(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090865
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】異常判定モデル生成装置、異常判定装置、異常判定モデル生成方法および異常判定方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20220613BHJP
【FI】
G05B23/02 302Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203427
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】庄村 啓
(72)【発明者】
【氏名】平田 丈英
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223AA05
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223FF02
3C223FF13
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF35
3C223GG01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】監視対象の種類等を意識することなく汎用的に適用でき、かつ高精度な異常判定を行うことができる異常判定モデル生成装置、異常判定装置、異常判定モデル生成方法および異常判定方法を提供する。
【解決手段】異常判定モデル生成装置は、L次元の変数空間上におけるK個のL次元ベクトルについて、各変数間の相関の最大値が所定値未満である場合は、各変数の平均および分散を演算することにより、第一の異常判定モデルを生成し、各変数間の相関の最大値が所定値以上である場合は、主成分分析を行って主成分の変換係数を演算することにより、第二の異常判定モデルを生成し、正常動作時の時系列信号が、M種(M≧2)である場合は、同一時刻におけるM種の変数からなるM次元ベクトルを構成し、複数のM次元ベクトルに対して主成分分析を行って主成分の変換係数を演算することにより、第三の異常判定モデルを生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の動作を行う設備の異常を判定する異常判定モデルを生成する異常判定モデル生成装置であって、
前記設備の正常動作時に、前記設備の動作状態を示す1以上の時系列信号からK回の切り出しを行う時系列信号切り出し手段と、
前記時系列信号切り出し手段によって切り出した前記正常動作時の時系列信号から前記異常判定モデルを生成する異常判定モデル生成手段と、
を備え、
前記異常判定モデル生成手段は、
前記時系列信号切り出し手段によって切り出した前記正常動作時の時系列信号について、1回当たりの切り出し点数をL個とし、L個の変数からなるL次元ベクトルを構成し、
L次元の変数空間上におけるK個のL次元ベクトルについて、各変数間の相関の最大値が所定値未満である場合は、各変数の平均および分散を演算することにより、第一の異常判定モデルを生成し、
L次元の変数空間上におけるK個のL次元ベクトルについて、前記各変数間の相関の最大値が所定値以上である場合は、主成分分析を行って主成分の変換係数を演算することにより、第二の異常判定モデルを生成し、
前記時系列信号切り出し手段によって切り出した前記正常動作時の時系列信号が、M種(M≧2)である場合は、同一時刻におけるM種の変数からなるM次元ベクトルを構成し、M次元の変数空間上における複数のM次元ベクトルに対して主成分分析を行って主成分の変換係数を演算することにより、第三の異常判定モデルを生成する、
異常判定モデル生成装置。
【請求項2】
前記第一の異常判定モデルおよび前記第二の異常判定モデルは、前記時系列信号切り出し手段によって切り出した前記L次元ベクトルの時系列信号が、同一動作を示す信号で構成されている場合に生成する異常判定モデルであり、
前記第三の異常判定モデルは、前記時系列信号切り出し手段によって切り出した前記L次元ベクトルの時系列信号が、同一動作を示す信号で構成されておらず、2以上の種類(M種類)の信号がある場合に生成する異常判定モデルである請求項1に記載の異常判定モデル生成装置。
【請求項3】
前記設備の動作状態を示す時系列信号と、予め定めた監視対象区間から前記動作状態を示す時系列信号を切り出す条件を決定するトリガ候補の時系列信号と、を収集する時系列信号収集手段と、
前記設備の動作状態を示す時系列信号について、切り出したい前記監視対象区間の開始時刻を予め特定し、前記開始時刻のラベルをONとし、それ以外の時刻をOFFとするラベルデータを生成し、各時刻における1以上の前記トリガ候補の時系列信号の各値を入力とし、各時刻における前記ラベルデータを出力とするトリガ条件決定モデルを、機械学習により生成するトリガ条件決定モデル生成手段と、
を更に備え、
前記時系列信号切り出し手段は、前記設備の正常動作時に、前記トリガ条件決定モデルに基づいて、前記設備の動作状態を示す1以上の時系列信号からK回の切り出しを行う、
請求項1または請求項2に記載の異常判定モデル生成装置。
【請求項4】
前記トリガ条件決定モデルは、決定木を含む機械学習モデルである請求項3に記載の異常判定モデル生成装置。
【請求項5】
所定の動作を行う設備の異常を判定する異常判定装置であって、
前記設備の動作状態を示す1以上の時系列信号から異常判定用の時系列信号を切り出す時系列信号切り出し手段と、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の異常判定モデル生成装置によって生成された第一の異常判定モデル、第二の異常判定モデルおよび第三の異常判定モデルのいずれかを用いて、前記異常判定用の時系列信号から前記設備の異常を判定する異常判定手段と、
を備える異常判定装置。
【請求項6】
所定の動作を行う設備の異常を判定する異常判定装置であって、
前記設備の動作状態を示す時系列信号と、予め定めた監視対象区間から前記動作状態を示す時系列信号を切り出す条件を決定するトリガ候補の時系列信号と、を収集する時系列信号収集手段と、
請求項2または請求項3に記載された異常判定モデル生成装置によって生成されたトリガ条件決定モデルに、前記トリガ候補の時系列信号の各時刻の値を入力し、前記設備の動作状態を示す1以上の時系列信号について、トリガ決定モデルの出力がONとなった時点から予め定めた所定期間にL個のデータを切り出すことにより、異常判定用の時系列信号を切り出す時系列信号切り出し手段と、
請求項3または請求項4に記載の異常判定モデル生成装置によって生成された第一の異常判定モデル、第二の異常判定モデル、第三の異常判定モデルのいずれかを用いて、前記異常判定用の時系列信号から前記設備の異常を判定する異常判定手段と、
を備える異常判定装置。
【請求項7】
前記異常判定手段は、所定の期間において前記設備が異常と判定された回数に基づいて、前記設備の補修の要否を判定する請求項5または請求項6に記載の異常判定装置。
【請求項8】
所定の動作を行う設備の異常を判定する異常判定モデルを生成する異常判定モデル生成方法であって、
前記設備の正常動作時に、前記設備の動作状態を示す1以上の時系列信号からK回の切り出しを行う時系列信号切り出し工程と、
前記時系列信号切り出し工程によって切り出した前記正常動作時の時系列信号から前記異常判定モデルを生成する異常判定モデル生成工程と、
を含み、
前記異常判定モデル生成工程は、
前記時系列信号切り出し工程によって切り出した前記正常動作時の時系列信号について、1回当たりの切り出し点数をL個とし、L個の変数からなるL次元ベクトルを構成し、
L次元の変数空間上におけるK個のL次元ベクトルについて、各変数間の相関の最大値が所定値未満である場合は、各変数の平均および分散を演算することにより、第一の異常判定モデルを生成し、
L次元の変数空間上におけるK個のL次元ベクトルについて、前記各変数間の相関の最大値が所定値以上である場合は、主成分分析を行って主成分の変換係数を演算することにより、第二の異常判定モデルを生成し、
前記時系列信号切り出し工程によって切り出した前記正常動作時の時系列信号が、M種(M≧2)である場合は、同一時刻におけるM種の変数からなるM次元ベクトルを構成し、M次元の変数空間上における複数のM次元ベクトルに対して主成分分析を行って主成分の変換係数を演算することにより、第三の異常判定モデルを生成する、
異常判定モデル生成方法。
【請求項9】
前記第一の異常判定モデルおよび前記第二の異常判定モデルは、前記時系列信号切り出し工程によって切り出した前記L次元ベクトルの時系列信号が、同一動作を示す信号で構成されている場合に生成する異常判定モデルであり、
前記第三の異常判定モデルは、前記時系列信号切り出し工程によって切り出した前記L次元ベクトルの時系列信号が、同一動作を示す信号で構成されておらず、2以上の種類(M種類)の信号がある場合に生成する異常判定モデルである請求項8に記載の異常判定モデル生成方法。
【請求項10】
所定の動作を行う設備の異常を判定する異常判定方法であって、
前記設備の動作状態を示す1以上の時系列信号から異常判定用の時系列信号を切り出す時系列信号切り出し工程と、
請求項8に記載の異常判定モデル生成方法によって生成された第一の異常判定モデル、第二の異常判定モデルおよび第三の異常判定モデルのいずれかを用いて、前記異常判定用の時系列信号から前記設備の異常を判定する異常判定工程と、
を含む異常判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常判定モデル生成装置、異常判定装置、異常判定モデル生成方法および異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラント設備の状態監視では、一般に、そのプラント設備から得られる信号データに対して適当な上下限を設定することでプラント設備の異常を判定している。但し、バルブ等の一部の特定機器を監視対象とする場合は、機器の特性に応じた特徴量を抽出することにより、状態監視を行っている。
【0003】
しかしながら、一つの目的を実行するために複数の要素機器(設備)を組み合わせて構成されるプラント、例えば鉄鋼製品の製造プラント等では、前述のような状態監視では不十分の場合がある。例えば、このようなプラントにおいて、各設備は、多くの場合同じ動作を繰り返し行う。このため、各々の動作パターンから信号データの変化率や最大値、最小値、整定に要する時間といった特徴量をそれぞれ抽出し、抽出した特徴量を管理することにより、動作パターンを監視する必要がある。また、動作パターンが一定の設備に対しては、特徴量の抽出に代えて、ユーザによる手作業に従って動作パターン自体に上下限を設定することで動作パターンを監視し、異常を判定する場合もある(例えば特許文献1参照)。
【0004】
一方で、別の視点からのアプローチとして、多変量解析を利用した状態監視の手法も知られている。例えば、監視対象のプラント設備から収集した複数のプロセス量に対して主成分分析を行い、プロセス量をその主要な変化を表す少数の特徴量に変換するようにしたものが知られている(例えば特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-6028号公報
【特許文献2】特開2001-75642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記したような監視対象から得られる信号データに対して上下限を設定する手法や、特許文献1のように動作パターンに対して上下限を設定する手法では、プラントが複数の設備で構成されている場合、これら複数の設備のそれぞれに対して個別に上下限の設定を行わなければならず、マンパワーやコストが増大するという問題があった。一方、特許文献2の手法では、時間方向の情報が活かせないため、動作パターンを有する設備の状態監視では、異常判定の精度が低下する場合があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、監視対象の種類等を意識することなく汎用的に適用でき、かつ高精度な異常判定を行うことができる異常判定モデル生成装置、異常判定装置、異常判定モデル生成方法および異常判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る異常判定モデル生成装置は、所定の動作を行う設備の異常を判定する異常判定モデルを生成する異常判定モデル生成装置であって、前記設備の正常動作時に、前記設備の動作状態を示す1以上の時系列信号からK回の切り出しを行う時系列信号切り出し手段と、前記時系列信号切り出し手段によって切り出した前記正常動作時の時系列信号から前記異常判定モデルを生成する異常判定モデル生成手段と、を備え、前記異常判定モデル生成手段が、前記時系列信号切り出し手段によって切り出した前記正常動作時の時系列信号について、1回当たりの切り出し点数をL個とし、L個の変数からなるL次元ベクトルを構成し、L次元の変数空間上におけるK個のL次元ベクトルについて、各変数間の相関の最大値が所定値未満である場合は、各変数の平均および分散を演算することにより、第一の異常判定モデルを生成し、L次元の変数空間上におけるK個のL次元ベクトルについて、前記各変数間の相関の最大値が所定値以上である場合は、主成分分析を行って主成分の変換係数を演算することにより、第二の異常判定モデルを生成し、前記時系列信号切り出し手段によって切り出した前記正常動作時の時系列信号が、M種(M≧2)である場合は、同一時刻におけるM種の変数からなるM次元ベクトルを構成し、M次元の変数空間上における複数のM次元ベクトルに対して主成分分析を行って主成分の変換係数を演算することにより、第三の異常判定モデルを生成する。
【0009】
また、本発明に係る異常判定モデル生成装置は、上記発明において、前記第一の異常判定モデルおよび前記第二の異常判定モデルが、前記時系列信号切り出し手段によって切り出した前記L次元ベクトルの時系列信号が、同一動作を示す信号で構成されている場合に生成する異常判定モデルであり、前記第三の異常判定モデルが、前記時系列信号切り出し手段によって切り出した前記L次元ベクトルの時系列信号が、同一動作を示す信号で構成されておらず、2以上の種類(M種類)の信号がある場合に生成する異常判定モデルである。
【0010】
また、本発明に係る異常判定モデル生成装置は、上記発明において、前記設備の動作状態を示す時系列信号と、予め定めた監視対象区間から前記動作状態を示す時系列信号を切り出す条件を決定するトリガ候補の時系列信号と、を収集する時系列信号収集手段と、前記設備の動作状態を示す時系列信号について、切り出したい前記監視対象区間の開始時刻を予め特定し、前記開始時刻のラベルをONとし、それ以外の時刻をOFFとするラベルデータを生成し、各時刻における1以上の前記トリガ候補の時系列信号の各値を入力とし、各時刻における前記ラベルデータを出力とするトリガ条件決定モデルを、機械学習により生成するトリガ条件決定モデル生成手段と、を更に備え、前記時系列信号切り出し手段が、前記設備の正常動作時に、前記トリガ条件決定モデルに基づいて、前記設備の動作状態を示す1以上の時系列信号からK回の切り出しを行う。
【0011】
また、本発明に係る異常判定モデル生成装置は、上記発明において、前記トリガ条件決定モデルが、決定木を含む機械学習モデルである。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る異常判定装置は、所定の動作を行う設備の異常を判定する異常判定装置であって、前記設備の動作状態を示す1以上の時系列信号から異常判定用の時系列信号を切り出す時系列信号切り出し手段と、上記の異常判定モデル生成装置によって生成された第一の異常判定モデル、第二の異常判定モデルおよび第三の異常判定モデルのいずれかを用いて、前記異常判定用の時系列信号から前記設備の異常を判定する異常判定手段と、を備える。
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る異常判定装置は、所定の動作を行う設備の異常を判定する異常判定装置であって、前記設備の動作状態を示す時系列信号と、予め定めた監視対象区間から前記動作状態を示す時系列信号を切り出す条件を決定するトリガ候補の時系列信号と、を収集する時系列信号収集手段と、上記の異常判定モデル生成装置によって生成されたトリガ条件決定モデルに、前記トリガ候補の時系列信号の各時刻の値を入力し、前記設備の動作状態を示す1以上の時系列信号について、トリガ決定モデルの出力がONとなった時点から予め定めた所定期間にL個のデータを切り出すことにより、異常判定用の時系列信号を切り出す時系列信号切り出し手段と、上記の異常判定モデル生成装置によって生成された第一の異常判定モデル、第二の異常判定モデル、第三の異常判定モデルのいずれかを用いて、前記異常判定用の時系列信号から前記設備の異常を判定する異常判定手段と、を備える。
【0014】
また、本発明に係る異常判定装置は、上記発明において、前記異常判定手段が、所定の期間において前記設備が異常と判定された回数に基づいて、前記設備の補修の要否を判定する。
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る異常判定モデル生成方法は、所定の動作を行う設備の異常を判定する異常判定モデルを生成する異常判定モデル生成方法であって、前記設備の正常動作時に、前記設備の動作状態を示す1以上の時系列信号からK回の切り出しを行う時系列信号切り出し工程と、前記時系列信号切り出し工程によって切り出した前記正常動作時の時系列信号から前記異常判定モデルを生成する異常判定モデル生成工程と、を含み、前記異常判定モデル生成工程が、前記時系列信号切り出し工程によって切り出した前記正常動作時の時系列信号について、1回当たりの切り出し点数をL個とし、L個の変数からなるL次元ベクトルを構成し、L次元の変数空間上におけるK個のL次元ベクトルについて、各変数間の相関の最大値が所定値未満である場合は、各変数の平均および分散を演算することにより、第一の異常判定モデルを生成し、L次元の変数空間上におけるK個のL次元ベクトルについて、前記各変数間の相関の最大値が所定値以上である場合は、主成分分析を行って主成分の変換係数を演算することにより、第二の異常判定モデルを生成し、前記時系列信号切り出し工程によって切り出した前記正常動作時の時系列信号が、M種(M≧2)である場合は、同一時刻におけるM種の変数からなるM次元ベクトルを構成し、M次元の変数空間上における複数のM次元ベクトルに対して主成分分析を行って主成分の変換係数を演算することにより、第三の異常判定モデルを生成する。
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る異常判定モデル生成方法は、前記第一の異常判定モデルおよび前記第二の異常判定モデルが、前記時系列信号切り出し工程によって切り出した前記L次元ベクトルの時系列信号が、同一動作を示す信号で構成されている場合に生成する異常判定モデルであり、前記第三の異常判定モデルが、前記時系列信号切り出し工程によって切り出した前記L次元ベクトルの時系列信号が、同一動作を示す信号で構成されておらず、2以上の種類(M種類)の信号がある場合に生成する異常判定モデルである。
【0017】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る異常判定方法は、所定の動作を行う設備の異常を判定する異常判定方法であって、前記設備の動作状態を示す1以上の時系列信号から異常判定用の時系列信号を切り出す時系列信号切り出し工程と、上記の異常判定モデル生成方法によって生成された第一の異常判定モデル、第二の異常判定モデルおよび第三の異常判定モデルのいずれかを用いて、前記異常判定用の時系列信号から前記設備の異常を判定する異常判定工程と、を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、監視対象の種類等を意識することなく汎用的に適用でき、かつ時系列データのパターンを考慮して、高精度な異常判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る異常判定モデル生成装置および異常判定装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係るトリガ条件決定モデル生成方法の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係るトリガ条件決定モデル生成方法の時系列信号切り出し工程の内容を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係るトリガ条件決定モデル生成方法の時系列信号切り出し工程の内容を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係るトリガ条件決定モデル生成方法のトリガ条件決定モデル生成工程の内容を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係るトリガ条件決定モデル生成方法のトリガ条件決定モデル生成工程で生成する決定木を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係る時系列信号のトリガ条件決定方法のトリガ条件決定モデル生成工程において、1パルス信号をのこぎり波に変換する様子を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係る時系列信号のトリガ条件決定方法のトリガ条件決定モデル生成工程で変換したのこぎり波を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態に係る異常判定モデル生成方法の流れを示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係る異常判定モデル生成方法の異常判定モデル生成工程の内容を模式的に示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態に係る異常判定モデル生成方法において、第一の異常判定モデルを説明するための説明図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態に係る異常判定モデル生成方法において、第二の異常判定モデルを説明するための説明図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施形態に係る異常判定モデル生成方法において、第三の異常判定モデルを説明するための説明図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施形態に係る異常判定方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係る異常判定モデル生成装置、異常判定装置、異常判定モデル生成方法および異常判定方法について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
(異常判定装置)
異常判定装置は、例えば工場等の生産設備および研究所等の実験設備において、監視対象設備(以下、単に「設備」という場合もある)の異常を判定(診断)するための装置である。監視対象設備としては、例えば製鉄プロセスの設備、石油関連製品、化学薬品等の製造プロセスの生産設備、研究機関の実験設備等が挙げられる。
【0022】
異常判定装置1は、例えばパーソナルコンピュータやワークステーション等の汎用の情報処理装置によって実現される。この異常判定装置1は、
図1に示すように、入力部10と、出力部20と、演算部30と、記憶部40と、を備えている。ここで、異常判定装置1の構成要素のうち、演算部30の異常判定部35を除いた構成により、実施形態に係る「異常判定モデル生成装置」が実現される。
【0023】
入力部10は、演算部30に対するデータの入力手段であり、例えばデータ収集装置、キーボード、ポインティングデバイス等によって実現される。出力部20は、演算部30によって処理されたデータの出力手段であり、例えば液晶ディスプレイ等の表示装置等によって実現される。
【0024】
演算部30は、例えばCPU(Central Processing Unit)等からなるプロセッサと、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等からなるメモリ(主記憶部)と、によって実現される。演算部30は、プログラムを主記憶部の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各構成部等を制御することにより、所定の目的に合致した機能を実現する。
【0025】
また、演算部30は、前記したプログラムの実行を通じて、時系列信号収集部(時系列信号収集手段)31、時系列信号切り出し部(時系列信号切り出し手段)32、トリガ条件決定モデル生成部(トリガ条件決定モデル生成手段)33、異常判定モデル生成部(異常判定モデル生成手段)34および異常判定部(異常判定手段)35として機能する。なお、各部の詳細は後記する(
図2、
図9および
図14参照)。また、
図1では、一つの演算部30(≒一つのコンピュータ)によって各部の機能を実現する例を示しているが、複数の演算部によって各部の機能を実現してもよい。
【0026】
記憶部40は、演算部30による演算結果を格納する手段であり、例えばハードディスク装置等によって実現される。この記憶部40には、トリガ条件決定モデル41、第一の異常判定モデル42、第二の異常判定モデル43および第三の異常判定モデル44が格納されている。また、記憶部40には、上記のモデルの他に、例えば演算部30によって処理されたデータ(例えば監視対象信号、トリガ候補信号、トリガ条件等)も、必要に応じて格納される。
【0027】
トリガ条件決定モデル41とは、トリガ条件を決定する際に用いる学習モデルである。トリガ条件決定モデル41は、後記するように、トリガ条件決定モデル生成部33によって予め生成され、記憶部40に格納される。
【0028】
ここで、「トリガ条件」とは、後記する異常判定モデル生成方法において異常判定モデル(第一の異常判定モデル42、第二の異常判定モデル43および第三の異常判定モデル44)を生成する際、および後記する異常判定方法において異常判定を行う際に、時系列信号を切り出すための条件のことを示している。
【0029】
トリガ条件は、具体的には、設備の動作状態を示す時系列信号(以下、「設備状態時系列信号」ともいう)から、異常判定の対象となる区間(以下、「監視対象区間」という)を切り出すタイミングを指定する条件のことを示している。このトリガ条件は、例えば前記した時系列信号の切り出し開始時刻および切り出しの幅のことを示している。また、前記した監視対象区間から、設備動作時系列信号を切り出す条件(トリガ条件)を決定する時系列信号のことを、「トリガ候補信号」と呼ぶ。
【0030】
設備動作時系列信号は、監視対象設備の種類によって異なり、例えば監視対象設備が「モータ」である場合、設備動作時系列信号としてはモータの電流や速度等が用いられる。異常判定装置1では、1以上の設備状態時系列信号とこれに対応するトリガ候補信号を常時収集している。トリガ候補信号は、監視対象設備に関連した時系列信号であって、設備動作時系列信号と同時刻に検出された時系列信号のことを示している。
【0031】
通常、単一または複数の条件が成立したときに監視したい設備は動作を開始する。トリガ候補信号とはこの条件のことであり、例えばOn,Off等の信号である。このトリガ条件が事前に分かっていれば、監視対象区間の切り出しは容易である。しかし、多様な設備が多数あって複雑に動作する場合、このトリガ条件を容易に判断できないことがある。あるいは、トリガ条件を直接的に示すトリガ候補信号が必ずしもデータベースに取り込まれておらず、間接的な形での信号しか存在しない場合もある。
【0032】
そこで、設備動作条件を規定する信号群をトリガ候補信号として選択し、それらの信号の履歴から動作開始のルールを機械学習等で抽出して、監視対象区間を切り出すための条件を決定する。また、トリガ候補信号は、対象プロセスや設備等の異常とは直接関係しない信号が望ましく、各種指令値や特定のイベントのON/OFFを表す信号等が候補となる。但し、トリガ候補信号に、監視対象信号自身を含めてもよい。
【0033】
また、監視対象区間とは、設備動作時系列信号のうち異常判定を行うために切り出す区間のことを示している。設備動作時系列信号から監視対象区間を切り出す場合、当該時系列信号の切り出しを開始する時刻(以下、「切り出し開始時刻」という)と、切り出しの幅を指定する。その際、切り出し開始時刻は、設備動作時系列信号と同時に収集しているトリガ候補信号の値によって指定する。また、切り出しの幅は、監視対象設備の種類によって異なり、例えば監視対象設備が「モータ」である場合、モータが加速する区間を切り出しの幅として指定してもよい。あるいは、製品製造プロセスであれば、製造開始から製造終了までの区間の幅とすることもできる。
【0034】
第一の異常判定モデル42、第二の異常判定モデル43および第三の異常判定モデル44は、後記する異常判定方法において異常判定を行う際に用いられる学習モデルである。第一の異常判定モデル42、第二の異常判定モデル43および第三の異常判定モデル44は、後記するように、異常判定モデル生成部34によって予め生成され、記憶部40に格納される。なお、第一の異常判定モデル42、第二の異常判定モデル43および第三の異常判定モデル44の詳細については後記する。
【0035】
(トリガ条件決定モデル生成方法)
実施形態に係るトリガ条件決定モデル41の生成方法について、
図2~
図8を参照しながら説明する。トリガ条件決定モデル生成方法は、時系列信号収集工程(ステップS1)と、時系列信号切り出し工程(ステップS2~S5)と、トリガ条件決定モデル生成工程(ステップS6,S7)と、をこの順で行う。また、トリガ条件決定モデル生成方法では、後記するように、必要に応じて時系列信号切り出し工程およびトリガ条件決定モデル生成工程を繰り返す。
【0036】
<時系列信号収集工程>
時系列信号収集工程では、時系列信号収集部31が、設備状態時系列信号およびトリガ候補信号からなる信号群を収集する(ステップS1)。なお、ここでは時系列信号収集部31が複数の時系列信号を収集する場合について説明するが、時系列信号収集部31が収集する時系列信号は一つでもよい。
【0037】
<時系列信号切り出し工程>
時系列信号切り出し工程では、時系列信号切り出し部32が、時系列信号収集工程で収集された信号群について、所定の基準に基づいて、設備動作時系列信号の監視対象区間を切り出す。以下、時系列信号切り出し工程の詳細について説明する。
【0038】
時系列信号切り出し部32は、まず
図3に示すように、信号群の粗切り出しを行う(ステップS2)。例えばコイルの圧延設備等の繰り返し動作を行う設備では、連続して流れてくるコイルについて、設備状態時系列信号およびトリガ候補信号を切れ目なく連続して取得している。そこで、ステップS2では、例えばコイルごとに設備状態時系列信号およびトリガ候補信号を分割するために、信号群の粗切り出しを行う。なお、信号群の粗切り出しは、監視対象設備の種類に応じて予め設定したタイミングで行ってもよく、あるいは同図に示すように、複数のトリガ候補信号の中から粗切り出し用信号を選択し、当該粗切り出し用信号が立ち上がったタイミングで行ってもよい。
【0039】
なお、
図3において、符号Sgは粗切り出し前の信号群、符号Ssは粗切り出し前の設備状態時系列信号、符号Stは粗切り出し前のトリガ候補信号、符号Sg1,Sg2,Sg3は粗切り出し後の信号群、符号Ss1,Ss2,Ss3は粗切り出し後の設備状態時系列信号、符号St1,St2,St3は粗切り出し後のトリガ候補信号、を示している。
【0040】
次に、時系列信号切り出し部32は、
図4(a)に示すように、ステップS2で粗切り出しした複数の設備状態時系列信号の中から設備状態時系列信号(同図では設備状態時系列信号Ss1)を一つ選択し、選択した設備状態時系列信号Ss1の監視対象区間Sm1を切り出す(ステップS3)。ステップS3で監視対象区間Sm1を切り出す際の切り出し条件は、監視対象設備の設備特性に基づいて決定する。例えば監視対象設備が「モータ」であり、設備状態時系列信号Ss1が「モータの電流値」である場合であって、モータが加速する際のモータの電流値の上昇具合が正常か否かを判定する場合、同図に示すように、モータが加速する区間を監視対象区間Sm1とする。すなわち、監視対象区間Sm1の切り出し開始時刻としてモータが加速を開始する時点を指定し、切り出しの幅としてモータが加速を開始して加速が終了するまでの区間を指定する。
【0041】
次に、時系列信号切り出し部32は、ステップS3で切り出した監視対象区間Sm1に含まれる波形と、その他の設備状態時系列信号Ss2,Ss3に含まれる波形との相関係数を算出する(ステップS4)。次に、時系列信号切り出し部32は、
図4(b)に示すように、その他の設備状態時系列信号Ss2,Ss3について、ステップS3で切り出した監視対象区間Sm1に含まれる波形との相関係数が最も大きい区間を探索することにより、設備状態時系列信号Ss2,Ss3の監視対象区間Sm2,Sm3をそれぞれ切り出す(ステップS5)。
【0042】
このように、ステップS4,S5では、ステップS2で粗切り出しした他の時刻の設備状態時系列信号に含まれる波形の中から、ステップS3で切り出した監視対象区間Sm1に含まれる波形に類似した波形を探索する。なお、類似した波形の探索方法は、前記した相関係数の比較の他に、各時系列信号のデータ同士のユークリッド距離等を用いてもよい。
【0043】
<トリガ条件決定モデル生成工程>
トリガ条件決定モデル生成工程では、各信号群(複数の設備状態時系列信号)について、切り出したい監視対象区間の開始時刻を予め特定し、当該開始時刻のラベルをONとし、それ以外の時刻をOFFとするラベルデータを生成し、各時刻の1以上のトリガ候補信号の各値を入力とし、各時刻のラベルデータを出力とする学習モデルを、機械学習により生成する。
【0044】
トリガ条件決定モデル生成工程では、まず
図5に示すように、トリガ条件決定モデル生成部33が、各信号群について、切り出した監視対象区間Sm1,Sm2,Sm3の開始時刻p1,p2,p3に対応する設備状態時系列信号Ss1,Ss2,Ss3の値およびトリガ候補信号St1,St2,St3の値(以下、「信号群の値」という)に対して「トリガON」のラベルを付与し、切り出した監視対象区間Sm1,Sm2,Sm3の開始時刻以外の時刻に対応する信号群の値に「トリガOFF」のラベルを付与する(ステップS6)。なお、「トリガON」のラベルは、このラベルが付与された信号群の値が切り出し開始時刻であるということを示しており、「トリガOFF」のラベルは、このラベルが付与された信号群の値が切り出し開始時刻ではないということを示している。
【0045】
次に、トリガ条件決定モデル生成部33は、「トリガON」のラベルが付与された信号群の値および「トリガOFF」のラベルが付与された信号群の値を入力とし、「トリガON」のラベルおよび「トリガOFF」のラベルを出力として機械学習することにより、
図6に示すように、決定木を生成する(ステップS7)。
【0046】
具体的には、目的変数を「トリガON」および「トリガOFF」のラベルとし、「トリガON」および「トリガOFF」の各時刻に対応する各トリガ候補信号の値を説明変数とする学習用データを用いて、決定木を生成することができる。ここで、「トリガON」を“1”とし、「トリガOFF」を“0”として、関数として扱ってもよい。また、決定木以外の様々な機械学習モデルを利用することもできる。このため、ステップS7で生成する学習モデルは、決定木に限定されず、例えばランダムフォレストまたはニューラルネットワーク等であってもよい。ここで、「トリガON」を“1”とし、「トリガOFF」を“0”として、関数として扱ってもよい。
【0047】
ここで、トリガ条件決定モデル生成工程では、信号群に含まれるトリガ候補信号が1パルス信号、すなわち
図7の上図に示すように、ON-OFF信号のうち、信号の立ち上がりまたは立ち下がりの1スキャン分のみONする信号である場合、同図の下図に示すように、トリガ候補信号をのこぎり波に変換した後に機械学習を行う。
【0048】
図7の上図に示すように、1パルス信号は短い時間のみONする信号である。そのため、前記した時系列信号切り出し工程において、波形の類似度の高い箇所を探索している際に、本来であれば「トリガON」時に1パルス信号もONすべきなのに対して、「トリガON」となる時刻が、1パルス信号がONする時刻の前後にずれてしまう場合がある。一方、同図に示すように、1パルス信号をのこぎり波に変換することにより、1パルス信号のON、OFF遅れによる不具合を解消することができる。
【0049】
変換後のこぎり波の傾きは、例えば1パルス信号がONしてから何秒後までチェックしたいかにより決定し、次の信号の立ち上がりと重ならないような傾きに設定する。また、1パルス信号をのこぎり波に変換する際には、
図7のA部に示すように、切り出し開始点のズレにより、1パルス信号がONするよりも先に監視対象区間の切り出しを開始してしまうことに対する余裕分(例えば5scan程度)を持たせることが望ましい。
【0050】
また、のこぎり波の形状は、
図8に示すように、パラメータtf,tbにより定義されるが、当該パラメータtf,tbの関係を、tb<tfとすることが望ましい。また、のこぎり波では、同図に示すように、変換後の信号の値zがBで示す範囲内であれば、トリガONと判断する。
【0051】
トリガ条件決定モデル生成工程では、機械学習の際にトリガ条件が正常に生成できないエラーが発生した場合や、判別精度が所定の値を得られない場合等には、前記した時系列信号切り出し工程に戻り、前回切り出した監視対象区間を前後にシフトさせ、設備状態時系列信号の監視対象区間を新たに切り出した後、トリガ条件決定モデル生成工程を再度行う。すなわち、設備状態時系列信号の監視対象区間の切り出しをやり直した後、再度決定木の構築を行う。そして、機械学習の際にトリガ条件が正常に生成できた場合はトリガ条件決定モデル生成工程を終了し、正常に生成できなかった場合は再度時系列信号切り出し工程に戻り、時系列信号切り出し工程およびトリガ条件決定モデル生成工程をやり直す。
【0052】
本実施形態に係るトリガ条件決定モデル生成方法は、
図4で示したように、時系列信号切り出し工程で最初に指定した監視対象区間(監視対象区間Sm1)の開始時刻におけるトリガ候補信号の状態を学習する手法である。そのため、例えば最初に指定する監視対象区間の開始時刻におけるトリガ候補信号の状態に特徴がないような場合には、うまく学習を行うことができない。そこで、前記したように、トリガ条件決定モデル生成工程でエラーが発生した場合は、時系列信号切り出し工程で最初に指定した監視対象区間を前後にシフトさせ、監視対象区間を指定し直すことにより、学習の際の不具合を解消することができる。
【0053】
(異常判定モデル生成方法)
実施形態に係る異常判定モデル(第一の異常判定モデル42、第二の異常判定モデル43および第三の異常判定モデル44)の生成方法について、
図9~
図13を参照しながら説明する。異常判定モデル生成方法は、時系列信号収集工程(ステップS11)と、時系列信号切り出し工程(ステップS12)と、異常判定モデル生成工程(ステップS13~S18)と、をこの順で行う。
【0054】
<時系列信号収集工程>
時系列信号収集工程では、時系列信号収集部31が、設備状態時系列信号およびトリガ候補信号からなる信号群を収集する(ステップS11)。なお、ここでは時系列信号収集部31が複数の設備状態時系列信号を収集する場合について説明するが、時系列信号収集部31が収集する設備状態時系列信号は一つでもよい。
【0055】
<時系列信号切り出し工程>
時系列信号切り出し工程では、時系列信号切り出し部32が、時系列信号収集工程で収集された信号群について、正常動作時の設備状態時系列信号の監視対象区間を切り出す(ステップS12)。時系列信号切り出し工程において、時系列信号切り出し部32は、設備の正常動作時に、トリガ条件決定モデル41に基づいて、1以上の設備状態時系列信号から、監視対象区間のK回の切り出しを行う。すなわち、時系列信号切り出し部32は、正常動作時の設備状態時系列信号およびトリガ候補信号を、決定木に入力することにより、この決定木の分岐条件からトリガ条件を決定し、決定したトリガ条件に基づいて監視対象区間の切り出しを行う。
【0056】
<異常判定モデル生成工程>
異常判定モデル生成工程では、異常判定モデル生成部34が、時系列信号切り出し工程で切り出した正常動作時の設備状態時系列信号から異常判定モデルを生成する。異常判定モデル生成工程では、時系列信号切り出し工程で切り出した正常動作時の設備状態時系列信号について、1回当たりの切り出し点数をL個とし、L個の変数からなるL次元ベクトルを構成する。
【0057】
続いて、異常判定モデル生成部34は、設備状態時系列信号が同一動作する設備の波形であるか否かを判定する(ステップ13)。ここで、「同一動作する設備」とは、予め定めた動作を繰り返す設備であって、かつ得られる複数の時系列データがその動作単位で規則性を示す設備を意味する。但し、その動作条件は、設備の生産物等により異なり、複数のパターンを有するものであってもよい。
【0058】
設備状態時系列信号の設備仕様が同一動作をするものか否かは、設備担当者等には自明である。そのため、予め同一動作をする設備の設備状態時系列信号に対して、それぞれに同一動作の波形対象であることが分かるようなラベル(ここでは「同一動作波形ラベル」とする)を付けておく等して、設備状態時系列信号が同一動作の波形であるか否かを区別することもできる。
【0059】
あるいは、一動作ごとに波形を重ね描きして、その結果を表示して同一動作の波形であるか否かを判定してもよい。そして、同一動作の波形であると判定した設備状態時系列信号に、例えば上記の「同一動作波形ラベル」付しておく等して、設備状態時系列信号が同一動作の波形であるか否かを区別可能としてもよい。
【0060】
また、設備状態時系列信号の特性から同一動作波形と自動判定することも可能である。この場合、時系列信号切り出し工程で切り出したK個のL次元ベクトルのデータに対して、ベクトルの各要素のK個のデータによる分散値をそれぞれ計算し、その分散の最小値が所定値を超える場合には同一動作ではないと自動判断することができる。設備状態時系列信号が同一動作の波形であるか否かの判定は、以上記載したいずれの方法を利用しても構わない。
【0061】
設備状態時系列信号が同一動作の波形であると判定された場合(ステップ13でYes)、異常判定モデル生成部34は、L次元の変数空間上におけるK個のL次元ベクトルについて、各変数間の相関係数の最大値が所定値未満であるか否かを判定する(ステップS14)。
【0062】
各変数間の相関係数の最大値が所定値未満であると判定した場合(ステップS14でYes)、異常判定モデル生成部34は、各変数の平均および分散を演算することにより、第一の異常判定モデル42を生成し(ステップS15)、本処理を完了する。一方、各変数間の相関係数の最大値が所定値以上であると判定した場合(ステップS14でNo)、異常判定モデル生成部34は、主成分分析を行って主成分の変換係数を演算することにより、第二の異常判定モデル43を生成し(ステップS16)、本処理を完了する。ここで、第二の異常判定モデルは、具体的には主成分分析に基づくQ統計量、T2といった統計量の計算モデルを例示することができる。
【0063】
ステップS13において、設備状態時系列信号が同一動作の波形ではないと判定された場合(ステップ13でNo)、異常判定モデル生成部34は、対象としている設備の設備状態時系列信号がM種(M≧2)であるか否かを判定する(ステップS17)。
【0064】
対象としている設備の設備状態時系列信号がM種(M≧2)であると判定された場合(ステップS17でYes)、異常判定モデル生成部34は、同一時刻におけるM種の変数からなるM次元ベクトルを構成し、M次元の変数空間上における複数のM次元ベクトルに対して主成分分析を行って主成分の変換係数を演算することにより、第三の異常判定モデル44を生成し(ステップS18)、本処理を完了する。一方、ステップS17において、対象としている設備の設備状態時系列信号がM種(M≧2)ではない、すなわち設備状態時系列信号が1種(M=1)であると判定された場合(ステップS17でNo)、対象とするモデルがないため、そのまま本処理を完了する。
【0065】
ここで、設備状態時系列信号として、例えば
図10に示すように、設備の動作状態を示す変数が列方向に並び、設備ごとの時系列信号が行方向に並んだデータセットを想定した場合、第一の異常判定モデル42および第二の異常判定モデル43は、当該データセットから縦方向にデータを抽出することにより生成され、第三の異常判定モデル44は、当該データセットから横方向にデータを抽出することにより生成される。
【0066】
第一の異常判定モデル42および第二の異常判定モデル43は、時系列信号切り出し部32によって切り出したL次元ベクトルの時系列信号が、同一動作を示す信号で構成されている場合に生成する異常判定モデルである。また、第三の異常判定モデル44は、時系列信号切り出し部32によって切り出したL次元ベクトルの時系列信号が、同一動作を示す信号で構成されておらず、2以上の種類(M種類)の信号がある場合に生成する異常判定モデルである。
【0067】
また、設備状態時系列信号をL個切り出して取得した変数をL次元空間にプロットすると、
図11~
図13のように示すことができる。設備状態時系列信号がM種(M≧2)ではなく、かつ各変数間の相関係数の最大値が所定値未満である場合、
図11に示すように、正常動作時に得られた変数は球状に分布し、異常動作時に得られた変数は当該球状の分布から外れる。この場合、後記するように、第一の異常判定モデル42によって設備の異常判定が行われる。
【0068】
また、設備状態時系列信号がM種(M≧2)ではなく、かつ各変数間の相関係数の最大値が所定値以上である場合、
図12に示すように、正常動作時に得られた変数は楕円状に分布し、異常動作時に得られた変数は当該球状の分布から外れる。この場合、後記するように、第二の異常判定モデル43によって設備の異常判定が行われる。
【0069】
また、設備状態時系列信号がM種(M≧2)である場合、
図13に示すように、正常動作時に得られた変数は楕円状に分布し、異常動作時に得られた変数は当該球状の分布から外れる。この場合、後記するように、第三の異常判定モデル44によって設備の異常判定が行われる。
【0070】
(異常判定方法)
実施形態に係る異常判定方法について、
図14を参照しながら説明する。異常判定方法は、時系列信号収集工程(ステップS21)と、時系列信号切り出し工程(ステップS22)と、異常判定工程(ステップS23~S28)と、をこの順で行う。
【0071】
<時系列信号収集工程>
時系列信号収集工程では、時系列信号収集部31が、設備状態時系列信号およびトリガ候補信号からなる信号群を収集する(ステップS21)。なお、ここでは時系列信号収集部31が複数の設備状態時系列信号を収集する場合について説明するが、時系列信号収集部31が収集する設備状態時系列信号は一つでもよい。
【0072】
<時系列信号切り出し工程>
時系列信号切り出し工程では、時系列信号切り出し部32が、時系列信号収集工程で収集された信号群について、異常判定用の設備状態時系列信号の監視対象区間を切り出す(ステップS22)。時系列信号切り出し工程において、時系列信号切り出し部32は、トリガ条件決定モデル41に基づいて、1以上の設備状態時系列信号から、監視対象区間の切り出しを行う。すなわち、時系列信号切り出し部32は、設備状態時系列信号およびトリガ候補信号を、決定木に入力することにより、この決定木の分岐条件からトリガ条件を決定し、決定したトリガ条件に基づいて監視対象区間の切り出しを行う。
【0073】
時系列信号切り出し部32は、より具体的には、トリガ条件決定モデル41に、トリガ候補信号の各時刻の値を入力し、1以上の設備状態時系列信号について、トリガ条件決定モデル41の出力がONとなった時点から予め定めた所定期間にL個のデータを切り出すことにより、異常判定用の設備状態時系列信号の切り出しを行う。
【0074】
<異常判定工程>
異常判定工程では、異常判定部35が、第一の異常判定モデル42、第二の異常判定モデル43および第三の異常判定モデル44のいずれかを用いて、異常判定用の設備状態時系列信号から、設備の異常を判定する。
【0075】
異常判定工程では、異常判定部35が、時系列信号切り出し工程で切り出した異常判定用の設備状態時系列信号について、1回当たりの切り出し点数をL個とし、L個の変数からなるL次元ベクトルを構成する。
【0076】
続いて、異常判定部35は、設備状態時系列信号が同一動作する設備の波形であるか否かを判定する(ステップ23)。なお、同一動作の波形であるか否かは、前記した異常判定モデル生成工程で説明したいずれかの方法により判定することができる。
【0077】
設備状態時系列信号が同一動作の波形であると判定された場合(ステップ23でYes)、異常判定部35は、L次元の変数空間上におけるK個のL次元ベクトルについて、各変数間の相関係数の最大値が所定値未満であるか否かを判定する(ステップS24)。
【0078】
各変数間の相関係数の最大値が所定値未満であると判定した場合(ステップS24でYes)、異常判定部35は、第一の異常判定モデル42によって異常判定を行い(ステップS25)、本処理を完了する。一方、各変数間の相関係数の最大値が所定値以上であると判定した場合(ステップS24でNo)、異常判定部35は、第二の異常判定モデル43によって異常判定を行い(ステップS26)、本処理を完了する。
【0079】
ステップS23において、設備状態時系列信号が同一動作の波形ではないと判定された場合(ステップ23でNo)、異常判定部35は、対象としている設備の設備状態時系列信号がM種(M≧2)であるか否かを判定する(ステップS27)。
【0080】
対象としている設備の設備状態時系列信号がM種(M≧2)であると判定された場合(ステップS27でYes)、異常判定部35は、第三の異常判定モデル44によって異常判定を行い(ステップS28)、本処理を完了する。一方、ステップS27において、対象としている設備の設備状態時系列信号がM種(M≧2)ではない、すなわち設備状態時系列信号が1種(M=1)であると判定された場合(ステップS17でNo)、対象とするモデルがないため、何もせずにそのまま本処理を完了する。
【0081】
ここで、異常判定工程において、異常判定部35は、所定の期間において設備が異常と判定された回数に基づいて、当該設備の補修の要否を判定することが好ましい。設備の補修が必要な異常の判定回数は、実験的または経験的に求めることができる。
【0082】
以上説明したような実施形態に係る異常判定モデル生成装置、異常判定装置1、異常判定モデル生成方法および異常判定方法によれば、監視対象の種類等を意識することなく汎用的に適用でき、かつ時系列データのパターンを考慮して、高精度な異常判定を行うことができる。
【0083】
すなわち、実施形態に係る異常判定装置1および異常判定方法によれば、設備の種類や特性を意識することなく、設備の汎用的な異常判定が可能となる。実施形態に係る異常判定装置1および異常判定方法による異常判定は、実施形態で例示した設備に限らず、決まった動作を繰り返す設備であって、かつ得られる複数の時系列データがその動作単位で規則性を示す設備であれば、その設備の種類等に関わらず汎用的に適用することができる。そのため、例えば設備の種類や特性等に応じてパラメータを変更したり、あるいは操業条件等に応じてパラメータを再設定したりする必要がない。これにより、例えば鉄鋼製品の製造プラントのように、プラント設備の数が多い大規模なプラントにおける異常判定の単純化を図ることができ、異常判定に要するマンパワーやコストを低減することができる。
【0084】
更に、決まった動作を繰り返す設備ではなく、例えば複数の時系列信号を得られる設備については、異なる信号間の相関監視により、正常状態からの変化による異常判定を行うことができる。本実施形態では、同一のデータ構造を利用することで、汎用性を維持しつつ、波形の類似性監視および異なる信号間の相関監視という、二つの異なる視点での異常判定を行うことができる。
【0085】
また、実施形態に係る異常判定モデル生成装置、異常判定装置1、異常判定モデル生成方法および異常判定方法によれば、設備状態時系列信号およびトリガ候補信号がどのような条件のときにトリガONとなるかを学習させたトリガ条件決定モデル41を生成して用いることにより、設備状態時系列信号から監視対象区間を切り出すためのトリガ条件を自動的に決定することができる。また、実施形態に係る異常判定モデル生成装置、異常判定装置1、異常判定モデル生成方法および異常判定方法によれば、設備状態時系列信号の開始対象区間を切り出すトリガ条件を自動的に決定することができるため、トリガ条件を人の手で検討、決定する必要がなくなり、設備の異常判定の際に必要な事前準備を簡略化することができる。
【0086】
以上、本発明に係る異常判定モデル生成装置、異常判定装置、異常判定モデル生成方法および異常判定方法について、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0087】
1 異常判定装置
10 入力部
20 出力部
30 演算部
31 時系列信号収集部
32 時系列信号切り出し部
33 トリガ条件決定モデル生成部
34 異常判定モデル生成部
35 異常判定部
40 記憶部
41 トリガ条件決定モデル
42 第一の異常判定モデル
43 第二の異常判定モデル
44 第三の異常判定モデル