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特開2022-91029タイヤ設計方法、プログラム及びタイヤ設計装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091029
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】タイヤ設計方法、プログラム及びタイヤ設計装置
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20220613BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20220613BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20220613BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20220613BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G06F17/50 680Z
G06F17/50 612H
G06F17/50 604A
G06F17/50 608G
G01M17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203698
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】奥 祐樹
【テーマコード(参考)】
3D131
5B046
5B146
【Fターム(参考)】
3D131BC51
3D131BC55
3D131LA32
3D131LA34
5B046AA04
5B046FA04
5B046JA08
5B146AA05
5B146DC01
5B146DE16
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】レイアウトの異なる複数のタイヤについて、少ない手間で特性値と原価とを算出することのできるタイヤ設計方法を提供する。
【解決手段】実施形態のタイヤ設計方法は、複数のタイヤ構成部材からなるタイヤの断面を表す初期有限要素モデルを取得するステップと、前記初期有限要素モデルに基づき、モーフィングにより、レイアウトの異なる複数のモーフィングモデルを生成するステップと、それぞれの前記モーフィングモデルについて有限要素解析を実行してタイヤの前記特性値を算出するステップと、前記モーフィングモデルに現れる各タイヤ構成部材の面積と、各タイヤ構成部材の材料原価とに基づき、それぞれの前記モーフィングモデルのタイヤの原価を算出するステップと、を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設計変数に基づきタイヤの特性値をコンピュータが算出するステップを含むタイヤ設計方法において、
複数のタイヤ構成部材からなるタイヤの断面を表す初期有限要素モデルを取得するステップと、
前記初期有限要素モデルに基づき、モーフィングにより、レイアウトの異なる複数のモーフィングモデルを生成するステップと、
それぞれの前記モーフィングモデルについて有限要素解析を実行してタイヤの前記特性値を算出するステップと、
前記モーフィングモデルに現れる各タイヤ構成部材の面積と、各タイヤ構成部材の材料原価とに基づき、それぞれの前記モーフィングモデルのタイヤの原価を算出するステップと、
を含む、タイヤ設計方法。
【請求項2】
タイヤのレイアウトに関する設計変数と、前記原価及び前記特性値を含む目的関数とが設定され、前記目的関数を最小化又は最大化する設計変数が算出されるステップを含む、請求項1に記載のタイヤ設計方法。
【請求項3】
前記初期有限要素モデルにおいて所定以上の面積を有するタイヤ構成部材が選択されるステップと、
選択された前記タイヤ構成部材の一部又は全部が、モーフィングにより変化させる領域として選択されるステップと、を含み、
選択された前記領域を変化させた複数のモーフィングモデルをモーフィングにより生成する、請求項1又は2に記載のタイヤ設計方法。
【請求項4】
選択された前記領域の厚みを前記モーフィングにより変化させることとし、
前記初期有限要素モデルにおける前記厚み方向の長さが所定以下の要素を含む領域については、前記モーフィングにおいて、厚みを厚くする方向にのみ変化させる、
請求項3に記載のタイヤ設計方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかの方法を実行するプログラム。
【請求項6】
設計変数に基づきタイヤの特性値を算出する特性値計算部を含むタイヤ設計装置において、
複数のタイヤ構成部材からなるタイヤの断面を表す初期有限要素モデルを取得する初期モデル取得部と、
前記初期有限要素モデルに基づき、モーフィングにより、レイアウトの異なる複数のモーフィングモデルを生成するモーフィング部と、
それぞれの前記モーフィングモデルについて特性値を算出する特性値計算部と、
前記モーフィングモデルに現れる各タイヤ構成部材の面積と、各タイヤ構成部材の材料原価とに基づき、それぞれの前記モーフィングモデルのタイヤの原価を算出する原価算出部と、
を含む、タイヤ設計装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ設計方法、プログラム及びタイヤ設計装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、設計変数が設定されたタイヤの有限要素モデルを用いて有限要素解析を行い、タイヤの特性値を取得する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
従来から、タイヤの設計を行う際には、設計変数の異なる複数の有限要素モデルを作成し、それぞれの有限要素モデルについて有限要素解析を行って特性値を求めていた。そして、特性値が最適となる設計変数を採用して、タイヤの設計を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-91007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、設計変数の異なるタイヤ毎に一から有限要素モデルを作成するのは手間がかかる。また、タイヤの設計をするにあたり、タイヤの原価も考慮したいという要請もある。
【0006】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、レイアウトの少しずつ異なる複数のタイヤについて、少ない手間で特性値と原価とを算出することのできるタイヤ設計方法、プログラム及びタイヤ設計装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態のタイヤ設計方法は、設計変数に基づきタイヤの特性値をコンピュータが算出するステップを含むタイヤ設計方法において、複数のタイヤ構成部材からなるタイヤの断面を表す初期有限要素モデルを取得するステップと、前記初期有限要素モデルに基づき、モーフィングにより、レイアウトの異なる複数のモーフィングモデルを生成するステップと、それぞれの前記モーフィングモデルについて有限要素解析を実行してタイヤの前記特性値を算出するステップと、前記モーフィングモデルに現れる各タイヤ構成部材の面積と、各タイヤ構成部材の材料原価とに基づき、それぞれの前記モーフィングモデルのタイヤの原価を算出するステップと、を含む。
【0008】
また、実施形態のプログラムは、上記の方法を実行するプログラムである。
【0009】
また、実施形態のタイヤ設計装置は、設計変数に基づきタイヤの特性値を算出する特性値計算部を含むタイヤ設計装置において、複数のタイヤ構成部材からなるタイヤの断面を表す初期有限要素モデルを取得する初期モデル取得部と、前記初期有限要素モデルに基づき、モーフィングにより、レイアウトの異なる複数のモーフィングモデルを生成するモーフィング部と、それぞれの前記モーフィングモデルについて特性値を算出する特性値計算部と、前記モーフィングモデルに現れる各タイヤ構成部材の面積と、各タイヤ構成部材の材料原価とに基づき、それぞれの前記モーフィングモデルのタイヤの原価を算出する原価算出部と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
上記のタイヤ設計方法、プログラム及びタイヤ設計装置によれば、レイアウトの少しずつ異なる複数のタイヤについて、少ない手間で特性値と原価とを算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】タイヤ設計装置を示す図。
図2】データベースを示す図。
図3】テーブルを示す図。
図4】タイヤ2次元モデルを示す図。
図5】タイヤ設計方法のフローチャート。
図6】実施例のタイヤモデルの図。(a)は初期有限要素モデル。(b)は最適モデル。
図7】変更例のタイヤ設計装置を示す図。
図8】特性値と原価との関係をプロットした図。
図9】タイヤの原価が所望範囲に入るデータをプロットした図。
図10】変更例のタイヤ設計方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0013】
なお、以下の説明において、タイヤ軸方向とは、タイヤの回転軸の延長方向のことである。
【0014】
実施形態のタイヤ設計装置10は、タイヤの断面を表す初期有限要素モデルに基づきレイアウトの異なる複数のモーフィングモデルを生成し、それぞれのモーフィングモデルについて有限要素解析を実行してそれぞれのタイヤの特性値(以下「タイヤ特性値」とする)を算出するとともに、複数のモーフィングモデルに基づきそれぞれのタイヤの原価を算出する装置である。それらの算出結果は、タイヤのレイアウトの最適化に利用される。
【0015】
なお、レイアウトとは、例えば、タイヤ構成部材の様々な部分の寸法や、2つのタイヤ構成部材の重なり量のことである。タイヤ構成部材の寸法としては、タイヤ構成部材の厚み等が挙げられる。ここで、タイヤ構成部材とは、タイヤを構成するトレッドゴム25やサイドウォールゴム26(図4参照)等の部材のことである。また、厚みとは、タイヤ構成部材のタイヤ内面側の面からタイヤ外面側の面までの、タイヤ内面側の面に対して垂直な方向の長さのことである
本実施形態においては、複数のモーフィングモデルとして、タイヤのレイアウトの異なる複数のモーフィングモデル、より具体的にはタイヤ構成部材の厚みの異なる複数のモーフィングモデルを生成するものとする。なお、複数のモーフィングモデルを生成することは、複数のタイヤを簡易的に設計することであるため、タイヤ設計方法の一種であると言える。
【0016】
図1に示すように、実施形態のタイヤ設計装置10は、処理装置(CPU)11や記憶装置12等からなるコンピュータシステムである。タイヤ設計装置10には、キーボードやマウス等の入力装置13及びディスプレイ等の出力装置14が接続されている。
【0017】
記憶装置12には、本実施形態の方法を実行するためのプログラム15、有限要素解析及び原価の算出に必要なデータが格納されたデータベース16、後述するモーフィングで使用される設計変数群を生成するためのテーブル17等が記憶されている。処理装置11は、記憶装置12のプログラム15を読み込んで実行することにより、初期モデル取得部30、モーフィング部31、特性値計算部32、部材体積算出部33、原価算出部34、応答曲面生成部35、最適化計算部36として機能する。
【0018】
図2のように、データベース16には、タイヤ構成部材の材料の番号(以下「配合番号」)と、各材料の物性値、密度、材料原価等のデータとが、紐付けられて格納されている。ここで、物性値には、ポアソン比や弾性率等の、有限要素モデルによるシミュレーションにおいて必要とされる物性値が含まれている。また、材料原価は、材料の単位質量あたりの価格である。また、材料としては、配合の異なる各種のゴムが想定される。密度及び材料原価のデータはタイヤの原価の算出に使用され、物性値は有限要素解析に使用される。
【0019】
また、図3のように、テーブル17には、初期有限要素モデルからの設計変数の変化量が規定されている。本実施形態においては、少なくともタイヤ構成部材の厚みを変化させた複数のモーフィングモデルを生成するものとする。そこで、テーブル17には、少なくとも、トレッドゴム25(図4参照)等のタイヤ構成部材の基準となる厚み(言い換えれば、初期有限要素モデルにおけるタイヤ構成部材の厚み。この厚みのような、初期有限要素モデルにおける設計変数の数値のことを「基準値」とする)からの変化量が規定されている。基準値に対してテーブル17の数値の加算や減算が行われることにより、モーフィングで使用される設計変数群が生成される。
【0020】
タイヤ構成部材の厚み以外の設計変数も変化させたモーフィングモデルを生成しようとする場合は、テーブル17には、タイヤ構成部材の厚み以外にも、変化させようとする設計変数の変化量が規定されている。
【0021】
なお、複数のモーフィングモデルの生成のために変化させる設計変数には、タイヤのレイアウトに関する設計変数、例えばタイヤ構成部材の様々な部分の寸法が含まれる。タイヤ構成部材の厚みは、レイアウトに関する設計変数の1つである。他には、トレッド幅等もレイアウトに関する設計変数である。
【0022】
初期モデル取得部30はタイヤのモデルを取得する。ここで取得されるタイヤのモデルは、タイヤが有限個の要素に分割された有限要素モデルである。各要素には、要素番号、節点番号、節点座標及び材料物性値(密度、ヤング率、ポアソン比、降伏応力、最大強度、線膨張係数等)等が設定される。
【0023】
本実施形態における有限要素モデルは、図4に示すようなタイヤの軸方向断面の2次元モデル(以下「タイヤ2次元モデル20」とする)である。また、このタイヤ2次元モデル20は、タイヤ軸方向片側のモデルである。ただし、タイヤ2次元モデルとしてタイヤ軸方向両側が揃ったモデルが取得されても良い。
【0024】
タイヤ2次元モデル20には、ビード21、カーカスプライ22、インナーライナー23、ベルト24、トレッドゴム25、サイドウォールゴム26、リムストリップ27等のタイヤ構成部材が現れている。また、トレッドゴム25には主溝28が現れている。主溝28は、実際のタイヤにおいては、タイヤ周方向に1周している。
【0025】
このようなタイヤ2次元モデル20は、タイヤの2次元のCAD図面の形状がメッシュ分割されて作成され、記憶装置12に予め記憶されている。なお、メッシュ分割とは、タイヤを多数の要素に分割することであり、公知の手法で行うことができる。
【0026】
初期モデル取得部30によって取得された時点のタイヤ2次元モデル20のことを、初期有限要素モデルと言うこととする。
【0027】
モーフィング部31は、初期有限要素モデルからレイアウトを変化させたモーフィングモデルを生成する。本実施形態においては、モーフィングモデルとして、タイヤ構成部材のレイアウト、詳細には少なくともタイヤ構成部材の厚みを変化させた複数のモデルが生成されるものとする。
【0028】
そのために、初期有限要素モデルにおいて厚みを変更しようとする領域が選択される。ここで領域とは、タイヤ構成部材の一部又は全部である。この選択により、選択された領域内の全ての節点(又は所定条件を満たす一部の節点)が、コントロールポイントとして設定される。領域の選択については後述する。
【0029】
モーフィング部31は、設定されたコントロールポイントを、テーブル17に基づき変位させる。モーフィング部31は、設定されたコントロールポイントの座標に、テーブル17のそれぞれの値を作用させる(つまり、テーブル17の値を加算又は減算する)ことにより、複数の新しい座標を生成し、それらの新しい座標に基づき設計変数としてタイヤ構成部材の厚みを生成する。また、モーフィング部31は、必要に応じて、タイヤ構成部材の厚み以外の設計変数(例えばトレッド幅)も生成する。
【0030】
モーフィング部31は、生成した設計変数に基づき、モーフィングによりモーフィングモデル群を生成する。モーフィングモデル群に含まれる複数のモーフィングモデルは、タイヤ構成部材の厚みが少しずつ異なる。また、モーフィング部31がタイヤ構成部材の厚み以外の設計変数も生成した場合には、その設計変数も、複数のモーフィングモデルにおいて少しずつ異なる。複数のモーフィングモデルは全て有限要素モデルであるが、それぞれ初期有限要素モデルに対してタイヤ構成部材の節点が変位しており、メッシュ形状が変化している。
【0031】
なお、モーフィング部31は、初期有限要素モデルにおけるタイヤ構成部材の厚み方向の長さが所定以下(例えば0.2mm以下)の要素を含む領域については、タイヤ構成部材の厚みを厚くする方向にのみ変化させる。
【0032】
特性値計算部32は、モーフィング部31が生成したモーフィングモデルを用いて有限要素解析を実行し、タイヤ特性値を算出する。モーフィング部31が生成したモーフィングモデルは複数あるので、特性値計算部32はそれぞれのモーフィングモデルについて有限要素解析を実行してタイヤ特性値を算出する。算出されるタイヤ特性値としては、タイヤの縦剛性、横剛性、前後剛性、転がり抵抗、接地圧力分散、接地長、接地幅、コーナリングパワー、ピークμ等が挙げられる。
【0033】
有限要素解析のためにタイヤ以外のモデル(例えば路面モデル)が必要な場合は、そのモデルは初期モデル取得部30によって取得され、特性値計算部32によって有限要素解析に使用される。
【0034】
なお、算出しようとするタイヤ特性値によっては、特性値計算部32は2次元のモーフィングモデル(有限要素モデル)をそのまま用いて有限要素解析を実行することができる。しかし、算出しようとするタイヤ特性値によっては、特性値計算部32は3次元の有限要素モデルを用いて有限要素解析を実行する必要がある。その場合は、特性値計算部32が有限要素解析を実行する前に、不図示の3次元モデル作成部が、3次元の有限要素モデルを作成する。
【0035】
具体的には、3次元モデル作成部は、モーフィング部31が生成した2次元のモーフィングモデルをタイヤ回転軸を中心としてタイヤ周方向に複写展開することにより、3次元の有限要素モデルを作成する。3次元の有限要素モデルは、モーフィング部31が生成した複数のモーフィングモデルのそれぞれに対して作成される。
【0036】
部材体積算出部33及び原価算出部34は、特性値計算部32による特性値の算出とは別に、タイヤの原価の算出を実行する。
【0037】
部材体積算出部33は、モーフィング部31が生成した各モーフィングモデルについて、各タイヤ構成部材の体積を算出する。例えば、部材体積算出部33は、モーフィングモデルの各要素をタイヤ回転軸の周りで1周させることにより各要素の3次元上での体積を算出する。そして、部材体積算出部33は、タイヤ構成部材を構成する全ての要素の体積を足し合わせることによりそのタイヤ構成部材の体積を算出する。具体的には、まず、パップス・ギュルダンの定理を用いて、次の式により、モーフィングモデルの各要素をタイヤ回転軸の周りで1周させたときの体積を算出する。
【0038】
【数1】
【0039】
ここで、Rmはm番目の要素の重心までのタイヤ回転軸からの距離、Smはm番目の要素の面積、vmはm番目の要素の体積である。なお、タイヤ回転軸から要素の重心までの距離Rは重心座標から求まり、重心座標は節点座標から求まる。このようにして求まる各要素の体積vmを、次の式により足し合わせることにより、タイヤ構成部材の体積を求めることができる。
【0040】
【数2】
【0041】
ここで、jはタイヤ構成部材を構成する要素の数である。
【0042】
モーフィングモデルがタイヤ軸方向片側のみのモデルの場合、数2の式で算出された体積Vを2倍することにより、タイヤ構成部材の体積を算出することができる。また、モーフィングモデルがタイヤ軸方向両側の揃ったモデルの場合、数2の式で算出された体積Vがタイヤ構成部材の体積である。
【0043】
この方法で、部材体積算出部33は、各モーフィングモデルに基づく3次元のタイヤの各タイヤ構成部材の体積を算出する。
【0044】
原価算出部34は、データベース16から読み込んだ各タイヤ構成部材の材料原価と、部材体積算出部33が算出した各タイヤ構成部材の体積とから、タイヤの原価を算出する。詳細には、原価算出部34は、タイヤ構成部材の体積にそのタイヤ構成部材の材料密度と材料原価を掛けることによりそのタイヤ構成部材の原価を算出し、全てのタイヤ構成部材の原価を足すことによりタイヤの原価を算出する。すなわち、タイヤの原価は次の式により算出される。
【0045】
【数3】
【0046】
ここで、Yはタイヤの原価(円)、Vはn番目のタイヤ構成部材の体積(m)、ρはn番目のタイヤ構成部材の材料密度(kg/m)、cは材料原価(円/kg)、iは1つのタイヤを構成するタイヤ構成部材の数である。
【0047】
なお、データベース16に、ゴム部材の材料のデータのみが格納され、スチールコードや有機繊維コード等のゴム部材以外の部材の材料のデータが含まれていない場合は、数3の式だけではタイヤの正確な原価を算出できない。その場合は、数3で算出された原価Yに、ゴム部材以外の部材の原価を加算することにより、タイヤのより正確な原価を算出することができる。
【0048】
一方、データベース16に、スチールコードや有機繊維コード等のゴム部材以外の部材の材料のデータが含まれている場合は、数3の式でタイヤのより正確な原価を算出することができる。
【0049】
この方法で、原価算出部34は、各モーフィングモデルのタイヤの原価を算出する。
【0050】
応答曲面生成部35は、特性値計算部32が算出したタイヤ特性値のいずれか1つ又は原価算出部34が算出したタイヤの原価と、設計変数との関係を示す応答曲面を生成する。ここでの設計変数にはタイヤ構成部材の厚みが含まれる。設計変数としてタイヤ構成部材の厚みのみを考慮する場合は、応答曲面は実際には曲線となる。しかし、設計変数としてタイヤ構成部材の厚み以外のものも考慮する場合は、応答曲面は文字通り曲面となる。
【0051】
応答曲面生成部35は複数の応答曲面を生成する。例えば、設計変数とタイヤの原価との応答曲面、設計変数とタイヤの縦剛性との応答曲面、設計変数と転がり抵抗との応答曲面といった複数の応答曲面を生成する。
【0052】
応答曲面生成部35が応答曲面を生成することにより、離散的データであった設計変数とタイヤ特性値等との関係のデータが、両者の関係を示す連続的な曲面となる。
【0053】
最適化計算部36では、最適化計算を行うための設定として、設計変数の範囲の設定、特性値の制約の設定、及び目的関数の設定が行われる。特性値の制約とは、例えば、特性値の上限値及び下限値である。
【0054】
本実施形態における目的関数は、タイヤ特性値及びタイヤの原価を含む、最小化又は最大化しようとする関数である。例えば、タイヤの縦剛性が大きく、かつ、タイヤの原価が小さくなる設計変数を求めようとする場合、最適化計算部36では、次のような目的関数Fが設定される。
【0055】
【数4】
【0056】
ここで、Xは初期有限要素モデルのタイヤの縦剛性に対するモーフィングモデルのタイヤの縦剛性の減少率、Yは初期有限要素モデルのタイヤの原価に対するモーフィングモデルのタイヤの原価の減少率、aとbはそれぞれ重み付けの係数である。
【0057】
最適化計算部36は、設計変数の範囲、特性値の制約及び目的関数の設定の後に、最適化計算を実行する。具体的には、最適化計算部36は、設計変数を変化させながら、応答曲面生成部35の生成した応答曲面を使用して目的関数を繰り返し計算し、目的関数を最小化又は最大化する設計変数の組み合わせを求める。この計算には、ネルダーミード法等の最適化アルゴリズムが使用される。
【0058】
例えば、目的関数として上記の数4の目的関数Fが設定された場合、最適化計算部36による最適化計算により、タイヤの縦剛性が大きく、かつ、タイヤの原価が小さくなる最適な設計変数が求まる。このとき求まる設計変数には、タイヤ構成部材の厚みが含まれる。
【0059】
このようにして最適化計算部36が求めた設計変数は、出力装置14に出力される。また、モーフィング部31、特性値計算部32、部材体積算出部33、原価算出部34及び応答曲面生成部35による計算結果も、それぞれ出力装置14に出力される。
【0060】
以上のタイヤ設計装置10によるタイヤ設計方法について、図5のフローチャートに基づき説明する。
【0061】
まず、初期モデル取得部30が、初期有限要素モデルとしてのタイヤ2次元モデル20を取得する(S1)。
【0062】
次に、モーフィング部31において、初期有限要素モデルにおいて厚み等を変更するタイヤ構成部材と、そのタイヤ構成部材の中で厚み等を変更する領域が選択される(S2)。
【0063】
ここで、厚みを変更するタイヤ構成部材としては、初期有限要素モデルにおいて所定以上の面積を有するタイヤ構成部材が選択される。例えば、初期有限要素モデルの全面積に対する占有率が3%以上のタイヤ構成部材が選択される。そのようなタイヤ構成部材として、トレッドゴム25やサイドウォールゴム26が挙げられる。また、厚みを変更するタイヤ構成部材からは、繊維材(繊維製のコード等)及びインナーライナー23が除外されることが好ましい。
【0064】
また、厚みを変更する領域の選択のために、まず、タイヤ軸方向断面上で、タイヤ構成部材がその長手方向に並ぶ複数の領域に分割される。ただし、タイヤ軸方向断面上でタイヤ構成部材が十分な長さを有していない場合には、タイヤ構成部材は複数の領域に分割されない。
【0065】
具体例としては、タイヤ軸方向断面上でのタイヤ構成部材の長さが30mm以上の場合は、タイヤ構成部材は長手方向の3つの領域に分割される。また、タイヤ軸方向断面上でのタイヤ構成部材の長さが20mm以上30mm未満の場合は、タイヤ構成部材は長手方向の2つの領域に分割される。また、タイヤ軸方向断面上でのタイヤ構成部材の長さが20mm未満の場合は、タイヤ構成部材は領域に分割されない。
【0066】
なお、タイヤ構成部材の長さとは、タイヤ構成部材のタイヤ内面側の面とタイヤ外面側の面のタイヤ軸方向断面上での長さのうち、長い方の長さのことである。また、タイヤ構成部材の長手方向とは、タイヤ軸方向断面上でタイヤ構成部材の長さが定義される線の方向のことである。
【0067】
タイヤ構成部材が複数の領域に分割された後、複数の領域の中から、厚みを変更する1つ以上の領域が選択される。このとき、タイヤ構成部材の全ての領域が選択されても良い。
【0068】
なお、厚みを変更する部材の選択、その部材の領域への分割及び厚みを変更する領域の選択は、操作者によって入力装置13を介して行われても良いが、処理装置11がプログラム15を読み込んで実行することにより実現される領域設定部によって自動的に行われても良い。
【0069】
厚みを変更する領域が選択されると、モーフィング部31が、選択された領域内の全ての節点(又は所定条件を満たす一部の節点)を、コントロールポイントとして設定する。
【0070】
次に、モーフィング部31が設計変数群を生成する(S3)。設計変数には、タイヤのレイアウトに関する数値、詳細にはタイヤ構成部材の厚みについての数値が含まれる。
【0071】
次に、モーフィング部31が、設計変数に基づきモーフィングモデル群を生成する(S4)。生成された複数のモーフィングモデルでは、ステップS2において選択された領域の厚みが少しずつ異なる。
【0072】
次に、有限要素モデルであるモーフィングモデルに対し、配合番号がデータベース16から取得される(S5)。具体的には、操作者による入力装置13での入力操作等を介して、有限要素モデルであるモーフィングモデルの各要素に、データベース16に格納されている配合番号が割り当てられる。これにより、各要素と、配合番号に紐付けられた物性値、密度及び材料原価とが紐付けられる。1つのタイヤ構成部材に対して複数の要素が存在するので、同じタイヤ構成部材に属する複数の要素に対しては同じ配合番号が割り当てられる。
【0073】
モーフィングモデルは、各要素に物性値が割り当てられることにより、シミュレーションに使用できるようになる。また、モーフィングモデルは、各要素に密度及び材料原価が割り当てられることにより、タイヤの原価の算出に使用できるようになる。
【0074】
次に、特性値計算部32が、生成された複数のモーフィングモデルについてそれぞれ有限要素解析を実行し、それぞれのモーフィングモデルにおけるタイヤ特性値を算出する(S6)。特性値計算部32は、ステップS5において割り当てられた配合番号に基づきその材料の物性値をデータベース16から読み込んで有限要素解析に使用する。
【0075】
なお、有限要素解析の際に3次元の有限要素モデルが必要な場合は、特性値計算部32が有限要素解析を実行する前に、不図示の3次元モデル作成部が、2次元のモーフィングモデルの基づき3次元の有限要素モデルを作成する。
【0076】
次に、それぞれのモーフィングモデルに基づき、タイヤの原価が算出される。具体的には、まず、部材体積算出部33が、モーフィングモデルに基づき、各タイヤ構成部材の体積を算出する(S7)。
【0077】
次に、原価算出部34が、各タイヤ構成部材の体積、密度及び材料原価に基づき、タイヤの原価を算出する(S8)。このとき、原価算出部34は、ステップS5において割り当てられた配合番号に基づきその材料の原価をデータベース16から読み込んで算出に使用する。
【0078】
次に、応答曲面生成部35が、ステップS6で算出されたタイヤ特性値と設計変数との応答曲面と、ステップS8で算出されたタイヤの原価と設計変数との応答曲面とを生成する(S9)。ここでの設計変数にはタイヤ構成部材の厚みが含まれる。
【0079】
次に、最適化計算部36において、設計変数の範囲の設定、特性値の制約の設定、及び目的関数の設定が行われる(S10)。次に、最適化計算部36が最適化計算を行い、目的関数を最小化又は最大化する設計変数の組み合わせを求める(S11)。ステップS11で求まった設計変数の組み合わせ(そのうちの1つはタイヤ構成部材の厚みである)は、タイヤ特性値とタイヤの原価とが両立された最適解を実現する設計変数の組み合わせである。
【0080】
ステップS11で求まった設計変数に基づきタイヤを設計することにより、最適なタイヤ、例えばタイヤの縦剛性が大きくかつタイヤの原価が小さいタイヤを設計することができる。
【0081】
次に、本実施形態の効果について説明する。本実施形態のタイヤ設計方法は、タイヤ2次元モデル20を取得するステップと、タイヤ2次元モデル20に基づきレイアウトの異なる複数のモーフィングモデルを生成するステップと、それぞれのモーフィングモデルについて有限要素解析を実行してタイヤの特性値を算出するステップと、モーフィングモデルに現れる各タイヤ構成部材の面積及び材料原価に基づき、それぞれのモーフィングモデルのタイヤの原価を算出するステップと、を含む。
【0082】
このように、タイヤ2次元モデル20に基づきモーフィング技術を用いて複数のモーフィングモデルが生成されるので、少ない手間でレイアウトの異なる複数のタイヤモデルを生成(言い換えれば設計)することができる。
【0083】
また、本実施形態のタイヤ設計方法は、複数のモーフィングモデルについてタイヤの特性値を算出するとともにタイヤの原価を算出するので、レイアウトの少しずつ異なる複数のタイヤについて特性値と原価とを算出することができる。
【0084】
そして、レイアウトの少しずつ異なる複数のタイヤについて特性値と原価とが算出されるので、それらの算出結果に基づき、タイヤ設計装置10が最適なタイヤの設計変数を求めることができたり、それらの算出結果を人が最適なタイヤの設計の参考にできたりする。
【0085】
また、タイヤのレイアウトに関する設計変数と、タイヤの原価及びタイヤ特性値を含む目的関数とが設定され、その目的関数を最小化又は最大化する設計変数が最適化計算で算出されるため、タイヤの原価とタイヤ特性値とが両立される設計変数を求めることができる。
【0086】
また、モーフィングによりレイアウト(特に厚み)を変化させる部材として、初期有限要素モデルにおいて所定以上(例えば、初期有限要素モデルの全面積に対する占有率が3%以上)の面積を有するタイヤ構成部材が選択されるため、設計変更の余地が十分にあり、かつ原価への寄与の大きいタイヤ構成部材を、変化させる対象として選択することができる。また、モーフィングによりレイアウト(特に厚み)を変化させる部材から、繊維材(繊維製のコード等)及びインナーライナー23が除外されるため、材質や厚みの性質上実際には設計変更できないタイヤ構成部材が選択されることを防ぐことができ、計算コストを抑えることができる。
【0087】
また、選択されたタイヤ構成部材のさらに一部のみがモーフィングにより変化させる領域として選択されることにより、計算コストを抑えることができる。また、タイヤ軸方向断面上での長さの長いタイヤ構成部材ほど多くの領域に分割され、それらの領域の中からモーフィングにより変化させる領域が選択されることにより、タイヤ構成部材の実際の製造上制御可能な範囲をモーフィングにおいて変化させることとなり、計算の無駄が生じない。
【0088】
また、上記のように、選択された領域の厚みをモーフィングにより変化させる場合において、初期有限要素モデルにおける前記厚み方向の長さが所定以下(例えば0.2mm以下)の要素を含む領域については、モーフィングにおいて厚みを厚くする方向にのみ変化させる。それにより、モーフィングにおいて薄過ぎるタイヤ構成部材が発生することを防ぐことができ、製造不可能なモーフィングモデルの生成を防ぐことができる。
【0089】
また、有限要素モデルであるモーフィングモデルに基づき求まる各タイヤ構成部材の体積と、データベース16に記憶されている各タイヤ構成部材の材料原価とに基づき、完成品としてのタイヤの原価が算出される。それにより、管理されている材料原価のデータと、シミュレーションのために作成された有限要素モデルとを活用して、タイヤの原価を算出することができる。
【0090】
また、本実施形態では、2次元のモーフィングモデルをタイヤ周方向に1周展開したときの各タイヤ構成部材の体積を算出することにより、1つのタイヤ全体の中での各タイヤ構成部材の体積を算出することができる。そして、その体積を使用してタイヤの原価を算出することができる。そのため、タイヤ特性の算出のために3次元の有限要素モデルを作成する必要がない場合には、タイヤの原価の算出のためだけに3次元モデルを作成することなく、タイヤの原価を算出することができる。
【0091】
また、実施形態のタイヤ設計装置10は、初期有限要素モデルを取得する初期モデル取得部30と、初期有限要素モデルに基づきレイアウトの異なる複数のモーフィングモデルを生成するモーフィング部31と、それぞれのモーフィングモデルについて設計変数に基づきタイヤ特性値を算出する特性値計算部32と、モーフィングモデルに現れる各タイヤ構成部材の面積と、各タイヤ構成部材の材料原価とに基づき、それぞれのモーフィングモデルのタイヤの原価を算出する原価算出部34と、を有している。
【0092】
このように、タイヤ設計装置10はモーフィング技術により複数のモーフィングモデルを生成するため、レイアウトの少しずつ異なる複数のタイヤのモデルを少ない手間で生成することができる。そして、タイヤ設計装置10は、特性値計算部32と原価算出部34とにより、それらのタイヤについてタイヤ特性値と原価とを算出することができる。
【0093】
次に実施例について説明する。実施例として、実際に上記実施形態の方法を実行した。図6(a)は初期有限要素モデルである。また図6(b)は、上記のステップ1~ステップS11を実行してステップS11で求まった設計変数に基づき設計された最適モデルである。図6(a)と図6(b)を比較すると、図6(b)の最適モデルの方がサイドウォールゴム及びビードフィラーが薄いことがわかる。
【0094】
表1に、タイヤの原価、縦剛性及び転がり抵抗について、初期有限要素モデルにおける値を1としたときの最適モデルにおける値を示す。タイヤの原価については、数値が小さいほど安いことを意味する。縦剛性及び転がり抵抗については、数値が小さいほど性能に優れることを意味する。
【0095】
表1からわかるように、上記実施形態の方法で求まった設計変数に基づく最適モデルは、初期有限要素モデルよりも原価、縦剛性及び転がり抵抗において値が小さく優れていることが確認できた。
【0096】
【表1】
【0097】
以上の実施形態に対して様々な変更を行うことができる。以下では変更例について説明する。
【0098】
<変更例1>
変更例のタイヤ設計装置110を図7に示す。このタイヤ設計装置110は、上記実施形態のタイヤ設計装置10における応答曲面生成部35及び最適化計算部36の代わりに、クラスタ分析部135及び最適設計変数特定部136を有している。クラスタ分析部135及び最適設計変数特定部136は、処理装置11がプログラム15を読み込んで実行することにより実現される。
【0099】
クラスタ分析部135は、複数のモーフィングモデルについての特性値と原価とのデータを取得する。ここで、特性値とは、特性値計算部32が算出したタイヤの特性値(タイヤの縦剛性や転がり抵抗等)のいずれかである。また、原価とは、原価算出部34が算出したタイヤの原価である。複数のモーフィングモデルがあるので、特性値と原価との関係が、モーフィングモデルの数だけ発生する。
【0100】
特性値と原価との関係は図8のようにプロットすることができる。1つのプロット点は1つのモーフィングモデルについての特性値と原価との関係を示している。プロット点の数はモーフィングモデルの数と一致する。
【0101】
クラスタ分析部135は、図8のデータの中から、タイヤの原価が所望の範囲に入るデータを抽出する。ここで、タイヤの原価の所望範囲は、操作者によって入力装置13から入力され設定される。図8において、横に延びる2本の破線で挟まれた範囲のデータが、抽出されるデータである。抽出されたデータを図9に示す。
【0102】
クラスタ分析部135は、抽出したデータについてクラスタ分析を実行し、タイヤの特性値が近いプロット点(特性値と原価との関係)毎にグループに分類する。クラスタ分析の方法としては、ウォード法による階層化クラスタリング等、様々な方法が利用できる。
【0103】
図9において、縦に延びる2本の破線で挟まれた範囲のデータが、同じグループに属している。図9では、G1~G7の7つのグループが形成されている。G1~G7は、タイヤの特性値の大小順になっており、G1がタイヤの特性値の最も小さいグループ、G7がタイヤの特性値の最も大きいグループである。
【0104】
最適設計変数特定部136は、クラスタ分析部135が分類した複数のグループG1~G7の特性値の大小と、グループG1~G7の特性値を算出する基となった設計変数の大小との関係を整理する。そして、最適設計変数特定部136は、特性値の大小関係と同じ大小関係を有する設計変数を、その設計変数を最適設計変数として特定する。
【0105】
例えば、トレッドゴム25の厚みがグループG1において最も小さく、グループG7において最も大きい場合は、グループG1~G7の特性値の大小関係と、グループG1~G7の特性値を算出する基となった設計変数(すなわちトレッドゴム25の厚み)の大小関係が同じである。そこで、最適設計変数特定部136は、トレッドゴム25の厚みを、最適設計変数として特定する。
【0106】
クラスタ分析部135及び最適設計変数特定部136は図10のフローチャートに従う。まず、クラスタ分析部135が、複数のモーフィングモデルについての特性値と原価とのデータを取得する(S1)。次に、クラスタ分析部135は、取得したデータの中から、タイヤの原価が所望の範囲に入るデータを抽出する(S2)。次に、クラスタ分析部135は、抽出したデータについてクラスタ分析を実行し、タイヤの特性値が近いデータ(特性値と原価との関係)毎にグループに分類する(S3)。
【0107】
次に、最適設計変数特定部136が、クラスタ分析部135が分類した複数のグループの特性値の大小と、それらのグループの特性値を算出する基となった設計変数の大小との関係を整理する(S4)。そして、最適設計変数特定部136が、特性値の大小関係と同じ大小関係を有する設計変数を、その設計変数を最適設計変数として特定する(S5)。
【0108】
このようにして特定される最適設計変数は、タイヤの原価を所望範囲に維持しつつ、タイヤの特性を向上させるために有効な設計変数である。そのため、最適設計変数を使用してタイヤを設計することにより。原価及び特性値の最適化されたタイヤを設計することができる。
【0109】
<変更例2>
初期モデル取得部30の取得する有限要素モデルは、タイヤ全体の3次元モデルでも良い。その場合、部材体積算出部33は、上記のように2次元モデルをタイヤ周方向に展開する計算をしなくても、3次元モデルから各タイヤ構成部材の体積を算出することができる。
【0110】
<変更例3>
タイヤ設計装置10の具体的使用形態は限定されない。例えば、サーバに上記のタイヤ設計装置10を設け、そのサーバにネットワークを介して複数のクライアントコンピュータを接続することにより、それぞれのクライアントコンピュータで上記の方法を実行することができるよう構成されていても良い。
【符号の説明】
【0111】
10…タイヤ設計装置、11…処理装置、12…記憶装置、13…入力装置、14…出力装置、15…プログラム、16…データベース、17…テーブル、20…タイヤ2次元モデル、21…ビード、22…カーカスプライ、23…インナーライナー、24…ベルト、25…トレッドゴム、26…サイドウォールゴム、27…リムストリップ、28…主溝、30…初期モデル取得部、31…モーフィング部、32…特性値計算部、33…部材体積算出部、34…原価算出部、35…応答曲面生成部、36…最適化計算部、110…タイヤ設計装置、135…クラスタ分析部、136…最適設計変数特定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10