IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 藤井電工株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-伸縮式蛇腹状ランヤード 図1
  • 特開-伸縮式蛇腹状ランヤード 図2
  • 特開-伸縮式蛇腹状ランヤード 図3
  • 特開-伸縮式蛇腹状ランヤード 図4
  • 特開-伸縮式蛇腹状ランヤード 図5
  • 特開-伸縮式蛇腹状ランヤード 図6
  • 特開-伸縮式蛇腹状ランヤード 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090722
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】伸縮式蛇腹状ランヤード
(51)【国際特許分類】
   A62B 35/04 20060101AFI20220613BHJP
   A62B 35/00 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
A62B35/04
A62B35/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203183
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000223687
【氏名又は名称】藤井電工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山北 和広
【テーマコード(参考)】
2E184
【Fターム(参考)】
2E184JA03
2E184KA11
2E184KA13
2E184KA15
2E184LA14
2E184LB02
(57)【要約】
【課題】伸縮性が良好で、加工性に優れた二丁掛けの伸縮式蛇腹状ランヤードを提供する。
【解決手段】二股に延出されたストラップ1,1を備えた伸縮式蛇腹状ランヤードAにおいて、ストラップ1は第一被覆部材11と第二被覆部材12と弾性部材13とで構成され、基端側縫合部22と、先端側縫合部24と、それらの間の蛇腹形成領域25とを有し、弾性部材13は、長尺の弾性体を基端側縫合部22に位置する領域が一重に、蛇腹形成領域に位置する領域が二重になるように重ね合わせて接合することで形成され、弾性部材13は第一被覆部材11より所定率短尺であり、第一被覆部材11の内部に格納された弾性部材13の両端が第一被覆部材11と接合されたことを特徴とする。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の位置で折り返され、二股に延出されたストラップを備えた伸縮式蛇腹状ランヤードにおいて、
前記ストラップは、長尺で筒状の第一被覆部材と、前記第一被覆部材と略同一長さを有し前記第一被覆部材を覆う第二被覆部材と、前記第一被覆部材の内部に格納された弾性部材とで構成され、
折り返し部分を縫合してその端部に輪状部を形成した基端側縫合部と、二股に延出された前記ストラップの先端を折り返し縫合してその先端に輪状部を形成した先端側縫合部と、前記基端側縫合部と前記先端側縫合部の間の蛇腹形成領域とを有し、
前記弾性部材は、長尺の弾性体を前記基端側縫合部に位置する領域が一重に、前記蛇腹形成領域に位置する領域が二重になるように重ね合わせて接合することで形成され、前記弾性部材は前記第一被覆部材より所定率短尺であり、
前記第一被覆部材の内部に格納された前記弾性部材の両端が前記第一被覆部材と接合された
ことを特徴とする伸縮式蛇腹状ランヤード。
【請求項2】
前記第一被覆部材と前記弾性部材との接合は、
前記弾性部材の端部を前記第一被覆部材の前記先端側縫合部と前記蛇腹形成領域との境界に位置合わせした状態で、前記先端側縫合部と前記蛇腹形成領域との境界近傍において、前記第一被覆部材と前記弾性部材とを重縫合してなる
請求項1に記載の伸縮式蛇腹状ランヤード。
【請求項3】
前記第一被覆部材と前記第二被覆部材とを構成する布地の色が互いに異なる
請求項1又は2に記載の伸縮式蛇腹状ランヤード。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として高所作業において使用する墜落制止用器具のランヤードに関するものであり、特には二丁掛けの伸縮式蛇腹状ランヤードに関する。
【背景技術】
【0002】
高所での作業現場では、作業者が万一落下したときに、その墜落を阻止するため、作業者はランヤードを備えた墜落制止用器具を装着して作業を行うことが義務付けられている。
作業者は、このランヤードに具備されたフック等を親綱や堅固な構造物等に掛止して自分の体と接続することにより、万一足を踏み外した場合等の墜落を防止している。
【0003】
ランヤードは、ロープ又はストラップ、コネクタ(フックやカラビナ)、ショックアブソーバ、巻取り器などから構成され、作業者が装着したフルハーネスなどを取付設備と接続するために使用される。
ランヤードには多様な種類があり、用途や価格等によって使い分けられている。主なランヤードの種類としては、(1)ロープ式ランヤード、(2)巻取り器付きストラップ式ランヤード(以下、巻取り式ランヤードという。)、(3)伸縮式蛇腹状ランヤード、などがある。
【0004】
上記(3)の伸縮式蛇腹状ランヤードとして、ストラップが、長尺で筒状の袋ベルトと、この袋ベルトより所定率短尺の長尺弾性体とからなり、袋ベルト内に長尺弾性体を挿入重合し、両者の端部を引き揃えた状態で折り返して縫合し、両端に輪状部が形成されたものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。上記構成のランヤードでは、未使用時には、長尺弾性体が縮み、外装部材の袋ベルトが蛇腹形状になることにより、全長が短くなる特徴がある。
作業者が移動や屈伸する際には、長尺のランヤードが構造物に引っ掛ったり、足で踏んで転倒したりすることがある。そのため、ロープ又はストラップの垂れ下がりがないか又は少ないことを特徴とする上記(2)の巻取り式ランヤードや上記(3)の伸縮式蛇腹状ランヤードが好んで使用されている。
【0005】
上記(1)のロープ式ランヤードは、ショックアブソーバを接続した3つ打ちロープや8つ打ちロープなど繊維ロープの両端にフックを取り付けた構造が基本構造である。
ロープ式ランヤードは、ロープの断面が略円形であり、全長に亘り局所的な突起部がないため、構造物等との接触は一か所に限定されず、摩耗は外周面の全体に生じる。また表面が滑らかであるため、摩擦抵抗が少なく摩耗の進行速度は緩やかである。
また、上記(2)の巻取り式ランヤードは、ストラップの断面が全長に亘り均一に略矩形であり、全長に亘り局所的な突起部がないため、構造物等との接触は一か所に限定されず、摩耗は外周面の全体に生じる。また表面が滑らかであるため、摩擦抵抗が少なく摩耗の進行速度は緩やかである。
【0006】
これに対して、上記(3)の伸縮式蛇腹状ランヤードは、長尺袋の全長に亘って山部と谷部が交互に形成された蛇腹形状である。このため、山部の頂上部以外の谷部や中腹部が構造物等と頻繁に接触することがなく、山部の頂上部のみが構造物等と頻繁に接触する。従って摩耗は山部の頂上部に集中する。
また、蛇腹形状はその製造時に癖が付くものであり、山部と谷部の位置はずれることがない。使用時に伸縮させた場合でも、山部の位置はストラップの同じ位置に形成される。
また、表面に凹凸が形成されていることによって、他の種類のランヤードと比べ、摩擦抵抗が大きくなり構造物等から大きな外力を受けることとなるため、摩耗の進行速度は速くなる。
即ち、伸縮式蛇腹状ランヤードは他の種類のランヤードと比べ強度劣化が早くなる特性を含有している。
【0007】
ランヤードは、高所作業時に構造物等や作業者の衣類、装備品に接触するため、長期間使用すると、表面の摩耗等によって強度が低下する。従って、使用前に劣化状態を点検することが必須の作業となっている。このように、ランヤードを備えた墜落制止用器具は経年使用により劣化が進む消耗品である。そのため、点検自体をしなかった場合や、点検において、誤って劣化状態が廃棄基準に達していることを見落とし継続使用とした場合には、最悪の場合、作業者が落下したときにランヤードに加わる荷重に対して、ランヤードの強度が耐えられないことが想定され得る。従って、劣化が進み廃棄基準に達して強度低下したランヤードを、ユーザーが継続して使用しないように、使用前点検や定期点検を実施することは必須作業とされている。
【0008】
ランヤードは、その種類毎に、点検方法と廃棄基準がメーカーによって定められている。
上記(1)、(2)のランヤードは、前述したように、一般的に摩耗がロープ又はストラップの全体にほぼ均等に生じる。従って、摩耗が進んで廃棄基準に達した場合、ユーザーが目視点検によって的確に判断することが容易である。
また上記(1)、(2)のランヤードは、経年使用によって摩耗が進んだ場合には、一般的に、色落ちや汚れ、表面の毛羽立ち等の変化が同時に生じることが多い。従って、必須の作業である使用前点検の実施をユーザーが怠った場合でも、劣化状態が廃棄基準に達していることを使用中に認識することが容易である。このように、伸縮式蛇腹状ランヤード以外の種類の上記(1)、(2)のランヤードでは、摩耗が進んで廃棄基準に達して強度低下したものを、ユーザーが継続して使用する可能性は低い。
【0009】
これに対して、上記(3)の伸縮式蛇腹状ランヤードは、経年使用による摩耗が全体的には生じずに、山部の頂上部に集中するため、他の種類のランヤードよりも注意して点検する必要がある。
前述したように、伸縮式蛇腹状ランヤードは、他の種類のランヤードよりも摩耗の進行が早いため、相対的に色落ちや汚れ、表面の毛羽立ち等の外観の変化が少ない。また、山部の頂上部以外の谷部や中腹部はあまり劣化しないため、全体的に目視した場合には、劣化状態が廃棄基準に達していることを認識することが他の種類のランヤードほど容易ではない。
したがって、上記(3)の伸縮式蛇腹状ランヤードは、摩耗が進んで廃棄基準に達し強度低下したものをユーザーが継続して使用しないように、他の種類のランヤードよりも丁寧な点検が必要となる。また耐用期間が短くなり、早めの買い替えが必要となる。このことは、作業者にとって煩わしく好ましくない。
【0010】
上記問題を解消するために、長尺の弾性部材と、補助ベルトと筒状の被覆部材とで構成された伸縮式蛇腹状ランヤードが開示されている(例えば、特許文献2参照)。また、長尺の弾性部材と、筒状の第1の被覆部材及び筒状の第2の被覆部材とで構成された伸縮式蛇腹状ランヤードが開示されている(例えば、特許文献3参照)。保護手段として、特許文献2では被覆部材を、特許文献3では第2の被覆部材をそれぞれ具備することにより、弾性部材、補助ベルトや第1の被覆部材の摩耗や紫外線による劣化を防止し、ランヤード全体としての強度劣化を抑え、耐久性を向上させている。
この特許文献2のランヤードでは、従来の一般的な伸縮式蛇腹状ランヤードと比較して、蛇腹構造が設けられる外装部材が補助ベルトと被覆部材との2層構造で形成されている。また、特許文献3のランヤードでは、外装部材が第1の被覆部材と第2の被覆部材との2層構造で形成されている。
即ち、従来の一般的な伸縮式蛇腹状ランヤードのストラップが弾性部材と被伸縮性材料の袋ベルトとの2重構造であるのに対して、当該特許文献2のランヤードのストラップでは弾性部材と補助ベルトと被覆部材との3重構造となっている。同様に、特許文献3のランヤードのストラップでは弾性部材と第1の被覆部材と第2の被覆部材との3重構造となっている。
【0011】
しかし、3重構造では、蛇腹構造が設けられる外装部材を2層構造にしたことで厚みが増しているので、従来の2重構造の伸縮式蛇腹状ランヤードで使用していた弾性部材では弾性力が足りず、ストラップが縮みにくいという不具合があった。また、弾性部材への負担が大きくなるため、使用限度回数が減る。
【0012】
そればかりか、3重構造は、ストラップの基端や先端では、弾性部材と外装部材である補助ベルトと被覆部材のそれぞれの一端同士を重ね合わせた状態で折り返し、折り返した部分を重ね合わせて縫製することになる。このため、縫着すべき厚みが増し、従来の2重構造の伸縮式蛇腹状ランヤードと比べ、糸切れ、糸引き、縫製のズレ等の縫製加工時の不具合の発生が多くなる。
【0013】
また、糸間のバランスが悪くなると、強度不足となるため、縫製加工不具合による廃棄や再縫製が必要となる。上記不具合の発生を少なくするためには、縫製スピードを通常よりも低速とすることが考えられるが、縫製時間が長くなって、製造効率が低下する。また、より縫製能力の高い強力なミシンを使用することで、通常の厚みの縫製と同程度の縫製時間での加工は可能であるが、縫い針への摩擦熱対策が重要となり、また、機械の調整や縫製作業には熟練した技術が必要となるので作業員も限定されてしまい、結果としてコストアップにつながる。
【0014】
また、3重構造では、弾性部材と補助ベルトと被覆部材のそれぞれの一端同士を重ね合わせた状態で折り返して輪状部を形成している。このため、従来の2重構造の伸縮式蛇腹状ランヤードよりも輪状部の厚みが増すので、従来の連結具またはフックの連結環部ではこの厚みが増した輪状部に挿通できない場合が生じる。この場合、より大きな連結環部を具備した専用の連結具やフックが新たに必要となり、コストアップにつながる。また、新たに用意する専用の連結具やフックでは大きく重くなる。このことは、作業者にとって煩わしく好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2014-100263号公報
【特許文献2】特開2017-23879号公報
【特許文献3】特開2017-23880号公報
【特許文献4】実用新案登録第3170262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、高所作業時においては、作業範囲はロープ部分の長さによって規制されるため、移動しながら作業する場合などでは、構造物等に掛けていたランヤードのフックを一旦外し、更にその外したフックを他の箇所に掛け替える必要がある。フックを外して掛け替えるまでの間は、作業者は一時的に落下の危険性に晒されることになる。したがって、危険性の高い現場にあっては、2本のフックが具備された墜落制止用器具を着用し、2本のフックで掛け替えを繰り返しながら作業を進めるべきである。上記構成のような墜落制止用器具は一般に「二丁掛け」と呼ばれている。
【0017】
二丁掛けのランヤードとして、1本の長尺袋の中央付近で二つ折りにして見かけ2本とした二丁掛けの伸縮式蛇腹状ランヤードが開示されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、上記特許文献4のランヤードは、蛇腹構造が設けられる長尺袋は一層構造であるため、従来の2重構造の伸縮式蛇腹状ランヤードと同様の課題を有していた。
【0018】
本発明の目的は、伸縮性が良好で、加工性に優れた二丁掛けの伸縮式蛇腹状ランヤードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の伸縮式蛇腹状ランヤードは、所望の位置で折り返され、二股に延出されたストラップを備えた伸縮式蛇腹状ランヤードにおいて、前記ストラップは、長尺で筒状の第一被覆部材と、前記第一被覆部材と略同一長さを有し前記第一被覆部材を覆う第二被覆部材と、前記第一被覆部材の内部に格納された弾性部材とで構成され、折り返し部分を縫合してその端部に輪状部を形成した基端側縫合部と、二股に延出された前記ストラップの先端を折り返し縫合してその先端に輪状部を形成した先端側縫合部と、前記基端側縫合部と前記先端側縫合部の間の蛇腹形成領域とを有し、前記弾性部材は、長尺の弾性体を前記基端側縫合部に位置する領域が一重に、前記蛇腹形成領域に位置する領域が二重になるように重ね合わせて接合することで形成され、前記弾性部材は前記第一被覆部材より所定率短尺であり、前記第一被覆部材の内部に格納された前記弾性部材の両端が前記第一被覆部材と接合されたことを特徴とする。
【0020】
本発明の伸縮式蛇腹状ランヤードにおいて、前記第一被覆部材と前記弾性部材との接合は、前記弾性部材の端部を前記第一被覆部材の前記先端側縫合部と前記蛇腹形成領域との境界に位置合わせした状態で、前記先端側縫合部と前記蛇腹形成領域との境界近傍において、前記第一被覆部材と前記弾性部材とを重縫合してなることが好ましい。
本発明の伸縮式蛇腹状ランヤードにおいて、前記第一被覆部材と前記第二被覆部材とを構成する布地の色が互いに異なることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る二丁掛けの伸縮式蛇腹状ランヤードでは、蛇腹形成領域に位置する領域が二重になるように長尺の弾性体を重ね合わせて形成した弾性部材を用いており、高い弾性力を備えるため、外装部材が2層構造であっても伸縮性が良好である。
また、外装部材と弾性部材との接合を、第一被覆部材と弾性部材とで行っており、縫合する箇所の厚みが抑えられるので、外装部材と弾性部材との接合の加工性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態の伸縮式蛇腹状ランヤードの平面図である。
図2】本実施形態の伸縮式蛇腹状ランヤードの正面図である。
図3】弾性部材を示す図である。
図4】本実施形態のストラップの先端側縫合部付近を表す部分拡大断面図である。
図5】本実施形態のストラップの基端側縫合部付近を表す部分拡大断面図である。
図6】二股に延出されたストラップの平面図である。
図7】二股に延出されたストラップの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る実施の形態について説明する。
図1図2は、本発明の一実施形態に係る二丁掛けの伸縮式蛇腹状ランヤードの自然長状態(力の加わっていない状態)であり、図1はその平面図であり、図2はその正面図である。なお、図2ではストラップの領域を断面で表している。
図3は、弾性部材を示す図である。
図4は、ストラップの先端側縫合部付近を表す部分拡大断面図である。
図5は、ストラップの基端側縫合部付近を表す部分拡大断面図である。
図6は、二股に延出されたストラップの平面図である。
図7は、二股に延出されたストラップの正面図である。なお、図7ではストラップの領域を断面で表している。
【0024】
図1に示すように、本実施形態に係る二丁掛けの伸縮式蛇腹状ランヤードAは、2本のストラップ1,1を備えている。このストラップ1,1は、1本の長尺ストラップが所望の位置で折り返され、二股に延出されることで形成されている。2本のストラップ1,1の長短は、折り返し位置で任意に設定可能である。なお、2本のストラップ1,1の長さを略同一としたい場合は、長尺ストラップの中間位置を折り返し位置とすればよい。
【0025】
ストラップ1の折り返し部分の端部には、輪状部21が形成され、基端側縫合部22で縫合されている。また、二股に延出されたストラップ1,1の先端には、輪状部23がそれぞれ形成され、先端側縫合部24で縫合されている。
基端側の輪状部21には連結金具41が接続されている。先端側の輪状部23には連結金具42がそれぞれ接続されている。連結金具41にはショックアブソーバ44を介してカラビナ45が接続されている。連結金具42にはフック43がそれぞれ接続されている。
基端側縫合部22と先端側縫合部24との間は、蛇腹構造が設けられている蛇腹形成領域25である。
【0026】
図2に示すように、ストラップ1,1は、長尺で筒状の第一被覆部材11と、この第一被覆部材11を覆う第二被覆部材12と、この第一被覆部材11の内部に格納された弾性部材13とで構成されている。第二被覆部材12は、第一被覆部材11と略同一長さを有している。第一被覆部材11及び第二被覆部材12が、蛇腹構造が設けられる外装部材となる。
図3に示すように、弾性部材13は、長尺の弾性体を基端側縫合部22に位置する領域が一重に、蛇腹形成領域25に位置する領域が二重になるように重ね合わせて接合することで形成されている。具体的には、二股のストラップ1,1を形成する長尺ストラップにおいて、基端側縫合部22と蛇腹形成領域25がそれぞれ形成される領域の配置は、基端側縫合部22が中央にあり、その両側に蛇腹形成領域25が位置する。そこで、長尺ストラップの各領域の配置位置にあわせ、長尺の弾性体の両端から中央に向けて、中央に基端側縫合部22に位置する一重領域13a、その両側に蛇腹形成領域25に位置する二重領域13bが形成されるように、所定の間隔をあけて、それぞれ折り畳む。そして、折り畳んだ箇所を重ね合わせて接合する。これにより、長尺の弾性体から弾性部材13が作製される。
重ね合わせた状態での接合S1は、一重領域と二重領域との境界における二重領域の際を縫製することが好ましい。
【0027】
弾性部材13を構成する長尺の弾性体は、伸縮式蛇腹状ランヤードAの伸縮率を大きくするため弾性限界の高い天然ゴムなどが用いられる。本実施形態では、長尺の弾性体として長手方向に伸縮自在な平ゴムベルトが用いられる。なお、長尺の弾性体の構成はこれに限定されず、長手方向に伸縮自在な公知の任意の材料を使用できる。
【0028】
第一被覆部材11及び第二被覆部材12は、長尺の弾性体に比べて低伸度であり、作業者の墜落阻止時の衝撃荷重に耐え得る高強度のナイロンやポリエステルなどの合成繊維が用いられる。また、アラミド繊維やポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサザール繊維などのいわゆるスーパー繊維を用いてもよい。第一被覆部材11及び第二被覆部材12は、これらの繊維糸によって製織された長尺の平袋織物からなる。
【0029】
第一被覆部材11と第二被覆部材12とを構成する布地の色は、互いに異なるように設定することが好ましい。伸縮式蛇腹状ランヤードAの表層となる第二被覆部材12の摩耗や劣化が進み、その表面に穴や亀裂などが形成された場合、表層の第二被覆部材12の色とは異なる色の第一被覆部材11が表面に現れるため、目視点検において、摩耗状態が容易に認識でき、継続使用するか廃棄するかの判断が的確にできる。例えば、表層に位置する第二被覆部材12の布地を青や紺、黒などの色、その下層の第一被覆部材11の布地を赤や橙などの色の組み合わせとすることが好ましい。
【0030】
弾性部材13は、第一被覆部材11より所定率短尺となるようにその長さが設定されている。この所定率は、伸縮式蛇腹状ランヤードAの延伸状態と自然長状態の長さをどのように設定するかで決まる。本実施形態では、具体的には、延伸状態長さを1.7mとし、自然長状態長さを1.1~1.2m程度に設定している。この両者の差が大きいほど使い勝手はよいが、弾性部材13が伸び縮みの繰り返し疲労で劣化するので、上記設定した自然長状態長さは弾性部材13の耐久性を考慮した長さである。
【0031】
蛇腹構造が設けられた蛇腹形成領域25は、ストラップ1の基端側の輪状部21と先端側の輪状部23との間に、引張力の負荷(落下衝撃荷重による重負荷ではなく、使用状態で軽く引っ張ったような軽負荷)を加えたとき、外装部材は自然長状態(殆ど力の加わっていない状態)となり、弾性部材13は外装部材の長さまで延伸された延伸状態となる。また、引張力の加わらない無負荷時には、弾性部材13は自然長状態となり、外装部材は表裏両面に波状となった蛇腹状態となる。
【0032】
本実施形態では、以下のようにして伸縮式蛇腹状ランヤードAを製造することができる。
先ず、長尺で筒状の第一被覆部材11の内部に長尺の弾性体から形成された弾性部材13を格納する。
次いで、第一被覆部材11と弾性部材13とを接合する。具体的には、弾性部材13の一方の端部を第一被覆部材11の一方の先端側縫合部24と蛇腹形成領域25との境界に位置合わせする。そして、その状態で、第一被覆部材11と弾性部材13とを弾性部材13の一方の端部の位置で重縫合する。
続いて、弾性部材13は自然長状態のままで、第一被覆部材11を他方の端部側から一方の端部側へと手繰り寄せて縮ませ、弾性部材13の他方の端部を第一被覆部材11の他方の先端側縫合部24と蛇腹形成領域25との境界に位置合わせする。そして、その状態で、第一被覆部材11と弾性部材13とを弾性部材13の他方の端部の位置で重縫合する。この重縫合により、弾性部材13と重縫合された第一被覆部材11には、表裏両面に波状となった蛇腹構造が蛇腹形成領域25に形成される。
図4に示すように、第一被覆部材11と弾性部材13との重縫合S2は、先端側縫合部24と蛇腹形成領域25の境界近傍において行われる。
【0033】
次に、重縫合を終えた第一被覆部材11を第二被覆部材12で覆う。
この覆った状態で、第二被覆部材12と第一被覆部材11とを接合する。具体的には、第一被覆部材11の一方の端部と第二被覆部材12の一方の端部とを位置合わせする。そして、その端部を折り返し、折り返し部分に輪状部23が形成されるように縫合する。
続いて、第一被覆部材11は、弾性部材13の自然長状態のままで、第二被覆部材12を他端の端部側から一方の端部側へと手繰り寄せて縮ませ、第二被覆部材12の他方の端部を第一被覆部材11の他方の端部に位置合わせする。そして、その端部を折り返し、折り返し部分に輪状部23が形成されるように縫合する。この縫合により、図4に示すように、長尺ストラップの両端に輪状部23と先端側縫合部24とが形成される。また、第一被覆部材11を覆う第二被覆部材12には、表裏両面に波状となった蛇腹構造が蛇腹形成領域25に形成される。
【0034】
次に、ストラップの所望の位置、好ましくは中間位置の基端側縫合部が形成される領域の蛇腹状態を真っ直ぐに伸ばしてこの領域の蛇腹状態を部分的に解除する。そして、この状態の長尺ストラップを所望の位置、好ましくは中間位置で折り返し、その折り返し部分に輪状部21が形成されるように縫合する。これにより、図5に示すように、長尺ストラップを折り返してできた基端側に輪状部21と基端側縫合部22とが形成される。また、図6,7に示すように、二股に延出されたストラップ1,1が形成される。
【0035】
最後に、図1,2に示すように、二股のランヤード1,1の基端側の輪状部21に連結金具41を取り付ける。この連結金具41に、必要に応じてショックアブソーバ44の一端を接続し、他端にカラビナ45を接続する。また、ランヤード1,1の先端側の輪状部23に連結金具42を取り付ける。この連結金具42にフック43を接続する。
上記工程を経ることで、本実施形態の二丁掛けの伸縮式蛇腹状ランヤードAを得ることができる。
【0036】
<実施形態の作用効果>
本実施形態では、第一被覆部材11及び第二被覆部材12の2層構造で形成されている外装部材に対し、蛇腹形成領域25に位置する領域が二重になるように長尺の弾性体を重ね合わせて形成した弾性部材13を用いている。この弾性部材13は高い弾性力を備えるため、外装部材が2層構造であっても蛇腹形成領域25の伸縮性は良好である。
また、基端側縫合部22には弾性部材13の一重領域を配置しているので、基端側縫合部22を形成する領域の厚みの増加が抑えられているため、基端側縫合部の加工性に優れる。
また、先端側縫合部24には弾性部材13が含まれないように配置しているので、先端側縫合部24を形成する領域の厚みの増加が抑えられているため、先端側縫合部の加工性も優れる。
【0037】
また、外装部材と弾性部材13との接合を、第一被覆部材11と弾性部材13とで行っている。そのため、縫合する箇所の厚みが抑えられているので、外装部材と弾性部材13との接合の加工性に優れる。
また、基端側の輪状部21には、弾性部材13の一重領域を配置している。そのため、基端側輪状部21の厚みの増加が抑えられているので、従来の連結具またはフックを使用でき、専用の連結具やフックを新たに用意する必要はない。
更に、先端側の輪状部23には、弾性部材13が含まれないように配置している。そのため、先端側輪状部23の厚みの増加が抑えられているので、従来の連結具またはフックを使用でき、専用の連結具やフックを新たに用意する必要はない。
【0038】
<他の実施形態>
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
上記実施形態では、第一被覆部材11と弾性部材13とを先端側縫合部24と蛇腹形成領域25との境界近傍で重縫合することで第一被覆部材11と弾性部材13とを接合させたが、これに限定されない。例えば、上記箇所での重縫合に加えて、基端側縫合部22と蛇腹形成領域25との境界近傍において重縫合してもよい。
【0039】
また、第一被覆部材11と弾性部材13との接合、第一被覆部材11と第二被覆部材12との接合では、他方の端部から一方の端部側へと手繰り寄せて位置決めした状態で縫合したが、これに限定されない。弾性部材を伸張させ、その状態で縫合してもよい。
例えば、第一被覆部材の内部に格納した弾性部材を伸張させ、その状態で第一被覆部材と弾性部材とを接合する。第一被覆部材と弾性部材との接合では、弾性部材を第一被覆部材の先端側縫合部と蛇腹形成領域との境界の長さまで伸張させる。具体的には、弾性部材の伸張は、一端が一方のストラップの先端側縫合部と蛇腹形成領域との境界であり、他端が他方のストラップの先端側縫合部と蛇腹形成領域との境界となるように伸張させる。この弾性部材を伸張させた状態で、先端側縫合部と蛇腹形成領域との境界において、第一被覆部材と弾性部材とを弾性部材の両端の位置で重縫合する。
続いて、第一被覆部材を第二被覆部材で覆うことにより得られる1本の長尺のストラップの両端をそれぞれ折り返し、その折り返し部分に輪状部が形成されるように縫合する。縫合後に弾性部材の伸張状態を解除することで、第一被覆部材及び第二被覆部材は、重縮合された箇所から弾性部材が自然長状態に戻る方向へと縮まり、表裏両面に波状となった蛇腹構造が蛇腹形成領域に形成される。
【0040】
また、図1,2に示すように、蛇腹形成領域25の中間部に拘持材26を設け、この拘持材26を固定するために、拘持材26と、第二被覆部材12、第一被覆部材11を重縫合してもよい。拘持材26は、伸縮式蛇腹状ランヤードAの品名表示や製造情報を表示してもよいし、ユーザーが記入できるスペースなどを確保してもよい。
また、第一被覆部材11及び第二被覆部材12は合成繊維としたが、これに限定されない。伸縮式蛇腹状ランヤードAは規格に定められた強度を有する必要があり、主として第一被覆部材11及び第二被覆部材12が荷重を受け持つので、その幅と厚さは、摩耗や紫外線等による劣化を考慮したうえで、落下衝撃時に加わる荷重に耐えうる強度を有していればよい。
【0041】
また、長尺の弾性体を重ね合わせて接合した弾性部材13を用いているが、これに限定されない。長尺の弾性体を1本と短尺の弾性体を2本それぞれ用意し、長尺の弾性体の二重とする領域に短尺の弾性体を重ね合わせて接合したものを弾性部材13として用いてもよい。
また、弾性部材13を構成する長尺の弾性体として弾性限界の高い天然ゴムに代えて、ある程度の弾性を有する合成ゴムを用いてもよい。合成ゴムは伸縮式蛇腹状ランヤードAの延伸状態と自然長状態の長さの差は小さくなるので、少々使い勝手は悪くなるが、繰り返し使用に対する耐久性は向上する。
【0042】
上記実施形態では、伸縮式蛇腹状ランヤードAの構成として、ストラップ1の基端側にショックアブソーバ44を接続した例を示したが、これに限定されない。ショックアブソーバ44は上記箇所への接続に限らず、例えば、ストラップ1の先端側に配置してもよい。
また、ストラップ1の先端側にフック43、基端側にカラビナ45を接続した例を示したが、これに限定されない。先端側及び基端側の双方に同種類のフックを接続してもよいし、同種類のカラビナを接続してもよい。結果として、構造物にランヤードを連結することが可能であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上説明された伸縮式蛇腹状ランヤードは、高所作業に用いられる墜落制止用器具に広く適用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 ストラップ
11 第一被覆部材
12 第二被覆部材
13 弾性部材
13a 一重領域
13b 二重領域
21 輪状部
22 基端側縫合部
23 輪状部
24 先端側縫合部
25 蛇腹形成領域
26 拘持材
41 連結金具
42 連結金具
43 フック
44 ショックアブソーバ
45 カラビナ
A 伸縮式蛇腹状ランヤード
S1 長尺の弾性体を重ね合わせた状態での接合位置
S2 第一被覆部材と弾性部材との重縫合位置


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7