(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090823
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】生簀
(51)【国際特許分類】
A01K 61/60 20170101AFI20220613BHJP
A01M 29/32 20110101ALI20220613BHJP
【FI】
A01K61/60 321
A01M29/32
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203367
(22)【出願日】2020-12-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 孝司
(72)【発明者】
【氏名】畦地 紀行
(72)【発明者】
【氏名】室谷 翔健
(72)【発明者】
【氏名】西村 真司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】西川 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】倉地 和敬
【テーマコード(参考)】
2B104
2B121
【Fターム(参考)】
2B104CC02
2B104CC34
2B121AA07
2B121BB27
2B121BB32
2B121EA30
2B121FA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水面の上方に安定的な立体障害を有し、養殖水産物を鳥類から防護することが可能な生簀を提供する。
【解決手段】上面、側面部及び底面部を有し、上面は水面と略一致する開口面であり、側面部は水面側から水底側へ延在し、底面部は開口面と略平行に下方に配され、側面部と底面部とが一体的に水産物を収容する生簀本体30を形成し、上面の開口面の外縁を形成する側綱21と、側綱21に略一定間隔で取り付けられた複数の第1浮体22と、側綱21に略一定間隔で固定された上方に延在する第1支柱28と、開口面上の側綱21の内側に側綱21から離間して固定された第2浮体23と、第2浮体23に取り付けられた上方に延在する第2支柱29と、第1支柱28と第2支柱29とを連結する、一方端が第2支柱29の水面より上方の位置に、他方端が第1支柱28の水面より上方の位置に固定された少なくとも1本の第1綱体25と、を備える生簀。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で水産物を育成するために用いる、水中に敷設される養殖用の生簀であって、
上面、側面部及び底面部を有し、前記上面は水面と略一致する開口面であり、前記側面部は水面側から水底側へ延在し、底面部は開口面と略平行に下方に配され、前記側面部と底面部とが一体的に水産物を収容する生簀本体を形成し、
前記上面の開口面の外縁を形成する側綱と、
前記側綱に略一定間隔で取り付けられた複数の第1浮体と、
前記側綱に略一定間隔で固定された上方に延在する第1支柱と、
前記開口面上の前記側綱の内側に前記側綱から離間して固定された第2浮体と、
前記第2浮体に取り付けられた上方に延在する第2支柱と、
一方端が前記第2支柱の水面より上方に固定された少なくとも1本の第1綱体と、を備え、
前記第1綱体の他方端が、前記第1支柱、前記第1浮体、又は、前記側綱に固定された、生簀。
【請求項2】
前記第1綱体の他方端が、前記第1支柱の水面より上方に固定され、前記第1綱体が、前記第1支柱と前記第2支柱とを水面より上方で連結する、請求項1に記載の生簀。
【請求項3】
第1綱体を複数本備え、第2支柱と複数の第1支柱とが、前記第1綱体でそれぞれ連結される、請求項2に記載の生簀。
【請求項4】
前記第1支柱が、前記第1浮体の少なくとも一部に取り付けられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の生簀。
【請求項5】
前記側綱の位置から上方に、水面に略鉛直に一定の高さで延在する幕網をさらに備え、前記幕網が、前記生簀本体の上方の空間を囲繞するように前記第1支柱に固定される、請求項1~4のいずれか1項に記載の生簀。
【請求項6】
前記第2浮体に複数の第2綱体の一方端が固定され、前記第2綱体の他方端が、前記側綱上の複数の箇所にそれぞれ固定された、請求項1~5のいずれか1項に記載の生簀。
【請求項7】
内部で水産物を育成するために用いる、水中に敷設される養殖用の生簀であって、
上面、側面部及び底面部を有し、前記上面は水面と略一致する開口面であり、前記側面部は水面側から水底側へ延在し、底面部は開口面と略平行に下方に配され、前記側面部と底面部とが一体的に水産物を収容する生簀本体を形成し、
前記上面の開口面の外縁を形成する側綱と、
前記側綱に略一定間隔で取り付けられた複数の第1浮体と、
前記側綱に略一定間隔で固定された上方に延在する第1支柱と、
前記開口面上の前記側綱の内側に前記側綱から離間して固定された第2浮体と、
前記第2浮体に取り付けられた上方に延在する第2支柱と、
一方端が前記第2支柱に固定された少なくとも1本の第1綱体と、を備え、
前記第1綱体が前記水産物への餌の給餌位置又は方向に合わせて飛行する海鳥の飛行経路を妨げるように、前記第1綱体の他方端が前記生簀の前記第2支柱以外の所定位置に固定された、生簀。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖水産物を鳥類の捕食等から防護する機構を備えた生簀に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、マグロ等の大型の魚の養殖は、海上に設けられた大型の網生簀で行われる。海上での養殖では、特に秋季から春季にかけて、近隣の海鳥が餌を狙って生簀上に群がり、摂餌の妨害となることが問題となっている。海鳥の問題は、海鳥が餌を捕食することのみならず、養殖される魚そのもの捕食(特に稚魚)にも及ぶ。また、海鳥が生簀周辺に群がることで、魚の摂餌量が少なくなる、という問題も存在する。
【0003】
鳥類による養殖魚への被害を防止する方法として、例えば、非特許文献1には、稲田フナ養殖において、稲田の上方にテグスを張る対策が取られることが記載されている。これは、糸状の部材を、稲田周囲の地面に垂直に指した杭、樹木、建物の柱等に括り付けて、稲田の上方に弛みなく張る方法である。稲田の上方に糸状の立体障害が形成されることで、サギ等の魚食性鳥類が稲田の水面へ接近しにくくなる効果を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】水産技術、4(1)、1-6(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載の方法は、陸上に固定された杭等に糸状部材を固定することから、糸状の部材を水面の上方に弛みなく張ることは比較的容易に達成し得る。海上に設けられた大型の生簀、特に網生簀にテグスや綱を張る場合、綱等を張るための杭を生簀周縁に固定したとしても、陸上のように杭の動きを止めることはできないため、綱等の弛みのない状態を維持することは困難である。そのため、非特許文献1を参照しても、水面の上方に有効な立体障害を設けることはできない。
【0006】
本発明は、水上の生簀、特に海上の大型の網生簀において、水面の上方に安定的な立体障害を有し、養殖水産物又はその餌を鳥類から防護することが可能な生簀を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、以下を提供するものである。
(1)内部で水産物を育成するために用いる、水中に敷設される養殖用の生簀であって、上面、側面部及び底面部を有し、前記上面は水面と略一致する開口面であり、前記側面部は水面側から水底側へ延在し、底面部は開口面と略平行に下方に配され、前記側面部と底面部とが一体的に水産物を収容する生簀本体を形成し、前記上面の開口面の外縁を形成する側綱と、前記側綱に略一定間隔で取り付けられた複数の第1浮体と、前記側綱に略一定間隔で固定された上方に延在する第1支柱と、前記開口面上の前記側綱の内側に前記側綱から離間して固定された第2浮体と、前記第2浮体に取り付けられた上方に延在する第2支柱と、一方端が第2支柱の水面より上方に固定された少なくとも1本の第1綱体と、を備え、前記第1綱体の他方端が、前記第1支柱、前記第1浮体、又は、前記側綱に固定された、生簀。
(2)前記第1綱体の他方端が、前記第1支柱の水面より上方に固定され、前記第1綱体が、前記第1支柱と前記第2支柱とを水面より上方で連結する、(1)の生簀。
(3)第1綱体を複数本備え、第2支柱と複数の第1支柱とが、前記第1綱体でそれぞれ連結される、(2)の生簀。
(4)前記第1支柱が、前記第1浮体の少なくとも一部に取り付けられる、(1)~(3)のいずれかの生簀。
(5)前記側綱の位置から上方に、水面に略鉛直に一定の高さで延在する幕網をさらに備え、前記幕網が、前記生簀本体の上方の空間を囲繞するように前記第1支柱に固定される、(1)~(4)のいずれかの生簀。
(6)前記第2浮体に複数の第2綱体の一方端が固定され、前記第2綱体の他方端が、前記側綱上の複数の箇所にそれぞれ固定された、(1)~(5)のいずれかの生簀。
(7)内部で水産物を育成するために用いる、水中に敷設される養殖用の生簀であって、上面、側面部及び底面部を有し、前記上面は水面と略一致する開口面であり、前記側面部は水面側から水底側へ延在し、底面部は開口面と略平行に下方に配され、前記側面部と底面部とが一体的に水産物を収容する生簀本体を形成し、前記上面の開口面の外縁を形成する側綱と、前記側綱に略一定間隔で取り付けられた複数の第1浮体と、前記側綱に略一定間隔で固定された上方に延在する第1支柱と、前記開口面上の前記側綱の内側に前記側綱から離間して固定された第2浮体と、前記第2浮体に取り付けられた上方に延在する第2支柱と、一方端が第2支柱に固定された少なくとも1本の第1綱体と、を備え、前記第1綱体が前記水産物への餌の給餌位置又は方向に合わせて飛行する海鳥の飛行経路を妨げるように、前記第1綱体の他方端が前記生簀の前記第2支柱以外の所定位置に固定された、生簀。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水上の生簀、特に海上の大型の網生簀において、水面の上方に安定的な立体障害を有し、養殖水産物又はその餌を鳥類から防護することが可能な生簀を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の生簀の一実施形態である浮子式大割網生簀における、複数の生簀本体を設置するための側張りの例を示す上面概略図である。
【
図2】
図1の浮子式大割網生簀の領域A内部に形成される、生簀網の一実施形態の構造を示す上面図である。
【
図5】第2浮体及び第2支柱の形状の例を示す斜視図である。
【
図6】第2浮体及び第2支柱の役割を示す、水面上の各支柱及び綱の位置関係を示す概略図である。(A)は、第2浮体及び第2支柱を設けず、第1支柱のみを用いて防鳥綱を張った場合を示す。(B)は、第2浮体及び第2支柱を設けず、第1支柱のみを用いて防鳥綱を張った場合に、綱の弛みが生じた状態を示す。(C)は、2本の第1支柱と、第2浮体に固定された第2支柱との間に防鳥綱を張った場合を示す。
【
図7】本発明の生簀と給餌船との関係を示す上面概略図である。
【
図8】防鳥綱の他の実施形態を示す上面概略図である。側綱、第2浮体、第1支柱の一部、第2支柱、防鳥綱及び追加の防鳥綱のみを概略的に示す。
【
図9】第1支柱の生簀網への固定方法の第1の態様を示す一部側面図である。
【
図10】第1支柱の生簀網への固定方法の第2の態様を示す一部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「下方」とは、水面に対して鉛直に水面から水底に向かう方向を指し、「上方」とは、水面に対して鉛直な下方と反対の方向を指す。一方、「左右方向」とは、上下方向と垂直な方向を指す。本明細書において「上面」及び「底面」とは、1つの物体において最も上方に位置する面及び最も下方に位置する面を指し、「側面」とは、上面及び底面に挟まれる、上面及び底面に垂直な面を指す。本明細書において使用される「長方形」の用語は、完全に長方形であることを示すものではなく、略長方形を包含する。「直方体」、「角柱」「円柱」、「半球」、「一定」、「鉛直」、「一致」、「中心」、「平行」等の用語についても同様に、必ずしも完全であることを示すものではない。
【0011】
<生簀>
以下、本発明の生簀の実施形態を例示的に示すが、本発明の範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。
本発明の生簀の一実施形態は、内部で水産物を育成するために用いる、水上に敷設される養殖用の生簀であって、上面、側面部及び底面部を有し、前記上面は水面と略一致する開口面であり、前記側面部は水面側から水底側へ延在し、底面部は開口面と略平行に下方に配され、前記側面部と底面部とが一体的に水産物を収容する生簀本体を形成し、前記上面の開口面の外縁を形成する側綱と、前記側綱に略一定間隔で取り付けられた複数の第1浮体と、前記側綱に略一定間隔で固定された上方に延在する第1支柱と、前記開口面上の前記側綱の内側に前記側綱から離間して固定された第2浮体と、前記第2浮体に取り付けられた上方に延在する第2支柱と、一方端が前記第2支柱の水面より上方に固定された、少なくとも1本の第1綱体と、を備え、前記第1綱体の他方端が、前記第1支柱、前記第1浮体、又は、前記側綱に固定された、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の生簀の他の実施形態は、内部で水産物を育成するために用いる、水中に敷設される養殖用の生簀であって、上面、側面部及び底面部を有し、前記上面は水面と略一致する開口面であり、前記側面部は水面側から水底側へ延在し、底面部は開口面と略平行に下方に配され、前記側面部と底面部とが一体的に水産物を収容する生簀本体を形成し、前記上面の開口面の外縁を形成する側綱と、前記側綱に略一定間隔で取り付けられた複数の第1浮体と、前記側綱に略一定間隔で固定された上方に延在する第1支柱と、前記開口面上の前記側綱の内側に前記側綱から離間して固定された第2浮体と、前記第2浮体に取り付けられた上方に延在する第2支柱と、一方端が前記第2支柱に固定された少なくとも1本の第1綱体と、を備え、前記第1綱体が前記水産物への餌の給餌位置又は方向に合わせて飛行する海鳥の飛行経路を妨げるように、前記第1綱体の他方端が前記生簀の前記第2支柱以外の所定位置に固定された、ことを特徴とする。
【0013】
本発明の生簀は、海等の水上に敷設される養殖用の生簀であれば、その種類、形状及び材質等は特に限定されないが、特に一辺が20~80m程度の中型及び大型の網生簀(以下、「中割網生簀」及び「大割網生簀」とも称する)、さらには浮子(あば)式の生簀が好ましい。浮子式の生簀は、ロープのみで構成された生簀であり、鋼管(鉄パイプ)やポリエチレン製のフレームを使用する筏式と異なり、硬いフレームを使用しないため、フレームの曲がれや折れのおそれがなく、波や風の影響を受けにくい。そのため、一辺が20~80mと非常に大型の生簀を作成、設置する事が可能である。
図1に本発明の生簀の一実施形態である浮子式大割網生簀について、複数の生簀本体を設置するための側張り構造の一例を概略的に示す。浮子式大割網生簀10は、多数の浮子(図示せず)が一定間隔で固定された側張り13と呼ばれる綱を、海中に碁盤の目状に設置し、各辺の先端と側部に張られたアンカーロープ12を介して海底に設置した方塊11でテンションを掛けることで形成される。方塊11は、20~100トンのコンクリートの塊であり、重石の役割を果たす。方塊11の重量で側張り13にテンションがかかることで、側張り13が形成する碁盤の目状の構造が維持される。
【0014】
図1の側張り13が形成する碁盤の目状の各長方形の内側に、生簀網が設置される。
図2は、
図1の浮子式大割網生簀の領域A内部に形成される、生簀本体の一実施形態の構造を示す上面図である。また、
図3は
図2のB-B’断面図、
図4は
図2のC-C’断面図である。生簀網20は上面、側面部及び底面部を有し、上面は水面Wと一致するように配置された開口面である。前記開口面を囲繞するように側綱21が存在する。側張り13と生簀網20の側綱は、一辺あたり数十本の固定綱27で引っ張る様に固定される。生簀網20は、側綱21と、側綱21から下方に延在する側面部と、開口面と平行に下方に配された底面部とを有し、側面部と底面部とが一体的に水産物を収容する生簀網本体30を形成する。なお、本発明の生簀において、側面部及び底面部は、必ずしも網体である必要はなく、水中で安定して水産物を収容できれば、例えば、片方が隙間のない平板状であったり、片方又は両方が柵状であったりしてもよいが、両方が網体で構成されることが好ましい。図示例では、生簀網本体30は直方体に形成され、底面部の辺に沿って一定間隔に土嚢等の沈子(おもり)34が取り付けられることで形状が水中で一定に維持される。側面部及び底面部は、必ずしも角柱、円柱のように明確に分かれている必要はなく、例えば、一体的に下方に頂を有する半球状や錘状に形成されてもよい。生簀網20は、側綱21を側張り13と一辺あたり数十本の固定綱27で引っ張る様に固定する。
【0015】
側綱21の外周には、第1浮体22が一定間隔に取り付けられる。側綱21には、さらに上方に延在する第1支柱28が複数本取り付けられる。本発明において、第1支柱28は、少なくとも側綱21で囲繞された水面Wを挟んで対向する2本が存在すればよいが、好ましくは、図示例のように側綱21に一定間隔で多数本取り付けられる。さらに好ましくは、多数本取り付けられた第1支柱28には、側綱21の位置から上方に、水面Wに鉛直に一定の高さで延在する幕網32が、生簀網20の上方の空間を囲繞するように固定される。幕網32は、内部の水産物が魚である場合、魚が飛び跳ねて生簀外に出ることを防止するために有用であり、高さは、特に限定されないが、通常、0.5~2.0m程度である。生簀網20開口部の形状を安定化させるため、側綱21の任意の一点と、当該箇所と側綱21で囲繞された水面Wを挟んで対向する点の間に綱をはり、内張り24を形成してもよい。内張り24は、
図4に示すように、2本の第1支柱28の根元の間に張られてもよく、複数本が互いに平行に張られてもよい。
【0016】
生簀網本体30の側面部には、上下方向に生簀網本体30の上端から下端にかけて延在するように筋縄31が固定されることが好ましい。筋縄31は、生簀網本体30の側面に沿って左右方向に一定間隔で複数本固定されることがより好ましい。筋縄31により、生簀網本体30の補強と形状の安定化が可能となる。
【0017】
本発明の生簀には、側綱21に囲繞される水面Wに少なくとも1つの浮子が配置される。
図2~4の例においては、第2浮体23がこれに相当する。第2浮体23は、好ましくは、水面W付近で前記内張り24に固定される(この場合の内張り24は、本発明の「第2綱体」に相当する)。第2浮体23が内張り24に固定されることで、第2浮体23が、側綱21に囲繞される水面W上の所定位置に確実に固定される。より好ましくは、第2浮体23と近傍の他の内張り24との間に、さらに固定綱26が張られる。第2浮体23には、水上で安定させるための沈子33が下方に取り付けられてもよい。第2浮体23には、第2浮体から上方に延在する第2支柱29が固定される。第2支柱29と、少なくとも1本(図示例では2本)の第1支柱28とを連結するように、防鳥綱25(本発明の「第1綱体」に相当)が張られる。防鳥綱25は、安定して水面Wよりも上方に張られることを要する。好ましくは、給餌船から吐出された餌を飛行しながら捕食する際の鳥の飛行経路を妨害し得る、すなわち、防鳥効果を奏する高さに、具体的には水面Wより0.5~2.5m、特に1.5~2.0m上方に維持されるように張られる。
【0018】
図2~4の例において、防鳥綱25は、第1支柱28と第2支柱29とを連結するように張られているが、防鳥綱25は、上記の通り、防鳥効果を奏する高さに張られていればよく、必ずしも第1支柱28と第2支柱29とを連結するように固定される必要はない。防鳥綱25は、少なくとも、その一方端が第2支柱29に固定され、かつ給餌位置において水面Wより上方、好ましくは水面Wより0.5~2.5m、より好ましくは1.5~2.0m上方に維持されていれば、その他方端は、生簀のどの部分に固定されてもよい。例えば、防鳥綱25が第2支柱29と第1浮体22とを連結する態様としてもよく、また、防鳥綱25が第2支柱29と側綱21とを連結する態様としてもよい(図示せず)。これらの態様において、防鳥綱25は水面に対して斜めに張られることとなるが、少なくとも一部は防鳥効果を奏する高さに維持される。
【0019】
図5に第2浮体23及び第2支柱29の形状を例示する。
図5Aの例は、市販の漁業用フロートを第2浮体23として、第2支柱29をこれに突き刺す形状である。
図5Bは、3つのフロートをロープ51で1つにまとめて第2浮体23を形成し、これに第2支柱29を突き刺す形状である。第2浮体23及び第2支柱29の形状は、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の生簀において、防鳥綱25を安定して水面Wより上方に張るために、第2浮体23及び第2支柱29が重要な役割を果たす。
図6は、第2浮体23及び第2支柱29の役割を示すための、水面W上の各支柱及び綱の関係を示す概略図である。第2浮体23及び第2支柱29を設けない場合、側綱21の位置に固定された2本の第1支柱28の間に防鳥綱25を張ることが想定される(
図6A)。しかし、特に大型の生簀では、高さを維持しながら防鳥綱25を張るためには、相当強い張力をかける必要があり、支柱の折れ、曲がり等が生じるリスクが小型の生簀よりも高い。また、風や波の影響を受けやすく、支柱に傾きが生じやすいという問題もある。支柱の傾き、折れ、曲がり等が生じると、防鳥綱25が弛み、防鳥綱25を防鳥に効果的な高さに維持することは困難となる(
図6B)。本発明の生簀においては、少なくとも2本の第1支柱28と、第2浮体23に固定された第2支柱29との間に防鳥綱25を張ることで、張られる綱の長さを短くすることが出来る(
図6C)。これにより、支柱の傾き、折れ等を生じない程度の低い張力で安定的に防鳥綱25の高さを維持することが可能であり、また、波や風の影響を受けにくくすることが可能である。
【0021】
図7に、本発明の生簀と給餌船との関係を示す上面概略図を示す。生簀内の養殖水産物(養殖魚等)への給餌方法は、特に限定されないが、大型生簀の場合は、通常、給餌船から生簀内に向かって餌を投入する方法がとられる。給餌船71は、生簀近傍で停船し、必要に応じて、風、波、潮流等で動かないようにロープ等で生簀に係留される。給餌船71は、停船位置から生簀内の水面、図中においては側綱21に囲繞される水面に向かって餌を噴射する。カモメ等の海鳥の被害の多くは、餌の着水領域72近傍またはその上方で海鳥が餌を捕食することにより生じる。しかし、餌の着水領域72上方に防鳥綱25が張られることで、海鳥の飛行経路を妨害し、これにより海鳥による餌の捕食を低減することが可能となる。給餌船71の停船位置が所定位置に定められている場合、すなわち、餌の着水領域72がほぼ所定の範囲内にある場合は、図示例のように、前記所定の範囲の上方に少なくとも1本の防鳥綱25を配置すれば、防鳥効果を備えることが可能である。なお、図示例では餌の着水領域72は1つであり、防鳥綱25も1本のみが配置されているが、餌の着水領域72を複数としてもよく、その場合、各着水領域72に対応するように防鳥綱25を複数配置することが望ましい。
【0022】
図2~4に示す例においては、1本の第2支柱29と2本の第1支柱28との間に防鳥綱25が張られているが、1本の第2支柱29と3本以上の第1支柱28との間に防鳥綱25が張られていてもよい。また、第2支柱29は、2本以上配置され、それぞれに防鳥綱25が張られていてもよい。さらに、生簀網20の上方には、第2支柱に固定された防鳥綱25のみでなく、追加の防鳥綱が張られていてもよい。
【0023】
図8に、防鳥綱の他の実施形態の上面概略図を示す。
図8には、生簀の側綱21、第2浮体23、第1支柱28の一部、第2支柱29、防鳥綱25及び追加の防鳥綱81のみを概略的に示す。
図8(A)は、4本の防鳥綱25が、第2支柱29と4本の第1支柱28とをそれぞれ連結するように固定される実施形態を示す。
図8(B)は、2本の防鳥綱25が第2支柱29と2本の第1支柱28をそれぞれ連結するように固定され、各防鳥綱25の中間と各2本の第1支柱28とをそれぞれ連結するように、追加の防鳥綱81が固定される実施形態を示す。
図8(C)は、2本の防鳥綱25が第2支柱29と2本の第1支柱28とをそれぞれ連結するように固定され、かつ、2本の防鳥綱25の上を交差して渡るように3本の追加の防鳥綱81が、それぞれ2つの第1支柱28を連結するように固定される実施形態を示す。このように、少なくとも1本の防鳥綱25が、第2支柱29と第1支柱28とを連結できていれば、必ずしもすべての防鳥綱25を第2支柱29に固定する必要はない。防鳥綱25及び追加の防鳥綱81の本数及び配置は、設置される生簀の大きさや飛来する鳥の数等により適宜調整可能である。
【0024】
本発明の生簀においては、第1支柱28は安定して水面Wに対して鉛直に維持されることが求められる。第1支柱28が鉛直に維持されることで、本発明の生簀において、防鳥綱25の位置を防鳥に効果的な高さに維持することが容易となる。
図9に第1支柱28の生簀網本体30への固定方法の第1の態様を示す。
図9は、生簀の外側から見た一部側面図である。側綱21の第1浮体22の取り付け位置に、金属性の輪で形成されたタマコ91が、側綱21に沿って左右方向に離間するように、少なくとも2個取り付けられる。各タマコ91の輪にロープ92を通し、当該ロープ92を用いて第1浮体22を側綱21に生簀外側から固定する。タマコ91と第1浮体22との擦れを防止するため、ロープ92のタマコ91との接触部分を、タマコ91の外側からゴムホース(図示せず)等で覆ってもよい。図示例において、第1浮体22は、第1浮体22の長軸方向が側綱21に沿うように固定される。第1浮体22には、少なくとも1本の第1支柱28が固定される。好適には、第1支柱28は、水面Wに対して鉛直に第1浮体22に差し込まれる。第1浮体22は、タマコ91を介して少なくとも2箇所で側綱21に強く固定されるため、長軸を中心とした回転が生じにくい。そのため、第1浮体22に固定された第1支柱28にも倒れが生じにくく、水面Wに対して鉛直に維持される。幕網32を使用する場合、幕網32上端が第1支柱28に固定されることで、幕網32を安定的に高く張ることができる。
【0025】
図10に、第1支柱28の生簀網本体30への固定方法の第2の態様を示す。
図10は、生簀の外側から見た一部側面図である。第2の態様においては、生簀網本体30の側面部に設置された筋縄31に沿って第1支柱28が下方にも延在する。第1支柱28は筋縄31に直接固定されてもよいが、図示例のように、筋縄31に取り付けられた管状の固定部材101に差し込まれてもよい。固定部材101は、例えば消防ホースのように、可撓性を有し、かつ強度の高い素材で形成された部材であることが好ましい。固定部材101の再下端は、第1支柱28がさらに下方に移動しないよう閉止される。第1支柱28が、水面W近傍のみでなく、生簀網本体30の側面部にも固定されることで、より安定して水面Wに対して鉛直に維持される。幕網32を使用する場合、幕網32上端が第1支柱28に固定されることで、幕網32を安定的に高く張ることができる。
【0026】
上記の説明では、浮子式大割網生簀について例示的に示したが、本発明の生簀は、浮子式大割網生簀に限定されるものではない。例えば、フレームを使用する筏式生簀では、水面Wの開口周縁の形状が固定されており、そこに水面Wに対して鉛直な支柱(第1支柱)を取り付けることは浮子式よりも容易である。支柱の倒れ等も生じにくく、複数の支柱間に防鳥綱を張ることも可能である。しかし、防鳥綱が高く張られた状態で維持するためには一定以上の張力をかける必要があり、強い張力をかけることによる支柱の折れ、曲がり等は、筏式の生簀であっても生じ得る。したがって、本発明は、浮子式大割網生簀に限らず、筏式等の他の種類の生簀であっても有用である。
【0027】
<養殖水産物を鳥類から防護する方法>
本発明の方法は、上記の本発明の生簀を用いる、養殖対象の水産物を鳥類から防護する方法である。具体的には、水中に敷設される養殖用の生簀であって、上面、側面部及び底面部を有し、前記上面は水面と略一致する開口面であり、前記側面部は水面側から水底側へ延在し、底面部は開口面と略平行に下方に配され、前記側面部と底面部とが一体的に水産物を収容する生簀本体を形成し、前記上面の開口面の外縁を形成する側綱と、前記側綱に略一定間隔で取り付けられた複数の第1浮体と、前記側綱に略一定間隔で固定された上方に延在する第1支柱と、前記開口面上の前記側綱の内側に前記側綱から離間して固定された第2浮体と、前記第2浮体に取り付けられた上方に延在する第2支柱と、一方端が第2支柱の水面より上方に固定された少なくとも1本の第1綱体と、を備え、前記第1綱体の他方端が、前記第1支柱、前記第1浮体、又は、前記側綱に固定された、生簀を用いて、水産物を養殖する方法である。
【0028】
本発明の方法においては、前記の綱体、すなわち生簀開口面の上方に張られた防鳥綱を有する生簀を用いることで、海鳥等の鳥類からの捕食等から養殖水産物を防護することが可能である。ここでいう「捕食等」には、養殖水産物の直接の捕食のみでなく、養殖水産物に給餌された餌の捕食も含まれる。
【0029】
養殖水産物は、通常、海等の水上で養殖される水産物であれば、特に限定されず、魚類、甲殻類、軟体動物、棘皮動物、貝類、海藻類、のいずれであってもよい。特に、魚類、さらには、マグロ、ブリ類、サケ類等の、通常大型の生簀で育成される魚類が好ましい。
【符号の説明】
【0030】
10…大割網生簀
11…方塊
12…アンカーロープ
13…側張り
20…生簀網
21…側綱
22…第1浮体
23…第2浮体
24…内張り(第2綱体)
25…防鳥綱(第1綱体)
26、27…固定綱
28…第1支柱
29…第2支柱
30…生簀網本体
31…筋縄
32…幕網
33、34…沈子
51…ロープ
71…給餌船
72…餌の着水領域
81…追加の防鳥綱
91…タマコ
92…ロープ
101…固定部材
【手続補正書】
【提出日】2021-03-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で水産物を育成するために用いる、水中に敷設される養殖用の生簀であって、
上面、側面部及び底面部を有し、前記上面は水面と略一致する開口面であり、前記側面部は水面側から水底側へ延在し、底面部は開口面と略平行に下方に配され、前記側面部と底面部とが一体的に水産物を収容する生簀本体を形成し、
前記上面の開口面の外縁を形成する側綱と、
前記側綱に略一定間隔で取り付けられた複数の第1浮体と、
前記側綱に略一定間隔で固定された上方に延在する第1支柱と、
前記開口面上の前記側綱の内側に前記側綱から離間して固定された第2浮体と、
前記第2浮体に取り付けられた上方に延在する第2支柱と、
一方端が前記第2支柱の水面より上方に固定された少なくとも1本の第1綱体と、を備え、
前記第1綱体の他方端が、前記第1支柱、前記第1浮体又は前記側綱に固定されており、
前記第2浮体の下方水中に上下方向に延在する生簀網を有しない、生簀。
【請求項2】
前記第1綱体の他方端が、前記第1支柱の水面より上方に固定され、前記第1綱体が、前記第1支柱と前記第2支柱とを水面より上方で連結する、請求項1に記載の生簀。
【請求項3】
第1綱体を複数本備え、第2支柱と複数の第1支柱とが、前記第1綱体でそれぞれ連結される、請求項2に記載の生簀。
【請求項4】
前記第1支柱が、前記第1浮体の少なくとも一部に取り付けられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の生簀。
【請求項5】
前記側綱の位置から上方に、水面に略鉛直に一定の高さで延在する幕網をさらに備え、前記幕網が、前記生簀本体の上方の空間を囲繞するように前記第1支柱に固定される、請求項1~4のいずれか1項に記載の生簀。
【請求項6】
前記第2浮体に複数の第2綱体の一方端が固定され、前記第2綱体の他方端が、前記側綱上の複数の箇所にそれぞれ固定された、請求項1~5のいずれか1項に記載の生簀。
【請求項7】
内部で水産物を育成するために用いる、水中に敷設される養殖用の生簀であって、
上面、側面部及び底面部を有し、前記上面は水面と略一致する開口面であり、前記側面部は水面側から水底側へ延在し、底面部は開口面と略平行に下方に配され、前記側面部と底面部とが一体的に水産物を収容する生簀本体を形成し、
前記上面の開口面の外縁を形成する側綱と、
前記側綱に略一定間隔で取り付けられた複数の第1浮体と、
前記側綱に略一定間隔で固定された上方に延在する第1支柱と、
前記開口面上の前記側綱の内側に前記側綱から離間して固定された第2浮体と、
前記第2浮体に取り付けられた上方に延在する第2支柱と、
一方端が前記第2支柱に固定された少なくとも1本の第1綱体と、を備え、
前記第1綱体が前記水産物への餌の給餌位置又は方向に合わせて飛行する海鳥の飛行経路を妨げるように、前記第1綱体の他方端が前記生簀の前記第2支柱以外の所定位置に固定され、
前記第2浮体の下方水中に上下方向に延在する生簀網を有しない、生簀。