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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091050
(43)【公開日】2022-06-20
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 11/10 20060101AFI20220613BHJP
   B63B 79/15 20200101ALI20220613BHJP
   B63B 34/10 20200101ALI20220613BHJP
【FI】
B63H11/10
B63B79/15
B63B34/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203747
(22)【出願日】2020-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安間 寛文
(72)【発明者】
【氏名】三輪 純也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英吉
(57)【要約】
【課題】検出した波の状態に応じてトリムを変更することができる船舶を提供する。
【解決手段】船舶は、船体と、水面に発生した波の状態を検出する波検出器と、トリムを調整するトリムアジャスタと、波検出器の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定し、水面が平水ではないと判定したとき、トリムアジャスタにトリムアジャスタのトリム角を増加させる制御装置とを備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体と、
水面に発生した波の状態を検出する波検出器と、
トリムを調整するトリムアジャスタと、
前記波検出器の検出値に基づいて前記水面が平水であるか否かを判定し、前記水面が平水ではないと判定したとき、前記トリムアジャスタに前記トリムアジャスタのトリム角を増加させる制御装置と、を備える、船舶。
【請求項2】
前記制御装置は、前記トリムアジャスタに前記トリム角を増加させた後に前記水面が平水であると判定したとき、前記トリムアジャスタに前記トリム角を減少させる、請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記制御装置は、前記水面が平水ではないと判定した場合、前記トリムアジャスタの前記トリム角の値を記憶した後に、前記トリムアジャスタに前記トリム角を増加させ、その後に前記水面が平水であると判定した場合、記憶された値まで前記トリム角を前記トリムアジャスタに減少させる、請求項2に記載の船舶。
【請求項4】
前記制御装置は、船速が下限速度以上である否かを判定し、前記船速が前記下限速度を下回ると判定したときは、前記トリムアジャスタに前記トリム角を変更させない、請求項1~3のいずれか一項に記載の船舶。
【請求項5】
前記船舶は、船尾に対して船首を上下に移動させるときに操船者によって操作されるトリムボタンをさらに備え、
前記制御装置は、前記トリムボタンの操作に応じて前記トリムアジャスタに前記トリム角をマニュアル上限角度以下の範囲内で変更させ、前記水面が平水ではないと判定したとき、前記トリムアジャスタに前記トリム角を前記マニュアル上限角度を超える角度まで増加させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の船舶。
【請求項6】
前記制御装置は、前記水面が平水ではないという判定が継続している状態で前記船尾に対して前記船首を下方に移動させるトリムダウン操作が前記トリムボタンに行われると、前記トリムアジャスタに前記トリム角を減少させる、請求項5に記載の船舶。
【請求項7】
前記船舶は、船尾に対して船首を上下に移動させるときに操船者によって操作されるトリムボタンをさらに備え、
前記制御装置は、前記水面が平水ではないという判定が継続している状態で前記船尾に対して前記船首を下方に移動させるトリムダウン操作が前記トリムボタンに行われると、前記トリムアジャスタに前記トリム角を減少させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の船舶。
【請求項8】
前記制御装置は、前記水面が平水ではないという判定が継続している状態で前記トリムダウン操作が前記トリムボタンに行われると、前記トリムアジャスタに前記トリム角を減少させ、減少する前の値まで前記トリム角を増加させることを禁止する、請求項6または7に記載の船舶。
【請求項9】
前記船舶は、前記船体を推進させる動力を発生するエンジンをさらに備え、
前記波検出器は、前記エンジンの回転速度を検出するエンジン速度センサと、上下方向への前記船体の加速度に応じてオンオフするオンオフセンサと、を含み、
前記制御装置は、前記オンオフセンサの検出値およびエンジン速度センサの検出値の少なくとも一方に基づいて前記水面が平水であるか否かを判定する、請求項1~8のいずれか一項に記載の船舶。
【請求項10】
前記制御装置は、前記オンオフセンサの検出値に基づいて前記水面が平水であるか否かを判定する第1平水判定と、前記エンジン速度センサの検出値に基づいて前記水面が平水であるか否かを判定する第2平水判定と、を行い、前記第1平水判定および第2平水判定の少なくとも一方で前記水面が平水ではないと判定したときに前記水面が平水ではないと判定し、前記第1平水判定および第2平水判定の両方で前記水面が平水であると判定したときに前記水面が平水であると判定する、請求項9に記載の船舶。
【請求項11】
前記制御装置は、船速が下限速度以上である否かを判定し、前記船速が前記下限速度を下回ると判定したときは、前記水面が平水であると判定する、請求項9または10に記載の船舶。
【請求項12】
前記船舶は、出力最小位置から出力最大位置までの範囲内で移動可能であり、前記エンジンの出力を変更するときに操作されるアクセルハンドルと、前記アクセルハンドルの位置を検出するアクセルポジションセンサと、をさらに備え、
前記制御装置は、前記出力最大位置および出力最小位置の間の範囲である定速航走範囲内に前記アクセルハンドルが保持されているか否かを前記アクセルポジションセンサの検出値に基づいて判定し、前記アクセルハンドルが前記定速航走範囲内に保持されていると判定したときに、前記エンジン速度センサの検出値に基づいて前記水面が平水であるか否かを判定する、請求項9~11のいずれか一項に記載の船舶。
【請求項13】
前記制御装置は、前記アクセルハンドルが前記定速航走範囲内に保持されていないと判定したとき、前記水面が平水であると判定する、請求項12に記載の船舶。
【請求項14】
前記制御装置は、前記エンジンの回転速度が増加するにしたがって前記定速航走範囲の幅を広げる、請求項12または13に記載の船舶。
【請求項15】
前記制御装置は、前記オンオフセンサがオンとオフとの間を往復したオンオフ回数が設定時間内において上限値を超えたか否かに基づいて前記水面が平水であるか否かを判定する、請求項9~14のいずれか一項に記載の船舶。
【請求項16】
前記制御装置は、前記エンジン速度センサの検出値に基づいて前記エンジンの回転速度の変化率を算出し、算出された前記変化率に基づいて前記水面が平水であるか否かを判定する、請求項9~15のいずれか一項に記載の船舶。
【請求項17】
前記制御装置は、前記エンジンの回転速度の変化率が通常航走範囲内に維持されているか否かに基づいて前記水面が平水であるか否かを判定し、前記エンジンの回転速度が増加するにしたがって前記通常航走範囲の幅を広げる、請求項16に記載の船舶。
【請求項18】
前記オンオフセンサは、上下方向への前記船体の加速度に応じてオンオフすると共に、前記船体が転覆するとオンおよびオフの一方からオンおよびオフの他方に切り替わる転覆センサである、請求項9~17のいずれか一項に記載の船舶。
【請求項19】
前記トリムアジャスタは、前記トリム角を変更するトリムアクチュエータを含み、
前記制御装置は、前記トリムアクチュエータを制御することにより、前記トリムアクチュエータに前記トリム角を増加または減少させる、請求項1~18のいずれか一項に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、船舶の一例であるパーソナルウォータークラフトが開示されている。特許文献1に記載のパーソナルウォータークラフトは、デフレクタを上下に回動させることにより、ノズルから後方に噴射された水の流れを上下に傾けるトリムアクチュエータを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-171925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
波が荒い領域で船舶が前進すると、船体と波との衝突によって水しぶきが発生し、操船者にかかることがある。船舶のトリムを変更して、船首を上げれば、水しぶきを減らすことができる。しかしながら、これを知らない操船者もいる。操船者がこれを知っていたとしても、波の状態に応じてトリムを変更する操作が操船者にとって煩わしいこともある。
特許文献1は、操船者がトリム操作部を操作すると、制御部がトリムアクチュエータにデフレクタのトリム位置を変更させることを開示しているものの、波の状態を自動で検出することや、波の状態に応じて自動でトリムを変更することは開示していない。加えて、特許文献1は、波が荒い領域で船舶が前進しているときに、船首を上げれば、水しぶきを減らすことができることを開示していない。
【0005】
そこで、本発明の目的の一つは、検出した波の状態に応じてトリムを変更することができる船舶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、船体と、水面に発生した波の状態を検出する波検出器と、トリムを調整するトリムアジャスタと、前記波検出器の検出値に基づいて前記水面が平水(smooth water)であるか否かを判定し、前記水面が平水ではないと判定したとき、前記トリムアジャスタに前記トリムアジャスタのトリム角を増加させる制御装置と、を備える、船舶を提供する。
【0007】
この構成によれば、波の状態を波検出器によって検出する。制御装置は、波検出器の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定し、水面が平水ではないと判定したときに、トリムアジャスタのトリム角を増加させる指令をトリムアジャスタに送る。トリムアジャスタは、この指令を受けてトリム角を増加させ、船尾に対して船首を上方に移動させる。これにより、船舶の前進中に発生する水しぶきを減らすことができる。このように、検出した波の状態に応じて自動で船舶のトリムを変更するので、船舶の快適性を高めることができる。
【0008】
波検出器は、転覆センサ、エンジン速度センサ、加速度センサ、ミリ波レーダ、超音波センサ、およびカメラのうちの少なくとも一つであってもよいし、これら以外であってもよい。転覆センサは、船体の転覆を検出するセンサである。エンジン速度センサは、エンジンの回転速度を検出するセンサである。加速度センサは、上下方向への船体の加速度を測定するセンサである。ミリ波レーダは、ミリ波を船舶の前方の水面に向けて発信し、水面から跳ね返った反射波を受信するセンサである。超音波センサは、超音波を船舶の前方の水面に向けて発信し、水面から跳ね返った反射波を受信するセンサである。カメラは、船舶の前方の水面を撮影する装置である。
【0009】
本実施形態において、以下の特徴の少なくとも一つが、前記船舶に加えられてもよい。
前記制御装置は、前記トリムアジャスタに前記トリム角を増加させた後に前記水面が平水であると判定したとき、前記トリムアジャスタに前記トリム角を減少させる。
この構成によれば、水面が平水ではないと判定された後に水面が平水であると判定されると、制御装置は、トリムアジャスタにトリム角を減少させ、船尾に対して船首を下方に移動させる。つまり、制御装置は、波の状態に応じて、船首を上げ、その後下げる。これにより、水面が平水である平水領域で船舶が前進しているにもかかわらず、船首が上がった状態で放置されることを防止できる。
【0010】
前記制御装置は、前記水面が平水ではないと判定した場合、前記トリムアジャスタの前記トリム角の値を記憶した後に、前記トリムアジャスタに前記トリム角を増加させ、その後に前記水面が平水であると判定した場合、記憶された値まで前記トリム角を前記トリムアジャスタに減少させる。
この構成によれば、水面が平水ではないと判定されると、制御装置は、トリムアジャスタのトリム角の値を記憶し、その後、トリムアジャスタにトリム角を増加させる。これにより、船尾に対して船首が上方に移動する。その後、水面が平水であると判定されると、制御装置は、記憶された値までトリム角をトリムアジャスタに減少させる。これにより、船尾に対して船首が下方に移動する。したがって、トリムアジャスタのトリム角を、水面が平水ではないと判定される前の値に戻すことができる。
【0011】
前記制御装置は、船速が下限速度以上である否かを判定し、前記船速が前記下限速度を下回ると判定したときは、前記トリムアジャスタに前記トリム角を変更させない。
この構成によれば、船舶が低速で前進していると制御装置が判定すると、波が荒くても、制御装置は、トリムアジャスタのトリム角を変更せずに現在の値に維持する。船舶の前進が遅ければ、波が荒くても、水しぶきが少ない。言い換えると、船舶が低速で前進しているときは、水しぶきを減らするために、トリム角を変更する必要性が乏しい。したがって、船速が下限速度以上である否かを判定することにより、不要なトリム角の変更を減らすことができる。
【0012】
前記船舶は、船尾に対して船首を上下に移動させるときに操船者によって操作されるトリムボタンをさらに備え、前記制御装置は、前記トリムボタンの操作に応じて前記トリムアジャスタに前記トリム角をマニュアル上限角度以下の範囲内で変更させ、前記水面が平水ではないと判定したとき、前記トリムアジャスタに前記トリム角を前記マニュアル上限角度を超える角度まで増加させる。
【0013】
この構成によれば、操船者がトリムボタンを操作すると、制御装置は、マニュアル上限角度以下の範囲内でトリムアジャスタにトリム角を変更させる。これにより、船尾に対して船首が上方または下方に移動する。その一方で、水面が平水ではないと制御装置が判定すると、制御装置は、マニュアル上限角度を超える角度までトリムアジャスタにトリム角を増加させる。したがって、トリム角がマニュアル上限角度のときよりも、船首が船尾に対して上方に移動する。これにより、操船者に当たる水しぶきを減らすことができる。
【0014】
前記制御装置は、前記水面が平水ではないという判定が継続している状態で前記船尾に対して前記船首を下方に移動させるトリムダウン操作が前記トリムボタンに行われると、前記トリムアジャスタに前記トリム角を減少させる。
この構成によれば、水面が平水ではないと制御装置が判定していても、操船者がトリムボタンにトリムダウン操作を行うと、制御装置は、トリムアジャスタにトリム角を減少させ、船首を船尾に対して下方に移動させる。つまり、実際の水面が平水ではなかったとしても、制御装置は、操船者の指示を優先して船首を下げる。これにより、船舶のトリムを操船者の意図する状態に一致させるまたは近づけることができる。
【0015】
前記船舶は、船尾に対して船首を上下に移動させるときに操船者によって操作されるトリムボタンをさらに備え、前記制御装置は、前記水面が平水ではないという判定が継続している状態で前記船尾に対して前記船首を下方に移動させるトリムダウン操作が前記トリムボタンに行われると、前記トリムアジャスタに前記トリム角を減少させる。
この構成によれば、水面が平水ではないと制御装置が判定していても、操船者がトリムボタンにトリムダウン操作を行うと、制御装置は、船首を船尾に対して下方に移動させる。つまり、実際の水面が平水ではなかったとしても、制御装置は、操船者の指示を優先して船首を下げる。これにより、船舶のトリムを操船者の意図する状態に一致させるまたは近づけることができる。
【0016】
前記制御装置は、前記水面が平水ではないという判定が継続している状態で前記トリムダウン操作が前記トリムボタンに行われると、前記トリムアジャスタに前記トリム角を減少させ、減少する前の値まで前記トリム角を増加させることを禁止する。
この構成によれば、水面が平水ではないと制御装置が判定してトリム角を増加させた後に、操船者がトリムボタンにトリムダウン操作を行うと、制御装置は、トリム角を減少させると共に、減少する前の値までトリム角を増加させることを禁止する。これにより、操船者がトリム角を減少させる操作を行ったにもかかわらず、トリム角が自動で増加することを防止できる。
【0017】
前記船舶は、前記船体を推進させる動力を発生するエンジンをさらに備え、前記波検出器は、前記エンジンの回転速度を検出するエンジン速度センサと、上下方向への前記船体の加速度に応じてオンオフするオンオフセンサと、を含み、前記制御装置は、前記オンオフセンサの検出値およびエンジン速度センサの検出値の少なくとも一方に基づいて前記水面が平水であるか否かを判定する。
【0018】
この構成によれば、エンジンの回転速度をエンジン速度センサによって検出する。水面が平水ではないラフ領域で船舶が前進しているとき、エンジンに加わる水の抵抗が減少および増加を繰り返し、エンジンの回転速度が急な上昇および下降を繰り返すことがある。水面が平水である平水領域で船舶が前進しているときは、このような回転速度の急な上昇および下降が発生し難い。
【0019】
オンオフセンサは、上下方向への船体の加速度に応じてオンオフする。船舶がラフ領域で前進しているとき、船体が上下方向への瞬間的な往復を繰り返すことがある。このとき、下方向の慣性力と上方向の慣性力とがオンオフセンサに交互に加わり、オンオフセンサがオンオフを繰り返すことがある。船舶が平水領域で前進しているときは、このようなオンオフが発生し難い。
【0020】
したがって、制御装置は、オンオフセンサの検出値およびエンジン速度センサの検出値の少なくとも一方を監視することにより、水面が平水であるか否かを判定できる。さらに、エンジン速度センサは、エンジンを備える船舶に必ず備えられるセンサであり、転覆センサなどのオンオフセンサは、殆どの船舶に備えられるセンサである。したがって、カメラなどの装置を追加せずに、既存のセンサを利用して波の状態を判定できる。
【0021】
上下方向への船体の加速度が増加し、大きな慣性力がオンオフセンサに加わると、オンオフセンサは、オンおよびオフの一方からオンおよびオフの他方に切り替わる。オンオフセンサは、オンまたはオフだけに変化し、矩形波(rectangular wave)を出力するセンサである。オンオフセンサは、上下方向への船体の加速度が上限加速度を超えるか否かを検出できるものの、上下方向への船体の加速度を連続的に検出できない。したがって、オンオフセンサは、上下方向への船体の加速度を連続的に測定する加速度センサとは異なる。
【0022】
前記制御装置は、前記オンオフセンサの検出値に基づいて前記水面が平水であるか否かを判定する第1平水判定と、前記エンジン速度センサの検出値に基づいて前記水面が平水であるか否かを判定する第2平水判定と、を行い、前記第1平水判定および第2平水判定の少なくとも一方で前記水面が平水ではないと判定したときに前記水面が平水ではないと判定し、前記第1平水判定および第2平水判定の両方で前記水面が平水であると判定したときに前記水面が平水であると判定する。
【0023】
この構成によれば、エンジン速度センサの検出値を考慮せずに、オンオフセンサの検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する第1平水判定を制御装置が行う。さらに、制御装置は、オンオフセンサの検出値を考慮せずに、エンジン速度センサの検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する第2平水判定を行う。したがって、第1平水判定および第2平水判定の一方だけを行う場合に比べて判定の信頼性を高めることができる。さらに、両方の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する場合に比べて判定方法を簡素化できる。
【0024】
波の状態等によっては、実際の水面が平水ではないのに、第1平水判定および第2平水判定の一方だけで水面が平水であると誤って判定されることがある。制御装置は、第1平水判定および第2平水判定の少なくとも一方で水面が平水ではないと判定すると、水面が平水ではないと最終的に判定する。したがって、制御装置は、水面が平水ではないことをより確実に判定できる。
【0025】
実際の水面が平水であれば、第1平水判定および第2平水判定の両方で水面が平水であると判定される。制御装置は、第1平水判定および第2平水判定の一方だけで水面が平水であると判定しても、水面が平水であると最終的に判定せず、第1平水判定および第2平水判定の両方で水面が平水であると判定したときにだけ、水面が平水であると最終的に判定する。したがって、制御装置は、実際の水面が平水ではないのに、水面が平水であると誤って判定することを防止できる。
【0026】
前記制御装置は、船速が下限速度以上である否かを判定し、前記船速が前記下限速度を下回ると判定したときは、前記水面が平水であると判定する。
この構成によれば、船舶が低速で前進していると制御装置が判定すると、実際の水面が平水ではなくても、水面が平水であると判定する。船舶が低速で前進しているときは、船舶が高速で前進しているときと比較すると、波の状態が船舶の乗り心地に与える影響が小さい。したがって、乗り心地の悪化を防止または最小限に抑えながら、水面が平水であるか否かの判定方法を簡素化できる。
【0027】
前記船舶は、出力最小位置から出力最大位置までの範囲内で移動可能であり、前記エンジンの出力を変更するときに操作されるアクセルハンドルと、前記アクセルハンドルの位置を検出するアクセルポジションセンサと、をさらに備え、前記制御装置は、前記出力最大位置および出力最小位置の間の範囲である定速航走範囲内に前記アクセルハンドルが保持されているか否かを前記アクセルポジションセンサの検出値に基づいて判定し、前記アクセルハンドルが前記定速航走範囲内に保持されていると判定したときに、前記エンジン速度センサの検出値に基づいて前記水面が平水であるか否かを判定する。
【0028】
この構成によれば、操船者によって操作されるアクセルハンドルの位置をアクセルポジションセンサによって検出する。操船者がアクセルハンドルを一定の位置に保持しているか殆ど動かしていなければ、制御装置は、アクセルハンドルが定速航走範囲内に保持されていると判定する。このように判定したときにだけ、制御装置は、エンジン速度センサの検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する。したがって、アクセルハンドルの操作に起因するエンジンの回転速度の急な変化が原因で水面が平水ではないと制御装置が誤って判定することを防止できる。
【0029】
前記制御装置は、前記アクセルハンドルが前記定速航走範囲内に保持されていないと判定したとき、前記水面が平水であると判定する。
この構成によれば、操船者がアクセルハンドルを意図的に大きく動かすと、制御装置は、アクセルハンドルが定速航走範囲内に保持されていないと判定し、水面が平水であると判定する。操船者がアクセルハンドルを急に動かすと、エンジンの回転速度が急に変化する。この場合、制御装置は、回転速度の急な変化がアクセルハンドルの操作と波の状態のいずれによってもたらされたのかを判断できず、波が穏やかであるにもかかわらず水面が平水ではないと判定してしまうことがある。アクセルハンドルが定速航走範囲内に保持されていないと判定したときに、水面が平水であると判定すれば、このような誤判定を回避できる。
【0030】
前記制御装置は、前記エンジンの回転速度が増加するにしたがって前記定速航走範囲の幅を広げる。
この構成によれば、操船者がアクセルハンドルを意図的に動かしているか否かを判断する基準である定速航走範囲の幅を、エンジンの回転速度が増加するにしたがって広げる。船舶が平水領域で前進していたとしても、船舶の前進中は船舶が振動するので、船舶の振動で操船者がアクセルハンドルをわずかに動かしてしまうことがある。このようなアクセルハンドルの移動は、エンジンの回転速度が増加するにしたがって大きくなり易い。定速航走範囲の幅をエンジンの回転速度が増加するにしたがって広げることにより、このようなアクセルハンドルの移動が原因で船舶が一定の速度で前進していないと制御装置が誤って判定してしまうことを減らすことができる。
【0031】
前記制御装置は、前記オンオフセンサがオンとオフとの間を往復したオンオフ回数が設定時間内において上限値を超えたか否かに基づいて前記水面が平水であるか否かを判定する。
この構成によれば、オンオフセンサがオンオフすると直ぐに水面が平水ではないと判定するのではなく、オンオフセンサがオンとオフとの間を往復したオンオフ回数を数える。そして、オンオフ回数が設定時間内に上限値を超えたときだけ、制御装置は、水面が平水ではないと判定する。したがって、偶発的な理由でオンオフセンサが1回だけオンオフしたときに、水面が平水ではないと制御装置が判定してしまうことを防止できる。さらに、オンオフ回数だけでなく時間も考慮するので、水面が平水であるか否かをより確実に判定できる。
【0032】
前記制御装置は、前記エンジン速度センサの検出値に基づいて前記エンジンの回転速度の変化率を算出し、算出された前記変化率に基づいて前記水面が平水であるか否かを判定する。
この構成によれば、エンジンの回転速度の変化率、つまり、エンジンの加速度を算出し、エンジンの加速度の変化を監視する。エンジンの回転速度が急に変化すると、エンジンの加速度の絶対値が大きくなる。その一方で、エンジンの回転速度の変化だけを監視する場合は、エンジンの回転速度が短時間で変化したか否かを判断できない。したがって、エンジンの加速度の変化を監視することにより、エンジンの回転速度の急な変化を確実に把握できる。
【0033】
前記制御装置は、前記エンジンの回転速度の変化率が通常航走範囲内に維持されているか否かに基づいて前記水面が平水であるか否かを判定し、前記エンジンの回転速度が増加するにしたがって前記通常航走範囲の幅を広げる。
この構成によれば、エンジンの回転速度の変化率を表すエンジンの加速度が通常航走範囲内に維持されているか否かに基づいて水面が平水であるか否かを判定する。さらに、エンジンの回転速度が増加するにしたがって通常航走範囲の幅を広げる。アクセルハンドルの位置が一定であったとしても、波の状態以外の原因(例えば、燃焼の不均一やキャビテーションの発生)でエンジンの回転速度が変動する場合がある。このような変動は、エンジンの回転速度が増加するにしたがって大きくなる傾向がある。加えて、このような変動は、船舶がラフ領域で前進したときに発生するエンジンの回転速度の変動よりも小さいことが多い。したがって、通常航走範囲の幅をエンジンの回転速度が増加するにしたがって広げることにより、水面が平水ではないと誤って判定されることを防止できる。
【0034】
前記オンオフセンサは、上下方向への前記船体の加速度に応じてオンオフすると共に、前記船体が転覆するとオンおよびオフの一方からオンおよびオフの他方に切り替わる転覆センサである。
この構成によれば、オンオフセンサとして転覆センサを用いる。船体が転覆すると、転覆センサはオンまたはオフに切り替わる。転覆センサがオンまたはオフの状態が続くと、制御装置は、船体が転覆したと判定する。転覆センサは、殆どの船舶に備えられるセンサである。したがって、転覆センサを用いれば、カメラなどの装置を追加せずに、波の状態を判定することができる。
【0035】
前記トリムアジャスタは、前記トリム角を変更するトリムアクチュエータを含み、前記制御装置は、前記トリムアクチュエータを制御することにより、前記トリムアクチュエータに前記トリム角を増加または減少させる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、検出した波の状態に応じてトリムを変更することができる船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の一実施形態に係る船舶の左側面図である。
図2】船舶に備えられた推進機の鉛直断面を示す断面図である。
図3】船舶のブロック図である。
図4】トリムボタンが操作されたときの流れの一例を示すフローチャートである。
図5】波の状態に応じて自動でトリム角を変更するATモード(オートトリムモード)の一例を示すフローチャートである。
図6】ATモードの一例を示すタイムチャートである。
図7A】波の状態とトリムとの関係の一例を示す模式図である。
図7B】波の状態とトリムとの関係の一例を示す模式図である。
図7C】波の状態とトリムとの関係の一例を示す模式図である。
図8】船舶が通過した水面が平水であるか否かを判定する平水判定の一例を示すフローチャートである。
図9】転覆センサの検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する第1平水判定の一例を示すフローチャートである。
図10A】第1平水判定において水面が平水であると判定したときの推移の一例を示すタイムチャートである。
図10B】第1平水判定において水面が平水ではないと判定したときの推移の一例を示すタイムチャートである。
図10C】第1平水判定において水面が平水ではないと判定した後に水面が平水であると判定したときの推移の一例を示すタイムチャートである。
図11】エンジン速度センサの検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する第2平水判定の一例を示すフローチャートである。
図12A】第2平水判定において水面が平水であると判定したときの推移の一例を示すタイムチャートである。
図12B】第2平水判定において水面が平水ではないと判定したときの推移の一例を示すタイムチャートである。
図12C】第2平水判定において水面が平水ではないと判定した後に水面が平水であると判定したときの推移の一例を示すタイムチャートである。
図13】船舶が一定の速度で前進し続けているか否かを判定する定速航走判定の一例を示すフローチャートである。
図14】定速航走判定における推移の一例を示すタイムチャートである。
図15】エンジンの回転速度と加速しきい値および減速しきい値との関係の一例を示すグラフである。
図16】エンジンの回転速度とアクセル上限位置およびアクセル下限位置との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る船舶1の左側面図である。図2は、船舶1に備えられた推進機9の鉛直断面を示す断面図である。図3は、船舶1のブロック図である。図1は、船舶1がパーソナルウォータークラフトである例を示している。
図1に示すように、船舶1は、水面に浮かぶ艇体2と、艇体2を推進させる推進機9とを備えている。艇体2は、船底を形成する船体3と、船体3の上方に配置されたデッキ4とを含む。推進機9は、艇体2の内部に配置されている。推進機9は、船底から吸い込んだ水を後方に噴射することにより推力を発生するジェット推進機である。
【0039】
船舶1は、操船者が座るシート5と、船舶1を操舵するときに操船者によって操作されるステアリングハンドル6とを備えている。シート5は、一人乗り用であってもよいし、二人または三人乗り用であってもよい。船舶1は、さらに、推進機9が艇体2を前進させる推力の大きさを変更するときに操船者によって操作されるアクセルハンドル7と、推進機9が艇体2を後進させる推力の大きさを変更するときに操船者によって操作されるリバースハンドル8とを備えている。
【0040】
ステアリングハンドル6は、操船者の右手および左手によって握られる2つのハンドルグリップ6gと、2つのハンドルグリップ6gが両端部に取り付けられたハンドルバーとを含む。ステアリングハンドル6は、ステアリングハンドル6から前方かつ下方に斜めに延びるステアリングシャフトまわりに艇体2に対して左右に回転可能である。アクセルハンドル7およびリバースハンドル8は、ステアリングハンドル6と共に艇体2に対して左右に回転する。
【0041】
アクセルハンドル7およびリバースハンドル8は、ステアリングハンドル6に取り付けられている。アクセルハンドル7は、右方のハンドルグリップ6gの前方に配置されている。リバースハンドル8は、左方のハンドルグリップ6gの前方に配置されている。アクセルハンドル7は、ステアリングハンドル6に対して前後に回動可能なアクセルレバーである。リバースハンドル8は、ステアリングハンドル6に対して前後に回動可能なリバースレバーである。
【0042】
アクセルハンドル7は、出力最大位置から出力最小位置までの範囲内でステアリングハンドル6に対して移動可能である。出力最大位置は、エンジン10の出力が最大の位置である。出力最小位置は、エンジン10の出力が最小の位置である。出力最小位置は、エンジン10がアイドリングする位置である。アクセルハンドル7は、出力最小位置に保持されている。エンジン10の出力は、アクセルハンドル7が出力最大位置に近づくにしたがって増加する。
【0043】
図2に示すように、推進機9は、船底から吸い込んだ水を後方に噴射することにより推力を発生するジェット推進ポンプ11と、ジェット推進ポンプ11を駆動するエンジン10とを含む。ジェット推進ポンプ11は、船底で開口した吸水口12と、吸水口12に吸い込まれた水を後方に噴射するノズル16と、吸水口12からノズル16に水を案内する流路13とを含む。ジェット推進ポンプ11は、さらに、流路13内に配置されたインペラ15と、エンジン10の回転をインペラ15に伝達するドライブシャフト14とを含む。
【0044】
推進機9は、ノズル16から後方に噴射された水の流れを左右に傾けるデフレクタ17を含む。デフレクタ17は、ノズル16から供給された水を噴射口17pから後方に噴射することにより、噴射口17pから直進する水流を形成する。デフレクタ17は、ノズル16に対して左右に回動可能である。ノズル16は、船体3に固定されている。デフレクタ17をノズル16に対して左右に傾けると、デフレクタ17から後方に噴射された水の流れもノズル16に対して左右に傾く。これにより、船舶1を旋回させる推力が発生する。
【0045】
操船者がステアリングハンドル6を動かすと、デフレクタ17は、ノズル16に対して左右に回動する。船舶1は、ステアリングハンドル6の動作をデフレクタ17に伝達するプッシュプルケーブルを備えていてもよい。船舶1は、プッシュプルケーブルに代えて、ステアリングハンドル6の位置を検出するステアリングポジションセンサの検出値に基づいてデフレクタ17をノズル16に対して左右に回動させるステアリングアクチュエータを備えていてもよい。
【0046】
推進機9は、デフレクタ17から後方に噴射された水を前方に方向転換させるバケット18を含む。バケット18は、デフレクタ17から後方に噴射された水を前方に噴射する噴射口18pを有している。バケット18は、ノズル16に取り付けられている。バケット18は、ノズル16に対してF位置(図2に示す位置)からR位置までの範囲内で上下に回動可能である。F位置は、背面視でバケット18がデフレクタ17の噴射口17pのいずれの部分にも重ならない位置である。R位置は、バケット18がデフレクタ17の噴射口17pの後方に配置され、背面視でデフレクタ17の噴射口17pのいずれの部分にも重なる位置である。
【0047】
推進機9は、F位置からR位置までの範囲内でバケット18を上下に回動させるリバースアクチュエータ19を含む。リバースアクチュエータ19は、電動モータである。リバースアクチュエータ19は、電動モータ以外のアクチュエータであってもよい。リバースアクチュエータ19は、後述するECU31に接続されている。操船者がリバースハンドル8を操作すると、ECU31は、リバースアクチュエータ19にバケット18を移動させることにより、リバースハンドル8の位置に応じた位置にバケット18を配置する。
【0048】
バケット18がF位置に配置されている状態で、デフレクタ17が後方に水を噴射すると、噴射された水は、バケット18に遮られることなく後方に流れる。これにより、船舶1を前進させる推力が発生する。バケット18がR位置に配置されている状態で、デフレクタ17が後方に水を噴射すると、噴射された水は、バケット18に衝突し、バケット18の噴射口18pから前方に流れる。これにより、船舶1を後進させる推力が発生する。
【0049】
デフレクタ17は、鉛直なステアリング軸線Asまわりにノズル16に対して左右に回動可能であり、水平なトリム軸線Atまわりにノズル16に対して上下に回動可能である。デフレクタ17をノズル16に対して上下に傾けると、デフレクタ17から後方に噴射された水の流れもノズル16に対して上下に傾く。デフレクタ17がノズル16に対して上下に傾いており、バケット18がF位置に配置されている状態で、デフレクタ17に水を噴射させると、船尾S1(図1参照)に対して船首B1(図1参照)を上下に移動させる推力が発生し、船舶1のトリムが変化する。
【0050】
トリムは、船舶1が水面に対して前後方向にどの程度傾いているかを判断する指標の一つである。トリムは、船首B1と水面とが交わる位置からキール(竜骨)までの上下方向の距離と、船尾S1と水面とが交わる位置からキールまでの上下方向の距離と、の差を意味する。言い換えると、トリムは、船首B1における喫水線WL(図1参照)からキールまでの上下方向の距離と、船尾S1における喫水線WLからキールまでの上下方向の距離と、の差を意味する。
【0051】
デフレクタ17がノズル16に対して上方に傾いており、バケット18がF位置に配置されている状態で、デフレクタ17に水を噴射させると、船首B1を船尾S1に対して上方に移動させる推力が発生する。これとは反対に、デフレクタ17がノズル16に対して下方に傾いており、バケット18がF位置に配置されている状態で、デフレクタ17に水を噴射させると、船首B1を船尾S1に対して下方に移動させる推力が発生する。
【0052】
以下では、船首B1が船尾S1に対して上方に移動することを、「バウアップ」または「トリムアップ」といい、船首B1が船尾S1に対して下方に移動することを、「トリムダウン」ということがある。以下では、ノズル16に対する上下方向へのデフレクタ17の位置を、「トリム位置」ということがある。トリム位置は、ノズル16の中心線に対する上下方向へのデフレクタ17の中心線の角度を表すデフレクタ17のトリム角と同義である。以下では、デフレクタ17のトリム角を、単にトリム角ということがある。
【0053】
船舶1は、トリムを調整するトリムアジャスタ21を備えている。図2は、トリムアジャスタ21が、水を後方に噴射すると共に船体3に対して上下に回動可能なデフレクタ17と、船体3に対してデフレクタ17を上下に回動させるトリムアクチュエータ20とを含む例を示している。ECU31は、トリムアクチュエータ20を制御することにより、トリムアジャスタ21のトリム角に相当するデフレクタ17のトリム角を変更し、船尾S1に対して船首B1を上下に移動させる。デフレクタ17のトリム角を増加または減少させることにより、船舶1のトリムを変更することができる。
【0054】
デフレクタ17は、トリム角最小位置からトリム角最大位置までの範囲内でノズル16に対して上下に回動可能である。図2は、デフレクタ17が、ダウン2位置D2からアップ3位置U3までの範囲内でノズル16に対して上下に回動可能である例を示している。トリム角は、ダウン2位置D2、ダウン1位置D1、中立位置N(図2に示す位置)、アップ1位置U1、アップ2位置U2、アップ3位置U3の順番で、段階的に増加する。ダウン2位置D2は、トリム角最小位置の一例である。アップ3位置U3は、トリム角最大位置の一例である。中立位置Nは、トリム角が0の位置である。
【0055】
推進機9は、デフレクタ17をノズル16に対して上下に回動させることにより、ダウン2位置D2からアップ3位置U3までの範囲内の任意の位置にデフレクタ17を位置させるトリムアクチュエータ20を含む。トリムアクチュエータ20は、電動モータである。トリムアクチュエータ20は、電動モータ以外のアクチュエータであってもよい。トリムアクチュエータ20は、ECU31に接続されている。ECU31は、トリムアクチュエータ20を制御することにより、トリムアクチュエータ20にデフレクタ17を移動させる。
【0056】
図3に示すように、船舶1は、船舶1に備えられた電気機器を制御するECU31(Electronic Control Unit)と、ECU31の指令にしたがって船舶1に備えられた電気機器を制御するSCU32(Shift Control Unit)とを備えている。ECU31は、制御装置の一例である。ECU31は、CAN(Controller Area Network)などの通信規格にしたがって構築された通信ネットワークN1を介してSCU32に接続されている。ECU31およびSCU32は、船舶1の制御に必要な情報および指令を通信ネットワークN1を介して送信および受信する。
【0057】
ECU31およびSCU32は、いずれもコンピュータである。ECU31は、後述する処理を船舶1に実施させるようにプログラムされている。ECU31は、プログラムなどの情報を記憶するメモリ31mと、メモリ31m内のプログラムにしたがって演算および指令を行うCPU31c(Central Processing Unit)とを含む。ECU31は、さらに、船舶1に備えられたセンサの検出値を取得する入力インターフェース31iと、船舶1に備えられた電気機器を駆動する出力インターフェース31oと、通信ネットワークN1を介して通信する通信インターフェース31coとを含む。SCU32も、メモリ、CPU、入力インターフェース、出力インターフェース、および通信インターフェースを備えている。
【0058】
ECU31は、SCU32を介してリバースアクチュエータ19およびトリムアクチュエータ20に接続されている。SCU32は、ECU31から取得した指令にしたがってリバースアクチュエータ19およびトリムアクチュエータ20を動作させる。ECU31は、リバースアクチュエータ19およびトリムアクチュエータ20を動作させる指令をSCU32に送るのではなく、リバースアクチュエータ19およびトリムアクチュエータ20を制御することにより、リバースアクチュエータ19およびトリムアクチュエータ20を動作させてもよい。この場合、SCU32を省略してもよい。
【0059】
船舶1は、アクセルハンドル7の位置を検出するアクセルポジションセンサ33と、リバースハンドル8の位置を検出するリバースハンドルポジションセンサ34と、エンジン10の回転速度を検出するエンジン速度センサ35とを備えている。船舶1は、さらに、バケット18の位置を検出するバケットポジションセンサ36と、デフレクタ17のトリム角を検出するトリム角センサ37と、船速(船舶1の速度)を検出する船速センサ38と、船体3が転覆したか否かを検出する転覆センサ39とを備えている。いずれのセンサも、ECU31に接続されている。
【0060】
ECU31は、アクセルポジションセンサ33の検出値に基づいてエンジン10の出力を変更する。同様に、ECU31は、リバースハンドルポジションセンサ34の検出値に基づいてエンジン10の出力を変更する。ECU31は、さらに、バケットポジションセンサ36の検出値に基づいてF位置からR位置までの範囲内のいずれの位置にバケット18が配置されているかを把握する。したがって、ECU31は、バケットポジションセンサ36の検出値に基づいて、船舶1のシフトモードが、船舶1が前進するFモードと船舶1が後進するRモードのいずれであるかを判定する。
【0061】
転覆センサ39は、オンとオフとの間で切り替わるオンオフセンサである。転覆センサ39は、船体3に取り付けられている。転覆センサ39は、転倒センサとも言われる。船体3が転覆したり、船体3が左右方向に大きく傾いたりすると、転覆センサ39は、オフからオンに切り替わる。上下方向への船体3の加速度が大きいときも、転覆センサ39は、オンとオフとの間で切り替わる。例えば、船舶1が大きな波を乗り越えると、下方向および上方向への大きな慣性力が転覆センサ39に加わり、転覆センサ39がオフからオンに切り替わりオフに戻る。転覆センサ39がオンの状態が続くと、ECU31は、船体3が転覆したと判断し、エンジン10を停止させる。
【0062】
船舶1は、船舶1の情報を表示するメータ40を備えている。メータ40は、デジタルメータである。メータ40は、タッチパネルディスプレイであってもよいし、タッチパネル非搭載のディスプレイであってもよい。メータ40は、アナログメータであってもよい。メータ40は、ステアリングハンドル6に取り付けられている。ステアリングハンドル6を操作している操船者が視認可能な位置であれば、メータ40は、船舶1のいずれの位置に配置されていてもよい。ECU31は、メータ40を制御することにより、船速やトリム角などの船舶1の情報をメータ40に表示させる。
【0063】
船舶1は、船尾S1に対して船首B1を上下に移動させるときに操船者によって操作されるトリムボタン41を備えている。図3は、トリムボタン41が、トリムアップさせるときに操船者によって操作されるトリムアップボタン41uと、トリムダウンさせるときに操船者によって操作されるトリムダウンボタン41dとを含む例を示している。トリムボタン41は、トリムアップボタン41uおよびトリムダウンボタン41dを兼ねる1つのボタンであってもよい。
【0064】
トリムアップボタン41uおよびトリムダウンボタン41dは、手で動かされる手動ボタンであってもよいし、タッチパネルディスプレイの表示の一部であってもよい。トリムアップボタン41uおよびトリムダウンボタン41dは、ステアリングハンドル6に取り付けられている。ステアリングハンドル6を操作している操船者が操作可能な位置に配置されるのであれば、トリムアップボタン41uおよびトリムダウンボタン41dは、ステアリングハンドル6以外の部材に取り付けられていてもよい。
【0065】
ECU31は、トリムアクチュエータ20にデフレクタ17を移動させることにより、ダウン2位置D2、ダウン1位置D1、中立位置N、アップ1位置U1、アップ2位置U2、およびアップ3位置U3のいずれかにデフレクタ17を位置させる。ただし、トリムボタン41が操作されたとき、ECU31は、アップ3位置U3以外の位置、つまり、ダウン2位置D2、ダウン1位置D1、中立位置N、アップ1位置U1、およびアップ2位置U2のいずれかにデフレクタ17を位置させる。アップ2位置U2は、マニュアル上限角度の一例である。
【0066】
船舶1は、船舶1のトリムモードを選択するときに操船者によって操作されるトリムモードセレクトボタン42を備えている。トリムモードセレクトボタン42は、手で動かされる手動ボタンであってもよいし、タッチパネルディスプレイの表示の一部であってもよい。トリムモードセレクトボタン42が操作されると、ECU31は、マニュアルトリムモードおよびオートトリムモードを含む複数のトリムモードのいずれかに船舶1を設定する。
【0067】
マニュアルトリムモードは、トリムボタン41が操作されたときにだけECU31がデフレクタ17のトリム角を変更するモードである。オートトリムモードは、トリムボタン41が操作されたときだけでなく、トリムボタン41が操作されていないときもECU31がデフレクタ17のトリム角を変更するモードである。以下では、マニュアルトリムモードを、MTモードといい、オートトリムモードを、ATモードということがある。
【0068】
図4は、トリムボタン41が操作されたときの流れの一例を示すフローチャートである。
船尾S1に対して船首B1を上方に移動させるトリムアップ操作、または、船尾S1に対して船首B1を下方に移動させるトリムダウン操作がトリムボタン41に行われると、(図4のステップA11でYes)、ECU31は、船舶1がMTモードか否かを確認する(図4のステップA12)。MTモードは、トリムボタン41が操作されたときにだけECU31がデフレクタ17のトリム角を変更するモードである。
【0069】
船舶1がMTモードのときにトリムボタン41が操作されると(図4のステップA12でYes)、ECU31は、トリムボタン41の操作にしたがってデフレクタ17を上方または下方に回動させ、デフレクタ17のトリム角を変更する(図4のステップA13)。ただし、デフレクタ17がアップ2位置U2に位置している状態でトリムアップ操作が行われた場合、ECU31は、デフレクタ17を回動させずにアップ2位置U2で静止させる(図4のステップA13)。デフレクタ17がダウン2位置D2に位置している状態でトリムダウン操作が行われた場合も、ECU31は、デフレクタ17を回動させずにダウン2位置D2で静止させる(図4のステップA13)。その後、ECU31は、図4に示す処理を終了し、図4のステップA11から再開する。
【0070】
船舶1がMTモードではない、つまり、船舶1がATモードのときにトリムボタン41が操作されると(図4のステップA12でNo)、ECU31は、デフレクタ17がアップ3位置U3にあるか否かを確認する(図4のステップA14)。オートトリムモードは、トリムボタン41が操作されたときだけでなく、トリムボタン41が操作されていないときもECU31がデフレクタ17のトリム角を変更するモードである。
【0071】
デフレクタ17がアップ3位置U3になければ(図4のステップA14でNo)、ECU31は、トリムボタン41の操作にしたがってトリム角を変更または維持する(図4のステップA13)。デフレクタ17がアップ3位置U3にあり(図4のステップA14でYes)、トリムアップ操作が行われたときは(図4のステップA15でNo)、ECU31は、デフレクタ17を回動させずにアップ3位置U3で静止させる(図4のステップA18)。
【0072】
デフレクタ17がアップ3位置U3にあり(図4のステップA14でYes)、トリムダウン操作が行われたときは(図4のステップA15でYes)、ECU31は、デフレクタ17を下方に回動させ、アップ2位置U2に移動させる(図4のステップA16)。さらに、ECU31は、デフレクタ17をアップ3位置U3に移動させることを禁止する自動トリムアップ禁止を有効にする(図4のステップA17)。
【0073】
トリムボタン41が操作されていなければ(図4のステップA11でNo)、ECU31は、船舶1がATモードであるか否かを確認する(図4のステップA19)。船舶1がATモードでなければ、つまり、船舶1がMTモードであれば(図4のステップA19でNo)、ECU31は、図4に示す処理を終了し、図4のステップA11から再開する。
船舶1がATモードであれば(図4のステップA19でYes)、ECU31は、自動トリムアップ禁止が有効であるか否かを確認する(図4のステップA20)。自動トリムアップ禁止が有効でなければ(図4のステップA20でNo)、ECU31は、図4に示す処理を終了し、図4のステップA11から再開する。自動トリムアップ禁止が有効であれば(図4のステップA20でYes)、ECU31は、自動トリムアップ禁止を無効にする解除条件が成立したか否かを確認する(図4のステップA21)。
【0074】
解除条件が成立していれば(図4のステップA21でYes)、ECU31は、自動トリムアップ禁止を無効にし(図4のステップA22)、アップ3位置U3へのデフレクタ17の移動を許可する。解除条件が成立していなければ(図4のステップA21でNo)、ECU31は、自動トリムアップ禁止を無効にせずに、図4に示す処理を終了し、図4のステップA11から再開する。
【0075】
次に、ATモード(オートトリムモード)について説明する。
図5は、波の状態に応じて自動でトリム角を変更するATモードの一例を示すフローチャートである。
ECU31は、バケットポジションセンサ36の検出値とエンジン速度センサ35の検出値とに基づいて船舶1が前進しているか否かを判定する(図5のステップB11)。船舶1が前進しているとき(図5のステップB11でYes)、ECU31は、船舶1が通過した水面が平水であるか否かを判定する平水判定を行う(図5のステップB12)。平水判定については後述する。
【0076】
水面が平水ではないとECU31が判定した場合(図5のステップB12でNo)、ECU31は、船舶1が下限速度以上の速度で設定時間以上前進し続けているか否かを判定する(図5のステップB13)。船舶1が下限速度以上の速度で設定時間以上前進し続けていれば(図5のステップB13でYes)、ECU31は、トリム角センサ37の検出値に基づいてデフレクタ17がアップ3位置U3にあるか否かを判定する(図5のステップB14)。そうでなければ(図5のステップB13でNo)、ECU31は、図5に示す処理を終了し、図5のステップB11から再開する。
【0077】
ECU31は、船速センサ38の検出値に基づいて船速が下限速度以上である否かを判定してもよいし、船速センサ38以外のセンサの検出値に基づいて船速が下限速度以上である否かを判定してもよい。エンジン10の回転速度は、船速と概ね正比例の関係にある。例えば、エンジン10の回転速度が増加または減少すると、船速はそれに遅れて増加または減少する。ECU31は、エンジン速度センサ35の検出値に基づいて船速を推測できる。したがって、ECU31は、エンジン速度センサ35の検出値に基づいて船速が下限速度以上である否かを判定してもよい。下限速度が10km/hである場合、下限速度に対応するエンジン10の回転速度は3500rpmである。下限速度およびエンジン10の回転速度はこれに限られない。
【0078】
デフレクタ17がアップ3位置U3に配置されていれば(図5のステップB14でYes)、ECU31は、図5に示す処理を終了し、図5のステップB11から再開する。デフレクタ17がアップ3位置U3以外の位置に配置されていれば(図5のステップB14でNo)、ECU31は、自動トリムアップ禁止が有効であるか否かを確認する(図5のステップB15)。
【0079】
自動トリムアップ禁止が有効であれば(図5のステップB15でYes)、ECU31は、デフレクタ17をアップ3位置U3に移動させることなく図5に示す処理を終了し、図5のステップB11から再開する。そうでなければ(図5のステップB15でNo)、ECU31は、デフレクタ17の現在のトリム位置、言い換えると、現在のトリム角を記憶し(図5のステップB16)、デフレクタ17をアップ3位置U3に移動させる(図5のステップB17)。
【0080】
船舶1が前進しており(図5のステップB11でYes)、水面が平水であるとECU31が判定した場合も(図5のステップB12でYes)、ECU31は、デフレクタ17がアップ3位置U3にあるか否かを確認する(図5のステップB18)。例えば、水面が平水ではないラフ領域から水面が平水である平水領域に船舶1が移動した直後や、水面が平水に変化した直後は、デフレクタ17がアップ3位置U3に配置されている場合がある。
【0081】
水面が平水であると判定されたにもかかわらず(図5のステップB12でYes)、デフレクタ17がアップ3位置U3に配置されている場合(図5のステップB18でYes)、ECU31は、アップ3位置U3に位置するデフレクタ17をステップB16で記憶した位置まで移動させ、トリム角を記憶した値に戻す(図5のステップB19)。そうでなければ(図5のステップB18でNo)、ECU31は、デフレクタ17のトリム角を変更することなく図5に示す処理を終了し、図5のステップB11から再開する。
【0082】
船舶1が前進していないとき(図5のステップB11でNo)、つまり、船舶1が静止または後進しているとき、ECU31は、ATモードのパラメータを初期化し、初期値または初期状態に戻す(図5のステップB20)。例えば、ATモードのパラメータの一つである自動トリムアップ禁止が有効であっても、船舶1のシフトモードがFモードからRモードに変わると、ECU31は、自動トリムアップ禁止を初期状態である無効に戻す。
【0083】
図6は、ATモードの一例を示すタイムチャートである。図7A図7B、および図7Cは、波の状態とトリムとの関係の一例を示す模式図である。図6中の「U3」「U2」および「U1」は、それぞれ、アップ3位置U3、アップ2位置U2、およびアップ1位置U1を表している。
船舶1が下限速度以上の速度で設定時間以上前進しているときに、船舶1が平水領域からラフ領域に移動すると、ECU31は、水面が平水ではないと判定する。このとき、自動トリムアップ禁止が有効でなければ、ECU31は、デフレクタ17の現在のトリム位置を記憶し、デフレクタ17をアップ3位置U3に移動させる。図6は、時刻C11でECU31がデフレクタ17をアップ2位置U2からアップ3位置U3に移動させる例を示している。この例では、アップ2位置U2がデフレクタ17の現在のトリム位置に相当する。
【0084】
デフレクタ17がアップ3位置U3に配置された後に、船舶1がラフ領域から平水領域に移動すると、ECU31は、水面が平水であると判定し、デフレクタ17をアップ3位置U3からアップ2位置U2に移動させる(図6中の時刻C12)。再び、船舶1が平水領域からラフ領域に移動すると、ECU31は、水面が平水ではないと判定し、自動トリムアップ禁止が有効でなければ、デフレクタ17をアップ2位置U2からアップ3位置U3に移動させる(図6中の時刻C13)。
【0085】
図7Aは、船舶1がラフ領域で前進している状態を示している。このような場合、ECU31は、水面が平水ではないと判定し、デフレクタ17をアップ3位置U3に移動させる。図7Bは、図7Aに示す状態に比べて船首B1を船尾S1に対して上方に移動させた状態を示している。このようにすれば、ラフ領域であっても、水しぶきを減らすことができる。図7Cは、船舶1がラフ領域から平水領域に移動し、デフレクタ17のトリム位置を元に戻した状態を示している。このようにすれば、図7Bに示す状態に比べて船首B1を船尾S1に対して下方に移動させることができる。
【0086】
船舶1が下限速度以上の速度でラフ領域を前進しており、デフレクタ17がアップ3位置U3に配置されているときに、操船者がトリムダウンボタン41dを操作すると、ECU31は、水面が平水ではないと判定していても、デフレクタ17をアップ3位置U3からアップ2位置U2に移動させる(図6中の時刻C14)。ECU31は、さらに、自動トリムアップ禁止を有効にする。そのため、ECU31は、操船者がトリムダウンボタン41dの操作を止めた後に水面が平水ではないと判定しても、デフレクタ17をアップ3位置U3に移動させない。
【0087】
自動トリムアップ禁止は、解除条件が成立すると無効にされる。図6は、エンジン10の回転速度が下限回転速度を下回った時点(図6中の時刻C15)で自動トリムアップ禁止が無効にされる例を示している。エンジン10の回転速度が下限回転速度未満であることは、解除条件の一例である。解除条件が成立したとき、ECU31は、ECU31に記憶されている水面の判定結果を表す水面判定ステータスを、水面が平水ではないことを表す「ラフ」から、水面が平水であることを表す「平水」に変更してもよいし、現在の判定結果を維持してもよい。図6は、解除条件が成立しても、水面判定ステータスをラフに維持する例を示している。
【0088】
エンジン10の回転速度が下限回転速度を下回った後に下限回転速度以上の値まで上昇し、エンジン10の回転速度が下限回転速度以上の期間が続くと、ECU31は、船舶1が下限速度以上の速度で設定時間以上前進していると判定する。このとき、ECU31内の水面判定ステータスがラフであり、自動トリムアップ禁止が有効でなければ、ECU31は、水面が平水であるか否かを改めて判定することなく、デフレクタ17をアップ3位置U3に移動させる(図6中の時刻C16)。したがって、水面が平水であるか否かを改めて判定する場合に比べて、短時間でデフレクタ17をアップ3位置U3に移動させることができる。
【0089】
次に、平水判定について説明する。
図8は、船舶1が通過した水面が平水であるか否かを判定する平水判定の一例を示すフローチャートである。
平水判定を行うとき、ECU31は、バケットポジションセンサ36の検出値とエンジン速度センサ35の検出値とに基づいて船舶1が前進しているか否かを判定する(図8のステップD11)。船舶1が前進しているとき(図8のステップD11でYes)、ECU31は、船舶1が下限速度以上の速度で設定時間以上前進し続けているか否かを判定する(図8のステップD12)。
【0090】
船舶1が下限速度以上の速度で設定時間以上前進し続けていれば(図8のステップD12でYes)、ECU31は、転覆センサ39の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する第1平水判定を行う(図8のステップD13)。ECU31は、さらに、エンジン速度センサ35の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する第2平水判定を行う(図8のステップD14)。第1平水判定および第2平水判定については後述する。
【0091】
第1平水判定および第2平水判定の両方において水面が平水であるとECU31が判定した場合(図8のステップD15でYes)、ECU31は、水面が平水であると最終的に判定し(図8のステップD16)、ECU31に記憶されている水面の判定結果を表す水面判定ステータスを更新する(図8のステップD17)。つまり、現在の水面判定ステータスがラフであれば、水面判定ステータスを平水に変更し、現在の水面判定ステータスが平水であれば、水面判定ステータスを変更しない。
【0092】
第1平水判定および第2平水判定の少なくとも一方において水面が平水ではないと判定した場合(図8のステップD15でNo)、ECU31は、水面が平水ではないと最終的に判定する(図8のステップD18)。図8中の「ラフ判定」は、水面が平水ではないと最終的に判定したことを表している。その後、ECU31は、ECU31内の水面判定ステータスを更新する(図8のステップD17)。つまり、現在の水面判定ステータスが平水であれば、水面判定ステータスをラフに変更し、現在の水面判定ステータスがラフであれば、水面判定ステータスを変更しない。
【0093】
船舶1が前進しているものの(図8のステップD11でYes)、船舶1が下限速度以上の速度で設定時間以上前進し続けていない場合(図8のステップD12でNo)、つまり、船舶1が下限速度未満の速度で前進している場合や、設定時間が経過するまでに船速が下限速度未満の値まで低下した場合、ECU31は、水面が平水であると判定し(図8のステップD16)、ECU31内の水面判定ステータスを更新する(図8のステップD17)。船舶1が前進していない場合(図8のステップD11でNo)、ECU31は、ATモードのパラメータを初期化し、初期値または初期状態に戻す(図8のステップD19)。
【0094】
次に、第1平水判定について説明する。
図9は、転覆センサ39の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する第1平水判定の一例を示すフローチャートである。
第1平水判定を行うとき、ECU31は、ECU31内の水面判定ステータスが平水であるか否かを確認する(図9のステップE11)。現在の水面判定ステータスが平水であれば(図9のステップE11でYes)、ECU31は、転覆センサ39がオンオフしたか否か、つまり、転覆センサ39がオンとオフとの間を往復したか否かを監視する(図9のステップE12)。
【0095】
船舶1がラフ領域で前進すると、上下方向への大きな力が船体3に加わり、船体3が上下方向に往復することがある。このとき、転覆センサ39は、オンオフする。転覆センサ39がオンオフすると(図9のステップE12でYes)、ECU31は、転覆センサ39がオンオフした回数を表すオンオフ回数を初期値である0から1に変更し、その時点からの経過時間の測定を開始する(図9のステップE13)。
【0096】
ECU31は、オンオフ回数を1に変更した時点からの経過時間を測定しながら転覆センサ39がオンオフしたか否かを監視し、2以上の整数である第1平水判定上限値をオンオフ回数が超えたか否かを判定する(図9のステップE14)。オンオフ回数が第1平水判定上限値を超えていなければ(図9のステップE14でNo)、ECU31は、オンオフ回数を1に変更した時点から第1平水判定時間が経過したか否かを確認する(図9のステップE17)。第1平水判定時間が経過していなければ(図9のステップE17でNo)、ECU31は、再び、オンオフ回数が第1平水判定上限値を超えたか否かを確認する(図9のステップE14に戻る)。
【0097】
オンオフ回数を1に変更した時点から第1平水判定時間が経過するまでの間に、オンオフ回数が第1平水判定上限値を超えると(図9のステップE14でYes)、ECU31は、水面が平水ではないと判定する(図9のステップE15)。ECU31は、さらに、水面が平水ではないと判定した時点からの経過時間の測定を開始する(図9のステップE16)。その後、ECU31は、図9に示す処理を終了し、図9のステップE11から再開する。
【0098】
ECU31が監視している間に転覆センサ39がオンオフしなかった場合(図9のステップE12でNo)、ECU31は、水面が平水であると判定する(図9のステップE18)。転覆センサ39がオンオフしたものの(図9のステップE12でYes)、第1平水判定時間が経過するまでのオンオフ回数が第1平水判定上限値以下であった場合も(図9のステップE17でYes)、ECU31は、水面が平水であると判定する(図9のステップE18)。
【0099】
ECU31内の水面判定ステータスがラフである場合(図9のステップE11でNo)、ECU31は、水面が平水ではないと判定した時点から第1ラフ判定解除時間が経過するまで、転覆センサ39がオンオフしたか否かを監視する(図9のステップE19)。つまり、図9のステップE16で経過時間の測定を開始してから第1ラフ判定解除時間が経過するまで、転覆センサ39がオンオフしたか否かを監視する(図9のステップE19)。
【0100】
第1ラフ判定解除時間が経過するまでに転覆センサ39がオンオフした場合(図9のステップE19でYes)、ECU31は、水面が平水ではないと判定した時点からの経過時間を初期値に戻し(図9のステップE20)、経過時間の測定をやり直す。第1ラフ判定解除時間が経過するまでに転覆センサ39がオンオフしなかった場合は(図9のステップE19でNo)、ECU31は、水面が平水であると判定する(図9のステップE18)。言い換えると、ECU31は、水面が平水に変化した、もしくは、船舶1がラフ領域から平水領域に移動したと判定する。
【0101】
図10Aは、第1平水判定において水面が平水であると判定したときの推移の一例を示すタイムチャートである。
転覆センサ39がオンオフすると、ECU31は、転覆センサ39がオンとオフとの間を往復した回数を表すオンオフ回数を初期値である0から1に変更し、その時点からの経過時間の測定を開始する。図10Aは、オンオフ回数を1に変更したときに、初期値から終了値まで第1平水判定時間の間だけ時間を測定する第1平水判定タイマをECU31が起動させる例を示している。図10Aの例では、第1平水判定タイマの初期値は1であり、第1平水判定タイマの終了値は0である。
【0102】
経過時間の測定が開始された後、ECU31は、転覆センサ39がオンオフしたか否かを引き続き監視し、オンオフ回数を数える。オンオフ回数を1に変更してから第1平水判定時間が経過するまでに、オンオフ回数が第1平水判定上限値を超えると、ECU31は、水面が平水ではないと判定する。図10Aは、第1平水判定時間が経過した時点においてオンオフ回数が1である例を示している。図10Aに示す例において第1平水判定上限値は3である。したがって、この例では、ECU31は、水面が平水であると判定する。
【0103】
図10Bは、第1平水判定において水面が平水ではないと判定したときの推移の一例を示すタイムチャートである。
図10Aに示す例と同様に、転覆センサ39がオンオフすると、ECU31は、転覆センサ39がオンオフした回数を表すオンオフ回数を初期値である0から1に変更し、その時点からの経過時間を第1平水判定タイマに測定させる。その後、ECU31は、第1平水判定タイマに経過時間を測定させながら、オンオフ回数を数える。
【0104】
図10Bは、第1平水判定時間(例えば、20~30秒)が経過する前にオンオフ回数が4に達した例を示している。図10Bに示す例において第1平水判定上限値は3である。したがって、この例では、第1平水判定時間が経過するまでに、オンオフ回数が第1平水判定上限値を超えている。ECU31は、オンオフ回数が第1平水判定上限値を超えた時点で水面が平水ではないと判定し、第1平水判定のステータスを平水からラフに変更する。
【0105】
図10Cは、第1平水判定において水面が平水ではないと判定した後に水面が平水であると判定したときの推移の一例を示すタイムチャートである。
水面が平水ではないとECU31が判定すると、ECU31は、その時点からの経過時間の測定を開始する。図10Cは、水面が平水ではないとECU31が判定したときに、初期値から終了値まで第1ラフ判定解除時間の間だけ時間を測定する第1ラフ判定解除タイマをECU31が起動させる例を示している。図10Cの例では、第1ラフ判定解除タイマの初期値は1であり、第1ラフ判定解除タイマの終了値は0である。
【0106】
経過時間の測定が開始された後、ECU31は、転覆センサ39がオンオフしたか否かを引き続き監視する。水面が平水ではないとECU31が判定してから第1ラフ判定解除時間が経過するまでに転覆センサ39がオンオフすると、ECU31は、第1ラフ判定解除タイマを初期値である1に戻し、第1ラフ判定解除タイマに時間の測定をやり直させる。図10Cは、転覆センサ39が2回オンオフし、第1ラフ判定解除タイマが2回リセットされた例を示している。
【0107】
水面が平水ではないとECU31が判定してから第1ラフ判定解除時間が経過するまでの間に転覆センサ39がオンオフしなかった場合、ECU31は、水面が平水であると判定する。つまり、ECU31は、水面が平水に変化した、もしくは、船舶1がラフ領域から平水領域に移動したと判定する。この場合、ECU31は、第1平水判定のステータスを平水に戻す。さらに、ECU31は、オンオフ回数を初期値である0に戻す。
【0108】
次に、第2平水判定について説明する。
図11は、エンジン速度センサ35の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する第2平水判定の一例を示すフローチャートである。
第2平水判定を行うとき、ECU31は、ECU31内の水面判定ステータスが平水であるか否かを確認する(図11のステップF11)。現在の水面判定ステータスが平水であれば(図11のステップF11でYes)、ECU31は、船舶1が一定の速度で前進し続けているか否かを判定する定速航走判定を行う。定速航走判定については後述する。
【0109】
船舶1がラフ領域で前進すると、船体3の少なくとも一部が水面から離れる離水と船体3が水面に落下する着水とが交互に繰り返されることがある。船体3が水面から離れると、エンジン10に加わる水の抵抗が減少し、アクセルハンドル7の位置が一定であったとしても、エンジン10の回転速度が急に上昇する。船体3が水面に降りると、エンジン10に加わる水の抵抗が増加し、アクセルハンドル7の位置が一定であったとしても、エンジン10の回転速度が急に下降する。
【0110】
定速航走判定において船舶1が一定の速度で前進し続けているとECU31が判定した場合(図11のステップF12でYes)、ECU31は、エンジン速度センサ35の検出値に基づいて、エンジン10の回転速度が急に上昇および下降したか否かを監視する(図11のステップF13)。図11中の「E/Grpm」は、エンジン10の回転速度を表しており、図11中の「急変化」は、エンジン10の回転速度が急に上昇および下降したことを表している。エンジン10の回転速度が急に上昇および下降すると(図11のステップF13でYes)、ECU31は、エンジン10の回転速度が急に上昇および下降した回数を表す急変化回数を初期値である0から1に変更し、その時点からの経過時間の測定を開始する(図11のステップF14)。
【0111】
ECU31は、急変化回数を1に変更した時点からの経過時間を測定しながらエンジン10の回転速度が急に上昇および下降したか否かを監視し、2以上の整数第2平水判定上限値を急変化回数が超えたか否かを判定する(図11のステップF15)。急変化回数が第2平水判定上限値を超えていなければ(図11のステップF15でNo)、ECU31は、急変化回数を1に変更した時点から第2平水判定時間が経過したか否かを確認する(図11のステップF18)。第2平水判定時間が経過していなければ(図11のステップF18でNo)、ECU31は、再び、急変化回数が第2平水判定上限値を超えたか否かを確認する(図11のステップF15に戻る)。
【0112】
急変化回数を1に変更した時点から第2平水判定時間が経過するまでの間に、急変化回数が第2平水判定上限値を超えると(図11のステップF15でYes)、ECU31は、水面が平水ではないと判定する(図11のステップF16)。ECU31は、さらに、水面が平水ではないと判定した時点からの経過時間の測定を開始する(図11のステップF17)。その後、ECU31は、図11に示す処理を終了し、図11のステップF11から再開する。
【0113】
定速航走判定において船舶1が一定の速度で前進し続けていないと判定した場合(図11のステップF12でNo)、ECU31は、水面が平水であると判定する(図11のステップF19)。船舶1が一定の速度で前進し続けていたものの(図11のステップF12でYes)、ECU31が監視している間に、エンジン10の回転速度が急に上昇および下降しなかった場合や(図11のステップF13でNo)、第2平水判定時間が経過するまでの急変化回数が第2平水判定上限値以下であった場合も(図11のステップF18でYes)、ECU31は、水面が平水であると判定する(図11のステップF19)。
【0114】
ECU31内の水面判定ステータスがラフである場合も(図11のステップF11でNo)、ECU31は、定速航走判定を行う。定速航走判定において船舶1が一定の速度で前進し続けていないと判定した場合(図11のステップF20でNo)、ECU31は、水面が平水であると判定する(図11のステップF19)。定速航走判定において船舶1が一定の速度で前進し続けていると判定した場合(図11のステップF20でYes)、ECU31は、水面が平水ではないと判定した時点から第2ラフ判定解除時間が経過するまで、エンジン10の回転速度が急に上昇および下降したか否かを監視する(図11のステップF21)。つまり、図11のステップF17で経過時間の測定を開始してから第2ラフ判定解除時間が経過するまで、エンジン10の回転速度が急に上昇および下降したか否かを監視する(図11のステップF21)。
【0115】
第2ラフ判定解除時間が経過するまでにエンジン10の回転速度が急に上昇および下降した場合(図11のステップF21でYes)、ECU31は、水面が平水ではないと判定した時点からの経過時間を初期値に戻し(図11のステップF22)、経過時間の測定を最初からやり直す。第2ラフ判定解除時間が経過するまでにエンジン10の回転速度が急に上昇および下降しなかった場合(図11のステップF21でNo)、ECU31は、水面が平水であると判定する(図11のステップF19)。
【0116】
図12Aは、第2平水判定において水面が平水であると判定したときの推移の一例を示すタイムチャートである。図12A中の「E/Grpm」は、エンジン10の回転速度を表しており、図12A中の「rpm偏差」は、エンジン10の回転速度の変化率を表している。これは、図12Bおよび図12Cでも同様である。エンジン10の回転速度の変化率は、エンジン10の加速度に相当する。
【0117】
ECU31は、エンジン速度センサ35の検出値に基づいてエンジン10の回転速度が急に上昇および下降したか否かを判定する。図12Aは、ECU31がエンジン10の加速度(図12A中の「rpm偏差」)に基づいて水面が平水であるか否かを判定する例を示している。図12Aにおいて、「加速しきい値」は、エンジン10の回転速度が増加する割合のしきい値を表しており、「減速しきい値」は、エンジン10の回転速度が減少する割合のしきい値を表している。これは、図12Bおよび図12Cでも同様である。
【0118】
図12Aに示す例において、ECU31は、エンジン10の加速度が加速しきい値から減速しきい値までの範囲を表す通常航走範囲内であるか否かに基づいて、エンジン10の回転速度が急に上昇および下降したか否かを判定する。加速しきい値は正の値であり、減速しきい値は負の値である。エンジン10の回転速度が増加しているとき、エンジン10の加速度は正の値であり、エンジン10の回転速度が減少するとき、エンジン10の加速度は負の値である。
【0119】
図12Aに示す例において、エンジン10の回転速度は、時刻G11から時刻G12まで増加しており、時刻G12から時刻G13まで減少している。時刻G11から時刻G12までのエンジン10の加速度は、加速しきい値よりも小さい。時刻G12から時刻G13までのエンジン10の加速度は、減速しきい値よりも大きい。したがって、ECU31は、時刻G11から時刻G13までの期間はエンジン10の回転速度が急に上昇および下降していないと判定する。
【0120】
図12Aに示す例において、エンジン10の回転速度は、時刻G14から時刻G15まで増加しており、時刻G15から時刻G16まで減少している。時刻G14から時刻G15までのエンジン10の加速度は、加速しきい値よりも大きい。時刻G15から時刻G16までのエンジン10の加速度は、減速しきい値よりも小さい。したがって、ECU31は、時刻G14から時刻G16までの期間はエンジン10の回転速度が急に上昇および下降したと判定する。
【0121】
エンジン10の回転速度が急に上昇および下降したと判定すると、ECU31は、エンジン10の回転速度が急に上昇および下降した回数を表す急変化回数を初期値である0から1に変更し、その時点からの経過時間の測定を開始する。図12Aは、急変化回数を1に変更したときに、初期値から終了値まで第2平水判定時間の間だけ時間を測定する第2平水判定タイマをECU31が起動させる例を示している。図12Aの例では、第2平水判定タイマの初期値は1であり、第2平水判定タイマの終了値は0である。
【0122】
経過時間の測定が開始された後、ECU31は、エンジン10の回転速度が急に上昇および下降したか否かを引き続き監視し、急変化回数を数える。急変化回数を1に変更してから第2平水判定時間が経過するまでに、急変化回数が第2平水判定上限値を超えると、ECU31は、水面が平水ではないと判定する。図12Aは、第2平水判定時間が経過した時点において急変化回数が1である例を示している。図12Aに示す例において第2平水判定上限値は3である。したがって、この例では、ECU31は、水面が平水であると判定する。
【0123】
図12Bは、第2平水判定において水面が平水ではないと判定したときの推移の一例を示すタイムチャートである。
図12Aに示す例と同様に、エンジン10の回転速度が急に上昇および下降したと判定すると、ECU31は、エンジン10の回転速度が急に上昇および下降した回数を表す急変化回数を初期値である0から1に変更し、その時点からの経過時間を第2平水判定タイマに計測させる。その後、ECU31は、第2平水判定タイマに経過時間を測定させながら、急変化回数を数える。
【0124】
図12Bは、第2平水判定時間が経過する前に、急変化回数が4に達した例を示している。図12Bに示す例において第2平水判定上限値は3である。したがって、この例では、第2平水判定時間が経過するまでに、急変化回数が第2平水判定上限値を超えている。ECU31は、急変化回数が第2平水判定上限値を超えた時点で水面が平水ではないと判定し、第2平水判定のステータスを平水からラフに変更する。
【0125】
図12Cは、第2平水判定において水面が平水ではないと判定した後に水面が平水であると判定したときの推移の一例を示すタイムチャートである。
水面が平水ではないとECU31が判定すると、ECU31は、水面が平水ではないと判定した時点からの経過時間の測定を開始する。図12Cは、水面が平水ではないとECU31が判定したときに、初期値から終了値まで第2ラフ判定解除時間の間だけ時間を測定する第2ラフ判定解除タイマをECU31が起動させる例を示している。図12Cの例では、第2ラフ判定解除タイマの初期値は1であり、第2ラフ判定解除タイマの終了値は0である。
【0126】
経過時間の測定が開始された後、ECU31は、エンジン10の回転速度が急に上昇および下降したか否かを引き続き監視する。水面が平水ではないとECU31が判定してから第2ラフ判定解除時間が経過するまでにエンジン10の回転速度が急に上昇および下降すると、ECU31は、第2ラフ判定解除タイマを初期値である1に戻し、第2ラフ判定解除タイマに時間の測定をやり直させる。図12Cは、エンジン10の回転速度が2回急に上昇および下降し、第2ラフ判定解除タイマが2回リセットされた例を示している。
【0127】
水面が平水ではないとECU31が判定してから第2ラフ判定解除時間が経過するまでの間にエンジン10の回転速度が急に上昇および下降しなかった場合、ECU31は、水面が平水であると判定する。つまり、ECU31は、水面が平水に変化した、もしくは、船舶1がラフ領域から平水領域に移動したと判定する。この場合、ECU31は、第2平水判定のステータスを平水に戻す。さらに、ECU31は、急変化回数を初期値である0に戻す。
【0128】
次に、定速航走判定について説明する。
図13は、船舶1が一定の速度で前進し続けているか否かを判定する定速航走判定の一例を示すフローチャートである。
定速航走判定を行うとき、ECU31は、船舶1が下限速度以上の速度で設定時間以上前進し続けているか否かを判定する(図13のステップH11)。船舶1が下限速度以上の速度で設定時間以上前進し続けていれば(図13のステップH11でYes)、ECU31は、現在の船速に応じたアクセル上限位置およびアクセル下限位置を設定する(図13のステップH12)。
【0129】
アクセル上限位置からアクセル下限位置までの範囲は、定速航走範囲である。ECU31は、船速に応じた定速航走範囲を設定した後(図13のステップH12)、アクセルポジションセンサ33の検出値に基づいて、アクセルハンドル7が定速航走範囲内に保持されているか否かを判定する(図13のステップH13)。アクセルハンドル7が定速航走範囲内に保持されていれば(図13のステップH13でYes)、ECU31は、アクセルハンドル7が継続して定速航走範囲内に保持されている時間を表すアクセル保持時間が定速判定時間以上であるか否かを判定する(図13のステップH14)。
【0130】
アクセル保持時間が定速判定時間以上であれば(図13のステップH14でYes)、ECU31は、船舶1が一定の速度で前進し続けていると判定する(図13のステップH15)。アクセル保持時間が定速判定時間未満であれば(図13のステップH14でNo)、ECU31は、図13に示す処理を終了し、図13のステップH11から再開する。この場合、アクセルハンドル7が定速航走範囲内に保持されていれば、ECU31は、一定時間が経過した後に、アクセル保持時間が定速判定時間以上であるか否か再びを確認する(図13のステップH14)。
【0131】
船舶1が下限速度以上の速度で設定時間以上前進し続けていない場合(図13のステップH11でNo)や、アクセルハンドル7が定速航走範囲内に保持されていない場合は(図13のステップH13でNo)、ECU31は、船舶1が一定の速度で前進し続けていないと判定する(図13のステップH16)。その後、ECU31は、図13に示す処理を終了し、図13のステップH11から再開する。
【0132】
図14は、定速航走判定における推移の一例を示すタイムチャートである。
船舶1が下限速度以上の速度で設定時間以上前進しているとき、ECU31は、船速に応じたアクセル上限位置およびアクセル下限位置を設定し、アクセル上限位置からアクセル下限位置までの範囲を表す定速航走範囲内にアクセルハンドル7が保持されているか否かを判定する。アクセル上限位置およびアクセル下限位置は、出力最大位置と出力最小位置との間の位置である(図16参照)。
【0133】
図14に示す例では、時刻J11と時刻J12との間の期間において、アクセルハンドル7が出力最大位置とアクセル上限位置との間に配置されており、時刻J12において、アクセルハンドル7がアクセル上限位置に移動している。アクセルハンドル7が定速航走範囲内に入ると、ECU31は、アクセルハンドル7が継続して定速航走範囲内に保持されている時間を表すアクセル保持時間の測定を開始する。図14は、時刻J12において、初期値から終了値まで定速判定時間の間だけ時間を測定する定速判定タイマをECU31が起動させる例を示している。図14の例では、定速判定タイマの初期値は1であり、定速判定タイマの終了値は0である。
【0134】
図14に示す例では、時刻J12において、アクセルハンドル7が定速航走範囲内に入り、時刻J13において、アクセルハンドル7が定速航走範囲から出る。図14は、時刻J12から時刻J13までの期間が定速判定時間未満である例を示している。そのため、ECU31は、時刻J12から時刻J13までの期間は操船者が意図的にアクセルハンドル7を動かしており、船舶1が一定の速度で前進し続けていないと判定する。図14中の定速航走判定の「No」は、船舶1が一定の速度で前進し続けていないとECU31が判定したことを表している。
【0135】
図14に示す例では、時刻J14において、アクセルハンドル7が定速航走範囲内に入り、時刻J15において、アクセル保持時間が定速判定時間に一致する。そのため、ECU31は、時刻J15において、船舶1が一定の速度で前進し続けていると判定する。図14中の定速航走判定の「Yes」は、船舶1が一定の速度で前進し続けているとECU31が判定したことを表している。
【0136】
図14は、時刻J14から時刻J15までの期間においてアクセルハンドル7が移動しているものの、アクセルハンドル7が定速航走範囲内に保持されている例を示している。図14に示す例では、時刻J16においてアクセルハンドル7がアクセル上限位置に移動し、その後、アクセルハンドル7が定速航走範囲から出る。そのため、ECU31は、時刻J16の後は船舶1が一定の速度で前進し続けていないと判定し、図14中の定速航走判定をYesからNoに変化させる。
【0137】
図15は、エンジン10の回転速度と加速しきい値および減速しきい値との関係の一例を示すグラフである。
第2平水判定で用いられる加速しきい値および減速しきい値は、エンジン10の回転速度にかかわらず一定であってもよいし、エンジン10の回転速度に応じて変化してもよい。加速しきい値および減速しきい値の一方がエンジン10の回転速度にかかわらず一定であり、加速しきい値および減速しきい値の他方がエンジン10の回転速度に応じて変化してもよい。
【0138】
図15は、加速しきい値(正の値)がエンジン10の回転速度が増加するにしたがって段階的に増加しており、減速しきい値(負の値)がエンジン10の回転速度にかかわらず一定である例を示している。加速しきい値から減速しきい値までの範囲を表す通常航走範囲の幅は、エンジン10の回転速度が増加するにしたがって段階的に広がっている。加速しきい値および減速しきい値は、エンジン10の回転速度が増加するにしたがって連続的に増加または減少していてもよい。
【0139】
アクセルハンドル7の位置が一定であったとしても、波の状態以外の原因(推進機9におけるキャビテーションの発生など)でエンジン10の回転速度が変動する場合がある。このような変動は、エンジン10の回転速度が増加するにしたがって大きくなる傾向がある。加えて、このような変動は、船舶1がラフ領域で前進したときに発生するエンジン10の回転速度の変動よりも小さいことが多い。したがって、通常航走範囲の幅をエンジン10の回転速度が増加するにしたがって段階的または連続的に広げることにより、水面が平水ではないと誤って判定されることを防止できる。
【0140】
図16は、エンジン10の回転速度とアクセル上限位置およびアクセル下限位置との関係の一例を示すグラフである。
ECU31は、アクセルポジションセンサ33の直近の検出値を表すアクセルハンドル7の前回位置に基づいて、アクセルポジションセンサ33の現在の検出値を表すアクセルハンドル7の現在位置に対応するアクセル基準位置を設定する。ECU31は、アクセルハンドル7の前回位置とアクセルハンドル7の現在位置とに基づいてアクセル基準位置を設定してもよい。
【0141】
定速航走判定で用いられるアクセル上限位置は、アクセル基準位置を出力最大位置の方に上限オフセット量だけ移動させた位置である。定速航走判定で用いられるアクセル下限位置は、アクセル基準位置を出力最小位置の方に下限オフセット量だけ移動させた位置である。上限オフセット量および下限オフセット量は、互いに等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0142】
アクセル上限位置およびアクセル下限位置は、出力最大位置と出力最小位置との間の位置である。アクセル上限位置およびアクセル下限位置は、互いに異なる位置である。アクセル上限位置からアクセル下限位置までの範囲は、定速航走範囲である。定速航走範囲の幅、つまり、アクセル上限位置とアクセル下限位置との角度の差は、出力最大位置とアクセル上限位置との角度の差、または、出力最小位置とアクセル下限位置との角度の差よりも小さい。
【0143】
アクセル上限位置およびアクセル下限位置は、エンジン10の回転速度にかかわらず一定であってもよいし、エンジン10の回転速度に応じて変化してもよい。アクセル上限位置およびアクセル下限位置の一方がエンジン10の回転速度にかかわらず一定であり、アクセル上限位置およびアクセル下限位置の他方がエンジン10の回転速度に応じて変化してもよい。図16は、アクセル上限位置およびアクセル下限位置の両方がエンジン10の回転速度に応じて変化している例を示している。
【0144】
図16に示す例では、上限オフセット量および下限オフセット量がエンジン10の回転速度が増加するにしたがって段階的に増加している。定速航走範囲の幅は、エンジン10の回転速度が増加するにしたがって段階的に広がっている。上限オフセット量および下限オフセット量は、エンジン10の回転速度が増加するにしたがって連続的に増加していてもよい。したがって、定速航走範囲の幅は、エンジン10の回転速度が増加するにしたがって段階的に広がっていてもよい。
【0145】
船舶1が平水領域で前進していたとしても、操船者は、船舶1の振動によりアクセルハンドル7をわずかに動かしてしまう場合がある。このようなアクセルハンドル7の移動は、船速が増加するにしたがって、つまり、出力最小位置からのアクセルハンドル7の移動量が増加するにしたがって大きくなる。定速航走範囲の幅をエンジン10の回転速度が増加するにしたがって段階的または連続的に広げることにより、このようなアクセルハンドル7の移動が原因で船舶1が一定の速度で前進し続けていないとECU31が誤って判定してしまうことを減らすことができる。
【0146】
以上のように本実施形態では、波検出器の一例である転覆センサ39およびエンジン速度センサ35によって波の状態を検出する。制御装置の一例であるECU31は、転覆センサ39およびエンジン速度センサ35の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定し、水面が平水ではないと判定したときに、デフレクタ17のトリム角を増加させる指令をトリムアクチュエータ20に送る。トリムアクチュエータ20は、この指令を受けてトリム角を増加させ、船尾S1に対して船首B1を上方に移動させる。これにより、船舶1の前進中に発生する水しぶきを減らすことができる。このように、検出した波の状態に応じて自動で船舶1のトリムを変更するので、船舶1の快適性を高めることができる。
【0147】
本実施形態では、水面が平水ではないと判定された後に水面が平水であると判定されると、ECU31は、トリムアクチュエータ20にトリム角を減少させ、船尾S1に対して船首B1を下方に移動させる。つまり、ECU31は、波の状態に応じて、船首B1を上げ、その後下げる。これにより、水面が平水である平水領域で船舶1が前進しているにもかかわらず、船首B1が上がった状態で放置されることを防止できる。
【0148】
本実施形態では、水面が平水ではないと判定されると、ECU31は、デフレクタ17のトリム角の値を記憶し、その後、トリムアクチュエータ20にトリム角を増加させる。これにより、船尾S1に対して船首B1が上方に移動する。その後、水面が平水であると判定されると、ECU31は、記憶された値までトリム角をトリムアクチュエータ20に減少させる。これにより、船尾S1に対して船首B1が下方に移動する。したがって、デフレクタ17のトリム角を、水面が平水ではないと判定される前の値に戻すことができる。
【0149】
本実施形態では、船舶1が低速で前進しているとECU31が判定すると、波が荒くても、ECU31は、デフレクタ17のトリム角を変更せずに現在の値に維持する。船舶1の前進が遅ければ、波が荒くても、水しぶきが少ない。言い換えると、船舶1が低速で前進しているときは、水しぶきを減らするために、トリム角を変更する必要性が乏しい。したがって、船速が下限速度以上である否かを判定することにより、不要なトリム角の変更を減らすことができる。
【0150】
本実施形態では、操船者がトリムボタン41を操作すると、ECU31は、マニュアル上限角度以下の範囲内、つまり、アップ2位置U2からダウン2位置D2までの範囲内でトリムアクチュエータ20にトリム角を変更させる。これにより、船尾S1に対して船首B1が上方または下方に移動する。その一方で、水面が平水ではないとECU31が判定すると、ECU31は、マニュアル上限角度を超える角度までトリムアクチュエータ20にトリム角を増加させる。具体的には、ECU31は、デフレクタ17をアップ3位置U3に移動させる。したがって、トリム角がマニュアル上限角度のときよりも、船首B1が船尾S1に対して上方に移動する。これにより、操船者に当たる水しぶきを減らすことができる。
【0151】
本実施形態では、水面が平水ではないとECU31が判定していても、操船者がトリムボタン41にトリムダウン操作を行うと、ECU31は、トリムアクチュエータ20にトリム角を減少させ、船首B1を船尾S1に対して下方に移動させる。つまり、実際の水面が平水ではなかったとしても、ECU31は、操船者の指示を優先して船首B1を下げる。これにより、船舶1のトリムを操船者の意図する状態に一致させるまたは近づけることができる。
【0152】
本実施形態では、水面が平水ではないとECU31が判定してトリム角を増加させた後に、操船者がトリムボタン41にトリムダウン操作を行うと、ECU31は、トリム角を減少させると共に、減少する前の値までトリム角を増加させることを禁止する。これにより、操船者がトリム角を減少させる操作を行ったにもかかわらず、トリム角が自動で増加することを防止できる。
【0153】
本実施形態では、エンジン10の回転速度をエンジン速度センサ35によって検出する。水面が平水ではないラフ領域で船舶1が前進しているとき、エンジン10に加わる水の抵抗が減少および増加を繰り返し、エンジン10の回転速度が急な上昇および下降を繰り返すことがある。水面が平水である平水領域で船舶1が前進しているときは、このような回転速度の急な上昇および下降が発生し難い。
【0154】
オンオフセンサの一例である転覆センサ39は、上下方向への船体3の加速度に応じてオンオフする。船舶1がラフ領域で前進しているとき、船体3が上下方向への瞬間的な往復を繰り返すことがある。このとき、下方向の慣性力と上方向の慣性力とが転覆センサ39に交互に加わり、転覆センサ39がオンオフを繰り返すことがある。船舶1が平水領域で前進しているときは、このようなオンオフが発生し難い。
【0155】
したがって、ECU31は、転覆センサ39の検出値およびエンジン速度センサ35の検出値の少なくとも一方を監視することにより、水面が平水であるか否かを判定できる。さらに、エンジン速度センサ35は、エンジン10を備える船舶1に必ず備えられるセンサであり、転覆センサ39などのオンオフセンサは、殆どの船舶1に備えられるセンサである。したがって、カメラなどの装置を追加せずに、既存のセンサを利用して波の状態を判定できる。
【0156】
本実施形態では、エンジン速度センサ35の検出値を考慮せずに、転覆センサ39の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する第1平水判定をECU31が行う。さらに、ECU31は、転覆センサ39の検出値を考慮せずに、エンジン速度センサ35の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する第2平水判定を行う。したがって、第1平水判定および第2平水判定の一方だけを行う場合に比べて判定の信頼性を高めることができる。さらに、両方の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する場合に比べて判定方法を簡素化できる。
【0157】
波の状態等によっては、実際の水面が平水ではないのに、第1平水判定および第2平水判定の一方だけで水面が平水であると誤って判定されることがある。ECU31は、第1平水判定および第2平水判定の少なくとも一方で水面が平水ではないと判定すると、水面が平水ではないと最終的に判定する。したがって、ECU31は、水面が平水ではないことをより確実に判定できる。
【0158】
実際の水面が平水であれば、第1平水判定および第2平水判定の両方で水面が平水であると判定される。ECU31は、第1平水判定および第2平水判定の一方だけで水面が平水であると判定しても、水面が平水であると最終的に判定せず、第1平水判定および第2平水判定の両方で水面が平水であると判定したときにだけ、水面が平水であると最終的に判定する。したがって、ECU31は、実際の水面が平水ではないのに、水面が平水であると誤って判定することを防止できる。
【0159】
本実施形態では、船舶1が低速で前進しているとECU31が判定すると、実際の水面が平水ではなくても、水面が平水であると判定する。船舶1が低速で前進しているときは、船舶1が高速で前進しているときと比較すると、波の状態が船舶1の乗り心地に与える影響が小さい。したがって、乗り心地の悪化を防止または最小限に抑えながら、水面が平水であるか否かの判定方法を簡素化できる。
【0160】
本実施形態では、操船者によって操作されるアクセルハンドル7の位置をアクセルポジションセンサ33によって検出する。操船者がアクセルハンドル7を一定の位置に保持しているか殆ど動かしていなければ、ECU31は、アクセルハンドル7が定速航走範囲内に保持されていると判定する。このように判定したときにだけ、ECU31は、エンジン速度センサ35の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する。したがって、アクセルハンドル7の操作に起因するエンジン10の回転速度の急な変化が原因で水面が平水ではないとECU31が誤って判定することを防止できる。
【0161】
本実施形態では、操船者がアクセルハンドル7を意図的に大きく動かすと、ECU31は、アクセルハンドル7が定速航走範囲内に保持されていないと判定し、水面が平水であると判定する。操船者がアクセルハンドル7を急に動かすと、エンジン10の回転速度が急に変化する。この場合、ECU31は、回転速度の急な変化がアクセルハンドル7の操作と波の状態のいずれによってもたらされたのかを判断できず、波が穏やかであるにもかかわらず水面が平水ではないと判定してしまうことがある。アクセルハンドル7が定速航走範囲内に保持されていないと判定したときに、水面が平水であると判定すれば、このような誤判定を回避できる。
【0162】
本実施形態では、操船者がアクセルハンドル7を意図的に動かしているか否かを判断する基準である定速航走範囲の幅を、エンジン10の回転速度が増加するにしたがって広げる。船舶1が平水領域で前進していたとしても、船舶1の前進中は船舶1が振動するので、船舶1の振動で操船者がアクセルハンドル7をわずかに動かしてしまうことがある。このようなアクセルハンドル7の移動は、エンジン10の回転速度が増加するにしたがって大きくなり易い。定速航走範囲の幅をエンジン10の回転速度が増加するにしたがって広げることにより、このようなアクセルハンドル7の移動が原因で船舶1が一定の速度で前進していないとECU31が誤って判定してしまうことを減らすことができる。
【0163】
本実施形態では、転覆センサ39がオンオフすると直ぐに水面が平水ではないと判定するのではなく、転覆センサ39がオンとオフとの間を往復したオンオフ回数を数える。そして、オンオフ回数が設定時間内に上限値を超えたときだけ、ECU31は、水面が平水ではないと判定する。したがって、偶発的な理由で転覆センサ39が1回だけオンオフしたときに、水面が平水ではないとECU31が判定してしまうことを防止できる。さらに、オンオフ回数だけでなく時間も考慮するので、水面が平水であるか否かをより確実に判定できる。
【0164】
本実施形態では、エンジン10の回転速度の変化率、つまり、エンジン10の加速度を算出し、エンジン10の加速度の変化を監視する。エンジン10の回転速度が急に変化すると、エンジン10の加速度の絶対値が大きくなる。その一方で、エンジン10の回転速度の変化だけを監視する場合は、エンジン10の回転速度が短時間で変化したか否かを判断できない。したがって、エンジン10の加速度の変化を監視することにより、エンジン10の回転速度の急な変化を確実に把握できる。
【0165】
本実施形態では、エンジン10の回転速度の変化率を表すエンジン10の加速度が通常航走範囲内に維持されているか否かに基づいて水面が平水であるか否かを判定する。さらに、エンジン10の回転速度が増加するにしたがって通常航走範囲の幅を広げる。アクセルハンドル7の位置が一定であったとしても、波の状態以外の原因(例えば、燃焼の不均一やキャビテーションの発生)でエンジン10の回転速度が変動する場合がある。このような変動は、エンジン10の回転速度が増加するにしたがって大きくなる傾向がある。加えて、このような変動は、船舶1がラフ領域で前進したときに発生するエンジン10の回転速度の変動よりも小さいことが多い。したがって、通常航走範囲の幅をエンジン10の回転速度が増加するにしたがって広げることにより、水面が平水ではないと誤って判定されることを防止できる。
【0166】
本実施形態では、転覆センサ39として転覆センサ39を用いる。船体3が転覆すると、転覆センサ39はオンまたはオフに切り替わる。転覆センサ39がオンまたはオフの状態が続くと、ECU31は、船体3が転覆したと判定する。転覆センサ39は、殆どの船舶1に備えられるセンサである。したがって、転覆センサ39を用いれば、カメラなどの装置を追加せずに、波の状態を判定することができる。
【0167】
他の実施形態
本発明は、前述の実施形態の内容に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
例えば、船舶1は、エンジン10の代わりに電動モータを備えていてもよいし、エンジン10および電動モータの両方を備えていてもよい。つまり、船体3を推進させる動力を発生する原動機は、エンジン10または電動モータであってもよいし、エンジン10および電動モータであってもよいし、これら以外であってもよい。
【0168】
ステアリングハンドル6は、2つのハンドルグリップ6gとハンドルバーとを含むバーハンドルに限らず、ステアリングホイールであってもよいし、アクセルハンドル7およびリバースハンドル8を兼ねるジョイスティックであってもよいし、これら以外であってもよい。
ステアリングハンドル6がステアリングホイールである場合、アクセルハンドル7は、水平な軸線まわりに前後に傾くリモコンレバーであってもよい。リモコンレバーは、リバースハンドル8を兼ねていてもよい。ステアリングハンドル6を操作している操船者が操作可能な位置に配置されるのであれば、リモコンレバーは、ステアリングハンドル6に取り付けられていなくてもよい。
【0169】
船舶1は、パーソナルウォータークラフトに限らず、ステアリングホイールとジェット推進機とを備えるジェットボートであってもよいし、船外機を備える船外機艇であってもよいし、これら以外であってもよい。すなわち、推進機9は、ジェット推進機に限らず、水中に配置されたプロペラを回転させることにより推力を発生するプロペラ推進機であってもよいし、ポッドドライブ(pod drive)などのこれら以外の推進機であってもよい。プロペラ推進機は、船内機、船外機、および船内外機のいずれを備えていてもよい。
【0170】
船舶1は、操船者がまたがる鞍型のシート5に代えて、操船者の背中に接する背もたれ付きのシート5を備えていてもよい。この場合、船舶1は、シート5の側方に配置されたサイドシートをさらに備えていてもよいし、シート5よりも後方に配置されたリヤシートをさらに備えていてもよい。サイドシートおよびリヤシートの両方が船舶1に備えられていてもよい。必要でなければ、船舶1からシート5を省略してもよい。
【0171】
船舶1は、船体3に対して上下および左右に回動可能なデフレクタ17を含むジェット推進機に代えてまたは加えて、船外機または船内外機を備えていてもよい。この場合、ECU31は、トリムアクチュエータに相当するパワートリム・チルト装置(いわゆるPTT)に、トリムアジャスタ21のトリム角に相当する船外機または船内外機のトリム角を増加または減少させることにより、船舶1のトリムを変更することができる。
【0172】
推進機9がジェット推進機およびプロペラ推進機のいずれの場合でも、船舶1は、船体3に対して上下に移動可能なトリムタブと、船体3に対してトリムタブを移動させることにより、船体3に対するトリムタブの角度を変更するトリムアクチュエータとを備えていてもよい。この場合、ECU31は、トリムアジャスタ21のトリム角に相当する船体3に対するトリムタブの角度をトリムアクチュエータに増加または減少させることにより、船舶1のトリムを変更することができる。
【0173】
ECU31は、水面が平水ではないと判定した後に水面が平水であると判定したとき、記憶された値までトリム角をトリムアクチュエータ20に減少させるのではなく、予め定められた値まで減少させてもよい。ECU31は、水面が平水ではないと判定した後に水面が平水であると判定したとき、トリムアクチュエータ20にトリム角を減少させずに一定に維持させてもよい。具体的には、ECU31は、水面が平水であると判定した後も、デフレクタ17をアップ3位置U3に位置させてもよい。
【0174】
ECU31は、船速が下限速度を下回ると判定したときも、水面が平水であるか否かを判定し、判定の結果に応じてトリムアクチュエータ20にトリム角を変更させてもよい。
ECU31は、トリムボタン41の操作に応じてデフレクタ17をアップ3位置U3に移動させてもよい。つまり、アップ3位置U3が、マニュアル上限角度であってもよい。もしくは、水面が平水ではないとECU31が判定すると、ECU31は、トリムアクチュエータ20を制御することにより、デフレクタ17をアップ2位置U2に移動させてもよい。つまり、トリム角が最大の位置は、アップ3位置U3ではなく、アップ2位置U2であってもよい。
【0175】
ECU31は、水面が平水ではないという判定が継続している状態でトリムダウン操作がトリムボタン41に行われたときに、トリムアクチュエータ20にトリム角を変更させずに現在の値に維持させてもよい。
ECU31は、水面が平水ではないという判定が継続している状態でトリムダウン操作がトリムボタン41に行われたときに、デフレクタ17をアップ3位置U3に移動させることを禁止する自動トリムアップ禁止を有効にしなくてもよい。つまり、ECU31は、トリムダウン操作に応じてデフレクタ17をアップ3位置U3からアップ2位置U2に移動させた後に、自動トリムアップ禁止を無効にする解除条件が成立していなくても、デフレクタ17を自動でアップ3位置U3に移動させてもよい。
【0176】
ECU31は、転覆センサ39の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する第1平水判定と、エンジン速度センサ35の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定する第2平水判定と、の一方だけを行ってもよい。ECU31は、転覆センサ39の検出値とエンジン速度センサ35の検出値に基づいて水面が平水であるか否かを判定してもよい。ECU31は、転覆センサ39およびエンジン速度センサ35以外のセンサの検出値も考慮して、水面が平水であるか否かを判定してもよい。
【0177】
船速が下限速度以上中間速度未満である場合、ECU31は、少なくとも第2平水判定において水面が平水ではないと判定したときに、水面が平水ではないと最終的に判定してもよい。船速が中速域であるとき、船速が高速域であるときと比較すると、波が荒くても、船体3に加わる上下方向への衝撃が小さく、転覆センサ39などのオンオフセンサがオンオフし難い場合がある。このような場合でも、第2平水判定を優先すれば、船速が下限速度以上中間速度未満であるときに、水面が平水であるか否かをより正確に判定できる。
【0178】
船速が中間速度以上である場合、ECU31は、少なくとも第1平水判定において水面が平水ではないと判定したときに、水面が平水ではないと最終的に判定してもよい。エンジン10の回転速度は、波の状態以外の原因で変動する場合がある。このような変動は、エンジン10の回転速度が増加するにしたがって大きくなる傾向がある。さらに、エンジン10に加わる水の抵抗が減少しても、回転速度の最大値の制限によりエンジン10の回転速度が本来の値まで上昇しない場合もある。したがって、第1平水判定を優先すれば、船速が中間速度以上であるときに、水面が平水であるか否かをより正確に判定できる。
【0179】
ECU31は、第1平水判定および第2平水判定の少なくとも一方で水面が平水ではないと判定したときに水面が平水ではないと判定するのではなく、第1平水判定および第2平水判定の少なくとも一方で水面が平水であると判定したときに水面が平水であると判定してもよい。この場合、ECU31は、第1平水判定および第2平水判定の両方で水面が平水ではないと判定したときに水面が平水ではないと判定すればよい。
【0180】
ECU31は、船速が下限速度を下回ると判定したとき、実際の水面が平水であるか否かを考慮せずに、水面が平水であると判定するのではなく、転覆センサ39の検出値とエンジン速度センサ35の検出値との少なくとも一方に基づいて水面が平水であるか否かを判定してもよい。
アクセルハンドル7の操作に起因するエンジン10の回転速度の変化と、波の状態に起因するエンジン10の回転速度の変化とを区別できるのであれば、ECU31は、船舶1が一定の速度で前進し続けているか否かを判定する定速航走判定を省略してもよい。
【0181】
上下方向への船体3の加速度に応じてオンオフするのであれば、オンオフセンサは、転覆センサ39以外のセンサであってもよい。
ECU31は、水面が平水であるか否かの判定の結果にしたがってデフレクタ17のトリム角以外の船舶1の設定を変更してもよい。例えば、水面が平水ではないとECU31が判定した場合、ECU31は、水面が平水であるとECU31が判定した場合に比べて船舶1の最高速度を低下させてもよい。このようにすれば、船舶1の前進中に発生する水しぶきを減らすことができる。
【0182】
前述の全ての構成のうちの2つ以上が組み合わされてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0183】
1:船舶、2:艇体、3:船体、4:デッキ、7:アクセルハンドル、8:リバースハンドル、9:推進機、10:エンジン、11:ジェット推進ポンプ、16:ノズル、17:デフレクタ、18:バケット、19:リバースアクチュエータ、20:トリムアクチュエータ、21:トリムアジャスタ、31:ECU、32:SCU、33:アクセルポジションセンサ、34:リバースハンドルポジションセンサ、35:エンジン速度センサ、36:バケットポジションセンサ、37:トリム角センサ、38:船速センサ、39:転覆センサ、40:メータ、41:トリムボタン、41d:トリムダウンボタン、41u:トリムアップボタン、42:トリムモードセレクトボタン、As:ステアリング軸線、At:トリム軸線、B1:船首、S1:船尾、WL:喫水線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12A
図12B
図12C
図13
図14
図15
図16