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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091210
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】回転電機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02N 11/04 20060101AFI20220614BHJP
   B60K 6/24 20071001ALI20220614BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20220614BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20220614BHJP
   F02B 67/06 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
F02N11/04 D
B60K6/24
B60W10/08 900
B60W10/30 900
F02B67/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020203885
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆男
【テーマコード(参考)】
3D202
【Fターム(参考)】
3D202BB11
3D202CC51
3D202EE17
(57)【要約】
【課題】エンジンの始動時以外の場面における異音の発生を抑制する回転電機の制御装置を提供する。
【解決手段】CPU110は、要求トルクの正負が切替わるときに、指令トルクを0Nmに向けて変化させる第1処理を行ない、第1処理後に指令トルクを0Nmに保持する第2処理を行ない、第2処理後に指令トルクを要求トルクに向けて変化させる第3処理を行なう。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸にベルトを介して連結される回転軸を有する回転電機の制御装置であって、
前記内燃機関には、
前記ベルトの送り方向において前記回転軸の上流側に位置する前記ベルトに張力を付与する第1テンショナプーリと、
前記ベルトの送り方向において前記回転軸の下流側に位置する前記ベルトに張力を付与する第2テンショナプーリと、が設けられ、
前記制御装置は、
前記回転電機に対して要求されるトルクである要求トルクに基づいて指令トルクを生成する制御部と、
前記指令トルクを前記回転電機に出力する出力部と、を備え、
前記制御部は、前記要求トルクの正負が切替わるときに、
前記指令トルクを0に向けて変化させる第1処理を行ない、
前記第1処理後に前記指令トルクを0に保持する第2処理を行ない、
前記第2処理後に前記指令トルクを前記要求トルクに向けて変化させる第3処理を行なう、回転電機の制御装置。
【請求項2】
前記第1処理は、単位時間当たりのトルクの変化量が第1変化量となるように前記指令トルクを0に向けて変化させる処理であり、
前記第3処理は、単位時間当たりのトルクの変化量が第2変化量となるように前記指令トルクを前記要求トルクに向けて変化させる処理であり、
前記第1変化量は、前記第2変化量よりも小さい、請求項1に記載の回転電機の制御装置。
【請求項3】
前記第2処理は、前記第1処理によって生じる前記第1テンショナプーリまたは前記第2テンショナプーリの揺れ幅が所定値未満となるまでの期間、前記指令トルクを0に保持する処理である、請求項1または請求項2に記載の回転電機の制御装置。
【請求項4】
前記第1テンショナプーリは第1アームの先端に回転可能に支持され、
前記第2テンショナプーリは第2アームの先端に回転可能に支持され、
前記第1アームの基部と前記第2アームの基部とは弾性体により接続され、
前記内燃機関には、
前記第1アーム側の前記ベルトの外側への変位を規制する第1部材と、
前記第2アーム側の前記ベルトの外側への変位を規制する第2部材と、がさらに設けられ、
前記指令トルクが前記ベルトの送り方向と逆向きとなるときは、前記第1アームと前記第1部材とが離れ、前記第2アームと前記第2部材とが接触し、
前記指令トルクが前記ベルトの送り方向と同じ向きとなるときは、前記第1アームと前記第1部材とが接触し、前記第2アームと前記第2部材とが離れる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の回転電機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関(エンジン)のクランク軸にベルトを介して連結される回転軸を有する回転電機(モータジェネレータ)の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-138291号公報(特許文献1)には、エンジンのクランク軸にベルトを介して連結される回転軸を有するモータジェネレータの制御装置が開示されている。特許文献1において、制御装置は、エンジンの始動時の制御としてトルクを出力する処理を開始した後、当該処理を一旦中断しモータジェネレータのトルクを一定に保持した後に、トルクを出力する処理を再開する。これにより、特許文献1においては、エンジン始動時に生じる異音の発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-138291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された制御装置においては、エンジンの始動時以外の場面における異音の発生状況が考慮されていなかった。
【0005】
本開示の目的は、エンジンの始動時以外の場面における異音の発生を抑制する回転電機の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の回転電機の制御装置のある局面に従うと、内燃機関のクランク軸にベルトを介して連結される回転軸を有する回転電機の制御装置であって、上記内燃機関には、上記ベルトの送り方向において上記回転軸の上流側に位置する上記ベルトに張力を付与する第1テンショナプーリと、上記ベルトの送り方向において上記回転軸の下流側に位置する上記ベルトに張力を付与する第2テンショナプーリと、が設けられ、上記制御装置は、上記回転電機に対して要求されるトルクである要求トルクに基づいて指令トルクを生成する制御部と、上記指令トルクを上記回転電機に出力する出力部と、を備え、上記制御部は、上記要求トルクの正負が切替わるときに、上記指令トルクを0に向けて変化させる第1処理を行ない、上記第1処理後に上記指令トルクを0に保持する第2処理を行ない、上記第2処理後に上記指令トルクを上記要求トルクに向けて変化させる第3処理を行なう。
【0007】
上記構成によれば、要求トルクの正負が切替わるときに第1処理、第2処理、第3処理を行なうことによって、同じ変化率で緩やかに指令トルクを変化させる場合に比べ、短い時間で効果的に指令トルクを変化させることが可能となり、異音の発生を抑制することができる。
【0008】
上記の回転電機の制御装置において、上記第1処理は、単位時間当たりのトルクの変化量が第1変化量となるように上記指令トルクを0に向けて変化させる処理であり、上記第3処理は、単位時間当たりのトルクの変化量が第2変化量となるように上記指令トルクを上記要求トルクに向けて変化させる処理であり、上記第1変化量は、上記第2変化量よりも小さい。
【0009】
上記の回転電機の制御装置において、上記第2処理は、上記第1処理によって生じる上記第1テンショナプーリまたは上記第2テンショナプーリの揺れ幅が所定値未満となるまでの期間、上記指令トルクを0に保持する処理である。
【0010】
上記の回転電機の制御装置において、上記第1テンショナプーリは第1アームの先端に回転可能に支持され、上記第2テンショナプーリは第2アームの先端に回転可能に支持され、上記第1アームの基部と上記第2アームの基部とは弾性体により接続され、上記内燃機関には、上記第1アーム側の上記ベルトの外側への変位を規制する第1部材と、上記第2アーム側の上記ベルトの外側への変位を規制する第2部材と、がさらに設けられ、上記指令トルクが上記ベルトの送り方向と逆向きとなるときは、上記第1アームと上記第1部材とが離れ、上記第2アームと上記第2部材とが接触し、上記指令トルクが上記ベルトの送り方向と同じ向きとなるときは、上記第1アームと上記第1部材とが接触し、上記第2アームと上記第2部材とが離れる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、エンジンの始動時以外の場面における異音の発生を抑制する回転電機の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】制御装置およびエンジンを示す模式図である。
図2】発電時のテンショナの状態を説明するための模式図である。
図3】アシスト時のテンショナの状態を説明するための模式図である。
図4】指令トルク算出処理を示すフローチャートである。
図5】発電時のMGトルクの遷移を示すグラフである。
図6】アシスト時のMGトルクの遷移を示すグラフである。
図7】MGトルクと変化量ガード値との関係の一例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。実施の形態における構成を適宜組み合わせて用いることは当初から予定されていることである。
【0014】
[制御装置100およびエンジン1について]
図1は、制御装置100およびエンジン1を示す模式図である。本実施の形態のエンジン1は、いわゆるマイルドハイブリッド車両に搭載されるエンジンである。エンジン1は、所定の条件が成立すると、後述のモータジェネレータ90(以下、MGとも称する)が力行作動されることにより始動される。モータジェネレータ90は、車両の低速走行時や、加速時にも力行作動されてクランクシャフトの回転を補助する。モータジェネレータ90は、車両の減速時などには、回生作動されて発電を行なう。
【0015】
エンジン1のクランクシャフトには、クランクプーリ2が固定されている。エンジン1のウォーターポンプの回転軸には、ウォータポンププーリ4が固定されている。回転電機であるモータジェネレータ90の回転軸91には、モータプーリ5が固定されている。エアコンディショナの圧縮機の回転軸には、エアコンプーリ6が固定されている。
【0016】
クランクプーリ2、ウォータポンププーリ4、モータプーリ5、エアコンプーリ6の順にベルト7が巻き掛けられている。クランクプーリ2とウォータポンププーリ4との間のベルト7には、アイドラプーリ3が巻き掛けられている。ベルト7の送り方向は、図1において右回り(図1に示す矢印R方向)になっている。
【0017】
モータプーリ5に巻き掛けられているベルト7には、テンショナ10によって所定の張力が付与されている。テンショナ10は、ベルト7の送り方向において回転軸91に固定されるモータプーリ5の上流側に位置するベルト7(モータプーリ5とウォータポンププーリ4との間のベルト7)に張力をかける第1テンショナプーリ11を備えている。第1テンショナプーリ11は、第1軸13によって回動可能に支持された第1アーム12の先端に回転可能に支持されている。
【0018】
テンショナ10は、ベルト7の送り方向において回転軸91に固定されるモータプーリ5の下流側に位置するベルト7(モータプーリ5とエアコンプーリ6との間のベルト7)に張力をかける第2テンショナプーリ15を備えている。第2テンショナプーリ15は、第2軸17によって回動可能に支持された第2アーム16の先端に回転可能に支持されている。
【0019】
第1アーム12において第1テンショナプーリ11が配設された端部の反対側の端部(第1アーム12の基部)と、第2アーム16において第2テンショナプーリ15が配設された端部の反対側の端部(第2アーム16の基部)とは、スプリング18により繋がっている。
【0020】
第1テンショナプーリ11および第2テンショナプーリ15は、スプリング18の付勢力により、互いに近づくように付勢されている。第1テンショナプーリ11および第2テンショナプーリ15の付勢力により、モータプーリ5の上流側に位置するベルト7およびモータプーリ5の下流側に位置するベルト7には、トルク伝達を行なう上で最適な張力が付与されている。
【0021】
制御装置100は、エンジン1を制御対象とし、エンジン1の各種操作対象機器(燃料噴射弁など)を操作することによって、エンジン1の各種制御を実施する。制御装置100は、モータジェネレータ90を制御対象とし、モータ電流を制御することにより、モータジェネレータ90の力行作動や回生作動といった制御を実施する。
【0022】
制御装置100は、各種制御を実施する際、クランク角センサ210の出力信号Scrから算出される機関回転速度NEを参照する。制御装置100は、アクセルセンサ220によって検出されるアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量ACCPを参照する。制御装置100は、圧力センサ230によって検出される車両用ブレーキのマスタシリンダ内の液圧であるブレーキ圧BPを参照する。各種センサによって検出された情報は、入力ポート130を介して制御装置100に入力される。
【0023】
制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)110および記憶部120を備える。記憶部120は、ROM(read only memory)およびRAM(Random Access Memory)を含む。CPU110は、ROMに記憶されたプログラムを実行することにより各種制御を実行する。CPU110は、出力ポート140を介してモータジェネレータ90に信号を送信する。
【0024】
CPU110は、例えば、要求トルクに基づいて指令トルクを生成し、モータジェネレータ90に出力する。要求トルクとは、モータジェネレータ90に対して要求されるトルクである。要求トルクは、電池の充電状態、自動車の走行状況等に応じて、制御装置100の記憶部120におけるRAMで算出される。要求トルクは、例えば、運転者によるアクセル操作量ACCPと車速とに基づいて、あるいは電池の充電状態に基づいて設定される。指令トルクとは、要求トルクに基づいてCPU110により生成されるトルクである。モータジェネレータ90は、CPU110から出力される指令トルクに関する信号に基づいて、回転軸91にトルクを生じさせる。モータジェネレータ90の出力トルクは、モータプーリ5を介してベルト7に伝達される。
【0025】
モータジェネレータ90は、指令トルクが正のときに力行作動され、指令トルクが負のときに回生作動される。以下では、モータジェネレータ90が、力行作動されるときをアシスト時、回生作動されるときを発電時とも称する。
【0026】
[テンショナ10について]
テンショナ10について、図2図3を用いて詳細に説明する。図2は、発電時のテンショナ10の状態を説明するための模式図である。図3は、アシスト時のテンショナの状態を説明するための模式図である。図2および図3においては、説明に不要な部材については省略しているものがある。
【0027】
図2および図3に示すように、第1アーム12は、第1軸13によって回動可能に指示されている。第1アーム12の端部12aには、第1テンショナプーリ11が回動可能に支持されている。第1アーム12の端部12aと第1軸13との間には、第1アーム12と一体的に動作する樹脂製の第1係止部31が固定されている。第2アーム16は、第2軸17によって回動可能に指示されている。第2アーム16の端部16aには、第2テンショナプーリ15が回動可能に支持されている。第2アーム16の端部16aと第2軸17との間には、第2アーム16と一体的に動作する樹脂製の第2係止部32が固定されている。
【0028】
図2および図3に示すように、第1アーム12の基部12bと第2アーム16の基部16bとは、スプリング18により接続されている。第1アーム12の第1軸13と第2アーム16の第2軸17とは、エンジン1に接続される台座20に固定されている。台座20には、第1アーム12の第1係止部31に対応する位置に、第1部材としての第1マウント部21が設けられ、第2アーム16の第2係止部32に対応する位置に、第2部材としての第2マウント部22が設けられている。
【0029】
図2に示すように、モータジェネレータ90の回生動作時には、ベルト7の送り方向とは逆向きの負トルクがモータプーリ5に生じる。負トルクが生じることにより、モータプーリ5の上流側に位置するベルト7が緩み、モータプーリ5の下流側に位置するベルト7が引っ張られる。第1テンショナプーリ11は、モータプーリ5の上流側に位置するベルト7が緩むことによりベルト7の内側方向(図2に示す太矢印方向)に移動する。第1テンショナプーリ11は、第1軸13を中心に回動する第1アーム12が回動することによりベルト7の内側方向へ移動する。第1アーム12の動作により、第1アーム12の第1係止部31の接触面31aと第1マウント部21の接触面21aとが離れ、隙間が生じる。
【0030】
図2に示すように、モータジェネレータ90の回生動作時には、第2テンショナプーリ15は、モータプーリ5の下流側に位置するベルト7が引っ張られることによりベルト7の外側方向へ移動しようとする。第2テンショナプーリ15は、第2軸17を中心に回動する第2アーム16が回動することによりベルト7の外側方向へ移動しようとする。第2アーム16は、第2アーム16の第2係止部32の接触面32aと第2マウント部22の接触面22aとが接触することにより、ベルト7の外側への変位が規制される。
【0031】
テンショナ10において、モータジェネレータ90より発生するトルクが0Nmであるときは、図2と同様の状態となる。トルクが0Nmであるときは、ベルト7が送り方向へ回転することにより、第1アーム12の第1係止部31の接触面31aと第1マウント部21の接触面21aとが離れ、隙間が生じ、第2アーム16の第2係止部32の接触面32aと第2マウント部22の接触面22aとが接触することにより、ベルト7の外側への変位が規制される。
【0032】
図3に示すように、モータジェネレータ90の力行作動時には、ベルト7の送り方向と同じ向きの正トルクがモータプーリ5に生じる。正トルクが生じることにより、モータプーリ5の上流側に位置するベルト7が引っ張られ、モータプーリ5の下流側に位置するベルト7が緩む。第1テンショナプーリ11は、モータプーリ5の上流側に位置するベルト7が引っ張られることによりベルト7の外側方向へ移動しようとする。第1テンショナプーリ11は、第1軸13を中心に回動する第1アーム12が回動することによりベルト7の外側方向へ移動しようとする。第1アーム12は、第1アーム12の第1係止部31の接触面31aと第1マウント部21の接触面21aとが接触することにより、ベルト7の外側への変位が規制される。
【0033】
図3に示すように、モータジェネレータ90の力行作動時には、第2テンショナプーリ15は、モータプーリ5の下流側に位置するベルト7が緩むことによりベルト7の内側方向(図3に示す太矢印方向)に移動する。第2テンショナプーリ15は、第2軸17を中心に回動する第2アーム16が回動することによりベルト7の内側方向へ移動する。第2アーム16の動作により、第2アーム16の第2係止部32の接触面32aと第2マウント部22の接触面22aとが離れ、隙間が生じる。
【0034】
モータジェネレータ90の要求トルクの正負が切替わるときは、テンショナ10に異音が発生する可能性がある。異音は、第1係止部31の接触面31aと第1マウント部21の接触面21aとの間、第2係止部32の接触面32aと第2マウント部22の接触面22aとの間において各接触面が接触と非接触とを繰り返すことにより発生する可能性がある。具体的に、モータジェネレータ90の要求トルクの正負が切替わるときは、引っ張られていたベルト7が緩む際に一時的にベルト7が振動する。この振動により、第1テンショナプーリ11が振動することで第1アーム12が振動し、第2テンショナプーリ15が振動することで第2アーム16が振動する。第1アーム12または第2アーム16の振動により各接触面が接触と非接触とを繰り返すことがある。特に、急激に正トルクと負トルクとが切替わるときには、ベルト7の振動がより大きくなるため、各接触面における接触時の衝撃から異音発生の可能性が高まる。
【0035】
[指令トルク算出処理について]
本実施の形態では、異音発生を防止するために制御装置100が指令トルクを算出する処理を実行する。制御装置100が実行する処理は、CPU110が実行する処理でもある。図4を参照して、指令トルク算出処理について説明する。図4は、指令トルク算出処理を示すフローチャートである。
【0036】
CPU110は、指令トルク算出処理において、要求トルクを設定するステップS(以下、単に「S」と示す)1を実行する。次に、CPU110は、要求トルクの正負切替え時であるか否かを判定する(S2)。CPU110は、要求トルクが正トルクから負トルクに切り替わる場合、あるいは要求トルクが負トルクから正トルクに切り替わる場合に要求トルクの正負切替え時であると判定する。
【0037】
CPU110は、S2において要求トルクの正負切替え時でないと判定した場合(S2のNO)には、処理を終了する。CPU110は、S2において要求トルクの正負切替え時であると判定した場合(S2のYES)には、要求トルクに応じた正負切替え時の第1変化量ガード値を設定する(S3)。変化量ガード値とは、トルクの変化量が適正範囲となるように予め定められた単位時間当たりのトルクの変化量を示すガード値である。
【0038】
次に、CPU110は、第1処理として、単位時間当たりのトルクの変化量が第1変化量ガード値に基づいた第1変化量となるように指令トルクを0Nmに向けて変化させる(S4)。次に、CPU110は、指令トルクが0Nmとなったか否かを判定する(S5)。CPU110は、S5において指令トルクが0Nmとなっていないと判定した場合(S5のNO)は、S5の処理を繰り返す。
【0039】
CPU110は、S5において指令トルクが0Nmとなっていると判定した場合(S5のYES)は、第2処理として、第1処理によって生じる第1テンショナプーリ11または第2テンショナプーリ15の揺れ幅が所定値未満となるまでの期間、指令トルクを0Nmに保持する処理を開始する(S6)。次に、CPU110は、0Nm保持期間が終了したか否かを判定する(S7)。CPU110は、S7において0Nm保持期間が終了していないと判定した場合(S7のNO)は、S7の処理を繰り返す。
【0040】
CPU110は、S7において0Nm保持期間が終了したと判定した場合(S7のYES)は、S8の処理へ移行する。CPU110は、第1処理の終了後から第1テンショナプーリ11または第2テンショナプーリ15の揺れ幅が所定値未満(例えば、0)となるまでの期間が終了したか否かを判定することにより0Nm保持期間が終了したか否かを判定する。第1テンショナプーリ11または第2テンショナプーリ15の揺れ幅が所定値未満(例えば、0)となるまでの期間は、予め設定されている。
【0041】
次に、CPU110は、通常の変化量ガード値として第2変化量ガード値を設定する(S8)。通常の変化量ガード値である第2変化量ガード値は、第1変化量ガード値よりも大きい。言い換えれば、第1変化量ガード値は、第2変化量ガード値よりも小さい。次に、CPU110は、第3処理として、単位時間当たりのトルクの変化量が第2変化量ガード値に基づいた第2変化量となるように指令トルクを要求トルクに向けて変化させる(S9)。次に、CPU110は、指令トルクが要求トルクとなったか否かを判定する(S10)。CPU110は、S10において指令トルクが要求トルクとなっていないと判定した場合(S10のNO)は、S10の処理を繰り返す。CPU110は、S10において指令トルクが要求トルクとなっていると判定した場合(S10のYES)は、処理を終了する。
【0042】
図4の要求トルク算出処理に基づいたMGトルクの遷移について説明する。図5は、発電時のMGトルクの遷移を示すグラフである。図6は、アシスト時のMGトルクの遷移を示すグラフである。図5および図6のグラフにおける横軸は時間、縦軸はモータージェネレータトルク(MGトルク)を表している。図5および図6のグラフにおける実線は、MGトルクの遷移を表し、グラフにおける破線は、要求トルクの遷移を表している。
【0043】
図5に示すように、CPU110は、発電時においてアシスト要求トルクL1を発電要求トルクL5に向けてグラフの実線に沿って遷移させる。アシスト要求トルクは、正トルクとして示されるアシスト時の要求トルクを示している。発電要求トルクは、負トルクとして示される発電時の要求トルクを示している。
【0044】
図5に示すように、要求トルクをそのまま指令トルクとした場合には、アシスト要求トルクL1から破線で示す要求トルクL6、要求トルクL7と遷移し、発電要求トルクL5へと遷移する。このような場合、要求トルクが正トルクから負トルクに急激に入れ替わるため、ベルト7の振動によりテンショナ10で異音が発生する可能性がある。
【0045】
本実施の形態では、要求トルクの正負が切替わるときのテンショナ10における異音の発生を防止するために変化量ガード値に基づいて指令トルクを変化させる。図5に示すように、CPU110は、時刻t1からt2の期間第1変化量ガード値に基づいて指令トルクL2を0Nmに向けて変化させる。このため、通常変化量ガード値を用いるよりもベルト7の揺れを抑制することができる。
【0046】
CPU110は、時刻t2からt3の期間指令トルクを0Nmに保持する。このため、ベルト7に生じる揺れを収束することができる。CPU110は、時刻t3からt4の期間第2変化量ガード値に基づいて指令トルクを発電要求トルクL5に向けて変化させる。このため、指令トルクを好適に要求トルクに向けて変化させることができる。
【0047】
図5に示すように、指令トルクL2のグラフの傾きは、指令トルクL4のグラフの傾きよりも緩やかである。つまり、指令トルクL2における単位時間当たりのMGトルクの変化量は、指令トルクL4における単位時間当たりのMGトルクの変化量よりも小さい。このため、本実施の形態では、MGトルクを最初に緩やかに変化させた後、0Nm保持期間後に短い期間で指令トルクを要求トルクとすることができる。
【0048】
図6に示すように、CPU110は、アシスト時において発電要求トルクL11をアシスト要求トルクL15に向けてグラフの実線に沿って遷移させる。図6に示すように、変化量ガード値を設定しない場合は、発電要求トルクL11から破線で示す要求トルクL16、要求トルクL17と遷移し、アシスト要求トルクL17へと遷移する。このような場合、要求トルクが負トルクから正トルクに急激に入れ替わるため、テンショナ10で異音が発生する可能性がある。
【0049】
本実施の形態では、要求トルクの正負が切替わるときのテンショナ10における異音の発生を防止するために変化量ガード値に基づいて指令トルクを変化させる。図6に示すように、CPU110は、時刻t11からt12の期間第1変化量ガード値に基づいて指令トルクL12を0Nmに向けて変化させる。このため、通常変化量ガード値を用いるよりもベルト7の揺れを抑制することができる。
【0050】
CPU110は、時刻t2からt3の期間指令トルクを0Nmに保持する。このため、ベルト7に生じる揺れを収束することができる。CPU110は、時刻t3からt4の期間第2変化量ガード値に基づいて指令トルクを発電要求トルクL5に向けて変化させる。このため、指令トルクを好適に要求トルクに向けて変化させることができる。
【0051】
図6に示すように、指令トルクL12のグラフの傾きは、指令トルクL14のグラフの傾きよりも緩やかである。つまり、指令トルクL12における単位時間当たりのMGトルクの変化量は、指令トルクL14における単位時間当たりのMGトルクの変化量よりも小さい。このため、本実施の形態では、指令トルクを最初に緩やかに変化させた後、0Nm保持期間後に短い期間で指令トルクを要求トルクとすることができる。
【0052】
図7は、MGトルクと変化量ガード値との関係の一例を示す表である。図7の変化量ガード値は、MGトルクを変化させる第1変化量ガード値の値を示している。図7に示すように、MGトルクが0Nm、10Nmのように低いときは、単位時間当たりのトルクの変化量が1(Nm/8ms)と小さい。図7に示すように、MGトルクが50Nmのときは、単位時間当たりのトルクの変化量が20(Nm/8ms)と大きくなり、MGトルクが100Nmのときは、単位時間当たりのトルクの変化量が50(Nm/8ms)とさらに大きくなる。
【0053】
つまり、本実施の形態では、0Nmから離れた範囲では変化率を大きくし追従性を向上させるとともに、0Nmに近い範囲では変化率を小さくしベルト7の揺れを防止している。本実施の形態では、図7のような第1変化量ガード値を設定することにより、要求トルクに対する指令トルクの追従遅れを防止しつつ、ベルト7の振動を効果的に抑え異音の発生を抑制することができる。
【0054】
<作用・効果>
本実施の形態によるモータジェネレータ90の制御装置100は、エンジン1のクランクシャフトにベルト7を介して連結される回転軸91を有している。エンジン1には、ベルト7の送り方向において回転軸91の上流側に位置するベルト7に張力を付与する第1テンショナプーリ11と、ベルト7の送り方向において回転軸91の下流側に位置するベルト7に張力を付与する第2テンショナプーリ15と、が設けられている。制御装置100は、モータジェネレータ90に対して要求されるトルクである要求トルクに基づいて指令トルクを生成するCPU110と、モータジェネレータ90の出力トルクを指令トルクとするための信号をモータジェネレータ90に出力する出力ポート140と、を備える。CPU110は、要求トルクの正負が切替わるときに、指令トルクを0Nmに向けて変化させる第1処理を行ない、第1処理後に指令トルクを0Nmに保持する第2処理を行ない、第2処理後に指令トルクを要求トルクに向けて変化させる第3処理を行なう。
【0055】
上記構成によれば、要求トルクの正負が切替わるときに第1処理、第2処理、第3処理を行なうことによって、要求トルクに対する指令トルクの追従遅れを防止しつつ、ベルト7の振動を効果的に抑え異音の発生を抑制することができる。
【0056】
本実施の形態における第1処理は、単位時間当たりのトルクの変化量が第1変化量ガード値に基づいた第1変化量となるように指令トルクを0に向けて変化させる処理であり、第3処理は、単位時間当たりのトルクの変化量が第2変化量ガード値に基づいた第2変化量となるように指令トルクを要求トルクに向けて変化させる処理であり、第1変化量は、第2変化量よりも小さい。
【0057】
上記構成によれば、第1処理により指令トルクを最初に緩やかに変化させた後、0Nm保持期間後に第3処理により第1処理による期間よりも短い期間で指令トルクを要求トルクとすることができる。
【0058】
本実施の形態における第2処理は、第1処理によって生じる第1テンショナプーリ11または第2テンショナプーリ15の揺れ幅が所定値未満(例えば、0)となるまでの期間、指令トルクを0Nmに保持する処理である。
【0059】
上記構成によれば、第1テンショナプーリ11または第2テンショナプーリ15における揺れが収まるまで指令トルクが0Nmに保持されるため、第1テンショナプーリ11または第2テンショナプーリ15の揺れによる異音の発生を効果的に防ぐことができる。
【0060】
本実施の形態において、第1テンショナプーリ11は第1アーム12の先端に回転可能に支持され、第2テンショナプーリ15は第2アーム16の先端に回転可能に支持され、第1アーム12の基部12bと第2アーム16の基部16bとはスプリング18により接続されている。エンジン1には、第1アーム12側のベルト7の外側への変位を規制する第1マウント部21と、第2アーム16側のベルト7の外側への変位を規制する第2マウント部22と、がさらに設けられている。指令トルクがベルト7の送り方向と逆向きとなるときは、第1アーム12と第1マウント部21とが離れ、第2アーム16と第2マウント部22とが接触する。指令トルクがベルト7の送り方向と同じ向きとなるときは、第1アーム12と第1マウント部21とが接触し、第2アーム16と第2マウント部22とが離れる。
【0061】
上記構成によれば、指令トルクがベルト7の送り方向と逆向きとなるときは、第1アーム12と第1マウント部21との間での異音を防止し、指令トルクがベルト7の送り方向と同じ向きとなるときは、第2アーム16と第2マウント部22との間での異音を防止することができる。
【0062】
<他の実施の形態>
テンショナ10においては、CPU110が何の処理もしていなければ第1テンショナプーリ11とベルト7とが接触する際、または第2テンショナプーリ15とベルト7とが接触する際に異音が発生することも考えられる。具体的には、モータジェネレータ90の要求トルクの正負が切替わるとき、引っ張られていたベルト7が緩む際に一時的にベルト7が振動することにより、第1テンショナプーリ11または第2テンショナプーリ15からベルト7が離れ、離れたベルト7が再び第1テンショナプーリ11または第2テンショナプーリ15と接触したときに異音(叩き音)が発生することが考えられる。CPU110は、要求トルクの正負が切替わるときに、指令トルクを0Nmに向けて変化させる第1処理を行ない、第1処理後に指令トルクを0Nmに保持する第2処理を行ない、第2処理後に指令トルクを要求トルクに向けて変化させる第3処理を行なう。このため、テンショナ10においては、第1テンショナプーリ11とベルト7との間、または第2テンショナプーリ15とベルト7との間における異音の発生を防止することができる。
【0063】
本実施の形態では、2本のアームによりベルト7に張力をかける2アームテンショナの機構について説明した。上記した各処理は、1本のアームによりベルト7に張力をかける1アームテンショナにおいて実行してもよい。CPU110は、1アームテンショナにおいて、要求トルクの正負が切替わるときに、指令トルクを0Nmに向けて変化させる第1処理を行ない、第1処理後に指令トルクを0Nmに保持する第2処理を行ない、第2処理後に指令トルクを要求トルクに向けて変化させる第3処理を行なうようにすればよい。
【0064】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
1 エンジン、2 クランクプーリ、3 アイドラプーリ、4 ウォータポンププーリ、5 モータプーリ、6 エアコンプーリ、7 ベルト、10 テンショナ、11 第1テンショナプーリ、12 第1アーム、13 第1軸、15 第2テンショナプーリ、16 第2アーム、17 第2軸、12a,16a 端部、12b,16b 基部、18 スプリング、20 台座、21 第1マウント部、22 第2マウント部、21a,22a,31a,32a 接触面、31 第1係止部、32 第2係止部、90 モータジェネレータ、91 回転軸、100 制御装置、120 記憶部、130 入力ポート、140 出力ポート、210 クランク角センサ、220 アクセルセンサ、230 圧力センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7