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特開2022-90578応力インピーダンス素子付き触針棒および触針センサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090578
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】応力インピーダンス素子付き触針棒および触針センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/12 20060101AFI20220610BHJP
【FI】
G01L1/12
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203069
(22)【出願日】2020-12-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】713000630
【氏名又は名称】マグネデザイン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 義信
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 晋平
(57)【要約】      (修正有)
【課題】微小サイズの微弱な接触圧を検出できる応力インピーダンス素子付き触針棒および触針センサを提供する。
【解決手段】接触圧検出用の円柱状の芯棒12の周囲にフレキシブル基板上にアモルファス磁歪ワイヤを配置した応力インピーダンスセンサ素子の4個を4回対称に貼り付けた応力インピーダンス素子付き触針棒1と、アモルファス磁歪ワイヤに周波数50~500MHzの高周波電流またはパルス電流を通電する電子回路およびデータ処理回路からなり、電子回路により計測される4つの測定値(σx1、σx2、σy1、σy2)をデータ処理回路で計算処理して、接触圧P(式1)とX軸方向の曲げ応力σxおよびY軸方向の曲げ応力σy(式2)を同時に計測する。式1;P=1/4(σx1+σx2+σy1+σy2)式2;σx=σx1-σx2、σy=σy1-σy2
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触針棒と4個の応力インピーダンス素子からなる応力インピーダンス素子付き触針棒において、
前記触針棒は、曲がりやすく微小な円柱状の芯棒と前記芯棒の一方の端部には接触子を備え、他方の端部は剛性の高いホルダーに固定されており、
前記応力インピーダンス素子は、フレキシブル基板とアモルファス磁歪ワイヤと2個の電極とからなり、前記芯棒の周囲に4個の応力インピーダンス素子が4回対称に貼り付けられていて、
曲げ応力と接触圧を同時に測定できることを特徴とする応力インピーダンス素子付き触針棒。
【請求項2】
請求項1において、
前記芯棒は、直径0.2~1mm、長さ3~10mmにて、
前記応力インピーダンス素子は、長さ0.6~5.5mm、幅0.05~0.8mm、厚さ0.05~0.25mmからなり、
前記アモルファス磁歪ワイヤは、直径5~18μm、長さ0.5~5.0mmからなることを特徴とする応力インピーダンス素子付き触針棒。
【請求項3】
請求項1において、
前記アモルファス磁歪ワイヤは、前記フレキシブル基板上で四角環もしくは楕円環の磁性薄膜により取り囲まれていることを特徴とする応力インピーダンス素子付き触針棒。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の応力インピーダンス素子付き触針棒と、電子回路と信号処理回路とからなる触針センサにおいて、
前記電子回路は、前記触針棒を構成する芯棒に負荷されている応力を4個の前記応力インピーダンス素子によって計測した信号を電圧信号として出力し、
前記信号処理回路は、前記電子回路から出力した4つの信号電圧を4つの測定値σx1、σx2、σy1、σy2に変換すると、曲げ応力が付加されている状態での接触圧Pを関係式(1)により、X軸方向の曲げ応力σxおよびY軸方向の曲げ応力σyを関係式(2)により求めることができる回路からなることを特徴とする触針センサ。
P=1/4(σx1+σx2+σy1+σy2) ・・・ (1)
σx=σx1-σx2、σy=σy1-σy2 ・・・ (2)
【請求項5】
請求項4において、
前記電子回路は、パルス発信器、高速電子スイッチ、ピークホールド回路および増幅器からなり、
前記パルス発振器は、前記アモルファス磁歪ワイヤに周波数50~500MHzの高周波電流またはパルス電流を通電し、
前記アモルファス磁性ワイヤのインピーダンス変化量に対応するパルス波形電圧のピーク電圧を前記高速電子スイッチにより0.2n秒以下の開閉時間で検波することを特徴とする触針センサ。



































【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超微小サイズの超微弱の曲げ応力と接触圧を検出する応力インピーダンス素子付き触針棒および触針センサに関する。
【背景技術】
【0002】
接触圧センサは、円柱状の触針棒に歪みゲージを貼り付けて使用されている。しかし、被測定物が凹凸面や傾斜を有する場合や柔らかな弾性体などの場合には、先端部は必ずしも被測定物と垂直に接触することができず、曲がってしまう場合がある。このような場合に、歪みゲージは接触圧と曲げ応力を同時に計測することになって正確な接触圧力を求めることができない。
【0003】
特に、医療分野においては、医療機器の先端部の触針棒は直径0.2~1mm、長さ3~10mm程度と非常に小さく、触針棒自体が曲がりやすい。しかも、被測定物の臓器、血管、皮膚などの生体組織は柔らかな擬弾性体で、加えて接触面は平坦面とは言えない場合がほとんどである。医療機器の先端部の接触圧力を計測する場合、接触圧と同時に触針棒の曲げ応力を計測し、被測定物と触針棒の接触の仕方も重要な情報である。つまり、接触圧と曲げ応力を同時に計測することが必要である。
【0004】
また、被測定物との接触圧は1mg~1000mg(1g)で、強い場合でも10gと非常に小さいので、通常の歪みゲージでは計測できない。そこで、高いゲージ率を有する応力インピーダンスセンサ(以下、SIセンサという。)を用いることにする。
【0005】
SIセンサについては、特許文献1および特許文献2に開示されている。
ここで、応力インピーダンスとは、磁性ワイヤに歪みが負荷されると磁性ワイヤのインピーダンスが歪量に応じて変化する現象で、わずかな歪みでも大きなインピーダンス変化を生じる高感度歪みゲージが開発されている。
SIセンサの感度評価は、歪みゲージ率Gで評価されている。それは、G=(dR/R)/(dL/L)で計算することができる。Lは応力検知体の長さ、dLは伸びで、Rは応力検知体の電気抵抗、dRは電気抵抗の変化量である。なお、市販の歪みゲージは、歪みゲージ率は2程度で、半導体歪みゲージの歪みゲージ率は50~200程度である。
【0006】
特許文献1(実施例1)によると、応力検知体である磁性ワイヤはFe系アモルファスワイヤで、直径125μm、長さ150mm(端子間長さ)にて、励磁周波数は10MHzで、63程度の歪みゲージ率が得られている。
一方、特許文献2(実施例1)によると、応力検知体である磁性ワイヤは負磁歪のCo系アモルファスワイヤで、直径30μm、長さ20mmにて、励磁周波数は20MHzで、1286の歪みゲージ率が得られている。これは、半導体歪みゲージの6.5倍も高い値である。
【0007】
また、非特許文献1によるとワイヤ径30μm、長さ30mmで、励磁周波数を20MHz、電流の強さ20mAとした時に、歪みゲージ率1524を得ている。
非特許文献2(図2)によると、素子の長さ4mm、幅2mmとして、励磁周波数を15MHz、電流の強さ9.5mAの場合に、歪みゲージ率2000程度を得ることができると報告している。
SIセンサに匹敵する高感度歪みゲージセンサとして、非特許文献3(表1)によると、5mm角程度のスピンMEMSタイプのセンサは1000程度である。非特許文献4によると、磁歪材料をFeアモルファス合金に変更してMEMSタイプで歪みゲージ率5000を実現したとの最新の報告がなされている。
【0008】
しかし、SIセンサは、既存製品の磁性ワイヤを被試験体に取り付けることが難しく実用化に至っていない。さらに、素子の長さを小さくすると歪みゲージ率が低下してしまうので、小型化と高感度化を両立させるための新技術開発が必要である。
【0009】
なお、SIセンサに匹敵する高感度歪みゲージセンサとして、非特許文献3(表1)によると、5mm角程度のスピンMEMSタイプのセンサは、1000程度である。また、非特許文献4によると、磁歪材料をFeアモルファス合金に変更してMEMSタイプで歪ゲージ率5000を実現したとの最新の報告がなされている。しかし、これはシリコンのMEMS構造体の上に歪みゲージを貼り付ける構造のため、小さな触針棒に取り付けるには適していないので、本発明における歪ゲージとしてはふさわしくないと判断して、開発の対象としなかった。
【0010】
SIセンサを使った曲げ応力検出装置については、非特許文献1に差動型素子の構造、回路図および特性が紹介されている。上下の曲げに対して最小検出分解能は2.5mgで、測定範囲は1.25g、目盛り数は1000(約10ビット)の性能を持つ曲げ応力検出装置が記載されている。
【0011】
また、特許文献3には、円柱形状プラスチックとその上部に慣性質量、その下部に固定台とからなり、円柱形状プラスチックに円柱状面に4本の磁歪アモルファスワイヤを配置して、慣性質量にかかる回転力を、SI素子でひねり応力として検知するタイプの回転角度変化速度検出センサ(ユーレートセンサ)が報告されている。1本のワイヤでも検出は可能であるが、4本のワイヤを4回対称的に円柱面状に張り付けて、ひねり応力を精度よく検出できるように工夫したものである。本センサは、センサヘッドにかかる回転力を検知するもので、接触圧や曲げ応力に影響を受けない大きな剛性を有する円柱棒が必須である。このことは、接触圧や曲げ応力を計測できないことを意味している。
【0012】
以上、医療分野において、直径1mm以下の微小な円柱状の触針棒を持ち、1mgレベルの微小な接触圧の測定が可能で、しかも接触圧とともに曲げ応力を同時に計測することができる触針センサの開発が求められている。
本開発を実現するためには、SIセンサの小型化と簡単に被試験体に取り付けることができるSI素子の開発という新技術の開発が必要である。
また、触針センサの検出体である磁歪ワイヤは応力とともに外部磁界の影響を受ける。外部磁界が小さい場合には、その影響は無視できる。しかし、外部磁界が地磁気より大きい場合には、触針センサは外部磁界による影響は無視できなくなる。そこで、小型化と高い歪みゲージ率を両立する技術の開発とともに磁気シールドの技術開発も必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8-128904
【特許文献2】特開平10-170355
【特許文献3】特許第3908688号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】沈麗萍他:日本応用磁気学会22、677-680(1998)
【非特許文献2】山寺秀哉ほか:豊田中央研究所R&Dレビュー 3,2、p51~56(2001.6)
【非特許文献3】横河技報 60,1,p43~47(2017)
【非特許文献4】EETimes 2019年9月3日ニュース
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、医療分野において、直径1mm以下の微小な円柱状の触針棒(芯棒)を持ち、1mgレベルの微小な接触圧測定が可能で、しかも接触圧とともに曲げ応力を同時に計測することができる触針センサの開発をSIセンサの小型化と高性能化を図って実現することを目指したものである。
このような触針センサは、ロボットの触覚センサとしても求められているものである。
【0016】
そのためには、第1の課題は、SIセンサの素子(以下、SI素子という。)の長さをこれまでの30mmから5mm以下にするとSIセンサの歪みゲージ率が低下してしまう。SIセンサの歪みゲージ率の大幅な改善を図り、素子長さを短くしても2000以上の歪みゲージ率を確保できるSIセンサを開発することである。
第2の課題は、簡単に被試験体に取り付けることができるフレキシブルタイプのSI素子を開発することである。
第3の課題は、接触圧力と曲げ応力の両方を検知しうる円柱状の触針棒タイプの触針センサを考案することである。
第4の課題は、触針センサへの外部磁界の影響を解消する技術を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、歪みゲージ率に及ぼす諸因子を鋭意研究した。
その結果、磁歪ワイヤの直径を30μmから10μmに変更することで、3倍程度高い歪みゲージ率を得ることができることを見出した。また、磁歪ワイヤの直径(ワイヤ径)が小さくなるほど、歪みゲージ率に及ぼす周波数のピーク周波数は増加し、かつ最適周波数におけるゲージ率が増大することを見出した(図1)。さらに、磁歪ワイヤの直径を30μmから10μmへと小さくすると、最適歪みゲージ率は周波数の平方根に比例することが分かった。
【0018】
次に、歪みゲージ率は、磁歪ワイヤの長さLと磁性ワイヤの断面積Sとの比、つまりアスペクト比(L/S)に強く依存することを見出した(図2)。
SI素子において、磁歪ワイヤの直径30μmでは長さ20mmの場合の歪みゲージ率は1000程度であるが、長さを2mmと短くするとゲージ率は100程度と激減した。一方、磁歪ワイヤの直径10μmでは長さ1mm、2mmおよび4mmとした場合、歪みゲージ率は1100程度、2300程度および4600程度となった。以上の知見を基に第1の課題を解決した。
なお、磁歪ワイヤとしては、Co系アモルファス磁歪ワイヤ、Fe系アモルファス磁歪ワイヤのどちらでも使用できる。
【0019】
また、本発明者は、柔軟性を有するフレキシブル基板に磁歪ワイヤを取り付けることができるならば、半導体歪みゲージ素子と同様に、接着剤などで被試験体に貼り付けることができるSI素子を開発できるとの思いに至った。そこで、フレキシブル基板の表面に溝加工を施し、その溝に沿って磁歪ワイヤを配置し、樹脂で固定した上で、磁歪ワイヤに取り付けた磁歪ワイヤ端子と外部の電子回路とを連結する磁歪ワイヤ電極とからなるSI素子を考案した。以上の考案により第2の課題を解決した。
【0020】
さらに、本発明者は、触針棒(芯棒)に1個のみのSI素子を貼り付けた場合には、触針棒(芯棒)が曲がったりして精度よく計測できないことに加えて曲げ応力は計測できないことに鑑みて、円柱状の触針棒(芯棒)に4個のSI素子を4回対称に貼り付けるという複合素子とすることに思い至った。つまり1個の素子の場合、曲げ応力がかかった場合、接触圧を測定することができない。4個の素子を4回対称に貼り付けて、始めて任意の方向にかかる曲げ応力と接触圧とを分離測定が可能になる。
上記複合素子の4ケ所の曲げ応力を、図3に示す電子回路を使って計測し、曲げ応力σx1、σx2、σy1、σy2に対応するVx1、Vx2、Vy1、Vy2を求めた。作動素子の出力電圧Vx=Vx1-Vx2、Vy=Vy1-Vy2は、σx=σx1―σx2、σy=σy1―σy2と直線的関係にあった。また、接触圧を0kg/mmから8kg/mmと変えて測定した結果、同様な直線的関係が存在した。その結果を図4に示す。この関係から、つまりVx,Vyから曲げ応力σxとσyを求めることができる。
【0021】
X軸またはY軸に対称の差動型SI素子によって、X軸方向およびY軸方向の曲げ応力を測定してXY平面内の曲げ応力を求め、触針棒の曲げ方向を求めることを見出した。
さらに、曲げ応力が負荷している状態での接触圧Pは、4か所の応力σx1、σx2、σy1、σy2に対応する4つの測定値Vx1、Vx2、Vy1、Vy2を平均化すると求めることができることを見出した。つまりP=1/4(Vx1+Vx2+Vy1+Vy2)。曲げ応力は、Vx1とVx2、Vy1とVy2では正負が反転しているため、加算すると打消し、接触圧成分のみが残るためである。
【0022】
以上の結果から、接触圧Pと曲げ応力σxおよびσyの両方が負荷されている状態において、4つのSI素子の応力をσx1、σx2、σy1、σy2とすると、
P=1/4(σx1+σx2+σy1+σy2) ・・・(1)
σx=σx1―σx2、σy=σy1―σy2 ・・・(2)
で求められることが分かった。
【0023】
また、触針棒(芯棒)は、曲げ応力ベクトルσxy=(σx,σy)の方向に曲げられることが分かった。
曲げモーメントベクトルMxyは、σxy=Mxy/Z、ここでZは断面係数で、Z=πd/32で定義される。
曲率半径Rは、R=(π/64)×d×E/M、ここでdは触針棒の直径、Mは曲げモーメントベクトル、Eは触針棒のヤング率である。
この式から、触針棒(芯棒)は、曲げモーメントベクトルの向きに、曲率半径Rの大きさで曲がっていることが分かることになる。
これにより、接触圧力と曲げ応力の両方を検知するという第3の課題を解決した。
【0024】
外部磁界を遮断する磁気シールドは、SIセンサをシールドするのではなく、応力を検知する磁歪ワイヤを取り囲むように、例えば四角なリング状、楕円のリング状に磁気シールド材を配置した。この配置は、SIセンサの小型化にも反しないことから第4の課題を解決した。
【発明の効果】
【0025】
医療分野において、被測定物の臓器、血管、皮膚など生体組織は柔らかな疑弾性体で、しかも接触面は平坦面とは言えない場合がほとんどである。医療用機器の先端部の接触圧を計測する場合、接触圧と同時に触針棒の曲げ応力を計測し、被測定物と触針棒の接触の仕方も重要な情報である。本発明の触針センサは、1mgから10g程度の小さな接触圧を曲げ応力と同時に測定することを実現したもので、医療分野の微小な接触圧測定を可能にするものである。
また、微小な接触圧と曲げ応力を測定できることは、ロボットの触覚センサとして先端への応用を始めとして様々な分野にも展開できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】歪みゲージ率に及ぼすワイヤ径と周波数の影響を示す図である。
図2】歪みゲージ率に及ぼすアスペクト比L/Sの影響を示す図である。
図3】電子回路を示す図である。
図4】差動素子の接触圧力および曲げ応力の測定特性を示す図である
図5】応力インピーダンス素子付き触針棒を示す平面図である。
図6】応力インピーダンス素子付き触針棒のA1-A2線の断面からの概念図である。
図7】SI素子の平面の概念図である。
図8】SI素子のB1-B2線の断面図である。
図9】2本の磁歪ワイヤを用いるSI素子の平面図である。
図10】磁歪ワイヤをパーマロイによる磁気シールドしているSI素子の平面図である。
図11】磁歪ワイヤをパーマロイによる磁気シールドしているSI素子のB1-B2線の断面図である。
図12】磁歪ワイヤをパーマロイによる磁気シールドしているSI素子のC1-C2線の断面図である。
図13】4個のSI素子による測定値を同時に計測する電子回路を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
第1発明の応力インピーダン素子付き触針棒は、触針棒と4個の応力インピーダンス素子からなる応力インピーダンス素子付き触針棒において、前記触針棒は、曲がりやすく微小な円柱状の芯棒と前記芯棒の一方の端部には接触子を備え、他方の端部は剛性の高いホルダーに固定されており、前記応力インピーダンス素子は、柔軟性を有するフレキシブル基板とアモルファス磁歪ワイヤと2個の電極とからなり、前記芯棒の周囲に4個の応力インピーダンス素子が4回対称に貼り付けられていて、曲げ応力と接触圧を同時に測定できることを特徴とする。
【0028】
これによって、これまで測定できなかった曲がりやすい微小な円柱状の触針棒にかかる接触圧および曲げ応力の測定することが可能となる。
【0029】
第2発明の応力インピーダンス素子付き触針棒は、前記芯棒は、直径0.2~1mm、長さ3~10mmにて、前記応力インピーダンス素子は、長さ0.6~5.5mm、幅0.05~0.8mm、厚さ0.05~0.25mmからなり、前記アモルファス磁歪ワイヤは、直径5~18μm、長さ0.5~5.0mmからなることを特徴とする。
【0030】
これによって、カテーテルのような直径が1mm以下の微小な医療機器の先端部の触針棒の微小な円柱状の芯棒の周囲に4回対称に配置することが可能となる。
【0031】
第3発明の応力インピーダンス素子付き触針棒は、アモルファス磁歪ワイヤは、フレキシブル基板上で四角環、楕円環の磁性薄膜により取り囲まれていることを特徴とする。
【0032】
これによって、外部磁界の影響を受けることなく、精度の高い接触圧および曲げ応力の計測が可能となる。
【0033】
第4発明の触針センサは、第1から第3発明の応力インピーダンス素子付き触針棒と電子回路と信号処理回路とから構成され、前記電子回路は、前記触針棒を構成する芯棒に負荷されている応力を4個の前記応力インピーダンス素子によって計測した信号を電圧信号として出力し、前記信号処理回路は、前記電子回路から出力した4つの信号電圧を4つの測定値σx1、σx2、σy1、σy2に変換すると、曲げ応力が付加されている状態での接触圧Pを関係式(1)により、X軸方向の曲げ応力σxおよびY軸方向の曲げ応力σyを関係式(2)により求めることができる回路からなることを特徴とする。
P=1/4(σx1+σx2+σy1+σy2) ・・・ (1)
σx=σx1-σx2、σy=σy1-σy2 ・・・ (2)
【0034】
これにより、芯棒の円周に90度間隔で貼り付けられている4個の応力インピーダンス素子の出力電圧を電子回路で処理して、4つの応力σx1、σx2、σy1、σy2を計測し、それを(1)式を使って信号処理して、接触圧を精度よく求め、(2)式を使って信号処理して、X軸方向およびY軸方向の曲げ応力を測定してXY平面内の曲げ応力および芯棒の曲げ方向を求めることを可能となる。
【0035】
第5発明の触針センサは、前記電子回路はパルス発信器、高速電子スイッチ、ピークホールド回路および増幅器から構成されている。
前記パルス発振器はアモルファス磁歪ワイヤに周波数50~500MHzの高周波電流またはパルス電流を通電し、アモルファス磁歪ワイヤのインピーダンス変化量に対応するパルス波形電圧のピーク電圧を前記高速電子スイッチにより0.2n秒以下の開閉時間で検波することを特徴とする。
【0036】
上記電子回路を採用することにより、周波数とアモルファス磁歪ワイヤのサイズとの組み合せにより2000以上の高い歪みゲージ率を得ることが可能となる。
【0037】
以下、本発明の応力インピーダンス素子付き触針棒と触針センサの最良の実施形態につ
いて詳細に説明する。ここで、応力インピーダンス素子付き触針棒を構成する1個の応力イ
ンピーダンス素子(以下、SI素子という。)と1つの電子回路からなる組合せを応力イン
ピーダンスセンサ(以下、SIセンサという。)と称する。
先ず、応力インピーダンス素子付き触針棒について図5及び6を用いて構成を説明し、SI素子については図7~12を用いて説明し、電子回路については図3および図13を用いて説明する。
【0038】
応力インピーダンス素子付き触針棒1は、図5および図5のA1-A線の断面図である図6に示すように、被測定物と接触するとともに芯棒12を保護する接触子11、接触圧力を受ける円柱状の芯棒12、芯棒12の周囲に4回対称に貼り付けられて接触圧力を検出する4個のSI素子13(13a1、13a2、13b1、13b2)、SI素子から電子回路2(図示せず)へのリード線14、芯棒12およびSI素子13を保護する絶縁性を有する樹脂、および芯棒12などを支えるホルダー16から構成される。
【0039】
SI素子について、その内容を詳細に説明する。
<SI素子の構造>
SI素子の構造の例を図7に示す。
SI素子3は、柔軟性を有するフレキシブル基板(以下、基板という。)31上に設けられている溝32にアモルファス磁歪ワイヤ(以下、磁歪ワイヤという。)33が配置され、磁歪ワイヤ33の両端の磁歪ワイヤ端子34から接続配線35を経由して磁歪ワイヤ電極36(361、362)へと接続されている。図8は、図7のB1-B2線の断面図である。
このSI素子3は、基板31の上にレジスト層31Rを設けている基板で、レジスト層31Rに溝32が設置され、磁歪ワイヤ33が配置されてその外周は絶縁性を有する樹脂37で被覆されている。
なお、溝32と磁歪ワイヤ33との関係では、磁歪ワイヤ33の上部が溝33からはみ出して、基板上面(レジスト層11Rの表面)に対して凸部を形成している。
磁歪ワイヤ33は、溝32内に埋もれている場合でもよい。
【0040】
また、磁歪ワイヤ33を2本用いるSI素子3Aを図9に示す。磁歪ワイヤ33の長さを短くして2本用いることにより、SI素子3Aの小型化を図りながら、磁歪ワイヤ33の長い1本の場合と同じ感度が得られる。
なお、磁歪ワイヤの全長により感度は決まってくるので、その本数と長さとの組み合せは素子サイズの設計に左右される。
【0041】
SI素子3および3Aのサイズは、応力検知体として直径5~18μm、長さ0.5~5mmである磁歪ワイヤ33の1本または複数本を基板31に貼り付けてその磁歪ワイヤ33の磁歪ワイヤ端子34、磁歪ワイヤ電極36を配置できるサイズであること、SI素子を芯棒12に容易に貼り付けられること、そしてSI素子の製造性を考慮して長さ0.8~5.5mm、幅0.05~0.8mm、厚さ0.05~0.25mmである。基板31のサイズ(長さと幅)とほぼ同じである。
【0042】
<フレキシブル基板>
応力検知体である磁歪ワイヤ33および磁歪ワイヤ電極36などを配置する基板31は、応力の負荷状態を測定する棒状の芯棒12に貼り付けられた磁歪ワイヤ33が微小な応力を検知できるように柔軟性を有する基板31からなる。
基板としては、フレキシブル性(柔軟性)と耐熱性を有し、テープ、フィルムなどの薄膜板からなる。例えばエレクトロニクス分野などで使用されている耐熱テープが好ましい。
よって、フレキシブル基板31に磁歪ワイヤ33が配置されているので基板表面を芯棒12の丸みのあるR形状に応じて柔軟かつ容易に接着剤で固定できる。
【0043】
<アモルファス磁歪ワイヤ>
応力検出体として、アモルファス磁歪ワイヤ(以下、磁歪ワイヤという。)を用いる。微小な応力を検知するために可能な限り磁歪ワイヤの直径(断面積S)は小さいほど、すなわちアスペクト比(磁歪ワイヤの長さL/磁歪ワイヤの直径(断面積S))が大きいほど歪みゲージ率が高くなることから、直径は5~18μmとする。アスペクト比は10~100程度にて好ましくは12~50である。製造性の点から5μm以上とする。
磁歪ワイヤの長さは、小型化のため長さ0.5~5mmである。歪みゲージ率へ影響するアスペクト比L/Sと製造性を考慮すると0.5mm以上とする。
材質は、Co系アモルファス磁歪ワイヤ、Fe系アモルファス磁歪ワイヤのいずれでもよい。
また、磁歪ワイヤはガラス被覆付きのアモルファス磁歪ワイヤでもよい。絶縁性を有するガラス被覆により磁歪ワイヤの絶縁性の確保が容易となる。
磁歪ワイヤの本数は、1本に限らず、図9に示すように2本の磁歪ワイヤ33を用いることにより、SI素子3Aの長さを短くして小型化を図ることもできる。
【0044】
<磁歪ワイヤ電極など>
磁歪ワイヤ33に生じたインピーダンスの変化量を磁歪ワイヤ33から、磁歪ワイヤ33の両端に形成した磁歪ワイヤ電極からリード線により外部の電子回路に伝えている。よって、2個の磁歪ワイヤ電極からなる。
また、図7に示すように、磁歪ワイヤの両端に磁歪ワイヤ端子34を設け、必要に応じて接続配線35を介して、磁歪ワイヤ電極34を設けて磁歪ワイヤ電極34からの配線により外部の電子回路に伝えてもよい。よって、2個の磁歪ワイヤ端子34と2個の磁歪ワイヤ電極36(361、362)からなり、必要に応じて磁歪ワイヤ端子34と磁歪ワイヤ電極36とを接続する2個の接続配線35からなる。
磁歪ワイヤ電極のサイズは、0.04mm×0.04mm~0.08mm×0.08mm
または0.04~0.08φmmとすることで可能となる。電極パッドのサイズを0.04mm以上としたのは、小さすぎると、信号配線上の電極との接合が難しくなるためである。
ガラス被覆付きのアモルファス磁歪ワイヤの場合は、磁歪ワイヤの両端は磁歪ワイヤの上面のガラス被覆を除去して金属蒸着膜で磁歪ワイヤ端子を形成し、磁歪ワイヤ端子と磁歪ワイヤ電極とを接続する。
ガラス被覆付きの磁歪ワイヤは、溝に配置したときや被試験体に固定したときなどに絶縁性の確保を確実にできるので短絡の恐れが無い。
【0045】
<磁歪ワイヤなどの磁気シールド>
また、アモルファス磁歪ワイヤは、四角のリング状の磁性薄膜により取り囲まれている。
これにより、外部磁界の影響を受けることなく、高い歪みゲージ率、高い歪検出力を有するSI素子を得ることができる。
【0046】
図10~12にその構造の例を示す。図10はSI素子3Bの平面図で、そのB1-B2線の断面図を図11に示し、そのC1-C2線の断面図を図12に示している。
図10に示すSI素子3Bにおいて、基板31上にレジスト層31Rに設けられている溝32に磁歪ワイヤ33が配置され、磁歪ワイヤ33の両端には磁歪ワイヤ端子34がそれぞれ形成され、接続配線35により基板31の端部に磁歪電極361、362が形成されている。
パーマロイ31Pからなる磁性薄膜が、磁歪ワイヤ33の周囲に四角のリング状に基板31またはレジスト層31Rの上に形成されている。基板31に接続配線15が配置されている一辺は絶縁性を有するレジスト層31Rの上にパーマロイ31Pを形成し、他の三辺は絶縁被覆されている基板31上にパーマロイ31Pを形成し、より磁気シールド効果を高めている。
【0047】
磁歪ワイヤ33を取り囲む磁性薄膜31Pの形状は、素子の周辺上に沿い、内部に磁歪ワイヤ33が配置されている四角環である。磁歪ワイヤ33の直径が10μmの場合には、四角環の厚みは、5μm~20μm程度でその環の幅は20μm~50μm、四角環の長辺の長さは、外側はSI素子31Bの長さより短く、内側は磁歪ワイヤ33の長さより長い。
【0048】
この例に加えて、四角環の類似である楕円環でもよい。また、磁歪ワイヤを上下左右から取り囲む包袋状の場合、平面の四角環に上下面にプレート状の磁性薄膜を取り付けた形状である。プレートの厚みは、2μm~10μm程度である。
本発明においては、磁歪ワイヤを外部磁界からシールドできる磁性薄膜であれば、上記四角環や楕円環の形状や包袋状の形状に制限されない。
磁性薄膜の材質は、パーマロイなどシールド機能を有するならば材質は問わない。
【0049】
<電子回路>
本発明の電子回路は、図3および図13に示すように、パルス発信器、高速電子スイッチ、ピークホールド回路および増幅器からなる。図3の電子回路2は、1個のSI素子に対して1つの電子回路を設けており、図13の電子回路2Aは4個のSI素子(23A、23B、23C、23D)に対して電子スイッチ22の切り替えにより各磁歪ワイヤにパルス電流を流し、最後に各増幅器27(27A、27B、27C、27D)で増幅して出力できるように1つの電子回路とするものである。
すなわち、図5に示す応力インピーダンス付き触針棒1において、4回対称に4個のSI素子(13a1、13a2、13b1、13b2)からそれぞれ延びるリード線14を介して4個の電子回路と接続して4個のSIセンサとし、4個のSIセンサからデータ処理回路へと出力信号が送られる場合と、4回対称に4個のSI素子(13a1、13a2、13b1、13b2)からそれぞれ延びるリード線14を介して1個の電子回路と接続して1個のSIセンサとし、電子スイッチの切り替えによりSIセンサからデータ処理回路へと出力信号が送られる場合とである。
【0050】
はじめに、磁歪ワイヤに通電する高周波電流またはパルス電流の周波数は50~500MHzである。磁歪ワイヤを5~18μmと細径化する場合には、より高周波とすることにより歪みゲージ率を改善することができる。
周波数の上限は、500MHz以下とする。高すぎると、歪みゲージ率が低下するからである。
なお、消費電力は高周波電流よりパルス電流の方が少ないので、パルス電流が好ましい。電流の強度は50~250mAである。
【0051】
なお、SIセンサの電子回路としては、高周波電流の場合には素子の信号をインピーダンスアナライザ回路で測定する回路(特許文献1)、パルス電流の場合には磁歪ワイヤが発信するパルス信号波形のピーク値をサンプルホールドする回路(特許文献2)などが広く使用されおり、これらの回路は本発明の電子回路として使用することもできる。
【0052】
本発明の電子回路としては、パルス発振器21からパルス電流を磁歪ワイヤに通電し、パルス信号波形のピーク値を高速電子スイッチ24で開閉時間をできるだけ短くして、ピークホールド回路26で検知し、増幅器27で増幅後、外部の信号処理回路に転送することが好ましい。ここで、開閉時間は0.2n秒以下としてピークホールド回路によりピーク電圧を検波することが好ましい。
【0053】
本発明のSIセンサは、直径5~18μmの磁歪ワイヤと50~500MHzの周波数のパルス電流を組み合わせたもので、歪み量に比例した出力電圧を出力することが可能となり、SI素子の長さが0.6~5.5mmと小型で、しかも2000~5000程度と非常に優れた歪みゲージ率を有する。
【0054】
なお、本発明の触針センサは、SI素子に限らず高い歪みゲージ率を有する歪みゲージなどでもよい。
【0055】
<触針センサ>
次に、接触圧と曲げ応力の両方を検知しうる円柱状の芯棒タイプの触針センサについて、4個のSI素子からなる複合素子を用いる場合の機能を図5および図6により説明する。
円柱状の芯棒12に、4個のSI素子(13a1、13a2、13b1、13b2)を4回対称に接着剤で張り付け、1対(13a1、13a2)をX軸方向、他の1対(13b1、13b2)をY軸方向とする。
【0056】
応力インピーダンス素子付き触針棒(以下、触針棒という。)が柔らかなばね性に富んだ擬弾性体からなる被測定物に接触すると、その曲げ応力を含む接触圧力(力)は触針棒の先端に固定されている接触子を介してそのまま芯棒に力が負荷され、芯棒の周囲に貼り付けられている4個のSI素子を構成する4本の磁歪ワイヤに分散して応力として負荷されることにより4本の磁歪ワイヤにそれぞれ応力に応じた歪みが発生する。磁歪ワイヤにパルス電流を通電すると歪みに応じてインピーダンスが変化し、これに対応する電圧が出力される。
【0057】
電子回路(図3)を使ってVx1、Vx2、Vy1、Vy2を求め、4カ所の歪み応力σx1、σx2、σy1、σy2を計測する。X軸対称またはY軸対称の差動型SI素子として構成した。作動素子の出力電圧Vx=Vx1-Vx2,Vy=Vy1-Vy2は、σx=σx1―σx2、σy=σy1―σy2とそれぞれ直線的関係にある。すなわち、曲げ応力と出力電圧との関係は直線的になる。電子回路は素子1個毎の回路(図3)としてもよいが、4個の測定値を同時に計測できる1つの電子回路(図13)の方が好ましい。
さらに、曲げ応力が負荷していない状態での接触圧Pは、4か所の応力σx1、σx2、σy1、σy2に対応する4つの測定値Vx1、Vx2、Vy1、Vy2を平均化すると求めることができる。さらに、つまり、曲げ応力が負荷している状態での接触圧Pも、同様にP=1/4(Vx1+Vx2+Vy1+Vy2)で求めることができる。曲げ応力は、Vx1とVx2、Vy1とVy2では正負が反転しているため、加算すると打消し、接触圧力成分のみが残るためである。
【0058】
本発明のデータ処理回路は、4か所の応力測定値をσx1、σx2、σy1、σy2とすると、接触圧Pを関係式(1)により、X軸方向の曲げ応力σxおよびY軸方向の曲げ応力σyを関係式(2)により求めることができる回路からなる。
P=1/4(σx1+σx2+σy1+σy2) ・・・ (1)
σx=σx1-σx2、σy=σy1-σy2 ・・・ (2)
【0059】
4つの応力測定値から接触圧Pを、P=1/4(σx1+σx2+σy1+σy2)で求める。X軸対称またはY軸対称の差動型SI素子によって、X軸方向およびY軸方向の曲げ応力は、σx=σx1―σx2、σy=σy1―σy2から計算する。この二つの計算値σxとσyから、XY平面内の曲げ応力を求め、芯棒の曲げ方向を求めることとする。
【0060】
また、芯棒は、曲げ応力ベクトルσxy=(σx,σy)の方向に、σxyに反比例した大きさの曲率半径Rだけ曲げられる。ここで、R=(π/64)×d×E/M、dは芯棒の直径、Mは曲げモーメント、Eは芯棒のヤング率である。この式から芯棒は曲げモーメントベクトルの向きに、曲率半径Rの大きさで曲がっていることが分かることになる。
【実施例0061】
以下、実施例について図5~8および図13を参照して説明する。
[実施例1]
実施例1の触針センサは、応力インピーダンス素子付き触針棒1、電子回路13およびデータ処理回路(図示せず)とからなる。
応力インピーダンス素子付き触針棒1は、被測定物と接触する接触子11、円柱状の芯棒12、芯棒12の周囲に貼り付けられているSI素子13を4個(13a1、13a2、13b1、13b2)、SI素子13から電子回路(図示せず)とのリード線14、保護被膜としての樹脂15およびホルダー16から構成されている。
電子回路13は、ホルダー16内に設置されている。電子回路13から出力される出力電圧は外部のデータ処理回路へと伝えられる。
ここで、芯棒12、接触子11およびホルダー14の材質は、耐食性を有する金属からなり、一般的にはSUS304に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼からなり、実施例ではSUS304である。
【0062】
芯棒の大きさは直径0.3mm、長さ8mmである。その周囲に長さ4.5mm、歪みゲージ率4600のSI素子13が4回対称に貼り付けられている。X軸方向にSI素子13a1および13a2、Y軸方向にSI素子13b1および13b2が貼り付けられ、電子回路で4ケ所の応力σx1、σx2、σy1、σy2を計測される。4つの応力測定値から、接触圧Pは、P=1/4(σx1+σx2+σy1+σy2)の計算で求められる。また、曲げ応力については、X軸方向の曲げ応力σxは、σx=σx1―σx2、Y軸方向の曲げ応力σyは、σy=σy1―σy2の計算により求められる。
【0063】
素子の構造は、図7および図8により説明する。
SI素子3は、基板31、溝32、磁歪ワイヤ33、磁歪ワイヤ端子34、接続配線35、磁歪ワイヤ電極36および絶縁性レジスト31R、樹脂37(絶縁性、接着性を有する。)からなる。
基板は、耐熱性を有する基板プロセス用テープを用いて、長さ4.5mm、幅0.20mm、厚さ0.12mmからなり、その上面に厚さ0.010mmの絶縁性を有するレジスト層31Rが形成され、深さ8μm、幅15μmの溝32が長手方向に加工されている。
【0064】
レジスト層31Rの溝32内に、直径10μm、長さ4.0mmの磁歪ワイヤ33を設置し、絶縁性を有する樹脂により溝32内に接着・固定されている。これにより、応力検知体である磁歪ワイヤ33は、レジスト層31Rの上面から2μmほど凸部となる。さらにこの凸部となる磁歪ワイヤ33は樹脂37で被覆される。
応力検知体である磁歪ワイヤ33は素子3の表面から凸状に張り出しているので直接被測定体(芯棒)に接触して被測定体(芯棒)の歪みを磁歪ワイヤ33の歪みに変換することができる。
【0065】
磁歪ワイヤ端子34、接続配線35および磁歪ワイヤ電極36を金の蒸着により形成されている。
磁歪ワイヤ端子34のサイズは直径40μm、磁歪ワイヤ電極36の直径は50μmにて厚さはいずれも2μmである。
よって、SI素子3のサイズは、長さ4.5mm、幅0.25mm、厚さ0.132mmとなる。
【0066】
芯棒12に接着剤で貼り付けられた4個のSI素子13はリード線14により電子回路に接続される。SI素子13、リード線14および芯棒12は保護被膜15により被覆される。保護被膜は、樹脂状で絶縁性、耐食性など測定する環境から触針センサを保護できるものである。
【0067】
電子回路2Aは、図13に示すように、4個のSI素子を1つの電子回路で処理するものである。
周波数200MHz、電流の強さ100mAのパルス電流を磁歪ワイヤに流すパルス発振器21、パルス通電をON-OFFする電子スイッチ22(22A、22B、22C、22D)、SI素子23(23A、23B、23C、23D)、SI素子が発するパルス電圧波形のピーク値を検波するピークホールド回路26(26A、26B、26C、26D)からなる。パルス電流の場合には、磁歪ワイヤが発するパルス信号波形のピーク値をサンプルホールドするピークホールド回路26(26A、26B、26C、26D)は高速電子スイッチ24(24A、24B、24C、24D)とコンデンサ25(25A、25B、25C、25D)からなっている。ピークホールドされた電圧は増幅器27(27A、27B、27C、27D)で増幅処理され、電子スイッチ28(28A、28B、28C、28D)にて個々のSI素子の出力電圧をON-OFFし、データ処理回路に出力電圧として出力される。その出力電圧は被測定物にかけられた応力に比例する。
【0068】
触針センサの特性を求めた。
荷重を0gから5g、つまり圧力換算で0から50kg/mmを触針棒に負荷して、歪を0から0.05%変化させた。その結果、出力電圧は500mVで、測定レンジは最大50kg/mm、荷重で言えば25g程度となった。ノイズは0.1kg/mm、荷重で言えば0.5mg程度となった。
曲げ応力は、接触圧を8kg/mm以下で、X軸方向の曲げ応力は±20kg/mmを負荷した時、出力電圧は-320mVから480mVまで直線的に変化した。ノイズは、0.20kg/mm程度となった。
【0069】
接触圧を0.5mgの最小単位にして、最大25gまで測定できた。曲げ応力は0.20kg/mmを最小単位にして、曲げ応力を±20kg/mmの範囲で測定できた。
接触圧と曲げ応力の両方を測定できることを確認した。
【0070】
[実施例2]
実施例2は、実施例1で使用したSI素子を、図9に示すような、長さ2mmの磁歪ワイヤの2本タイプで歪みゲージ率4600のSI素子に変更したものである。SIのサイズは長さ2.5mm、幅0.25mm、厚さ0.137mmである。
接触圧を1mgの最小単位にして、最大50gまで測定できて、曲げ応力は0.40kg/mmを最小単位にして、曲げ応力を±40kg/mmの範囲で測定できた。接触圧と曲げ応力の両方を測定できることを確認した。
【0071】
[実施例3]
実施例3は、SI素子の長さをさらに短くして、長さ1mmの磁歪ワイヤとしたものである。SI素子の幅、厚さは実施例2と同じである。
磁歪ワイヤの長さを1mmとした場合、短くすると歪ゲージ率が低下するが、磁歪ワイヤを2本とすることで2200程度のすぐれた歪みゲージ率を確保することが可能である。
この2本磁歪ワイヤのSI素子を上記芯棒に貼り付けた触針センサは、荷重を0g~5g、つまり圧力換算で0~50kg/mmを触針棒に負荷して歪を0~0.05%変化させた場合には、出力電圧は250mVで、測定レンジは最大100kg/mmである。
【0072】
ノイズは0.2kg/mmとなり、荷重で言いうと1mg程度となる。曲げ応力は、触圧を8kg/mmとして、X軸方向の曲げ応力を±20kg/mmを負荷したときには、出力電圧は-160mVから+240mVまで直線的に変化した。ノイズは、0.40kg/mm程度となる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の触針センサは、1mgから10g程度の小さな接触圧を曲げ応力と同時に測定することを実現したもので、疑弾性体からなる臓器、血管、皮膚など生体組織と医療機器との接触圧測定を可能にするものである。
また、高度の接触圧と曲げ応力を必要とするロボットの触覚センサなどにも期待される。
【符号の説明】
【0074】
1:応力インピーダンス素子(SI素子)付き触針棒
11:接触子、12:芯棒、13(13a1、13a2、13b1、13b2):SI素子、14:リード線、15:樹脂、16:ホルダー
2:電子回路
21:パルス発振器、22:電子スイッチ、23:SI素子、24:高速電子スイッチ、
25:コンデンサ、26:ピークホールド回路、27:増幅器
2A:電子回路
21:パルス発振器、22(22A、22B、22C、22D):電子スイッチ、23(23A、23B、23C、23D):SI素子、24(24A、24B、24C、24D):高速電子スイッチ、25(25A、25B、25C、25D):コンデンサ、26(26A、26B、26C、26D):ピークホールド回路、27(27A、27B、27C、27D):増幅器、28(28A、28B、28C、28D):電子スイッチ
3:SI素子
31:フレキシブル基板(基板)、31R:レジスト層、32:溝、33:磁歪ワイヤ、34:磁歪ワイヤ端子、35:接続配線、36(361、362):磁歪ワイヤ電極、37:樹脂
3A:SI素子(磁歪ワイヤ2本)
31:基板、32:溝、33:磁歪ワイヤ、34:磁歪ワイヤ端子、35:接続配線、36(361、362):磁歪ワイヤ電極
3B:SI素子(磁性被膜)
31:基板、31R:レジスト層、31P:パーマロイ、32:溝、33:磁歪ワイヤ、34:磁歪ワイヤ端子、35:接続配線、36(361、362):磁歪ワイヤ電極、
37:樹脂


























図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2021-01-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
SI素子について、その内容を詳細に説明する。
<SI素子の構造>
SI素子の構造の例を図7に示す。
SI素子3は、柔軟性を有するフレキシブル基板(以下、基板という。)31上に設けられている溝32にアモルファス磁歪ワイヤ(以下、磁歪ワイヤという。)33が配置され、磁歪ワイヤ33の両端の磁歪ワイヤ端子34から接続配線35を経由して磁歪ワイヤ電極36(361、362)へと接続されている。図8は、図7のB1-B2線の断面図である。
このSI素子3は、基板31の上にレジスト層31Rを設けている基板で、レジスト層31Rに溝32が設置され、磁歪ワイヤ33が配置されてその外周は絶縁性を有する樹脂37で被覆されている。
なお、溝32と磁歪ワイヤ33との関係では、磁歪ワイヤ33の上部が溝32からはみ出して、基板上面(レジスト層31Rの表面)に対して凸部を形成している。
磁歪ワイヤ33は、溝32内に埋もれている場合でもよい。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0064
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0064】
レジスト層31Rの溝32内に、直径10μm、長さ4.0mmの磁歪ワイヤ33を設置し、絶縁性を有する樹脂により溝32内に接着・固定されている。これにより、応力検知体である磁歪ワイヤ33は、レジスト層31Rの上面から2μmほど凸部となる。さらにこの凸部となる磁歪ワイヤ33は樹脂37で被覆される。
応力検知体である磁歪ワイヤ33は素子3の表面から凸状に張り出しているので直接被測定体に接触して被測定体の歪みを磁歪ワイヤ33の歪みに変換することができる。