(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091175
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】複合溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/348 20140101AFI20220614BHJP
B23K 9/16 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B23K26/348
B23K9/16 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203824
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
【テーマコード(参考)】
4E001
4E168
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB08
4E168AD07
4E168BA42
4E168CB04
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA26
4E168EA15
4E168EA17
4E168GA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アーク溶接とレーザ溶接とを併用して行う複合溶接方法において、溶接終了時の溶接ワイヤの先端粒のサイズのばらつきに影響されることなく、溶接開始を円滑に行う方法を提供する。
【解決手段】溶接トーチWTから溶接ワイヤ1を送給して行うアーク溶接と、加工ヘッドLHからレーザ4を照射して行うレーザ溶接と、を併用して溶接する複合溶接方法において、溶接終了後に、溶接ワイヤ1の先端部にレーザ4を照射して溶接ワイヤ1の先端部を溶融又は切断する。溶接ワイヤ1の先端部へのレーザ4の照射は、溶接トーチWT及び加工ヘッドLHを予め定めた退避位置まで移動させた後に行う。溶接ワイヤ1の先端部へのレーザ4の照射は、溶接ワイヤ1を所定距離だけ送給した後に行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチから溶接ワイヤを送給して行うアーク溶接と、加工ヘッドからレーザを照射して行うレーザ溶接と、を併用して溶接する複合溶接方法において、
溶接終了後に、前記溶接ワイヤの先端部に前記レーザを照射して前記溶接ワイヤの先端部を溶融又は切断する、
ことを特徴とする複合溶接方法。
【請求項2】
前記溶接ワイヤの先端部への前記レーザの照射は、前記溶接トーチ及び前記加工ヘッドを予め定めた退避位置まで移動させた後に行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の複合溶接方法。
【請求項3】
前記溶接ワイヤの先端部への前記レーザの照射は、前記溶接ワイヤを所定距離だけ送給した後に行う、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合溶接方法。
【請求項4】
前記溶接ワイヤの先端部への前記レーザの照射は、前記レーザをスキャンさせて行う、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の複合溶接方法。
【請求項5】
前記溶接ワイヤの先端部への前記レーザの照射は、出力電力を溶接中よりも小にして行う、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の複合溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接とレーザ溶接とを併用して溶接する複合溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接とレーザ溶接とを併用して溶接する複合溶接方法が慣用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のアーク溶接方法としては、溶接ワイヤを送給して行うアーク溶接方法が使用される場合がある。
【0004】
上記のレーザとしては、半導体レーザ、YAGレーザ、炭酸ガスレーザ等が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溶接の終了時には、溶接ワイヤの先端と溶融池との離反距離及び溶接ワイヤの先端粒のサイズが適正値になるようにするアンチスティック制御が行われる。特に、溶接ワイヤの先端粒のサイズは、次の溶接開始を円滑に行うために大きな影響を及ぼす。先端粒が適正サイズよりも大きい場合には、溶接開始時に大粒のスパッタが発生して溶接品質が悪くなる。他方、先端粒が適正サイズよりも小さい場合には、先端粒に絶縁物であるスラグが付着してアークの点弧に失敗し、溶接不良となることが多い。しかし、先端粒の形成状態にはばらつきがあり、常に適正サイズに制御することは難しい。
【0007】
そこで、本発明では、溶接終了時の溶接ワイヤの先端粒のサイズのばらつきに影響されることなく、溶接開始を円滑に行うことができる複合溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接トーチから溶接ワイヤを送給して行うアーク溶接と、加工ヘッドからレーザを照射して行うレーザ溶接と、を併用して溶接する複合溶接方法において、
溶接終了後に、前記溶接ワイヤの先端部に前記レーザを照射して前記溶接ワイヤの先端部を溶融又は切断する、
ことを特徴とする複合溶接方法である。
【0009】
請求項2の発明は、
前記溶接ワイヤの先端部への前記レーザの照射は、前記溶接トーチ及び前記加工ヘッドを予め定めた退避位置まで移動させた後に行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の複合溶接方法である。
【0010】
請求項3の発明は、
前記溶接ワイヤの先端部への前記レーザの照射は、前記溶接ワイヤを所定距離だけ送給した後に行う、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合溶接方法である。
【0011】
請求項4の発明は、
前記溶接ワイヤの先端部への前記レーザの照射は、前記レーザをスキャンさせて行う、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の複合溶接方法である。
【0012】
請求項5の発明は、
前記溶接ワイヤの先端部への前記レーザの照射は、出力電力を溶接中よりも小にして行う、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の複合溶接方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アーク溶接とレーザ溶接とを併用して行う複合溶接方法において、溶接終了時の溶接ワイヤの先端粒のサイズのばらつきに影響されることなく、溶接開始を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る複合溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る複合溶接方法を示す
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る複合溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。溶接装置は、アーク溶接を行うためのアーク溶接装置と、レーザ溶接を行うためのレーザ溶接装置と、ロボットRMと、ロボット制御装置RCと、を備えている。以下、同図を参照して各構成物について説明する。
【0017】
アーク溶接装置は、主に、溶接電源PS、送給機WF及び溶接トーチWTを備えている。
【0018】
溶接電源PSは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、後述するアーク溶接開始信号Spによってインバータ制御等の出力制御を行い、アーク3を発生させるための溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。
【0019】
送給機WFは、後述する送給開始信号Sfによって溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。
【0020】
溶接トーチWTは、装着された給電チップ(図示は省略)を介して溶接ワイヤ1に給電し、溶接ワイヤ1を母材2の被溶接部に送出する。溶接ワイヤ1と母材2との間にアーク3が発生する。給電チップと母材2との間に溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0021】
レーザ溶接装置は、主に、レーザ発振器LS、光ファイバーLF及び加工ヘッドLHを備えている。
【0022】
レーザ発振器LSは、後述するレーザ出力開始信号Slによってレーザ溶接を行うためのレーザ光4を出力する。
【0023】
光ファイバーLFは、レーザ光4を加工ヘッドLHに導く。
【0024】
加工ヘッドLHは、内蔵された種々の光学系(図示は省略)によって集光し、ガルバノスキャナヘッド(図示は省略)によってレーザ光4をスキャン(走査)させ、アーク溶接の被溶接部に照射する。同図では、アーク3よりも前方からレーザ光4を照射しているが、後方から照射する場合もある。アーク溶接の狙い位置とレーザの照射位置との距離は2~4mm程度である。
【0025】
ロボットRMは、上記の溶接トーチWT及び上記の加工ヘッドLHを搭載しており、後述する動作制御信号Mcに従って移動速度Rmで移動する。
【0026】
ロボット制御装置RCは、予め定めた作業プログラムに従って、上記の動作制御信号Mc、上記のアーク溶接開始信号Sp、上記の送給開始信号Sf及び上記のレーザ出力開始信号Slを出力する。
【0027】
図2は、本発明の実施の形態に係る複合溶接方法を示す
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)はロボットの移動速度Rmの時間変化を示し、同図(B)はアーク溶接開始信号Spの時間変化を示し、同図(C)は送給開始信号Sfの時間変化を示し、同図(D)はレーザ出力開始信号Slの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0028】
時刻t1において、ロボットRMは予め定めた溶接開始位置に到達して停止している。ロボットRMには、溶接トーチWT及び加工ヘッドLHが搭載されている。
【0029】
時刻t1において、同図(B)に示すように、アーク溶接開始信号SpがHighレベルになり、溶接電源PSは溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの出力を開始する。同時に、同図(C)に示すように、送給開始信号SfがHighレベルになり、送給機WFは溶接ワイヤ1の送給を開始する。同時に、同図(D)に示すように、レーザ出力開始信号SlがHighレベルになり、加工ヘッドLHはレーザの照射を開始する。そして、同図(A)に示すように、ロボットRMは移動速度Rmでの移動を開始する。溶接中は、アーク3の前方又は後方からレーザが照射される。
【0030】
時刻t2において、ロボットRMは予め定めた溶接終了位置に到達する。時刻t2において、同図(B)に示すように、アーク溶接開始信号SpがLowレベルになり、溶接電源PSは溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの出力を停止する。同時に、同図(C)に示すように、送給開始信号SfがLowレベルになり、送給機WFは溶接ワイヤ1の送給を停止する。同時に、同図(D)に示すように、レーザ出力開始信号SlがLowレベルになり、加工ヘッドLHはレーザの照射を停止する。そして、同図(A)に示すように、ロボットRMは一旦停止するので、移動速度Rmは0となる。時刻t2において、溶接は終了する。時刻t2の直前(0.2秒程度)において、上述したアンチスティック制御が行われて、溶接ワイヤ1と溶融池との離反距離及び溶接ワイヤ1の先端粒のサイズが適正値になるように制御される。しかし、アンチスティック制御を行っても、溶接ワイヤ1の先端粒のサイズはある程度ばらつくことになる。
【0031】
時刻t3において、ロボットRMは予め定めた退避位置への移動を開始する。 時刻t3において、同図(B)に示すように、アーク溶接開始信号SpはLowレベルのままであり、溶接電源PSは溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの出力を停止したままである。同時に、同図(C)に示すように、送給開始信号SfはLowレベルのままであり、送給機WFは溶接ワイヤ1の送給を停止したままである。同時に、同図(D)に示すように、レーザ出力開始信号SlはLowレベルのままであり、加工ヘッドLHはレーザの照射を停止したままである。そして、同図(A)に示すように、ロボットRMは移動速度Rmで移動する。
【0032】
時刻t4において、ロボットRMは退避位置に到達して停止するので、同図(A)に示すように、移動速度Rmは0となる。 時刻t4において、同図(B)に示すように、アーク溶接開始信号SpはLowレベルのままであり、溶接電源PSは溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの出力を停止したままである。同図(C)に示すように、送給開始信号Sfは、時刻t4~t5の予め定めた期間中はHighレベルになり、送給機WFは溶接ワイヤ1を所定距離だけ送給する。同図(D)に示すように、レーザ出力開始信号Slは、時刻t5~t6の期間中はHighレベルになり、加工ヘッドLHは溶接ワイヤ1の先端部にレーザを照射し、溶接ワイヤ1の先端部を溶融又は切断する。時刻t6以降は、次の溶接を開始するために、上述した時刻t1の動作に移行する。
【0033】
上述した実施の形態によれば、 溶接終了後に、溶接ワイヤの先端部にレーザを照射して溶接ワイヤの先端部を溶融又は切断する。これにより、溶接ワイヤの先端部を、スラグの付着していない状態で、先端粒のない状態又はそのサイズが小さい状態にすることができる。このために、本実施の形態では、次の溶接開始を円滑に行うことができる。レーザの照射時間は、0.5~2秒程度である。
【0034】
さらに、本実施の形態によれば、溶接ワイヤの先端部へのレーザの照射は、溶接トーチ及び加工ヘッドを予め定めた退避位置まで移動させた後に行うことが好ましい。このようにすると、ワーク、治具、周辺機器等にレーザが不用意に照射されて損傷することを防止することができる。
【0035】
さらに、本実施の形態によれば、溶接ワイヤの先端部へのレーザの照射は、溶接ワイヤを所定距離だけ送給した後に行うことが好ましい。このようにすると、溶接ワイヤの先端部にレーザを的確に照射することができるので、溶接ワイヤの先端部を確実に溶融又は切断することができる。所定距離は、2~5mm程度である。
【0036】
さらに、本実施の形態によれば、溶接ワイヤの先端部へのレーザの照射は、レーザをスキャンさせて行うことが好ましい。加工ヘッドは、ガルバノスキャナヘッドを備えており、レーザ光をスキャン(走査)することができる。レーザを溶接ワイヤの軸方向と直交する方向にスキャンさせて照射すると、先端部へのレーザの照射が的確になり、先端部の溶融又は切断を確実に行うことができる。
【0037】
さらに、本実施の形態によれば、溶接ワイヤの先端部へのレーザの照射は、出力電力を溶接中よりも小にして行うことが好ましい。レーザの出力電力を、溶接中よりも小である先端部が溶融又は切断できる程度の値にすることによって、ワーク、治具、周辺機器等への不用意な損傷を防止することができる。レーザの出力電力は、例えば0.5~5kW程度である。
【符号の説明】
【0038】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 レーザ光
Fw 送給速度
Iw 溶接電流
LF 光ファイバー
LH 加工ヘッド
LS レーザ発振器
PS 溶接電源
RC ロボット制御装置
RM ロボット
Rm ロボットの移動速度
Sf 送給開始信号
Sl レーザ出力開始信号
Sp アーク溶接開始信号
Vw 溶接電圧
WF 送給機
WT 溶接トーチ