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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090434
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】脈波検出装置および脈波検出方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20220610BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
A61B5/02 310B
A61B5/0245 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202831
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】亀山 愛樹
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA09
4C017AB02
4C017AC28
4C017EE09
4C017FF05
(57)【要約】
【課題】脈波検出装置と生体表面との間に間隙が生じた場合においても感度よく脈波を検出することができる脈波検出装置および脈波検出方法を提供すること。
【解決手段】脈波検出装置は、光を射出する発光素子と、光が生体に照射されたときの生体からの戻り光を受ける受光素子と、受光素子の側に設けられた第1の開口部と、第1の開口部と対向する側に設けられた第2の開口部と、第1の開口部と第2の開口部をつなぐ内壁部を有する貫通孔と、発光素子と受光素子との間に設けられる光を遮断する側面と、を有するフード部材と、受光素子で受けた戻り光の信号を処理する演算回路と、を備える。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を射出する発光素子と、
前記光が生体に照射されたときの前記生体からの戻り光を受ける受光素子と、
前記受光素子の側に設けられた第1の開口部と、前記第1の開口部と対向する側に設けられた第2の開口部と、前記第1の開口部と前記第2の開口部をつなぐ内壁部を有する貫通孔と、前記発光素子と前記受光素子との間に設けられる光を遮断する側面と、を有するフード部材と、
前記受光素子で受けた前記戻り光の信号を処理する演算回路と、
を備えた脈波検出装置。
【請求項2】
前記第1の開口部の寸法は、前記受光素子の寸法に対応する、
請求項1に記載の脈波検出装置。
【請求項3】
前記貫通孔の内壁部は前記戻り光を反射する構造を有する、
請求項1または2に記載の脈波検出装置。
【請求項4】
前記内壁部は前記第1の開口部から前記第2の開口部に向かって拡径するテーパー形状を有する、
請求項3に記載の脈波検出装置。
【請求項5】
前記側面は、前記受光素子から前記側面までの距離を前記発光素子と前記受光素子との間の距離で除算して得られる値が0.6~0.85の範囲内となるように前記フード部材が設けられている、
請求項4に記載の脈波検出装置。
【請求項6】
前記側面は、前記受光素子から前記側面までの距離を前記発光素子と前記受光素子との間の距離で除算して得られる値が2/3となるように前記フード部材が設けられている、
請求項4に記載の脈波検出装置。
【請求項7】
前記フード部材は、前記第2の開口部の側の端部を備え、
前記端部に前記生体の表面が押し当てられる、
請求項1から請求項6の何れか一項に記載の脈波検出装置。
【請求項8】
前記戻り光を前記発光素子に向けて通過する保護部材をさらに備える、
請求項1から請求項7の何れか一項に記載の脈波検出装置。
【請求項9】
前記フード部材は、前記第2の開口部の側の端部を備え、
前記保護部材の端部は、前記第2の開口部の側の端部と面一とされている、
請求項8に記載の脈波検出装置。
【請求項10】
発光素子によって光を生体に照射するステップと、
前記光の前記生体からの戻り光を、受光素子の側に設けられた第1の開口部と、前記第1の開口部と対向する側に設けられた第2の開口部と、前記第1の開口部と前記第2の開口部をつなぐ内壁部を有する貫通孔と、前記発光素子と前記受光素子との間に設けられる光を遮断する側面と、を有するフード部材の前記貫通孔を介して前記受光素子によって受けるステップと、
前記受光素子によって受けた前記戻り光の信号を処理するステップと、
を備える脈波検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、脈波検出装置および脈波検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心拍数の検査方法としては、心電図法、血圧計測法、心音図法、光電脈波法といった4つの方法が知られている。光電脈波法で使用される脈波センサー、換言すると脈波検出装置、には、透過型と反射型がある。透過型の脈波センサーは、生体の表面に赤外線や赤色光を照射し、生体の体内を透過する光をPD(Photo Diode)で変化量を計測することで、心臓の脈動に伴って変化する血液量の変化、つまり脈波を検出する。透過型の脈波センサーは、指先や耳朶などの部位において脈波を検出することが一般的である。
【0003】
反射型の脈波センサーは、緑色光を生体の表面に照射し、生体の体内から戻ってくる光の変化量を計測し、これによって脈波を検出する(例えば特許文献1、特許文献2参照)。即ち、動脈の血液内に含まれるヘモグロビンには、緑色光を強く吸収する特性があり、体内から戻ってくる緑色光を計測ことによって、心臓の脈動に伴って変化する血液の容積変化を的確に計測することが可能である。血液の容積変化を時系列に計測することにより、脈波(換言すると脈波形)が得られる。この反射型の脈波センサーの場合、被験者の装着部位を限定する必要が無いため、被験者にとっての装着負担が軽減させるメリットが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-169780号公報
【特許文献2】特開2010-17602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、測定のON/OFFの動作を、照度センサーによって検出された外乱光(例えば太陽光、蛍光灯の光など)に基づいて制御する技術が開示されている。この技術によれば、外乱光がある閾値以上に増加すれば、測定がOFFされる。このことは、外乱光が侵入すれば、正確な計測が不可能であることを示唆しており、その外乱光が増加する主要因は、脈波センサーと人体表面との間に間隙が生じたことによるものが大きい。つまり、特許文献1は、脈波センサーと人体表面との間に間隙が生じた場合、検出感度が低下することも示唆している。しかしながら、特許文献1には、脈波センサーと人体表面との間に間隙が生じた場合においても感度よく脈波を検出する方法については開示されていない。
【0006】
また、特許文献2には、角度センサーなどの新たなセンサーを用いて被験者の体動をモニタリングし、脈波および体動の周波数を判定し、これらに対してフィルタリングを実施する技術が開示されている。この技術によれば、体動成分を除去した安定した脈波検出を可能とするが、脈波センサーと人体表面との間に間隙が生じた場合においても感度よく脈波を検出する方法については開示されていない。
【0007】
そこで、本発明は、脈波検出装置と生体表面との間に間隙が生じた場合においても感度よく脈波を検出することができる脈波検出装置および脈波検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、脈波検出装置は、光を射出する発光素子と、前記光が生体に照射されたときの前記生体からの戻り光を受ける受光素子と、前記受光素子の側に設けられた第1の開口部と、前記第1の開口部と対向する側に設けられた第2の開口部と、前記第1の開口部と前記第2の開口部をつなぐ内壁部を有する貫通孔と、前記発光素子と前記受光素子との間に設けられる光を遮断する側面と、を有するフード部材と、前記受光素子で受けた前記戻り光の信号を処理する演算回路と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、脈波検出装置と生体表面との間に間隙が生じた場合においても感度よく脈波を検出することができる脈波検出装置および脈波検出方法を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、従来の脈波センサーの装着位置の概略を示す図である。
図2図2は、従来の脈波センサーの概略構成を示す図である。
図3図3は、従来の脈波センサーが正規の測定位置にあるときにPDによって検出された光の強度の時間的推移を示す模式的な図である。
図4図4は、従来の脈波センサーのPDに外乱光が入射したときにPDによって検出された光の強度の時間的推移を示す模式的な図である。
図5図5は、従来の脈波センサーにおいてPDの感度を低く設定した場合にPDによって検出された光の強度の時間的推移を示す模式的な図である。
図6図6は、従来の脈波センサーにかかるシミュレーションで用いた各種構成のレイアウトの断面図である。
図7図7は、従来の脈波センサーにかかるシミュレーションで用いた各種構成のレイアウトの斜視図である。
図8図8は、従来の脈波センサーにかかるシミュレーションによって得られた各光量を示すグラフである。
図9図9は、従来の脈波センサーにかかるシミュレーションによって得られた知見を説明するための図である。
図10図10は、実施形態の脈波センサーの斜視図である。
図11図11は、実施形態の脈波センサーの下面図である。
図12図12は、実施形態の脈波センサーを図11に示された切断線XII-XIIで切断した断面図である。
図13図13は、実施形態の脈波センサーが備える回路基板に実装された電気的な部品の構成を示す模式的な図である。
図14図14は、実施形態の脈波センサーにかかるシミュレーションで用いた各種構成のレイアウトの断面図である。
図15図15は、実施形態の脈波センサーにかかるシミュレーションで用いた各種構成のレイアウトの斜視図である。
図16図16は、実施形態の脈波センサーにかかるシミュレーションによって得られた各光量を示すグラフである。
図17図17は、実施形態の脈波センサーが正規の測定位置にあるときの光の軌跡のシミュレーション結果を示す模式的な図である。
図18図18は、実施形態の脈波センサーにかかるシミュレーションで使用した条件を説明するための図である。
図19図19は、第2の端部の開口部の半径および外壁部の位置が異なる複数の条件で実行された、実施形態の脈波センサーにかかるシミュレーションの結果を表す図である。
図20図20は、実施形態の脈波センサーにおいてマイクロコンピュータユニットが実行する脈波を検出する動作の一例を示すフローチャートである。
図21図21は、実施形態の変形例の脈波センサーの斜視図である。
図22図22は、実施形態の変形例の脈波センサーの下面図である。
図23図23は、実施形態の変形例の脈波センサーを図22に示された切断線XXIII-XXIIIで切断した断面図である。
図24図24は、変形例の脈波センサーにかかるシミュレーションで用いた各種構成のレイアウトの断面図である。
図25図25は、変形例の脈波センサーにかかるシミュレーションで用いた各種構成のレイアウトの斜視図である。
図26図26は、変形例の脈波センサーにかかるシミュレーションによって得られた各光量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、従来の反射型の脈波センサーと当該脈波センサーの問題点を説明する。従来の反射型の脈波センサーを、以降では、従来の脈波センサー200、または単に、脈波センサー200と表記する。なお、本明細書において、戻り光とは、生体の皮膚等から戻ってきた光のことを言う。
【0012】
図1は、従来の脈波センサー200の装着位置の概略を示す図である。従来の脈波センサー200は、基本的に、生体の表面に押し当てられた状態で使用される。本明細書では、生体は一例として人体であり、測定部位は一例として橈骨動脈の近傍の皮膚表面である。即ち、脈波センサー200は、本図に示されるように、手首300の内側の橈骨動脈の近傍の皮膚表面に押し当てられた状態で脈波の検出を行う。脈波センサー200の高さ方向に関し、脈波センサー200が皮膚表面に押し当てられたときの脈波センサー200の位置を、正規の測定位置、と表記する。なお、高さ方向とは、皮膚表面から離間する方向である。
【0013】
図2は、脈波センサー200の概略構成を示す図である。脈波センサー200は、回路基板201と、2個のLED(Light Emitting Diode)202と、PD203と、を備える。2個のLED202と、PD203と、は回路基板201の面に実装されている。また2個のLED202と、PD203と、は同一方向に向いている。図では、2個のLED202が間隔を空けて設けられており、2個のLED202の中間位置にPD203が設けられている。2個のLED202のそれぞれは、一例として緑色の光を射出する。2個のLED202から測定部位に射出され、緑色の光401の一部が橈骨動脈301を流れる血液に含まれるヘモグロビン302に吸収される。そして、吸収されなかった残りの一部の光402が、散乱されて皮膚表面の外に戻り、PD203によって受光される。
【0014】
心臓の鼓動に応じて血液の流量が変化することによって、橈骨動脈301が膨張および収縮を繰り返す。これによって、橈骨動脈301を流れる血液の容積が変化する。橈骨動脈301が膨張したとき、橈骨動脈301を流れる血液の容積が大きくなるので、血液を構成するヘモグロビンによる光の吸収量が大きくなる。その結果、橈骨動脈301から戻ってくる光402の強度が小さくなる。一方、橈骨動脈301が収縮したとき、橈骨動脈301を流れる血液の容積が小さくなるので、ヘモグロビンによる光の吸収量が小さくなり、その結果、橈骨動脈301から戻ってくる光402の強度が大きくなる。
【0015】
よって、従来の脈波センサー200が正規の測定位置にあるとき、PD203によって検出される光の強度、即ちPD203による検出信号の強度は、例えば図3に示されるように、周期的に変化する。この周期は、心臓の鼓動、即ち心拍に対応している。脈波センサー200は、PD203による検出信号の強度のピークの周期を演算することによって、心拍数を得ることができる。なお、脈波センサー200は、PD203による検出信号の強度の時間的推移に所定の演算を行うことによって、脈波(換言すると脈波の波形)を得ることができる。
【0016】
ここで、脈波センサー200が正規の測定位置から高さ方向にずれて脈波センサー200と皮膚表面との間に隙間ができ、その隙間を通ってPD203に外乱光が強く入射すると、例えば図4に示されるように、PD203による検出信号が飽和してしまう。これによって、ピークの検出が不可能となってしまう。
【0017】
この検出信号の飽和を抑制するために、PD203の感度を予め小さくしておくことが考えられる。しかしながら、PD203の感度を小さくすると、脈波に対応した光の成分の検出感度も低下してしまう。これによって、例えば図5に示されるように脈波に対応した信号の波形を十分に得ることができず、ピークの検出が難しくなってしまう。
【0018】
ここで、本願発明の発明者は、脈波センサー200にかかるシミュレーションを行うことにより、脈波の検出感度の悪化についての知見を得た。以下に、発明者が行ったシミュレーションおよびシミュレーションの結果から得られた知見について説明する。
【0019】
図6は、シミュレーションで用いた、人体の表面付近の組織のモデルと、従来の脈波センサー200のモデルと、のレイアウトの断面図である。また、図7は、当該レイアウトの斜視図である。
【0020】
人体の表面付近の組織は、表面側から、表皮層、真皮層、および皮下組織を含んでいる。よって、人体の表面付近の組織のモデルは、図6および図7に示されるように、表面側から、表皮層を模擬する表皮層モデル501、真皮層を模擬する真皮層モデル502、および皮下組織を模擬する皮下組織モデル503がこの順番で重ねられた層構造を含んでいる。そして、ここでは、橈骨動脈の近傍の皮膚表面を測定部位として想定している。よって、皮下組織モデル503の直下に橈骨動脈を模擬する細長い形状の橈骨動脈モデル504が設けられている。
【0021】
発明者は、表皮層モデル501の表面から高さHだけ離間した位置に、表皮層モデル501の表面に対向するように、それぞれはLED202を模擬する2つのLEDモデル512と、PD203を模擬するPDモデル513と、を配置した。発明者は、2つのLEDモデル512とPDモデル513との位置関係が図2に示された脈波センサー200にかかる2つのLED202とPD203との位置関係と対応するように、2つのLEDモデル512とPDモデル513を配置した。
【0022】
そして、発明者は、高さHが異なる複数の条件で2つのLEDモデル512から照射された光の軌跡を、コンピュータを用いてシミュレートした。そして、PDモデル513の総受光量と、橈骨動脈モデル504から戻ってきてPDモデル513に入射した光の量とを高さHが異なる条件毎に算出した。以降、橈骨動脈モデル(または橈骨動脈)から戻ってきてPDモデル(またはPD)に入射した光を、第1戻り光と表記する。
【0023】
図8は、脈波センサー200にかかるシミュレーションによって得られた各光量を示すグラフである。縦軸は、PDモデル513による受光量、換言するとPDモデル513に入射した光の量、を示す。ただし、縦軸の受光量に関し、第1戻り光の光量は、高さHがゼロであるという条件(即ち脈波センサー200が正規の測定位置にあるという条件)において得られた第1戻り光の光量で規格化されている。同様に、縦軸の受光量に関し、総受光量は、高さHがゼロであるという条件(即ち脈波センサー200が正規の測定位置にあるという条件)において得られた総受光量で規格化されている。横軸は、高さH、即ち皮膚までの距離、を示している。
【0024】
本図によれば、高さHが1.5mmの場合、高さHが0mmの場合と比べて総受光量が3倍以上に増加している。つまり、脈波センサー200の位置が正規の測定位置から高さ方向に少しでもずれると、PD203の総受光量が著しく増加し、これによってPD203の検出信号が飽和する可能性が高まる。
【0025】
発明者は、シミュレーションによって得られた光の軌跡を確認することによって、高さHが0mm以外である場合には、図9に示されるような、表皮層モデル501の表面で反射してPDモデル513に到達する光520が生じ、光520によってPDモデル513の総受光量が増加する、という知見を得た。このような、表皮層モデル(または表皮)の表面で反射してPDモデル(またはPD)に入射する光を、第2戻り光と表記する。
【0026】
第2戻り光520は、人体の内部に侵入していないため、橈骨動脈に到達することがない。つまり、第2戻り光520は、脈波の検出に寄与しない。従って、第2戻り光520の受光量の増加により総受光量が増加するとき、検出信号の飽和を防ぐためPD203の感度を低く設定したとする。このとき、総受光量に対する第1戻り光の受光量の割合が低くなってしまうので、感度よく脈波を検出することができない。
【0027】
脈波センサー200と人体表面との間に間隙が生じたときにPD203への第2戻り光520の入射を阻害することができれば、PD203の検出信号の飽和を抑制できるので、PD203の感度を低くする必要がなくなる。また、脈波センサー200と表皮層の表面との間に間隙が生じたときのPD203の総受光量に対する第1戻り光の受光量の割合の低下を抑制できる。つまり、脈波センサー200と人体表面との間に間隙が生じたときにPD203への第2戻り光520の入射を阻害することができれば、脈波を感度よく検出することが可能である。
【0028】
実施形態にかかる脈波検出装置が適用された脈波センサーは、たとえ脈波センサーと人体表面との間に間隙が生じたとしても、第2戻り光のPDへの入射を阻害する構造を有する。
【0029】
以降に、実施形態にかかる脈波検出装置が適用された脈波センサーについて説明する。以下、脈波センサーを、実施形態の脈波センサー100、または単に脈波センサー100、と表記する。
【0030】
図10は、実施形態の脈波センサー100の斜視図である。図11は、実施形態の脈波センサー100の下面図である。図12は、実施形態の脈波センサー100を図11に示された切断線XII-XIIで切断した断面図である。なお、図10図12には、互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸が描画されている。そして、Z軸方向の正側を、上方と表記し、Z軸の負方向を、下方と表記する。つまり、図11は、脈波センサー100を負方向から見た図である。脈波センサー100は、Z軸の負方向に人体の表面が接する状態で脈波の検出を行うことが想定されている。つまり、脈波センサー100がZ軸の負方向に人体の表面に接した状態の脈波センサー100の位置が、正規の測定位置とされる。
【0031】
なお、本明細書の説明において、X軸、Y軸、Z軸、正方向、負方向、正側、負側、下方、上方などのような用語により示される方位又は位置関係は、図面に示される方位又は位置関係に基づくものであり、実施形態の説明の簡単化のためのものに過ぎず、本明細書に示される脈波検出装置である脈波センサー100が特定の方位を有したり、特定の方位で構成又は操作されたりすることを示すものではない。
【0032】
図10図12に示されるように、脈波センサー100は、回路基板101、2つのLED102、PD103を備える。
【0033】
2つのLED102は、X軸の方向に間隔を空けて回路基板101にZ軸の負方向(即ち下方)に面するように実装されている。2つのLED102は、ともに下方に光を射出することができる。2つのLED102のそれぞれは、発光素子の一例である。
【0034】
また、図11に示す様に、切断線XII-XII上に、PD103、LED102の中央が位置するように並べられている。
【0035】
LED102が射出する光は、例えばヘモグロビンに強く吸収される特性を有する光であり、例えば緑色光である。
【0036】
また、発光素子は、LED102に限定されない。血液を構成する成分に強く吸収される特性を有する光を射出する素子であれば、任意の素子が発光素子として採用され得る。発光素子が射出する光は、血液を構成する成分に強く吸収される特性を有する光であれば、緑色光に限定されない。
【0037】
また、脈波センサー100に設けられるLED102の数は2つに限定されない。脈波センサー100に設けられるLED102の数は1つであってもよいし3つ以上であってもよい。
【0038】
なお、2つのLED102のうちのX軸方向の負側に設けられたLED102をLED102-1と表記することがある。2つのLED102のうちのX軸方向の正側に設けられたLED102をLED102-2と表記することがある。
【0039】
PD103は、2つのLED102の中間位置において回路基板101に実装されている。PD103は、LED102から下方に射出されて下方から戻ってきた光、を受光することができる。つまり、PD103も、Z軸の負方向に面するように回路基板101に実装されている。PD103は、受光素子の一例である。なお、受光素子はPD103に限定されない。発光素子、ここでは2つのLED102、によって射出されて戻ってくる光を受光して、受光した光の強度に応じた信号を出力することができる素子であれば、任意の素子が受光素子として採用され得る。
【0040】
図10に示すように、2つのLED102およびPD103が実装された回路基板101の面には、フード部材104が設けられている。
【0041】
フード部材104は、図11図12から判るように、遮光機能を有し、その中央に貫通孔1043を有する。
回路基板101と接する側の第1の面における貫通孔1043の開口部1046は、PD103の周囲を囲む小径の第1の円の形状を有している。また、人体の表面と接する側の第2の端部1042における貫通孔1043の開口部1047は、前記第1の円よりも大きな第2の円の形状を有する。そして、貫通孔1043は、第1の円と第2の円とをつなぐ傾斜面を有する。
つまり、貫通孔1043は、回路基板101と接する第1の面である第1の端部1041と、測定対象と接する第2の面である第2の端部1042と、前述した貫通孔1043と、2つの外壁部1044と、を備える。なお、各外壁部1044は、フード部材104の側面の一例である。
図12でも見れば、第1の端部1041は、フード部材104が備えるZ軸方向の2つの端部のうちのPD103側の端部であり、第2の端部1042は、フード部材104が備えるZ軸方向の2つの端部のうちのPD103が人体の表面と接する側の端部である。正規の測定位置においては、第2の端部1042に人体の表面が押し当てられる。
【0042】
図11に於いて、2つのLED102から射出された光が人体に照射されることなくPD103に入射する光や第2戻り光を遮るため、少なくとも2つの外壁部1044は、遮光性の材料によって構成されている。また、2つの外壁部1044は、Z軸の負方向から見たときにPD103とLED102との間に位置する。より具体的には、2つの外壁部1044のうちの1つである外壁部1044-1は、Z軸の負方向から見て、LED102-1とPD103との間に位置する。また、2つの外壁部1044のうちの他の1つである外壁部1044-2は、Z軸の負方向から見て、LED102-2とPD103との間に位置する。つまり、フード部材104の側面(外壁部1044)は、発光素子と受光素子との間に設けられている。
【0043】
LED102-1から射出されて人体の表面で反射してPD103に向かう光、つまり第2戻り光のうちの一部または全部の光の光路は、外壁部1044-1によって遮られる。また、LED102-2から射出されて人体の表面で反射してPD103に向かう光のうちの一部または全部の光の光路は、外壁部1044-2によって遮られる。これによって、LED102から射出された光が人体の表面で反射してPD103に入射することを抑制することが可能とされる。
【0044】
なお、2つの外壁部1044を構成する材料は、遮光性であれば任意である。例えば、フード部材104自体が光を吸収する材料、例えば金属またはLED102が射出する光を吸収する樹脂、などで構成されている。または、フード部材104自体が光を通す材料で構成されている場合には、2つの外壁部1044は、LED102が射出する光に対する吸収が少ない材料によってコーティング(例えば蒸着、スパッタ、めっき処理)されていてもよい。金、銀、アルミニウム等、LED102が射出する光に対する反射率が高いものであればより好ましい。
表面の凹凸は少ない方がより好ましい。
【0045】
貫通孔1043は、第1の端部1041から第2の端部1042まで貫通している。換言すると、貫通孔1043は、Z軸方向に貫通している。これによって、PD103は、LED102から生体の内部に照射され、戻ってきた散乱光、特に第1戻り光を貫通孔1043を介して受けることができる。
【0046】
貫通孔1043は、開口部1046から開口部1047に向かって1次関数的に拡径する、いわゆる線形テーパーとなるように形成されている。さらに、貫通孔1043の内壁部1045は、鏡面に仕上げられている。これによって、貫通孔1043は、第2の端部1042側の開口部1047に入射した光、特に第1戻り光、を第1の端部1041側の開口部1046に設けられたPD103に集める機能を有する。
【0047】
内壁部1045の鏡面の構造は、任意に形成され得る。例えばフード部材104が金属で構成される場合、内壁部1045の表面は、鏡面加工されていてもよい。
または、フード部材104が樹脂で構成される場合、表面が滑らかな金型を用いてフード部材104を製造する。または、フード部材104の素材に関わらず、例えばアルミニウム、または金などの反射する材料で内壁部1045を鏡面構造にすることができる。
【0048】
図12では、LED102-1の下方には保護部材105-1が、LED102-2の下方には保護部材105-2が、それぞれ設けられている。保護部材105-1および保護部材105-2は、一例では、透明な材料、例えば透明な樹脂または透明なガラス、で構成されており、LED102が射出した光を透過することができる。LEDの劣化を抑止するためである。
保護部材105-1、105-2は、LED102が射出した光を通過することができれば、必ずしも透明な材料によって構成されていなくてもよい。
【0049】
また、保護部材105-1および保護部材105-2の下方側の端面は、第2の端部1042と面一とされている。これによって、第2の端部1042が人体の表面に押し当てられたとき、人体、つまり被験者は、第2の端部1042の境界で段差を感じることがない。また、表皮が傷ついたり、表皮に跡が残ったりすることがない。つまり、被験者にとっての快適性を高めることができる。尚、前記下方側の端面は、寸法が小さくても良い。
【0050】
また、保護部材105-1、105-2は、LED102が射出した光を通す孔を有する枠体であってもよい。
【0051】
なお、ここでは貫通孔1043は、中空構造とされている。貫通孔1043は中空構造でなくてもよい。例えば、貫通孔1043の一部または全部に、透明な材料、例えば透明な樹脂または透明なガラス、が充填されていてもよい。また、第2の端部1042の側の開口部のみ透明な材料、例えば透明な樹脂または透明なガラスで塞がれていてもよい。貫通孔1043に充填される材料は、LED102が射出した光を透過することができれば、必ずしも透明な材料でなくてもよい。
この構成により、湿気などから保護でき、PD103の劣化を防止できる。
【0052】
図13は、実施形態の脈波センサー100の回路ブロック図であり、回路基板101に実装され電気的な部品の構成を示す模式的な図である。本図に示されるように、回路基板101には、前述された2つのLED102およびPD103のほかに、マイクロコンピュータユニット111と、ゲイン回路112と、が実装されている。マイクロコンピュータユニット111は、PD103で受けた戻り光の信号を処理する演算回路の一例である。
【0053】
マイクロコンピュータユニット111は、プロセッサと、メモリと、を備える回路である。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)である。メモリは、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、またはこれらの組み合わせである。なお、メモリの一部または全部はマイクロコンピュータユニット111の外部に設けられていてもよい。メモリは、コンピュータプログラムが予め格納される不揮発性のメモリを少なくとも備える。
【0054】
マイクロコンピュータユニット111は、プロセッサがメモリに予め格納されているコンピュータプログラムを実行することによって、LED102の点灯/消灯を行ったり、PD103による検出信号に基づいて脈波を検出したりすることができる。
【0055】
PD103は、ゲイン回路112を介してマイクロコンピュータユニット111に接続されている。ゲイン回路112は、PD103からの電気的な信号を増幅する回路である。PD103が受光した光の量に応じて出力した信号は、ゲイン回路112によって増幅され、PD103による検出信号としてマイクロコンピュータユニット111に入力される。
【0056】
PD103で受けた戻り光の信号に対する処理の一例として、マイクロコンピュータユニット111は、PD103による検出信号を逐次取得した検出信号に基づいて脈波を演算する。マイクロコンピュータユニット111は、さらに、脈波に基づいて心拍数を演算してもよい。
【0057】
マイクロコンピュータユニット111は、脈波または心拍数などの演算結果を出力することができる。例えば、マイクロコンピュータユニット111にOELD(Organic Electroluminescent Display)またはLCD(Liquid Crystal Display)などの表示装置が接続され、マイクロコンピュータユニット111は演算結果を示す画像を当該表示装置に出力してもよい。または、マイクロコンピュータユニット111に音声スピーカが接続され、マイクロコンピュータユニット111は、演算結果を音声情報として当該音声スピーカから出力してもよい。または、マイクロコンピュータユニット111に無線または有線で通信を行う通信インタフェースが接続され、マイクロコンピュータユニット111は、演算結果を表すデータを、通信インタフェースを介して外部の装置に送信してもよい。
【0058】
発明者は、脈波センサー100のシミュレーションを行い、以下に光の軌跡について議論する。
【0059】
図14は、実施形態の脈波センサー100にかかるシミュレーションで用いた各種構成のレイアウトの断面図であり、図15は、当該レイアウトの斜視図である。
図14および図15に示されるように、発明者は、表皮層モデル501の表面から高さHだけ離間した位置に第2の端部1042が位置するように、フード部材104を模擬するフード部材モデル614と、LED102-1を模擬するLEDモデル612-1と、LED102-2を模擬するLEDモデル612-2と、PD103を模擬するPDモデル613と、を配置した。
【0060】
図16は、実施形態の脈波センサー100にかかるシミュレーションによって得られた各光量を示すグラフである。縦軸は、PDモデル613による受光量を示す。ただし、縦軸の受光量に関し、第1戻り光の光量は、高さHがゼロであるという条件(即ち脈波センサー100が正規の測定位置にあるという条件)において得られた第1戻り光の光量で規格化されている。同様に、総受光量は、高さHがゼロであるという条件において得られた総受光量で規格化されている。
横軸は、高さHを示す。
本図から、たとえ高さHが0mmでなくても、PD103に入射する光のほとんどは第1戻り光であることが読み取れる。
【0061】
即ち、脈波センサー100の位置が正規の測定位置から高さ方向にずれたとしても、第2戻り光がPD103に入射することが阻害され脈波センサー100の位置が正規の測定位置から高さ方向にずれたとしても総受光量の増大が抑制されるので、PD103の感度を低く設定する必要がない。つまり、PD103の感度を高く設定することができる。また、脈波センサー100の位置が正規の測定位置から高さ方向にずれたとしても脈波の検出に寄与しない他の光(例えば第2戻り光)のPD103への入射はわずかであり、総受光量に対する第1戻り光の受光量の割合を高くすることができる。よって、感度よく脈波を検出することが可能である。
【0062】
図17は、実施形態の脈波センサー100が正規の測定位置にあるときの光の軌跡のシミュレーション結果を示す模式的な図である。本図において、点線は、LEDモデル612-1から射出された光の軌跡を示している。また、1点鎖線は、LEDモデル612-2から射出された光の軌跡を示している。
本図から、人体の内部から戻ってきて開口部1047に入射した光は、テーパー形状でかつ鏡面構造の内壁部1045によって開口部1046側に集光され、PD103に入射されていることが分かる。第1戻り光をテーパー形状でかつ光を反射する構造を有する内壁部1045によって集光することができるので、PD103に入射する第1戻り光の光量を増やすことができる。これによって、脈波の検出精度を高くすることができる。
【0063】
発明者は、さらに、第2の端部1042の開口部の半径および外壁部1044の位置が異なる複数の条件でシミュレーションを行った。
発明者は、図18に示されるように、第2の端部1042の開口部の半径をRとし、2つの外壁部1044の位置をX軸方向においてPD103の中心からRだけ離間した位置に設定した。発明者は、第1の端部1041における開口部の半径は固定した。なお、内壁部1045の形状は線形テーパーであることとしているので、Rに応じて内壁部1045の傾斜が変わる。
脈波センサー100の位置は正規の測定位置とした。PD103の中心とLED102の中心との間の距離をLと表記する。
【0064】
図19は、第2の端部1042の開口部の半径Rおよび外壁部1044の位置が異なる複数の条件で実行された、実施形態の脈波センサー100にかかるシミュレーションの結果を表す図である。本図において、縦軸は、第1戻り光の受光量をPD103の総受光量で除算して得られる値を示す。ただし、この縦軸の値は、R/Lが0.5であるという条件において得られた値で規格化されている。この縦軸の値を、受光効率と表記する。横軸は、R/Lを示す。本図から、R/Lが2/3であるときに最も受光効率が高くなることが読み取れる。
図19の通り、R/Lが約2/3の時、受光効率が最も高く、1.9前後であった。設計上、受光効率を1.4以上にしたい場合、R/Lは0.6~0.85の範囲にすることが好ましい。
【0065】
R/Lが小さすぎると(例えばR/L=0.5の場合)、第1戻り光の集光量が小さくなり、受光効率が小さくなる。また、R/Lが大きすぎると(例えばR/L=1.0の場合)、外壁部1044がLED102から人体に侵入する光の邪魔となるため、受光効率が小さくなる。結果として、R/L=2/3あたりで、受光効率が最大化する。
なお、R/Lは必ずしも2/3でなくてもよい。R/Lは0.6~0.85の範囲にすれば、受光効率を1.4以上とすることが可能である。
【0066】
図20は、マイクロコンピュータユニット111が脈波を検出する動作のフローチャートである。
【0067】
まず、マイクロコンピュータユニット111は、2つのLED102を点灯させる(S101)。これによって、人体に光を照射することができる。そして、PD103は、人体からの戻り光を、貫通孔1043を介して受けることができる。
【0068】
続いて、マイクロコンピュータユニット111は、PD103による検出信号のサンプリングを開始する(S102)。マイクロコンピュータユニット111は、PD103による検出信号のサンプリングを所定の周期で実行し、逐次得られた検出信号をメモリに蓄積する。
【0069】
そして、マイクロコンピュータユニット111は、メモリに蓄積された検出信号の群に基づいて脈波を演算する(S103)。そして、マイクロコンピュータユニット111は、演算によって得られた脈波を出力する(S104)。
【0070】
そして、マイクロコンピュータユニット111は、脈波の検出を終了するか否かを判定する(S105)。脈波の検出を終了するか否かの判定の方法は任意である。例えば、マイクロコンピュータユニット111は、脈波の検出をオン/オフする外部からの指示を受け付けることができる。マイクロコンピュータユニット111は、脈波の検出をオフする指示を受け付けたか否かに基づいて脈波の検出を終了するか否かを判定することができる。
【0071】
脈波の検出を終了しない場合(S105:No)、制御がS103に移行する。脈波の検出を終了する場合(S105:Yes)、マイクロコンピュータユニット111は、PD103による検出信号のサンプリングを停止し(S106)、2つのLED102を消灯し(S107)、一連の動作を終了する。
【0072】
なお、図20では、マイクロコンピュータユニット111は脈波を出力の対象とするように設定されている場合の動作を説明した。マイクロコンピュータユニット111は心拍数を出力の対象とするように設定されていてもよい。そのような場合には、マイクロコンピュータユニット111は、S103の後、脈波に基づいて心拍数を演算し、S104では、心拍数を出力する。
【0073】
(変形例)
以上の説明では、貫通孔1043の形状はテーパー形状であることとして説明した。貫通孔1043の形状は必ずしもテーパー形状でなくてもよい。以下に、実施形態の変形例として、貫通孔1043の形状がテーパー形状と異なる場合について説明する。実施形態の変形例の脈波センサー100を、変形例の脈波センサー100と表記する。
【0074】
図21は、変形例の脈波センサー100の斜視図である。図22は、変形例の脈波センサー100の下面図である。図23は、変形例の脈波センサー100を図22に示された切断線XXIII-XXIIIで切断した断面図である。
【0075】
図21図23に示されるように、第1の端部1041の側の開口部および第2の端部1042の側の開口部はいずれも円形であり、半径も等しい。つまり、変形例においては、貫通孔1043は円柱の形状を有している。さらに、変形例においても、前述された実施形態と同様に、内壁部1045には光を反射する構造が設けられている。
【0076】
発明者は、変形例の脈波センサー100についても光の軌跡のシミュレーションを行った。
【0077】
図24は、変形例の脈波センサー100にかかるシミュレーションで用いた各種構成のレイアウトの断面図であり、図25は、当該レイアウトの斜視図である。図24および図25に示されるように、発明者は、表皮層モデル501の表面から高さHだけ離間した位置に第2の端部1042が位置するように、変形例にかかるフード部材104を模擬するフード部材モデル614と、LED102-1を模擬するLEDモデル612-1と、LED102-2を模擬するLEDモデル612-2と、PD103を模擬するPDモデル613と、を配置した。
【0078】
図26は、変形例の脈波センサー100にかかるシミュレーションによって得られた各光量を示すグラフである。縦軸は、PDモデル613による受光量を示す。ただし、縦軸の受光量に関し、第1戻り光の光量は、高さHがゼロであるという条件(即ち脈波センサー100が正規の測定位置にあるという条件)において得られた第1戻り光の光量で規格化されている。同様に、総受光量は、高さHがゼロであるという条件(即ち脈波センサー100が正規の測定位置にあるという条件)において得られた総受光量で規格化されている。横軸は、高さHを示している。
【0079】
図26からは、脈波センサー100の位置が正規の測定位置から高さ方向にずれたとしても総受光量の増大が抑制されていることが読み取れる。つまり、変形例においても、PD103の感度を低く設定する必要がない。換言すると、PD103の感度を高く設定することができる。また、たとえ高さHが正規の測定位置から1~2mm程度ずれたとしても、第1戻り光が総受光量の半分以上を占めることが読み取れる。つまり、実施形態の脈波センサー100には及ばないものの、従来の脈波センサー200と比較して、高さHが正規の測定位置からずれた際の総受光量に対する第1戻り光の受光量の割合を高くすることができる。よって、変形例においても、感度よく脈波を検出することが可能である。
【0080】
なお、実施形態およびその変形例によれば、生体の一例として人体を挙げた。生体は人体だけに限定されない。例えば、生体は、人体以外の動物であってもよい。また、測定部位の一例として、橈骨動脈の近傍の皮膚表面を挙げた。測定部位はこれに限定されない。例えば、橈骨動脈以外の血管の近傍の皮膚表面を測定部位とすることができる。
【0081】
以上述べたように、実施形態およびその変形例によれば、脈波センサー100は、フード部材104と、発光素子としてのLED102と、受光素子としてのPD103と、演算回路としてのマイクロコンピュータユニット111と、を備える。フード部材104は、受光素子の側に設けられた第1の開口部としての開口部1046と、第1の開口部と対向する側に設けられた第2の開口部としての開口部1047と、第1の開口部と第2の開口部をつなぐ内壁部1045を有する貫通孔1043と、発光素子と受光素子との間に設けられる光を遮断する側面としての外壁部1044と、を有する。PD103は、光が生体(実施形態およびその変形例では一例として人体)に照射されたときの生体からの戻り光を受ける。マイクロコンピュータユニット111は、PD103が受けた戻り光の信号を処理する。
【0082】
よって、PD103の感度を高く設定することができ、かつ、脈波センサー100の位置が正規の測定位置から高さ方向にずれたとしても総受光量に対する第1戻り光の受光量の割合を高く保つことができる。その結果、脈波センサー100と人体表面との間に間隙が生じた場合においても、脈波を精度よく検出することが可能である。
【0083】
また、実施形態およびその変形例によれば、従来の脈波センサー200にフード部材104を設けるだけで、脈波の検出精度を向上させることができる。よって、脈波の検出精度の向上を安価に実現することが可能である。
【0084】
また、実施形態およびその変形例によれば、開口部1046の寸法は、PD103の寸法に対応する。換言すると、PD103の外縁の近傍に内壁部1045が位置するように、開口部1046の寸法が決定されている。
【0085】
これによって、開口部1047に入射して開口部1046側に集光された光、特に第1戻り光を、効率よくPD103に入射させることが可能である。
【0086】
また、実施形態およびその変形例によれば、貫通孔1043の内壁部1045は、LED102から射出され生体から戻ってきた光を反射する構造を有する。
【0087】
よって、生体に照射され、その後に第2の端部1042の開口部に入射した光を、内壁部1045での反射によってPD103に集光することができる。
【0088】
なお、貫通孔1043の内壁部1045は必ずしも光を反射する構造を有さなくてもよい。貫通孔1043の内壁部1045は光を反射する構造を有さなくても、外壁部1044によって第2戻り光を遮ることができるので、PD103の感度を高く設定することができ、脈波検出装置と人体表面との間に間隙が生じた場合においても脈波を精度よく検出することが可能である。
【0089】
また、実施形態によれば、貫通孔1043の内壁部1045は、開口部1046から開口部1047に向かって拡径するテーパー形状を有する。
【0090】
これによって、生体からの戻り光をPD103に多く集光することができる。
【0091】
なお、変形例として説明したように、貫通孔1043の内壁部1045は必ずしもテーパー形状を有さなくてもよい。貫通孔1043の内壁部1045の形状は、円柱状であってもよい。
【0092】
また、貫通孔1043の内壁部1045の形状は、角柱状であってもよい。また、貫通孔1043の内壁部1045は、指数関数テーパーや放物線テーパーなど、実施形態として説明した線形テーパーとは異なるテーパーの形状を有していてもよい。また、貫通孔1043の内壁部1045がテーパー形状を有している場合であっても、貫通孔1043のXY平面に平行な面で切断した断面の形状は、円形でなくてもよい。貫通孔1043のXY平面に平行な面で切断した断面の形状は、多角形であってもよいし、楕円形であってもよい。
【0093】
また、実施形態によれば、R/Lが0.6~0.85の範囲内となるように第2の端部1042の開口部の半径および外壁部1044の位置を設定することができる。換言すると、PD103から外壁部1044までの距離をLED102とPD103との間の距離で除算して得られる値が0.6~0.85の範囲内となるように、フード部材104を設けることができる。
【0094】
これによって、脈波の検出感度を所定のレベル以上(例えば受光効率を1.4以上)とすることが可能となる。
【0095】
また、PD103から外壁部1044までの距離をLED102とPD103との間の距離で除算して得られる値が2/3となるようにフード部材104を設けることができれば、脈波の検出感度を最大にすることが可能である。
【0096】
なお、PD103から外壁部1044までの距離をLED102とPD103との間の距離で除算して得られる値に関する説明は、貫通孔1043のXY平面に平行な面で切断した断面の形状が円形でない場合であっても成立し得る。
【0097】
つまり、貫通孔1043のXY平面に平行な面で切断した断面の形状が円形でない場合であっても、PD103から外壁部1044までの距離をLED102とPD103との間の距離で除算して得られる値が0.6~0.85の範囲内となるようにフード部材104を設ければ、脈波の検出感度を所定のレベル以上とすることができる。
【0098】
また、貫通孔1043のXY平面に平行な面で切断した断面の形状が円形でない場合であっても、PD103から外壁部1044までの距離をLED102とPD103との間の距離で除算して得られる値が2/3となるようにフード部材104を設ければ、脈波の検出感度を最大にすることが可能である。
【0099】
なお、実施形態およびその変形例によれば、第2の端部1042に生体の表面が押し当てられた状態で、脈波の検出が行われる。
【0100】
また、実施形態およびその変形例によれば、LED102-1、102-2の下方に保護部材105-1、105-2が設けられていることによって、LED102-1、102-2は保護部材105-1、105-2によって覆われている。
【0101】
よって、生体が触れることによるLED102-1およびLED102-2の劣化を抑制することが可能である。
【0102】
また、保護部材105-1、105-2の端部は、第2の端部1042と面一とされている。
【0103】
よって、被験者にとっての快適性を高めることができる。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0105】
100 脈波センサー、101 回路基板、102,102-1,102-2 LED、103 PD、104 フード部材、105-1,105-2 保護部材、111 マイクロコンピュータユニット、112 ゲイン回路、200 脈波センサー、201 回路基板、202 LED、203 PD、300 手首、301 橈骨動脈、302 ヘモグロビン、401,402 光、501 表皮層モデル、502 真皮層モデル、503 皮下組織モデル、504 橈骨動脈モデル、512,612-1,612-2 LEDモデル、513,613 PDモデル、520 第2戻り光、614 フード部材モデル、1041 第1の端部、1042 第2の端部、1043 貫通孔、1044,1044-1,1044-2 外壁部、1045 内壁部、1046,1047 開口部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
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図26