(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091193
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】高周波信号用ケーブル
(51)【国際特許分類】
H03H 7/01 20060101AFI20220614BHJP
H01B 11/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
H03H7/01 Z
H01B11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203847
(22)【出願日】2020-12-09
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 聡
【テーマコード(参考)】
5G319
5J024
【Fターム(参考)】
5G319CA04
5G319CB05
5J024AA01
5J024AA10
5J024BA11
5J024CA10
5J024CA17
5J024CA19
5J024DA25
5J024EA01
5J024EA08
5J024KA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高周波モジュールが放出するスプリアスや高次高調波を抑制しつつも、高周波モジュールの大型化等の問題を回避することができる高周波信号用ケーブルを提供する。
【解決手段】高周波信号用ケーブル21Aは、高周波信号用モジュールが放出するスプリアス及び高次高調波を除去するフィルタを備える。高周波信号用ケーブルは、入力側から出力側に向かって延びる中心導体1と、中心導体1の周囲に設けられる外部導体3と、中心導体1と外部導体3との間の誘電体2の中において、中心導体の周囲に設けられるフリンジ導体5と、を備える。フリンジ導体5は、中心導体1及び誘電体2とともに高周波信号用モジュールが放出するスプリアス及び高次高調波を除去するフィルタとして機能する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波モジュールが放出するスプリアス及び高次高調波を除去するフィルタを備えた、高周波信号用ケーブル。
【請求項2】
入力側から出力側に向かって延びる中心導体と、
前記中心導体の周囲に設けられる外部導体と、
前記中心導体と前記外部導体との間の誘電体の中において、前記中心導体の周囲に設けられるフリンジ導体と
を備え、
前記フリンジ導体は、前記中心導体及び前記誘電体とともに前記フィルタとして機能する、請求項1に記載の高周波信号用ケーブル。
【請求項3】
前記フィルタは、オープンスタブとして機能するインダクタと、前記インダクタと接地端子との間に生成される寄生容量とを備え、これにより前記フィルタにローパスフィルタ特性を与える、請求項1に記載の高周波信号用ケーブル。
【請求項4】
前記フィルタは、2つのインダクタとの間に、前記2つのインダクタを直列的に導通しないキャパシタを備え、これにより前記フィルタにハイパスフィルタ特性を与える、請求項1に記載の高周波信号用ケーブル。
【請求項5】
前記フィルタは、インダクタと、前記インダクタと並列な浮遊容量とにより並列共振回路を構成し、これにより前記フィルタにローパスフィルタ特性を与える、請求項4に記載の高周波信号用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波回路を他の高周波回路と接続し、又はアンテナ等と接続し、高周波信号を伝送するための配線部材として、同軸ケーブルが広く用いられている。高周波信号を伝送する際に使用される周波数、周波数帯域は様々であり、周波数は各無線通信が使用するプロトコルに従う。
【0003】
高周波信号の伝送においては、IC内で生成された信号は搬送波に乗せられ、変調信号が生成されたのち同軸ケーブルや高周波コネクタを介して伝送される。
【0004】
高周波モジュールは、その内部で不要信号(スプリアス)や高次高調波を発生させる虞がある。スプリアスや高次高調波の発生は、周囲にある他の装置の動作に悪影響を与える虞があり、通信機器では信号の干渉現象を生じさせる。
【0005】
高周波モジュール内において、スプリアスや高次高調波を除去するための回路(フィルタ等)を搭載するよう回路設計が行われる。しかし、スプリアスや高次高調波の除去のための回路を高周波モジュール内に搭載する場合、高周波モジュールの基板サイズが大きくなり、高周波モジュールが全体として大型化するという問題がある。また、高周波モジュールにスプリアスや高次高調波の除去のための回路を搭載することは、高周波モジュールにおける設計工数や評価工数を増加させることになり、コストの増大の原因となり得る。
また、高周波モジュールにスプリアスや高次高調波の除去のための回路を搭載する場合、そのような高周波モジュールの故障率が上がってしまうこと、複数の高周波モジュールの間の部品特性のバラつきを考慮する必要があることなどの問題がある。
【0006】
このように、高周波モジュールにおいてスプリアスや高次高調波を除去するための回路を搭載することは、様々な問題を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高周波モジュールが放出するスプリアスや高次高調波を抑制しつつも、高周波モジュールの大型化等の問題を回避することができる高周波信号用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明に係る高周波信号用ケーブルは、高周波モジュールが放出するスプリアス及び高次高調波を除去するフィルタを備えた高周波信号用ケーブルである。本発明の高周波信号用ケーブルは、一態様において、入力側から出力側に向かって延びる中心導体と、前記中心導体の周囲に設けられる外部導体と、前記中心導体と前記外部導体との間の誘電体の中において、前記中心導体の周囲に設けられるフリンジ導体とを備える。この前記フリンジ導体が前記中心導体及び前記誘電体とともに前記フィルタとして機能する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高周波モジュールが放出するスプリアスや高次高調波を抑制しつつも、高周波モジュールの大型化等の問題を回避することができる高周波信号用ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来技術に係る同軸ケーブルの構成例を示す概略図である。
【
図2】従来技術に係る同軸ケーブルの交流等価回路例を示す。
【
図3】高周波モジュールにおける一般的な問題を説明するための、高周波フロントエンド回路の回路図である。
【
図4】第1の実施の形態の同軸ケーブル21Aが適用された場合における、高周波フロントエンド回路の回路図の一例である。
【
図5】
図4の高周波フロントエンド回路において発生し得るスプリアス又は高次高調波の信号の一例を模式的に説明するグラフである。
【
図6】第1の実施の形態の同軸ケーブル21Aの構成例を説明する概略図である。
【
図7】同軸ケーブル21Aの交流等価回路の一例である。
【
図8】同軸ケーブル21AのS21パラメータの周波数特性の一例を示している。
【
図9】同軸ケーブル21AのS11パラメータの周波数特性の一例である。
【
図10】同軸ケーブル21AのS22パラメータの周波数特性の一例である。
【
図11】同軸ケーブル21Aの反射係数とインピーダンスの関係の一例を示すスミスチャートである。
【
図12】第2の実施の形態の同軸ケーブル21A’の構成例を説明する概略図である。
【
図13】同軸ケーブル21A’のS21パラメータの周波数特性の一例を示している。
【
図14】同軸ケーブル21A’のS11、S22パラメータの周波数特性の一例である。
【
図15】同軸ケーブル21A’の反射係数とインピーダンスの関係の一例を示すスミスチャートである。
【
図16】同軸ケーブル21A’の交流等価回路の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0013】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0014】
[第1の実施の形態]
実施の形態の説明の前に、従来技術に係る同軸ケーブルの構成例を
図1に示す。
従来の同軸ケーブルは、一例として、入力側から出力側へと延びる中心導体1と、中心導体1の周囲を覆う誘電体2と、誘電体2の外周を覆う外部導体3と、外部導体3の周囲を覆う絶縁性の外被樹脂4(シース)とを備えている。外被樹脂4は、同軸構造を有する中心導体1、誘電体2、及び外部導体3を、外部から保護するための被膜である。外被樹脂4は、同軸ケーブルの電気的特性には関与しない。
【0015】
図2に、従来技術に係る同軸ケーブルの交流等価回路例を示す。
図2において、各記号の意味は以下の通りである。
Vi:入力電圧
Ri:信号源内部抵抗(信号源インピーダンス)
SG:信号接地点
L1、L2、L3:単位長さ当たりの浮遊インダクタンス成分
C1、C2、C3:単位長さ当たりの浮遊キャパシタンス成分
Ro:負荷抵抗
【0016】
信号源により給電された入力電圧Vi(交流信号電圧)は、信号源インピーダンスRiにより交流等価回路に交流電流を流す。
図1の中心導体1と外部導体3の間に誘電体2が配置されることで、この交流等価回路は浮遊キャパシタンスを持つ。また、浮遊インダクタンスは、中心導体1を流れる交流電流の周波数毎に異なる。
【0017】
同軸ケーブルが、長さ方向に一様な形状を有するものと仮定した場合、同軸ケーブルは、
図2のような交流等価回路で表現され得る。取り扱う周波数帯により、
図2に示した浮遊インダクタンス成分L、浮遊キャパシタンス成分Cのそれぞれに更に寄生容量成分を考慮する必要がある。
図2では、同軸ケーブルの一般的な原理を説明するため、寄生容量成分は考慮していない。
【0018】
同軸ケーブルの入力端とは反対の同軸ケーブルの出力端には負荷抵抗Roが存在する。この負荷抵抗Roに関しては、接続される負荷の状況により異なる値を持ち、最大電力伝送、又は信号の位相(または遅延)を考慮し、下式の通りにインピーダンス整合をする必要がある。
【0019】
【0020】
ここで、Zは、希望する同軸ケーブルの特性インピーダンスを示す。つまり、希望する同軸ケーブルのインピーダンスZと、信号源インピーダンスRiと、負荷抵抗Roとを全てインピーダンス整合すると、最大電力伝送が可能になる。なお、ここで示した希望するインピーダンスZは複素成分も含んでいるため、複素共役整合を行うことが必要である。
【0021】
実部のみを考慮した同軸ケーブルの特性インピーダンスZは、下記[数2]により与えられる。同軸構造を持つ同軸ケーブルは、伝送可能な周波数に対して限界値を持っており、その限界値は、同軸ケーブルを構成する要素の物理的寸法により異なる値となる。
【0022】
【0023】
この限界となる周波数は、一般に遮断周波数と呼ばれ、遮断周波数Fcは、以下の[数3]により表される。使用している中心導体1の外径をd、外部導体3の内径をD、外被樹脂4の比誘電率をεr、cを光速とする。d、D、εrが大きくなればなるほど、限界周波数Fcは低くなり、小さくなればなるほど限界周波数Fcは高くなる。
【0024】
【0025】
同軸ケーブル内を信号が伝搬する際は、一般的にTEM(Transverse Electro-Magnetic)モードにより信号は伝搬することになるが、そのインピーダンスZ、並びに限界周波数Fcは、上述の各式で示した通り、同軸ケーブルを構成する要素の物理的寸法関係、及び使用される樹脂の比誘電率のみに依存する。このため、従来の同軸ケーブルに、使用される搬送信号の周波数以外の帯域外フィルタリング特性を与えることは困難である。
【0026】
帯域外フィルタリング特性を高周波モジュール等に導入する場合、高周波モジュールの基板の大きさが大きくなり、高周波モジュールの製品寸法が大型化するという問題がある。一方、高周波モジュールにおいて適切なフィルタリングがなされない場合、スプリアスや高次高調波を外部に発射(放出)させてしまい、近隣にある他システムへ有害な外乱を与え、通信品質を劣化させてしまう虞がある。
【0027】
高周波モジュールの部品点数が増加することは、高周波モジュールの平均故障寿命(MTTF: Mean Time To Failure)や、平均故障間隔(MTBF: Mean Time Between Failure)が短くなることに繋がる。また、高周波モジュールの製品の開発工数が増加するという問題もある。
【0028】
本実施の形態に係る同軸ケーブルは、同軸ケーブルに帯域外フィルタリング機能を与えることにより、高周波モジュールにおける設計工数や評価工数を削減し、同時に故障率を軽減し、同時に製品の小型化に寄与し、ノイズ耐性を従来と比較して改善し、特に受信点における干渉現象を飛躍的に軽減し、5G等の次世代通信網の信号品質を大幅に上げることができるものである(受信側の受信強度を増加させてより安定した通信網の構築することができる)。
【0029】
高周波モジュールにおける一般的な問題を、
図3に示す高周波フロントエンド回路を例として説明する。
【0030】
図3に示す高周波フロントエンド回路は、製品筐体23の内部に設置された基板SB上に形成され、同軸ケーブル21及び同軸コネクタ22により外部と接続されている。同軸ケーブル21は、
図1の従来の同軸ケーブルと同様のものである。
【0031】
高周波フロントエンド回路は、基板SB上に高周波IC7を備えている。高周波IC7内で生成された信号は搬送波に乗せられ差動出力される。出力された高周波信号は、平衡・不平衡変換器(バラン)8でシングルモードに変換され、それ以降の不平衡回路へと送られる。バラン8から出力された高周波信号は、送信(以降、Tx)と受信(以降、Rx)を切り替える高周波スイッチ9へ入力され、送信時はTx側配線10へ切り替えられる(
図3は送信時の状態)。
【0032】
Tx側配線10を通る高周波信号は、パワーアンプ12で増幅され、高周波IC7内のミキサ(スーパーヘテロダインか、ダイレクトコンバージョンかは不問)で生成された不要信号成分であるスプリアスを除去するために、フィルタ13を通過し、高周波スイッチ9と連動した高周波スイッチ14に入力される。
【0033】
高周波スイッチ14を通った高周波信号は、フィルタ15を通り、高周波コネクタ20に送られる。なお、フィルタ13、15は、ローパスフィルタ(LPF: Low Pass Filter)、ハイパスフィルタ(HPF: High Pass Filter)、バンドパスフィルタ(BPF: Band Pass Filter)、帯域除去フィルタ(BEF: Band Elimination Filter)などであり得る。
【0034】
基板SB上を準TEMモードで伝送される高周波信号は、高周波コネクタ20にてTEモードとなり、同軸ケーブル21、同軸コネクタ22へ伝送される。
図3では、コネクタ22は製品筐体23にバルクヘッドで取り付けられている様子が図示されている。コネクタ22はその先に更に同軸ケーブル(図示せず)を介してアンテナ、無線中継器、端末等に接続される。
図3に示す製品全体の無線通信特性を評価する場合には、コネクタ22は、スペクトラムアナライザ、シグナルジェネレータ、シグナルアナライザ、オシロスコープなどに接続され得る。
【0035】
一方、受信側(Rx)の動作原理を以下に示す。製品筐体23に固定されたコネクタ22に入力された高周波信号は、同軸ケーブル21、高周波コネクタ20に、基板SB上において準TEMモードの信号として入力される。その高周波信号はMSL(Microstrip Line)やCPW(Coplanar Waveguide)、又はストリップ線などで設計されて設けられた信号線19を経てフィルタ15を通過し、高周波スイッチ14を通り、プリアンプ16に入力され、増幅される。
【0036】
プリアンプ16から出力される増幅信号は、スプリアスを取り除くため、更にフィルタ17に入力され、その後高周波線11を経て、その後高周波スイッチ9からバラン8を介して高周波IC7に入力され、復調される。
【0037】
この
図3に示す回路は、送信信号、及び受信信号のスプリアスの除去のため、フィルタ13、15、17を備えている。しかし、このようなフィルタは、面積が大きく、高周波回路の大型化の原因となり得る。
【0038】
図4を参照して、本実施の形態の同軸ケーブル21Aが使用された高周波フロントエンド回路の例を説明する。本実施の形態に係る同軸ケーブル21Aは、後に詳しく説明するように、スプリアスや高次高調波を除去するためのフィルタリング機能を備えている。このため、高周波フロントエンド回路においては、
図3に示すようなフィルタ回路(例:
図2のフィルタ13、15、17)の全部又は一部を省略することが可能となり(
図4参照)、高周波フロントエンド回路の面積を縮小することができる。
【0039】
図5において、
図4の高周波フロントエンド回路において発生し得るスプリアス又は高次高調波の信号の一例を模式的に説明する。
図5のグラフにおいて、横軸は周波数を表し、縦軸は高周波信号を表している。
図5の左側のグラフの高周波信号は、高周波IC7で生成されたフィルタリング前の信号である。
【0040】
図5の左側のグラフにおいて、スペクトル24はキャリア信号であり、25~28はスプリアスまたは高次高調波のスペクトルを表している。このスペクトル25~28は不要信号成分であり、周辺機器や自分自身に対して悪影響を及ぼす可能性が懸念される。
【0041】
各国電波法では、各種計測値の閾値が絶対値として法律に定められ、EMC(Electro Magnetic Compatibility)に準拠した環境試験が行われるが、このような計測値の判定や環境試験に、これらのスプリアスや高次高調波が悪影響を及ぼす。
【0042】
図5の右側のグラフは、同軸ケーブル21Aのフィルタリング機能により適用されるマスク33の一例を示している。
図5の右側のグラフにおいて、キャリア信号のスペクトル24は、左側のグラフと同一である。このマスク33は、
図3の送信経路のフィルタ13及び15によるリジェクション効果を与えると共に、
図3の受信経路のフィルタ15及びフィルタ17のリジェクション効果を与える。一般的には不要信号のリジェクション効果は送信経路も受信経路も同等と考えることができる。
【0043】
マスク33は、様々な事情に起因するスプリアスや高次高調波に従って設定される。マスク33が定められると、スプリアスや高次高調波のスペクトル29、30、31、32を抑圧することができる。マスク33は、キャリア信号のスペクトル24に悪影響を及ぼさないような周波数特性を有するように設計される。スペクトル29、30、31、32を抑圧するマスクを同軸ケーブル21Aで実現することができる場合、高周波フロントエンド回路におけるフィルタ13、15、17は、少なくとも一部を省略することができる。すなわち、高周波モジュール内で発生するスプリアス又は高次高調波成分の除去のための回路は、高周波モジュール内に搭載する必要がないため、基板サイズ、または高周波モジュールのサイズ、製品サイズ、製品高さ等を小さくすることが可能である。
【0044】
図6を参照して、本実施の形態の同軸ケーブル21Aの構成例について説明する。本実施の形態の係る同軸ケーブルは、フィルタリング機能を与えられることにより、使用する搬送波周波数の帯域外の周波数の信号を除去し、これにより、同軸ケーブル21Aにおいて、高周波モジュールにおいて発生したスプリアス又は高次高調波を除去することができる。従って、高周波モジュールにおいては全部又は一部のフィルタを削除することができ、高周波モジュールの大型化を抑制することができる。また、受信側回路においても、受信側回路内に設けられたミキサ等の周波数生成部分での高調波ミキシングによる新たな周波数成分の生成を抑えることができる。従って、高周波モジュール内干渉を軽減することができ、従来技術と比較し、高周波信号を用いた通信の品質(PER: Packet Error Rate、BER: Bit Error Rate)等を向上、または改善する事ができる。
【0045】
この実施形態の同軸ケーブル21Aは、フィルタリング機能を与えるための構成として、中心導体1と外部導体3との間の誘電体2の中に、中心導体1の外周に沿って延在するフリンジ導体5を有する。フリンジ導体5は、その中心付近に沿って中心導体1が貫通するよう構成される。フリンジ導体5は、中心導体1及び誘電体2と共に、搬送信号を伝送させる高周波回路の一部を構成し、フィルタとして機能する。1本の同軸ケーブル21Aに含まれるフリンジ導体5の個数、及び個々のフリンジ導体5の直径、位置及び厚さを変更することにより、同軸ケーブル21Aが与えるフィルタリング効果を変更することができる。フリンジ導体5の直径、個数、厚さは、特定のものには限定されない。また、フリンジ導体5の形状は、図示の例では略円盤状であるが、これに限定されるものではない。
【0046】
図7は、同軸ケーブル21Aの交流等価回路の一例である。また、
図8~
図11は、同軸ケーブル21Aに所定のフィルタ特性を持たせた場合における各種特性を示すグラフである。
図8は、同軸ケーブル21AのS21パラメータの周波数特性の一例を示しており、
図9、及び
図10は、それぞれ同軸ケーブル21AのS11、S22パラメータの周波数特性の一例である。また、
図11は、同軸ケーブル21Aの反射係数とインピーダンスの関係の一例を示すスミスチャートである。この例では、5Gミリ波に対応した28GHz帯信号用のカットオフ周波数に調整している。また、この例は、フィルタとしてLCフィルタの機能を同軸ケーブル21Aに与えるものであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、与えられるフィルタは、RCフィルタ、RLフィルタ、LCフィルタ、RLCフィルタのいずれであってもよい。
【0047】
また、フィルタは、シングルバンド、マルチバンドのいずれであってもよく、特性の動的可変機能を有していても良いし、有していなくても良い。さらに、特性の傾向、利用可能なアプリケーション、フィルタ種類(バンドパスフィルタ、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドエリミネーションフィルタ、またその段数等)、実現方法(分布定数、集中定数、導波管への応用、基板を用いた実現等)も、特定のものには限定されない。
【0048】
図7の交流等価回路を有するフィルタリング機能付きの同軸ケーブル21Aの動作について説明する。同軸ケーブル21Aの入力端に入力信号電圧値Viが印加されると、入力抵抗Riにより交流電流が出力インピーダンスRoに向かい流れる。印加された信号は例えば50Ωのような目標値を持つ整合対象となる回路インピーダンス、またはそれ以外のインダクタンス成分を有するインダクタL1を経て、異なる又は同じインダクタンス成分を持つインダクタL2に導体損失R1を介して入力される。
【0049】
この際、インダクタL1は交流的にオープンスタブとして機能するため、浮遊容量C2を信号接地SGとの間に有する。更にインダクタL1とL2の間には、互いの導体間に浮遊容量C1が発生する。インダクタL2に伝達された交流信号は、次のインダクタL3へ導体損失R2を含み伝送される。インダクタL2とL3の間にも浮遊容量C3が発生する。インダクタL2は、交流的にオープンスタブとして機能するため、浮遊容量C4を信号接地SGとの間に有する。インダクタL3もまたオープンスタブとして機能するため、インダクタL3は信号接地SGとの間に浮遊容量C5を有する。
【0050】
更に、インダクタL3からの交流信号は、導体損失R4、及び回路の特性インピーダンスとは異なるインダクタンス成分を中心導体に持つインダクタL4を介して、インダクタL3と同じ又は異なるインダクタンス値を持つインダクタL5へ伝送される。
【0051】
インダクタL5は、インダクタL3との間に浮遊容量C6を持つ。また、インダクタL5に入力される交流信号は、導体損失R5をもつ中心導体1を介して伝送される。インダクタL5は、オープンスタブとして機能するため、インダクタL5は、信号接地SGとの間にも浮遊容量C8を有する。また、インダクタ成分L5とL6の間にも、浮遊容量C7が形成される。
【0052】
同様に、インダクタL7は、インダクタL6との間に浮遊容量C9を有する。また、インダクタL6に入力される交流信号は、導体損失R6を介してインダクタL7に伝送される。また、インダクタL6は、オープンスタブとして機能するため、インダクタL6は信号接地SGとの間に容量C10を有する。インダクタL7は中心導体1の持つ導体損失R7を有すると共に、オープンスタブとして機能するため、信号接地SGとの間に浮遊容量C11を有する。また、インダクタL7は、負荷抵抗Roに接続される。
【0053】
特性調整と回路のQ値を向上させる目的もある浮遊容量C1、C3、C6、C7、C9を除外して考えた場合、この交流等価回路は、L1+C2、L2+C4、L3+C5、L4、L5+C8、L6+C10、L7+C11で構成される13次ローパスフィルタ(Low Pass Filter)として考えることが出来る。ただし、寄生成分である、その他のインダクタンス、かつキャパシタンス成分を考慮に入れることにより、より高次のローパスフィルタとして扱うことが出来るのは言うまでもない。
【0054】
図7内に示す各インダクタのインダクタンス、及び浮遊容量の容量値を適切に選定することにより、共振周波数が変化し、これにより同軸ケーブル21Aのカットオフ周波数等を自由に設計することが可能である。
【0055】
(効果)
本実施の形態の効果を以下に説明する。本実施の形態の同軸ケーブル21Aは、その内部にフィルタリング機能を有していることにより、高周波装置における試験時間の短縮を図ることができる。従来は、高周波モジュール内にフィルタを設けるか、または高周波モジュールの外にフィルタデバイスを設けるなどする必要があった。本実施の形態の同軸ケーブルによれば、そのような高周波モジュール内のフィルタデバイスが不要になるため、高周波モジュールでの試験項目に掛かる時間を短縮することができる。そのため、高周波モジュールに要するコストを低減することができる。また、高周波モジュールの内部構造が簡素化される結果、故障率を低減することができる。
【0056】
また、本実施の形態の同軸ケーブル21Aによれば、アンテナと高周波モジュールを接続した場合に、所望の主信号以外の信号を放射し、自身の無線通信ネットワークや、あるいは他の無線通信ネットワークに外乱を与えることを抑制することができ、これにより、複数の異なるネットワークの共存による干渉等の問題を軽減することができる。本実施の形態の同軸ケーブル21Aを介して信号を放射することにより、帯域外不要輻射のレベルを著しく軽減することができ、アンテナ放射後の輻射電力に対して帯域外信号電力を小さくすることが可能となる。
【0057】
また、本実施の形態の同軸ケーブル21Aによれば、高周波モジュールから出力信号を取り出す際に必ず必要な同軸ケーブルに、各アプリケーションに特化するフィルタリング機能を持たせることができ、EMCの対策が取りやすく、開発工数を削減することが可能になる。電磁妨害(EMI)や放射感受性(EMS)試験等に課せられる試験方法に関し、被試験機器(EUT)からの/EUTへの不要出力信号の授受はEMC試験結果に著しく影響を及ぼすが、このような不要出力信号を同軸ケーブルにおいて除去することが可能になる。
【0058】
なお、本実施形態に係るフィルタ機能を有する同軸ケーブルに用いるフィルタ設計理論には特に制約はない。例えば、チェビシェフ型(Chebyshev filter)、バタワース型(Butterworth Filter)など、またCRLH(Composite Right and Left Handed)、メタマテリアル技術を応用した設計理論を用いることでも実現が可能である。
【0059】
また、高周波特性を有するために使用される導体材料、樹脂材料も、特定のものには限定されない。例えば、胴体部分に黄銅、銀、金、アルミ等、樹脂部分にポリエチレン、ポリエチレンテフタレート、ポリカーボネート、テフロンなどを用いることができるが、これらは一例であり、特定の材料へ限定されるものではない。
【0060】
図7においては、ローパスフィルタの構造で設計を行ったが、ローパスフィルタのみの特性を有する回路、ハイパスフィルタのみの特性を有する回路、バンドエリミネーションフィルタの特性を有する回路などを設計できることは言うまでもない。また、段数に制約がないため、より急峻なフィルタ特性を希望する際はより多段にすることで所望のスカート特性を得ることができる。
【0061】
[第2の実施の形態]
次に、
図12を参照して、第2の実施の形態の同軸ケーブル21A’を説明する。この同軸ケーブル21A’は、第1の実施の形態の同軸ケーブル21Aに代えて使用され得る。
図12は、同軸ケーブル21A’の概略構成を説明する斜視図であり、
図16は、
図12の同軸ケーブル21A’の等価回路図である。また、
図13~
図15は、等価回路の解析結果を示すグラフである。
図13は、同軸ケーブル21A’のS21パラメータの周波数特性の一例を示しており、
図14は、同軸ケーブル21A’のS11、S22パラメータの周波数特性の一例である。また、
図15は、同軸ケーブル21A’の反射係数とインピーダンスの関係の一例を示すスミスチャートである。
【0062】
この第2の実施形態の同軸ケーブル21A’も、第1の実施の形態と同様に、スプリアスや高次高調波を除去するためのフィルタ回路をその内部に備えている。このため、高周波フロントエンド回路においては、
図4に示すようなフィルタ回路の全部又は一部を省略することが可能となり、高周波フロントエンド回路の面積を縮小することができる。
図12に示すように、この同軸ケーブル21A’は、一例として、中心導体1と、誘電体2と、外部導体3と、外被樹脂4と、フリンジ導体5と、筐体41とを備えている。第1の実施の形態(
図6)と同一の構成要素に関しては、同一の参照符号を付しており、以下では詳細な説明は省略する。
【0063】
この同軸ケーブル21A’は、内部にフリンジ導体5を格納する筐体41を備え、筐体41を貫通して中心導体1、誘電体2、及び外部導体3が延びている。中心導体1、誘電体2、外部導体3、及びフリンジ導体5は一体としてインダクタ又はキャパシタを構成し、前述のフィルタとして機能する。フリンジ導体5は、
図12に示すように、中心導体1の長手方向に沿って複数配置されていてもよいし、単数であってもよい。また、フリンジ導体5は、図示のようなリング状の導体であってもよいし、それ以外の形状(矩形、螺旋形状、その他)であってもよい。フリンジ導体5の位置は、図示しない位置調整機構により適宜調整することができる。フリンジ導体5の位置が変化することにより、フィルタの特性が変化する。
【0064】
図16は、同軸ケーブル21A’の等価回路図の一例であり、この
図16を用いて、この同軸ケーブル21A’の動作を説明する。
図12の同軸ケーブル21A’は、前述のように、中心導体1、誘電体2、及び外部導体3により、インダクタ及びキャパシタが構成され、これにより同軸ケーブル21A’内にLCフィルタが形成されている。
図16はこのLCフィルタの等価回路の一例である。この等価回路は、入力端子と出力端子の間に直列接続されるインダクタL1~L12及びキャパシタC5、並びにこれらと並列に接続されるキャパシタC1~C9を含んでいる。
【0065】
このような等価回路を有する同軸ケーブル21A’において、入力端子より信号電圧Viが印加される。信号電圧Viの印加により、交流電流が入力抵抗Riから出力インピーダンスRlに向かって流れる。印加された信号は、例えば50Ωのような目標値を持つ整合対象となる回路インピーダンス、またはそれ以外のインダクタL1を経て、更に容量性の大きいインダクタL2に印加される。
【0066】
インダクタL2は、同じインダクタンス値、または異なるインダクタンス値を持つインダクタL3とインダクタL4とを介して出力端子に接続される。インダクタL3のインダクタンス値に特別な制限は含まれない。
【0067】
この時、インダクタL2~L4間に、そのインダクタンス成分実現の構造上の理由から、インダクタL3がある一定の距離を隔てて位置しており、そのため両インダクタL2とL4の間には、インダクタL3と並列に浮遊容量が形成される。その浮遊容量が、インダクタL3と並列なキャパシタC1、C2として
図16では表現されている。
【0068】
同様に、インダクタL4~L6間に、インダクタL5がある一定の距離を隔てて位置しており、そのため両インダクタL4とL6の間には、インダクタL5と並列に浮遊容量が形成される。その浮遊容量が、インダクタL5と並列なキャパシタC3、C4として
図16では表現されている。
【0069】
インダクタL6を通過した信号は、インダクタL6と直列的に導通していない物理環境を持つインダクタL7に、L6-L7間の浮遊容量であるキャパシタC5を介して伝達される(ハイパスフィルタ特性の構築(1))。
【0070】
インダクタL7~L12の構造は、浮遊容量であるキャパシタC5を境にインダクタL1~L6と対称になっており、キャパシタC5を境に入出力対称の回路が構成される。SパラメータS11とS22、S21とS22の対称化により、本実施の形態の同軸ケーブルを利用する際の入出力特性の同一化を図ることができる。
【0071】
インダクタL7に伝達された交流信号は、同一、または異なるインダクタンス値を持つインダクタL9に対して、任意のインダクタンス値を持つインダクタL8を介して伝達される。インダクタL8と並列に浮遊容量としてのキャパシタC6、C7が形成される。
【0072】
インダクタンスL9は、同一、または異なるインダクタンス値を持つインダクタL11に対して、任意のインダクタンス値を持つインダクタL10を介して接続されている。インダクタL11は、50Ωのような負荷インピーダンスの目標値を持つ整合対象となる回路インピーダンス、またはそれ以外のインダクタンス値を持つインダクタL12に接続され、信号は伝達される。この時の回路の負荷インピーダンスは、
図16の場合Rlと表現されている。主に実例を挙げるならば、
図16の入力インピーダンスRi、また出力インピーダンスRlは、いずれも50Ω、又は75Ωである。
【0073】
前述のように、インダクタL2とL4の間、インダクタL4とL6の間、インダクタL7とL9の間、及びインダクタL9とL11の間には、浮遊容量C1+C2、C3+C4、C6+C7、C8+C9が存在する。これらの浮遊容量は、並列に接続されるインダクタL3、L5、L8、L10と共に並列共振回路を構成する(ローパスフィルタ特性の構築(2))。
【0074】
図12の同軸ケーブル21A’は、
図16の等価回路構造を有することにより、入出力段直近のインダクタンスL1、L12を含め、共振現象に基づく所定の共振周波数を有している。
図16の等価回路は、Ri~L12の計13段の多段フィルタ構造を有しており、上述のように、ハイパスフィルタとローパスフィルタの特性を併せ持つことにより、全体として超広帯域バンドパスフィルタの機能を有している。
【0075】
図16に示す各インダンクタのインダクタンス、また浮遊容量の値を適切に選定し、共振周波数を変化させることで、低域側カットオフ周波数、広域側カットオフ周波数を任意の値に設定することができる。バンドパスフィルタ特性が得られるような設計を行う代わりに、ローパスフィルタのみの特性を有するもの、ハイパスフィルタのみの特性を有するもの、帯域除去フィルタの特性を得るような設計を行うことができるのは言うまでもない。また、段数にも制約がないため、より急峻なフィルタ特性を希望する際は、より多段のフィルタとすることで所望のスカート特性を得ることができる。
【0076】
(効果)
第2の実施の形態の同軸ケーブル21A’は、第1の実施の形態と同様に、その内部にフィルタリング機能を有していることにより、高周波装置における試験時間の短縮を図ることができる。また、高周波モジュールに要するコストを低減することができ、高周波モジュールの故障率を低減することができる。また、複数の異なるネットワークの共存による干渉等の問題を軽減することができる。加えて、帯域外不要輻射のレベルを著しく軽減することができ、アンテナ放射後の輻射電力に対して帯域外信号電力を小さくすることが可能となる。
【0077】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1…中心導体、 2…誘電体、 3…外部導体、 4…外被樹脂、 5…フリンジ導体、 7…高周波IC、 8…平衡・不平衡変換器(バラン)、 9、14…高周波スイッチ、 10…Tx側配線、 11…高周波線、 12…パワーアンプ、 13、15、17…フィルタ、 16…プリアンプ、 19…信号線、 20…高周波コネクタ、 21、21A…同軸ケーブル、 22…同軸コネクタ、 23…製品筐体、 24…スペクトル、 25~28、29~32…スペクトル、 33…マスク。