(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091186
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】紙類処理剤とそれを用いた紙類
(51)【国際特許分類】
A47K 10/16 20060101AFI20220614BHJP
D21H 21/14 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
A47K10/16 C
D21H21/14
A47K10/16 A
A47K10/16 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203837
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】執行 恵未
(72)【発明者】
【氏名】洪水 麻衣
【テーマコード(参考)】
2D135
4L055
【Fターム(参考)】
2D135AA15
2D135AA17
2D135AB02
2D135AB03
2D135AB04
2D135AB06
2D135AC01
2D135AD06
2D135BA02
2D135BA08
2D135BA09
2D135BA11
2D135BA13
2D135DA28
4L055AG34
4L055AH29
4L055AH50
4L055EA32
4L055FA11
(57)【要約】
【課題】紙類に柔軟性としっとり感を付与し、かつ処理された紙類の湿度環境に起因した水分の低下による風合いの劣化を低減することができ、更に、紙類処理剤の経時安定性が良好で、粘度も適正に保つことができる紙類処理剤とそれを用いた紙類を提供する。
【解決手段】本発明の紙類処理剤は、(A)多価アルコールを主成分として含有する紙類処理剤であって、(B)水を除いた前記処理剤全量に対して0.40~25質量%のワセリン、ラノリン、ダイマー酸を含む脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物、ラノリンアルコール、及びラノリン脂肪酸から選ばれる少なくとも1種の抱水性油性成分、及び(C)HLBが12以上の非イオン性界面活性剤を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)多価アルコールを主成分として含有する紙類処理剤であって、
(B)水を除いた前記処理剤全量に対して0.40~25質量%のワセリン、ラノリン、ダイマー酸を含む脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物、ラノリンアルコール、及びラノリン脂肪酸から選ばれる少なくとも1種の抱水性油性成分、及び(C)HLBが12以上の非イオン性界面活性剤を含有する紙類処理剤。
【請求項2】
前記(C)成分の含有量が、水を除いた前記処理剤全量に対して0.1~40質量%である請求項1に記載の紙類処理剤。
【請求項3】
前記(A)成分の含有量が、水を除いた前記処理剤全量に対して80質量%以上、前記(B)成分の含有量が、水を除いた前記処理剤全量に対して0.5~20質量%、前記(C)成分の含有量が、水を除いた前記処理剤全量に対して0.2~20質量%である請求項1又は2に記載の紙類処理剤。
【請求項4】
前記(B)成分と前記(C)成分との質量比((B)/(C))が、0.005~99である請求項1~3のいずれか一項に記載の紙類処理剤。
【請求項5】
(C’)HLB12未満の非イオン性界面活性剤を含有し、前記(C’)成分と前記(C)成分との質量比((C’)/(C))が、0.01~10である請求項1~4のいずれか一項に記載の紙類処理剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の紙類処理剤で処理した紙類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙類処理剤とそれを用いた紙類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、保湿剤を主成分とする紙類処理剤で紙類を処理することで、通常のドライティッシュやトイレットペーパー等に比べて紙類にしっとり感と柔らかさを付与した製品が知られている。その代表的な製品であるローションティッシュは、ティッシュ原紙に紙類処理剤としてローション剤を塗布した保湿ティッシュであり、しっとりとして、柔らかさのある風合いで使用感が大きく向上することから、花粉症、インフルエンザ対策等の冬場の季節商品として普及が進み、近年では、鼻かみ用途中心から日常用途へ拡大し、通年化しつつある。それに伴い、湿度環境の異なる夏場と冬場で風合いが変わり、品質を一定に保つことができないという問題が生じており、低湿度環境でも風合いを維持できることが求められていた。
【0003】
保湿ティッシュの保湿剤には、グリセリンやポリエチレングリコール(PEG)等の多価アルコール、特に、安価で安全な優れた保湿剤であるグリセリンが使用される場合が多い。この保湿剤によって紙類の吸湿性、保湿性を強化し、紙類にしっとり柔らかな風合いを付与している。人がものに触れたときに感じる材質感や感触としての風合いは、保湿ティッシュの使用感に大きな影響を与え、商品の付加価値となる最も重要な品質になっている。
【0004】
ローションティッシュは保湿剤であるグリセリンが水分を取りこむこと、柔軟成分を配合することによって柔らかくなっており、保湿ティッシュの柔らかさは、塗布紙水分量の増加によるパルプ間水素結合の減少によって発現している。保湿剤が取り込む水分量は外環境の湿度に依存しており、低湿度環境下ではティッシュから水分が失われ、パルプ間の水素結合が再構築されるため、高湿度環境下に比べ紙は硬くなってしまう。これによる低湿度環境下での風合い劣化が問題となっていた。
【0005】
保湿ティッシュの保湿剤には、この保湿剤に加えて、柔らかさや表面の感触(滑らかさ)といった風合いを向上させるために、界面活性剤や、炭化水素、エステル等の油性成分、増粘剤など様々な基剤を配合している。界面活性剤は、主に風合いの特徴を左右する成分となり、柔らかさを付与し得る。油性成分は、主に風合いの変化を左右する成分となり、滑らかさを付与し得る。しかし、このような風合いを付与しつつ、低湿度環境下での風合い劣化を防ぐことは困難であった。
【0006】
更に、主成分の保湿剤と、これらの基剤を均一に混合し、製造から輸送、塗布されるまでの間、塗布時のムラの発生等を抑制し安定な状態を保つためには、乳化する必要があるが、保湿剤をベースとした乳化系の調製は非常に困難である上に、乳化を整えるための基剤バランスと風合いを向上させるための基剤バランスを両立させることも非常に困難である。一方、低粘度の紙類処理剤は、移送が容易でハンドリング性が良く、処理紙に対する処理剤付着量の管理が平易で、操業性が良好となる。従って粘度増加による操業性の悪化を回避することが求められている。
【0007】
このように、低湿度環境下での風合い劣化を防ぎつつ、処理剤の経時安定性が良好で、粘度も適正に保つことができる技術が望まれていた。
【0008】
これらの課題に対し、様々な対策が講じられてきた。例えば、ゲル組成物の薬剤を用いた技術(特許文献1)、水溶性高分子の吸水性を利用し、しっとり感の向上を図る技術(特許文献2)、油類物質と水溶性ワックスを使用し、柔らかさや摩擦の低減を図る技術(特許文献3)、ショ糖脂肪酸エステル、分岐アルコール、直鎖の高級脂肪酸や高級アルコール等の成分を配合し、低湿度環境下での柔らかさや、肌触りの向上等を図る技術(特許文献4~8)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3950400号公報
【特許文献2】特許第4570669号公報
【特許文献3】特開平10-226986号公報
【特許文献4】特開2014-208921号公報
【特許文献5】特開2007-107173号公報
【特許文献6】特開2016-74999号公報
【特許文献7】特開2019-99938号公報
【特許文献8】特許第3824656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1では紙類へのゲル組成物の均一な処理は煩雑な工程を伴う。また、ゲル組成物は移送が困難であることが問題となっていた。特許文献2では、水溶性高分子は均一分散に時間と労力を要し、薬剤製造上の工程が複雑化した。また、水溶性高分子は著しい増粘を引き起こすため、配合量を制限せざるを得なかった。特許文献3では、水溶性ワックスは粘度が高く、薬剤の流動性や均一塗布性を損ない、操業性を悪化させるという問題があった。特許文献4~7では、上記の諸成分は保湿剤中に配合しやすいという利点があり、低湿度環境下での柔らかさの保持に寄与し得るものの、その効果は十分でなかった。特許文献8は多価アルコールではなく油性成分を主成分としており、その風合いは柔軟性やしっとり感がなく、水分の保持力も不十分であった。
【0011】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、紙類に柔軟性としっとり感を付与し、かつ処理された紙類の湿度環境に起因した水分の低下による風合いの劣化を低減することができ、更に、紙類処理剤の経時安定性が良好で、粘度も適正に保つことができる紙類処理剤とそれを用いた紙類を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明者は鋭意検討した結果、多価アルコールを主成分として配合することによって、紙類にはしっとり感、柔軟性が付与されると共に、抱水性を持つ油性成分を配合することによって、低湿度環境下でも水分を維持し、しっとり感、柔軟性を維持することができ、更に、これと組み合わせてHLBが特定範囲の非イオン性界面活性剤を配合することによって、紙類処理剤に安定性良く抱水性油性成分を配合することができ、粘度も適正に保つことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち本発明の紙類処理剤は、(A)多価アルコールを主成分として含有する紙類処理剤であって、
(B)前記処理剤の水分以外の成分全量に対して0.40~25質量%のワセリン、ラノリン、ダイマー酸を含む脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物、ラノリンアルコール、及びラノリン脂肪酸から選ばれる少なくとも1種の抱水性油性成分、及び(C)HLBが12以上の非イオン性界面活性剤を含有することを特徴としている。
本発明の紙類は、前記紙類処理剤で処理したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、紙類に柔軟性としっとり感を付与し、かつ処理された紙類の湿度環境に起因した水分の低下による風合いの劣化を低減することができ、更に、紙類処理剤の経時安定性が良好で、粘度も適正に保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の紙類処理剤は、(A)多価アルコールを主成分として含有する紙類処理剤であって、(B)抱水性油性成分及び(C)非イオン性界面活性剤を必須としている。以下、これらをそれぞれ(A)成分、(B)成分、(C)成分ともいう。
【0017】
多価アルコールである(A)成分を主成分として配合することによって、紙類にはしっとり感、柔軟性が付与される。抱水性を持つ油性成分である(B)成分を配合することによって、低湿度環境下でも水分を維持し、しっとり感、柔軟性を維持できる。HLBが12以上の非イオン性界面活性剤である(C)成分を配合することによって、紙類処理剤に安定性良く抱水性油性成分(B)を配合することができ、粘度も適正に保つことができる。
【0018】
本発明の紙類処理剤において、(A)成分の多価アルコールは、紙類の吸湿性、保湿性を強化し、紙類にしっとり感、柔軟性を付与する保湿剤であり、紙類処理剤の主成分である。
【0019】
ここで主成分とは、紙類処理剤の原料である各添加成分の中で、(A)成分を最も多い質量で配合することを意味する。その中でも、(A)成分の含有量は、水を除く紙類処理剤の全量に対して50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、75質量%がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。なお、紙類処理剤の配合成分は水分を除いた有効成分の値を示している。
【0020】
本発明に用いられる(A)成分の多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリセリンエーテル、イソプレングリコール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。また、糖アルコール類や糖類であってもよく、糖アルコール類としては、例えば、ソルビトール、イノシトール、グルコシルトレハロース、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、フルクトース、オリゴ糖アルコール、マルチトール、還元パラチノース、還元水飴、還元澱粉加水分解物等が挙げられる。糖類としては、例えば、果糖、ブドウ糖、乳糖、キシロース、プシコース、麦芽糖、水飴、オリゴ糖、マルトース、トレハロース、ラクトース、パラチニット、ショ糖、異性化糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラフィノース、ステビア、甘草、サッカリン、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
これらの中でも、グリセリンが好ましい。保湿剤としてグリセリンを使用する場合、保湿剤全量に対するグリセリンの割合は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。グリセリンと併用する保湿剤としては、例えば、ソルビトール等が挙げられる。
【0022】
本発明の紙類処理剤において、保湿剤としては、(A)成分の多価アルコール以外の成分を(A)成分と併用してもよい。このような保湿剤としては、例えば、アミノ酸類、吸湿性を有するアルカリ類・酸類とそれらの塩類が挙げられる。アミノ酸類としては、例えば、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、アルギニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、シスチン、システイン、メチオニン、トリプトファン等が挙げられる。吸湿性を有するアルカリ類・酸類とそれらの塩類としては、例えば、パンテテイン-S-スルホン酸塩、トリメチルグリシン、ベタイン、ピロリン酸、ピロリン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸塩、ピロリン酸カリウム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
本発明の紙類処理剤において、(B)成分は、ワセリン、ラノリン、ダイマー酸を含む脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物、ラノリンアルコール、及びラノリン脂肪酸から選ばれる少なくとも1種の抱水性油性成分である。(B)成分は抱水性を持ち、これを配合することによって、低湿度環境下でも水分を維持し、しっとり感、柔軟性を維持できる。また(B)成分は、処理した紙類における表面の感触(滑らかさ)といった風合いを向上させる。
【0024】
ワセリンとしては、石油から得た炭化水素類の混合物を脱色して精製したものが挙げられる。典型的な例として、分岐鎖を有するパラフィン及び脂環式炭化水素を含む。具体的には、例えば、日本薬局方に記載の白色ワセリン、小堺製薬株式会社の白色ワセリンS、日興リカ株式会社の高精製ワセリン サンホワイトP-150、サンホワイトP-200、日清オイリオグループ株式会社のノムコートW、Sonneborn LLCのWP-2395、White Protopet 1S、Super White Protopet、Perfecta、クローダジャパン株式会社のクロラータムV等が挙げられる。
【0025】
ラノリンとしては、ウールに覆われた動物の皮脂腺から分泌される蝋が挙げられる。具体的には、例えば、日本精化株式会社のEcolano LN-C、液状ラノリン、Ecolano LN-E、Ecolano LL-E、精製ラノリン等が挙げられる。
【0026】
ダイマー酸を含む脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物としては、例えば、ダイマージリノール酸を含む脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物が挙げられる。このエステル化合物は、共重合体(コポリマーやオリゴマー)であってもよい。脂肪酸としては、ダイマージリノール酸に加えてそれ以外の脂肪酸、例えばカルボキシ基を1つ有する長鎖脂肪酸を含んでいてもよい。多価アルコールとしては、(ポリ)グリセリン、(ポリ)アルキレングリコール等が挙げられる。具体的には、例えば、イソステアリン酸ポリグリセリル-2/ダイマージリノール酸)コポリマー、ダイマージリノール酸/ステアリン酸/ヒドロキシステアリン酸)ポリグリセリル、(ジエチレングリコール/ダイマージリノール酸)コポリマー等を用いることができ、市販品としては、高級アルコール工業株式会社のハイルーセントISDA、NIKKOL GS-WHO、株式会社ファンケルの保湿性オリゴマーエステルD/DC等が挙げられる。これらの中でも、ダイマージリノール酸を含む脂肪酸とポリグリセリンとのエステル化合物、例えばダイマージリノール酸/ステアリン酸/ヒドロキシステアリン酸)ポリグリセリルが好ましい。
【0027】
ラノリンアルコールとしては、ラノリンの加水分解により得られる高級アルコールとステロールの混合物が挙げられる。具体的には、例えば、日本精化株式会社のラノリンアルコールA、EcolanoAL-E、クローダジャパン株式会社のSUPER HARTOLAN等が挙げられる。
【0028】
ラノリン脂肪酸は、ラノリンの加水分解により得られる脂肪酸混合物が挙げられる。具体的には、例えば、日本精化株式会社のラノリン脂肪酸LIV、ラノリン脂肪酸DO、ラノリン脂肪酸W、ラノリン脂肪酸ソフト、Ecolano FW-HHL、クローダジャパン株式会社の18MEA等が挙げられる。
【0029】
本発明の紙類処理剤において、(B)成分の含有量は、水を除いた処理剤全量に対して0.40~25質量%である。全体的な各効果の発現、特に、低湿度環境下でも水分を維持し、しっとり感、柔軟性を維持できることを考慮すると、水を除いた処理剤全量に対して0.40質量%以上であり、0.50質量%以上が好ましく、0.60質量%以上がより好ましい。低湿度環境下でも水分を維持し、しっとり感、柔軟性を維持できること、また紙類処理剤に安定性良く抱水性油性成分を配合することができ、粘度も適正に保つことができることを考慮すると、水を除いた処理剤全量に対して25質量%以下であり、特に紙類処理剤に安定性良く抱水性油性成分を配合することができることを考慮すると、水を除いた処理剤全量に対して20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、13質量%以下が更に好ましく、10質量%以下が最も好ましい。
【0030】
本発明の紙類処理剤において、(C)成分は、HLBが12以上の非イオン性界面活性剤である。(C)成分を配合することによって、紙類処理剤に安定性良く抱水性油性成分(B)を配合することができ、紙類処理剤の経時安定性が良好となる。また粘度の増加を抑制し適正な低粘度に保つことができるので、移送が容易でハンドリング性が良く、処理紙に対する処理剤付着量の管理が平易で、操業性が良好となる。
(C)成分のHLBは、13以上18以下が好ましく、14以上16以下がより好ましい。
【0031】
HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)は、界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを表す数値であり、非イオン性界面活性剤ではグリフィン法による値が参照される。グリフィン法では、親水基の式量と分子量を元に、HLB=20×(親水基の重量%)で求められる。
【0032】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、エチレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリエーテル変性シリコーン、ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミド、及び脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
これらの中でも、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
【0034】
本発明の紙類処理剤において、(C)成分の含有量は、全体的な各効果の発現を考慮すると、水を除いた処理剤全量に対して0.1~40質量%が好ましい。紙類処理剤に安定性良く抱水性油性成分を配合することができ、粘度も適正に保つことができることを考慮すると、水を除いた処理剤全量に対して0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.4質量%以上が更に好ましく、0.5質量%以上が特に好ましい。粘度を適正に保つことができることを考慮すると、水を除いた処理剤全量に対して40質量%以下が好ましく、特に粘度を適正に保つことができることを考慮すると、水を除いた処理剤全量に対して20質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましい。
【0035】
本発明の紙類処理剤は、全体的な各効果の発現を考慮すると、(A)成分の含有量が、水を除いた処理剤全量に対して80質量%以上、(B)成分の含有量が、水を除いた処理剤全量に対して0.5~20質量%、(C)成分の含有量が、水を除いた処理剤全量に対して0.2~20質量%であることが特に好ましい態様である。
【0036】
本発明の紙類処理剤は、全体的な各効果の発現を考慮すると、(C’)HLB12未満の非イオン性界面活性剤を含有し、(C’)成分と前記(C)成分との質量比((C’)/(C))が、0.01~10であることが好ましい。下限は粘度を適正に保つ点で0.03以上がより好ましい。上限は系全体のバランスを整え、乳化の安定性を高める点で3.0以下がより好ましい。
【0037】
(C’)成分のHLBは、上記(C)成分として記載した方法で求めることができる。(C’)成分としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、モノグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0038】
本発明の紙類処理剤において、(B)成分と(C)成分との質量比((B)/(C))は、全体的な各効果の発現を考慮すると、0.005~99が好ましい。下限は粘度を適正に保つ点で0.03以上がより好ましい。上限は乳化の安定性を高める点で、10以下がより好ましく、4.0以下が更に好ましく、2.0以下が最も好ましい。
【0039】
本発明において、紙類処理剤には、本発明の効果を損なわない範囲内において、上記以外の他の成分を原料として添加することができる。このような他の成分としては、特に限定されないが、例えば、水、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤、油性成分、増粘剤、防カビ剤、防腐剤、消泡剤、香料、色素類、pH調整剤、エキス類、抗酸化剤、抗炎症剤、無機鉱物、無機塩、水溶性高分子等が挙げられる。
【0040】
油性成分としては、例えば、固形パラフィンや流動パラフィン等の炭化水素類、油脂類、エステル類、シリコーン油類、ロウ類、ステロイド類等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
水は、添加してもよく、添加しなくてもよいが、添加する場合には、紙類処理剤中の水分量が1~30質量%となるように添加されることが好ましく、3~25質量%となるように添加されることがより好ましく、5~20質量%となるように添加されることが更に好ましい。
【0042】
本発明の紙類処理剤は、常法に従って各原料を均一に混合することによって製造することができ、例えば、各原料が溶解する温度で撹拌混合することにより得ることができる。
【0043】
本発明の紙類処理剤は、(A)成分中に、(C)成分により(B)成分が均一に混合されていればよく、主成分である(A)成分に(B)成分や(C)成分が、溶融している状態でも、可溶化している状態でも、乳化している状態でも、分散している状態でもよい。
【0044】
本発明の紙類は、以上に説明した紙類処理剤で処理したものである。本発明の紙類処理剤で紙類を処理することにより、紙類に柔軟性としっとり感を付与し、かつ処理された紙類の湿度環境に起因した水分の低下による風合いの劣化を低減することができ、更に、紙類処理剤の経時安定性が良好で、粘度も適正に保つことができる。
【0045】
紙類としては、例えば、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、フェイシャルティッシュ、ポケットティッシュ、紙ハンカチ、紙タオル等が挙げられる。
【0046】
紙類の坪量は、1~50g/m2が好ましく、5~20g/m2がより好ましい。ply数(原紙の積層枚数)は、1~5が好ましく、2~3がより好ましい。
【0047】
紙類処理剤で紙類を処理する方法としては、例えば、紙類に塗布する方法等が挙げられる。紙類に塗布する方法としては、例えば、転写、噴霧等が挙げられる。これらの方法で紙類に塗布する方式としては、例えば、フレキソ印刷方式、グラビア印刷方式、スプレー方式、ローターダンプニング方式等が挙げられる。フレキソ印刷方式では、凸版印刷機の一種であるフレキソ印刷機を使用し、表面を彫刻したゴムや合成樹脂等の刷版を装着したローラーで紙類処理剤を紙類に転写する。グラビア印刷方式では、凹版印刷機の一種であるグラビア印刷機を使用し、表面に製版を施した金属のシリンダで装着したローラーで紙類処理剤を紙類に転写する。スプレー方式では、圧縮空気によりノズルから紙類処理剤を霧状に紙類へ噴霧する。ローターダンプニング方式では、高速回転する円盤で紙類処理剤を霧状に紙類へ噴霧する。
【0048】
紙類への紙類処理剤の塗布量は、水分を除いた有効分で1~7g/m2が好ましく、1.5~6g/m2がより好ましい。
【実施例0049】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)紙類処理剤の調製
次の手順により紙類処理剤を調製した。
ビーカーに各配合原料を表1、表2に記載した添加量で仕込み、各原料が溶解する温度で攪拌混合し、紙類処理剤を調製した。表1に示す各成分の配合量は、有姿量が水分を含む場合、水分を除いた有効分を示している。
【0050】
(2)塗布紙の作製
上記の方法により得られた紙類処理剤を水に溶解させて有効分25質量%の処理液を調製した。各処理液を、ドライティッシュ(ply数2、坪量12~13g/m2)の両面に処理剤の有効分が25質量%±3%となるように均一に噴霧処理し、その後、3時間風乾させた。
【0051】
(3)評価
上記において作製した各実施例及び比較例の塗布紙について以下の評価を行った。
[40%R.H.、25℃平衡時水分率(%)、25質量%塗布紙]
冬場の低湿度環境の基準として湿度40%R.H.、25℃の環境を作った。一定時間ごとに作製した塗布紙10枚(5組)の質量を測定し、質量の変化がなくなった時点で水分率が平衡に達したと判断した。塗布紙および原紙の絶乾質量は80℃で90分間乾燥させた後の質量とする。
平衡時の水分率(%)=(平衡時の質量(g)-塗布紙の絶乾質量(g))/原紙の絶乾質量(g)
【0052】
[低湿度での柔軟性、しっとり感(B値)]
上記と同様の手順により、湿度40%R.H.、25℃での調湿を経て作製した塗布紙に対し、試験機器として純曲げ試験機KES-FB2-S(カトーテック(株))を用い、塗布紙2枚(1組)の曲げ柔らかさを示すB値を求めた。
評価基準
◎:B値が0.06未満
〇+:B値が0.06以上、0.065未満
〇:B値が0.065以上、0.07未満
×:B値が0.07以上
【0053】
[低湿度での柔軟性、しっとり感(官能評価)]
官能評価として、上記と同様の手順により、湿度40%R.H.、25℃での調湿を経て作製した塗布紙を、熟練したパネル10名により、以下の評価点に基づいて1~3点のいずれかの点数で評価し、その平均値より以下の基準で評価した。
評価点
3点:柔軟性及びしっとり感を感じる。
2点:やや柔軟性としっとり感を感じる。
1点:いずれも感じない。
評価基準
◎:パネル10名の平均点が2.5点以上
〇+:パネル10名の平均点が2.0点以上2.5点未満
○:パネル10名の平均点が1.5点以上2.0点未満
×:パネル10名の平均点が1.5点未満
【0054】
[処理剤の安定性]
(1)で調製した各実施例及び比較例の処理剤について、調製直後および室温で1か月静置して保存した時の状態を確認し、実際の使用に適することを考慮し以下の基準で評価した。
評価基準
◎:調製直後も一か月後も均一な状態を維持
〇+:わずかな状態の変化(粘度や外観)はあるものの一か月後も均一な状態を維持
〇:やや状態の変化はあるものの一か月後も均一な状態を維持
×:調製直後から不均一、又は一か月間均一な状態を保てない
【0055】
[処理剤の粘度]
(1)で調製した各実施例及び比較例の処理剤について、B型粘度計を用いて60rpm、40℃において粘度を測定し、操業性を考慮し以下の基準で評価した。
評価基準
◎:処理剤の粘度が800mPa・s未満
〇+:処理剤の粘度が800mPa・s以上1500mPa・s未満
○:処理剤の粘度が1500mPa・s以上2000mPa・s未満
×:処理剤の粘度が2000mPa・s以上又は測定不能(均一な状態を保てない)
【0056】
各実施例及び比較例の配合と各項目の評価結果を表1、表2に示す。表1、表2において各成分の配合量は質量部で示している。
上記した表1、表2の各評価項目において、◎、○+、○は課題解決の点で望ましい範囲であり、かつ、これらの間には効果発現において有意な差がある。×は、各項目のうち1つでも含まれる場合は課題解決上不可と判断した。
表1、表2において、(C)成分及び(C’)成分のHLBは同表に記載した。
【0057】
【0058】
【0059】
表1、表2より、実施例1~17では、(A)多価アルコールを主成分とし、(B)抱水性油性成分を特定範囲の量で配合し、かつ(C)HLBが12以上の非イオン性界面活性剤を配合する紙類処理剤を用いた。これらは紙類に柔軟性としっとり感を付与し、かつ処理された紙類の湿度環境に起因した水分の低下による風合いの劣化を低減することができ、更に、紙類処理剤の経時安定性が良好で、粘度も適正に保つことができた。実施例及び比較例の評価では客観的指標としての水分率が4.5%以上で官能評価が◎、4.4%で〇+、4.2%で〇、4.1%以下で×となり、塗布紙の水分率と官能評価に高い相関があることを確認した。風合いに関しては更に、実施例及び比較例の評価では試験機器を用いた客観的指標としてのB値と官能評価にも高い相関があることを確認した。(C)成分の含有量が特定範囲である場合や、(B)成分と(C)成分との質量比((B)/(C))が特定範囲である場合、(C’)HLB12未満の非イオン性界面活性剤を含有し(C’)成分と(C)成分との質量比((C’)/(C))が特定範囲である場合には、効果の発現がより顕著となる傾向を確認した。比較例1、4は(B)成分が少なく、比較例7は(B)成分を配合しなかったが、比較例4、7のように抱水性を持たない油性成分であるパラフィンを加えても、低湿度での柔軟性、しっとり感等の所望の効果は得られなかった。比較例8は(B)成分の配合量が多く、安定に乳化できず、また高粘度となった。比較例6、9は(C)成分に代えて他の界面活性剤を用いたが、(B)成分を安定に乳化できず、また高粘度となった。比較例2、3、5は油性成分を多く含むなど(A)成分を主成分としない配合、またHLBが12未満の非イオン性界面活性剤、高級脂肪酸、高級アルコール、有機酸のような成分を用いた配合であるが、所望の効果は得られなかった。