(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091360
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】フラーレンC70の単離方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/156 20170101AFI20220614BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220614BHJP
【FI】
C01B32/156
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204158
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】飯野 匡
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA09
4G146CA03
4G146CA08
4G146CA09
4G146CA11
4G146CA15
4G146CA17
4G146DA08
4G146DA12
4G146DA23
4G146DA25
4G146DA27
4G146DA32
4G146DA34
4G146DA38
4G146DA39
4G146DA41
4G146DA46
4G146DA48
(57)【要約】
【課題】ミックスフラーレンから効率よく高純度なフラーレンC
70を単離する方法を提供する。
【解決手段】
フラーレンC
60とフラーレンC
70とを含むミックスフラーレンを活性炭に吸着させる吸着ステップと、溶離溶媒で前記フラーレンC
60を前記活性炭から溶離させるフラーレンC
60溶離ステップと、前記フラーレンC
70を吸着した前記活性炭を加熱して、フラーレンC
70を昇華させる昇華ステップと、を含むフラーレンC
70の単離方法により、フラーレンC
70を単離する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレンC60とフラーレンC70とを含むミックスフラーレンからフラーレンC70を単離する方法であって、
前記ミックスフラーレンを活性炭に吸着させる吸着ステップと、
溶離溶媒で前記フラーレンC60を前記活性炭から溶離させるフラーレンC60溶離ステップと、
前記フラーレンC70を吸着した前記活性炭を加熱して、フラーレンC70を昇華させる昇華ステップと、を含むフラーレンC70の単離方法。
【請求項2】
前記活性炭を充填剤として用いたカラムを使用し、前記ミックスフラーレンを前記活性炭に吸着させることを特徴とする請求項1に記載のフラーレンC70の単離方法。
【請求項3】
前記昇華ステップの加熱温度は、400℃~1000℃である請求項1又は2に記載のフラーレンC70の単離方法。
【請求項4】
前記昇華ステップは不活性ガス雰囲気下で実施されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のフラーレンC70の単離方法。
【請求項5】
前記活性炭はBET法による比表面積が1600m2/g以上である請求項1~4のいずれかに記載のフラーレンC70の単離方法。
【請求項6】
前記溶離溶媒は、炭素数6~20の芳香族炭化水素、含ハロゲン芳香族炭化水素、多環芳香族系炭化水素、又は二硫化炭素より選ばれる少なくとも一種である請求項1~5のいずれかに記載のフラーレンC70の単離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレンC70(以下、「C70」ともいう)の単離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラーレンの製造方法として、(1)グラファイトなど炭素質材料から成る電極を原料としてこの電極間にアーク放電によって原料を蒸発させる方法(アーク放電法)、(2)炭素質原料に高電流を流して原料を蒸発させる方法(抵抗加熱法)、(3)炭化水素を不完全燃焼させる方法(燃焼法)などが知られている。しかし、現状のいずれの製造方法でも目的の単一種類のフラーレンのみを製造することはできず、フラーレンC60(以下、「C60」ともいう)及びC70を主とするミックスフラーレンと多環式芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を含む混合物(以下「煤状物質」ともいう)が生成する。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の燃焼法で生成した煤状物質において、ミックスフラーレンは通常、10~30質量%を含まれる。フラーレンと多環式芳香族炭化水素や炭素系高分子成分等のベンゼン、トルエン、二硫化炭素等の有機溶媒への溶解度が異なる性質を利用し、煤状物質からミックスフラーレンを抽出することができる。
【0004】
ミックスフラーレンの中には、炭素数の異なる数種類のフラーレンが混在するため、純度の高い単独種類のフラーレンを提供することが望まれている。例えば、特許文献2、3に開示されたように、活性炭を用いてフラーレンを単離する方法が知られている。また、C70はC60より活性炭への吸着力が強く、C60を溶離させた後の活性炭にC70が大量に吸着されている。特許文献4には、ナフタレン骨格又はナフタレン骨格を形成する炭素原子の1又は2個が窒素原子に代替された骨格を有する芳香族化合物を含む溶離液を用いてC70を活性炭から溶離させ、C70を単離する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5273729号公報
【特許文献2】特開2005-187252号公報
【特許文献3】特開2004-99380号公報
【特許文献4】特許第3974049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献4に記載されたC70の単離方法で得たC70は、その純度は不十分である。また、特許文献4に記載されたC70の単離方法のC70の収率が低いため、回収効率を更なる向上する余地がある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、ミックスフラーレンから効率よく、高純度なC70を単離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)C60とC70とを含むミックスフラーレンからC70を単離する方法であって、前記ミックスフラーレンを活性炭に吸着させる吸着ステップと、溶離溶媒で前記C60を前記活性炭から溶離させるC60溶離ステップと、前記C70を吸着した前記活性炭を加熱して、C70を昇華させる昇華ステップと、を含むC70の単離方法。
(2)前記活性炭を充填剤として用いたカラムを使用し、前記ミックスフラーレンを前記活性炭に吸着させることを特徴とする(1)に記載のC70の単離方法。
(3)前記昇華ステップの加熱温度は、400℃~1000℃である(1)又は(2)に記載のC70の単離方法。
(4)前記昇華ステップは不活性ガス雰囲気下で実施されることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のC70の単離方法。
(5)前記活性炭はBET法による比表面積が1600m2/g以上である(1)~(4)のいずれかに記載のC70の単離方法。
(6)前記溶離溶媒は、炭素数6~20の芳香族炭化水素、含ハロゲン芳香族炭化水素、多環芳香族系炭化水素、又は二硫化炭素より選ばれる少なくとも一種である(1)~(5)のいずれかに記載のC70の単離方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ミックスフラーレンから高純度なC70を効率よく単離する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例で用いた昇華装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るC70の単離方法をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の方法に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0012】
本実施形態の単離方法に適用されるミックスフラーレンは、いかなる方法によって得られたものであっても良い。例えば、燃焼法によって生成した煤状物質から予め多環式芳香族炭化水素及び炭素系高分子成分を除去したものが挙げられる。煤状物質から多環式芳香族炭化水素を除去する方法としては、例えば、フラーレン類の溶解度の低い溶剤を用いて多環式芳香族炭化水素を抽出し除去する方法が挙げられる。煤状物質から炭素系高分子成分を除去する方法としては、フラーレン類の溶解度の高い溶剤を用いてフラーレン類を抽出し、不溶の炭素系高分子成分を濾別する方法が挙げられる。
【0013】
ミックスフラーレン中には、C60とC70を合計した割合は好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。また、C70の割合は、10質量%以上であることが好ましい。なお、ミックスフラーレン中にはフラーレン以外の不純物(例えば、多環式芳香族炭化水素や炭素系高分子など)を含有してもよい。不純物の含有量は好ましく10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0014】
以下に、本実施形態にかかるC70の単離方法の吸着ステップ、C60溶離ステップ、及び昇華ステップについて説明する。
【0015】
(吸着ステップ)
吸着ステップは、活性炭にミックスフラーレンを吸着させるステップである。ミックスフラーレンを活性炭に吸着させる方法としては、具体的には、(a)活性炭とミックスフラーレンと溶離溶媒とを混合し攪拌することにより、ミックスフラーレンを活性炭に吸着させる方法、或いは、(b)カラムに活性炭を充填材として充填し、ミックスフラーレンと溶離溶媒を含む混合液をカラムの上部から流すことにより、ミックスフラーレンを活性炭に吸着させる方法が挙げられる。
【0016】
活性炭として、直径2nm以下の細孔の積算ポアボリュームが0.3cm3/g以上の活性炭を挙げることができる。この活性炭はC60に対する吸着力が比較的小さく、C70以上の高次フラーレンに対する吸着力が比較的高いので、C60とC70以上の高次フラーレンを分離する能力に優れる。すなわち、次のC60溶離ステップの前に活性炭に吸着されるC70の濃度をあらかじめ高めることができる。
直径2nm以下の細孔の積算ポアボリュームは、好ましくは0.4cm3/g以上であり、更に好ましくは0.5cm3/g以上である。上限は特に規定されないが、通常10cm3/g以下である。
また、活性炭のBET法による比表面積は1600m2/g以上であることが好ましく、2000m2/g以上であることがより好ましく、2500m2/g以上であることが特に好ましい。比表面積が上記範囲であれば、1回当たりのミックスフラーレンの処理能力が大きくなる。
なお、活性炭は30μm以下の粒径を持つ粒子の割合が40%以下であるものが好ましく、30%以下であるものがより好ましく、25%以下であるものが特に好ましい。30μm以下の小粒径の活性炭の割合が上記範囲内であれば、後述するC60溶離ステップの操作が容易となる。
【0017】
(C60溶離ステップ)
活性炭に吸着されたミックスフラーレンの内、C60がC70より優先的に溶離するので、この性質を利用して、C60を活性炭から溶離する。
具体的に、前述した吸着ステップの(a)の活性炭とミックスフラーレンと溶離溶媒からなる混合物を濾過することが挙げられる。また、濾過して得た固体に、更に新しい溶離溶媒と混合して、攪拌した後に再度濾過してもよく、この動作を複数回繰り返してもよい。こうして、活性炭に吸着されたC60が溶離溶媒に溶解して、活性炭からC60を分離することができる。
或いは、前述した吸着ステップの(b)について、ミックスフラーレンと溶離溶媒を含む混合液をカラムの上部から流した後に、溶離溶媒をカラムの上部から流すことにより、活性炭からC60を溶離することができる。
C60溶離ステップにより、C60が殆どなくC70を大量に吸着した活性炭を得ることができる。
【0018】
溶離溶媒としては、炭素数6~20の芳香族炭化水素、含ハロゲン芳香族炭化水素、多環芳香族系炭化水素、二硫化炭素を用いることが好ましい。炭素数6~20の芳香族炭化水素化合物として、例えば、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物であり、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n-ブチルベンゼン、sec-ブチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、1,2,3,4-テトラメチルベンゼン、1,2,3,5-テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類があげられる。含ハロゲン芳香族炭化水素としては、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,2-ジブロモベンゼン、1,3-ジブロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン等が挙げられる。多環芳香族系炭化水素としては、キノリン、テトラリン、1-メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、1-フェニルナフタレン、1-クロロナフタレン、1-ブロモ-2-メチルナフタレン等が挙げられる。これらを単独または2種以上を任意の割合で用いてもよい。その中に、1,2,4-トリメチルベンゼン及びテトラリンを用いるのはもっとも好ましい。
【0019】
(昇華ステップ)
次に、C60溶離ステップで得られた活性炭を加熱して、C70を昇華させることにより活性炭からC70を単離する。昇華ステップの前処理として、活性炭を溶離溶媒の沸点近傍で真空乾燥して溶離溶媒をほとんど除去することが好ましい。溶離溶媒が残っていると収率が低下するので好ましくない。溶離溶媒の残存量は0.5質量%以下が好ましい。
【0020】
昇華ステップは、常圧もしくは0.5~5Pa程度の減圧下で実施する。常圧では装置が簡単になるメリットがあり、減圧下ではフラーレンの昇華温度が低くなるメリットがある。経済性を考えて、最適な条件で実施すればよい。フラーレンの反応を避けるためには、昇華に際して昇華装置中を実質的に不活性ガスにより置換し、昇華装置内の気体中の酸素の含有量として10体積%以下とするのが好ましく、5体積%以下とするのが好ましく、1体積%以下とするのが特に好ましい。酸素の含有量が多い場合には、フラーレンの酸化物が生成する場合がある。また、加熱の際に、ミックスフラーレン1gに対して0.1~10ml/min程度で、好ましくは0.5~8ml/min程度で不活性ガスを流し、不活性ガスの流通下で昇温することが好ましい。昇華を実施する際の不活性ガスは、予熱しても良いし、予熱しなくても良い。
昇華させる際の温度は、400℃~1000℃が好ましく、より好ましくは500~900℃、更に好ましくは600℃~800℃である。昇華温度は400℃以上であると、C70の昇華効率がよく、1000℃以下であるとC70が変性してしまう恐れがない。
【0021】
昇華に用いる装置は、上述の温度/圧力となる昇華条件に耐えうるものであれば、バッチ式、固定床型、流動層型、連続型等、特に限定はない。
昇華装置から昇華したC70は不活性ガスに運ばれ、温度を下げて析出させる。析出する装置は、昇華装置と同一装置内に設けても別々に設けてもよい。また、バッチ式、または連続式でもよい。析出したC70の回収には、機械的に集めて回収しても、溶媒に溶解して回収してもよい。C70を析出して回収した後の不活性ガスは、大気に放出するかリサイクル使用する。
【0022】
本実施形態において不活性ガスとは、昇華の温度/圧力条件でC70と実質的に反応しない気体を意味する。不活性ガスの種類としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素ガス及びこれらの混合物が挙げられる。
【0023】
昇華装置の一例として、
図1に示すものが挙げられる。
図1に示す昇華装置1は、昇華部2と、第一析出部3と、第二析出部4と、昇華部2と接続するガス導入配管5と、第二析出部4と接続するガス排出配管6と、ガス排出配管6と接続する真空ポンプからなる減圧部7を備える。
【0024】
昇華部2は、昇華管21と、昇華管21の外周に配置され、昇華管21の少なくとも一部を加熱する加熱部22と、昇華管21と加熱部22を保持する断熱部23とを有する。加熱部22として、抵抗加熱装置、赤外線加熱装置、高周波誘導加熱装置などが挙げられる。断熱部23の材料として、アルミナ質の耐火煉瓦、アルミナ質の不定形耐火材等の断熱材が挙げられる。昇華部2において、C70及びC70よりも昇華温度が低い不純物が昇華する。
第一析出部3は、第一析出管31と第一析出管31の外周の少なく一部に配置される放熱部32とを有する。放熱部32の材料として、例えば、熱伝導率が高い銅、アルミニウムなどの金属が挙げられる。第一析出部3において、昇華したC70が析出する。
第二析出部4は、第二析出管41と、第二析出管41の外周の少なくとも一部に配置される冷却部42を有する。冷却部42として、例えば水冷ジャケットや、冷媒が流れる銅パイプなどが挙げられる。第二析出部4において、C70以外の昇華した不純物が析出する。
昇華管21と、第一析出管31と第二析出管41の材質は、例えば、石英ガラス、ステンレス等の金属類、セラミックス等が挙げられる。また、昇華管21と第一析出管31と第二析出管41が一体化したものあってもよいが、析出したC70の回収しやすさから、それぞれ分離できるのが好ましい。
【実施例0025】
以下の実施例及び比較例により、本実施形態の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0026】
[実施例1]
(活性炭カラムの作製)
関西熱化学社製粉末状活性炭MAXSORB MSC30(直径2nm以下の細孔の積算ポアボリューム;0.55cm3/g、比表面積3250m2/g;水酸化カリウム賦活)をヤマト科学社製篩いNo.286の上に95.1g量りとり、筒井理化学機械株式会社製篩震とう機VSS―50及び目の開き26マイクロメートルの篩いを使用して、目盛り50の強度で空気中5分間篩ったところ、49.5gが篩い上に残存したので1Lガラス製ビーカーに移し取った。篩いの上に量りとる量を変えながら同様の操作をさらに2回繰り返し、篩い上に残存したMAXSORB MSC30を合計177.6g得た。篩いの上に残存したMAXSORB MSC30を0.2g量りとり水に分散させ、株式会社島津製作所製レーザーディフラクションパーティクルアナライザーSALD-2000Jで分析したところ、篩い残存物の平均粒径が94μmであった。また、篩い残存物の内、30μm以下の粒径を持つ粒子の割合は13%であった。
【0027】
篩いの上に残存したMAXSORB MSC30の比表面積を相対圧0.002~0.2の範囲でBET多点法により算出したとこ2990m2/gであった。細孔容積を相対圧が0.93における窒素の吸着量より算出したところ、篩い残存物は1.59mL/gであった。篩い残存物のうち130gを別の1Lビーカーに移し取り、22℃の水浴中で丸善石油化学株式会社製1,2,4-トリメチルベンゼン(別名プソイドクメン)0.6Lを撹拌しながら5分間かけてゆっくりと添加して活性炭スラリーを作製した。
【0028】
SUS304製カラム(カラム内部の内径68mm、高さ100mm)の底部フランジ部に目皿を入れ、目皿の上に直径68mm、孔径0.2ミクロンのPTFE製メンブランフィルターを置き、カラム本体に取り付けてネジで固定した。上部フランジ部を取り外し、上記活性炭スラリー0.049Lをカラム本体の中にそそぎ込み底部抜き出し口から減圧吸引し、スラリー中の1,2,4-トリメチルベンゼンを抜き出しながら活性炭ベッドを作製した。活性炭ベッドの上部が液面より上に出る直前までトリメチルベンゼンを抜き、スラリーを追加する操作を繰り返しながら層高98mmの活性炭ベッドを作製し、目皿とメンブランフィルターを入れた上部フランジを取り付けてネジで固定した。活性炭ベッドの体積は363cm3であった。カラム上部の入り口を送液ラインと接続させた。底部抜き出し口をろ液回収タンクと接続させた。
【0029】
(吸着ステップとC60溶離ステップ)
ミックスフラーレン(混合比:C60/C70/高次フラーレン=60/35/5質量%(フロンティアカーボン株式会社製))20gと、溶離溶液1,2,4-トリメチルベンゼン180gとを混合して、スリーワンモータで60minを攪拌して混合液を作製した。
送液ポンプを駆動し、送液ラインを介して混合液をカラムに送液した。抜き出し口からC60を含むろ液を回収した。抜き出し口から流出するろ液の流出速度を40ml/minにしたところ、カラムに設置した圧力計の表示は0.1MPaであった。
混合液を送液した後に、同様な方法で、溶離溶液1,2,4-トリメチルベンゼンを80.0Lカラムに送液した。抜き出し口から流出する溶液の流出速度を160ml/minにしたところ、カラムに設置した圧力計の表示は0.5MPaであった。
高速液体クロマトグラフィーで溶出液を分析した結果、カラムからは溶出されたC60及びC70の溶出量はそれぞれトータルで11.70gと0.30gであった。
【0030】
(昇華ステップ)
続いて、カラムの上部フランジを外し、カラム内の活性炭を全て取り出した。取り出した活性炭をトレイに入れ、120℃の乾燥機で10h真空乾燥した。乾燥した活性炭を二回に分けて乳鉢で粉砕し、C70を吸着した活性炭粉末を137.8g得た。
【0031】
図1に示す昇華装置1を用いて、昇華処理を実施した。昇華管21と、第一析出管31と第二析出管41は内径160mmの石英ガラス管であり、それぞれ連結または分離できる。昇華管21の長さは40cmであり、第一析出管31の長さは50cmであり、第二析出管41の長さは60cmである。
加熱部22は、カーボンヒーターであり、昇華管21の外周面の面積の約90%を覆うように配置された。断熱部23は、多孔質アルミナからなるものである。
放熱部32は、第一析出管31の外周面の全面を覆う銅の部材である。冷却部42は、第二析出管41の外周面の全面を覆い、室温の水が流れる水冷ジャケットである。
また、昇華管21と、第一析出管31と第二析出管41の温度を測定するために、図に示さない熱電対をそれぞれの中間部に配置した。
【0032】
昇華管21と、第一析出管31と、第二析出管41を連結し、C70を吸着した活性炭粉末を137.8g、昇華管21に仕込んだ後に、真空ポンプからなる減圧部7を稼働して、昇華管21と、第一析出管31と第二析出管41の内部を減圧した。昇華管21内部が1.5Paまでに減圧された時点で、真空ポンプを止め、800.0ml/minの速度で不活性ガスとしてアルゴンガスを60min流して、置換を行った。次に、アルゴンガスの流量を10.0ml/minに設定し、昇華管21内部の圧力が3.4Paになるように、真空ポンプの吸引力を調整した。また、冷却部42に20ml/minの流速で室温の水を流した。続いて、昇華管21が20℃/minの速度で600℃までに昇温させ、600℃で24hを保温した。保温の際に、昇華管21の温度は600℃であり、第一析出管31の温度は、200℃であり、第二析出管41の温度は100℃である。その後、一旦室温まで徐冷し、第一析出部31から析出物を6.72g回収した。
【0033】
島津社製高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、析出物中のC70の含有率(質量%)を測定した。その結果、析出物中のC70の含有率は99.3質量%であった。この結果から、析出物中のC70の含有量は6.67gであることが分かった。
【0034】
(実施例2)
昇華管21を800℃まで昇温した以外は、実施例1と同様である。
第一析出部31から析出物を6.75g回収した。そして、析出物中のC70の含有率は98.6質量%であった。この結果から、析出物中のC70の含有量は6.66gであることが分かった。
【0035】
(比較例1)
吸着ステップとC60溶離ステップは、実施例1と同様であったため、詳細の説明を省略する。
C60溶離ステップの後に、送液ポンプを停止し、カラムの底部抜き出し口と接続するろ液回収タンクをC70溶離液を回収するためのタンクに交換した。次に、送液ポンプを起動し、送液ラインを介して、1-メチルナフタレン(東京化成製)をカラムに送液し、1-メチルナフタレンの送液量が80.0Lに達した時点に送液ポンプを停止した。抜き出し口から流出するC70溶離液の流出速度を130ml/minにしたところ、カラムに設置した圧力計の表示は0.63MPaであった。C70溶離液を79.9L回収した。
【0036】
ロータリーエバポレーターを用いてC70溶離液から1-メチルナフタレンを除去することにより、C70溶離液に溶解した物質が析出物として析出させた。次に、ロータリーエバポレーターから析出物を取り出して、160℃で24hを真空乾燥させ、析出物を7.40g回収した。
島津社製高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、析出物中のC70の含有率(質量%)を測定した。その結果、析出物中のC70の含有率は85.0質量%であった。この結果から、析出物中のC70の含有量は6.29gであることが分かった。
【0037】
実施例1、2は比較例1と比べて、回収した析出物中のC70量が多く、C70の含有率も高いことが分かった。すなわち、本発明の単離方法によりC70を単離することは、従来技術より、高純度なC70を効率よく単離できる。
1:昇華装置 2:昇華部 21:昇華管 22:加熱部 23:断熱部 3:第一析出部 31:第一析出管 32:放熱部 4:第二析出部 41:第二析出管 42:冷却部 5:ガス導入配管 6:ガス排出配管 7:減圧部