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特開2022-91435易切削性金属基複合材料及び易切削性金属基複合材料の製造方法
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  • 特開-易切削性金属基複合材料及び易切削性金属基複合材料の製造方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091435
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】易切削性金属基複合材料及び易切削性金属基複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/10 20060101AFI20220614BHJP
   B22D 19/00 20060101ALI20220614BHJP
   B22D 18/02 20060101ALI20220614BHJP
   C22C 32/00 20060101ALI20220614BHJP
   B22F 3/26 20060101ALI20220614BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220614BHJP
   C22C 21/00 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
C22C1/10 G
B22D19/00 V
B22D19/00 E
B22D18/02 L
C22C32/00 R
B22F3/26 C
B22F1/00 E
C22C21/00 N
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204274
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】515243372
【氏名又は名称】アドバンスコンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】ニン プィン ライン
(72)【発明者】
【氏名】北村 仁
【テーマコード(参考)】
4K018
4K020
【Fターム(参考)】
4K018AA14
4K018AB01
4K018AB02
4K018AB04
4K018KA51
4K020AC01
4K020BA08
4K020BB26
(57)【要約】
【課題】強化材として高硬度粒子を用いた場合に、アルミニウム合金等の金属を複合化させてなる、強化材粒子が安定かつ均等に分布した良好な品質を実現した金属基複合材料において、金属基複合材料を切削加工して所望の形状の部品等に加工する際に、良好な機械的な加工性を示す、品質と実用性に優れる金属基複合材料の提供。
【解決手段】高硬度粒子を強化材とし、金属をマトリックス材とした金属基複合材において、前記強化材は、高硬度粒子の1次粒子が複数個凝集して造粒されてなる2次粒子であり、かつ、該2次粒子を構成する複数個の1次粒子によって形成された隙間に前記マトリックス材が侵入した部分を有してなることを特徴とする易切削性金属基複合材料。
【選択図】 図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高硬度粒子を強化材とし、金属をマトリックス材とした金属基複合材において、
前記強化材は、高硬度粒子の1次粒子が複数個凝集して造粒されてなる2次粒子であり、かつ、該2次粒子を構成する複数個の1次粒子によって形成された隙間に前記マトリックス材が侵入した部分を有してなることを特徴とする易切削性金属基複合材料。
【請求項2】
前記高硬度粒子の材料は、セラミックス、金属及び金属間化合物からなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項1の易切削性金属基複合材料。
【請求項3】
前記1次粒子の粒径は、10μm以下である請求項1又は2に記載の易切削性金属基複合材料。
【請求項4】
前記2次粒子は、前記1次粒子を複数個凝集させて30μm以上、200μm以下に造粒されてなる請求項1~3のいずれか1項に記載の易切削性金属基複合材料。
【請求項5】
前記金属のマトリックス材は、アルミニウム合金である請求項1~4のいずれか1項に記載の易切削性金属基複合材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の易切削性金属基複合材料を製造するための製造方法であって、
高硬度粒子の1次粒子を複数個凝集して造粒されてなる2次粒子を得るための造粒工程と、造粒した2次粒子を原料として、該2次粒子からなる強化材を含んでなる中間成形体を作製するための成形工程と、前記中間成形体を配置した容器内に溶融した金属を高圧で充填・含浸させる工程と、を有してなることを特徴とする易切削性金属基複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易切削性金属基複合材料及び易切削性金属基複合材料の製造方法に関する。詳しくは、金属合金中に高硬度粒子の強化材が分散した高強度を示す金属基複合材料でありながら、加工性に優れ、切削工程で旋削加工などに使用した刃物の損傷を低減できる易切削性金属基複合材料及び易切削性金属基複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、セラミックス粉末等からなる強化材の充填体或いはセラミックス粉末等をバインダーで固めた固化体に、アルミニウム合金等の金属合金を溶湯にして高圧で含浸させて、金属合金中に強化材粉末が複合化された複合材料を製造する方法が提案され、一部製品化されている。この製造方法によれば、高圧で金属合金の溶湯を、強化材粉末の充填体等に含浸させるので、強化材粉末の内部に存在するポアが潰れ、ポアが残存しないという利点がある。また、含浸後、溶湯が短時間で冷却されるので、金属合金の組織が均一になるため、製造される複合材料は、強度が高く、かつ、組織のバラツキが小さく、複合化させた、強化材と金属合金の性能を兼ね備えた、優れた特性の素材が製造できるので、近年、注目されている。
【0003】
例えば、高圧でアルミニウム合金の溶湯を含浸させる方法として、強化材とするためのホウ酸アルミニウム粉末原料を鉄製容器に充填して充填体を得、予熱した充填体にアルミニウム合金の溶湯で高圧含浸する方法が提案されている(特許文献1参照)。このようにすることで、得られる複合材料は、従来よりも加工性が向上するとされている。また、アルミニウム合金などのマトリックス金属の溶湯の浸透を外部圧力に依存して行う場合の困難性を解決する目的で、セラミックス粉末を含む充填剤材料で形成した、形状一体性及び生強度を有する多孔質材料であるプレフォームを使用し、当該プレフォームの少なくとも一部分にアルミニウム合金などの溶湯を自発的に含浸させるようにした自発的浸透技術の利用に関する提案もある(特許文献2参照)。また、特許文献2には、充填剤物質若しくはプレフォームを含む物質の組成やサイズを規制することによって、得られる金属マトリックス複合材の性質に影響することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-38172号公報
【特許文献2】特許第3370991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来技術に対し、本発明者らは、高圧でアルミニウム合金の溶湯を含浸させるなどの方法で、金属合金中にセラミックス等の強化材が分散した高強度を示す金属基複合材料を得た場合に、使用する強化材の材料によって、その加工性が大きく異なり、特に、高硬度粒子を強化材とした場合に、その傾向が著しく、複合化させることで良好な特性を有する材料になるものの、加工性が劣るために実用化できないとした技術課題があることを見出した。
【0006】
例えば、アルミニウム合金等の金属に、強化材として、従来技術にあるように、ホウ酸アルミニウム粉末を分散させた金属基複合材料を製造した場合は、得られた金属基複合材料は、性能に優れ、その加工性も実用上許容できるものになる。これに対し、強化材の中でも、特に高硬度粒子を用いた場合に、性能に優れるものの、機械的な加工性に劣る複合材料になる傾向が顕著であることを見出した。そして、この課題は、アルミニウム合金等の金属の溶湯を高圧含浸させて、強化材と金属とを複合化させて得られた金属基複合材料における特有の課題ではなく、例えば、ダイカスト鋳造によって得た、高硬度粒子を強化材として用いた金属基複合材料についても、同様の課題がある。
【0007】
本発明者らが見出した強化材として用いた高硬度粒子と、アルミニウム合金等の金属を複合化させた金属基複合材料が機械的な加工性に劣るという課題は、具体的には、金属基複合材料を加工した場合に、旋削加工などに使用した刃物の損傷が著しく、切削作業中に何度も刃物を交換する必要が生じてしまい、切削工程・旋盤工程を円滑に行うことができないとしたことである。これに対し、例えば、前記した金属合金の溶湯を高圧含浸させて、高硬度粒子と金属合金を複合化させた(以下、高圧鋳造と呼ぶ)金属基複合材料では、その後に切削加工をして所望の形状の部品等に加工する必要があるので、機械的な加工性の優劣は、金属基複合材料において極めて重要な性能になる。本発明が対象としている金属基複合材料において、機械的な加工性が劣るという技術課題は、高硬度粒子と金属とを複合化させてなる材料の基本的な構成に由来して生じたものであり、実用的には、先に挙げた強化材を金属中に均一に分散させること以上に重要な問題である。すなわち、最終的に、良好な機械的な加工性を実現できなければ、性能に優れる金属基複合材料を製造できたとしても、この材料を種々の部品に加工して汎用製品とすることが難しくなることから、工業上の利用性に劣り、この点で、実用価値が低減した材料になる。
【0008】
従って、本発明の目的は、強化材として高硬度粒子を用いた場合に、アルミニウム合金等の金属を複合化させてなる、強化材粒子が安定かつ均等に分布してなる良好な品質を実現した金属基複合材料であって、しかも、金属基複合材料を切削加工して所望の形状の部品等に加工する際に、良好な機械的な加工性を示す、実用性に優れる金属基複合材料の提供を実現することである。上記の目的を実現できれば、金属基複合材料を構成する強化材に用いることができる材料の範囲が広くなるので、所望する性能を実現した金属基複合材料を得るための材料の選択の範囲を広くすることができることから、材料選択の点でも実用価値の高い金属基複合材料の提供が可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記の易切削性金属基複合材料を提供する。
[1]高硬度粒子を強化材とし、金属をマトリックス材とした金属基複合材において、
前記強化材は、高硬度粒子の1次粒子が複数個凝集して造粒されてなる2次粒子であり、かつ、該2次粒子を構成する複数個の1次粒子によって形成された隙間に前記マトリックス材が侵入した部分を有してなることを特徴とする易切削性金属基複合材料。
【0010】
上記の易切削性金属基複合材料の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
[2]前記高硬度粒子の材料は、セラミックス、金属及び金属間化合物からなる群から選ばれる少なくともいずれかである上記[1]に記載の易切削性金属基複合材料。
[3]前記1次粒子の粒径は、10μm以下である上記[1]又は[2]に記載の易切削性金属基複合材料。
[4]前記2次粒子は、前記1次粒子を複数個凝集させて30μm以上、200μm以下に造粒されてなる上記[1]~[3]のいずれかに記載の易切削性金属基複合材料。
[5]前記金属のマトリックス材は、アルミニウム合金である上記[1]~[4]のいずれかに記載の易切削性金属基複合材料。
【0011】
本発明は、別の実施形態として、下記の易切削性金属基複合材料の製造方法を提供する。
[6]上記[1]~[5]のいずれかに記載の易切削性金属基複合材料を製造するための製造方法であって、高硬度粒子の1次粒子を複数個凝集して造粒されてなる2次粒子を得るための造粒工程と、造粒した2次粒子を原料として、該2次粒子からなる強化材を含んでなる中間成形体を作製するための成形工程と、前記中間成形体を配置した容器内に溶融した金属を高圧で充填・含浸させる工程と、を有してなることを特徴とする易切削性金属基複合材料の製造方法。
【0012】
上記の易切削性金属基複合材料の製造方法の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。
前記中間成形体を作製するための成形工程で、前記造粒工程で得た前記1次粒子を複数個凝集させて30μm以上、200μm以下に造粒してなる2次粒子を主原料に、平均粒径が15nm以上、200nm以下の粒子状のバインダーを混合して混合粒子とし、該混合粒子をスラリー状にしたものを原料に用い、スラリー状の原料を所望形状の容器内に充填し、前記混合粒子を沈降させ、液を除き、前記容器から、沈降物である固化体を取り出し、該固化体を乾燥及び/又は仮焼して、前記高硬度粒子を主原料としてなる中間成型体を得る上記[6]に記載の易切削性金属基複合材料の製造方法。また、前記成型工程で得た中間成型体は、強化材体積比(Vf値)が50%以下であることが好ましい。
【0013】
前記バインダーが、前記成型工程で得られる中間成型体に無機成分を含有させるための無機系バインダーを含み、前記成型工程で、該無機系バインダーを、固形分換算で、前記主原料である高硬度粒子100質量部に対して、前記無機成分が3質量部以上、20質量部以下の範囲で含有するようになる量で混合する上記[6]に記載の易切削性金属基複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、強化材である高硬度粒子と、アルミニウム合金等の金属を複合化させて得た、強化材粒子が安定かつ均等に分布してなる良好な品質を実現した金属基複合材料を、切削加工して所望の形状の部品等に加工する際において、実用上問題のない機械的な加工性を実現した、品質と実用性に優れる易切削性金属基複合材料が提供される。また、本発明によれば、強化材として用いた場合に、得られた金属基複合材料の工業上の利用を難しくしていた高硬度粒子を強化材として問題なく使用できるようになるので、材料選択の点で有用な易切削性金属基複合材料が提供される。このことは、本発明によれば、所望する種々の性能の易切削性金属基複合材料の提供が可能になることが期待できることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】強化材として高硬度粒子の2次粒子を用いた本発明の易切削性金属基複合材料を切削する様子を模式的に示した図である。
図1B】強化材として高硬度粒子の中実粒子を用いた比較例の金属基複合材料を切削する様子を模式的に示した図である。
図2】本発明の実施例1の易切削性金属基複合材料を構成する強化材に用いた、SiC粉末の2次粒子の電子顕微鏡写真の図である。
図3】本発明の実施例1の易切削性金属基複合材料を構成する強化材の分散状態を示すための電子顕微鏡写真の図である。
図4】本発明の易切削性金属基複合材料において、構成する強化材として用いた2次粒子の空隙に金属が侵入していることを示すための電子顕微鏡写真の図である。
図5】比較例1の金属基複合材料を構成する強化材に用いた、SiCの中実粒子の電子顕微鏡写真の図である。
図6】強化材に中実粒子を使用した場合の金属基複合材料における、構成する強化材の分散状態を示すための電子顕微鏡写真の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の好ましい形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明者らは、本発明が目的とする強化材である高硬度粒子と、アルミニウム合金等の金属を複合化させた金属基複合材料が機械的な加工性に劣るという致命的ともいえる実用上の技術課題を解決すべく鋭意検討する過程で、下記の知見を得た。
【0017】
本発明者らは、従来の金属基複合材料において、切削工程で刃物が早期に損傷して、刃物の交換頻度が高くなるといった問題を呈する材料、具体的には、金属基複合材料が、機械的な切削性に劣るものになる強化材の材料について、詳細な検討を行った。その結果、強化材の中でも、例えば、アルミナや、シリカ、炭化ケイ素、金属シリコン等の高硬度粒子の中実粒子(気孔などの空間がなく密に詰まったものを意味する)を用いて、金属とこれらの強化材とを複合化させてなる金属基複合材料において、刃物の損傷の程度が著しいことを確認した。これに対し、例えば、強化材にホウ酸アルミニウムを用いた金属基複合材料では、切削工程に用いた刃物の耐久性等は、上記した高硬度粒子を強化材に用いた材料に比べて良好になる。
【0018】
本発明者らは、高硬度粒子の中実粒子を強化材に用いた構成の従来の金属基複合材料について、切削加工した場合の、刃物と材料の状態について詳細な検討を行った。その結果、図1Bに模式的に示したように、切削加工に用いた刃物が、従来の金属基複合材料中に分散している中実粒子の高硬度粒子に当たり、このことが原因して、刃物が短期間の使用で著しい摩耗を生じたり、場合によっては、刃先に欠け(チッピング)などを起こさせていることがわかった。そして、これらの刃物の損傷が原因して、切削加工に使用する刃物寿命が短くなるため、新しい刃物に替えたり、場合によっては、より強度の高い特殊な刃物に替える必要が生じたりするなど、ランニングコストの増大を招いていた。また、この場合は頻繁に刃物を交換する必要が生じたり、切削速度を遅くする必要が生じたりするため、加工に時間がかかり、切削工程での作業性を悪くしていた。
【0019】
上記の現状に対し、本発明者らは、先に挙げたような高硬度粒子を強化材に用いた金属基複合材料であるにもかかわらず、切削加工した場合に、刃物の早期の損傷の問題や刃先の損傷の問題の低減を実現すべく、鋭意検討を行った。その結果、使用する強化材として、高硬度粒子の1次粒子が複数個凝集して造粒されてなる2次粒子としたものを使用するとした簡便な手段で、上記の課題を解決できることを見出して本発明に至った。すなわち、前記した従来技術にあるように、従来の金属基複合材料において、強化材の粒子径の違いによって、得られる金属基複合材料の特性が異なるものになることについての検討が行われているものの、いずれの場合も中実の1次粒子の粒子径の違いを問題としていたのに対し、本発明では、強化材として、中実の1次粒子を造粒して得られる2次粒子を用いたことで、従来にない顕著な効果が得られることを見出した。
【0020】
具体的には、例えば、アルミナや、シリカ、炭化ケイ素、金属シリコン等の高硬度粒子の1次粒子を造粒(凝集)して粒径の大きな2次粒子にし、この2次粒子を強化材として用いて、金属をマトリックス材とした構成の金属基複合材料では、上記した切削工程・旋盤工程において生じていた、刃物の損傷の問題が著しく低減できることを見出した。このように構成することで、使用する強化材の材料に起因して生じる機械的な加工性に劣るとした課題を解決した金属基複合材料の提供が可能になる。加えて、強化材の材料の選択の範囲が広くなるので、所望する多様な品質の金属基複合材料の提供も期待できるようになる。
【0021】
本発明者らは、上記した本発明で規定する構成の金属基複合材料において、本発明の顕著な効果が得られた理由について、下記のように考えている。高硬度粒子の1次粒子を造粒(凝集)させて粒径の大きな2次粒子にすると、2次粒子は、凝集した隣接する1次粒子同士によって形成される隙間により、その粒子内に細かい空隙を有するものになる(図2参照)。本発明の金属基複合材料は、上記した2次粒子を、集積、もしくは、中間成形体(プリフォーム)に成型するなどした強化材に、鋳造によって、2次粒子間に、及び、2次粒子内の1次粒子間の空隙に金属を浸透含浸させることで得ることができる。そのため、本発明の金属基複合材料は、複合材料内に微細な1次粒子が、安定した強化材体積比(Vf値)で、かつ、強化材粒子が均等に金属中に分散することにより、切削時に刃物が微細な強化材粒子に当たっても刃物を破損することがない。しかも、本発明の金属基複合材料は、構成する1次粒子及び2次粒子間の隙間に均等に浸透含浸した硬さの低い金属部を有するため、切削時に刃物は、この金属部を切削破壊できる。このため、本発明によれば、切削性が安定で、かつ、従来の材料に比較して刃物の損傷が少なくなり、切削に用いる刃物寿命が長寿命になる易切削性複合材料の提供が可能になる。
【0022】
より詳細に説明すると、本発明の金属基複合材料では、強化材に、高硬度粒子の2次粒子を用いているため、切削加工した際に、刃物が強化材に当たった場合に、2次粒子を構成している1次粒子に当たることになる。図1Aに示したように、1次粒子は微細であるため、刃物への衝撃力は小さく、このことで、刃物の損傷の問題が低減できたものと考えられる。本発明者らは、さらに、下記のことも、本発明の構成の金属基複合材料が、切削加工した際における重大な問題であった刃物の損傷を大幅に低減できた一因であり、これらの相乗効果として本発明の顕著な効果が得られたものと考えている。
【0023】
本発明者らの検討によれば、高硬度粒子の1次粒子を造粒(凝集)させた2次粒子を強化材に用い、溶解した金属を用いて鋳造して、2次粒子からなる強化材と金属とを複合化させると、2次粒子間に加えて、図4に示したように、2次粒子内の、隣接する1次粒子同士によって形成される細かい空隙(隙間)に、マトリックス材(金属)が浸透し、侵入した部分を有する状態で複合化されることがわかった。さらに、その場合に、ダイカスト鋳造のような方法で複合化した場合は勿論のこと、ダイカスト鋳造法よりもマトリックス材(金属)を空隙(隙間)に圧入する力が強いと考えられる高圧鋳造で複合化した場合でも、2次粒子内の微細空隙(1次粒子間の隙間)の全てにマトリックス材(金属)が浸透含浸する訳ではなく、一部の微細空隙は、マトリックス材(金属)が未含浸である「未充填空隙」の状態になることがわかった。そして、この未充填空隙は、用いる鋳造方法によって多少の違いはあるものの、その殆どは、マトリックス材(金属)との複合化の際に圧縮されて潰された状態になることを見出した。
【0024】
本発明者らは、上記の事実から、この、マトリックス材(金属)が含浸した或いは未含浸の2次粒子内の微細空隙(隙間)の存在も、本発明の、高硬度粒子を強化材とし、金属をマトリックス材とした従来の金属基複合材料においての重大な技術課題であった、切削加工に使用する刃物に生じる損傷を大幅に低減できた理由の一つであると考えている。
【0025】
まず、2次粒子内の微細空隙(隙間)に、マトリックス材(金属)が浸透含浸している場合は、先に述べたように、切削加工の際に刃物が粒子に当たっても、1次粒子は微細であるため衝撃力が小さい。また、2次粒子内の微細空隙(隙間)に浸透含浸したマトリックス材(金属)は軟らかいので、切削時に、刃物は、この柔らかい金属部を主に切断することになったりするので、刃物の損傷が発生する可能性が低減し、金属基複合材料の切削加工の容易性は、従来の強化材に中実粒子を用いてなる金属基複合材に比べて格段に向上する。また、マトリックス材(金属)が未含浸の2次粒子内の「未充填空隙」が潰された部分は、1次粒子同士、或いは、1次粒子とマトリックス材(金属)が密着しない状態になるので、その部分に極めて微細な界面が形成され、その界面は、相対的に強度が低いものになる。このため、切削加工の際に刃物が「未充填空隙」に当たっても、この強度が低い界面部が破断して切削することになるので、この場合も、刃物の損傷が発生する可能性が低減し、本発明の金属基複合材料における機械的な加工性が、従来の金属基複合材に比べて向上したものと考えている。
【0026】
上記に対し、中実な1次粒子を強化材に使用してなる従来の金属基複合材料の場合は、本発明の構成の金属基複合材料によって実現される顕著な効果を得ることはできない。以下に、中実な1次粒子を強化材として得た従来の金属基複合材料を例に、その違いについて説明する。
【0027】
まず、中実な1次粒子で成形したプリフォームを用いて製造した金属基複合材料では、プリフォームを形成する1次粒子同士が接触結合して形状を確保するため、プリフォームの強化材体積比(Vf%=粒子体積/プリフォーム体積の百分率)が50%を超えて大きくなってしまう。ここで、プリフォームの強化材体積比(Vf%=粒子体積/プリフォーム体積の百分率)を、1辺1mmの立方体(プリフォーム体積とその中に内接する直径1mmの球体(粒子体積)と想定すると、Vf%=4/3π(0.5)3mm3/1mm3×100=52.3%となる、さらに、内接する直径1mmの球体間の隙間部に微細な粒子が入り込めるので、中実粒子でプリフォーム成形した場合は、Vf%が50%を超えた値となる。実際に中実粒子の粒子分散法での強化材(SiC、アルミナとも)のVf%は、60%程度となっている。
【0028】
また、中実な1次粒子を容器に詰めてそこに溶湯を浸透含浸させる製法(粒子充填法)及び溶解した金属中に中実な1次粒子を分散させた溶融材料(粒子分散溶湯)を型内に充填する製法、で作られた金属基複合材料は、強化材粒子体積比(Vf%)は低くできるものの、溶融金属と強化材粒子の比重差による粒子の沈降、液体の溶融金属と固体の粒子の流動性の違いなどによる分離などで、安定した強化材体積比(Vf%)で、かつ、強化材粒子が均等に金属中に分散する金属基複合材料にならない(図6参照)。
【0029】
上記したように、いずれの製法を用いた場合も、本発明の金属基複合材料によって実現される、品質に優れ、しかも、切削工程における加工性に優れる材料にはならない。これに対し、2次粒子の強化材を用いる本発明金属基複合材料は、強化材体積比(Vf%)が50%を超えることはなく、50%以下と、上記した中実の1次粒子を強化材とした場合よりも低く、また、安定したVf%を示すことを確認した。すなわち、本発明金属基複合材料は、強化材粒子が均等に金属中に分散したものになる。
【0030】
〔強化材〕
以下に、上記した効果が得られる本発明の易切削性金属基複合材料を特徴づける、金属をマトリックス材とし、該マトリックス材に対して品質を向上させる強化材として機能でき、しかも、従来の金属基複合材料においての課題である機械的な加工性を向上させることの実現を可能にできる、高硬度粒子の1次粒子を複数個凝集して造粒してなる2次粒子について説明する。
【0031】
(原料の高硬度粒子)
本発明で強化材として使用する高硬度粒子は、特に種類が限定されるものでなく、例えば、従来より金属基複合材料の強化材として一般的なセラミックス粉末等を用いることができる。セラミックス粉末としては、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア等の酸化物や、炭化けい素、窒化アルミニウム、窒化けい素等の非酸化物や、金属シリコン等の金属が挙げられる。本発明者らの検討によれば、特に、汎用の材料である、アルミナ、シリカ、炭化けい素、金属シリコン等の高硬度粒子を用いた場合に、これらの中実粒子に替えて、1次粒子を複数個凝集させた2次粒子を強化材とした構成にしたことによって得られる本発明の顕著な効果が、より著しいものになる。
【0032】
しかし、本発明は、これらのセラミックスに限定されるものではない。例えば、近年、開発された特許第598869号で提案されているような、アルミニウム合金のマトリックス中に、粒子状の金属間化合物を分散させた系で強化材に用いられている金属間化合物等を用いることもできる。金属間化合物としては、例えば、AlNi、AlCr等の化合物が挙げられる。いずれにしても、本発明で重要なことは、例えば、セラッミクスや金属間化合物等の1次粒子を複数個凝集させて造粒した2次粒子を強化材とした用いることである。
【0033】
本発明で強化材として使用する高硬度粒子は、その1次粒子の粒径が10μm以下の微細なものを用いることが好ましい。例えば、1~10μmのものであればよい。先に挙げたような一般的に強化材として市販されているセラミックス粉末は、このような粒径のものであるので何れも用いることができる。また、本発明で強化材として使用する高硬度粒子は、例えば、先に挙げるようなセラミックス粉末を複数用いることができる。本発明で強化材として使用する高硬度粒子の選択は、複合化させることで複合材料に発現させることを所望する性能に応じて、適宜な原料を選択すればよい。
【0034】
(原料の高硬度粒子を造粒した2次粒子)
本発明では、上記に挙げたような材料の、例えば、1次粒子の粒径が10μm以下である微細な高硬度粒子を、マトリックス材である金属と複合化させるための強化材の原料に用いる。本発明では、本発明の金属基複合材料を構成する強化材に、このような、高硬度粒子の1次粒子が複数個凝集して造粒されてなる2次粒子を使用することを要する。本発明を特徴づける2次粒子としては、例えば、上記1次粒子を複数個凝集させて30μm~200μmに造粒されてなるものを用いることが好ましい。より好ましくは、30μm~100μm程度になるように、前記1次粒子を凝集させて造粒した2次粒子を用いるとよい。
【0035】
造粒方法は特に限定されないが、本発明で重要なことは、図1Aに模式的に示したように、造粒した2次粒子内に、2次粒子を構成する複数個の1次粒子同士によって隙間(空隙)が形成されたものにすることである。具体的には、一般に行われている顆粒を製造する方法を参照して得ることができる。例えば、下記のような簡便な方法で、本発明で使用する所望の状態の2次粒子を容易に造粒することができる。
【0036】
例えば、1次粒子の粒径が1~10μmである、セラミックス粉末等の高硬度粒子を用い、該高硬度粒子に、必要に応じて、有機バインダー又は無機バインダーを加え、水を加えてスラリーを調製し、該スラリーを噴霧してスプレードライ法によって乾燥させることで、本発明を構成する高硬度粒子の1次粒子が複数個凝集して造粒されてなる2次粒子を得ることができる。また、上記のようにして調製したスラリーを自然乾燥などの方法で乾燥させ、得られた乾燥物を粉砕した後、篩分け等の方法で分級することで、所望の粒径に造粒されてなる2次粒子を得ることができる。本発明は、上記した造粒方法に限定されるものでなく、微細な1次粒子を複数個凝集して造粒してなり、隣接する1次粒子同士によって隙間(空隙)が形成された2次粒子を得ることができる方法であれば、いずれの方法も用いることができる。
【0037】
先に述べたように、本発明で強化材に使用するセラミックス粉末等の高硬度粒子は、1次粒子の粒径が10μm以下であり、さらに、高硬度粒子の1次粒子が複数個凝集して造粒されてなる、30μm以上、200μm以下の2次粒子を用いることが好ましい。本発明の易切削性金属基複合材料を製造する際に利用することができる中間成形体を、高硬度粒子の2次粒子を用いて製造する場合は、例えば、150μm以下、好ましくは100μm以下、の粒径のものを用いるとよい。本発明において、高硬度粒子の2次粒子の粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置 Partica LA-960(商品名、堀場製作所社製)で測定できる。なお、実施にあたっては、通常、セラミックス粉体等の市販品に、粒子径或いは粒径として表示されている1次粒子の値を用いて設計すればよい。
【0038】
(バインダー)
本発明の易切削性金属基複合材料、或いは、該材料を製造する際に用いることのできる中間成形体は、高硬度粒子の1次粒子が複数個凝集して造粒されてなる2次粒子を用いて構成されたものであることを特徴とする。そして、先に述べたように、高硬度粒子の1次粒子が複数個凝集して造粒されてなる2次粒子を調製する際の造粒工程において、バインダーを用いることが好ましい。バインダーとしては、特に限定されず、無機バインダーや、有機バインダーを用いることができる。無機系バインダーとしては、例えば、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、水酸化アルミニウム微粉末等が挙げられる。その粒子径としては、好ましくは20nm以上のものを使用するとよい。
【0039】
本発明で使用するバインダーは、上記いずれの場合も、セラミックス粉末等の高硬度粒子とスラリーにして均一に混合する際に用いるため、水又はアルコール等に懸濁したコロイド状のものや、スラリー状のものを使用することが好ましい。コロイドは、nm単位の微細な粒子が均一になっているため、本発明で使用するバインダーとして好適である。広い意味でのコロイド粒子の大きさは、直径が1nm~1μm(1000nm)であるが、本発明においては、中でも15nm以上、望ましくは20nm以上の平均粒径のバインダーを使用するとよい。また、200nm以下のものを使用することが好ましい。このような粒径のものは、例えば、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナとして、粒子径毎に市販されている。
【0040】
本発明の易切削性金属基複合材料は、例えば、2次粒子からなる強化材を含んでなる中間成形体を利用した方法で得ることができる。下記に、本発明に利用できる中間成形体の製造方法の一例について説明する。まず、先に述べた粒径の粗い主原料の高硬度粒子の2次粒子と、微細な粒子状のバインダーとをスラリー状の混合原料とし、得られた原料スラリーを容器内に入れて、混合粒子を自重で沈降させる。そして、水分(液)を除き、前記容器から沈降物である固化体を取り出し、次に、得られた固化体を、乾燥及び/又は仮焼して、高硬度粒子の2次粒子を主原料としてなる中間成型体を得る。上記のようにして得られた中間成型体は、アルミニウム合金等の金属の溶湯を高圧で充填・含浸させた場合に、高圧に耐えられる十分な強度有するものになる。その結果、最終的に得られる、高硬度粒子の2次粒子を強化材とし、金属をマトリックス材として複合化させた金属基複合材料は、均一で、所望する性能が効果的に発現したものになり、高品質で、しかも機械的な加工性が良好な、易切削性金属基複合材料を歩留まりよく得ることができる。
【0041】
本発明者らの検討によれば、上記のようにして得られた中間成型体は、強化材体積比(Vf値)が50%以下、好適には約35%~45%であり、十分な強度をもつものになる。このため、例えば、次に、高圧で、得られた中間成型体にアルミニウム合金等の金属の溶湯を充填・含浸させる高圧鋳造を適用した場合に、良好な含浸を行うことができ、本発明の易切削性金属基複合材料を得ることができる。また、上記した中間成形体の製造方法によれば、所望の形状の中間成形体を得ることができるので、ダイカスト金型内に中間成形体を設置して、溶解した金属を注湯するダイカスト鋳造によって、本発明の易切削性金属基複合材料を得ることもできる。本発明者らの検討によれば、通常、強化材体積比(Vf値)が50%以下で、かつ、十分な強度をもつ中間成型体を得ることは難しいが、上記で説明した方法で中間成形体を作製すれば、容易に得ることができる。
【0042】
本発明の易切削性金属基複合材料を得るためのより好ましい製造方法では、上記した成型工程で得られた中間成型体を、鉄製容器に入れて容器と共に加温するか、中間成型体を鉄板に挟んで加温をした後、次の、高圧鋳造やダイカスト鋳造に供するように構成するとよい。
【0043】
本発明の易切削性金属基複合材料を得るための製造方法において、高圧鋳造を行う場合は、下記のようにすることが好ましい。加温した中間成型体を入れた鉄製容器又は加温した中間成型体を、高圧鋳造で用いる、アルミニウム合金等の金属の溶湯を注ぐための高圧プレス容器に入れて、高圧で充填・含浸させる。具体的には、先のようにして得た中間成型体を、簡単な鉄箱に入れるか、鉄板に挟んで、数百度℃で加温して、高圧プレス容器の中に入れ、この状態の高圧プレス容器に金属の溶湯を注湯し、その後に高圧プレスして、中間成型体内に金属の溶湯を浸透させる。このようにすることで、高硬度粒子を強化材とし、金属をマトリックス材とした高品質の、しかも機械的な加工性が良好な実用性の高い金属基複合材が簡便に製造される。本発明の製造方法で得られた易切削性金属基複合材料には、従来の製法で見られたアルミニウム合金等の金属の流れ痕跡や、亀裂が入った金属筋が見られない、均一なセラミックス等の高硬度粒子/アルミニウム合金等の金属の複合材料になる。
【0044】
高圧鋳造法を利用した本発明の製造方法では、前記したセラミックス等の高硬度粒子を用いて作製した中間成形体を使用して、例えば、下記のようにして、アルミニウム合金等の金属をマトリックス材とした、金属中に高硬度粒子の2次粒子からなる強化材が均一に分布(分散)してなる易切削性金属基複合材料が得られる。例えば、アルミニウム合金等の金属の融点よりも高い温度で溶融した溶湯に、200kg/cm2以上、具体的には、1000~3000kg/cm2の圧力をかけることで、高硬度粒子の2次粒子を含むスラリー状の混合原料を用いて得た、強化材体積比(Vf値)50%以下の中間成型体に存在する気孔に、強制的にアルミニウム合金等の金属の溶湯を圧入・含浸させることができる。そして、その後冷却することで、アルミニウム合金等の金属中に、高硬度粒子の2次粒子からなる強化材が均一に分布(分散)してなる易切削性金属基複合材料が得られる。
【実施例0045】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0046】
[実施例1]
まず、下記のようにして、強化材として使用するための、高硬度粒子の1次粒子が複数個凝集して造粒した2次粒子にした材料を調製した。本例では、1次粒子の粒径が6μmのSiC粉を用いた。そして、該SiC粉を20部、有機バインダーを2部、水を78部混合したスラリーを得、該スラリーを用いてスプレードライ法により造粒(顆粒化)して、中心粒径が55μmであり、かつ、複数の1次粒子が凝集することで粒子同士の間に隙間が形成されている、内部に空隙を有する2次粒子を得た。図2に示したように、粒径が6μmの1次粒子が凝集したことで形成された空隙は、隙間の幅が0.1~0.5μm程度であった。
【0047】
上記のようにして得られたSiC粉の2次粒子を、鋼材で製作した箱(上面開放)に振動をかけながら充填し、箱ごと750℃の温度で3時間加熱をして、有機バインダーの除去と予熱を行った。予熱された箱を高圧鋳造装置の高圧プレス容器内に設置し、開放されている上面から箱内に800℃で溶解したアルミニウム合金を注湯して、加圧力100MPaで高圧鋳造により強化材体積比(Vf値)35%の金属基複合材を凝固成形した。本例では、アルミニウム合金に、アルミニウム合金番号AC4A(鋳物用、Al-Si-Mg系)を用いた。図3に、上記で得られた凝固成形してなる金属基複合材の電子顕微鏡写真を示した。図3に示した通り、強化材として複合化させた2次粒子の偏りがなく、均等分散できたことを確認した。図3の濃灰色部分が強化材粒子であり、灰色部分がアルミニウム合金であり、強化材として複合化させた2次粒子内にアルミニウム合金が侵入して強化材粒子が安定かつ均等に分布していることが確認できた。
【0048】
(評価)
上記で凝固成形した金属基複合材料を箱から取り出し、取り出した金属基複合材から、切削試験用の試験片(φ100×250mm)を切り出した。そして、切り出した試験片の円周部を、押込み深さ1mmで、横方向へ長さ100mm切削することを1回として、同様の条件で計10回切削する旋盤加工を施した。上記の加工後に、旋削加工に使用した刃物(超硬KW10)の摩耗量を測定して、本実施例の金属基複合材料についての切削性(加工性)を評価した。表1に評価結果を示した。
【0049】
[実施例2]
本例では、高硬度粒子に、1次粒子の粒径が1μmのアルミナ粉を用いた。そして、該アルミナ粉を25部、無機バインダーを5部、水30部を混合したスラリーを得、該スラリーを自然乾燥させ、乾燥後、乾燥物を粉砕し、篩分けにより分級して、50μmアンダーの、複数の1次粒子が凝集することで粒子同士の間に隙間が形成されている、内部に空隙を有する2次粒子を得た。粒径が1μmの1次粒子が凝集したことで形成された2次粒子内の空隙は、隙間の幅が0.05~0.2μm程度であった。
【0050】
上記で得たアルミナ粉の2次粒子を、鋼材で製作した箱(上面開放)に振動をかけながら充填し、箱ごと800℃に予熱した。そして、予熱された箱を高圧鋳造装置の高圧プレス容器内に設置し、開放されている上面から箱内に800℃で溶解したアルミニウム合金を注湯して、加圧力80MPaで、高圧鋳造により強化材体積比(Vf値)40%で強化材粒子が安定かつ均等に分布した金属基複合材を凝固成形した。本例では、アルミニウム合金に、アルミニウム合金番号ADC14(鋳物用、Al-Si-Cu系)を用いた。
【0051】
(評価)
上記で凝固成形した金属基複合材料を箱から取り出し、取り出した金属基複合材料から、切削試験用の試験片(φ100×250mm)を切り出した。そして、切り出した試験片について、実施例1で行ったと同様の方法で、計10回切削する旋盤加工を施した。上記の加工後に、旋削加工に使用した刃物(超硬KW10)の摩耗量を測定して、本実施例の金属基複合材料についての切削性(加工性)を評価した。表1に評価結果を示した。
【0052】
[実施例3]
本例では、1次粒子の粒径が10μmの金属シリコン粉を用いた。そして、該金属シリコン粉を20部、無機バインダーを3部、水77部を混合したスラリーを得、該スラリーをスプレードライ法により造粒(顆粒化)して、中心粒径が100μmの、複数の1次粒子が凝集することで粒子同士の間に隙間が形成されている、内部に空隙を有する2次粒子を得た。粒径が10μmの1次粒子が凝集したことで形成された2次粒子内の空隙は、隙間の幅が0.1~1.0μm程度であった。
【0053】
上記で得られた金属シリコンの2次粒子を40部と、水60部とを混合して得たスラリーを、内部に所望の形状の空間を有する発泡スチロール製容器に入れ、振動を掛けながら2次粒子を沈降させて集積固化し、乾燥させた。そして発泡スチロール製容器から乾燥した所望の形状の成形体を取り出して、ダイカスト金型に収容するための強化材体積比(Vf値)が45%のプリフォーム(強化材の多孔質成形体)を作製した。
【0054】
上記で得られたプリフォームを700℃に予熱し、ダイカスト金型内に設置した。そして、ダイカスト金型内に、700℃で溶解したアルミニウム合金を注湯して、プランジャー速度1m/s、鋳造圧力50MPaの条件で、ダイカスト鋳造により強化材体積比(Vf値)45%で強化材粒子が安定かつ均等に分布した金属基複合材を凝固成形した。本例では、アルミニウム合金として、アルミニウム合金番号ADC12(鋳物用、Al-Si-Cu系)を使用した。
【0055】
(評価)
ダイカスト金型から所望形状に成形された金属基複合材料を取り出し、取り出した金属基複合材料から切削試験用の試験片(φ100×250mm)を切り出した。そして、上記試験片について、実施例1で行ったと同様の方法で、計10回切削する旋盤加工を施した。上記の加工後に、旋削加工に使用した刃物(超硬KW10)の摩耗量を測定して、本実施例の金属基複合材料についての切削性(加工性)を評価した。表1に評価結果を示した。
【0056】
[比較例1]
本例では、強化材に、中心粒径50μmの中実粒子のSiC粉を用いた。すなわち、本比較例で用いた強化材は、図6に示した通り、実施例の場合と異なり、複数個の1次粒子同士によって形成された隙間(空隙)を有するものではない。
【0057】
上記した中実粒子のSiC粉を、実施例1で使用したと同様の、鋼材で製作した箱(上面開放)に振動をかけながら充填し、箱ごと750℃で3時間加熱して予熱を行った。そして、予熱された箱を高圧鋳造装置の高圧プレス容器内に設置し、開放されている上面から箱内に800℃で溶解したアルミニウム合金を注湯して、加圧力100MPaで高圧鋳造により金属基複合材を凝固成形した。本例では、アルミニウム合金に、アルミニウム合金番号AC4A(鋳物用、Al-Si-Mg系)を用いた。図6に、上記で得られた凝固成形してなる金属基複合材の電子顕微鏡写真を示した。図6に示したように、強化材として使用した粒子の偏りが起きた部分が散見され、均等分散が十分にできなかったことを確認した。図6の濃灰色部分が強化材粒子であり、明灰色部分がアルミニウム合金である。
【0058】
(評価)
上記で成形した金属基複合材料を箱から取り出し、取り出した金属基複合材料から切削試験用の試験片(φ100×250mm)を切り出した。そして、上記試験片について、実施例1で行ったと同様の方法で旋盤加工をした。しかし、1回目から旋削加工を良好な状態に行うことができなかった。具体的には、切り出した試験片の円周部を、押込み深さ1mmで、横方向へ長さ100mm切削しようとしたところ、横方向への長さ20mmのところで切削できなくなった。このため、本例では、切削できなくなったところで、旋削加工に使用した刃物(超硬KW10)の摩耗量を測定した。表1に、上記のようにして得た評価結果を示した。
【0059】
【0060】
表1に示したように、強化材に、高硬度粒子の1次粒子が複数個凝集して造粒されてなる2次粒子を用いてなる実施例で得た金属基複合材料は、強化材に、実施例で用いた2次粒子と同程度の粒径の中実粒子を用いてなる比較例1の金属基複合材料と比較して、旋盤工程において、旋削加工に使用した刃物の摩耗量が格段に少ないという効果が得られた。このことは、実施例で得た金属基複合材料は、比較例1の金属基複合材料と比較して機械的な加工性に優れること、換言すれば、旋削加工に使用する刃物の耐久性が損なわれなかったことを示している。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6