(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090917
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/60 20210101AFI20220613BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20220613BHJP
【FI】
H01M2/36 101H
H01M10/058
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203503
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄三
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 健幸
【テーマコード(参考)】
5H023
5H029
【Fターム(参考)】
5H023BB10
5H029AJ14
5H029CJ30
5H029HJ04
5H029HJ15
(57)【要約】
【課題】注液工程に掛かる時間を従来よりも短くできる電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】電池1の製造方法は、注液工程S2を備え、この注液工程S2は、金属製の電池ケース10内の気圧Pを第1気圧P1とした状態で、電解液17の液面高さHが、第1基準高さHa以上で、第2基準高さHbよりも低い中間液面範囲AHc内となる第1注液量V1の電解液17を注液する第1注液工程S21と、電池ケース10内の気圧Pを、第1気圧P1よりも高い第2気圧P2まで高めながら、電解液17の液面高さHを中間液面範囲AHc内に維持しつつ、規定量Vまで残りの第2注液量V2の電解液17を注液する第2注液工程S22とを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注液孔を有する金属製の電池ケースと、
上記電池ケース内に収容され、正極板の正極活物質層と負極板の負極活物質層とが対向する電極対向部を含む電極体と、
上記電池ケース内に収容された電解液と、を備える
電池の製造方法であって、
上記注液孔を通じて上記電池ケース内に上記電解液を注液する注液工程を備え、
上記注液工程は、
上記電池ケース内の気圧Pを予め定めた第1気圧P1とした状態で、注液された上記電解液の液面高さHが、上記電極体の上記電極対向部の全体が上記電解液に浸漬される第1基準高さHa以上で、かつ、上記注液孔に上記電解液が付着する第2基準高さHbよりも低い中間液面範囲(Ha≦H<Hb)内となる、予め定めた第1注液量V1の上記電解液を注液する第1注液工程と、
上記電池ケース内の気圧Pを、上記第1気圧P1よりも高い第2気圧P2(P2>P1)まで高めながら、上記電解液の上記液面高さHを上記中間液面範囲内に維持しつつ、規定量Vまで残りの第2注液量V2(V2=V-V1)の上記電解液を注液する第2注液工程と、を有する
電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電池の製造方法であって、
前記第2注液工程は、
前記電池ケース内の気圧Pを間欠的に高める気圧上昇と、上記電解液を間欠的に注液する追加注液とを交互に繰り返す
電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電池の製造方法であって、
前記第2注液工程は、
前記電池ケース内の気圧Pを連続的に高めながら、前記電解液を連続的に注液する
電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液を電池ケース内に注液する注液工程を備える電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池を製造するにあたっては、例えば、金属製の電池ケース内に電極体を収容した電池を組み立てた後、電池ケース内を大気圧よりも減圧し、電池ケースに設けられた注液孔を通じて電池ケース内に規定量の電解液を注液する。その後、電池ケース内の気圧を大気圧に戻して、注液した電解液の電極体内への含浸を促進させることが行われている。
しかしながら、電池の体積エネルギ密度を高めるなどの観点から、電池ケースはできる限り小型化されるため、電池ケースの内部のうち、電極体以外の空いた空間は狭くなっている。このため、電解液の注液速度を速くすると、規定量の電解液を注液し終えるよりも前に、電解液が注液孔から電池外部に溢れ出るため、電解液の電極体への含浸速度に合わせて、電解液をゆっくり注液する必要がある。このようにすると、注液時間が長く掛かって、電池の生産性が低くなる。
【0003】
これに対し、特許文献1では、以下の手法が提案されている(特許文献1の請求項1等を参照)。即ち、まず、電池ケース内を大気圧よりも減圧した状態で、電極体の少なくとも一部が電解液に浸漬されるまで電解液を注液する。次に、電池ケース内の気圧を高め、注液した電解液の電極体内への含浸を促進させて、電解液の液面を低下させる。その後、電解液の注液を再開し、残りの電解液を注液する。このようにすることで、一度に規定量の電解液を注液する上述の手法に比べて、1回目の注液において電解液の注液速度を速くでき、注液工程に掛かる時間を短くできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の手法でも、2回目の注液において電解液の注液速度を速くすると、残りの電解液を注液し終えるよりも前に、電解液が注液孔から電池外部に溢れ出るため、電解液の電極体への含浸速度に合わせて、電解液をゆっくり注液する必要がある。或いは、電解液の液面が十分に低下するまで待ってから、残りの電解液を注液する必要がある。このため、2回目の注液における注液時間が長く掛かる。このように、従来の注液工程は、時間が掛かるため、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、電解液を電池ケース内に注液する注液工程に掛かる時間を、従来よりも短くできる電池の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、注液孔を有する金属製の電池ケースと、上記電池ケース内に収容され、正極板の正極活物質層と負極板の負極活物質層とが対向する電極対向部を含む電極体と、上記電池ケース内に収容された電解液と、を備える電池の製造方法であって、上記注液孔を通じて上記電池ケース内に上記電解液を注液する注液工程を備え、上記注液工程は、上記電池ケース内の気圧Pを予め定めた第1気圧P1とした状態で、注液された上記電解液の液面高さHが、上記電極体の上記電極対向部の全体が上記電解液に浸漬される第1基準高さHa以上で、かつ、上記注液孔に上記電解液が付着する第2基準高さHbよりも低い中間液面範囲(Ha≦H<Hb)内となる、予め定めた第1注液量V1の上記電解液を注液する第1注液工程と、上記電池ケース内の気圧Pを、上記第1気圧P1よりも高い第2気圧P2(P2>P1)まで高めながら、上記電解液の上記液面高さHを上記中間液面範囲内に維持しつつ、規定量Vまで残りの第2注液量V2(V2=V-V1)の上記電解液を注液する第2注液工程と、を有する電池の製造方法である。
【0008】
前述の特許文献1の手法では、1回目の注液後に電池ケース内の気圧を高めたとき、電解液の液面が下がり過ぎて、液面から電極体の電極対向部が突出するため、空気が電極対向部内に侵入する。このため、その後に注液を再開して残りの電解液を注液する際に、電解液が電極対向部内に含浸し難くなるので、電解液が注液孔から電池外部に溢れ出ないように、残りの電解液をゆっくり注液する必要がある。或いは、電解液の液面が十分に低下するまで待ってから、残りの電解液を注液する必要がある。このため、2回目の注液に時間が掛かる。
【0009】
これに対し、上述の電池の製造方法では、まず第1注液工程で、注液された電解液の液面高さHが、上述の第1基準高さHa以上で、かつ上述の第2基準高さHbよりも低い中間液面範囲(Ha≦H<Hb)内となるまで、電解液を注液する。そして、その後の第2注液工程で電池ケース内の気圧Pを高める際にも、電解液の液面高さHを中間液面範囲(Ha≦H<Hb)内に維持しており、電極対向部の全体が電解液に浸漬された状態にあるため、液面から電極対向部が突出して空気が電極対向部内に侵入するのを防止できる。これにより、第2注液工程において、残りの第2注液量V2の電解液を短時間で注液できる。かくして、上述の電池の製造方法では、注液工程に掛かる時間を、特許文献1に記載の従来の手法よりも短くでき、電池の生産性を高めることができる。
【0010】
更に、上記の電池の製造方法であって、前記第2注液工程は、前記電池ケース内の気圧Pを間欠的に高める気圧上昇と、上記電解液を間欠的に注液する追加注液とを交互に繰り返す電池の製造方法とすると良い。
【0011】
上述の電池の製造方法では、第2注液工程は、電池ケース内の気圧Pを間欠的に高める気圧上昇と、電解液を間欠的に注液する追加注液とを交互に繰り返す。これにより、第2注液工程を簡易に行いながらも短時間で残りの電解液を注液できる。
【0012】
更に、前記の電池の製造方法であって、前記第2注液工程は、前記電池ケース内の気圧Pを連続的に高めながら、前記電解液を連続的に注液する電池の製造方法とすると良い。
【0013】
上述の電池の製造方法では、第2注液工程は、電池ケース内の気圧Pを連続的に高めながら、電解液を連続的に注液する。これにより、第2注液工程を特に短い時間で残りの電解液を注液できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施形態1,2に係る電池の縦断面図である。
【
図3】実施形態1,2に係る電池の製造方法のフローチャートである。
【
図4】実施形態1,2に係る注液工程を示す説明図である。
【
図5】実施形態1の注液工程に係り、経過時間tと電解液の液面高さH及び電池ケース内の気圧Pとの関係を示すグラフである。
【
図6】実施形態2の注液工程に係り、経過時間tと電解液の液面高さH及び電池ケース内の気圧Pとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
以下、本発明の第1の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。本実施形態1に係る電池1の斜視図を
図1に、縦断面図を
図2に示す。なお、以下では、電池1の縦方向AH、横方向BH及び厚み方向CHを、
図1及び
図2に示す方向と定めて説明する。この電池1は、ハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカー、電気自動車等の車両などに搭載される角型で密閉型のリチウムイオン二次電池である。電池1は、電池ケース10と、この内部に収容された電極体20と、電池ケース10に支持された正極端子部材30及び負極端子部材40等から構成されている。また、電池ケース10内には、電解液17が収容されており、その一部は電極体20内に含浸され、一部は電池ケース10の底部に溜まっている。
【0016】
このうち電池ケース10は、直方体箱状で金属(本実施形態ではアルミニウム)からなり、上側のみが開口した有底角筒状のケース本体部材11と、このケース本体部材11の開口を閉塞する形態で溶接された矩形板状のケース蓋部材13とから構成されている。電池ケース10のケース蓋部材13には、注液孔10hが設けられており、封止部材15によって気密に封止されている。また、ケース蓋部材13には、正極端子部材30及び負極端子部材40が、それぞれケース蓋部材13と電気的に絶縁された状態で固設されている。
【0017】
電極体20は、扁平状をなし、横倒しにした状態で電池ケース10内に収容されている。この電極体20は、帯状の正極集電箔22の両主面上に正極活物質層23が形成された帯状の正極板21と、帯状の負極集電箔26の両主面上に負極活物質層27が形成された帯状の負極板25とを、帯状の一対のセパレータ29を介して互いに重ね、軸線周りに扁平状に捲回したものである。
【0018】
電極体20は、横方向BHの一方側(
図1及び
図2中、左方)に位置する正極集電部20eと、横方向BHの他方側(
図1及び
図2中、右方)に位置する負極集電部20fと、これらの間に位置する電極対向部20gとからなる。このうち正極集電部20eは、正極板21のうち正極集電箔22が扁平状に捲回された部位である。一方、負極集電部20fは、負極板25のうち負極集電箔26が扁平状に捲回された部位である。他方、電極対向部20gは、正極板21のうち正極集電箔22上に形成された正極活物質層23と、負極板25のうち負極集電箔26上に形成された負極活物質層27とが、セパレータ29を介して対向しつつ扁平状に捲回された部位である。
【0019】
次いで、上記電池1の製造方法について説明する(
図3~
図5参照)。まず「組立工程S1」(
図3参照)において、電池1を組み立てる。具体的には、ケース蓋部材13を用意し、これに正極端子部材30及び負極端子部材40を固設する(
図1及び
図2参照)。その後、正極端子部材30及び負極端子部材40を、別途形成した電極体20の正極集電部20e及び負極集電部20fにそれぞれ溶接する。その後、この電極体20をケース本体部材11内に挿入すると共に、ケース本体部材11の開口をケース蓋部材13で塞ぐ。そして、ケース本体部材11とケース蓋部材13とを溶接して電池ケース10を形成する。
【0020】
次に、「注液工程S2」(
図3参照)を行い、ケース蓋部材13に設けられた注液孔10hを通じて電池ケース10内に、規定量V(本実施形態1では36.0ml)の電解液17を注液する。この注液工程S2は、
図4に示す注液装置100を用いて行う。この注液装置100は、電池1が収容される真空チャンバ110と、電池ケース10内に電解液17を注液する注液部130と、制御装置140等から構成されている。
【0021】
このうち真空チャンバ110には、真空ポンプ115、圧力調整バルブ120及び圧力センサ125が取り付けられている。なお、圧力調整バルブ120に代えて、マスフローコントローラを用いてもよい。
注液部130は、電池ケース10内に電解液17を注液する円筒状の注液ノズル131と、電解液17を貯留しておく電解液タンク133とを有しており、これらは液流通路135を介して互いに繋がっている。この液流通路135の途中には、流量計137及び注液バルブ139が配置されている。
【0022】
制御装置140は、図示しないCPU、ROM及びRAMを含み、ROM等に記憶された所定の制御プログラムによって作動するマイクロコンピュータを有する。この制御装置140には、真空ポンプ115、圧力調整バルブ120、圧力センサ125、流量計137及び注液バルブ139がそれぞれ接続されており、圧力センサ125及び流量計137の各信号に基づいて、真空ポンプ115の作動、圧力調整バルブ120の開閉、注液バルブ139の開閉をそれぞれ制御する。
【0023】
注液工程S2に先立ち、前述の組み立てた電池1を真空チャンバ110内に載置し、注液ノズル131の先端部を、注液孔10hを通じて電池ケース10内に挿入しておく。
まず注液工程S2のうち「第1注液工程S21」(
図3参照)において、真空チャンバ110内を大気圧P0=101kPaから減圧して、真空チャンバ110内及び電池ケース10内の気圧Pを、予め定めた第1気圧P1(本実施形態1では20kPa)とする(
図5における破線のグラフを参照)。その後、この減圧状態で電池ケース10内に予め定めた第1注液量V1(本実施形態1では20.0ml)の電解液17を注液する(
図5における実線のグラフを参照)。なお、
図5における経過時間t(秒)は、真空チャンバ110内(電池ケース10内)の減圧開始時を起点(t=0)とした経過時間である。
【0024】
この第1注液量V1=20.0mlは、電池ケース10内に注液された電解液17の、電池ケース10内の底面10bからの液面高さHが、電極体20の電極対向部20gの全体が電解液17に浸漬される第1基準高さHa以上で、かつ、注液孔10hに電解液17が付着する第2基準高さHbよりも低い中間液面範囲AHc(Ha≦H<Hb)内となる注液量である(
図2参照)。
本実施形態1では、第1基準高さHaは、電池ケース10内の底面10bから電極体20の上端20aまでの距離であり、具体的には第1基準高さHa=50mmである。また、第2基準高さHbは、電池ケース10内の底面10bから電池ケース10の内上面10a(ケース蓋部材13の下面)までの距離であり、具体的には第2基準高さHb=60mmである。一方、第1注液量V1=20.0mlの電解液17を電池ケース10内に注液すると、電解液17の液面高さHは概ね56mmとなる。
【0025】
この第1注液工程S21では、具体的には、制御装置140により、圧力調整バルブ120を閉めた後、真空ポンプ115を作動させて、真空チャンバ110内を減圧する(
図4及び
図5参照)。そして、圧力センサ125で検知される真空チャンバ110内及び電池ケース内の気圧Pが大気圧P0=101kPaから第1気圧P1=20kPaに下がると、真空ポンプ115を止めて、注液バルブ139を開き、時刻t1から、電解液17の電池ケース10内への注液を開始する。その後、第1注液量V1=20.0mlの電解液17が注液されたことが流量計137によって検知されると、注液バルブ139を閉じる。これにより、注液された電解液17の液面高さHは、中間液面範囲AHc(50≦H<60)内の高さ、具体的には約56mmとなる。
【0026】
次に、「第2注液工程S22」(
図3参照)において、電池ケース10内の気圧Pを、第1気圧P1=20kPaよりも高い第2気圧P2(本実施形態1では101kPa=大気圧P0)まで高めながら、電解液17の液面高さHを前述の中間液面範囲AHc(50≦H<60)内に維持しつつ、規定量V=36.0mlまで残りの第2注液量V2(=V-V1。本実施形態1では16.0ml)の電解液17を注液する。
【0027】
本実施形態1では、電池ケース10内の気圧Pを間欠的に高める気圧上昇と、電解液17を間欠的に注液する追加注液とを交互に繰り返す。具体的には、
図5に破線で示すように、電池ケース10内の気圧Pを8回に分けて(P1→P3→P4→P5→P6→P7→P8→P9→P2)間欠的に高める。一方、各気圧P3~P9,P2となった各時刻t3~t9,t2から、電解液17を追加注液量Va=2.0mlずつ8回に分けて間欠的に注液する。
【0028】
詳細には、制御装置140により圧力調整バルブ120を開けて、真空チャンバ110内及び電池ケース10内の気圧Pを第1気圧P1=20kPaから徐々に高める。すると、注液された電解液17の電極体20への含浸が促進されるため、電解液17の液面高さHは徐々に下がっていく。電極体20内に残留している空気の体積VDが、気圧Pの上昇により、気圧Pに反比例して減少するからである(ボイル則)。そして、圧力センサ125により検知される真空チャンバ110内の気圧が、予め定めた気圧P3=22.2kPaにまで上がったら、圧力調整バルブ120を閉じる。これにより、電解液17の液面高さHは、
図5に実線で示すように、約5mm下がって約51mm(中間液面範囲AHc(50≦H<60)内)となる。次いで時刻t3から、制御装置140により再び注液バルブ139を開いて、電解液17の注液を再開する。その後、追加注液量Va=2.0mlの電解液17が追加注液されたことが流量計137によって検知されると、注液バルブ139を閉じる。これにより、電解液17の液面高さHは、再び上昇して約56mmとなる。
【0029】
このように、電池ケース10内の気圧Pを間欠的に高める気圧上昇と、電解液17を間欠的に注液する追加注液とを交互に8回繰り返して、残りの第2注液量V2=16.0ml(=2.0ml×8)の電解液17を注液する。かくして、本実施形態1の注液工程S2では、経過時間t=450秒で規定量V=36.0mlの電解液17を注液できる。
なお、本実施形態1を行うに当たっては、予め、電池1と同形の電池を用い、液面センサなどによって液面高さHを計測しつつ、各気圧P3~P9の大きさと各回の電解液17の追加注液量Vaとの関係を調査するなどにより、気圧P3~P9の大きさを予め決定しておくと良い。
【0030】
ところで、詳細な試験結果の説明は省略するが、本実施形態1の注液工程S2に代えて、前述した特許文献1の手法を採用した場合、電池1に、規定量V=36.0mlの電解液17を注液するのに、経過時間t=850秒の時間が掛かることが判っている。従って、本実施形態1では、注液工程S2に掛かる時間を特許文献1の手法よりも大幅に短縮できる。
【0031】
注液工程S2を終えたら、真空チャンバ110内から電池1を取り出す。次に、「封止工程S3」において、電池1の注液孔10hを封止部材15で溶接により封止する。その後は、この電池1について、初充電や各種検査を行う。かくして、電池1が完成する。
【0032】
以上で説明したように、電池1の製造方法では、まず第1注液工程S21で、電解液17の液面高さHが、第1基準高さHa以上で、かつ第2基準高さHbよりも低い中間液面範囲AHc(Ha≦H<Hb)内となるまで、電解液17を注液する。そして、その後の第2注液工程S22で電池ケース10内の気圧Pを高める際にも、電解液17の液面高さHを中間液面範囲(Ha≦H<Hb)内に維持しており、電極対向部20gの全体が電解液17に浸漬された状態にあるため、液面17mから電極対向部20gが突出して空気が電極対向部20g内に侵入するのを防止できる。これにより、第2注液工程S22において、残りの第2注液量V2の電解液17を短時間で注液できる。かくして、電池1の製造方法では、注液工程S2に掛かる時間を、特許文献1に記載の従来の手法よりも短くでき、電池1の生産性を高めることができる。
【0033】
更に本実施形態1では、第2注液工程S22において、電池ケース10内の気圧Pを間欠的に高める気圧上昇と、電解液17を間欠的に注液する追加注液とを交互に繰り返している。これにより、第2注液工程S22を簡易に行いながらも短時間で残りの電解液17を注液できる。
【0034】
(実施形態2)
次いで、第2の実施形態について説明する。実施形態1に係る注液工程S2の第2注液工程S22では、前述のように、電池ケース10内の気圧Pを間欠的に高める気圧上昇と、電解液17を間欠的に注液する追加注液とを交互に繰り返して、残りの電解液17を注液した。これに対し、本実施形態2に係る注液工程S12の第2注液工程S122(
図3参照)では、電池ケース10内の気圧Pを連続的に高めながら、電解液17を連続的に注液して、残りの電解液17を注液する点が異なる(
図6参照)。
【0035】
第1注液工程S21は、実施形態1と同様に減圧と注液を行う。次いで時刻t1bから、第2注液工程S122では、圧力調整バルブ120に代え、電空レギュレータを用いて、真空チャンバ110内及び電池ケース10内の気圧Pを、
図6に破線で示すように、経過時間tが増加するにつれて接線の傾きが増加する曲線となるように、第1気圧P1=20kPaから第2気圧P2=101kPa=大気圧P0まで連続的に高める。その一方、注液バルブ139を開けて、電解液17を電池ケース10内に一定の追加流量Raで注液する。すると、
図6に実線で示すように、電解液17の液面高さHは概ね56mmに維持される。実施形態1と同じく、電極体20内に残留している空気の体積VDが、気圧Pの上昇により、気圧Pに反比例して減少する(ボイル則)。するとその分、電解液17の電極体20への含浸が促進されるからである。
【0036】
そして、第2注液量V2=16.0mlの電解液17が追加注液されたことが流量計137によって検知されると、注液バルブ139を閉じる。かくして、本実施形態2では、実施形態1の経過時間t=450秒よりも更に短い、経過時間t=420秒で規定量V=36.0mlの電解液17を注液できる。
【0037】
なお、本実施形態2を行うに当たっては、予め、電池1と同形の電池を用い、液面センサなどによって液面高さHを計測しつつ、各気圧Pの変化と追加注液する電解液17の追加流量Raとの関係を調査するなどにより、液面高さHが概ね一定となる、気圧Pの変化と追加注液する電解液17の追加流量Raとの関係を予め得ておくと良い。
【0038】
本実施形態2でも、注液工程S2に掛かる時間を、特許文献1に記載の従来の手法よりも短くでき、電池1の生産性を高めることができる。更に本実施形態2では、第2注液工程S122において、電池ケース10内の気圧Pを連続的に高めながら、電解液17を連続的に注液している。これにより、実施形態1の第2注液工程S22よりも更に短い時間で、残りの電解液17を注液できる。
【0039】
以上において、本発明を実施形態1,2に即して説明したが、本発明は実施形態1,2に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態1,2では、扁平状捲回型の電極体20を備える電池1の製造方法に本発明を適用したが、これに限られない。例えば、矩形状の正極板と矩形状の負極板とを矩形状のセパレータを介して交互に複数積層した積層型電極体を備える電池の製造方法に本発明を適用してもよい。
また、実施形態1,2では、P1<P2を満たす第1気圧P1及び第2気圧P2として、第1気圧P1を大気圧よりも低い気圧とし、第2気圧P2を大気圧P0とした(P2=P0)が、これに限られない。例えば、第1気圧P1を大気圧とし、第2気圧P2を大気圧よりも高い気圧とし、第1注液工程では減圧を行うこと無く注液し、その後の第2注液工程では、第2気圧P2に向けて気圧Pを間欠的にあるいは連続的に上昇させてもよい。
【0040】
また、実施形態1では、
図5に示すように、8回の間欠的な追加注液における電解液17の追加注液量Vaを、いずれもVa=2.0mlとする一方、間欠的に生じさせる気圧Pの変化(P1→P3→P4→P5→P6→P7→P8→P9→P2)を、後ほど(経過時間tが長くなるほど)徐々に大きくなるようにした。また、液面高さHが、H=約51mm~約56mmの範囲を繰り返し変化するように追加注液した。
しかし実施形態1とは異なり、間欠的に生じさせる気圧Pの変化の大きさを一定にする一方、間欠的な追加注液の追加注液量Vaを徐々に減少させ、追加注液による液面高さHの変化の範囲も徐々に減少するようにしても良い。
また、電解液17の液面高さHが、中間液面範囲AHc(Ha≦H<Hb)内の高さを保つように、第1注液量V1、及び、その後の間欠的な気圧Pの変化及び追加注液量Vaを定めれば良く、間欠的に生じさせる気圧Pの上昇の大きさや、間欠的な追加注液の追加注液量Vaの大きさ、追加注液による液面高さHの変化の範囲が、気圧上昇及び追加注液の度に異なっていても良い。
【0041】
同様に実施形態2では、
図6に示すように、連続的な追加注液における電解液17の追加流量Raを一定とする一方、第1気圧P1から第2気圧P2までの気圧Pの変化(P1→P2)を、後ほど(経過時間tが長くなるほど)徐々に大きくなるようにした。また、液面高さHが、一定(H=約56mm)となるように追加注液した。
しかし実施形態2とは異なり、連続的に生じさせる気圧Pの変化の大きさをほぼ直線的に変化させる一方、追加注液の追加流量Raを徐々に減少させて、追加注液による液面高さHは一定になるようにしても良い。
また、電解液17の液面高さHが、中間液面範囲AHc(Ha≦H<Hb)内の高さを保つように、第1注液量V1、及び、その後の気圧Pの変化及び追加注液量Vaを定めれば良く、連続的に生じさせる気圧Pの上昇の大きさや、追加注液の追加流量Raの大きさ、追加注液による液面高さHが、気圧上昇及び追加注液の進行と共に変化するようにしても良い。
更には、前半は気圧Pを連続的に上昇させつつ連続的に追加注液を行う一方、後半は、気圧Pの上昇と追加注液とを間欠的に交互に行うようにするなど、適宜組合せることもできる。
【符号の説明】
【0042】
1 電池
10 電池ケース
10h 注液孔
15 封止部材
17 電解液
20 電極体
20g 電極対向部
21 正極板
23 正極活物質層
25 負極板
27 負極活物質層
S1 組立工程
S2,S12 注液工程
S21 第1注液工程
S22,S122 第2注液工程
S3 封止工程
V 規定量
V1 第1注液量
V2 第2注液量
Va 追加注液量
Ra 追加流量
P (電池ケース内の)気圧
P1 第1気圧
P2 第2気圧
H 液面高さ
Ha 第1基準高さ
Hb 第2基準高さ
AHc 中間液面範囲