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特開2022-90984地盤固結材、その製造方法およびそれを用いた地盤注入工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022090984
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】地盤固結材、その製造方法およびそれを用いた地盤注入工法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/02 20060101AFI20220613BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20220613BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20220613BHJP
   C09K 17/44 20060101ALI20220613BHJP
   C09K 17/40 20060101ALI20220613BHJP
   C09K 17/48 20060101ALI20220613BHJP
   C09K 17/14 20060101ALI20220613BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20220613BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20220613BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20220613BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20220613BHJP
   C04B 20/06 20060101ALI20220613BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20220613BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20220613BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20220613BHJP
   C09K 103/00 20060101ALN20220613BHJP
【FI】
C09K17/02 P
C09K17/10 P
C09K17/06 P
C09K17/44 P
C09K17/40 P
C09K17/48 P
C09K17/14 P
C04B22/06 A
C04B18/14 A
C04B28/02
C04B22/14 B
C04B20/06 Z
C04B14/10 Z
C04B24/22 A
E02D3/12 101
C09K103:00
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203623
(22)【出願日】2020-12-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000162652
【氏名又は名称】強化土エンジニヤリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】角田 百合花
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆光
(72)【発明者】
【氏名】田井 智大
(72)【発明者】
【氏名】島田 俊介
【テーマコード(参考)】
2D040
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AB01
2D040CA10
2D040CB03
4G112MA01
4G112PA06
4G112PA29
4G112PB25
4H026CA01
4H026CA02
4H026CA04
4H026CA05
4H026CB06
4H026CB08
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含むシリカグラウトを用いてCOの生成を削減し、かつ、土壌汚染を生ずることがない懸濁型の地盤固結材、その製造方法、および、それを用いた環境保全性に優れた地盤注入工法を提供する。
【解決手段】地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含む懸濁型の地盤固結材である。微粒子スラグおよび微粒子セメントを主成分とし、微粒子スラグおよび微粒子セメントのいずれかまたはその混合物がブレーン比表面積4000cm/g以上である地盤固結材である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含む懸濁型の地盤固結材であって、微粒子スラグおよび微粒子セメントを主成分とし、前記微粒子スラグおよび微粒子セメントのいずれかまたはその混合物がブレーン比表面積4000cm/g以上であることを特徴とする地盤固結材。
【請求項2】
前記微粒子スラグおよび微粒子セメントのいずれかまたはその混合物が、ブレーン比表面積8000cm/g~20000cm/gであって、前記シリカ材の、pHが8.0~10.5、SiO濃度が3.5~60質量%、粒径が1~100nmの範囲にある請求項1記載の地盤固結材。
【請求項3】
ゲル化調整剤を含有する請求項1または2記載の地盤固結材。
【請求項4】
石膏、消石灰、ポゾラン、粘土および塩のうちのいずれかまたは複数種を含むことでゲル化および強度が調整されている請求項1~3のうちいずれか一項記載の地盤固結材。
【請求項5】
下記(1)~(3)のうちのいずれかまたは複数を併用することにより懸濁粒子の凝集が低減され、浸透性が向上されている請求項1~4のうちいずれか一項記載の地盤固結材。
(1)分散剤、界面活性剤または気泡剤の含有
(2)マイクロ・ナノバブルの含有
(3)超音波の作用
【請求項6】
前記シリカ材に含まれる重金属の含有量が、一律排水基準値または環境基準値以下である請求項1~3のうちいずれか一項記載の地盤固結材。
【請求項7】
前記シリカ材に重金属が一律排水基準値または環境基準値を超えて含有されているかどうかを事前に確認し、目的に応じた基準値以下である該シリカ材を用いて地盤に注入する請求項1~6のうちいずれか一項記載の地盤固結材。
【請求項8】
前記シリカ材に含まれる重金属の含有量を低減することにより、前記地盤固結材に含まれる重金属の含有量が環境基準値または一律排水基準値以下に調整されている請求項1~7のうちいずれか一項記載の地盤固結材。
【請求項9】
前記シリカ材に含まれる重金属の含有量が、不溶化材を用いて低減されている請求項8記載の地盤固結材。
【請求項10】
前記重金属がヒ素である請求項6~9のうちいずれか一項記載の地盤固結材。
【請求項11】
前記シリカ材が微細化されている請求項1~10のうちいずれか一項記載の地盤固結材。
【請求項12】
前記シリカ材が、地盤注入に適合する1~100nmの粒径まで微細化されている請求項11記載の地盤固結材。
【請求項13】
界面活性剤、分散剤およびマイクロ・ナノバブルのうちのいずれか1種以上を含む請求項11または12記載の地盤固結材。
【請求項14】
請求項11~13のうちいずれか一項記載の地盤固結材を製造する方法であって、
前記シリカ材の微細化を、粉砕、急速攪拌、加圧噴射、超音波および湿式微粒子化のうちのいずれかの手段を用いて行うことを特徴とする地盤固結材の製造方法。
【請求項15】
請求項1~13のうちいずれか一項記載の地盤固結材を地盤に注入して地盤を固結することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項16】
あらかじめ1次注入材を注入した地盤に、2次注入材として前記地盤固結材を注入する請求項15記載の地盤注入工法。
【請求項17】
ベンダーエレメントを用いて、現場土供試体の注入前後のP波速度、S波速度と一軸圧縮試験との関係を計測し、注入現場における注入前後のP波速度、S波速度から前記地盤固結材の浸透固結によって変動するP波速度またはS波速度を弾性波探査、弾性波速度検層または音響トモグラフィーにより測定することによって、浸透固結範囲と改良強度あるいは透水係数を推測する請求項15または16記載の地盤注入工法。
【請求項18】
室内試験において、以下の強度にかかわる要因のいずれかあるいは複数について、P波速度またはS波速度と一軸圧縮強さとの関係を計測し、現場におけるP波速度またはS波速度の計測結果より、注入現場における改良効果と室内試験における強度にかかわる要因との関係を把握することにより、注入地盤の地盤改良効果を推定するとともに、注入現場における目的とする改良効果を得るためのA.配合設計、B.注入設計(注入間隔、充填率)と、C.注入効果の経時変化と注入効果の確認時期のいずれかまたは複数の関係を得る請求項17記載の地盤注入工法。
(1)固結土の強度
(2)微粒子スラグまたは微粒子スラグおよび微粒子セメントの含有量
(3)固結土の経日強度
(4)注入率
【請求項19】
現場における注入前後の貫入試験、コアサンプリングにより得た供試体のP波速度、S波速度と強度の関係、または、コアボーリングにより得た試料のシリカ量の分析から推定した強度と配合試験による固結供試体のP波速度、S波速度の関係から、現場におけるP波速度、S波速度の推定値からの強度分布並びに配合組成の分布の把握に役立てる請求項17または18記載の地盤注入工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグ・セメント系の地盤固結材の改良に係り、具体的には地熱水中のシリカを収集して得られた中性~弱アルカリ性のシリカコロイド(以下、「中性シリカコロイド」と称する)と、特定の条件範囲にある微粒子スラグ、微粒子セメントを使用することにより、高い固結強度が得られると共に、ゲル化時間が長く、懸濁型地盤固結材としては浸透性にも優れ、かつ地熱水のエネルギーを利用したコロイド化によるCO削減効果を有し、ヒ素等の汚染現象を生じない環境保全に優れた地盤固結材(以下、単に「固結材」とも称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤を固結するための地盤注入用のグラウトが種々知られている。例えば、従来よりセメントと水ガラスグラウトが知られているが、このグラウトはゲル化時間が短く、浸透性が悪く、かつ耐久性がなく、またアルカリの溶脱が懸念される。また、水ガラスと酸を混合して得られる酸性シリカゾルとセメント系からなるグラウトでは、ゲル化時間が短く、フロック状の沈澱ができやすいため浸透性が悪い。さらに、水ガラスのイオン交換処理によって得られた中性シリカコロイドと、ポルトランドセメントや消石灰を混合して注入する方法も知られている。さらにまた、上記中性シリカコロイドにスラグや消石灰を混合したグラウトも知られている。
【0003】
しかし、セメントや消石灰は、中性シリカコロイドとシリカゾルと混合すると、セメントのカルシウム分や石灰のカルシウム分が直ちにシリカ分と反応してフロック状になり、ゲル化時間がせいぜい1分以内と短く浸透性が悪い。また、中性シリカコロイドに多価金属塩またはアルカリ金属塩を加えたグラウトも同様に、ゲル化時間が短く強度が低いという欠点があった。さらに、これらに重炭酸ソーダや炭酸ソーダ等の遅延材等カルシウム溶出量調整剤を加えても、ゲル化時間の遅延はわずかであって、多く添加するとゲル化しないという問題があった。
【0004】
この強度の問題を解決するために近年、本出願人により、イオン交換法により製造された中性シリカコロイドとブレーン比表面積が9000cm/g程度で高炉スラグとセメントからなる懸濁型グラウトが提案されている(特許文献1)。このグラウトは細粒土への浸透がよく、また、ゲル化時間も長く、強度も高いという長所を有する。また、特許文献2には、地熱水から回収したシリカ分のスケールとセメントを含有してなる固結材が記載されている。しかし、この場合、スケールからの中性シリカコロイドとセメントは混合と同時に粘性が増大するため、地盤土壌と攪拌混合するには適しているが、土粒子間に浸透しにくいため、地盤に注入して広範囲に浸透固結することは不可能である。
【0005】
このように懸濁型の地盤固結材として用いられている水ガラス-スラグセメント系、シリカゾル-セメントまたはスラグ系および中性シリカコロイド-セメント系には、ゲル化時間が短く、粘性が高く、浸透性が悪いという欠点がある。また、水ガラスからイオン交換法によってアルカリを除去して得られた低分子シリカを加熱増粒して弱アルカリに安定化したシリカコロイドは、その製造工程において多量のエネルギーを必要とするところから、近年の地球温暖化を防ぐためのCO低減の国家プロジェクトの点から、改善が望まれている。
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために、上述したように、中性シリカコロイドと微粒子スラグ、微粒子セメントを主成分とする地盤固結材、あるいはさらにゲル化調整剤を配合した地盤固結材を提案している(特許文献1)。上記発明は、水ガラスのアルカリの大部分をイオン交換樹脂で除去して得られたシリカゾルと、微粒子スラグと微粒子セメントを主成分とする地盤固結材であって、微粒子スラグや微粒子セメントの混合物がブレーン比表面積約8000cm/g以上であり、且つ水硬率が0.9~2.0、塩基度が1.9~2.9であることを特徴としている。
【0007】
この発明で用いられる中性シリカコロイドは、水ガラスをイオン交換樹脂で処理してNaイオン等のアルカリをほとんど分離除去し、中性~弱アルカリ性、好ましくはpH8.0~10.5の弱アルカリ性に調整し、比重が1.16~1.24で、おおよそSiOが10~60質量%、NaOが0.01~4質量%の範囲にあるものである。従って、水ガラスを使用した固結材に比べると、アルカリの溶脱が非常に少なくなることが期待できる。
【0008】
上記中性シリカコロイドは、水ガラスのアルカリをイオン交換法により除去したシリカを弱アルカリ性のpH領域で増粒させてつくるが、重金属等の汚染物質を含まないため、注入地盤の安全性は維持され、安全な地盤改良が多く実施されてきた。また、このグラウトの固結原理としては、セメントのアルカリがスラグの潜在水硬性を刺激して固結するとともに、中性コロイドのシリカ分とセメントやスラグからの遊離のカルシウム分とが反応してゲル化を可能にしたものである。さらに、中性シリカコロイドはセメント単独とは不均質なゲルを直ちに生ずるが、スラグと混合されているため、直ちに不均質なゲルをつくることなく、長いゲル化時間で均質なゲル化を生じせしめるという特徴がある。
【0009】
一方で、近年、火山地帯の地熱エネルギーを利用した地熱発電が注目されており、これに伴い、地熱水に含まれるシリカの処理方法やその利用方法が提案されている。地熱発電は、蒸気や熱水からなる地熱流体を地下から取り出して、発電に用いるものである。地下は高温高圧であり、多くの成分が地熱流体中に溶解しているため、地熱発電では、これらの成分が発電設備の腐食やスケールの原因となる。特に、地熱流体から熱を回収し、流体の温度が低下すると、熱水からシリカが析出してスケールになりやすい(非特許文献1)。
【0010】
このシリカスケールの熱水からの回収に関する技術として、地熱流体からの沈殿無定形シリカの製造方法が、特許文献4に記載されている。また、特許文献2および特許文献3には、地熱水由来のシリカを用いた地盤注入用固結材が開示されている。その一方、地熱水では、環境汚染上の問題が多く指摘されている。
【0011】
例えば、特許文献4の記載によれば、地熱水にはヒ素などの汚染物質が多く含まれ、地熱水から取り出したシリカやシリカケーキを用いたシリカグラウトにも、汚染物質が含まれる危険があることがわかる。また、非特許文献2には、「…分離された熱水中にヒ素がふくまれていることが問題になった。…浴場排水地点ではいずれも環境基準0.05μg/mLを上回る0.54μg/mlのヒ素が検出された…施設従業員の頭髪中ヒ素量は正常値範囲と比較したとき、やや高濃度でありヒ素による何らかの異常暴露が疑われる結果」との内容が記載されている。
【0012】
これに対し、例えば、特許文献5には、ヒ素含有量が多い汚染土壌に対し鉄塩、半水石膏、及びセメント系固化材、石灰系固化材、マグネシア系固化材等を添加混合する方法が提示されている。このように、ヒ素の不溶化ではマグネシウム系が有効であることが分かる。また、特許文献6には、有害物質について、酸化マグネシウムと珪酸アルカリ金属塩によって不溶化を行う方法が開示されている。
【0013】
さらに、非特許文献3には、地熱熱水の環境基準の遵守について記載されており、非特許文献4には汚染状態に関する基準として土壌溶出量基準や地下水基準が記載されている。さらにまた、非特許文献5にはシリカスケール防止と地熱水中の全シリカ濃度が記載されており、非特許文献6には第二種特定有害物質の基準値や自然的上限値が記載されている。さらにまた、非特許文献7~9は環境省ホームページであり、それぞれ一律排水基準の有害物質基準、地下水の水質汚濁に係る環境基準、および、土壌環境基準について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001-98271(特許第3721289号)
【特許文献2】特開2001-241032公報
【特許文献3】特開2019-11473号公報
【特許文献4】特開平03-33009公報
【特許文献5】特開2006-167524号公報
【特許文献6】特開2007-302885号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】地熱熱水利用バイナリー発電システムにおけるシリカスケール対策技術、川原、柴田、久保田、富士電機技報2013 vol.86 no2
【非特許文献2】地熱発電所からのヒ素含有温水による河川汚染および人身影響、稲益、石西、児玉、日本衛生学雑誌、1978-08(528~531ページ)
【非特許文献3】「温泉資源の保護に関するガイドライン(地熱発電関係)(案)」に対する意見、一般社団法人 日本秘湯を守る会 代表 佐藤、平成24年2月22日(P46)
【非特許文献4】汚染土壌の処理業に関するガイドライン(改訂第2版追補)環境省 水・大気環境局 土壌環境課、平成27年7月
【非特許文献5】pH調整によるシリカスケール防止評価のためのカラム試験-澄川地熱水の例、日本地熱学会誌、上田、加藤、宮内、加藤、第25巻第3号(2003)163頁~177頁
【非特許文献6】地盤工学・実務シリーズ25 続・土壌・地下水汚染の調査・予測・対策
【非特許文献7】環境省HP,一律排水基準https://www.env.go.jp/water/impure/haisui.html
【非特許文献8】環境省HP,地下水の水質汚濁に係る環境基準について,https://www.env.go.jp/kijun/tika.html
【非特許文献9】環境省HP,土壌環境基準https://www.env.go.jp/kijun/dt1.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、地盤注入用固結材として、地熱水由来のシリカを含有するコロイダルシリカを用いる技術は、すでに知られている(特許文献2、特許文献3)。しかし、地熱水中にはヒ素などの重金属が多量に含まれており、地熱水由来のシリカにも当然に重金属が含まれているため、そのシリカを用いた地盤固結材を地盤に注入した場合には、注入地盤が汚染される危険性が生ずる(非特許文献2)。よって、地熱水由来のシリカを地盤固結材に用いることができるように、汚染の原因を事前に取り除くことができれば、環境保全やCO削減の点において有利である。
【0017】
上記のような点から、本発明は、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含むシリカグラウトを用いてCOの生成を削減し、かつ、土壌汚染を生ずることがない懸濁型の地盤固結材、その製造方法、および、それを用いた環境保全性に優れた地盤注入工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
地熱発電所の地盤から噴出する地熱水は、シリカを含むものである一方、火山地帯の地中深くボーリングし注水して噴出してくるものであるために、火山帯に含まれるヒ素等の有害重金属も含む場合がある。そのため、地熱水中のシリカをそのまま用いることによって、地盤が汚染されてしまうことが問題になる。以下に具体的に説明する。
【0019】
上記非特許文献2によれば、地熱水中に含まれる重金属の含有量は、例えばヒ素であれば、3か所から採取した結果が3.53、3.33、2.18mg/Lであった。また、特許文献4には、「地熱源から沈殿させたシリカの砒素による汚染は、沈殿シリカの最終用途により問題になったり・・・」(5頁左下欄14~16行目)と記載され、表1~表8には化学組成としてAsの含有量が記載されている。
【0020】
また、上述したように、地熱水中に含まれるシリカ材を地盤注入に用いる場合の最大の課題は、特許文献4の表1~表8に記載されているようにヒ素のような有害重金属が含有されていること、および、ヒ素以外の成分としてかなりの量のSiO、Na、K、Li、Ca、Mg、Al、Rb、Cs、B、SO、Cl等が含まれ、かつ、その含有量が一律ではなく、地熱水の位置や濃度によって異なることにより、これを注入材として用いた場合のゲル化にバラつきが生じたり、あるいは、多様な地盤に注入した場合に地盤中の組成物と反応して土中におけるゲル化や固結強度、固結範囲にバラつきが生じることである。
【0021】
このように、地熱水においては重金属の含有量が環境基準値を上回っている場合があり、この地熱水中のシリカをそのまま使用すると地盤を汚染するおそれがある。また、反応がばらつくため、所定の注入領域において目的の注入効果を得られないおそれがある。
【0022】
上述の値はヒ素の環境基準値0.01mg/Lを超えるため、このような地熱水や地熱水中から収集したシリカ材は、環境基準値以下にしなければ再利用はできない。そこで、実施にあたっては、シリカ材の含有ヒ素が環境基準値以下であることを確認して用いるか、確認の上、基準値を超えているならば不溶化剤を用いて不溶化を行って、基準値以内にして用いなくてはならない。
【0023】
非特許文献5によれば、地熱水中の全シリカ濃度は775mg/Lであり、カウエロー産出井戸から採取された水の中には、1.90mg/kg~2.26mg/kgのヒ素が含有されていることがわかる。このように、本発明は、地熱水には重金属、特にはヒ素が環境基準値以上に含まれており、この地熱水中のシリカを用いた地盤固結材は注入地盤を汚染する可能性があることから、このような汚染を生じない地盤改良技術に係るものである。
【0024】
非特許文献6によれば、地熱水における自然由来上限値での重金属含有量は39mg/kgである。このように自然由来であっても地熱水中には重金属が環境基準値を超えて含有されているため、汚染重金属を含有する地熱水中のシリカをそのまま再利用することは、注入地盤を汚染することになる。そこで本発明者らは、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含むシリカグラウトからなる地盤固結材であって、シリカ材に含まれる重金属の含有量が環境基準値または一律排水基準値以下であるもの、または、基準値以下であることを確認されたもの若しくは基準値以下に調整されたものを用いることで、土壌汚染を生じないか、または、基準値を超える重金属を含んでいても、必要最小限の不溶化剤で土壌汚染を生ずることのない地盤固結材および地盤注入工法を実現したものである。また、本発明によれば、地熱水の熱そのものでシリカをコロイド化しているため、シリカコロイド製造時におけるCOの排出を低減でき、地球温暖化防止にも寄与することができる。
【0025】
排水基準と環境基準の例を下記の表1に示す。第二種特定有害物質の基準として、土壌溶出量基準または地下水基準、第二溶出量基準、さらに、自然的要因の上限値の目安、および、一律排水基準を一覧にした。環境基準としては、地下水の水質汚濁に係る環境基準、および、土壌環境基準を記載した。
【0026】
【表1】
【0027】
土壌溶出量基準または地下水基準および第二溶出量基準は、非特許文献4より抜粋したものであり、自然要因の上限値の目安は非特許文献6より抜粋したものであり、一律排水基準は非特許文献7より抜粋したものであり、地下水の水質汚濁に係る環境基準は非特許文献8から抜粋したものであり、土壌環境基準は非特許文献9から抜粋したものである。
【0028】
ここで、第一種特定有害物質とは揮発性有機化合物であり、第二種特定有害物質は重金属類、第三種特定有害物質は農薬類である。本発明は重金属を不溶化して低減しているため、第二種特定有害物質について上記に示している。本発明において、地熱水中のシリカを収集したシリカ材に含まれる重金属の不溶化は、目的に応じ、第二種特定有害物質が表に示すような基準値を満足するよう行う。
【0029】
以下に、汚染重金属の不溶化の例を説明する。複合汚染土に対する不溶化として、宇部マテリアルズ株式会社製のマグネシウム系の不溶化材である「グリーンライムMP-S」を使用した不溶化の一例を示す。配合量30kg/mを用いた試験では、ヒ素とセレンの含有量が約0.03mg/Lであったものが、養生6時間後には、土壌溶出量基準0.01mg/L以下まで低減している。マグネシウム系薬剤がヒ素を不溶化した事例である。よって、同様にして、地熱水中に含まれるヒ素やセレンなどの重金属を環境基準値以下に不溶化することが可能であることがわかる。
【0030】
一方、上述したように、従来の中性シリカコロイドは水ガラスからイオン交換法によってアルカリを除去して得られたうえ、濃縮増粒して弱アルカリ性の安定したコロイド状にすることにより熱エネルギーを多量に要する。これに対し、近年の地球温暖化に対しCO削減の国家的な要求があることから、本発明者らは、地熱水における自然エネルギーにより地熱水中のシリカ分をコロイド化したシリカコロイドとブレーン比表面積が4000cm/g以上、好ましくは8000cm/g以上の微粒子セメントと微粒子スラグの混合物からなる懸濁液を地盤注入に用いることにより、例えば特許文献1におけるシリカコロイドを上記シリカ材を置き換えることによって、環境保全性にすぐれ、かつ優れた地盤固結効果を得ることを可能にした。
【0031】
従って、本発明によれば、以下のような構成とすることで、環境保全性に優れ、ゲル化時間を長く調整して浸透性に優れ、しかも固結強度が大きく、かつアルカリの溶脱が少ない中性シリカコロイド-微粒子スラグ・微粒子セメント系の懸濁型の地盤固結材および地盤注入工法を提供することができる。
【0032】
すなわち、本発明の地盤固結材は、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含む懸濁型の地盤固結材であって、微粒子スラグおよび微粒子セメントを主成分とし、前記微粒子スラグおよび微粒子セメントのいずれかまたはその混合物がブレーン比表面積4000cm/g以上であることを特徴とするものである。
【0033】
本発明の地盤固結材においては、前記微粒子スラグおよび微粒子セメントのいずれかまたはその混合物が、ブレーン比表面積8000cm/g~20000cm/gであって、前記シリカ材の、pHが8.0~10.5、SiO濃度が3.5~60質量%、粒径が1~100nmの範囲にあることが好ましい。
【0034】
また、本発明の地盤固結材には、ゲル化調整剤を含有させてもよい。さらに、本発明の地盤固結材は、石膏、消石灰、ポゾラン、粘土および塩のうちのいずれかまたは複数種を含むことで、ゲル化および強度が調整されていることが好ましい。
【0035】
さらにまた、本発明の地盤固結材においては、下記(1)~(3)のうちのいずれかまたは複数を併用することにより懸濁粒子の凝集が低減され、浸透性が向上されていることが好ましい。
(1)分散剤、界面活性剤または気泡剤の含有
(2)マイクロ・ナノバブルの含有
(3)超音波の作用
【0036】
さらにまた、本発明の地盤固結材においては、前記シリカ材に含まれる重金属の含有量が、一律排水基準値または環境基準値以下であることが好ましい。本発明によれば、シリカ材として、地熱水中のシリカを収集したシリカ材であって、環境規制を満たすシリカコロイドを用いることにより、環境保全性に優れた地盤固結材および地盤注入工法を提供することができる。また、前記シリカ材に重金属が一律排水基準値または環境基準値を超えて含有されているかどうかを事前に確認し、目的に応じた基準値以下である該シリカ材を用いて地盤に注入することもできる。
【0037】
本発明の地盤固結材においては、前記シリカ材に含まれる重金属の含有量を、特には不溶化材を用いて、低減することにより、前記地盤固結材に含まれる重金属の含有量を環境基準値または一律排水基準値以下に調整することができる。また、本発明の地盤固結材においては、前記重金属であるヒ素が上記基準値以下であることが好ましい。
【0038】
さらに、本発明の地盤固結材においては、前記シリカ材を、特には地盤注入に適合する1~100nmの粒径まで、微細化して用いることにより、シリカスケールやシリカケーキを含む地熱水中のシリカ分の地盤注入への適合量を増大することができ、地熱水中のシリカ分を有効利用することにより、経済性を高めることができる。さらにまた、本発明の地盤固結材は、界面活性剤、分散剤、マイクロ・ナノバブルのうちのいずれか1種以上を含むことが好ましい。
【0039】
本発明の地盤固結材の製造方法は、上記地盤固結材を製造する方法であって、
前記シリカ材の微細化を、粉砕、急速攪拌、加圧噴射、超音波および湿式微粒子化のうちのいずれかの手段を用いて行うことを特徴とするものである。
【0040】
本発明の地盤注入工法は、上記地盤固結材を地盤に注入して地盤を固結することを特徴とするものである。
【0041】
本発明の地盤注入工法においては、あらかじめ1次注入材を注入した地盤に、2次注入材として前記地盤固結材を注入することが好ましい。
ものである。
【0042】
また、本発明の地盤注入工法においては、ベンダーエレメントを用いて、現場土供試体の注入前後のP波速度、S波速度と一軸圧縮試験との関係を計測し、注入現場における注入前後のP波速度、S波速度から前記地盤固結材の浸透固結によって変動するP波速度またはS波速度を弾性波探査、弾性波速度検層または音響トモグラフィーにより測定することによって、浸透固結範囲と改良強度あるいは透水係数を推測することができる。
【0043】
さらに、本発明の地盤注入工法においては、室内試験において、以下の強度にかかわる要因のいずれかあるいは複数について、P波速度またはS波速度と一軸圧縮強さとの関係を計測し、現場におけるP波速度またはS波速度の計測結果より、注入現場における改良効果と室内試験における強度にかかわる要因との関係を把握することにより、注入地盤の地盤改良効果を推定するとともに、注入現場における目的とする改良効果を得るためのA.配合設計、B.注入設計(注入間隔、充填率)と、C.注入効果の経時変化と注入効果の確認時期のいずれかまたは複数の関係を得ることが好ましい。
(1)固結土の強度
(2)微粒子スラグまたは微粒子スラグおよび微粒子セメントの含有量
(3)固結土の経日強度
(4)注入率
【0044】
さらにまた、本発明の地盤注入工法においては、現場における注入前後の貫入試験、コアサンプリングにより得た供試体のP波速度、S波速度と強度の関係、または、コアボーリングにより得た試料のシリカ量の分析から推定した強度と配合試験による固結供試体のP波速度、S波速度の関係から、現場におけるP波速度、S波速度の推定値からの強度分布並びに配合組成の分布の把握に役立てることが好ましい。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含む固結材を用いても、土壌汚染を生ずることがなく、かつ、COを削減した環境保全性に優れた懸濁型の地盤固結材、その製造方法、および、それを用いた環境保全性に優れた地盤注入工法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】マイクロバブル製造装置を含む地盤改良装置の一実施形態を示し、(a)は全体を示す概略図、(b)はバブル発生装置の縦断面図、(c),(d)は(b)におけるイ-イ線断面図である。
図2】本発明の地盤固結材で固結した豊浦砂供試体における一軸圧縮強さ(28日強度)とベンダーエレメント法によるS波速度の関係を示すグラフである。
図3】養生日数とS波速度との関係の例を示すグラフである。
図4】弾性波速度の受信孔、発信孔の例を示す説明図である。
図5】室内試験における現場土を用いた固結体の一軸圧縮強さとせん断波速度(Vs)との関係、現場土を用いたセメント・スラグ量と一軸圧縮強度との関係、並びに、現場におけるせん断波速度の測定値からの現場での一軸圧縮強さおよびセメント・スラグ量の推定に係る説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0048】
本発明の地盤固結材は、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含む懸濁型の地盤固結材であって、微粒子スラグおよび微粒子セメントを主成分とし、微粒子スラグおよび微粒子セメントのいずれかまたはその混合物がブレーン比表面積4000cm/g以上である地盤固結材である。
【0049】
上記微粒子スラグおよび微粒子セメントのいずれかまたはその混合物は、好適には、ブレーン比表面積8000cm/g~20000cm/gであって、シリカ材の、pHが8.0~10.5、SiO濃度が3.5~60質量%、粒径が1~100nmの範囲にあるものとする。
【0050】
また、本発明の地盤固結材は、シリカ材に含まれる重金属の含有量が、一律排水基準値または環境基準値以下であるか、または、シリカ材に含まれる重金属の含有量を低減することにより、地盤固結材に含まれる重金属の含有量が環境基準値または一律排水基準値以下に調整されているものであることが好ましい。これにより、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を用いた懸濁型固結材を、地盤改良に利用できるとともに、土壌を汚染することなく地盤を固結できる地盤固結材および地盤注入工法を実現することができ、また、シリカコロイド製造時におけるCOの排出を低減できるため、地球温暖化防止にも寄与することができる。さらに、地熱水中に含まれるシリカを収集したシリカ材を、特には地盤注入に適合する1~100nmの粒径まで、微細化して用いることで、シリカスケールやシリカケーキを含むシリカ分の地盤注入への適合量を増大して、地熱水中のシリカの有効利用率を高め、経済性を向上することができる。
【0051】
本発明における地熱水中のシリカを収集したシリカ材に含まれる重金属の含有量は、不溶化材を用いて重金属を不溶化することにより低減することができる。その他の重金属の除去、回収方法としては、硫酸多糖をビーズ、多孔性吸着部材などの固定化担体に固定化し、遠心法、沈降法などで回収する方法や、硫酸多糖を直接投入し、遠心法、沈降法などで回収する方法などといった、従来の環境汚染物質などの除去、回収方法を利用することができる。具体的には、重金属の不溶化は、例えば、宇部マテリアルズ株式会社製の不溶化材を用いて、先に述べた不溶化の事例と同様にして、実施することができる。本発明の地盤固結材においては、重金属の中でも、特に、生物に対する毒性が高いことが知られるヒ素の含有量が低減されていることが好ましい。
【0052】
地熱水中のシリカを収集したシリカ材を、重金属を不溶化せずに用いた場合には、地盤を重金属で汚染してしまうおそれがある。よって、地熱水中のシリカを収集したシリカ材に含まれる重金属の含有量を、環境基準値以下または一律排水基準値以下まで低減して用いたシリカグラウトからなる地盤固結材を使用する。シリカ材における重金属の含有量については、表1に示す目的に対応する基準値以下に調整することができ、このようなシリカ材を用いることにより、効率的に不溶化を行うことができ、地盤注入に用いることができる。また、地熱水中のシリカを収集したシリカ材の重金属の含有量を分析して一律排水基準値以下または環境基準値以下であることを確認したシリカ材ならば、そのまま地盤固結材として用いることもできる。
【0053】
また、本発明においては、目的に応じ、地熱水中のシリカを収集したシリカ材として、重金属の含有量を分析して、さらに、第二種特定有害物質の含有量が環境基準値以下に低減されたものを用いることが好ましい。これにより、土壌汚染をより効果的に防止することができる。
【0054】
具体的には、本発明の地盤固結材としては、重金属が環境基準値以下であるシリカ材を、上記本出願人による特許文献1に記載されている配合に置き換えて用いることができる。
【0055】
本発明の地盤固結材におけるシリカグラウトの構成は、例えば、以下のとおりとすることができる。
1)シリカ材:シリカ材はpH8.0~10.5、粒径1~100nm、SiO濃度3.5~60質量%である。
2)微粒子スラグと微粒子セメント
ブレーン比表面積4000cm/g以上、好ましくは8000cm/g以上~20000cm/g、水硬率0.9~2.0、塩基度1.9~2.9である。
但し、水硬率:CaO/(SiO+Al+Fe)、塩基度:(CaO+MgO+Al)/SiOである。
ここで、上記CaO、SiO、Al、Fe、MgOは、セメント、スラグ中のそれぞれの100分率を示す。
スラグ:鉄鋼スラグまたは高炉スラグ、水砕スラグ、ステンレススラグ、フェロアロイスラグ等である。
3)ゲル化調整剤としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の重炭酸塩、炭酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、ピロリン酸塩等が挙げられる。
4)微粒子セメントとしては、ポルトランドセメント、高炉セメント等や、これらのクリンカーの粉砕物でも、これに石膏等を混合したセメントの微粒子でもよい。また、これらと微粒子スラグとの混合物は、混合前にブレーン比表面積が約4000cm/g以上となるように粉砕されたものを混合しても、ある程度粉砕されたものを混合し、さらにブレーン比表面積が約4000cm/g以上、好ましくは約8000cm/g以上になるまで粉砕したものでもよい。さらに、懸濁液状として微粒子状のものを分級して微粒子懸濁液として使用することもできる。
5)地盤固結材において、中性シリカゾルの配合量は地盤固結材(グラウト)1000g当たり50~300gが好ましい。これ以上多くしても、強度上昇はほとんどみられない。
6)微粒子スラグ、微粒子セメントあるいはこれらの混合物の配合量は、地盤固結材1000g当たり20~400gが好ましく、これより少ないと固結材の強度が小さく、これ以上多くなると液の粘性が高くなり、凝固時間も長くすることができなくなる。
また、本発明の地盤固結材は、ゲル化調整剤を用いることなく、充分な浸透時間を得ることができることが特徴である。ゲル化調整剤を配合する場合には、その配合量は、ゲル化調整剤の種類、他の成分組成等により一概に規定することは難しいが、一般には全配合液中の10質量%以下が好ましい。過大に添加するといつまでも粘性が増加せず、ゲル化が生じないことが起きる。
【0056】
前述したように、本発明の地盤固結材は、地盤中の組成物が含まれていることを除けばイオン交換法によるシリカコロイドと粒径分布もpHもシリカ濃度も同様に用いることができるところから、本発明者らによる特許文献1のシリカコロイドにおきかえて同様の効果を得ることができる。したがって、以下、イオン交換法によるシリカコロイドを用いた実験例により、その強度特性やゲル化の特性も示すものとする。なお、これらの実験例は本発明の一例に過ぎず、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。
【0057】
まず、本発明に用いた中性シリカコロイド、スラグ、セメントおよび増粘時間の調整剤を、以下にまとめて示す。
(1)シリカコロイド
シリカコロイドとしては、下記表2に示すものを用いた。
(2)スラグ
スラグとしては、下記表3に示す組成および粉砕度の異なる3種類のスラグを使用した。
(3)セメント
セメントとしては、下記表4に示す組成および粉砕度の異なるポルトランドセメントと高炉セメントを使用した。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
(4)ゲル化調整剤
代表的なゲル化調整剤として、炭酸水素ナトリウム(試薬一級:NaHCO)を使用した。他のゲル化調整剤は添加量の差はあるがゲル化遅延効果を示すものの、重炭酸のアルカリ金属塩または炭酸のアルカリ金属塩が特に優れた効果が得られた。また、重炭酸のアルカリ金属塩と炭酸のアルカリ金属塩は殆ど同じ効果を示した。以下の試験では、炭酸水素ナトリウム(試薬1級:NaHCO)を使用した。
【0062】
(5)強度試験
強度は中性シリカコロイドの影響は少なく、微粒子セメント・微粒子スラグのブレーン値と配合量によって殆ど決まるので、7日、30日強度を表5に示す。
【0063】
(実験例1~9)
表2の中性シリカコロイドおよび水をA液とし、B液として表3のスラグ、表4のセメントの水懸濁液を用い、A液とB液とを表5に示す割合で混合して、各種の地盤固結材を調製した。得られた地盤固結材の懸濁液についてB型粘度計により粘度を測定し、また、土質工学会基準「土の一軸圧縮試験方法」に準じて一軸圧縮強度を測定した。実験例1~9の配合は、いずれも100CP以下の流動性が続き1時間以上経過後100CPに達したがその後攪拌すれば流動性を示す、という可塑状を呈したが、最終的には攪拌しても流動性が生じず固化した。結果を表5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
(6)粘度試験例を表6に示す。
【0066】
【表6】
【0067】
(7)配合とゲルタイムとブリージングと粘度変化の例を、表7に示す。表7より、重曹添加量が多いと低粘度が続き、最終的には固化するがブリージングが増加する。
【0068】
【表7】
【0069】
本発明の地盤固結材は、地盤改良(補強)、液状化防止、耐震補強、住宅持ち上げなどに、幅広く適用できる。
【0070】
本発明においては、シリカを含有する地熱水中のシリカを収集したシリカ材に重金属が環境基準値以上で含有されているかどうかを事前に確認し、目的に応じ、基準値以下であれば、不溶化材を含有しない地熱水中のシリカを収集したシリカ材を用いた地盤固結材を、地盤に注入することができる。また、地熱水中のシリカを収集したシリカ材における重金属の含有量が環境基準値を超えていた場合には、このシリカ材中の重金属を不溶化してその含有量を低減したのち、得られたシリカ材をそのまま固結材に用いることができる。さらに、不溶化材を含有する地熱水中のシリカを収集したシリカ材をそのまま用いて地盤固結材として作液し、重金属の不溶化を同時に行うことにより、重金属の値を基準値以下にすることもできる。地熱水中のシリカを収集したシリカ材に含まれる重金属が単一であることが確認できれば、その重金属に対して有効な不溶化材のみを適宜併用することができる。
【0071】
本発明によれば、地盤中に重金属が存在した場合でも、地盤固結材に不溶化材が含まれているため、同時に不溶化することが可能となる。
【0072】
不溶化するために用いる薬剤(不溶化材)としては、第二鉄系、第一鉄系、りん酸系、キレート剤、硫化物、チタン系、セリウム系、カルシウム系、マグネシウム系などが使用される。これらは地盤固結材の成分として使用されている場合があるが、本発明ではこれらの不溶化材を用い、注入材自体に含まれる重金属を基準値以下の量とすることにより、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を用いた地盤汚染のない地盤改良を可能にしたものである。これらの薬剤の中には劇物や危険物などに指定されているものもあるため、毒物および劇物取締法、危険物船舶運送および貯蔵規則、消防法などの法令を遵守し、取扱いには注意が必要である。
【0073】
本発明において用いるシリカを含む地熱水としては、発電方式はフラッシュ式でもバイナリー式でもよく、その他の地熱発電方式を使った地熱水でもよい。
【0074】
本発明において、地熱水中のシリカを収集したシリカ材に由来するシリカ濃度は30%、コロイダルシリカとしての平均粒径は1~100nm、特には5~20nmの範囲であることが、耐久地盤の形成に優れているため、好ましい。シリカ濃度としては制限されないが、20~50%であることが好ましく、20~30%であることがより好ましい。
【0075】
また、本発明においては、超音波発生装置を併用することで、上記シリカ材をさらに微細に粉砕して用いたり、浸透性を良くすることもできる。また、固結材に、カチオン系、アニオン系、非イオン系などの界面活性剤を併用することや、分散剤(花王ケミカル社製のマイティ150など)を併用することによっても、浸透性を良くすることができる。さらに、高圧ポンプ攪拌によって微細化することもでき、例えば、スギノマシン社製のスターバースト等の湿式微粒子化装置を用いることもできる。さらにまた、図1に示すような装置を用いて、シリカ材を粉砕して微細化すると同時に、マイクロ・ナノバブルの作用で浸透性をよくすることもできる。
【0076】
本発明の地盤固結材においては、(1)分散剤、界面活性剤または気泡剤の含有、(2)マイクロ・ナノバブルの含有、(3)超音波の作用のうちのいずれかまたは複数を併用することにより懸濁粒子の凝集が低減され、浸透性が向上されていることが好ましい。
【0077】
なお、図1はマイクロバブルをシリカ溶液に混入する装置であるが、エアコンプレッサー7およびエア管16を使用しなくても(b),(c)の円錐状の溶液導入路12に上記シリカ材を通すことによって、シリカ材を粉砕、微細化することができる。
【0078】
図1は、マイクロ・ナノバブル製造装置を含む地盤改良装置の一実施形態を示す説明図である。符号1は、微細気泡(マイクロバブル)が混入されたシリカ溶液(以下、「シリカバブル」とも称する)を生成するための加圧タンクであり、この加圧タンク1内にマイクロバブル発生装置2が設置されている。符号3は、加圧タンク1内に送液管4を介して送り込まれるシリカ溶液の原料液を配合するための原料液配合ミキサーであり、符号5は、加圧タンク1内のシリカ溶液を加圧タンク1とマイクロバブル発生装置2との間を送液管6を介して循環させる注入液循環ポンプ(薬液循環ポンプ)である。符号7は、加圧タンク1内に圧縮空気を送り込んで加圧タンク1内を加圧しつつ、マイクロバブル発生装置2にエアを送り込むエアコンプレッサーであり、符号8は、加圧タンク1内で生成されたシリカバブルを地盤中に注入管9を介して注入するための注入ポンプである。符号10は、マイクロバブル発生装置2、原料液配合ミキサー3、注入液循環ポンプ5および注入ポンプ8にそれぞれ信号ケーブル11を介して接続され、これらを適正に制御するコントローラー(集中管理装置)である。
【0079】
マイクロバブル発生装置2は、図1(b),(c)に示すように、内径が下端から上端方向に徐々に小径となる円錐形状の溶液導入路12と、この溶液導入路12の直上に接し、円筒形状をなす溶液放出路13を備えている。溶液導入路12の下端部は、注入液循環ポンプ5から伸びる送液管6に接続され、上端部は溶液導入孔14を介して溶液放出路13に連通している。溶液放出路13の内径は、少なくとも溶液導入路12の上端部の内径より大きく形成され、上端部は加圧タンク1内に大きく開口している。また、溶液導入孔14の内壁部にはエア吐出口15が形成され、このエア吐出口15はエアコンプレッサー7から延びるエア管16に接続されている。
【0080】
このような構成において、注入液循環ポンプ5が作動し、加圧タンク1内のシリカ溶液が送液管6を介して加圧タンク1とマイクロバブル発生装置2との間を循環し、同時にエアコンプレッサー7が作動してエア吐出口15から溶液導入孔14内にエアが吐出することにより、溶液放出路13の上端部から加圧タンク1内にシリカバブルが生成されて放出される。この場合、送液管6を介して溶液導入路12内にシリカ溶液が圧送されることにより、溶液導入路12内にはシリカ溶液の旋回流が形成される。
【0081】
そして、シリカ溶液は溶液導入路12内をその内周面に沿って旋回しながら溶液導入孔14方向に流れ、溶液導入孔14を通って溶液放出路13内に流れ込む。なお、図1(b),(c)において、矢印はシリカ溶液の旋回流を示す。また、溶液放出路13内でシリカ溶液の旋回流が形成されることにより、溶液放出路13の中心軸上付近に負圧部分が形成され、この負圧によってエア吐出口15から溶液導入孔14内にエアが吐出される。
【0082】
なお、図1(d)に示すように、溶液導入路12にシリカ溶液を圧送するための送液管6を溶液導入路12の内周面の接線方向に接続することにより、溶液導入路12内におけるシリカ溶液の旋回流をシリカ溶液の流れによって確実に形成することができる。
【0083】
溶液放出路13内に吐出されたエアは、圧力が最も低い溶液放出路13の中心軸上付近を溶液放出路13の開口端方向(上方向)に流れ、細い紐状の旋回気体空洞部αを形成する。また、溶液放出路13内では溶液導入孔14から溶液放出路13の先端の間においてシリカ溶液とエアとからなる旋回気液混合体流βが旋回気体空洞部αと共に形成される。この旋回気液混合体流は縮径されて先細りになった後、切断されてマイクロバブルを生成し、その後、溶液放出路13の先端部に向かって大きく旋回しながら流れ、溶液放出路13の開口端部から加圧タンク1内に放出される。
【0084】
このように旋回気液混合体流βが旋回すると、シリカ溶液とエアの比重差からシリカ溶液に遠心力、エアに向心力がそれぞれ同時に作用する。このため、エアは溶液放出路13内の中心軸線における溶液放出路13の先端付近まで紐状に続き、溶液放出路13の先端付近の前後で大きな旋回速度差の発生によって連続的に切断されるので、大量のマイクロバブルが溶液放出路13の端部付近で発生し、加圧タンク1内に放出される。
【0085】
このようにして生成されたバブルが混入されたシリカ溶液(シリカバブル)は、注入ポンプ8が作動することにより、圧送管17を介して注入管9に送り込まれ、注入管9を介して地盤中に注入される。
【0086】
本発明において、地熱水中のシリカの回収方法としては、限外ろ過や濃縮などを行ってもよい。
【0087】
地熱水から得られるシリカ分の粒径は、シリカケーキやシリカスケールも含めて1nm程度から数μm以上のものもある。それらから地盤注入に適合する粒径1~100nmのシリカ分を得るには、限外ろ過膜を用いて溶質分子径の大きさに対する「分子ふるい」効果を用いるが、この場合、液体を全量通過させてろ過を行うことができるものの、孔の大きさが小さいために阻止された微粒子や不純物により短時間で膜が閉塞されやすいという問題がある。本発明においては、限外ろ過膜を用いて上述した地盤注入に適した粒径のシリカをふるい分けて使用することもできるが、上述したように、収集したシリカ分を粉砕、急速攪拌、加圧噴射、超音波および湿式微粒子化のうちのいずれかの手段を用いて微細化して用いることもできる。その場合、界面活性剤や分散剤、マイクロ・ナノバブルのうちのいずれか1種以上を併用することも効果的である。
【0088】
また、本発明の地盤固結材は、石膏、消石灰、ポゾラン、粘土および塩のうちのいずれかまたは複数種を含むことでゲル化および強度が調整されていることが好ましい。
【0089】
従来のコロイドを有効成分とするシリカグラウトにおいては、水ガラスからコロイドを形成するのに多くの熱量を必要とし、したがってCO排出量が大きいのに対し、本発明では、地熱水による熱エネルギーを利用してシリカコロイド化を得ることにより、COの排出量が少なく良い点を利用しながら、地熱水につきもののヒ素(As)などの汚染性重金属の含有量を基準値以下とした環境保全性に優れた地盤改良工法を提供することができる。また、地熱水を起源とするシリカ材は地熱水中の種々の塩を含有するため、広範囲の地盤改良のためにはゲル化時間が短縮しやすいという問題、および、その塩の含有量や組成が一律でないことから多様な地盤に注入した場合に地盤中におけるゲル化が一律でないだけでなく固結性が一律でないという問題を、本発明では後述する手法により、多様な地盤条件、注入条件、施工条件、適用工法において、所定の注入効果を上げることを可能にしたものである。
【0090】
上述したように、地熱水中に含まれるシリカ材を地盤注入として用いる場合の最大の課題は、特許文献4の表1~表8に記載されているようにヒ素のような有害重金属が含有されていることと、ヒ素以外の成分としてSiO、Na、Ca、Al、Cl等が含まれ、かつ、その含有量が一律ではなく、地熱水の位置や濃度によって異なることにより、注入材のゲル化にバラつきが生じたり、あるいは、多様な地盤に注入した場合に地盤中の組成物と反応して土中におけるゲル化や強度にバラつきが生じることである。
【0091】
したがって、本発明においては、あらかじめ1次注入材を注入した地盤に、2次注入材として上記地盤固結材を注入することが好ましい。例えば、1次注入としてセメント・ベントナイトを用い、2次注入として上記地盤固結材を重ねて注入して、2次注入材の注入領域外への逸脱を低減することができる。
【0092】
以上の手法によって、地盤の均質化をはかって注入地盤を拘束したうえで、大きな注入孔間隔でも所定の範囲外へ逸脱することなく所定の注入量に相当する固結体を形成することができる。
【0093】
また、本発明者は、本発明の地盤固結材は地熱水が噴出する深度や位置等によって異なる含有量のSiO、Ca、Fe、Al等を含んでいるために、地盤に注入した場合、強度や浸透特性が一律になりにくいところから、弾性波速度検層が、本発明の地盤固結材による地盤改良効果の把握に極めて有効であることを見出した。
【0094】
よって、本発明においては、以下のように、ベンダーエレメントを用いて、現場土供試体の注入前後のP波速度、S波速度と一軸圧縮試験との関係を計測し、注入現場における注入前後のP波速度、S波速度から地盤固結材の浸透固結によって変動するP波速度またはS波速度を弾性波探査、弾性波速度検層または音響トモグラフィーにより測定することによって、浸透固結範囲と改良強度あるいは透水係数を推測することが好ましい。
【0095】
また、室内試験において、以下の強度にかかわる要因のいずれかあるいは複数について、P波速度またはS波速度と一軸圧縮強さとの関係を計測し、現場におけるP波速度またはS波速度の計測結果より、注入現場における改良効果と室内試験における強度にかかわる要因との関係を把握することにより、注入地盤の地盤改良効果を推定するとともに、注入現場における目的とする改良効果を得るためのA.配合設計、B.注入設計(注入間隔、充填率)と、C.注入効果の経時変化と注入効果の確認時期のいずれかまたは複数の関係を得ることが好ましい。
(1)固結土の強度
(2)微粒子スラグまたは微粒子スラグおよび微粒子セメントの含有量
(3)固結土の経日強度
(4)注入率
【0096】
ベンダーエレメントによる一軸圧縮強さと弾性波速度の関係について、以下に具体的に説明する。図2は、上記実験例で示した懸濁液で固結した豊浦砂供試体における一軸圧縮強さ(28日強度)と、ベンダーエレメント法によるS波速度の関係を示す。図3は、養生日数とせん断波速度の関係の例を示す。
【0097】
図4は、固結ゾーンまたは固結予定ゾーンに受信孔と発信孔を設置して、S波速度VsやP波速度Vpを測定する説明図である。注入孔を受信孔、発信孔としてS波速度VsやP波速度Vpを測定してもよい。
【0098】
ベンダーエレメント法は、室内試験では固結供試体の両端に発信部と受信部を設置して、S波速度VsやP波速度Vpを測定するが、現地においては受信部と発信部にそれぞれ設置してS波速度VsやP波速度Vpを測定する。
【0099】
本発明の固結材は、セメント・スラグ量で強度がほぼ一義的に決まることから、セメント・スラグ量とS波速度VsやP波速度Vpを知ることによって改良効果を推定できるという効果を持つ。
【0100】
現場土を用いた本懸濁液による固結供試体の室内試験における一軸圧縮強さとS波速度Vsの関係、並びにセメント・スラグ量と一軸圧縮強さの関係を図5に示し、注入地盤におけるA地点とB地点におけるS波速度の測定値をプロットした。これより、A地点およびB地点における一軸圧縮強さを推定できる。また、その地点における懸濁液中のスラグ量も推定できる。
【0101】
このようにして、注入現場における固結範囲と固結強度を把握することができる。図5の例では、A地点、B地点において目標S波速度Vsを満たし、したがって設計Vsを満たしていることがわかる。
【0102】
また、室内試験で、その一軸圧縮強さは、注入材の充填率とセメント・スラグの含有量とS波速度やP波速度の関係を求めておけば(図2図3)、現場におけるS波速度やP波速度の測定値より、地盤中における充填量や組成の状況を知ることができる(図5)。
【0103】
図2図3は、注入液のコロイド液量5L/400L、セメント・スラグ量75kg/400L(セメント:スラグ=1:2)を注入したが、A地点では75kg/400L、B地点では50kg/400Lの含有量であった。従って、測定地盤におけるセメント・スラグ分は、注入液より、A地点、B地点ともに、いくらか薄くなっていることがわかる。
【0104】
また、現場における注入前後の注入地盤の貫入試験値やコアサンプリングによる供試体の強度試験値とその地点のせん断波速度や強度の推定値とを比較することによって、非破壊試験結果の解析に役立てることができる。
【0105】
すなわち、現場における注入前後の貫入試験、コアサンプリングにより得た供試体のP波速度、S波速度と強度の関係、または、コアボーリングにより得た試料のシリカ量の分析から推定した強度と配合試験による固結供試体のP波速度、S波速度の関係から、現場におけるP波速度、S波速度の推定値からの強度分布並びに配合組成の分布の把握に役立てることが好ましい。
【0106】
また、注入前に受信部と発信部を設置しておけば、注入中においてリアルタイムで地盤における浸透状況を把握して、リアルタイムで注入量の補正やセメント・スラグ量の補正を行うことができる。養生に伴い、変化するS波速度やP波速度を非破壊にて測定することにより、最終的に目的とする改良効果を得られたかどうかを判断することができる。
【0107】
以上のように、本発明の懸濁型の地盤固結材の流動特性と、注入設計と、注入効果を把握して、設計に役立てることができる。
【0108】
本発明の地盤固結材は、主に地盤の止水性向上、強度増大、液状化防止に適し、大きな吐出量の固結材を、孔壁周囲の地盤中に低圧力で広範囲かつ均一に浸透注入させることができる。本発明は、不均質地盤でも大きな固結径でかつ所定範囲以外への逸脱を低減し、経済的で確実に地盤改良を実施することができる。
【0109】
本発明の地盤注入工法は、上記本発明の地盤固結材を地盤に注入して地盤を固結することを特徴とするものである。
【符号の説明】
【0110】
1 加圧タンク
2 マイクロバブル発生装置(渦流発生装置)
3 原料液配合ミキサー
4 送液管
5 注入液循環ポンプ
6 送液管
7 エアコンプレッサー
8 注入ポンプ
9 注入管
10 コントローラー
11 信号ケーブル
12 溶液導入路
13 溶液放出路
14 溶液導入孔
15 エア吐出口
16 エア管
17 圧送管
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2021-04-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含む懸濁型の地盤固結材であって、微粒子スラグおよび微粒子セメントを主成分とし、前記微粒子スラグおよび微粒子セメントのいずれかまたはその混合物がブレーン比表面積4000cm/g以上であることを特徴とする地盤固結材。
【請求項2】
前記微粒子スラグおよび微粒子セメントのいずれかまたはその混合物が、ブレーン比表面積8000cm/g~20000cm/gであって、前記シリカ材の、pHが8.0~10.5、SiO濃度が3.5~60質量%、粒径が1~100nmの範囲にある請求項1記載の地盤固結材。
【請求項3】
ゲル化調整剤を含有する請求項1または2記載の地盤固結材。
【請求項4】
石膏、消石灰、ポゾラン、粘土および塩のうちのいずれかまたは複数種を含むことでゲル化および強度が調整されている請求項1~3のうちいずれか一項記載の地盤固結材。
【請求項5】
前記シリカ材に含まれる重金属の含有量が、一律排水基準値または環境基準値以下である請求項1~3のうちいずれか一項記載の地盤固結材。
【請求項6】
前記シリカ材に重金属が一律排水基準値または環境基準値を超えて含有されているかどうかを事前に確認し、目的に応じた基準値以下である該シリカ材を用いて地盤に注入する請求項1~のうちいずれか一項記載の地盤固結材。
【請求項7】
前記シリカ材に含まれる重金属の含有量を低減することにより、前記地盤固結材に含まれる重金属の含有量が環境基準値または一律排水基準値以下に調整されている請求項1~のうちいずれか一項記載の地盤固結材。
【請求項8】
前記シリカ材に含まれる重金属の含有量が、不溶化材を用いて低減されている請求項記載の地盤固結材。
【請求項9】
前記重金属がヒ素である請求項5~8のうちいずれか一項記載の地盤固結材。
【請求項10】
前記シリカ材が微細化されている請求項1~のうちいずれか一項記載の地盤固結材。
【請求項11】
前記シリカ材が、地盤注入に適合する1~100nmの粒径まで微細化されている請求項10記載の地盤固結材。
【請求項12】
界面活性剤、分散剤およびマイクロ・ナノバブルのうちのいずれか1種以上を含む請求項10または11記載の地盤固結材。
【請求項13】
請求項10~12のうちいずれか一項記載の地盤固結材を製造する方法であって、
前記シリカ材の微細化を、粉砕、急速攪拌、加圧噴射、超音波および湿式微粒子化のうちのいずれかの手段を用いて行うことを特徴とする地盤固結材の製造方法。
【請求項14】
請求項1~12のうちいずれか一項記載の地盤固結材を地盤に注入して地盤を固結することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項15】
あらかじめ1次注入材を注入した地盤に、2次注入材として前記地盤固結材を注入する請求項14記載の地盤注入工法。
【請求項16】
ベンダーエレメントを用いて、現場土供試体の注入前後のP波速度、S波速度と一軸圧縮試験との関係を計測し、注入現場における注入前後のP波速度、S波速度から前記地盤固結材の浸透固結によって変動するP波速度またはS波速度を弾性波探査、弾性波速度検層または音響トモグラフィーにより測定することによって、浸透固結範囲と改良強度あるいは透水係数を推測する請求項14または15記載の地盤注入工法。
【請求項17】
室内試験において、以下の強度にかかわる要因のいずれかあるいは複数について、P波速度またはS波速度と一軸圧縮強さとの関係を計測し、現場におけるP波速度またはS波速度の計測結果より、注入現場における改良効果と室内試験における強度にかかわる要因との関係を把握することにより、注入地盤の地盤改良効果を推定するとともに、注入現場における目的とする改良効果を得るためのA.配合設計、B.注入設計(注入間隔、充填率)と、C.注入効果の経時変化と注入効果の確認時期のいずれかまたは複数の関係を得る請求項16記載の地盤注入工法。
(1)固結土の強度
(2)微粒子スラグまたは微粒子スラグおよび微粒子セメントの含有量
(3)固結土の経日強度
(4)注入率
【請求項18】
現場における注入前後の貫入試験、コアサンプリングにより得た供試体のP波速度、S波速度と強度の関係、または、コアボーリングにより得た試料のシリカ量の分析から推定した強度と配合試験による固結供試体のP波速度、S波速度の関係から、現場におけるP波速度、S波速度の推定値からの強度分布並びに配合組成の分布の把握に役立てる請求項16または17記載の地盤注入工法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0035
【補正方法】削除
【補正の内容】