(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090729
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】空気電池正極用のカーボンナノチューブ膜及びその製造方法、並びにカーボンナノチューブ膜を正極に用いた空気電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20220613BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20220613BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M4/96 B
H01M4/88 C
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203199
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】亀田 隆
(72)【発明者】
【氏名】松田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】山口 祥司
(72)【発明者】
【氏名】角田 宏郁
(72)【発明者】
【氏名】高柳 良基
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018AS03
5H018BB00
5H018BB16
5H018BB17
5H018DD05
5H018DD08
5H018EE05
5H018HH02
5H018HH05
5H032AA01
5H032AS02
5H032AS12
5H032BB06
5H032CC11
5H032HH00
5H032HH04
(57)【要約】
【課題】 放電容量が向上された空気電池を提供する。
【解決手段】BET比表面積が400m
2/g以上であり、直径1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積が200m
2/g以上であり、ラマンスペクトルにおける、Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比(G/D比)が30以上100以下であり、かつX線光電子分光法(XPS)により得られる酸素原子の含有量が、3.0原子%以上10.0原子%以下である空気電池正極用のカーボンナノチューブ膜を採用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が400m2/g以上であり、
直径1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積が200m2/g以上であり、
ラマンスペクトルにおける、Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比(G/D比)が30以上100以下であり、かつ
X線光電子分光法(XPS)により得られる酸素原子の含有量が、3.0原子%以上10.0原子%以下である
空気電池正極用のカーボンナノチューブ膜。
【請求項2】
カーボンナノチューブを粗化処理して、BET比表面積が800m2/g以上で、かつ直径が1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積が300m2/g以上の粗化処理カーボンナノチューブを得ること、
前記粗化処理カーボンナノチューブを分散媒に分散させて分散液を調製すること、及び
前記分散液から前記分散媒を分離してカーボンナノチューブを膜化すること
を含む、空気電池正極用のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【請求項3】
前記分散液の調製が、前記粗化処理カーボンナノチューブを分散媒に分散させて一次分散液を得た後、これを別途準備した分散媒に混合し、前記粗化処理カーボンナノチューブを更に分散させて二次分散液とすることを含む、請求項2に記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【請求項4】
前記分散液からの前記分散媒の分離を濾過により行う、請求項2又は3に記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のカーボンナノチューブ膜を含む正極構造体、負極構造体、セパレータ及び電解質部材を含む空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
空気電池正極用のカーボンナノチューブ膜及びその製造方法、並びにカーボンナノチューブ膜を正極に用いた空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池は、正極活物質として空気中の酸素を用い、負極活物質として金属を用いた電池で、金属空気電池とも呼ばれ、燃料電池の一種と位置づけられている電池である。その代表としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な金属又は化合物を負極活物質として用いたリチウム空気電池がある。リチウム空気電池における各電極での反応は、次式で表される。
【0003】
【0004】
リチウム空気電池では、正極活物質が空気中の酸素であり、これを電池の外部から取り込むことができる。これは、正極活物質の供給源を電池内に配置する必要がないことを意味するため、リチウム空気電池は、原理的に小型・軽量化に適したものといえる。また、正極活物質を外部から取り込めることは、利用可能な正極活物質の量が制限されないことも意味するため、リチウム空気電池は、原理的に大容量化に適するものともいえる。
【0005】
リチウム空気電池の放電時における正極(空気極)での反応は、前記式(2)のとおり、負極から移動してくるリチウムイオンが酸素と結合して過酸化リチウムを生じるものである。正極反応を促進して、放電容量の大きな電池を得るためには、リチウムイオンと酸素との反応起点を増加すること、及び/又は生成した過酸化リチウムが正極表面を覆うことによる電池反応の停止を避けること、が有効とされており、これらを実現するために正極の材質や構造について種々の工夫がなされてきた。
【0006】
例えば、特許文献1では、空気電池の空気極(正極)を、カーボンナノチューブ等の針状炭素が、その長手方向を内部から外表面に向かう方向に配列してなる集合体で構成することが開示されている。そして、このことにより、空気極が、酸素還元の反応起点となるカーボンエッジ部を外表面に多く含むものとなり、より多くの酸素分子との間で電子の授受が可能となる結果、高容量かつ高エネルギー密度の空気電池が実現できるとしている。特許文献1には、前記針状炭素集合体のD/G比が0.1以上であることが、円筒状のカーボンナノチューブの腹の部分に相当する炭素網面の面積に対する、円筒の先端に相当するカーボンエッジ部の面積が大きく、酸素還元に関与する反応起点の数が多いため好ましい旨も記載されている。
【0007】
また、特許文献2では、空気電池の正極を、4nm以上かつ100nm未満の細孔径を有する第1細孔と、100nm以上かつ10μm以下の細孔径を有する第2細孔とを特定の容積及び容積比率で含む炭素の多孔質体とすることが開示されている。そして、このことにより、前記第1細孔が酸素とリチウムの反応場としての役割を担い、かつ前記第2細孔が析出されたリチウム酸化物を貯蔵する役割を担うことで、空気電池において高い放電容量及び高い体積エネルギー密度を実現できるとされている。
【0008】
さらに、特許文献3では、リチウム空気電池の正極の導電助剤用途ではあるものの、表面の一部が窒素ドープナノカーボンで覆われたカーボンナノチューブが開示されている。特許文献3には、前記カーボンナノチューブでは窒素ドープナノカーボンにおける窒素原子が触媒活性を発現し、高い電気伝導性と自己触媒機能とが得られる旨も記載されている。また、特許文献3には、ラマン分光分析により得られるG/D比が50以上のカーボンナノチューブが、高い電子伝導性を示す点で好ましい旨も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-110106号公報
【特許文献2】特開2020-27686号公報
【特許文献3】特開2019-189495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、空気電池の放電容量を向上させるための種々の試みがなされており、一定の成果を挙げているが、更なる放電容量の向上が求められている。そこで、本発明は、放電容量が向上された空気電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するために種々の検討を行ったところ、空気電池の正極として、特定の直径を有する細孔の壁面の面積が大きく、該壁面を含む表面におけるリチウムイオンと酸素との反応活性が高く、かつ高い結晶性を有するカーボンナノチューブ膜を用いることで、放電容量の大きな空気電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の一側面は、BET比表面積が400m2/g以上であり、直径1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積が200m2/g以上であり、ラマンスペクトルにおける、Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比(G/D比)が30以上100以下であり、かつX線光電子分光法(XPS)により得られる酸素原子の含有量が、3.0原子%以上10.0原子%以下である空気電池正極用のカーボンナノチューブ膜である。
【0013】
また、前記課題を解決するための本発明の他の側面は、カーボンナノチューブを粗化処理して、BET比表面積が800m2/g以上で、かつ直径が1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積が300m2/g以上の粗化処理カーボンナノチューブを得ること、前記粗化処理カーボンナノチューブを分散媒に分散させて分散液を調製すること、及び前記分散液から前記分散媒を分離してカーボンナノチューブを膜化することを含む、空気電池正極用のカーボンナノチューブ膜の製造方法である。
【0014】
さらに、前記課題を解決するための本発明のさらに他の一側面は、前述したカーボンナノチューブ膜を含む正極構造体、負極構造体、セパレータ及び電解質部材を含む空気電池である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、放電容量が向上された空気電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一側面に係るコインセルの構造を示す断面模式図
【
図2】本発明の一側面に係る積層型空気電池の構造を示す断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0018】
[空気電池正極用のカーボンナノチューブ膜]
本発明の一側面に係る空気電池正極用のカーボンナノチューブ膜(以下、単に「第1側面」と記載することがある)は、BET比表面積が400m2/g以上であり、直径1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積が200m2/g以上であり、ラマンスペクトルにおける、Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比(G/D比)が30以上100以下であり、かつX線光電子分光法(XPS)により得られる酸素原子の含有量が、3.0原子%以上10.0原子%以下のものである。
【0019】
第1側面は、BET比表面積が400m2/g以上である。これにより、空気電池の正極を構成した際に、リチウムイオンと酸素との反応場となり得るカーボンナノチューブの表面が、十分な広さとなる。このBET比表面積は、500m2/g以上であることが好ましく、600m2/g以上であることがより好ましい。BET比表面積の上限は特に限定されないが、通常入手可能なカーボンナノチューブを膜化すると、1500m2/g以下となることが多い。
【0020】
第1側面は、直径1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積が200m2/g以上である。カーボンナノチューブ膜中の直径1nm以上の細孔は、リチウムイオン及び酸素がその内部に入り込むのに十分な大きさを有するため、空気電池の正極を構成した際に、その壁面がリチウムイオンと酸素との反応場となり得る。このため、該壁面の面積を大きくすること、すなわち該細孔の比表面積を大きくすることで、リチウムイオンと酸素との反応場を増大させることができ、放電時の正極反応が促進されて大きな放電容量が得られる。
【0021】
他方、直径が1nmを下回る細孔は、リチウムイオン及び酸素がその内部に入り込むことが困難であるため、空気電池の正極を構成した際に、反応場として十分に機能しない。このため、該細孔の比表面積を大きくしても、電池の放電容量の増大に対する寄与は限定的である。また、カーボンナノチューブ膜中の直径1000nmを超える細孔は、孔の中央部と孔の外周部にあたるカーボンナノチューブ表面との距離が離れるため、孔の中央部へは電子が移動し難くなる。このため、孔の中央部においては、前述したLi+と酸素との反応で必要な電子が不足する傾向にあり、それ故、前述した過酸化リチウムの生成量が低減する傾向を示す。したがって、カーボンナノチューブ膜の体積あたりの放電容量を大きくする点からは、1000nm以下直径を有する細孔が多く存在すること、すなわち細孔直径1000nm以下の細孔の比表面積が大きいことが好ましい。
【0022】
直径1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積は、空気電池の正極を構成した際に、反応場となり得る表面を確保する点から、200m2/g以上とする。該比表面積は、250m2/g以上とすることが好ましく、300m2/g以上とすることがより好ましい。該比表面積の上限は特に限定されないが、通常入手可能なカーボンナノチューブを膜化すると、1000m2/g以下となることが多い。
【0023】
第1側面は、ラマンスペクトルにおける、Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比(G/D比)が30以上100以下である。ここで、ラマンスペクトルにおけるGバンドのピークは、グラファイト構造(炭素六員環構造)に由来するものであり、Dバンドのピークは、グラファイト構造の欠陥及び非晶質炭素等の乱層構造炭素に由来するものである。したがって、G/D比が高いことは、規則的に配列した炭素原子の割合が高いことを意味する。そして、炭素原子の規則的な配列により、優れた電子伝導性が得られる。第1側面は、前記G/D比が30以上であることで、カーボンナノチューブ膜が、結晶性の高いカーボンナノチューブで構成された、電子伝導性に優れるものとなる。このことは、空気電池の正極を構成した際に、正極反応に寄与する電子が円滑に移動可能となることを意味するため、電池反応の促進につながる。電池反応をより促進する点からは、前記G/D比は35以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましい。他方、第1側面は、前記G/D比が100以下であることで、空気電池の正極を構成した際にリチウムイオンと酸素との反応場として作用する乱層構造炭素を、十分な量で含むものとなる。前記反応場をより多く確保する点からは、前記G/D比は95以下とすることが好ましく、90以下とすることがより好ましい。なお、ラマンスペクトルは、試料中の数百μm~1mm程度の領域から得られる情報を反映したものであることから、前述のG/D比を有するカーボンナノチューブ膜は、マクロ的にみて結晶性の高いものであるといえる。
【0024】
第1側面は、X線光電子分光法(XPS)により得られる酸素原子の含有量が、3.0原子%以上10.0原子%以下である。カーボンナノチューブ膜に含まれる酸素原子は、これを構成するカーボンナノチューブの表面に結合しており、その態様は、カーボンナノチューブの炭素六員環構造の二重結合が外れた部分に酸素原子が結合したものとなる。そして、これにより生じた微細構造の乱れた部分が、空気電池の正極を構成した際に、リチウムイオンと酸素との反応場として機能する。このため、酸素原子の含有量が3.0原子%以上であることで、空気電池の正極を構成した際に、リチウムイオンと酸素とが反応する反応場を十分な量とすることができる。該反応場をより多く得る点からは、酸素原子の含有量は、3.3原子%以上であることが好ましく、3.6原子%以上であることがより好ましい。他方、酸素原子の含有量が10.0原子%以下であることで、微細構造の乱れた部分を過度に含有することを抑制し、カーボンナノチューブ膜の電子伝導性を確保することができる。優れた電子伝導性を得る点からは、酸素原子の含有量は、8.0原子%以下であることが好ましく、6.0原子%以下であることがより好ましい。
【0025】
第1側面は、前述した各特徴を備えることにより、空気電池の正極とした際に、放電時における正極反応が円滑に進行するため、大きな放電容量が得られるものである。
【0026】
[空気電池正極用のカーボンナノチューブ膜の製造方法]
本発明の他の一側面に係る空気電池正極用のカーボンナノチューブ膜の製造方法(以下、単に「第2側面」と記載することがある)は、カーボンナノチューブを粗化処理して、BET比表面積が800m2/g以上で、かつ直径が1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積が300m2/g以上の粗化処理カーボンナノチューブを得ること、前記粗化処理カーボンナノチューブを分散媒に分散させて分散液を調製すること、及び前記分散液から前記分散媒を分離してカーボンナノチューブを膜化することを含む。
【0027】
原料として使用するカーボンナノチューブは特に限定されず、単層ものであっても、多層のものであってもよい。また、その長さや径についても限定されない。
【0028】
第2側面では、準備したカーボンナノチューブを粗化処理することを含む。この粗化処理は、カーボンナノチューブの表面積を増加させると共に、微細構造の乱れを生じさせる。このことにより、カーボンナノチューブを膜化して空気電池の正極を形成した際に、放電時にリチウムイオンと酸素とが反応する反応場を増加させて、放電容量の大きな電池を得ることができる。粗化処理の方法は、前述の作用が得られるものであれば特に限定されず、プラズマ処理、レーザー処理、酸処理、酸化処理、アルカリ処理及びメカノケミカル処理等が例示される。粗化処理をプラズマ処理により行う場合の手順及び条件の例としては、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマ発生装置を用い、真空チャンバー内にカーボンナノチューブをセットし、10-3Pa~10-4Pa程度まで真空引きした後、アルゴン/酸素混合ガスを導入して10Pa程度とし、マイクロ波電力350Wで5分程度プラズマ処理することが挙げられる。
【0029】
第2側面では、前記粗化処理によって、BET比表面積が800m2/g以上で、かつ直径が1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積が300m2/g以上である粗化処理カーボンナノチューブを得る。このことにより、粗化処理カーボンナノチューブを膜化して空気電池の正極を形成した際に、放電時にリチウムイオンと酸素とが反応する反応場となり得る表面が、十分な広さで得られる。該作用を十分に発現させる点からは、粗化処理カーボンナノチューブのBET比表面積は900m2/g以上とすることが好ましく、1000m2/g以上とすることがより好ましい。また、粗化処理カーボンナノチューブにおける直径が1nm以上1000nm以下の細孔の比表面積は、350m2/g以上とすることが好ましく、400m2/g以上とすることがより好ましい。
【0030】
なお、前述した粗化処理カーボンナノチューブは、未処理のカーボンナノチューブに対して粗化処理を行って得てもよく、粗化処理済みのカーボンナノチューブを入手して用いてもよい。粗化処理済みのカーボンナノチューブとしては、後述する実施例で使用した、(株)名城ナノカーボン製のeDIPS-EC1.5の粗化処理品等が挙げられる。
【0031】
第2側面では、粗化処理カーボンナノチューブを分散媒に分散させて分散液を調製することを含む。使用する分散媒は特に限定されず、水、エタノールやイソプロパノール等のアルコール、N-メチル-2-ピロリドン等を用いることができる。分散媒の純度も特には限定されないが、得られるカーボンナノチューブ膜を不純物の付着が少ないものとする点からは、各種イオンの含有量が少ないものを用いることが好ましい。
【0032】
カーボンナノチューブを分散媒に分散させて分散液を調製する方法は、カーボンナノチューブ同士の凝集を解離して、各ナノチューブの表面を分散媒と接触させるものであれば限定されない。一例として、回転式ホモジナイザー及び超音波ホモジナイザーが挙げられる。なお、本明細書における分散液は、調製後に水が分離されるものであるため、カーボンナノチューブの分散状態が一瞬でも達成できればよく、得られた分散状態が長期間に渡り保持される必要はない。
【0033】
カーボンナノチューブの分散液を調製する際には、カーボンナノチューブを分散媒中に分散させて一次分散液を得た後、これを別途準備した分散媒に混合し、カーボンナノチューブを更に分散させて二次分散液とすることが、より均一な細孔構造を有するカーボンナノチューブ膜が得られる点で好ましい。
【0034】
カーボンナノチューブ分散液から分散媒を分離して膜化する方法は、カーボンナノチューブの偏在を生じることなく分散媒を取り除くことができるものであれば限定されない。一例として、ろ過及び遠心分離が挙げられる。中でも、ろ過による分散媒の分離が、得られるカーボンナノチューブ膜における膜厚及び細孔構造のばらつきを抑制できる点で好ましい。
【0035】
第2側面によれば、空気電池の正極を構成した際に、リチウムイオンと酸素とが反応する反応場を多く含むと共に、電子が円滑に移動可能なカーボンナノチューブ膜を得ることができる。この膜においては、空気電池の放電時に正極反応が活発に起こる。このため、第2側面は、空気電池の大容量化に好適なカーボンナノチューブ膜が得られるものといえる。
【0036】
[空気電池]
本発明のさらに他の側面に係る空気電池(以下、単に「第3側面」と記載することがある)は、第1側面のカーボンナノチューブ膜を含む正極構造体、負極構造体、セパレータ及び電解質部材を含むものである。以下、第3側面について、コインセルを例に、
図1を参照しながら説明する。
図1は、コインセルを示す模式図である。
【0037】
コインセル600は、負極構造体610と正極構造体620とがセパレータ660を介して積層された積層構造体で構成される。そして、この積層構造体はコインセル型拘束具630により拘束されている。なお、コインセル型拘束具630と金属メッシュ680の間には絶縁性のOリングが配置され(図示なし)、拘束具630と正極構造体620との絶縁性が確保されている。
【0038】
空気電池は、空気中の酸素が正極活物質になるという意味で命名されたことからもわかるように、最低限空気中の酸素濃度である21%以上の酸素が供給されればよいが、拡散律速の影響を減らすためには、より高濃度の酸素が供給されることが好ましく、純酸素を供給できれば最高の特性を発揮させることができる。
【0039】
負極構造体610には、空気電池に通常用いられる負極構造体をそのまま使用できる。その例としては、集電体635と、その上に付与されたアルカリ金属、及び/又は、アルカリ土類金属を含有する金属層640とで形成された構造体を挙げることができる。ここで、金属層640は、代表的にはリチウム金属からなる層を挙げることができる。
【0040】
正極構造体620は、空気又は酸素が通る流路及び集電体機能を兼ねる金属含有のメッシュ(金属メッシュ)680に、機械的にも電気的にも接触した、多孔炭素膜電極690としての第1側面のカーボンナノチューブ膜を備える。
【0041】
ここで、金属メッシュ680を備えた正極構造体620は、導電性が高まり、空気又は酸素の流路も十二分に確保されるため、高出力に適した構造である。
【0042】
負極構造体610と正極構造体620の間には、セパレータ660が配置される。このセパレータ660と金属層640との間には、スペーサ650によって空間670が形成され、空間670には電解液が充填されている。
【0043】
次に、コインセル600の製造方法について説明する。
最初に、負極構造体610を準備する。負極構造体610は、例えば、次のようにして製造、準備する。
【0044】
円盤状の集電体635の上に、リチウム等で形成された、集電体635より径の小さな円盤状の金属層640を、同心となるように積層し、集電体635の上に、金属層640を囲むようにドーナツ状のスペーサ650を押し付けて、負極構造体610を得る。
【0045】
ここで、スペーサ650の材質としては、絶縁性を有する金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物等を挙げることができる。例示的には、Al2O3、Ta2O5、TiO2、ZnO、ZrO2、SiO2、B2O3、P2O5、GeO2、Li2O、Na2O、K2O、MgO、CaO、SrO、BaO、Si3N4、AlN及びAlOxN1-x(0<x<1)からなる群から選択される無機材料を挙げることができる。この中でも、特にAl2O3やSiO2は、入手が容易であり、加工性に優れるという特徴があるため好ましい。
【0046】
また、スペーサ650は、有機材料からなってもよい。有機材料としては、例示的には、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂からなる群から選択されるものが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、好ましくは、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンである。ポリエステル系樹脂は、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びポリトリブチレンテレフタレート(PTT)からなる群から選択される。これらの樹脂は、入手が容易であり、加工性に優れる。
【0047】
次に、セパレータ660を準備して、これをスペーサ650上に押し付ける。
セパレータ660としては、アルカリ金属イオン、及び/又はアルカリ土類金属イオンが通過可能であり、多孔質構造を有する絶縁性材料で、かつ、金属層640及び電解液との反応性を有さない任意の無機材料、有機材料、あるいは、金属材料で形成されたものが適用される。
【0048】
この条件を満たせば、セパレータ660の構造・材質に特に制限はなく、既存の金属電池に使用されるセパレータを使用することができる。例示的には、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリオレフィン等の合成樹脂製の多孔質膜、並びにガラス繊維製の織布及び不織布からなる群から選択されるものが挙げられる。
【0049】
なお、金属層640とスペーサ650とセパレータ660との間には、空間670を設けることが好ましい。
【0050】
その後、セパレータ660内に電解液を充填する。このとき、併せて空間670も電解液で充填することが好ましい。電解液としては、非水系電解液を用いる。
【0051】
非水系電解液として、リチウムイオンを電解質とするものを用いる場合には、後述する非水溶媒にリチウム塩を溶解させたものを用いる。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiSiF6、LiAsF6、LiN(SO2C2F5)2、Li(FSO2)2N、LiCF3SO3(LiTfO)、Li(CF3SO2)2N(LiTFSI)、LiC4F9SO3、LiClO4、LiAlO2、LiAlCl4、LiB(C2O4)2等が例示される。
【0052】
非水電解液において、非水溶媒は、グライム類(モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム)、メチルブチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルブチルエーテル、ジブチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,2-ジメチルテトラヒドロフラン、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸ジメチル、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、デカノリド、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロメタン、ニトロベンゼン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、テトラエチレングリコールジアミン、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、トリエチルホスフィンオキシド、1,3-ジオキソラン及びスルホランからなる群から選択される。
【0053】
しかる後、多孔炭素膜電極690である第1側面のカーボンナノチューブ膜上に、金属メッシュ680を乗せた正極構造体620を準備する。
金属メッシュ680としては、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)の群から選ばれる金属を含むメッシュを挙げることができる。すなわち、この群から選ばれる金属単体、この群から選ばれる金属を含む合金、及びこの群から選ばれる金属と炭素(C)や窒素(N)等との化合物、の少なくとも1種で形成されたメッシュが使用可能である。メッシュは、例えば、厚さ0.2mm、目開き1mmとすることができる。
【0054】
その後、電解液で充填させた負極構造体610に正極構造体620を、セパレータ660を介して貼り合わせ、コインセル型拘束具630で拘束してコインセル600を得る。ここで、実装は乾燥空気下、例えば露点温度-50℃以下の乾燥空気下で行うことが好ましい。
【0055】
以上の工程により、空気電池として動作するコインセル600が製造される。
【0056】
コインセル600は、正極構造体620が第1側面のカーボンナノチューブ膜を備えるため、高い空気又は酸素透過性をもっていて多量の酸素を取り込むことが可能であり、イオン輸送効率が高く、かつ広い反応場を備えるものとなる。さらに、正極構造体620が、カーボンナノチューブ膜及びその上に配置した金属メッシュ680という小型化が可能でシンプルな構造であるため、小型・軽量化が可能で大容量化に適した空気電池になる。
【0057】
[積層型空気電池]
第3側面は、第1側面のカーボンナノチューブ膜を正極構造体として用いた積層型空気電池(金属電池)であってもよい。そこで、第3側面の他の実施形態として、積層型空気電池について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、積層型金属電池(空気電池)の断面構造を示す模式図である。
【0058】
空気電池500は、正極構造体層510と負極構造体層100とがセパレータ540を介して積層した積層構造を備える。積層数は、互いに隣接する正極構造体層510と負極構造体層100との組を単位として、1組以上複数組でよく、組数に特段の上限はない。なお、積層構造は、収納容器(図示せず)に収容される。
【0059】
ここで、負極構造体層100は、一対の負極構造体と、それらにより挟まれる負極用集電体電極520とから構成されている。負極構造体は、前述したコインセルにおける負極構造体610と同様の構造を有するものである。
【0060】
負極用集電体電極520としては、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)の群から選ばれる金属を含む電極を挙げることができる。すなわち、負極用集電体電極520としては、この群から選ばれる金属単体、この群から選ばれる金属を含む合金、及びこの群から選ばれる金属と炭素(C)や窒素(N)等との化合物、の少なくとも1種で形成されたものを挙げることができる。
【0061】
一方、正極構造体層510は、多孔炭素膜電極550とガス拡散層560とが積層されてなる一対の積層体と、該積層体により挟まれる正極用集電体電極525とから構成されている。なお、正極用集電体電極525側から、順に、ガス拡散層560、多孔炭素膜電極550が配置されている。多孔炭素膜電極550は、第1側面のカーボンナノチューブ膜からなる。
【0062】
正極用集電体電極525としては、例えば、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)の群から選ばれる金属を有する電極を挙げることができる。すなわち、集電体電極520、525としては、この群から選ばれる金属単体、この群から選ばれる金属を含む合金、この群から選ばれる金属と炭素(C)や窒素(N)などとの化合物からなる電極を挙げることができる。正極用集電体電極525には、ステンレス鋼(SUS)を用いてもよい。
【0063】
正極用集電体電極525は、酸素の流路を兼ねることも可能であり、その場合は正極用集電体電極525として、メッシュ、グリッド、スポンジなどの多孔性のものを用いる。この場合、ガス拡散層560が不要となり、空気電池500をより単純な構造とすることで、さらに大きな容量が得られるようになる。
【0064】
空気電池500の正極構造体層510は、多孔炭素膜電極550と正極用集電体電極525との間に、ガス拡散層560を具備し、空気、酸素、その他のガスは、このガス拡散層を通って、電池外部と多孔炭素膜電極550の間を行き来する。またガス拡散層560は、多孔炭素膜電極550と正極用集電体電極525間での電子の移動路としても働く。このように、ガス拡散層560は、ガスの移動路として働くため、通気のための連通孔を有することが必要であり、また電子伝導性を持っていることが必要となる。ガス拡散層560としては、例えば、東レのカーボンペーパーTGP-H、クレハのクレカE704等が使用できる。
【0065】
空気電池500は、正極構造体層510が、第1側面のカーボンナノチューブ膜を多孔炭素膜電極550として備えるため、高い空気又は酸素透過性をもっていて多量の酸素を取り込むことが可能であり、イオン輸送効率が高く、かつ広い反応場を備えるものとなる。このため、小型・軽量化が可能で大容量化に適した空気電池になる。
【0066】
なお、本明細書では、第3側面として、
図1及び
図2を参照して、第1側面のカーボンナノチューブ膜を用いた空気電池について詳述したが、第1側面のカーボンナノチューブ膜は空気電池に限らず、任意の金属電池に適用できる。
【実施例0067】
以下、本実施形態を実施例により詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0068】
[実施例]
<カーボンナノチューブ膜の製造>
カーボンナノチューブとして、(株)名城ナノカーボン製、eDIPS-EC1.5の粗化処理品を準備した。このカーボンナノチューブの性状は、表1のとおりである。このカーボンナノチューブ100重量部を、超純水(メルク(株)製、Milli-Q Integralにて製造したもの)100,000重量部(カーボンナノチューブの1,000倍の重量)を入れた容器に投入し、回転式ホモジナイザー((株)エスエムテー製、HF93)にて、9000rpmで1分間の分散処理を行って、カーボンナノチューブの一次分散液を得た。次に、この一次分散液を、別途準備した超純水100,000重量部(カーボンナノチューブの1,000倍の重量)を入れた容器中に移し、超音波ホモジナイザー(Branson Ultrasonics Corp.製、Sonifier(登録商標)SFX550)にて、3/4インチのホーンチップを用い、周波数20kHz、振幅75%(100μm)の条件で5分間の分散処理を行い、カーボンナノチューブの二次分散液を得た。次に、この二次分散液を、ろ紙(オムニポアメンブレンフィルターJAWP90mmφ、穴径1μm)をセットした加圧ろ過器に投入し、0.2MPaの圧力で加圧ろ過を行った。最後に、ろ紙上に残ったカーボンナノチューブを剥がし、50℃の減圧雰囲気中で3時間乾燥した後、さらに温度を110℃に上げて16時間乾燥することで、分散媒を除去し、実施例に係るカーボンナノチューブ膜を得た。
【0069】
<カーボンナノチューブ膜の細孔の比表面積測定>
得られたカーボンナノチューブ膜を、打抜き加工機にて直径16mmの円形に打ち抜き、測定用試料とした。この測定用試料を、多検体高性能比表面積/細孔分布測定装置(3Flex)(Micromeritics Instrument Corp.製)にセットし、窒素吸着法により得られた吸着等温線から、BJH法により、直径1~1000nmの細孔の比表面積を算出した。その結果、比表面積は335m2/gであった。
【0070】
<カーボンナノチューブ膜のBET比表面積測定>
得られたカーボンナノチューブ膜を、打抜き加工機にて直径16mmの円形に打ち抜き、測定用試料とした。この測定用試料を、多検体高性能比表面積/細孔分布測定装置(3Flex)(Micromeritics Instrument Corp.製)にセットし、窒素吸着法により得られた吸着等温線から、BET法により、比表面積を算出し、カーボンナノチューブ膜の比表面積とした。その結果、比表面積は758m2/gであった。
【0071】
<カーボンナノチューブ膜のラマンスペクトルにおけるピーク強度比の測定>
得られたカーボンナノチューブ膜を、打抜き加工機にて直径16mmの円形に打ち抜き、測定用試料とした。この測定用試料について、レーザーラマン顕微鏡(ナノフォトン(株)製、RAMANtouch)を用い、対物レンズ10倍、励起波長532nm、照射レーザーパワー1mWの条件にてラマンスペクトルを測定した。得られた測定結果から、1580cm-1に観察される、結晶構造炭素由来のGバンドのピーク強度、及び1360cm-1に観察される、乱層構造炭素由来のDバンドのピーク強度をそれぞれ求め、両者の比を算出することで、G/D比及びD/G比をそれぞれ得た。その結果、G/D比は50、D/G比は0.02であった。
【0072】
<カーボンナノチューブ膜の酸素原子の含有量測定>
得られたカーボンナノチューブ膜を、打抜き加工機にて直径16mmの円形に打ち抜き、測定用試料とした。この測定用試料について、X線光電子分光分析装置(XPS)(あるバック・ファイ(株)製、PHI 5000 VersaProbe II)を用い、炭素由来のC1s及び酸素由来のO1sの光電子を計測して、酸素原子の含有量を原子%(at%)で求めた。その結果、酸素原子の含有量は3.9原子%であった。
【0073】
<カーボンナノチューブ膜の目付け測定>
得られたカーボンナノチューブ膜を、打抜き加工機にて直径16mmの円形に打ち抜き、測定用試料とした。この測定用試料の質量(mg)を測定し、これを測定用試料の面積(cm2)で割ることで、カーボンナノチューブ膜の目付けを算出した。その結果、目付けは2.6mg/cm2であった。
【0074】
<空気電池の作製及び放電容量測定>
得られたカーボンナノチューブ膜を、打抜き加工機にて直径16mmの円形に打ち抜き、多孔炭素膜電極とした。正極の金属メッシュとして直径18mm、厚さ0.3mmのステンレス製円板の内径14mm以下の部分に0.8mmφの穴を1.0mmピッチで空けたものを、負極の集電体として直径18mm、厚さ0.8mmのステンレス製円板を、負極の金属層として金属リチウム(直径16mm、厚さ0.2mm)を、スペーサとして直径18mm、厚さ0.3mmのステンレス円板を、セパレータとしてガラス繊維ペーパ(Whatman(登録商標)GF/A)を、電解液としてLiTFS(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)の1M-テトラエチレングリコールジメチルエーテル溶液100μLを、それぞれ用い、
図1に示す構造のコインセルを作製した。このコインセルについて、電流密度0.4mA/cm
2で放電を行い、電圧が2.3Vに低下するまでの放電容量を測定した。得られた放電容量を、正極として用いたカーボンナノチューブ膜の質量で割ることで、正極質量あたりの放電容量を算出した。得られた放電容量は、5692mAh/gであった。
【0075】
[比較例]
カーボンナノチューブとして、(株)名城ナノカーボン製、eDIPS-EC2.0を用いた以外は実施例と同様の方法で、比較例に係るカーボンナノチューブ膜を得た。使用したカーボンナノチューブの性状は、表1のとおりである。
得られたカーボンナノチューブ膜について、実施例と同様の方法で、直径1~1000nmの細孔の比表面積、BET比表面積、ラマンスペクトルにおけるピーク強度比、酸素原子の含有量及び目付けを測定・算出したところ、直径1~1000nmの比表面積は199m2/g、BET比表面積は299m2/g、ラマンスペクトルにおけるピーク強度比は、G/D比が28、D/G比が0.04、酸素原子の含有量は2.6原子%、目付けは2.8mg/cm2であった。
得られたカーボンナノチューブ膜を多孔炭素膜電極とするコインセルを、比較例と同様の方法で作製し、放電容量を測定・算出したところ、3646mAh/gであった。
【0076】
以上に説明した実施例・比較例について、使用したカーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ膜の性状、並びにコインセルの放電容量を、表2及び表3にまとめて示す。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
得られた結果から、粗化処理を行った粗化処理カーボンナノチューブを分散媒に分散させて分散液を調製した後、該分散液から分散媒を分離除去して得られるカーボンナノチューブ膜は、BET比表面積及び直径1~1000nmの細孔の比表面積がいずれも大きく、かつラマンスペクトルにおけるG/D比及び酸素原子の含有量が適正な範囲内のものになるといえる。そして、このことが、空気電池の正極構造体を形成した際に、電池の高容量化に寄与するものといえる。
本発明によれば、同じ構造及び大きさを有する空気電池で比較したときに、従来は達成することができなかった高い放電容量を達成することができる。このため、従来は得られなかった高容量の空気電池が提供できる点、及び同じ放電容量を有する電池をより小型化できる点で、本発明は有用なものである。