(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090666
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】免震構造体
(51)【国際特許分類】
F16F 1/50 20060101AFI20220613BHJP
F16F 1/40 20060101ALI20220613BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20220613BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
F16F1/50
F16F1/40
F16F15/04 P
E04H9/02 331A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203093
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生頼 正祥
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB03
2E139AC19
2E139CA02
3J048AA01
3J048AD05
3J048BA08
3J048CB05
3J048DA01
3J048EA38
3J059AA03
3J059BA43
3J059BC06
3J059BD05
3J059CB03
3J059GA50
(57)【要約】
【課題】免震構造体の小面積化のために、上下一対のフランジを建造物と土台との間に固定するボルトのサイズアップを図った場合であっても、ボルトの頂部が構成部材であるゴム層に接触することを回避し得る免震構造体を提供すること。
【解決手段】建造物と土台との間に、上下一対のフランジを介して複数のボルトで固定された免震構造体であって、フランジ間に、剛性を有する硬質層と粘弾性を有するゴム層とが交互に積層され、上下一対のフランジに近い上層部および下層部のゴム層のゴム硬度をH(A)、上下一対の前記フランジの中間に位置するゴム層のゴム硬度をH(B)としたとき、H(A)≧2H(B)である免震構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物と土台との間に、上下一対のフランジを介して複数のボルトで固定された免震構造体であって、
上下一対の前記フランジ間に、剛性を有する硬質層と粘弾性を有するゴム層とが交互に積層され、
上下一対の前記フランジに近い上層部および下層部のゴム層のゴム硬度をH(A)、上下一対の前記フランジの中間に位置するゴム層のゴム硬度をH(B)としたとき、
H(A)≧2H(B)
であることを特徴とする免震構造体。
【請求項2】
ゴム硬度がH(A)であるゴム層の高さをT(A)、ゴム硬度がH(B)であるゴム層の高さをT(B)としたとき、
0.1×T(B)≦T(A)≦0.2×T(B)
である請求項1に記載の免震構造体。
【請求項3】
ゴム硬度がH(A)であるゴム層の高さをT(A)、前記ボルトの高さT(C)としたとき、
1.2×T(C)≦T(A)
である請求項1または2に記載の免震構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物と土台との間に、上下一対のフランジを介して複数のボルトで固定された免震構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビルや橋梁などの建造物の固有振動数を地震の振動周波数からずらして、建造物の横揺れを低減すべく、その基礎部分に免震構造体を配設する技術は広く知られている。免震構造体としては、上下一対のフランジ間に、剛性を有する硬質層と粘弾性を有するゴム層とが交互に積層されたものが一般的である。かかるフランジとして大面積のものを使用すれば、横揺れが大きい場合でも安定化する傾向があり好ましいが、建造物の基礎部分を大きくする必要が生ずる。しかしながら、設計上、建造物の基礎部分はできるだけ小さくすることが要求されるため、上下一対のフランジを建造物と土台との間に固定するボルトのサイズアップを図り、ボルトの本数をできるだけ少なくしつつ、フランジの面積、つまり免震構造体の面積を小さくすべきとの市場の要求が強いのが実情である。
【0003】
下記特許文献1では、上下一対のフランジ間に、剛性を有する硬質層と粘弾性を有するゴム層とが交互に積層された免震構造体において、フランジ取付側のゴム層の引張応力が中心側のゴム層の引張応力に比べて低く設計した技術が記載されている。
【0004】
下記特許文献2では、上下一対のフランジ間に、剛性を有する硬質層と粘弾性を有するゴム層とが交互に積層された免震構造体において、フランジに近い上層部および下層部のゴム層の引張破断伸びが中間部のゴム層の引張破断伸びよりも大きく設計した技術が記載されている。
【0005】
下記特許文献3では、上下一対のフランジ間に、剛性を有する硬質層と粘弾性を有するゴム層とが交互に積層された免震構造体において、低歪域および高歪域の両方で、ゴム層の少なくとも一層の弾性率が他のゴム層の弾性率と異なる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-83137号公報
【特許文献2】特開平10-68442号公報
【特許文献3】特開平1-190847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、免震構造体の小面積化のために、上下一対のフランジを建造物と土台との間に固定するボルトのサイズアップを図った場合において、地震で免震構造体に横揺れが付加された場合、ボルトの頂部がゴム層に接触することは避けられず、該接触に伴うゴム層の亀裂発生などの故障が発生する危険性が高くなる。しかしながら、上記いずれの技術もかかる危険性を認識しておらず、また故障発生を回避し得る技術には該当しない。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、免震構造体の小面積化のために、上下一対のフランジを建造物と土台との間に固定するボルトのサイズアップを図った場合であっても、ボルトの頂部が構成部材であるゴム層に接触することを回避し得る免震構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は下記の如き構成により解決し得る。すなわち本発明は、建造物と土台との間に、上下一対のフランジを介して複数のボルトで固定された免震構造体であって、前記フランジ間に、剛性を有する硬質層と粘弾性を有するゴム層とが交互に積層され、上下一対の前記フランジに近い上層部および下層部のゴム層のゴム硬度をH(A)、上下一対の前記フランジの中間に位置するゴム層のゴム硬度をH(B)としたとき、H(A)≧2H(B)であることを特徴とする免震構造体に関する。
【0010】
上記免震構造体において、ゴム硬度がH(A)であるゴム層の高さをT(A)、ゴム硬度がH(B)であるゴム層の高さをT(B)としたとき、0.1×T(B)≦T(A)≦0.2×T(B)であることが好ましい。
【0011】
上記免震構造体において、ゴム硬度がH(A)であるゴム層の高さをT(A)、前記ボルトの高さT(C)としたとき、1.2×T(C)≦T(A)であることが好ましい。なお、前記「ボルトの高さT(C)」は、フランジ表面からのボルトの突出部分の高さ(フランジ表面からボルト先端までの距離)を意味するものとする。
【発明の効果】
【0012】
上下一対のフランジ間に、剛性を有する硬質層と粘弾性を有するゴム層とが交互に積層された免震構造体に関し、ゴム硬度がいずれの層でも同じである既存の免震構造体では、
図3に記載の如く、地震で免震構造体に横揺れが付加された場合、ボルト6の頂部がゴム層に接触し、該接触に伴うゴム層の亀裂発生などの故障が発生する危険性が高かった。
【0013】
本発明に係る免震構造体では、上下一対のフランジに近い上層部および下層部のゴム層のゴム硬度をH(A)、上下一対のフランジの中間に位置するゴム層のゴム硬度をH(B)としたとき、H(A)≧2H(B)となるように設計されている。このため、地震で免震構造体に横揺れが付加された場合、本発明に係る免震構造体では、フランジの中間に位置するゴム層が大きく変形する一方で、フランジに近い上層部および下層部のゴム層の変形が少ない。その結果、
図2に記載の如く、地震で免震構造体に横揺れが付加された場合、本発明に係る免震構造体はゴム層とボルトとが接触しないことに起因して、ゴム層の亀裂発生などを防止することができる。したがって、免震構造体の耐久性が向上するとともに、上下一対のフランジを建造物と土台との間に固定するボルトのサイズアップが可能となる。
【0014】
特に、本発明に係る免震構造体において、ゴム硬度がH(A)であるゴム層の高さをT(A)、ゴム硬度がH(B)であるゴム層の高さをT(B)としたとき、0.1×T(B)≦T(A)≦0.2×T(B)である場合、免震構造体が備えるゴム層の亀裂発生などをより効果的に防止することが可能となり、さらに耐久性が向上するため好ましい。
【0015】
さらに、本発明に係る免震構造体において、ゴム硬度がH(A)であるゴム層の高さをT(A)、前記ボルトの高さT(C)としたとき、1.2×T(C)≦T(A)である場合、上下一対のフランジを建造物と土台との間に固定するボルトのサイズアップが容易となるため好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る免震構造体を概念的に示す断面図
【
図2】本発明に係る免震構造体に横揺れが付加された状態を概念的に示す断面図
【
図3】既存の免震構造体に横揺れが付加された状態を概念的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明に係る免震構造体を説明する。
図1に本発明に係る免震構造体を概念的に示す断面図を示す。本発明に係る免震構造体10は、建造物1と土台2との間に、上下一対のフランジ3を介して複数のボルト6で固定されている。免震構造体の小面積化の要請、低コスト化、さらにはフランジ面積が大きくなるとフランジ強度(曲げに対する強度)維持のためにボルト本数を多くする必要があり、これを避ける観点から、ボルト6はできるだけゴム層5に近づけて配設することが好ましい。ボルト6とゴム層5との間の具体的な距離は、免震構造体10の大きさにもよるが、ボルト6を締結するための工具(ソケット、レンチまたはインパクト)が入る最低限の距離に設計することが好ましい。フランジ3は通常、円板状に形成されており、フランジ3の間には、同じく円板状である、複数の硬質層4と複数のゴム層5とが交互に積層されている。なお、免震構造体10の中心部には、フランジ3、硬質層4およびゴム層5を貫通する貫通孔を形成してもよい。硬質層4は通常、鋼板で形成されている。
【0018】
ゴム層5は、天然ゴムの他、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムやEPDMゴムなどの各種合成ゴムに、加硫剤、加硫促進剤、充填剤、軟化剤、可塑剤などの各種添加剤を添加し、加硫したもので形成されている。
【0019】
本発明に係る免震構造体10では、上下一対のフランジ3に近い上層部および下層部のゴム層5のゴム硬度をH(A)、上下一対のフランジ3の中間に位置するゴム層5のゴム硬度をH(B)としたとき、H(A)≧2H(B)となるように設計されている。なお、本発明においてゴム硬度は、JIS K6253-3に基づき測定するものとする。JIS K6253-3に基づくゴム硬度測定には、例えば高分子計器社製 アスカーゴム硬度計A型(タイプAデュロメータ)により測定可能である。フランジ3側のゴム層5と、中間に位置するゴム層5とのゴム硬度差を調製する方法としては、例えばゴム層を構成する補強剤および/または軟化剤の含有量を調製する方法が挙げられる。補強剤としては主にカーボンブラックが使用され、他にはシリカ、亜鉛華、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレーなどが使用可能である。一般に、ゴム層5中の各種補強剤の含有量を多くするほど、ゴム硬度が高くなる傾向がある。軟化剤としては例えば脂肪酸(ステアリン酸、ラウリル酸など)、綿実油、アスファルト物質、パラフィンワックスなどの、植物油系、鉱物油系および合成油系のものが使用可能である。一般に、ゴム層5中の各種軟化剤の含有量を多くするほど、ゴム硬度が低くなる傾向がある。
【0020】
本発明に係る免震構造体10では、H(A)≧2H(B)となるように設計されているが、よりゴム硬度差が大きい方が好ましく、具体的にはH(A)≧2.5H(B)となるように設計されていることが好ましい。ただし、上下一対のフランジ3の中間に位置するゴム層5のゴム硬度H(B)が低すぎると耐久性に問題が生じるため、ゴム硬度H(B)は、JIS K6253-3で10以上であることが好ましい。
【0021】
本発明に係る免震構造体10では、ゴム硬度がH(A)であるゴム層の高さをT(A)、ゴム硬度がH(B)であるゴム層の高さをT(B)としたとき、0.1×T(B)≦T(A)≦0.2×T(B)であることが好ましい。この条件を満たすことにより、免震構造体が備えるゴム層の亀裂発生などをより効果的に防止することが可能となり、さらに耐久性が向上するため好ましい。
【0022】
さらに、本発明に係る免震構造体において、ゴム硬度がH(A)であるゴム層の高さをT(A)、ボルトの高さT(C)としたとき、1.2×T(C)≦T(A)である場合、地震で免震構造体に横揺れが付加された場合であっても、ボルトの頂部がゴム層に接触することを防止することが可能となり、さらに耐久性が向上する。加えて、上下一対のフランジを建造物と土台との間に固定するボルトのサイズアップが容易となるため好ましい。
【0023】
以上のとおり、本発明に係る免震構造体は、地震で免震構造体に横揺れが付加された場合であっても、ゴム層とボルトとが接触しないことに起因して、ゴム層の亀裂発生などを防止することができる。したがって、耐久性に優れるとともに、免震構造体の小面積化を図りつつ、上下一対のフランジを建造物と土台との間に固定するボルトのサイズアップが可能となる。