(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090974
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ
(51)【国際特許分類】
B23K 35/30 20060101AFI20220613BHJP
【FI】
B23K35/30 320B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203610
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】永冶 仁
(72)【発明者】
【氏名】上仲 明郎
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】原 理
(57)【要約】
【課題】高温強度および耐酸化特性に優れたフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤを提供する。
【解決手段】フェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤは、質量%で、C:0.001~0.050%、Si:0.01~2.00%、Mn:0.01~1.50%、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Cr:16.0~25.0%、Ti:0.001~0.150%、O:0.020%以下、N:0.05%以下を含むとともに、更に、Nb:0.01~1.80%、Mo:0.01~3.60%、W:0.01~3.60%から選択される1種もしくは2種以上を含み、且つ、下記式(1),式(2),式(3)を満たし、残部がFe及び不可避的不純物の組成を有する。
[Nb]+[Mo]+[W]+0.25[Si]≧2.2・・式(1)、[Mo]+[W]≦3.6・・式(2)
[Ti]+[Al]≦0.15 ・・式(3)、但し、式中[ ]は、[ ]内元素の含有質量%を表す
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.001~0.050%、
Si:0.01~2.00%、
Mn:0.01~1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.010%以下、
Cr:16.0~25.0%、
Ti:0.001~0.150%、
O:0.020%以下、
N:0.050%以下を含むとともに、
更に、
Nb:0.01~1.80%、
Mo:0.01~3.60%、
W:0.01~3.60%から選択される1種もしくは2種以上を含み、
且つ、下記式(1),式(2),式(3)を満たし、
残部がFe及び不可避的不純物の組成を有することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ。
[Nb]+[Mo]+[W]+0.25[Si]≧2.2 ・・式(1)
[Mo]+[W]≦3.6 ・・式(2)
[Ti]+[Al]≦0.15 ・・式(3)
但し、式中[ ]は、[ ]内元素の含有質量%を表す
【請求項2】
請求項1において、質量%で、
Cu:0.1~3.0%、
B:0.01%以下、
V:0.1~2.0%、
Ta:0.05~0.50%、
Zr:0.001~0.010%、
Y:0.001~0.010%、
の何れか1種以上を更に含有することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、
前記Nが0.049質量%以下であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ。
【請求項4】
請求項1~3の何れかにおいて、
前記Crが17.0~19.2質量%であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ。
【請求項5】
請求項1~4の何れかにおいて、
前記Cが0.042質量%以下であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ。
【請求項6】
請求項1~5の何れかにおいて、
前記Alが0.001~0.150質量%であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて低価格であるとともに、熱膨張係数が低いため熱歪が抑制でき、且つ、耐高温酸化特性にも優れることから、高温腐食ガス環境下で使用される自動車排気系部品に多く使用されている。例えば、エンジンからの排気ガスをまとめた上で排気管へ送るためのエキゾーストマニホールドや、触媒存在下で酸化還元反応を利用して排気ガスを浄化させるためのコンバータのケースなどが挙げられる。これら複雑形状を有する部品は、フェライト系ステンレス鋼からなる部材を溶接して組み立てられる。通常、フェライト系ステンレス鋼の溶接には、フェライト系ステンレス鋼からなる溶接ワイヤが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば上記特許文献1に記載されているように、従来のフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤでは、高温強度の向上を目的にNb,Mo,W等が添加されている。加えて、長時間暴露による高温強度の低下要因となるNbの炭窒化物の形成を抑制するために、Tiの添加がされている。しかし、Mo,W,Tiの添加は、溶接ワイヤに必要とされる耐酸化特性を悪化させてしまう。
【0005】
本発明は以上のような事情を背景とし、高温強度および耐酸化特性に優れたフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、フェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤにおける各種添加成分の、高温強度および耐酸化特性に及ぼす影響を調査し、各種添加成分における高温強度に及ぼす影響の度合い(程度)と、耐酸化特性に及ぼす影響の程度を勘案し、それらの添加量を適正にバランスさせることで、全体の効果として高温強度を効果的に所望の値以上確保し、併せて耐酸化特性を確保している。
【0007】
なお本発明では、高温強度の向上に有効なNb,Mo,W,Siについて各添加量を下記式(1)で規定している。ただしMo,Wを過剰に添加した場合に耐酸化特性が悪化するため、MoとWの総量を下記式(2)で規定している。また溶接性の悪化を抑えることも高温強度の向上に有効であるため、溶接性に影響を与えるTiとAlの総量を下記式(3)にて規定している。
【0008】
而して本発明の要旨は、次の通りである。
【0009】
[1] 質量%で、C:0.001~0.050%、Si:0.01~2.00%、Mn:0.01~1.50%、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Cr:16.0~25.0%、Ti:0.001~0.150%、O:0.020%以下、N:0.050%以下を含むとともに、
更に、Nb:0.01~1.80%、Mo:0.01~3.60%、W:0.01~3.60%から選択される1種もしくは2種以上を含み、且つ、下記式(1),式(2),式(3)を満たし、
残部がFe及び不可避的不純物の組成を有することを特徴とするフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ。
[Nb]+[Mo]+[W]+0.25[Si]≧2.2 ・・式(1)
[Mo]+[W]≦3.6 ・・式(2)
[Ti]+[Al]≦0.15 ・・式(3)
但し、式中[ ]は、[ ]内元素の含有質量%を表す
【0010】
[2] 質量%で、Cu:0.1~3.0%、B:0.01%以下、V:0.1~2.0%、Ta:0.05~0.50%、Zr:0.001~0.010%、Y:0.001~0.010%、の何れか1種以上を更に含有することを特徴とするを特徴とする[1]に記載のフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温強度および耐酸化特性に優れたフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例における試験片の作製および採取方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤは、Cと、Siと、Mnと、Pと、Sと、Crと、Tiと、Oと、Nと、更にNbと、Moと、Wから選択される1種もしくは2種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。また、Al、Cu、B、V、Ta、Zr、Yを更に含有してもよい。
【0014】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼溶接ワイヤにおける各化学成分の限定理由を以下に詳述する。尚、以降の説明では、特にことわりがない限り「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0015】
C:0.001~0.050%
Cは、溶接部の強度を高める観点から0.001%以上含有させる。ただし、過剰な添加はマルテンサイト形成による溶接部の脆化および延性靭性低下を招くため、その上限を0.050%とする。より好ましい上限は0.042%である。
【0016】
Si:0.01~2.00%
Siは、Nbの炭窒化物の粒界析出抑制、溶接割れ防止に有効な元素である。また0.01%以上含有させることで耐酸化特性を高めることができる。但し、過剰な添加は靭性劣化や、Moの固溶を抑制し機械強度低下を招くため、その上限を2.00%とする。好ましいSiの含有量は、0.30~1.95%である。また、より好ましいSiの含有量は0.30~1.00%である。
【0017】
Mn:0.01~1.50%
Mnは、溶製時に脱酸剤として利用される。但し、過剰な添加は硫化物を生成し、靭性低下させるため、Mn含有量は0.01~1.50%の範囲とする。好ましいMnの含有量は、0.30~0.90%である。また、より好ましいMnの含有量は0.40~0.80%である。
【0018】
Cr:16.0~25.0%
Crは、溶接金属の強度を高めるとともに、表面に緻密な酸化皮膜を形成して耐酸化性,耐食性を向上させる。このような特性を発揮させるため、本発明では16.0%以上含有させる。但し、過剰な添加は脆化、硬化、靭性低下を招くため、その上限を25.0%とする。好ましいCrの含有量は、16.5~21.0%である。また、より好ましいCrの含有量は17.0~19.2%である。
【0019】
Ti:0.001~0.150%
Tiは、炭窒化物を形成し溶接金属の結晶粒を微細化させる。また、Nbによる固溶強化を促進する。但し、過剰な添加は溶接性を損なうため、Ti含有量は0.001~0.150%の範囲とする。
【0020】
O:0.020%以下
Oは、SiO2,Al2O3等の酸化物を形成し、靭性を低下させる。このため、0量は0.020%以下である必要がある。
【0021】
N:0.050%以下
Nは、Cr窒化物を析出させ、粒界にCr欠乏層を形成させる。これにより溶接部の耐食性が低下するため、N量は0.050%以下である必要がある。より好ましくは0.049%以下である。
【0022】
P:0.030%以下、S:0.010%以下
P量、S量が過剰になると溶接割れを引き起こし易くなり、溶接部の靭性が低下する。
このためP量は0.030%以下、S量は0.010%以下である必要がある。
【0023】
Nb:0.01~1.80%
Mo:0.01~3.60%
W:0.01~3.60%
本実施形態では、高温強度の向上に寄与するNb、Mo、Wの1種もしくは2種以上を含有させる。
【0024】
Nbは、耐酸化性および高温強度向上に有効な元素である。但し、過剰な添加は耐溶接割れ性が低下するため、Nb含有量は0.01~1.80%の範囲とする。好ましいNb含有量は、0.20~1.72%である。より好ましい範囲は0.20~0.80%である。
Moは、固溶強化により強度を向上させる。但し、過剰な添加は特性が飽和し材料コストが上昇するため、Mo含有量は0.01~3.60%の範囲とする。好ましいMo含有量は、0.01~2.40%である。より好ましい範囲は1.00~2.30%である。
Wは、固溶強化により強度を向上させる。但し、過剰な添加は特性の飽和とコスト増を招くため、W含有量は0.01~3.60%の範囲とする。好ましいW含有量は、0.01~2.60%である。より好ましい範囲は0.80~2.50%である。
【0025】
Al:0.001~0.150%
Alは、窒化物を生成し溶接金属の結晶粒を微細化させる効果を有する。但し、過剰な添加は靭性低下、スパッタ増大をもたらすため、その好ましい含有量は0.001~0.150%である。
【0026】
Cu:0.1~3.0%
Cuは、引張強度および耐食性の向上に有効であるため、必要に応じて含有させることができる。但し、過剰な添加は靭延性の低下を招くため、その好ましい含有量は0.1~3.0%である。
【0027】
B:0.01%以下
Bは、溶接金属の結晶粒微細化による強度向上に有効であるため、必要に応じて含有させることができる。但し、過剰な添加は特性の飽和を招くため、好ましいBの含有量は0.010%以下である。
【0028】
V:0.1~2.0%
Vは、固溶強化により強度を向上させるため、必要に応じて含有させることができる。但し、過剰な添加は特性の飽和を招くため、好ましいVの含有量は0.1~2.0%である。
【0029】
Ta:0.05~0.50%
Taは、Cの安定元素で、防錆強化に有効であるため、必要に応じて含有させることができる。但し、過剰な添加は特性の飽和を招くため、好ましいTaの含有量は0.05~0.50%である。
【0030】
Zr:0.001~0.010%
Zrは、溶接金属の結晶粒微細化による強度向上に有効であるため、必要に応じて含有させることができる。但し、過剰な添加は特性の飽和を招くため、好ましいZrの含有量は0.001~0.010%である。
【0031】
Y:0.001~0.010%
Yは、結晶粒微細化,高温酸化抑制,機械強度向上に有効であるため、必要に応じて含有させることができる。但し、過剰な添加は特性の飽和を招くため、好ましいYの含有量は0.001~0.010%である。
【0032】
[Nb]+[Mo]+[W]+0.25[Si]≧2.2 ・・式(1)
Nb,Mo,W,Siは、溶接部の高温強度を高める効果がある。式(1)中Nb,Mo,W,Siの係数は、それぞれ高温強度に対する寄与度を表している。
式(1)左辺の値が過度に小さい場合は、固溶強化による強度向上が不十分となってしまうため、式(1)左辺の値が2.2以上となるように成分調整する。より好ましい式(1)左辺の値は、2.4以上である。
【0033】
[Mo]+[W]≦3.6 ・・式(2)
Mo,Wは、高温強度を高める効果を有する一方で、溶接部の耐酸化特性を悪化させる。MoおよびWの総量、即ち式(2)左辺の値が過度に大きい場合は、低融点・高揮発性の酸化物を形成し異常酸化を起こす可能性があるため、式(2)左辺の値が3.6以下となるように成分調整する。より好ましい式(2)左辺の値は、3.4以下である。
【0034】
[Ti]+[Al]≦0.15 ・・式(3)
TiおよびAlは、溶接性に影響を与える。過剰なTi,Alの添加は、溶融金属の表面張力を増大させるため、溶滴が大きくなるとともに溶滴移行が阻害される。このような溶接性の悪化は、溶接欠陥を生じさせ溶接部の強度を低下させる。このため本例では、式(3)左辺の値が0.15以下となるように成分調整する。より好ましい式(3)左辺の値は、0.10以下である。
【0035】
上記化学組成からなる本実施形態の溶接ワイヤは、主相がフェライト単相組織である。溶接ワイヤの直径や長さは、特に限定されるものではなく、目的に応じた値を選択することが可能である。また本実施形態の溶接ワイヤは、フェライト系ステンレス鋼のみからなるソリッドワイヤであっても良く、あるいはフラックスを含むフラックス入りワイヤであっても良い。
【実施例0036】
次に本発明の実施例を以下に説明する。ここでは、下記表1に示す実施例および比較例の化学組成を有する溶接ワイヤを用いて形成された溶接金属についての耐酸化特性および高温強度の評価を行った。
【0037】
【0038】
【0039】
1.試験片の作製
上記表1に示す化学組成からなる合金を溶製し、得られた鋳塊に熱間加工及び冷間加工を行い、直径φ1.2mmの溶接ワイヤを作製した。
【0040】
次に、
図1に示すように、溶接ワイヤを用いて開先面にバタリング溶接した厚さ20mmの市販のSUS430鋼板を供試母材とし、溶接ワイヤを用いて開先部に下記に示す条件でMIG溶接を行い、溶接金属を形成した。
溶接条件:溶接電流200A、アーク電圧3.5V、溶接速度60cm/min、
インターパス温度150~250℃、シールドガスとしてAr+2体積%O
2を使用。
【0041】
そして、
図1に示すように、JIS Z 3111に準拠して、溶接部(溶接金属)から溶接線方向に沿って試験片全体が溶接金属からなるよう、高温強度評価用の丸棒型引張試験片を採取した。また、この溶接部から耐酸化特性評価用の試験片も採取した。
【0042】
2.評価
2-1.耐酸化特性
溶接部から採取した試験片(サイズ:1.5×15×25mm)を用いて、JIS Z 2281に準拠して、大気下900℃×200hrにおける連続酸化試験を行い酸化増量について測定した。判定基準は下記の通りとした。
◎:酸化増量2.5mg/cm2以下
○:酸化増量2.5超~4.0mg/cm2
×:酸化増量4.0mg/cm2超
ここで、フェライト系ステンレス鋼の溶接ワイヤに要求される耐酸化特性を考慮して、酸化増量が4.0mg/cm2以下であった場合、即ち上記「◎」もしくは「〇」の場合を合格とした。この結果を下記表2に示した。
【0043】
2-2.高温強度
溶接部から採取した丸棒型引張試験片を用い、JIS G0567に準拠して900℃で高温引張試験を行ない、引張強さを測定した。判定基準は下記の通りとした。
◎:引張強さ40MPa以上
○:引張強さ35~40MPa未満
×:引張強さ35MPa未満
ここで、母材としてSUS444を用いた場合でも溶接部が最弱部位にならない強度が確保できるように、引張強さが35MPa以上であった場合、即ち上記「◎」もしくは「〇」の場合を合格とした。この結果を下記表2に示した。
【0044】
【0045】
【0046】
表2の評価結果により、以下のことが分かる。
比較例1は、Cが本発明の上限0.05%を超えて添加され、且つ高温強度に関する式(1)の条件を満たしていない例である。この比較例1では高温時の引張強さが低い。
【0047】
比較例2は、Cが本発明の上限0.05%を超えて添加され、且つCrが本発明の下限16.0%を下回っている例であり、酸化増量が多く耐酸化特性が低い。また、この比較例2は高温強度に関する式(1)の条件も満たしておらず、高温時の引張強さの値も低い。
【0048】
比較例3は、Siが本発明の上限2.00%を超えて添加された例である。過剰なSiは溶接部の靭性を低下させる。このため比較例3では高温時の引張強さの値が低い。
【0049】
比較例4は、Alが本発明の上限0.15%を超えて添加され、且つ溶接性に関する式(3)の条件を満たしていない例である。適量のAl添加は結晶粒微細化に寄与するが、過剰にAlが添加され溶接性に関する式(3)の条件を満たしていない場合、溶接欠陥が生じ易く、この比較例4では高温時の引張強さの値が低い。
【0050】
比較例5および比較例6は、いずれもCuが本発明の上限3.0%を超えて添加された例である。Cuの過剰添加は溶接部の靭性延性を低下させる。このため比較例5および比較例6は高温時の引張強さの値が低い。
【0051】
以上のように、各比較例においては耐酸化特性、高温強度の少なくともいずれか一方の評価が不合格(「×」)である。
【0052】
これに対し、溶接ワイヤの化学組成が本発明の範囲内である実施例1~38は、耐酸化特性、高温強度いずれの評価も合格(「◎」もしくは「○」)である。
例えば、実施例1~7に注目すると、高温強度に関する式(1)左辺の値が大きい場合に引張強さの値が大きく、高温強度が向上していることが分かる。
Alが添加された実施例8~14は、Al非添加の実施例1~7に比べて引張強さの値が大きく、Al添加による高温強度向上の効果が認められる。
Cuが添加された実施例15~18は、Cu非添加の実施例1~7に比べて、耐酸化特性、高温強度共に向上している。
AlとともにCu、B、V、Ta、Zr、Yの何れかが添加された実施例19~36についても、実施例1~7に比べて、耐酸化特性、高温強度共に向上している。
【0053】
以上本発明について詳しく説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。