ16の検知温度や、圧力センサ17の検知圧力に応じて、鍋7への加熱に伴い変化する炊飯状態の変化をトリガーに、加熱量S2の各値(上限値S2max,上限値S2max,中間値)や時間要素(サイクルC、出力維持時間D)からなる第2パターンに相当したゆらぎパターンを、所定の設定から変化させることで、ゆらぎパターンを不規則に変化させる構成としてもよい。
【0052】
以下、具体的な例を図6図8を参照して説明する。図6は、本実施形態の炊飯器において、沸騰加熱行程で鍋7内が沸騰するまでの各部温度の経時的な変化をグラフで示している。図中、Tnは鍋温度センサ15の検知温度である鍋底温度の変化を示し、Tsは鍋7内面の温度変化を示し、Tf(A)は通常時における蓋温度センサ16の検知温度である蓋温度の変化を示し、Tf(B)は鍋7内の上層部の温度上昇が下層部の温度上昇よりも早い場合の蓋温度の変化を示し、Tf(C)は鍋7内の上層部の温度上昇が下層部の温度上昇よりも遅い場合の蓋温度の変化を示し、(d)は蓋温度Tfの温度上昇率の変化による沸騰検知を示し、(e)は鍋底温度Tnの温度上昇率の変化による沸騰検知を示し、(H)は沸騰までの加熱調節を示している。
【0053】
炊飯制御手段41の制御により沸騰加熱行程に移行して、前述の強火で・激しい炎を実現した底面加熱体11の加熱量Sで鍋7を強加熱すると、鍋温度センサ15による鍋底温度Tnと共に、蓋温度センサ16による蓋温度Tfが次第に上昇する。ここで、沸騰加熱行程の開始直後から、鍋底温度Tnが所定温度である80℃になるまでの温度上昇率(f)に対して、蓋温度Tfの温度上昇率(g)が、予め想定される所定の温度上昇率よりも小さい場合は、鍋7内の上層部の温度上昇が遅いことが判る。その原因は、加熱量が弱いこと、または被炊飯物Aとなる水の量が多いこと、または水温が冷たいことなどが考えられるが、そのような場合に古来のかまど炊きでは、経験的に薪火を強くして火加減を行なうことになる。
【0054】
そこで本実施形態では、かまど炊きと同様の火加減を実現するために、沸騰加熱行程の開始直後から、鍋底温度Tnが所定温度に達したときの温度上昇率(f)に対して、蓋温度Tfの温度上昇率(g)が所定値よりも小さければ、それ以降の沸騰までの加熱調節(H)の期間に、第2パターンとして設定された鍋7への加熱量S2のゆらぎパターンを、当該加熱量S2が増大して一時的に変化するように加熱量ゆらぎ手段44を構成する。
【0055】
つまり前述の例では、加熱量ゆらぎ手段44が「沸騰加熱」行程での沸騰までの加熱で、強火で・激しい炎を実現するために、下限値S2minを1200Wとし、上限値S2maxを1400Wとして、1秒のサイクルCで加熱量S2を周期的に繰り返し変化させていたものを、下限値S2minを1200Wから1300Wへ増大させたり、加熱量S2が上限値S2maxの1400Wに保たれる出力維持時間Dを、100ms(0.1秒)から500ms(0.5秒)へ長くさせたりして、鍋7の加熱量S2を一時的に増大させる。
【0056】
次に、「沸騰加熱」行程で、沸騰以降の沸騰継続時における加熱量S2の調整例を、図7図8を参照して説明する。これらの各図において、加熱量ゆらぎ手段44は、沸騰までの間に鍋温度センサ15による鍋底温度Tnの温度上昇率(e)が所定値以下となって沸騰検知した時点(X)を基準としたときの、蓋温度センサ16による蓋温度Tfの温度変化で、鍋7内の上層部の温度状態を監視し、その監視結果に応じて、沸騰検知以降のゆらぎパターンによる加熱量S2を調整する構成となっている。
【0057】
図7に示すように、蓋温度センサ16の検知温度となる蓋温度Tfは、鍋7内の上層部まで沸騰し始めると急激に上昇する。このときの蓋温度Tfが所定時間の間に所定値以上に上昇する現象を、加熱量ゆらぎ手段44が蓋温度Tfの温度上昇率(i)で監視する。
【0058】
ここでの加熱量ゆらぎ手段44は、鍋温度センサ15による鍋底温度Tnが所定時間の間に所定値以下、すなわち鍋底温度Tnの温度上昇率(e)が所定値以下になって、沸騰を検知した時点(X)を基準として、そこから蓋温度Tfの温度上昇率(i)が所定値に上昇した時点が、どの程度の時間差なのかを判断する。鍋底温度Tnで沸騰を検知した時点(X)よりも、蓋温度Tfの温度上昇率(i)が所定値以上になった時点が早ければ、加熱量が強すぎる、または被炊飯物Aとなる水の量が少なすぎる、または水温が高かったなどが考えられるので、加熱量ゆらぎ手段44は沸騰継続時における鍋7の加熱量S2を減少させる。逆に、鍋底温度Tnで沸騰を検知した時点(X)よりも、蓋温度Tfの温度上昇率(i)が所定値以上になった時点が遅ければ、加熱量が弱すぎる、または水の量が多すぎる、または水温が低かったなどが考えられるので、加熱量ゆらぎ手段44は沸騰継続時における鍋7の加熱量S2を増加させる。
【0059】
また図8に示すように、加熱量ゆらぎ手段44は、前述の鍋底温度Tnで沸騰を検知した時点(X)を基準として、そこから蓋温度Tfが所定時間の間に所定値以下、すなわち蓋温度Tfの温度上昇率(d)が所定値以下になって、蓋温度センサ16により沸騰を検知した時点が、どの程度の時間差なのかを判断する。鍋底温度Tnで沸騰を検知した時点(X)に対し、蓋温度Tfの温度上昇率(d)が所定値以下になった時点が、所定時間内の遅れであれば、加熱量が強すぎる、または水の量が少なすぎる、または水温が高かったなどが考えられるので、加熱量ゆらぎ手段44は沸騰継続時における鍋7の加熱量S2を減少させる。逆に、鍋底温度Tnで沸騰を検知した時点(X)よりも、蓋温度Tfの温度上昇率(d)が所定値以下になった時点が、所定時間を超えた遅れであれば、加熱量が弱すぎる、または水の量が多すぎる、または水温が低かったなどが考えられるので、加熱量ゆらぎ手段44は沸騰継続時における鍋7の加熱量S2を増加させる。
【0060】
つまり上述の例では、加熱量ゆらぎ手段44が「沸騰加熱」行程での沸騰継続中に炊き上げとなるまでに、中火で・穏やかな炎を実現するために、下限値S2minを800Wとし、上限値S2maxを1000Wとして、4秒のサイクルCで加熱量S2を周期的に繰り返し変化させていたが、沸騰検知以降のゆらぎパターンによる加熱量S2を増加させる場合は、下限値S2minを800Wから900Wへ増大させたり、加熱量S2が上限値S2maxの1000Wに保たれる出力維持時間Dを、所定時間である400ms(0.4秒)よりも長くさせたりする。逆に、沸騰検知以降のゆらぎパターンによる加熱量S2を減少させる場合は、上限値S2maxを100Wから900Wへ減少させたり、加熱量S2が900Wに保たれる出力維持時間Dを、所定時間である400ms(0.4秒)よりも短くさせたりすればよい。
【0061】
本実施形態では、鍋温度センサ15と蓋温度センサ16で検知される温度変化の関係性から、特に沸騰までの加熱や沸騰継続時の加熱で、底面加熱体11から鍋7への加熱量S2に対し、一時的に不規則なパターン、または規則的なパターンに不規則なパターンを混在させるような加熱量ゆらぎ手段44の構成で説明したが、それ以外の炊飯行程で、例えば炊き上げ時やむらし時における加熱量S2のゆらぎに対し、一時的に不規則なパターン、または規則的なパターンに不規則なパターンを混在させてもよい。また、こうした不規則性を含むパターンにするトリガーは、鍋温度センサ15と蓋温度センサ16で検知される温度変化の関係性に限定されず、圧力センサ17で検知される圧力変化の関係性などを考慮してもよい。
【0062】
すなわち、古来のかまど炊きでは、薪火の燃え具合、湯気や蒸気、沸騰音の発生する時間、蒸気の発生の強さや蒸気が発生している時間、そして香りなど、人間の五感をセンサとして薪火の火力を調整するが、それは毎回同じ火加減ではなく、蒸気の発生の様子などに応じ、臨機応変に可変して炊飯を行なっている。このように、本実施形態の炊飯器でも、炊飯時の温度や圧力、蒸気の発生などの炊飯進行状態に応じて、次に加熱量S2を調整することが目的であればよい。
【0063】
従って、沸騰時に鍋7内を加圧する際に、圧力センサ17で検知される鍋7内の圧力上昇率や、加圧解除時における鍋7内の減圧率(圧力減少率)に基づき、鍋7内が沸騰状態となったときに、以降の加熱量S2のゆらぎを、一時的に不規則性を含むパターンへ変えることでもよい。
【0064】
このように本実施形態では、加熱量ゆらぎ手段44により底面加熱体11の加熱量S2を不規則なパターンとしたり、或いは規則的なパターンに不規則なパターンを混在させたパターンとしたりすることで、より薪火で炎がゆれるようなかまど炊きの形態に近い加熱で、鍋7内の被炊飯物Aに対する炊飯を行なうことが可能になる。
【0065】
また、炊飯時の温度や圧力、蒸気の発生などの炊飯進行状態に応じ、次の加熱を調整する仕方を、実際のかまど炊きの温度や圧力のデータからAI(人工知能)機能を備えた制御部31に学習させ、AIの指示に不規則性を持たせてもよい。
【0066】
本実施形態の加熱量ゆらぎ手段44は、 加熱量S2の上限値S2maxと、加熱量S2の下限値S2minとを周期的に繰り返して、炊飯行程の進行に応じて、加熱量S2の時間要素に伴う上限値S2maxと下限値S2min、すなわち上限値S2maxと、下限値S2minと、周期であるサイクルCの何れかまたは全てが変化するように、底面加熱体11の加熱量S2を変化させる構成となっている。
【0067】
これは、上述のかまど炊きの火加減を伝承する「はじめちょろちょろ、中ぱっぱ、じゅうじゅう吹いたら火を引いて、一握りのワラ燃やし、赤子泣いてもふた取るな」に沿った炊飯制御手段41による鍋7への経時的な加熱変化に対し、炊飯の各行程の進行に従って、誘導加熱による鍋7への加熱量S2を、1秒~10秒周期の中で、0.1秒~1秒ごとに増減させ、底面加熱体11の加熱量に相当するインバータ37の出力を、全体で200W程度に変化するような第2パターンを生成して、この第2パターンに基づく加熱量S2が鍋7に与えられるように、加熱量ゆらぎ手段44で薪炎のゆらぎを想定した加熱構成を付加することを意味する。
【0068】
上述の例では、炊飯工程の経時的な変化に応じて、加熱量S2の時間要素に伴う強弱波形の上限値S2maxと下限値S2minが変更される構成となっている。すなわち、「はじめちょろちょろ」に相当するひたし炊き行程の加熱では、インバータ37の出力を500W~700Wの弱火にして、1つのサイクルCを7秒とした優しい炎の加熱量S2が鍋7に与えられ、「中ぱっぱ」に相当する沸騰加熱行程での沸騰までの加熱では、インバータ37の出力を1200W~1400Wの強火にして、1つのサイクルCを1秒とした激しい炎の加熱量S2が鍋7に与えられ、「じゅうじゅう吹いたら火を引いて」に相当する沸騰加熱行程での沸騰継続中の加熱では、インバータ37の出力を800W~1000Wの中火にして、1つのサイクルCを4秒とした穏やかな炎の加熱量S2が鍋7に与えられ、「一握りのワラ燃やし、赤子泣いてもふた取るな」に相当するむらし行程でのむらし中の二度炊き加熱では、インバータ37の出力を500W~700Wの弱火にして、1つのサイクルCを10秒とした静かな炎の加熱量S2が鍋7に与えられる。
【0069】
このように本実施形態では、炊飯工程の経時的な変化に応じて、加熱量S2の時間要素に伴う上限値S2maxと下限値S2minを加熱量ゆらぎ手段44が変えることで、炊飯の行程ごとに異なり、しかも薪火で炎がゆれるようなかまど炊きの形態に近い加熱で、鍋7内の被炊飯物Aに対する炊飯を行なうことが可能になる。
【0070】
本実施形態の加熱量ゆらぎ手段44は、 加熱量S2の上限値S2maxと、加熱量S2の下限値S2minと、加熱量S2の一乃至複数の中間値とを、段階的な複数の加熱量S2より設定する構成を有している。
【0071】
図9は、上述の例におけるインバータ37の出力を1200W~1400Wの範囲とした強火での加熱量S2と時間との関係を示している。同図(B)に示すように、加熱量ゆらぎ手段44は、1200W,1240W,1280W,1320W,1360W,1400Wからなる6段階の加熱量S2より、強火に相当する加熱量S2を設定し、各段階での加熱量S2の長さ、すなわち出力維持時間Dの長さで、加熱量S2のゆらぎを構成する。比較として同図(A)は、加熱量ゆらぎ手段44により加熱量S2を連続的に無段階で可変させた例を示している。
【0072】
図10は、上述の例におけるインバータ37の出力を800W~1000Wの範囲とした中火での加熱量S2と時間との関係を示している。同図(B)に示すように、加熱量ゆらぎ手段44は、800W,840W,880W,920W,960W,1000Wからなる6段階の加熱量S2より、中火に相当する加熱量S2を設定し、各段階での出力維持時間Dの長さで、加熱量S2のゆらぎを構成する。比較として同図(A)は、加熱量ゆらぎ手段44により加熱量S2を連続的に無段階で可変させた例を示している。
【0073】
図11は、上述の例におけるインバータ37の出力を500W~700Wの範囲とした弱火での加熱量S2と時間との関係を示している。同図(B)に示すように、加熱量ゆらぎ手段44は、500W,540W,580W,620W,660W,700Wからなる6段階の加熱量S2より、弱火に相当する加熱量S2を設定し、各段階での出力維持時間Dの長さで、加熱量S2のゆらぎを構成する。比較として同図(A)は、加熱量ゆらぎ手段44により加熱量S2を連続的に無段階で可変させた例を示している。
【0074】
このように本実施形態では、加熱量ゆらぎ手段44が、例えば強火、中火、弱火の要部を構成する加熱量帯(加熱量S2の範囲)を、上限値S2maxと、下限値S2minと、中間値とを含めた多段階の加熱量より設定する構成となっている。そのため、インバータ37への高周波のパルス駆動信号を連続的に可変する必要がなく、インバータ37を含めた第1加熱駆動ユニット32の回路構成を簡素化し、インバータ37の小型化を図ることが可能になる。
【0075】
本実施形態の加熱量ゆらぎ手段44は、 加熱量S2の上限値S2maxが炊飯器の定格消費電力を超えないように設定する構成を有している。
【0076】
炊飯器の定格消費電力の表示は、電気用品安全法により定められており、上述の例では、例えば強火でインバータ37の出力を1200W~1400Wとしても、経時的に消費電力が変動するので、製造組立ラインなどでの消費電力検査が困難になる。そのため本実施形態では、炊飯制御手段41と加熱量ゆらぎ手段44とを含む制御部31により、加熱量S2の上限値S2maxに相当するインバータ37の出力が、炊飯器の定格消費電力を超えないか、または超えても5%以内、具体的には炊飯器の定格消費電力が1400Wの場合には、インバータ37の出力が1470W以下となるように制御制限を行なう。また、炊飯器の制御部31に検査用のテストモードとして、インバータ37を1400Wの出力で例えば60秒間動作させたり、所定の時間連続してインバータ37を出力させたりする検査手段(図示せず)の構成を付加してもよい。
【0077】
但し、炊飯器の定格消費電力には、加熱コイルによる底面加熱体11から鍋7への加熱だけでなく、蓋加熱体18による蓋体2への加熱や、側面加熱体12による鍋7の側面への加熱を付加する場合があるため、例えば蓋加熱体18の消費電力が50Wで、底面加熱体11と同時に加熱を行なう場合には、底面加熱体11と蓋加熱体18との合計消費電力で、炊飯器の定格消費電力を超えない1350Wを、加熱量S2の上限値S2maxに相当するインバータ37の出力として設定するのが好ましい。
【0078】
また、上述の例ではインバータ37の出力を1200W~1400Wの範囲とした強火で、加熱量S2の下限値S2minを1200Wにしているが、実際の薪火の場合に鍋7への加熱量S2に相当する火力は、ゆらぎがあったとしても瞬時に大きく低下することはないため、加熱量S2の下限値S2minは上限値S2maxの50%を下回らないように、加熱量ゆらぎ手段44が下限値S2minの制限を設けることが好ましい。すなわち、加熱量S2の上限値S2maxを1400Wとした場合、加熱量S2の下限値S2minは700Wを下回らないように制限する。
【0079】
このように本実施形態では、加熱量ゆらぎ手段44によって底面加熱体11の加熱量S2にゆらぎの制御を付加した場合に、製造時の消費電力検査に支障がなく、また法令遵守にて、炊飯器の定格消費電力を超えて、屋内配線の制限電流を超えた電流が流れてしまうなどの不具合を防止できる。
【0080】
本実施形態の加熱量ゆらぎ手段44は、 炊飯制御手段41により行われる炊飯の種類に応じて、複数の第2パターンを有して構成される。
【0081】
炊飯制御手段41が鍋7に入れられた被炊飯物Aの量(炊飯量)を検知し、炊飯量の多い少ないに応じて、第1パターンである加熱のパターンを変えて炊飯する炊き方や、玄米や分づき米、産地品種銘柄米などを操作部4からの操作で選択して、米質に応じた加熱のパターンで炊飯する炊き方や、かためや柔らかめ、ねばり、甘みなどの炊上り食感を操作部4からの操作で可変して、それに応じた加熱のパターンで炊飯する炊き方は、従来周知である。本実施形態では、こうした炊飯制御手段41が行なう従来の各種の炊飯に対して、加熱量ゆらぎ手段44で加熱量S2のゆらぎ制御を可能にする特定の第2パターンを、予め記憶手段35に記憶された複数の第2パターンの中から選択して適用することが可能となる。
【0082】
このように本実施形態では、炊飯量や炊飯メニュー、炊き方や米の産地品種銘柄に応じ、適正に加熱量Sのゆらぎ制御を可能にする第2パターンを選択できる。
【0083】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更可能である。例えば、本実施形態中に頻出する「所定値」、「所定温度」、「所定の温度上昇率」などは、その都度同じ値である必要はなく、別な値に設定されていても構わない。
【符号の説明】
【0084】
7 鍋
11 底面加熱体(加熱手段)
41 炊飯制御手段
44 加熱量ゆらぎ手段(加熱量可変手段)
図1
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