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特開2022-90478アントラキノン法による過酸化水素製造用触媒の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090478
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】アントラキノン法による過酸化水素製造用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 38/64 20060101AFI20220610BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20220610BHJP
   C01B 15/023 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
B01J38/64
B01J23/44 M
C01B15/023 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020202901
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】成田 光
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 泰宏
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA10
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA06A
4G169BA06B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169CB81
4G169DA05
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB45
4G169FC01
4G169FC03
4G169FC04
(57)【要約】
【課題】アントラキノン法による過酸化水素製造用の触媒であって、優れた性能を有する触媒の製造方法の確立が望まれている。
【解決手段】本発明は、アントラキノン法による過酸化水素製造用触媒の製造方法であって、担体または前記担体に遷移金属を担持した触媒を、pH12以上のアルカリ水溶液で処理する、製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントラキノン法による過酸化水素製造用触媒の製造方法であって、
担体または前記担体に遷移金属を担持した触媒を、pH12以上のアルカリ水溶液で処理する、製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ水溶液の濃度が、0.01~10質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ水溶液が、強塩基水溶液である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記強塩基水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液および炭酸ナトリウム水溶液からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
20~100℃で処理する、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記過酸化水素製造用触媒が、水素化反応触媒または再生触媒である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記遷移金属が、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
処理対象の前記担体が、アルミナ、アルミナ・マグネシア、シリカおよびシリカ・アルミナからなる群から選択される少なくとも1種の担体または該担体とアルカリ土類金属酸化物との複合担体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ土類金属酸化物が、MgO、CaO、BaOおよびSrOからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ水溶液のpHが13~14である、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記担体または触媒が、未使用の担体または触媒である、請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
60℃より高く100℃より低い温度で処理する、請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記アルカリ水溶液の濃度が、0.1質量%以上0.5質量%未満である、請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
担体に遷移金属が担持されており、ホウ素含有量が0.001質量%以下である、過酸化水素製造用触媒。
【請求項15】
アントラキノン法において、請求項14に記載の過酸化水素製造用触媒を使用する、過酸化水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラキノン法による過酸化水素製造用触媒の製造方法などに関し、より詳細には、ホウ素含有量が低減された、アントラキノン法による過酸化水素製造用触媒の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
現在工業的に行われている過酸化水素の主な製造方法は、アントラキノン、テトラヒドロアントラキノン、アルキルアントラキノンまたはアルキルテトラヒドロアントラキノン(以下、アントラキノン類と総称することがある。)を反応媒体とする、アントラキノン法である。アントラキノン類は、通常、極性有機溶媒と非極性有機溶媒の2種類の混合溶媒に溶解した状態で用いられる。この混合溶媒にアントラキノン類を溶かして調製した溶液は、作動溶液(WS:Working Solution)と呼ばれる。
【0003】
アントラキノン法は、主に水添工程、酸化工程および抽出工程からなる。水添工程では、作動溶液中のアントラキノン類を触媒存在下で水素化し、対応するアントラヒドロキノン類を生成させる水添処理を実施する。次いで行われる酸化工程では、得られたアントラヒドロキノン類を空気または酸素を含む気体で酸化してアントラキノン類に戻すが、この時、過酸化水素が生成し、作動溶液に溶解する。続く抽出工程では、生成した過酸化水素を水により抽出し、作動溶液から分離する。図1に示すように、抽出工程後の作動溶液は、再び水添工程に戻され、酸化工程、抽出工程・・・と連続使用される。
【0004】
過酸化水素の製造工程を繰り返すうち、作動溶液中では、副反応によってアンスロンなどのアントラキノン誘導体が生じるようになる。アントラキノン誘導体の副生量は1パス当たりでは非常に少ないが、過酸化水素製造プロセスを繰り返すうちに作動溶液中に蓄積し、種々の障害を起こす原因となる。そのため、アントラキノン法を連続的に実施する場合には、図1に示すように、抽出工程後水添工程前に作動溶液の一部を抜き取って、これを再生する再生工程も行われる。
【0005】
アントラキノン法に用いる過酸化水素製造用触媒に関し、特許文献1~3には、アントラキノン法を連続的に実施したことにより劣化した触媒を再生する方法が開示されている。しかしながら、触媒そのものの性能を高める方法については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-314400
【特許文献2】特開2007-297248
【特許文献3】特開昭47-023386
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アントラキノン法による過酸化水素製造用の触媒であって、優れた性能を有する触媒の製造方法の確立が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を提供し得る。
[1]アントラキノン法による過酸化水素製造用触媒の製造方法であって、
担体または前記担体に遷移金属を担持した触媒を、pH12以上のアルカリ水溶液で処理する、製造方法。
[2]前記アルカリ水溶液の濃度が、0.01~10質量%である、上記[1]に記載の製造方法。
[3]前記アルカリ水溶液が、強塩基水溶液である、上記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記強塩基水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液および炭酸ナトリウム水溶液からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[3]に記載の製造方法。
[5]20~100℃で処理する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記過酸化水素製造用触媒が、水素化反応触媒または再生触媒である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記遷移金属が、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]処理対象の前記担体が、アルミナ、アルミナ・マグネシア、シリカおよびシリカ・アルミナからなる群から選択される少なくとも1種の担体または該担体とアルカリ土類金属酸化物との複合担体である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]前記アルカリ土類金属酸化物が、MgO、CaO、BaOおよびSrOからなる群から選択される少なくとも1種である、上記[8]に記載の製造方法。
[10]前記アルカリ水溶液のpHが13~14である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]前記担体または触媒が、未使用の担体または触媒である、上記[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]60℃より高く100℃より低い温度で処理する、上記[1]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]前記アルカリ水溶液の濃度が、0.1質量%以上0.5質量%未満である、上記[1]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]担体に遷移金属が担持されており、ホウ素含有量が0.001質量%以下である、過酸化水素製造用触媒。
[15]アントラキノン法において、上記[14]に記載の過酸化水素製造用触媒を使用する、過酸化水素の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、担体または触媒に含まれるホウ素成分を除去することで、過酸化水素の製造工程への悪影響の少ない優れた性能の触媒を製造することができる。また、優れた性能の触媒を用いてアントラキノン法により過酸化水素を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】アントラキノン法による過酸化水素の製造工程を示す。
図2】比較例1~6と実施例1~5における、pHとホウ素溶出量の関係を示す。
図3】実施例6~8と比較例7における、pHとホウ素溶出量の関係を示す。
図4】実施例6~8における、洗浄温度とホウ素溶出量の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
アントラキノン法による過酸化水素製造用触媒の製造方法
本発明の一態様は、アントラキノン法による過酸化水素製造用触媒の製造方法(以下、本発明の製造方法と呼ぶことがある。)に関する。本発明の製造方法においては、担体または前記担体に遷移金属を担持した触媒をアルカリ水溶液で処理する。
【0012】
被処理担体は、特に制限されないが、例えばシリカ、シリカ・アルミナ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、アルミナ・マグネシア、マグネシア、シリカ・チタニア、ゼオライト、活性炭、有機ポリマー、シリカ・アルミナ複合酸化物、シリカ・チタニア複合酸化物、アルミナ・チタニア複合酸化物、およびこれらの物理的混合物などを挙げることができる。また、被処理担体は、上記の担体とアルカリ土類金属酸化物との複合担体であってもよい。
【0013】
好適には、被処理担体は、アルミナ、アルミナ・マグネシア、シリカおよびシリカ・アルミナからなる群から選択される少なくとも1種の担体または該担体とアルカリ土類金属酸化物との複合担体である。アルカリ土類金属としては、MgO、CaO、BaOおよびSrOからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0014】
より好適には、被処理担体は、アルミナ・マグネシアである。
【0015】
アルミナ・マグネシアにおけるマグネシアの割合は1~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
【0016】
被処理担体の粒子径、粒子形状および全細孔容積は、特に制限はなく、水素化反応触媒や再生触媒を使用する反応器の形状などに応じて適宜選択することができる。
【0017】
粒子形状としては、不定形、球状、円柱、三つ葉、四つ葉、リングなどが例示される。
【0018】
例えば、機械攪拌式または懸濁気泡塔式の反応器用とする場合、通常、被処理担体の粒子形状は、不定形または球状が好ましい。固定床式の水素化反応器用または再生反応容器用とする場合、球状粒子または破砕粒子が好ましく、ペレットがより好ましい。
【0019】
粒径は、メジアン径で1μm~10mmが好ましい。例えば、機械攪拌式または懸濁気泡塔式の反応器用とする場合、通常、被処理担体のメジアン径が1~200μmであることが好ましく、20~180μmであることがより好ましく、30~150μmであることがさらに好ましい。固定床式の水素化反応器用または再生反応容器用とする場合、メジアン径は0.1~10mmが好ましく、0.5~3mmがより好ましい。
【0020】
メジアン径は、その値が小さく、例えば1~200μmである場合、レーザー回折/散乱法で分析することができる。その値が大きく、例えば0.1~10mmである場合、マイクロスコープ画像の解析によって測定することができる。
【0021】
全細孔容積としては、0.2~2.0ml/gが好ましい。
【0022】
全細孔容積は、BET法により測定することができる。
【0023】
遷移金属としては、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。遷移金属は、単体であっても化合物であってもよい。化合物としては、反応条件下で容易に還元されて金属となる観点から、酸化物が好適である。遷移金属は、単体または酸化物であることが好ましい。
【0024】
遷移金属は、通常、担体に対して0.1~10質量%の量で担持されることが好ましく、0.1~5質量%の量で担持されることがより好ましく、0.1~3質量%の量で担持されることが特に好ましい。
【0025】
被処理担体または被処理触媒は、未使用のものであっても、アントラキノン法による過酸化水素製造に使用された使用済みのものであってもよいが、未使用のものであることが好ましい。
【0026】
アルカリ水溶液に含まれるアルカリ金属は、周期表第Ia族のアルカリ金属であればよい。アルカリ水溶液の調製に用いるアルカリ金属塩としては、例えば、LiOH、NaOH、NaCO、NaHCO、Na、Na、NaBO、NaNO、NaBO、NaHPO、NaPO、NaSiO、NaSi、NaSi、NaSnO、NaS、Na、NaWO、Al、KOH、BHK、KCO、KCN、KNO、COK、KHPO、KPO、K、KSnO、K1835、KSbS、CKSOなどが例示される。
【0027】
アルカリ水溶液は、好適には強塩基水溶液であり、より好適には水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液および炭酸ナトリウム水溶液からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0028】
アルカリ水溶液のpHは、12以上であり、好適には13~14である。pHが過度に低いと、処理対象の担体または触媒に含まれているホウ素を十分に除去することができない虞がある。
【0029】
アルカリ水溶液の濃度は、pHが上記した範囲となるように適宜決定されるが、下限値は好適には0.01質量%であり、より好適には0.1質量%である。上限値は、好適には10質量%であり、より好適には5質量%であり、さらに好適には1質量%未満であり、特に好適には0.5質量%未満である。アルカリ水溶液の濃度の好適な数値範囲は、0.01~10質量%、0.01~5質量%、0.01質量%以上1質量%未満、0.01質量%以上0.5質量%未満、0.1~10質量%、0.1~5質量%、0.1質量%以上1質量%未満または0.1質量%以上0.5質量%未満である。
【0030】
処理対象として、使用済みの触媒を用いる場合には、予め無極性有機溶媒または作動溶液に用いられる溶媒により洗浄処理し、次いで乾燥または水洗しておいてもよい。
【0031】
本発明の製造方法においては、担体または担体に遷移金属を担持した触媒をアルカリ水溶液で処理する。処理は、担体または触媒をアルカリ水溶液に投入して一定時間接触させることにより行う。このとき、攪拌を行うことが好ましい。攪拌速度は、特に制限されず、反応系の大きさなどに応じて適宜決定することができる。
【0032】
処理時のアルカリ水溶液の温度は、20~100℃、20~90℃、30℃より高く100℃以下、60~100℃または60℃より高く100℃より低い温度が好ましい。あるいは、別の好適な態様においては、60℃以上が好ましい。加熱温度が過度に低いと、ホウ素成分の除去効率が低下する虞がある。
【0033】
処理時間は、特に制限されず、反応系の大きさなどに応じて適宜決定することができるが、好ましくは約1分以上、より好ましくは30分以上、更に好ましくは30分~1時間である。
【0034】
アルカリ水溶液による処理後の担体または触媒を、フィルターろ過などによりアルカリ水溶液と分離し、必要に応じて洗浄、乾燥などの後処理を行ってもよい。
【0035】
担体を処理した場合には、その後、前述した遷移金属を公知の方法により担持させて、アントラキノン法による過酸化水素製造用触媒を得る。
【0036】
かくして、アントラキノン法による過酸化水素の製造に用いられる触媒を製造することができる。本発明の製造方法により得られた触媒においては、従来不純物として含まれていたホウ素成分の含有量が低減されている。そのため、ホウ素成分による過酸化水素の製造工程への悪影響を低減することができる。
【0037】
本発明の製造方法により得られる触媒は、アントラキノン法の水添工程(水素化反応工程ともいう)で水素化反応触媒として使用することもでき、再生工程で再生触媒として使用することもできる。再生触媒として使用することが好ましい。
【0038】
過酸化水素製造用触媒
本発明の別の態様は、担体に遷移金属が担持されており、ホウ素含有量が少ない、過酸化水素製造用触媒(以下、本発明の触媒と呼ぶことがある。)に関し、好適にはアントラキノン法による過酸化水素製造用触媒に関する。好適には、本発明の触媒は、本発明の製造方法により製造されたものである。
【0039】
ホウ素含有量は、好適には、0.001質量%以下である。下限は、0.000質量%以上であり、より好適には0.000質量%より大である。
【0040】
このようにホウ素含有量が少ない触媒をアントラキノン法による過酸化水素の製造、特に水添工程または再生工程で使用すると、生成する過酸化水素にホウ素成分が混入することを防ぐことができる。
【0041】
本発明の触媒における「担体」と「遷移金属」の詳細は、「アントラキノン法による過酸化水素製造用触媒の製造方法」の項で説明したとおりである。
【0042】
アントラキノン法による過酸化水素の製造
本発明の別の態様は、アントラキノン法において、本発明の触媒を使用する、過酸化水素の製造方法(以下、本発明の過酸化水素の製造方法と呼ぶことがある。)を提供する。
【0043】
アントラキノン法では、アントラキノン類を有機溶媒に溶解させた作動溶液を用いる。
【0044】
使用するアントラキノン類としては、アントラキノン、テトラヒドロアントラキノン、アルキルアントラキノン、アルキルテトラヒドロアントラキノンが挙げられる。以下、アントラキノンとアルキルアントラキノンを、(アルキル)アントラキノンと総称することがある。また、テトラヒドロアントラキノンとアルキルテトラヒドロアントラキノンを、(アルキル)テトラヒドロアントラキノンと総称することがある。(アルキル)アントラキノンおよび(アルキル)テトラヒドロアントラキノンは、各々が複数の(アルキル)アントラキノンおよび(アルキル)テトラヒドロアントラキノンの混合物であってもよい。(アルキル)アントラキノンとしては、アントラキノン、エチルアントラキノン、t-ブチルアントラキノン、アミルアントラキノンなどが例示される。(アルキル)テトラヒドロアントラキノンとしては、テトラヒドロアントラキノン、エチルテトラヒドロアントラキノン、t-ブチルテトラヒドロアントラキノン、アミルテトラヒドロアントラキノンなどが例示される。
【0045】
アントラキノン類が有するアルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、エチル基、ブチル基またはアミル基が特に好ましい。
【0046】
有機溶媒としては、非極性溶媒と極性溶媒のいずれも使用可能であるが、非極性溶媒と極性溶媒の混合溶媒が好ましい。非極性溶媒としては、芳香族炭化水素類、具体的には、ベンゼンまたは炭素数1~5のアルキル置換基を含むベンゼン誘導体などが挙げられる。ベンゼン誘導体としては、例えばプソイドクメンが挙げられる。極性溶媒としては、ジイソブチルカルビノールなどの高級アルコール、カルボン酸エステル、四置換尿素、環状尿素、トリオクチルリン酸などが例示される。好ましい有機溶媒は、芳香族炭化水素と高級アルコールとの組み合わせ、または、芳香族炭化水素とシクロヘキサノール、アルキルシクロヘキサノールのカルボン酸エステルもしくは四置換尿素の組み合わせである。
【0047】
非極性有機溶媒と極性有機溶媒を混合する場合、混合比(体積)は、非極性有機溶媒:極性有機溶媒=9:1~1:9が好ましく、8:2~2:8がより好ましく、4:6~6:4が特に好ましい。
【0048】
図1を参照し、アントラキノン法では、作動溶液に水素を添加する水添処理を行う。これにより、作動溶液中のアントラキノン類を水素化し、対応するアントラヒドロキノン類を生成させる(水添工程)。次いで、得られたアントラヒドロキノン類を空気または酸素を含む気体で酸化してアントラキノン類に戻すが、この時、過酸化水素が生成し、作動溶液に溶解する(酸化工程)。次いで、生成した過酸化水素を水で抽出し、作動溶液から分離する(抽出工程)。過酸化水素は、その後、常法に従っての精製工程と濃縮工程に供され、製品化される。一方、抽出工程後の作動溶液は、水添工程に供され、以後、酸化工程、抽出工程・・・に繰り返し使用される。
【0049】
抽出工程後水添工程前には、必要に応じて、作動溶液の一部を抜き取って、これを再生する再生工程を行うことができる。作動溶液の再生は、過酸化水素の連続製造によって生じる副生物を蒸留や化学反応などの公知の手段により除去し、不純物除去後の作動溶液を過酸化水素製造工程に戻すことにより行うことができる。
【0050】
水添工程においては、作動溶液に触媒を添加し、水素化反応に供する。水素化反応触媒として、本発明の触媒を用いることが好ましい。触媒の使用量は、反応系の大きさなどに応じて適宜決定することができるが、作動溶液中の触媒スラリー濃度として1~100g/l、特に5~100g/lの量で使用することが好ましい。
【0051】
再生工程においては、蒸留によって回収した有機溶媒、アントラキノン、テトラアントラキノンを使用して作動溶液を調製し、これを触媒に接触させてもよく、回収していないそのままの有機溶媒、アントラキノン、テトラアントラキノンを触媒に接触させてもよい。再生触媒として、本発明の触媒を用いることが好ましい。
【0052】
本発明の過酸化水素の製造方法により得られる過酸化水素においては、ホウ素成分の含有量が低減されている。
【実施例0053】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0054】
ホウ素除去量の測定方法
後述の実施例および比較例において、ホウ素除去量(単位:μg-B/g-触媒)を次のようにして測定した。
ろ液中のホウ素をICP-OES(Perkin Elmer製Optima 2100 DV)を用いて定量した。測定条件は、以下の通りとした。
測定条件:
測定波長: 249.677nm(B)
ガス流量
プラズマ:15L/min
補助:0.2L/min
キャリヤー:0.7L/min
RF出力: 1300W
サンプル流量:1.5ml/min
繰り返し数:3回
次いで、ろ液中のホウ素量の値を用い、下記式に基づきホウ素溶出量を算出した。
ホウ素溶出量(μg-B/g-触媒)=ろ液中のホウ素濃度(μg-B/L)×洗浄液の使用量(L)/触媒量(g)
【0055】
調製例1:担体の調製
塩化マグネシウム・6水和物〔和光純薬工業(株)製〕の飽和溶液500mlにγ-アルミナ〔住友化学(株)製 商品名:KHD-12〕200gを含浸させ、30℃で攪拌した。アンモニア水溶液を添加してpH9~11となるように調製し、γ-アルミナに水酸化マグネシウムを添着して、焼成後の酸化マグネシウムの質量比率が10質量%になるように固定化した。得られた固体を水溶液から分離し、600℃で24時間焼成し、担体としてAl-MgO(MgO=10質量%)を得た。
【0056】
調製例2:触媒の調製
調製例1で得られた担体Al-MgO 50gを1.7質量%の塩化パラジウム塩酸水溶液50mlに含浸(混合)させ、80℃の湯浴中で攪拌することにより担体にパラジウムを担持させた。
デカンテーションにより、Pd/Al-MgOと塩化パラジウム塩酸水溶液を分離した。
Pd/Al-MgOに純水50mlを加え、水酸化ナトリウム水溶液を加え、pH10~11に保ちながら37%ホルマリンを5ml添加し、60℃の湯浴中でパラジウムを還元した。
デカンテーションにて上澄み液を除去後、固体を純水で洗浄し、触媒として1質量%Pd/Al-MgOを得た。
【0057】
比較例1
超純水で洗浄したポリプロピレン(PP)容器に、調製例1で得られた担体Al-MgO(MgO=10質量%)を2.5g、洗浄液として0.00035質量%の塩酸水溶液、即ちpH4の塩酸水溶液を50g加え、マグネチックスターラーで26℃にて1時間撹拌した。得られた担体入り洗浄液を0.5μmのシリンジフィルターでろ過処理し、処理済みの担体とろ液とを得た。
【0058】
比較例2~6、実施例1~5
洗浄液と処理温度を表1の条件とした点以外は、比較例1と同様にして、処理済みの担体とろ液とを得た。
【0059】
実施例1~5と比較例1~6におけるホウ素溶出量を表1に示す。また、pHとホウ素溶出量の関係を図2に示す。
【表1】
【0060】
実施例6
超純水で洗浄したポリプロピレン(PP)容器に、調製例2で得られた触媒1質量%-Pd/Al-MgO(MgO=10質量%)2.5gと、洗浄液として0.39質量%の水酸化ナトリウム水溶液、即ちpH13の水酸化ナトリウム水溶液50gとを加え、マグネチックスターラーで、26℃にて1時間撹拌した。得られた触媒入り洗浄液を0.5μmのシリンジフィルターでろ過処理し、処理済みの触媒とろ液を得た。
【0061】
実施例7,8、比較例7
洗浄液と処理温度を表2の条件とした点以外は実施例6と同様にして、処理済みの触媒とろ液とを得た。
【0062】
実施例6~8と比較例7におけるホウ素溶出量を表2に示す。pHとホウ素溶出量の関係を図3に示す。洗浄温度とホウ素溶出量の関係を図4に示す。
【0063】
【表2】
図1
図2
図3
図4