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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090980
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】ガスバリア性積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20220613BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20220613BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220613BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
B32B27/00 B
B32B9/00 A
B65D65/40 D
C23C14/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203616
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000220099
【氏名又は名称】三井化学東セロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信悟
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 隆明
(72)【発明者】
【氏名】袴田 智宣
(72)【発明者】
【氏名】小田川 健二
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4K029
【Fターム(参考)】
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB01
3E086CA01
3E086DA08
4F100AA01B
4F100AA04C
4F100AA19B
4F100AA25C
4F100AK07E
4F100AK25C
4F100AK42A
4F100AK48E
4F100AK51D
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10E
4F100CA18C
4F100CB00D
4F100CB00E
4F100EH46C
4F100EH66B
4F100EJ37E
4F100EJ86C
4F100GB15
4F100GB41
4F100JD02C
4F100JD03
4F100JD04
4F100JN01B
4K029AA11
4K029AA25
4K029BA44
4K029CA01
4K029GA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ラミネート構造によらず、レトルト処理後のバリア性能が良好なバリアフィルムに用いることができるバリア性積層体を提供する。
【解決手段】基材層2と、基材層2の少なくとも一方の面に設けられたガスバリア性層5と、基材層2とガスバリア性層5との間に設けられた無機物層4と、を備え、ガスバリア性層5をX線光電子分光分析することにより測定される、Znの組成比が1~10atomic%であり、ガスバリア性層5を飛行時間型二次イオン質量分析することにより測定される、64ZnPOのピーク強度をI(64ZnPO)、C のピーク強度をI(C )としたとき、I(64ZnPO)/I(C )の値が7×10-4以上5×10-2以下であるガスバリア性積層体1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面に設けられたガスバリア性層と、前記基材層と前記ガスバリア性層との間に設けられた無機物層と、を備え、
前記ガスバリア性層をX線光電子分光分析することにより測定される、Znの組成比が1~10atomic%であり、
前記ガスバリア性層を飛行時間型二次イオン質量分析することにより測定される、64ZnPOの質量ピーク強度をI(64ZnPO)、C の質量ピーク強度をI(C )としたとき、
I(64ZnPO)/I(C
の値が7×10-4以上5×10-2以下
であるガスバリア性積層体。
【請求項2】
前記ガスバリア性層を前記飛行時間型二次イオン質量分析により測定される、PO の質量ピーク強度をI(PO )、PO の質量ピーク強度をI(PO )としたとき、
(I(PO )+I(PO ))/I(C
の値が0.02以上5以下である、請求項1に記載のガスバリア性積層体。
【請求項3】
前記I(PO )と前記I(PO )の強度比である
I(PO )/I(PO
の値が0.05以上1以下である、請求項1または2に記載のガスバリア性積層体。
【請求項4】
前記ガスバリア性層が、ポリカルボン酸と、Znと、1つ以上の-P-OH基を含むリン化合物またはその塩とを少なくとも含む混合物の硬化物により構成される、請求項1~3のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項5】
前記混合物中の前記1つ以上の-P-OH基を含むリン化合物またはその塩の濃度は、前記ポリカルボン酸中のカルボキシル基1molに対し、5×10-4mol以上0.3mol以下である、請求項4に記載のガスバリア性積層体。
【請求項6】
前記ポリカルボン酸が、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、およびアクリル酸とメタクリル酸との共重合体からなる群から選択される1または2以上の重合体を含む、請求項4または5に記載のガスバリア性積層体。
【請求項7】
前記ガスバリア性層の厚みが0.05μm以上10μm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水蒸気あるいは酸素に対するガスバリア性材料として、基材層上にガスバリア性のある無機物層を設けた積層体が用いられている。
【0003】
しかしながら、この無機物層は摩擦等に対して弱く、このようなガスバリア性積層体は、後加工の印刷時、ラミネート時または内容物の充填時に、擦れや伸びにより無機物層にクラックが入りガスバリア性が低下することがある。
【0004】
そこでガスバリア性層として、例えば、特許文献1(国際公開第2016/017544号)には、ポリカルボン酸、ポリアミン化合物、多価金属化合物および塩基を含み、(上記ポリカルボン酸に含まれる-COO-基のモル数)/(上記ポリアミン化合物に含まれるアミノ基のモル数)=100/20~100/90であるガスバリア用塗材が開示されている。
【0005】
特許文献1には、このようなガスバリア用塗材を用いると、低湿度下および高湿度下での双方の条件下でのガスバリア性、とりわけ酸素バリア性が良好なガスバリア性フィルム、及びその積層体を提供できることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2(国際公開第03/091317号)には、ポリカルボン酸(A)と多価金属化合物(B)を原料とするフィルムであって、該フィルムの赤外線吸収スペクトルのピーク比(A1560/A1700)が0.25以上であるフィルムが開示されている。
【0007】
特許文献2には、このようなフィルムであれば、高湿度雰囲気においても酸素等のガスバリア性に優れ、中性の水、高温水蒸気、及び熱水の影響で外観、形状、及びガスバリア性が損なわれることがない耐水性を有し、酸及び/またはアルカリに易溶性のフィルムを得られることが開示されている。
【0008】
また、特許文献3(国際公開第2016/088534号)には、ポリカルボン酸およびポリアミン化合物を含む混合物を加熱することにより形成されたガスバリア性重合体であって、当該ガスバリア性重合体の赤外線吸収スペクトルにおいて、吸収帯1493cm-1以上1780cm-1以下の範囲における全ピーク面積をAとし、吸収帯1598cm-1以上1690cm-1以下の範囲における全ピーク面積をBとしたとき、B/Aで示されるアミド結合の面積比率が0.370以上であるガスバリア性重合体が開示されている。
【0009】
特許文献3には、このような重合体であれば、高湿度下およびボイル・レトルト処理後での双方の条件下でのガスバリア性能に優れながら、外観、寸法安定性、生産性のバランスにも優れるガスバリア性フィルムおよびガスバリア積層体を実現できるガスバリア性重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2016/017544号
【特許文献2】国際公開第03/091317号
【特許文献3】国際公開第2016/088534号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ガスバリア性材料の各種特性について要求される技術水準は、ますます高くなっている。本発明者らは、特許文献1~3に記載されているような従来のガスバリア性材料に関し、以下のような課題を見出した。
【0012】
特許文献1または2に記載されているような、ポリカルボン酸と多価金属化合物を含む系からなるガスバリア性材料は、2層ラミネート構造でレトルト処理後のバリア性能が悪化してしまう問題を見出した。
【0013】
また、特許文献3に記載されているような、ポリカルボン酸とポリアミン化合物を含む系からなるガスバリア性材料は、3層ラミネート構造でレトルト処理後のバリア性能が悪化してしまう問題を見出した。
【0014】
このように、本発明者らは、特許文献1~3に記載されているような従来のガスバリア性材料は、ラミネート構造でレトルト処理後のバリア性能が悪化する問題があった。
すなわち、本発明者らは、従来のガスバリア性材料には、ラミネート構造によらず、レトルト処理後のバリア性能という観点において、改善の余地があることを見出した。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ラミネート構造によらず、レトルト処理後のバリア性能が良好なバリアフィルムに用いることができるバリア性積層体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意研究を重ねた。その結果、X線光電子分光(XPS)分析により、Znが特定の組成比の範囲にあり、飛行時間型二次イオン質量(TOF-SIMS)分析により観測されるZnに由来する特定のピークの強度比がある範囲にあるガスバリア性層を備えたガスバリア性積層体が、ラミネート構造によらず、レトルト処理後のバリア性能が良好であることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本発明によれば、以下に示すガスバリア性積層体が提供される。
1.
基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面に設けられたガスバリア性層と、前記基材層と前記ガスバリア性層との間に設けられた無機物層と、を備え、
前記ガスバリア性層をX線光電子分光分析することにより測定される、Znの組成比が1~10atomic%であり、
前記ガスバリア性層を飛行時間型二次イオン質量分析することにより測定される、64ZnPOの質量ピーク強度をI(64ZnPO)、C の質量ピーク強度をI(C )としたとき、
I(64ZnPO)/I(C
の値が7×10-4以上5×10-2以下
であるガスバリア性積層体。
2.
前記ガスバリア性層を前記飛行時間型二次イオン質量分析により測定される、PO の質量ピーク強度をI(PO )、PO の質量ピーク強度をI(PO )としたとき、
(I(PO )+I(PO ))/I(C
の値が0.02以上5以下である、1.に記載のガスバリア性積層体。
3.
前記I(PO )と前記I(PO )の強度比である
I(PO )/I(PO
の値が0.05以上1以下である、1.または2.に記載のガスバリア性積層体。
4.
前記ガスバリア性層が、ポリカルボン酸と、Znと、1つ以上の-P-OH基を含むリン化合物またはその塩とを少なくとも含む混合物の硬化物により構成される、1.~3.のいずれか1つに記載のガスバリア性積層体。
5.
前記混合物中の前記1つ以上の-P-OH基を含むリン化合物またはその塩の濃度は、前記ポリカルボン酸中のカルボキシル基1molに対し、5×10-4mol以上0.3mol以下である、4.に記載のガスバリア性積層体。
6.
前記ポリカルボン酸が、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、およびアクリル酸とメタクリル酸との共重合体からなる群から選択される1または2以上の重合体を含む、4.または5.に記載のガスバリア性積層体。
7.
前記ガスバリア性層の厚みが0.05μm以上10μm以下である、1.~6.のいずれか1つに記載のガスバリア性積層体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ラミネート構造によらず、レトルト後のバリア性能が良好なガスバリア性積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】2層ラミネート構造ガスバリア性積層体の構造の一例を模式的に示した断面図である。
図2】3層ラミネート構造ガスバリア性積層体の構造の一例を模式的に示した断面図である。
図3】質量分析のデータ解析に用いられる三角形状関数Y(m)について説明するための図(グラフ)である。
図4】質量分析のデータのカーブフィッティングの例を示す図(グラフ)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本実施形態について、図面を用いて説明する。図は概略図であり、実際の寸法比率とは必ずしも一致していない。文中の数値の間にある「~」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0021】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0022】
<ガスバリア性積層体>
本実施形態に係るガスバリア性積層体は、
基材層と、上記基材層の少なくとも一方の面に設けられたガスバリア性層と、上記基材層と上記ガスバリア性層との間に設けられた無機物層と、を備え、
上記ガスバリア性層をX線光電子分光分析することにより測定される、Znの組成比が1~10atomic%であり、
上記ガスバリア性層を飛行時間型二次イオン質量分析することにより測定される、64ZnPOの質量ピーク強度をI(64ZnPO)、C の質量ピーク強度をI(C )としたとき、
I(64ZnPO)/I(C
の値が7×10-4以上5×10-2以下
であるガスバリア性積層体である。
【0023】
X線光電子分光分析することにより測定されるZnの組成比が1~10atomic%であることは、ガスバリア性層に一定の濃度でZnが含まれることを意味する。
また、質量分析によりガスバリア性層からC が検出されるということは、ガスバリア性層が、ポリアクリル酸またはその誘導体/類似化合物(ポリアクリル酸等)を含むことを意味する。そして、I(C )の値は、ガスバリア性層中に含まれるポリカルボン酸のカルボキシル基の量(濃度)と相関した値であると考えられる。
ガスバリア性層が一定の濃度でZnを含む事、またガスバリア性層中にカルボキシル基を有したポリカルボン酸が存在する事から、ガスバリア性層中のポリカルボン酸は、Znと架橋体を形成し、基材層とガスバリア性層との間に設けられた無機物層と共に、Zn架橋体を形成したガスバリア性層が、ガスバリア性積層体のガスバリア性を担うと考えられる。
【0024】
さらに、質量分析によりガスバリア性層から64ZnPOが検出されるということは、ガスバリア性層に、リン酸に代表されるリン化合物とZnの結合が存在することを意味し、I(64ZnPO)の値は、リン化合物とZnの結合の量(濃度)と相関した値であると考えられる。そして、この事から、Znはポリカルボン酸のカルボキシル基と結合しているだけでなく、多価のリン化合物を介して一部のZn同士が化学的に結合している事が推測される。
また、I(64ZnPO)/I(C )の値は、ポリカルボン酸のカルボキシル基に対する、リン酸とZnの結合の量(濃度)と相関した値であると考えられる。
ところで、リン酸亜鉛は水に対して不溶な化合物として知られ、リン化合物とZnの結合は、レトルト処理後でのバリア性低下の原因の1つである、水により切断され難い結合である。よって、ガスバリア性層におけるリン化合物とZnの結合の存在は、レトルト処理等でガスバリア性層が過度に膨潤・収縮し、隣接した無機物層に損傷を与える事で、ガスバリア性が大きく低下してしまうのを抑制していると考えられる。
即ち、Znの組成比が1~10atomic%であることや、I(64ZnPO)/I(C )の値が7×10-4以上5×10-2以下であることで、レトルト後のバリア性能を良好に保つことができる。
【0025】
図1に、本実施形態に係るガスバリア性積層体を含む2層ラミネート構造バリアフィルムの一例の概略断面図を示す。2層ラミネート構造バリアフィルム1は、ガスバリア性積層体8を備える。該ガスバリア性積層体8は基材層2と、該基材層2の少なくとも一方の面にガスバリア性層5と、上記基材層2と上記ガスバリア性層5の間に無機物層4とを備える。また、無機物層4の下、即ち基材層2の上にアンダーコート層(UC層)3を備えてもよい。2層ラミネート構造バリアフィルム1は、例えば、ガスバリア性積層体8が接着層6を介して無延伸ポリプロピレン(CPP)7と接着することができる。
【0026】
また、図2に、本実施形態に係るガスバリア性積層体を含む3層ラミネート構造バリアフィルムの一例の概略断面図を示す。3層ラミネート構造バリアフィルム10では、例えば、第1の接着層61を設けたバリア性積層体8の第1の接着層61上にナイロンフィルム9を接着し、このナイロンフィルム9と無延伸ポリプロピレン7とを第2の接着層62を介して接着することができる。
【0027】
本実施形態に係るガスバリア性積層体8のガスバリア性層5は、X線光電子分光(XPS)分析により、少なくとも亜鉛(Zn)が検出される層である。また、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)分析により、64ZnPOのピーク、C のピークが検出される。
本実施形態に係るガスバリア性積層体のガスバリア性層において、耐水性の高い64ZnPOのピークが検出されることで、ラミネート構造によらずレトルト後のバリア性能が良好なガスバリア性積層体となる。
【0028】
[XPS分析]
ガスバリア性層に含まれるZnの組成は、XPS分析において、1atomic%以上、好ましくは2atomic%以上、より好ましくは3atomic%以上である。また、ガスバリア性層に含まれるZnの組成は、10atomic%以下、好ましくは9.5atomic%以下、より好ましくは9atomic%以下である。これは、炭素のピーク強度に対するZnのピーク強度、すなわちZn/Cが0.01以上0.2以下(atomic/atomic%)に相当する。
このように、Znがガスバリア性層に一定量存在することで、レトルト後のバリア性能が良好となる。
【0029】
本実施形態に適用可能なXPS分析の具体的な条件の一例を以下に示す。
分析装置:KRATOS社製AXIS-NOVA
X線源:単色化Al-Kα
X線源出力:15kV、10mA
分析領域:300×700μm
分析時:帯電補正用中和銃使用
XPS分析では、ガスバリア性層から切り出した1×1cmの測定用サンプルを用いることができる。また、ガスバリア性層の内部を分析するため、分析前に、ガスバリア性層の表面をスパッタエッチングすることが好ましい。スパッタエッチングは、ガスバリア性層へのダメージを軽減するため、Ar-ガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB)源の使用が望ましい。Ar-ガスクラスターイオンビームエッチングは、検体の化学構造を壊さずにエッチングが可能な手法として知られている。
【0030】
XPS分析では、ワイドスキャンにより、検出元素を特定し、個々の元素についてナロースキャンでスペクトルを取得する。そして得られたスペクトルから、Shirley法によりバックグラウンドを見積もり、スペクトルからバックグラウンドを除去する。測定された各元素について、バックグラウンドを除去したスペクトルを取得し、得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて、検出元素の原子組成比率(atomic%)を算出する。
尚、一般的なXPS分析における原子組成比率の検出感度は、0.1atomic%程度とされている。例えば、ガスバリア性層中にリン化合物が微量添加されている場合、XPS分析ではPの含有を検出できない場合がある。
【0031】
[TOF-SIMS分析]
ガスバリア性層のTOF-SIMS分析において検出されるフラグメントの内、64ZnPOのピーク強度をI(64ZnPO)とし、C のフラグメントのピーク強度をI(C )としたとき、
I(64ZnPO)/I(C
の値が、7×10-4以上、好ましくは1×10-3以上、より好ましくは2×10-3以上である。また5×10-2以下、好ましくは3×10-2以下、より好ましくは2×10-2以下である。
このように、耐水性の高い結合に由来するフラグメントである64ZnPOの質量ピークが検出され、I(64ZnPO)/I(C )の値が上記範囲にある場合、ラミネート構造によらず、レトルト後のバリア性能が良好なガスバリア性積層体となる。また、I(64ZnPO)/I(C )の値が大きすぎると、ガスバリア性層中にリン酸亜鉛結合の微粒子が成長し、ガスバリア性層に不均一性をもたらすと共に、ガスバリア性能が悪化する傾向がある。
【0032】
本実施形態に適用可能なTOF-SIMS分析の具体的な条件の一例を以下に示す。
ガスバリア性層の内部を分析するため、TOF-SIMS分析前に、ガスバリア性層の表層をTOF-SIMS分析装置に付帯するAr-ガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB)により、スパッタエッチングことが好ましい。Ar-GCIBの使用は、ガスバリア性層へのダメージを低減することができる。
本実施形態に適用可能なAr-GCIBの具体的な条件の一例を示す。
GCIB:5kV、5μA
GCIB処理時間:TOF-SIMSのスペクトルパターンが変化しなくなった時点
【0033】
TOF-SIMS分析は、例えば以下のようにして行うことができる。
分析装置:アルバック・ファイ社製 PHI nano-TOFII
1次イオン:Bi 2+
1次イオン源出力:30kV、0.5μA
分析領域:300×300μm(1次イオンビームの走査領域)
分析時、装置に付属の低エネルギー電子線および低エネルギーArイオン照射により、帯電中和を実施することができる。また、TOF-SIMS分析では、XPS分析と同様、ガスバリア性層から切り出した1×1cmの測定用サンプルを用いることができる。
【0034】
このとき、ガスバリア性層に対するTOF-SIMS分析により観測される、PO の質量ピーク強度をI(PO )、PO の質量ピーク強度をI(PO )としたとき、
I(PO )+I(PO )/I(C
の値が、0.02以上が好ましく、より好ましくは0.07以上、更に好ましくは0.1以上である。また、I(PO )+I(PO )/I(C )の値が、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。
PO やPO の質量ピークが検出されるということは、ガスバリア性層が、リン酸に代表されるP-OH基を1個以上含むリン化合物を含むことを意味する。そして、I(PO )+I(PO )/I(C )の値は、ガスバリア性層中のポリカルボン酸のカルボキシル基に対するリン化合物の量(濃度)と相関した値であると考えられる。
【0035】
このとき、上記I(PO )とI(PO )の強度比である
I(PO )/I(PO
の値が、0.05以上が好ましく、より好ましくは0.08以上、更に好ましくは0.1である。また、I(PO )/I(PO )の値が1以下、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下である。
TOF-SIMS分析において、PO とPO の質量ピークが検出されるということは、リン酸(HPO)等のリン化合物が含まれることを意味し、その比率であるI(PO )/I(PO )は、P-OH基を含むリン化合物の種類を反映した値となる。
リン酸亜鉛結合の量(濃度)を反映したI(64ZnPOH-)/I(C )は、リン化合物の種類に影響する。即ち、I(PO )/I(PO )の値にも関係する。上記I(PO )/I(PO )の値が、0.05以上1以下であることは、I(64ZnPOH-)/I(C )の値を適した範囲とし、本実施形態のガスバリア性積層体のレトルト後のバリア性能を良好に保つことができる。
【0036】
TOF-SIMS分析で得たデータの解析方法は、以下のように行うことができる。
詳細なスペクトル解析を行うため、本実施形態では、正と負の各2次イオンについて、質量数mと、それに対応するカウント数cをペアとする生データ列およびTotal Ion Counts(C)を分析装置により取得する。ここで、i=0、1、2、・・・、Nであり、生データ列はmについて昇順に並んでいるものとする。なお、Cは、検出器で検出された2次イオンの総カウント数である。
【0037】
注目する質量スペクトルピーク周辺の質量数の範囲をi=n,n+1,・・・,nとする。分析で得た、この範囲のカウント数のデータcを、次式のようなyで近似する。具体的には、バックグランドレベルbと、K個の三角形状関数Y(m)を用いたカーブフィッティングにより、cを近似する。ここで、bは定数である。
【0038】
【数1】
【0039】
(m)は、図3に示すような質量数x の時にピーク値Y を持つ関数で、次式で表される。
【0040】
【数2】
【0041】
ここで、b、x 、Y 、B 、B がフィッティングパラメータとなる。また、jは、j=1,・・・,Kである。例えば、スペクトルのバックグランドが一定値でなく、mに対して直線的に変化する場合は、bと三角形状関数Y(m)とを組み合わせて、バックグランドを近似する。注目する質量スペクトルピークがシングルピークの場合は、バックグランドを除き、1つの三角形状関数で近似する事とし、その他の質量ピークと近接している場合は、その他の質量ピークも含め複数の三角形状関数を用いて近似するものとする。近似した注目する質量スペクトルピークが、K個の三角形状関数のうち、j=k番目のピークであるとすると、ピーク強度Iは、i=n,・・・,nまでのY(m)の総和を、Total Ion Counts(C)で規格化した数値で表し、次式から求める。
【0042】
【数3】
【0043】
質量スペクトルピークにテール部分が存在すると、カウントすべき質量数の範囲を定義する事が困難になる。本実施形態では、これを避けるべく、質量スペクトルピークを三角形状関数で近似した。これにより、質量スペクトルピークのテール部分のカウント数は無視する事になる。質量スペクトルピークの中央部分が、三角形状関数に合うようにカーブフィッティングを行うものとする。
また、ターゲットとするピーク成分と重なる他の成分(例えば、同じ質量数の別種の質量ピーク)が観測される場合がある。このような場合、ターゲットするピーク成分と重なる他の成分を三角形状関数で近似することでターゲットとするピーク成分を求める。
本実施形態において注目しているフラグメントの質量数を計算して以下に示しておく。同位体の原子量数は、http://physics.nist.gov/に依った。
【0044】
【表1】
【0045】
64ZnPOの質量ピーク強度の算出]
Znは5つの同位体が知られ、TOF-SIMS分析では、そのうち64Zn,66Zn,68Znに関連したフラグメントが主に検出される。本実施形態では、最も存在比率の高い64Znに着目した。64ZnとP-OHを含有するリン化合物との結合を示すフラグメントには、64ZnPO64ZnP64ZnP64ZnP等が検出されるが、比較的質量ピーク強度の大きい64ZnPOに着目する。
負の2次イオンスペクトルの質量数=159.5~160.3の範囲に着目し、64Zn3116 に相当する158.890近傍の質量ピークを近似した三角形状関数とmのデータから、カウント数の総和を計算し、Cで規格化した値を64ZnPOの質量ピーク強度I(64ZnPO)とする。
【0046】
カーブフィッティングの例を図4に、その際に用いたパラメータとカウント数の総和の計算結果を表2に示す。図4に示した例では、ターゲットである64ZnPOの質量ピークを近似した三角形状関数とmのデータから得たカウント数の総和が1514である。この時の負の2次イオンのTotal Ion Counts(C)=8571746であるので、64ZnPOのピーク強度I(64ZnPO)は、
I(64ZnPO)=1514/8571746=1.77×10-4
となる。
【0047】
【表2】
【0048】
カーブフィッティングの例を示す図4について補足をする。
(i)ターゲットとするピーク位置近傍の測定データcを再現する近似曲線yを得るには、「バックグランドb」と「他の成分の三角形状関数近似」の曲線と、「ターゲットとする三角形状関数Y(m)」の曲線が必要である。
(ii)図4の例では、質量数(m/z)が159.7~160.2において、測定データcを再現した「近似曲線y」を得るために、「バックグランドb」と、「ターゲットとする三角形状関数Y(m)」の曲線(表2において、j=2)と、「他の成分の三角形状関数近似」の曲線2つ(表2において、j=0,1)を用いた。
【0049】
[C の質量ピーク強度の算出]
負の2次イオンスペクトルの質量数=70.7~71.4の範囲に着目し、カーブフィッティングより得た12 16 に相当する71.013近傍の質量ピークを近似した三角形状関数Y(m)とmのデータから、カウント数の総和を計算し、Cで規格化した値をC の質量ピーク強度I(C )とする。
【0050】
[PO の質量ピーク強度の算出]
負の2次イオンスペクトルの質量数=62.5~63.3の範囲に着目し、3116 に相当する62.964近傍の質量ピークを近似した三角形状関数とmのデータから、カウント数の総和を計算し、Cで規格化した値をPO の質量ピーク強度I(PO )とする。
【0051】
[PO の質量ピーク強度の算出]
負の2次イオンスペクトルの質量数=78.5~79.3の範囲に着目し、3116 に相当する78.959近傍の質量ピークを近似した三角形状関数とmのデータから、カウント数の総和を計算し、Cで規格化した値をPO の質量ピーク強度I(PO )とする。
【0052】
ガスバリア性層は、ポリカルボン酸と、Znと、リン酸(HPO)に代表される1つ以上のP-OH基を含むリン化合物またはその塩とを含む混合物の硬化物により形成されることが好ましい。
これらの成分を含む混合物の硬化物により形成されたガスバリア性層であれば、ポリカルボン酸由来のカルボキシル基は、Znを介して金属イオン架橋を形成し、またZnはP-OH基を含むリン化合物とも反応し、耐水性のある結合を形成する。詳細なメカニズムは不明であるが、これらのZnを介した金属イオン架橋やZnとリン化合物との結合がガスバリア層中に均一に適量存在することにより、緻密なガスバリア性層を形成するとともに、レトルト処理等でガスバリア性層が過度に膨潤・収縮するのを抑制していると考えられる。
【0053】
本実施形態に係るガスバリア性層のZnの組成比及びTOF-SIMSにおけるI(64ZnPO)/I(C )の値、I(PO )+I(PO )/I(C )の値、I(PO )/I(PO )の値は、ガスバリア性層の製造条件を適切に調節することにより制御することが可能である。
本実施形態においては、例えば、ポリカルボン酸に対するリン酸の濃度が、上記Zn組成比とI(64ZnPO)/I(C )の値を制御するための因子の1つとして挙げられる。
【0054】
本実施形態に適用可能な、ポリカルボン酸、亜鉛またはその化合物、リン化合物、その他添加できる成分について以下に詳述する。
【0055】
(ポリカルボン酸)
ポリカルボン酸は、分子内に2個以上のカルボキシ基を有するものである。具体的には、アクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、桂皮酸、3-ヘキセン酸、3-ヘキセン二酸等のα,β-不飽和カルボン酸の単独重合体またはこれらの共重合体が挙げられる。また、上記α,β-不飽和カルボン酸と、エチルエステル等のエステル類、エチレン等のオレフィン類等との共重合体であってもよい。
【0056】
これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸の単独重合体またはこれらの共重合体が好ましく、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体から選択される一種または二種以上の重合体であることがより好ましく、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸から選択される少なくとも一種の重合体であることがさらに好ましく、アクリル酸の単独重合体、メタクリル酸の単独重合体から選択される少なくとも一種の重合体であることが特に好ましい。
【0057】
ここで、本実施形態において、ポリアクリル酸とは、アクリル酸の単独重合体、アクリル酸と他のモノマーとの共重合体の両方を含む。アクリル酸と他のモノマーとの共重合体の場合、ポリアクリル酸は、重合体100質量%中に、アクリル酸由来の構成単位を、通常は90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上含む。
【0058】
また、本実施形態において、ポリメタクリル酸とは、メタクリル酸の単独重合体、メタクリル酸と他のモノマーとの共重合体の両方を含む。メタクリル酸と他のモノマーとの共重合体の場合、ポリメタクリル酸は、重合体100質量%中に、メタクリル酸由来の構成単位を、通常は90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上含む。
【0059】
ポリカルボン酸はカルボン酸モノマーが重合した重合体であり、ポリカルボン酸の分子量としては、ガスバリア性および取扱い性のバランスに優れる観点から500~2,500,000が好ましく、5,000~2,000,000がより好ましく、10,000~1,500,000がより好ましく、100,000~1,200,000がさらに好ましい。
【0060】
ここで、ポリカルボン酸の分子量はポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0061】
ポリカルボン酸を揮発性塩基で中和することにより、後述する亜鉛とポリカルボン酸とを混合する際に、ゲル化が起こることを抑制することができる。したがって、ポリカルボン酸において、ゲル化防止の観点から揮発性塩基によってカルボキシ基の部分中和物または完全中和物とすることが好ましい。中和物は、ポリカルボン酸のカルボキシ基を揮発性塩基で部分的にまたは完全に中和する(即ち、ポリカルボン酸のカルボキシ基を部分的または完全にカルボン酸塩とする)ことにより得ることができる。このことにより、亜鉛を添加する際、ゲル化を防止できる。
【0062】
部分中和物は、ポリカルボン酸重合体の水溶液に揮発性塩基を添加することにより調製するが、ポリカルボン酸と揮発性塩基の量比を調節することにより、所望の中和度とすることができる。本実施形態においてはポリカルボン酸の揮発性塩基による中和度は、30~100当量%が好ましく、50~100当量%がより好ましい。
【0063】
揮発性塩基としては、任意の水溶性塩基を用いることができる。
【0064】
揮発性塩基としては、例えば、アンモニア、モルホリン、アルキルアミン、2-ジメチルアミノエタノール、N-メチルモノホリン、エチレンジアミン、トリエチルアミン等の三級アミンまたはこれらの水溶液、あるいはこれらの混合物が挙げられる。良好なガスバリア性を得る観点から、アンモニア水溶液が好ましい。
【0065】
本実施形態に係るガスバリア性積層体を構成する混合物は炭酸系アンモニウム塩をさらに含むことが好ましい。炭酸系アンモニウム塩は、後述する亜鉛を、炭酸亜鉛アンモニウム錯体の状態にして、亜鉛の溶解性を向上させ、亜鉛を含む均一な溶液を調製するために添加するものである。
【0066】
炭酸系アンモニウム塩としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。揮発しやすく、得られるガスバリア性層に残存し難い点から、炭酸アンモニウムが好ましい。
【0067】
(亜鉛)
亜鉛(Zn)は、リン化合物と耐水性のあるリン酸Zn結合を形成でき、TOF-SIMS分析により、64ZnPOで表される質量ピークが検出できる。また、ガスバリア性層にポリカルボン酸を含む場合、ポリカルボン酸と塩を形成する。Znは、ガスバリア性層を形成する混合物中に添加できる亜鉛や亜鉛化合物であればよく、例えば、金属亜鉛、酸化亜鉛(ZnO)、亜鉛化合物等を用いることができる。亜鉛の添加量は、上記ポリカルボン酸のカルボキシル基1molに対して、0.1mol以上0.5mol以下とすることができる。
【0068】
(リン化合物)
前述のように、ガスバリア性層を質量分析したとき、好ましくはPO および/またはPO が検出される。このようなガスバリア性層を設けるためには、硬化前の混合物は、リン化合物またはその塩を含むことが好ましい。
リン化合物またはその塩におけるリン化合物は、分子構造中に1つ以上の-P-OH基を含む。リン化合物は塩として混合物に配合されてもよい。
レトルト処理後の水蒸気バリア性をさらに向上する観点から、リン化合物は、好ましくは2個以上の-P-OH基を含み、より好ましくは3個以上の-P-OH基を含む。また、生産性の観点から、リン化合物中の-P-OH基の数は、例えば、10個以下であってもよい。
リン化合物の具体例として、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸、ポリリン酸これらの誘導体が挙げられる。
ポリリン酸は、具体的には、分子構造中に2以上のリン酸の縮合構造を有し、たとえば、2リン酸(ピロリン酸)、三リン酸、4つ以上のリン酸が縮合したポリリン酸などが挙げられる。
誘導体の具体例として、リン酸化澱粉、リン酸架橋澱粉等の上述のリン化合物のエステル;塩化物等のハロゲン化物;十酸化四リン酸等の無水物;およびニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N,N,N‘,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)等のリン原子に結合する水素原子がアルキル基に置換された構造を有する化合物が挙げられる。
バリア性および生産性のバランスをさらに向上させる観点から、リン化合物は、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、ホスホン酸およびこれらの塩からなる群より選択される1種または2種以上であり、より好ましくはリン酸および亜リン酸、ホスホン酸およびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つである。
また、リン化合物の塩における塩の具体例として、ナトリウム、カリウム等の1価の金属の塩;アンモニウム塩が挙げられる。バリア性の観点から、リン化合物の塩は好ましくはアンモニウム塩である。
リン化合物のP原子の濃度は、化合物中における上記ポリカルボン酸中のカルボキシル基1molに対し、典型的には5×10-4mol以上、好ましくは1×10-3mol以上、より好ましくは5×10-3mol以上であり、また典型的には0.3mol以下、好ましくは0.15mol以下、より好ましくは0.1mol以下である。リン酸のように化学式中にP原子が1個含まれるリン化合物は、P原子のモル数とリン化合物のモル数は同じ意味になる。
このような濃度のリン化合物またはその塩に由来するリン化合物であれば、耐水性のあるリン化合物とZn結合を確実に形成することで、レトルト処理等でガスバリア性層が過度に膨潤・収縮するのを抑制し、レトルト処理後のガスバリア性積層体のガスバリア性をより向上する事ができると考えられる。リン化合物とZn結合の存在は、前述のTOF-SIMS分析で得られる64ZnPOの質量ピークに反映されている。
【0069】
(その他成分)
本実施形態に係るガスバリア性層を構成する混合物は、その他成分として、例えばポリアミンを含んでもよいし、含まなくてもよい。ポリアミンを含む場合、得られるガスバリア性積層体のバリア性を向上できるとともに、得られるガスバリア性積層体の層間接着性を向上でき、耐デラミ性を良好にすることができる。
尚、TOF-SIMS分析において検出されるフラグメントは、独立して検出されるため、TOF-SIMS分析結果を解析して得られるI(64ZnPO)/I(C )、(I(PO )+I(PO ))/I(C )、I(PO )/I(PO )の値は、ポリアミンの有無に左右されない。
【0070】
ポリアミンは、主鎖あるいは側鎖あるいは末端にアミノ基を2つ以上有するポリマーである。具体的には、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリ(トリメチレンイミン)等の脂肪族系ポリアミン類;ポリリジン、ポリアルギニンのように側鎖にアミノ基を有するポリアミド類;等が挙げられる。また、アミノ基の一部を変性したポリアミンでもよい。ポリアミンの添加量は、上記ポリカルボン酸中に含まれるカルボキシル基1molに対して、ポリアミン中の活性水素が0mol以上0.9mol以下となる量とすることができる。
【0071】
ポリアミンの重量平均分子量は、ガスバリア性および取扱い性のバランスに優れる観点から、50~2,000,000が好ましく、100~1,000,000がより好ましく、1,500~500,000がさらに好ましく、1,500~100,000がさらにより好ましく、1,500~50,000がさらにより好ましく、3,500~20,000がさらにより好ましく、5,000~15,000がさらにより好ましく、7,000~12,000が特に好ましい。
ここで、本実施形態において、ポリアミンの分子量は沸点上昇法や粘度法を用いて測定することができる。
【0072】
<ガスバリア性層の製造方法>
本実施形態に係るガスバリア性層は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、ポリカルボン酸を構成するカルボキシ基の完全または部分中和溶液を調製する。
【0073】
ポリカルボン酸に、揮発性塩基を添加して、ポリカルボン酸のカルボキシ基が完全中和または部分中和する。当該ポリカルボン酸のカルボキシ基を中和することにより、後工程において、亜鉛の添加時にポリカルボン酸を構成するカルボキシ基とが反応することによって発生するゲル化を効果的に防止し、均一なガスバリア用塗材中間体を得る。
【0074】
次いで、上記中間体に亜鉛塩化合物および炭酸系アンモニウム塩を添加、溶解させ、生成された亜鉛イオンによりポリカルボン酸を構成する-COO-基との亜鉛塩を形成する。このとき亜鉛イオンと塩を形成する-COO-基は上記塩基と中和しなかったカルボキシ基および塩基によって中和された-COO-基の双方をいう。塩基と中和した-COO-基の場合は上記亜鉛由来の亜鉛イオンが入れ替わって配位して-COO-基の亜鉛塩を形成する。そして、亜鉛塩を形成した後、リン酸を添加することにより、ガスバリア用塗材(混合物)を得ることができる。
【0075】
このように製造されたガスバリア用塗材(混合物)を後述する無機物層上に塗布し、乾燥・硬化させることにより、ガスバリア性層を形成する。ガスバリア用塗材を基材層に塗布する方法は、特に限定されず、通常の方法を用いることができる。例えば、メイヤーバーコーター、エアーナイフコーター、ダイレクトグラビアコーター、グラビアオフセット、アークグラビアコーター、グラビアリバース及びジェットノズル方式等のグラビアコーター、トップフィードリバースコーター、ボトムフィードリバースコーター及びノズルフィードリバースコーター等のリバースロールコーター、5本ロールコーター、リップコーター、バーコーター、バーリバースコーター、ダイコーター等種々公知の塗工機を用いて塗工する方法が挙げられる。
【0076】
ガスバリア用塗材(混合物)の塗工量(ウエット厚み)は、0.05μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。また、塗工量は、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。
また、乾燥・硬化後のガスバリア性層の平均厚みは0.05μm以上10μm以下が好ましく、0.08μm以上5μm以下がより好ましく、0.1μm以上1μm以下がさらに好ましい。上記上限値以下であると、得られるガスバリア性積層体やガスバリア性フィルムがカールすることを抑制できる。また、上記下限値以上であると、得られるガスバリア性積層体やガスバリア性フィルムのバリア性能をより良好なものとすることができる。
【0077】
乾燥及び熱処理は、乾燥後、熱処理を行ってもよいし、乾燥と熱処理を同時におこなってもよい。
【0078】
乾燥、加熱処理する方法は、本発明の目的を達することができる限り特に限定されないが、ガスバリア用塗材を硬化させられるもの、硬化したガスバリア用塗材を加熱できる方法であればよい。例えば、オーブン、ドライヤー等の対流伝熱によるもの、加熱ロール等の伝導伝熱によるもの、赤外線、遠赤外線・近赤外線のヒーター等の電磁波を用いる輻射伝熱によるもの、マイクロ波等内部発熱によるものが挙げられる。乾燥、加熱処理に使用する装置としては製造効率の観点から乾燥と加熱処理の双方を行える装置が好ましい。その中でも具体的には乾燥、加熱、アニーリング等の種々の目的に利用できるという観点から熱風オーブンを用いることが好ましく、また、フィルムへの熱伝導効率に優れているという観点から加熱ロールを用いることが好ましい。また、乾燥、加熱処理に使用する方法を適宜組み合わせてもよい。熱風オーブンと加熱ロールを併用してもよく例えば、熱風オーブンでガスバリア用塗材を乾燥後、加熱ロールで加熱処理を行えば加熱処理工程が短時間となり製造効率の観点から好ましい。また、熱風オーブンのみで乾燥と加熱処理を行うことが好ましい。
【0079】
例えば、加熱処理温度は80~250℃、加熱処理時間は1秒~10分、好ましくは加熱処理温度が120~240℃、加熱処理時間が1秒~1分、より好ましく加熱処理温度が170℃~230℃、加熱処理時間が1秒~30秒で加熱処理をおこなうことが望ましい。さらに上述したように加熱ロールを併用することで短時間での加熱処理が可能となる。加熱処理温度および加熱処理時間はガスバリア用塗材のウエット厚みに応じて調整することが重要である。
【0080】
ガスバリア用塗材(混合物)は、ポリカルボン酸を構成する-COO-基の亜鉛塩が金属架橋と耐水性のあるリン酸Zn結合(前述のTOF-SIMS分析で得られる64ZnPOの質量ピークに反映)を形成し、乾燥、熱処理されることにより、優れたガスバリア性を有するガスバリア性層が得られる。
【0081】
(無機物層)
無機物層4を構成する無機物は、例えば、バリア性を有する薄膜を形成できる金属、金属酸化物、金属窒化物、金属弗化物、金属酸窒化物等が挙げられる。
【0082】
無機物層4を構成する無機物としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の周期表2A族元素;チタン、ジルコニウム、ルテニウム、ハフニウム、タンタル等の周期表遷移元素;亜鉛等の周期表2B族元素;アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の周期表3A族元素;ケイ素、ゲルマニウム、錫等の周期表4A族元素;セレン、テルル等の周期表6A族元素等の単体、酸化物、窒化物、弗化物、または酸窒化物等から選択される一種または二種以上を挙げることができる。
なお、本実施形態では、周期表の族名は旧CAS式で示している。
【0083】
さらに、上記無機物の中でも、バリア性、コスト等のバランスに優れていることから、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、アルミニウムからなる群から選択される一種または二種以上の無機物が好ましく、酸化アルミニウムがより好ましい。
なお、酸化ケイ素には、二酸化ケイ素の他、一酸化ケイ素、亜酸化ケイ素が含有されていてもよい。
【0084】
無機物層は上記無機物により形成されている。無機物層4は単層の無機物層から構成されていてもよいし、複数の無機物層から構成されていてもよい。また、無機物層4が複数の無機物層から構成されている場合には同一種類の無機物層から構成されていてもよいし、異なった種類の無機物層から構成されていてもよい。
【0085】
無機物層4の厚さは、バリア性、密着性、取扱い性等のバランスの観点から、通常1nm以上1000nm以下、好ましくは1nm以上500nm以下である。
本実施形態において、無機物層の厚さは、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡による観察画像により求めることができる。
【0086】
無機物層の形成方法は特に限定されず、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、化学気相成長法、物理気相蒸着法、化学気相蒸着法(CVD法)、プラズマCVD法、ゾルゲル法等により基材層2の片面または両面に無機物層4を形成することができる。中でも、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相蒸着法(CVD)、物理気相蒸着法(PVD)、プラズマCVD法等の減圧下での製膜が望ましい。これにより、窒化珪素や酸化窒化珪素等の珪素を含有する化学的に活性な分子種が速やかに反応することにより、無機物層4の表面の平滑性が改良され、孔を少なくすることができるものと予想される。
これらの結合反応を迅速に行うには、その無機原子や化合物が化学的に活性な分子種もしくは原子種であることが望ましい。
【0087】
(基材層)
基材層2は、ガスバリア用塗材の溶液を塗工できるものであれば、特に限定されず、用いることができる。例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、または紙等の有機質材料、ガラス、陶、セラミック、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素、セメント、アルミニウム、酸化アルミニウム、鉄、銅、ステンレス等の金属等の無機質材料、有機質材料同士または有機質材料と無機質材料との組合せからなる多層構造の基材層等が挙げられる。これらの中でも、例えば、包装材料やパネル等の各種フィルム用途の場合、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を用いたプラスチックフィルム、または紙等の有機質材料が好ましい。
【0088】
熱硬化性樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂を用いることができる。例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド等が挙げられる。
【0089】
熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ブテン)等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体もしくはその鹸化物、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、フッ素樹脂あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0090】
これらの中でも、透明性を良好にする観点から、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミドおよびポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される一種または二種以上の樹脂が好ましく、耐ピンホール性、耐破れ性および耐熱性等に優れる観点から、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される一種または二種以上の樹脂が好ましい。
また、熱可塑性樹脂からなる基材層2は、ガスバリア性積層体8の用途に応じて、単層であっても、二種以上の層であってもよい。
また、上記熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂により形成されたフィルムを少なくとも一方向、好ましくは二軸方向に延伸して基材層としてもよい。
【0091】
本実施形態に係る基材層2としては、透明性、剛性、耐熱性に優れる観点から、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミドおよびポリブチレンテレフタレートから選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂により形成された二軸延伸フィルムが好ましく、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートから選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂により形成された二軸延伸フィルムがより好ましい。
【0092】
また、基材層2の表面に、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニアルコール共重合体、アクリル樹脂、ウレタン系樹脂等がコーティングされていてもよい。
【0093】
さらに、基材層2は接着性を改良するために、表面処理を行ってもよい。具体的には、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、プライマーコート処理等の表面活性化処理を行ってもよい。
【0094】
基材層2の厚さは、良好なフィルム特性を得る観点から、1~1000μmが好ましく、1~500μmがより好ましく、1~300μmがさらに好ましい。
【0095】
基材層2の形状は、特に限定されないが、例えば、シートまたはフィルム形状、トレー、カップ、中空体等の形状が挙げられる。
【0096】
(アンダーコート層)
ガスバリア性積層体8において、基材層2と無機物層4との接着性を向上させる観点から、基材層2の表面にアンダーコート層3を形成することができる。アンダーコート層は、エポキシ(メタ)アクリレート系化合物またはウレタン(メタ)アクリレート系化合物により形成する層であることが好ましい。
【0097】
上記アンダーコート層3としては、エポキシ(メタ)アクリレート系化合物およびウレタン(メタ)アクリレート系化合物から選択される少なくとも一種を硬化してなる層が好ましい。
【0098】
エポキシ(メタ)アクリレート系化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物等のエポキシ化合物とアクリル酸またはメタクリル酸を反応させて得られる化合物、さらには上記エポキシ化合物をカルボン酸またはその無水物と反応させて得られる酸変性エポキシ(メタ)アクリレートが例示される。これらのエポキシ(メタ)アクリレート系の化合物は、光重合開始剤及び必要に応じて他の光重合開始剤あるいは熱反応性モノマーからなる希釈剤と共に、基材層の表面に塗布され、その後紫外線等を照射して架橋反応によりアンダーコート層が形成される。
【0099】
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物としては、例えば、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物からなるオリゴマー(以下、ポリウレタン系オリゴマーとも呼ぶ。)をアクリレート化したもの等が挙げられる。
【0100】
ポリウレタン系オリゴマーは、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物との縮合生成物から得ることができる。具体的なポリイソシアネート化合物としては、メチレン・ビス(p-フェニレンジイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート・ヘキサントリオールの付加体、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートトリメチロールプロパンのアダクト体、1,5-ナフチレンジイソシアネート、チオプロピルジイソシアネート、エチルベンゼン-2,4-ジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート二量体、水添キシリレンジイソシアネート、トリス(4-フェニルイソシアネート)チオフォスフェート等が例示でき、また、具体的なポリオール化合物としては、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリエーテル系ポリオール、ポリアジペートポリオール、ポリカーボネートポリオール等のポリエステル系ポリオール、アクリル酸エステル類とヒドロキシエチルメタアクリレートとのコポリマー等がある。アクリレートを構成する単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等が例示できる。
【0101】
これらのエポキシ(メタ)アクリレート系化合物、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、必要に応じて、併用される。また、これらを重合させる方法としては、公知の種々の方法、具体的には電離性放射線を含むエネルギー線の照射または加熱等による方法が挙げられる。
【0102】
アンダーコート層を紫外線で硬化して形成する場合は、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミフィラベンゾイルベンゾエート、α-アミロキシムエステルまたはチオキサントン類等を光重合開始剤として、また、n-ブチルアミン、トリエチルアミン、トリn-ブチルホスフィン等を光増感剤として混合して使用するのが好ましい。また、本実施形態では、エポキシ(メタ)アクリレート系化合物とウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、併用することも行われる。
【0103】
また、これらのエポキシ(メタ)アクリレート系化合物やウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、(メタ)アクリル系モノマーで希釈することが行われる。このような(メタ)アクリル系モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、多官能モノマーとしてトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が例示できる。
【0104】
中でもアンダーコート層としてウレタン(メタ)アクリレート系化合物を用いた場合は、得られるガスバリア性積層体8の酸素ガスバリア性がさらに改良される。
本実施形態のアンダーコート層の厚さは、コート量として、通常、0.01~100g/m、好ましくは0.05~50g/mの範囲にある。
【0105】
(接着剤層)
また、ガスバリア性層5上に接着剤層6を設けてもよい。接着剤層6は、公知の接着剤を含むものであればよい。接着剤としては、有機チタン系樹脂、ポリエチレンイミン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、変性シリコーン樹脂及びアルキルチタネート、ポリエステル系ポリブタジエン等から組成されているラミネート接着剤、または一液型、二液型のポリオールと多価イソシアネート、水系ウレタン、アイオノマー等が挙げられる。または、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル樹脂等を主原料とした水性接着剤を用いてもよい。
【0106】
また、ガスバリア性積層体8の用途に応じて、接着剤に硬化剤、シランカップリング剤等の他の添加物を添加してもよい。ガスバリア性積層体の用途が、レトルト等の熱水処理に用いられるものである場合、耐熱性や耐水性の観点から、ポリウレタン系接着剤に代表されるドライラミネート用接着剤が好ましく、溶剤系の二液硬化タイプのポリウレタン系接着剤がより好ましい。
【0107】
本実施形態に係るガスバリア性積層体8は、ラミネート構造によらずレトルト後のガスバリア性能に優れている。よって、包装材料、特に高いガスバリア性が要求される内容物の食品包装材料に好ましく適用される。また、医療用途、工業用途、日常雑貨用途等さまざまな包装材料としても好適に使用し得る。
【0108】
また、本実施形態のガスバリア性積層体8は、例えば、高いバリア性能が要求される、真空断熱用フィルム;エレクトロルミネセンス素子、太陽電池等を封止するための封止用フィルム;等として好適に使用することができる。
【0109】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0110】
以下、本実施形態を、実施例・比較例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0111】
(実施例1)
(1)ガスバリア用塗材の作製
ポリアクリル酸(PPA)水溶液(東亜合成社製、製品名:AC-10H、重量平均分子量:800,000)を精製水で希釈し、PPAの濃度10%の水溶液を作製した。この水溶液に、PPA中のカルボキシル基1molに対して1.5molのアンモニアになるよう濃度10%のアンモニア水を添加し、PPAの濃度が7.38%のポリアクリル酸アンモニウム水溶液を得た。
次いで、得られたポリアクリル酸アンモニウム水溶液に、酸化亜鉛(ZnO)(関東化学社製)および炭酸アンモニウム(関東化学社製)を添加して混合、撹拌して混合液を得た。ここで酸化亜鉛の添加量は、(酸化亜鉛)/(ポリアクリル酸のカルボキシル基)がmol比で0.3となる量とした。また、炭酸アンモニウムは、ポリアクリル酸のカルボキシル基に対してmol比で0.3となる量とした。
さらに、上記混合液にPPA+ZnOの固形分濃度が2%になるように精製水を添加し、均一溶液になるまで撹拌した。さらに、リン酸水素アンモニウム((NHHPO)(関東化学社製)がPPAのカルボキシル基1molに対して0.01molとなるように固形成分濃度2%のリン酸水素アンモニウム水溶液を添加・撹拌した。さらにその後、活性剤(花王社製、製品名:エマルゲン120)をPPA+ZnOの固形分に対して、0.3質量%となるように固形分濃度1%の活性剤水溶液を混合し、ガスバリア用塗材を調製した。
【0112】
(2)ガスバリア性積層体の作製
無機物層として酸化アルミを基材層の12μmPETフィルムに蒸着した透明蒸着フィルム(三井化学東セロ株式会社、型番:TL-PET-H)を準備した。このフィルムを無機蒸着層を上面にしてガラス板に貼り付け、アプリケータにて乾燥後の膜厚が0.2μmとなるようにガスバリア用塗材を塗布した。そして、ガラス板ごと120℃で5分熱風乾燥器にて乾燥した。乾燥したフィルムの両端を固定してフィルムを中空状態としたうえで、150℃で時間1分の条件で熱風乾燥器にて熱処理を行った。以上により、透明蒸着フィルム上にガスバリア性層を形成したガスバリア性積層体を作製した。
表3に作製条件をまとめて示す。
【0113】
(3)ガスバリア性層の分析
また、上記(2)で得られたガスバリア性積層体のガスバリア性層に対して、XPS分析とTOF-SIMS分析を行った。
【0114】
XPS分析条件
分析装置:KRATOS社製AXIS-NOVA
X線源:単色化Al-Kα
X線源出力:15kV、10mA
分析領域:300×700μm
分析時:帯電補正用中和銃使用
試料サイズ:1×1cm
XPS分析の結果を表4に示す。
【0115】
TOF-SIMS分析条件
測定前処理:Ar-GCIBで表面エッチング
GCIB:5kV、5μA
GCIB処理時間:TOF-SIMSのスペクトルパターンが変化しなくなった時点
分析装置:アルバック・ファイ社製 PHI nano-TOFII
1次イオン:Bi 2+
1次イオン源出力:30kV、0.5μA
分析領域:300×300μm(1次イオンビームの走査領域)
分析時、装置に付属の低エネルギー電子線および低エネルギーArイオン照射により、帯電中和を行った。
TOF-SIMS分析で得たデータを上述した方法に基づき解析した結果を表5に示す。表5において、C の強度で規格化した相対質量ピーク強度とは、フラグメントの質量ピーク強度をC の強度I(C )で割った値である。
【0116】
(4)2層ラミネート構造のガスバリア性積層体の作製
厚さ70μmの無延伸ポリプロピレン(三井化学東セロ社製、商品名RXC-22)のコロナ放電処理面に接着剤を塗工し、上記(2)で得られたガスバリア性積層体のガスバリア性面と貼り合わせ、2層ラミネート構造のガスバリア性積層体を作製した。接着剤は、三井化学社製、商品名:タケラックA5252Sを9質量部、イソシアネート系硬化剤(三井化学社製、商品名:タケネートA50)1質量部および酢酸エチル7.5質量部を配合したものを用いた。
【0117】
(5)3層ラミネート構造のガスバリア性積層体の作製
まず、厚さ60μmの無延伸ポリプロピレン(三井化学東セロ社製、商品名:RXC-22)のコロナ放電処理面に接着剤を塗工し、厚さ15μmのナイロンフィルム(ユニチカ社製、商品名:エンブレムONBC)を貼り合わせた積層体を用意した。
上記積層体のナイロンフィルム面に接着剤を塗工し、上記(2)で得られたガスバリア性積層体のガスバリア性面と貼り合わせ、3層ラミネート構造のガスバリア性積層体を作製した。使用した接着剤は、上記(4)と同様である。
【0118】
(6)レトルト処理後のガスバリア性評価
(4)及び(5)で得られたガスバリア性積層体を無延伸ポリプロピレンが内面になるように折り返し、2方をヒートシールして袋状にした。その後、内容物として水を70cc入れ、もう一方をヒートシールにより袋を作製した。この袋を高温高圧レトルト殺菌装置で、130℃で30分処理した。レトルト処理後、内容物の水を抜き、シール部を除いて、レトルト処理後(水充填)のフィルムを得た。
【0119】
上記の方法で得られたレトルト処理後のフィルムの酸素透過率[mL/(m・day・MPa)]を、モコン社製OX-TRAN2/21を用いて、JIS K 7126に準じ、20℃90%RHの条件で測定した。
また、上記の方法で得られたレトルト処理後のフィルムを無延伸ポリプロピレンが内面になるように重ねてガスバリア性積層フィルムを折り返し、2方をヒートシールし、袋状にした。その後、内容物として塩化カルシウムを入れ、もう1方をヒートシールにより表面積が0.01mとなるように袋を作製した。そして、40℃90%RHの条件で300時間放置した。放置前後の重量変化により、水蒸気透過率[g/(m・day)]を測定した。
レトルト処理後のガスバリア性評価結果を表6に示す。
【0120】
(実施例2)
リン酸水素アンモニウム((NHHPO)をポリアクリル酸のカルボキシル基1molに対し、0.03molとした以外は実施例1と同様にガスバリア性積層体を作製した。作製条件を表3に併せて示す。また、得られたガスバリア性積層体のガスバリア性層に対して、XPS分析とTOF-SIMS分析を行った。XPS分析及び、TOF-SIMS分析の結果を表4,5に併せて示す。また、レトルト処理後のガスバリア性評価結果を表6に併せて示す。
【0121】
(実施例3)
リン酸水素アンモニウム((NHHPO)をポリアクリル酸のカルボキシル基1molに対し、0.05molとした以外は、実施例1と同様にガスバリア性積層体を作製した。作製条件を表3に併せて示す。また、得られたガスバリア性積層体のガスバリア性層に対して、XPS分析とTOF-SIMS分析を行った。XPS分析及び、TOF-SIMS分析の結果を表4,5に併せて示す。また、レトルト処理後のガスバリア性評価結果を表6に併せて示す。
【0122】
(比較例)
リン酸アンモニウムを加えない以外は、実施例1と同様にガスバリア性積層体を作製した。作製条件を表3に併せて示す。また、得られたガスバリア性積層体のガスバリア性層に対して、XPS分析とTOF-SIMS分析を行った。XPS分析及び、TOF-SIMS分析の結果を表4,5に併せて示す。また、レトルト処理後のガスバリア性評価結果を表6に併せて示す。ただし、レトルト処理後、ガスバリア性積層体に一部デラミネーションが生じてしまった。
【0123】
【表3】
【0124】
【表4】
【0125】
【表5】
【0126】
【表6】
【0127】
以上のように、リン化合物を含まず、64ZnPOフラグメントの質量ピークが検出されない比較例のガスバリア性積層体のレトルト処理後のガスバリア性は、実施例1~3に比べて低い。また、一部デラミネーションが生じてしまった。
【符号の説明】
【0128】
1 2層ラミネート構造バリアフィルム
2 基材層
3 アンダーコート層(UC層)
4 無機物層
5 ガスバリア性層(OC層)
6 接着層
7 無延伸ポリプロピレンフィルム(CCP)
8 バリア性積層体
9 ナイロンフィルム
10 3層ラミネート構造バリアフィルム
61 第1の接着層
62 第2の接着層
図1
図2
図3
図4