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特開2022-90427音響部材用ゴム発泡体及びゴム発泡体用組成物
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  • 特開-音響部材用ゴム発泡体及びゴム発泡体用組成物 図1
  • 特開-音響部材用ゴム発泡体及びゴム発泡体用組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090427
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】音響部材用ゴム発泡体及びゴム発泡体用組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20220610BHJP
   H04R 7/26 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CES
H04R7/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202822
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 冬玲
(72)【発明者】
【氏名】宮田 智矢
【テーマコード(参考)】
4F074
5D016
【Fターム(参考)】
4F074AA17
4F074AA26
4F074AA32
4F074AA98
4F074AB05
4F074AC02
4F074AC21
4F074AC28
4F074AD01
4F074AG01
4F074AG02
4F074BA13
4F074BB05
4F074BB06
4F074CA29
4F074CC06X
4F074DA02
4F074DA08
4F074DA23
4F074DA57
4F074DA59
5D016AA12
5D016CA03
5D016EC12
(57)【要約】
【課題】ブチルゴムをベースとして、音響部材に適した軽量なゴム発泡体を提供する。
【解決手段】音響部材用のゴム発泡体であって、非ジエン系のブチルゴムと、熱可塑性樹脂とを含むゴム層と、該ゴム層に内包される空孔部とを有し、前記ゴム層は、前記ブチルゴムが架橋されており、前記ブチルゴムのマトリックス中に前記熱可塑性樹脂が分散或いは相溶していることを特徴とするゴム発泡体を用いる。熱可塑性樹脂としては、溶融軟化温度が40℃以上120℃以下、メルトフローレイトが5~70g/10min(230℃/2.16kg)または溶融粘度が50~2000mPa・s(140℃)のものが好ましく、ポリスチレン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響部材用のゴム発泡体であって、
非ジエン系のブチルゴムと、熱可塑性樹脂とを含むゴム層と、
該ゴム層に内包される空孔部とを有し、
前記ゴム層は、前記ブチルゴムが架橋されており、前記ブチルゴムのマトリックス中に前記熱可塑性樹脂が分散或いは相溶していることを特徴とするゴム発泡体。
【請求項2】
前記ブチルゴム100質量部に対して、前記熱可塑性樹脂を10~60質量部含む請求項1に記載のゴム発泡体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が以下の要件のいずれかを満たす少なくとも1種である請求項1または2に記載のゴム発泡体:
(要件1):溶融軟化温度が40℃以上120℃以下。
(要件2):メルトフローレイトが5~70g/10min(230℃/2.16kg)または溶融粘度が50~2000mPa・s(140℃)。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリスチレン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂から選択される少なくとも1種である請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム発泡体。
【請求項5】
前記ゴム層は更にカーボンブラックを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム発泡体。
【請求項6】
前記発泡体の密度が0.7g/cm以下である請求項1~5のいずれか1項に記載のゴム発泡体。
【請求項7】
スピーカーのサラウンド部材である請求項1~6のいずれか1項に記載にゴム発泡体。
【請求項8】
音響部材用のゴム発泡体を製造するゴム組成物であって、
(A)非ジエン系のブチルゴムと、
(B)熱可塑性樹脂と、
(C)化学発泡剤と、
(D)加硫剤と
を含み、前記熱可塑性樹脂(B)が以下の要件のいずれかを満たす少なくとも1種であり、前記ブチルゴム(A)100質量部に対して10~60質量部含むゴム組成物:
(要件1):溶融軟化温度が40℃以上120℃以下。
(要件2):メルトフローレイトが1~100g/10min(230℃/2.16kg)または溶融粘度が10~10000mPa・s(140℃)。
【請求項9】
化学発泡剤(C)と加硫剤(D)を除くA練りゴム組成物のムーニー粘度が10~60[ML1+4、100℃]の範囲内である請求項8に記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂が、ポリスチレン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂から選択される少なくとも1種である請求項8又は9に記載のゴム組成物。
【請求項11】
更にカーボンブラック(F)を含む請求項8~10のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響部材用ゴム発泡体とそのゴム発泡体用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカーの振動板の外周端部を支えるエッジ部材(サラウンドともいう)など、振動板の余分な振動を吸収して発生させる音質を向上させる部材には、各種ゴムの弾性材料が使用されている。
【0003】
振動板の余分な振動を効果的に吸収し、音響特性に優れた材料を提供するために、損失係数の高い材料を軽量化することが提案されている。
【0004】
特許文献1にはゴム、軟化剤、有機発泡剤、加硫剤を含有する粘性ゴム混和物を加硫発泡した粘弾性発泡体からなるスピーカー用部材(エッジ部材)が開示されており、その粘弾性発泡体の引張強度が0.1~100kg/cm、比重が0.07~1.2の範囲に設定されている。
【0005】
一方で損失係数の高い材料として非ジエン系のブチルゴム(イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)ともいう)がある。特許文献1における粘弾性発泡体のゴム材料としてブチルゴム(IIR)も例示されているものの、実施例にはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)及びエチレン-プロピレン-ターポリマーゴム(EPT)などの発泡ゴムとしてよく知られたゴム材料の発泡体が示されている。しかしながら、ブチルゴムの加硫発泡した発泡体は製造されておらず、その他従来技術を見てもほとんど知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-240994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
材料の軽量化という点では、特許文献1のように発泡体(発泡ゴム)を使用するという選択肢がある。しかしながら、損失係数の高い非ジエン系のブチルゴムを発泡すると、その硬さ(貯蔵弾性率)が著しく低下する現象が見られた。その結果、ソリッドゴムを使用した場合のような音質の向上が維持できず、音響部材としての特性が損なわれることを本発明者らは見出した。
【0008】
そこで、本発明は、ブチルゴムをベースとして、音響部材に適した軽量なゴム発泡体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者ら上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、ブチルゴムに熱可塑性樹脂を配合することで適度に高い発泡倍率であるにも拘わらず、硬度(弾性率)の低下が抑えられたゴム発泡体が得られることを見出した。ここで、ブチルゴムはゴム層のマトリックス(連続相)を構成し、熱可塑性樹脂はこのマトリックス中に分散しているか相溶している。
【0010】
すなわち、本発明の一態様は、音響部材用のゴム発泡体であって、非ジエン系のブチルゴムと、熱可塑性樹脂とを含むゴム層と、該ゴム層に内包される空孔部とを有し、前記ゴム層は、前記ブチルゴムが架橋されており、前記ブチルゴムのマトリックス中に前記熱可塑性樹脂が分散或いは相溶していることを特徴とするゴム発泡体に関する。
【0011】
又、本発明の一態様は、音響部材用のゴム発泡体を製造するゴム組成物であって、
(A)非ジエン系のブチルゴムと、
(B)熱可塑性樹脂と、
(C)化学発泡剤と、
(D)加硫剤と
を含み、前記熱可塑性樹脂(B)が以下の要件のいずれかを満たす少なくとも1種であり、前記ブチルゴム(A)100質量部に対して10~60質量部含むゴム組成物に関する。
(要件1):溶融軟化温度が40℃以上120℃以下。
(要件2):メルトフローレイトが1~100g/10min(230℃/2.16kg)または溶融粘度が10~10000mPa・s(140℃)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ブチルゴムと相溶する熱可塑性樹脂を添加することで、発泡による軽量化と共に、弾性率の低下を抑制して、音響部材に適したゴム発泡体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の発泡体をサラウンドとして含むスピーカーの概略断面図である。
図2】サラウンドの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るブチルゴム発泡成形体について説明する。
原料となるゴム組成物は、非ジエン系のブチルゴム(A)と、熱可塑性樹脂(B)とを含む。また、発泡のための化学発泡剤(C)と、発泡ゴムの形状を安定化させる加硫剤(D)とを含む。
【0015】
(非ジエン系のブチルゴム)
ブチルゴムはイソブチレンに少量のイソプレンが共重合した不飽和度の低い合成ゴムであり、環境耐性に優れたゴム材料である。種類としてはレギュラーブチルゴムとハロゲン化ブチルゴムがある。不飽和度やハロゲン含量によってグレード分けされている。ハロゲン化ブチルゴムとしては塩素化ブチルゴム及び臭素化ブチルゴムが典型的である。
ブチルゴムは、一つの種類またはグレードを単独で、あるいは複数の種類またはグレードを組み合わせて使用することができる。
【0016】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、使用するブチルゴム(未架橋状態)と均一に混合し得る熱可塑性樹脂であれば特に制限無く使用することができる。特に未架橋ブチルゴムに相溶し得る熱可塑性樹脂が好ましい。このため、極性基を有さない熱可塑性樹脂が好ましく、また、ブチルゴムの架橋に影響しない、すなわち二重結合などの不飽和基を有さないものが好ましい。更にブチルゴムの混練温度で配合できるように、溶融軟化温度(融点乃至はガラス転移温度)が常温よりも十分高く、40℃以上、好ましくは60℃以上であり、一方、溶融軟化温度が発泡加硫温度よりも低い、例えば、120℃以下であることが好ましい。中でもスチレン系樹脂やポリオレフィン系樹脂が好ましい。また、これら樹脂の相溶性を改善するために低分子量ポリエチレンなどのポリオレフィンワックスを添加してもよい。ポリオレフィン系樹脂と低分子量のポリオレフィンワックスとは主にその平均分子量(Mw)によって区別され、5万以上のものをポリオレフィン系樹脂と呼び、5万未満のものをポリオレフィンワックスと呼ぶことがある。したがって、広義にはいずれもポリオレフィン系樹脂の範囲に含まれるものとする。
スチレン系樹脂としては、スチレンの単独重合体や、極性基を有さないモノマーとの共重合体が挙げられる。特に、ブチルゴムと同様のイソブチレン単位を含むスチレン系樹脂は、未架橋のブチルゴムとの相溶性に優れる。
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などが挙げられる。特に、低融点を示すポリエチレン及びエチレン-プロピレン共重合体が好ましい。
熱可塑性樹脂としては、メルトフローレイトが1~100g/10min(230℃/2.16kg)あるいは溶融粘度10~10000mPa・s(140℃)のものが好ましい。中でも、以下の要件のいずれかを満たす少なくとも1種であることがより好ましい。
(要件1):溶融軟化温度が40℃以上120℃以下
(要件2):メルトフローレイトが5~70g/10min(230℃/2.16kg)または溶融粘度が50~2000mPa・s(140℃)
溶融軟化温度は、DSC測定などにより求めることができる。メルトフローレイト(MFR)は、JIS K 7210又はASTM D1238に準拠した方法で測定できる。溶融粘度はJIS K 7199に準拠した方法で測定できる。いずれも、メーカーカタログ値を参照することができる。
【0017】
これらの熱可塑性樹脂は、発泡ゴムの成形温度において組成物粘度を引き下げる効果を有していることが好ましく、後述する任意添加の軟化剤(E)と組み合わせた場合も含めて、発泡剤(発泡助剤を含む)と加硫剤(加硫助剤を含む)を除くA練りゴム組成物の粘度(ムーニー粘度)を10~60[ML1+4、100℃]の範囲内とできるものが好ましい。
ゴム組成物における熱可塑性樹脂の配合量は、ブチルゴム(A)100質量部に対して10~60質量部であり、好ましくは20~45質量部である。熱可塑性樹脂の量が60質量部より多くなりすぎると、ブチルゴムによる高い損失係数が損なわれ、音響部材として適さない場合がある。熱可塑性樹脂の量が10質量部よりも少なくなると、組成物粘度を引き下げる効果が低下する場合がある。
【0018】
(化学発泡剤)
化学発泡剤としては、一般的に発泡成形に用いられる化学発泡剤が使用できる。具体的には以下の如き有機発泡剤が好ましく使用できる。N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロソテレフタルアミド等のニトロソ化合物、アゾジカルボソアミド(ADCA)、アゾビスイソブチルニトリル、ジアゾアミノベンゼン等のアゾ化合物、ベンゼンスルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド等のスルホニルヒドラジド化合物が挙げられる。また、その他p-トルエンスルホニルアジド、4,4’-ジフェニルスルホニルアジド、4,4’-オキシビスベンゾソスルホニルヒドラジド(OBSH)等の公知の発泡剤も挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。特に好ましいのは、加熱上昇,温度によるガス発生量の点から例えばADCAを用いることである。さらに、2種以上併せて用いる場合は、発泡分解温度の調整の点から、例えばADCAおよびOBSHを併用することである。そして、上記発泡剤の配合割合は、ブチルゴム100質量部に対して好ましくは1~20質量部、より好ましくは3~10質量部である。
【0019】
(発泡助剤)
発泡助剤は発泡のタイミングを調整するために適宜使用される。発泡助剤としては化学発泡剤の種類に合わせて適宜最適な発泡助剤を組み合わせればよい。特に発泡剤としてADCA及びその誘導体を用いる場合には、発泡助剤として尿素を用いることが好ましい。発泡助剤は、発泡剤10質量部に対して4質量部~22.5質量部用いることができる。
なお、本発明のゴム発泡体を得るために、化学発泡剤に代えて、熱膨張性マイクロバルーン、もしくは炭酸ガス(超臨界CO)などの物理発泡剤を用いることもできる。
【0020】
(加硫剤)
加硫剤(加硫促進剤を含む)は、特に限定されず、例えば、硫黄、テトラアルキルチラウム-ジスルフィドなどの硫黄系加硫剤、金属酸化物、有機過酸化物、樹脂加硫剤などが挙げられ、これらを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。特に硫黄と共に金属酸化物を含んでいることが好ましい。金属酸化物は、特に限定されず、例えば酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどが挙げられ、酸化亜鉛であることが好ましい。
加硫剤の配合量は、ブチルゴム100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、5質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。
【0021】
(軟化剤)
本発明の組成物には、発泡成形時の組成物の粘度を適宜調整するために軟化剤を添加することが好ましい。軟化剤としては、ジオクチルフタレート,ジブチルフタレート等の分子量が300~500の可塑剤、ポリエステル可塑剤等のような分子量が1000~8000の高分子可塑剤、スピンドル油、マシン油、シリンダー油等の潤滑油類、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル等のプロセスオイル類、流動パラフィン、ワセリン等のパラフィン類等の石油系軟化剤、コールタール、コールタールピッチ等のコールタール系軟化剤、ヒマシ油、綿実油等の脂肪族系軟化剤、蜜ロウ、ラノリン等のロウ類、常温で液状または固形の樹脂類、その他ポリブテン等の液状ポリマー等が挙げられる。また、ファクチス等の硫黄で加硫した植物油等も使用できる。軟化剤としては、パラフィン系プロセスオイル、液状ポリマー、ファクチスがより好ましい。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
(液状ポリマー)
液状ポリマーはリキッドポリマーあるいは液状ゴムとも呼ばれ、常温で液状(半固体状を含む)のポリマーである。低分子量から高分子量まで様々なグレードがあるが、本発明では重量平均分子量(Mw)が1,000以上120,000以下のものを使用する。Mwが1,000以上であれば、本発明に係る音響部材用の発泡成形体が必要以上に軟化することなく、べたつきもないものが得られる。Mwが120,000以下であれば、液状ポリマーを均一に組成物中に分散させることができ、均質な発泡成形体を得ることができる。液状ポリマーのMwは2,000以上であることが好ましい。
液状ポリマーとしてはポリブテン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどが挙げられる。特に本発明では、液状ポリマーはブチルゴムの構成単位であるイソブチレン単位を有するポリイソブチレンであることが好ましい。また、異なる構成単位を有するものでも、ブチルゴムとの相溶性に優れ、成形したゴム架橋体において、海島構造を形成しないものであれば、使用することができる。その際の指標として溶解度パラメータ(SP値)を採用することができ、ブチルゴムのSP値(7.3~8.1)に対して±0.5以内であれば、相溶性に優れると言える。ポリイソブチレンもこのSP値の範囲内である。単独で上記SP値の範囲を満たさない場合でも、混合することで上記SP値の範囲を満たす時は使用できる場合がある。したがって、液状ポリマーは1種を単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。なお、複数を混合する場合、分子量についても混合物としての分子量(Mw)を採用するが、Mwの近いものを組み合わせることが好ましい。
本発明における「SP値」とは、ヒルデブラントパラメータとしての値である。SP値としては理論値として公開されている値を採用することができる。また、公知の計算方法によって求めることもできる。さらには濁点滴定法によって実測することができる。
また、重量平均分子量(Mw)はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0023】
(配合比)
本発明に係る原料ゴム組成物におけるブチルゴムと軟化剤との配合比は、音響部材として適した特性を満足する範囲で適宜最適な配合比を選択することができる。例えば、ブチルゴム100質量部に対して軟化剤を、好ましくは1~100質量部、より好ましくは10~60質量部配合することができる。
【0024】
(その他成分)
本発明に係る発泡ゴム組成物には、上記各成分以外にフィラー、加工助剤等の当該技術分野で公知の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で適宜添加することができる。また、その他のゴム(エラストマー)成分や樹脂成分も本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
これらの中でも、フィラーを添加することで、得られる架橋体の硬度を高めることができる。フィラーは、特に限定されるものではないが、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、チタンホワイトなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。特にカーボンブラックを添加することが、スピーカーなどに適用する場合に、振動板の色味との調整の点で好ましい場合がある。カーボンブラックの配合量としては、ブチルゴム100質量部に対して10~70質量部の範囲であることが好ましく、30~50質量部の範囲であることが更に好ましい。
加工助剤は、加工性を向上する材料であれば特に限定されず、例えば、ステアリン酸等の脂肪酸骨格を有する化合物や、アミン類などが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
[音響部材]
本発明に係るゴム発泡体は音響部材として使用される。音響部材としては、先述のスピーカーのサラウンドの他、不要な振動を吸収/排除したい楽器や音響装置の部材、例えば、マイクの筐体から集音部材への振動を吸収排除するマイクインシュレータなどが挙げられる。
【0026】
図1に本発明に係るゴム発泡体をサラウンドに使用したスピーカーの概略断面図を示す。
このスピーカー10は、スピーカーフレーム14に取り付けられた、振動板11とコイル12と磁気回路13とを備えている。振動板11は、本発明に係るゴム発泡体(サラウンド(surround)ともいう)15によってスピーカーフレーム14に取り付けられている。サラウンド15は、当技術分野で理解されるように、円環形状を有する。典型的な例では、サラウンド15は、任意の適切な種類ののり、ペースト、接着剤あるいは留め具、または当技術分野で理解される任意の好適な方法によって、振動板11に取り付けられた第一端部と、スピーカーフレーム14に取り付けられた第二端部とを有している。コイル12は、ボイスコイルと称されることもあり、可撓性サスペンション16によってスピーカーフレーム14に取り付けられてもよい。可撓性サスペンション16は、一般に「スパイダー(spider)」と呼ばれ、波形の生地などの可撓性材料、または、当技術分野で理解される任意の適切な方法で作製される。コイル12は、従来のコイルと同様に、コイルの外側の一部分に巻き付けられたワイヤ巻線(不図示)を有しており、例えば、当技術分野で理解される端子盤(不図示)に接続されている。磁石13は、当技術分野で理解される任意の適切な種類の取り付け構造によってスピーカーフレーム14に取り付けられている。
サラウンド15のサイズ(厚みや長さ等)は特に限定されるものではなく、スピーカーのサイズや出力パワーに応じて適宜最適なサイズに形成することができる。
【0027】
図2は、サラウンド15の拡大断面図を示す。振動板に接続される第一端部15aとフレームに固定される第二端部15bではその肉厚が大きく異なる。例えば、第二端部15bは厚さ2mm程度の厚肉部に、第一端部15aは厚さ0.4~0.5mm程度の薄肉部に成形される。
発泡体は、その表面がスキン層と呼ばれる緻密な面を有し、その内部に発泡した空孔(セル)を内包する発泡層を有する構成であることが好ましい。
【0028】
音響部材として使用される発泡体としては、貯蔵弾性率が7MPa以上であることが好ましく、9MPa以上であることがより好ましい。また、密度はソリッドゴムよりも発泡により小さくなっていれば特に制限されないが、0.8g/cm以下が好ましく、0.7g/cm以下がより好ましい。
発泡体として内包される空孔部(気孔)の少なくとも一部が独立気孔を有していることが好ましい。
【0029】
<製造方法>
[ゴム組成物を調製する工程]
(A練り工程)
まずベースゴムの配合物を調製する。この工程はA練り工程と呼ばれ、原料ゴム(ブチルゴム)に軟化剤やフィラー等の、架橋及び発泡に関係しない成分を配合する。
このA練り工程で、ベースゴムの粘度を調整する。ベースゴムの粘度はムーニー粘度で表され、10~60[ML1+4、100℃]程度の範囲から選択することができる。発泡倍率を高めるためには低粘度であることが好ましい。
A練り工程では加硫成分や発泡成分を含まないことから、ある程度加熱しての混練や、発熱を伴う混練、例えば剪断力を高めて混練することができる。これにより均一なベースゴム配合物が得られる。
【0030】
(B練り工程)
次に、ベースゴム配合物に、加硫成分及び発泡成分を添加してゴムコンパウンドを調整する。この工程はB練り工程と呼ばれる。
B練り工程は温度の上昇しない混練方法を選択して使用する。例えばオープンロールや冷却機構付きのニーダーが使用できる。
【0031】
[成形工程]
本発明に係る音響用部材は、上記B練りゴムコンパウンドを用いて例えば次のようにして製造される。まず、上記B練りゴムコンパウンドを、シート状(厚み1~10mm)またはフィルム状(厚み0.1~1mm)に成形する。次いで、上記成形物を所定形状の成形用金型内に入れ、適宜の加熱加圧条件に設定することにより加硫とともに発泡させて、ブチルゴム発泡体である音響用部材が製造される。または、上記シート状またはフィルム状に成形したものを所定形状に打ち抜いた後、これを金型内で加熱加圧してもよい。さらに、上記B練りゴムコンパウンドの所定量を、そのまま所定形状の成形用金型内に入れて加熱加圧してもよい。
成形用金型の加熱加圧条件は、B練りゴムコンパウンドを構成する各成分の種類および配合割合等によって適宜に設定されるが、例えば温度130~200℃、圧力0.5~100MPaで0.02~60分の熱処理となるように設定することが好ましい。
【0032】
このようにして得られたゴム発泡体では、マトリックスとなるブチルゴム架橋物中に添加した熱可塑性樹脂が分散した状態であるか、分散状態が確認できない相溶状態となっている。したがって、本明細書では「相溶」とは、分子レベルで完全に混ざり合う場合のみならず、分散状態(非相溶)を確認できないもの全般を意味する。具体的には非発泡、フィラー等の無添加のフィルム化したものを手で引っ張ってもフィルム状態が維持されており、目視で分散が確認できなければ相溶状態と見なすことができる。加硫発泡時の条件により多少の変動はあるが、A練り工程でブチルゴムと熱可塑性樹脂を十分均一に混練することで、分散状態といっても非常に微小な島構造が確認できる程度とすることができる。
【実施例0033】
以下、実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中、「部」は「質量部」を示す。
【0034】
実施例1
A練りベースゴムとして、ブチルゴム(JSR社製、商品名「ブチル268」)100部に対して、熱可塑性樹脂としてポリエチレン樹脂(三井化学製、商品名「タフマーDF940」、MFR=6.7g/10min(230℃/2.16kg))40部、添加剤としてカーボンブラック(東海カーボン社製、商品名「シーストSO(FEF)」)50部、亜鉛華(正同化学工業社製、2種酸化亜鉛)5部、加工助剤としてステアリン酸(日油社製)2部を加圧式ニーダーにより均一になるまで混練してベースゴムを調製した。このとき、ベースゴムのムーニー粘度を測定した。
次に、このベースゴムのブチルゴム100部に対して、化学発泡剤としてアゾジカルボソアミド(ADCA)3部、発泡助剤として尿素3部、加硫剤として硫黄1.5部、加硫助剤としてテトラメチルチウラムジスルフィド(略号:TMTD、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーTT-P(TT)」)と2-メルカプトベンゾチアゾール(略号:MBT、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーM-P(M)」)の1:1(質量比)混合物2部を配合し、オープンロールにてB練りゴム組成物(発泡架橋用ゴム組成物)を得た。
得られたゴム組成物は、熱冷プレス成形により、厚さ2mmのシート状に成形した。まず、金型にゴム組成物を配置し、発泡加硫温度(160℃)で30分間加熱することによりブチルゴム発泡体を作製した。
【0035】
表1にベースゴムのムーニー粘度、得られた発泡体の密度、及び粘弾性特性として貯蔵弾性率E’の測定結果を示す。
各物性の測定条件及び評価は以下の通りである。
測定条件
・ムーニー粘度
JIS K 6300に準拠し、エムアンドケー社製のゴム用加硫試験機(Curebase)を使用して100℃でのムーニー粘度を測定した。
・密度
測定サンプル(長さ:50mm、幅:30mm、厚さ:2mm)の重量および体積を計測し、重量を体積で除算して算出した。
・粘弾性
JIS K 6394に準拠し、TAインスツルメンツ社製の動的粘弾性測定装置(RSA-G2)を使用して、20℃、動的歪み0.1%、周波数1Hzの条件で貯蔵弾性率E’(MPa)を測定した。
【0036】
実施例2,3、比較例1,2
表1の組成物配合に変更した以外は実施例1と同様にしてA練り工程、B練り工程、発泡成形工程を行い、ゴムシートを成形した。物性の評価結果を表1に合わせて示す。
実施例2のポリエチレン系樹脂としては、三井化学社製、商品名「タフマーDF9200」(MFR=33g/10min(230℃/2.16kg))を、また実施例3のポリスチレン系樹脂としては、カネカ社製、商品名「SIBSTAR 073T」(MFR=6g/10min(230℃/2.16kg))用いた。実施例2,3の軟化剤としてパラフィンオイル(出光興産製、商品名「PW-380」)を用いた。
【0037】
参考例
組成物配合に発泡剤および発泡助剤を含まない点以外は実施例1と同様にしてA練り工程、B練り工程、加硫成形工程を行い、ソリッドゴムシートを成形した。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例では熱可塑性樹脂を添加したことにより得られた発泡体は参考例のソリッドゴムと同程度の高い貯蔵弾性率を有していた。熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂であるポリエチレン樹脂を使用した場合、A練り組成物のムーニー粘度を低減でき、スキン状態も良好で、貯蔵弾性率にも優れたサラウンドを得ることができた。
【符号の説明】
【0040】
10 スピーカー
11 振動板
12 コイル
13 磁力回路
14 スピーカーフレーム
15 サラウンド(音響部材)
15a 第一端部
15b 第二端部
16 可撓性サスペンション
図1
図2