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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090673
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】統計モデルによる勤務時間の推定
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/06 20120101AFI20220613BHJP
【FI】
G06Q10/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203102
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】720007420
【氏名又は名称】藤田 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】藤田幹夫
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA10
(57)【要約】
【課題】在宅勤務など、固定的な事務所に出勤しない労働環境に対応した、公正妥当な勤務時間を推定するためのデータモデルを提供する。
【解決手段】1.在宅勤務者、販売、医療現場、工場など勤務場所が分散している勤務者が、日常業務において使用するPC、POSレジ、測定器などの機器に記録された利用者のID,利用開始時刻、終了時刻のデータを自動収集する。
2.会社規定、業種、職種による標準的な勤務時間を初期設定し、取得データとともに統計モデルによって、個人別勤務時間分布を推定する。2回目以降は、推定されたデータを初期値として次回の収集データとともに推定する。
3.推定された勤務時間分布は、平均値を代表地として、従来の勤務時間と同じく給与などの支払いに利用し、推定された勤務時間分布は過剰労働発生確率の予測等に適用する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
日常業務に使用するPC、POSレジ、測定器、生産制御機器などに記録される個人別利用記録を、自動的に収集もしくは、マニュアル入力を行うことで、 個人別勤務時間を推定するための「観測データ」とする情報システム。入力データには従来型タイムレコーダ、出退勤管理票、スマホ等による申告入力を含む。
【請求項2】
在宅勤務など広く分散した業務環境のため出社、退出記録を直接取得できない勤務者の個人別勤務時間を、請求項1によって取得した 「観測データ」から統計モデルよって推定する勤務時間データモデル。
データモデルとは、アプリケーションで利用するためのデータの構造の意味である。本特許では様々な観測値から真の勤務時間を推定するためのデータ構造として使用する。
また、推定とは、直接取得することができない勤務時間を、観測データとして取得した機器使用時間等から統計モデルを介して確率的に算出することを言う。
【請求項3】
統計モデル適用に際して、会社など組織の基準勤務時間としての事前設定を可能として、職種、業種、地域など実務環境の違い、個人別勤務時間の差異を反映する、階層的な構造を持つ勤務時間データモデル。
【請求項4】
観測データによって推定された勤務時間分布推定結果を、事前分布として、次回収集データと共に勤務時間推定を行うことで、個人特性に適合した推計が期待できるベイズ更新型勤務時間データモデル。
【請求項5】
前項までに記載した統計モデルにより、推定結果を特定の数値ではなく、勤務時間分布(確率理論によって生成された乱数)として取得することを特徴とする勤務時間データモデル。
【請求項6】
勤務時間分布を取得することで、推定される労働時間のバラツキから四分位数などにより過剰労働発生リスクの科学的な予測、および個人別勤務時間の標準時間との差異への客観的評価を実現する、勤務時間データモデル。
【請求項7】
請求項1から6までの観測データ、勤務時間データモデル、統計モデル、ベイズ更新から構成される、勤務時間分布を推定する情報システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多様な観測データから、確率理論と統計理論の応用により個人別の勤務時間を推定するデータモデルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
労働への対価支払いは、事務所・工場など業務現場への勤務・拘束時間を基準として行われてきた。
一般的には、タイムレコーダ、出勤管理簿などで入所時刻、退所時刻を記録し、勤務時間が算出される。
より正確な測定、個人特定の方式として、顔認識などの新技術適用もあるが入退室時刻計測による勤務時間算出には変化がない。
【0003】
過労死などの事例があり、過剰労働の実態が指摘されているが、勤務時間は過去の実績値だけが集計され、科学的根拠をもって発生リスクを予測することができていない。
【0004】
派遣労働など自社外勤務の常態化といった、労働環境の変化に対しては、派遣先ではタイムカード刻印、派遣元へはスマホアプリからの記録送信という手段も普及しているが、これも出退勤時刻管理を目的としている。
【0005】
コロナの影響により、事務所集中勤務が困難となり、在宅勤務が多数となる環境下では、従来の出退勤時刻管理は公平性、客観性において機能しなくなった。
また、一部の会社では、職場における目視管理を踏襲して、勤務時間内ビデオ会議システムへの接続と、その前への着席強要といった事例もある。これは、労働生産性を高める行動ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-185302号公報
【特許文献2】特許6734987号公報
【特許文献3】特開2020-154650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コロナのインパクトにより、同一事務所、工場への出勤・勤務の前提が崩壊し、勤務形態の劇的な変化が発生・常態化した。 この大きな変化に対応した個人の勤務時間を、組織基準、個人勤務特性を反映して公正妥当に把握する。
【0008】
分散店舗、医療介護現場業務など、集中型タイムレコーダ等の記録と勤務実態が乖離している勤務現場における勤務時間を公正妥当に算出する。
【0009】
過重労働を原因とする様々な問題が発生し、予防策の強化が求められている。勤務実績から発生リスクを想定し、予防対策の実施を促すことにより、犠牲者の発生を防止する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
既存の勤務時間管理、勤怠管理は構成員が勤務する事務所、工場における、出社時刻、退社時刻の管理表への記録またはタイムレコーダなどの機器登録によって行われている。 週間単位もしくは月次で集計され、個人別の集計、一覧表として超過勤務手当の計算、給与支払いの根拠データとして利用されている。
【0011】
請求項1記載のとおり、勤務時間データモデルは、まず特定事務所、工場への一斉出社がなされない勤務形態において、勤務現場で業務従事開始を示す業務用機器、 PC、POSレジ、測定装置、生産制御装置などの使用開始時刻を、利用者IDとともに取得し、勤務開始の「開始観測データ」とする。
【0012】
次に、業務従事の継続状態を、対象機器や利用アプリケーションの稼働状況をモニタリング(継続的監視)することで、「中間離脱時間観測データ」を取得する。 中間離脱の定義については、業務、個人特性を反映して基準と観測方法を設定する。
業務従事終了時刻は、利用機器に対するログオフ、終了記録を「終了観測データ」として取得する。
【0013】
取得した3つの観測データから「終了観測データ」-(マイナス)「開始観測データ」-(マイナス)「中間離脱時間観測データ」によって、1日の「勤務時間観測データ」を算出する。 PCなどの業務用機器から、個人ID別の利用開始終了時刻などの自動取得ができない場合は、代替的に個人が利用可能なスマホなどの機器からの申告入力も可とする。 日次の観測データを、個人別に週次、月次等計算単位期間でまとめて、勤務時間データモデルの入力データとする。
【0014】
「観測データ」から勤務時間の推定は、ベイズ統計モデルを適用することで、ある確率分布に従った個人別勤務時間分布を推定する。 勤務時間として、実機器使用時間以外の準備時間、休憩などのロス時間を想定する場合は、適宜データに加工を加える。必要に応じて階層モデルとして、会社全体の基準時間に対する、部門別、職種別の差異を反映することも可能である。
【0015】
勤務時間の推定は、月次など一定の期間単位で、継続的に実施される。
請求項4記載の、継続的観測データ取得によるデータ更新は、前回の観測データによる推定結果を、次回の事前確率として設定して次月の推定値を更新する方式の適用である。これによって、推定モデルの個人データへの適応が進む。
適用する統計モデルの名称と併せて「ベイズ更新」と称される過程である。 一方、全社基準を強調する場合は、ベイズ更新を適用せず、初回と同じ階層モデルによる推定を行う。
【0016】
以上、ベイズ理論といわれる、確率統計理論の適用により、特定事務所へ集中した業務遂行という環境がない場合にも、勤務時間推定を可能とする有効かつ公正な手段が提供できる。
【0017】
既存の勤怠管理は、始業時刻、終業時刻を基に、1つの数値としての勤務時間を示しているが、本発明においては、観測データから統計モデルによって、勤務時間分布を推定する。このため、平均値として取得される代表値以外に、四分位数など代表値以外の発生が想定される数値を得る。
【0018】
請求項5記載の勤務時間分布として取得することで、給与支払いなど特定の代表値が必要な時は平均値を利用する。
併せて、発生する確率に対応した、勤務時間のばらつきが推定されており、四分位数などを評価することで請求項6記載の過重労働の発生確率の予測手段を提供する。 近年強く求められている、労務管理に超過勤務発生確率の提供により予防策実施を促す。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の発明により、勤務時間算出のための専用機であるタイムレコーダへの打刻、管理表への記入といった特定事務所、工場への出社、退社を前提とすることなく、 広く分散した現場作業、在宅勤務においても、日常業務に使用する機器の利用実績から、勤務時間推定のためのデータを取得できる。
【0020】
請求項2の勤務時間データモデルは、勤務場所、時間に依存しない個人別勤務時間分布を推定し、より公平で、本来の勤務実態に近い時間分布を提供できる。
【0021】
請求項3の階層化されたモデルは、組織の統一的な基準を組み込むことも可能とし、一方で、職種、業種などの差異、パート等不規則勤務の特性を反映した個人別の勤務時間分布を提供する。
【0022】
請求項4のモデルの更新機能は、統計的な手法によって算出される「ばらつき」を、繰り返しの推定を通じて、データ特性により是正する効果を持つ。
【0023】
請求項5の勤務時間分布推定は、単一の勤務時間を推定するのではなく、様々な勤務時間の可能性を分布として推定しており、平均値として単一の代表勤務時間を提供する。
【0024】
請求項6勤務時間分布の利用領域として、過重労働への対応がある。過重労働に対して個人別勤務時間分布を把握することで、科学的なリスク予測が可能となり、予防管理を促す。
【0025】
請求項7記載の情報システムにより、広く分散した業務現場で取得する観測データを入力し、勤怠管理が可能な情報システムが提供できる。継続性が要求される勤怠管理において、追加的に取得されるデータによる更新は、推定の適合度を高めて、安定的な運用を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】勤務時間データモデルの構成:本実施形態に係る分散した業務現場におけるデータ取得から、勤怠管理への適用までの全体構成を示す図である。
図2】勤怠明細表:既存勤怠管理で利用されている勤務明細例(定時勤務の例)
図3】勤務状況報告書:既存勤怠管理明細表(超過勤務多発の例)
図4】アルバイト勤怠明細表:既存勤務明細例(アルバイト雇用の例)
図5】勤怠一覧表:既存勤怠管理表。給与計算への入力となる月次集計結果の例
図6】勤務時間データモデルの必要性:既存勤怠管理から新勤務時間データモデルへ移行する必要性の整理図
図7】PC別自動収集データ:PCソフトウェア稼働監視ツールによる、業務ソフト稼働時間自動収集結果一覧表の例
図8】個人別1日稼働時間分布:定時勤務ID1、超過勤務多発者ID2を自動収集データID3から14に加えた、今回事例とした14名の、1日稼働時間分布グラフ。 X軸:1-14id Y軸:観測稼働時間プロット
図9】最初の推定結果リスト:勤務時間データモデルによる最初の 推定結果事例表。14名の勤務時間の標準時間7.5からのばらつきが表示されている。
図10】勤務時間推定結果 最初の推定:推定結果を図化したもの
図11】3回目の更新推定結果リスト :推定結果最初からを基に、ベイズ更新推定を2回行った事例結果表
図12】勤務時間推定結果 3回目の更新推定: 3回目の推定結果を図化したもの
図13】観測時間ヒストグラム 初期:事例14名の稼働観測時間のヒストグラムと密度分布
図14】観測/推定時間ヒストグラム 初期 : 事例14名の観測時間に加えて、推定時間分布を付加したグラフ。
図15】4事例 推定時間分布 初期:詳細検討のため4つの事例につき抽出した推定時間分布グラフ。 背景と破線が観測時間ヒストグラムと密度分布。実線が推定時間密度分布。
図16】4事例 推定時間分布 3回更新後: 4事例の推定分布が、ベイズ更新により変化する様子を示したグラフ。背景と破線が観測時間ヒストグラムと密度分布。実線が推定時間密度分布。
図17】観測値と推定四分位数対比表 初期データ:worktime=観測値と指定結果の四分位数の対比表
図18】観測値と推定四分位数対比表 update3: worktime4=観測値と推定四分位数の対比表
図19】データモデル解説:状態空間モデルの適用例 見えない状態を観測値から推定する事例を提示。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、今回の発明となる統計モデルを活用した勤務時間データモデルの全体構成を示している。 まず、1.勤務時間初期設定機能によって、従業員の勤務時間を推定したい企業・団体は標準とする勤務時間を設定する。一般的には就業規則などでの設定値が想定されるが、これにこだわらない。併せて、職種、業種別の特性、雇用形態による個人差を設定する場合は、そのグループ単位の標準値を設定する。
また、標準値を設定しないことも可能である、その場合は取得データ特性からの推定が行われる。
【0028】
符号2から4までは、様々な従業員が勤務する業務現場を示している。2.業務現場/在宅からの観測データ取得は、業務用PCの稼働時間、アプリの利用時間、マウス、キーボード操作実績など管理ソフトウェアの機能により実施する。
この管理ソフトウェの機能は既存技術として存在するが、勤務時間データモデルへの適用は行われていない。
【0029】
同じく、3.業務現場/販売・飲食および4.業務現場/医療・工場の現場に配置、利用される機器から利用者個人識別コードとともに稼働開始、終了時刻データを取得する。 POSレジから生産制御機器まで多種多様に存在するが、これらの機器からの情報取得は既存技術の範囲であるが、 勤務時間データモデルへの適用は行われていない。
【0030】
現場設置の業務用機器のすべてが、稼働実績の自動収集機能を近い将来には有すると想定できるが、 現時点では自動収集機能は充分に普及していない現実がある。これに対応すべく、スマホアプリとして個人別の稼働開始、終了時刻を登録機能を 提供する。これによって、利用機器の機能にかかわらず、本データモデルの適用が可能となる
【0031】
自動収集もしくは、個別に入力された実績データは、6.通信ネットワークを介してクラウドもしくは個別に設置されたサーバに送信され、 7.取得データとして蓄積・管理される。
【0032】
7.取得データの事例として、図7には、ある既存PC稼働管理ソフトが自動収集した稼働実績データを示す。 データアイテムは、利用者名(ユーザ名)PC名(マシン名)別に日次で開始時刻、 終了時刻が記録されている。さらにこの例では、特定ソフトへのアクセス頻度測定により、非稼働時間も算出し、稼働時間を算出している。 計算式は「終了時刻」-(マイナス)「開始時刻」-(マイナス)「非稼働時間」である。
【0033】
既存出退勤管理方式の例として、図2に定時出社・定時退社者、図3に超過勤務者の勤務実績を示した。
上記の、既存管理データ対象者をID1,ID2として識別し、図7に示したPC稼働実績から自動収集した12名を、ID3からID14とし合計14名に対する推定事例を作成する。
【0034】
上記14名の、1か月間の1日単位での稼働時間は、図8に示す個人ID別1日稼働時間分布となる。 この例では、ID1の定時出社、定時退社の場合は7時間の1点に示され、 ID2超過勤務者の場合は7.5時間から11.5時間まで6つの分布が示される。
【0035】
PC稼働時間からの取得者12名については、1か月間のPC稼働時間の分布が多数示されている。0時間周辺から、長時間勤務者は 18時間に及ぶ稼働実績も示される。ばらつきが大きなこのデータの単純平均では、勤務実態を反映した勤怠管理資料として十分でないと想定される。
【0036】
統計学では、「真の状態」=今回の場合勤務時間と、「観測」=今回のPC稼働時間を分けて、真の状態がある確率的なノイズを含んで、観測値として表現される 、とみなして事象をとらえる「状態空間モデル」が存在する。このモデルを適用することで、PC稼働時間やその他の観測値から、勤務時間分布の推定を行う。8.統計モデルによる勤務時間分布推定である。
【0037】
以下、上記14名のデータによる勤務時間推定手順を事例として説明する。
まず1.勤務時間初期設定を行う。今回、平均7時間、分散5と設定。これは最初の推定においてのみ利用される。統計的な意味では「事前確率」として設定する。
【0038】
次に、7.取得データとして管理される14名の「観測データ」と1.勤務時間の初期設定結果に対して、正規分布など各種の統計的な分布曲線を適用して 「真の状態」=勤務時間分布を推定する。7.統計モデルによる勤務時間推定である。
事例では勤務時間は、14名が個人別に、標準値から差異があり、その分散も異なるモデルを設定した。 推定計算はベイズ統計に対応したソフトウェアによって行い、9.個人別勤務時間分布データを取得した。
【0039】
図9最初の推定結果リストにつき説明する。 標準勤務時間として初期設定は全体基準勤務時間:a=7.5時間、その分散:sigma=4とした。推定結果a=7.31、sigma=3.76となった。 個人別変化を表す変数を、r[n]。nがID番号を示し、14名の標準値からの個人別の変化を示している。 r[1]r[2]は既存勤務表からの入力者である。r[1]は-0.19、r[2]は1.74であり、標準時間7.31に対して-0.19、+1.74であることを示している。
【0040】
r[3]以降が、PC稼働時間からの推定値である。個人差が大きく、r[6]の-5.15からr[9]+3.97となり、標準勤務時間を反映した勤務時間は3時間から11.5時間となる。r[9]の3.97は標準時間に加えると、平均値で11時間を超えていると推定され、過剰労働になっている。 同じく、個人別変化に対応する分散も推定している。s_r[n]として推定し、個人別分散の分散幅は共通としてs_rdとして推定した。 初回の推定では、2.06から4.87とかなり大きな値となっている。
【0041】
図9初回の推定結果リストの、平均値と分散を図化したものを図10に示す。 横軸は標準勤務時間及び個人別差異推定値の平均値及び分散幅となっている。縦に推定項目の変数名a,sigma,r,s_r,s_rdをとって図化している。 PC稼働時間からの推定結果が、個人別に大きくばらついていることが示されている。 ここまでが、最初の勤務時間分布推定となる。
【0042】
勤務時間管理は当然、翌月も継続して行われる。 同じく、14名のデータが取得されたとして推定を進める。
2回目の個人別データは、最初の推定データに対して正規分布に従うノイズを加えて、傾向は類似しつつ、 値は異なるデータを生成して使用した。ベイズ更新の傾向を示すため、3回更新を同じ手順で行った。実務的には3か月後の推定結果ともみなせる。
【0043】
図11に 3回目の更新推定結果リストを示した。平均時間は類似のデータを使用しているため大きな変化はない。
更新都度、前回の推定結果を事前分布として設定した影響は分散 に反映し、全体s_rdは4.22から1.03と減少した。長時間勤務の分散s_r[9]では4.37から2.94と変化している。ベイズ更新により個人別の推定値の分散が減少することが示される。図12に3回目の更新結果を図化して示した。
【0044】
事例を用いて、推計結果につきより詳細に説明する。図13には14名の観測された時間ヒストグラムと密度分布を示した。id1,2は既存勤務簿からの取得データであり、id3以降はPC稼働時間の自動収集結果である。パート勤務者も含み、稼働時間にはばらつきが大きい実態である。
【0045】
図14には基準時間を7.5時間として、観測時間分布を尤度とする正規分布の推定結果を重ねてグラフ表示した。基準時間が同じでも、個人の観測パターンによって、推定結果は異なり、個人特性を反映していることが示される。
【0046】
更に、4例id2,4,8,9を取り出して詳細に検討する。図15には基準時間分布を事前確率とした最初の推定結果を示し、図16には推定結果を次回の事前確率と設定した、3回更新結果を示した。初期の推定には基準時間分布が影響しているが、更新を重ねることで、基準時間分布よりも個人別の特徴がベイズ更新効果として反映されていることがわかる。
【0047】
勤務時間を記録された1つの値としてではなく、分布として推定することの意味につき具体的に説明する。推定された1日の時間分布に月の稼働日数を乗じて月次勤務時間分布を算出した。
図17には初期観測時間データと推定時間分布から算出した四分位数を、図18には同じく3回更新後の推定値を示した。
観測値はworktime/worktime4、分位数は下から25%にある値、50%:中間値、75%まで含まれる値を示している。観測値はたまたま取得された値であり、75%あたりまでは発生確率が高く、リスクとして評価すべき値と解釈される。
ID7,9,13については300時間近い、勤務が発生していると想定される。
一方、id4,6については時間契約パート社員であり、7時間の基準時間を適用すると実態が反映されないと評価できる。別途の基準設定が妥当である。
【0048】
以上、勤務時間データモデルにつき説明してきたが、出社時刻退社時刻からの勤務時間算出が慣習的に固定化されている現実がある。
見えない状態を、取得できる観測値によって推定する行動が日常的に行われていることを、コロナウィルス感染評価行動を例として図19で説明した。PCR検査による全数の直接観測が現実的でないため、体温を測定することで、1次判定を代替している。さらに、体温測定には赤外線量を観測して体温の状態を推計している。階層的な観測からの状態推定が日常的に定着している。
勤務時間データモデルが同様に、定着し勤務時間の評価、過重労働予防に寄与できることを期待する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
勤務時間の把握・管理は、給与支払いの根拠以外でも社会の活動で求められる機能である。コロナインパクトにより、世界中で従来の勤務基準適用が困難となっている。多様な労働環境に対応できる、勤務時間データモデルは国、業種、職種を問わずすべての産業活動の基盤として、利用できる。勤怠管理の変革により、柔軟な勤務形態の普及と生産性の向上に寄与できる
【符号の説明】
【0050】
1.勤務時間初期設定
【0051】
2.業務現場/在宅
【0052】
3.業務現場/販売・飲食
【0053】
4.業務現場/医療・工場
【0054】
5.既存勤怠管理情報
【0055】
6.通信ネットワーク
【0056】
7.取得データ
【0057】
8.統計モデルによる勤務時間分布推定
【0058】
9.個人別勤務時間データ分布
【0059】
10.ベイズ更新
【0060】
11.利用領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19