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特開2022-90579微弱偏光変化分布撮像装置および微弱偏光変化分布撮像方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090579
(43)【公開日】2022-06-17
(54)【発明の名称】微弱偏光変化分布撮像装置および微弱偏光変化分布撮像方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 4/04 20060101AFI20220610BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20220610BHJP
   G01N 21/21 20060101ALI20220610BHJP
【FI】
G01J4/04 A
G02B5/30
G01N21/21 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203070
(22)【出願日】2020-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】特許業務法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】笹川 清隆
(72)【発明者】
【氏名】岡田 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】春田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】竹原 浩成
(72)【発明者】
【氏名】田代 洋行
(72)【発明者】
【氏名】太田 淳
【テーマコード(参考)】
2G059
2H149
【Fターム(参考)】
2G059AA02
2G059EE05
2G059FF01
2G059JJ19
2G059KK04
2G059MM01
2H149AA22
2H149AB01
2H149BA02
2H149EA10
2H149EA19
2H149FB08
(57)【要約】
【課題】消光比検出性能を飛躍的に向上させ、微弱な偏光変化の分布を可視化できる微弱偏光変化分布撮像装置および方法を提供する。
【解決手段】2次元マトリックス状に配置された固体撮像素子(イメージセンサ3)と、撮像対象5に照射される直線偏光に対する透過軸が所定のズレ角で配置された第1の偏光子1と、固体撮像素子の各素子に対応する偏光子、又は、固体撮像素子の複数素子に対応する複数の分割領域に対応する偏光子であって、隣接する偏光子のペア(2a,2b)が、第1の偏光子1の不透過軸または不透過軸±10°以内を対称軸として透過軸が対称である第2の偏光子2と、偏光子のペアに対応する固体撮像素子の検出値ペアの差分をとり、同相成分を除去して偏光回転量と強度を信号処理する画像処理部、を備え、撮像対象による偏光変化分布をイメージングする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元マトリックス状に配置された固体撮像素子と、
撮像対象に照射される直線偏光に対する透過軸が所定のズレ角で配置された第1の偏光子と、
前記固体撮像素子の各素子に対応する偏光子、又は、前記固体撮像素子の複数素子に対応する複数の分割領域に対応する偏光子であって、隣接する偏光子のペアが、第1の偏光子の不透過軸または不透過軸±10°以内を対称軸として透過軸が対称である第2の偏光子と、
前記偏光子のペアに対応する前記固体撮像素子の検出値ペアの差分をとり、同相成分を除去して偏光回転量と強度を信号処理する画像処理部と、
を備え、
前記撮像対象による偏光変化分布をイメージングすることを特徴とする微弱偏光変化分布撮像装置。
【請求項2】
前記ズレ角は、90°±5°の範囲内の角度であることを特徴とする請求項1に記載の微弱偏光変化分布撮像装置。
【請求項3】
照射光から直線偏光成分を取り出す第3の偏光子が設けられ、
前記第1の偏光子は、前記第3の偏光子に対してクロスニコル配置とされることを特徴とする請求項1に記載の微弱偏光変化分布撮像装置。
【請求項4】
前記第2の偏光子の隣接する偏光子の透過軸は、前記直線偏光の不透過軸を基準として±45°であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の微弱偏光変化分布撮像装置。
【請求項5】
前記固体撮像素子は、前記第2の偏光子が積層されたことを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の微弱偏光変化分布撮像装置。
【請求項6】
前記第1の偏光子を回転させ、前記ズレ角を調節することにより、偏光回転検出感度の増幅率を制御する増幅制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の微弱偏光変化分布撮像装置。
【請求項7】
撮像対象に直線偏光を照射し、
前記直線偏光に対する透過軸が所定のズレ角で配置された第1の偏光子に、前記撮像対象を透過した偏光を入射させ、
固体撮像素子の各素子に対応する偏光子、又は、前記固体撮像素子の複数素子に対応する複数の分割領域に対応する偏光子であって、隣接する偏光子のペアが、第1の偏光子の不透過軸または不透過軸±10°以内を対称軸として透過軸が対称である第2の偏光子に、第1の偏光子を透過した偏光を入射させ、
前記偏光子のペアに対応する前記固体撮像素子の検出値ペアの差分をとり、同相成分を除去して偏光の偏光回転量と強度を信号処理し、
前記撮像対象による偏光変化分布をイメージングすることを特徴とする微弱偏光変化分布撮像方法。
【請求項8】
前記ズレ角は、90°±5°の範囲内の角度であることを特徴とする請求項7に記載の微弱偏光変化分布撮像方法。
【請求項9】
照射光から直線偏光成分を取り出す第3の偏光子が設けられ、
前記第1の偏光子は、前記第3の偏光子に対してクロスニコル配置とされることを特徴とする請求項7に記載の微弱偏光変化分布撮像方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微弱な偏光変化の分布を可視化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光計測は、その方向によって反射特性や複屈折性を持つ媒質での透過特性に変化があるため、材料の推定や歪の可視化、また電気光学結晶を介した電界の可視化などに応用がなされている。
近年では、イメージセンサの画素上に画素ごとに異なる方向の偏光子を搭載した偏光イメージセンサが利用されているが、汎用的に偏光を観察することを目的としており、画素上の偏光子の消光比が100程度とあまり高くなく、また、一般的なイメージセンサ画素を用いているため、画素に蓄積できる電子数は数ke程度と推定され、飽和光量が低く、光強度を高くして感度向上を図ることもできない。これらの条件により、1/1000度以下の微弱な偏光検出は不可能であるという問題がある(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
また、高性能偏光子とイメージセンサを組み合わせた偏光イメージングが知られており、これによれば、高性能偏光子とイメージセンサを組み合わせ、適切に偏光子角度を設定することによって、画素飽和を回避しつつ偏光変化のイメージングを行うことが可能である。しかし、一般的に光源には強度雑音が混入しやすく、この手法では偏光変化と強度雑音との識別ができない。光源に高い安定性が必要となるため、装置の大型化、高コスト化につながるという問題があった(例えば、非特許文献2,3を参照)。
【0004】
また、画像処理精度を向上させた偏光イメージング装置が知られている(特許文献1を参照)。これは、それぞれ透過軸が異なる2つ以上の偏光子の領域に分かれており、入射される入力光のうち、各領域において当該入力光の無偏光成分を透過させると共に、各領域によって偏光方向が異なる入力光の偏光成分を透過させる偏光子ユニットを1個又は複数個含む偏光子アレイと、各領域を透過した光を独立に受光する受光素子アレイと、受光素子アレイからの偏光成分及び無偏光成分を処理する画像処理部とを有するものである。
【0005】
また、光の強度情報と位相情報を同時に取得できる微分干渉顕微鏡が知られている(特許文献2を参照)。これは、画素単位で透過軸方位を変えた偏光子アレイと撮像素子の組み合わせにより、偏光状態の空間分布を一度の撮影で取得できる偏光イメージング装置を用いて、微分干渉顕微鏡の像を観察し、そこから計算を行うことで、強度情報と位相情報を分離して取得できるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-86720号公報
【特許文献2】国際公開パンフレットWO2008/105156
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y. Maruyama, et al., “3.2-Mp back-illuminated polarization image sensor with four-directional air-gap wire grid and 2.5-μm pixels,”, IEEE Transactions on Electron Devices, vol. 65, pp. 2544-2551 (2018).
【非特許文献2】M. Tsuchiya, et al., “Live electrooptic imaging of W-band waves,”, IEEE T. Microw. Theory Tech., vol. 58, no. 11, pp. 3011-3021, Oct. 2010.
【非特許文献3】K. Sasagawa, et al.,“Live electro-optic imaging system based on ultra-parallel photonic heterodyne for microwave near-fields,”, IEEE Trans. Microw. Theory Tech., vol. 55, no. 12, pp. 2782-2791, Dec. 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通り、従来の偏光イメージセンサは、画素上の偏光子の消光比が100程度とあまり高くなく、また、一般的なイメージセンサ画素を用いているため、画素に蓄積できる電子数は数ke程度であり、飽和光量が低く、光強度を高くして感度を向上することが困難であり、微弱な偏光変化分布の撮像は困難であった。
【0009】
かかる状況に鑑みて、本発明は、消光比検出性能を飛躍的に向上させ、微弱な偏光変化の分布を可視化できる微弱偏光変化分布撮像装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明の微弱偏光変化分布撮像装置は、以下の1)~5)の構成を備える。
1)2次元マトリックス状に配置された固体撮像素子、
2)撮像対象に照射される直線偏光に対する透過軸が所定のズレ角で配置された第1の偏光子、
3)固体撮像素子の各素子に対応する偏光子、又は、固体撮像素子の複数素子に対応する複数の分割領域に対応する偏光子であって、隣接する偏光子のペアが、第1の偏光子の不透過軸または不透過軸±10°以内を対称軸として透過軸が対称である第2の偏光子、
4)偏光子のペアに対応する固体撮像素子の検出値ペアの差分をとり、同相成分を除去して偏光回転量と強度を信号処理する画像処理部。
上記構成によって、撮像対象による偏光変化分布をイメージングする。
【0011】
撮像対象に照射される直線偏光に対して透過軸が所定のズレ角で配置された第1の偏光子を備えることにより、直線偏光成分の消光比を高め、偏光回転角である偏光角を増幅でき、微弱な偏光変化の分布を可視化しやすくなる。
そして、隣接する偏光子のペアが第1の偏光子の不透過軸または不透過軸±10°以内を対称軸として透過軸が対称である第2の偏光子によって、撮像対象を透過した偏光の偏光回転量と強度を取得する。これにより、光源の強度変化に起因するノイズ量を大幅に低減することができる。なお、第2の偏光子は、隣接する偏光子のペアが、第1の偏光子の不透過軸を対称軸として透過軸が対称であることが好ましい。測定精度をより高めることができるからである。
第1及び第2の偏光子を備えることにより、従来、1枚の偏光子(検光子)が担っていた役割を分担させて、それぞれの偏光子の性能を最大限に発揮させることが可能になる。
【0012】
本発明の微弱偏光変化分布撮像装置において、ズレ角は、90°±5°の範囲内の角度であることが好ましい。ズレ角が、撮像対象に照射される直線偏光に対して90°を基準として、±5°の範囲内の角度とすることにより、消光比検出性能を飛躍的に向上させ、微弱な偏光変化の分布を可視化する。
ここで、ズレ角の調節は、第1の偏光子と第2の偏光子とが一体となり回転移動することが好ましい。第2の偏光子は、隣接する偏光子のペアを有し、隣接する偏光子のペアは、第1の偏光子の不透過軸を対称軸として透過軸が対称であるのが好ましいからである。
なお、簡易的に、第1の偏光子だけを回転移動する構成であってもよい。その場合、撮像対象に照射される直線偏光に対して、第1の偏光子の透過軸が90°±5°の範囲内で回転移動することになるが、第2の偏光子は回転移動しないため、第1の偏光子の不透過軸を対称軸として透過軸が対称でなくなる場合もあり得る。しかし、第2の偏光子の回転は測定結果に与える影響が少ないために、第1の偏光子だけを回転移動する構成であっても構わない。
【0013】
本発明の微弱偏光変化分布撮像装置は、照射光から直線偏光成分を取り出す第3の偏光子が設けられる場合には、第1の偏光子は、第3の偏光子に対してクロスニコル配置とされることがより好ましい。理想的な偏光子を考えた場合、クロスニコル配置では、透過率は0になる。しかし、実際のところ、クロスニコル配置とした場合でも、わずかに透過する。クロスニコル配置とされることにより、光強度は低減するが、代わりに偏光角は大きくできる。これにより、限られた受光量で大きな変化として検出可能となる。このように、高消光比偏光子を入射偏光に対して、クロスニコル配置した際にわずかに透過する入射偏光成分を積極的に利用することにより、高い偏光変化分布の撮像性能と安定性を実現する。
【0014】
本発明の微弱偏光変化分布撮像装置において、第2の偏光子の隣接する偏光子の透過軸は、直線偏光の不透過軸を基準として±45°であることが好ましい。第2の偏光子の隣接する偏光子の透過軸が上記角度とされることにより、効果的に同相成分を除去することができる。
【0015】
本発明の微弱偏光変化分布撮像装置において、固体撮像素子は、第2の偏光子が積層されたことが好ましい。
【0016】
本発明の微弱偏光変化分布撮像装置は、第1の偏光子を回転させ、ズレ角を調節することにより、偏光回転検出感度の増幅率を制御する増幅制御手段を更に備えることでもよい。増幅制御手段を備えることにより、容易に偏光回転検出感度の増幅率を制御することが可能になる。
【0017】
次に、本発明の微弱偏光変化分布撮像方法について説明する。
本発明の微弱偏光変化分布撮像方法は、以下のステップを備えるものである。
1)撮像対象に直線偏光を照射するステップ、
2)直線偏光に対する透過軸が所定のズレ角で配置された第1の偏光子に、撮像対象を透過した偏光を入射させるステップ、
3)固体撮像素子の各素子に対応する偏光子、又は、固体撮像素子の複数素子に対応する複数の分割領域に対応する偏光子であって、隣接する偏光子のペアが、第1の偏光子の不透過軸または不透過軸±10°以内を対称軸として透過軸が対称である第2の偏光子に、第1の偏光子を透過した偏光を入射させるステップ、
4)偏光子のペアに対応する固体撮像素子の検出値ペアの差分をとり、同相成分を除去して偏光の偏光回転量と強度を信号処理するステップ。
上記ステップによって、撮像対象による偏光変化分布をイメージングする。
【0018】
本発明の微弱偏光変化分布撮像方法において、ズレ角は、90°±5°の範囲内の角度であることが好ましい態様である。また、照射光から直線偏光成分を取り出す第3の偏光子が設けられた場合には、第1の偏光子は、第3の偏光子に対してクロスニコル配置とされることが好ましい態様である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の微弱偏光変化分布撮像装置および方法によれば、消光比検出性能を飛躍的に向上させ、微弱な偏光変化の分布を可視化できるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1の微弱偏光変化分布撮像装置の機能ブロック図
図2】実施例1の微弱偏光変化分布撮像装置の構成模式図
図3】検光子角度に対する透過光強度を示すグラフ
図4】偏光回転検出感度の増幅手法の説明図
図5】消光比の違いと偏光子角度に対する透過光強度の関係を示すグラフ
図6】実施例2の微弱偏光変化分布撮像装置の機能ブロック図
図7】画素の性能増大の説明図(偏光子1枚の場合)
図8】画素の性能増大の説明図(偏光子2枚の場合)
図9】差動検出処理の説明図
図10】一般的な偏光観察の光学系構成図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0022】
本発明の微弱偏光変化分布撮像装置の一実施形態について説明する。図1図2は、それぞれ本実施例の微弱偏光変化分布撮像装置10の機能ブロック図と構成模式図を示している。図1図2に示すように、微弱偏光変化分布撮像装置10は、第1の偏光子1、第2の偏光子2、及びイメージセンサ3で構成される。
第1の偏光子1は、撮像対象に照射される直線偏光に対して透過軸が90°±5°の範囲のズレ角(90°の場合はクロスニコル)で配置される。第1の偏光子1は、高い消光比の高性能偏光子で構成されている。
第2の偏光子2は、イメージセンサ3において2次元マトリクス状に配列された固体撮像素子の各素子に対応する偏光子(2a,2b)であって、隣接する偏光子のペア(2a,2b)が、第1の偏光子1の不透過軸(偏光子1の透過軸と直交する軸)を対称軸として、偏光子(2a,2b)の各透過軸が対称である構成となっている。なお、隣接する偏光子のペア(2a,2b)が、第1の偏光子1の不透過軸±10°を対称軸として、偏光子(2a,2b)の各透過軸が対称であればよい。
イメージセンサ3は、2次元マトリックス状に配置された固体撮像素子を有するものであり、画像処理部31を備える。画像処理部31は、分割領域の隣接するペアに対応する固体撮像素子の検出値ペアの差分をとり、同相成分を除去して偏光回転量と強度を信号処理する。
このような構成とされることにより、微弱偏光変化分布撮像装置10は、撮像対象による偏光変化分布をイメージングすることができる。
【0023】
次に、実施例1の微弱偏光変化分布撮像装置の具体的な構成について、従来技術と比較して説明する。図2は、実施例1の微弱偏光変化分布撮像装置の構成図を示している。図3は、検光子角度に対する透過光強度を示すグラフである。また、図10は、従来から知られている一般的な偏光観察の光学系構成図を示している。
図10に示すように、一般的な偏光観察の光学系構成100は、偏光子101と、検光子102と、イメージセンサ103で構成され、偏光子101と検光子102の間に、撮像対象5が置かれる。
光源光6から直線偏光成分6aを取り出すのが偏光子101であり、偏光子101を透過した光は偏光子101の透過軸方向に振動する直線偏光6aになる。直線偏光6aについて、観察対象5を透過した後の光(偏光6b)は、偏光子(検光子102)に入射し、検光子102の透過軸方向に振動する偏光6cがイメージセンサ103に入る。すなわち、偏光子101より照射光の直線偏光を取り出し、観察対象5に直線偏光6aを照射させる。観察対象5を透過する偏光6bは、撮像対象5の影響を受けて、僅かに偏光角が変化する。この偏光角の変化量、すなわち、偏光回転量をイメージセンサ103で検出する。
【0024】
図3は、偏光子101の透過軸に対する検光子102の角度(検光子角度)と、透過光強度の関係を示すグラフである。検光子角度が0°の場合は、偏光子101の透過軸と検光子102の透過軸の軸方向が一致するので、透過光強度が最大となり、検光子角度が90°の場合は、偏光子101の透過軸と検光子102の透過軸の軸方向が直交するので、いわゆるクロスニコル配置となるため、透過光強度が最小(理論的には不透過であり、透過光強度が0)となる。そして、検光子角度が0°と90°の場合は、共に、透過光強度の変化(接線の傾き)が最小となっていることが分かる。
【0025】
一方、検光子角度が45°付近では、透過光強度の変化(接線の傾き)が最大となり、45°から僅かな角度の変化があると、透過光強度が大きく変化することが分かる。そこで、図10に示すように、検光子102の角度は、偏光子101からの直線偏光に対して45°になるように配置、すなわち、検光子102の透過軸が不透過軸に対して45°となるように配置し、これにより、偏光の角度変化に対する感度を高めている。
そのため、最大透過光強度の半分程度が、イメージセンサ103に入射することになる。したがって、照射光が強いとイメージセンサ103の固体撮像素子が飽和してしまい、イメージセンサ103が取得する画像が真っ白になるため、従来装置では光強度に制限があるという問題がある。
【0026】
これに対して、本発明の微弱偏光変化分布撮像装置10は、図2に示すように、第1の偏光子1、第2の偏光子2、及びイメージセンサ3で構成される。第2の偏光子2を構成する偏光子のペア(2a,2b)は、イメージセンサ3の各画素(固体撮像素子)上に積層されている。隣接する偏光子のペア(2a,2b)は、第1の偏光子の不透過軸に対して透過軸が対称である。
撮像対象に照射される直線偏光は、光源光の直線偏光成分を偏光子4によって取り出したものである。偏光子4と第1の偏光子1をクロスニコル配置することで、偏光子4を透過する直線偏光6aのうちそのまま第1の偏光子1を透過する成分の多くを除去する。クロスニコル配置にすると、理論的には透過率は0になるが、実際にはわずかに透過する。第1の偏光子1をクロスニコル配置とすることにより、光強度は低減するが、代わりに偏光回転角を大きくすることができる。これにより、画素飽和によって検出感度の向上を妨げることを回避し、偏光の変化分を効率よく検出することで飛躍的な性能向上を実現する。
【0027】
次に、偏光回転角の検出感度の増幅手法についての図4を参照して説明する。図4(1)に示す矢印6aは、図2における偏光子4を透過し撮像対象5に入射する入射光(直線偏光)を表し、図4(2)に示す矢印(6b,7)と角度θは、撮像対象5により偏光回転が生じた偏光6bと偏光回転成分7と偏光回転角θを表し、図4(3)に示す矢印(6a´,6b´,7´)と角度θ´は、第1の偏光子1を通過することによる偏光6bと偏光回転成分7と偏光回転角θの変化を表している。そして、図4(4)に示す矢印(6a″,6b″,7″)と角度θ´は、イメージングセンサ3の画素飽和を避け、偏光回転による信号変化を効率よく検出するために入射光強度を最適化(光源強度による調整)した後の偏光6bと偏光回転成分7の変化を表している。なお、偏光回転角θは、光源強度による調整において変化なく、図4(3)に示す角度θ´を維持している。
【0028】
図4(1)に示すように、直線偏光6aは撮像対象を通過すると、撮像対象によって影響を受けて、図4(2)に示すように、撮像対象により偏光回転成分7が生じる。ここで、生じる偏光回転成分7は、撮像対象にもよるが、直線偏光6aの強度と比べて極めて小さい成分量(強度)である。図4(3)に示すように、偏光子4に対して第1の偏光子1をクロスニコル配置とすると、入射する直線偏光6aの成分量(強度)が低減され、小さい成分量の偏光6a´となる。これにより、偏光回転角は、図4(2)に示す偏光回転角θから図4(3)に示す偏光回転角θ´へと増大する。すなわち、偏光回転角が増幅される。イメージセンサで偏光6b´を検出するのであるが、図4(4)に示すように、光源強度により直線偏光6"の強度を調整して、イメージセンサにおいて画素飽和にならない程度まで入射光強度を最適化して偏光6"の強度を高めることにより、S/N比を高める。
これにより、限られた受光量で大きな変化として検出可能となる。このように、高消光比偏光子を入射偏光に対して、クロスニコル配置を含め、撮像対象に照射される直線偏光に対して、第1の偏光子の透過軸が所定のズレ角に配置させることにより、わずかに透過する入射偏光成分を積極的に利用して、高い偏光変化撮像性能と安定性を実現する。
【0029】
イメージセンサ3の各画素上に、第1の偏光子1の不透過軸±10°を対称軸として透過軸が対称である偏光子のペア(2a,2b)に対応する固体撮像素子の検出値ペアの差分をとり、同相成分を除去して偏光回転量と強度を信号処理することにより偏光回転量と強度変化を取得することができる。これにより、光源の強度変化に起因するノイズ量を大幅に低減してS/N比を高める。
【0030】
実施例1の微弱偏光変化分布撮像装置10では、第1の偏光子1と第2の偏光子2を積層することもできる。従来技術と異なり、検光子として1枚の偏光子ではなく、第1の偏光子1と第2の偏光子2の2枚の偏光子を適切に重ね合わせることにより、偏光子の機能を分担し、それぞれの最適条件を用いる。
すなわち、撮像対象に照射される直線偏光に対して、透過軸が所定のズレ角で配置か、偏光子4に対してクロスニコル配置とすることにより、上述のように、入射偏光成分の透過率が最低となり、偏光回転角の増幅率が最大となる。また、図2に示すとおり、第1の偏光子1の不透過軸または不透過軸±10°を対称軸として透過軸が対称である偏光子のペアで構成される第2の偏光子2が設けられることにより、検光子の役割はオンチップ偏光子である第2の偏光子2が担うため、最大の回転増幅率の条件を利用できることとなる。その結果、偏光子1枚に対して個々の画素の最大性能を2倍にできる。
【0031】
ここで、図10で示した従来の一般的な偏光観察の光学系構成のように偏光子1枚を検光子として用いて検出する場合に対し、本発明の微弱偏光変化分布撮像装置10のように偏光子2枚を用いて検出する場合とで、個々の画素の最大性能を2倍にできる点について詳しく説明する。偏光子1枚の場合、図7に示すように、入射光の電界ベクトル、観察対象による偏光回転をθ、直線偏光の振動軸に対する第1の偏光子の透過軸の角度をψとしたときの相対信号出力強度は、θ<<ψとして下記式1で表される。さらにψ<<1のとき、近似的に下記式2で表され、そして、相加相乗平均の関係を用いることにより、下記式3で表される。なお、図7,8において、A0は入射偏光振幅である。
【0032】
【数1】
【0033】
【数2】
【0034】
【数3】
【0035】
一方、本発明の微弱偏光変化分布撮像装置10のように偏光子2枚を用いて検出する場合、下記式4で示すとおり、偏光子1枚の場合と同じ相対信号強度であるにも拘わらず、図8に示すように、電界ベクトルの大きさを比較するとAはψ<<1の場合に下記式5になるのに対して、Aは下記式6になる。すなわち半分の受光量で同じ相対信号強度を実現できることになり、イメージセンサの固体撮像素子の飽和光量を基準とした場合、信号は2倍となるのである。
【0036】
【数4】
【0037】
【数5】
【0038】
偏光回転検出では、検光子を用いることにより、偏光回転量を光強度に変換して検出を行うため、光源の強度ゆらぎがノイズとして検出結果に影響を与えることになる。ここで、偏光回転は、例えば図2に示す本発明の微弱偏光変化分布撮像装置10の第2の偏光子2における偏光子のペア(2a,2b)によって、図9に示す信号波形のように、互いに相補的な逆相の光強度変化として検出される(図において、符号2a,2bの指す信号波形が、偏光子のペア2a,2bが検出する強度波形を示す)。一方、光源の強度ゆらぎは同相の変化であるため、図9に示すような差動検出によって、光源の強度ゆらぎの影響を低減した信号波形2cを取り出すことが可能であり、S/N比を高めることができるのである。
差動増幅回路をイメージセンサ内に統合することによって、外部からのノイズ混入を低減して更に高いS/N比の実現が可能となる。
【0039】
使用する偏光子としては、第1の偏光子1は、縦方向の偏光成分を低減し回転角度の増幅を行うため、高性能の偏光子を用いることが好ましい。一方、第2の偏光子2は、一般に画素上偏光子に用いられる偏光子を用いた場合であっても十分な性能が得られる。
図5は、消光比の違いと偏光子角度に対する透過光強度の関係を示すグラフである。検光子は偏光子角度に対する透過率変化が最大になる点が最適点であるが、図5に示すように、消光比が100程度以上では消光比が高くなってもほとんど改善しないことがわかる。
【0040】
本実施例の微弱偏光変化分布撮像装置10は、各画素に第2の偏光子2を搭載したイメージセンサ3と100程度の消光比の第1の偏光子1から構成される。光源には、第1の偏光子1に対してクロスニコル配置となる直線偏光光源を用いてもよい。従来の偏光イメージセンサにおいて偏光検出感度向上を制限する要因としては、画素飽和のために光強度を高くすることができない、画素上偏光子の消光比が高々100程度というものがあったが、本実施例の微弱偏光変化分布撮像装置10では、これらを回避し、消光比検出性能を飛躍的に向上することができる。また、単体の高消光比偏光子を用いた場合と比較しても、差動検出によって照射光の強度揺らぎによる同相の雑音を低減し検出性能を向上する。
【実施例0041】
図6は、微弱偏光変化分布撮像装置の他の実施形態の機能ブロックを示している。微弱偏光変化分布撮像装置20は、実施例1で示した微弱偏光変化分布撮像装置10と同様に、第1の偏光子1、第2の偏光子2、及びイメージセンサ3で構成される。微弱偏光変化分布撮像装置20では、実施例1で示した微弱偏光変化分布撮像装置10とは異なり、第1の偏光子1を回転させ、ズレ角を調節することにより、偏光回転検出感度の増幅率を制御する増幅制御手段11を備えている。増幅制御手段11を備えることにより、容易に偏光回転検出感度の増幅率を制御することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、微弱な偏光変化分布を可視化する撮像装置として有用である。
【符号の説明】
【0043】
1 第1の偏光子
2 第2の偏光子
2a,2b (画素上)偏光子
3,103 イメージセンサ
4,101 偏光子
5 撮像対象(観察対象)
6 光源光
6a 直線偏光
6b 偏光
7 回転偏光成分
10,20 微弱偏光変化分布撮像装置
11 増幅制御手段
31 画像処理部
100 一般的な偏光観察の光学系構成
102 検光子
θ 偏光回転角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10