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特開2022-90830動画の作成方法およびアニメーションの作成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090830
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】動画の作成方法およびアニメーションの作成方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 13/80 20110101AFI20220613BHJP
【FI】
G06T13/80 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203377
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】520485055
【氏名又は名称】株式会社シード
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 憲生
(72)【発明者】
【氏名】田口 由理佳
(72)【発明者】
【氏名】熊瀬 哲郎
【テーマコード(参考)】
5B050
【Fターム(参考)】
5B050BA07
5B050BA08
5B050BA12
5B050BA18
5B050CA07
5B050DA10
5B050EA07
5B050EA13
5B050EA18
5B050EA24
5B050FA02
5B050FA09
(57)【要約】
【課題】高品質な動画を簡便に作成し得る動画およびアニメーションの作成方法を提供する。
【解決手段】原画K1をパスでトレスしてトレス動画を作成する工程(ステップS24)と、パスで構成された一対の元動画に基づき、自動計算によって中割り動画を作成する工程(ステップS26)を実行する。一対の元動画としては、例えば一方にトレス動画を用い、他方には、トレス動画を別の原画に合わせて変形して作成された変形動画を用いることができる。動画を構成するパスは、レイヤー分けして作成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原画をパスでトレスしてトレス動画を作成する工程と、
パスで構成された一対の元動画に基づき、自動計算によって中割り動画を作成する工程とを含むこと
を特徴とする動画の作成方法。
【請求項2】
前記一対の元動画のうち、少なくとも一方としてトレス動画を用いること
を特徴とする請求項1に記載の動画の作成方法。
【請求項3】
前記一対の元動画のうち少なくとも一方として、トレス動画を変形して作成される変形動画を用いること
を特徴とする請求項1または2に記載の動画の作成方法。
【請求項4】
原画をパスでトレスして作成したトレス動画を、別の原画に合わせて変形させて変形動画を作成すること
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の動画の作成方法。
【請求項5】
動画を構成するパスをレイヤー分けして作成すること
を特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の動画の作成方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の動画の作成方法を適用したことを特徴とするアニメーションの作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニメーションの動画を作成する方法、およびこれを用いてアニメーションを作成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図11は従来における一般的な2Dアニメーションの作成の工程を示している。まず、アニメーションの筋書きにあたる脚本(シナリオ)を起こし、登場するキャラクターの視覚的な設定(キャラクター設定)や、背景等の全体的な視覚にかかわる設定(美術設定)等を行う(ステップS1)。次に、それらの設定を考慮しつつ、シナリオに沿って絵コンテを作成する(ステップS2)。
【0003】
続いて、絵コンテに表れた各カットに使用する背景を作成する(ステップS3)。各カットについて背景の指定を書き込んだ背景原図が作成され、これに基づき、背景美術スタッフが背景を作成する。
【0004】
一方、原画担当者は、各カットにおいて動く物の配置や動きを指定する原画を作成する(ステップS4)。ここでは、キャラクターや小物など、各カットで動く物について、そのカットにおける動きのうち、特に重要な時点の図を表す原画(第一原画)が作成される。
【0005】
第一原画は、作画監督のチェック(ステップS5)を経て適宜修正される。第一原画のチェックと修正が済んだら、その第一原画に基づき、第二原画が作成される(ステップS6)。さらに、第二原画に基づき、動画担当者が動画を作成する(ステップS7)。ここでは、第二原画を清書した線画と、それらの間を埋める中割りと呼ばれる線画が作成される。
【0006】
動画は彩色されて仕上げられ(ステップS8)、これが予め設定されたタイムシートに沿って順に配置されて動きのある一本の映像が作成され(コンポジット;ステップS9)、該映像が編集され(ステップS10)、効果音や背景音楽、台詞といった音響が付加され(ステップS11)、アニメーション作品として完成する。
【0007】
ここで、一般に、静止画を連続撮影してなる一本の映像(アニメーションや映画、あるいはビデオカメラで撮影された映像等)を「動画」と呼ぶ場合があるが、本明細書ではこうした用法との混同を避けるため、一連の静止画の連続により成立するアニメーションにおいて、該アニメーションを構成する一枚一枚の静止画を「動画」と称することとする。
【0008】
尚、図1に示した作成手順は実際の作業工程を簡略化して説明した一例であって、実際のアニメーション制作においては、上に説明した各工程が前後したり、より複雑に相互に入り組んでいる場合もあり得る。
【0009】
この種のアニメーションや動画の作成方法に関連する先行技術文献としては、例えば、下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平06-195438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述の如き従来のアニメーション制作は、以下の如き種々の問題を抱えている。
【0012】
まず、アニメーションは非常に多数の動画によって構成されるため、動画の作成に膨大な手間と費用がかかる。例えば一般的なTVアニメーションの場合、30分番組で4,000~5,000枚程度の動画が必要である。これらの動画は、上に説明したように、原画の清書および中割りとして作成されるが、この作業は動画担当者(アニメーター)による手作業であり、一枚一枚の描画に時間がかかる(尚、アニメーターが手作業で動画の描画を行う点は、近来一般的になったデジタル作画であっても、3Dモデルによるグラフィックを作成する場合でもない限りは旧来のアナログ技法による作画の場合と同様であり、この部分の作業量にはさして差はない)。よって、一本のアニメーションを制作するにあたっては、多数のアニメーターが多くの時間を費やすことになり、制作時間と費用が嵩んでしまう。
【0013】
こうした作業量や費用の問題は、アニメーション作品の質にも直結する。動画担当者として雇用される多数のアニメーターは、どうしても技量にばらつきがあり、動画の出来は個々のアニメーターの技量に左右されるので、作業量の膨大さが結果的に質の低下を招く場合があるのである。また、作品あたりに立てられる一定の予算に対して多数の動画が必要になると、一枚の動画あたりの単価が安くなってしまい、これも動画担当者のモチベーションの低下を招いて動画の質の低下に繋がる。さらに、質の低い動画が作られると、後にチェックして修正する必要が生じ、結果としてコストは余計に増大する。
【0014】
費用を安く抑え、短い納期に間に合わせるために動画の作成や彩色の工程を下請け業者に発注したところ、著しく質の低い動画が納品され、修正に多大な費用と時間を要したり、あるいは質の低い状態の作品を放映せざるを得なかったり、といった事故も過去に幾度か実際に発生している。
【0015】
こうした事態を避けるためには、熟練したアニメーターをなるべく多数確保する必要があるが、高水準の技術を身につけたアニメーターを教育するにも、やはり相応の時間とコストが必要である。
【0016】
また、動画をコンピュータ上のデジタルデータとしてではなく、紙などの支持体に描いて作成する場合には、彩色にあたって前記支持体がスキャンされてデータ化されるが、その際、スキャン後のデータに写り込んだ埃などの異物を除去したり、線を補正する必要があり、ここでも作業時間と費用が発生する。
【0017】
また、アニメーションにおけるデジタル彩色は、一般に各動画の線で囲まれた領域を塗りつぶすようにして行われるが、先行する動画作成の段階で描かれた線に不備があった場合、彩色ができなかったり、ある領域の指定色がコマによって別の領域に塗られてしまい、動画を撮影して一本の映像に仕上げた際に、同じ領域の色が点滅して見える(いわゆる色パカ)などの不具合が生じる。これらもむろん修正の対象であり、作業時間と費用が発生する。
【0018】
また、多くの場合、動画はラスターデータとして作成されるが、その場合、後から高解像度化することが難しいという問題もある。例えば、紙で作成した動画をスキャンして彩色する場合、スキャンして得られるデータはラスターデータであるし、デジタル作画であっても、大抵はラスターデータとして動画が描画される。TV放映した作品をパッケージ化して販売する際や、劇場向けに作り直す際には、TV放映時より高い解像度の画像が必要となるが、TV放映のための制作時に低解像度のラスターデータとして動画が作られていた場合、そのまま引き伸ばしても高解像度での鑑賞に堪える映像にならない。
【0019】
また、パッケージ化や劇場映画化の際には、スキャン時に写り込んだ異物の除去や線の補正をTV放映時と比べていっそう注意深く行う必要があり、ここでも作業時間と費用が発生してしまう。
【0020】
本発明は、斯かる実情に鑑み、高品質な動画を簡便に作成し得る動画の作成方法およびアニメーションの作成方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、原画をパスでトレスしてトレス動画を作成する工程と、パスで構成された一対の元動画に基づき、自動計算によって中割り動画を作成する工程とを含むことを特徴とする動画の作成方法にかかるものである。
【0022】
本発明の動画の作成方法においては、前記一対の元動画のうち、少なくとも一方としてトレス動画を用いることができる。
【0023】
本発明の動画の作成方法においては、前記一対の元動画のうち少なくとも一方として、トレス動画を変形して作成される変形動画を用いることができる。
【0024】
本発明の動画の作成方法においては、原画をパスでトレスして作成したトレス動画を、別の原画に合わせて変形させて変形動画を作成することができる。
【0025】
本発明の動画の作成方法においては、動画を構成するパスをレイヤー分けして作成することができる。
【0026】
また、本発明は、上述の動画の作成方法を適用したアニメーションの作成方法にかかるものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明の動画の作成方法およびアニメーションの作成方法によれば、高品質な動画を簡便に作成するという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施による2Dアニメーションの作成工程の一例を説明するフローチャートである。
図2】本発明の実施による動画の作成手順の一例を説明するフローチャートである。
図3】動画のプロジェクトファイルに素材を配置した画面の一例を簡易的に説明する図である。
図4】原画の一例を説明する図である。
図5】別の原画の一例を説明する図であり、図4と時間的に近接する時点の画面を想定している。
図6】原画をトレスして作成された動画(トレス動画)の一例を示す図である。
図7図5の動画を変形して作成された別の動画(変形動画)の一例を示す図である。
図8図6図7の動画に基づき作成された中割り動画の一例を示す図である。
図9図6図7の動画に基づき作成された別の中割り動画の一例を示す図である。
図10】本発明の実施において、動画の作成時に設定されるレイヤーの構成の一例を説明する概念図である。
図11】従来における2Dアニメーションの作成工程の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0030】
図1は本発明の実施による2Dアニメーションの作成工程の一例を示している。基本的な流れは図11に示した従来例と同様であり、シナリオ、キャラクター設定および美術設定(ステップS1)から、絵コンテ(ステップS2)、背景の作成(ステップS3)、第一原画の作成(ステップS4)、第一原画のチェック(ステップS5)までは共通している。また、コンポジット(ステップS9)以降、編集(ステップS10)および音響の付加(ステップS11)についても同様である。
【0031】
本実施例の場合、従来例(図11参照)における第二原画の作成(ステップS6)から動画の作成(ステップS7)、彩色(ステップS8)までの工程に代えて、パスによるデジタルデータとして動画を作成する工程(ステップS20)を実行する点を特徴としている。
【0032】
このステップS20を実行する際には、後述するようなパスによる描画を好適に実行できる機能を備えている限りにおいて、種々のソフトウェアを適宜利用することができる。また、複数のソフトを組み合わせて以下の工程を実行してもよい。尚、本明細書において「パス」とは、「数式により記述される『任意の』閉曲線、開曲線、閉直線または開直線」を指すものとする。
【0033】
図2は、このステップS20の工程をより詳細に示している。このステップにおいて、動画は、ステップS4で作成され、ステップS5で作画監督によるチェック・修正を経た原画(第一原画に相当)に基づいて作成される。
【0034】
ステップS5までが済んで原画が準備できたら(図1参照)、動画を描画するためのプロジェクトファイルを作成し、該プロジェクトファイルに素材となるデータを配置する(図2;ステップS21)。プロジェクトファイルには、例えば図3に示す如く、キャラクター設定の画像データ(設定データ)S、タイムシートT、原画K1のスキャンデータ、キャラクターの色設定としてのカラーモデルC等が読み込まれ、画面内の適宜の位置に配置される。
【0035】
続いて、これから作成する動画のスタイルを設定する(ステップS22)。ここで設定されるスタイルとは、アニメーション作品ごとに決められた線の太さや塗りの色などの設定である。線については、例えばパーツごとに使用する複数の線の太さ等を数値として設定することができる。色については、例えばカラーモデルC(図3参照)からピックアップして設定することができる。
【0036】
尚、このステップS22は、既に同じキャラクターの別の動画がパスで作成されているなど、同じスタイルの設定されたファイルが別に存在する場合、そのファイルを読み込むだけで済ませることができ、以降、同様の動画を作成する際には、このステップS22の工程にかかる作業量を大幅に低減することができる。
【0037】
続くステップS23以降の工程は、図4図5にそれぞれ示す2枚の原画K1,K2に基づき、図6図9に示す如き計4枚の動画F1~F4を作成する例を想定して説明する。
【0038】
図4に示す原画K1と、図5に示す原画K2は、あるカットにおいて時間的に互いに近接する2枚の原画であり、原画K2は時系列的に原画K1の次の原画に相当する。ステップS24~S27では、これらの原画K1,K2に相当する2枚の動画F1,F2と、その間を埋める2枚の動画F3,F4が作成される。図11に示す従来の工程では、これらの作業がステップS7~S8において手作業で行われていたが、本実施例では、この工程を半ば自動で行うことができる。尚、以下では必要に応じ、動画F1を「トレス動画」、動画F2を「変形動画」、動画F3,F4を「中割り動画」と称する。トレス動画とは、原画をパスでトレスして作成される動画を指し、変形動画とは、パスで構成された動画のパスを変形させて作成される動画を指す。
【0039】
ステップS23では、図3に示す如きプロジェクトファイルの描画領域にレイヤーを設定する。描画領域は、少なくとも原画K1の配置された領域を含む。ステップS24以降の工程では、奥にあたるパーツを下層のレイヤーに、手前にあたるパーツを上層のレイヤーに描画していくが、そうしたレイヤーの構成を、このステップS23で設定する。ここで設定するレイヤー分けは、従来のアニメーション作成におけるセル画による画面の階層構造、あるいは、一枚のセル画を要素毎にさらに細かく分割した階層構造に相当する。こうすることにより、動画を構成する各パーツの管理を容易にし、パーツ毎に異なる動きを簡便に表現することができる。
【0040】
図10に、こうしたレイヤー構成の一例を概念的に示す。本実施例の場合、人の顔を表す動画F1~F4の作成にあたり、図10に示す如く、前髪にあたるパーツP1、目と眉にあたるパーツP2、顔の輪郭および鼻と口にあたるパーツP3、髪の後ろ部分にあたるパーツP4の計4つのパーツが設定され、それぞれに相当するレイヤーL1,L2,L3,L4が、上層から順に設定される。尚、ここに示したレイヤー分けは説明のために簡略化した一例であって、パスによって動画を作成するあたり、レイヤー分けは自由に設定することができる。ただし、実際の動画の作成作業においては、各カットにおいて要求される実際の動きに応じ、適切なレイヤー分けを行うことが言うまでもなく重要である。
【0041】
ステップS24では、原画K1(図4参照)をトレスし、原画K1の清書にあたる動画(トレス動画)F1(図6参照)を描画する。各レイヤー毎に、原画K1のうち相当する部分の形状をトレスし、各パーツをパスとして描画していく。プロジェクトファイルの描画領域には、図3に示す如く原画K1が表示されているので、この原画K1の上にレイヤーL1~L4を重ね、パーツ毎に該当するレイヤー内で原画K1の線をなぞり、パスを作成していく。
【0042】
例えば動画F1(図6参照)のうちパーツP1(図10参照)を描画する場合、原画K1(図4参照)のうち前髪にあたる部分の線に沿ってレイヤーL1内で線を描画し、対応する形状のパスを作成する。パスとして作成した形状の要所には、アンカーポイント(図5中にAの符号で示す)を設定する(尚、図5に示すアンカーポイントは、パスの作成・編集時に表示されるものであって、最終的に作成される映像においては表示されない)。パーツを作成したら、該パーツに、ステップS22で設定したスタイルを適用する。線は適当な太さの線に設定され、領域内は決められた色で塗られる。この作業を各レイヤーおよび各パーツ毎に行い、原画K1に表れた全てのパーツの描画が済んだら、図6に示す如き1枚の動画F1が得られる。
【0043】
ステップS25では、トレス動画F1(図6参照)を変形させ、動画(変形動画)F2(図7参照)を作成する。この変形動画F2は、図5に示す原画K2の清書に相当する。
【0044】
ここに示した例では、原画K1と原画K2の間で違いがあるのは人物の目にあたる部分であり、この部分は、パスで描画されたトレス動画F1においてパーツP2にあたる(図10参照)。よって、トレス動画F1のうち、パーツP2のみを原画K2に合わせて変形させれば、原画K2をトレスした場合と同等の変形動画F2が作成できる。
【0045】
具体的な手順としては、まず画面に表示されたプロジェクトファイル(図3参照)の描画領域に原画K2を配置する。図3に示した画面では原画として原画K1が表示されているが、ここに原画K1に代えて原画K2を表示する。続いて、トレス動画F1を構成するパスを複製し、原画K2を表示した領域に重ねて表示する。ここで複製されるパスのレイヤー構成は、トレス動画F1と同じとする。そして、原画K2と重なるように表示された複製パスのうち、パーツP2に相当する部分(レイヤーL2に属する部分)を、原画K2の目の部分の形状に合わせて変形させる。複製・変形されたパーツP2と、複製されたその他のパーツP1,P3,P4をあわせ、変形動画F2とする。
【0046】
こうして、ステップS24,S25の工程により、原画K1,K2をそれぞれトレスして作成したものと同等の2枚の動画(トレス動画F1および変形動画F2)が作成された。続くステップS26では、この2枚の動画F1,F2に基づき、中割り動画F3,F4をソフトウェアによる自動計算を用いて作成する。
【0047】
この自動計算のアルゴリズムは、単純なものであって構わない。以下に一例を説明する。尚、ここでは、パスにより構成され、中割り動画の作成の際に計算の元となる一対の動画を「元動画」と称する。つまり、この場合は動画F1,F2が元動画に相当する。
【0048】
パスは、図6図9に示すように、アンカーポイント同士の間を適当な曲線で繋いだ形で構成されている。ここで、あるパスが、2個のアンカーポイントA1,A2、および該アンカーポイントA1,A2を結ぶ曲線で構成されているとする(尚、これは説明のために仮定した簡単な例であり、むろん実際の動画の作画において、ほとんどの場合、パスの構成はこれより複雑である)。
【0049】
一方の元動画F1において、アンカーポイントA1の座標は(x,y)、アンカーポイントA2の座標は(x,y)であり、これらの間が曲線で結ばれている。c元動画F2では、アンカーポイントA1の座標は(x+α,y+β)、アンカーポイントA2の座標は(x+α,y+β)であり、これらの間が曲線で結ばれている。
【0050】
ここで、元動画F1から元動画F2までの動きを均等に三分割した中割り動画F3,F4を作成するとすれば、動画F3においては、アンカーポイントA1の座標が{x+(1/3)α,y+(1/3)β}、アンカーポイントA2の座標が{x+(1/3)α,y+(1/3)β}であるパスが作成される。これらの間を結ぶ曲線は、構成する各点が同様の関係になるよう計算された適当な曲線で結ばれる。同様に、動画F4の対応するパスにおいては、アンカーポイントA1の座標は{x+(2/3)α,y+(2/3)β}、アンカーポイントA2の座標は{x+(2/3)α,y+(2/3)β}であり、これらの間が適当な曲線で結ばれることになる。
【0051】
尚、ここに説明したアルゴリズムはあくまで一例である。自動計算により中割り動画を描画するにあたっては、上とは別のアルゴリズムを適宜採用してよい。
【0052】
こうして、図8図9に示す如き中割り動画F3,F4が作成される。元動画である動画F1と動画F2の比較において、パスの形状や位置に違いのある部分(パーツP2;図10参照)についてはその中間の形状や位置が自動的に計算され、元動画F1(人物の目が開いた状態)と、元動画F2(人物の目が閉じた状態)の中間にあたる中割り動画F3,F4(人物の目が中途まで閉じた状態)が作成される。パスの形状や位置に違いのない部分(目以外の部分;パーツP1,P3,P4)については、中割り動画F3,F4でも変化はない。
【0053】
ここで、一方の元動画から他方の元動画までの動きをどのように分割して中割り動画を作成するかは自由に設定できる。上では元動画F1から元動画F2までの動きを3等分して2枚の中割り動画F3,F4を作成する場合を例示したが、一対の元動画から中割り動画を作成するにあたり、枚数は一枚以上の任意の値を設定できる。また、分割の間隔も均等でなくともよい。例えば、あるパスで表される物体が一方の元動画から他方の元動画まで等速直線運動をする場合を想定すれば、上述のように一方の元動画における座標と他方の元動画における座標の間を単純に等分した座標に基づいて中割り動画を作成すればよいが、動きに加速度がついている場合には、例えば座標同士の間を二次関数的に分割した座標に基づいて中割り動画を作成すると、より現実に近い動きのアニメーションを作成することができる。例えば、動画I~IVという四枚の動画で表される一連の動きにおいて、あるパスについて自由落下による等加速度直線運動を表現したいような場合、元動画とする動画I,IVにおける当該パスを構成するあるアンカーポイントのY座標がそれぞれa(t-p)+qおよびa(t+Δt-p)+qで表せるとすれば、中割り動画II,IIIにおける同じアンカーポイントのY座標が、それぞれa{t+(1/3)Δt-p}+qおよびa{t+(2/3)Δt-p}+qとなるような位置で座標間を分割し、その分割位置の座標に基づいて中割り動画II,IIIを作成すればよい。
【0054】
尤も、このようにして自動計算により作成された中割り動画は、必ずしもそのまま動画として使用できるとは限らない。例えば、一対の元動画のうち一方は人物の横顔であり、他方は同じ人物が正面を向いた顔である場合、人物の顔の回転に伴い、輪郭は動きの中で複雑に変化する。よって、このような元動画に基づき、上記の方法により中割り動画を描画すれば、該中割り動画における人物の顔の輪郭は不自然な形状となる。また例えば、放物線運動の軌道上にある物体の動画を作成するような場合、上記の方法では2座標間を結ぶ直線上に同じ物体が位置する中割り動画が描画されてしまい、位置が不自然になる。
【0055】
そういった場合は、上のステップS26で作成した中割り動画を、必要に応じて修正する(ステップS27)。パスにより作成された中割り動画は、事後的にアンカーポイントの位置や線の形状、パス全体の位置等を個別に修正することができる。この修正作業の際には、プロジェクトファイル(図3参照)に表示された設定データSやカラーモデルC等を参照してもよい。
【0056】
動画が作成されたら、該動画のデータをレイヤー毎に保存する(ステップS28)。このとき、あるカットを構成する一連の複数の動画のうち、同じレイヤーに属するパーツのファイルには、名称に時系列順の連番を付して保存すると便利である。図6図8図9および図7に示す一連の動画F1,F3,F4,F2の場合、目の部分のパーツP2の属するレイヤーL2(図10参照)にのみ変化があるので、これに時系列順(F1,F3,F4,F2の順)に、例えば「B1」「B2」「B3」「B4」と連番を振って保存するとよい。変化のないその他のレイヤーL1,L3,L4については、例えばA1~A4、C1~C4、D1~D4と連番を付して動画毎に別々のファイルとして保存してもよいが、これらのファイルA1~A4、C1~C4、D1~D4はそれぞれ内容に差がないので、各々一個のファイルとして保存してもよい。
【0057】
このようにしてレイヤー別に作成された動画のファイルは、次のコンポジットの工程(ステップS9;図1参照)においてレイヤー毎に適宜画像処理を施され、レイヤー同士が重ね合わされ、それぞれ動画として合成される。作成された動画は、タイムシートに沿って配置されて一本の映像が作成され、続いて該映像が編集され(ステップS10)、音響が付加され(ステップS11)、アニメーション作品として完成する。
【0058】
尚、図1図2に示した手順はあくまで説明のために単純化し、要所を端的に示した一例であって、実際の動画の作成およびアニメーションの作成は、ここに示した順序の工程通りに正確に行う必要はない。例えばステップS23~S24の工程について、まずレイヤーL1を作成してから該レイヤーL1にパーツP1を作成し、その後、レイヤーL2を作成して該レイヤーL2にパーツP1を作成する、といった順序で作業してもよい。その他、各工程は、適宜順序を入れ替えたり、別の工程を付加したり、あるいは一部を省略するなど、適宜変更することが可能である。
【0059】
以上の如き動画の作成手順では、まず中割り動画の作成に関し、多大な手間を節減することができる。従来であれば、中割り動画は原画を参考に、該原画と少し違う絵として動画担当者が手作業で描いており、このために膨大な手間と人件費が発生していたが、この作業が自動計算で済むので、中割り動画の作画作業そのものがほぼ不要になる。自動計算だけでは不自然な中割り動画が作成されてしまう可能性もあるが、それもその場でパスを変形させるだけで簡単に修正できる。
【0060】
また、動画を作成する際、原画の清書としての動画は、まず原画をパスでトレスすれば作成できる(トレス動画)。ここで使用する原画は作画監督のチェックと修正を経た原画であり、これによって質は保証されている。それを画面上でパスでトレスしてトレス動画を作成するのであるから、動画担当者に高い画力は必要なく、原画に忠実な質の高い動画を簡単に作成することができる。
【0061】
また、ある一枚の原画について、清書としてのトレス動画をパスとして作成すれば、前記原画と似た別の原画については、パスとして作成されたトレス動画を前記別の原画に合わせて変形することで(変形動画)、前記別の原画の清書に相当する動画を容易に作成することができる。前記別の原画については、トレスの作業を改めて一から行う必要がないので、原画の清書にあたる動画の作成についても大幅に作業量を減らすことができる。
【0062】
また、トレス動画や変形動画の作成時に使用する原画は、いわゆる第一原画で十分である。画面上でパスを描画する上述の作画方法では、動画担当者の手ぶれ等によって線が歪むような心配がないので、第二原画ほどの厳密な線は必要ない。したがって、第二原画の作成を省略することができ、ここでも作業量を減らすことができる。
【0063】
ここで、本実施例の場合、原画をトレスしてパスを作成することで、複雑な形状をパスで表現できるという大きな利点がある。
【0064】
パスによるアニメーションの作成については、アドビシステムズ社の「Flash」、カカーニ社の「CACANi」などの先行例があるが、こうした従来の技術は、「『特定の』閉曲線や開曲線」をパスとして構成し、これらを半自動的に変形を行うものである。すなわち、パスの形状が特定の閉曲線や多角形に限定されたり、また、単純な形状のパスでは表現しきれないような形状の場合は、ラスター画像をラスター画像に変形させる計算処理を行う必要がある(このため、動画のあらゆる部分をベクターデータで表現することはできない)などの制限があり、使い勝手の点で必ずしも十全ではなかった。
【0065】
一方、本実施例の場合、「数式により記述される『任意の』閉曲線、開曲線、閉直線または開直線」としてパスを作成することができる。すなわち、パスを用いて動画を作成し、ひいてはアニメーションを作成するにあたり、原画をパスでトレスするという手法によって、パスの形状に関する自由度を飛躍的に高めた点を特徴としている。これにより、複雑な形状や動きであっても、ベクターデータであるパスで簡便に表現することができる。
【0066】
こうして、原画の清書にあたる動画については、これをトレス動画や変形動画として作成することにより、十分な質の動画を簡便に作成することができる。さらに中割り動画についても、これらの高品質な動画に基づき、上に述べたような自動計算により作成でき、必要に応じて簡単に修正することもできるので、少ない手間で高い品質の動画を作成でき、いわゆる作画崩壊を防ぐことができる。最初から高品質の動画を作成できるので、後からの修正も少なく済む。
【0067】
また、このような動画の作成作業を行うにあたっては、アニメーションに関する基本的な知識があれば十分であり、動画担当者は動画作成に関して豊富な経験を有している必要はない。こうして、動画担当者としての人材の確保も容易になる。
【0068】
彩色作業に関しても、手間の軽減と共に質の担保が可能である。上述のような動画の作成作業において、動画は各パーツ毎にレイヤー別に作成されたパスの集合として構成される。各パスでは、線で囲まれた特定の領域が、スタイルの読み込みによって自動で彩色される。従来であれば、一枚一枚の動画を、彩色担当者が色指定を参照しながら塗り分けていたため、しばしば塗り間違いが生じていたが、本実施例の如き手順によれば、スタイルの読み込みで一律に塗りが行われるので、塗り間違いの発生を減らすことができる。塗りはデータ上で均一に行われるので、塗りムラも生じない。さらに、各パス毎に塗られる色は、他のパスやレイヤーにはみ出す心配がなく、色パカの発生を防ぐことができる。こうして、塗りに関しても高い質が保証され、後からの修正も少なく済む。
【0069】
また、動画の作成時に併せて彩色を実行できるので、動画の作成後に改めて彩色作業を行う必要もない。アニメーションの制作者にとっては、彩色の担当者にかかる人件費や、彩色にかかる作業時間を減らすことができるし、動画担当者にとっては、動画の作成時、彩色にあたる作業を同時に行うことができるので、アニメーションの作成において担当できる範囲が従来より広がることになり、作業あたりの収入単価が増える。これは動画担当者のモチベーションの増大に繋がり、粗雑な作業をする動画担当者が減って動画の質がさらに向上することが期待できる。
【0070】
また、動画は最初からデジタルデータとして作成されるので、アナログの画像をスキャンするような手間は不要である。スキャンの際に写り込む異物を除去する作業や、スキャン後に線を補正する作業も不要である。
【0071】
また、動画はベクターデータであるパスにより構成されるため、解像度の変換が容易であり、高解像度のディスプレイでの表示や、大画面での上映に適したデータを簡便に作成することができる。例えばアナログで作画された動画をスキャンしてデジタルに変換するような場合、作成されるデータはラスターデータであり、これを高解像度にする場合には、改めて線等を補正する必要がある。一方、本実施例の如き方法では、動画は最初からベクターデータとして作成されるので、高解像度にしてもそのままの画質を保つことができる。
【0072】
さらに、動画の作成に使用するソフトウェアによっては、一連の工程(例えば、図2に示すステップS24~S28)で複数の動画を作成した後、これをタイムシートに沿って自動で並べ、映像として再生することも可能である。あるカットにおける一連の映像に関し、動画担当者が動画作成の作業を行った後、動画担当者本人や他のスタッフが映像としての仕上がりをその場で確認できる。従来であれば、一連の動画の作成後、コンポジットの工程を行ってから映像をチェックし、必要であれば修正する、という手順にて修正を行っていたが、これでは修正を行う毎にコンポジットを改めて行うことになり、作業量の増大を招いていた。本実施例の如き手順であれば、動画の作成後、コンポジットを経ずに映像としての仕上がりを確認し、必要であれば修正できるので、ここでも作業量の大幅な削減が期待できる。
【0073】
尚、上の実施例では、中割り動画の作成時に元動画としてトレス動画と変形動画を使用する場合を説明したが、パスの構成が同等であれば、例えば一対の元動画の両方をトレス動画とし、これらに基づいて中割り動画を作成することもできる。また、一旦トレス動画を作成すれば、それに基づき自由に変形動画を作成し、利用することができる。例えば、動画作成の際、一部の中割り動画については自動計算を利用せず、トレス動画を変形させた変形動画として中割り動画を作成してもよい。また、変形動画をさらに変形させて変形動画(原画の清書としての変形動画や、中割り動画として使用する変形動画)としてもよいし、両方が変形動画として作成された一対の動画から、中割り動画を自動計算で作成するといったことも可能である。
【0074】
以上のように、上記本実施例においては、原画K1をパスでトレスしてトレス動画F1を作成する工程(ステップS24)と、パスで構成された一対の元動画F1,F2に基づき、自動計算によって中割り動画F3,F4を作成する工程(ステップS26)とを含んでいる。このようにすれば、従来は膨大な作業量をかけて作成していた中割り動画を、パスによる作画と自動計算によって高い品質で簡単に作成することができる。
【0075】
本実施例の動画の作成方法においては、前記一対の元動画F1,F2のうち、少なくとも一方(上記実施例では、一方)としてトレス動画F1を用いている。このようにすれば、中割り動画F3,F4の作成に用いる元動画F1を高い品質で簡便に作成することができる。
【0076】
本実施例の動画の作成方法においては、前記一対の元動画F1,F2のうち少なくとも一方(上記実施例では、トレス動画F1を一方とし、それと別の一方)として、トレス動画F1を変形して作成される変形動画F2を用いている。このようにすれば、中割り動画F3,F4の作成に用いる元動画F2を簡便に作成することができる。
【0077】
本実施例の動画の作成方法においては、原画K1をパスでトレスして作成したトレス動画F1を、別の原画K2に合わせて変形させて変形動画F2を作成している。このようにすれば、原画K2の清書にあたる動画F2を高い品質で簡便に作成することができる。
【0078】
本実施例の動画の作成方法においては、動画F1~F4を構成するパスをレイヤー分けして作成している。このようにすれば、動画を構成する各パーツの管理を容易にし、パーツ毎に異なる動きを簡便に表現することができる。
【0079】
また、本実施例においては、上述の動画の作成方法をアニメーションの作成方法に適用している。このようにすれば、アニメーションの作成において、同様の作用効果を奏することができる。
【0080】
したがって、上記本実施例によれば、高品質な動画を簡便に作成し得る。
【0081】
尚、本発明の動画の作成方法およびアニメーションの作成方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0082】
F1 動画(トレス動画、元動画)
F2 動画(変形動画、元動画)
F3 動画(中割り動画)
F4 動画(中割り動画)
K1 原画
K2 原画
図1
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