(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090828
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】細胞培養最適化条件取得システム、細胞培養最適化条件取得方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20220613BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203375
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】阿部 公揮
(72)【発明者】
【氏名】坂本 禎志
(72)【発明者】
【氏名】栗原 隆
(72)【発明者】
【氏名】宮田 昌悟
(72)【発明者】
【氏名】石井 皓士
(72)【発明者】
【氏名】森倉 峻
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC02
4B029FA02
4B029GA01
4B065AA90X
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】作業者と機械との協業によりコンタミネーションのリスクを低減するとともに、繰り返し実施される細胞培養における物理刺激及び環境刺激に対応させ、細胞培養を行なう最適化条件を取得する細胞培養最適化条件取得システムを提供する。
【解決手段】本発明は、細胞培養における所定の観察周期の各々において、当該細胞培養を行なっている環境を示す培養関連データから、細胞培養における環境の最適化の条件を取得するシステムであり、培養関連データを取得する関連データ取得部と、所定の周期毎に、培養された細胞の活性度の判定を行なう細胞活性度を検出する活性データ取得部と、細胞活性度の変化の要因となる影響度が他の培養関連データに比較して高い培養関連データを要因パラメータとして抽出する要因パラメータ抽出部と、細胞活性度が所定値以上の要因パラメータのデータを最適データとして抽出する最適データ抽出部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養における所定の観察周期の各々において、当該細胞培養を行なっている環境の環境データである培養関連データから、前記細胞培養における環境の最適化の条件を取得する細胞培養最適化条件取得システムであり、
前記培養関連データを取得する関連データ取得部と、
所定の周期毎に、培養された細胞の活性度の判定を行なう細胞活性度を検出する活性データ取得部と、
前記細胞活性度の変化の要因となる影響度が他の培養関連データに比較して高い培養関連データを要因パラメータとして抽出する要因パラメータ抽出部と、
前記細胞活性度が所定の閾値以上における要因パラメータのデータを最適データとして抽出する最適データ抽出部と
を備えることを特徴とする細胞培養最適化条件取得システム。
【請求項2】
前記観察周期の各々において、前記細胞培養の細胞を撮像した観察撮像画像を取得する撮像画像取得部と、
前記観察撮像画像を用いて、当該観察撮像画像から前記細胞活性度を推定する機械学習モデルを生成する撮像画像学習部と
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養最適化条件取得システム。
【請求項3】
前記撮像画像学習部が、前記細胞活性度の全てが所定の閾値以上か否かを推定する機械学習モデルMAと、前記細胞活性度のいずれかが所定の閾値以上か否かを推定する機械学習モデルMBとを生成する
ことを特徴とする請求項2に記載の細胞培養最適化条件取得システム。
【請求項4】
前記要因パラメータ抽出部が、前記細胞活性度の異なるグループの各々における、数値の座標群の重心の距離が最大となる前記培養関連データの組合せを前記要因パラメータの組合せとして抽出する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の細胞培養最適化条件取得システム。
【請求項5】
前記要因パラメータ抽出部が、前記細胞活性度の異なるグループの各々の前記細胞活性度の差分である活性度差分に対する、前記グループにおける培養関連データの差分の度合を寄与度として求め、他の培養関連データの寄与度より大きな寄与度を有する培養関連データを前記要因パラメータとして抽出する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の細胞培養最適化条件取得システム。
【請求項6】
細胞培養における所定の観察周期の各々において、当該細胞培養を行なっている環境の環境データである培養関連データから、前記細胞培養における環境の最適化の条件を取得する細胞培養最適化条件取得方法であり、
関連データ取得部が、前記培養関連データを取得する関連データ取得過程と、
活性データ取得部が、所定の周期毎に、培養された細胞の活性度の判定を行なう細胞活性度を検出する活性データ取得過程と、
要因パラメータ抽出部が、前記細胞活性度の変化の要因となる影響度が他の培養関連データに比較して高い培養関連データを要因パラメータとして抽出する要因パラメータ抽出過程と、
最適データ抽出部が、前記細胞活性度が所定の閾値以上における要因パラメータのデータを最適データとして抽出する最適データ抽出過程と
を含むことを特徴とする細胞培養最適化条件取得方法。
【請求項7】
細胞培養における所定の観察周期の各々において、当該細胞培養を行なっている環境の環境データである培養関連データから、前記細胞培養における環境の最適化の条件を取得する細胞培養最適化条件取得システムとしてコンピュータを動作させるプログラムであり、
前記コンピュータを、
前記培養関連データを取得する関連データ取得手段、
所定の周期毎に、培養された細胞の活性度の判定を行なう細胞活性度を検出する活性データ取得手段、
前記細胞活性度の変化の要因となる影響度が他の培養関連データに比較して高い培養関連データを要因パラメータとして抽出する要因パラメータ抽出手段、
前記細胞活性度が所定の閾値以上における要因パラメータのデータを最適データとして抽出する最適データ抽出部手段
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養最適化条件取得システム、細胞培養最適化条件取得方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、研究開発時の細胞培養においては、細胞の培養を行なう培養プロセスが、培養した細胞の生存率、増殖効率などの評価指標から評価される。
そのため、培養プロセスにおける作業の各々の最適性については、作業者が行なう作業において最適な上記評価指標が得られたと処理条件として判定される。
そして、判定された処理条件により細胞プロセスの各々の処理が実施され、所定の細胞の細胞培養が行なわれる。
【0003】
しかし、作業者の各々が最適とされた培養プロセスに従った細胞培養を行う場合、個々の作業者の資質等により、評価指標の結果がばらつくことが知られている。
このため、近年では作業者の培養プロセスにおける処理を模倣した作業ロボットを用い、安定した処理を行なう自動培養装置が開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3を参照)。
【0004】
特許文献1に記載の装置は、インキュベータ内に設置して、閉鎖系容器における播種、剥離及び回収などの細胞培養の処理を、所定の作業プロトコルに従って装置が順次行なう。
特許文献2に記載の装置は、コンタミネーションのリスクを低減するため、作業者が細胞培養の培養皿に直接手を触れることなく、剥離及び回収などの細胞培養の処理を、所定の作業プロトコルに従って装置が順次行なう。
特許文献3に記載の装置は、培養皿における細胞培養中の細胞の画像を撮像して、撮像画像の画像処理により、細胞の形状から培養の状態を判定し、培養を継続するか否かの評価を行なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-079544号公報
【特許文献2】特開2007-185165号公報
【特許文献3】特開2018-198605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び特許文献2の各々の装置は、作業ロボットを製作する際、熟練者の作業を模擬して細胞培養の機械化を行なう。
しかしながら、作業ロボットに行なわせる細胞培養の処理を熟練者の処理の模擬として実現する場合、模擬させる熟練者の練度のバラツキが大きいことが問題となる。
【0007】
すなわち、作業ロボットの細胞培養の結果は模擬した熟練者の最適化条件を満足するが、この熟練者の最適化条件が細胞培養に対する最適化と一致している訳ではない。
特許文献1及び特許文献2の各々は、作業ロボットの機械を用いて予め設定された作業プロトコルに従って同一の作業を行ない、細胞培養自体の制御を行なうものではない。
【0008】
また、特許文献3は、培養中の細胞の撮像画像の画像解析を行ない、細胞の形状による培養状況の判定を行なっている。
しかし、細胞の形状となる培養条件、例えば培養過程で印加される物理的な刺激(加速度や振動など)、培養環境における環境刺激(温度、湿度及び光量など)の条件の情報がなく、培養する細胞の良否判定は行えるが、細胞培養の処理の最適化条件を求めることはできない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、作業者と機械との協業によりコンタミネーションのリスクを低減するとともに、繰り返し実施される細胞培養における上記物理刺激及び環境刺激に対応させ、細胞培養を行なう最適化条件を取得する細胞培養最適化条件取得システム、細胞培養最適化条件取得方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は上述した課題を解決するためになされたもので、本発明の細胞培養最適化条件取得システムは、細胞培養における所定の観察周期の各々において、当該細胞培養を行なっている環境の環境データである培養関連データから、前記細胞培養における環境の最適化の条件を取得する細胞培養最適化条件取得システムであり、前記培養関連データを取得する関連データ取得部と、所定の周期毎に、培養された細胞の活性度の判定を行なう細胞活性度を検出する活性データ取得部と、前記細胞活性度の変化の要因となる影響度が他の培養関連データに比較して高い培養関連データを要因パラメータとして抽出する要因パラメータ抽出部と、前記細胞活性度が所定の閾値以上における要因パラメータのデータを最適データとして抽出する最適データ抽出部とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の細胞培養最適化条件取得システムは、前記観察周期の各々において、前記細胞培養の細胞を撮像した観察撮像画像を取得する撮像画像取得部と、前記観察撮像画像を用いて、当該観察撮像画像から前記細胞活性度を推定する機械学習モデルを生成する撮像画像学習部とをさらに備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の細胞培養最適化条件取得システムは、前記撮像画像学習部が、前記細胞活性度の全てが所定の閾値以上か否かを推定する機械学習モデルMAと、前記細胞活性度のいずれかが所定の閾値以上か否かを推定する機械学習モデルMBとを生成することを特徴とする。
【0013】
本発明の細胞培養最適化条件取得システムは、前記要因パラメータ抽出部が、前記細胞活性度の異なるグループの各々における、数値の座標群の重心の距離が最大となる前記培養関連データの組合せを前記要因パラメータの組合せとして抽出することを特徴とする。
【0014】
本発明の細胞培養最適化条件取得システムは、前記要因パラメータ抽出部が、前記細胞活性度の異なるグループの各々の前記細胞活性度の差分である活性度差分に対する、前記グループにおける培養関連データの差分の度合を寄与度として求め、他の培養関連データの寄与度より大きな寄与度を有する培養関連データを前記要因パラメータとして抽出することを特徴とする。
【0015】
本発明の細胞培養最適化条件取得方法は、細胞培養における所定の観察周期の各々において、当該細胞培養を行なっている環境の環境データである培養関連データから、前記細胞培養における環境の最適化の条件を取得する細胞培養最適化条件取得方法であり、関連データ取得部が、前記培養関連データを取得する関連データ取得過程と、活性データ取得部が、所定の周期毎に、培養された細胞の活性度の判定を行なう細胞活性度を検出する活性データ取得過程と、要因パラメータ抽出部が、前記細胞活性度の変化の要因となる影響度が他の培養関連データに比較して高い培養関連データを要因パラメータとして抽出する要因パラメータ抽出過程と、最適データ抽出部が、前記細胞活性度が所定の閾値以上における要因パラメータのデータを最適データとして抽出する最適データ抽出過程とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明のプログラムは、細胞培養における所定の観察周期の各々において、当該細胞培養を行なっている環境の環境データである培養関連データから、前記細胞培養における環境の最適化の条件を取得する細胞培養最適化条件取得システムとしてコンピュータを動作させるプログラムであり、前記コンピュータを、前記培養関連データを取得する関連データ取得手段、所定の周期毎に、培養された細胞の活性度の判定を行なう細胞活性度を検出する活性データ取得手段、前記細胞活性度の変化の要因となる影響度が他の培養関連データに比較して高い培養関連データを要因パラメータとして抽出する要因パラメータ抽出手段、前記細胞活性度が所定の閾値以上における要因パラメータのデータを最適データとして抽出する最適データ抽出部手段として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、作業者と機械との協業によりコンタミネーションのリスクを低減するとともに、繰り返し実施される細胞培養における上記物理刺激及び環境刺激に対応させ、細胞培養を行なう最適化条件を取得する細胞培養最適化条件取得システム、細胞培養最適化条件取得方法及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態による細胞培養最適化条件取得システムを配置したデータ取得を行なう部屋の構成例を示す概略図である。
【
図2】本実施形態における細胞培養最適化条件取得システム200の構成例を示すブロック図である。
【
図3】データ管理記憶部209における細胞観察テーブルの構成例を示す図である。
【
図4】データ管理記憶部209における培養関連データテーブルの構成例を示す図である。
【
図5】データ管理記憶部209におけるロボットハンド操作データテーブルの構成例を示す図である。
【
図6】細胞観察により培養細胞の培養の判定結果及び観察撮像画像を取得する周期の一例を示す概念図である。
【
図7】細胞観察の一例として、細胞剥離における培養関連データ、細胞活性の判定結果及び観察撮像画像の取得例を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態による細胞培養最適化条件取得システムを説明する。
図1は、本発明の一実施形態による細胞培養最適化条件取得システムを配置したデータ取得を行なう部屋の構成例を示す概略図である。
図1は、密封されたインキュベータとして用いる所定の部屋1内部に、ロボットハンド101、設置台102、温度センサ103、湿度センサ104、加速度センサ105、CO
2濃度センサ106、照度センサ107、気圧センサ108、撮像装置109、シリンジ装置110及び細胞培養最適化条件取得システム200とが備えられている。
【0020】
設置台102は、培養容器300を培養期間において配置する加振テーブル102Sが搭載されている。
加振テーブル102Sは、設置台102に備えられた加振装置により、設定される任意の振動数により振動(上下方向あるいは所定の半径の円弧方向)される。
培養容器300は、培養細胞群が培地とともに収容されており、加振テーブル102Sの上面に配置されている。
【0021】
ロボットハンド101は、培養容器300の培地交換の際、培養容器300を把持して傾け、古い培地を排出口などに廃棄する。
撮像装置109は、培養容器300内の培養細胞群における所定の位置の細胞領域を撮像し、観察撮像画像の撮像を行なう。
シリンジ装置110は、新たな培地、あるいは栄養分を含んだ栄養溶液を培養容器300に、所定の温度及び流速により注入する。
上記撮像装置109及びシリンジ装置110の各々は、固定台111に取り付けられた支持具111Sに取り付けられている。
【0022】
温度センサ103は、培養容器300近傍に配置され、培養容器300が配置されている領域の温度を計測する。
湿度センサ104は、培養容器300近傍に配置され、培養容器300が配置されている領域の湿度を計測する。
加速度センサ105は、加振テーブル102Sに取り付けられており、加振テーブル102Sの加速度を計測し、所定の周期(例えば、1秒)における振動数及び振幅を計測結果として出力する。
【0023】
CO2濃度センサ106は、培養容器300近傍に配置され、培養容器300が配置されている領域のCO2濃度を計測する。
照度センサ107は、培養容器300近傍に配置され、培養容器300が配置されている領域の照度を計測する。
気圧センサ108は、培養容器300近傍に配置され、培養容器300が配置されている室内の気圧を計測する。
【0024】
細胞培養最適化条件取得システム200は、繰り返し実施される細胞培養において、培養細胞に与えられる物理的刺激、環境刺激などの培養関連データを取得し、細胞の観察を行なう毎に、取得した培養関連データと観察撮像画像とを関連付けて記録する。
また、細胞培養最適化条件取得システム200は、培養関連データと観察撮像画像の評価とを組み合わせて機械学習を行なって機械学習モデルを生成し、培養関連データの最適条件を抽出し、細胞培養の機械化におけるプロトコルに反映させる情報とする(後に詳述)。
【0025】
図2は、本実施形態における細胞培養最適化条件取得システム200の構成例を示すブロック図である。細胞培養最適化条件取得システム200は、センサデータ取得部201、操作データ取得部202、撮像画像取得部203、活性データ取得部204、データ管理部205、要因パラメータ抽出部206、最適データ抽出部207、撮像画像学習部208、データ管理記憶部209及び最適条件データベース210の各々を備えている。
【0026】
センサデータ取得部201は、所定の周期(例えば、1秒)において、温度センサ103、湿度センサ104、加速度センサ105、CO2濃度センサ106及び照度センサ107の各々から、温度、湿度、振動数/振幅(以下、振動データと示す)、CO2濃度、照度それぞれを培養関連データとして取得し、データ管理部205に対して出力する。振動数/振幅が物理的刺激であり、温度、湿度、CO2濃度、照度それぞれが環境刺激である。
【0027】
操作データ取得部202は、ロボットハンド101が培養容器300を把持して、培養容器300を移動させた際、ロボットハンド101の駆動情報(移動量、移動速度、移動時間など)を取得し、データ管理部205に対して出力する。
撮像画像取得部203は、培養細胞の観察周期(例えば、1時間)毎に培養容器300内の培養細胞群を撮像し、撮像した観察撮像画像を、データ管理部205に出力する。
【0028】
活性データ取得部204は、培養細胞の観察周期の際に培養細胞群の一部の細胞を採取して、外部装置により計測された、培養容器300から取得した培養細胞群の一部の細胞の活性データをデータ管理部205に出力する。
ここで、活性データは、培養細胞の細胞活性を示す情報であり、Pluripotency(多様性)、増殖性及び細胞外基質生成量の各々の細胞検査データである。Pluripotencyは、PCR(polymerase chain reaction)検査による遺伝子発現解析から取得される特定の遺伝子または一連の遺伝子において、未分化状態を維持している際に発現する遺伝子の発現量を測定し、測定した発現量と基準発現量との比を示している。増殖性は、細胞が増殖して増加する速度である。例えば、予め細胞数と吸光度との関係グラフを求めておき、単位時間経過毎に培地における吸光度を計測し、上記関係グラフから計測した吸光度に対応した細胞数を読み取ることにより、単位時間毎の細胞数の増加を増殖性として求める。細胞外基質生成量は、培地成分分析から求められる微小環境を構成する分泌物質でである細胞外マトリクスの生成量であり、μgで表記される。細胞外マトリクスは、細胞の物理的構造を支えたり、生物学的機能をも支える培養細胞が生成する細胞外マトリクスの生成量であり、μgで表記される。
【0029】
データ管理部205は、培養細胞の観察周期毎に、タイムスタンプ(例えば、日時情報(日にちと時刻との情報)を付加して、活性データ及び観察撮像画像の各々のデータを、データ管理記憶部209における細胞観察テーブルに書き込んで記憶させる。
図3は、データ管理記憶部209における細胞観察テーブルの構成例を示す図である。
図3において、細胞観察テーブルは、レコード毎に、タイムスタンプ、撮像画像インデックス、Pluripotency、増殖性、細胞外基質生成量及び判定結果の欄の各々が設けられている。
【0030】
タイムスタンプは、観察撮像画像が撮像された日時、すなわち観察周期における細胞観察を行なった時刻である。
撮像画像インデックスは、観察撮像画像のデータが書き込まれている領域を示す情報であり、例えば記憶領域を示すアドレスである。
Pluripotencyは、培養された細胞の多様性を示す数値である。
増殖性は、観察周期における培養される細胞の増殖スピードを示す数値である。
細胞外基質生成量は、細胞が生成して細胞外に分泌した物質であり、例えば細胞の運動状態を示すプロテオグリカンなどの糖タンパク質である。
【0031】
判定結果は、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量の各々の判定パラメータの数値が所定の範囲内に含まれているか否かを示している。本実施形態においては、例えば、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量の各々を、それぞれレベル#1(適当)、レベル#2(中間)及びレベル#3(不適当)の段階にそれぞれ評価する。Pluripotency(データA)、増殖性(データB)及び細胞外基質生成量(データB)のすべてがレベル#1の場合に最適な培養と判定される。レベル#1、レベル#2及びレベル#3の各々は、それぞれ予め所定の数値範囲として設定されている。判定結果の欄においては、データ組(データA,データB,データC)として書き込まれて記憶されている。
【0032】
また、データ管理部205は、所定の計測周期(観察周期と同様、あるいは観察周期より時間が短い周期)毎に、タイムスタンプ(例えば、日時情報(日にちと時刻との情報)を付加して、培養関連データにおける温度、湿度、気圧、照度、CO2濃度、振動データ(振動の周波数、振動の振幅値)の各々を、データ管理記憶部209における培養関連データテーブルに書き込んで記憶させる。
図4は、データ管理記憶部209における培養関連データテーブルの構成例を示す図である。
図4において、培養関連データテーブルは、レコード毎に、タイムスタンプ、温度、湿度、気圧、照度及びCO
2濃度の欄の各々が設けられている。
【0033】
タイムスタンプは、所定の測定周期において、温度センサ103、湿度センサ104、加速度センサ105、CO2濃度センサ106、照度センサ107、気圧センサ108の各々が取得した、温度、湿度、振動データ、照度及び気圧の各々のデータを取得した日時、すなわち測定周期における測定を行った時刻である。
温度は培養容器300が設置されている周囲の環境の温度であり、湿度は培養容器300が設置されている周囲の環境の湿度である。振動データは、培養容器300を搭載した加振テーブル102Sの振動状態を示すデータである。照度は、培養容器300の配置された領域に照射されている光の照度である。気圧は、培養容器300の配置されている室内の気圧である。
【0034】
また、データ管理部205は、ロボットハンドを操作した処理、その処理名及び処理時間(ロボットハンドにより培養容器を把持していた時間)の各々を、データ管理記憶部209におけるロボットハンド操作データテーブルに書き込んで記憶させる。
図5は、データ管理記憶部209におけるロボットハンド操作データテーブルの構成例を示す図である。細胞観察テーブルは、レコード毎に、タイムスタンプ、処理名及び処理時間の欄の各々が設けられている。
【0035】
タイムスタンプは、ロボットハンド101を操作した日時、すなわちロボットハンド101により培養容器300を把持した時刻である。
処理名は、例えば、培養容器300に対して行う播種、培地の交換、継代など、ロボットハンド101により把持して培養容器300を移動させる処理の名称が記載されている。
処理時間は、ロボットハンド101が培養容器300を把持して移動処理を行った時間である。
【0036】
要因パラメータ抽出部206は、Pluripotencyの判定結果がレベル#1、#2及び#3の各々に対応する培養関連データ(温度、湿度、気圧、照度、CO2濃度、振動の周波数、振動の振幅値)それぞれの座標値を、特徴空間に座標値としてグループの座標群を形成する。
そして、要因パラメータ抽出部206は、培養関連データの組合せる種類を変更し、Pluripotencyの判定結果がレベル#1及びレベル#3の各々の座標群の重心の距離が最も遠くなる培養関連データの組合せ、例えば温度、照度、CO2濃度などの組み合わせを抽出する。
【0037】
また、本実施形態においては、影響度を、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量により判定した細胞の培養結果の良否のグループ間における座標群の重心間の距離により影響度を求めたが、上記良否のグループ間において、培養関連データの数値の差分を、判定結果の数値の変化の差分により除算して、判定結果の数値変化に対する寄与度として算出して用いてもよい。
【0038】
これにより、要因パラメータ抽出部206は、細胞培養におけるPluripotencyの良否判定の判定結果に影響度を有する(すなわち、他の培養関連データに対して高い強度を有する)培養関連データの組合せを要因パラメータとして抽出する。
また、要因パラメータ抽出部206は、上述したPluripotencyの判定結果に影響度の高い培養関連データの組み合わせの抽出と同様の処理を行い、増殖性及び細胞外基質生成量の各々の判定結果に影響度を有する培養関連データの組合せそれぞれを、要因パラメータとして抽出する。
【0039】
最適データ抽出部207は、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量それぞれで抽出した要因パラメータの組合せの各々における全ての種類の培養関連データのクラスタリングを行う。
そして、最適データ抽出部207は、特徴空間に形成されたクラスタから、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量のすべての判定結果がレベル#1のクラスタを抽出する。
【0040】
このとき、最適データ抽出部207は、複数のクラスタが抽出された場合、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量の各々の数値が最も高い組合せとなるクラスタを抽出する。
そして、最適データ抽出部207は、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量の高い、すなわち他のグループより高い活性を有する細胞を培養した、培養関連データの組合せの数値を取得する。
これにより、繰り返し実施される細胞培養における物理刺激及び環境刺激である培養関連データに対応させ、細胞培養を行なう最適化条件として要因パラメータの最適値を取得することができ、細胞培養の作業を行なう際の環境データの設定値として用いることで、従来に比較してより細胞活性度の高い細胞を培養することが可能となる。
【0041】
撮像画像学習部208は、観察撮像画像と、当該観察撮像画像に対応した判定結果(
図3に示す判定結果)とを教師データとして、観察撮像画像から判定結果を推定する機械学習モデルを例えばディープラーニングにより生成する。
すなわち、撮像画像学習部208は、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量の全てがレベル#1の組合せである観察撮像画像を入力した場合に推定結果として数値「1(良い)」を出力し、それ以外の判定結果の観察撮像画像を入力した場合に推定結果として数値「0(悪い)」を出力する機械学習モデルMAを生成する。
細胞培養の作業を行なう際、観察周期毎に観察撮像画像を取得し、上記機械学習モデルMAに対して入力することにより、作業者が細胞容器から培養中の細胞群の一部の細胞や培地の一部を取得し、遺伝子発現解析や培地成分分析を行なう必要が無く、 作業者と機械との協業によりコンタミネーションのリスクを低減することができる。
【0042】
また、撮像画像学習部208は、撮像画像学習部208は、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量の全てがレベル#1の組合せ以外の判定結果の組合せを用いて、観察撮像画像からいずれの判定結果が悪いかを推定する他の機械学習モデルを生成する。
すなわち、撮像画像学習部208は、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量全てがレベル#1の組合せ以外の判定結果の組合せの観察撮像画像を用いて、Pluripotencyの判定結果がレベル#2及び#3である観察撮像画像を入力した場合に数値「0(悪い)」を出力し、Pluripotencyの判定結果がレベル#1観察撮像画像を入力した場合に数値「1(良い)」を出力する機械学習モデルMB_1を生成する。
【0043】
同様に、撮像画像学習部208は、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量全てがレベル#1の組合せ以外の観察撮像画像を用いて、増殖性及び細胞外基質生成量の各々の良否を推定する機械学習モデルMB_2、MB_3それぞれを生成する。
これにより、本実施形態によれば、培養されている培養細胞の細胞活性の有無、すなわち正常に細胞培養が行なわれているか否かの判定を、PCR検査による遺伝子発現解析や培地成分分析を行なうことなく容易に判定する機械学習モデルMAを生成することができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量いずれの細胞活性の評価が低いかを容易に判定する機械学習モデルMB_1、MB_2及びMB_3を生成することができるため、各細胞活性に対する培養関連データの影響度と組み合わせることにより、細胞活性が不十分なレベルとなった要因の培養関連データを観察撮像画像から容易に推定することが可能となる。
【0045】
図6は、細胞観察により培養細胞の培養の判定結果及び観察撮像画像を取得する周期の一例を示す概念図である。
播種(継代)を行なった後、所定の周期(時間)毎に細胞観察を行ない、撮像装置109により観察撮像画像を撮像するとともに、遺伝子発現解析及び培地成分分析を行なって、細胞活性の判定を行なう。
【0046】
ここで、観察周期T1における細胞観察においては、播種(/継代)から観察周期T1の終端における細胞観察までの細胞培養における判定結果が、播種(/継代)を行なった条件、観察周期T1の時間内における培養関連データの各々の影響を受けた結果を示している。
また、培地交換(観察周期T4の終端)を行なう際にも、培地交換を行なう直前の培養細胞の培養の判定結果及び観察撮像画像を、観察周期T4の時間内における細胞培養に対する培養関連データの各々の影響の情報を得るために取得している。
【0047】
本実施形態においては、上述した観察周期毎に、細胞培養におけるPluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量の判定結果を蓄積するとともに、機械学習モデルMA、MB_1、MB_2及びMB_3の各々を生成する。
これにより、本実施形態によれば、上述した観察周期毎に抽出した最適条件(培養関連データの最適な数値)により細胞培養を行なうことで、所定の細胞活性を有する培養細胞を得ることが可能となる。
また、細胞培養の作業を行なう際、当該観察周期の終端において撮像された細胞の観察撮像画像を撮像し、撮像した観察撮像画像を機械学習モデルMAに入力させることにより、機械学習モデルMAの出力から観察終期内において培養された細胞が所定の活性を有しているか否かを容易に推定することが可能となる。
【0048】
また、本実施形態によれば、機械学習モデルMAにより所定の活性を有していないと判定された観察撮像画像を、機械学習モデルMB_1、MB_2及びMB_3の各々に入力することにより、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量のいずれがレベル#1に達していないかを推定することができ、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量に対して影響度の高い培養関連データを容易に抽出し、正常な培養を妨げた要因を検出する支援を行なうことが可能となる。
【0049】
図7は、細胞観察の一例として、細胞剥離における培養関連データ、細胞活性の判定結果及び観察撮像画像の取得例を説明する概念図である。
継代を行う際に、培養している細胞を他の培養容器に移すため、細胞外マトリクスを基質として分解するトリプシンなどの酵素を用いて、培養容器から培養細胞を剥離させる処理(剥離処理)を行なう(培養した細胞の回収を行なう際も同様の処理が行なわれる)。ここで、トリプシンの溶液には、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを固定するキレート剤としてEDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)が含まれている。
そして、上述した剥離処理の際、培養関連データとして
図4に示していないが、トリプシン処理に要した処理時間、トリプシンの濃度が含まれる。
【0050】
トリプシン処理の処理時間を所定の第1時間と、当該第1時間よりも短い(例えば、1/2の時間)第2時間とで処理したグループ間において、継代を開始端に行なった観察周期の終端において細胞活性の判定を行なう。このとき、トリプシン処理の処理時間の変化が細胞活性の変化に与える影響が他の培養関連データに比較して大きい場合、トリプシン処理の処理時間が細胞活性に対して影響度を有すると判定する。
そして、継代を開始端に行なった観察周期の終端において、継代を行なって培養した細胞の観察撮像画像を撮像する。
【0051】
そして、継代を開始端に行なった観察周期の終端で撮像した観察撮像画像は、トリプシン処理の処理時間の影響度が他の培養関連データよりも高い場合、当該他の培養関連データの影響度よりもトリプシン処理の処理時間の影響を反映した特徴を有している。
このため、Pluripotency、増殖性及び細胞外基質生成量の判定結果の全てがレベル#1でない観察撮像画像を用いて、機械学習モデルMB(Deep learnig学習器)を生成することにより、細胞培養がうまく行なわれなかった要因がトリプシン処理の処理時間であったことを、遺伝子発現処理や培地成分分析を行なわずに観察撮像画像から推定できる。
【0052】
また、
図2における細胞培養最適化条件取得システム200の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、細胞培養最適化条件を取得し、かつ細胞培養の状態を推定する機械学習モデルを生成する処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0053】
以上、この発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0054】
101…ロボットハンド 102…設置台 102S…加振テーブル 103…温度センサ 104…湿度センサ 105…加速度センサ 106…CO2濃度センサ 107…照度センサ 108…気圧センサ 111…固定台 111S…支持具 200…細胞培養最適化条件取得システム 201…センサデータ取得部 202…操作データ取得部 203…撮像画像取得部 204…活性データ取得部 205…データ管理部 206…要因パラメータ抽出部 207…最適データ抽出部 208…撮像画像学習部 209…データ管理記憶部 210…最適条件データベース 300…培養容器