(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091552
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】電磁弁およびオイルポンプ
(51)【国際特許分類】
F16K 31/06 20060101AFI20220614BHJP
F16K 3/24 20060101ALI20220614BHJP
F04C 14/26 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
F16K31/06 305L
F16K3/24 D
F04C14/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204448
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】岸 真人
(72)【発明者】
【氏名】井手 健太
(72)【発明者】
【氏名】中尾 太貴
(72)【発明者】
【氏名】松尾 康之
(72)【発明者】
【氏名】内山 慶信
【テーマコード(参考)】
3H044
3H053
3H106
【Fターム(参考)】
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC21
3H044DD33
3H044DD43
3H053DA11
3H106DA02
3H106DA23
3H106DB02
3H106DB23
3H106DB32
3H106DC09
3H106DC17
3H106DD05
3H106EE07
3H106GC13
3H106KK02
3H106KK17
(57)【要約】
【課題】制御性の高い電磁弁および電磁弁が接続されたオイルポンプを提供する。
【解決手段】電磁弁Vは、外表面に環状溝31を有し、ソレノイド部Aへの通電により発生する駆動力によって軸X方向に沿って移動する筒状のスプール3と、環状溝31と連通可能な流体流入口41及び流体流出口42を有し、スプール3を収容する筒状のスリーブ4と、駆動力の発生方向とは反対方向の付勢力でスプール3を付勢する付勢部材6と、を備え、ソレノイド部Aに通電することにより、環状溝31と流体流出口42との連通面積が増大し、環状溝31の両端には、軸X方向において、流体流出口41と流体流入口42との間に位置する第一ランド部31aと、流体流入口41よりもソレノイド部Aの側に位置する第二ランド部31bとが形成されており、第一ランド部31aは、第二ランド部31bよりも大径に形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面に環状溝を有し、ソレノイド部への通電により発生する駆動力によって軸方向に沿って移動する筒状のスプールと、
前記環状溝と連通可能な流体流入口及び流体流出口を有し、前記スプールを収容する筒状のスリーブと、
前記駆動力の発生方向とは反対方向の付勢力で前記スプールを付勢する付勢部材と、を備え、
前記ソレノイド部に通電することにより、前記環状溝と前記流体流出口との連通面積が増大し、
前記スプールの前記環状溝の両端には、前記軸方向において、前記流体流出口と前記流体流入口との間に位置し、前記スリーブの内周面に摺接する第一ランド部と、前記流体流入口よりも前記ソレノイド部の側に位置し、前記スリーブの内周面に摺接する第二ランド部とが形成されており、
前記第一ランド部は、前記第二ランド部よりも大径に形成されている電磁弁。
【請求項2】
前記スプールは、前記第二ランド部よりも更に前記ソレノイド部の側に第二環状溝を有しており、
前記第二環状溝は、前記軸方向において、前記第二ランド部と、前記第二ランド部と同径で前記第二ランド部よりも更に前記ソレノイド部の側に位置し、前記スリーブの内周面に摺接する第三ランド部との間に形成されている請求項1に記載の電磁弁。
【請求項3】
前記スリーブには、前記第二環状溝に流通する作動油を排出するドレン口が形成されている請求項2に記載の電磁弁。
【請求項4】
前記ドレン口は、前記流体流出口よりも前記ソレノイド部とは反対側に設けられており、
前記スプールには、前記ドレン口に連通するドレン流路が前記軸方向に沿って形成されていると共に、前記第二環状溝には、前記ドレン流路と連通するドレン孔が形成されている請求項3に記載の電磁弁。
【請求項5】
前記スプールは、前記ソレノイド部への通電により前記軸方向に沿って移動するプランジャに当接しており、
前記プランジャには、前記ドレン流路に連通する第二ドレン流路が前記軸方向に沿って貫通形成されている請求項4に記載の電磁弁。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の電磁弁の前記流体流出口と連通する連通路が形成されたハウジングを備え、
前記ハウジングの内部に、ロータと、当該ロータの外側に配置されて前記ロータの回転軸芯に対して偏芯した調整リングと、当該調整リングを付勢する第二付勢部材と、当該第二付勢部材の付勢力に対抗する方向に前記連通路を介して作動油が供給されて前記調整リングの偏心量を変更させる圧力室と、を備えたオイルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁弁および当該電磁弁が接続されたオイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ソレノイド部への通電により軸方向に沿って移動する筒状のスプールと、スプールを収容する筒状のスリーブとを備えた電磁弁が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の電磁弁は、スリーブに流体流入口(文献では入力ポート)及び流体流出口(文献では出力ポート)を設け、スプールに流体流入口及び流体流出口に連通可能な環状溝(文献では連通室)を設けている。このスプールには、流体流出口に対してソレノイド部とは反対側に大径部及び小径部を有する括れ部が形成されている。この括れ部に流体流出口からの作動油を流入させることにより、大径部と小径部との面積差で流体流入口を閉塞する方向にスプールを移動させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電磁弁にあっては、流体流出口と連通する括れ部を有しているため、作動油の粘度が高い低温時において括れ部に作動油が流入し難く、制御性能が低下する。また、括れ部に流入する作動油によりスプールが流体流入口を閉塞する方向に移動するため、流体流入口、環状溝及び流体流出口を介して括れ部に作用する流体圧が安定せず、制御性能を高めるうえで改善の余地がある。
【0006】
そこで、制御性の高い電磁弁および該電磁弁が接続されたオイルポンプが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電磁弁の特徴構成は、外表面に環状溝を有し、ソレノイド部への通電により発生する駆動力によって軸方向に沿って移動する筒状のスプールと、前記環状溝と連通可能な流体流入口及び流体流出口を有し、前記スプールを収容する筒状のスリーブと、前記駆動力の発生方向とは反対方向の付勢力で前記スプールを付勢する付勢部材と、を備え、前記ソレノイド部に通電することにより、前記環状溝と前記流体流出口との連通面積が増大し、前記スプールの前記環状溝の両端には、前記軸方向において、前記流体流出口と前記流体流入口との間に位置し、前記スリーブの内周面に摺接する第一ランド部と、前記流体流入口よりも前記ソレノイド部の側に位置し、前記スリーブの内周面に摺接する前記第二ランド部とが形成されており、前記第一ランド部は、前記第二ランド部よりも大径に形成されている点にある。
【0008】
本構成によると、スプールの環状溝の一端には、流体流出口と流体流入口との間に大径の第一ランド部が形成され、環状溝の他端には、流体流入口よりもソレノイド部側に小径の第二ランド部が形成されている。また、ソレノイド部に通電することにより、環状溝と流体流出口との連通面積が増大する。つまり、流体流入口から作動油が環状溝に直接流入することにより、第一ランド部と第二ランド部との受圧面積差に相当する流体圧が、ソレノイド部の駆動力をアシストするように作用する。このため、特に作動油の粘度が高い低温時において流体圧によるアシスト力が高く、スプールが移動を開始するときのソレノイド部に印加される電流値を下げることが可能となる。その結果、ソレノイド部に印加される単位電流値あたりの流体圧の変化量が小さくなり、電磁弁が流量調節できる分解能(電流値の幅)を拡げることができる。これにより、電磁弁の制御性能を高めることができる。
【0009】
他の特徴構成は、前記スプールは、前記第二ランド部よりも更に前記ソレノイド部の側に第二環状溝を有しており、前記第二環状溝は、前記軸方向において、前記第二ランド部と、前記第二ランド部と同径で前記第二ランド部よりも更に前記ソレノイド部の側に位置し、前記スリーブの内周面に摺接する第三ランド部との間に形成されている点にある。
【0010】
本構成のように、第二ランド部よりも更にソレノイド部側に第二環状溝を設ければ、第二ランド部とスリーブの内面との間にあるクリアランスから作動油が漏出しても、この第二環状溝で受け止めてソレノイド部の方に漏出することが抑制される。しかも、この第二環状溝の両端に位置する第二ランド部と第三ランド部とは同径であるため、軸方向に作用する流体圧が打ち消されて、スプールの制御性能に影響を及ぼすことが無い。
【0011】
他の特徴構成は、前記スリーブには、前記第二環状溝に流通する作動油を排出するドレン口が形成されている点にある。
【0012】
本構成のように、第二環状溝に流通する作動油を排出するドレン口を設ければ、作動油がソレノイド部の方に漏出することが抑制される。その結果、ソレノイド部の駆動力により移動しスプールを押圧する押圧部材の端面に流体圧が作用し、スプールの制御性能に影響を及ぼすといった不都合を防止できる。
【0013】
他の特徴構成は、前記ドレン口は、前記流体流出口よりも前記ソレノイド部とは反対側に設けられており、前記スプールには、前記ドレン口に連通するドレン流路が前記軸方向に沿って形成されていると共に、前記第二環状溝には、前記ドレン流路と連通するドレン孔が形成されている点にある。
【0014】
本構成のように、第二環状溝にドレン孔を設け、スプールにドレン口と連通するドレン流路を設ければ、スリーブに複数のドレン口を設ける必要が無く、加工が容易である。
【0015】
他の特徴構成は、前記スプールは、前記ソレノイド部への通電により前記軸方向に沿って移動するプランジャに当接しており、前記プランジャには、前記ドレン流路に連通する第二ドレン流路が前記軸方向に沿って貫通形成されている点にある。
【0016】
本構成のように、ドレン流路に連通する軸方向に沿った第二ドレン流路をプランジャに貫通形成すれば、プランジャの背面に回り込んだ作動油による背圧を積極的に逃がすことが可能となり、スプールの制御性能に影響を及ぼすといった不都合を防止できる。
【0017】
上記何れかの構成の電磁弁が接続されたオイルポンプの特徴構成は、前記流体流出口と連通する連通路が形成されたハウジングを備え、前記ハウジングの内部に、ロータと、当該ロータの外側に配置されて前記ロータの回転軸芯に対して偏芯した調整リングと、当該調整リングを付勢する第二付勢部材と、当該第二付勢部材の付勢力に対抗する方向に前記連通路を介して作動油が供給されて前記調整リングの偏心量を変更させる圧力室と、を備えた点にある。
【0018】
本構成のオイルポンプは、圧力室に作動油を供給することで調整リングの偏芯量を変更して吐出量を可変にするものである。このオイルポンプの圧力室に上述した電磁弁を介して作動油を供給すれば、低電流領域を活用して吐出量をきめ細かく調節することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】電磁弁の通電量を最大にした状態における縦断面図である。
【
図3】電磁弁をオイルポンプに使用した場合の説明図である。
【
図4】本実施例に係る電磁弁に対する通電量と吐出圧との関係を示す図である。
【
図5】比較例に係る電磁弁に対する通電量と吐出圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る電磁弁の実施形態について、図面に基づいて説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0021】
(電磁弁の基本構成)
図1に示すように、電磁弁Vは、取付対象物T(例えば、エンジンブロック)の外側に露出した状態で取り付けられる筒状のソレノイド部Aと、取付対象物Tの内部に挿入した状態で取り付けられる流路切替部Bとを備えている。
【0022】
ソレノイド部Aは、ボビン21aに巻回され、通電によって磁束を発生させるコイル21と、発生した磁束によって軸X方向に沿って移動する円柱状のプランジャ22と、発生した磁束を流してプランジャ22を引き付けるフロントヨーク23と、プランジャ22に磁束を受け渡すリアヨーク24と、これらを収容し、ヨークとして機能するケース25とを備えている。また、ソレノイド部Aと連接する筒状のコネクタ部26を備え、制御部7によって制御された通電量(電流値)に応じて、コネクタ部26からコイル21に電力を供給する。
【0023】
また、ソレノイド部Aは、プランジャ22の外表面に沿って配置されるガイド部材27を備えている。このガイド部材27は非磁性体で構成されており、プランジャ22がリアヨーク24に引き寄せられるのを防止し、プランジャ22が軸X方向に沿って移動するようにガイドする。なお、プランジャ22、フロントヨーク23、リアヨーク24、およびケース25は、磁束を流すことのできる各種磁性体材料で構成される。本実施形態におけるプランジャ22には、後述するスプール3の内部空間としての中空部35(ドレン流路の一例)に連通する円筒状の貫通孔部22a(第二ドレン流路の一例)が軸X方向に沿って貫通形成されている。この貫通孔部22aは、プランジャ22とガイド部材27の隙間と中空部35とを連通させる。これにより、プランジャ22の背面に回り込んだ作動油による背圧を積極的に逃がすことが可能となる。
【0024】
通電によりコイル21で発生した磁束は、フロントヨーク23、ケース25、リアヨーク24、プランジャ22の順番で流れ、プランジャ22はフロントヨーク23に引き付けられることで移動する。その際、プランジャ22がフロントヨーク23に吸着するのを防止するため、プランジャ22の前方にはスペーサ29を配設している。
【0025】
流路切替部Bは、軸X方向に沿ってプランジャ22と当接する筒状のスプール3と、スプール3を収容する筒状のスリーブ4とを備えている。スプール3は、ソレノイド部Aへの通電により発生する駆動力(電磁力)によって軸X方向に沿って移動する。また、スプール3の一方の端部とスリーブ4との間には、ソレノイド部Aへの通電により発生する駆動力の発生方向とは反対方向の付勢力でスプール3を付勢するバネ6(付勢部材の一例)を備えている。ソレノイド部Aに通電すると、スプール3の他方の端部がプランジャ22によって押し操作されつつ、一方の端部がバネ6によってプランジャ22の側に付勢される。
【0026】
また、取付対象物Tとスリーブ4との間をシールするOリングS1を設けてあり、スリーブ4と取付対象物Tとの隙間から漏れ出た作動油が、ソレノイド部Aの側に漏洩するのを防止している。さらに、スリーブ4とフロントヨーク23との間にもOリングS2を設けており、ソレノイド部Aに外部から水が浸入することを防止している。
【0027】
スプール3の外表面には、第一環状溝31(環状溝の一例)と、第二環状溝32と、第三環状溝36とが形成されている。また、スプール3には、スプール3の内部空間としての中空部35が軸X方向に沿って形成されており、この中空部35と連通するドレン孔33が第二環状溝32に貫通形成されている。さらに、スプール3には、中空部35と連通する第二ドレン孔36aが第三環状溝36に貫通形成されている。ドレン孔33及び第二ドレン孔36aは、周方向に等間隔に複数箇所設けられており、ドレン孔33の孔径が第二ドレン孔36aの孔径よりも大きく形成されている。
【0028】
第一環状溝31は、後述するスリーブ4の流体流入口41と常に連通しており、第二環状溝32は、軸X方向において、流体流入口41よりもソレノイド部Aの側に位置している。第一環状溝31は、ソレノイド部Aに通電したとき、バネ6の付勢力に対抗する駆動力によりスプール3が移動するに従って、後述するスリーブ4の流体流出口42に対する連通面積が変化する。また、第二環状溝32は、スプール3とスリーブ4との間隙から漏れ出た作動油を、ドレン孔33及び中空部35を介して、スリーブ4に形成されたドレン口34から外部に排出する。これらスプール3の外表面に形成される第一環状溝31や第二環状溝32は、ダイカスト成形や切削加工によって容易に形成することができる。
【0029】
第一環状溝31の両端には、軸X方向において、流体流入口41と流体流出口42との間に位置し、スリーブ4の内周面に摺接する円環状の第一ランド部31aと、流体流入口41よりもソレノイド部Aの側に位置し、スリーブ4の内周面に摺接する円環状の第二ランド部31bとが形成されている。第一ランド部31aは、スプール3の可動範囲において、流体流入口41と重複することなく、流体流出口42の一部又は全部と重複する(
図1~
図2参照)。第二ランド部31bは、スプール3の可動範囲において、流体流入口41の全体を閉塞することがない。第一ランド部31aの直径D1は、第二ランド部31bの直径D2よりも大きく形成されている。本実施形態では、第一ランド部31aの直径D1と第二ランド部31bの直径D2との差は、第二ランド部31bの直径D2に対して0.5%以上5%以下(0.5%≦(D1-D2)/D2≦5%)に設定されている。つまり、第一ランド部31aの受圧面積は、第二ランド部31bの受圧面積よりも大きく、これら受圧面積差に相当する流体圧が、ソレノイド部Aの駆動力によってスプール3が移動する方向と同一方向に作用する。このため、流体流入口41から作動油が第一環状溝31に直接流入することにより、スプール3にはソレノイド部Aの駆動力をアシストするように流体圧が作用する。本実施形態における電磁弁Vは、第一環状溝31が流体流入口41と常に連通していることから、ソレノイド部Aの駆動力及びスプール3に作用する流体圧がバネ6の付勢力と均衡する位置でスプール3が停止する。
【0030】
第二環状溝32は、軸X方向において、第二ランド部31bよりも更にソレノイド部Aの側に位置している。この第二環状溝32の両端には、第二ランド部31bと、軸X方向において、第二ランド部31bよりも更にソレノイド部Aの側に位置し、スリーブ4の内周面に摺接する円環状の第三ランド部31cとが形成されている。本実施形態における第二ランド部31bの直径D2と第三ランド部31cの直径D3とは同一(D2=D3)に形成されている。つまり、第二ランド部31bの受圧面積は、第三ランド部31cの受圧面積と同一であり、スプール3の第二ランド部31bとスリーブ4との間隙から漏れ出た作動油による流体圧はキャンセルされる。
【0031】
第三環状溝36は、軸X方向において、第三ランド部31cよりも更にソレノイド部Aの側に位置している。この第三環状溝36の一端には、第三ランド部31cが形成されており、第三環状溝36の他端は、プランジャ22に当接している。スプール3の第二ランド部31bとスリーブ4との間隙から漏れ出た作動油が更に第三ランド部31cとスリーブ4との間隙から漏れ出たとしても、第三環状溝36に形成された第二ドレン孔36a及び中空部35を介してドレン口34から外部に排出される。その結果、プランジャ22の第二環状溝32との当接部位とは反対側の端面まで作動油を流入することが防止され、プランジャ22に意図しない流体圧が作用するといった不都合を防止できる。
【0032】
スリーブ4には、供給元から作動油を受け取る流体流入口41と、スプール3の移動量に応じた流量を所定の流体供給先に排出する流体流出口42とが径方向に貫通形成されている。また、スリーブ4のソレノイド部Aとは反対側の端部には、軸X方向に貫通形成されたドレン口34が設けられている。本実施形態における流体流入口41は、径方向に貫通形成された複数の第一貫通孔41cと、夫々の第一貫通孔41cが周方向に連通するように、第一貫通孔41cの外径側に位置する第一環状溝部41bとを有している。同様に、流体流出口42は、径方向に貫通形成された複数の第二貫通孔42cと、夫々の第二貫通孔42cが周方向に連通するように、第二貫通孔42cの外径側に位置する第二環状溝部42bとを有している。
【0033】
また、流体流入口41および流体流出口42の環状溝部41b,42bには、夫々に段部41a、42aが形成されている。この段部41a、42aには、フィルタ部材Fが載置され、作動油に混入した異物が取り除かれる。これらスリーブ4の外周側に形成される環状溝部41b,42bは、ダイカスト成形や切削加工によって容易に形成することができる。なお、フィルタ部材Fを設けずに、段部41a、42aを省略しても良い。
【0034】
(オイルポンプ)
以下、作動油としてのエンジンオイルをエンジンEに循環させるオイルポンプ1(以下、単にポンプ1と言う。)の吐出圧を調整するための流路に、本実施形態の電磁弁Vを配置した一例を説明する。
【0035】
図3に示すように、ポンプ1は、ハウジング11と、インナーロータ12(ロータの一例)と、アウターロータ13と、インナーロータ12の第一回転軸芯Y1に対して偏芯した調整リング14と、調整リング14を付勢するスプリングS(第二付勢部材の一例)とを備えている。インナーロータ12は、エンジンEのクランクシャフトからの回転駆動力が伝達され、第一回転軸芯Y1で回転する。アウターロータ13は、第一回転軸芯Y1に対して偏心した第二回転軸芯Y2でインナーロータ12の回転に応じて回転する。
【0036】
ハウジング11は、吸入ポート15と吐出ポート16とを備え、吐出ポート16から吐出された作動油が流入する圧力室19を有している。吐出ポート16から吐出された作動油は、送給流路17を経由してエンジンEの被供給部材(例えばピストンジェット)に循環すると共に、送給流路17から分岐した分岐流路上にある本実施形態に係る電磁弁Vを介して圧力室19に流入する。本実施形態では、ポンプ1のハウジング11が、電磁弁Vの取付対象物Tに形成されており、電磁弁Vの流体流出口42と連通する連通路18がハウジング11に形成されている。圧力室19には、スプリングSの付勢力に対抗する方向に連通路18を介して作動油が供給される。
【0037】
この電磁弁Vは、吐出ポート16から吐出された作動油が流体流入口41を介して第一環状溝31に流入しており、第一ランド部31aと第二ランド部31bとの受圧面積差による流体圧が、ソレノイド部Aの駆動力によってスプール3が移動する方向と同一方向に作用している(
図1も参照)。また、ソレノイド部Aに通電したとき、スプール3が移動するに従って、流体流出口42と第一環状溝31との連通面積が増大し、圧力室19に作動油が高流量で供給される(
図2も参照)。また、ソレノイド部Aに通電しないとき、圧力室19の作動油は、流体流出口42を介してドレン口34から外部に排出され、圧力室19の圧力が低下する(
図1も参照)。
【0038】
調整リング14はインナーロータ12の外側に配置されて、アウターロータ13を径方向外側から相対回転自在に支持している。この調整リング14は、第二回転軸芯Y2と同軸芯のリング状に形成されており、径外方向に突出する操作部14aを有している。電磁弁Vが通電されて、調整リング14の操作部14aに圧力室19を流通する作動油の圧力が付与されると、操作部14aがハウジング11の内部で移動して、調整リング14が公転する。その結果、ガイドピン14bとガイド溝14cとが互いに所期の範囲に亘って摺動し、第一回転軸芯Y1と第二回転軸芯Y2とが接近することで、ポンプ1の吐出圧が減少する。このように、本実施形態のポンプ1は、調整リング14が公転することで、調整リング14およびアウターロータ13のインナーロータ12に対する偏心量が調整され、ポンプ1の吐出圧が調整されるように構成されている。
【0039】
(電磁弁の作動形態)
続いて、ポンプ1の吐出圧調整用に用いられる電磁弁Vの作動形態について説明する。
【0040】
図1には、ソレノイド部Aへの通電がOFFのときのスプール3の位置が示される。ソレノイド部Aへの通電をOFFにしたときは、バネ6の付勢力によってスプール3およびプランジャ22は
図1に示す右端まで移動する。このとき、ポンプ1が作動して吐出ポート16から吐出された作動油が流体流入口41を介して第一環状溝31に流入しており、第一ランド部31aと第二ランド部31bとの受圧面積差による流体圧が、ソレノイド部Aの駆動力によってスプール3が移動する方向と同一方向に作用している。また、圧力室19の作動油は、流体流出口42を介してドレン口34から外部に排出されており、これにより圧力室19の油圧が低下してスプリングSの付勢力により操作部14aが上方に移動し、アウターロータ13のインナーロータ12に対する偏心量が最大となる(
図3も参照)。その結果、ポンプ1から吐出される作動油の圧力が最高圧設定となる(
図4参照)。
【0041】
一方、ソレノイド部Aに通電されると、プランジャ22はフロントヨーク23に向かって軸X方向に沿って移動し、バネ6の付勢力に抗してスプール3を左方向に移動させる。そして、ソレノイド部Aの駆動力及び第一ランド部31aと第二ランド部31bとの受圧面積差による流体圧が、バネ6の付勢力と均衡する位置でスプール3が停止し、例えば、スプール3の最大移動位置を示す
図2の状態となる。このとき、スリーブ4の流体流出口42がスプール3の第一環状溝31に連通して、吐出ポート16から吐出された作動油が圧力室19に高流量で供給される。その結果、圧力室19に作動油圧を発生させ、スプリングSの付勢力に抗して操作部14aが下方に移動し、アウターロータ13のインナーロータ12に対する偏心量が最小となる(
図3も参照)。その結果、ポンプ1から吐出される作動油の圧力が最低圧設定にシフトする(
図4参照)。
【0042】
図4~
図5には、電磁弁Vへの通電量と、ポンプ1の吐出圧との関係が示される。
図4には、上述した実施形態に係る第一ランド部31aと第二ランド部31bとに受圧面積差を設けた本実施例が示され、
図5には、第一ランド部31aの直径と第二ランド部31bの直径とを同一にした比較例が示されている。
【0043】
上述したように、電磁弁Vは、制御部7からの信号を受けて通電量が制御され、この通電量に応じてスプール3の位置が、
図1の状態から
図2の状態まで任意に変化する。このとき、本実施例における電磁弁Vは、吐出ポート16から吐出された作動油が流体流入口41を介して第一環状溝31に流入しており、第一ランド部31aと第二ランド部31bとの受圧面積差による流体圧が、ソレノイド部Aの駆動力によってスプール3が移動する方向と同一方向に作用している。つまり、流体流入口41から作動油が第一環状溝31に直接流入することにより、スプール3にはソレノイド部Aの駆動力をアシストするように流体圧が作用する。このため、
図5に示す比較例に比べて、
図4に示す本実施例では、スプール3が移動を開始するときのソレノイド部Aに印加される電流値を下げることができ、吐出圧を変化させられる電流値の範囲を拡げることが可能となる。その結果、ソレノイド部Aに印加する単位電流値あたりの流体圧の変化量が小さくなり、電磁弁Vが流量調節できる分解能(電流値の幅)を拡げることができる。特に、作動油の粘度が高い低温時において流体圧によるアシスト力が高く、スプール3の移動開始領域を大幅に拡げることができる。また、この低電流領域は、スプール3を移動させる駆動力が小さいので、ソレノイド部Aのプランジャ22に作用する摺動抵抗が小さく、ヒステリシスが少ない領域である。つまり、ヒステリシスの少ない低電流領域を用いて、スプール3の往復移動量を通電量に応じて精度よく制御することができる。
【0044】
また、流体流入口41と第一環状溝31とが常に連通しているため、第一環状溝31と流体流出口42との連通面積が増大している間も、流体流入口41に供給される流体圧や作動油の粘度に比例して、第一ランド部31aと第二ランド部31bとの受圧面積差による流体圧が作用し続ける(
図1~
図2参照)。その結果、
図5に示す比較例に比べて、
図4に示す本実施例では、ソレノイド部Aに印加する単位電流値あたりの流体流出口42から排出される作動油の変化量(圧力勾配)は、流体流入口41に供給される流体圧や作動油の粘度に関わらず、ほぼ一定となる。このため、電磁弁Vの制御性能を高めることができる。このように、作動油圧の立ち上がり領域を低電流側にシフトさせつつ流量変化を緩やかにして電磁弁Vの分解能を高め、圧力勾配を略一定とすれば、エンジンEの回転数に応じてポンプ1の吐出圧を精度よく調整することができる。その結果、ポンプ1の無駄な仕事量が低減され、燃費が向上する。
【0045】
しかも、
図1及び
図3に示すように、本実施形態における電磁弁Vは、ソレノイド部Aに通電しないとき、圧力室19の作動油は、流体流出口42を介してドレン口34から外部に排出する構成であるため、オイルポンプ1のハウジング11にドレン開口を設ける必要がない。つまり、
図2に示すようにソレノイド部Aの通電量を上昇させたしたとき、圧力室19の作動油は、ドレン口34から外部に排出されず、流体流入口41から安定的に第一環状溝31に流入し、第一ランド部31aと第二ランド部31bとの受圧面積差による流体圧を受けて、第一環状溝31と流体流出口42の連通面積を拡げることができる。その結果、
図5に示す比較例に比べて、
図4に示す本実施例では、特に作動油の粘度が低い低温時において圧力室19に作用する作動圧力を高めることが可能となり、オイルポンプ1の最低吐出圧を引き下げることができる。このため、送給流路17を経由してエンジンEの被供給部材(例えばピストンジェット)に循環する作動油が、意図せず被供給部材から噴出するといった不都合を防止できる。
【0046】
本実施形態では、第二ランド部31bよりも更にソレノイド部A側に第二環状溝32を設けているので、第二ランド部31bとスリーブ4の内面との間にあるクリアランスから作動油が漏出しても、この第二環状溝32で受け止めてソレノイド部Aの方に漏出することが抑制される。しかも、この第二環状溝32の両端に位置する第二ランド部31bと第三ランド部31cとは同径であるため、軸X方向に作用する流体圧が打ち消されて、スプール3の制御性能に影響を及ぼすことが無い。また、第二環状溝32に流通する作動油を排出するドレン孔33を第二環状溝32に設け、スプール3にドレン口34と連通する中空部35を設けているので、作動油がソレノイド部Aの方に漏出することが抑制される。しかも、プランジャ22には、プランジャ22とガイド部材27の隙間と中空部35とを連通させる貫通孔部22aが形成されているので、プランジャ22の背面に回り込んだ作動油による背圧を積極的に逃がすことが可能となる。その結果、ソレノイド部Aの駆動力により移動しスプール3を押圧するプランジャ22の端面に流体圧が作用し、スプール3の制御性能に影響を及ぼすといった不都合を防止できる。
【0047】
[その他の実施形態]
(1)上述した実施形態における第二環状溝32を省略しても良いし、ドレン孔33及び第二ドレン孔36aの少なくとも何れか一方を省略しても良い。
(2)上述した実施形態では流体流入口41のほぼ全域が第一環状溝31と常に連通していたが、スプール3の移動に伴って流体流入口41と第一環状溝31との連通面積が次第に減少する構成としても良い。
(3)上述した実施形態では、ポンプ1をトロコイドポンプで構成したが、ベーンポンプであっても良い。ベーンポンプの場合、出退自在にベーンを有するインナーロータと、インナーロータの外側に配置されてインナーロータの回転軸芯に対して偏芯した調整リングとを備えており、アウターロータが省略されることとなるが、基本構成は上述した実施形態のポンプ1と同様である。
(4)上述した実施形態では、電磁弁Vを用いてポンプ1の吐出量を調整する例を示したが、弁開閉時期制御装置のOCV(オイルコントロールバルブ)に用いるなど、様々な使用形態が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、様々な機器に使用される電磁弁や車両などに使用されるオイルポンプに利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 オイルポンプ
11 ハウジング
12 インナーロータ(ロータ)
14 調整リング
18 連通路
19 圧力室
22 プランジャ
22a 貫通孔部(第二ドレン流路)
3 スプール
31 第一環状溝(環状溝)
31a 第一ランド部
31b 第二ランド部
31c 第三ランド部
32 第二環状溝
33 ドレン孔
34 ドレン口
35 中空部(ドレン流路)
4 スリーブ
41 流体流入口
42 流体流出口
6 バネ(付勢部材)
A ソレノイド部
S スプリング(第二付勢部材)
X 軸
V 電磁弁