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特開2022-91194移動装置、運搬装置、作業支援装置及び移動作業装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091194
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】移動装置、運搬装置、作業支援装置及び移動作業装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 9/02 20060101AFI20220614BHJP
   A62B 35/00 20060101ALI20220614BHJP
   E06C 7/12 20060101ALI20220614BHJP
   B66B 9/00 20060101ALI20220614BHJP
   B66B 9/06 20060101ALI20220614BHJP
   B66B 9/187 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B66B9/02 Z
A62B35/00 F
A62B35/00 J
E06C7/12
B66B9/00 C
B66B9/06 D
B66B9/187 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203852
(22)【出願日】2020-12-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和2年5月27日に、「ロボティクス・メカトロニクス講演会2020」の講演論文集にて発表 (2)令和2年5月29日に、「ロボティクス・メカトロニクス講演会2020」にてポスター講演により発表
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(71)【出願人】
【識別番号】591048830
【氏名又は名称】日本電設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100134728
【弁理士】
【氏名又は名称】奥川 勝利
(72)【発明者】
【氏名】江上 正
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊貴
【テーマコード(参考)】
2E044
2E184
3F301
【Fターム(参考)】
2E044AA06
2E044BA14
2E044BB06
2E044BC07
2E044BC09
2E044CC01
2E044EE12
2E044EE15
2E184JA04
2E184KA08
3F301AA03
3F301BA06
3F301BB06
3F301BB09
3F301BC01
3F301BD06
3F301CA12
3F301DA03
3F301DD00
3F301DD06
(57)【要約】
【課題】移動装置が経路部材の湾曲部をスムーズに移動できるようにする。
【解決手段】所定の経路に沿って延びる湾曲部を含んだ剛体の経路部材3の一方の側から当接する回転体11,13と他方の側から当接する回転体12とが本体部材20に支持され、これらの回転体のうちの少なくとも1つを駆動回転体11として回転駆動させることにより該経路部材に沿って移動する移動装置10であって、前記駆動回転体の配置箇所は、前記経路部材の経路方向一箇所のみであり、該駆動回転体を含む2つの回転体11,12で当該箇所を挟持することを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の経路に沿って延びる湾曲部を含んだ剛体の経路部材の一方の側から当接する回転体と他方の側から当接する回転体とが本体部材に支持され、これらの回転体のうちの少なくとも1つを駆動回転体として回転駆動させることにより該経路部材に沿って移動する移動装置であって、
前記駆動回転体の配置箇所は、前記経路部材の経路方向一箇所のみであり、該駆動回転体を含む2つの回転体で当該箇所を挟持することを特徴とする移動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動装置において、
前記2つの回転体に対して前記経路部材の経路方向の前方及び後方の少なくとも一方で前記経路部材に当接する補助回転体を有することを特徴とする移動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の移動装置において、
前記補助回転体は、前記本体部材に対し、前記経路部材に対して当接する方向に変位可能に支持されていることを特徴とする移動装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の移動装置において、
前記経路部材は、鉛直方向又は鉛直方向に対して傾斜する方向に延びる部分を含むことを特徴とする移動装置。
【請求項5】
請求項4に記載の移動装置において、
前記経路部材は、昇降する作業者の墜落防止具を装着するレールであることを特徴とする移動装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の移動装置において、
電力により動作するネガティブブレーキを有することを特徴とする移動装置。
【請求項7】
所定の経路に沿って延びる湾曲部を含んだ剛体の経路部材に沿って移動する移動装置を用いて被運搬物を運搬する運搬装置であって、
前記移動装置として、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の移動装置を用いることを特徴とする運搬装置。
【請求項8】
作業場所まで移動して作業する作業者を支援する作業支援装置であって、
前記作業場所へ延びる湾曲部を含んだ剛体の経路部材に沿って移動する移動装置と、
前記移動装置に搭載され、前記作業者を支援する支援装置とを備え、
前記移動装置として、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の移動装置を用いることを特徴とする作業支援装置。
【請求項9】
請求項8に記載の作業支援装置において、
前記支援装置は、支援者の送信装置から送信される支援情報を受信する受信部と、前記受信部により受信した支援情報を前記作業者へ出力する出力部とを含むことを特徴とする作業支援装置。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の作業支援装置であって、
前記支援装置は、前記作業場所を撮像する撮像部と、前記撮像部で撮像した撮像画像情報を支援者の受信装置へ送信する送信部とを含むことを特徴とする作業支援装置。
【請求項11】
作業場所へ延びる湾曲部を含んだ剛体の経路部材に沿って移動する移動装置により作業装置を移動させて、該作業場所で該作業装置により作業する移動作業装置であって、
前記移動装置として、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の移動装置を用いることを特徴とする移動作業装置。
【請求項12】
請求項11に記載の移動作業装置において、
前記作業装置は、前記作業場所の被作業物の検査又は修理を行う装置を含むことを特徴とする移動作業装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動装置、運搬装置、作業支援装置及び移動作業装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、本体部材に支持された複数の回転体を所定の経路に沿って延びる剛体の経路部材に当接させ、これらの回転体のうちの少なくとも1つを駆動回転体として回転駆動させることにより経路部材に沿って移動する移動装置が知られている。例えば、特許文献1には、鉄塔タイプの通信用基地局の鉄塔に設置された梯子に並行して設置されている断面I形の鋼製レール(経路部材)に沿って昇降する昇降装置(移動装置)が開示されている。このレールは、梯子を昇降する作業者の安全ベルト(墜落防止具)を装着するためのものである。
【0003】
特許文献1の昇降装置は、フレーム(本体部材)に対して回転自在に支持される2つの車輪(駆動回転体)を備え、鉛直方向に延びる断面I形レールの手前側フランジの一方の面(表面)に対して2つの車輪が上下に並んで当接するように構成されている。この昇降装置では、これらの車輪よりも上方及び下方のそれぞれでフレームに支持されるガイドローラが、スプリングの付勢力によって断面I形レールのフランジの他方の面(裏面)に当接するように設けられている。この付勢力によって、レールのフランジ裏面に当接する上下2つのガイドローラを支点にしてフレームがレールのフランジ表面に近づく方向へ付勢され、上下2つのガイドローラの間でフレームに支持されている前記2つの車輪がレールのフランジ表面に押し付けられる。これにより、上下2つのガイドローラと、これらの間に配置される2つの車輪とで、断面I形レールのフランジがクランプされ、2つの車輪の回転駆動力がレールに伝わって昇降装置がレールに沿って昇降する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-70333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
剛体の経路部材に沿って移動する従来の移動装置は、直線状に延びる経路部材を移動することを想定したものであり、湾曲している経路部材部分(回転体と経路部材とが当接する方向に湾曲している経路部材部分。以下「湾曲部」という。)をスムーズに移動することができず、最悪の場合には湾曲部を移動できないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、所定の経路に沿って延びる湾曲部を含んだ剛体の経路部材の一方の側から当接する回転体と他方の側から当接する回転体とが本体部材に支持され、これらの回転体のうちの少なくとも1つを駆動回転体として回転駆動させることにより該経路部材に沿って移動する移動装置であって、前記駆動回転体の配置箇所は、前記経路部材の経路方向一箇所のみであり、該駆動回転体を含む2つの回転体で当該箇所を挟持することを特徴とする。
湾曲部を含む剛体の経路部材に沿って移動装置が移動する場合、移動装置は、その湾曲部を移動するときに、湾曲部に当接する回転体を支持している本体部材の姿勢が変化する。このとき、従来の移動装置は、駆動回転体とともに経路部材をクランプする回転体が、駆動回転体の当接する経路方向箇所とは異なる箇所に当接している。そのため、経路部材の湾曲部を移動するときに本体部材が姿勢変化しようとすると、本体部材に支持されている駆動回転体と経路部材との当接圧が過剰に高くなったり過剰に低くしたりする場合がある。そのため、経路部材の湾曲部を移動装置がスムーズに移動できず、最悪の場合、湾曲部を通過できない事態が起こり得る。
本発明においては、駆動回転体の配置箇所が経路部材の経路方向一箇所のみであり、当該箇所を、この駆動回転体を含む2つの回転体で挟持する構成となっている。このような構成によれば、駆動回転体を支持する本体部材は、前記2つの回転体による経路部材の挟持箇所を中心にして回動するように姿勢変化することが可能である。このような姿勢変化に際して、その回動中心となる挟持箇所を挟持している前記2つの回転体の挟持力はほとんど変化することがない。したがって、経路部材の湾曲部を移動するときに本体部材の姿勢が変化するときに、本体部材に支持される駆動回転体と経路部材との当接圧はほとんど変化しないで済む。よって、経路部材の湾曲部を移動する際に、本体部材に支持されている駆動回転体と経路部材との当接圧が過剰に高くなったり過剰に低くしたりすることがなく、移動装置は経路部材の湾曲部をスムーズに移動することができる。
【0007】
また、本発明は、前記移動装置において、前記2つの回転体に対して前記経路部材の経路方向の前方及び後方の少なくとも一方で前記経路部材に当接する補助回転体を有することを特徴とする。
経路部材に当接する回転体が前記2つの回転体のみであると、前記2つの回転体による経路部材の挟持箇所を中心にして、当該2つの回転体と経路部材とが当接する方向や、当該方向と経路方向とに直交する方向へ、本体部材が回動して姿勢変化し得る。この場合、例えば、当該姿勢変化により本体部材(又はその附属部品等)が経路部材に当たって摺動するような事態が起きたり、前記2つの回転体が経路部材から脱落するような事態が起きたりするおそれがある。
本発明においては、前記2つの回転体に対して前記経路部材の経路方向の前方及び後方の少なくとも一方で前記経路部材に当接する補助回転体を備えている。これによれば、本体部材は、前記2つの回転体による経路部材の挟持箇所のほか、補助回転体による経路部材との当接部分でも、経路部材と当接することができる。このように、本体部材が2箇所以上で経路部材と当接することができることで、本体部材の姿勢を安定させることができ、上述したような事態の発生を抑制することができる。
【0008】
また、本発明は、前記移動装置において、前記補助回転体は、前記本体部材に対し、前記経路部材に対して当接する方向に変位可能に支持されていることを特徴とする。
これによれば、補助回転体が経路部材との当接方向へ変位できるので、前記2つの回転体による経路部材の挟持箇所を中心にして本体部材が回動して姿勢変化する際に補助回転体が逃げて、本体部材の大きな姿勢変化が可能になる。その結果、移動装置は、より大きく湾曲する経路部材の湾曲部を、よりスムーズに移動することが可能となる。
【0009】
また、本発明は、前記移動装置において、前記経路部材は、鉛直方向又は鉛直方向に対して傾斜する方向に延びる部分を含むことを特徴とする。
これによれば、経路部材に沿って昇降する移動装置において、経路部材の湾曲部をスムーズに移動することが可能となる。
【0010】
また、本発明は、前記移動装置において、前記経路部材は、昇降する作業者の墜落防止具を装着するレールであることを特徴とする。
これによれば、鉄塔や鉄構などの構造物に設置されている梯子を昇降する作業者の墜落防止具を装着するためのレール(エスコートレール等)に装着して、当該レールに沿って移動する移動装置を提供することができる。
【0011】
また、本発明は、前記移動装置において、電力により動作するネガティブブレーキを有することを特徴とする。
経路部材の途中で駆動回転体の回転駆動を停止させる場合、移動装置がその位置から動かないようにブレーキを掛けることが望ましい。特に、経路部材に沿って昇降する移動装置の場合には、停止時に移動装置が経路部材に沿って滑り落ちることを防止するためにも、ブレーキを掛けることが重要となる。このとき、移動装置に係る荷重が大きいほど大きなブレーキ力が必要となる。本発明に係る移動装置は、駆動回転体を備えているため、その駆動回転体を駆動するための電力が供給されるため、電力供給を必要とするネガティブブレーキを採用することが可能であり、電磁ブレーキなどの大きなブレーキ力をもつネガティブブレーキを採用することができる。よって、本発明によれば、移動装置の停止時に大きなブレーキ力でブレーキを掛けることができるので、移動装置の停止状態をより安定して維持することができる。
【0012】
また、本発明は、所定の経路に沿って延びる湾曲部を含んだ剛体の経路部材に沿って移動する移動装置を用いて被運搬物を運搬する運搬装置であって、前記移動装置として、上述した移動装置を用いることを特徴とする。
本発明によれば、経路部材が湾曲部を含む場合でも、その経路部材に沿って被運搬物をスムーズに運搬することのできる運搬装置を提供することができる。
【0013】
また、本発明は、作業場所まで移動して作業する作業者を支援する作業支援装置であって、前記作業場所へ延びる湾曲部を含んだ剛体の経路部材に沿って移動する移動装置と、前記移動装置に搭載され、前記作業者を支援する支援装置とを備え、前記移動装置として、上述した移動装置を用いることを特徴とする。
本発明によれば、経路部材が湾曲部を含む場合でも、その経路部材に沿って、作業者が作業する作業場所まで、作業者を支援する支援装置をスムーズに移動させることができる。
【0014】
また、本発明は、前記作業支援装置において、前記支援装置は、支援者の送信装置から送信される支援情報を受信する受信部と、前記受信部により受信した支援情報を前記作業者へ出力する出力部とを含むことを特徴とする。
本発明によれば、作業場所から離れた場所にいる支援者による作業指示、助言、その他の支援情報を、当該作業場所にいる作業者に伝達するという支援が可能となる。
【0015】
また、本発明は、前記作業支援装置において、前記支援装置は、前記作業場所を撮像する撮像部と、前記撮像部で撮像した撮像画像情報を支援者の受信装置へ送信する送信部とを含むことを特徴とする。
本発明によれば、作業場所から離れた場所にいる支援者に、作業場所を撮像した画像を提供することができるので、支援者が作業場所の状況をより正確に把握でき、支援者による適切な支援が可能となる。
【0016】
また、本発明は、作業場所へ延びる湾曲部を含んだ剛体の経路部材に沿って移動する移動装置により作業装置を移動させて、該作業場所で該作業装置により作業する移動作業装置であって、前記移動装置として、上述した移動装置を用いることを特徴とする。
本発明によれば、経路部材が湾曲部を含む場合でも、その経路部材に沿って作業場所まで作業装置をスムーズに移動させることができる。
【0017】
また、本発明は、前記移動作業装置において、前記作業装置は、前記作業場所の被作業物の検査又は修理を行う装置を含むことを特徴とする。
本発明によれば、作業場所に作業装置を移動させて、その作業場所の被作業物の検査又は修理を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、移動装置が経路部材の湾曲部をスムーズに移動できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態の昇降装置がエスコートレールに装着された鉄塔を示す模式図。
図2】同エスコートレールの断面図。
図3】同エスコートレールに装着可能な安全ベルトのリスの一例を示す斜視図。
図4】実施形態に係る昇降装置をレール長手方向から見た背面図。
図5】同昇降装置を横方向から見た側面図。
図6】同昇降装置を、エスコートレールと対面する側から見た斜視図。
図7】エスコートレールの湾曲部を通過するときの昇降装置を示す側面図。
図8】エスコートレールの湾曲部を通過するときの昇降装置を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る移動装置を、鉄塔や鉄構などの構造物に設置される経路部材としてのエスコートレールに装着されてエスコートレールに沿って昇降(移動)する昇降装置に適用した一実施形態について説明する。
【0021】
なお、本実施形態の昇降装置は、例えば、作業者が落下の危険を伴うような作用場所まで工具や交換部品などの物品(被運搬物)を運搬する運搬装置や、そのような作業場所で作業する作業者の支援(作業指示などの情報提供、支援者に対する作業場所の状況等の情報発信など)を行う作業支援装置などに利用され得る。また、本実施形態の移動装置は、このような作業場所まで移動して、作業者に代わって又は作業者と共に作業を行う移動作業装置にも利用され得る。
【0022】
ただし、本発明に係る移動装置の利用用途は、これらに制限されるものではなく、他の用途にも広く利用することができる。例えば、作業者が落下の危険を伴わないような作用場所にも、同様に適用可能である。また、例えば、鉛直方向又は鉛直方向に対して傾斜する方向に延びる経路部材に沿って移動する昇降装置に限らず、水平方向に沿って延びる経路部材に沿って移動する移動装置であっても適用できる。空中を移動する場合に限らず、水中などを移動する場合などにも適用可能である。
【0023】
図1は、本実施形態の昇降装置10がエスコートレールに装着された鉄塔1を示す模式図である。
図1に示す鉄塔1には、鉄塔1の修理や点検などの作業を行う作業者S1が昇降するための梯子2が設置されている。また、鉄塔1には、この梯子2に並行して、梯子2を昇降する作業者S1の安全ベルトのリス4(墜落防止具)を装着するための鋼製のエスコートレール3(経路部材)が設置されている。
【0024】
図2は、本実施形態におけるエスコートレール3の断面図である。
本実施形態のエスコートレール3は、図2に示すように、レール長手方向(経路方向)に直交する断面の形状が中空の略矩形状であるタイプのものである。このエスコートレール3には、当該矩形をなす四辺のうちの一辺(図2中の下辺)に、中空内部と外部とを連通するスリット3aがレール長手方向にわたって形成されている。スリット3aを形成する当該一辺の端部には、図2に示すように、中空内部に向けて立ち上がった立ち上げ部3bがレール長手方向にわたって形成されている。
【0025】
図3は、エスコートレール3に装着可能な安全ベルトのリス4の一例を示す斜視図である。
作業者S1が梯子2を昇る際には、作業者S1の安全ベルトに設けられるリス4をエスコートレール3に装着する。詳しくは、リス4の4つの車輪4aを、エスコートレール3の下端の開口からエスコートレール3の中空内部へと挿入する。このとき、4つの車輪4aを支持しているリス4の支持フレーム4bは、エスコートレール3のスリット3aを介してエスコートレール3の外部へと突出した状態になる。この外部へ突出した支持フレーム4bの部分には、作業者S1の安全ベルトのベルト帯が取り付けられる環状部4cなどが配置されている。作業者が梯子2を昇ると、エスコートレール3に装着されたリス4の4つの車輪4aが、エスコートレール3におけるスリット3aの設けられたレール壁部3cの内壁面上を転動し、作業者S1の上昇に伴ってリス4がエスコートレール3に沿ってスムーズに上昇する。作業者が手足を滑らせる等により墜落しそうになった場合、リス4が瞬時にその場で停止して墜落を防ぐことができる。
【0026】
次に、上述したエスコートレール3に装着されてエスコートレール3に沿って移動する昇降装置の構成について説明する。
図4は、本実施形態に係る昇降装置10をレール長手方向から見た背面図である。
図5は、本実施形態に係る昇降装置10を横方向(図4の左右方向)から見た側面図である。
図6は、本実施形態に係る昇降装置10を、エスコートレール3と対面する側から見た斜視図である。
【0027】
本昇降装置10は、回転体としての車輪11,12,13,14をエスコートレール3に当接させ、これらの車輪のうちの少なくとも1つを駆動輪11(駆動回転体)として回転駆動させることにより、エスコートレール3に沿って移動するものである。
【0028】
本実施形態の昇降装置10は、用途に応じて様々な部材や装置等が装着されるアタッチメント部30を備えている。用途に応じた部材や装置等をアタッチメント部30に装着した各種装置については、後述する。
【0029】
昇降装置10は、図4に示すように、エスコートレール3のレール壁部3cをレール長手方向の同一箇所で挟持する2つの車輪11,12を備えている。この2つの車輪11,12は、エスコートレール3のレール壁部3cの外側に配置される駆動回転体としての駆動輪11と、レール壁部3cの内側(中空内部側)に配置される従動回転体としての従動輪12とから構成される。
【0030】
本実施形態の駆動輪11は、同じ駆動輪軸11a上に設けられる2つの駆動輪11A,11Bに分割された構造をもち、2つの駆動輪11A,11Bがエスコートレール3のスリット3aを挟んだ両側でそれぞれレール壁部3cの外壁面に当接するように構成されている。従動輪12も、駆動輪11と同様、同じ従動輪軸12a上に設けられる2つの従動輪12A,12Bに分割された構造をもち、2つの従動輪12A,12Bがエスコートレール3のスリット3aを挟んだ両側でそれぞれレール壁部3cの内壁面に当接するように構成されている。これにより、エスコートレール3の長手方向同一箇所で、スリット3aを挟んだ一方の側(図4中左側)のレール壁部3cを駆動輪11Aと従動輪12Aとで挟持し、スリット3aを挟んだ他方の側(図4中右側)のレール壁部3cを駆動輪11Bと従動輪12Bとで挟持する。
【0031】
駆動輪11及び従動輪12は、それぞれの軸11a,12aが本体部材としての本体フレーム20によって支持されている。本体フレーム20は、主に、エスコートレール3の外部に位置する2つの側面フレーム21と、2つの側面フレーム21をレール長手方向前後で連結する2つの連結部22と、エスコートレール3の中空内部に位置する従動輪軸支持フレーム23とから構成されている。駆動輪11の駆動輪軸11aは、その両端が各側面フレーム21によって回転自在に支持されている。従動輪12の従動輪軸12aは、その長手方向中央付近(昇降装置10の横方向中央付近)を、従動輪軸支持フレーム23によって回転自在に支持されている。
【0032】
2つの連結部22は、2つの側面フレーム21におけるエスコートレール側の部分をレール長手方向前後でそれぞれ連結している。各連結部22の中央付近(昇降装置10の横方向中央付近)には、それぞれ、従動輪軸支持フレーム23を固定するためのリブ22aが設けられており、リブ22aには、調整ネジ24が通される貫通孔が形成されている。調整ネジ24は、調整ネジ24のネジ頭24aと連結部22のリブ22aとの間に付勢手段としての圧縮バネ25を介在させた状態で、リブ22aに設けられる貫通孔を通され、従動輪軸支持フレーム23に設けられたネジ止め部23aのネジ穴に取り付けられる。
【0033】
このような構成により、従動輪軸支持フレーム23は、圧縮バネ25の付勢力を受けつつ、ネジ軸方向(駆動輪11及び従動輪12の挟持方向)に沿って変位可能に、連結部22に取り付けられる。この圧縮バネ25の付勢力により、従動輪軸支持フレーム23に支持された従動輪12は、側面フレーム21に支持された駆動輪11へ当接する向きに付勢される。圧縮バネ25の付勢力の大きさは、調整ネジ24を回して圧縮バネ25の圧縮量を変更することにより調整することができる。
【0034】
駆動輪11は、駆動源である駆動モータ15からの駆動力によって回転駆動する。駆動モータ15のモータ軸15a上に固定されたモータギヤ15bは、駆動輪11の駆動輪軸11a上に固定された駆動ギヤ11bと噛み合っている。これにより、駆動モータ15からの駆動力がモータギヤ15b及び駆動ギヤ11bを介して駆動輪軸11aに伝達され、駆動輪11が回転駆動する。一方、従動輪12は、エスコートレール3のレール壁部3cに対して従動回転することになる。
【0035】
また、昇降装置10は、エスコートレール3に当接する車輪として、駆動輪11及び従動輪12のほか、補助回転体としてのサポートローラ13及びガイドローラ14を備えている。
【0036】
サポートローラ13は、エスコートレール3に対する昇降装置10の姿勢維持をサポートするための補助回転体である。詳しくは、本実施形態の昇降装置10は、駆動輪11及び従動輪12という2つの車輪のみで、エスコートレール3のレール壁部3cを挟持して移動(昇降)するため、2つの車輪11,12で挟持している箇所を通るピッチ軸(2つの車輪11,12の軸11a,12aに平行な軸)の回りで、昇降装置10が回動して姿勢変化し得る。このようなピッチ軸回りの姿勢変化が生じると、昇降装置10の本体フレーム20等がエスコートレール3に接触するなどして、昇降装置10のスムーズな昇降の妨げとなり得る。
【0037】
サポートローラ13は、本体フレーム20の側面フレーム21に取り付けられた従動ローラであり、駆動輪11及び従動輪12に対してレール長手方向の前方及び後方の少なくとも一方で、エスコートレール3のレール壁部3cの外壁面に当接する。本実施形態のサポートローラ13は、駆動輪11及び従動輪12に対してレール長手方向の前方及び後方のそれぞれに2つずつ配置されるサポートローラ13A,13Bからなり、合計4つのサポートローラ13A,13Bで構成されている。これらのサポートローラ13A,13Bがエスコートレール3のレール壁部3cの外壁面に当接することで、ピッチ軸回りにおける昇降装置10の姿勢変化が抑制され、昇降装置10の姿勢を安定して維持することができる。
【0038】
本実施形態における4つのサポートローラ13A,13Bは、エスコートレール3のレール壁部3cの外壁面に対して当接する方向に付勢された状態で、本体フレーム20の側面フレーム21に取り付けられている。具体的には、図6に示すように、各サポートローラ13A,13Bを支持する支持アーム13aは、側面フレーム21に設けられたリニアガイド21aに取り付けられており、サポートローラ13A,13Bがエスコートレール3へ当接する方向に沿って移動可能に支持されている。支持アーム13aは、サポートローラ13A,13Bがエスコートレール3へ当接する向きにバネなどの付勢部材によって付勢されている。これにより、サポートローラ13A,13Bは、付勢部材の付勢力によりエスコートレール3のレール壁部3cの外壁面に当接する向きに付勢されつつ、サポートローラ13A,13Bのエスコートレール3への当接方向に沿って移動可能となっている。
【0039】
ガイドローラ14も、エスコートレール3に対する昇降装置10の姿勢維持をサポートするための補助回転体である。詳しくは、本実施形態の昇降装置10は、上述したとおり、駆動輪11及び従動輪12という2つの車輪のみで、エスコートレール3のレール壁部3cを挟持して移動(昇降)するため、2つの車輪11,12で挟持している箇所を通るヨー軸(2つの車輪11,12の軸11a,12aに平行な軸)の回りで、昇降装置10が回動して姿勢変化し得る。このようなヨー軸回りの姿勢変化が生じると、昇降装置10の本体フレーム20等がエスコートレール3に接触したり、昇降装置10がエスコートレール3から脱落したりするおそれがある。
【0040】
ガイドローラ14は、本体フレーム20の従動輪軸支持フレーム23に取り付けられた従動ローラであり、駆動輪11及び従動輪12に対してレール長手方向の前方及び後方の少なくとも一方で、エスコートレール3の側壁部3dの内壁面に当接する。本実施形態のガイドローラ14は、駆動輪11及び従動輪12に対してレール長手方向の前方及び後方のそれぞれに2つずつ配置され、合計4つのガイドローラ14が設けられている。これらのガイドローラ14がエスコートレール3の側壁部3dの内壁面に当接することで、ヨー軸回りにおける昇降装置10のレール長手方向に対する姿勢変化が抑制され、昇降装置10の姿勢を安定して維持することができる。
【0041】
また、昇降装置10には、外部装置である無線通信端末としてのタブレット端末50(図1参照)と無線通信を行うための通信部18A、各種制御を行う電気回路基板等からなる制御部18B、バッテリ等の電源部18Cなどを収容する収容ボックス18や、作業者S1や操作者S2などのユーザーが操作する操作部19なども設けられている。なお、ノイズや安全性などの面から、通信部18A及び制御部18Bを電源部18Cから分離して配置する場合には、電源部18Cを収容ボックス18内に収容するとともに、通信部18A及び制御部18Bを収容ボックス18とは別の場所、例えばアタッチメント部30内に収容するようにしてもよい。
【0042】
通信部18Aは、操作者S2が操作するタブレット端末50と無線通信を行って、例えば、昇降装置10の制御に関する駆動指令情報等の制御情報などを受信したり、昇降装置10の動作状態(エラー情報など)等の状態情報を送信したりする。
【0043】
また、制御部18Bは、本昇降装置10の制御を行うものであり、例えば、通信部18Aで受信した制御情報や操作部19が受け付けた指示操作の内容に従って、駆動モータ15や電磁ブレーキ17を制御したり、昇降装置10の動作状態(エラー情報など)等の状態情報を通信部18Aから外部装置へ送信したりする処理を行ったりする。
【0044】
また、電源部18Cは、制御部18B、駆動モータ15、電磁ブレーキ17などに電力を供給する。本実施形態では、昇降装置10がバッテリ等の電源部18Cを搭載している例であるが、昇降装置10にはこのような電源部18Cを搭載せずに外部電源から電力が供給される方式であってもよい。この場合、マイクロ波等を用いた無線給電方式を採用するのが好ましい。
【0045】
操作部19は、作業者S1や操作者S2などのユーザーが本昇降装置10への指示を入力するための操作を受け付ける。操作部19が受け付けた操作内容は制御部18Bへと送られ、制御部18Bは、受け取った操作内容に従った制御や処理を実行する。
【0046】
また、本実施形態においては、駆動輪11の駆動情報を検出するための駆動情報検出手段としてのロータリーエンコーダ16が設けられている。ロータリーエンコーダ16は、例えば、駆動モータ15のモータ軸15aの回転速度に応じた信号を制御部18Bへと出力する。ロータリーエンコーダ16から出力される単位時間当たりの出力パルスから、駆動輪11のおおよその移動距離情報や回転速度情報などの駆動情報を得ることができる。
【0047】
また、本実施形態における昇降装置10は、電力により動作するネガティブブレーキとしての電磁ブレーキ17を備えている。なお、ネガティブブレーキとしては、電力を用いないものであってもよいが、本実施形態の昇降装置10は、駆動モータ15等を駆動するための比較的大きな電力を扱う電源部18Cが搭載されている。よって、電力供給を必要とする大きなブレーキ力をもったネガティブブレーキを採用することができる。これにより、昇降装置10それ自体の重量が重い場合、又は、昇降装置10のアタッチメント部30に各種装置が装着された全体装置の重量が重い場合でも、昇降装置10の停止状態を安定して維持することができる。
【0048】
本実施形態の電磁ブレーキ17は、無励磁作動型の電磁ブレーキであり、駆動輪11の駆動輪軸11a上に固定された駆動ギヤ11bからギヤ15cを介して接続されているブレーキ用ギヤに作用するように構成されている。これにより、駆動モータ15への電力供給が停止すると、これに同期して電磁ブレーキ17が作動してブレーキ用ギヤの回転にブレーキがかかり、駆動輪軸11a、モータギヤ15b及び駆動ギヤ11bを介して、駆動輪11の回転にブレーキをかける。本実施形態の電磁ブレーキ17は、駆動モータ15への電力供給を停止して昇降装置10を停止させたとき、昇降装置10を停止状態に安定して維持することができる。
【0049】
次に、本実施形態の昇降装置10の動作について説明する。
昇降装置10をエスコートレール3に装着する場合、まず、2つの調整ネジ24を緩めた状態にして、圧縮バネ25の付勢力を弱めて駆動輪11に対する従動輪12の当接圧を小さくするかゼロにするようにする。この状態で、昇降装置10のガイドローラ14及び従動輪12を、エスコートレール3の下端の開口からエスコートレール3の中空内部へと挿入する。このとき、ガイドローラ14及び従動輪12を支持している従動輪軸支持フレーム23は、エスコートレール3のスリット3aを貫通するように配置され、本体フレーム20の側面フレーム21や、これに支持される駆動輪11やサポートローラ13等はエスコートレール3の外部に配置される。
【0050】
その後、2つの調整ネジ24を締めて圧縮バネ25の付勢力を強め、駆動輪11に対する従動輪12の当接圧を大きくする。そして、駆動輪11と従動輪12との間に介在しているエスコートレール3のレール壁部3cを挟持する挟持力が所望の挟持力まで高まるように、2つの調整ネジ24の締め具合を調整する。所望の挟持力は、駆動輪11とエスコートレール3のレール壁部3cの外壁面との間において想定される摩擦係数の低下が発生しても、駆動輪11の滑りが発生しない程度の挟持力に設定されるのが好ましい。
【0051】
このようにしてエスコートレール3に昇降装置10を装着したら、操作者S2は、タブレット端末50を操作して昇降装置10の動作を制御することができる。タブレット端末50には、昇降装置10の動作を制御するためのアプリ(コンピュータプログラム)がインストールされており、このアプリに従って操作することにより、昇降装置10に所定の動作を行わせるための制御情報が無線通信によって昇降装置10の通信部18Aへと送られる。
【0052】
例えば、操作者S2がタブレット端末50を操作して昇降装置10を上昇させる操作を行った場合、昇降装置10を上昇させる旨の制御情報がタブレット端末50から昇降装置10の通信部18Aへ送信される。これを受信したタブレット端末50の制御部18Bは、その制御情報に従って、電源部18Cから駆動モータ15及び電磁ブレーキ17に電力を供給する。これにより、電磁ブレーキ17のブレーキが解除されるとともに、駆動モータ15は入力される駆動電流に応じて駆動する。その結果、従動輪12との間にエスコートレール3のレール壁部3cを挟持している駆動輪11が回転駆動し、駆動輪11及び従動輪12がレール壁部3c上をそれぞれ転動して、昇降装置10がエスコートレール3に沿って上昇する。このとき、昇降装置10の姿勢はサポートローラ13及びガイドローラ14によって安定して維持され、昇降装置10の本体フレーム20等がエスコートレール3に接触したり、昇降装置10がエスコートレール3から脱落したりするのを防ぐので、昇降装置10はスムーズに上昇することができる。なお、昇降装置10を下降させる場合も同様である。
【0053】
また、例えば、操作者S2がタブレット端末50を操作して昇降装置10を停止させる操作を行った場合、昇降装置10を停止させる旨の制御情報がタブレット端末50から昇降装置10の通信部18Aへ送信される。これを受信したタブレット端末50の制御部18Bは、その制御情報に従って、電源部18Cから駆動モータ15及び電磁ブレーキ17への電力供給を停止させる。これにより、駆動モータ15が停止して、エスコートレール3のレール壁部3cを挟持している駆動輪11及び従動輪12が停止するとともに、電磁ブレーキ17がブレーキをかけて、昇降装置10が安定して停止状態を維持する。
【0054】
なお、昇降装置を停止状態から上昇させたり下降させたりする場合の駆動制御や、昇降装置を上昇又は下降させている状態から停止させる場合の駆動制御においては、エスコートレール3と駆動輪11との間の滑りが発生しないように、駆動モータ15への駆動電流制御を行うようにするのが好ましい。
【0055】
また、エスコートレール3と駆動輪11との間の滑りを発生させないように、例えば、エスコートレール3を挟持する駆動輪11と従動輪12との間の挟持力を動的に制御できる構成を採用してもよい。この場合、滑りが発生しやすい状況時に挟持力を高めて滑りを抑制することが可能となり、より安定して昇降装置を上昇、下降、停止させることができる。
【0056】
ここで、本実施形態におけるエスコートレール3には、図1に示すように、駆動輪11及び従動輪12とエスコートレール3のレール壁部3cとが当接する方向に湾曲している湾曲部3e,3fが存在する。そのため、本実施形態の昇降装置10は、エスコートレール3に沿って昇降するにあたり、この湾曲部3e,3fを通過することが求められる。
【0057】
図7は、昇降装置10の駆動輪11及び従動輪12に挟持されているエスコートレール3の挟持箇所を基準にして進行方向前方のエスコートレール部分が昇降装置10の装着側とは反対側(図7中左側)に湾曲している湾曲部3eを通過するときの昇降装置10を示す側面図である。
昇降装置10の進行方向前方のサポートローラ13Aが図7に示すような湾曲部3eに差し掛かると、湾曲部3eにおけるレール壁部3cの外壁面に当接している前方のサポートローラ13Aが、湾曲部3eの湾曲形状に応じて、付勢部材の付勢力により側面フレーム21のリニアガイド21aに沿って側面フレーム21から離れる方向(図7中左側)へ変位する。なお、湾曲部3eが前方のサポートローラ13Aがリニアガイド21aの端部まで変位するほど大きく湾曲していると、前方のサポートローラ13Aはエスコートレール3のレール壁部3cの外壁面から離間した状態になる場合もある。
【0058】
その後、昇降装置10の駆動輪11及び従動輪12が挟持している挟持箇所が図7に示す湾曲部3eに差し掛かり、湾曲部3eを通過する。このとき、本実施形態の昇降装置10において、駆動輪11及び従動輪12が挟持しているエスコートレール3の挟持箇所は、レール長手方向において1箇所のみである。このような構成により、昇降装置10は、駆動輪11及び従動輪12による挟持箇所を通るピッチ軸を中心にして回動することができる。よって、昇降装置10は、湾曲部3eを通過する際、湾曲部3eの湾曲形状に応じて、駆動輪11及び従動輪12による挟持箇所のピッチ軸を中心に回動しながら、湾曲部3eを通過することができる。
【0059】
駆動輪11及び従動輪12による挟持箇所が湾曲部3eを通過している間、駆動輪11及び従動輪12の前後にそれぞれ配置されているサポートローラ13A,13Bは、リニアガイド21aの可動域内で、湾曲部3e又はその前後のレール部分の形状に応じて変位して、昇降装置10の姿勢を維持する。これにより、昇降装置10が湾曲部3eを通過するときに、昇降装置10の本体フレーム20等がエスコートレール3に接触することがなく、昇降装置10はスムーズに湾曲部3eを通過することができる。
【0060】
このとき、本実施形態において、エスコートレールに当接して昇降装置10を駆動する駆動輪11は、湾曲部3eを通過するときに昇降装置10が回動するピッチ軸となる箇所でエスコートレール3を挟持する2つの車輪11,12のうちの少なくとも一方の車輪のみであり、他の駆動回転体を備えていない。この箇所は昇降装置10の回動中心になる箇所であるため、湾曲部3eを通過するために昇降装置10が当該箇所を通るピッチ軸回りで回動して姿勢変化しても、当該箇所を挟持する駆動輪11及び従動輪12の挟持力を安定して維持することができる。したがって、本実施形態によれば、昇降装置10は、湾曲部3eを通過する際、挟持力が不足して滑りが発生するような事態が生じず、また、挟持力が過剰になって過大な駆動負荷が発生するような事態も生じず、スムーズに湾曲部3eを通過することができる。
【0061】
図8は、昇降装置10の駆動輪11及び従動輪12に挟持されているエスコートレール3の挟持箇所を基準にして進行方向前方のエスコートレール部分が昇降装置10の装着側(図8中右側)に湾曲している湾曲部3fを通過するときの昇降装置10を示す側面図である。
昇降装置10の進行方向前方のサポートローラ13Aが図8に示すような湾曲部3fに差し掛かると、湾曲部3fにおけるレール壁部3cの外壁面に当接している前方のサポートローラ13Aが、湾曲部3fの湾曲形状に応じて側面フレーム21側(図7中右側)へ押されて変位する。
【0062】
このとき、本実施形態の昇降装置10は、上述したように、駆動輪11及び従動輪12が挟持しているエスコートレール3の挟持箇所が、レール長手方向において1箇所のみであるため、当該挟持箇所を通るピッチ軸を中心にして回動することができる。よって、前方のサポートローラ13Aが図8に示す湾曲部3fの湾曲形状に応じて側面フレーム21側(図7中右側)へ押されて変位すると、当該ピッチ軸を中心に昇降装置10が回動する。一方で、このように昇降装置10が回動すると、後方のサポートローラ13Bがエスコートレール3のレール壁部3c側へ押されることになる。
【0063】
その結果、湾曲部3fを通過する間、駆動輪11及び従動輪12の前後にそれぞれ配置されているサポートローラ13A,13Bは、リニアガイド21aの可動域内で、付勢部材の付勢力に抗して、湾曲部3f又はその前後のレール部分の形状に応じて変位し、昇降装置10の姿勢を維持する。これにより、昇降装置10が湾曲部3fを通過するときに、昇降装置10の本体フレーム20等がエスコートレール3に接触することがなく、昇降装置10はスムーズに湾曲部3fを通過することができる。
【0064】
また、上述したように、本実施形態においては、エスコートレールに当接して昇降装置10を駆動する駆動輪11は、湾曲部3fを通過するときに昇降装置10が回動するピッチ軸となる箇所でエスコートレール3を挟持する2つの車輪11,12のうちの少なくとも一方の車輪のみであり、他の駆動回転体を備えていない。この箇所は昇降装置10の回動中心になる箇所であるため、湾曲部3fを通過するために昇降装置10が当該箇所を通るピッチ軸回りで回動して姿勢変化しても、当該箇所を挟持する駆動輪11及び従動輪12の挟持力を安定して維持することができる。したがって、本実施形態によれば、昇降装置10は、湾曲部3fを通過する際、挟持力が不足して滑りが発生するような事態が生じず、また、挟持力が過剰になって過大な駆動負荷が発生するような事態も生じず、スムーズに湾曲部3fを通過することができる。
【0065】
なお、湾曲部3fを通過する際、湾曲部3f又はその前後のレール部分の形状により、駆動輪11及び従動輪12の前後のサポートローラ13A,13Bが付勢部材による付勢力に抗して側面フレーム21側に押し込まれる。そのため、エスコートレール3のレール壁部3cとサポートローラ13A,13Bとの当接圧が上昇し、サポートローラ13A,13Bを支持する側面フレーム21がエスコートレール3から離れる方向へ押される。その結果、側面フレーム21に支持されている駆動輪11をエスコートレール3から離す方向への力が大きくなり、駆動輪11及び従動輪12がエスコートレール3のレール壁部3cを挟持する挟持力が小さくなる。
【0066】
しかしながら、駆動輪11及び従動輪12の挟持力を作用させる圧縮バネ25の付勢力は、サポートローラ13A,13Bの付勢部材の付勢力に比べて十分に大きいものである。そのため、湾曲部3fを通過する際も、駆動輪11及び従動輪12の挟持力は安定して維持され、挟持力が不足して滑りが発生するような事態が生じず、スムーズに湾曲部3fを通過することができる。
【0067】
また、駆動輪11及び従動輪12の前後のサポートローラ13A,13Bがリニアガイド21aの可動域を超えて側面フレーム21側に押し込まれるほど湾曲部3fが大きく湾曲している場合、駆動輪11及び従動輪12の挟持力が不足して滑りが発生したり、あるいは、サポートローラ13A,13Bや駆動輪11とエスコートレール3との当接圧が過剰になって過大な駆動負荷が発生したりする事態が発生するおそれがある。
【0068】
このような事態の発生を抑制する方法としては、例えば、駆動輪11及び従動輪12と前後のサポートローラ13A,13Bとの距離(レール長手方向の距離)をなるべく短くしたり、サポートローラ13A,13Bを支持するリニアガイド21aの可動域を長くしたりすることが挙げられる。
【0069】
なお、本実施形態で昇降装置10が装着されて移動するエスコートレール3の形状は、本実施形態で説明したものに限られない。例えば断面形状がI字状のエスコートレールなど、他の形状のエスコートレールにも同様に適用可能である。
【0070】
また、本実施形態では、エスコートレール3に装着されて移動する昇降装置10の例を挙げたが、昇降装置10が装着されて移動する経路部材は、このようなエスコートレール3に限られない。例えば、対象の構造物に予め設置されている既存の経路部材であってもよいし、昇降装置10のために対象の構造物に新たに設置される経路部材であってもよい。
【0071】
次に、本実施形態の昇降装置10のアタッチメント部30に用途に応じた部材や装置等を装着した各種装置の例について説明する。
最初の例は、本実施形態の昇降装置10を用いて被運搬物をエスコートレール3に沿って運搬する運搬装置である。この運搬装置としては、被運搬物を収容したり装着したりする被運搬物の保持部(例えば被運搬物の収容かご)を、アタッチメント部30に装着したものが挙げられる。
【0072】
本実施形態における運搬装置は、例えば、図1に示すように、鉄塔1の上の作業場所で鉄塔1の修理や点検などの作業を行う作業者S1に対し、作業に必要な工具や機器などの作業用具を被運搬物として運搬する。このような作業用具をエスコートレール3に沿って作業者S1の作業場所まで運搬できることで、作業者S1は、梯子2を使って作業場所まで昇るときに作用用具を携帯する必要がなくなり、作業場所まで登るときの作業者S1の負担を軽減できる。また、作業場所において必要な作業用具が無いことに作業者S1が気づいたときに、その作業用具を作業場所まで人が届ける場合よりも、大幅に負担を軽減することができる。
【0073】
なお、本実施形態の運搬装置は、鉄塔1の上で作業する作業者S1の作業場所までエスコートレール3を利用して作業用具を運搬する例であるが、この例に限らず、湾曲部を含むような剛体の経路部材に沿って移動する移動装置を用いて被運搬物を運搬する運搬装置において広く適用可能なものである。
【0074】
次の例は、本実施形態の昇降装置10を用いて作業者S1の作業場所まで移動して、作業場所で作業する作業者S1を支援する作業支援装置である。この作業支援装置としては、作業場所で作業を行う作業者S1を支援する支援装置を、アタッチメント部30に装着したものが挙げられる。
【0075】
本実施形態における作業支援装置は、例えば、図1に示すように、作業者S1が鉄塔1の修理や点検などの作業を行う鉄塔1の上の作業場所に、その作業の支援を行う支援装置を提供することができる。これにより、例えば、作業場所で作業する作業者S1の作業負担を軽減したり、より適切な作業が行えるようにしたりすることができる。また、このような支援を受けるためには、従来は、作業者S1が梯子2を使って作業場所まで昇るときに支援装置を運ぶ必要があった。本実施形態では、支援装置をエスコートレール3に沿って作業者S1の作業場所まで移動させることができるため、作業場所まで登るときの作業者S1の負担を強いることなく、支援を行うことができる。
【0076】
アタッチメント部30に装着される支援装置としては、例えば、作業場所から離れた場所(鉄塔1の下の地上、あるいは、遠隔地になるオフィスなど)にいる支援者S2の送信装置としてのタブレット端末50から送信される支援情報を無線通信によって受信する受信部と、その受信部により受信した支援情報を作業者S1へ出力する出力部とを含む支援情報提供装置が挙げられる。このような支援情報提供装置によれば、支援者S2による支援情報(支援者S2による作業の指示や助言、作業マニュアルの内容、その他の作業を支援することのできる情報)を、出力部としての音出力部であるスピーカーから音声で出力して作業者S1に提供したり、出力部としての表示部であるディスプレイに画像で出力して作業者S1に提供したりすることができる。
【0077】
アタッチメント部30に装着される支援装置としては、例えば、作業場所を撮像する撮像部と、その撮像部で撮像した撮像画像情報を支援者S2の受信装置としてのタブレット端末50へ無線通信により送信する送信部とを含む情報収集装置が挙げられる。この情報収集装置によれば、作業場所から離れた場所にいる支援者S2に、作業場所を撮像した画像を提供することができるので、支援者S2は作業場所の状況を、作業者S1からの口頭説明(音声通信による説明)よりも正確に把握でき、支援者S2による適切な支援が可能となる。
【0078】
また、タブレット端末50の操作によって昇降装置10の動作を制御する場合と同様に、昇降装置10のアタッチメント部30に装着される支援装置の動作もタブレット端末50によって遠隔操作できるようにするのが好ましい。例えば、支援装置として前記情報収集装置を備えている場合、撮像部を支持しているジンバル等を制御して撮像方向を変更する動作など、撮像部の動作をタブレット端末50から遠隔操作できれば、支援者S2が求める画像を得やすく、より適切に作業場所の状況を支援者S2が把握できるようになる。
【0079】
なお、本実施形態の作業支援装置は、鉄塔1の上で作業する作業者S1を支援する例であるが、この例に限らず、湾曲部を含むような剛体の経路部材に沿って移動する移動装置を用いて作業場所まで移動して作業者を支援する作業支援装置において広く適用可能なものである。
【0080】
次の例は、本実施形態の昇降装置10を用いて作業場所まで作業装置を移動させて作業場所で作業装置により作業する移動作業装置である。この移動作業装置としては、作業場所で作業者S1に代わって又は作業者S1と共に作業を行う作業装置を、アタッチメント部30に装着したものが挙げられる。
【0081】
本実施形態における移動作業装置は、例えば、図1に示すように、作業者S1が鉄塔1の上で行っていた修理や点検(検査)などの作業の一部又は全部を行う作業装置を、昇降装置10により作業場所まで移動させて、当該作業を行うものである。これにより、作業者S1の作業負担を軽減したり、作業者S1の作業それ自体を無くしたりすることができる。
【0082】
アタッチメント部30に装着される作業装置としては、例えば、目視検査をする鉄塔1の対象部分を撮像する撮像部と、その撮像部で撮像した撮像画像情報を支援者S2の受信装置としてのタブレット端末50へ無線通信により送信する送信部とを含む検査装置が挙げられる。この検査装置によれば、作業場所から離れた場所にいる支援者S2に、目視検査の対象となる鉄塔部分の画像を提供することができるので、支援者S2は作業場所に行かずに、当該鉄塔部分の検査を行うことができる。
【0083】
また、アタッチメント部30に装着される作業装置としては、例えば、ロボットアームが挙げられる。ロボットアームによれば、適切なエンドエフェクタを用いることで、作業場所においてより自由度の高い多種多様な作業を実現することが可能である。
【0084】
また、タブレット端末50の操作によって昇降装置10の動作を制御する場合と同様に、昇降装置10のアタッチメント部30に装着される作業装置の動作もタブレット端末50によって遠隔操作できるようにするのが望まれる。例えば、作業装置として前記検査装置を備えている場合、撮像部の撮像方向を変更する動作など、撮像部の動作をタブレット端末50から遠隔操作できれば、支援者S2が求める画像を得やすく、より適切な検査を行うことができる。
【0085】
なお、本実施形態の移動作業装置は、鉄塔1の上の作業場所で作業を行う例であるが、この例に限らず、湾曲部を含むような剛体の経路部材に沿って移動する移動装置により作業装置を移動させて該作業場所で該作業装置により作業する移動作業装置において広く適用可能なものである。
【0086】
また、本実施形態の昇降装置10のアタッチメント部30に装着されるものは、上述したものに限られず、例えば、上述した被運搬物の保持部、支援装置、作業装置などを複数組み合わせて装着してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 :鉄塔
2 :梯子
3 :エスコートレール
3a :スリット
3b :立ち上げ部
3c :レール壁部
3d :側壁部
3e,3f:湾曲部
4 :リス
4a :車輪
4b :支持フレーム
4c :環状部
10 :昇降装置
11 :駆動輪
11a :駆動輪軸
11b :駆動ギヤ
12 :従動輪
12a :従動輪軸
13 :サポートローラ
13a :支持アーム
14 :ガイドローラ
15 :駆動モータ
15a :モータ軸
15b :モータギヤ
16 :ロータリーエンコーダ
17 :電磁ブレーキ
18 :収容ボックス
18A :通信部
18B :制御部
18C :電源部
19 :操作部
20 :本体フレーム
21 :側面フレーム
21a :リニアガイド
22 :連結部
22a :リブ
23 :従動輪軸支持フレーム
23a :ネジ止め部
24 :調整ネジ
24a :ネジ頭
25 :圧縮バネ
30 :アタッチメント部
50 :タブレット端末
S1 :作業者
S2 :操作者,支援者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8