(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090757
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】空気入りタイヤおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/12 20060101AFI20220613BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20220613BHJP
B29D 30/06 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
B60C19/12 A
B60C11/03 100
B29D30/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203254
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】松延 裕子
【テーマコード(参考)】
3D131
4F215
【Fターム(参考)】
3D131BC24
3D131BC39
3D131BC51
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131LA13
3D131LA28
4F215AH20
4F215AP11
4F215VC03
4F215VK02
4F215VL11
4F215VQ04
4F215VQ07
(57)【要約】
【課題】シーラント層によるパンク防止機能が維持されつつ、シーラント層による蓄熱に起因するタイヤ耐久性の低下を抑制する。
【解決手段】一対のビード10と、一対のビード10の各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20間に配置され、接地面331を有するトレッド30と、一対のビード10間に架け渡されたカーカスプライ40と、カーカスプライ40のタイヤ内腔側に配置されたインナーライナー50と、インナーライナー50のタイヤ内腔側の内面に配置されたシーラント層60と、を備え、トレッド30の接地面331には、タイヤ周方向に延びる複数の主溝341が形成されており、シーラント層60は、インナーライナー50の内面501における複数の主溝341のそれぞれに対応する環状部分に帯状に設けられた複数の周回部62を有し、複数の周回部62は、タイヤ幅方向に互いに離間している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビードと、
前記一対のビードの各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォールと、
前記一対のサイドウォール間に配置され、接地面を有するトレッドと、
前記一対のビード間に架け渡されたカーカスプライと、
前記カーカスプライのタイヤ内腔側に配置されたインナーライナーと、
前記インナーライナーのタイヤ内腔側の内面に配置されたシーラント層と、を備え、
前記トレッドの前記接地面には、タイヤ周方向に延びる複数の溝が形成されており、
前記シーラント層は、前記インナーライナーの内面における前記複数の溝のそれぞれに対応する環状部分に帯状に設けられた複数の周回部を有し、前記複数の周回部は、タイヤ幅方向に互いに離間している、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記シーラント層は、前記インナーライナーの前記内面に周回されながら貼り付けられた帯状のシーラント材により形成され、
前記複数の周回部は、前記シーラント材が前記複数の溝のそれぞれに対応する環状部分に貼り付けられて形成され、
タイヤ幅方向に隣接する一対の前記周回部の間には、当該一対の前記周回部のうちの一方から他方に前記シーラント材が移行する移行部が形成されている、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記周回部の幅は、前記溝の幅以上の寸法を有し、
前記周回部は、前記溝をタイヤ幅方向において覆っている、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記周回部は、前記シーラント材がタイヤ周方向に複数回周回されて形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
トレッドの接地面にタイヤ周方向に延びる少なくとも1つの溝が形成されたタイヤを軸周りに回転させながら、タイヤ内腔側に配置したノズルからタイヤ内面にシーラント材を吐出して塗布することにより、前記タイヤ内面にシーラント層を形成するにあたり、
前記溝の位置を示す溝位置情報を把握し、
把握した前記溝位置情報に基づいて、前記ノズルを前記タイヤに対してタイヤ幅方向に相対移動させることにより、前記タイヤ内面の前記溝に対応する環状部分に前記シーラント材を塗布する、空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記溝位置情報は、前記溝のタイヤ幅方向の座標と、前記シーラント材が塗布される前記タイヤ内面の周方向長さと、を含む、請求項5に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記タイヤは、前記溝を複数有し、複数の前記溝に対応して前記シーラント材を前記タイヤ内面に塗布する、請求項5または6に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の空気入りタイヤおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの内面に設けられたシーラント層によって、パンク時に形成されるタイヤの孔が自動的に塞がれるパンク防止機能を備えた空気入りタイヤが知られている。
例えば特許文献1には、シーラント層が2層構造を有し、それぞれのシーラント層は。シーラント材が螺旋状に配置されるとともに、それぞれのシーラント材をタイヤ幅方向に互いにずらして配置された空気入りタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、シーラント層は、タイヤのトレッドに対応する領域のタイヤ内面の全面を覆うように配置される。このため、シーラント層で覆われたタイヤ内面が蓄熱し、その熱の影響を受けてタイヤが劣化するおそれがある。このような問題は、上記特許文献1のようにシーラント層が2層構造の場合に顕著となることから、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、シーラント層によるパンク防止機能が維持されつつ、シーラント層による蓄熱に起因するタイヤ耐久性の低下を抑制することができる空気入りタイヤおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の空気入りタイヤは、一対のビードと、前記一対のビードの各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォールと、前記一対のサイドウォール間に配置され、接地面を有するトレッドと、前記一対のビード間に架け渡されたカーカスプライと、前記カーカスプライのタイヤ内腔側に配置されたインナーライナーと、前記インナーライナーのタイヤ内腔側の内面に配置されたシーラント層と、を備え、前記トレッドの前記接地面には、タイヤ周方向に延びる複数の溝が形成されており、前記シーラント層は、前記インナーライナーの内面における前記複数の溝のそれぞれに対応する環状部分に帯状に設けられた複数の周回部を有し、前記複数の周回部は、タイヤ幅方向に互いに離間している。
【0007】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、トレッドの接地面にタイヤ周方向に延びる少なくとも1つの溝が形成されたタイヤを軸周りに回転させながら、タイヤ内腔側に配置したノズルからタイヤ内面にシーラント材を吐出して塗布することにより、前記タイヤ内面にシーラント層を形成するにあたり、前記溝の位置を示す溝位置情報を把握し、把握した前記溝位置情報に基づいて、前記ノズルを前記タイヤに対してタイヤ幅方向に相対移動させることにより、前記タイヤ内面の前記溝に対応する環状部分に前記シーラント材を塗布する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シーラント層によるパンク防止機能が維持されつつ、シーラント層による蓄熱に起因するタイヤ耐久性の低下を抑制することができる空気入りタイヤおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るタイヤにおけるタイヤ幅方向の断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るタイヤの内面を示す展開図であって、シーラント層を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るタイヤの製造方法を実施する塗布装置のノズルによってタイヤ内面にシーラント材を塗布する状態を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るタイヤの製造方法を好適に実施し得る塗布装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る空気入りタイヤであるタイヤ1のタイヤ幅方向断面を示す図である。タイヤ1は、例えば乗用車用のタイヤである。タイヤ1の基本的な構造は、タイヤ幅方向の断面において左右対称となっている。図中、符号S1は、タイヤ赤道面である。タイヤ赤道面S1は、タイヤ回転軸(タイヤ子午線)に直交する面で、かつタイヤ幅方向中心に位置する面である。
【0011】
なお、
図1の断面図は、タイヤ1を規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態のタイヤ幅方向断面図(タイヤ子午線断面図)である。なお、規定リムとは、タイヤサイズに対応してJATMAに定められた標準となるリムを指す。また、規定内圧とは、例えばタイヤが乗用車用である場合には180kPaである。
【0012】
ここで、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向であり、
図1の断面図における紙面左右方向である。
図1においては、タイヤ幅方向Xとして図示されている。
そして、タイヤ幅方向内側とは、タイヤ赤道面S1に近づく方向であり、
図1においては、紙面中央側である。タイヤ幅方向外側とは、タイヤ赤道面S1から離れる方向であり、
図1においては、紙面左側および右側である。
また、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向であり、
図1における紙面上下方向である。
図1においては、タイヤ径方向Yとして図示されている。
そして、タイヤ径方向外側とは、タイヤ回転軸から離れる方向であり、
図1においては、紙面下側である。タイヤ径方向内側とは、タイヤ回転軸に近づく方向であり、
図1においては、紙面上側である。
【0013】
図1に示されるように、タイヤ1は、タイヤ幅方向両側に設けられた一対のビード10と、一対のビード10の各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20間に配置されたトレッド30と、一対のビード10の間に配置されたカーカスプライ40と、カーカスプライ40のタイヤ内腔側に配置されたインナーライナー50と、を備えている。
【0014】
ビード10は、ビードコア11と、ビードコア11のタイヤ径方向外側に延びるビードフィラー12と、チェーハー13と、リムストリップゴム14と、を備えている。
【0015】
ビードコア11は、ゴムが被覆された金属製のビードワイヤを複数回巻いて形成した環状の部材であり、空気が充填されたタイヤ1を、リムに固定する役目を果たす部材である。
ビードフィラー12は、タイヤ径方向外側に延びるにしたがって先細り形状となっているゴム部材である。ビードフィラー12は、ビード10の周辺部分の剛性を高め、高い操縦性および安定性を確保するために設けられている部材である。ビードフィラー12は、例えば周囲のゴム部材よりも硬度の高いゴムにより構成される。
【0016】
チェーハー13は、ビードコア11周りに設けられたカーカスプライ40のタイヤ径方向内側に設けられている。
リムストリップゴム14は、チェーハー13およびカーカスプライ40のタイヤ幅方向外側に配置されている。リムストリップゴム14は、タイヤ1が装着されるリムと接触する部材である。
【0017】
サイドウォール20は、カーカスプライ40のタイヤ幅方向外側に配置されたサイドウォールゴム21を含む。サイドウォールゴム21は、タイヤ1の外壁面を構成する。サイドウォールゴム21は、タイヤ1がクッション作用をする際に最もたわむ部分であり、通常、耐疲労性を有する柔軟なゴムが採用される。
【0018】
トレッド30は、無端状のベルト31およびキャッププライ32と、トレッドゴム33と、を備えている。
【0019】
ベルト31は、カーカスプライ40のタイヤ径方向外側に配置されている。キャッププライ32は、ベルト31のタイヤ径方向外側に配置されている。
ベルト31は、トレッド30を補強する部材である。本実施形態のベルト31は、内側のベルト311と外側のベルト312とを備えた2層構造である。内側のベルト311および外側のベルト312は、いずれも複数のスチールコード等のコードがゴムで覆われた構造を有している。なお、ベルト31は2層構造に限らず、1層、あるいは3層以上の構造を有していてもよい。
【0020】
キャッププライ32は、ベルト31とともにトレッド30を補強する部材である。キャッププライ32は、例えばポリアミド繊維等の絶縁性を有する複数の有機繊維コードがゴムで覆われた構造を有している。キャッププライ32を設けることにより、耐久性の向上、走行時のロードノイズの低減を図ることができる。
【0021】
トレッドゴム33は、キャッププライ32のタイヤ径方向外側に配置されている。トレッドゴム33は、走行時に路面と接地する接地面331を構成する部材である。トレッドゴム33の接地面331には、例えば複数の溝で構成されるトレッドパターン34が設けられている。トレッドパターン34は、タイヤ幅方向に並ぶ複数の主溝341を有している。複数の主溝341のそれぞれは、タイヤ周方向に沿って延びている。主溝341は、溝の一例である。
【0022】
本実施形態では、4つの主溝341が接地面331に形成されている。4つの主溝341は、接地面331のタイヤ幅方向中心を対称中心として左右対称に配置されている。
なお、主溝341の数や配置に関してはこれに限定されない。例えば、複数の主溝341はタイヤ幅方向中心を対称中心とした対称位置ではなく、非対称に配置されてもよい。
【0023】
トレッド30の接地面331においては、複数の主溝341の間に複数の中央陸部342が配置されている。複数の中央陸部342のそれぞれは、タイヤ周方向に延びている。また、トレッド30の接地面331は、タイヤ幅方向の最も外側に配置された2つの主溝341よりもタイヤ幅方向外側の部分に、中央陸部342と同程度のタイヤ厚みを有する側方陸部343をそれぞれ有している。
【0024】
カーカスプライ40は、タイヤ1の骨格となるプライを構成している。カーカスプライ40は、一対のビード10間を、一対のサイドウォール20およびトレッド30を通過する態様で、タイヤ1内に埋設されている。
カーカスプライ40は、タイヤ1の骨格となる複数のカーカスコードを含んでいる。複数のカーカスコードは、例えばタイヤ幅方向に延びており、タイヤ周方向に並んで配列されている。カーカスコードは、ポリエステルやポリアミド等の絶縁性の有機繊維コード等により構成されている。複数のカーカスコードがゴムにより被覆されて、カーカスプライ40が構成されている。
【0025】
カーカスプライ40は、一方のビードコア11から他方のビードコア11に延び、トレッド30とビード10との間に延在するプライ本体部401と、プライ本体部401からビードコア11で折り返される一対の屈曲部402と、屈曲部402のそれぞれからタイヤ径方向外側に延びる一対の折り返し部403と、を有する。プライ本体部401、屈曲部402および折り返し部403は、連続している。
【0026】
プライ本体部401は、タイヤ径方向内側においてビードコア11およびビードフィラー12のタイヤ幅方向内側に配置されている。折り返し部403は、タイヤ径方向内側においてビードコア11およびビードフィラー12のタイヤ幅方向外側に配置されている。ビードコア11およびビードフィラー12以外の部分において、折り返し部403はプライ本体部401に重ね合わされている。屈曲部402は、カーカスプライ40においてタイヤ径方向の最も内側の部分を構成している。
【0027】
本実施形態のカーカスプライ40は1層構造であるが、カーカスプライ40は1層構造に限らず、2層、あるいは3層以上の構造を有していてもよい。
【0028】
上述したビード10のチェーハー13は、屈曲部402を含むカーカスプライ40のタイヤ径方向内側の端部を取り囲むように設けられている。また、リムストリップゴム14は、チェーハー13およびカーカスプライ40の折り返し部403の、タイヤ幅方向外側に配置されている。リムストリップゴム14のタイヤ径方向外側の端部は、上述したサイドウォールゴム21で覆われている。
【0029】
インナーライナー50は、一対のビード間のタイヤ内面を覆っている。インナーライナー50は、カーカスプライ40のプライ本体部401の内面および一対のビード10のチェーハー13の内面を覆っている。
インナーライナー50は、耐空気透過性ゴムにより構成されており、タイヤ内腔内の空気が外部に漏れるのを防ぐ。
【0030】
図1に示されるように、本実施形態に係るタイヤ1は、シーラント層60をさらに備えている。
【0031】
図1に示されるように、シーラント層60は、タイヤ内面であるインナーライナー50の内面501に設けられている。本実施形態では、シーラント層60は、トレッド30の接地面331に設けられた複数の主溝341のそれぞれに対応する環状部分に帯状に設けられる周回部62を含んでいる。シーラント層60は、自身が備える粘着性によってインナーライナー50の内面501に貼り付けられている。
【0032】
図2は、タイヤ1の内面を示す展開図であって、タイヤ1の内面に設けられたシーラント層60を模式的に示している。
図2においては、矢印Xでタイヤ幅方向を示し、矢印Zでタイヤ周方向を示している。
【0033】
図2に示されるように、シーラント層60は、インナーライナー50の内面501に対して、タイヤ周方向に沿って周回されながら貼り付けられた1本の帯状のシーラント材61により形成されている。シーラント層60は、シーラント材61によって形成された複数の環状の周回部62および複数の移行部63を有している。
【0034】
図2において、符号61Aはシーラント材61の貼り付け開始端部を示し、符号61Bはシーラント材61の貼り付け終了端部を示している。
図2に示されるように、シーラント材61は、貼り付け開始端部61Aから貼り付け終了端部61Bまで、図中矢印で示されるようにして周回しながら、タイヤ幅方向一端側から他端側(
図2で左側から右側)に連続して貼り付けられる。
【0035】
周回部62は、シーラント材61がタイヤ周方向と平行にインナーライナー50の内面501に貼り付けられて形成されている。シーラント材61がインナーライナー50の内面501に1周、あるいは複数回を周回して貼り付けられることにより、帯状の1つの周回部62が形成される。
【0036】
複数の周回部62は、タイヤ幅方向に間隔をおいて並列配置されている。複数の周回部62のそれぞれは、複数の主溝341のそれぞれに対応するインナーライナー50の内面501における環状部分に、帯状に設けられている。これにより複数の周回部62は、タイヤ幅方向に互いに離間している。換言すると、複数の周回部62のそれぞれは、複数の主溝341のタイヤ径方向内側にそれぞれ配置されている。本実施形態では主溝341が4つあるため、周回部62は4つ形成されている。
複数の周回部62のそれぞれの幅は、対応する各主溝341の幅以上の寸法を有している。複数の周回部62のそれぞれは、対応する各主溝341をタイヤ幅方向において覆っていることが好ましい。
【0037】
移行部63は、シーラント材61がインナーライナー50の内面501にほぼ1周、あるいは複数回にわたり周回して貼り付けられて、1つの周回部62が形成された後に、タイヤ幅方向の一方側(
図2で右側)にシーラント材61が移行する部分である。すなわち移行部63は、タイヤ幅方向に隣接する一対の周回部62の間に形成される。移行部63を経て、貼り付け済みの周回部62のタイヤ幅方向一方側に、次の周回部62が間隔をおいて貼り付けられる。隣接する一対の周回部62の間隔部分は、中央陸部342に対応している。移行部63を経てタイヤ幅方向の一方側に隣接する次の周回部62が繰り返し形成されて、シーラント層60が設けられる。
【0038】
複数の移行部63のそれぞれは、タイヤ周方向に対して所定角度をもって傾斜する状態で直線状に延びている。本実施形態では、主溝341が4つあるため、移行部63は周回部62間に1つずつ、計3つ設けられている。
図2に示されるように、本実施形態では、3つの移行部63は、タイヤ周方向にずれながら、全体として略一直線状に配置されている。
なお、複数の移行部63は、タイヤ幅方向に並列配置されるなど、配置の態様は限定されない。
【0039】
このように、シーラント材61をタイヤ内面に貼り付けるにあたって、タイヤ周方向に平行な周回部62を、移行部63を経ながらタイヤ幅方向に順次貼り付けていく貼り付け方を、以下においてステップ貼りという場合がある。
【0040】
シーラント材61としては、例えば、未加硫または半加硫状態のブチルゴムに、ポリイソブチレン、ポリブテン等の可塑剤と、熱可塑性オレフィン/ジオレフィン共重合体等の粘着性付与剤と、カーボンブラックやシリカ等の充填材を配合した粘着性を有する密封材を使用することができる。なお、これに限定されることなく、シーラント材61は従来から使用されている他の公知の密封材であってもよい。
【0041】
シーラント材61をステップ貼りするには、
図3に示されるように、タイヤ1を軸周りに回転させるとともに、ノズル131をタイヤ幅方向に移動させながら、ノズル131からタイヤ1の内面であるインナーライナー50の内面501にシーラント材61を吐出して塗布することにより行うことができる。
図3においては、タイヤ1の幅方向断面が示され、タイヤ幅方向X、タイヤ径方向Y、タイヤ周方向Zがそれぞれ示されている。
図3において符号Gは、タイヤ1の回転軸線である。
【0042】
図3に示されるようにしてシーラント材61をタイヤ1の内面にステップ貼りするにあたっては、
図4に示されるシーラント材塗布装置100を用いることができる。
【0043】
図4はシーラント材塗布装置100の概略構成を示しており、当該シーラント材塗布装置100は、タイヤ回転機構110と、ノズルスライド機構120と、シーラント材吐出機構130と、制御部140と、を備えている。
【0044】
タイヤ回転機構110は、加硫成形後であってシーラント層60が形成されていない状態のタイヤ1を、
図3に示されるように軸周りに回転させる機構である。
ノズルスライド機構120は、タイヤ回転機構110にセットされたタイヤ1に対してノズル131をタイヤ幅方向に移動させる機構である。
【0045】
シーラント材吐出機構130は、上記ノズル131と、ノズル131が先端に取り付けられた押出機(不図示)と、を有する。ノズル131は、タイヤ回転機構110にセットされたタイヤ1の内側に挿入される。シーラント材吐出機構130は、上記押出機から押し出されたシーラント材61を、ノズル131の先端からタイヤ1の内面に吐出して塗布する。
【0046】
制御部140には、溝位置情報が入力される。制御部140は、入力された溝位置情報に基づいて、タイヤ回転機構110、ノズルスライド機構120およびシーラント材吐出機構130のそれぞれの動作を制御する。
【0047】
本実施形態において、上記溝位置情報は、タイヤ1のトレッド30に形成された複数の主溝341の、タイヤ幅方向の位置、幅、主溝341間の中央陸部342の幅、のそれぞれを示す座標と、シーラント材61が塗布されるインナーライナー50の内面501の周方向長さと、を含む。このような溝位置情報は、例えばタイヤ設計時のCADデータに基づいて得ることができる。
なお、主溝341のタイヤ幅方向に関する各座標は、加硫成形されたタイヤ1におけるトレッド30の接地面331をレーザ光でスキャンして読み込むといった方法でも得ることができる。
なお、溝位置情報の取得方法はこれらに限定されず、他の適宜な方法を採用してよい。
【0048】
溝位置情報が入力される制御部140は、その溝位置情報を把握して、タイヤ回転機構110、ノズルスライド機構120およびシーラント材吐出機構130の動作を制御する。
【0049】
シーラント材塗布装置100が以下のように動作して、タイヤ1の内面にシーラント材61がステップ貼りされる。この動作は、本実施形態に係るタイヤの製造方法の具体的動作の一例である。
【0050】
ノズル131から連続的にシーラント材61を吐出させながら、かつ、タイヤ1を軸周りに回転させながら、ノズル131のタイヤ幅方向への移動を停止した状態でタイヤ1を回転させることにより、タイヤ幅方向一端側の最初の周回部62を塗布する。次いで、ノズル131をタイヤ幅方向一方側に移動させて次の周回部62の形成位置にノズル131を配置する。その移動の間に、移行部63が塗布される。続いて、ノズル131のタイヤ幅方向への移動を停止して、周回部62を塗布する。以上の動作を繰り返すことにより、シーラント材61をステップ貼りする。所定数(本実施形態では4つ)の周回部62がシーラント材61により形成されると、ノズル131からのシーラント材61の吐出を停止する。
【0051】
制御部140は、複数の主溝341のタイヤ幅方向に関する座標に基づいて、複数の主溝341に対応してシーラント材61が塗布されるように、ノズルスライド機構120によるノズル131のタイヤ幅方向へのスライド動作を制御する。また、制御部140は、インナーライナー50の内面501の周方向長さに基づいて、タイヤ周方向に延びる周回部62が内面501の全周にわたって塗布されるように制御する。1つの周回部62は、シーラント材61が1周塗布されることにより形成される。あるいは、1つの周回部62は、タイヤ幅方向に複数回にわたってタイヤ1が僅かずつ移動してシーラント材61が複数周にわたって塗布されることにより形成される。
【0052】
上述した実施形態のタイヤ1によれば、釘や鋲等のパンク誘発物が主溝341間の中央陸部342や側方陸部343に刺さる場合よりも、主溝341を通過して刺さる場合の方が、タイヤ厚みが小さいために刺さる際の抵抗が小さいため、タイヤ内腔までパンク誘発物が到達してパンクしやすい。逆にいうと、中央陸部342や側方陸部343はタイヤ厚みが大きいため、パンク誘発物が刺さる際の抵抗が大きく、中央陸部342や側方陸部343にパンク誘発物が刺さってもパンクしにくい。
【0053】
本実施形態に係るタイヤ1は、上記のようにパンクしやすい部分である主溝341に対応して、主溝341のタイヤ内腔側のインナーライナー50の内面501に、シーラント層60の周回部62が帯状に形成されている。このため、主溝341を通過したパンク誘発物により周回部62に達する孔が生じた場合、その孔は周回部62により自動的に塞がれ、パンクが未然に防止される。したがって、シーラント層60により高い確率でパンクが防止され、パンク防止機能が維持される。パンクを防止する周回部62の厚みは、例えば1mm以上10mm以下程度であると好ましい。
【0054】
本実施形態では、シーラント層60は、複数の主溝341に対応して、各主溝341のタイヤ内腔側のインナーライナー50の内面501に帯状に設けられており、トレッド30に対応する領域のタイヤ内面の全面を覆ってはいない。すなわち本実施形態では、各主溝341に対応して配置した複数の周回部62により、パンク防止機能を持たせている。このようにシーラント層60がタイヤ幅方向に分散した複数の周回部62を有する構造のため、シーラント層60によってタイヤ1の蓄熱が抑えられ、結果としてその蓄熱に起因するタイヤ耐久性の低下が抑制される。
【0055】
また、上述したシーラント材塗布装置100を用いた本実施形態に係るタイヤの製造方法によれば、シーラント層60を有する本実施形態のタイヤ1を好適に形成することができる。
【0056】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0057】
(1)本実施形態に係るタイヤ1は、一対のビード10と、一対のビード10の各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20間に配置され、接地面331を有するトレッドと、一対のビード10間に架け渡されたカーカスプライ40と、カーカスプライ40のタイヤ内腔側に配置されたインナーライナー50と、インナーライナー50のタイヤ内腔側の内面に配置されたシーラント層60と、を備え、トレッド30の接地面331には、タイヤ周方向に延びる複数の主溝341が形成されており、シーラント層60は、インナーライナー50の内面501における複数の主溝341のそれぞれに対応する環状部分に帯状に設けられた複数の周回部62を有し、複数の周回部62のそれぞれは、タイヤ幅方向に互いに離間している。
【0058】
これにより、シーラント層60によるパンク防止機能が維持されつつ、シーラント層60による蓄熱に起因するタイヤ耐久性の低下を抑制することができる。
【0059】
(2)本実施形態に係るタイヤ1において、シーラント層60は、インナーライナー50の内面501に周回されながら貼り付けられた帯状のシーラント材61により形成され、複数の周回部62は、シーラント材61が複数の主溝341のそれぞれに対応する環状部分に貼り付けられて形成され、タイヤ幅方向に隣接する一対の周回部62の間には、当該一対の周回部62のうちの一方から他方にシーラント材61が移行する移行部63が形成されている。
【0060】
これにより、複数の主溝341のそれぞれに対応したタイヤ周方向に延びるシーラント層60が、インナーライナー50の内面501に的確に形成される。複数の主溝341のそれぞれに対応して形成される複数の周回部62は、複数の主溝341の間隔に対応して互いに離間している。そして、蓄熱しやすい中央陸部342および側方陸部343に対応する部分にはシーラント層60が配置されていない。その結果、タイヤ1の蓄熱が抑えられ、タイヤ耐久性の低下が抑制される。
【0061】
(3)本実施形態に係るタイヤ1においては、シーラント層60の周回部62の幅は、主溝341の幅以上の寸法を有し、周回部62は、主溝341をタイヤ幅方向において覆っている形態を含む。
【0062】
これにより、主溝341を通過する釘や鋲等のパンク誘発物はシーラント層60の周回部62を確実に貫通するため、主溝341を通過するパンク誘発物によるパンクを、シーラント層60によって防止することができる。
【0063】
(4)本実施形態に係るタイヤ1において、シーラント層60の周回部62は、シーラント材61がタイヤ周方向に複数回周回されて形成されている形態を含む。
【0064】
これにより、主溝341のタイヤ幅方向の寸法に応じて周回部62の幅を調整して形成することができる。
【0065】
(5)本実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法は、トレッド30の接地面331にタイヤ周方向に延びる少なくとも1つの主溝341が形成されたタイヤ1を軸周りに回転させながら、タイヤ内腔側に配置したノズル131からタイヤ内面にシーラント材61を吐出して塗布することにより、タイヤ内面にシーラント層60を形成するにあたり、主溝341の位置を示す溝位置情報を把握し、把握した溝位置情報に基づいて、ノズル131をタイヤ1に対してタイヤ幅方向に相対移動させることにより、タイヤ内面の主溝341に対応する環状部分にシーラント材61を塗布する。
【0066】
これにより、シーラント層60によるパンク防止機能が維持されつつ、シーラント層60による蓄熱に起因するタイヤ耐久性の低下を抑制することができるタイヤを好適に製造することができる。
【0067】
(6)本実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法において、溝位置情報は、主溝341のタイヤ幅方向の座標と、シーラント材61が塗布されるタイヤ内面の周方向長さと、を含むことが好ましい。
【0068】
これにより、主溝341のタイヤ幅方向およびタイヤ周方向長さに応じた寸法を有するシーラント層60を的確に形成することができる。
【0069】
(7)本実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法において、タイヤ1は、主溝341を複数有し、複数の主溝341に対応してシーラント材61をタイヤ内面に塗布する形態を含む。
【0070】
これにより、複数の主溝341に対応したタイヤ周方向に延びるシーラント層60を、インナーライナー50の内面501に的確に形成することができる。
【0071】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で変形、改良などを行っても、本発明の範囲に含まれる。
例えば、上記実施形態では、複数の主溝341は、接地面331のタイヤ幅方向中心を対称中心として左右対称に配置されているが、複数の主溝341は、タイヤ幅方向中心を対称中心とした対称位置ではなく、非対称に配置されてもよい。シーラント層60の周回部62は、それら非対称の主溝341に対応してインナーライナー50の内面501に配置される。
【0072】
上記実施形態のタイヤの製造方法では、1本のシーラント材61を貼り付け開始端部61Aから貼り付け終了端部61Bまで連続塗布して、複数の周回部62の間に移行部63を有するようにしているが、シーラント材61の塗布を間欠的に行って、複数の周回部62のみを塗布して形成し、移行部63は形成しないようにしてもよい。
また、複数の周回部62を塗布するにあたり、ノズル131をタイヤ幅方向に移動させる代わりに、タイヤ1をタイヤ幅方向に移動させてもよく、タイヤ1およびノズル131の双方をタイヤ幅方向に移動させてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 タイヤ(空気入りタイヤ)
10 ビード
20 サイドウォール
30 トレッド
40 カーカスプライ
50 インナーライナー
60 シーラント層
61 シーラント材
62 周回部
63 移行部
131 ノズル
331 接地面
341 主溝(溝)
501 インナーライナーの内面(タイヤ内面)