(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091314
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】クラスター制御培養による樹状細胞の調製法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0784 20100101AFI20220614BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20220614BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220614BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
C12N5/0784
A61K35/15 Z
A61P37/04
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204084
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】520431269
【氏名又は名称】株式会社アルプ再生医療研究所
(71)【出願人】
【識別番号】507189460
【氏名又は名称】学校法人金沢医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下平 滋隆
(72)【発明者】
【氏名】小屋 照継
(72)【発明者】
【氏名】坂本 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】▲研▼ 美紗
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065BB08
4B065BB19
4B065BC50
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB64
4C087CA04
4C087DA32
4C087NA05
4C087ZB02
4C087ZB09
4C087ZB26
(57)【要約】
【課題】得られるDCの品質を向上させる、IL-4を用いた樹状細胞の調製法の提供。
【解決手段】末梢血より分離した単球を、IL-4及びGM-CSFを含む培地を用いて培養することにより樹状細胞へ分化誘導し、得られた未成熟樹状細胞をプロスタグランジンE2及びOK432の存在下で、クラスター制御培養により未成熟樹状細胞にスフェロイドを形成させた状態で成熟化することを含む、単球から抗原提示機能が高く細胞傷害性T細胞を誘導できる樹状細胞を調製する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢血より分離した単球を、IL-4及びGM-CSFを含む培地を用いて培養することにより樹状細胞へ分化誘導し、得られた未成熟樹状細胞をプロスタグランジンE2及びOK432の存在下で、クラスター制御培養により未成熟樹状細胞にスフェロイドを形成させた状態で成熟化することを含む、単球から抗原提示機能が高く細胞傷害性T細胞を誘導できる樹状細胞を調製する方法。
【請求項2】
クラスター制御培養をスフェロイド形成培養容器を用いて行う、請求項1記載の方法。
【請求項3】
未成熟樹状細胞を1.8×106cells/ml~2.2×106cells/mlの密度で、クラスター制御培養により未成熟樹状細胞にスフェロイドを形成させた状態で成熟化する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
IL-4及びGM-CSFを含む血清培地を用いて非接着培養により3日間~8日間培養した後、プロスタグランジンE2及びOK432を添加して10~36時間のクラスター制御培養により未成熟樹状細胞にスフェロイドを形成させた状態で成熟化することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
1ng/mL~1,000ng/mLのIL-4、10ng/mL~1,000ng/mLのGM-CSF、5ng/mL~50ng/mLのプロスタグランジンE2及び5μg/mL~50μg/mLのOK432を用いて培養する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
樹状細胞の成熟化の際に癌特異的抗原を添加する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
得られる樹状細胞の生細胞率が90%以上であり、培養時の単球数に対する得られた樹状細胞の数の割合である収率が15%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
得られる樹状細胞が、クラスター制御培養を行わないで調製した樹状細胞に比較して、CD80及びCD40の陽性率が増加し、さらに、CD80、CD86及びCD40の発現の強さ(ΔMFI)が増加している、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
得られる樹状細胞が、クラスター制御培養を行わずに調製したDCに比較して、IFN-γの産生が増加している、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
得られる樹状細胞が、クラスター制御培養を行わずに調製したDCに比較して、BCL2A1遺伝子の発現量が増加している、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
得られる樹状細胞が、クラスター制御培養を行わずに調製したDCに比較して、4℃、生理食塩水懸濁条件下での寿命が長い、請求項1~10のいずれか1項に記載の単球から樹状細胞を調製する方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の単球から樹状細胞を調製する方法により得られた樹状細胞。
【請求項13】
請求項12記載の樹状細胞を含む医薬組成物。
【請求項14】
抗癌免疫活性を有し、癌治療に用い得る、請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
樹状細胞におけるBCL2A1の遺伝子発現レベルを指標にして、樹状細胞の寿命を予測する方法であって、BCL2A1の遺伝子発現レベルが高い程、寿命が長いと予測する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単球から樹状細胞を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹状細胞(Dendritic cell: DC)は生体内の強力な抗原提示細胞であり、T細胞に抗原を提示することにより免疫応答を誘導することが知られている。また、DCはT細胞のみでなくB細胞、NK細胞、NKT細胞などとも直接作用し、免疫反応における中枢的役割を担う細胞であることが知られている。未成熟DCは抗原刺激を受けることによって、CD40、CD80、CD86などの発現上昇を伴い高いT細胞刺激能を獲得すると共に末梢リンパ組織に移行して、取り込んだ抗原に特異的なT細胞を活性化することによって免疫応答を誘導する。
【0003】
一般に、血液前駆細胞より樹状細胞の分化を誘導できると認められている物質として数種類のサイトカインが知られている。例えば、GM-CSFとIL-4の併用によるDCの分化誘導について多くの報告がある(非特許文献1)。その他に、単独であるいは他のサイトカインと併用することによりDCを分化誘導できる物質についても報告されており(非特許文献2)、例えば、TNF-α、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-12、IL-13、IL-15、HGF(Hepatocyte growth factor)、CD40リガンド、M-CSF、Flt3リガンド、c-kitリガンド、TGF-β等が報告されている。
【0004】
GM-CSFとIL-4を併用してDCを分化誘導する方法においては、接着培養法により行われ、単核球(単球とリンパ球)を培養皿に播種し、リンパ球を洗浄して、接着した単球を培養に用いる。GM-CSF/IL-4存在下で5~7日間の培養を行って、培地による洗浄作業、スクレイピング(物理的に剥ぎ取る)によって細胞を回収し、アジュバント(免疫賦活剤)OK432を含む培地(Fresh medium)に交換して、成熟化したDCを作製していた。
【0005】
また、G-CSFを用いた樹状細胞の調製方法(特許文献1)やIFNを用いた非接着培養による樹状細胞の調製方法(特許文献2)が報告されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2014/126250
【特許文献2】国際公開第WO2016/148179
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Akagawa K.S. et al., Blood, Vol.88, No.10 (November 15), 1996: pp.4029-4039
【非特許文献2】O'Neill D. W., et a., Blood, Vol.104, No.8 (October 15), 2004: pp.2235-2246
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
既評価のIL-4を用いた樹状細胞調製法は、低接着ディッシュで培養され、加工された特定細胞加工物(WT1-IL-4-樹状細胞ワクチン)の生細胞率や収率は良好であったが、IL-4を用いて調製した樹状細胞であるIL-4-樹状細胞(IL-4-DC)の品質のバラツキが大きな問題であり、成熟化が阻害されるという大きな課題があった。
【0009】
本発明は、IL-4を用いて調製したIL-4-DCの調製法であって、得られるDCの品質を向上させる調製法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、IL-4を用いた樹状細胞の調製法において、品質のバラツキが大きいという問題を鑑み、今回、品質が均一なIL-4-DCの製造法の最適化を検討した。その結果、(1)クラスター制御培養皿を用いて、均一な大きさのクラスターが形成されるクラスター制御培養(スフェロイド培養)を行うことにより、成熟化が促進され、IFN-γ産生が有意に増加し、さらに表面形質はIL-4を用いた従来の樹状細胞よりもより成熟度が促進された成熟型が得られることを見出した。さらに、クラスター制御培養により調製されたIL-4-DCにおいて、BCL2A1遺伝子の発現が増幅しており、樹状細胞の寿命が延長することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 末梢血より分離した単球を、IL-4及びGM-CSFを含む培地を用いて培養することにより樹状細胞へ分化誘導し、得られた未成熟樹状細胞をプロスタグランジンE2及びOK432の存在下で、クラスター制御培養により未成熟樹状細胞にスフェロイドを形成させた状態で成熟化することを含む、単球から抗原提示機能が高く細胞傷害性T細胞を誘導できる樹状細胞を調製する方法。
[2] クラスター制御培養をスフェロイド形成培養容器を用いて行う、[1]の方法。
[3] 未成熟樹状細胞を1.8×106cells/ml~2.2×106cells/mlの密度で、クラスター制御培養により未成熟樹状細胞にスフェロイドを形成させた状態で成熟化する、[1]又は[2]の方法。
[4] IL-4及びGM-CSFを含む血清培地を用いて非接着培養により3日間~8日間培養した後、プロスタグランジンE2及びOK432を添加して10~36時間のクラスター制御培養により未成熟樹状細胞にスフェロイドを形成させた状態で成熟化することを含む、[1]~[3]のいずれかの方法。
[5] 1ng/mL~1,000ng/mLのIL-4、10ng/mL~1,000ng/mLのGM-CSF、5ng/mL~50ng/mLのプロスタグランジンE2及び5μg/mL~50μg/mLのOK432を用いて培養する、[1]~[4]のいずれかの方法。
[6] 樹状細胞の成熟化の際に癌特異的抗原を添加する、[1]~[5]のいずれかの方法。
[7] 得られる樹状細胞の生細胞率が90%以上であり、培養時の単球数に対する得られた樹状細胞の数の割合である収率が15%以上である、[1]~[6]のいずれかの方法。
[8] 得られる樹状細胞が、クラスター制御培養を行わないで調製した樹状細胞に比較して、CD80及びCD40の陽性率が増加し、さらに、CD80、CD86及びCD40の発現の強さ(ΔMFI)が増加している、[1]~[7]のいずれかの方法。
[9] 得られる樹状細胞が、クラスター制御培養を行わずに調製したDCに比較して、IFN-γの産生が増加している、[1]~[8]のいずれかの方法。
[10] 得られる樹状細胞が、クラスター制御培養を行わずに調製したDCに比較して、BCL2A1遺伝子の発現量が増加している、[1]~[9]のいずれかの方法。
[11] 得られる樹状細胞が、クラスター制御培養を行わずに調製したDCに比較して、4℃、生理食塩水懸濁条件下での寿命が長い、[1]~[10]のいずれかの単球から樹状細胞を調製する方法。
[12] [1]~[11]のいずれかの単球から樹状細胞を調製する方法により得られた樹状細胞。
[13] [12]の樹状細胞を含む医薬組成物。
[14] 抗癌免疫活性を有し、癌治療に用い得る、[13]の医薬組成物。
[15] 樹状細胞におけるBCL2A1の遺伝子発現レベルを指標にして、樹状細胞の寿命を予測する方法であって、BCL2A1の遺伝子発現レベルが高い程、寿命が長いと予測する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹状細胞(DC)の調製法により、抗原提示機能が高く細胞傷害性T細胞を誘導できるDCを短期間で高い収率で得ることができる。また、本発明の樹状細胞(DC)の調製法により得られたDCは、成熟度が高く、寿命も長いので、癌免疫療法に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】接着法で調製したIL-4-DCと低接着法で調製したIL-4-DCの細胞形態を示す図である。上段が接着法で調製したIL-4-DCであり、下段が低接着法で調製したIL-4-DCである。
【
図2-1】接着法で調製したIL-4-DC(「接着」)と低接着法で調製したIL-4-DC(「低接着」)の表現型を示す図であり、CD11c、CD14、CD40及びCD80についての陽性率を示す図である。
【
図2-2】接着法で調製したIL-4-DC(「接着」)と低接着法で調製したIL-4-DC(「低接着」)の表現型を示す図であり、CD83、CD86、HLA-ABC及びHLA-DRについての陽性率を示す図である。
【
図2-3】接着法で調製したIL-4-DC(「接着」)と低接着法で調製したIL-4-DC(「低接着」)の表現型を示す図であり、CCR7、PD-L1及びPD-L2についての陽性率を示す図である。
【
図3】細胞播種密度の違いによるクラスター形成と表現型比較の検討の実験のプロトコルを示す図である。
【
図4】細胞播種密度の違いによるクラスター形成の差を示す図である。
【
図5-1】細胞播種密度の違いによる表現型の差を示す図であり、CD80、CD86、CD83、CD40、CCR7、HLA-ABC、HLA-DR、CD14及びCD11cの陽性率を示す図である。
【
図5-2】細胞播種密度の違いによる表現型の差を示す図であり、CD80、CD86、CD83、CD40、CCR7、HLA-ABC、HLA-DR、CD14及びCD11cの発現の強さ(ΔMFI)を示す図である。
【
図6】低接着培養皿(PrimeSurface(登録商標) dishプレート24F、住友ベークライト)(A)又はクラスター制御培養皿(EZSPHERE(登録商標)マイクロプレート24well)(B)を用いてIL-4-DCを調製するプロトコルを示す図である。
【
図7】低接着培養皿(PrimeSurface(登録商標) dish)を用いた培養及びクラスター制御培養皿(EZSPHERE(登録商標))を用いた培養のウェル内の細胞の顕微鏡画像を示す図である。
【
図8】低接着培養皿(PrimeSurface(登録商標) dish)を用いた培養により調製したIL-4-DC及びクラスター制御培養皿(EZSPHERE(登録商標))を用いた培養により調製したIL-4-DC(クラスター制御IL-4-DC)のクラスター面積(A)、生細胞率(B)及び収率(C)を示す図である。
【
図9】成熟時に低接着培養皿及びクラスター制御培養皿を用いて24時間の培養を行い調製したIL-4-DCの細胞観察像を示す図である。
図9Aはクラスター制御せずに調製したIL-4-DCを示し、
図9Bはクラスター制御して調製したIl-4-DCを示す。
【
図10】成熟時に低接着培養皿及びクラスター制御培養皿を用いて24時間の培養を行い調製したIL-4-DCのクラスターの厚みを示す図である。
図10AがクラスターのXZ方向の厚さ(A)、
図10BがクラスターYZ方向の厚さ(B)を示す。
【
図11-1】クラスター制御の有無よる表現型の差を示す図であり、CD80、CD86、CD83、CD40、CCR7、HLA-ABC、HLA-DR、CD14及びCD11cの陽性率を示す図である。
【
図11-2】クラスター制御の有無による表現型の差を示す図であり、CD80、CD86、CD83、CD40、CCR7、HLA-ABC、HLA-DR、CD14及びCD11cの発現の強さ(ΔMFI)を示す図である。
【
図12】低接着培養皿を用いた培養で調製したIL-4-DC(A)及びクラスター制御培養皿を用いた培養で調製したIL-4-DC(B)のサイトカインレベル評価のプロトコルを示す図である。
【
図13】低接着培養皿を用いて調製したIL-4-DCのサイトカイン(IFN-γ、IL-12、IL-10、IL-6及びTNF-α)レベル評価の結果を示す図である。
【
図14】低接着培養皿を用いた培養で調製したIL-4-DC(A)及びクラスター制御培養皿を用いた培養で調製したIL-4-DC(B)の遺伝子発現及びmRNA発現の評価のプロトコルを示す図である。
【
図15】低接着培養皿を用いた培養で調製したIL-4-DC及びクラスター制御培養皿を用いた培養で調製したIL-4-DCの網羅的遺伝子発現解析の結果を示す図である。
【
図16】低接着培養皿を用いた培養で調製したIL-4-DC及びクラスター制御培養皿を用いた培養で調製したIL-4-DCのmRNA発現の評価の結果を示す図である。
【
図17】培養皿によるクラスター制御がIL-4-DCの生存率に与える影響を評価する実験のプロトコルを示す図である。
【
図18】培養皿によるクラスター制御がIL-4-DCにおける経時的生細胞率に与える影響を示す図である。
【
図19】実施例2(予備試験)及び実施例3(本試験)における定量結果のまとめを示す図である。
【
図20】実施例4及び5の定量結果のまとめを示す図である。
【
図21】実施例6の定量結果のまとめを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、「A~B」(AおよびBは数値)は、特に説明のない限り、「A以上B以下」を表すものとする。本明細書において使用される「%」は、特に説明のない限り、「v/v%」を表すものとする。
【0015】
本発明は、単球から樹状細胞(Dendritic cell: DC)を調製する方法である。
単核球は、白血球であり、単核球は単球(Monocyte)とリンパ球(Lymphocyte)に分けられる。単核球は末梢血由来単核球(PBMC:Peripheral blood mononuclear cells)、骨髄由来単核球、脾臓細胞由来単核球、臍帯血由来単核球が含まれる。この中でも末梢血由来単核球が好ましい。単核球は成分採血(アフェレーシス)装置を用いて分離することもできる。単核球は、凍結していない新鮮単核球を用いてもよく、凍結した単核球を用いてもよい。凍結した単核球を用いた場合でも最終的に得られる樹状細胞の抗原提示能および貪食・分解能は低下しない。
【0016】
1.単核球からの単球の分離
単球は末梢血由来単球、骨髄由来単球、脾臓細胞由来単球、臍帯血由来単球が含まれ、この中でも末梢血由来の単球が好ましい。単球は、CD14陽性を特徴とし、生体から単球を採取する場合、CD14の存在を指標にFACS(Fluorescent activated cell sorter)、フローサイトメーター、磁気分離装置等を用いて分離することができる。また、成分採血(アフェレーシス)装置を用いて分離することもできる。さらに、Ficoll(登録商標)等を用いた密度勾配遠心分離により分離することもできる。単球の由来動物種は限定されず、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、ヒト等の哺乳動物を用いることができる。FACS、フローサイトメーターとしては、例えばFACS vantage(ベクトン・ディッキンソン社製)、FACS Calibur(ベクトン・ディッキンソン社製)等を用いることができる。また、磁気分離装置としては、例えばautoMACS(登録商標)(Miltenyi Biotec)等を用いることができる。例えば、末梢単核球(PBMC)からCD14の発現を指標に、CD14を結合させたCD14マイクロビーズを用いてAutoMACS(登録商標)及びCliniMACS(登録商標)テクノロジーを利用して単離することができる。
【0017】
また、単球は培養容器に接着しやすいという特性を有するので、単核球を接着培養皿に播種し、培養し、単球を培養皿に接着させることにより、リンパ球と分離することができる。この際、培養液として、血清添加培地も血清非添加培地も用いることができる。また、アルブミン添加培地を用いてもよい。培地は限定されず、ヒトリンパ系細胞の培養に用いることができる培地を用いればよい。例えば、AIM-V(登録商標、Thermo Fisher Scientific)、X-VIVO5(登録商標)、HL-1(商標、ロンザ株式会社)、BIOTARGET(商標)-1 SFM(コスモ・バイオ株式会社)、DCO-K(日水製薬株式会社)、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDM等を使用することができる。
【0018】
単球は容器に強く接着する特性があるので、単核球は接着培養により培養し、単球を培養用ディッシュ、シャーレ、プレート、フラスコ等の培養用容器に接着させ、接着しない細胞を除去することにより分離し回収することができる。細胞が接着し得る接着細胞培養用容器を用いればよい。接着細胞培養用容器は広く市販のものを用いることができる。接着細胞培養用容器は低接着培養容器を用いても、高接着培養容器を用いてもよい。
【0019】
単球の分離のための培養時のpHは、約6~8であるのが好ましい。培養は、通常、約30~40℃で15分~48時間、さらに好ましくは15分~36時間、さらに好ましくは15分~24時間、さらに好ましくは10時間~24時間、さらに好ましくは12時間~36時間、さらに好ましくは12時間~24時間、さらに好ましくは16時間~24時間、特に好ましくは18時間~24時間行えばよい。培養時には、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加えてもよい。例えば、炭酸ガスを加えてもよく、炭酸ガスは2.5~10%、好ましくは2.5~7.5%、さらに好ましくは5%添加すればよい。
【0020】
接着培養後、接着していない細胞を洗浄により除去し、単球を接着培養として分離することができる。この際、洗浄は1回~5回行い、好ましくは2回行う。
【0021】
2.単球から樹状細胞(Dendritic cell: DC)を調製する方法
上記の単核球からの単球の分離方法により分離した単球を用いて樹状細胞を調製することができる。
【0022】
分離した単球を最初にDCへ分化誘導を行う。DCへの分化誘導により未成熟DCが得られる。次いで、未成熟DCを特定のサイトカイン存在下で培養し成熟化し、抗原提示機能が高く細胞傷害性T細胞を誘導できるDCを得ることができる。
【0023】
DCへの分化誘導は、単離した単球を、DC誘導活性を有するサイトカインであるGM-CSF(顆粒球単球コロニー刺激因子)及びIL-4等の存在下で培養すればよい。この際、その他のDC誘導活性を有するサイトカインを用いてもよく、その他のDC誘導活性を有するサイトカインとして、IL-2(インターロイキン2)、IL-3(インターロイキン3)、IL-6(インターロイキン6)、IL-7(インターロイキン7)、IL-12(インターロイキン12)、IL-13(インターロイキン13)、IL-15(インターロイキン15)、TNF(腫瘍壊死因子)-α、HGF(Hepatocyte growth factor)、TGF(トランスフォーミング増殖因子)-β、CD40リガンド、c-kitリガンド、IFNα(インターフェロンα)、flt3リガンド等のサイトカインが挙げられる。
【0024】
DCの分化誘導のための培養に用いるIL-4又は他のDC誘導活性を有するサイトカインの濃度は、1ng/mL~1,000ng/mL、好ましくは10ng/mL~100ng/mLである。
【0025】
分化誘導のための培養に用いるGM-CSFの濃度は、100U/ml~10,000U/mL、好ましくは500U/mL~2,000U/mL、さらに好ましくは800U/ml~1,200U/mL、特に好ましくは1,000U/mLである。あるいは、10ng/mL~1,000ng/mL、好ましくは20ng/mL~200ng/mL、さらに好ましくは20ng/mL~100ng/mLである。
【0026】
単球又はDCの表面抗原の発現をFACS等で調べることにより、目的の分化程度の細胞が得られる濃度を適宜決定することができる。
【0027】
GM-CSF及びIL-4の存在下での分化誘導のための培養は2~10日間、好ましくは3~8日間、さらに好ましくは4~6日間、特に好ましくは5日間行う。GM-CSF及びIL-4の存在下での培養により、未成熟DCが得られる。
【0028】
本発明においては、単球よりへ分化誘導した後の、未成熟DCの成熟化の際に、クラスター制御培養により単球の培養を行う。ここで、「クラスター制御培養」とは、培養時に細胞にスフェロイドを形成させた状態で行う培養をいう。スフェロイドとは、細胞同士が集合、凝集化し、3D立体構造を形成した球状の細胞集合体(クラスター)のことをいう。「クラスター制御培養」を「スフェロイド培養」ともいう。「クラスター制御培養」は、細胞集団が浮遊状態でも三次元細胞スフェロイドの形成を可能にする細胞培養条件で培養すればよい。クラスター制御培養を、クラスター制御培養容器(培養皿)を用いた培養、クラスター制御しても培養とも呼び、クラスター制御培養を単にクラスター制御と呼ぶこともある。
【0029】
クラスター制御培養(スフェロイド培養)は、例えば、草森浩輔他、Drug Delivery System 28-1, 2013, PP.45-53に記載されている以下の方法により行うことができる。
(1)非接着性の底面を持つ培養プレートを用いての培養
このようなプレートを用いると、培地中に浮遊する細胞同士が接着することでスフェロイドを形成する。
(2)ハンギングドロップ(Hanging drop)細胞培養
培地中に懸濁し細胞を培養プレートの蓋の内側に少量滴下し、液滴を逆さまに培養することにより、細胞が液滴の下部に集まり細胞同士が接着することでスフェロイドを形成する。
(3)マイクロモールディング技術を用いて作製したマイクロウェルを用いた培養
U字型やV字型ウェル中で培養することにより、細胞同士がマイクロウェル中で接着し、スフェロイドを形成する。このようなマイクロウェルを有する容器をスフェロイド形成培養容器(培養皿)、又はクラスター制御培養容器(培養皿)と呼ぶ。
(4)ロータリー細胞培養法
培地を含む細胞培養容器を回転させることによりスフェロイドを形成する。
【0030】
本発明においては、上記の方法を含む如何なるクラスター制御培養を採用することができるが、好ましくはスフェロイド形成培養容器(培養皿)又はクラスター制御培養容器(培養皿)を用いて行う。
【0031】
スフェロイド形成培養容器(培養皿)又はクラスター制御培養容器(培養皿)としては、EZSPHERE(登録商標)マイクロプレート/プレート/ディッシュ(AGCテクノグラス株式会社)、PAMCELL(3D Cell Spheroid Culture Plate)(フナコシ株式会社)、Corning(登録商標)スフェロイドマイクロプレート(Corning)、SPHERICALPLAE 5D(水戸工業株式会社)、Cell-able(登録商標)プレート(東洋合成工業株式会社)、NanoCultute Plase/Dish(株式会社 医学生物学研究所)等が挙げられる。この中でも、孔径が1,000μm以下であり、深さが500μm以下の凹部を有するウェルを持ち、ウェル中に平坦な部分が存在せず、ウェル内面にタンパク低接着コートが施されている培養容器(培養皿)が好ましい。そのような培養容器(培養皿)として、EZSPHERE(登録商標)マイクロプレート24well(AGCテクノグラス株式会社)が挙げられる。EZSPHERE(登録商標)マイクロプレート24wellは、24個あるウェル中に、口径約400~500μm、深さ150~200μmのウェル(スフェロイドウェル)約470個が培養面に隙間なく壁面まで均一に加工されている。また、表面にはタンパク低接着コートが施されており、播種された細胞は、ウェル内で均一にスフェロイド(クラスター)を形成する。ウェル形状はすり鉢型構造のため、細胞球形が均一で細胞回収も容易である。平坦部分が存在しないので、播種されたすべての細胞はウェル内に落ち込み細胞をロスすることなくスフェロイド(クラスター)を形成する。
【0032】
未成熟DCの成熟化は、未成熟DCを成熟培地で培養することにより行う。成熟培地は、H少なくともプロスタグランジンE2(PGE2)およびOK432を含む血清非添加培地を用いる。成熟培地は、さらにIL-4を含んでいてもよい。血清非添加培地としては、上記の単核球からの単球の分離方法に記載の血清非添加培地を用いることができる。
【0033】
成熟化の際の、未成熟DCの密度は、1.1×106cells/ml~1.0×107cells/ml、好ましくは1.5×106cells/ml~5.0×106cells/ml、さらに好ましくは1.5×106cells/ml~2.5×106cells/ml、さらに好ましくは1.8×106cells/ml~2.2×106cells/ml、特に好ましくは2.0×106cells/mlである。
【0034】
培養に用いるPG2Eの濃度は、1ng/mL~100ng/mL、好ましくは5ng/mL~50ng/mL、さらに好ましくは5ng/mL~20ng/mLである。OK432の濃度は、1μg/mL~100μg/mL、好ましくは5μg/mL~50μg/mL、さらに好ましくは5μg/mL~20μg/mLである。IL-4を添加する場合のIL-4の濃度は、1ng/mL~1000ng/mL、好ましくは10ng/mL~100ng/mLである。
【0035】
DCの表面抗原の発現をFACS等で調べることにより、目的の成熟度の細胞が得られる濃度を適宜決定することができる。
【0036】
成熟培地による培養は、10~48時間、好ましくは10~36時間、さらに好ましくは10~24時間、特に好ましくは18~24時間培養することにより、抗原提示機能が高く細胞傷害性T細胞を誘導できるDCを得ることができる。
【0037】
単核球から単球を分離し、さらに成熟させるための、トータルの培養期間は、3~10日間、好ましくは3~7日間、さらに好ましくは5~8日間、さらに好ましくは5~7日間4日間である。
【0038】
クラスター制御培養により、ウェル中に形成されるスフェロイドは、約3,000個以下の単球を含み、スフェロイドの直径は、10~1,000μm程度である。
【0039】
3.得られたDCの特性
(1)生細胞率および収率
本発明の方法においては、得られる成熟DCの生細胞率も高く、収率も高い。得られたDCの生細胞率はNIH(National Institutes of Health)の基準である70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。また、DCの回収率(播種した単球数に対する得られたDC生細胞数の割合)は、5%以上、好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上である。さらに、DCの純度は、90%以上、好ましくは95%以上である。
【0040】
(2)表面抗原
クラスター制御培養により調製したDCにおいては、CD80、CD86、CD83、CD40、CCR7、HLA-ABC、HLA-DR、CD14及びCD11cが陽性である。CD14は単球のマーカーであり、CD197(CCR7)はリンパ節への移動を促進する分子であり、CD11cは樹状細胞マーカーである。また、CD80およびCD40はT細胞への抗原提示能に関与する共刺激分子であり、CD83は樹状細胞の成熟マーカーであり、HLA-DRは抗原の提示に関与する分子である。
【0041】
これらの表面抗原が陽性か陰性かは、これらの抗原に対する抗体であって、発色酵素、蛍光化合物等で標識した抗体を用いて細胞が染色されたか否かを顕微鏡観察等により決定することができる。例えば、これらの抗体を用いて細胞を免疫染色して、表面抗原の有無を決定すればよい。また該抗体を結合させた磁気ビーズを用いても決定することができる。また、FACS又はフローサイトメーターを用いても表面抗原があるかどうか決定することができる。表面抗原が陰性とは、上記のようにFACSを用いて分析した場合に、陽性細胞としてソーティングされないこと、免疫染色により発現を調べた場合に、発現が認められないことをいい、これらの手法により検出できない程度発現していたとしても、陰性と判断する。
【0042】
クラスター制御培養により調製したDCにおいては、クラスター制御培養を行わずに調製したDCに比較して、CD80及びCD40の陽性率が増加し、さらに、CD80、CD86及びCD40の発現の強さ(ΔMFI)が増加する。CD80の陽性率は、クラスター制御培養を行わずに調製したDCが70%以下であるのに対して、クラスター制御培養により調製したDCでは、75%以上である。クラスター制御培養により調製したDCにおけるCD80の陽性率/クラスター制御培養を行わずに調製したDCにおけるCD80の陽性率比は、1.05以上、好ましくは1.1以上、さらに好ましくは1.15以上である。また、発現の強さについては、クラスター制御培養により調製したDCにおけるCD80の発現の強さ/クラスター制御培養を行わずに調製したDCにおけるCD80の発現の強さ比は、1.1以上、好ましくは1.15以上である。クラスター制御培養により調製したDCにおけるCD86の発現の強さ/クラスター制御培養を行わずに調製したDCにおけるCD86の発現の強さ比は、1.2以上、好ましくは1.3以上であり、さらに好ましくは1.4以上である。クラスター制御培養により調製したDCにおけるCD40の発現の強さ/クラスター制御培養を行わずに調製したDCにおけるCD40の発現の強さ比は、1.05以上である。ここで、クラスター制御培養を行わずに調製したDCとは、従来のGM-CSFとIL-4を併用してDCを分化誘導し、調製したDCでもあり、Akagawa K.S. et al., Blood, Vol.88, No.10 (November 15), 1996: pp.4029-4039に記載の方法により調製したDCでもある。
表現型は、クラスター制御培養により調製したDCの成熟度が、クラスター制御培養を行わずに調製したDCに比較して、向上していることを示している。
【0043】
(3)サイトカイン産生能
以下のサイトカインの産生量は、DCを2×106 cells/mlの細胞密度になるようにAIM-V培地に懸濁して、培養皿に播種し、37℃、5%CO2で18~24時間の培養後、培養上清を回収し、回収した培養上清中のサイトカインをBio-plex assay kit (Bio-Rad Labs)により測定したときの値である。
【0044】
クラスター制御培養により調製したDCにおいては、クラスター制御培養を行わずに調製したDCに比較して、細胞傷害性T細胞の誘導を亢進するサイトカインの一つであるIFN-γの産生が有意に増加する。クラスター制御培養により調製したDCにおけるIFN-γの産生量/クラスター制御培養を行わずに調製したDCにおけるIFN-γの産生量比は、1.1以上、好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.25以上である。
【0045】
(4)遺伝子発現
クラスター制御培養により調製したDCにおいては、クラスター制御培養を行わずに調製したDCに比較して、抗アポトーシス遺伝子の一つであるBCL2A1の発現が増加する。コントロールに対する倍率変化で比較した場合、クラスター制御培養により調製したDCにおいては、クラスター制御培養を行わずに調製したDCに比較して、抗アポトーシス遺伝子の一つであるBCL2A1の発現量は、1.2倍以上、好ましくは1.3倍以上に増加する。また、BCL2A1のmRNA発現商は、1.5倍以上、好ましくは1.7倍以上、さらに好ましくは1.8倍以上、さらに好ましくは1.9倍以上に増加する。
【0046】
(5)得られたDCの生存率
クラスター制御培養により調製したDCにおいては、クラスター制御培養を行わずに調製したDCに比較して、ワクチン搬送条件下(4℃、生理食塩水懸濁)での保存状態で、経時的な生細胞率の低下速度が小さい。例えば、クラスター制御培養を行わずに調製したDCの上記条件で6時間保存した場合の生細胞率は70%未満であるのに対して、クラスター制御培養により調製したDCの生細胞率は70%以上である。クラスター制御培養により調製したDCを上記条件で6時間保存した場合の生細胞率/クラスター制御培養を行わずに調製したDCを上記条件で6時間保存した場合の生細胞率比は、1.1以上である。クラスター制御培養を行わずに調製したDCの上記条件で12時間保存した場合の生細胞率は53%未満であるのに対して、クラスター制御培養により調製したDCの生細胞率は55%以上である。クラスター制御培養により調製したDCを上記条件で12時間保存した場合の生細胞率/クラスター制御培養を行わずに調製したDCを上記条件で12時間保存した場合の生細胞率比は、1.1以上である。クラスター制御培養を行わずに調製したDCの上記条件で24時間保存した場合の生細胞率は35%未満であるのに対して、クラスター制御培養により調製したDCの生細胞率は36%以上である。クラスター制御培養により調製したDCを上記条件で24時間保存した場合の生細胞率/クラスター制御培養を行わずに調製したDCを上記条件で24時間保存した場合の生細胞率比は、1.1以上である。クラスター制御培養を行わずに調製したDCの上記条件で48時間保存した場合の生細胞率は19%未満であるのに対して、クラスター制御培養により調製したDCの生細胞率は19%以上である。クラスター制御培養により調製したDCを上記条件で48時間保存した場合の生細胞率/クラスター制御培養を行わずに調製したDCを上記条件で48時間保存した場合の生細胞率比は、1.1以上である。
【0047】
これは、得られたDCの寿命が長いことを意味する。このため、得られたDCの寿命が延長する。このことは、DCを調製してからの性能が低下しにくいことを意味しており、DCワクチンとしての品質向上に繋がる。
【0048】
なお、生細胞率は、BCL2A1の遺伝子発現増加による、抗アポトーシス作用により向上していると予測できる。したがって、BCL2A1の遺伝子発現レベルは、本発明の方法で調製したIL-4-DCの品質保証できる一つのバイオマーカーになり得る。本発明は、調製したDCのBCL2A1の遺伝子発現レベルを測定し、該発現レベルを指標として、DCの生細胞率の低下のしにくさ、すなわち、DCの生細胞の維持能力を調べることができる。DCの生細胞が維持されている場合、DCの保存又は輸送中の品質が維持され、低下しにくいことを示す。本発明は、DCの品質が維持されるかを予測する方法も包含する。
【0049】
4.樹状細胞療法
本発明の方法で調製されたDCは、樹状細胞療法に用いることができる。樹状細胞療法として、例えば、樹状細胞ワクチン療法として知られる、癌免疫療法が挙げられる。例えば、被験体の単球から本発明の方法によって、樹状細胞を調製し、得られた樹状細胞を被験体に戻すことにより、樹状細胞を癌治療または予防等に用いることができる。この際、調製した樹状細胞は、癌種非特異的に作用し、癌治療効果を発揮し得る。また、樹状細胞を調製する際に、WT1ペプチド等の特定の癌に特異的な癌特異抗原を添加して培養することにより、癌種特異的な抗癌免疫活性を有する樹状細胞を得ることが可能である。WT1ペプチド等の特定の癌に特異的な癌特異抗原は樹状細胞の成熟化の際に添加するのが好ましい。該樹状細胞は、癌種特異的細胞傷害性T細胞を誘導し得る。また、細菌やウイルスの感染症の治療にも用いることができる。感染症の治療においては、本発明の方法により、IL-4、GM-CSF、PGE2およびOK432存在下で単球を非接着培養により培養して調製したDCが有用である。調製した樹状細胞を皮内投与、皮下投与、静脈内投与またはリンパ節内投与等により被験体に投与すればよい。投与量、投与時期は被験体の疾患の種類、疾患の重篤度、被験体の状態に応じて適宜決定することができる。
【実施例0050】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0051】
[実施例1] 成熟過程において接着培養皿又は低接着培養皿を用いて作製したIL-4DCの比較
本実施例は、予備試験(1)として行った。本実施例においては、成熟過程における接着培養皿を用いる方法(接着法)又は低接着培養皿を用いる方法(低接着法)により作製したIL-4DCの細胞形態の比較と表現型の比較を検証した。
【0052】
方法
プロトコル(接着法)
アフェレーシスにより採取した、患者由来の末梢血単核球(PBMC:Peripheral blood mononuclear cells)をAIM-V培地を用いて、接着培養皿(Corning Primaria(商標) 100mm Standard Cell Culture Dish)に播種した。37℃・5%CO2の条件下で18~24時間の培養を行うことで、細胞を培養皿底面に接着させて、単球とリンパ球の選別を行った。
【0053】
続いて、接着細胞に対して50ng/ml recombinant human(rh) IL-4と100ng/ml GM-CSFを添加したAIM-V培地を用いて、IL-4-DCへの分化誘導を行った。分化開始から5日後に細胞を回収して、接着培養皿(Corning Primaria(商標) 100mm Standard Cell Culture Dish)に各種試薬類(5 ng/ml rhIL-4, 10μg/ml OK432, 10 ng/ml PGE2)を混合した成熟培地を添加したAIM-V培地を用いて18~24時間の培養を行うことで、IL-4-DCを成熟化させ、回収して細胞形態と表現型を評価した。表現型の評価は、DCに発現している細胞表面抗原(CD11c、CD14、CD40、CD80、CD83、CD86、HLA-ABC、HLA-DR、CCR7、PD-L1及びPD-L2)を標識抗体によりフローサイトメトリーで検出した。
【0054】
プロトコル(低接着法)
アフェレーシスにより採取した、患者由来の末梢血単核球(PBMC:Peripheral blood mononuclear cells)をAIM-V培地を用いて、接着培養皿(Corning Primaria(商標) 100mm Standard Cell Culture Dish)に播種した。37℃・5%CO2の条件下で24時間の培養を行うことで、細胞を培養皿底面に接着させて、単球とリンパ球の選別を行った。
【0055】
続いて、接着細胞に対して50μg/ml recombinant human IL-4と100ng/ml GM-CSFを添加したAIM-V培地を用いて、IL-4-DCへの分化誘導を行った。分化開始から5日後に細胞を回収して、低接着培養皿(Prime Surface(登録商標)シャーレ90、住友ベークライト)に各種試薬類(10μg/ml OK432, 10 ng/ml PGE2)を混合した成熟培地と20μg/ml腫瘍抗原ペプチド(WT-1: Wilms tumor1)を添加したAIM-V培地を用いて18~24時間の培養を行うことで、IL-4-DCを成熟化させ、回収して細胞形態と表現型を評価した。
【0056】
結果
細胞形態の比較
接着培養皿を用いた培養より、スクレイピングが不要な低接着培養皿を用いた培養の方がIL-4-DCの回収は容易であった。
【0057】
図1に、接着法で作製したIL-4-DCと低接着法で作製したIL-4-DCの細胞形態を示す。#1から#3が接着法で作製したIL-4-DC(IL-4-DC/接着法)の細胞像であり、#4~#6が低接着法で作製したIL-4-DC(IL-4-DC/低接着法)の細胞像である。IL-4-DC/接着法では、培養皿に接着細胞が認められる。IL-4-DC/低接着法では、浮遊した顕著なクラスター形成が認められ、接着細胞は認められなかった。
【0058】
表現型の比較
図2-1、
図2-2及び
図2-3に、それぞれ、CD11c、CD14、CD40及びCD80(
図2-1)、CD83、CD86、HLA-ABC及びHLA-DR(
図2-2)、並びにCCR7、PD-L1及びPD-L2(
図2-3)の陽性率(%)を示す。接着法で作製したIL-4-DCはN=26であり、低接着法で作製したIL-4-DCはN=11であった。接着法で作製したIL-4-DCと同様に、低接着法で作製したIL-4-DCは最小の品質規格(CD86+/HLA-DR+)を満たすが、低い成熟度が認められた(CD14陽性率の増加やCD83, CCR7, PD-L2陽性率の低下)。
【0059】
まとめ
実施例1の結果から、低接着法で見られる著しいクラスター形成は樹状細胞の成熟化に影響を与える可能性がある。
【0060】
[実施例2] 成熟過程における細胞播種密度の違いによるIL-4-DCの作製
本実施例は、予備試験(2)として行い、成熟時のクラスター形成を抑制するために播種細胞密度及び細胞数を減らした条件で樹状細胞の成熟化を検証するために行った。
【0061】
方法
最初に樹状細胞ワクチンの作製工程において、成熟過程に低接着培養皿を用いた時のクラスター形成に着目し、細胞播種密度によるクラスター形成が表現型に与える影響を評価した。
図3にプロトコルを示す。
【0062】
プロトコル
アフェレーシスにより採取した患者由来の末梢血単核球(PBMC:Peripheral blood mononuclear cells)をAIM-V培地を用いて、接着培養皿に播種した。37℃・5%CO2の条件下で24時間の培養を行うことで、細胞を培養皿底面に接着させて、単球とリンパ球の選別を行った。
【0063】
続いて、接着細胞に対して50μg/ml recombinant human IL-4と100ng/ml GM-CSFを添加したAIM-V培地を用いて、IL-4-DCへの分化誘導を行った。分化開始から5日後に細胞を回収し、低密度及び高密度の細胞播種密度で、低接着培養皿に各種試薬類(10μg/ml OK432, 10 ng/ml PGE2)を混合した成熟培地と20混合した成熟腫瘍抗原ペプチド(WT-1: Wilms tumor1)を添加したAIM-V培地を用いて18~24時間の培養を行うことで、IL-4-DCを成熟化させた。低密度は、1×106cells/mlであり、培地量は6mlであった。また、高密度は、2×106 cells/mlであり、培地量は10mlであった。
【0064】
結果
IL-4-DC作製過程において、成熟時に各細胞密度(高密度:highと低密度:low)により播種して24時間後のクラスターの形成を位相差顕微鏡による観察を行った。
図4に結果を示す。細胞播種密度が高密度の場合に顕著なクラスター形成が観察された。
【0065】
さらに、細胞を回収して表現型を比較した。結果を
図5-1及び
図5-2に示す。
図5-1は、CD80、CD86、CD83、CD40、CCR7、HLA-ABC、HLA-DR、CD14及びCD11cの陽性率を示し、
図5-2は各表面抗原の発現の強さ(ΔMFI)を示す。「高」及び「低」は、成熟時の細胞播種密度を示す。細胞播種密度において高密度と比較してCD80、CD83、CD40が低密度で発現増加した(N = 4)。発現の強さ(ΔMFI)ではCD80、CD86、CD83、CD40、CCR7、HLA-ABC、HLA-DRが増加した。
【0066】
まとめ
接着培養皿を用いた培養により作製したIL-4-DCと比較すると低接着培養皿を用いた培養により作製したIL-4-DCではクラスターが形成されやすく、表現型においてはDCワクチンとしての最小の品質規格(CD86+, HLA-DR+)を満たすが、成熟度が低い傾向を示した(実施例1から)。
【0067】
IL-4-DCの成熟過程において低接着培養皿を用いた場合、高密度で細胞を播種すると大きなクラスターの形成が認められた(N = 4)。
【0068】
成熟過程において、低密度で播種して作製したIL-4-DCにおいて樹状細胞の成熟マーカー(CD40、CD80、CD83)の発現増加が認められた(N = 4)。さらに発現の強さ(ΔMFI)ではCD80、CD86、CD83、CD40、CCR7、HLA-ABC、HLA-DRが増加した。
【0069】
したがって、成熟過程のクラスター形成が樹状細胞ワクチンの品質に影響することが判明した。
【0070】
[実施例3] クラスター制御培養による樹状細胞の作製
IL-4-DC作製時の成熟過程において、培養皿によるクラスター制御及び至適細胞密度による培養を行った場合のIL-4DCの品質向上及び作製法の妥当性を検討した。
【0071】
実施例3は、本試験として行い、培養皿によるクラスター制御がIL-4-DCの生細胞率及び収率、並びに表現型に与える影響を調べた。すなわち、細胞播種密度の変動によるクラスター形成が樹状細胞の品質に影響する低接着培養皿(PrimeSurface(登録商標) dishプレート24F、住友ベークライト)を用いた群(IL-4-DC)を対照として、厳密にかつ均一にクラスターを制御するためにクラスター制御培養皿(EZSPHERE(登録商標)マイクロプレート24well、AGCテクノグラス株式会社)を使用して作製したIL-4-DC(クラスター制御IL-4-DC)とを比較した(N =10)。用いたEZSPHERE(登録商標)マイクロプレート24wellは、24個あるウェル中に、口径約400~500μm、深さ150~200μmのウェル(スフェロイドウェル)約470個が培養面に隙間なく壁面まで均一に加工されている。また、表面にはタンパク低接着コートが施されており、播種された細胞は、ウェル内で均一にスフェロイド(クラスター)を形成する。ウェル形状はすり鉢型構造のため、細胞球形が均一で細胞回収も容易である。平坦部分が存在しないので、播種されたすべての細胞はウェル内に落ち込み細胞をロスすることなくスフェロイド(クラスター)を形成する。
【0072】
評価項目は以下のとおりであった。
(i) 位相差顕微鏡所見(細胞形態の観察)(実施例3)
(ii) IL-4-DCとクラスター制御IL-4-DCの生細胞率及び収率比較(実施例3)
(iii) 位相差顕微鏡によるクラスターの3D画像比較(実施例3)
(iv) Flow cytometry (FCM)による表現型比較(実施例3)
(v) サイトカイン産生能の比較(実施例4)
(vi) マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析(実施例5)
(vii) アポトーシス・抗アポトーシス関連遺伝子のmRNA発現解析(実施例5)
(viii) DCワクチン保存条件(4℃、生理食塩水懸濁)による経時的な生細胞率の比較(実施例6)
【0073】
方法
プロトコル
アフェレーシスにより採取した、患者由来の末梢血単核球(PBMC:Peripheral blood mononuclear cells)をAIM-V培地を用いて、接着培養皿(Corning Primaria(商標) 60mm Standard Cell Culture Dish)に播種した。37℃・5%CO2の条件下で18~24時間の培養を行うことで、細胞を培養皿底面に接着させて、単球とリンパ球の選別を行った。
【0074】
続いて、接着細胞に対して50ng/ml rhIL-4と100ng/ml GM-CSFを添加したAIM-V培地を用いて、IL-4-DCへの分化誘導を行った。分化開始から5日後に細胞を回収して、クラスター制御培養皿(EZSPHERE(登録商標)マイクロプレート24well)又は低接着培養皿(PrimeSurface(登録商標) dishプレート24F、住友ベークライト)に各種試薬類(10μg/ml OK432, 10 ng/ml PGE2)を混合した成熟培地と20μg/ml腫瘍抗原ペプチド(WT1)を添加したAIM-V培地を用いて、2×10
6cells/mlの細胞密度で18~24時間の培養を行うことで、IL-4-DCを成熟化させた。
図6Aに、低接着培養皿(PrimeSurface(登録商標) dishプレート24F、住友ベークライト)を用いたプロトコルを示し、
図6Bにクラスター制御培養皿(EZSPHERE(登録商標)マイクロプレート24well)を用いたプロトコルを示す。
【0075】
その後、生細胞率及び収率を測定し、さらに位相差顕微鏡による細胞形態の観察を行った。また、IL-4-DCとクラスター制御培養皿(EZSPHERE(登録商標)マイクロプレート24well)を用いて培養することによりクラスター制御を行い作製したIL-4-DCによる表現型の比較をフローサイトメトリー(FACS)により評価した。
【0076】
なお、クラスター制御培養皿(EZSPHERE(登録商標)マイクロプレート24well)を用いて培養することによりクラスター制御を行い作製したIL-4-DCを「クラスター制御IL-4-DC」と呼ぶ。
【0077】
結果
(1)生細胞及び収率比較
図7に低接着培養皿(PrimeSurface(登録商標) dish)を用いた培養及びクラスター制御培養皿(EZSPHERE(登録商標))を用いた培養のウェル内の細胞の顕微鏡画像を示す。
図8に細胞クラスターの面積(μm
2)(A)、生細胞率(%)(B)及び収率(%)(C)を示す。収率は、「播種した単球細胞数÷生細胞率」という式で計算した。
【0078】
各群の顕微鏡画像から細胞クラスターの面積を解析した。
図8Aに示すように、クラスター制御培養皿を用いた培養で、低接着培養皿を用いた培養に比較して、均一な細胞面積を示した(N = 3)。
【0079】
低接着培養皿を用いて作製したIL-4-DCとクラスター制御IL-4-DCの生細胞率及び収率を比較したところ、
図8B及びCに示すように、中央値の有意差はみられなかった(N = 10)。
【0080】
(2)細胞形態の観察
成熟時に低接着培養皿及びクラスター制御培養皿を用いて24時間の培養を行った後に、作製したIL-4-DCについて、オールインワン蛍光顕微鏡(BZ-X800)を使用して、3Dによる細胞観察を行った。
図9に細胞観察像を示す。
図9Aが低接着培養皿を用いた作製したIL-4-DC(IL-4-DC)であり、
図9Bがクラスター制御培養皿を用いて作製したIL-4-DC(クラスター制御IL-4-DC)である。
図10に、クラスターのXZ方向の厚さ(A)及びクラスターYZ方向の厚さ(B)を示す。
図10に示すように、クラスター制御培養皿ではクラスターの厚みが薄いことが確認された。
【0081】
(3)表現型
成熟過程で低接着培養皿及びクラスター制御培養皿を用いて作製したIL-4-DCの表現型をFACSにより評価した(N = 10)。結果を
図11-1及び
図11-2に示す。
図11-1は、CD80、CD86、CD83、CD40、CCR7、HLA-ABC、HLA-DR、CD14及びCD11cの陽性率を示し、
図11-2は各表面抗原の発現の強さ(ΔMFI)を示す。「-」は低接着培養皿を用いて作製したIL-4-DC、すなわち、クラスター制御なしに作製したIL-4-DCの結果を示し、「+」はクラスター制御培養皿を用いて作製したIL-4-DC(クラスター制御IL-4-DC)、すなわちクラスター制御ありで作製したIL-4-DCの結果を示す。
図11-1及び
図11-2に示すように、クラスター制御IL-4-DCにおいてCD40及びCD80の発現が有意に増加した(N=10)。クラスター制御IL-4-DCにおいてCD40、CD80及びCD86の発現の強さが有意に増加した(N=10)
【0082】
まとめ
クラスター制御培養皿により、成熟過程で厳密にクラスター形成を制御した場合、樹状細胞の成熟マーカーであるCD80及びCD40の陽性細胞数の有意な増加が認められた(N = 10)。
【0083】
低接着培養皿と比較して、クラスター制御培養皿により、成熟過程で厳密にクラスターを制御した場合、樹状細胞の成熟マーカーであるCD80、CD86及びCD40の発現の強さが有意に増加した(N = 10)。
【0084】
したがって成熟過程においては、培養皿による厳密なクラスター制御が樹状細胞の成熟度を有意に向上させることが示された。
【0085】
[実施例4] サイトカイン産性能比較
実施例4は、本試験として行った。
クラスター制御IL-4-DCから分泌される細胞傷害性T細胞の誘導に関与するサイトカイン(IL-10、IFN-γ、TNF-α、IL-12、IL-6)をBio-plex assay kit (Bio-Rad Labs)を用いて測定した(N = 9)。
【0086】
方法
図12に実験のプロトコルを示す。
図12Aに低接着培養皿を用いて作製したIL-4-DCのサイトカインレベル評価のプロトコル、
図12Bにクラスター制御培養皿を用いて作製したIL-4-DCのサイトカインレベル評価のプロトコルを示す。評価したサイトカインは、IFN-γ、IL-12(p70)、IL-10、IL-6及びTNF-αであった。
【0087】
結果
図13にサイトカインの評価の結果を示す。「-」は低接着培養皿を用いて作製したIL-4-DC、すなわち、クラスター制御なしに作製したIL-4-DCの結果を示し、「+」はクラスター制御培養皿を用いて作製したIL-4-DC(クラスター制御IL-4-DC)、すなわちクラスター制御ありで作製したIL-4-DCの結果を示す。
【0088】
クラスター制御培養皿により、成熟過程で厳密にクラスターを制御した場合、細胞傷害性T細胞の誘導を亢進するサイトカインの一つであるIFN-γの産生が有意に増加した(N = 9)。
【0089】
まとめ
成熟過程において、培養皿による厳密なクラスター制御が、樹状細胞のサイトカイン産生能、特にIFN-γを増幅させることが認められた。
【0090】
[実施例5] 培養皿によるクラスター制御がIL-4-DCの遺伝子発現に与える影響
実施例5は、本試験として行った。
実施例5ではクラスター制御を行うことにより、上記に関連する遺伝子が変動しているかどうかをマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析により評価した。
【0091】
実施例3及び4の結果から成熟過程のクラスター制御がIL-4-DCの表現型やサイトカイン産生能に影響を与えることが認められた。次にIL-4-DCの作製において、クラスター制御が与える遺伝子発現の変化をマイクロアレイにより網羅的に解析した。また、アポトーシス促進及び抗アポトーシス関連遺伝子に着目してmRNAの発現をリアルタイムPCRにより評価した。
【0092】
方法
3人の患者から採取したPBMCより低接着培養皿を用いてIL-4-DCを、クラスター制御培養皿を用いてクラスター制御IL-4-DCを作製し、網羅的な遺伝子発現解析を行った。また、網羅的な遺伝子発現解析結果から、抗アポトーシスとアポトーシス促進関連遺伝子の着目し、mRNA発現をリアルタイムPCRにより評価した(N = 4)。
【0093】
図14に、実験のプロトコルを示す。
図14Aに低接着培養皿を用いて作製したIL-4-DCを用いた実験のプロトコル、
図14Bにクラスター制御培養皿を用いて作製したIL-4-DCを用いた実験のプロトコルを示す。
【0094】
結果
図15に、IL-4-DCにおける網羅的遺伝子発現解析の結果を示す。生存促進性遺伝子(BCL2、BCL2L1、BCL2L2、MCL1及びBCL2A1)並びにアポトーシス促進性遺伝子(BAX、BOK、BAK1)の発現を示す。「-」は低接着培養皿を用いて作製したIL-4-DC、すなわち、クラスター制御なしに作製したIL-4-DCの結果を示し、「+」はクラスター制御培養皿を用いて作製したIL-4-DC(クラスター制御IL-4-DC)、すなわちクラスター制御ありで作製したIL-4-DCの結果を示す。
【0095】
低接着培養皿を用いて作製したIL-4-DCと比較するとクラスター制御培養皿を用いて作製したIL-4-DC(クラスター制御IL-4-DC)では、抗アポトーシス遺伝子の一つであるBCL2A1の遺伝子発現増加が検出された(N = 3)。抗アポトーシス遺伝子の一つであるBCL2A1の発現が、3人の患者において共通して増加したことから、クラスター制御をすることで抗アポトーシス遺伝子が増加するように変動することが示唆された。
【0096】
図16に、IL-4-DCの抗アポトーシス遺伝子mRNA発現の評価の結果を示す。縦軸はmRNA発現のコントロールに対する倍率変化(fold change)を示す。
図16には、BCL2、BAX、BCL2/BAX及びBCL2A1の結果を示す。「-」は低接着培養皿を用いて作製したIL-4-DC、すなわち、クラスター制御なしに作製したIL-4-DCの結果を示し、「+」はクラスター制御培養皿を用いて作製したIL-4-DC(クラスター制御IL-4-DC)、すなわちクラスター制御ありで作製したIL-4-DCの結果を示す。
【0097】
クラスター制御培養皿により、成熟過程で厳密にクラスターを制御した場合、抗アポトーシス関連遺伝子の一つであるBCL2A1のmRNA発現増加が認められた。
【0098】
まとめ
成熟過程において、培養皿による厳密なクラスター制御が樹状細胞の寿命に関与する可能性のあるBCL2A1のmRNA発現増加を示した。
【0099】
[実施例6] 培養皿によるクラスター制御がIL-4-DCの生存率に与える影響
実施例6は、本試験として行った。
IL-4-DCを作製し、DCワクチン搬送状態と同条件(4℃、生理食塩水懸濁)の状態において、経時的(0hr,6hr,12hr,24hr, 48hr)な生細胞率をトリパンブルー染色により評価した。
図17にプロトコルを示す。
【0100】
結果
図18に、培養皿によるクラスター制御がIL-4-DCにおける経時的生細胞率に与える影響を示す。
図18A、B及びCは、3回の結果のそれぞれを示す。図中、「IL-4-DC」は、低接着培養皿を用いて作製したIL-4-DC、すなわち、クラスター制御なしに作製したIL-4-DCを示す。低接着培養皿を用いて作製したIL-4-DCと比較してクラスター制御皿を用いて作製したIL-4-DCでは、経時的な生細胞率の減衰は交互性のない維持が認められた(N = 2)。
【0101】
まとめ
クラスター制御培養皿により、成熟過程で厳密にクラスターを制御した場合、ワクチン搬送条件下(4℃、生理食塩水懸濁)での保存状態で生細胞率の減衰維持及び向上が認められた。
【0102】
したがって成熟過程において、培養皿による厳密なクラスター制御が樹状細胞の寿命に関与するとされているBCL2A1のmRNA発現が増加すると共にin vitroの生細胞の維持が認められた。
【0103】
【0104】
図19Aに示すように、実施例2の結果より、成熟過程において細胞播種が高密度の場合に樹状細胞の成熟マーカーの低下が認められた(N = 4)。
【0105】
また、実施例3の結果より、
図19Bに示すように、クラスター制御IL-4-DC生細胞率・回収率においける差は認められなかった(N = 10)。さらに、
図19Cに示すように、成熟過程において培養皿によるクラスター制御を行い作製したIL-4-DCにおいて成熟マーカーの増加が認められた(N = 10)。
【0106】
図20に実施例4(
図20A)及び実施例5(
図20B)の定量結果のまとめを示す。
図20Aに示すように、成熟過程において培養皿によるクラスター制御を行い作製したIL-4-DCにおいて細胞傷害性T細胞誘導に関与するIFN-γの産生が有意に増加した(N = 9)。また、
図20Bに示すように、成熟過程において培養皿によるクラスター制御を行い作製したIL-4-DCにおいて抗アポトーシス関連遺伝子の一つであり、樹状細胞の寿命に関与する可能性のあるBCL2A1の発現増加が認められた(N = 3及びN = 4)。
【0107】
図21に実施例6の定量結果のまとめを示す。
成熟過程において培養皿によるクラスター制御を行い作製したIL-4-DCにおいて、経時的な生細胞率の減衰維持が認められた(N = 3)。
【0108】
本実施例の結果より、低接着培養皿を用いたIL-4-DCの作製工程において、成熟時の細胞播種密度が樹状細胞のクラスター形成や成熟度に影響することが分かった。
【0109】
IL-4-DCの作製工程において、成熟時にクラスターを制御することは、IL-4-DCの成熟度の促進だけでなく、BCL2A1の遺伝子発現増加による生細胞率が向上し、DCワクチンとしての品質向上に繋がることがわかった。また、BCL2A1の遺伝子発現レベルはIL-4-DCの品質保証できる一つのバイオマーカーになることが判明した。