(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091533
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】管路網解析方法および管路網解析装置
(51)【国際特許分類】
E03B 1/00 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
E03B1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204417
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】502167083
【氏名又は名称】株式会社管総研
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昌彦
(57)【要約】
【課題】管路網を構成する各管路のC値を効率的に適切な値に設定できる管路網解析方法を提供する。
【解決手段】管路を所定の管路属性に基づいてグループ分割する管路分割処理ステップと、管路網特性値の実測値を有する水需要点を特定水需要点に設定する特定水需要点設定ステップと、配水池から特定水需要点に配水する特定管路網を構成する各管路に対してグループ毎に同じ値の流速係数の候補値を仮設定する流速係数仮設定ステップと、仮設定した流速係数を用いて特定管路網に水理解析を実行して管路網特性値を算出する処理を予め設定した全ての候補値に対して繰り返す水理解析ステップと、実測値と解析値とのばらつきが所定の許容範囲に収まる流速係数の候補値に基づいて、管路の流速係数を確定する流速係数確定ステップと、を含み、特定水需要点設定ステップから流速係数確定ステップまでの一連のステップを複数の水需要点に対して繰り返す。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配水池と個々の水需要点とを複数の管路で接続した配水管路網に対して水理解析を実行して任意の水需要点での管路網特性値を算出する管路網解析方法であって、
予め複数の管路を所定の管路属性に基づいて複数のグループに分割する管路分割処理ステップと、
前記管路網特性値の実測値を有する水需要点を特定水需要点に設定する特定水需要点設定ステップと、
前記配水池から前記特定水需要点に配水する特定管路網を構成する各管路に対して前記グループ毎に同じ値の流速係数の候補値を仮設定する流速係数仮設定ステップと、
流速係数の候補値を仮設定した前記特定管路網に対して水理解析を実行して前記管路網特性値を算出する処理を予め設定した全ての候補値に対して繰り返す水理解析ステップと、
前記特定水需要点における実測値と前記水理解析ステップで得られる前記管路網特性値の解析値とのばらつきが所定の許容範囲に収まる流速係数の候補値に基づいて、前記特定管路網を構成する管路の流速係数を確定する流速係数確定ステップと、
を含み、
前記特定水需要点設定ステップから前記流速係数確定ステップまでの一連のステップを、前記管路網特性値の実測値を有する複数の水需要点に対して繰り返すことを特徴とする管路網解析方法。
【請求項2】
前記特定水需要点設定ステップから前記流速係数確定ステップまでの一連のステップを、前記管路網特性値の実測値を有する複数の水需要点のうち前記配水池に近い上流側の水需要点から下流側の水需要点の順に繰り返すことを特徴とする請求項1記載の管路網解析方法。
【請求項3】
前記流速係数仮設定ステップは、既に流速係数が確定した管路以外の管路に対して実行する請求項2記載の管路網解析方法。
【請求項4】
前記管路属性は、管の布設年度、管種、口径、配水区画、管路機能の何れか一つまたは複数の組合せを含む請求項1から3の何れかに記載の管路網解析方法。
【請求項5】
前記配水管路網を表示装置に表示する表示ステップをさらに備え、
前記表示ステップは、前記流速係数確定ステップで確定した流速係数の値に応じて各管路の表示色を含む表示態様を異ならせて表示する請求項1から4の何れかに記載の管路網解析方法。
【請求項6】
配水池と個々の水需要点とを複数の管路で接続した配水管路網に対して水理解析を実行して任意の水需要点での管路網特性値を算出する管路網解析装置であって、
予め複数の管路を所定の管路属性に基づいて複数のグループに分割する管路分割処理部と、
前記管路網特性値の実測値を有する水需要点を特定水需要点に設定する特定水需要点設定部と、
前記配水池から前記特定水需要点に配水する特定管路網を構成する各管路に対して前記グループ毎に同じ値の流速係数の候補値を仮設定する流速係数仮設定部と、
流速係数の候補値を仮設定した前記特定管路網に対して水理解析を実行して前記管路網特性値を算出する処理を予め設定した全ての候補値に対して繰り返す水理解析部と、
前記特定水需要点における実測値と前記水理解析部で得られる前記管路網特性値の解析値とのばらつきが所定の許容範囲に収まる流速係数の候補値に基づいて、前記特定管路網を構成する管路の流速係数を確定する流速係数確定部と、
前記特定水需要点設定部と、前記流速係数仮設定部と、前記水理解析部と、前記流速係数確定部で実行する各処理を、前記管路網特性値の実測値を有する複数の水需要点に対して繰り返すジョブ管理部と、
を備えていることを特徴とする管路網解析装置。
【請求項7】
前記ジョブ管理部は、前記管路網特性値の実測値を有する複数の水需要点のうち前記配水池に近い上流側の水需要点から下流側の水需要点の順に繰り返すように管理することを特徴とする請求項6記載の管路網解析装置。
【請求項8】
前記流速係数仮設定部は、既に流速係数が確定した管路以外の管路に対して実行する請求項7記載の管路網解析装置。
【請求項9】
前記管路属性は、管の布設年度、管種、口径、配水区画、管路機能の何れか一つまたは複数の組合せを含む請求項6から8の何れかに記載の管路網解析装置。
【請求項10】
前記配水管路網を表示装置に表示する表示処理部をさらに備え、
前記表示処理部は、前記流速係数確定部で確定した流速係数の値に応じて各管路の表示色を含む表示態様を異ならせて表示する請求項6から9の何れかに記載の管路網解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配水池と個々の水需要点とを複数の管路で接続した配水管路網に対して水理解析を実行して任意の水需要点での管路網特性値を算出する管路網解析方法および管路網解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配水管路網に対して計算機を用いて実行される水理解析は、管路の損失水頭Hをヘーゼン・ウィリアムズの式を用いて表し、配水管の交点である節点における流量方程式、および、閉管路方程式を連立させて、任意の節点における水圧、残留塩素濃度、水量などを算出する解析手法であり、代表的な解法として節点水頭法やメッシュ流量法などがある。
【0003】
ヘーゼン・ウィリアムズの式は、以下の数式
H=10.666×(L×Q1.85)/(C1.85×d4.87)
で表わされる。ここで、Hは管の摩擦損失水頭(m)、Lは管長(m)、Qは流量(m3/s)、dは管の実内径(m)、Cは流速係数であり、以下では流速係数を、単に「C値」とも称する。
【0004】
流速係数Cの値は、時刻や水量が変化しても一定であり、管の内壁の粗度によって異なる。例えば、鋳鉄管の場合は布設年度の新しい管では130~140となり、布設年度が古く内壁に錆瘤ができた管では60~70に低下する。
【0005】
従来、水理解析を実行する際に、オペレータが経験値に基づいてC値を一律の値、例えばC=110などに設定していたため、オペレータによって異なる値にC値が設定されることで解析結果が異なる場合もあり、精度の高い解析という観点で改良の余地があった。
【0006】
特許文献1には、多数の管路によって構成される管網を、管種、管の敷設期間、管の口径が共通する管路ごとに複数のグループに分け、前記各グループ内における任意の水需要点での水頭の実測値を求め、グループ毎にそのグループを構成する管路がとり得ると予測される圧力損失を表す係数の値について複数の仮定値を設定し、前記複数の仮定値のそれぞれにもとづき前記管網におけるグループ内の前記水需要点での水頭の計算値を求め、グループ毎に与えられた複数の仮定値の中から、前記水頭の計算値と実測値との分散値が最小となる仮定値をそれぞれ選択して、これら選択された仮定値の組み合わせを求めることを特徴とする管路の圧力損失を表す係数の値の推定方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された管路の水理解析方法は、管網を、水理的影響度が同等であると判断される管路ごとの複数のグループに分け、グループ毎に与えられた複数の仮定値であるC値の中から、各グループ内における任意の水需要点での水頭の計算値と実測値との分散値が最小となる仮定値を、当該グループを構成する管路のC値として選択するものであり、グループ毎に纏まった管網に対して水理解析を行なうことが前提となる構成であった。
【0009】
しかし、現実の管網は異なるグループに属する管が混在して構成されているため、管網を水理的影響度が同等であると判断される管路ごとの複数のグループに分けることが困難であり、極めて限られた管網にしか適用できなかった。
【0010】
また、仮に異なるグループに属する管が混在する管網に対して、グループ毎に同じC値を設定して管網全体に対して水理解析する場合でも、計算値と実測値とを対比する水需要点とは無関係な管に対しても数値演算が行なわれることになり、無駄な計算時間が費やされることになるという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、様々なC値を採り得る複数の管路で構成された管路網に対して、各管路のC値を効率的に適切な値に設定できる管路網解析方法および管路網解析装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明による管路網解析方法の第一の特徴構成は、配水池と個々の水需要点とを複数の管路で接続した配水管路網に対して水理解析を実行して任意の水需要点での管路網特性値を算出する管路網解析方法であって、予め複数の管路を所定の管路属性に基づいて複数のグループに分割する管路分割処理ステップと、前記管路網特性値の実測値を有する水需要点を特定水需要点に設定する特定水需要点設定ステップと、前記配水池から前記特定水需要点に配水する特定管路網を構成する各管路に対して前記グループ毎に同じ値の流速係数の候補値を仮設定する流速係数仮設定ステップと、流速係数の候補値を仮設定した前記特定管路網に対して水理解析を実行して前記管路網特性値を算出する処理を予め設定した全ての候補値に対して繰り返す水理解析ステップと、前記特定水需要点における実測値と前記水理解析ステップで得られる前記管路網特性値の解析値とのばらつきが所定の許容範囲に収まる流速係数の候補値に基づいて、前記特定管路網を構成する管路の流速係数を確定する流速係数確定ステップと、を含み、前記特定水需要点設定ステップから前記流速係数確定ステップまでの一連のステップを、前記管路網特性値の実測値を有する複数の水需要点に対して繰り返す点にある。
【0013】
管路分割処理ステップで管路網を構成する複数の管路が所定の管路属性に基づいて複数のグループに分割され、特定水需要点設定ステップで管路網特性値の実測値を有する水需要点を特定水需要点に設定される。流速係数仮設定ステップでは配水池から特定水需要点に配水する特定管路網を構成する各管路に対して分割されたグループ毎に同じ値の流速係数の候補値が仮設定され、水理解析ステップでは流速係数の候補値を仮設定した特定管路網に対して水理解析を実行して管路網特性値を算出する処理が、予め設定した全ての候補値に対して繰り返される。流速係数確定ステップでは特定水需要点における実測値と解析値とのばらつきが所定の許容範囲に収まる流速係数の候補値に基づいて、特定管路網を構成する管路の流速係数が確定される。
【0014】
このような特定水需要点設定ステップから流速係数確定ステップまでの一連のステップが、管路網特性値の実測値を有する複数の水需要点に対して繰り返されることにより、無駄な水理計算を排除しつつも各管路の流速係数が適切な値に設定されるようになる。なお、管路網特性値として水圧、残留塩素濃度、または水量などが例示できる。
【0015】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記特定水需要点設定ステップから前記流速係数確定ステップまでの一連のステップを、前記管路網特性値の実測値を有する複数の水需要点のうち前記配水池に近い上流側の水需要点から下流側の水需要点の順に繰り返す点にある。
【0016】
配水池に近い上流側の水需要点から下流側の水需要点の順に、特定水需要点設定ステップから流速係数確定ステップまでの一連のステップが繰り返されることにより、配水池に近い上流側の水需要点に到る管路から下流側の水需要点に到る管路の順に各管路の流速係数が適切な値に設定されるようになる。
【0017】
同第三の特徴構成は、上述した第二の特徴構成に加えて、前記流速係数仮設定ステップは、既に流速係数が確定した管路以外の管路に対して実行する点にある。
【0018】
特定水需要点設定ステップから流速係数確定ステップまでの一連のステップが繰り返される際に、同じグループに属する管路でも、上流側の水需要点に対する流速係数確定ステップで確定した管路についてはその流速係数に固定され、流速係数が未確定の管路に対して流速係数仮設定ステップが実行されるので、同じグループに属する管路であっても異なる流速係数に設定可能になるという柔軟性が確保でき、また演算負荷の軽減を図ることもできるようになる。
【0019】
同第四の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記管路属性は、管の布設年度、管種、口径、配水区画、管路機能の何れか一つまたは複数の組合せを含む点にある。
【0020】
流速係数に影響を与える因子として、管の布設年度、管種、口径、配水区画、管路機能が想定できる。そのため管路をグループに分割する基準として、それらの何れか一つまたは複数の組合せを採用することが好ましい。なお、配水区画とは例えば住宅街、商業地域、工場地域などの水需要者の消費特性の異なりを考慮するものであり、管路機能とは例えば送水機能が主要機能となる配水本管や、需要家への給水機能が主要機能となる配水支管の違いを考慮するものである。其々の要因により管の内壁の状態が異なる点に着目するものである。
【0021】
同第五の特徴構成は、上述した第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記配水管路網を表示装置に表示する表示ステップをさらに備え、前記表示ステップは、前記流速係数確定ステップで確定した流速係数の値に応じて各管路の表示色を含む表示態様を異ならせて表示する点にある。
【0022】
流速係数確定ステップで確定した流速係数の値に応じて各管路の表示色を含む表示態様を異ならせて表示することで、表示態様を目視することで複数の管路を備えた管路網の状態を速やかに把握することができるようになる。
【0023】
本発明による管路網解析装置の第一の特徴構成は、配水池と個々の水需要点とを複数の管路で接続した配水管路網に対して水理解析を実行して任意の水需要点での管路網特性値を算出する管路網解析装置であって、予め複数の管路を所定の管路属性に基づいて複数のグループに分割する管路分割処理部と、前記管路網特性値の実測値を有する水需要点を特定水需要点に設定する特定水需要点設定部と、前記配水池から前記特定水需要点に配水する特定管路網を構成する各管路に対して前記グループ毎に同じ値の流速係数の候補値を仮設定する流速係数仮設定部と、流速係数の候補値を仮設定した前記特定管路網に対して水理解析を実行して前記管路網特性値を算出する処理を予め設定した全ての候補値に対して繰り返す水理解析部と、前記特定水需要点における実測値と前記水理解析部で得られる前記管路網特性値の解析値とのばらつきが所定の許容範囲に収まる流速係数の候補値に基づいて、前記特定管路網を構成する管路の流速係数を確定する流速係数確定部と、前記特定水需要点設定部と、前記流速係数仮設定部と、前記水理解析部と、前記流速係数確定部で実行する各処理を、前記管路網特性値の実測値を有する複数の水需要点に対して繰り返すジョブ管理部と、を備えている点にある。
【0024】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記ジョブ管理部は、前記管路網特性値の実測値を有する複数の水需要点のうち前記配水池に近い上流側の水需要点から下流側の水需要点の順に繰り返すように管理する点にある。
【0025】
同第三の特徴構成は、上述した第二の特徴構成に加えて、前記流速係数仮設定部は、既に流速係数が確定した管路以外の管路に対して実行する点にある。
【0026】
同第四の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記管路属性は、管の布設年度、管種、口径、配水区画、管路機能の何れか一つまたは複数の組合せを含む点にある。
【0027】
同第五の特徴構成は、上述した第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記配水管路網を表示装置に表示する表示処理部をさらに備え、前記表示処理部は、前記流速係数確定部で確定した流速係数の値に応じて各管路の表示色を含む表示態様を異ならせて表示する点にある。
【発明の効果】
【0028】
以上説明した通り、本発明によれば、様々なC値を採り得る複数の管路で構成された管路網に対して、各管路のC値を効率的に適切な値に設定できる管路網解析方法および管路網解析装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図4】(a)~(f)はC値を求める管路網解析の手順の説明図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面に基づいて本発明による管路網解析装置および管路網解析方法を説明する。
[管路網解析装置の構成]
管路網解析装置は、CPUが搭載されたマザーボード、メモリボードなどが搭載された汎用のパーソナルコンピュータなどで構成され、ハードディスクなどのストレージデバイス、タッチパネル式の液晶ディスプレイ、キーボードやマウスなどの入力機器を備えて構成されている。
【0031】
ストレージデバイスには、システムを管理するOSプログラムがインストールされ、OSプログラムの管理下で実行されるアプリケーションプログラムとして管路網解析プログラムがインストールされている。
【0032】
図1には、管路網解析装置1の機能ブロックが示されている。管路網解析装置1は、主にマザーボードおよびメモリボードで実現される演算部2と、主にストレージデバイスで実現されるデータ記憶部3と、液晶ディスプレイで実現される表示部4と、キーボードやマウスで実現される入力部を備え、配水池と個々の水需要点とを複数の管路で接続した配水管路網に対して水理解析を実行して任意の水需要点での管路網特性値を算出するように構成されている。管路網特性値とは、管路網における水の動きや状態を把握可能な特性値をいい、水圧、残留塩素濃度、水量などの値を含む。
【0033】
演算部2には、管路分割処理部21、特定水需要点設定部22、流速係数仮設定部23、水理解析部24、流速係数確定部25、ジョブ管理部20、表示処理部26,入力処理部27、ジョブ管理部20などを備えている。
【0034】
水理解析部24による管路網の管路網特性値を算出する各種の解析処理を行なう前に、解析対象となる管路網を構成する各管路の流速係数Cが管路分割処理部21、特定水需要点設定部22、流速係数仮設定部23、水理解析部24、流速係数確定部25およびジョブ管理部20によって算出される。その後、算出された流速係数Cに基づいて水理解析部24により各種の水理解析が実行される。
【0035】
データ記憶部3には、配水池から各水需要点までの結ぶ配水管路網を表した管路網図が格納される管路網図記憶領域30、管路網図を構成する管路などの部品情報(管種、口径、管延長など)や布設情報(布設年月、施工業者など)などが格納される管路情報記憶領域31、管路網図を構成する各管路をグループ分割する条件や、当該条件によってグループ分割された管路のグループ情報が格納されるグループ情報記憶領域32、水理解析部24による解析結果が格納される解析結果記憶領域33、水需要点における実測データが格納される実測データ記憶領域34などを備えている。
【0036】
図2(a)には、配水管路網6が例示されている。配水管路網6は、上流側の配水地7から複数の水需要点8に配水するために、各水需要点8の間を接続する複数の管路9を備えて構成されている。配水管路網6では水需要点である管路同士の接続点を節点と称する。
【0037】
例えば、水理解析部24において節点水頭法を用いた水理解析で各節点の水頭を算出する場合、上述したヘーゼン・ウィリアムズの式
H=10.666×(L×Q
1.85)/(C
1.85×d
4.87)
と、
図6(a)で例示する節点8における流量の連続条件式である流量方程式
Σ(±Q
ij)=P
i
および、
図6(b)に示す閉管路方程式
Σ(±H
ks)-δE
k=0
の連立解として求まる。
【0038】
ここで、Hは管の摩擦損失水頭(m)、Lは管長(m)、Qは流量(m3/s)、dは管の実内径(m)、Cは流速係数であり、Qijは注目する節点に接続される各管路の流量であり、Piは節点からの給水量である。また、閉管路方程式は、管路網内の水は全体のエネルギー損失が最小となるように、すなわち管路数がJの管路網では、ΣQjHj、j=1~Jが最小となるように流れる。流量方程式を制約条件としてΣQjHj→minを解くことによって閉管路方程式が得られる。
【0039】
予備的にC値として仮の値を設定するとともに、管路情報記憶領域31から管長、管径、配水池を含む各節点の高さなど必要な情報を読み出すとともに、水需要点から取り出される水量などを設定した後に、上述の数式に代入して連立解を求めることにより、
図2(b)に矢印で示すような各管路を流れる流向が求まる。そして、
図2(c)に太い実線で示すように、例えば、実際の測定個所が節点8nであると仮定すると、配水池7から節点8nに向けて配水されるために必要な管路9が特定される。
【0040】
管路分割処理部21は、予め管路網を構成する複数の管路を所定の管路属性に基づいて複数のグループに分割する処理部である。所定の管路属性とは管路の流速係数Cが同じ値を示すと仮定できる属性であり、管の布設年度、管種、口径、配水区画、管路機能の何れか一つまたは複数の組合せが含まれる。布設年度が近接する管路や同じ管種、口径、配水区画、管路機能であれば、流速係数Cが同じ値を示すと仮定される。本実施形態では、布設年度、管種、口径に基づいて管路網を構成する各管路がグループに分割される。
【0041】
図3の左側にはある管路網を構成する管路番号1から20の20本の管路の管種、口径、布設年度が例示されている。これを管種D,S,Cを同一グループP1に、管種Vを他のグループP2にグループ化し、口径100mmをグループD1に、口径150,200をグループD2にグループ化し、布設年度に応じてY1からY4にグループ化すると、
図3の右側に示しように、8パターンにグループ化できる。なお、管種Dはダクタイル鋳鉄管、管種Sは鋼管、管種Cは鋳鉄管、管種Vは塩化ビニル管を示す。なお、
図3に示す管路は
図2に示す管路網とは無関係であり、単にグループ分割手法を例示するものである。
【0042】
特定水需要点設定部22は、管路網特性値の実測値を有する水需要点を特定水需要点に設定する処理部である。流速係数仮設定部23は、配水池7から特定水需要点に配水する特定管路網を構成する各管路に対してグループ毎に同じ値の流速係数の候補値を仮設定する処理部である。
【0043】
例えば、特定水需要点設定部22により、
図2(c)の節点8nを特定水需要点に設定すると、流速係数仮設定部23により、
図2(c)に太線で示した12本の管路9が特定管路網として設定される。そして、特定管路網を構成する管路9に対して、グループ毎に予め設定した複数の流速係数Cの何れかが候補値として設定される。例えば、流速係数Cとして0から150までを5刻みに0,5,10,・・・,140,145,150と候補値を設定することができる。なお、流速係数Cの範囲および刻み数は適宜設定すればよく、この例に限るものではない。
【0044】
水理解析部24は、特定水需要点設定部22により流速係数Cの候補値が仮設定された特定管路網に対して、実測値に基づいて各節点の水量などを設定し、水理解析を実行して管路網特性値を算出する処理を予め設定した全ての候補値に対して繰り返す。管路網特性値として特定水需要点8nの水圧、残留塩素濃度、または水量などが例示できる。
【0045】
残留塩素濃度を求めるモデル式として、以下の数式が用いられる。
Mt/M0=exp(-k/t)、
k=exp(-α・d+βT+γ)
ここで、Mは初期残留塩素濃度(mg/l)、Mはt時間経過後の残留塩素濃度(mg/l)、kは残留塩素濃度減少速度係数(hr-1)、tは経過時間、dは管の実内径、Tは水温、α、β、γは管路の口径、水温を反映する係数である。なお、上述したモデル式は管路の口径を考慮した残留塩素濃度減少速度係数を用いたモデル式であり、これ以外のモデル式、例えば管路の口径を考慮しないモデル式を用いることも可能である。
【0046】
流速係数確定部25は、特定水需要点8nにおける実測値と水理解析部24で得られる管路網特性値の解析値とを対比して、双方の値のばらつきが所定の許容範囲に収まる流速係数Cの候補値に基づいて、特定管路網を構成する管路の流速係数Cを確定する。例えば、所定の許容範囲として解析値が実測値に対して±10%の範囲に入る候補値を抽出し、それらを統計処理、例えば平均処理して得られる値を流速係数Cとして確定することができる。なお、所定の許容範囲とは適宜設定可能な範囲であり、上述した数値範囲に限るものではない。また、統計処理も平均値を求める処理に限るものではない。
【0047】
水理解析で管路網特性値として各節点の水頭を算出する場合には算出した水頭値と実測値と対比し、水理解析で管路網特性値として各節点から取り出す流量を算出する場合には算出した流量値と実測値と対比し、水理解析で管路網特性値として各節点から取り出す水の残留塩素濃度を算出する場合には算出した残留塩素濃度と実測値と対比すればよい。
【0048】
ジョブ管理部20は、特定水需要点設定部22と、流速係数仮設定部23と、水理解析部24と、流速係数確定部25で実行する上述の処理を、管路網特性値の実測値を有する複数の水需要点に対して繰り返すことにより、管路網を構成する全管路の流速係数Cを確定するように管理する。
【0049】
具体的に、ジョブ管理部20は、管路網特性値の実測値を有する複数の水需要点のうち配水池7に近い上流側の水需要点8から下流側の水需要点8の順に繰り返すように一連の処理を管理することで、上流側の水需要点8に配水される管路9の流速係数Cを確定した後に、さらに下流側の水需要点8に配水される管路9の流速係数Cを確定する処理を繰り返すことで、最小限の演算負荷で各管路9の流速係数Cを確定することができる。
【0050】
このとき、流速係数仮設定部23は、上流側の水需要点8に対する演算で既に流速係数Cが確定した管路以外の管路、つまり下流側の水需要点8に対する演算で流速係数Cが未確定の管路に対してグループ毎に流速係数Cの候補値を設定するように構成されている。
【0051】
このようにして解析対象となる管路網に対して各管路の流速係数Cが確定すると、表示処理部26は表示部4に管路網を表示するとともに、流速係数確定部25で確定した流速係数Cの値に応じて各管路の表示色を異ならせるなど、表示態様を異ならせて表示する。例えば、値の大きな流速係数Cから値の小さな流速係数Cの順に管路の表示色を暖色から寒色に色調を変化させるなどである。また、値の大きな流速係数Cから値の小さな流速係数Cの順に管路の太さを次第に細くなるように変化させてもよく、色と太さを組み合わせてもよい。
【0052】
さらには、予め全ての管路を一色で表示しておくとともに、画面に値の大きな流速係数Cから値の小さな流速係数Cの順に管路の表示色を暖色から寒色に色調を変化させたカラーバーを表示し、対応するカラーバーの任意の表示色をマウスで指示したときに管路網を構成する管路のうち、該当する管路の表示色を同色に変化させてもよいし、点滅させてもよい。
【0053】
[管路網解析方法の構成]
上述した管路網解析装置を用いて実行される管路網解析方法の手順について説明する。
本発明による管路網解析方法は、配水池と個々の水需要点とを複数の管路で接続した配水管路網に対して水理解析を実行して任意の水需要点での管路網特性値を算出する管路網解析方法である。管路網解析プログラムが起動され、初期画面に表示される流速係数C値設定アイコンが入力部5を介して選択されると流速係数C値の設定プログラムが起動される。
【0054】
図5に示すように、先ず管路分割処理ステップが実行される。ジョブ管理部20が起動してデータ記憶部3から管路網を構成する情報、つまり管路網図および管路網を構成する部品情報が内部メモリに読み込まれ、続いて管路分割処理部21を起動する(S1)。管路分割処理部21は上述した布設年度、管種、口径に基づいて各管路をグループに分割して、その分割情報をグループ情報記憶領域32に格納する(S2)。管路網を構成する管路は通し番号で識別可能に管理され、
図3で示したように管種、口径、布設年度に基づいてグループ化される。
【0055】
次に、特定水需要点設定ステップおよび流速係数仮設定ステップが実行される。特定需要点設定部22により、配水池の上流側の接点が特定需要点に設定され(S3)、配水池から特定需要点まで配水する特定管路網が生成される(S4)。
図4(a)に示すように、配水池7に近い地点1の節点が特定需要点として選択され、
図4(b)に示すように、配水池7から地点1の節点への配水に用いられる管路(
図4(b)では太い実線で示されている)が特定管路網となる。
【0056】
特定管路網を構成する各管路に対して予め分割されたグループ毎に流速係数Cの候補地が仮設定されるとともに、特定管路網に含まれる管路を流れる水量が実測値に基づいて割り付けられる(S5)。
【0057】
次に、水理解析ステップが実行される。水理解析部24は、流速係数Cの候補値を仮設定した特定管路網に対して水理解析を実行して管路網特性値を算出する。ステップS5およびステップS6が、グループ毎に設定された複数の流速係数Cの候補値の全ての組合せに対して繰り返し実行され、その結果がデータ記憶部3の解析結果記憶領域33に格納される(S7)。
【0058】
次に、流速係数確定ステップが実行される。解析結果記憶領域33に格納された実測値および解析値が流速係数確定部25によって読み出されて比較され(S8)、実測値と解析値とのばらつきが所定の許容範囲に収まる流速係数の候補値に基づいて、特定管路網を構成する管路の流速係数Cを確定する(S9)。すなわち、上述したように、解析値が実測値に対して±10%の範囲に入る候補値を抽出し、それらを平均処理して得られる値を流速係数Cとして確定する。
【0059】
次に、
図4(c)に示すように、上述した特定需要点よりも下流側の地点2における節点を新たな水需要点に設定し、
図4(d)に示すように、配水池7から当該新たな水需要点まで配水に用いられる管路(
図4(d)では太い実線で示されている)が特定管路網として生成され、当該特定管路網に対して、ステップS5からS9が実行される。このとき、流速係数仮設定ステップ(S5)は、既に流速係数が既に確定した管路以外の管路に対して実行される。
【0060】
つまり、特定水需要点設定ステップから流速係数確定ステップまでの一連のステップが繰り返される際に、同じグループに属する管路でも、上流側の水需要点に対する流速係数確定ステップで確定した管路についてはその流速係数に固定され、流速係数が未確定の管路に対して流速係数仮設定ステップが実行される。そのため、同じグループに属する管路であっても異なる流速係数に設定可能になるという柔軟性が確保でき、また演算負荷の軽減を図ることもできるようになる。
【0061】
ジョブ管理部20は、特定水需要点設定ステップ(S5)から流速係数確定ステップ(S9)までの一連のステップを、管路網特性値の実測値を有する複数の水需要点、好ましくは全ての水需要点に対して繰り返すようにジョブ管理を行ない、全ての管路で確定した流速係数Cを解析結果記憶領域33に格納する(S10)。
【0062】
このようにして、管路網を構成する全ての管路に対して流速係数Cを確定すると、表示処理部26が起動して、表示部4に管路網を表示するとともに、流速係数確定部25で確定した流速係数Cの値に応じて各管路の表示色を異ならせるなど、表示態様を異ならせて表示する。
【0063】
なお、上述したステップS5からステップS9までの一連の処理は、一つの特定水需要点に対して日時が異なる複数の実測データに対して実行することが好ましく、例えば1日当たり1時間毎の実測データで月曜日から日曜日までの24×7種類の実測データに対して実行することが好ましい。休日と平日で水の消費パターンが異なることを考慮するものである。
【0064】
なお、各水需要点の実測データに基づいて、水需要点毎に基準流量を設定しておき、曜日や時間帯ごとに実測値に対応した水量となるように補正のための時間係数を決定しておき、当該時間係数に従って設定した水量を対応する水需要点に割り付けるように構成すると、水理解析の初期条件の設定が容易になる。
【0065】
上述した実施形態は、本発明の一実施形態に過ぎず、該記載により本発明の範囲が限定されるものではなく、管路網解析装置などの具体的な構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能である。
【符号の説明】
【0066】
1:管路網解析装置
2:演算処理部
3:データ記憶部
4:表示部
5:入力部
20:ジョブ管理部
21:管路分割処理部
22:特定水需要点設定部
23:流速係数設定部
24:水理解析部
25:流速係数確定部
26:表示処理部
27:入力処理部