(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022091583
(43)【公開日】2022-06-21
(54)【発明の名称】媒体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220614BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20220614BHJP
B42D 25/41 20140101ALI20220614BHJP
G06K 19/077 20060101ALI20220614BHJP
H01Q 1/40 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B32B27/00 G
B32B27/20 A
B42D25/41
G06K19/077 200
G06K19/077 144
H01Q1/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020204498
(22)【出願日】2020-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】591186888
【氏名又は名称】株式会社トッパンインフォメディア
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 大介
【テーマコード(参考)】
2C005
4F100
5J046
【Fターム(参考)】
2C005HA08
2C005HA19
2C005HB09
2C005JA08
2C005LB07
4F100AA17B
4F100AB17A
4F100AK01B
4F100AK42A
4F100AK42C
4F100AK45B
4F100AL06C
4F100AT00A
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4F100DD01C
4F100DJ00C
4F100EJ61C
4F100GB41
4F100HB31D
4F100JD02
4F100JN28B
5J046AA02
5J046AA13
5J046AB11
5J046QA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、より簡易な層構造としつつ、気泡を含有して形成される凸状部分の表面からの突出量を十分に大きくすることが可能な媒体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の媒体は、基体11と、当該基体11の一方側に設けられ、発色剤を含む発色層12と、当該発色層12の一方側に設けられたカバー層13とが積層され、前記発色層12と前記カバー層13との一部が気泡を含有して形成された、前記カバー層の一方側表面から突出する凸状部分を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、当該基体の一方側に設けられ、発色剤を含む発色層と、当該発色層の一方側に設けられたカバー層とが積層され、
前記発色層と前記カバー層との一部が気泡を含有して形成された、前記カバー層の一方側表面から突出する凸状部分を有する、媒体。
【請求項2】
前記凸状部分が、レーザー光の照射により形成された部分である、請求項1に記載の媒体。
【請求項3】
前記発色層が、前記発色剤としての金属化合物を含む樹脂組成物により形成される、請求項2に記載の媒体。
【請求項4】
前記発色層および前記カバー層が樹脂組成物により形成され、
前記発色層を形成する樹脂組成物中の樹脂の炭酸ガス透過量より前記カバー層を形成する樹脂組成物中の樹脂の炭酸ガス透過量が小さい、請求項1~3のいずれかに記載の媒体。
【請求項5】
前記発色層がポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物により形成され、前記カバー層がグリコール変性ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂組成物により形成される、請求項1~4のいずれかに記載の媒体。
【請求項6】
前記基体がICチップとアンテナを内包したコアシートである、請求項1~5のいずれかに記載の媒体。
【請求項7】
前記コアシートと前記発色層との間に印刷層が設けられている、請求項6に記載の媒体。
【請求項8】
前記コアシートの一方側および他方側の層構造が相互に対称である、請求項6または7に記載の媒体。
【請求項9】
前記コアシートの厚さが0.3mm~0.6mm、前記発色層と前記カバー層との合計厚さが0.15mm~0.35mm、前記媒体の厚さが0.76mm±0.08mmである、請求項6~8のいずれかに記載の媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紙やプラスチックシート、板金などの浮き出しパターンとしてエンボスが知られており、クレジットカードやキャッシュカード、名刺、表示用のラベル類、包装材などに広く用いられている。エンボス加工は、板状の基材に凹凸のある版を押しつけ立体感のあるパターンを表現する加工法で、樹脂版や金属版で作られた凹型と凸型の版の間に基材を挟み、プレス機を用いて強くプレスすることで、表面は凸状に浮き出し、裏面は凹状のへこみに加工される。
【0003】
ところで、キャッシュカードやクレジットカードなど複数の基材を積層した剛性のある媒体においては、媒体上に、一般的なデザインや情報等を浮き出し加工により形成すると媒体に反りが発生するといった問題があった。また使用者によって異なる情報などを表示する場合には、カード番号、使用期限、氏名などの個々の情報を媒体にエンボス加工により形成すると、エンボスの周囲のデザインや情報(例えばカードの裏面文字など)が読みにくいといった問題が生じることがあった。さらに近年では、クレジットカードやキャッシュカードなどは、ICチップと無線アンテナを封入したデュアルインターフェイス化が進み、アンテナはその要求性能を保持した状態で設計される必要があることから、エンボスを有するカードでは当該エンボス周辺までアンテナが配置され、アンテナとエンボスの位置関係が非常に近くなることがあった。そして、アンテナとエンボスが近くなると、エンボス加工時にアンテナの断線が発生することがあり、アンテナとエンボスの位置関係を考慮した設計が必要となっている。
【0004】
このような問題を解決する方法としては、例えば、特許文献1にはレーザ照射によりカードの表面に突出部を形成するカードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
具体的には、特許文献1に開示されるカードは、「基材と、前記基材に積層され、レーザ照射により発熱する第1レーザ発熱層と、前記第1レーザ発熱層に積層され、最表層として積層される表層と、前記第1レーザ発熱層と前記表層との間に積層され、前記第1レーザ発熱層の発熱により発泡し、前記表層を突出部として形成させる第1発泡層と、を備え」、「前記第1発泡層により突出された前記表層は、前記カードの表面に突出部を形成する」ものである。そして、特許文献1には、当該カードによれば、レーザ発熱層をレーザ照射により発熱させて、レーザ発熱層の発熱によりメジウム層(発泡層)を発泡させることで、カード上面から突出する突出部の文字を形成できること、突出部の形成は、メジウム層(発泡層)の発泡にのみよるもので、突出部の部分のカード上面からの突出量は、例えば、10~100μmであることが開示されている。
【0007】
しかし、上記の特許文献1に開示されるカードなど従来の媒体では、気泡を含有して形成される凸状部分について、その媒体の表面からの突出量がまだ十分であるとは言えず、媒体上の情報をより明確に表示する観点からは、さらなる突出量が望まれている。また、媒体の製造上のコスト低減の観点から、より簡易な層構造とすることも望まれている。
【0008】
そこで、本発明は、より簡易な層構造としつつ、気泡を含有して形成される凸状部分の表面からの突出量を十分に大きくすることが可能な媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基体と、当該基体の一方側に設けられ、発色剤を含む発色層と、当該発色層の一方側に設けられたカバー層とが積層され、
前記発色層と前記カバー層との一部が気泡を含有して形成された、前記カバー層の一方側表面から突出する凸状部分を有する、媒体である。
本発明によれば、発色層とカバー層を含む簡易な層構造において、発色層とカバー層との一部が気泡を含有して突出する凸状部分の突出量を大きくすることができる。
【0010】
また、本発明の媒体では、前記凸状部分が、レーザー光の照射により形成された部分であることが好ましい。これによれば、レーザー光の照射で発色層を効果的に発熱させることができ効率よく突出量を効果的に大きくすることができる。
【0011】
さらに、本発明の媒体では、前記発色層が、前記発色剤としての金属化合物を含む樹脂組成物により形成されることが好ましい。これによれば、発色剤としての金属化合物がより発熱して発色層の樹脂が炭化し、その結果として、凸状部分の硬度がより増し、耐久性が向上し、傷やへこみが生じにくい凸状部分を形成できる。
【0012】
また、本発明の媒体では、前記発色層および前記カバー層が樹脂組成物により形成され、前記発色層を形成する樹脂組成物中の樹脂の炭酸ガス透過量より前記カバー層を形成する樹脂組成物中の樹脂の炭酸ガス透過量が小さいことが好ましい。これにより、発色層で発生した気泡(主に炭酸ガス)の抜けをカバー層が防ぎ、凸状部分の突出量を効果的に大きくすることができる。
【0013】
さらに、本発明の媒体では、前記発色層がポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物により形成され、前記カバー層がグリコール変性ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂組成物により形成されることが好ましい。グリコール変性ポリエチレンテレフタレートは、ガスバリア性や加工性、耐久性に優れた樹脂材料であり、本発明の媒体に好適である。
【0014】
また、本発明の媒体では、前記基体がICチップとアンテナを内包したコアシートであることが好ましい。本発明の媒体をより好適に適用することができる。
【0015】
さらに、本発明の媒体では、前記コアシートと前記発色層との間に印刷層が設けられていることが好ましい。コアシートと発色層との間に印刷層を設けることで、凸状部分による印刷絵柄の歪みを防ぐことができる。
【0016】
また、本発明の媒体では、前記コアシートの一方側および他方側の層構造が相互に対称であることが好ましい。これにより媒体の反りをより生じにくくすることができる。
【0017】
さらに、本発明の媒体では、前記コアシートの厚さが0.3mm~0.6mm、前記発色層と前記カバー層との合計厚さが0.15mm~0.35mm、前記媒体の厚さが0.76mm±0.08mmであることが好ましい。凸状部分が好適に突出したICカードを得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の媒体によれば、より簡易な層構造としつつ、気泡を含有して形成される凸状部分の表面からの突出量を十分に大きくすることが可能な媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る媒体の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明に係る媒体の他の実施形態の一例であるICカードを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る媒体の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
図1によると、本実施形態の媒体1は、基体11と、基体11の一方側(厚さ方向に沿う方向であり、
図1では上方側)に設けられた発色層12と、発色層12の一方側に設けられたカバー層13とが積層された媒体である。
【0021】
基体11は、主に媒体1自体の形状を保持するような強度等を付与するための層であり、基体11としては、特に限定されないが、紙、合成紙、金属、樹脂などの材料により形成することができる。樹脂を材料として用いる場合は、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。より具体的には、樹脂としては、特に限定されないが例えば、PETG(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PC(ポリカーボネート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、発泡PET、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)等の熱可塑性樹脂を用いることができる。基体の形状、寸法は、媒体1の用途や機能等に合わせて適宜任意にすることができるが、後述のように凸状部分を、レーザー照射により形成する場合には、平板状のシート形状やカード形状が好ましい。
【0022】
発色層12は、基体11の一方側に設けられ発色剤を含む層である。媒体1は、発色層12と、後述するカバー層13との一部12a、13aが気泡を含有して形成された、カバー層13の一方側表面から突出する凸状部分を有するところ、発色層12は、当該凸状部分の一部12aを含む。当該凸状部分の一部12aは、次のようにして形成され得る。すなわち、特に限定されない加熱手段により媒体1の外部から加熱されることにより、発色層12を構成する例えば樹脂(樹脂組成物)が加熱されて、分解し得る。この際、特に発色層12中に含まれる発色剤の存在により、加熱手段による加熱を効果的に吸収可能となり、樹脂を加熱することができる。加熱手段で加熱された部分aは、分解の結果生じた気泡を含有するので、膨張してカバー層13を一方側に突出させて、凸状部分が形成され得る。
なお、凸状部分は気泡を含有するので光を散乱し、周囲に対して相対的に発色して見え得る。発色後の色は、発色層12に含まれる発色剤などにより変わるが、例えば、気泡が多くなると白っぽく観察され、また、後述のように発色剤として金属化合物を用いる場合には、加熱によって金属化合物の周囲の樹脂が炭化することにより黒っぽく観察され得る。或いは、発色層12に顔料などを発色剤として用いれば、加熱手段で加熱することによって生成される色を、例えば黒色以外の有色又は白色とすることもできる。
【0023】
発色層12は、主剤となる樹脂と発色剤とを含む樹脂組成物より形成させることができる。
発色層12を形成する樹脂組成物中の樹脂としては、特に限定されないが例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアクリル系もしくはポリメタクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン共重合体、ポリビニルアセタール系樹脂、ゴム系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フェノール系樹脂、アミノ-プラスト系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系樹脂等を用いることができる。
【0024】
また発色剤としては、特に限定されないが、具体的には、ビスマス酸化物、ネオジム酸化物、銅・モリブデン複合酸化物、アンチモンドープ酸化錫被覆マイカ、アンチモンドープ酸化錫/酸化チタン/二酸化珪素被覆マイカなどが好ましい。
発色剤としては、加熱手段による加熱、好ましくはレーザー光を吸収することにより発熱し、発色剤の周辺の樹脂が黒色に炭化する物質、具体的には金属化合物であることが好ましい。レーザー光の照射による樹脂の発熱およびレーザー光の照射による発色剤の発熱により樹脂が発泡し、同時に発色剤の周辺の樹脂が炭化した部分(凸状部分のうち発色層12に存在する部分)12aを形成することができる。炭化により樹脂の硬度が増し、耐久性が向上し、傷やへこみが生じにくい凸状部分を形成することができる。また、炭化によって黒色に発色した凸状部分を形成することができる。
【0025】
発色剤としては、発色層12を形成する樹脂組成物中に0.01~5質量%含有されていることが好ましく、より好ましくは0.1~1質量%である。
【0026】
また、発色層12は、図示の例では基体11の一方側にだけ設けられているが、基体11の他方側にも設けることができる。
さらに発色層12を形成する樹脂組成物は、上記の発色剤に加えて、任意に添加剤を含有することができる。
【0027】
カバー層13は、発色層12の一方側に設けられた層であり、媒体1の表面を形成する層とすることができる。カバー層13は、凸状部分の一部13aを含む。当該凸状部分の一部13aは、特に限定されない加熱手段により媒体1の外部より加熱されることにより、加熱を付与した部分aのカバー層13が凸状に膨らみ凸状部分の一部13aを形成する。具体的には、加熱手段の加熱によるカバー層13の発熱、および発色層12からの伝熱によるカバー層13の発熱によって、カバー層13の樹脂が効率よく分解され、その結果生じた気泡をカバー層13が含有する。その結果、発色層12の膨張とともにカバー層13も膨張した、媒体1の一方側に突出した凸状部分を効率よく形成することができる。つまり、発色層12の発熱も利用することで、カバー層13単独の加熱の場合よりも効率よく凸状部分を形成することができる。
このように、本実施形態の媒体1は、発色層12が発色剤によって効率的に発熱して発色層12自体が発泡し、また、カバー層13がカバー層13自体の発熱とともに発色層12からの伝熱によって効率的に発泡することができる。その結果、より簡易な層構造で媒体1を形成した場合であっても凸状部分の表面からの突出量を十分に大きくすることができる。
【0028】
カバー層13は、主剤となる樹脂を含む樹脂組成物より形成させることができる。
カバー層13を形成する樹脂組成物中の樹脂としては、特に限定されないが例えば、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。より具体的には、樹脂としては、特に限定されないが例えば、PETG(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PC(ポリカーボネート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、発泡PET、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0029】
また、カバー層13は、図示の例では基体11の一方側にだけ設けられているが、基体11の他方側に、上記のような発色層12を設け、或いは設けずに、カバー層13を設けることができる。
さらにカバー層13を形成する樹脂組成物は、任意に添加剤を含有することができる。
【0030】
ここで、発色層12とカバー層13との厚さは、厚いほど凸状部分を高く形成できるが、一方で厚すぎても厚さの分だけの効果を得にくくなる。発色層12とカバー層13の厚さをそれぞれ50μm~250μmとし、発色層12とカバー層13の合計厚さを、100μm~500μmとすることが好ましい。それにより、凸状部分により形成されるパターンの視認性を確保しやすい突出量、具体的には、凸状部分の高さtを100μm以上、好ましくは200μm以上にすることができる。
【0031】
凸状部分を形成するための加熱手段としては、加熱手段で加熱することによって発色層12を発泡させることができれば、特に限定されない。加熱手段としては例えば、レーザー光の照射、ホットスタンピング、超音波振動ヘッドを用いた描画等が挙げられる。この中でも高精細な模様を付与することが可能であるレーザー光の照射が好ましい。レーザー光の照射は、レーザー印字装置等によって所望の凸状部分のパターンを形成可能なものであってもよい。発色層12に添加された発色剤がレーザー光を吸収し発熱することにより、発色層12が、レーザー光の照射およびレーザー光の照射による発熱によって発泡し、カバー層13が、レーザー光の照射および発色層12の発熱の伝熱により発泡することで、照射部分aの積層された発色層12とカバー層13との一部12a、13aを、それぞれ凸状に大きく膨らませることができる。また発色剤の周辺の樹脂は炭化して黒色等に発色(変色)することにより、凸状部分の外観を変色パターンとすることができる。
【0032】
照射可能なレーザーとしては、特に種類を限定するものではないが、発色層12のレーザー光吸収波長に合わせ、CO2レーザー、Nd:YAGレーザー、エキシマレーザー、半導体レーザー、半導体励起固体レーザー、Arレーザー、N2/Dyeレーザー、HeCdレーザー等を使用することができる。レーザーの波長は193~10600nmであってよい。例えば、レーザー光の波長が1064nmのCO2レーザーを用いると、媒体へのダメージが少なく熱を与えることができるので、発色層12とカバー層13の発泡、発色層12の炭化をする上で好ましい。
【0033】
本発明の好ましい1つの実施態様としては、発色層12およびカバー層13を形成する樹脂組成物中の樹脂の炭酸ガス透過量について、発色層12中の主剤となる樹脂の炭酸ガス透過量よりカバー層13中の主剤となる樹脂の炭酸ガス透過量が小さいことが好ましい。本実施形態では、カバー層13よりも発色層12に対して加熱手段による加熱をより作用させることができるが、発色層12の樹脂組成物を加熱したとき(加熱手段により加熱、例えばレーザー光を照射したとき)に発生する気体(主に炭酸ガス)の、媒体1の外部への抜けを、カバー層13がある程度防ぐことができる。その結果として、凸状部分の突出量を大きくすることができる。
具体的な樹脂としては、発色層12の主剤となる樹脂がポリカーボネート樹脂であり、カバー層13の主剤となる樹脂がポリエチレンテレフタレート、特にグリコール変性ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
なお、各樹脂の炭酸ガス透過量の大小関係は、JIS K7126-1:2006の差圧法に準拠した方法により測定して評価することができる。
また、本明細書において、「主剤となる樹脂」の「主剤」とは、樹脂組成物中に60質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは95質量%以上含まれることを意味する。
【0034】
本実施形態の媒体1は、上述のように媒体1の表面から大きな突出量で突出する凸状部分を有することから、例えば平面から浮き出したデザインや、文字などの情報を表示することができる媒体、好ましくはカード、ラベル、包装材、容器として用いることができる。より好ましくは、個々の媒体にそれぞれ別個のデザインや情報を容易に表示させることができるので、特に限定されないが例えば、キャッシュカードやクレジットカードなどの個人情報を表示するカード用として用いることができる。
【0035】
また、本実施形態の媒体1は、
図1に示すものでは基体11に積層される層として発色層12とカバー層13とだけを有するが、その他の層、例えば審美的または機能的なデザインを担う文字、図形、商標などを印刷するための層である印刷層を例えば基体11と発色層12との間に設けてもよく、或いはそれ以外の層をさらに有していてもかまわない。
【0036】
ここで、本発明に係る媒体の他の実施形態について以下説明する。なお、本実施形態において、
図1に示すような上記の実施形態と同じ構成要件については、その説明を省略する。
図2は、本実施形態の媒体としてのICカードの一例を模式的に示す断面図である。
本実施形態の媒体2は、
図2に示すように、基体21がICチップ31とアンテナ32を内包したコアシートである。また、コアシート21には、その一方側および他方側に設けられた発色層22と、続いて設けられたカバー層23とが積層されており、換言すれば、コアシート21の一方側および他方側の層構造が相互に対称になっている。このような層構成にすることで、媒体の反りを生じにくくすることができる。なお、本実施形態では、コアシート21の一方側および他方側の層構造が相互に対称になっていることが好ましく、一方側の発色層22およびカバー層23と、他方側の発色層22およびカバー層23とが例えば材料や厚さの点で相互に異なっていてもよい。しかし、コアシート21の一方側および他方側に設けた各層の例えば材料や厚さが相互に対称(すなわち、同じ)であることが、媒体の反りをより低減する観点から、より好ましい。
【0037】
コアシート21は、ICチップ31とアンテナ32とを内包しており、ICカード2の通信機能を担う。ICチップ31は、モジュール形態(すなわち、ICチップ31を内蔵するモジュール形態の回路装置)であってもよい。アンテナ32は、典型的には導電性パターン(配線)を含む。一般的にはコアシート21は、樹脂シートを複数枚重ね合わせ、その中にICチップ31とアンテナ32とを内包するようにして作製できる。
【0038】
コアシート21を形成する樹脂組成物としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。より具体的には、例えば、PETG(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PC(ポリカーボネート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、発泡PET、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0039】
ICチップ31は、一般的には電源回路、制御回路、メモリー、及び送受信回路を含んで構成される回路装置とすることができる。電源回路は、アンテナ32を介して受信する電力を駆動電源として作動し、他の回路ブロックに対して電源を供給することができる。送受信回路は、アンテナ32を介して信号を送受信する回路とすることができる。制御回路は、送受信回路とメモリーに対して信号入出力可能に結合し、送受信回路とメモリー間でのデータ転送を介在することができる。例えば、制御回路は、送受信回路からの入力信号に応じてメモリーからデータリードして送受信回路へ転送し、若しくは送受信回路からの入力信号に応じてメモリーに対してデータライトすることができる。上述した説明から明らかなように、ICチップ31は、アンテナ32を介して外部の通信装置(外部装置)、典型的にはリーダ/ライタと通信可能なものとすることができる。
【0040】
アンテナ32は、ICチップ31が行う通信に用いられる搬送波の周波数に基づいて設定できる。
図2に示す例では、コアシート21の内部に複数回にわたって周回する渦巻き状をなすパターンとしてアンテナ32を描いてある。アンテナ32は、銀ペースト等の導電性インキを用いた印刷や銅箔等の金属箔のエッチングによって形成できる。例えばアンテナ32を、一定の径を有する円形ワイヤ(すなわち断面が円形であるワイヤ)を、所定のパターンに描くように配置することで形成してもよい。
【0041】
図2では、コアシート21の一方側および他方側(表裏面)にそれぞれ発色層22とカバー層23が積層されている。凸状部分は発色層22とカバー層23が、コアシート21に対して外側(突出する方向)に発泡することで形成されるため、凸状部分を形成する過程では、例えばエンボス加工を行う際に発生する恐れがあったアンテナ32の断線が発生せず、凸状部分を形成する位置とアンテナ32の埋設位置との関係に制約のないカード設計を行うことができる。
【0042】
ICカード2が有する各層の厚さは任意に設定できるが、好ましくは以下のように設定できる。媒体の厚さは、JIS X6301:2005(またはこれに対応するISO/IEC 7810:2003)の規定に鑑みて、0.76mm±0.08mmであるのが好ましい。
コアシート21の厚さは、0.3mm~0.6mmであることが好ましい。当該厚さを0.3mm以上にすることでICカード2に封入される部品を適切に収めやすくすることができる。また、当該厚さを0.6mm以下にすることにより、発色層22やカバー層23の厚さを確保しやすくすることができる。
発色層22の厚さは、0.05mm~0.2mmであることが好ましく、カバー層23の厚さは、0.1mm~0.25mmであることが好ましい。また発色層22とカバー層23の合計厚さを、0.15mm~0.35mmとすることが好ましい。このような厚さにすることにより、ICカードとしての機能を十分に確保しつつ、凸状部分により形成されるパターンの視認性を確保しやすい突出量、すなわち、凸状部分の高さtを200μm以上、好ましくは300μm以上にしやすくすることができる。
【0043】
本実施形態の媒体2は、媒体2の表面から大きな突出量で突出する凸状部分を有し、基体21がICチップ31とアンテナ32を内包したコアシート21であることから、ICカード、具体的にはクレジットカードやキャッシュカードなどのデュアルインターフェイスICカードとして好適に用いることができる。
【0044】
本実施形態では、コアシート21と発色層22との間に印刷層(図示は省略)を設けることができる。印刷層は、ICカード2の審美的または機能的なデザインを担う文字、図形、商標などを印刷するための層である。コアシート21と発色層22との間に印刷層を設けることで、エンボスパターンによる印刷絵柄の歪みを防ぐことができる。またICカード2は、
図2に示した以外の層をさらに有していてもかまわない。
【0045】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明の媒体は、上記例に限定されることは無く、適宜変更を加えることができる。
【実施例0046】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するため、媒体であるICカードを作製しそれを評価した実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
実施例1において、まずコアシートを作製した。コアシートの材料となる樹脂シートは、三菱ケミカル社製PETG PG-WHI-FG 厚さ0.2mmを2枚使用し、その中にICモジュールとアンテナを封入して厚さ0.4mmのコアシートを作製した。ICモジュールにはNXP社製のMOA4モジュール(製品名Mifare1k)を使用し、アンテナ線にはエレクトリゾーラ社製の自己融着被覆銅線AB15(φ0.115mm)を使用した。アンテナ線は、配線描画装置を用いて超音波でPETGシートへ埋め込みながら形成し、アンテナ線とICモジュールの接続には半田を用いた。シートの貼り合わせは、ビュルクレ社製多段熱冷プレス機を使用し、温度135℃、圧力50N/cm2、時間20分間の加工条件で一体成形した。
次に、得られたコアシートの一方側および他方側(表裏)の表面上にレーザー発色シート(発色層)を超音波シーラーで仮止めした。レーザー発色シートは、厚さ0.06mmの三菱ケミカル社製レーザー発色フィルム(製品名DPI-TR)を使用した。
コアシートの表裏の表面上にレーザー発色シートを仮止めした後のシートの一方側および他方側(表裏)の表面上に、カードの最表層となる厚さ0.1mmのカバーシート(カバー層)を仮止めした。カバーシートには三菱ケミカル社製の透明PETG(製品名PG-MCT)を使用した。
最後に、得られた丁合(仮止めによる位置合わせ)済みのシートをBULKLE社製多段ラミネート装置(製品名SMARTLAM CHK)でラミネートし、貼り合わせしたシートを一体成形した。ラミネートは、ホットプレスで温度135℃、圧力60N/cm2、時間25分間、コールドプレスで温度20℃、圧力60N/cm2、時間15分間の条件で加工した。
以上の各工程は、複数のICカードをまとめて製造可能なシートに対して行った。各工程を経た後にシートを所定の形状にカードパンチャーで加工し、実施例1のICカードを得た。
【0048】
(比較例1、2)
比較例1のICカードは、カバー層を設けず発色層だけをコアシート上に形成した以外、実施例1と同様な方法で作製した。また、比較例2は、発色層を設けずカバー層だけをコアシート上に形成した以外、実施例1と同様な方法で作製した。
【0049】
(レーザー光の照射)
実施例1および比較例1、2のICカードをルーラマット社製レーザー発光装置POWRE PERSO DELを用いてレーザー印字(周波数45kHz、パワー60%、解像度1,700dpi)を行い、表面をレーザー加工した。レーザー加工の後、カード表面からの凸状部分の突出量(高さt)は、任意の3箇所をミツトヨ製デジタルマイクロメーターで測定し、得られた値の算術平均とした。得られた結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
表1に示されるように、実施例1のICカードの凸状部分の突出量(高さt)268μmは、比較例1のICカードの突出量(高さt)87μmと比較例2のICカードの突出量(高さt)61μmを足し合わせた高さより大きいことがわかる。つまり、凸状部分の突出量の増大において、レーザー光の照射だけでなく、発色層の発熱の伝熱が増大した凸状部分の形成に寄与していることが確認できた。また、実施例1のICカードと、エンボッサーを用いてエンボスパターンを形成した従来の加工方法でエンボスを形成させたICカードをそれぞれ5枚用意し、JIS X6301:2005に則って反りを測定して平均値を算出したところ、実施例1のカードの反り量は1.021mmであり、エンボス加工を施したカードの反り量1.674mmより小さくなることが確認できた。
【0052】
(実施例2、3)
実施例1と同様の方法でICカードを作製した。このときカバー層の厚さを0.05mmにして実施例2を作製し、カバー層の厚さを0.15mmとして実施例3を作製した。結果を表2に示す。
【0053】
【0054】
表2に示されるように、カバー層の厚さを厚くすることで突出量は大きくなり、発色層とカバー層の合計厚さが0.16mmで突出量は200μm以上、発色層とカバー層の合計厚さが0.21mmで突出量は300μm以上になることが確認できた。
【0055】
(実施例4、5)
実施例1と同様の方法でICカードを作製した。このときカバーシートには三菱ケミカル社製の透明PETG(製品名PG-WHI-CHI)を用いて実施例4を、三菱ケミカル社製のポリカーボネート(製品名PAC)を用いて実施例5を作製した。結果を表3に示す。
【0056】
【0057】
表3に示されるように、カバー層にPETGを用いた実施例1、4はカバー層にポリカーボネートを用いた実施例5より突出量が大きくなり、ポリカーボネートを主剤に用いた発色層より炭酸ガス透過量が小さいPETGからなるカバー層を用いると突出量が大きくなることが確認できた。
なお、各樹脂の炭酸ガス透過量の大小関係は、JIS K7126-1:2006(差圧法)に準拠した方法で測定し評価した。