(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091006
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】養殖ブリ及びブリの養殖方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/10 20170101AFI20220613BHJP
A23K 50/80 20160101ALI20220613BHJP
A01K 63/06 20060101ALI20220613BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20220613BHJP
【FI】
A01K61/10
A23K50/80
A01K63/06 B
A23K20/158
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203663
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 義宣
(72)【発明者】
【氏名】小川 大樹
(72)【発明者】
【氏名】椎名 康彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 勤
【テーマコード(参考)】
2B005
2B104
2B150
【Fターム(参考)】
2B005GA01
2B005LA01
2B005LA06
2B104AA01
2B104CF02
2B104EC01
2B150AA08
2B150AB05
2B150DA58
(57)【要約】
【課題】可食部のHH比が高く、かつ、酸化による風味の劣化を生じにくい養殖ブリを提供する。
【解決手段】可食部のHH比(Hypocholesterolaemic and Hypercholesterolaemic fatty acid ratio)が2.5以上であり、かつ、可食部の脂質における一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で34.0%以上であることを特徴とする、養殖ブリ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食部のHH比(Hypocholesterolaemic and Hypercholesterolaemic fatty acid ratio)が2.5以上であり、かつ
可食部の脂質における一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で34.0%以上であることを特徴とする、養殖ブリ。
【請求項2】
前記可食部の脂質における炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で2.4%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の養殖ブリ。
【請求項3】
前記可食部の脂質におけるドコサヘキサエン酸及びその誘導体の含有量が、11.0%以下であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の養殖ブリ。
【請求項4】
前記可食部の脂質における飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で26.0%以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の養殖ブリ。
【請求項5】
飼育管理条件下でブリを養殖することで、請求項1~4のいずれか一項に記載の養殖ブリを育成する、ブリの養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HH比(Hypocholesterolaemic and Hypercholesterolaemic fatty acid ratio)の高い養殖ブリ、及び当該養殖ブリを得るためのブリの養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HH比(Hypocholesterolaemic and Hypercholesterolaemic fatty acid ratio)は、食品に含有する脂肪酸に占める多価不飽和脂肪酸(Poly Unsaturated Fatty Acid:PUFA)、一価不飽和脂肪酸(Mono Unsaturated Fatty Acid:MUFA)と飽和脂肪酸(Saturated Fatty Acid:SFA)との重量組成比で規定される。HH比の高い食品の摂取は、高コレステロール血症のリスク低減効果が期待されている(非特許文献1及び2)。
【0003】
魚類に多く含まれるPUFAとしては、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等が知られ、これらは、ヒトが摂取した場合に、中性脂肪の低減等の健康増進効果があることが報告されている。一方で、これらのPUFAは、酸化されやすい性質を有し、魚類を使用した食品においては、いわゆる「魚臭さ」の要因となっている。
【0004】
MUFAは、主に植物や魚に含まれる脂肪酸であるが、これについても、ヒトが摂取した場合に、血中のLDL-コレステロールを下げる等の健康増進効果があることが知られている。MUFAの中でも、特に長鎖一価不飽和脂肪酸(Long Chain Mono Unsaturated Fatty Acid:LCMUFA)と呼ばれる炭素数20以上のものは、アテローム性動脈硬化症(非特許文献3)、糖尿病(特許文献1)、メタボリックシンドローム(特許文献2)などの予防、治療への効果が報告されている。特許文献3には、水産物原料から、炭素数20及び/又は22の遊離一価不飽和脂肪酸(LCMUFA)又はそれらの低級アルコールエステルを製造する方法が開示されている。この方法は、主に、LCMUFAを高濃度で含む医薬品、健康食品等の材料を製造することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-294525号公報
【特許文献2】国際公開2012/121080
【特許文献3】国際公開2016/002868
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Haouas, et al., Int. J. Food Sci. Tech., 45, 1478-1485 (2010)
【非特許文献2】Santos-Silva Livestock Production Science 77 187-194 (2002)
【非特許文献3】Yang, et al., Mol. Nutr. Food Res., 60(10): 2208-2218 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、HH比の高い食品の健康増進効果が求められる一方、単にPUFAの脂肪酸組成比を高くしても酸化の影響による風味の劣化が生じやすい、という問題が生じ得る。高いHH比を有しつつ、酸化による風味の劣化を生じにくい食品が求められる。
【0008】
本発明は、可食部のHH比が高く健康機能に優れ、かつ、酸化による風味の劣化を生じにくい養殖ブリを提供することを目的とする。また、可食部のHH比が高く、かつ、酸化による風味の劣化を生じにくい養殖ブリを安定的に取得するための、ブリの養殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下を提供するものである。
(1)可食部のHH比(Hypocholesterolaemic and Hypercholesterolaemic fatty acid ratio)が2.5以上であり、かつ、可食部の脂質における一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で34.0%以上であることを特徴とする、養殖ブリ。
(2)前記可食部の脂質における炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で2.4%以上であることを特徴とする、(1)の養殖ブリ。
(3)前記可食部の脂質におけるドコサヘキサエン酸及びその誘導体の含有量が、11.0%以下であることを特徴とする、(1)または(2)の養殖ブリ。
(4)前記可食部の脂質における飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で26.0%以下であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかの養殖ブリ。
(5)飼育管理条件下でブリを養殖することで、(1)~(4)のいずれかの養殖ブリを育成する、ブリの養殖方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、可食部のHH比が高く、かつ、酸化による風味の劣化を生じにくい養殖ブリを提供することが可能となる。また、可食部のHH比が高く、かつ、酸化による風味の劣化を生じにくい養殖ブリを安定的に取得するための、ブリの養殖方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<養殖ブリ>
本発明の養殖ブリは、可食部のHH比(Hypocholesterolaemic and Hypercholesterolaemic fatty acid ratio)が2.5以上であり、かつ、可食部の脂質における一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で34.0%以上であることを特徴とする。
【0012】
本明細書において、「ブリ」とは、スズキ目アジ科に分類される海水魚であり、学名Seriola quinqueradiataで表される魚を指す。ブリは、わが国では出世魚として知られ、その齢数や大きさによって、ワカシ、ワカナゴ、イナダ、ワラサ、モジャコ、ワカナ、ツバス、ハマチ、メジロ等とも称される。また、地域によっても呼称が異なる。本明細書における「ブリ」は、これらのいずれも包含するが、特に1年齢以上及び/または魚体が1kg以上のものが好ましい。
【0013】
本明細書において、「養殖ブリ」とは、期間の長短に関わらず、出荷前に生簀等の飼育管理条件下で給餌、育成されたブリを指す。「養殖ブリ」は天然種苗のブリも人工孵化のブリも含む。これに対して、「天然ブリ」は、海上で捕獲された後、出荷まで、飼育管理条件下での給餌、育成が行われていないブリを指す。ここでいう「飼育管理条件下」とは、人工的に各種条件を管理した環境下であることを示す。具体的な条件については、「ブリの養殖方法」の項に記載する。
【0014】
本明細書において「可食部」とは、通常、ヒトが摂食する部分全てを指し、主に、筋肉組織であり、そのほか眼球周り、内臓などが挙げられる。ブリの可食部の多くは筋肉組織が占めており、筋肉組織は、通常は、その約75~85重量%が通常の筋肉組織、約15~25重量%が血合肉で構成される。本明細書の実施例において、可食部として通常の筋肉及び血合肉を約4:1の重量比で含む試料を使用するが、本発明の「可食部」は、これに限定されるものではない。
【0015】
本明細書において、脂肪酸は、「C18:1(n-9)」のように表記する。C18:1(n-9)は、炭素数18で、不飽和結合を1つ有し、かつ、炭素鎖のメチル末端から数えて9番目の炭素-炭素結合に二重結合が存在する脂肪酸を示す。すなわち、C18:1(n-9)はオレイン酸である。
【0016】
本明細書において「HH比」とは、(Hypocholesterolaemic and Hypercholesterolaemic fatty acid ratio)は、脂質に含まれる脂肪酸に占める多価不飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸との重量組成比であり、下記式で求められる値をいう。
HH比=(C18:1(n-9)+C18:2(n-6)+C20:4(n-6)+C18:3(n-3)+C20:5(n-3)+C22:5(n-3)+C22:6(n-3))/(C14:0+C16:0)
【0017】
本明細書において「一価不飽和脂肪酸」とは、モノエン酸、MUFAとも称される炭素鎖に一つの不飽和結合を有する脂肪酸を指し、多価不飽和脂肪酸(ポリエン酸、Poly Unsaturated Fatty Acid:PUFA)、飽和脂肪酸(Saturated Fatty Acid:SFA)と区別される。本明細書において、MUFAには、デセン酸(C10:1)、ミリストレイン酸(C14:1)、ペンタデセン酸(C15:1)、パルミトレイン酸(C16:1)、ヘプタデセン酸(C17:1)、オレイン酸(C18:1)、バクセン酸(C18:1)、エイコセン酸(C20:1)、ドコセン酸(C22:1)、テトラコセン酸(ネルボン酸)(C24:1)等が含まれる。特に魚類に含まれる代表的なMUFAとしては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エイコセン酸、ドコセン酸及びテトラコセン酸が挙げられる。
【0018】
上記MUFAの中でも、本発明の養殖ブリは、特にエイコセン酸(C20:1)、ドコセン酸(C22:1)、テトラコセン酸(C24:1)等の長鎖一価不飽和脂肪酸を含むことが好ましい。本明細書において「長鎖一価不飽和脂肪酸」とは、LCMUFAとも称され、炭素数20以上の炭素鎖を含むMUFAを指す。エイコセン酸としては、例えばn-11、n-9(ガドレイン酸)、n-7(ゴンドイン酸)等が挙げられる。また、ドコセン酸としては、例えば、n-11(セトレイン酸)、n-9(エルカ酸)等が挙げられる。テトラコセン酸としては、n-9(ネルボン酸)等が挙げられる。
【0019】
本明細書において脂肪酸の「誘導体」とは、脂肪酸の骨格を保持した状態で、エステル、金属塩等としたものを指す。エステルの例としては、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドといったグリセリルエステルに加えて、メチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステルが挙げられる。
【0020】
本明細書において「脂肪酸組成比」とは、試料に含まれる脂肪及び脂肪分解物に含まれる各種脂肪酸の量を、総脂肪酸100gあたりの重量比(%)で示したものを指す。測定方法は特に限定されないが、日本油化学会編「基準油脂分析試験法」に従って測定することが好ましい。すなわち、三フッ化ホウ素・メタノール法(BF3-MeOH法)を用いて、脂質をケン化して不ケン化物を除き、遊離脂肪酸とした後、エステル化し、ガスクロマトグラフィーで測定する方法である。
【0021】
本発明の養殖ブリは、可食部の脂肪酸におけるHH比が2.5以上、より好ましくは2.8以上、さらに好ましくは3.0以上である。
【0022】
本発明の養殖ブリは、MUFA及びその誘導体を、脂肪酸組成比で34.0%以上、特に35.0%以上、さらに38.0%以上、よりさらに39.0%以上含むことが好ましい。また、本発明の養殖ブリは、LCMUFA及びその誘導体を、脂肪酸組成比で2.4%以上、特に3.0%以上、さらに4.0%以上含むことが好ましい。
【0023】
本発明の養殖ブリにおける、飽和脂肪酸(SFA)及びその誘導体の含有量は、可食部の脂肪酸組成比で、26.0%以下、特に24.0%以下、さらに23.0%以下であることが好ましい。SFAの組成比が低く抑えられることで、ブリの食感を口どけのよいものとすることができる。また、HH比を高くすることができる。
【0024】
本発明の養殖ブリにおける、多価脂肪酸のn-3/n-6組成比は1.6以下、かつ0.9以上であることが好ましい。また、本発明の養殖ブリにおける、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びその誘導体の含有量は、可食部の脂肪酸組成比で11.0%以下、特に10.0%以下、さらには9.0%以下であることが好ましい。PUFAの組成比、特に二重結合が多く酸化されやすいドコサヘキサエン酸(DHA)の組成比を一定以下とすることで、ブリの脂肪分の酸化が抑制され、風味の劣化を生じにくい。
【0025】
<ブリの養殖方法>
本発明のブリの養殖方法は、飼育管理条件下でブリを養殖することにより、上記の養殖ブリを育成する、ことを特徴とする。
【0026】
1.養殖対象のブリ
本発明の養殖方法で養殖されるブリは、人工孵化ブリであっても、天然種苗ブリであってもよい。ブリの齢数は特に限定されないが、魚体重が1kg以上であることが好ましい。
【0027】
2.飼育管理条件下での養殖
上記の養殖対象となるブリを、専用の生簀や水槽に移して、飼育管理条件下で養殖する。養殖時の条件として、給餌、水温、魚の密度などを調整し、管理することを要する。
【0028】
(1)給餌
ブリへの給餌は、少なくとも1日1回、生簀内に散布して行うことが好ましい。餌は、HH比が高く、かつMUFA、特にLCMUFAを多く含むものを与えることが好ましい。一方で、SFA、DHA及びn-3/n-6比の低い餌を与えることが好ましい。餌は、サンマ、サバ、イワシ等の生餌であってもよく、また、ペレット等の配合飼料であってもよい。あるいは、生餌を粉砕してモイストペレット用配合飼料と混合して使用してもよい。配合飼料の原料は特に限定されないが、通常は、動物質性飼料、穀類、植物性油かす類、油脂、各種ビタミン、ミネラル類等を含む。
【0029】
餌に含まれる脂肪酸のHH比は、2.4以上、特に3.4以上、さらに3.5以上とすることが好ましい。また、餌に含まれる脂肪酸のMUFAの組成比は、30.0%以上、特に35.0%以上とすることが好ましい。さらに、LCMUFAの組成比は、0.1%以上、特に1.0%以上とすることが好ましい。
【0030】
餌の脂肪酸のn-3/n-6比は、2.5以下、特に2.0以下であることが好ましい。また、餌に含まれる脂肪酸のDHAの組成比は、12.5%以下、特に10.0%以下、さらに9.0%以下とすることが好ましい。
【0031】
(2)水温
ブリを養殖するための生簀や水槽内の水温は、15~28℃、特に、18~27℃、さらに20~25℃とすることが好ましい。ブリの生簀は、通常海上に設置されるため、設置後の生簀内の水温を人為的に調節することは困難であるが、例えば、生簀の設置箇所を適切に選択することで、所望の温度条件下での養殖を行うことが可能である。
【0032】
(3)飼育密度
生簀や水槽内のブリの飼育密度は、3~20kg/m3、特に、7~16kg/m3とすることが好ましい。生簀や水槽の大きさは、ブリの各個体が他の個体と接触することなく遊泳可能であれば、特に限定されないが、例えば、縦及び横が8~60m、深さ8~25m程度の大きさとすることができる。
【0033】
(4)期間
上記の養殖条件における養殖を、出荷前の7日間以上、より好ましくは30日間以上、より好ましくは60日以上、より好ましくは90日以上行い、上記養殖条件における養殖の期間後の養殖ブリは、直ちに出荷されることが好ましい。
【0034】
本発明の方法は、上記の飼育管理条件下でブリを養殖することにより、MUFA、特にLCMUFAを高い脂肪酸組成比で含む養殖ブリを得ることが可能となる。
【実施例0035】
以下、実施例において本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0036】
<実施例1.複数の養殖場におけるブリに対する給餌試験>
3ヶ所の養殖場A~Cで、それぞれブリに対する給餌試験を行った。各養殖場において餌としては配合飼料を与えた。各養殖場における飼育管理条件を、表1に示す。
【0037】
【0038】
<実施例2.餌の脂肪酸組成分析>
各養殖場で使用した配合飼料について、含まれる脂肪分の脂肪酸組成比を求めた。各飼料(試料として使用)100~200mgに内部標準として10mg/mLトリコサン酸メチル50μLを添加した後、蒸留水1mLを添加し、クロロホルム:メタノール=1:1溶液を5mL加えて攪拌した。遠心分離(3000rpm、10分、10℃)を行った後、下層部を綿栓ろ過して減圧乾燥して脂質を抽出した。得られた脂質に0.5M水酸化ナトリウム・メタノール溶液300μLを加えて攪拌し、窒素雰囲気下にて100℃、9分間加熱してけん化した。冷却後、三フッ化ホウ素メタノール溶液(ALDRICH製)400μLを加えて攪拌し、窒素雰囲気下にて100℃、7分間加熱してメチルエステル化した。冷却後、蒸留水600μL、ヘキサン600μLを加えて攪拌した後、遠心分離を行い、上層部を回収して無水硫酸ナトリウムにて脱水後、減圧乾燥して、脂肪酸のメチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルのヘキサン溶液について、以下の条件でガスクロマトグラフィー分析を行った。
カラム(充填剤、サイズ):DB-WAX(長さ30m×内径250mm、膜厚0.25μm、アジレント・テクノロジー製)
カラム温度:170℃で5分間保持し、1.5℃/分で240℃まで昇温後、10分保持
注入口温度:250℃
キャリアガス:ヘリウム
流速:1.07mL/分
脂肪酸の同定は、予め脂肪酸標準品の各成分の保持時間を求めることにより行った。また、濃度既知の標準品のピーク面積を基準として、試料の各ピークから各脂肪酸の量を算出した。各養殖場の配合飼料に含まれる脂肪酸の組成比を表2に示す。
【0039】
【0040】
<実施例3.各養殖場の養殖ブリの脂肪酸組成分析>
各養殖場で4月~9までの期間養殖されたブリを水揚げし、〆機にかけた。各養殖場のブリについて、筋肉組織を200g切り出して試料とした。筋肉組織中に含まれる血合肉の割合は、全体で平均22重量%であった。得られた試料について、それぞれ15gずつ切り分けて、実施例2と同様の方法で脂肪酸組成分析を行った。各養殖場の試料の測定結果を表3に示す。表3では、組成比をいずれも平均値±標準偏差(SD)及び最高値/最低値で示す。表中の「HUFA」(High Unsaturated Fatty Acid)は、高度多価不飽和脂肪酸であり、その構造の炭素鎖に二重結合が4つ以上あるものを指す。
【0041】
【0042】
また、養殖場Aで4~7月に養殖されたブリについても水揚げし、〆機にかけた後、筋肉組織200gを普通肉と血合肉に切り分けて、それぞれについて脂肪酸組成分析を行った。結果を表4に示す。表4においても、組成比を平均値±標準偏差(SD)及び最高値/最低値で示す。
【0043】
【0044】
いずれの養殖場においても、養殖ブリの可食部の脂肪酸は、2.5以上の高いHH比を奏し、かつ、DHAの脂肪酸組成比及びn-3/n-6比は一定以下の値に抑えられていた。
いずれの養殖場においても、養殖ブリの可食部の脂肪酸は、2.5以上の高いHH比を奏し、かつ、DHAの脂肪酸組成比及びn-3/n-6比は一定以下の値に抑えられていた。
本発明は、下記の実施形態を包含する。
(1)可食部のHH比(Hypocholesterolaemic and Hypercholesterolaemic fatty acid ratio)が2.5以上であり、かつ、可食部の脂質における一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で34.0%以上であることを特徴とする、養殖ブリ。
(2)前記可食部の脂質における炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で2.4%以上であることを特徴とする、(1)の養殖ブリ。
(3)前記可食部の脂質におけるドコサヘキサエン酸及びその誘導体の含有量が、11.0%以下であることを特徴とする、(1)または(2)の養殖ブリ。
(4)前記可食部の脂質における飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で26.0%以下であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかの養殖ブリ。
(5)飼育管理条件下でブリを養殖することで、(1)~(4)のいずれかの養殖ブリを育成する、ブリの養殖方法。