(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090556
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】バイナリー発電装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
F01K 25/00 20060101AFI20220610BHJP
【FI】
F01K25/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203022
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】足立 成人
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐之輔
(72)【発明者】
【氏名】西村 和真
(72)【発明者】
【氏名】眞保 英樹
【テーマコード(参考)】
3G081
【Fターム(参考)】
3G081BA08
3G081BB04
3G081BC07
3G081BC13
(57)【要約】
【課題】バイナリー発電装置の運転停止時に、ポンプと蒸発器との間の配管内に存在する潤滑油が蒸発器へ流れ込んでしまうことを抑制する。
【解決手段】バイナリー発電装置10は、ポンプ11と、蒸発器12と、膨張機13と、凝縮器14とがこの順に接続されている循環流路20を備え、循環流路20内を循環する作動媒体には潤滑油が含まれているとともに、循環流路20は、ポンプ11と蒸発器12とを接続する第1流路21を有し、第1流路21は上流側の上流流路41から立ち上がるように形成されており且つ前記蒸発器12の流入口32よりも上に位置する部分を含む起立流路42を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱媒体によって作動媒体の少なくとも一部を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器で蒸発した作動媒体の膨張によって駆動する膨張機と、
前記膨張機から流出した作動媒体を、冷却媒体によって凝縮させる凝縮器と、
前記凝縮器から流出した作動媒体を前記蒸発器に送り出すポンプと、
前記ポンプ、前記蒸発器、前記膨張機及び凝縮器がこの順に接続され、前記ポンプの駆動によって作動媒体を循環させる循環流路と、
前記循環流路内に作動媒体とともに存在し、前記膨張機を潤滑させる潤滑油と、
を備え、
前記循環流路は、前記ポンプと前記蒸発器を接続する第1流路を有し、
前記第1流路は、前記ポンプに接続された上流流路と、前記上流流路から立ち上がり且つ前記蒸発器における作動媒体の流入口よりも上に位置する部分を含む起立流路と、
を有するバイナリー発電装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバイナリー発電装置は、
前記蒸発器の底部と前記上流流路とを接続する油戻し流路と、
前記油戻し流路上に配置された油戻し弁と、をさらに備え、
前記油戻し流路は、前記蒸発器の底部から下方に延びるように形成されている、バイナリー発電装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のバイナリー発電装置において、
前記循環流路は、前記凝縮器と前記ポンプとを接続する第2流路を含んでおり、
前記バイナリー発電装置は、
前記起立流路と前記第2流路とを接続するガス抜き流路と、
前記ガス抜き流路上に配置されたガス抜き弁と、
をさらに備える、バイナリー発電装置。
【請求項4】
請求項3に記載のバイナリー発電装置において、
前記起立流路は、その上部において水平に延びる水平部を含み、
前記ガス抜き流路は、前記水平部に接続されている、バイナリー発電装置。
【請求項5】
ポンプ、蒸発器、膨張機及び凝縮器をこの順に繋ぐ循環流路を備えたバイナリー発電装置の制御方法であって、
バイナリー発電装置は、前記循環流路内に作動媒体とともに存在し前記膨張機を潤滑させる潤滑油を含み、
前記循環流路は、前記ポンプと前記蒸発器とを接続する第1流路であって前記蒸発器の作動媒体の流入口よりも上に位置する部分を含む起立流路を有する前記第1流路と、前記凝縮器と前記ポンプとを接続する第2流路とを含み、
前記制御方法は、
前記ポンプを停止した後に、前記蒸発器から作動媒体ととも前記第1流路へ潤滑油を戻す油戻し動作を開始するとともに、前記起立流路から前記第2流路へガス状の作動媒体を戻すガス抜き動作を開始することと、
前記油戻し動作を終了するとともに前記ガス抜き動作を終了した後に、前記ポンプを再起動することとを含む、
バイナリー発電装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイナリー発電装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場排熱などの比較的低温の熱エネルギーによる熱源媒体と、蒸発温度の低い有機媒体を用いた作動媒体とを利用して、ランキンサイクルにより発電を行うバイナリー発電装置が知られている。この種の発電装置として、特許文献1には、作動媒体を循環させる循環流路を備えたバイナリー発電装置が開示されており、循環流路には、ポンプと、蒸発器と、過熱器と、膨張機と、凝縮器とが、この順に配置されている。作動媒体には、膨張機の潤滑を目的として潤滑油が含まれているため、作動媒体に随伴して潤滑油も循環路を循環している。特許文献1のバイナリー発電装置は、作動媒体に随伴されずに過熱器に残溜した潤滑油を分離器へ戻すためのバイパス流路が設けられており、油抜き制御によって過熱器内の潤滑油の残溜を抑えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このバイナリー発電装置では、停止時にポンプと蒸発器との間の配管内に存在する潤滑油が蒸発器に流れ込んでしまうことがある。油が蒸発器の伝熱面に付着してしまうと、熱交換性能が低下する可能性がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、このバイナリー発電装置の停止時に、ポンプと蒸発器との間の配管内に存在する潤滑油が蒸発器へ流れ込んでしまうことを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るバイナリー発電装置は、加熱媒体によって作動媒体の少なくとも一部を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器で蒸発した作動媒体の膨張によって駆動する膨張機と、前記膨張機から流出した作動媒体を、冷却媒体によって凝縮させる凝縮器と、前記凝縮器から流出した作動媒体を前記蒸発器に送り出すポンプと、前記ポンプ、前記蒸発器、前記膨張機及び凝縮器がこの順に接続され、前記ポンプの駆動によって作動媒体を循環させる循環流路と、前記循環流路内に作動媒体とともに存在し、前記膨張機を潤滑させる潤滑油とを備えており、前記循環流路は、前記ポンプと前記蒸発器を接続する第1流路を有しており、前記第1流路は、前記ポンプに接続された上流流路と、前記上流流路から立ち上がり且つ前記蒸発器における作動媒体の流入口よりも上に位置する部分を含む起立流路とを有している。
【0007】
この態様では、ポンプと蒸発器とを接続する第1流路上において、起立流路は、上流流路から立ち上がるように形成されているため、バイナリー発電装置の運転停止時に、起立流路よりもポンプ側(上流側)にある作動媒体は蒸発器へ流れ込み難い。これにより、蒸発器の潤滑油の残溜量は低減されるとともに、潤滑油が蒸発器に残溜して加熱されて劣化することを抑制できる。また、起立流路は、蒸発器における作動媒体の流入口よりも高い位置を通過するように形成されているため、バイナリー発電装置の運転停止時に、蒸発器で蒸発した作動媒体の一部を、起立流路に戻すことができ、蒸発器に潤滑油が溜まるのことを抑制する。
【0008】
前記バイナリー発電装置は、前記蒸発器の底部と前記上流流路とを接続する油戻し流路と、前記油戻し流路上に配置された油戻し弁とを備えていてもよく、その場合、前記油戻し流路は、前記蒸発器の底部から下方に延びるように形成されていてもよい。
【0009】
この態様では、バイナリー発電装置の運転停止時に、油戻し弁を開くことにより、蒸発器の底部に残溜している潤滑油は、油戻し流路を通じて上流流路へと戻される。その結果、運転停止時の蒸発器における潤滑油の残溜量をさらに低減できる。
【0010】
前記循環流路は、前記凝縮器と前記ポンプとを接続する第2流路を含んでいてもよく、その場合、前記バイナリー発電装置は、前記起立流路と前記第2流路とを接続するガス抜き流路と、前記ガス抜き流路上に配置されたガス抜き弁とを備えていてもよい。
【0011】
この態様では、バイナリー発電装置の運転再開前にガス抜き弁を開くことにより、起立流路に滞溜するガス状の作動媒体は、ガス抜き流路を通じて第2流路に導出される。その結果、起立流路に滞溜するガス状の作動媒体によって生じるガス噛み等の運転再開時の不具合を防止できる。
【0012】
前記起立流路は、その上部において水平に延びる水平部を含んでいてもよく、その場合、前記ガス抜き流路は、前記水平部に接続されていてもよい。
【0013】
この態様では、起立流路の上部に水平部が設けられることにより、バイナリー発電装置の運転停止時に、蒸発器で蒸発した作動媒体の一部は、起立流路の水平部に流入する。これによって、蒸発器に潤滑油が溜まるのことを抑制するとともに、水平部に滞溜するガス状の作動媒体は、水平部に接続するガス抜き流路を通じて効率的に第2流路に戻される。その結果、起立流路に滞溜するガス状の作動媒体によって生じるガス噛み等の転再開時の不具合を防止できる。
【0014】
本発明は、ポンプ、蒸発器、膨張機及び凝縮器をこの順に繋ぐ循環流路を備えたバイナリー発電装置の制御方法であって、前記バイナリー発電装置は前記循環流路内に作動媒体とともに存在し前記膨張機を潤滑させる潤滑油を含み、前記循環流路は、前記ポンプと前記蒸発器とを接続する第1流路であって前記蒸発器の作動媒体の流入口よりも上に位置する部分を含む起立流路を有する前記第1流路と、前記凝縮器と前記ポンプとを接続する第2流路とを含み、前記制御方法は、前記ポンプを停止した後に、前記蒸発器から作動媒体ととも前記第1流路へ潤滑油を戻す油戻し動作を開始するとともに、前記起立流路から前記第2流路へガス状の作動媒体を戻すガス抜き動作を開始することと、前記油戻し動作を終了するとともに前記ガス抜き動作を終了した後に、前記ポンプを再起動することとを含む。
【0015】
この態様では、ポンプの停止後に油戻し動作を行うことにより、蒸発器の底部に残溜している潤滑油は第1流路へ戻される。これによって、バイナリー発電装置の運転停止時の蒸発器における潤滑油の残溜量は低減される。また、ポンプの停止後にガス抜き動作を行うことにより、起立流路に滞溜するガス状の作動媒体は、ガス抜き流路を通じて第2流路へ戻される。これによって、起立流路に滞溜するガス状の作動媒体によって生じるガス噛み等の運転再開時の不具合を防止できる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、バイナリー発電装置の停止時に、ポンプと蒸発器との間の配管内に存在する潤滑油が蒸発器へ流れ込んでしまうことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に示すバイナリー発電装置の構成を概略的に示す図である。
【
図2】第2実施形態に示すバイナリー発電装置の構成を概略的に示す図である。
【
図3】第2実施形態の制御方法の処理を示すフローチャートである。
【
図4】第3実施形態に示すバイナリー発電装置の構成を概略的に示す図である。
【
図5】第3実施形態の制御方法の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
【0019】
<第1実施形態>
図1に示すように、第1実施形態に係るバイナリー発電装置10は、船舶に設置されている発電装置であって、船舶の内燃機関から排出される排ガスを熱源としてランキンサイクルを利用したバイナリー発電を行う発電装置である。バイナリー発電装置10は、作動媒体を循環させる閉回路からなる循環流路20を備えており、作動流体には水の沸点よりも低い沸点を有する有機媒体が用いられている。
【0020】
循環流路20には、ポンプ11と、蒸発器12と、膨張機13と、凝縮器14とが、この順に設けられている。なお、循環流路20には、蒸発器12と膨張機13との間に、過熱器がさらに設けられていてもよい。
【0021】
循環流路20は、ポンプ11と蒸発器12とを接続する第1流路21と、ポンプ11と凝縮器14とを接続する第2流路22と、蒸発器12と膨張機13を接続する第3流路23と、膨張機13と凝縮器14とを接続する第4流路24とを含んでいる。
【0022】
第1流路21の一端はポンプ11の吐出口31に接続され、他端は蒸発器12の流入口32に接続されている。ポンプ11は、蒸発器12よりも高い位置に配置されていてもよく、蒸発器12よりも低い位置に配置されていてもよい。ポンプ11の吐出口31は、蒸発器12の流入口32より高い位置に配置されていてもよく、流入口32よりも低い位置に配置されていてもよい。第2流路22の一端は凝縮器14の流出口に接続され、他端はポンプ11の吸入口に接続されている。
【0023】
ポンプ11は、液状の作動媒体を所定の圧力まで加圧するとともに、循環流路20において作動媒体を循環させる駆動力を発生させる。
【0024】
蒸発器12は、加熱媒体が流れる加熱媒体流路33と作動媒体が流れる作動媒体流路34とを有する熱交換器によって構成されており、加熱媒体と液状の作動媒体とを熱交換させて作動媒体を蒸発させる。蒸発器12を構成する熱交換器としては、例えばプレート式熱交換器、多管式熱交換器等が用いられる。
【0025】
蒸発器12では、作動媒体の流入口32が蒸発器12の下部に配置されている。すなわち、第1流路21は作動媒体流路34の下部に繋がっている。加熱媒体流路33に供給される加熱媒体は、船舶の内燃機関から排出される掃気用過給空気又はエンジンからの排ガスであるが、これ以外でもよく、例えば工場等から排出される排ガス、高温空気、水蒸気等でもよい。
【0026】
膨張機13は、蒸発した作動媒体の膨張エネルギーを機械的な運動エネルギーに変換する回転機によって構成される。膨張機13を構成する回転機としては、例えば一対のスクリューロータを備えたスクリュー式タービン、遠心式タービン等が用いられる。膨張機13には発電機15が接続されており、発電機15は膨張機13を構成する前記回転機の回転駆動によって発電を行うよう構成されている。
【0027】
凝縮器14は、冷却媒体が流れる冷却媒体流路35と、作動媒体が流れる作動媒体流路36とを有する熱交換器によって構成され、冷却媒体と気状の作動媒体とを熱交換させて作動媒体を凝縮させるよう構成されている。
【0028】
通常、ポンプ11の運転時には、作動媒体は、ポンプ11の作動によって循環流路20内を循環している。ポンプ11の運転を停止した場合には、作動媒体の循環が停止するため、蒸発器12と第1流路21との間において、作動媒体の通常の循環とは異なる流通が生じ易い。ポンプ11の運転停止時に、作動媒体の通常の循環とは異なる流通を抑制するために、第1流路21には起立流路42が設けられている。以下、起立流路42の構成を説明する。
【0029】
第1流路21は、ポンプ11の吐出口31に接続されている上流流路41と、蒸発器12の流入口32に接続されている下流流路43と、上流流路41と下流流路43に繋がる起立流路42とを含んでいる。下流流路43は短いものでよく、下流流路43は省略されてもよい。
【0030】
起立流路42は、上流流路41に繋がる立上げ部51と、下流流路43に繋がる立下げ部53と、水平部52とを含んでいる。
【0031】
立上げ部51は、上流流路41の端部(下流側の端部)から上方に向けて垂直方向又は斜め方向に延びている。ここでいう上方とは、重力方向における上側を意味する。すなわち、起立流路42は、上流流路41から立ち上がるように延びて形成されている。このため、ポンプ11の運転停止時においては、起立流路42よりも上流側に残された作動媒体は、蒸発器12へ流れ込み難い。
【0032】
立下げ部53は、下流流路43の端部(上流側の端部)から上方に向けて垂直方向又は斜め方向に延びている。すなわち、起立流路42は、蒸発器12の流入口32の位置よりも上に位置する部分を含んでいる。このため、ポンプ11の運転停止時においては、蒸発器12で蒸発した作動媒体が立下げ部53を通じて上に向かって流れ込み易い。なお、下流流路43が省略される場合には、起立流路42の立下げ部53の端部(下流側の端部)が蒸発器12の流入口32に接続される。
【0033】
水平部52は、起立流路42における頂部であり、水平部52は水平方向に延びて立上げ部51の端部(下流側の端部)と立下げ部53の端部(上流側の端部)とを繋ぐ。
【0034】
上流流路41と起立流路42と下流流路43とはそれぞれ、直管や管継手等の配管部品から構成されているが、これに限られない。例えば、上流流路41と起立流路42と下流流路43とがひとつの管部材によって形成されていてもよい。
【0035】
上記のように構成されたバイナリー発電装置10の運転時には、ポンプ11の駆動によって、作動媒体が循環流路20内を循環している。作動媒体には膨張機13を潤滑する潤滑油が含まれており、作動媒体に随伴して循環流路20内を循環する。
【0036】
ポンプ11から吐出された液状の作動媒体は、第1流路21を通じて蒸発器12の作動媒体流路34へ流入し、加熱媒体との熱交換によって蒸発する。このとき、作動媒体流路34には、ある程度の量の液状の作動媒体が溜まった状態で作動媒体の蒸発がなされる。蒸発した作動媒体は第3流路23を通じて膨張機13へ流入し、膨張機13内で膨張する。作動媒体の膨張エネルギーは膨張機13によって運動エネルギーに変換され、変換された運動エネルギーによって発電機15は発電を行う。
【0037】
膨張機13で膨張し圧力の低下した作動媒体は、第4流路24を通じて凝縮器14の作動媒体流路36へ流れ込み、冷却媒体との熱交換によって凝縮する。凝縮した液状の作動媒体は、第2流路22を通じてポンプ11へ流れ込む。
【0038】
上記のように動作するバイナリー発電装置10では、ポンプ11の運転停止によって作動媒体の循環が停止した後でも、蒸発器12への加熱媒体の供給が継続してなされる場合がある。船舶に設置されているバイナリー発電装置10では、船舶の航行中には内燃機関からの排ガスの排出は継続するため、ポンプ11の作動状態に関わらず、蒸発器12には常時、加熱媒体が供給される。この場合には、作動媒体の循環が停止しているにもかかわらず、蒸発器12では加熱媒体による加熱が継続されるため、蒸発器12に残溜した作動媒体が蒸発するとともに、作動媒体に含まれる潤滑油は蒸発器12内に残溜し易い。なお、バイナリー発電装置10が船舶以外の用途に用いられた場合でも同様に、作動媒体の循環停止後に、蒸発器12への加熱媒体の供給が継続される場合があり得る。
【0039】
しかし、バイナリー発電装置10では、起立流路42が設けられているため、作動媒体の循環停止時に起立流路42よりも上流側に残された作動媒体は蒸発器12へ流れ込み難い。これにより、蒸発器12における潤滑油の残溜は抑制される。その結果、蒸発器12に残溜した潤滑油が作動媒体流路34の伝熱面に付着することによって生じる、蒸発器12の熱交換性能の低下を抑制できるとともに、蒸発器12に残溜した潤滑油が加熱媒体によって加熱され劣化することを防止できる。しかも、蒸発器12で蒸発した作動媒体は立下げ部53を通じて上に向かって流れるため、蒸発した作動媒体を起立流路42に戻すことができる。これにより、蒸発器12における潤滑油の残溜はさらに抑制される。
【0040】
<第2実施形態>
第2実施形態に係るバイナリー発電装置10について、
図2を参照しながら説明する。ここでは第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0041】
第2実施形態のバイナリー発電装置10は、油戻し流路61と油戻し弁62と、制御部67とを備えている点において、第1実施形態とは異なっている。
【0042】
バイナリー発電装置10は、蒸発器12の作動媒体流路34の底部に残溜する潤滑油を上流流路41へ戻すための油戻し流路61と、油戻し流路61を開閉するための油戻し弁62とを備えている。油戻し流路61は、蒸発器12の作動媒体流路34の底部と上流流路41とを接続しており、油戻し流路61の少なくとも一部は、作動媒体流路34の底部から下方に向けて垂直方向又は斜め方向に延びるように形成されている。油戻し流路61は起立流路42よりも下方(重力方向における下側)に位置する。
【0043】
油戻し弁62は制御部67に電気的に接続されており、制御部67によって油戻し弁62の開閉が制御されている。なお、制御部67は省略されてもよく、その場合、油戻し弁62の開閉は手動で行われる。
【0044】
第2実施形態に係るバイナリー発電装置10における、作動媒体の循環停止時の油戻し動作及びガス抜き動作を含む制御方法について、
図3を参照しながら説明する。
【0045】
バイナリー発電装置10の通常運転時には、ポンプ11の作動によって作動媒体は循環流路20を循環している。このとき、油戻し弁62は閉じられている。バイナリー発電装置10の通常運転時に、オペレーターがバイナリー発電装置10の運転を停止させるための所定の動作を行うことによって、油戻し動作がスタートする。
【0046】
前記所定の動作が行われると、まず、ポンプ11の作動が停止する(ステップS1)。これにより、循環流路20における作動媒体の循環は停止する。
【0047】
次に、制御部67によって油戻し弁62が開かれることにより、油戻し動作が開始される(ステップS2)。これにより、作動媒体流路34の底部に残溜している潤滑油は、油戻し流路61へ流れ込み、油戻し流路61を通じて上流流路41へ戻される。そして、油戻し動作の開始から一定時間経すると、制御部67は油戻し弁62を閉じる(ステップS3)。これにより、油戻し動作は終了する。なお、油戻し弁62が閉じられるタイミングはこれに限らず、例えば、ポンプ11の作動停止から再起動まで、油戻し弁62は開かれたままでもよいし、作動媒体流路34の底部に残溜する潤滑油の液面検知によるフィードバック制御により閉じられてもよい。
【0048】
その後、オペレーターが、バイナリー発電装置10の通常運転を再開させるための所定の動作を行うことによって、ポンプ11が起動され(ステップS6)、バイナリー発電装置10の通常運転が再開される。
【0049】
ポンプ11が停止して作動媒体の循環が停止した時に、制御部67によって油戻し弁62が開かれることにより、作動媒体流路34の底部に残溜している潤滑油は、油戻し流路61へ流れ込み、さらに油戻し流路61を通じて上流流路41へと戻される(油戻し動作)。なお、潤滑油全てが上流流路41に戻される必要はなく、潤滑油の一部が油戻し流路61内に残ってもよい。これにより、作動媒体の循環停止時の蒸発器12における潤滑油の残溜は抑制されるとともに、蒸発器12に残溜した潤滑油が加熱されて劣化することを防止できる。
【0050】
なお、その他の構成、作用及び効果はその説明を省略するが、前記第1実施形態の説明を第2実施形態に援用することができる。
【0051】
<第3実施形態>
第3実施形態に係るバイナリー発電装置10について、
図4を参照しながら説明する。ここでは第2実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0052】
第3実施形態のバイナリー発電装置10は、ガス抜き流路63と、ガス抜き弁64と、制御部67とを備えている点において、第2実施形態とは異なっている。
【0053】
バイナリー発電装置10は、起立流路42の水平部52に滞溜するガス状の作動媒体を第2流路22へ戻すためのガス抜き流路63と、ガス抜き流路63を開閉するためのガス抜き弁64と、油戻し弁62とガス抜き弁64とを開閉制御する制御部67とを備える。
【0054】
ガス抜き流路63は、起立流路42の水平部52と第2流路22とを接続しており、ガス抜き流路63の少なくとも一部は、水平部52から上方に向かった垂直方向又は斜め方向に延びるように形成されている。なお、ガス抜き流路63は、水平部52と接続されているものに限らず、起立流路42のガス状の作動媒体を第2流路22へ戻すことができれば、水平部52以外の別の部位に接続されていてもよい。また、ガス抜き流路63は、第2流路22に接続するものに限らず、凝縮器14に接続されていてもよい。
【0055】
作動媒体の循環停止時にガス抜き弁64を開くことにより、起立流路42に滞溜するガス状の作動媒体は、ガス抜き流路63へ流入し、さらにガス抜き流路63を通じて第2流路22へ戻される(ガス抜き動作)。第2流路22へ戻されたガス状の作動媒体は、第2流路22を流通する液状の作動媒体によって冷やされて液化し、第2流路22内を流通する液状の作動媒体とともにポンプ11へ送られる。
【0056】
油戻し弁62とガス抜き弁64とは、制御部67に電気的に接続されており、制御部67によって油戻し弁62とガス抜き弁64の開閉が制御されている。なお、制御部67は省略されてもよく、その場合、油戻し弁62とガス抜き弁64の開閉は手動で行われる。
【0057】
ここで、第3実施形態に係るバイナリー発電装置10における、作動媒体の循環停止時の油戻し動作及びガス抜き動作を含む制御方法について、
図5を参照しながら説明する。
【0058】
バイナリー発電装置10の通常運転時には、ポンプ11の作動によって作動媒体は循環流路20を循環している。このとき、油戻し弁62とガス抜き弁64は閉じられている。バイナリー発電装置10の通常運転時に、オペレーターがバイナリー発電装置10の運転を停止させるための所定の動作を行うことによって、油戻し動作及びガス抜き動作がスタートする。
【0059】
前記所定の動作が行われると、まず、ポンプ11の作動が停止する(ステップS1)。これにより、循環流路20における作動媒体の循環は停止する。
【0060】
次に、制御部67によって油戻し弁62が開かれることにより、油戻し動作が開始される(ステップS2)。これにより、作動媒体流路34の底部に残溜している潤滑油は、油戻し流路61へ流れ込み、油戻し流路61を通じて上流流路41へ戻される。そして、油戻し動作の開始から一定時間経すると、制御部67は油戻し弁62を閉じる(ステップS3)。これにより、油戻し動作は終了する。なお、油戻し弁62が閉じられるタイミングはこれに限らず、例えば、ポンプ11の作動停止から再起動まで、油戻し弁62は開かれたままでもよいし、作動媒体流路34の底部に残溜する潤滑油の液面検知によるフィードバック制御により閉じられてもよい。
【0061】
次に、制御部67によってガス抜き弁64が開かれることにより、ガス抜き動作が開始される(ステップS4)。これにより、起立流路42に滞溜するガス状の作動媒体は、ガス抜き流路63へ流入し、ガス抜き流路63を通じて第2流路22へ戻される。そして、ガス抜き動作の開始から一定時間経過すると、制御部67はガス抜き弁64を閉じる(ステップS5)。これにより、ガス抜き動作は終了する。なお、ガス抜き弁64が閉じられるタイミングはこれに限らず、例えば、ポンプ11の作動停止から再起動までガス抜き弁64が開かれたままでもよい。
【0062】
その後、オペレーターが、バイナリー発電装置10の通常運転を再開させるための所定の動作を行うことによって、ポンプ11が起動され(ステップS6)、バイナリー発電装置10の通常運転が再開される。
【0063】
バイナリー発電装置10にガス抜き流路63とガス抜き弁64を設けることによって、起立流路42に滞溜するガス状の作動媒体は、ガス抜き流路63に導出され、さらに第2流路22へ戻される。これにより、起立流路42に滞溜するガス状の作動媒体によって生じるガス噛み等の運転再開時の不具合を防止できる。
【0064】
バイナリー発電装置10に係る油戻し動作及びガス抜き動作を含む制御方法によって、作動媒体の循環停止時における蒸発器12底部の潤滑油の残溜は抑制され、ポンプ11再起動時のガス噛み等の不具合は防止される。
【0065】
なお、その他の構成、作用及び効果はその説明を省略するが、前記第2実施形態の説明を第3実施形態に援用することができる。
【0066】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上述した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0067】
例えば、上記実施形態では、水平部52が省略され、起立流路42の頂部が鋭角に形成されていてもよい。
【0068】
上記第2実施形態では、油戻し弁62が省略されてもよい。バイナリー発電装置10の通常運転時には、ポンプ11の作動によって作動媒体の大部分は第1流路21を流れて蒸発器12へと向かう(作動媒体は僅かに油戻し流路61を流れることもある)。ポンプ11の作動が停止すると、作動媒体流路34の底部に残溜している潤滑油は、起立流路42よりも下方に位置する油戻し流路61へ流れ込み、上流流路41へと戻される。なお、潤滑油全てが上流流路41に戻される必要はなく、潤滑油の一部が油戻し流路61内に残ってもよい。これにより、作動媒体の循環停止時の蒸発器12における潤滑油の残溜は抑制されるとともに、蒸発器12に残溜した潤滑油が加熱されて劣化することを防止できる。上記第3実施形態においても、油戻し弁62が省略されてもよい。
【符号の説明】
【0069】
10 バイナリー発電装置
11 ポンプ
12 蒸発器
13 膨張機
14 凝縮器
20 循環流路
21 第1流路
22 第2流路
41 上流流路
42 起立流路
52 水平部
61 油抜き流路
62 油抜き弁
63 ガス抜き流路
64 ガス抜き弁
67 制御部