(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022009066
(43)【公開日】2022-01-14
(54)【発明の名称】S-エコールを用いてアルツハイマー病を診断するおよび治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/353 20060101AFI20220106BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220106BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220106BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220106BHJP
【FI】
A61K31/353
A61P25/28
G01N33/50 Z
G01N33/68
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167818
(22)【出願日】2021-10-13
(62)【分割の表示】P 2019526190の分割
【原出願日】2017-07-25
(31)【優先権主張番号】62/367,002
(32)【優先日】2016-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519029000
【氏名又は名称】オージオ・ファーマシューティカルズ,リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】ジャクソン,リチャード・エル
【テーマコード(参考)】
2G045
4C086
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045DA20
2G045FB01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アルツハイマー病を発症するリスクを診断するまたは決定するための方法およびS-エコールによりアルツハイマー病を治療するための方法を提供する。
【解決手段】アルツハイマー病のリスクがある、又はアルツハイマー病と診断された患者における認知性測定値を改善するための医薬組成物を製造するためのS-エコールの使用であって、前記認知性測定値は、モントリオール認知評価(MoCA)試験を用いて評価されたものであり、前記医薬組成物は、ゲニステイン、ダイゼイン及び/又はIBS003569を含まず、前記患者はアポリポタンパク質E4(APOE4)非保因者である、使用、を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病のリスクがある、又はアルツハイマー病と診断された患者における認知性測定値を改善するための医薬組成物を製造するためのS-エコールの使用であって、
前記認知性測定値は、モントリオール認知評価(MoCA)試験を用いて評価されたものであり、
前記医薬組成物は、ゲニステイン、ダイゼイン及び/又はIBS003569を含まず、
前記患者はアポリポタンパク質E4(APOE4)非保因者である、使用。
【請求項2】
前記対象が、アルツハイマー病と診断されている、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記対象が、アルツハイマー病を発症するリスクがある、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記対象が、ヒトである、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記対象が、50歳を超えるヒトである、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記S-エコールが、化学的に生成される、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記S-エコールは、生合成的にまたは生体内変換により生成されたものでない、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記S-エコールが、次の特徴的な赤外線パターン波数(cm-1)、3433、3023、3003、2908、2844、1889、1614、1594、1517、1508、1469、1454、1438、1400、1361、1323、1295、1276、1261、1234、1213、1176、1156、1116、1064、1020、935、897、865、840、825、810、769、734、631、616、547、517、480、および461を有する、単一の無水結晶多形である、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記医薬組成物は前記S-エコールを10重量%~80重量%含む、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記医薬組成物は前記S-エコールが1日当たり1mg~100mgの用量で投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
前記医薬組成物は前記S-エコールが1日当たり10mgの用量で投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
前記医薬組成物は前記S-エコールが1日当たり50mgの用量で投与される、請求項1に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年7月26日に出願の米国特許仮出願第62/367,002号の優先権の利益を主張し、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0002】
本発明は、薬学的に有効な量のS-エコールまたはS-エコールを含む医薬組成物を用いて、アルツハイマー病を診断するおよび/または治療するまたは予防する方法に関する。本発明は、アルツハイマー病についての直接ミトコンドリア標的結合生物マーカー(direct mitochondrial target engagement biomarker)血小板チトクロムC酸化酵素を用いてアルツハイマー病を診断するおよび/または治療するまたは予防する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病関連認知機能低下および神経変性をなくすまたは遅くするための処置は、至急に必要とされる。有効な処置を開発する試みは、例えば、脳β-アミロイドペプチドAβの産生または蓄積を制限することにより、認識されるアルツハイマー病の病態を予防する、軽減する、または逆転することに集中している。この手法では、遅すぎる。脳機能の最も早期の変化は、脳ミトコンドリア機能の減少に関係する。アルツハイマー病では、様々なミトコンドリア局在酵素(mitochondria-localized enzyme)は、加齢と共に活性の減少を示す。かつ、ほとんどのニューロンにおいて、未変化のミトコンドリアは、数値的に減少する。撹乱された脳グルコースおよび酸素の利用、損傷を受けたミトコンドリア機能をも潜在的に反映し得る変化が、やはり観察される。
【0004】
通常、50歳前に発症する、早発性の、家族性アルツハイマー病は、症例のほんの一部(<5%)を占めるにすぎない。症例の大部分は、一般に、遅発性アルツハイマー病と称される。高齢者は、人口統計的に急成長している、つまり、米国では、成人10,000人が、毎日65歳になる。神経変性疾患の有病率の増加は、異論はあるだろうが、この加齢人口の最も大きなマイナス面である。いくつかの一般的な神経変性疾患の場合、発生率は、年齢が進むにつれて上昇し、有病率は、かなり高い。最も一般的な神経変性疾患であるアルツハイマー病は、米国人540万人が発症し、65歳を超える米国人の8人に1人がアルツハイマー病を有すると推定される。
アルツハイマー病患者の家族および友人がほとんど毎日介護を行い、アルツハイマー病は、現在、我が国の経済総計で、年間3850億ドルかかるため、社会にも影響を及ぼしている。
【0005】
アルツハイマー病は、早期および後期の生命過程と関連する多遺伝子性である。ヒトアポリポタンパク質(APOE)遺伝子は、4つの多形性アレル、ε1、ε2、ε3、およびε4として存在する(exits)。遺伝子的に、APOE遺伝子のε4アレルは、遅発性アルツハイマー病を発症するためのリスク因子である。ε4アレル(APOE4)の保因者は、世界人口のほんの約14%を表すことが報告されている。しかしながら、アルツハイマー病についての患者集団の約40%は、APOE4保因者である。一般集団と比較した、アルツハイマー病を伴う患者におけるAPOE4保因者の数が有意に増加することから、研究が、後期疾患についてのAPOE4遺伝子型を標的にする1つの理由である。
【0006】
加齢、アルツハイマー病、およびミトコンドリア機能の間の関連性は、十分に文書で裏付けられている。年齢が進むにつれて生じる欠損は、アルツハイマー病において悪化する傾向がある。アルツハイマー病の脳において、様々なミトコンドリア局在酵素は、活性が低下することを示し、ほとんどのニューロンにおいて、未変化のミトコンドリアは、数値的に減少する。アルツハイマー病ミトコンドリア機能不全が、疾患に関連し、疾患の早期についての妥当な治療標的であることに、研究者らは、ますます賛同する。
【0007】
リンパ球ミトコンドリア膜の潜在的な価値は、ラサギリンで治療した筋萎縮性側索硬化症患者においてミトコンドリア標的結合の生物マーカーとして役立ったことが最近報告されている。Macchiら、Amyotrophic lateral sclerosis & frontotemporal degeneration、16巻(2015年)345~352頁。しかしながら、アルツハイマー病の治療上の処置における標的結合生物マーカーとしての呼吸鎖酵素の使用は、報告されていない。
【0008】
一貫して実証されているアルツハイマー病ミトコンドリア病変には、チトクロムオキシダーゼ(COX)活性の低下が含まれる。興味深いことに、COX活性は、アルツハイマー病対象から得られた、脳および血小板ミトコンドリアにおいて低下する。剖検の脳から脳ミトコンドリアを回収することによってのみ可能である一方、血小板は、生存している対象から容易に得られ、連続的に獲得することができる。ミトコンドリア機能を増強することができる薬物の場合、血小板COX活性は、ミトコンドリア標的結合を評価するための独自の機会を提示している。
【0009】
「ミトコンドリア医薬品」とは、治療標的指向化ミトコンドリアにより、疾患を治療することを意味する。より最近では、用語「生体エネルギー医薬品」が紹介されて、細胞エネルギー産生を特に増加する処置が記載された。アルツハイマー病等の神経変性疾患の場合、理想的な薬剤は、全身的に安全であり、血液脳関門を横断し、ニューロンにアクセスし、ミトコンドリア新生を潜在的に活性化し、おそらく、ミトコンドリア呼吸を増加させなくてはならない。
【0010】
エストロゲンは、プロ-ミトコンドリア効果を有し、エストロゲン受容体(ER)βは、これらの効果のうちのいくつかを媒介し得る。ERβは、ミトコンドリア内で見出され、ERβ活性化は、ミトコンドリア機能を刺激すると報告されている。ERβは、ミトコンドリア新生にも関与しており、新たなミトコンドリアを細胞内で産生し、細胞のミトコンドリア量を部分的に決定することによるプロセスである。
【0011】
ERβアゴニストである、S-エコールは、ラットの海馬ニューロンにおける呼吸および最大解糖フラックスを増加させる、ならびに卵巣切除したマウスから得られた脳におけるチトクロムオキシダーゼ(COX)活性およびCOX1タンパク質レベルを増加させることが前もって示され、S-エコールは、その健康への影響および安全性を評価するために、ヒト対象において研究されている。Jacksonら、Nutr Rev、69巻(2011年)432~448頁;Yaoら、Brain research、1514巻(2013年)128~141頁;Jenksら、Journal of women’s health(2002年)、21巻(2012年)674~682頁;Jacksonら Menopause (New York, N.Y.)、18巻(2011年)185~193頁;Usuiら、Clinical endocrinology、78巻(2013年)365~372頁。
【0012】
S-エコールは、化学的に生成することもでき(すなわち、化学合成)、ダイズおよびアカツメクサにおいて見出されるダイゼイン、イソフラボンの代謝によって生体内変換(生合成)により、腸内細菌により生成することもできる。S-エコールの構造を以下に示す。
【化1】
【0013】
エコールは、キラル中心を有し、したがって、2つの鏡像異性の形態で存在することができる。S-エコール、R-エコール、ラセミエコール、およびエコール(集合的に「エコール」)の非ラセミ混合物;エコールの組成物;エコールの無水結晶多形;エコールの調製のための方法;およびエコールを用いる方法は、米国特許第8,716,497号(2012年9月10日出願);米国特許第8,048,913号(2009年9月14日出願);米国特許第7,960,432号(2008年7月3日出願);米国特許第7,396,855号(2003年7月24日出願);米国特許第8,263,790号(2011年6月1日出願);米国特許第7,960,573号(2009年5月4日出願);米国特許第7,528,267号(2005年8月1日出願);米国特許第8,668,914号(2009年7月31日出願);米国特許第8,580,846号(2006年8月18日出願);米国特許第8,450,364号(2012年4月9日出願);および米国特許第8,153,684号(2009年10月2日出願);米国特許第9,408,824号(2014年3月5日出願);米国特許出願公開第2016/0102070号(2015年10月14日出願の、特許出願第14/883,617号)に記載されており;そのそれぞれを、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0014】
エコール、ゲニステイン、およびダイゼインの混合物、またはエコール、ゲニステイン、ダイゼイン、およびIBSO03569の混合物を含む製剤は、神経変性およびアルツハイマー病を治療するまたは予防するための可能性を示している。Zhaoら、Neuroendocrinology(2009年)、150巻(2号)、770~783頁;米国特許第8,552,057号;Yaoら、Brain Research、(2013年)、128~141頁(集合的に「Brintonら」)を参照のこと。しかしながら、Brintonらは、アルツハイマー病のための直接ミトコンドリア標的結合生物マーカーを開示していない。また、Brintonらは、かかる製剤混合物が、APOE4保因者におけるアルツハイマー病のリスクを低下させるための生存可能な戦略を提供することを示唆している。したがって、アルツハイマー病を診断する新たな方法、代替の製剤によるアルツハイマー病を治療する方法、およびAPOE4の非保因者であるアルツハイマー病患者を治療するための方法について、当技術分野における必要性が依然としてある。
【発明の概要】
【0015】
次の簡潔な要約は、本発明のすべての特徴および態様を含むことを目的にしておらず、本発明が、本要約において論じるすべての特徴および態様を含まなければならないということを意味するものでもない。
【0016】
本発明者は、好ましくは、純粋なおよび(すなわち、好ましくは、他の化合物、例えば、ゲニステイン、ダイゼイン、およびIBSO03569の非存在下で)単離されたS-エコールが、アルツハイマー病患者に恩恵を与えることができるということを、驚くべきことに見出している。アルツハイマー病におけるS-エコールのパイロットスケールの臨床試験が、主要アウトカムの測度としてミトコンドリア標的結合血小板生物マーカーCOXを用いて、行われている。本発明者は、S-エコールが、APOE4遺伝子を保因しないアルツハイマー病患者に有益となり得るということを見出している。更に、本発明者は、ミトコンドリア標的結合血小板生物マーカーCOXによって、ヒトの患者においてアルツハイマー病を発症するリスクを診断するまたは検出するための方法が提供されることを見出している。本発明者は、初めて、アルツハイマー病の診断または検出、および治療において利用することができる直接ミトコンドリア標的結合生物マーカーを提供する。
【0017】
本発明の一実施形態は、S-エコールを含む製剤の薬学的に有効な量を、それを必要としている対象に投与するステップを含む、アルツハイマー病の治療および/または予防のための方法である。
【0018】
本発明の別の実施形態は、S-エコールを含む製剤の薬学的に有効な量を、アルツハイマー病と診断された対象に投与するステップを含む、アルツハイマー病の治療および/または予防のための方法である。
【0019】
本発明の別の実施形態は、S-エコールを含む製剤の薬学的に有効な量を、アルツハイマー病を発症するリスクがある対象に投与するステップを含む、アルツハイマー病の治療および/または予防のための方法である。
【0020】
本発明の別の実施形態は、対象から血液サンプルを得るステップと、前記血液サンプルにおいて1種または複数のミトコンドリア標的結合生物マーカーの活性を直接測定するステップと、1種または複数のミトコンドリア標的結合生物マーカーの活性を、アルツハイマー病と診断された1人または複数人の対象から得られた、1種もしくは複数のミトコンドリア標的結合生物マーカーの活性データを有するライブラリと比較するステップとを含む、対象においてアルツハイマー病を発症するリスクを診断するまたは決定する方法である。
【0021】
本発明の別の実施形態は、対象から血液サンプルを得るステップと、前記血液サンプル中の1種または複数の呼吸鎖酵素の活性を直接測定するステップと、1種または複数の呼吸鎖酵素の活性を、アルツハイマー病と診断された1人または複数人の対象から得られた、1種もしくは複数の呼吸鎖酵素の活性データを有するライブラリと比較するステップとを含む、対象においてアルツハイマー病を発症するリスクを診断するまたは決定する方法である。
【0022】
本発明の別の実施形態は、対象から血液サンプルを得るステップと、前記血液サンプル中の血小板ミトコンドリアチトクロムオキシダーゼ(COX)およびクエン酸シンターゼ(CS)の活性を直接測定するステップと、血小板ミトコンドリアチトクロムオキシダーゼ(COX)およびクエン酸シンターゼ(CS)の活性を、アルツハイマー病と診断された1人または複数人の対象から得られた、血小板ミトコンドリアチトクロムオキシダーゼ(COX)およびクエン酸シンターゼ(CS)の活性データを有するライブラリと比較するステップとを含む、対象においてアルツハイマー病を発症するリスクを診断するまたは決定する方法である。
【0023】
本発明の別の実施形態は、対象から血液サンプルを得るステップと、前記血液サンプル中の1種または複数のミトコンドリア標的結合生物マーカーの活性、好ましくは、対象から得られた前記血液サンプル中の1種または複数の呼吸鎖酵素の活性、より好ましくは、対象から得られた前記血液サンプル中の血小板ミトコンドリアチトクロムオキシダーゼ(COX)およびクエン酸シンターゼ(CS)の活性を直接測定するステップと、測定された1つまたは複数の活性を、アルツハイマー病と診断された1人または複数人の対象から得られた、1種もしくは複数のミトコンドリア標的結合生物マーカー、1種もしくは複数の呼吸鎖酵素、または血小板ミトコンドリアチトクロムオキシダーゼ(COX)およびクエン酸シンターゼ(CS)の活性データを有するライブラリと比較するステップと、対象についての活性の相対変化を決定する一連のステップを、少なくとも1回または複数回繰り返すステップとを含む、対象においてアルツハイマー病を発症するリスクを診断するまたは決定する方法である。
【0024】
本発明の別の実施形態は、対象においてアルツハイマー病を発症するリスクを診断するまたは決定するおよびそれを必要としている対象を治療する方法である。
【0025】
本発明の別の実施形態は、S-エコールの薬学的に有効な量を含む製剤を、対象に投与するステップを更に含む、前記対象においてアルツハイマー病を発症するリスクを診断するまたは決定するおよびそれを必要としている対象を治療する方法である。
【0026】
本発明の別の実施形態は、前記対象の遺伝子型を決定するステップを更に含む、アルツハイマー病を発症するリスクを診断するまたは決定する方法である。
【0027】
本発明の別の実施形態は、前記対象が、アポリポタンパク質E4(APOE4)保因者であるか否かを決定するステップを更に含む、アルツハイマー病を発症するリスクを診断するまたは決定する方法である。
【0028】
本発明の別の実施形態は、前記対象が、アポリポタンパク質E4(APOE4)保因者であるか否かを決定するステップと、対象が、アポリポタンパク質(APOE4)保因者でない場合、その場合、薬学的に有効な量のS-エコールを、前記対象に投与するステップを更に含む、アルツハイマー病を発症するリスクを診断するまたは決定する方法である。
【0029】
本発明の別の実施形態は、認知機能低下を緩和するまたは予防するのに十分なS-エコールの量を含む製剤の有効量を、対象に投与するステップを含む、対象において閉経に伴う前記認知機能低下を緩和するまたは予防するための方法である。
【0030】
本発明の別の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0031】
本発明の別の実施形態では、対象は、50歳を超えるヒトである。
【0032】
本発明の別の実施形態では、S-エコールは、化学的に生成される。本発明の本態様によれば、S-エコールは、生体内変換により(すなわち、生合成的に)生成されない。本発明の本態様によれば、S-エコールは、微生物を用いてダイゼインから生成されない。
【0033】
本発明の別の実施形態では、S-エコールを含む製剤は、ゲニステイン、ダイゼイン、および/またはIBSO03569を実質的に含まない。
【0034】
本発明の別の実施形態では、ゲニステイン、ダイゼイン、および/またはIBSO03569は、S-エコールと同時投与されない。
【0035】
本発明の別の実施形態では、S-エコールは、特徴的なX線粉末回折パターン波数(cm-1)、3433、3023、3003、2908、2844、1889、1614、1594、1517、1508、1469、1454、1438、1400、1361、1323、1295、1276、1261、1234、1213、1176、1156、1116、1064、1020、935、897、865、840、825、810、769、734、631、616、547、517、480、および461を有する、単一の無水結晶多形である。
【0036】
本発明の別の実施形態では、S-エコールを含む製剤は、R-エコールを実質的に含まない。
【0037】
本発明の別の実施形態では、R-エコールは、S-エコールと同時投与されない。
【0038】
本発明の前述のおよび他の目的、特徴および利点は、参照文字のように、異なる観点を通した同じ部分に関する添付図面において例示される通り、本発明の好ましい実施形態の次のより詳細な説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】モントリオール認知評価(MoCA:Montreal Cognitive Assessment)スコアにおける訪問間の平均変化パーセントを示すグラフである。
【
図2】
図2(A)~2(C)は、チトクロムオキシダーゼ(COX)およびクエン酸シンターゼ(CS)活性応答パターンを示すグラフである。
図2(A)は、試験を終了した全15名の参加者についての応答パターンを示すグラフである。
図2(B)は、省かれた外れ値の応答者から得られたデータを有する、9名の応答者の応答パターンを示すグラフである。
図2(C)は、5名の非応答者についての応答パターンを示すグラフである。
【
図3】
図3(A)および3(B)は、COX/CS値における訪問間平均変化パーセントのグラフである。
図3(A)は、全7名の非APOE保因者から得られたデータを示すグラフである。
図3(B)は、単一の非APOE保因者の外れ値から得られたデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
別段定義されない限り、本明細書において用いられるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似のまたはそれに相当する任意の方法および材料が、本発明の実行または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料は記載されている。一
般に、細胞および分子生物学および化学に関連して利用される、ならびにそれらの技法を利用した命名法は、当技術分野で周知のおよび当技術分野で一般に用いられるものである。特に定義されない、いくつかの実験技法は、当技術分野で周知のならびに本明細書全体を通して引用されるおよび論じられる、様々な一般のおよびより詳細な参照に記載される従来の方法に従って、一般に行われる。理解する目的のために、次の用語を以下に定義する。
【0041】
用語「ミトコンドリア標的結合生物マーカー」とは、臨床アウトカムの変化に対応する活性を定義することを意味し、すなわち、COX活性が増加すると、アルツハイマー病を伴う患者における認知測定の改善をもたらすはずである。
【0042】
本発明者は、初めて、アルツハイマー病治療試験において直接ミトコンドリア標的結合生物マーカーを特色づけた。フルオロ-デオキシグルコース陽電子放射断層撮影(FDG PET)が、他のアルツハイマー病治療試験において生物マーカーエンドポイントとして前もって用いられているが、FDG PETは、脳グルコースの利用を測定し、ミトコンドリアの機能の間接的な評価のみを提供する。同様に、磁気共鳴分光(MRS)は、アルツハイマー病治療試験において生物マーカーエンドポイントを提供するために用いられており、n-アセチルアスパラギン酸レベルは、ミトコンドリアに関連すると思われるが、MRSは、最善でも、ミトコンドリアの機能に間接的な病識を提供するだけだ。脳領域性デオキシヘモグロビンおよびオキシヘモグロビンを定量化する機能的MRIは、脳のミトコンドリアの機能の間接的な評価を提供することができるが、MRIは、信頼性の高い技法となり得ることが示されていない。
【0043】
直接ミトコンドリア評価は、現在、細胞または組織の実験室操作を要する。少なくとも非外科的試験において、生存しているアルツハイマー病対象から得られた脳サンプルを獲得することは非現実的である。他方では、血液は、容易に獲得可能な組織を表す。患者が、一般に、生検または腰椎穿刺手法よりも静脈切開に受容性があるため、血液は、組織の有利な情報源である。
【0044】
本発明者は、初めて、任意の治療試験において標的結合生物マーカーとして呼吸鎖酵素の活性を利用している。血小板ミトコンドリアCOX活性は、有用なエンドポイントであることが証明され、これは、アルツハイマー病対象の血小板においてCOX活性を測定する多数の試験と一致しており、脳ミトコンドリアにおいて観察されるものと類似して、血小板ミトコンドリアCOX Vmax活性は、年齢が一致した対照対象においてよりも低いことが見出された。COX活性は、通常、アッセイサンプルにおいて、タンパク質mgまたはCS活性のいずれかを参照し、どちらも、COX活性を、ミトコンドリアの指定された量に標準化させることが目的とされる。
【0045】
第2のアウトカムの測度は、安全性、認知、ならびに認知およびCOX生物マーカーデータとのAPOE遺伝子型の関連性が含まれる。治療に関連しない有害事象(重篤または非重篤のいずれか)を観察した。したがって、S-エコール10mgの1日2回2週間の投与は、アルツハイマー病患者において安全であることが証明された。
【0046】
S-エコールについての他の用量および投与スケジュールが考えられる。例えば、S-エコールは、1日1回または複数回用量当たり1~100mgを用いることができる。限定しない例には、2mg、5mg、10mg、15mg、20mg、50mgなどが含まれる。本レジメンは、2週間に限定する必要はない。投与スケジュールに関して、上限は要しない。
【0047】
投与されるS-エコールは、好ましくは、経口投与用の製剤であり、しかしながら、他
の投与経路はまた、直腸、眼、口腔(例えば、舌下)、非経口(例えば、皮下、筋肉内、皮内および静脈内)および経皮投与を含めて、考えられる。
【0048】
本発明による組成物または製剤は、1種もしくは複数の薬学的に許容されるまたは工業規格の充てん剤を含むことができる。充てん剤は、本組成物で治療される対象に有害であってはならない。充てん剤は、固体でも液体でもその両方でもよい。充てん剤は、単回投与、例えば、錠剤として、活性のS-エコールと共に配合することができ、これは、通常、S-エコールを約10重量%~80重量%含有することができる。組成物は、薬学の周知の技法のいずれかにより、例えば、医薬品分野において周知である通り、添加剤、賦形剤(例えば、水)および助剤を場合によっては含めた、構成成分を混和することにより調製することができる。
【0049】
経口投与に適した組成物は、個別単位、例えば、カプセル剤、カシェ剤、トローチ剤、または錠剤の形態で提示することができ、それぞれ、所定の量の抽出物を、粉末または顆粒剤として、水性もしくは非水液体中の溶液または懸濁液として、または水中油型もしくは油中水型乳剤として含有する。かかる組成物は、薬学の任意の適当な方法により調製することができ、これには、活性のS-エコールおよび(上記で述べた通り、1種または複数の補助成分を含有することができる)1種または複数の適当な担体を会合させるステップが含まれる。一般に、本発明の組成物は、S-エコールを、液体または微粉砕した固体担体、またはその両方と均一におよび均質に混和し、次いで、必要なら、得られた混合物を造形することにより調製される。例えば、錠剤は、抽出物を含有する粉末または顆粒剤を、場合によっては1種もしくは複数の補助成分と共に含む、または抽出物を含有する粉末または顆粒剤を、場合によっては1種もしくは複数の補助成分で、成形することにより調製することができる。圧縮された錠剤は、結合剤、滑沢剤、不活性な賦形剤、および/または界面活性剤/分散化剤で場合によっては混合した粉末または顆粒剤の形態の抽出物を、適当なマシンにおいて圧縮することにより調製することができる。一次成形された錠剤は、適当なマシンにおいて、不活性な液体結合剤で湿潤させた粉末化した化合物を成形することにより作製することができる。
【0050】
適当な充てん剤、例えば、糖類、例えば、乳糖、サッカロース、マンニトールまたはソルビトール、セルロース製剤および/またはリン酸カルシウム、例えば、リン酸三カルシウムまたはリン酸水素カルシウムなど、また、結合剤、例えば、トウモロコシ、コムギ、コメもしくはバレイショデンプン、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース(methylceullose)および/またはポリビニルピロリドンを用いた、例えば、デンプンのり、所望なら、崩壊剤、例えば、前述のデンプンなど、またカルボキシメチルスターチ、架橋ポリビニルピロリドン、寒天またはアルギン酸もしくはその塩、例えば、アルギン酸ナトリウムなどである。添加剤は、流動調節剤(flow conditioner)および滑沢剤、例えば、ケイ酸、タルク、ステアリン酸またはそれらの塩、例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸カルシウム、および/またはポリエチレングリコールなどとなり得る。糖衣コアは、適当な、場合によっては、腸溶、コーティングを提供し、特に、濃縮された糖液が用いられ、これは、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールおよび/または二酸化チタン、または適当な有機溶媒もしくは溶媒混合物中のコーティング溶液、または、腸溶コーティングの調製の場合、適当なセルロース製剤の溶液、例えば、アセチルセルロースフタレートまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどを含むことができる。色素または顔料は、例えば、同定の目的のためにまたは有効成分の異なる用量を示すために、錠剤または糖衣コーティングに加えることができる。
【0051】
他の経口投与可能な医薬組成物は、例えば、ゼラチンで作られた乾燥充てん(dry-filled)カプセル剤、およびゼラチンで作られた軟質の、密封されたカプセル剤および可塑剤、例えば、グリセロールまたはソルビトールなどである。乾燥充てんカプセル剤は、例えば、充てん剤、例えば、乳糖など、結合剤、例えば、デンプンなど、および/またはグリカント(glicant)、例えば、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなど、適切な場合、安定剤と混和した、顆粒剤の形態の抽出物を含むことができる。軟質カプセル剤において、抽出物は、適当な液体、例えば、脂肪油、パラフィン油または液体ポリエチレングリコールなどに、好ましくは、溶解しまたは懸濁し、それに、安定剤を加えることもできる。
【0052】
本発明の一態様によれば、S-エコールを含む組成物は、米国特許第7,960,432号(2008年7月3日出願);米国特許第7,396,855号(2003年7月24日出願);および米国特許第9,408,824号(2014年3月5日出願)に記載されているものが含まれ、それぞれの開示は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0053】
本発明の別の態様によれば、S-エコールは、米国特許第8,716,497号(2012年9月10日出願);米国特許第8,263,790号(2011年6月1日出願);米国特許第7,960,573号(2009年5月4日出願);米国特許第7,528,267号(2005年8月1日出願)に記載されている方法に従って、化学的に調製することができ(すなわち、化学合成)、それぞれの開示は、その全体を引用することにより本明細書の一部をなすものとする。例えば、S-エコールは、キラルリガンドを有するイリジウム触媒を用いて、エナンチオ選択的に調製することができる。S-エコールをエナンチオ選択的に調製する方法は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0054】
本発明の別の態様によれば、S-エコールは、S-エコールの単一の無水結晶多形、例えば、米国特許出願公開第2016/0102070号(2015年10月14日出願の特許出願第14/883,617号)に記載されているS-エコールの無水結晶多形などとなり得、S-エコールの無水結晶多形を特徴付けるために用いられる化学的および物理的特性を含めた、その開示は、その全体を引用することにより本明細書の一部をなすものとする。例えば、米国特許出願公開第2016/0102070号に記載されているS-エコールの無水結晶多形は、次の特徴的なX線粉末回折パターン波数(cm-1)、3433、3023、3003、2908、2844、1889、1614、1594、1517、1508、1469、1454、1438、1400、1361、1323、1295、1276、1261、1234、1213、1176、1156、1116、1064、1020、935、897、865、840、825、810、769、734、631、616、547、517、480、および461を有する。S-エコールの無水結晶多形のキャラクタリゼーションは、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0055】
認知に関して、MoCAは、認知症になった個体の状態対認知症になってない個体の状態を分類するために、通常用いられる。統計的に有意な治療効果が、必ずしも観察されるわけではないため、MoCAは、治療の効果の定性的測度を提供する。しかしながら、MoCA来診1回目および2回目のスコアによって定義されたスロープは、APOE4非保因者において改善の方向に、およびAPOE4保因者において下降の方向に投影された。したがって、MoCAが、一般に、定性的であるとしても、観察およびデータは、定量化可能な傾向および投影を提供するために利用することができる。
【0056】
次の例は、本発明の理解を助けるために提供され、この真実の範囲を、添付した特許請求の範囲に記載する。本発明の精神から逸脱することなく記載される手法で、修正がなされ得るということが理解される。
【実施例0057】
本発明の方法は、次の例に関連してよりよく理解され、これは、例証として意図されているにすぎず、本発明の範囲を限定するものでない。開示された実施形態への様々な変更および修正は、当業者に明らかであり、それだけには限らないが、本方法に関連するもの、本発明の製剤および/または方法を含めた、かかる変更および修正は、本発明の精神および添付した特許請求の範囲から逸脱することなくなされ得る。
【0058】
方法および材料の概要
アルツハイマー病対象は、University of Kansas Alzheimer’s Disease Center(ADC)によって募集された。ADCは、ルーチン的なキャラクタリゼーションが、臨床的認知症尺度(CDR)評定尺度、統一データセット(UDS)認知試験、およびAPOE遺伝子型判定を含む臨床コホートを維持する。クリニックコホートの参加者の診断は、主として、CDRおよびUDSデータに基づき、下位専門領域を訓練した認知神経内科医および熟練した神経心理学者を含む、コンセンサス会議によって決定される。アルツハイマー病と診断された対象は、McKhannら、Alzheimers Dement、7巻(2011号)263~269頁における診断のための現在の基準を更に満たしている。
【0059】
本試験資格を満たすのは、参加者が、非常に軽度(CDR0.5の)または軽度(CDR1)のアルツハイマー病を伴う女性でなければならなかった。各参加者は、試験パートナーを持つことを要した。インフォームドコンセントプロセスの一貫として、対象および試験パートナーは、試験の異なる部分の間、参加者が、S-エコールカプセル剤または不活性なプラセボのいずれかを投与されることを伝えられた。研究者は、任意の所与の時点で参加者が、S-エコールまたはプラセボを投与されていたか否かを知っているが、参加者自体には、実際の治療が遮蔽されるよう、プラセボを、視覚、触覚、または味覚によりS-エコールと識別することができないようにした。S-エコールおよびプラセボカプセル剤は、Ausio Pharmaceuticals、LLC(Cincinnati、OH)により提供された。
【0060】
対象は、プラセボが均一に構成された薬剤の2週間の供給を受け、試験薬剤を1日2回服用するよう指示された。この初回2週間の終わりに、参加者は、これらの最初の試験来診(来診1回目、評価導入部)のために、ADC臨床試験専用施設に戻された。来診1回目の手順には、試験薬剤コンプライアンスの評価、バイタルサイン、知覚される副作用についての質問、モントリオール認知評価(MoCA)、および静脈切開40mlが含まれ、その血液を用いて、血小板ミトコンドリアチトクロムオキシダーゼ(COX)およびクエン酸シンターゼ(CS)活性を測定した。本来診の完了時、次の2週間の試験薬剤が調剤され、これは、S-エコールカプセル剤10mgが均一に構成される。
【0061】
この第2の2週間の終了時、参加者は、これらの第2の試験来診(来診2回目、積極的治療評価)のために、ADC臨床試験専用施設に戻った。同じ手順を、評価導入部中に実施し、次の2週間の試験薬剤が調剤され、この時点で、プラセボが均一に構成される。この最後の2週間の終了時、参加者は、これらの第3の試験来診(来診3回目、洗い出し評価)のために、ADC臨床試験専用施設に戻った。導入部および積極的治療評価手順を再び実施し、本単盲検試験の参加を終了した。
【0062】
[実施例1]
血液サンプルの取得および酵素活性の測定
血液サンプル40ミリリットルを、抗凝血薬として酸-クエン酸塩-デキストロース(ACD)管を含有する試験管に収集し、室温で維持した。静脈切開の24時間以内に、血
液を、ADC Mitochondrial Genomics and Metabolism Coreにより処理した。プロセシング手順を開始するために、血小板を、遠心分離により単離し、濃縮されたミトコンドリア画分を、前述した方法を用いて調製した。かかる手順は、窒素キャビテーションを使用して、血小板を破裂させ、その後遠心分離し、ミトコンドリアを収集した。
【0063】
濃縮されたミトコンドリア画分のタンパク質濃度を、BCAタンパク質アッセイキット(BioRad、Hercules、CA)を用いて測定した。COX Vmax活性を、550nmにおける還元型チトクロムcの酸化の測定により、擬一次-速度定数(秒-1/mg)として決定した。
【0064】
COX活性を測定するのに加えて、各サンプルのクエン酸シンターゼ(CS)Vmax活性(nmol/分/mg)を測定した。本アッセイを、分光光度的に行い、その後、5-チオ-2-ニトロ安息香酸(412nm)を形成し、その後、30℃で100μMオキサロ酢酸を加えた。COX活性を総タンパク質に参照することに加えて、ミトコンドリア量における潜在的なサンプル間の差を、各サンプルについてのCOX活性をその対応するCS活性に参照することにより補正した。
【0065】
[実施例2]
アウトカム
血小板ミトコンドリアCOX活性のS-エコールに関連した改変を、主要アウトカム測度として設計した。個別の参加者の場合に、血小板ミトコンドリアのCOX活性のS-エコールに関連した変化が生じるか否かを決定するために、応答分析の想定されたパターンを用いた。血小板ミトコンドリアCOX活性が、積極的治療に応答して増加することが予想された。
【0066】
導入部測定値から積極的治療測定値までの個別の変化(スロープ)が、積極的治療測定値から洗い出し(来診3回目)測定値までの変化(スロープ)より大きかった場合、参加者は、応答と同定した(すなわち、治療に応答したCOX活性の増加を、「成功」または「応答者」と分類した)。
【0067】
第2のアウトカムには、S-エコール10mg1日2回の用量の安全性分析およびMoCAスコアの分析が含まれた。APOE遺伝子型では、対象の選択を報告されなかったが、認知および酵素活性データの事後的な副次分析を、APOEの状態により参加者を層別化した後に行った。
【0068】
[実施例3]
APOE4保因者および非保因者のモントリオール認知評価(MoCA)
参加者合計16名を登録し、その中の15名の参加者は本試験を完了した。他の参加者から得られたデータを、いかなる分析においても含めなかった。15名の対象のうち、APOE4保因者は8名であり(7名がAPOE3/4遺伝子型であり、1名が、APOE2/4遺伝子型である)、および7名は、非-APOE4保因者である(全7名は、APOE3/3遺伝子型であった)。
【0069】
年齢の平均およびMoCAスコア範囲を、表1に示す。APOE4保因者と非保因者の間の年齢は、有意に異ならなかった。
【0070】
【0071】
有害事象は起こらず、コンプライアンスは、100%に近かった。平均のMoCAスコアは、来診(表2)間で類似した。有意差は、来診間、またはAPOE4保因者と非保因者との間で観察されなかった。
【0072】
【0073】
平均および標準誤差によりMoCAスコアをまとめることに加えて、来診1回目と来診2回目のスコアの間の変化パーセント、ならびに来診1回目と来診3回目のスコアの間の変化パーセントを、各参加者について算出した。
【0074】
図1は、MoCAスコアにおける訪問間平均変化パーセントを示すグラフである。来診1回目と来診2回目のスコアの間、ならびに来診1回目と来診3回目のスコアの間の変化パーセントを示す。中間(実線)の線には、全15名の対象から得られたデータが含まれ、下部の(長い破線)線には、APOE4保因者8名から得られたデータが含まれ、上部の(短い破線)線には、非APOE保因者7名から得られたデータが含まれる。
図1では、来診1回目と来診2回目との間で、MoCAスコア変化パーセントが、APOE4保因者の場合下向き方向の傾向があり、APOE4非保因者の場合上向き方向の傾向があったことが示される。
【0075】
APOEの状態は、上記で定義した主要アウトカム測度に対して、それほどの影響を与えなかった。APOE4保因者および非保因者である患者は、応答者および非応答者の割合が大ざっぱに等しいことが示された。しかしながら、来診1回目および2回目のCOX/CS活性によって定義されたスロープは、APOE4保因者においてそうであったよりもAPOE4非保因者において高い傾向があり、来診2回目と3回目の測定の間の傾向は、洗い出し効果と整合し得る。したがって、観察およびデータは、APOE4保因者および非保因者について、定量化可能な傾向および投影を提供するために利用することができる。
【0076】
[実施例4]
APOE4保因者および非保因者のチトクロムオキシダーゼ(COX)およびクエン酸シンターゼ(CS)活性
COX活性をCS活性に参照することにより、それぞれアッセイしたサンプルについてのミトコンドリアの濃縮の程度を補正した後、参加者15名のうちの11名は、陽性の反応パターンを有することが判明した。
【0077】
図2(A)~2(C)は、COX/CS応答パターンを示す。
図2(A)は、本試験を完了した全15名の参加者についての応答パターンを示すグラフである。陽性の反応パターンを示した非-APOE4保因者である参加者1名から得られたデータは、他の14名の参加者から得られたデータよりも数倍高い。
図2(B)は、外れ値の応答者を除外し、他の10名の応答者から得られたデータのみを含め、応答者である参加者についての訪問間の変化を例示している。
図2(C)は、5名の非応答者から得られたデータを含み、非応答者である参加者それぞれについての訪問間の変化を例示するグラフである。
図2(B)および2(C)中で、APOE4保因者である参加者を、長い破線で示し、非-APOE4保因者である参加者を、短い破線で示す。
【0078】
図2(A)では、本試験を完了した全15名の参加者についてのCOX/CS応答パターンが示され、参加者のうちの1名、つまり、応答者としてカウントされた非-APOE4保因者は、他の14名の参加者から得られたデータよりも数倍高かったCOX/CS値を生成したことを例示するために、特に含める。
【0079】
図2(B)は、外れ値の非-APOE4保因者である応答者を除く、応答者として認定された各参加者についてのCOX/CSパターンを示す。
図2Cは、非応答者として認定された各参加者についてのCOX/CSパターンを示す。応答者の状態は、APOE遺伝子型において明らかに偶発的でなかった。表3は、外れ値の参加者から得られたデータを含めたおよび含めない、平均のCOX/CS値をまとめて示す。有意差は、来診間で、またはAPOE4保因者と非保因者との間で観察されなかった。
【0080】
【0081】
図3(A)および3(B)は、COX/CS値における訪問間の平均変化パーセントを示すグラフである。来診1回目と来診2回目のスコアの間、ならびに来診1回目と来診3回目のスコアの間の変化パーセントを示す。実線には、全15名の対象から得られたデータが含まれ、長い破線には、APOE4保因者8名のみから得られたデータが含まれる。
図3(A)中では、短い破線には、全7名の非APOE保因者から得られたデータが含まれ、
図3(B)中では、短い破線は、単一の非APOE保因者の外れ値から得られたデータを除外する。来診間の有意差は、本分析を用いて同様に観察され、来診1回目と来診2回目との間で、COX/CS変化パーセントは、APOE4保因者においてそうであったよりも、非-APOE4保因者において高い傾向であった。ありうる「洗い出し」効果と
整合する定性傾向はまた、明白であった。
【0082】
本明細書中の例は、アルツハイマー病治療試験を報告するための直接ミトコンドリア標的結合生物マーカーの使用を実証している。
【0083】
本発明が、その好ましい実施形態に関連して、特に示され、記載されており、添付した特許請求の範囲により包含される本発明の範囲から逸脱することなく、形式上および詳細な様々な変更が、それにおいてなされ得ることが当業者により理解される。
【0084】
参照文献
本明細書で言及した、特許および科学文献は、当業者により利用可能な知識を確立する。本明細書中で引用される、すべての米国特許および公開されたまたは公開されていない特許出願は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。本明細書中で引用される、公開された外国特許および特許出願はすべて、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。本明細書中で引用される、他の公開された参照、文書、原稿および科学文献はすべて、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0085】